説明

蓄熱式床冷暖房システム及びそれを用いた床冷暖房方法

【課題】熱伝導性にも蓄熱性にも優れる蓄熱式床冷暖房システム及び当該システムを用いた床冷暖房方法を提供する。
【解決手段】床下に設けられた蓄熱層と、蓄熱層を冷却又は加熱する熱源と、蓄熱層の空隙に水分を供給する水分供給手段とを備える、蓄熱式床冷暖房システムとし、当該システムを用いて、水分供給手段から蓄熱層に水分を供給し、蓄熱層中の水分飽和率を増大させ、水分飽和率を増大させた蓄熱層を前記熱源によって冷却又は加熱し、蓄熱層中に熱エネルギーを蓄え、蓄熱層中に蓄えられた熱エネルギーを床まで伝熱させることによって床を冷却又は加熱するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住居等の床下土壌(基礎地盤)に設置される蓄熱式床冷暖房システムに関する。
【背景技術】
【0002】
居室内の温度を制御するため、いわゆるエアコンが広く使用されているが、人によってはエアコンからの送風を不快に感じる場合も少なくなく、またエアコンの使用によって居室内が過度に乾燥する場合もあり、エアコンに替わる心地良い冷暖房システムの需要が増大している。送風が必要ない冷暖房システムとしては、例えば、流水循環用の配管を備えた冷暖房パネルを床の直下に設置し、当該配管内に冷水や温水を循環させることによって、冷暖房パネル上方の床板温度を冷却又は加熱する床冷暖房システムが知られている(特許文献1)。或いは、流通パイプに替えて床下にヒータを設ける形態も知られている(特許文献2、3)。しかしながら、床の直下に冷暖房パネルを設けると、冷暖房パネルの配管直近の床部分のみが冷却又は加熱され、床温度にムラが出やすい。床温度のムラを低減するため密に循環パイプを設けることも考えられるが、施工性やメンテナンス性等に劣る虞がある。そのため、床全体を均一に冷却又は加熱することが可能で、一層の心地良さを感じることができる床冷暖房システムが求められている。
【0003】
床全体を均一に冷却又は加熱することが可能な床冷暖房システムとして、床下に砂等を含む蓄熱層を設け、熱源によって蓄熱層を冷却又は加熱し、蓄熱層全体に熱エネルギーを蓄え、当該熱エネルギーを対流等の伝熱によって床に伝達することで、床を冷却又は加熱するシステムが提案されている(特許文献4、5)。或いは、床暖房パネルと蓄熱材とを併用した床暖房システムも提案されている(特許文献6)。このように蓄熱層からの伝熱を利用した蓄熱式床冷暖房システムによれば、床を均一かつ自然な温度に冷却又は加熱することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−249497号公報
【特許文献2】特開2009−281690号公報
【特許文献3】特開2010−255927号公報
【特許文献4】特許第3049536号
【特許文献5】特許第4694168号
【特許文献6】特開2009−103352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、蓄熱式床冷暖房システムによれば、床をムラなく自然な温度で冷却又は加熱でき、送風なしで、居室温度を自然な涼しさ又は暖かさに制御することができる。一方、蓄熱式床冷暖房システムの蓄熱層は、効率的且つ充分に蓄熱させる観点から、熱伝導率や比熱が大きく、熱損失が少ない層であることが要求される。従来においては、通常、蓄熱層として砂や砕石を含む層が用いられてきたが、砂や砕石を用いた場合、層内に空隙が多く存在するととなり、これが断熱層となって熱伝導率が低下し、また、空隙を介して対流によって熱が逃げる虞もある。このため、従来においては、例えば、熱伝導率や熱損失の悪影響を無視できるように、熱源としてヒータを用いて蓄熱層を高温に加熱していた。しかしながら、特に省エネが叫ばれる昨今、熱源の稼働は極力抑えることが好ましい。すなわち、蓄熱式床暖房システムにおいて、熱源からの熱を効率的に伝達でき、且つ、伝達された熱を内部に出来るだけ多量に保持可能なシステムが求められている。
【0006】
そこで本発明は、熱伝導性にも蓄熱性にも優れる蓄熱式床冷暖房システム及びそれを用いた床冷暖房方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、蓄熱式床冷暖房システムにおける蓄熱層の熱伝導性及び蓄熱性を向上させることについて鋭意研究を進めた。その結果、蓄熱層に水を含ませることにより、蓄熱層中の空隙(断熱層)が減少し、水そのものが熱伝導性に優れるとともに比熱が大きいことも相まって、蓄熱層の熱伝導性及び蓄熱性が飛躍的に向上することを知見した。また、蓄熱層中の空隙を減少させることにより、空隙を介した熱対流による損失も抑制することが可能となるため、一層蓄熱性を向上させることができることも知見した。従来においては、電気ヒータ等の防水上の観点から、或いは電気ヒータにより高温に加熱されることによって、蓄熱層が乾燥状態とされることが常識であったが、本発明者らは従来常識とは相反する構成を採用することにより本発明を完成させたのである。
【0008】
本発明は上記知見に基づいてなされたものである。すなわち、
第1の本発明は、床下に設けられるとともに空隙を有する蓄熱層と、蓄熱層を冷却又は加熱する熱源と、蓄熱層の空隙に水分を供給する水分供給手段とを備える、蓄熱式床冷暖房システムである。
【0009】
本発明において、「空隙を有する蓄熱層」とは、水が浸透可能な程度の空隙を有する蓄熱層を意味し、その材質は特に限定されるものではない。ただし、後述するように砂や砕石を用いて蓄熱層を形成することが好ましい。「蓄熱層を冷却又は加熱する熱源」とは、蓄熱層を冷却するためのマイナスの熱エネルギー、又は、蓄熱層を加熱するためのプラスの熱エネルギーを供給する熱源を意味する。例えば、蓄熱層と接触するように配管を設け、配管内に冷水又は温水を循環させることにより、配管表面からの伝熱によって、蓄熱層を冷却又は加熱することができる。或いは、加熱の際は電気ヒータを用いてもよいが、後述するように、防水性や設備コストの観点からは、冷水又は温水を循環させて熱源とすることが好ましい。「蓄熱層に水分を供給する水分供給手段」とは、蓄熱層に水分を供給して蓄熱層に水を含ませる手段を意味する。例えば、蓄熱層中に、側面に複数の穴を設けた配管を埋設し、配管内に水を流通させ、側面の穴から蓄熱層内部に水分を散水することで、蓄熱層に水を含ませることができる。
【0010】
第1の本発明においては、特に、ヒートポンプから循環手段を介して蓄熱層内に冷水又は温水を循環させて熱源とすることが好ましい。「循環手段」としては、例えば、冷水や温水を蓄熱層内で循環させる配管等を用いることができる。このとき、配管は熱伝導率の高い材料からなるものを用いることが好ましい。従来とは異なり、本発明では蓄熱層に水分を供給可能とし、蓄熱層に水を含ませて熱伝導性及び蓄熱性を飛躍的に向上させることができるので、電気ヒータのような高温熱源等を用いずとも十分な蓄熱が可能である。また、ヒートポンプを用いることで、電気ヒータを用いた場合に比して、設備コストやエネルギーコストを抑えることもできる。
【0011】
第1の本発明において、蓄熱層が砂又は砕石を含む層であることが好ましい。これにより施工コスト等を抑えることができ、また、本発明のシステムによる効果をより顕著なものとすることができる。
【0012】
第1の本発明において、蓄熱層の下方に断熱層を備え、蓄熱層と断熱層との間に、断熱層への水の浸入を防ぐための防水手段が設けられていることが好ましい。「断熱層」としては、例えば、空隙を有する乾燥砂層、或いは、断熱材を敷設した層が挙げられる。断熱層により蓄熱層から下方への伝熱を抑制することができ、蓄熱層中の熱エネルギーを、より効率的に上方(すなわち床)へと伝熱させることができる。
【0013】
第1の本発明において、床板と蓄熱層との間にコンクリート層を備えることが好ましい。また、床板とコンクリート層との間に空間が設けられていると尚良い。これにより床下空間を介して自然な温度で床を冷却又は加熱することができ、一層心地の良い床冷暖房システムとすることができる。
【0014】
特に、床下に空間を設ける場合、空間に存在する気体を対流させる対流手段をさらに備えると良い。これにより、空間を介して、蓄熱層から床への熱対流を促すことができる。尚、「対流手段」としては、例えば公知のファンを用いればよい。
【0015】
第2の本発明は、第1の本発明に係る蓄熱式床冷暖房システムを用いた床冷暖房方法であって、水分供給手段から蓄熱層の空隙に水分を供給し、蓄熱層中の水分飽和率を増大させる工程と、水分飽和率を増大させた蓄熱層を熱源によって冷却又は加熱し、蓄熱層に熱エネルギーを蓄える工程と、蓄熱層に蓄えられた熱エネルギーを床まで伝熱させることによって床を冷却又は加熱する工程とを備える、床冷暖房方法である。
【0016】
本発明において「蓄熱層に蓄えられた熱エネルギーを床まで伝熱させる」とは、蓄熱層に相対的にマイナスの熱エネルギーが蓄えられている場合(すなわち、蓄熱層が冷却されている場合)、当該マイナスの熱エネルギーを床に供給する(すなわち、吸熱によって床を冷却する)ことを意味し、蓄熱層に相対的にプラスの熱エネルギーが蓄えられている場合(すなわち、蓄熱層が加熱されている場合)、当該プラスの熱エネルギーを床に供給する(すなわち、加熱によって床を温める)ことを意味する。
【0017】
第2の本発明において、蓄熱層の水分飽和率を80%以上とすることが好ましい。「水分飽和率」とは、絶乾状態における蓄熱層の空隙体積に対する、含水させた水分の体積を意味し、以下の式により定義される。
水分飽和率(%)=(入水量(mL)/蓄熱層の空隙体積(cm))×100
例えば、絶乾状態で100Lの空隙を有する蓄熱層に対して、80Lの水分を入水させた場合、水分飽和率は80%となる。水分飽和率を所定以上とすることで、蓄熱層の熱伝導性及び蓄熱性を一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、水分供給手段によって蓄熱層の水分飽和率を増大させることが可能とされている。蓄熱層の水分飽和率を増大させることによって、蓄熱層の熱伝導性や蓄熱性が飛躍的に向上する。すなわち、本発明によれば、熱伝導性にも蓄熱性にも優れる蓄熱式床冷暖房システム及びそれを用いた床冷暖房方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】一実施形態に係る本発明の蓄熱式床冷暖房システムに設けられる層構成を示す概略図である。
【図2】一実施形態に係る本発明の蓄熱式床冷暖房システムに係る蓄熱層の構成を説明するための図である。
【図3】その他の実施形態に係る本発明の蓄熱式床冷暖房システムに係る蓄熱層の構成を説明するための図である。
【図4】一実施形態に係る本発明の蓄熱式床冷暖房システムを施工する方法を説明するためのフローチャートである。
【図5】一実施形態に係る本発明の蓄熱式床冷暖房システムを施工する方法を説明するための概略図である。
【図6】一実施形態に係る本発明の蓄熱式床冷暖房システムを施工する方法を説明するための概略図である。
【図7】一実施形態に係る本発明の蓄熱式床冷暖房システムを施工する方法を説明するための概略図である。
【図8】一実施形態に係る本発明の蓄熱式床冷暖房システムを施工する方法を説明するための概略図である。
【図9】一実施形態に係る本発明の蓄熱式床冷暖房システムを施工する方法を説明するための概略図である。
【図10】一実施形態に係る本発明の蓄熱式床冷暖房システムを施工する方法を説明するための概略図である。
【図11】蓄熱層の熱伝導率を測定するためのシステムを概略的に示す図である。
【図12】蓄熱層の水分飽和率と熱伝導率との関係を示すデータである。
【図13】蓄熱層の比熱を測定するためのシステムを概略的に示す図である。
【図14】蓄熱層の水分飽和率と比熱との関係を示すデータである。
【図15】蓄熱層の水分飽和率と熱損失との関係を示すデータである。
【図16】実証実験に用いた蓄熱式床冷暖房システムの構造を示す概略図である。
【図17】実証実験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<蓄熱式床冷暖房システム>
本発明に係る蓄熱式床冷暖房システムは、床下に設けられるとともに空隙を有する蓄熱層と、蓄熱層を冷却又は加熱する熱源と、蓄熱層の空隙に水分を供給する水分供給手段とを備えている。
【0021】
図1に一実施形態に係る本発明の蓄熱式床冷暖房システム100の構成を概略的に示す。図1に示すように、蓄熱式床冷暖房システム100は、布基礎の区切内に、砂層11及び砕石層12を有する蓄熱層10と、砂層11に埋設された熱源20と、砕石層12に埋設された水分供給手段30と、蓄熱層10の下方に設けられた乾燥砂層40と、蓄熱層10の上方に設けられたコンクリート層50とを備えている。コンクリート層50の上方には根太70や床80が設けられており、コンクリート層50と床80との間には、空間60が設けられている。
【0022】
(蓄熱層10)
蓄熱層10は、水分供給手段30によって含水される層であり、且つ、熱源20からの熱エネルギーを蓄える層である。図2、3に蓄熱層10(10a、10b)の各層構成を概略的に示す。図1〜3に示した蓄熱層10においては、下層側が砂層11とされ、上層側が砕石層12とされている。蓄熱層10は、砂や砕石間に空隙が存在し、当該空隙に水分供給手段30から水分が供給される。
【0023】
床冷暖房システム100の稼働時は、水分供給手段30から水分を供給することによって、蓄熱層10の水分飽和率を好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上とする。蓄熱層10の水分飽和率を所定以上とすることにより、蓄熱層10の熱伝導性及び蓄熱性を一層向上させることができる。水分飽和率の上限は100%である。尚、蓄熱層10から溢れ出すほど水分を供給してしまうと、溢れ出た水分によって床下環境が悪化する虞がある。
【0024】
蓄熱層10の層厚については好ましくは250〜400mm、より好ましくは300〜350mmとする。蓄熱層10が薄すぎると充分に蓄熱することができず、逆に厚すぎると熱損失が大きくなる。
【0025】
図1〜3に示すように、蓄熱層10は、下層側を砂層11とし、上層側を砕石層12とし、且つ、後述する熱源20を砂層11に埋設することによって、熱源20を細かな砂で適切に保護でき、砕石層12の砕石によって熱源20が破損することを防止可能である。また、下層側を砂層11とし、上層側を砕石層12とすることで、施工性に優れ、低コストで充分な強度を有する蓄熱層10とすることができる。蓄熱層10を砂層11と砕石層12とで構成する場合、砂層に含まれる砂の粒子径は0.1〜2mm程度のものを用いればよく、砕石層に含まれる砕石は0.1〜25mm程度の大きさのものを用いればよい。また、砂層11の層厚は、システムの規模にもよるが、例えば140〜160mmとすることができ、砕石層の層厚は例えば140〜160mmとすることができる。
【0026】
ただし、本発明に係る蓄熱層10の層構成は、上記構成に限定されるものではない。蓄熱層10は水が浸透可能な程度の空隙を有する層であればよく、砂層のみの1層構成、砕石層のみの1層構成のほか、砂と砕石とが混じった砂利を含む層や、砂や砕石以外のその他固体粒子或いは塊を含む層であってもよい。蓄熱層10において、実績率は好ましくは60〜80%、より好ましくは65〜75%である。「実績率」とは単位体積あたりに占める固形分の割合であり、例えば、実績率60%の砂層においては、層全体体積100Lに対して、砂が60L、空隙が40Lを占める。
【0027】
また、蓄熱式床冷暖房システム100の使用時において、蓄熱層10の水分飽和率を一定値以上に制御するため、蓄熱層10の水分飽和率をセンサによって検知可能とすると尚好ましい。センサとしては水位センサ等の公知のものを使用可能である。センサの設置箇所についても、蓄熱層10の水分飽和率を測定・検知可能な箇所であればいずれでもよい。蓄熱層10の水分飽和率が閾値となった場合にセンサが反応するように(例えば、蓄熱層10の水分飽和率を100%に保つ場合は蓄熱層10の上面に水が浸み出る限界となった時にセンサが反応するように)、センサを蓄熱層10の内部や上面に設置することができる。もちろん、用いるセンサの種類に応じて、蓄熱層10の外部から検知することも可能である。
【0028】
(熱源20)
熱源20は蓄熱層10に熱エネルギーを供給する手段である。熱源20としては公知の熱源を用いることができる。図2、3に蓄熱層10に埋設される熱源20の形態(20a、20b)を概略的に示すが、特に本発明では、図2に示すように、蓄熱層10内に配管20aを埋設し、冷水又は温水を管内に循環させることによって、配管20aを介して冷水又は温水の熱エネルギーを蓄熱層10に供給する形態の熱源を用いることが好ましい。この場合、冷水又は温水はヒートポンプを用いて省エネルギー且つ低コストで得ることができる。配管20aの材質は、管内の冷水又は温水の熱エネルギーを蓄熱層10に供給可能なものであれば特に限定されるものではないが、熱伝導性の良好な材質からなるパイプを用いることが好ましい。例えば、金属管のほか、樹脂管の表面を金属箔で覆ったもの等を用いると良い。配管20aの大きさについては、特に限定されるものではない。例えば、内径10〜15mm程度のものを用いることができる。配管20a内に循環させる水の温度は、蓄熱層10の厚みや冷暖房の設定温度にもよるが、例えば、冷房時は10〜15℃、暖房時は45〜50℃程度で充分である。もちろん、必要に応じて、10℃未満の冷水或いは50℃超の温水を循環させてもよい。従来の蓄熱層とは異なり、本発明では水分供給手段30から蓄熱層10に水を供給可能とし、蓄熱層10の水分飽和率を増大させて熱伝導性及び蓄熱性を飛躍的に向上させることができるので、例えば暖房時、電気ヒータのような高温熱源を用いずとも十分な蓄熱が可能である。また、ヒートポンプを用いることで、電気ヒータを用いた場合に比して、設備コストやエネルギーコストを抑えることもできる。
【0029】
ただし、本発明は、熱源20として電気ヒータを除外するものではない。図3に示すように、蓄熱層10中に電気ヒータ20b、20b、…を埋設してもよい。この場合、電気ヒータ20bには防水性を付与する必要がある。防水付与の方法としては公知の方法を用いればよい。本発明では、蓄熱層10を含水させて熱伝導性及び蓄熱性を飛躍的に向上させることにより、電気ヒータの加熱温度を従来よりも低温としても、蓄熱層10内に効率的且つ充分に蓄熱することができる。この場合の加熱温度は、上記の温水と同程度の温度とすればよい。
【0030】
また、図1〜3では、熱源20が蓄熱層10内に埋設される形態を示したが、本発明は当該形態に限定されるものではない。熱源は、蓄熱層10に熱エネルギーを供給可能なものであればどのような形態でもよく、例えば、蓄熱層10の側部周縁或いは底部に上記した配管20aや電気ヒータ20bを設け、蓄熱層10の底部や側部から熱エネルギーを供給可能としてもよい。ただし、施工性の観点や蓄熱層10内部にまで均一に熱エネルギーを供給可能とする観点からは、図1〜3に示したように、熱源20が蓄熱層10に埋設された形態とすることが好ましい。
【0031】
(水分供給手段30)
水分供給手段30は蓄熱層10に水分を供給する手段である。例えば、図2、3に示すように、側面に複数の穴31、31、…が設けられた配管30を蓄熱層10に埋設し、蓄熱層10の外部から配管30内に水を供給することで、配管側面の穴31、31、…から蓄熱層10へと水を散水可能とした形態が好ましい。配管30の材質、大きさは特に限定されるものではない。例えば、内径30〜50mm程度の樹脂管或いは金属管を用いることが可能である。尚、蓄熱層10全体に均一に水分を供給する観点から、蓄熱層10内に配管30を複数埋設してもよい。供給する水源については特に限定されるものではなく、例えば、蓄熱層の外部に雨水を貯水するタンクを設け、当該タンクから配管30へと適宜雨水を流通可能なようにしておくと、資源を有効利用でき、一層環境に優しい床冷暖房システム100とすることができる。
【0032】
図1〜3では、水分供給手段30が蓄熱層10内に埋設された形態を示したが、本発明は当該形態に限定されるものではない。水分供給手段は、蓄熱層10に水分を供給して蓄熱層10の水分飽和率を増大させることができるものであればよく、例えば、蓄熱層10の側部周縁を覆うように散水パイプ等を設け、蓄熱層10の側部から水分を供給可能としてもよい。ただし、施工性の観点、及び、蓄熱層10内部にまで均一に水分を供給可能とする観点からは、図1〜3に示したように、水分供給手段30が蓄熱層10に埋設された形態とすることが好ましい。
【0033】
また、図1〜3では、熱源20の上方に水分供給手段30が設けられた形態を示したが、本発明は当該形態に限定されるものではない。熱源20の下方に水分供給手段30が設けられてもよい。ただし、蓄熱層10の上部から下部にかけて容易に水分を供給でき、且つ、熱源20周辺の蓄熱層10を確実に含水させ得る観点からは、熱源20よりも上方に水分供給手段30を設けることが好ましい。
【0034】
(乾燥砂層40)
乾燥砂層40は、蓄熱層10の下方に設けられた層である。乾燥砂層40は空隙を有しており、当該空隙が断熱層として機能する。すなわち、蓄熱層10の下方に乾燥砂層40を設けることにより、蓄熱層10からの熱が下方に逃げることを抑制することができ、蓄熱層10に蓄えられた熱を上方へと効率的に伝熱させることができる。
【0035】
図1に示す蓄熱式床冷暖房システム100においては、蓄熱層10から乾燥砂層40への水の浸入を防止するため、蓄熱層10と乾燥砂層40との間に防水シート90bを設置している。また、乾燥砂層10の下方の土壌から乾燥砂層40への水の浸入を防止するため、乾燥砂層10の下面側にも防水シート90aを設置している。このようにすることで、乾燥砂層40の断熱性を一層向上させることができる。防水シート90は公知のものを用いればよい。
【0036】
乾燥砂層40の層厚については特に限定されるものではない。例えば80〜120mm程度とすれば、断熱層として充分に機能させることができる。
【0037】
(コンクリート層50)
コンクリート層50は、蓄熱層10の上方に設けられた層である。コンクリート層50はコンクリートが密に敷設されてなり、熱伝導性や熱放射性に優れている。すなわち、蓄熱層10に蓄えられた熱エネルギーを、コンクリート層50の表面から効率的に伝熱させることができる。コンクリート層50の層厚については特に限定されるものではない。例えば80〜100mm程度とすることが好ましい。コンクリート層50が薄すぎると蓄熱層10が蓄熱性能に劣る虞があり、一方、コンクリート層50が厚すぎると、コンクリート層50の表面の温度が低くなり過ぎる虞がある。80〜100mm程度の厚さであれば、充分な強度と充分な伝熱・蓄熱性とを両立できる。
【0038】
尚、図1の蓄熱式床冷暖房システム100においては、蓄熱層10とコンクリート層50との間に防水シート90cが設けられている。これにより、蓄熱層10からコンクリート層50の上面へと水が浸み出すことを防ぐことができる。
【0039】
(空間60、根太70、床80)
コンクリート層50の上方には根太70及び当該根太70に支えられるように床80が設置されている。コンクリート層50と床80との間には、空間60が設けられており、これにより床下の通気性を向上させることができる。また、空間60を床下収納・保管場所としても利用することができる。コンクリート層50上面から床80下面までの高さは、特に限定されるものではなく、一般的な建築条件の床下空間高さを採用できる。例えば、450〜500mm程度とすればよい。
【0040】
尚、空間60における対流を促すため、空間60にファン(不図示)等の対流手段を設けることが好ましい。これにより、コンクリート層50からの熱伝達が促進され、効率的に床80を冷却又は加熱することができる。特に、本発明者らが鋭意研究したところ、コンクリート層50から床80への伝熱は、そのほとんどが対流による熱伝達であり、熱放射の割合は小さい。そのため、効率的に床80を冷却又は加熱するためには、対流による熱伝達を促すことが重要となる。
【0041】
ただし、熱放射を増大させるために、例えば、コンクリート層50の表面を黒く塗装したり、或いは、熱放射を促進するタイル等をコンクリート層50の表面に設置してもよい。
【0042】
蓄熱式床冷暖房システム100は上記のような構成を備えてなり、蓄熱層10に水分を供給可能な形態することで、熱伝導性にも蓄熱性にも優れる蓄熱式床冷暖房システムとすることができる。
【0043】
<蓄熱式床冷暖房システムを用いた床冷暖房方法>
蓄熱式床冷暖房システム100を用いることで、例えば下記のように床80を冷暖房可能である。すなわち、水分供給手段30から蓄熱層10の空隙に水分を供給し、蓄熱層10中の水分飽和率を増大させる工程と、水分飽和率を増大させた蓄熱層10を熱源20によって冷却又は加熱し、蓄熱層10に熱エネルギーを蓄える工程と、蓄熱層10に蓄えられた熱エネルギーを床80まで伝熱させることによって床を冷却又は加熱する工程とによって、床80を冷暖房可能である。特に図1に示した形態では、蓄熱層10にて充分に蓄えられたマイナスの熱エネルギー又はプラスの熱エネルギーがコンクリート層50に伝熱され、コンクリート層50の表面から対流による熱伝達或いは輻射等による熱放射によって空間60を介して床80まで伝熱され、床80が冷却又は加熱される。ここで蓄熱式床冷暖房システム100では、蓄熱層10の水分飽和率を増大させることによって、蓄熱層10の熱伝導性及び蓄熱性を飛躍的に向上させているため、熱源20を少々稼働させるだけで、蓄熱層10に充分な熱エネルギーを蓄えることができ、蓄熱層10から長時間に亘って熱エネルギーを供給することができる。すなわち、蓄熱式床冷暖房システム100によれば、例えば、夜間に熱源20を少々稼働させ、蓄熱層10に熱エネルギーを蓄えておくことで、昼間の間中は熱源20を稼働させずとも、蓄熱層10に蓄えられた熱エネルギーを利用することで、床80の冷暖房が可能となる。
【0044】
<蓄熱式床冷暖房システムの施工方法>
図4に、本発明に係る蓄熱式床冷暖房システム100の施工方法の一例(施工方法S10)を示す。また、図5〜図10に、施工方法の各工程における蓄熱式床暖房システムの施工経過を概略的に示す。図5〜図10では、熱源20として、ヒートポンプからの冷水又は温水を用いる場合について示している。
【0045】
図4に示すように、施工方法S10は、床下となる基礎土壌の上に乾燥砂層40を形成する工程S1と、乾燥砂層40の上に熱源20を設置する工程S2と、設置した熱源20に砂を被せ、熱源20を埋設する工程S3と、砂層11の上に水分供給手段30を設置する工程S4と、設置した水分供給手段30に砕石を被せ、水分供給手段30を埋設する工程S5と、砕石層12の上にコンクリート層50を形成する工程S6とを有している。
【0046】
工程S1は、基礎土壌の上に乾燥砂層40を形成する工程である。例えば図5に示すように、布基礎で区切られた土壌の上に防水シート90aを敷き、この上に乾燥砂を平らに敷設することによって、乾燥砂層40を形成することができる。当該乾燥砂層40の上面には、さらに防水シート90bを敷くことにより、後述の蓄熱層10からの水の浸入を防ぐことができる。
【0047】
工程S2は、乾燥砂層40の上に熱源20を設置する工程である。例えば、図6に示すように、熱源20としてヒートポンプからの冷水又は温水を用いる場合、乾燥砂層40上に配管20aを設置する。このとき、配管20aを複数の支持板21、21、…上に設置し、防水シート90bと配管20aとの間に所定の隙間を設けることで、工程S3において配管20aの下にも砂が敷設されるようにする。配管20aのピッチについては、布基礎で区切られた土壌面積や配管20aの太さ等により適宜決定すればよい。配管20aは布基礎の外部のヒートポンプにまで延びており(不図示)、内部循環水を冷却又は加熱可能とされている。
【0048】
工程S3は、設置した熱源20(配管20a)に砂を被せ、熱源20(配管20a)を埋設する工程である。例えば、図7に示すように、配管20aが充分隠れるまで砂を敷設する。特に、後述の砕石層12を形成した後、砕石により配管20aが破損することがないように、配管20aの上方には充分な量(例えば、高さ80〜120mm)の砂を敷設し、配管20を保護することが好ましい。砂層11の厚みは、上述の通り、例えば、140〜160mmとすることができる。
【0049】
工程S4は、敷設した砂層11の上に水分供給手段30を設置する工程である。例えば、図8に示すように、散水のための配管30を砂層11の上方に設置する。配管30は布基礎から外部にまで延びており(不図示)、外部からの水を管内に流通可能とされている。配管30の固定については、特に限定されるものではない。尚、後述の砕石層12を形成した際、配管30が砕石層12の上部に配置されるようにすると、蓄熱層10の上部から下部にかけて容易に水分を供給可能な形態とすることができ好ましい。
【0050】
工程S5は、設置した水分供給手段30に砕石を被せ、水分供給手段30を埋設する工程である。例えば、図9に示すように、配管30が隠れるまで砕石を敷設する。砕石層12の厚みについては、上述の通り、例えば140〜160mmとすることができる。砕石層12の上面には、防水のため防水シート90cを敷いてもよい。
【0051】
工程S6は、砕石層12の上にコンクリート層50を形成する工程である。コンクリート層50は、従来公知の方法で形成でき、布基礎の枠内にコンクリートを流し込んで固めればよい(図10)。
【0052】
その後は、通常の施工方法によって、布基礎の上に土台や根太70を設置し、コンクリート層50の上方に空間60が設けられるようにして床80を設置すればよい。
【0053】
尚、上記の施工方法S10はあくまでも一例である。本発明に係る蓄熱式床冷暖房システムを適切に施工可能であれば、工程順序等は適宜変更可能である。また、砕石層12を形成したのち、砕石層12表面から蓄熱層10を固める工程を備えていてもよい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により、本発明に係る蓄熱式床冷暖房システムについてさらに詳述するが、本発明は以下の実施例に記載された具体的な形態に限定されるものではない。
【0055】
砂(天然砂)又は砕石を用いて砂層又は砕石層を形成し、各層における熱伝導特性、蓄熱特性を評価した。用いた砂の物性値を下記表1に示す。また、砕石としては秋田県大仙市西木産安山岩を用いた。
【0056】
【表1】

【0057】
<蓄熱層の水分飽和率と熱伝導率との関係>
熱伝導率の測定には図11に示すような測定システムを用いた。すなわち、物質に流れる熱流速や温度などを測定するデータローガー、熱流センサを用い、試料の部分に砂や砕石を設置し、ヒータの熱を逃さないように断熱材で囲み、上方向のみに伝熱させるようにする。ヒータから出た熱流速は試料を通り水に貯められる。この熱流速と温度とを熱流センサで測定し、一定になった値で熱伝導率を算定した。試料中の水分飽和率を変化させ、各水分飽和率における熱伝導率をそれぞれ算定した。
【0058】
図12(A)に砂層における水分飽和率と熱伝導率との関係を、図12(B)に砕石層における水分飽和率と熱伝導率との関係を示す。砕石層については、実績率60%の場合と実績率70%の場合との二通りの条件にて測定を行った。
【0059】
図12(A)、(B)から明らかなように、砂層、砕石層ともに水分飽和率を増大させることで、熱伝導率が飛躍的に増大している。具体的には、絶乾状態と比較して、水分飽和率を100%とした場合、砂層の場合には約6倍、砕石層の場合には約10倍にまで熱伝導率が増大していることが分かる。すなわち、蓄熱層に水を供給し水分飽和率を増大させることによって、熱伝導率を飛躍的に増大させることができ、少量の熱量を効率的に層全体に伝熱させることが可能となる。
【0060】
<蓄熱層の水分飽和率と比熱との関係>
比熱の測定には図13に示すような測定システムを用いた。すなわち、比熱測定においては熱伝導率測定とは異なり、全体の熱を逃がさず、熱量保存の法則を適用可能な条件とする必要がある。そのため、全体を断熱材で覆い、熱の逃げ道を無くし、熱の移動は試料と水の間でのみ行われるものとした。試料と水の温度変化を測定し、温度が一定になった時の値を用いて比熱を算定した。試料中の水分飽和率を変化させ、各水分飽和率における比熱をそれぞれ算定した。
【0061】
図14(A)に砂層における水分飽和率と比熱との関係を、図14(B)に砕石層における水分飽和率と比熱との関係を示す。尚、砕石層については、実績率70%のものについて測定を行った。
【0062】
図14(A)、(B)から明らかなように、砂層、砕石層ともに水分飽和率を増大させることで、比熱が飛躍的に増大している。具体的には、乾燥状態と比較して、水分飽和率を100%とした場合、砂層の場合には約2倍、砕石層の場合には約1.5倍にまで比熱が増大していることが分かる。すなわち、蓄熱層を含水させることによって、比熱を飛躍的に増大させることができ、熱源からの熱エネルギーを多量に蓄熱することが可能となる。
【0063】
<蓄熱層の水分飽和率と熱損失との関係>
図15に、厚さ20mmの実績率60%の砕石層、厚さ20mmの実績率70%の砕石層それぞれについて、水分飽和率と熱損失との関係を示す。熱損失は、試料の下面の熱流速Q(W/m)と、試料の上面の熱流速Q(W/m)とを比較し、熱流がどれだけ損失しているのかを示すものであり、熱損失=ΔQ/Qにより算出することができる。
【0064】
図15から明らかなように、実績率60%の砕石層の場合、水分飽和率を増大させると熱損失を少しだけ小さくすることができる。一方で、実績率70%の砕石層の場合、水分飽和率を増大させると熱損失が極めて小さくなることが分かる。すなわち、熱損失を一層低減する観点からは、実績率70%の砕石層のほうが実績率60%の砕石層よりも、蓄熱層に適しているといえる。
【0065】
<実証実験>
本発明に係る蓄熱式床冷暖房システムの効果を実証するため、図16に示すようなシステムにより実験を行った。図16の紙面左側が本発明方式であり、紙面右側が比較例としての従来方式である。図16においては、図面が煩雑となることを防ぐため一部構成について符号を省略して示している。本発明方式においては、蓄熱層10中に水分供給手段(散水パイプ)30を埋設し、パイプを介して水分を供給することによって蓄熱層10中の水分飽和率を90%程度に増大させたうえで、蓄熱層10の下層側(砂層11)に埋設した熱源20(20a又は20b)により蓄熱層10を加熱し、蓄熱層10の上面側温度(図16の測定点Aにおける温度)及び下面側温度(図16の測定点Bにおける温度)の変化を測定した。水分飽和率については、施工時(乾燥砂・砕石層)の水分飽和率を0%とし、給水量と、砂・砕石層の空隙体積とを用いて算定したものである。
一方、比較例に係るシステムにおいては、蓄熱層10中に水分供給手段30を設けず、蓄熱層10を絶乾状態とした状態で、蓄熱層10の下層側(砂層11)に埋設した熱源20bにより蓄熱層10を加熱し、蓄熱層10の上面側温度(図16の測定点Cにおける温度)及び下面側温度(図16の測定点Dにおける温度)の変化を測定した。
【0066】
尚、本発明方式においては、配管20a、20a、…内に循環させた温水(温水は不図示のヒートポンプを用いて得た。)を熱源として用いる形態と、電気ヒータ20bを熱源として用いる形態とについて、適宜切り替え可能なようにした。また、本発明方式及び従来方式において、電気ヒータ20bを熱源として用いる場合は、蓄熱層10の上面側温度が35〜40℃で一定となるように電気ヒータ20bのオンオフ制御を行った。
【0067】
9日間に亘る実験結果を図17に示す。第1日目〜第5日目までは、本発明方式側では配管20a、20a、…内に循環させた温水を熱源として用い、従来方式側では電気ヒータ20bを熱源として用いた。図17から明らかなように、従来方式では、蓄熱層10の上面側を25℃前後で推移させるために、蓄熱層10の下層側を熱源20bによって最大55℃まで加熱しなければならないことが分かる。一方、本発明方式においては、蓄熱層10の下層側温度が30℃に満たないにも関わらず、蓄熱層10の上面側温度を25℃前後とすることが可能である。すなわち、実際の蓄熱式床冷暖房システムにおいても、蓄熱層10の水分飽和率を増大させることにより、蓄熱層10の熱伝導率が飛躍的に増大し、且つ、熱損失を低減できた結果、蓄熱層10を少々加熱するだけで、蓄熱層10全体に熱エネルギーを伝達することが可能であることが実証された。
【0068】
第6日目〜第9日目までは、本発明方式側、従来方式側ともに電気ヒータ20bを熱源として用いた。図17から明らかなように、本発明方式側では、電気ヒータ20bによる加熱によって、下層側温度が最大40℃程度となるように加熱できれば、蓄熱層10の上面側温度を27℃前後とすることが可能である。従来方式と比較して、電気ヒータ20bによる加熱温度が低温であっても蓄熱層10全体に均一に熱エネルギーが行き届いていることが分かる。すなわち、熱源20の種類にかかわらず、蓄熱層10の水分飽和率を増大させたことにより、熱伝導率が飛躍的に増大し、且つ、熱損失も低減できた結果、蓄熱層10を少々加熱するだけで、蓄熱層10全体に熱エネルギーを伝達することが可能であることが実証された。
【0069】
また、第6日目と第7日目の2日間において、本発明方式側では電気ヒータ20bが一度しか稼働していない。これは、第6日目において蓄熱層10に充分すぎる量の熱エネルギーを蓄熱でき、第7日目は電気ヒータ20bを稼働させる必要がなかったためである。すなわち、実際の蓄熱式床冷暖房システムにおいても、蓄熱層10の水分飽和率を増大させることにより、蓄熱層10の比熱が飛躍的に増大し、且つ、熱損失を低減できた結果、蓄熱層10を少々加熱するだけで、蓄熱層10全体に充分な量の熱エネルギーを蓄熱することが可能であることが実証された。
【0070】
以上、現時点において、最も実践的であり、且つ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う蓄熱式床冷暖房システム及び床冷暖房方法もまた本発明の技術範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明に係る蓄熱式床冷暖房システムは、個人の一戸建て用から大規模施設用まで、幅広く適用することができる。本発明に係る蓄熱式床冷暖房システムは、熱伝導性にも蓄熱性にも優れており、例えば、夜間に深夜電力を用いて蓄熱層を冷却又は加熱し、熱エネルギーを蓄えておくことで、一日に亘って床温度を所望の温度に保つことができ、省エネルギーで心地よい冷暖房が実現できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床下に設けられるとともに空隙を有する蓄熱層と、前記蓄熱層を冷却又は加熱する熱源と、前記蓄熱層の前記空隙に水分を供給する水分供給手段とを備える、蓄熱式床冷暖房システム。
【請求項2】
ヒートポンプから循環手段を介して前記蓄熱層内に冷水又は温水を循環させて前記熱源とする、請求項1に記載の蓄熱式床冷暖房システム。
【請求項3】
前記蓄熱層が砂又は砕石を含む層である、請求項1又は2に記載の蓄熱式床冷暖房システム。
【請求項4】
前記蓄熱層の下方に断熱層を備え、前記蓄熱層と前記断熱層との間に、前記断熱層への水の浸入を防ぐための防水手段が設けられている、請求項1〜3のいずれかに記載の蓄熱式床冷暖房システム。
【請求項5】
床板と前記蓄熱層との間にコンクリート層を備える、請求項1〜4のいずれかに記載の蓄熱式床冷暖房システム。
【請求項6】
前記床板と前記コンクリート層との間に空間が設けられている、請求項5に記載の蓄熱式床冷暖房システム。
【請求項7】
前記空間に存在する気体を対流させる対流手段をさらに備える、請求項6に記載の蓄熱式床冷暖房システム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の蓄熱式床冷暖房システムを用いた床冷暖房方法であって、
前記水分供給手段から前記蓄熱層の前記空隙に水分を供給し、前記蓄熱層中の水分飽和率を増大させる工程と、水分飽和率を増大させた前記蓄熱層を前記熱源によって冷却又は加熱し、前記蓄熱層に熱エネルギーを蓄える工程と、前記蓄熱層に蓄えられた熱エネルギーを床まで伝熱させることによって床を冷却又は加熱する工程とを備える、床冷暖房方法。
【請求項9】
前記蓄熱層の水分飽和率を80%以上とする、請求項8に記載の床冷暖房方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図12】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図11】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2013−24523(P2013−24523A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162018(P2011−162018)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年2月8日 国立大学法人秋田大学主催の「平成22年度 地球資源学科Bコース 卒業課題研究発表審査会」において文書をもって発表
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【出願人】(511180352)有限会社エルシィホーム (1)
【Fターム(参考)】