説明

蓄熱体用容器および蓄熱体

【課題】使用時の取り扱いが容易で、蓄熱・放熱効率に優れ、長期間繰り返して使用することができ、なおかつ安価である蓄熱体用容器およびこれを用いた蓄熱体を提供することを目的とする。
【解決手段】樹脂材料からなる容器と、前記容器の外周部に埋設された電熱線と、を備えることを特徴とする蓄熱体用容器、およびこれに蓄熱材を充填してなる蓄熱体を提供することで課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用時の取り扱いが容易で、蓄熱・放熱時の熱伝導効率に優れ、なおかつ安価である蓄熱体用容器および蓄熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、床暖房装置等に用いられる蓄熱体としては、コンクリートやレンガ等の顕熱蓄熱体が主流であったが、近年では、顕熱蓄熱体よりも体積あたりの蓄熱量が大きく、なおかつ一定の温度で蓄熱、放熱が可能な潜熱蓄熱体が普及し始めている。この潜熱蓄熱体は、安価な深夜電力等を用いて加熱融解した潜熱蓄熱材が凝固するときに発する潜熱(凝固熱)を利用するものであり、一般的に、潜熱蓄熱材と当該蓄熱材を充填する容器とを少なくとも備え、当該蓄熱材の加熱融解に必要な熱の供給は、容器外部または容器内に配置された電熱線等の発熱体から供給される(例えば、特許文献1〜5参照)。
【特許文献1】特開平6−11145号公報
【特許文献2】特開平7−218169号公報
【特許文献3】実開昭61−159344号公報
【特許文献4】特開2002−81878号公報
【特許文献5】特開平2−251021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来の潜熱蓄熱体は、その発熱体の配置に起因して、熱伝導効率、施工効率、コストなどの点において課題を残している。より具体的には、発熱体が容器の外部表面に付設されている場合には、(イ)発熱体の熱が容器の厚みを介して蓄熱材に伝わるため蓄熱材の加熱融解に時間がかかる、(ロ)容器及び蓄熱材以外に逃げる熱の割合が多い、(ハ)持ち運びの際などに発熱体自体を傷つけ易い、(ニ)床暖房用として使用する場合、床材が発熱体の熱の影響を受け易く、傷み易い、などの問題点が挙げられ、一方、容器内に発熱体が配置されている場合には、(ホ)蓄熱体内部に発熱体を配置する分、製造の手間やコストが増加する、(ヘ)発熱体が蓄熱材と直接接触しないように別の容器に入れられ、保護されていると、上記(イ)と同様、熱が蓄熱材に伝わり難い、(ト)容器内に充填できる蓄熱材の量が制限されてしまう、などの問題点が挙げられる。また、施工時において発熱体と蓄熱材入り容器(蓄熱体)を別々に設置する場合では、発熱体が容器の外部表面に付設されている場合と同様の問題に加え、施工効率が低下し、施工コストが上昇するなどの問題点が挙げられる。
【0004】
上記を鑑みて、本発明は、従来の蓄熱体と比較して、使用時の取り扱いが容易で、蓄熱・放熱時の熱伝導効率に優れ、長期間繰り返して使用することができ、なおかつ安価である蓄熱体用容器およびこれを用いた蓄熱体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者は、鋭意検討の結果、蓄熱材を加熱融解するための熱源となる発熱体を容器構造内部に埋設することで、上記課題を全て解決することが可能となることを見出し、本発明を為すに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、下記(1)〜(13)に記載の事項をその特徴とするものである。
【0007】
(1)樹脂材料からなる容器と、前記容器の外周部に埋設された電熱線と、を備えることを特徴とする蓄熱体用容器。
【0008】
(2)樹脂材料からなる容器と、前記容器内に配置され、外周部に電熱線が埋設されている筒状発熱体と、を備えることを特徴とする蓄熱体用容器。
【0009】
(3)前記容器の外周部に電熱線が埋設されていることを特徴とする上記(2)に記載の蓄熱体用容器。
【0010】
(4)前記容器の外周部および/または前記筒状発熱体の外周部に金属箔が埋設されていることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の蓄熱体用容器。
【0011】
(5)前記金属箔がアルミニウム箔または銅箔であることを特徴とする上記(4)に記載の蓄熱体用容器。
【0012】
(6)前記樹脂材料がポリプロピレンであることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の蓄熱体用容器。
【0013】
(7)前記電熱線が平板状ニクロム線であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の蓄熱体用容器。
【0014】
(8)前記容器が筒状であることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の蓄熱体用容器。
【0015】
(9)蓄熱体用容器の製造方法であって、樹脂材料からなる容器の外周部表面の所定位置に、樹脂被覆された電熱線を熱溶着する工程、および前記容器の外周部表面および前記樹脂被覆された電熱線を樹脂により被覆する工程、を含むことを特徴とする蓄熱体用容器の製造方法。
【0016】
(10)前記容器を構成する樹脂、前記電熱線の被覆樹脂、および前記容器と前記樹脂被覆された電熱線とを被覆する樹脂、の全てが同一種の樹脂からなることを特徴とする上記(9)に記載の蓄熱体用容器の製造方法。
【0017】
(11)前記容器の外周部表面および前記樹脂被覆された電熱線を樹脂により被覆する工程の前に、前記容器の外周部表面の所定位置に金属箔を配置する工程をさらに有することを特徴とする上記(9)または(10)に記載の蓄熱体用容器の製造方法。
【0018】
(12)外周部に電熱線が埋設されている筒状発熱体を前記容器内に配置する工程を有することを特徴とする上記(9)〜(11)のいずれか1項に記載の蓄熱体用容器の製造方法。
【0019】
(13)上記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の蓄熱体用容器内、または上記(9)〜(12)のいずれか1項に記載の製造方法により製造された蓄熱体用容器内に蓄熱材を充填し、密閉してなることを特徴とする蓄熱体。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、従来の蓄熱体と比較して、使用時の取り扱いが容易で、熱伝導効率に優れ、長期間繰り返して使用することができ、なおかつ安価である蓄熱体用容器およびこれを用いた蓄熱体を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、樹脂材料からなる容器と、前記容器の外周部に埋設された電熱線と、を備えることを主たる特徴とする蓄熱体用容器に関する。以下、本発明の蓄熱体用容器を図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
図1(a)は、両端に開閉可能な封止キャップ4を備える円筒状の容器10と、当該容器10の外周部2に埋設された電熱線3と、を備える蓄熱体用容器を長さ方向に切断したときの横断面図の一実施形態であり、図1(b)は、図1(a)を(A)−(A)切断面に沿って切断したときの断面図である。
【0023】
本発明の蓄熱体用容器は、蓄熱体用容器として一定以上の耐熱性、強度、耐薬品性、耐透水性、透明性および成形加工性を有する樹脂材料からなることが好ましい。このような樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリアミド66、3弗化エチレン、ポリメチルペンテン、ABS樹脂などを挙げることができる。耐透水性、透明性および成形加工性などに優れる点でポリプロピレン、ポリメチルペンテンであることが望ましい。また、樹脂材料には、アルミニウム粒子、カーボン粒子など公知の熱伝導性粒子やこれら素材の繊維、可塑剤、着色剤、酸化防止剤等、公知の添加剤が含まれていても良い。
【0024】
また、本発明の蓄熱体用容器の形状は、特に限定されず、使用目的や設置箇所に合わせて適宜決定すればよい。例えば、図1における容器10の形状は円筒形状であるが、角筒形状や楕円筒形状であってもよく、もちろん筒形状でなくともよい。熱効率、強度、取り扱い性等を考慮すると、円筒形状であることが好ましい。筒状の容器を用いる場合、その端部は、潜熱蓄熱材を筒状容器内に充填できるように、少なくとも一方を開口端としておくことが好ましい。例えば、図1の円筒容器の両端部は共に開口端であり、それぞれが封止キャップ4により閉じられた状態であるが、潜熱蓄熱材充填時には、当該キャップの一方を外し、充填後にはこれにより密封することができる。勿論、筒状でない容器についても、潜熱蓄熱材を充填するための開口部や注入口と充填後にこれを密封する手段が必要であることはいうまでもない。また、封止キャップは、溶着密封性の観点から、容器と同一種の樹脂からなるものであることが望ましい。
【0025】
また、本発明の蓄熱体用容器の大きさについても、上記容器形状と同様、使用目的や設置箇所に合わせて適宜決定すればよく、特に限定されない。例えば、容器形状が円筒形状の場合には、使用する潜熱蓄熱材にもよるが、その外径が20mmから60mmであることが好ましく、30mmから45mmであることがより好ましい。外径が20mm未満では充填可能な潜熱蓄熱材の量が少ないため、十分な蓄熱量を確保できない恐れがあり、一方、外径が60mmを超えると、潜熱蓄熱材の加熱融解にかかる時間やコストが増加し、良好な蓄熱効率を得難い。ただし、容器内に後述する筒状発熱体が配置されている場合には、筒状発熱体の外径と発熱効率を考慮に入れ、蓄熱体の蓄熱放熱効率を低下させない程度に上記円筒容器外径の上限を大きくすることが可能である。
【0026】
また、本発明の蓄熱体用容器外周部の肉厚(円筒形状容器における外径と内径の差)は、そこに埋設される電熱線の厚みや所望の耐圧・曲げ強度等により、適宜決定することが望ましいが、好ましくは1mmから4mmであり、より好ましくは1.5mmから2mmである。この肉厚が1mm未満では電熱線の埋設位置にばらつきが生じやすく、電熱線の絶縁性確保が難しくなる。一方、肉厚が4mmを超えると良好な熱伝導効率が得られない恐れがある。ただし、後述する筒状発熱体を備える蓄熱体用容器において、当該容器に電熱線を埋設しない場合には、熱伝導効率と強度を考慮して、その肉厚を0.5mmから1.5mmとすることが好ましく、0.8mmから1mmとすることがより好ましい。
【0027】
さらに、容器の外周部表面(容器の外表面もしくは内表面にあたる面)は、平坦であっても凹凸であってもよい。特に微細な凹凸が容器外周部表面に多数形成されていると蓄熱放熱効率を向上させることが出来る。
【0028】
本発明に用いる電熱線としては、例えば、ニクロム線など公知のものを用いることができ、特に限定されない。また、電熱線の形状は、特に限定されないが、強度や熱効率、埋設のし易さ等の観点から平板状であることが好ましい。平板状の電熱線を用いる場合には、厚さ0.08mm、幅0.5mmから厚さ0.3mm、幅3mmの寸法を有するものを用いることが好ましく、厚さ0.1mm、幅1mmから厚さ0.15mm、幅1.5mmの寸法を有するものを用いることがより好ましい。平板状電熱線の寸法が、厚さ0.08mm、幅0.5mm未満では、引っ張り強度が小さく、容器成形時に電熱線の切れが発生し易くなるなど、容器の成形性が低下する傾向があり、また寸法が、厚さ0.3mm、幅3mmを超えると、容器を構成する樹脂と電熱線の熱収縮率の違いが大きく影響して曲がりや偏肉などの変形が発生し易くなり、成形性が低下する傾向がある。もちろん、電熱線の形状として、断面が円状のものを使用しても良く、この場合には、直径0.2mmから1mmの寸法を有するものを用いることが好ましく、直径0.3mmから0.5mmの寸法を有するものを用いることがより好ましい。
【0029】
また、電熱線は、例えば、図1に示すように、容器の長さ方向と平行に配置、埋設しても、図2に示すように、容器を周回させるように配置、埋設してもよく、特に限定されず、容器の大きさや形状等を考慮し、蓄熱材への熱伝導効率を良好ならしめるように埋設されていることが望ましい。また、隣接する電熱線同士の間隔も特に限定されず、電熱線の絶縁性や成形性等を考慮して決定することが望ましい。例えば、図1に示すように電熱線を容器の長さ方向と平行に埋設する場合には、隣接する電熱線同士の間隔が円周方向にほぼ等間隔となるように4〜24本埋設することが好ましく、8〜12本埋設することがより好ましい。電熱線の埋設本数が4本未満では、容器の外径にもよるが、良好な蓄熱効率が得られない恐れがあり、また、埋設本数が24本を越えると、容器を構成する樹脂材料と電熱線の熱収縮率の違いにより容器が変形する恐れがあり、また、隣接する電熱線同士の間隔が狭くなりすぎ、成形が困難となる。上記では、容器の長さ方向や円周方向に対する電熱線の埋設位置について説明したが、容器外周部の肉厚によっては、その厚み方向に電熱線を複数埋設しても良い。
【0030】
また、本発明の蓄熱体用容器の製造方法としては、例えば、容器を構成する樹脂材料と電熱線とを、当該電熱線が容器外周部内に埋設されるように共に押し出し成形する方法や容器の外周部表面の所定位置に周囲が樹脂被覆された電熱線を熱溶着した後、当該容器外周部表面と電熱線の上からさらに樹脂を被覆し、電熱線を埋設する方法などが挙げられる。前者の製造方法では、電熱線を直線状に供給して図1に示すような容器に形成したり、電熱線を螺旋状に供給して図2に示すような容器を形成することが可能である。また、後者の製造方法において、容器の最外層となる被覆樹脂層は、例えば、樹脂フィルムを熱溶着したり、被覆押出成形機を用いることで形成可能であり、また、容器を構成する樹脂、電熱線の被覆樹脂、および容器と樹脂被覆された電熱線をさらに被覆する樹脂は、全て同一種の樹脂であることが好ましい。
【0031】
本発明の蓄熱体用容器は、例えば、図3に示すように、円筒状容器30内の略中芯部に筒状発熱体5がさらに配置された形態であってもよく、当該筒状発熱体5には、その外周部6に上記と同様の電熱線3が埋設されている。また、この場合における封止キャップ4には、筒状発熱体5を支持するための貫通孔が当該発熱体の外径に応じた大きさで形成されていることが好ましい。
【0032】
また、図3の構成に加え、筒状容器40の外周部2にも上記と同様の電熱線3が埋設されていてもよい(図4)。これによれば、より短時間に潜熱蓄熱材を融解させることが可能となり、また、加熱機能の他に保温機能を設けることも可能となり、さらに、例えば、円筒状蓄熱体用容器の外径を60〜100mm程度に設計したとしても良好な熱効率を維持することが可能である。また、この場合、筒状容器の外周部の電熱線と筒状発熱体の外周部の電熱線は異なる形状、種類のものでも良く、さらには、図示していないが、図4における筒状発熱体を、中空を有さない単なる棒状の発熱体としてもよい。
【0033】
上記筒状発熱体の形状は、特に限定されないが、前述の容器の場合と同様の理由で、円筒形状であることが好ましい。また、筒状発熱体の材質は、特に限定されないが、前述した容器と同様の樹脂材料を用いることが好ましいまた、筒状発熱体の大きさは、容器内に収まる範囲で、潜熱蓄熱材の充填量を考慮して適宜決定すればよく、特に限定されないが、その外径が8mmから16mmであることが好ましく、10mmから13mmであることがより好ましい。この外径が8mm未満ではその耐圧強度が弱くなり蓄熱体として使用中に曲がり等の変形が発生する恐れがあり、外径が16mmを超えると蓄熱材の充填量が少なくなり蓄熱効率が低下する傾向にある。また、筒状発熱体の肉厚に関しては、前述の容器の場合と同程度もしくはそれ以下に設定可能である。
【0034】
また、上記筒状発熱体の中空内には、必要に応じて冷水や熱水を通すこともできる。熱水を通すことで潜熱蓄熱材の融解を早めることができ、また、冷水を通すことで、後述の発核手段とすることもできる。
【0035】
本発明の蓄熱体用容器の外周部には、電熱線と共に金属箔が埋設されていることが好ましい。容器内に筒状発熱体を備える場合には、当該筒状発熱体の外周部に電熱線と共に金属箔が埋設されていることが好ましく、さらに当該容器の外周部にも金属箔が埋設されていることが好ましい。もちろん、筒状発熱体の外周部には埋設せずに、容器の外周部にのみ金属箔を埋設してもよい。金属箔を埋設することにより、熱伝導効率を向上させることが可能となる。
【0036】
上記金属箔を電熱線と共に埋設する場合には、これを電熱線と電熱線の間に配置しても、電熱線を覆うように配置してもよく、特に限定されない。また、金属箔としては、特に限定されないが、熱伝導率が比較的優れ、安価なものであることが好ましく、例えば、アルミニウム箔や銅箔などが挙げられる。また、金属箔の厚みは、埋設する外周部の肉厚に応じて適宜決定すればよく、特に限定されない。金属箔を埋設する方法としては、例えば、容器や筒状発熱体の外周部表面に金属箔を巻きつけた後、これを樹脂で被覆するなどの方法により可能であり、特に限定されない。
【0037】
また、本発明の蓄熱体用容器に、過冷却可能な潜熱蓄熱材を充填する場合には、潜熱蓄熱材の過冷却状態を解除し、これを凝固させるための発核手段を設けることが好ましい。発核手段としては、例えば、超音波を利用するもの、容器の所定位置に冷却室や冷却管を設けて、その内部に冷水を循環させるもの、金属からなる冷却棒や冷却板を利用するものなど、公知の発核手段を挙げることができる。
【0038】
本発明の蓄熱体は、本発明の蓄熱体用容器に蓄熱材を充填してなるものである。図5に示す蓄熱体は、図1の蓄熱体用容器内に蓄熱材1を充填し、封止キャップ4により密封した状態を表す断面図である。また、図3のように、筒状発熱体5が容器30内に配置されている場合には、当該発熱体5と容器の間隙に蓄熱材を充填し、密封することで本発明の蓄熱体とすることが可能である。
【0039】
本発明の容器に充填する蓄熱材としては、特に限定されないが、潜熱蓄熱材を用いると優れた蓄熱・放熱特性を示すため好ましい。潜熱蓄熱材としては、特に限定されないが、例えば、硫酸ナトリウム10水塩、リン酸水素二ナトリウム12水塩、酢酸ナトリウム3水塩など公知のものを挙げることができ、これらは単独で、又は2種以上併用してもよい。また、上記のような蓄熱材には、必要に応じて、蓄熱材の種類に適した公知の相分離防止剤、例えば、粘土、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール等を添加してもよく、また、蓄熱材の融点を調整するための蒸留水を適宜量添加しても良い。蓄熱材の充填量は、容器や筒状発熱体の外径、筒状発熱体の有無、所望の蓄熱量等に依存して決まるものであり、特に限定されない。
【実施例】
【0040】
ニクロム線が容器もしくは筒状発熱体の外周部に埋設された蓄熱体用容器ならびに当該容器に蓄熱材を充填した蓄熱体を以下の通り作製した。また、作製した蓄熱体の蓄熱放熱効率および加熱融解性を評価した。なお、以下の実施例は本発明をなんら限定するものではない。
【0041】
<蓄熱体の蓄熱放熱効率>
(実施例1)
クロスヘッド押出機および被覆成形用ダイスからなる被覆押出装置を使用してポリプロピレン樹脂と厚さ0.1mm、幅1.5mmの平板状ニクロム線を一緒に外径38mm、内径35mmのパイプ状に長尺に押出し成形した後、これを長さ375mmに切断することで、図1に示すような円筒状の蓄熱体用容器を作製した。ニクロム線は、容器外周部厚み方向の略中心部に、長さ方向と平行に、かつ円周方向に等間隔で12本埋設されている。
【0042】
ついで、上記で作製した蓄熱体用容器の片端を、厚さ20mmのポリプロピレン樹脂製封止キャップにより封止しておき、他端から潜熱蓄熱材を491g充填した後、他端を封止キャップにより封止し、図5に示すような蓄熱体を作製した。なお、上記封止キャップはポリプロピレン樹脂製38mm丸棒を切削加工して作成したものであり、封止は樹脂キャップと容器端とを160wの半田鏝により熱溶着して行った。また、潜熱蓄熱材は、容器に充填する前に、500gのリン酸水素二ナトリウム12水塩(融点35℃、融解熱281kJ/kg)をポリプロピレン製容器内にて、70℃温水中、3時間で加熱融解させ、さらにこれに相分離防止剤および蒸留水を適宜量加えて攪拌混合したものである。
【0043】
ついで、容器外周部に埋設されたニクロム線に14V・32Wの条件で通電し、上記蓄熱体中の潜熱蓄熱材を加熱融解させた。この過程において、蓄熱体の外表面温度は、通電開始後、0.6時間で蓄熱材の融点である35℃に達し、その後、潜熱蓄熱材の溶け残りが生じないように更に加熱融解を続け、外表面温度が69℃(通電開始から3.7時間後)に達した時に通電を止めた。通電を止めた後、蓄熱体を16〜20℃の室内で自然冷却させると、過冷却現象により蓄熱体の外表面温度が21.1℃(通電停止から7.9時間後)まで低下し、そこから潜熱蓄熱材が凝固、放熱を始め、外表面温度は3分で35.8℃まで上昇した。その後、外表面温度が20℃になるまで4.7時間放熱が続いた。また、繰り返し試験でも蓄熱、放熱の傾向に大きな変化は見られず、凝固時の相分離なども生じなかった。以上より、実施例1で作製した蓄熱体は、優れた蓄熱、放熱効率を有し、なおかつ長期間繰り返して使用できることがわかった。通電開始から放熱終了時までの蓄熱体の外表面温度の経時変化を図6に示す。
【0044】
(実施例2)
押出成形機を用いて、外径30mm、外周部肉厚0.7mm、長さ640mmのポリプロピレン樹脂製の容器を作製し、その外周面にポリプロピレン樹脂で被覆されたニクロム線(以下、帯状発熱体)を18mmピッチで螺旋状に巻き付け、熱溶着により点付けした後、これをクロスヘッド押出機および被覆成形用ダイスからなる被覆押出装置に供給してその外周面を被覆肉厚0.5mmとなるようにポリプロピレン樹脂を被覆することで、図2に示すような円筒状の蓄熱体用容器を作製した。帯状発熱体は、クロスヘッド押出機および被覆用ダイスを使用し、厚さ0.1mm、幅0.7mmのニクロム線2本をポリプロピレン樹脂で帯状に被覆して厚さ0.5mm、幅3mmで長尺に押出成形したものを所定の長さに切断して用いた。
【0045】
ついで、上記で作製した蓄熱体用容器の片端を、厚さ20mmのポリプロピレン樹脂製封止キャップにより封止しておき、他端から潜熱蓄熱材を535g充填した後、他端を封止キャップにより封止し、蓄熱体を作製した。なお、上記封止キャップはポリプロピレン樹脂製30mm丸棒を切削加工して作成したものであり、封止は樹脂キャップと容器端とを160wの半田鏝により熱溶着して行った。また、潜熱蓄熱材は、容器に充填する前に、500gのリン酸水素二ナトリウム12水塩(融点35℃、融解熱281kJ/kg)をポリプロピレン製容器内にて、70℃温水中、3時間で加熱融解させ、さらにこれに相分離防止剤および蒸留水を適宜量加えて攪拌混合したものである。
【0046】
ついで、容器外周部に埋設されたニクロム線に35V・37Wの条件で通電し、上記蓄熱体中の潜熱蓄熱材を加熱融解させた。この過程において、蓄熱体の外表面温度は、通電開始後、0.6時間で蓄熱材の融点である35℃に達し、その後、潜熱蓄熱材の溶け残りが生じないように更に加熱融解を続け、外表面温度が59℃(通電開始から4.8時間後)に達した時に通電を止めた。通電を止めた後、蓄熱体を14〜20℃の室内で自然冷却させると、過冷却現象により蓄熱体の外表面温度が20.8℃(通電停止から3.6時間後)まで低下し、そこから潜熱蓄熱材が凝固、放熱を始め、外表面温度は3分で34.8℃まで上昇した。その後、外表面温度が20℃になるまで4時間放熱が続いた。また、繰り返し試験でも蓄熱、放熱の傾向に大きな変化は見られず、凝固時の相分離なども生じなかった。以上より、実施例2で作製した蓄熱体は、優れた蓄熱、放熱効率を有し、なおかつ長期間繰り返して使用できることがわかった。
【0047】
(実施例3)
押出成形機を用いて、外径38mm、外周部肉厚0.7mm、長さ405mmのポリプロピレン樹脂製の容器を作製し、その中空内部に筒状発熱体を配置することで、図3に示すような円筒状の蓄熱体用容器を作製した。筒状発熱体は、クロスヘッド押出機およびニクロム線被覆用ダイスを使用し、ポリプロピレン樹脂と厚さ0.1mm、幅1.0mmの平板状ニクロム線を一緒に外径10mm、内径6mmのパイプ状に長尺に押出成形し、所定長さに切断して得たものであり、当該ニクロム線は筒状発熱体外周部の厚み方向、略中心部に、長さ方向と平行に、かつ円周方向に等間隔で8本埋設されている。また、筒状発熱体は、樹脂キャップに設けられた孔に挿入することで支持されている。
【0048】
ついで、上記で作製した蓄熱体用容器の片端を、厚さ20mmのポリプロピレン樹脂製封止キャップにより封止しておき、他端から潜熱蓄熱材を494g充填した後、他端を封止キャップにより封止し、蓄熱体を作製した。なお、上記封止キャップはポリプロピレン樹脂製38mm丸棒を切削加工して作成したものであり、その中心部には筒状発熱体を挿入、支持するための孔が開けられている。また、封止は樹脂キャップと容器端とを160wの半田鏝により熱溶着して行った。また、潜熱蓄熱材は、容器に充填する前に、500gのリン酸水素二ナトリウム12水塩(融点35℃、融解熱281kJ/kg)をポリプロピレン製容器内にて、70℃温水中、3時間で加熱融解させ、さらにこれに相分離防止剤および蒸留水を適宜量加えて攪拌混合したものである。
【0049】
ついで、筒状発熱体外周部に埋設されたニクロム線に9V・32Wの条件で通電し、上記蓄熱体中の潜熱蓄熱材を加熱融解させた。この過程において、蓄熱体の外表面温度は、通電開始後、1.3時間で蓄熱材の融点である35℃に達し、その後、潜熱蓄熱材の溶け残りが生じないように更に加熱融解を続け、外表面温度が57℃(通電開始から4.4時間後)に達した時に通電を止めた。通電を止めた後、蓄熱体を15〜19℃の室内で自然冷却させると、過冷却現象により蓄熱体の外表面温度が18.7℃(通電停止から6.2時間後)まで低下し、そこから潜熱蓄熱材が凝固、放熱を始め、外表面温度は2分で34.6℃まで上昇した。その後、外表面温度が20℃になるまで3.5時間放熱が続いた。また、繰り返し試験でも蓄熱、放熱の傾向に大きな変化は見られず、凝固時の相分離なども生じなかった。以上より、実施例3で作製した蓄熱体は、優れた蓄熱、放熱効率を有し、なおかつ長期間繰り返して使用できることがわかった。
【0050】
(実施例4)
蓄熱体の樹脂キャップの片端内側に、外径6mm、内径4mmポロプロピレン樹脂製チューブを、蓄熱材に接触するようにU字型に取り付け、冷水を通水して蓄熱材を発核させる構造(以下、発核装置)を設けたこと、容器の長さを1600mmとしたこと、潜熱蓄熱材を2200g充填したこと以外は、実施例3と同様にして、蓄熱体用容器および蓄熱体を作製した。なお、チューブが蓄熱材に接触する全長は略200mmであり、封止キャップとチューブは60w半田鏝を使用して熱溶着され、配管接続ジョイントのネジ部でシールされている。また、筒状発熱体の長さは容器の長さに合うように切断し、作製した。
【0051】
ついで、筒状発熱体外周部に埋設されたニクロム線に50V・90Wの条件で3.2時間通電し、上記蓄熱体中の潜熱蓄熱材を加熱融解させ、発核装置近傍およびその反対端部の蓄熱体外表面温度が83℃、蓄熱体中央部の外表面温度が64℃になった時、通電を止めた。その後、蓄熱体を10〜18℃の室内で自然冷却させ、発核装置近傍の蓄熱体外表面温度が25.4℃(通電停止から3.3時間後)まで低下した時、発核装置に5℃の冷水を2分間で800cc通水し、過冷却状態で液状の蓄熱材を強制的に発核、凝固させて、その放熱状況を観察した。冷水通水開始後、発核装置近傍の蓄熱体外表面温度が2分で25.4℃から18.3℃まで低下した時、潜熱蓄熱材は瞬時に凝固、放熱を始め、発核装置近傍の蓄熱体外表面温度は3分で34.7℃まで上昇した。その後、蓄熱材の発核、凝固は、発核装置部から蓄熱体中央部、発核装置反対端部へと伝わり、蓄熱体中央部の外表面温度は、発核装置近傍における発核、凝固開始から31分遅れて35.5℃まで、発核装置の反対端部の蓄熱体外表面温度は、同56分遅れて35.4℃まで上昇した。この後、蓄熱体中央部の外表面温度が20℃になるまで9.3時間放熱が続いた。また、繰り返し試験でも蓄熱、放熱の傾向に大きな変化は見られず、凝固時の相分離なども生じなかった。以上より、実施例4で作製した蓄熱体は、優れた蓄熱、放熱効率を有し、なおかつ長期間繰り返して使用できることがわかった。また、蓄熱材を強制的に発核、凝固させることが本発明の蓄熱体の蓄熱放熱効率を向上させる上で非常に有効であることがわかった。
【0052】
<蓄熱体の加熱融解性>
(実施例5)
容器の長さを315mmとし、潜熱蓄熱材を380gr充填した以外は、実施例3と同様にして図3に示すような、内部に筒状発熱体が挿入された円筒状の蓄熱体を作製した。ついで、筒状発熱体外周部に埋設されたニクロム線ヒーター温度を75℃に設定し、9V・32Wの条件で通電し、上記蓄熱体中の潜熱蓄熱材を加熱融解させた。この過程において、蓄熱体の外表面温度は、通電開始後、0.7時間で蓄熱材の融点である35℃に達し、通電開始から7時間後には、蓄熱材の温度が略平衡状態に達した。略平衡状態時の蓄熱材の温度とそのときの蓄熱体の外表面温度を表1に示す。なお、この場合における蓄熱材の温度は、蓄熱体用容器の外周部と筒状発熱体の外周部の間であって、それぞれからほぼ等距離の位置に温度センサーを設置して測定した。
【0053】
(比較例1)
断熱材上に面状発熱体(長さ300mm、幅200mm、容量100V・60Wのアルミ箔ヒーター(坂口電熱株式会社製))を配置し、さらにこの面状発熱体上に円筒状の蓄熱体(外径38mm、長さ300mmの円筒状ポリプロピレン樹脂容器内に実施例5と同じ潜熱蓄熱材を380gr充填したもの)を配置した後、面状発熱体のヒーター温度を75℃に設定し、上記蓄熱体中の潜熱蓄熱材を加熱融解させた。この過程において、蓄熱体の外表面温度は、通電開始後、1.5時間で蓄熱材の融点である35℃に達し、通電開始から7時間後には、蓄熱材の温度が略平衡状態に達した。略平衡状態時の蓄熱材の温度とそのときの蓄熱体の外表面温度を表1に示す。なお、この場合における蓄熱体の外表面温度は、面状発熱体と接する外表面箇所と反対側の外表面箇所であって、長さ方向略中央部に温度センサーを設置して測定し、また、蓄熱材の温度は、円筒状である蓄熱体のほぼ中心となる位置に温度センサーを設置して測定した。
【表1】

【0054】
表1の結果から、実施例5のように、筒状発熱体を蓄熱体の内部に配置して蓄熱材の加熱融解を行う方法は、比較例5のように、面状発熱体上に蓄熱体を配置して加熱融解を行う従来の方法よりも、短い時間で蓄熱材を融解させることができ、なおかつより高温度で蓄熱することができるため、蓄熱体の加熱融解性を向上させる上で非常に有効であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の蓄熱体用容器およびこれを用いた蓄熱体は、発酵、養殖等の各種温室、床暖房等の各種暖房器具、融雪システム、凍結防止、地中加熱殺菌、農園温水供給などの様々な用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の蓄熱体用容器の一実施形態を示す断面図。
【図2】本発明の蓄熱体用容器の一実施形態を示す断面図。
【図3】本発明の蓄熱体用容器の一実施形態を示す断面図。
【図4】本発明の蓄熱体用容器の一実施形態を示す断面図。
【図5】本発明の蓄熱体の一実施形態を示す断面図。
【図6】実施例1における蓄熱体の、通電開始から放熱終了時までの外表面温度の経時変化を示すグラフ。
【符号の説明】
【0057】
1 蓄熱材
2 容器の外周部
3 電熱線(平板状)
4 封止キャップ
5 筒状発熱体
6 筒状発熱体の外周部
10、20、30、40 蓄熱体用容器
50 蓄熱体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料からなる容器と、
前記容器の外周部に埋設された電熱線と、
を備えることを特徴とする蓄熱体用容器。
【請求項2】
樹脂材料からなる容器と、
前記容器内に配置され、外周部に電熱線が埋設されている筒状発熱体と、
を備えることを特徴とする蓄熱体用容器。
【請求項3】
前記容器の外周部に電熱線が埋設されていることを特徴とする請求項2に記載の蓄熱体用容器。
【請求項4】
前記容器の外周部および/または前記筒状発熱体の外周部に金属箔が埋設されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の蓄熱体用容器。
【請求項5】
前記金属箔がアルミニウム箔または銅箔であることを特徴とする請求項4に記載の蓄熱体用容器。
【請求項6】
前記樹脂材料がポリプロピレンであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の蓄熱体用容器。
【請求項7】
前記電熱線が平板状ニクロム線であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の蓄熱体用容器。
【請求項8】
前記容器が筒状であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の蓄熱体用容器。
【請求項9】
蓄熱体用容器の製造方法であって、
樹脂材料からなる容器の外周部表面の所定位置に、樹脂被覆された電熱線を熱溶着する工程、および
前記容器の外周部表面および前記樹脂被覆された電熱線を樹脂により被覆する工程、を含むことを特徴とする蓄熱体用容器の製造方法。
【請求項10】
前記容器を構成する樹脂、前記電熱線の被覆樹脂、および前記容器と前記樹脂被覆された電熱線とを被覆する樹脂、の全てが同一種の樹脂からなることを特徴とする請求項9に記載の蓄熱体用容器の製造方法。
【請求項11】
前記容器の外周部表面および前記樹脂被覆された電熱線を樹脂により被覆する工程の前に、前記容器の外周部表面の所定位置に金属箔を配置する工程をさらに有することを特徴とする請求項9または10に記載の蓄熱体用容器の製造方法。
【請求項12】
外周部に電熱線が埋設されている筒状発熱体を前記容器内に配置する工程を有することを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載の蓄熱体用容器の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の蓄熱体用容器内、または請求項9〜12のいずれか1項に記載の製造方法により製造された蓄熱体用容器内に蓄熱材を充填し、密閉してなることを特徴とする蓄熱体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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