説明

荷重計測装置

【課題】歩行時においても機械的強度が高く、正確な荷重計測が行える靴内に組み込み可能な肉薄の荷重計測装置を提供し、それをリハビリテーション時の免荷歩行訓練用歩行具に適用する。
【解決手段】シート状導電性弾性体にハトメを介して電気的に接続し、リハビリテーション用歩行具に適用する場合は該接続部を土踏まず相当位置に設ける。またセンサ部を剛性のある樹脂板に貼り付けて、シールド電線のシールドを樹脂板に固着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷重の分布に依存しないシート状の荷重計測装置およびそれを用いたリハビリテーション用歩行具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下肢の骨折等の治療後に回復を早める目的で、免荷歩行訓練がリハビリテーションの一環として行われる。これは松葉杖や平行棒を使用して最初は全体重の1/3程度からスタートして、1/2、2/3と下肢に掛ける荷重を徐々に増していくものである。その具体的な方法は、患者が免荷する方の足で体重計を踏んで、その指示値が目標とする荷重になった時の感覚を記憶して、その記憶のみを頼りにして免荷歩行を行う方法が専らである。
【0003】
しかし感覚の記憶のみを頼りにするこのような方法では、患者は体重の掛け過ぎを恐れる心理が強く、その不安感は切実なものにならざるを得ない。その結果として、目標値よりも相当軽加重での歩行になっているのが通例である。またこれは回復を早めるリハビリテーションの効果を抑制するため、入院期間や通院期間の長期化の原因となっている。
【0004】
患者が心理的にも安心して効果的な免荷歩行訓練を行うためには、目標値を越える荷重が下肢に加わった時に、即座に報知する手段が必要であるが、実用化されていない現状である。このような実情に鑑み、多数の空隙または窪みを周期的に設けたシート状弾性体と、平坦なシート状弾性体とを誘電体とし、これらの誘電体をサンドイッチ状にはさんだ3枚のシート状導電性弾性体を電極として二つのコンデンサを形成してなる荷重計測センサからの荷重信号を用いて、予め設定した目標値に達すると通報ブザーを鳴らす荷重計測装置が本発明者等によって特開2007−107231号公報に開示されている。本発明は、この開示された発明に立脚した改良を提供する。
【0005】
開示された発明では、以下のような問題点がある。第1に、センサ部と電気回路部を電気的に接続する方法については明示されていないが、シート状導電性弾性体への電気的接続は、荷重による断線・不導通に対して十分な耐性を有すること、接続部においてもセンサの薄さを保つこと、が実用性を高める重要な課題であるが、導電性接着剤による方法は前者に対して不足であり、ビス留め等の方法は後者の要求に反する等、容易でない。
【0006】
第2に、センサはたとえばゴムのようなシート状弾性体を積層して構成され、全体として一枚の弾性体と見做せ容易に屈曲する。しかるに弾性体が屈曲すると、曲面の外側は伸長し内側は収縮する。したがって屈曲が発生するとセンサを構成する二つのコンデンサの、外側コンデンサの静電容量は増大し、内側のコンデンサの静電容量は減少する。この結果、これらのコンデンサの静電容量の差分の変化を計測して荷重を計測する本装置は、荷重による変化と屈曲による変化の分別ができず、正しい荷重計測が妨げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−107231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする課題は、第1に荷重に対する機械的強度が高く、かつ厚さの薄いシート状導電性弾性体への電気的接続方法を提供すること、第2にセンサ部の屈曲による誤出力を抑制して正しい荷重計測が行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、第1にセンサ部の3枚のシート状導電性弾性体に打った3個の金属製ハトメを介してシールド電線で電気回路部と電気的に接続し、リハビリテーション用歩行具に適用する場合は該接続部を土踏まず相当位置に設けることにより第1の課題を解決し、第2にセンサ部を剛性のある樹脂板に貼り付けて、シールド電線のシールドを該樹脂板に固着することにより第2の課題を解決する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の効果は、センサ部の3枚のシート状導電性弾性体に打った3個の金属製ハトメを介してシールド電線で電気回路部と電気的に接続するため、機械的強度が強くかつ厚さの薄い電気的接続が得られる。またリハビリテーション用歩行具に適用する場合は、該接続部を土踏まず相当位置に設けることにより、ハトメの厚さによるセンサ厚みの増大分を足の土踏まずの凹みで吸収することができるため厚さの増大による支障をきたすことなく該接続部への荷重を緩和することができ、強度が確保できる。
【0011】
本発明の第2の効果は、センサ部に貼り付けた樹脂板の剛性が屈曲を防止するため、屈曲による誤出力を解消し正しい荷重計測が行える。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】荷重計測装置のセンサ部の構成を示した説明図である。
【図2】荷重計測装置のセンサ部の断面を示した説明図である。
【図3】荷重計測装置のセンサ部の中心部材である多数の空隙を周期的に設けたシート状弾性体を示した説明図である。
【図4】荷重計測装置のセンサ部と電気回路部を接続した本発明装置の実施例の全体を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0013】
本発明装置のセンサ部の実施例を、部材の積層構成を示す図1と、図1のA−A´断面を示す図2と、センサの中心部材である多数の空隙を周期的に設けたシート状弾性体を示す図3によって詳述する。また図4は、図1〜3を用いて説明したセンサ部と電気回路部を接続した本発明装置の実施例の全体を示す。
【0014】
本実施例では、多数の空隙11を周期的に設けたシート状弾性体2と、平坦なシート状弾性体4と、これらのシート状弾性体をサンドイッチ状にはさむ3枚のシート状導電性弾性体1、3、5を弾性接着材を用いて積層してセンサ部6を構成する。なお樹脂板8については後述する。
【0015】
シート状弾性体2は、図2〜3に示すように多数の空隙11を周期的に設けている。空隙は貫通していてもよく、貫通していない窪みであってもよい。一方シート状弾性体4は空隙を有せず平坦である。センサ部6のA−A´断面の一部を図2に示す。ただし断面構造がわかりやすいように各層を分離して図示しているが、これらは接着材あるいは粘着材で積層する。部材を詳述すると、シート状弾性体2は硬度50°、厚さ2mmのゴムシートに、図3に示す空隙11を多数設けてある。平坦なシート状弾性体4は硬度50°、厚さ0.5mmのゴムシートを用いる。シート状導電性弾性体1、3、5は、体積抵抗率5Ωcm、硬度60°、厚さ0.5mmの導電性ゴムシートを用いる。弾性接着材は一液湿気硬化型弾性接着材を使用する。センサの厚さは4mm、外形は使用目的に応じた形状にすることができるが本実施例ではリハビリテーション用歩行具に適用するために靴等のインソール形状にしている。
【0016】
さらにシート状導電性弾性体1、3、5は、図1および図2に示すように3個のハトメ7を打つ。これらのハトメはその縁辺に沿ってシート状弾性体を咬むことによって良好な電気的接続と機械的な強度を具現する。これらのハトメには図2に示すようにシールド電線10の心線をはんだ付け等で接続する。同図ではシート状導電性弾性体5のみにシールド電線を図示しているが、実際は1、3にも同様にシールド電線を接続する。なお図ではこれらのハトメは一直線上に設けているが、互いに重ならない位置に設けてもよい。ただしリハビリテーション用歩行具に適用する場合は図1のように足の土踏まずに相当する位置に設ける。足の土踏まず部分は凹んでいるのでハトメの厚みによるセンサの厚さ増大分が実用上障害になるのを解消できるだけでなく、足の土踏まず部分は他の部分に比べて荷重分布が小さいため、前記接続部に荷重応力が掛からず断線や不導通の発生が大幅に抑制できる。
【0017】
図1および図2に示す8は剛性のある樹脂板で、センサ部6を貼り付けるとともにこの樹脂板にも図2に示すようにハトメを打つ。このハトメには前記3本のシールド電線のシールドをはんだ付け等で接続する。これによってシールド電線に張力が加わった時にはこの樹脂版のハトメが支点となるため、前記3箇所の心線接続部に張力が加わるのを防止することができる。また樹脂版の剛性により屈曲が抑制されるため、先に述べた屈曲による誤出力が発生し難くなり正しい荷重計測を行うことができる。樹脂版はポリエステル、ポリカーボネート等の材質を用いることができ、厚さは荷重範囲に応じて選択する。
【0018】
次にこの実施例のセンサ部の作用を述べる。このセンサ部6は、足で踏まれるとその部分の圧力に応じて厚さの変化を生じる。外圧によるゴム材の変形は、体積を一定に保っておこなわれるが、シート状弾性体2は、多数の空隙が周期的に設けられているため、厚さの減少に見合う体積がこの部分に広がることにより、弾性体のヤング率に対応した圧縮変形が可能である。すなわち厚さの変化が比較的少ない範囲において、圧力に1次比例して厚さが減少する。これに対してシート状弾性体4は、面方向への体積移動ができないため厚さの変化は無視できるほど小さい。
【0019】
このような構成のセンサ部6は電気回路的には、2枚のシート状導電性弾性体1、3を電極、シート状弾性体2を誘電体とするコンデンサ、および2枚のシート状導電性弾性体3、5を電極、シート状弾性体4を誘電体とするコンデンサとみなすことができる。シート状弾性体2を誘電体とするコンデンサにおいては、前述の変形条件すなわち厚さの変化が比較的少ない範囲において圧力に1次比例して厚さが減少する、が成立すると、このコンデンサの静電容量の変化は、センサ部6に印加される全荷重によい近似で比例し、荷重の分布に依存しない。一方シート状弾性体4を誘電体とするコンデンサにおいては、荷重による厚さの変化がないため静電容量は変化しない。
【0020】
センサ部の静電容量を測定し所定の荷重を越えると警報を出力する電気回路部は、種々の方法が周知であるが図4に一例を示す。本例のセンサ部6に接続する電気回路部12において、正弦波電圧発生回路で発生させた10kHz、5Vの正弦波電圧を、センサ部6のシート状導電性弾性体1でなる電極に印加する。またこの正弦波電圧の電圧と位相を以下の値にゲイン&位相調整回路で調整し、シート状導電性弾性体5でなる電極に印加する。シート状導電性弾性体3でなる電極を電流電圧変換回路に接続し、センサ部6に荷重が加わっていない時の電流電圧変換回路出力が0になるように、前記ゲイン&位相調整する。このようにすることで、センサ部6のふたつのコンデンサを流れる電流の和は、荷重がない時には相殺しあって0となる。この時ゲインは、二つの誘電体に同材質のゴムを用いた場合、厚さの逆比にほぼ等しく約1/4となり、位相差は約180°であるが、電極の直列抵抗分、誘電体の誘電損失分および回路の位相差に等価な抵抗分だけ180°からずらせる必要があり、そのために位相調整を行う。センサ部に荷重が加わると、ふたつのコンデンサの静電容量に差異が発生し、差分に比例する電流が電流電圧変換回路に流入する。この電流は正弦波電圧発生回路の周波数に等しく、同じ10kHzに同調させた狭帯域フィルタを通過させると、回路の直流オフセット電圧や商用周波等のノイズが除去され、精度の高い計測信号電圧が得られる。この電圧と、警報を出すべき荷重に合わせて設定した電圧とを比較回路で比較し、設定電圧を超えると警報を出力する。別にセンサ部6の静電容量を発振回路の一部となし、静電容量の変化を発振周波数の変化で検出する方法も用いることが可能であるが、周知であり詳述しない。
【0021】
以上の考察から明らかなように、電流電圧変換回路に流れ込む電流を測定することにより、静電容量の変化が計測でき、またそれによりセンサ部に加わる全荷重を計測することができる。荷重に対する圧縮量すなわち感度は、シート状弾性体2の硬度と図3の空隙または窪みの寸法で調整できる。
【0022】
本実施例の荷重計測装置は、電気回路部12に接続するシールド電線とセンサ部6の接続が薄くかつ断線・不導通を生じ難く、また屈曲に対する抵抗性があるため正しい荷重計測が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
構成が簡素なること、形状が薄いこと、分散荷重の総量が計測できることから、狭いところでの荷重計測に適用でき、特に市販の履物に適用することにより実用的なリハビリテーション用歩行具が提供できる。
【符号の説明】
【0024】
1 シート状導電性弾性体
2 多数の空隙または窪みを周期的に設けたシート状弾性体
3 シート状導電性弾性体
4 平坦なシート状弾性体
5 シート状導電性弾性体
6 センサ部
7 ハトメ
8 樹脂板
9 ハトメ
10 シールド電線
11 空隙または窪み
12 電気回路部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の空隙または窪みを周期的に設けたシート状弾性体と、平坦なシート状弾性体とを誘電体とし、これらの誘電体をサンドイッチ状にはさんだ3枚のシート状導電性弾性体を電極として二つのコンデンサを形成してなるセンサ部と、これらのコンデンサの静電容量の差分の変化を計測して作動する電気回路部からなり、前記センサ部の3枚のシート状導電性弾性体に打った3個の金属製ハトメを介してシールド電線で電気回路部と電気的に接続したことを特徴とする荷重計測装置。
【請求項2】
請求項1記載の荷重計測装置のセンサ部を靴等のインソールまたはミッドソールに適用し、3個の金属製ハトメを前記インソールまたはミッドソールの土踏まず相当位置に打つことを特徴とするリハビリテーション用歩行具。
【請求項3】
請求項1記載の荷重計測装置のセンサ部を剛性のある樹脂板に貼り付けて、シールド電線のシールドを該樹脂板に固着したことを特徴とする請求項2記載のリハビリテーション用歩行具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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