説明

蓄熱体

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、蓄熱材の体積変化を吸収でき、かつ熱交換性能を向上しうるとともに、蓄熱密度を高めうる蓄熱体に関する。
【0002】
【従来の技術】太陽熱蓄熱体、空調装置等の蓄熱体などとして、パラフィン、ナフタリン等の蓄熱材の融解、凝固の相変化時に蓄熱、放出される潜熱を用いるものが広く知られている。
【0003】このような蓄熱材をシェル内の空間に充填した蓄熱体hにあっては、従来、図6に示すように、蓄熱材aの相変化時の体積変化量、特に体積膨張量を見込んでシェルb内に空間cを残してこの蓄熱材aが充填されている。
【0004】又蓄熱材aの体積膨張量を、シェルb内の空間cと、シェルb自体の同心円的な膨張とによって吸収する方法も提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら前述した従来のものは、何れも蓄熱材aの体積膨張によるシェルbの破損を防ぐため、前記空間cを残してシェルbに蓄熱材aを充填している。従って、蓄熱材aの正味の量を減じる結果となり、蓄熱密度が低下し、必要な蓄熱又は放熱量を確保するために、蓄熱体hの数を増すなどして蓄熱槽の大型化を招くことがある。
【0006】又前記シェルbは、球状をなすため、該シェルbの表面積も球面の面積として定められ、大巾な表面積の増加が見込めず、熱交換性能を上昇させることにも限界がある。
【0007】本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、シェルに、蓄熱材の相変化に伴う体積変化量を変形により吸収するための凹又は凸の変形部を設けることを基本として、シェル内に空間を残さずに蓄熱材を充填してもこのシェルの変形によって該蓄熱材の体積変化量を吸収でき、蓄熱密度を高めうるとともに、前記凹又は凸の変形部によって表面積を増すことができ、熱交換性能を向上しうる蓄熱体の提供を目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するために本発明の蓄熱体は、略球状のシェルと、このシェル内の空間に実質的に隙間なく充填されかつ融解、凝固の相変化をする蓄熱材とからなるとともに、前記シェルは、略球状の基体殻部と、前記蓄熱材の相変化に伴う体積変化量を変形により吸収するために設けられ前記基体殻部に対して凹又は凸をなす変形部とからなり、かつこのシェルは、その肉厚が全ての部位において略同厚であり、しかも前記変形部は、基体殻部の中心を含む平面上で全周に亘り設けられる第1の伸縮部分を有する変形部と、基体殻部の中心を含む平面上で略全周に亘り前記第1の伸縮部分と直角に設けられた第2の伸縮部分を有する変形部とからなることを特徴とする。
【0009】なお前記シェルの肉厚を、その全ての部位において略同厚とすることが、蓄熱材の体積膨張時にシェルに局部的に力がかからず、シェルの破損を防ぎうる点で望ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】図1〜3において本発明の蓄熱体1は、略球状のシェル2と、このシェル2の空間に実質的に隙間なく充填されかつ融解、凝固の相変化をする蓄熱材3とからなる。
【0011】前記シェル2は、ゴム、プラスチック、金属などから形成されるとともに、略球状の基体殻部4と、この基部殻部4に対して凹又は凸をなす変形部5とからなる。
【0012】前記変形部5は、本実施形態では図1に示すように、同図において縦方向略中央部で基体殻部4の全周に亘り連続して水平に設けられかつ該基体殻部4に対して凸をなすことにより蛇腹状に縦方向に伸縮する例えば3条の第1の伸縮部分10…と、基体殻部4の横方向略中央部でこの基体殻部4の略全周に亘り前記第1の伸縮部分10と直角に設けられかつ該基体殻部4に対して凸をなすことにより横方向に伸縮する第2の伸縮部分11とからなる。
【0013】又前記シェル2は、その肉厚が前記変形部5を含めて全ての部位において略同厚に形成されており、これによって局部的な力の集中を防ぎ、均一性を増して耐久性を高めている。
【0014】前記蓄熱材3には、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、水酸化ナトリウム、塩化カルシウム6水塩、炭酸ナトリウム10水塩、硫酸ナトリウム10水塩等の水溶液、水、パラフィン、ナフタリン、エチレンジアミンなどを、利用温度範囲で凝固温度を考慮して用いる。
【0015】又前記蓄熱材3は、前記シェル2内の空間に実質的に隙間なく、即ち空間を実質的に残すことなく充填されるが、ここで「実質的に隙間なく」とは、シェル2内の容積の1%以下程度の空間を残すことも許容するものとし、完全に100%、シェル2内の空間を蓄熱材3で満たさなくてもよいとする。シェル2内の容積の1%以下程度の空間を残しても、正味の蓄熱材3の量は殆ど減じることはない。なお蓄熱材3を、シェル2内の空間にその100%、密に充填するのが、蓄熱密度を最大限に高めうるため最も好ましい。
【0016】蓄熱材3が融解又は凝固の相変化をして、例えば体積を増すと、図2に示すように前記変形部5の第1、第2の伸縮部分10、11が伸びて、蓄熱材3の体積変化量を、この伸び変形によるシェル2内の空間の体積増加によって吸収しうる。このとき前記基体殻部4も、ある程度、膨張可能としうるようにその材料を選定しておくことが、蓄熱材3の相変化に伴う体積変化を確実に吸収しうる上で望ましい。
【0017】又蓄熱材3が相変化に伴って体積を減じると、図3に示すように前記変形部5の第1、第2の伸縮部分10、11が縮んで、該蓄熱材3の体積変化量を吸収できる。
【0018】このように基体殻部4に対して凸をなす変形部5を設けたため、シェル2の表面積を増大でき、シェル2の外側を流れる熱流体Aとの熱交換効率を向上しうるとともに、該熱流体Aの流れが変形部5によって乱れるため、乱流を発生させて伝熱効果を高め、かつ熱貫流率を増大しうる。
【0019】なお変形部5は、基体殻部4に対して凹に設けることもでき、さらに凹凸双方を形成して設けることも出来る。
【0020】又変形部5は、図4に示すように、同図において略球状の基体殻部4の上の極から下の極まで連続してのびかつ横方向に伸縮しうる複数の凸条部分12…から形成しうるなど、蓄熱材3の相変化に伴う体積変化量を変形により吸収しうるものであれば、種々の形状のものを採用しうる。図5では、変形部5が突起であるものを示す。
【0021】なお蓄熱材3の種類により相変化に伴う体積変化量(率)が異なるため、変形部5の数、大きさ、その凹凸の深さ等を使用する蓄熱材3の種類に応じて適宜設定する。
【0022】
【発明の効果】叙上の如く本発明の蓄熱体は、内部の空間に蓄熱材が実質的に隙間なく充填されるシェルを、略球状の基体殻部と、前記蓄熱材の相変化に伴う体積変化量を変形により吸収するために設けられ前記基体殻部に対して凹又は凸をなす変形部とから形成している。従って、蓄熱材がシェル内の空間に実質的に隙間なく充填されているにもかかわらず、前記変形部によってこの蓄熱材の相変化に伴う体積膨張を吸収しうるとともに、シェル内に空間を実質的に残さないため、蓄熱材の正味の量を減じる必要がなく、蓄熱又は放熱量を確実に確保でき、蓄熱密度を高め、コンパクトな蓄熱槽を形成することが可能となる。
【0023】さらに前記変形部は、基体殻体に対して凹又は凸をなすため、シェルの表面積をこの変形部によって増すことができることに加え、シェルの外側の熱流体の流れを凹又は凸の変形部で乱すことができ、伝熱面積の増加及び熱貫流率の増大を図ることが可能となり、熱交換性能を向上しうる。
【0024】又、シェルの肉厚を全ての部位において略同厚としたときには、蓄熱材の相変化に伴う体積変化、特に体積膨張時にシェルに局部的に力が集中してかかることがなく、力の負担を均一化し、シェルの破損を防止しうる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の一例を、右半分を断面で示す正面図である。
【図2】その作用を説明するための断面図である。
【図3】その作用を説明するための断面図である。
【図4】実施の他の形態を、右半分を断面で示す正面図である。
【図5】変形部の他の例を右半分を断面で示す正面図である。
【図6】従来の技術を説明するための断面図である。
【符号の説明】
2 シェル
3 蓄熱材
4 基体殻部
5 変形部

【特許請求の範囲】
【請求項1】略球状のシェルと、このシェル内の空間に実質的に隙間なく充填されかつ融解、凝固の相変化をする蓄熱材とからなるとともに、前記シェルは、略球状の基体殻部と、前記蓄熱材の相変化に伴う体積変化量を変形により吸収するために設けられ前記基体殻部に対して凹又は凸をなす変形部とからなり、かつこのシェルは、その肉厚が全ての部位において略同厚であり、しかも前記変形部は、基体殻部の中心を含む平面上で全周に亘り設けられる第1の伸縮部分を有する変形部と、基体殻部の中心を含む平面上で略全周に亘り前記第1の伸縮部分と直角に設けられた第2の伸縮部分を有する変形部とからなることを特徴とする蓄熱体。
【請求項2】第1の伸縮部分を有する変形部の前記第1の伸縮部分の本数は、第2の伸縮部分を有する変形部の前記第2の伸縮部分よりも多いことを特徴とする請求項記載の蓄熱体。

【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【特許番号】第2770922号
【登録日】平成10年(1998)4月17日
【発行日】平成10年(1998)7月2日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−312649
【出願日】平成7年(1995)11月30日
【公開番号】特開平9−152286
【公開日】平成9年(1997)6月10日
【審査請求日】平成7年(1995)11月30日
【前置審査】 前置審査
【出願人】(000004673)ナショナル住宅産業株式会社 (319)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【参考文献】
【文献】実開 平2−147676(JP,U)