説明

薄型スライダー

【課題】優れたデザイン性及び操作性を有しながら、停止爪体による自動停止機構を備えるスライドファスナー用の薄型スライダーを提供する。
【解決手段】薄型スライダーは、スライダー胴体に軸支される停止爪体と、連結柱に収容される弾性部材と、を備える。停止爪体は、爪部をエレメント案内路へ挿入するための第1回動方向に弾性部材によって付勢されている。上翼板は、連結柱に連結された第1上翼板と、第1上翼板に摺動可能に係着された第2上翼板とを有する。第2上翼板は、薄板状の第2上翼板本体と、第2上翼板本体の前端部から垂設された作動片とを有する。第2上翼板が後方へ摺動する時にエレメント案内路から爪部を抜出するための第2回動方向に第1突片部を押圧するための第1作動部が作動片の内面に配され、第2上翼板が前方に摺動する時に第2回動方向に第2突片部を押圧するための第2作動部が、第2上翼板本体の摺動面側に配される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライドファスナーに使用するための優れたデザイン性を有する薄型スライダーに関し、より詳しくは、停止爪体による自動停止機構を有する薄型スライダーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衣服又は鞄の開口部を開閉するため、スライドファスナーが開口部に取り付けられている。このようなスライドファスナーに使用するためのスライダーの一つとしては、例えば、特許文献1に記載されているような優れたデザイン性を有する薄型スライダーが知られている。
【0003】
図10に見られるように、特許文献1に記載された薄型スライダー71は、上翼板72の左右側面部に凸状の引手取付部75が配されたスライダー胴体76と、左右の引手取付部75に枢着された引手77とによる簡単な構成を持ち、上下翼板72,73の前端部が連結柱に連結されている。引手取付部75を介して上翼板72の左右側面部に引手77を枢着することにより、上下方向におけるスライダーの厚さの減少が達成される。
【0004】
一方、従来のスライドファスナー用スライダーとして、例えば特許文献2に開示されているような自動停止機構を有するタイプのスライダーが一般的に知られている。
【0005】
特許文献2に記載されているスライダー100は、図11及び図12に示されているように、スライダー本体101と、U字状ブラケット102と、スライダー本体101に支持された停止爪体114と、ブラケット102に沿って摺動可能に係着された引手127と、を有する。
【0006】
特許文献2のスライダー本体101では、上下翼板103,104の前端部が連結柱105に連結され、停止爪体114を付勢するためのスプリング125を収容する孔部124が、連結柱105の下端部に形成されている。スライダー本体101の左右方向の中央部には、上翼板103から上方に突出するリブ110と、上下翼板103,104の前方に延出するフォーク状部材111とが、一体に形成されている。リブ110の後口端部には、U字状ブラケット102を係止するためのT字状部材106,107が立設されている。
【0007】
U字状ブラケット102は、U字状に形成された壁部130と、引手の基端部128を摺動可能に保持するため壁部130の内側に配された保持溝部と、を有する。壁部130は、上脚部と、下脚部と、上下脚部を連結するための湾曲部と、を有する。上下脚部の各前端部は、T字状部材106,107の各々が係着されたT字状溝部を有する。ブラケット102の上脚部は孔部121を有し、下脚部に隣接する湾曲部には突起部122が設けられている。
【0008】
停止爪体114は、スライダー本体101に軸支された軸支部118から後方に延出する爪杆部115と、軸支部118の下に配された第1杆部126と、軸支部118の上に配されてU字状ブラケット102の孔部121を通過する第2杆部123と、を有することで、略T字状の側面状態を呈する。スライダー本体101のエレメント案内路116への挿入・これからの抜出が可能な爪部117が、停止爪体114の爪杆部115の後端部から突設されている。スライダー本体101の連結柱105に収容されたスプリング125により、停止爪体114の爪部117がエレメント案内路116へ挿入される方向に停止爪体114の第1杆部126が付勢されている。
【0009】
このような構成を有する特許文献2のスライダー100がスライドファスナーに採用された場合、摺動されずにスライダーがエレメント列に対して停止している時には、図12に示されているように、停止爪体114がスプリング125によって付勢されるため、停止爪体114の爪部117がエレメント案内路116へ挿入される。結果的に、スライダー100の停止位置を安定的に保持するように、エレメント案内路116を通過したエレメント列に停止爪体114の爪部117が係合される。
【0010】
例えば、エレメント列を分離させる方向にスライダーが摺動する場合、スライダー100の後方に引手127が引っ張られる。結果的に、引手127の基端部128がU字状ブラケット102の保持溝に沿って後方に移動し、U字状ブラケット102の当接部129と当接する。さらに、当接部129との当接を維持した状態で引手127が後方に引っ張られると、引手127の基端部128によってU字状ブラケット102が引っ張られるため、U字状ブラケット102がスライダー本体101の後方に移動する。
【0011】
U字状ブラケット102が後方に移動すると、スプリング125の付勢力に抗して停止爪体114を回動させるように、U字状ブラケット102の突起部122が停止爪体114の第1杆部126を押圧する。その結果、停止爪体114の爪部117がエレメント案内路から抜出される。次に、爪部117とエレメント列との間の係合が解除されて、エレメント列に沿ってスライダー100を円滑に摺動させることができる。
【0012】
エレメント列の所定位置へスライダー100が摺動した後で引手の動作が停止すると、スプリング125が停止爪体114を付勢する力によってU字状ブラケット102が元の位置へ移動するため、停止爪体114の爪部117がエレメント案内路116に挿入される。結果的に、スライダー100を停止位置に保持することができる。
【0013】
一方、例えば、エレメント列を噛合するための方向にスライダー100が摺動すると、引手127がスライダー100の前方へ引っ張られ、結果的に、引手127の基端部128がU字状ブラケット102の保持溝に沿って前方に移動するため、湾曲部の中心で壁部130と当接する。さらに、壁部130との当接を維持したままで引手127が前方へ引っ張られると、引手127の基端部128によってU字状ブラケット102が引っ張られるため、スライダー本体101の前方へU字状ブラケット102が移動する。
【0014】
結果的に、U字状ブラケット102の孔部121に配された側壁面131が停止爪体114の第2杆部123を押圧するため、スプリング125の付勢力に抗して停止爪体114を回動させ、結果的に、停止爪体114の爪部117がエレメント案内路116から抜出される。そのため、エレメント列に沿ってスライダー100が円滑に摺動できる。
【0015】
特許文献2のスライダーによれば、スライダー100の引手127が操作されていない時には、停止爪体114によってスライダー100の固定状態が安定的に維持される。さらに、スライダー100を摺動させるように引手127が操作される場合には、引手127を操作することにより、停止爪体114の爪部117がエレメント案内路116から抜出されて、スライダー100を円滑に摺動させる。
【0016】
特許文献1に記載されたような従来の薄型スライダー71(図10参照)は、そのデザイン性が機能性よりも重視されるため、自動停止機構を有していない自由スライダーとして構成されている。しかし近年では、スライドファスナーを備える衣服、鞄などが多機能となり、スライドファスナーの用途が拡大されているので、様々な機能を備えることがスライドファスナーに要求されるようになっている。例えば、上述した薄型スライダーは自動停止機構を備えることが求められている。
【0017】
このような要求を満たすため、特許文献1に記載された薄型スライダーに対して特許文献2に記載された自動停止機構を採用することを検討できる。この場合、特許文献2に記載された停止爪体114又はスプリング125を備え、同時に、引手が操作される時に停止爪体114の第1及び第2杆部126,123を押圧するためのU字状ブラケット102を備える、薄型スライダーのスライダー胴体を設ける必要がある。
【0018】
しかし、特許文献2に記載された停止爪体114又はU字状ブラケット102を薄型スライダーが備える場合には、上下方向における薄型スライダーの厚さが増加するばかりでなくデザイン性が損なわれることで、薄型スライダーの利点が失われるというような問題が生じる。
【0019】
特許文献2の自動停止機構を有するスライダー100では、U字状ブラケット102の当接部129又は湾曲部の中心の壁部130に基端部128を当接させるように引手127を操作することによりU字状ブラケット102の保持溝に沿って引手127の基端部128が移動するまでは、スライダー100はエレメント列に沿って摺動できなかった。そのため、特許文献1の薄型スライダーと比較すると、スライダーの摺動動作が引手の操作に対して遅れるという欠点を特許文献2のスライダー100は有するため、スライダー100の操作性の点において改善の余地が残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】意匠登録第566844号公報
【特許文献2】米国特許第2839806号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、上述した問題を考慮して達成されたものであり、本発明の目的は、優れたデザイン性及び操作性を有しながら、停止爪体による自動停止機構を備えるスライドファスナー用の薄型スライダーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上述した目的を達成するため、本発明は、上下翼板の前端部が連結柱により連結され、上下翼板の間にY字状のエレメント案内路が設けられ、上翼板の左右側面部の各々に引手取付部が配されるスライダー胴体と、左右の引手取付部に枢着されるアーム部と、アーム部と一体に形成された引手本体部とを有する引手と、備えるスライドファスナー用の薄型スライダーを提供し、薄型スライダーは、さらに、スライダー胴体により軸支される停止爪体と、連結柱に収容される弾性部材と、を備え、停止爪体が、回動軸として機能する軸支部から後方に延設されて、エレメント案内部への挿入及びエレメント案内部からの抜出が可能な爪部が後端部に突設された爪杆部と、軸支部の下に配された第1突片部と、軸支部の上に配された第2突片部とを有し、爪部をエレメント案内路へ挿入するための第1回動方向に第1突片部が弾性部材によって付勢され、上翼板が、連結柱に連結され、上面において前後方向に配されたガイド部を有する第1上翼板と、ガイド部に沿って第1上翼板に摺動可能に係着された第2上翼板とを有し、第2上翼板が、第1上翼板の上面に配された薄板状の第2上翼板本体と、連結柱に沿って第2上翼板の前端部から垂設された作動片とを有し、第2上翼板が後方に摺動する時にエレメント案内路から爪部を抜出するための第2回動方向に第1突片部を押圧する第1作動部が、作動片の内面に配され、第2上翼板が前方へ摺動する時に第2回動方向に第2突片部を押圧するための第2作動部が、第2上翼板本体の摺動面側に配される。
【0023】
本発明による薄型スライダーにおいて、弾性部材が下翼板の内面よりも上翼板側に配されることが好ましい。
【0024】
スライダー胴体は、停止爪体を収容するように第1上翼板の上面に凹設された爪体収容溝と、爪部が通過できるように爪体収容溝の後端部に穿設された爪孔とを有し、爪体収容溝の底面部が、爪孔に向かって下り傾斜する下り傾斜面を有することが好ましい。
【0025】
この場合、底面部の一部の上下方向における高さ位置が、停止爪部の回動軸中心と同じ高さ位置又は回動軸中心より上の高さ位置にあることが好ましい。停止爪部が爪体収容溝の下り傾斜面に対応する下り傾斜部を有することが好ましい。さらに、爪体収容溝の底面部が、連結柱よりも後口側に向かって延設されることが好ましい。
【0026】
本発明の薄型スライダーでは、スライダー胴体の下面が平面状に形成されることが好ましい。さらに、第2上翼板が、作動片の下端部から後方に延設された保持用舌片を有し、保持用舌片が摺動可能に係着された係着溝が下翼板の下面に凹設されることが好ましい。
【0027】
さらに、本発明の薄型スライダーにおいて、好ましくは、ガイド部が、第1上翼板の上面から立設された基部と、基部から左右方向に外方へ延設された係止片部とを有し、第2上翼板の下面は、前後方向にガイド部を係着させるT字状断面を有するガイド溝を有する。この場合、ガイド溝に平行な凹溝部が、ガイド溝の溝底面部に凹設されることが好ましい。
【0028】
本発明による薄型スライダーは、上翼板の左右側面部に引手取付部が取り付けられるスライダー胴体と、引手取付部に枢着される引手と、スライダー胴体に軸支される停止爪体と、連結柱に収容される弾性部材と、を備える。停止爪体は、軸支部から後方に延設されて、爪部が後端部から突出する爪杆部と、軸支部の下に配された第1突片部と、軸支部の上に配された第2突片部とを有し、第1突片部が、弾性部材により第1回動方向に付勢されている。
【0029】
結果的に、本発明の薄型スライダーを用いてスライダーファスナーが構成される場合、スライダーの引手が操作されない時には、停止爪体が弾性部材によって付勢されるため、エレメント列の停止位置にスライダーを保持するように、スライダー胴体のエレメント案内路へ停止爪体の爪部が挿入される。
【0030】
さらに、薄型スライダーの上翼板は、ガイド部を有する上面側の第1上翼板と、ガイド部に沿って摺動可能に係着される第2上翼板とを有する。第2上翼板は、薄板状の第2上翼板本体と、第2上翼板本体の前端部から垂設される作動片とを有する。作動片の内面は、第2上翼板が後方へ摺動する時に第2回動方向に第1突片部を押圧するための第1作動部を有する。さらに、第2上翼板が前方へ摺動する時に第2突片部を押圧するための第2作動部が、第2上翼板本体の摺動面側に配される。
【0031】
結果的に、引手を操作することでエレメント列を分離又は噛合するための方向に薄型スライダーが摺動すると、第2上翼板が引手に引っ張られるため、第1上翼板が前方又は後方に摺動する。この時、エレメント案内路から爪部を抜出するように、第2上翼板に配された第1作動部及び第2作動部が、停止爪体の第1突片部又は第2突片部を第2回動方向に押圧する。その結果、薄型スライダーはエレメント列に沿って円滑に摺動する。
【0032】
すなわち、第1上翼板に摺動可能に係着された第2上翼板に第1及び第2作動部が設けられているため、本発明による薄型スライダーは、例えば、上記した特許文献2で言及されているようなU字状ブラケット102が設けられず、停止爪体による自動停止機構を備える。さらに、本発明では、第2上翼板に引手が枢着されているため、引手を操作することによって直接、第2上翼板が摺動できる。結果的に、これにより引手の操作に対してスライダーの摺動動作が遅れることを防止し、スライダーの操作性を低下させない。このようにして、本発明による薄型スライダーは、自動停止機構を有して、上記した特許文献2に記載されているように上下方向の厚さを増すことはなく、優れた機能性、摺動性能、デザイン性を確保することが可能である。
【0033】
本発明の薄型スライダーでは、弾性部材が下翼板の内面よりも上翼板側に配されている。例えば、上記した特許文献2のスライダー100では、連結柱105の下翼板104の内面より下の位置にスプリング125が収容されている。ゆえに、U字状ブラケット102が設けられない場合には、下翼板及び連結柱の強度を確保するのが困難である。
【0034】
これと対照的に、本発明の薄型スライダーでは、下翼板の内面よりも上翼板側に弾性部材が配されている。結果的に、U字状ブラケットを設けなくても下翼板及び連結柱の強度が容易に確保され、弾性部材が安定的に収容される。ゆえに、この薄型スライダーにより、自動停止機構を長期間、安定的に機能させることが可能である。
【0035】
本発明の薄型スライダーにおいて、スライダー胴体は、停止爪体を収容するように第1上翼板の上面に凹設された爪体収容溝と、爪部を通過させるように爪体収容溝の後端部に穿設された爪孔とを有し、爪体収容溝の底面部が、上翼板の前端側から爪孔に向かって下り傾斜する下り傾斜面を有する。
【0036】
結果的に、爪体収容溝において上下方向に停止爪体の爪杆部を揺動させるための空間が容易に確保されるため、引手が操作されていない時には、停止爪体の爪部がエレメント案内路へ確実に挿入される。さらに、第2上翼板を摺動させるように引手が操作された時には、停止爪体の爪部がエレメント案内路から円滑に抜出される。
【0037】
この場合、爪体収容溝の底面部の上下方向における高さ位置は、停止爪体の回動軸中心と同じ高さ位置又は回動軸中心より上の高さ位置にある。結果的に、上述したように下翼板の内面よりも上翼板側に配されたとしても、第1上翼板及び連結柱の強度が容易に確保されることで、自動停止機構を長期間安定的に機能させる。
【0038】
停止爪体は、爪体収容溝の下り傾斜面に対応する下り傾斜部を有する。結果的に、停止爪体は、底面部に下り傾斜面を有する爪体収容溝内で円滑かつ効果的に回動することができ、こうして自動停止機構を確実に機能させる。
【0039】
さらに、爪体収容溝の底面部は、連結柱よりも後口に向かって延設されている。結果的に、停止爪体の爪部がエレメント案内路へ挿入されると、爪部にできるだけ近い位置で、爪体収容溝の底面部に停止爪体が支持される。結果的に、引手が操作されていない時の停止爪体の姿勢が安定し、さらに、爪部がエレメント案内路に挿入される位置が安定する。
【0040】
そのため、本発明のスライダーを用いてスライドファスナーが構成される時には、引手が操作されないと、エレメント列の停止位置にスライダーを確実に保持するように、エレメント案内路の爪部がエレメント列に安定的に係合される。さらに、停止爪体の姿勢が安定するため、スライダーを摺動させるように引手が操作されると、第2上翼板の第1作動部又は第2作動部が第1突片部又は第2突片部を確実に押圧するため、爪部がエレメント案内路から円滑に抜出される。
【0041】
本発明によれば、スライダー胴体の下面は平面状に形成される。例えば、上記した特許文献2のスライダー100のように下翼板104の下面側へ突出するようにU字状ブラケット102が配されているケースにおいて、スライダー100を用いてスライドファスナーが構成される場合には、スライダー100が摺動した時にスライダーが別の部材と衝突するか、これに引っ掛かることで、スライダー100の操作性が低下する。
【0042】
これと対照的に、本発明のスライダーを用いてスライドファスナーが構成される場合には、本発明のようにスライダー胴体の下面が平面状に形成されるため、スライダーの下面が別の部材と衝突するかこれに引っ掛かることが防止されることで、スライダーを円滑に摺動させる。さらに、スライダー胴体の底面が平面状に形成される場合には、スライダーの外観及び触感が向上する。
【0043】
さらに本発明では、第2上翼板が、作動片の下端部から後方に延設された保持用舌片を有し、保持用舌片を摺動可能に係着させるための係着溝が、下翼板の下面に凹設されている。結果的に、本発明のスライダーをより頑丈な造りとするように、第2上翼板が第1上翼板に係着する強度を向上させることができる。
【0044】
さらに、ガイド部は、第1上翼板の上面から立設された基部と、基部の上端部から左右方向に外方へ延設された係止片部とを有する。第2上翼板の下面は、ガイド部を係着させるためのT字状断面を前後方向に沿って有するガイド溝を有する。したがって、第2上翼板は第1上翼板に確実に摺動可能に係着される。
【0045】
この場合、ガイド溝と平行な凹溝部が、ガイド溝の溝底面部に凹設される。結果的に、停止爪体の回動空間がより効果的に確保されることで、自動停止機構を確実に機能させる。さらに、凹溝部がガイド溝の溝底面部に設けられるため、薄型スライダーの組立作業が容易に実行される。
【発明の効果】
【0046】
本発明の薄型スライダーによれば、優れたデザイン性及び操作性を有しながら、停止爪体による自動停止機構を備えるスライドファスナー用の薄型スライダーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】第1実施形態の薄型スライダーを用いることにより構成されるスライドファスナーの正面図である。
【図2】薄型スライダーを構成する部品が分解された状態を示す斜視図である。
【図3】薄型スライダーに使用するための第2上翼板を摺動面側から見た斜視図である。
【図4】第2上翼板の縦断面図である。
【図5】薄型スライダーの引手が操作されていない状態を示す縦断面図である。
【図6】図5のVI−VI線における断面図である。
【図7】エレメント列を分離する方向に薄型スライダーが摺動する状態を示す縦断面図である。
【図8】エレメント列を噛合する方向に薄型スライダーが摺動する状態を示す縦断面図である。
【図9】第2実施形態の薄型スライダーの引手が操作されていない状態を示す縦断面図である。
【図10】従来の薄型スライダーを示す斜視図である。
【図11】従来の自動停止機構を有するスライダーを示す斜視図である。
【図12】図11に示されたスライダーの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態を例とともに詳細に説明する。
【0049】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の薄型スライダーを用いることにより構成されるスライドファスナーの正面図、図2は、薄型スライダーを構成する部品が分解された状態を示す斜視図、図3は、薄型スライダーに使用するための第2上翼板を摺動面側から見た斜視図、図4は、第2上翼板の縦断面図、図5は、薄型スライダーの引手が操作されていない状態を示す縦断面図、図6は、図5のVI−VI線における断面図である。
【0050】
本発明の薄型スライダーでは、エレメント列を噛合させるためスライダーが摺動する方向を前方とし、エレメント列を分離させるためにスライダーが摺動する方向を後方とする。上下翼板に直交する方向は上下方向と定義され、上下翼板に平行でスライダー摺動方向に直交する方向は左右方向と定義される。
【0051】
第1実施形態の薄型スライダー1は、図1に見られるコイル状のエレメント列9を有するスライドファスナー10に使用される。エレメント列9に沿って薄型スライダー1を摺動させることにより、左右のエレメント列9が噛合及び分離される。ところで、本発明による薄型スライダー1は、図1に示されたようなコイル状エレメント列9を有するスライドファスナー10での使用に限定されず、例えば、ジグザグ状のエレメント列を有するスライドファスナー、又は複数の個別ファスナーエレメントが射出成形によりファスナーテープに列設されたタイプのスライドファスナーにも適用される。
【0052】
図2及び5に示されているように、この第1実施形態の薄型スライダー1は、スライダー胴体2と、スライダー胴体2に枢着された引手4と、ピン7を介してスライダー胴体2に支持された停止爪体5と、停止爪体5を付勢するためスライダー胴体2に収容される弾性部材6と、を備える。この場合、スライダー胴体2と引手4とは、アルミニウム合金及び亜鉛合金などの金属材料を用いたダイキャスト成形により製作される。停止爪体5は、ステンレス及び銅合金などの金属材料を用いたプレス成形又はダイキャスト成形により製作される。
【0053】
第1実施形態のスライダー胴体2は、上翼板20と、下翼板23と、上下翼板20,23の前端部を連結するための連結柱24とを有する。上フランジ部25は、上翼板20と直交する方向に垂設されるように上翼板20の左右側部の各々に設けられ、下フランジ部26は、下翼板23と直交する方向に立設されるように下翼板23の左右側部の各々に設けられている。さらに、スライダー胴体2は、連結柱24の左右側に配された肩口と、後端部に配された後口とを有する。左右の肩口を後口に連結するY字状のエレメント案内路27が、上下翼板20,23の間に形成されている。
【0054】
スライダー胴体2の上翼板20は、連結柱24に連結された第1上翼板21と、第1上翼板21に摺動可能に係着された第2上翼板22とを有する。第1実施形態によれば、第1上翼板21は薄板状に形成され、前後方向におけるその長さは第2上翼板22よりも短く設定される。第1上翼板21の上面から立設された基部28aと、基部28aの上端部から左右方向に外方へ延設された係止片部28bとを有するガイド部28が、第1上翼板21の上面に前後方向に配されている。
【0055】
さらに、停止爪体5を収容及び保持する爪体収容溝29が、第1上翼板21及び連結柱24においてガイド部28の上面から凹設されており、後述する停止爪体5の爪部55が通過できる爪孔30が、爪体収容溝29の後端部に穿設されている。図5に示されているように、爪体収容溝29は、前後方向に形成された第1収容溝29aと、上下方向に沿って第1上翼板21の前端部に形成された第2収容溝29bとを有する。
【0056】
第1実施形態によれば、第1収容溝29aの底面部31は、第2収容溝29bから爪孔30まで連続的に湾曲するように設けられている。底面部31は、連結柱24の後端部よりも後口側の位置まで延設されている。この場合、底面部31は、第2収容溝29b側から後口側に向かって上り傾斜する上り傾斜面で形成される第1底面部31aと、停止爪体5の回動軸中心(後述する軸支部51の中心)と同じ高さ位置又は回動軸中心より上に配された第2底面部31bと、第2底面部31bの後端部から後口に向かって下り傾斜する下り傾斜面で形成される第3底面部31cと、連結柱24よりも後口側に停止爪体5を支持するための第4底面部31dとを有する。
【0057】
第2上翼板22は、第1上翼板21の上面に配されて第1上翼板21と同じかそれ以上の大きさに形成された薄い第2上翼板本体22aと、第2上翼板本体22aの左右側面から突出する円柱状の引手取付部22bと、連結柱24に沿って第2上翼板本体22aの前端部から垂設された作動片22cと、作動片22cの下端部から後方に延設された保持用舌片22fとを有する。
【0058】
図3及び5に示されているように、第1上翼板21に沿って第2上翼板22が後方に摺動する時に停止爪体5を押圧するための第1作動部22dは、作動片22cの内面に突設されている。第1上翼板21に沿って第2上翼板22が前方へ摺動する時に停止爪体5を押圧するための第2作動部22eは、第2上翼板本体22aの摺動面に凹設されている。
【0059】
第1上翼板21に設けられたガイド部28が係着されるT字状断面を有するガイド溝22gが、第2上翼板本体22aの摺動面(下面)に前後方向に形成されている。ガイド溝22gの開口部よりも狭くてガイド溝22gに平行である第1凹溝部22hが、ガイド溝22gの溝底面部に凹設されている。第1実施形態によれば、第2上翼板本体22aの前端部に左右方向に凹設された第2凹溝部22iが、ガイド溝22g及び第1凹溝部22hに加えて第2上翼板本体22aの摺動面に配されている。第2凹溝部22iは、金型を用いて第2上翼板本体22aを所定形状に成形するために設けられている。
【0060】
停止爪体5を支持するピン7を嵌着させるための嵌着孔32が、爪体収容溝29に加えてスライダー胴体2の連結柱24の上端部に形成されている。さらに、弾性部材6を収容するための収容孔33が、第2収容溝29bから後方に向かうように連結柱24の下端部に穿設されている。
【0061】
図5に示されているように、弾性部材6のための収容孔33は、下翼板23の内面より上(上翼板20側)に配されている。ゆえに、下翼板23及び連結柱24の強度を高めるように、スライダー胴体2の下翼板23の下面(外面)から収容孔33までの厚さが適切に確保されている。さらに、上述したように、停止爪体5の回動軸中心と同じ高さ位置又は回動軸中心より上に爪体収容溝29の第2底面部31bが配されているため、連結柱24の強度を高めるように、爪体収容溝29の底面部31から収容孔33までの厚さが適切に確保されている。
【0062】
第2上翼板22に配された保持用舌片22fが摺動可能に係着された係着溝34が、スライダー胴体2の下翼板23の下面において前後方向に凹設されている。保持用舌片22fが係着された時に、スライダー胴体2の下面と保持用舌片22fの下面とを構成する下翼板23の下面が平面状となるように、係着溝34の溝深さは保持用舌片22fの上下方向の寸法に対応して設定される。ここで言及する平面とは、下翼板23の底面と保持用舌片22fの下面とが同一平面となるように形成される場合ばかりでなく、下翼板23の下面と保持用舌片22fの下面との間に僅かな段差(数ミリ程度の段差)が存在する場合も含む。
【0063】
エレメント列9がエレメント案内路27を通過する時にファスナーエレメントの姿勢を整えるため、下翼板23の内面の一部には隆起部23aが設けられている。
【0064】
第1実施形態の引手4は、引手本体部41と、引手本体部41の左右両側部から延出する左右アーム部42とを有する。第2上翼板22の引手取付部22bが嵌入された嵌入孔43が、各アーム部42の前端部に形成されている。引手4をスライダー胴体2に枢着するように、第2上翼板22の引手取付部22bをアーム部42の嵌入孔43に嵌入させることにより、第2上翼板22の引手取付部22bに引手4が取り付けられる。本発明によれば、引手4がスライダー胴体2に枢着されるように、引手4の左右アーム部42の各々の前端部に円柱状の凸部を設けて、第2上翼板22の左右側部の両方に凸部が各引手取付部として嵌入される嵌入孔を形成することが可能である。
【0065】
第1実施形態の停止爪体5は、ピン7が挿入される軸支部51から延出する爪杆部52と、軸支部51の底部に配された第1突片部53と、軸支部51の上部に配された第2突片部54を有することにより、側面から見た時に略T字形を呈している。スライダー胴体2のエレメント案内路27への挿入及びこれからの抜出が可能な爪部55が、停止爪体5の爪杆部52の後端部に凸設されている。爪杆部52は、軸支部51と爪部55との間の爪体収容溝29に配された下り傾斜面に対応する下り傾斜部56を有する。下り傾斜部56は、爪体収容溝29の下り傾斜面に対応するように爪杆部52の上下面の両方が下り傾斜する部分である。
【0066】
第1突片部53は、側面から見た時に前端部に向かって細くなるように形成されている。第1突片部53は、停止爪体5がスライダー胴体2に軸支された時に、連結柱24に収容された弾性部材6が当接する当接部を第1突片部53の後面側に有し、さらに、第2上翼板22の第1作動部22dが当接する当接部を第1突片部53の前面側に有する。第2突片部54は、側面から見た時に略矩形状となるように形成され、停止爪体5がスライダー胴体2に軸支された時に第2上翼板22の第2作動部22eが当接する当接部を後面側に有する。
【0067】
第1実施形態の弾性部材6は、コイル状のスプリングで構成されている。
【0068】
上述した第1実施形態の部品を有する薄型スライダー1が組み立てられる時には、最初に、スライダー胴体2の連結柱24に形成された収容孔33に弾性部材6が収容される。さらに、スライダー胴体2の爪体収容溝29に停止爪体5が挿入及び保持される。この時、爪体収容溝29に挿入された停止爪体5は、停止爪体5の第2突片部54の上端部と爪杆部52の上端部とが上下方向に同じ高さ位置にあるように前傾した状態に保持される。
【0069】
次に、第2上翼板22のガイド溝22gが第1上翼板21のガイド部28の位置と整合された状態で、第2上翼板22が第1上翼板21の前端側から後方へ摺動される。結果的に、第1上翼板21のガイド部28が第2上翼板22のガイド溝22gに係着された状態で、第2上翼板22が第1上翼板21に前後方向に摺動可能に係着される。すなわち、この実施形態の薄型スライダー1では、第1上翼板21のガイド部28を第2上翼板22のガイド溝22gへ係着することにより、第2上翼板22の係着状態を安定させるように、下翼板23に凹設された係着溝34に、第2上翼板22の保持用舌片22fが係着される。
【0070】
第2上翼板22が後方に摺動して第1上翼板21に係着されると、スライダー胴体2の爪体収容溝29において前傾状態に保持された停止爪体5が、第2上翼板22の第1作動部22dにより後方に押圧される。結果的に、図5に示されているように、第1突片部53の前面が第2上翼板22の第1作動部22dと当接して第1突片部53の後面が弾性部材6に付勢されるように爪部55がエレメント案内路27へ挿入された状態で、停止爪体5が保持される。
【0071】
この後、スライダー胴体2により停止爪体5を軸支するようにスライダー胴体2の連結柱24に形成された嵌着孔32にピン7が挿入される。さらに、引手4のアーム部42が、第2上翼板22に設けられた引手取付部22bに回動可能に係着される。結果的に、第1実施形態の薄型スライダー1が組み立てられ、薄型スライダー1は優れたデザイン性を有し、停止爪体5による自動停止機構を備える。
【0072】
このようにして得られた第1実施形態の薄型スライダー1に、図1に示されているようにファスナーストリンガー8のエレメント列9を通過させることにより、スライドファスナー10が構成される。エレメント列9上で薄型スライダー1を摺動させることにより、左右のエレメント列9が噛合又は分離する。
【0073】
第1実施形態の薄型スライダー1は停止爪体5による自動停止機構を有するため、引手4が操作されていない時に図5に示されたようにエレメント案内路27へ停止爪体5の爪部55が挿入される第1回転方向に、停止爪体5の第1突片部53が付勢される。こうして、停止爪体5の爪部55が、爪孔30を介してエレメント案内路27に突出して、エレメント案内路27を通過したエレメント列9に係合される。結果的に、薄型スライダー1がエレメント列9の停止位置で安定的に保持される。
【0074】
すなわち、第1実施形態の薄型スライダー1では、停止爪体5の爪部55がエレメント案内路27へ挿入されると、連結柱24よりも後口側の位置で爪体収容溝29の底面部31(第4底面部31d)によって停止爪体5が支持される。その結果、停止爪体5の姿勢が安定するため、エレメント案内路27への爪部55の挿入位置が安定することで、薄型スライダー1を停止位置に確実に保持する。
【0075】
薄型スライダー1が停止した状態で停止爪体5の姿勢を安定させることで、後述するように薄型スライダー1を摺動させるように引手4が操作されると、第2上翼板22の第1作動部22d又は第2作動部22eにより停止爪体5の第1突片部53及び第2突片部54が確実に押圧される。結果的に、爪部55がエレメント案内路27から円滑に抜出される。
【0076】
次に、エレメント列9で停止している状態から左右のエレメント列9を分離させる方向に薄型スライダー1を摺動させるため、使用者は引手4を後方に引っ張ることにより引手4を操作する。引手4がスライダーの後方に引っ張られると、引手4に印加される力が第2上翼板22に直接作用するため、図7に示されているように、第2上翼板22が第1上翼板21に対して後方に摺動する。
【0077】
結果的に、爪部55をエレメント案内路27から抜出するための第2回動方向に停止爪体5を回動させるように、弾性部材6の付勢力に抗して第2上翼板22の第1作動部22dが停止爪体5の第1突片部53を押圧する。その結果、爪部55とエレメント列9との間の係合状態を解除するように、停止爪体5の爪部55がエレメント案内路27から抜出される。結果的に、エレメント列9を分離する方向(スライダーの後方)に薄型スライダー1が円滑に摺動できる。
【0078】
この場合、第1実施形態のスライダーでは、爪孔30に向かって下り傾斜する下り傾斜面(第3底面部31c)は、スライダー胴体2に形成された爪体収容溝29の底面部31に配されている。同時に、停止爪体5の爪杆部52には、下り傾斜部56が形成されている。さらに下り傾斜部56では、爪杆部52の上下面の両方が下り傾斜するように形成されている。その結果、連結柱24の強度を確保するため、前述したように、爪体収容溝29の第2底面部31bが、停止爪体5の回動軸中心と同じ高さ位置又は同じ回動軸中心より上に配されていても、停止爪体5の安定した回動範囲がスライダー胴体2内で確保される。
【0079】
第1実施形態の薄型スライダー1では、ガイド溝22gと平行であってガイド溝22gの開口部より幅の狭い第1凹溝部22hが、第2上翼板本体22aの摺動面に凹設されている。ゆえに、第1凹溝部22hの空間を利用することにより、第2上翼板本体22aの強度を維持しながら、停止爪体5の広い回動範囲がスライダー胴体2内に確保される。こうして、薄型スライダー1において、第1上翼板21に対して第2上翼板22を後方に摺動させることにより、スライダー胴体2に形成された回動範囲内で停止爪体5が第2回動方向に安定的に回動する。結果的に、薄型スライダー1を円滑に摺動させることができるように、停止爪体5の爪部55がエレメント案内路27から確実に抜出される。
【0080】
薄型スライダー1がエレメント列9に沿って所定位置まで摺動して引手4の操作が解除されて薄型スライダー1を停止させた場合、停止爪体5は弾性部材6により付勢されて第1回動方向に回動する。その結果、停止爪体5の第1突片部53が第2上翼板22の第1作動部22dを押圧するため、第2上翼板22が前方へ摺動して元の位置へ戻る。次に、爪部55がエレメント案内路27へ挿入されてエレメント列9と係合する。結果的に、薄型スライダー1は停止位置で安定的に保持される。
【0081】
一方、薄型スライダー1が停止した状態から左右のエレメント列9を噛合させるための方向に薄型スライダー1を摺動させるため、使用者は、スライダーの前方へ引手4を引っ張ることにより引手4を操作する。引手4がスライダーの前方に引っ張られると、引手4に印加された力が第2上翼板22に直接作用するため、図8に見られるように、第2上翼板22が第1上翼板21に対して前方に摺動する。
【0082】
結果的に、上述したように爪部55をエレメント案内路27から抜出するための第2回動方向に停止爪体5を回動させるように、第2上翼板22の第2作動部22eが、弾性部材6の付勢力に抗して停止爪体5の第2突片部54を押圧する。その結果、停止爪体5の爪部55がエレメント案内路27から抜出されるため、エレメント列9を噛合させるための方向(スライダーの前方)に薄型スライダー1が容易に摺動できる。
【0083】
上述したように、第1実施形態の薄型スライダー1は、上下方向の厚さが薄く、優れたデザイン性及び優れた操作性を有する。また薄型スライダー1は、停止爪体5による自動停止機構を有するスライドファスナーのためのスライダーとして使用される。
【0084】
[第2実施形態]
図9は、第2実施形態の薄型スライダーの引手が操作されていない状態を示す縦断面図である。
【0085】
第2実施形態の薄型スライダー1’は、スライダー胴体2に配された爪体収容溝29の底面部31’と、停止爪体5の爪杆部52’と、スライダー胴体2の下面部とにおいて、第1実施形態の薄型スライダー1と異なる構成を持つ。他の構成は、第1実施形態の薄型スライダー1と実質的に等しい。そのため、第1実施形態の薄型スライダー1と同じ構成を持つ第2実施形態の部品及び部材には類似の参照番号が付けられ、これらの部品及び部材の説明は省略する。
【0086】
第2実施形態のスライダー胴体2は、上翼板20と、下翼板23と、上下翼板20,23の前端部の間を連結するための連結柱24とを有する。スライダー胴体2の上翼板20は、連結柱24に連結された第1上翼板21と、第1上翼板21に摺動可能に係着された第2上翼板22とを有する。
【0087】
第2上翼板22は、第1上翼板21の上面に配された薄い第2上翼板本体22aと、第2上翼板本体22aの左右側面部から突出する引手取付部(図9では不図示)と、第2上翼板本体22aの前端部から垂設された作動片22cとを有する。しかし、第2実施形態によれば、第2上翼板22は、作動片22cの下端部から後方に延出する保持用舌片22fを有しておらず、第1実施形態に示されたような係着溝34は、下翼板23の下面には配されていない。
【0088】
第2実施形態のスライダー胴体2は、第1実施形態の保持用舌片22f又は係着溝34を備えていないが、第1実施形態と同じガイド部28(図9では不図示)が第1上翼板21の上面に配され、ガイド部28が係着されたガイド溝22g(図9では不図示)が、第2上翼板22の下面(摺動面)に配されている。ゆえに、第2上翼板22は、第1上翼板21に摺動可能に係着されるのである。
【0089】
停止爪体5を収容及び保持するための爪体収容溝29が、第2実施形態のスライダー胴体2の第1上翼板21及び連結柱24に凹設されており、爪体収容溝29は、前後方向に形成された第1収容溝29aと、上下方向に第1上翼板21の前端部に形成された第2収容溝29bとを有する。
【0090】
この場合、第1収容溝29aの底面部31’は、第2収容溝29bから爪孔30まで連続的に屈曲するように設けられ、底面部31’は、連結柱24の後端部よりも後口側の位置まで延設されている。第1収容溝29aの底面部31’は、後口傾斜側に向かって第2収容溝29bから上り傾斜する上り傾斜面で形成される第1底面部31a’と、後口側に向かって第1底面部31a’の後端部から下り傾斜する下り傾斜面で形成される第2底面部31b’とを有する。さらに、第1底面部31a’と第2底面部31b’との間に配された屈曲部31c’は、停止爪体5の回動軸中心と同じ高さ位置又は回動軸中心より上に配される。結果的に、爪体収容溝29の底面部31’から収容孔33までの厚さが適切に確保されることにより、連結柱24の強度を高める。
【0091】
第2実施形態の停止爪体5は、軸支部51から後方に延在する爪杆部52’と、軸支部51の下に配された第1突片部53と、軸支部51の上に配された第2突片部54とを有する。爪杆部52’は、第2底面部31b’の下り傾斜面に対応する下り傾斜部56’を有し、爪杆部52’の下り傾斜部56’は、第1実施形態の爪杆部52より長くなるように形成される。
【0092】
第2実施形態のように、停止爪体5の回動範囲をスライダー胴体2内で安定的に確保するように、スライダー胴体2の爪体収容溝29の底面部31’に下り傾斜面(第2底面部31b’)が配され、停止爪体5の爪杆部52’に長い下り傾斜部56’が形成されている。そのため、第2上翼板22の第1作動部22d又は第2作動部22eにより停止爪体5が押圧されると、停止爪体5が第2回転方向に安定的に回動してエレメント案内路27から爪部55を抜出することで、停止爪体5の爪部55をエレメント案内路27から確実に抜出する。
【0093】
第2実施形態の薄型スライダー1’は、第1実施形態の薄型スライダー1のように優れたデザイン性及び操作性を有し、停止爪体5による自動停止機構を備えるスライドファスナー用のスライダーとして使用される。
【符号の説明】
【0094】
1,1’ 薄型スライダー
2 スライダー胴体
4 引手
5 停止爪体
6 弾性部材
7 ピン
8 ファスナーストリンガー
9 エレメント列
10 スライドファスナー
20 上翼板
21 第1上翼板
22 第2上翼板
22a 第2上翼板本体
22b 引手取付部
22c 作動片
22d 第1作動部
22e 第2作動部
22f 保持用舌片
22g ガイド溝
22h 第1凹溝部
22i 第2凹溝部
23 下翼板
23a 隆起部
24 連結柱
25 上フランジ部
26 下フランジ部
27 エレメント案内路
28 ガイド部
28a 基部
28b 係止片部
29 爪体収容溝
29a 第1収容溝
29b 第2収容溝
30 爪孔
31 底面部
31a,31a’ 第1底面部
31b,31b’ 第2底面部
31c 第3底面部
31c’ 屈曲部
31d 第4底面部
32 嵌着孔
33 収容孔
34 係着溝
41 引手本体部
42 アーム部
43 嵌入孔
51 軸支部
52,52’ 爪杆部
53 第1突片部
54 第2突片部
55 爪部
56,56’ 下り傾斜部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライドファスナー用の薄型スライダー(1,1’)であって、
上下翼板(20,23)の前端部が連結柱(24)により連結され、前記上下翼板の間にY字状のエレメント案内路(27)が設けられ、前記上翼板(20)の左右側面部の各々に引手取付部(22b)が配されるスライダー胴体(2)と、
前記左右の引手取付部に枢着されるアーム部(42)と、前記アーム部と一体に形成された引手本体部(41)とを有する引手(4)と、
前記スライダー胴体に軸支される停止爪体(5)と、
前記連結柱に収容される弾性部材(6)と、を備え、
前記停止爪体は、回動軸として機能する軸支部(51)から後方に延設されて、前記エレメント案内路への挿入及び前記エレメント案内路からの抜出が可能な爪部(55)が後端部に突設された爪杆部(52,52’)と、前記軸支部の下に配された第1突片部(53)と、前記軸支部の上に配された第2突片部(54)とを有し、前記爪部を前記エレメント案内路へ挿入するための第1回動方向に前記第1突片部が前記弾性部材によって付勢され、
前記上翼板は、前記連結柱に連結され、上面において前後方向に配されたガイド部(28)を有する第1上翼板(21)と、前記ガイド部に沿って前記第1上翼板に摺動可能に係着された第2上翼板(22)とを有し、
前記第2上翼板は、前記第1上翼板の上面に配された薄板状の第2上翼板本体(22a)と、前記連結柱に沿って前記第2上翼板本体の前端部から垂設された作動片(22c)とを有し、前記第2上翼板が後方へ摺動する時に前記エレメント案内路から前記爪部を抜出するための第2回動方向に前記第1突片部を押圧するための第1作動部(22d)が、前記作動片の内面に配され、前記第2上翼板が前方へ摺動する時に前記第2回動方向に前記第2突片部を押圧するための第2作動部(22e)が、前記第2上翼板本体の前記摺動面側に配されることを特徴とする薄型スライダー。
【請求項2】
前記弾性部材(6)が、前記下翼板(23)の内面よりも前記上翼板(20)側に配されることを特徴とする請求項1に記載の薄型スライダー。
【請求項3】
前記スライダー胴体(2)は、前記停止爪体(5)を収容するように前記第1上翼板(21)の上面に凹設された爪体収容溝(29)と、前記爪部(55)を通過させるように前記爪体収容溝の後端部に穿設された爪孔(30)とを有し、
前記爪体収容溝の底面部(31,31’)が、前記爪孔に向かって下り傾斜する下り傾斜面(31c,31b’)を有することを特徴とする請求項1に記載の薄型スライダー。
【請求項4】
前記底面部(31,31’)の一部の上下方向における高さ位置が、前記停止爪体(5)の回動軸中心と同じ高さ位置又は前記回動軸中心より上の高さ位置にあることを特徴とする請求項3に記載の薄型スライダー。
【請求項5】
前記停止爪体(5)が、前記爪体収容溝(29)の前記下り傾斜面(31c,31b’)に対応する下り傾斜部(56,56’)を有することを特徴とする請求項3に記載の薄型スライダー。
【請求項6】
前記爪体収容溝(29)の前記底面部(31,31’)が、前記連結柱(24)よりも後口側に向かって延設されることを特徴とする請求項3に記載の薄型スライダー。
【請求項7】
前記スライダー胴体(2)の下面が、平面状に形成されることを特徴とする請求項1に記載の薄型スライダー。
【請求項8】
前記第2上翼板(22)が、前記作動片(22c)の下端部から後方に延設された保持用舌片(22f)を有し、
前記保持用舌片が摺動可能に係着された係着溝(34)が、前記下翼板(23)の下面に凹設されることを特徴とする請求項1に記載の薄型スライダー。
【請求項9】
前記ガイド部(28)は、前記第1上翼板(21)の上面から立設された基部(28a)と、前記基部の上端部から左右方向に外方へ延設された係止片部(28b)とを有し、
前記第2上翼板(22)の下面は、前後方向にT字状断面を有するガイド溝(22g)を有し、前記ガイド溝が前記ガイド部の係着を可能にすることを特徴とする請求項1に記載の薄型スライダー。
【請求項10】
前記ガイド溝(22g)に平行な凹溝部(22h)が、前記ガイド溝の溝底面部に凹設されることを特徴とする請求項9に記載の薄型スライダー。
【請求項11】
上下翼板(20,23)の前端部が連結柱(24)により連結され、前記上下翼板(20,23)間にY字状のエレメント案内路(27)を備え、前記エレメント案内路(27)に挿入、抜出可能な爪部(55)を設け、前記上翼板(20)の左右側面部に引手取付部(22b)が配されたスライダー胴体(2)と、
左右の前記引手取付部(22b)に枢着されるアーム部(42)及び前記アーム部(42)と一体成形された引手本体部(41)を備えた引手(4)と、を有するスライドファスナー用の薄型スライダー(1,1’)であって、
前記上翼板(20)は、前記連結柱(24)に連結され、その上面側に前後方向に配されたガイド部(28)を有する第1上翼板(21)と、前記第1上翼板(21)上に前記ガイド部(28)に沿って摺動可能に係着した第2上翼板(22)と、を備え、
前記第1上翼版(21)に対して前記第2上翼板(22)が摺動することにより、前記爪部(55)が前記エレメント案内路(27)に挿入、抜出することを特徴とする薄型スライダー。
【請求項12】
前記第1上翼板(21)と前記第2上翼板(22)との間に摺接しあう対向面が形成されることを特徴とする請求項11に記載の薄型スライダー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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