説明

薬剤揮散体

【課題】低コストで簡素な構成でありながら、その薬剤揮散体の本体に保持されている揮散性薬剤の終期を使用者が判別することができる薬剤揮散体を提供する。
【解決手段】薬剤揮散体10に揮散性薬剤11及び色素13が保持され、そしてその揮散性薬剤11を揮散させるための揮散口12が薬剤揮散体10の本体の表面の一部分のみに設けられているので、揮散性薬剤11が揮散口12から連続して揮散するためこの揮散性薬剤11はその浸透圧により全体的にその揮散口に向かって移動し、このとき色素13もこの移動に伴って揮散口12に移動することになる。そして、色素13は不揮発性ないし難揮散性とされるので、揮散性薬剤11が揮散してしまった後は、色素13はその揮散口12近傍に集中して残留することになり、揮散性薬剤11の終期、加えてその色素13の模様の経時的変化により揮散性薬剤11の揮散状況を、使用者が視認により容易に判別することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薬剤揮散体に関し、例えば薬剤揮散体に含浸されている揮散性薬剤の揮散状況を示すタイムインジケータの機能を有する薬剤揮散体に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、揮散性薬剤を揮散させるための揮散器としては、揮散性薬液を収納して吸液芯付きを有するボトル、ゲル状の揮散性物質を収納した容器等が一般的によく知られ、また、蚊取りマットのような担体に揮散性薬剤等を直接含浸させるものも知られている。
【0003】
ここで、揮散性薬液やゲル状の揮散性物質を収容した揮散器においては、その揮散性薬液やゲル状の揮散性物質の減少を使用者が直接視認することにより使用の終期を判別可能なように構成されている。また、担体に揮散性薬液等を含浸させたのみのものは、揮散してしまう揮散性薬液を使用者が直接的に視認することは困難であり、このため、その担体に揮散性薬液等を含浸させると同時に、その揮散性薬液等の揮散に伴って経時的に色調が変化する、例えばロイコ色素等の色素又は染料をも混合させ、この色素又は染料の色調の変化を使用者が視認することによりその揮散性薬剤等の終期を表すように構成されている(例えば、特許文献1、2参照)。
なお、この揮散性薬剤等の終期を表す機能は、一般的に「タイムインジケータの機能」とも呼ばれている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−292563号公報
【特許文献2】特開2004−18516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に開示のものにおいては、前述したように、色素等を含浸させる際に、色素以外に、色調調整剤、顕色剤、電子供与性物質等も配合させる必要があり、製品コスト高を招いてしまう不都合があった。加えて、前述のような揮散性薬液やゲル状の揮散性物質を収容した揮散器では、部品点数が比較的多くなってしまう嫌いがあり、その構造が複雑である場合が多かった。
【0006】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、低コストで簡素な構成でありながら、その薬剤揮散体の本体に保持されている揮散性薬剤の終期を使用者が判別することができる薬剤揮散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の前述の目的は、下記の構成により達成される。
(1) 揮散性薬剤、及び不揮発性ないし難揮散性の色素を保持して、当該揮散性薬剤を雰囲気中に揮散させると共に当該色素の模様により当該揮散性薬剤の終期が表される薬剤揮散体であって、
前記揮散性薬剤を揮散させるための揮散部が、前記薬剤揮散体の本体の表面の一部分のみに設けられるように構成される
ことを特徴とする薬剤揮散体。
(2) 前記本体が芯状に形成されており、
当該芯状の両端面のうち何れかが前記揮散部とされ、そして
当該芯状の外周面の表面は、当該表面から前記揮散性薬剤が揮散しないように透明フィルム化されている
ことを特徴とする上記(1)の薬剤揮散体。
【0008】
上記(1)の構成によれば、揮散性薬剤及び色素が保持され、そしてその揮散性薬剤を揮散させるための揮散部が薬剤揮散体の本体の表面の一部分のみに設けられているので、揮散性薬剤が揮散部から連続して揮散するためこの揮散性薬剤はその浸透圧により全体的にその揮散部に向かって移動し、このとき色素もこの移動に伴って揮散部に移動することになる。そして、色素は不揮発性ないし難揮散性であるので、揮散性薬剤が揮散してしまった後は、色素はその揮散部近傍に集中して残留することになり、揮散性薬剤の終期、加えてその色素の模様の経時的変化により揮散性薬剤の揮散状況を、使用者が視認により容易に判別することができる。このため、従来のように、色素以外に色調調整剤、顕色剤、電子供与性物質等も配合させることにより製造コスト高を招いてしまうという問題を解消でき、低コストで簡素な構成でありながら、その薬剤揮散体の本体に保持されている揮散性薬剤の終期を使用者が判別することができる薬剤揮散体を提供することができるという効果が得られる。なお、薬剤揮散体に開口が複数設けられている場合においても、その複数の開口のうち1つのみが揮散部とされるように構成されていればよく、例えば、この揮散部以外の他の開口が容器の内周面に係合されるように使用されて、この他の開口からは揮散性薬剤が揮散し得ないように構成されていれば前述と同様な効果を得ることができる。また、本発明に係る揮散部として、所定の箇所全部を開口とする揮散口としても、或いは所定の箇所に複数の孔を設けた揮散孔としてもよく、その所定の箇所から揮散性薬剤が揮散し得るものであれば種々の構成を採用することができる。さらに、ここで言う「一部分のみ」とは、例えばその薬剤揮散体の本体が芯状とされる場合には、その芯状の両端面のうちの一端面のみ、あるいは一端面の中の一部の領域のみ等を意味するものとする。
上記(2)の構成によれば、薬剤揮散体の本体が芯状に形成され、この芯状の両端面のうち何れかが揮散部とされ且つこの芯状の外周面の表面はこの表面から揮散性薬剤が揮散しないように透明フィルム化されているので、揮散性薬剤が保持された薬剤揮散体を単独で使用することができ、本体を収容保持するための容器がなくても使用することができる。或いは、本体を所定の箇所に安定して収納保持できるものであれば、どのような形状の容器を用いても使用することができるので、更に低コスト化を図ることができる。
【0009】
なお、薬剤揮散体の材質としては、揮散性薬剤及び色素を保持することができ且つ揮散性薬剤を揮散できるものであれば特に限定されず、無機材料、有機材料のいずれでも用いることができる。好ましくは樹脂であり、具体的には、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETともいう)、アクリル樹脂(以下、PAともいう)、ポリプロピレン、ポリエチレンの1種あるいは2種以上を挙げることができ、例えば、ポリプロピレン・ポリエチレンの複合繊維、ポリエステル、ポリアクリルが好ましい。
また、薬剤揮散体が芯状に形成させる場合には、その芯径を例えばφ2.0〜14.0mm、長さを30〜140mm、気孔率を50〜90%とするのが好ましい。
【0010】
揮散性薬剤としては、例えば、芳香剤、消臭剤、忌避剤、医薬品、化粧品、あるいは殺虫剤、殺菌剤、殺ダニ剤等の揮散性薬剤(薬液)が、種々の用途に応じて適宜使用される。
【0011】
また、前述の揮散性薬剤の溶媒としては、水性、油性のいずれでもよく、例えば、脱イオン水、アイソパーH(エクソンモービル、第4類第2石油類、一号灯油)、エタノールと水との混媒である。溶媒の沸点は100〜200℃の範囲とするのが好ましい。
【0012】
そして、色素は、水性、油性のいずれでもよく、不揮発性ないし難揮散性で溶媒に溶けるものであればよい。例えば、合成色素(赤色102号、赤色225号、青色1号、黄色4号等)が好ましい。
また、薬剤揮散体を容器に収納保持する場合には、その容器の材料として、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ガラス、陶器等を挙げることができる。
【0013】
なお、香料を揮散性薬剤及び香料に混合する際には、香料は水性、油性のいずれでもよく、例えば、ハッカ油、ペパーミント油、スペアミント油、イグサ、ヒノキ、シトロネラ、シトラール、シトロネラール、レモン、レモングラス、オレンジ、ユーカリ、ラベンダー等の製油成分及びそれから得られる芳香成分を有するものを挙げることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低コストで簡素な構成でありながら、その薬剤揮散体の本体に保持されている揮散性薬剤の終期を使用者が判別することができる薬剤揮散体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は本発明の薬剤揮散体に係る実施形態を示す斜視図であり、図2(A)〜(C)は薬剤揮散体における色素の模様の経時変化を示す説明図であり、図3は揮散性薬剤の成分の一例を示す表であり、図4(A)〜(C)は薬剤揮散体を用いた実験の経時変化を示す斜視図である。
【0017】
図1及び図2に示すように、本実施形態の薬剤揮散体10は、前述の揮散性薬剤11及び不揮発性ないし難揮散性の色素13を保持して、この揮散性薬剤11を雰囲気中に揮散させると共にこの色素13の模様(色素分布)によりその揮散性薬剤11の終期が表されるものであり、その揮散性薬剤11を揮散させるための揮散口(揮散部)12が、薬剤揮散体10の本体表面の一部分のみに設けられている。
【0018】
より具体的には、薬剤揮散体10は揮散性薬剤11及び色素13を保持することができ且つ揮散性薬剤11を揮散させるものであり、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、複合繊維等の繊維状の樹脂で構成さされていると共に、この薬剤揮散体10は両端面を有する断面円形の芯状に形成されている。そして、この芯状の外周面の表面が例えばその成形時に熱処理により揮散性薬剤11が揮散しないようにフィルム17化されることにより、その一端面(ここでは上端面)が揮散口12となるように構成されており、即ち揮散性薬剤11はこの揮散口12のみから揮散することになる。
なお、本実施形態では、下端面も同様にフィルム(17)化されることにより上端面のみを開口し、この開口のみが揮散口12となるように構成されているが、これに限らずその芯状の上端面及び下端面を開口して、例えば薬剤揮散体10を容器内に収納保持したり或いは所定の壁に立掛けて使用したりする等して、下端面がその周面又はその設置面等の面に係合することにより、下端面からは揮散性薬剤11が揮散され得ないように構成(使用)されるようにしてもよい。また、その芯状の外周面で表れる色素13の模様の経時変化が使用者に判別できるように、そのフィルム17は透明(透明であれば色素の色が判別できる限りその色は問わない)とされる。
【0019】
また、揮散性薬剤11としては、例えば芳香剤、消臭剤、忌避剤、医薬品、化粧品、あるいは殺虫剤、殺菌剤、殺ダニ剤等を用いることができる。また、色素13としては、水性、油性のいずれでもよく、不揮発性で溶媒に溶けるものであればよい。
【0020】
また、図1に示す薬剤揮散体10は、単独で用いられる場合を想定したものであるが、例えば空き瓶や空き缶等、安定して収納保持可能な容器に入れたり、或いは壁に立掛けたりする等して使用されてもよい(例えば図4参照)。また、例えば、薬剤揮散体10は、未使用時にはアルミ製包装袋等に収納されおり、使用時にその封が切られてそのアルミ製包装袋から取り出され所定の箇所に設置されて、使用される。
【0021】
図2(A)〜(C)には揮散性薬剤11と共に薬剤揮散体10に保持された色素13の模様の経時変化が示されている。図2(A)に示すように、使用開始時においては、揮散性薬剤11及び色素13は全体に略均一に分布しており、このため色素13の模様は薬剤揮散体10の外周面には表れていない。
ここで、時間が経過すると、図2(B)に示すように、揮散性薬剤11が揮散口12から連続して揮散するため揮散性薬剤11はその浸透圧により全体的に揮散口12に向かって移動し、このとき色素13もこの移動に伴って揮散口12に移動することになる。そして、色素13は不揮発性ないし難揮散性であるので、揮散性薬剤11のみが揮散して色素13が薬剤揮散体10の本体に残留することになり、揮散口12側の色が濃くなり、揮散性薬剤11及び色素13が移動した薬剤揮散体10の下部では色が薄くなる。
【0022】
さらに時間が経過すると、図2(C)に示すように、揮散性薬剤11は揮散してなくなり、色素13のみが揮散口12近傍、即ち上端部に集中して残留することになる。このため、揮散口12近傍の色が濃くなり、他の部分の色は薄くなり無色化に近い状態となる。揮散性薬剤11が揮散してなくなると、それ以上色素13は移動しないので、さらに時間が経過しても模様は変化しなくなり、薬剤揮散体10の揮散性薬剤11の揮散機能は終期に達したことがわかる。
【0023】
(実施例)
次に、図3及び図4を用いて、本実施形態の薬剤揮散体10を用いて揮散性薬剤11を揮散させて行った実験について説明する。
図3が示す表には、本実験で用いた揮散性薬剤11としての芳香剤及び色素13である着色剤等の成分の一例が示されている。本実験で用いた薬剤揮散体は、前述の実施形態の説明と同様の、直径7mm、長さ70mmの断面円形の繊維状の樹脂からなる芯状の薬剤揮散体10である。そして、この薬剤揮散体10に保持、即ち含浸させた芳香剤(揮散性薬剤11)は、2.3gである。
なお、薬剤揮散体10は、図4(A)〜(C)に示すように、容器としてのガラス瓶14の中に立てかけて収納保持している。ここでガラス瓶14は、単に薬剤揮散体10を安定して支持するためのものであり、特に他の機能を有しているものではない。
【0024】
図4(A)に示すように、使用開始時では、色素13の模様はその薬剤揮散体10の外周面には表れていなく、全体に略均一に分布している。図4(B)には使用開始から1ヶ月経過時の状態が示されており、即ち、このとき揮散口12側の色が濃くなり揮散性11及び色素13が移動した薬剤揮散体10の下部では色が薄くなる。そして、図4(C)に示す終期は、使用開始から2ヶ月経過後の状態が示されており、即ち、このとき揮散口12近傍の色が濃くなり、他の部分の色は薄くなり無色化に近い状態となる。
なお、使用者が終期を判別する基準として、例えば、揮散口12近傍の色素13の模様におけるその色濃度が変化しなくなった時期や、その模様の形状(長さ等)が変化しなくなった時期等を採用することができる。
【0025】
したがって、前述の本発明に係る実施形態によれば、揮散性薬剤11及び色素13が保持され、そしてその揮散性薬剤11を揮散させるための揮散口12が薬剤揮散体10の本体の表面の一部分のみに設けられているので、揮散性薬剤11が揮散口12から連続して揮散するためこの揮散性薬剤11はその浸透圧により全体的にその揮散口に向かって移動し、このとき色素13もこの移動に伴って揮散口12に移動することになる。そして、色素13は不揮発性ないし難揮散性であるので、揮散性薬剤11が揮散してしまった後は、色素13はその揮散口12近傍に集中して残留することになり、揮散性薬剤11の終期、加えてその色素13の模様の経時的変化により揮散性薬剤11の揮散状況を、使用者が視認により容易に判別することができる。このため、従来のように、色素13以外に色調調整剤、顕色剤、電子供与性物質等も配合させることによりコスト高を招くという問題を解消でき、低コストで簡素な構成でありながら、その薬剤揮散体10の本体に保持されている揮散性薬剤11の終期を判別することができる。
【0026】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、前述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
例えば、前述した芯状の上端面の全面を揮散口12として形成したが、これに限らずその上端面の一部を揮散口12として形成することもできる。
また、前述した実施形態においては、薬剤揮散体10の形状として円形断面の芯状のものを例示したが、その他、多角形断面の棒状、立方体、直方体、球形、あるいは動物や花等をかたどったものでも適用可能である。
また、前述した実施形態においては、揮散性薬剤11を揮散し得る構造として一様に開口した揮散口12としたが、これに代えて、その箇所に複数の孔を有した揮散孔としてもよく、即ち揮散性薬剤11を揮散し得るものであれば種々のものを採用することができる。
さらに、前述した実施形態においては、薬剤揮散体10に揮散性薬剤11及び色素13が予め保持された状態で使用されるが、これに限らず、例えばアンプル管等、この揮散性11及び色素13が収納された供給用ボトルが別途用意されており、使用時にこの供給用ボトルでもって薬剤揮散体10に供給してから使用するように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の薬剤揮散体に係る実施形態を示す斜視図である。
【図2】(A)〜(C)は薬剤揮散体における色素の模様の経時変化を示す説明図である。
【図3】揮散性薬剤の成分の一例を示す表である。
【図4】(A)〜(C)は薬剤揮散体を用いた実験の経時変化を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0028】
10 薬剤揮散体
11 揮散性薬剤
12 揮散口(揮散部)
13 色素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮散性薬剤、及び不揮発性ないし難揮散性の色素を保持して、当該揮散性薬剤を雰囲気中に揮散させると共に当該色素の模様により当該揮散性薬剤の終期が表される薬剤揮散体であって、
前記揮散性薬剤を揮散させるための揮散部が、前記薬剤揮散体の本体の表面の一部分のみに設けられるように構成される
ことを特徴とする薬剤揮散体。
【請求項2】
前記本体が芯状に形成されており、
当該芯状の両端面のうち何れかが前記揮散部とされ、そして
当該芯状の外周面の表面は、当該表面から前記揮散性薬剤が揮散しないように透明フィルム化されている
ことを特徴とする請求項1に記載の薬剤揮散体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−148394(P2009−148394A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−328282(P2007−328282)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(000100539)アース製薬株式会社 (191)
【Fターム(参考)】