説明

芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびその成形体

【課題】ペレット成形性、および成形体の外観に優れた芳香族ポリカーボネート/ポリ乳酸樹脂アロイを提供する。
【解決手段】芳香族ポリカーボネート樹脂(A)98〜1質量%、ポリ乳酸樹脂(B)1〜98質量%、およびポリアミド樹脂(C)1〜98質量%からなる樹脂混合物100質量部に対して、ビスフェノールA型エポキシ化合物を含むエポキシ化合物(D)を0.1〜50質量部含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。および前記芳香族ポリカーボネート樹脂組成物からなる成形体。本発明の樹脂組成物には、(D)成分として、さらにアクリル系のエポキシ化合物などの、その他のエポキシ化合物を併用してもよい。また、前記樹脂組成物には、さらにカルボジイミド化合物(E)、イソシアネート化合物、またはオキサゾリン化合物(F)を0.1〜10質量部配合してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびその成形体に関し、詳しくは、芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリ乳酸樹脂、およびポリアミド樹脂からなる樹脂混合物に、ビスフェノールA型のエポキシ化合物単独、または、好ましくは、ビスフェノールA型のエポキシ化合物と、その他のエポキシ化合物からなる2種以上のエポキシ化合物を含む、耐熱性と機械的特性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性などの機械的特性や、耐熱性、透明性に優れているため、電気、電子、OA機器、機械、および自動車などの様々な分野で用いられているが、原料が石油由来であり、生産時の二酸化炭素の排出量の多さから、環境への負荷が大きいことが課題とされている。
一方で、トウモロコシやサトウキビといった植物由来の原料から作られるポリ乳酸樹脂は、最終的には水と二酸化炭素に分解される(カーボンニュートラル)という点から環境負荷を低減できるため、環境対応型樹脂として開発が進んでいる。更に植物性プラスチックとしては、高い融点を持ち、溶融成形が可能であることから、実用上優れた植物性・生分解性樹脂としての利用が期待されている。
しかしながら、ポリ乳酸樹脂それ自体は、剛性が高いものの、脆性かつ熱変形温度が低いため、単体の成形体を機械的強度が要求される部材に利用することは困難である。
そこで両者をアロイ化することにより、本問題を解決しようとする試みがなされてきた。
芳香族ポリカーボネート樹脂/ポリ乳酸樹脂アロイについて、ポリカーボネート樹脂成分を増量させれば、機械的物性は保たれるが、ポリ乳酸樹脂を中心とした植物性成分の比率(植物度)が低下し、環境対応材料としての意味をなさなくなる。一方、ポリ乳酸樹脂成分を増量しすぎると、耐衝撃性が著しく減少し、加えて熱変形温度の低下といった不具合を招く。
すなわちポリカーボネート樹脂/ポリ乳酸樹脂アロイを環境対応材料として位置づける際に、ポリ乳酸樹脂を中心とした植物度をできる限り増大し、かつ実用に耐え得る耐衝撃性と耐熱性を持たせることが求められている。
また、ポリカーボネート樹脂とポリ乳酸樹脂のアロイ化の大きな問題点として、特許文献1記載のように、成形体が真珠光沢を有するといった外観不良が挙げられる。また、ポリカーボネート樹脂とポリ乳酸樹脂を溶融混合する際、両者の相溶性の不良と流動性の差から、ストランドが不安定になり、ペレット化が困難である上に、ペレットの成形性も悪いという点も挙げられる。
【0003】
【特許文献1】特開平07−109413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ペレット成形性、および成形体の外観に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂/ポリ乳酸樹脂アロイを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、芳香族ポリカーボネート樹脂とポリ乳酸樹脂に、他の成分を配合することによって、ペレット成形性、および成形体の外観に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂/ポリ乳酸樹脂アロイを見出したもので、本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.芳香族ポリカーボネート樹脂(A)98〜1質量%、ポリ乳酸樹脂(B)1〜98質量%、およびポリアミド樹脂(C)1〜98質量%からなる樹脂混合物100質量部に対して、ビスフェノールA型エポキシ化合物を含むエポキシ化合物(D)を0.1〜50質量部含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
2.前記ビスフェノールA型エポキシ化合物を含むエポキシ化合物(D)が、さらに、その他のエポキシ化合物を含む2種以上のエポキシ化合物である上記1記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
3.前記その他のエポキシ化合物が、アクリル系のエポキシ化合物である上記2記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
4.前記ポリアミド樹脂(C)が、ポリアミド11である上記1〜3のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
5.さらに、樹脂混合物100質量部に対して、カルボジイミド化合物(E)を0.1〜10質量部含む上記1〜4のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
6.さらに、樹脂混合物100質量部に対して、イソシアネート化合物、またはオキサゾリン化合物(F)を0.1〜10質量部含む上記1〜5のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
7.上記1〜6のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物からなる成形体。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、ペレット成形性、および成形体の外観に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂/ポリ乳酸樹脂アロイを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)98〜1質量%、ポリ乳酸樹脂(B)1〜98質量%、およびポリアミド樹脂(C)1〜98質量%からなる樹脂混合物100質量部に対して、ビスフェノールA型エポキシ化合物を含むエポキシ化合物(D)を0.1〜50質量部含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物である。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を構成する芳香族ポリカーボネート樹脂(A)としては、特に制限はなく、種々のものが挙げられるが、通常、2価フェノールとカーボネート前駆体との反応により製造されるものを用いることができる。すなわち、2価フェノールとカーボネート前駆体とを溶液法あるいは溶融法、すなわち、2価フェノールとホスゲンの反応、2価フェノールとジフェニルカーボネートなどとのエステル交換反応により製造されたものを使用することができる。
【0008】
2価フェノールとしては、様々なものが挙げられるが、特に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、4,4'−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトンなどが挙げられる。
特に好ましい2価フェノールとしては、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン系、特にビスフェノールAを主原料としたものである。また、カーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カルボニルエステル、またはハロホルメートなどであり、具体的にはホスゲン、2価フェノールのジハロホーメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどである。この他、2価フェノールとしては、ハイドロキノン、レゾルシン、カテコールなどが挙げられる。
これらの2価フェノールは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0009】
なお、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、分岐構造を有していてもよく、分岐剤としては、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、α,α',α’’−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、フロログリシン、トリメリット酸、1,3−ビス(o−クレゾール)などがある。また、分子量の調節のためには、フェノール、p−t−ブチルフェノール、p−t−オクチルフェノール、p−クミルフェノールなどが用いられる。
【0010】
また、本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂(A)としては、ポリカーボネート部とポリオルガノシロキサン部を有する共重合体、あるいはこの共重合体を含有する芳香族ポリカーボネート樹脂であってもよい。また、テレフタル酸などの2官能性カルボン酸、またはそのエステル形成誘導体などのエステル前駆体の存在下で、ポリカーボネートの重合を行うことによって得られるポリエステル−ポリカーボネート樹脂であってもよい。また、種々のポリカーボネート樹脂の混合物を用いることもできる。
本発明において用いられる芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、構造中に実質的にハロゲンを含まないものが好ましい。また、機械的強度および成形性の点から、その粘度平均分子量は、通常10,000〜100,000、好ましくは、11,000〜40,000、特に12,000〜25,000のものが好適である。
【0011】
次に、本発明に用いられるポリ乳酸樹脂(B)の原料である乳酸は、L型、D型、ラセミ型のいずれを用いてもよく、また、化学合成法、および発酵合成法のいずれの方法で得られたものも用いることができるが、バイオリサイクルの観点から、環境負荷因子の少ないトウモロコシなどの澱粉を乳酸発酵させて得られたものが好ましく用いられる。
本発明で用いられるポリ乳酸樹脂(B)は、前記乳酸を原料とし、(1)環化反応によって得られたラクチドを開環重合させてポリマーを得る二段階プロセス、および(2)乳酸を直接重合させてポリマーを得る一段階プロセス、のいずれの方法によって得られたものであってもよい。
前記(1)の二段階プロセスは、以下に示す反応式に従って、高分子量のポリ乳酸樹脂(B)が得られる。
【0012】
【化1】

(ここで、kおよびlは重合度である。)
【0013】
まず、乳酸(I)を自己縮合重合反応させて、低分子量ポリ乳酸樹脂(II)を得たのち、この低分子量ポリ乳酸樹脂(II)を解重合して、環状ジエステルであるラクチド(III)を得る。次いでこのラクチド(III)を開環重合させることにより、高分子量ポリ乳酸樹脂(IV)が得られる。
本発明で用いるポリ乳酸樹脂(B)の重量平均分子量は、通常100,000〜250,000、好ましくは130,000〜200,000の範囲である。また、融点は、通常130〜160℃程度であり、ガラス転移温度(Tg)は、通常50〜60℃程度である。
このポリ乳酸樹脂(B)を用いることにより、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に高流動性、耐溶剤性および耐衝撃性を付与することができる。
【0014】
次に、本発明に用いられるポリアミド樹脂(C)としては、特に制限はなく、ジカルボン酸、その塩化物、または、そのエステルと、ジアミンとの重縮合物や、環状アミド(ラクタム)の開環重合物、およびアミノ酸の脱水縮合物などが挙げられる。具体的には、例えば、ウンデカンラクタム、ラウリルラクタム、ε−カプロラクタム、2-ピロリドン、11‐アミノウンデカン酸、12‐アミノドデカン酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘキサメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、ノナンジアミン、メチルペンタジアミンなどのポリアミド形成性モノマーを、単独もしくは適宜組み合わせて得られるホモポリマー、共重合体、およびこれらの混合物を用いることができる。中でも11‐アミノウンデカン酸はヒマシ油から合成されるため、その自己縮合物であるポリアミド11は、植物由来成分として好ましい。また吸水性が他のポリアミドと比べて低く、柔軟性を有する利点がある。
ポリアミド樹脂は、1種類を添加しても、2種類以上を添加しても構わない。
【0015】
本発明においては、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、ポリ乳酸樹脂(B)、およびポリアミド樹脂(C)からなる樹脂混合物100質量%中、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は98〜1質量%、好ましくは80〜50質量%、更に好ましくは80〜60質量%であり、ポリ乳酸樹脂(B)は1〜98質量%、好ましくは20〜70質量%、更に好ましくは20〜50質量%である。ポリアミド樹脂(C)は1〜98質量%、好ましくは10〜50質量%、更に好ましくは20〜50質量%である。
樹脂混合物中の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の分率が高すぎると、成分中の植物度の面から、環境対応材料としての位置づけが困難となるため、ポリ乳酸樹脂(B)が20〜70質量%であることが好ましい。ただし、ポリ乳酸樹脂分率が高すぎると、耐熱性の著しい低下が起こるため、ポリ乳酸樹脂(B)が20〜50質量%であれば更に好ましい。
【0016】
本発明では、前記の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、ポリ乳酸樹脂(B)、およびポリアミド樹脂(C)からなる樹脂混合物100質量部に対して、ビスフェノールA型エポキシ化合物を含むエポキシ化合物(D)を0.1〜50質量部、好ましくは1〜10質量部配合して、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物とする。
エポキシ化合物としては、芳香族ポリカーボネート樹脂との親和性が良好な成分として、ビスフェノールA型エポキシ化合物を含んでいるが、ビスフェノールA型エポキシ化合物に加えて、その他のエポキシ化合物からなる2種類以上のエポキシ化合物を使用することができる。
エポキシ化合物中の、その他のエポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物以外の、分子内に少なくとも1つ以上のエポキシ基を有する化合物を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化あまに油、エポキシブチルステアレート、エポキシオクチルステアレート、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、p−ブチルフェニルグリシジルエーテル、スチレンオキシド、ネオヘキセンオキシド、アジピン酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、ポリグリシジルメタクリレート、ポリグリシジルアクリレート、ビス−エポキシジシクロペンタジエニルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ブタジエンジエポキシド、テトラフェニルエチレンエポキシド、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化スチレン−ブタジエン系共重合体、エポキシ化水素化スチレン−ブタジエン系共重合体、ビスフェノール−S型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、レゾルシノール型エポキシ化合物、3,4−エポキシシクロヘキサメチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、あるいは3,4−エポキシシクロヘキシルグリシジルエーテルなどの脂環式エポキシ化合物などを例示することができる。
前記その他のエポキシ化合物としては、上記のうち、ポリ乳酸樹脂との親和性が高いエポキシ化合物を用いることが好ましく、具体的には、アクリル系樹脂を分子中に有するエポキシ化合物、例えばグリシジルメタクリレートや、グリシジルアクリレートなどのホモポリマーや、共重合体などが好適に用いられる。
前記のその他のエポキシ化合物は1種でも2種以上でも良い。
その他のエポキシ化合物を配合することにより、ポリ乳酸樹脂との親和性が向上してペレット外観が顕著に良くなるので、好ましい。
以上のとおり、エポキシ化合物(D)は、ビスフェノールA型エポキシ化合物単独か、あるいは、必要に応じて、ビスフェノールA型エポキシ化合物と、その他のエポキシ化合物から選ばれる1種以上の、都合2種以上のエポキシ化合物である。
【0017】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、前記樹脂混合物100質量部に対して、さらにカルボジイミド化合物(E)を、0.1〜10質量部、好ましくは0.3〜3質量部配合することができる。
カルボジイミド化合物としては、分子中に一個以上のカルボジイミド基を有する化合物であり、特に限定されないが、脂環式系カルボジイミド、芳香族系カルボジイミド、脂肪族系カルボジイミド、およびポリカルボジイミド化合物などが挙げられる。このカルボジイミド化合物の製造方法としては、例えば、触媒として、例えば、O,O−ジメチル−O−(3−メチル−4−ニトロフェニル)ホスホロチオエート、O,O−ジメチル−O−(3−メチル−4−(メチルチオ)フェニル)ホスホロチオエート、O,O−ジエチル−O−2−イソプロピル−6−メチルピリミジン−4−イルホスホロチオエートなどの有機リン系化合物、または、例えばロジウム錯体、チタン錯体、タングステン錯体、パラジウム錯体などの有機金属化合物を用い、各種ポリイソシアネート化合物を約70℃以上の温度で、無溶媒または不活性溶媒(たとえば、ヘキサン、ベンゼン、ジオキサン、クロロホルムなど)中で脱炭酸重縮合により製造する方法を挙げることができる。
カルボジイミド化合物の具体例としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ナフチルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボジイミド、N,N'−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、あるいは2,6,2',6'−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミドなどが挙げられる。また、ポリカルボジイミドのような高分子量化したものも用いることができる。これらの中でも、特に工業的に入手が容易であるジシクロヘキシルカルボジイミドやジイソプロピルカルボジイミドが好ましい。
カルボジイミド化合物として市販されているものとしては、カルボジライトHMV−8CA、LA−1(日清紡製)、スタバックゾールI、P、P100(ラインケミー製)などが挙げられる。
上記カルボジイミド化合物としては、一種または二種以上を選択して使用することができる。
【0018】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、前記樹脂混合物100質量部に対して、さらにイソシアネート化合物、またはオキサゾリン化合物(F)を0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部配合することができる。
このようなイソシアネート化合物としては、特に限定されないが、例えば、脂環式系ジイソシアネート、芳香族系ジイソシアネート、脂肪族系ジイソシアネートなどが好ましく、例えば、1,5−ナフチレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4'−ジイソシアネート、3,3'−ジメチルジフェニルメタン−4,4'−ジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートの混合物、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4'−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、あるいはテトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。
上記イソシアネート化合物は、一種または二種以上を選択して使用することができる。
イソシアネート化合物は、公知の方法で容易に製造することができるし、また市販品を適宜使用することができる。市販のポリイソシアネート化合物としては、三井化学ポリウレタン株式会社製のヘキサメチレンジイソシアネート「タケネート」(登録商標)、日本ポリウレタン株式会社製の水添ジフェニルメタンジイソシアネート「コロネート」(登録商標)、日本ポリウレタン株式会社製の芳香族イソシアネート「ミリオネート」(登録商標)などがある。
【0019】
一方、オキサゾリン化合物としても特に限定されないが、例えば、2,2'−o−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,'−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−p−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2'−m−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2'−p−フェニレンビス(4,4'−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2'−m−フェニレンビス(4,4'−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2'−エチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−テトラメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−ヘキサメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−オクタメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−エチレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、あるいは2,2'−ジフェニレンビス(2−オキサゾリン)などが挙げられる。また、オキサゾリン基含有反応性ポリスチレンもオキサゾリン系化合物として使用することができる。
上記オキサゾリン化合物は、一種または二種以上を選択して使用することができる。
【0020】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、上記以外にも、成形性、耐衝撃性、外観、耐候性、または剛性などの改善を目的に、上記(A)〜(D)よりなる必須成分に、(E)、(F)、さらには熱可塑性樹脂に常用されている各種添加剤成分を、必要により含有することができる。例えば、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、可塑剤、無機充填剤、難燃剤、シリコーン系化合物、フッ素樹脂、ポリアミドポリエーテルブロック共重合体(永久帯電防止性能付与)、ベンゾトリアゾール系やベンゾフェノン系の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系の光安定剤(耐候剤)、抗菌剤、相溶化剤、着色剤(染料、顔料)などが挙げられる。任意成分の配合量は、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の特性が維持される範囲であれば特に制限はない。
【0021】
次に、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法について説明する。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、前記の各成分(A)〜(D)を上記割合で、さらに(E)や(F)などの他の各種任意成分を上記の適当な割合で配合し、混練することにより得られる。このときの配合および混練は、通常用いられている機器、例えばリボンブレンダー、ドラムタンブラーなどで予備混合して、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、コニーダなどを用いる方法で行うことができるが、単軸押出成形機、多軸押出成形機などの連続押出成形機であって、強制ベント排気するタイプの押出成形機の採用が好ましい。また、押出成形機としては、成形原料の流れ方向において複数の原料供給部を備えたものも好適に用いることができる。
溶融混練の際の加熱温度は、通常200〜320℃、好ましくは220〜280℃の範囲で適宜選択される。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、流動性とペレット形成性に優れており、ストランドが膨れることなく、安定してカットすることができ、しかも粒径が小さく、安定したペレットを得ることができる。
【0022】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、上記の溶融混練成形機により、あるいは、得られたペレットを原料として、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法、発泡成形法などにより、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を含む各種成形体を製造することができる。なお、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、上記溶融混練方法によりペレット状の組成物成形原料とし、ついで、このペレットを用いる射出成形、または射出圧縮成形による射出成形体の製造に好適に用いることができる。射出成形方法としては、外観のヒケ防止のため、あるいは軽量化のためのガス注入成形を採用することもできる。
【実施例】
【0023】
以下に、さらに実施例および比較例を掲げて、本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されない。
各例で採用した試料の評価方法は以下の通りである。
(1)成形外観
目視により確認した。
◎ … フローマーク・真珠光沢などの外観不良が見られない
○ … フローマーク・真珠光沢などの外観不良が若干見られる
× … 成形体に外観不良が見られる
(2)ペレット成形性
樹脂組成物を二軸スクリュー押出混練機(川崎三興化成社製)を用い240℃で溶融混練し、ペレット化した。
○ … ストランドが膨れずに安定してカットでき、粒径の揃ったペレットが得られる
× … ストランドが膨れて安定せず、ペレット化する前にストランドが度々切れてしまう
(3)流動性
メルトフローレート(MFR):JIS K7210に準拠して測定した。
試験条件:〔温度:240℃、荷重:21.18N〕、単位:g/10min
【0024】
実施例1〜11、比較例1〜8
本実施例、及び比較例で使用した各化合物は以下の通りである。
・芳香族ポリカーボネート樹脂:タフロン A1900(出光興産社製)
・ポリ乳酸樹脂:LACEA H−100(三井化学社製)
・ポリアミド樹脂1:ポリアミド11 リルサンB BMN O(アルケマ社製)
・ポリアミド樹脂2:ポリアミド66 UBEナイロン66 2015B(宇部興産社製)
・ポリアミド樹脂3:ポリアミド6 UBEナイロン6 1013B(宇部興産社製)
・エポキシ化合物1:ビスフェノールAエポキシ樹脂 (DIC社製 EPICLON AM‐040‐P)
・エポキシ化合物2:エチレン‐グリシジルメタクリレート‐メチルアクリレート共重合体 (住友化学社製 ボンドファースト7M)
・エポキシ化合物3:マープルーフG−01100 (日油社製)
・カルボジイミド化合物:カルボジライトLA‐1 (日清紡績社製)
・イソシアネート化合物:ジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン社製 ミリオネートMT)
・オキサゾリン化合物:2,2’−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)(竹本油脂社製 BOX−210)
【0025】
上記の各配合原料をそれぞれ乾燥した後、表1および2に示す配合割合にて、タンブラーを用いて均一にブレンドした後、二軸スクリュー混練機で混練し、ペレット化した。
得られたペレットを、射出成形機を用いて成形し、所望の試験片を得た。この試験片を用いて性能評価を行った結果を表1および2に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
表1、2より、以下のことが分かる。
1)芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、ポリ乳酸樹脂(B)、およびポリアミド樹脂(C)を含む樹脂混合物(比較例5、6、および7)と、該樹脂混合物にビスフェノールA型エポキシ化合物を含むエポキシ化合物(D)を配合した樹脂組成物(実施例1、4、5、および8)とを比較すると、本実施例のほうがペレット成形性および外観において優れていることがわかる。
2)前記樹脂混合物に、ビスフェノールA型エポキシ化合物以外のエポキシ化合物を2種配合(比較例8)しても、流動性、ペレット成形性、および外観において、実施例に遥かに及ばないことが分かる。
3)比較例3、4から、樹脂混合物として、ポリアミド樹脂を含まなければ、ビスフェノールA型エポキシ化合物を配合しても、特に外観において、所期の効果が得られないことがわかる。
4)芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、ポリ乳酸樹脂(B)、およびポリアミド樹脂(C)を含む樹脂混合物に、ビスフェノールA型エポキシ化合物と、その他のエポキシ化合物を含む2種のエポキシ化合物を配合した場合(実施例2、3、6、7、9、10、および11)においては、ビスフェノールA型エポキシ化合物単独配合の場合(実施例1、4、5、および8)よりも、特に外観において優れることがわかる。
5)とりわけ、その他のエポキシ化合物が、アクリル系のエポキシ化合物である場合(実施例2、6、7、および9)においては、それ以外のその他のエポキシ化合物の場合(実施例3、および11)よりも、特に外観において優れることがわかる。
【0029】
以上のように、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を用いることにより、従来の芳香族ポリカーボネート樹脂/ポリ乳酸樹脂アロイや、ビスフェノールA型以外のエポキシ化合物を配合した場合と比較して、特に外観が著しく良好となり、ペレット成形性が著しく向上する。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物から得られる成形体、たとえば射出成形体(射出圧縮成形体を含む)としては、複写機、ファックス、パソコン、プリンター、テレビ、ラジオ、テープレコーダー、ビデオデッキ、電話機、情報端末機、冷蔵庫、電子レンジなどの電気・電子機器のハウジウング、または各種部品、さらには、自動車部品などの他の分野にも、幅広く用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)98〜1質量%、ポリ乳酸樹脂(B)1〜98質量%、およびポリアミド樹脂(C)1〜98質量%からなる樹脂混合物100質量部に対して、ビスフェノールA型エポキシ化合物を含むエポキシ化合物(D)を0.1〜50質量部含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
前記ビスフェノールA型エポキシ化合物を含むエポキシ化合物(D)が、さらに、その他のエポキシ化合物を含む2種以上のエポキシ化合物である請求項1記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記その他のエポキシ化合物が、アクリル系のエポキシ化合物である請求項2記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリアミド樹脂(C)が、ポリアミド11である請求項1〜3のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、樹脂混合物100質量部に対して、カルボジイミド化合物(E)を0.1〜10質量部含む請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、樹脂混合物100質量部に対して、イソシアネート化合物、またはオキサゾリン化合物(F)を0.1〜10質量部含む請求項1〜5のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物からなる成形体。

【公開番号】特開2010−37494(P2010−37494A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204617(P2008−204617)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】