説明

蒸煮大豆の製造方法およびそれを用いた納豆

【課題】 本発明の課題は、従来よりも、さらに納豆の製造に適した蒸煮大豆の製造方法を提供することにある。
【解決手段】 本発明は、納豆用蒸煮大豆の製造方法であって、浸漬大豆を達温まで加熱する間に温水を加えることを特徴とする、前記製造方法、ならびに該製造方法によって製造された蒸煮大豆を用いて製造された納豆に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸煮大豆の製造方法およびそれを用いた納豆に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な納豆の製造は、大豆を洗浄・浸漬し、さらに蒸煮し、得られた蒸煮大豆に納豆菌を接種し、発酵・熟成させることによって行われる。そして洗浄・浸漬して得られた大豆(浸漬大豆)に対して行なう蒸煮は、浸漬大豆の軟化のほか、納豆菌を接種する前の殺菌、生大豆の青臭さの除去などの役割を担う。また、蒸煮によって、大豆の色が変化するので、最終製品である納豆の色合いにも影響を及ぼすことになる。
【0003】
これまで蒸煮工程において、よりよい蒸煮大豆を得るために様々な工夫がなされている。例えば、大豆表面に付着する着色成分を除くことを目的とし、加圧蒸煮後に常圧に戻してから熱水を散布することが報告されている(特許文献1)。また、より軟らかい蒸煮大豆を得るために様々な工夫がなされてきたが、未だ十分な方法はなかった。例えば、蒸煮温度を高くしたり、蒸煮時間を長くすることによって、豆を軟らかく煮ることはできたが、豆の色が暗く濃くなったり、苦味などの雑味が生じ味が悪くなってしまうという問題があった。
【特許文献1】特開2004−24197号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来よりも、さらに納豆の製造に適した蒸煮大豆の製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するため、研究を重ねる中で、蒸煮工程の達温(蒸煮温度)に到達するまでに加水工程を行なうことにより、ふっくらとやわらかい仕上がりの納豆を製造することができることを見出し、さらに鋭意研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、納豆用蒸煮大豆の製造方法であって、浸漬大豆を達温まで加熱する間に温水を加えることを特徴とする、前記製造方法に関する。
さらに本発明は、達温が、100℃〜140℃であることを特徴とする、前記の製造方法に関する。
また本発明は、温水の温度が、50℃〜100℃であることを特徴とする、前記の製造方法に関する。
【0007】
さらに本発明は、温水の温度が、浸漬大豆の表面温度と略同じであることを特徴とする、前記の製造方法に関する。
また本発明は、加える温水の量が、浸漬大豆の重量の10%〜300%であることを特徴とする、前記の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の蒸煮大豆は蒸煮工程の前に加水するところ、蒸煮工程の後に加水する場合に比べて、同じ加水量であっても蒸煮大豆の硬度が高く、容器へ蒸煮大豆を充填する際の潰れや煮汁発生などを低減することができ、より優良な納豆を製造することができる。
また本発明の蒸煮大豆を用いた納豆は、蒸煮大豆中の水分量を確保できることから、ふっくらとした食感となる。また、蒸煮工程の後に加水する場合に比べて、加水工程による大豆の栄養価への影響が低減されるため、より高い栄養価を維持できる。さらに発酵が進行し過ぎることがなく、比較的日持ちがよくなるなどの優れた効果を奏する。
さらに、本発明によれば、比較的短い蒸煮時間によってふっくらと煮上げることができ、生産作業効率が向上し、さらに、軟らかすぎない仕上がりになるため、豆が潰れたり、べたついたりすることがなく、容器への充填の際の安定した定量性を保つことができる。
さらにまた、従来の蒸煮工程の後に加水する場合、加水する温水を殺菌するための温度制御や微生物管理に問題があった場合、納豆への影響が看過できないものとなるが、本発明によれば、万一、加水する温水の微生物管理などに問題が生じても、加水後の蒸煮工程で殺菌され、安全な納豆を生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明にかかる蒸煮大豆の製造方法は、蒸煮工程の達温(目的とする一定温度に達したときの蒸煮温度)に到達するまでに加水工程を行なうこと以外、通常行われている方法を用いてよく、丸大豆納豆、挽き割り納豆など各種の糸引き納豆の製造において適用することができる。
また本発明において、大豆や納豆菌の種類などはとくに限定されず、発酵工程は、通常の納豆製造時の発酵条件で行なうことができるが、蒸煮大豆の状態等を考慮し、適宜変更することも可能である。
【0010】
本発明の納豆用蒸煮大豆の製造方法は、典型的には、浸漬大豆を達温まで加熱する間に温水を加える加水工程を含む。達温は、例えば、100℃〜140℃程度とすることができる。
加水工程において加える温水の温度は、例えば、30℃〜100℃とすることができ、豆の軟化効果の観点から、好ましくは、50℃〜100℃、豆の硬さのバラツキも少なく軟化効果を得る観点から、とくに好ましくは、80℃〜100℃である。このような温度とすることで、蒸煮大豆の含水量がより多くすることができる。また温水の温度は、加水する浸漬大豆の表面温度と同じにすると、大豆への急激な温度変化を避け、加水の安定した水温管理をすることができるので好ましい。
【0011】
加える温水の量は、目的の蒸煮大豆の水分量や硬さに合わせて適宜調整できるが、例えば、浸漬大豆の重量の10%〜300%とすることができるが、浸漬豆に均一に水との接触をさせ栄養成分を損失することなく軟化効果を得る観点から、好ましくは、30〜200%、とくに好ましくは、40〜100%である。
また加水工程は、常圧で行なっても、加圧条件下で行なってもよいが、蒸煮釜内の圧力の安定を維持するなどの作業性の観点から、常圧で行なうことが好ましい。
【0012】
本発明において蒸煮工程は、温度、圧力、時間などの各条件は通常行なわれている範囲で行なうことができる。
蒸煮工程の圧力は、典型的には、0.02〜0.28MPa、好ましくは、0.07〜0.20MPaであり、とくに好ましくは、0.16〜0.19MPaである。
蒸煮工程の蒸煮時間は、温度、圧力などの条件により、大豆の粒径や品種により適宜設定し得るが、典型的には、5〜90分間であり、好ましくは、7〜50分間、とくに好ましくは、10〜30分間である。
また本発明の納豆用蒸煮大豆は、通常の発酵工程によって、納豆の製造に用いることができる。
以下に、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の各例に限定されるものではない。
【0013】
(実施例1)
常法により準備した浸漬大豆を以下の工程:
(1)浸漬大豆(10kg)を蒸煮釜内に入れ水蒸気で加熱する加熱工程、
(2)蒸煮釜内が90℃になった後、浸漬大豆に対し50重量%の温水(90℃)を流速0.1L/sで加える加水行程、および
(3)加熱後、128℃(圧力:0.16MPa)に達してから25分間の蒸煮工程、
で蒸煮し、本発明の納豆用蒸煮大豆を得た。
得られた蒸煮大豆を常法により、納豆菌を接種、発酵、熟成を行ない、実施例1の納豆を得た。
【0014】
(実施例2)
加水行程の温水を、浸漬大豆に対し30重量%とした以外は、実施例1と同様に行い、実施例2の納豆を得た。
(実施例3)
加水行程を、浸漬大豆を蒸煮釜内に入れ、24℃とした後、浸漬大豆に対し30重量%の温水(24℃)を加えた以外は、実施例1と同様に行い、実施例3の納豆を得た。
【0015】
(比較例1)
常法により準備した浸漬大豆を以下の工程:
(1)浸漬大豆(10kg)を蒸煮釜内に入れ水蒸気で加熱する加熱工程、および
(2)加熱後、128℃(圧力:0.16MPa)に達してから25分間の蒸煮工程、
で蒸煮し、納豆用蒸煮大豆を得た。
得られた蒸煮大豆を常法により、納豆菌を接種、発酵、熟成を行ない、比較例1の納豆を得た。
(比較例2)
常法により準備した浸漬大豆を以下の工程:
(1)浸漬大豆(10kg)を蒸煮釜内を水蒸気で加熱する加熱工程、
(2)加熱後、128℃(圧力:0.16MPa)に達してから25分間の蒸煮工程、および
(3)蒸煮工程の後、蒸煮釜を常圧に戻し、蒸煮釜内が90℃になった後、浸漬大豆に対し50重量%の温水(90℃)を流速0.1L/sで加える加水行程
で蒸煮し、納豆用蒸煮大豆を得た。
得られた蒸煮大豆を常法により、納豆菌を接種、発酵、熟成を行ない、比較例2の納豆を得た。
(比較例3)
加水行程の温水を、浸漬大豆に対し30重量%とした以外は、比較例2と同様に行い、比較例3の納豆を得た。
【0016】
(実験例1)温水温度の検討
常法により得られた浸漬大豆に対し、浸漬豆重量100%の30℃〜90℃の各温度の温水に180秒間どぶ漬けした後に蒸煮工程を行なった。結果を表1に示す。得られた蒸煮大豆の一部を取り出し硬度および水分量を測定した。また、残りの蒸煮大豆を納豆菌により発酵させ、室出し後1日目の納豆の硬度および水分量を測定した。結果を表2に示す。なお、各表中の測定値は各試験区について30サンプルの平均値を示す。また対照として、加水しないで得た蒸煮大豆および納豆について測定した硬度および水分量を示す。
【0017】
硬度の測定は、FUDOHレオメーター((株)レオテック製)を用いて測定した。また各軟化率を次式により算出した。
軟化率(%)=(煮豆硬度−納豆硬度)/煮豆硬度×100
水分量の測定は、プラスチックフィルムを用いた加熱乾燥法を用いて測定した。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
加水する温水の温度が高い程、煮豆の軟化が進み、さらに煮豆から納豆への発酵によるの軟化率が高い傾向が見られた。また、温水の温度が高い程、軟化(煮豆硬度・納豆硬度)のバラツキ(偏差)が小さいことが分かった。
さらにまた、軟化作用は50℃以上で顕著に現れ、80℃以上にすると、吸水効果、バラツキの少ない豆の軟化作用がより顕著に現れた。
【0021】
(実験例2)
実施例1〜3ならびに比較例2および3の蒸煮大豆と納豆における硬度、軟化率および水分を測定した。結果を表3に示す。
【表3】

【0022】
本発明の納豆用蒸煮大豆は、煮豆段階での硬度が高いにも拘らず、煮豆から納豆への過程の発酵による軟化率が高く、硬く煮て発酵中に軟らかくすることができるので、極めて加工適正が優れていることが分かった。
【0023】
(実験例2)納豆の品質的特徴
本発明の納豆用蒸煮大豆を用いた納豆(実施例1〜3)および比較例1〜3の納豆の品質的特徴(外観、糸引き、味、香り、硬さ)について比較した。評価はいずれも、A:優良、B:普通、C:不良の3段階とした。なお、納豆はいずれも室出し後3日間熟成したものを用いた。結果を表4に示す。
【表4】

【0024】
実施例1〜3および比較例3の納豆は、室出し後3日目においては、外観、糸引き、味、香り、硬さのいずれにおいても、優れていた。
実施例1(蒸煮工程前に加水、90℃、50%)の納豆は、豆の色が比較例2(蒸煮工程後に加水、50%)よりも明るかった。硬さは、比較例2より硬かった。味は、比較例2よりも旨味を強く感じた。
実施例2(蒸煮工程前に加水、90℃、30%)の納豆は、豆の色が比較例3(蒸煮工程後に加水、30%)に比べ白みがかっていた(明るい)。硬さは、比較例3に比べて硬かった。
【0025】
(実験例3)納豆の栄養評価
実施例2(蒸煮工程前に加水、30%)、比較例1(加水なし)および比較例3(蒸煮工程後に加水、30%)について、夫々の蒸煮大豆を用いた納豆について、タンパク質、脂質、炭水化物、水分、灰分について測定した。結果を表5に示す。
【表5】

【0026】
実施例2と比較例3は、同じ加水量であるにも拘らず、実施例2の納豆の方が成分流出が少なかった。とくにタンパク質については、加水していない比較例1に比べ、比較例3では、8.4%もの流出が起きていたが、実施例2では、2.1%の流出にとどめることができた。結果として、水分を多く含んでふっくらとした納豆であって、より栄養価の高いものを製造することができた。
【0027】
(実験例4)納豆の日持ち評価
実施例2(蒸煮工程前に加水、30%)および比較例3(蒸煮工程後に加水、30%)について、夫々の納豆について、室出し3日後のアンモニア態窒素量(単位:mg/100g)を測定し、室出し10日後の外観、糸引き、味、香り、硬さ、シャリの発生について、比較した。評価はいずれも、A:優良、B:普通、C:不良の3段階とした。結果を表6に示す。
【表6】

【0028】
室出し3日目には、実施例2の納豆よりも比較例3の納豆のアンモニア態窒素が高くなり、比較例3の方が発酵分解が進んでいた。室出し10日目には、比較例3の納豆は、熟成中の分解が進み、味が苦くなり、シャリシャリとした食感となり、ストラバイトやチロシンが多く発生していることが示唆された。
一方、実施例2の納豆は、室出し10日目でも十分な品質を保つことができ、日持ちすることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
納豆用蒸煮大豆の製造方法であって、浸漬大豆を達温まで加熱する間に温水を加えることを特徴とする、前記製造方法。
【請求項2】
達温が、100℃〜140℃であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
温水の温度が、50℃〜100℃であることを特徴とする、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
温水の温度が、浸漬大豆の表面温度と略同じであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
温水の量が、浸漬大豆の重量の10%〜300%であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。