説明

虚血性循環器疾患の予防及び/又は治療のための薬剤

虚血性循環器疾患の予防及び/又は治療のための薬剤であって、経皮的冠動脈インターベンションを受ける患者に投与することを特徴とする、下記一般式(I)
【化1】


(式中の記号は明細書を参照)
で表されるアミノベンゼンスルホン酸誘導体もしくはその塩、又はそれらの水和物もしくは溶媒和物で示される化合物を有効成分として含有する薬剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、虚血性循環器疾患の予防及び/又は治療のための薬剤であって、経皮的冠動脈インターベンションを受ける患者に投与することを特徴とする薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
下記一般式(I)
【0003】
【化1】

【0004】
(式中、R1 は水素原子、C1−C6 のアルキル基、C3−C7 のシクロアルキル基、C1−C4 のハロゲン化アルキル基、ハロゲン原子、又はC6−C12のアリール基を表し;R2 は水素原子、C1−C6 のアルキル基、又はシアノ基、ニトロ基、C1−C6 のアルコキシ基、ハロゲン原子、C1−C6 のアルキル基、及びアミノ基からなる群から選ばれる1又は2以上の置換基を有していても良いC7−C12のアラルキル基を表し;nは1から4の整数を表す)
で表されるアミノベンゼンスルホン酸誘導体もしくはその塩、又はそれらの水和物もしくは溶媒和物は心筋又は血管平滑筋の細胞内カルシウムイオンの過蓄積を抑制することが知られている(特許文献1;特開平3-7263号公報、欧州特許公開公報第390654号公報)。またこの他にも心疾患の予防又は治療に有効であること(特許文献2:特開平4-139127号公報)、心筋症の予防又は治療に有効であること(特許文献3:特開平10-298077号公報)、心拡張障害の予防又は治療に有効であること(特許文献4:WO99/40919号公報、欧州特許公開公報第1062948号公報)、神経系障害の予防又は治療に有効であること(特許文献5:WO01/45739号公報)、糖尿病由来虚血性心疾患における心不全または不整脈の予防又は治療に有効であること(特許文献6:WO02/72097号公報)、ナトリウム/カルシウム交換系を阻害すること(特許文献7:WO03/9897号公報)が知られている。
【0005】
しかしながら、経皮的冠動脈インターベンションを受ける患者に投与し、虚血性循環器疾患の予防及び/又は治療に有効であるか否かは定かではないのが現状であった。
【特許文献1】特開平3-7263号公報、欧州特許公開公報第390654号公報
【特許文献2】特開平4-139127号公報
【特許文献3】特開平10-298077号公報
【特許文献4】WO99/40919号公報、欧州特許公開公報第1062948号公報
【特許文献5】WO01/45739号公報、欧州特許公開公報第1249245号公報
【特許文献6】WO02/72097号公報、欧州特許公開公報第1374868号公報
【特許文献7】WO03/9897号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、虚血性循環器疾患の予防及び/又は治療のための薬剤であって、経皮的冠動脈インターベンションを受ける患者に投与することを特徴とする薬剤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意努力した結果、経皮的冠動脈インターベンションを受ける患者に特定のアミノベンゼンスルホン酸誘導体、その塩、それらの水和物又は溶媒和物を投与すると、心筋障害を軽減し心筋機能を保護しうることを見い出し本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、以下の通りである。
【0009】
1.虚血性循環器疾患の予防及び/又は治療のための薬剤であって、経皮的冠動脈インターベンションを受ける患者に投与することを特徴とする、下記一般式(I)
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、R1 は水素原子、C1−C6 のアルキル基、C3−C7 のシクロアルキル基、C1−C4 のハロゲン化アルキル基、ハロゲン原子、又はC6−C12のアリール基を表し;R2 は水素原子、C1−C6 のアルキル基、又はシアノ基、ニトロ基、C1−C6 のアルコキシ基、ハロゲン原子、C1−C6 のアルキル基、及びアミノ基からなる群から選ばれる1又は2以上の置換基を有していても良いC7−C12のアラルキル基を表し;nは1から4の整数を表す)
で表されるアミノベンゼンスルホン酸誘導体もしくはその塩、又はそれらの水和物もしくは溶媒和物で示される化合物を有効成分として含有する薬剤。
【0012】
2.虚血性循環器疾患が心筋梗塞又は狭心症である1に記載の薬剤。
【0013】
3.心筋梗塞がST上昇型心筋梗塞である2に記載の薬剤。
【0014】
4.ST上昇型心筋梗塞が前壁ST上昇型心筋梗塞である3に記載の薬剤。
【0015】
5.Rの置換位置が5位である1から4のいずれかに記載の薬剤。
【0016】
6.nが2である1から5のいずれかに記載の薬剤。
【0017】
7.Rが水素原子、C−Cのアルキル基、又は、C−Cのアルキル基、C−Cのアルコキシ基及びハロゲン原子から選ばれる1又は2以上の置換基を有していても良いC−C12のアラルキル基である1から6のいずれかに記載の薬剤。
【0018】
8.Rが水素原子及びC−Cのアルコキシ基から選ばれる1又は2以上の置換基を有していても良いC−C12のアラルキル基である1から7のいずれかに記載の薬剤。
【0019】
9.Rが水素原子である1から8のいずれかに記載の薬剤。
【0020】
10.Rが水素原子、C1−C6 のアルキル基、C−Cのシクロアルキル基、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子、又はフェニル基である1から9のいずれかに記載の薬剤。
【0021】
11.RがC1−Cのアルキル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基、塩素原子、臭素原子又はフェニル基である1から10のいずれかに記載の薬剤。
【0022】
12.Rがメチル基又はプロピル基である1から11のいずれかに記載の薬剤。
【0023】
13.有効成分が、下記化合物から選ばれる請求項1から4のいずれかに記載の薬剤。
5−メチル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−トリフルオロメチル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−n−プロピル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−フェニル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−クロロ−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−ブロモ−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−iso−プロピル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−シクロヘキシル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−n−プロピル−2−(1−ホモピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−n−プロピル−2−[4−(2,3,4−トリメトキシベンジル)−1−ピペラジニル]ベンゼンスルホン酸;
5−n−プロピル−2−[4−(3,4−ジメトキシベンジル)−1−ピペラジニル]ベンゼンスルホン酸
【0024】
14.有効成分が、下記化合物から選ばれる13記載の薬剤。
5−メチル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−n−プロピル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸
【0025】
15.有効成分が、5−メチル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸 一水和物である1から14のいずれかに記載の薬剤。
【0026】
16.経皮的冠動脈インターベンションを受ける患者に投与することを特徴とする、5−メチル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸 一水和物を有効成分として含有する前壁ST上昇型心筋梗塞の予防及び/又は治療のための薬剤。
【0027】
17.経皮的冠動脈インターベンションを受ける患者がTIMIグレード0又は1であることを特徴とする1から16のいずれかに記載の薬剤。
【0028】
18.有効成分を経皮的冠動脈インターベンションを受ける前に投与を開始することを特徴とする、1から17のいずれかに記載の薬剤。
【0029】
19.有効成分を静脈内に48時間持続投与することを特徴とする1から18のいずれかに記載の薬剤。
【0030】
20.経皮的冠動脈インターベンションを受ける患者に下記一般式(I)
【0031】
【化3】

【0032】
(式中、R1 は水素原子、C1−C6 のアルキル基、C3−C7 のシクロアルキル基、C1−C4 のハロゲン化アルキル基、ハロゲン原子、又はC6−C12のアリール基を表し;R2 は水素原子、C1−C6 のアルキル基、又はシアノ基、ニトロ基、C1−C6 のアルコキシ基、ハロゲン原子、C1−C6 のアルキル基、及びアミノ基からなる群から選ばれる1又は2以上の置換基を有していても良いC7−C12のアラルキル基を表し;nは1から4の整数を表す)
で表されるアミノベンゼンスルホン酸誘導体もしくはその塩、又はそれらの水和物もしくは溶媒和物で示される化合物を有効成分として含有する薬剤を投与することを特徴とする、虚血性循環器疾患の予防及び/又は治療方法。
【0033】
21.虚血性循環器疾患が心筋梗塞又は狭心症である20に記載の方法。
【0034】
22.心筋梗塞がST上昇型心筋梗塞である21に記載の方法。
【0035】
23.ST上昇型心筋梗塞が前壁ST上昇型心筋梗塞である22に記載の方法。
【0036】
24.Rの置換位置が5位である20から23のいずれかに記載の方法。
【0037】
25.nが2である20から24のいずれかに記載の方法。
【0038】
26.Rが水素原子、C−Cのアルキル基、又は、C−Cのアルキル基、C−Cのアルコキシ基及びハロゲン原子から選ばれる1又は2以上の置換基を有していても良いC−C12のアラルキル基である20から25のいずれかに記載の方法。
【0039】
27.Rが水素原子及びC−Cのアルコキシ基から選ばれる1又は2以上の置換基を有していても良いC−C12のアラルキル基である20から26のいずれかに記載の方法。
【0040】
28.Rが水素原子である20から27のいずれかに記載の方法。
【0041】
29.Rが水素原子、C1−C6 のアルキル基、C−Cのシクロアルキル基、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子、又はフェニル基である20から28のいずれかに記載の方法。
【0042】
30.RがC1−Cのアルキル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基、塩素原子、臭素原子又はフェニル基である20から29のいずれかに記載の方法。
【0043】
31.Rがメチル基又はプロピル基である20から30のいずれかに記載の方法。
【0044】
32.有効成分が、下記化合物から選ばれる20から23のいずれかに記載の方法。
5−メチル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−トリフルオロメチル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−n−プロピル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−フェニル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−クロロ−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−ブロモ−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−iso−プロピル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−シクロヘキシル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−n−プロピル−2−(1−ホモピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−n−プロピル−2−[4−(2,3,4−トリメトキシベンジル)−1−ピペラジニル]ベンゼンスルホン酸;
5−n−プロピル−2−[4−(3,4−ジメトキシベンジル)−1−ピペラジニル]ベンゼンスルホン酸
【0045】
33.有効成分が、下記化合物から選ばれる32記載の方法。
5−メチル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−n−プロピル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸
【0046】
34.有効成分が、5−メチル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸 一水和物である20から33のいずれかに記載の方法。
【0047】
35.経皮的冠動脈インターベンションを受ける患者に5−メチル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸 一水和物を有効成分として含有する薬剤を投与することを特徴とする、前壁ST上昇型心筋梗塞の予防及び/又は治療方法。
【0048】
36.経皮的冠動脈インターベンションを受ける患者がTIMIグレード0又は1であることを特徴とする20から35のいずれかに記載の方法。
【0049】
37.有効成分を経皮的冠動脈インターベンションを受ける前に投与を開始することを特徴とする、20から36のいずれかに記載の方法。
【0050】
38.有効成分を静脈内に48時間持続投与することを特徴とする20から37のいずれかに記載の薬剤。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
本発明において虚血性循環器障害とは、血栓形成などの何らかの原因により血管が途絶されことにより生じる循環器の障害であり、具体的には心筋梗塞又は狭心症を挙げることができる。本発明において心筋梗塞の好ましい態様としてはST上昇型心筋梗塞(STEMI)を挙げることができ、より好ましい態様としては前壁ST上昇型心筋梗塞を挙げることができる。
【0052】
経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の具体例としては経皮的冠動脈形成術(PTCA)等を挙げることができる。
【0053】
本発明の薬剤の有効成分としては、上記一般式(I)で表されるアミノベンゼンスルホン酸誘導体もしくはその塩、又はそれらの水和物もしくはそれらの溶媒和物が挙げられる。上記一般式(I)中、R1 で定義されるC1−C6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、 tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基等が挙げられる。C3−C7 のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。C1−C4 のハロゲン化アルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基等が挙げられる。ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。C6−C12のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0054】
の好ましい例として、水素原子、C−Cのアルキル基、C−Cのシクロアルキル基、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子又はフェニル基が挙げられ、さらに好ましい例として、RがC−Cのアルキル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基、塩素原子、臭素原子又はフェニル基が挙げられ、特にメチル基又はプロピル基であることが好ましい。
【0055】
2 で定義されるC1−C6 のアルキル基としては、例えば、上記Rで定義したようなアルキル基が挙げられる。C7−C12のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。このアラルキル基は、シアノ基;ニトロ基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、tert-ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等のC1−C6 のアルコキシ基;上記Rで定義したようなハロゲン原子;上記Rで定義したようなアルキル基及びアミノ基からなる群から選ばれる1又は2個以上の置換基を有していても良い。
【0056】
の好ましい例としては、水素原子、C―Cのアルキル基、並びに、C−Cのアルキル基、C−Cのアルコキシ基及びハロゲン原子から選ばれる1又は2以上の置換基を有していても良いC−C12のアラルキル基が、さらに好ましい例としては、Rが水素原子又はC−Cのアルコキシ基から選ばれる1又は2以上の置換基を有していても良いC―C12のアラルキル基が挙げられ、特に、水素原子であることが好ましい。
【0057】
また、上記一般式(I)中、nとしては2であることが好ましい。
【0058】
なお、本発明における好適な具体例としては、下記表1及び表2に示す化合物を挙げることができる。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【0063】
【表5】

【0064】
【表6】

【0065】
【表7】

【0066】
【表8】

【0067】
【表9】

【0068】
上記表1及び表2中、Rの置換位置が5位である化合物が好ましく、さらに好適な化合物としては以下の化合物が挙げられる。
【0069】
5−メチル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−トリフルオロメチル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−n−プロピル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−フェニル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−クロロ−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−ブロモ−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−iso−プロピル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−シクロヘキシル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−n−プロピル−2−(1−ホモピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−n−プロピル−2−[4−(2,3,4−トリメトキシベンジル)−1−ピペラジニル]ベンゼンスルホン酸;
5−n−プロピル−2−[4−(3,4−ジメトキシベンジル)−1−ピペラジニル]ベンゼンスルホン酸
なお、上記の化合物のうち、特に好ましい例としては、5−メチル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸及び5−n−プロピル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸が挙げられる。
【0070】
また、上記で挙げた化合物の薬学的に許容されうる塩類も本発明の範囲に包含される。上記化合物の塩類としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩等のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩;アミン塩(アンモニウム塩;トリエチルアミン塩等の低級アルキルアミン塩;2−ヒドロキシエチルアミン塩、ビス−(2−ヒドロキシエチル)アミン塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩、N−メチル−D−グルカミン塩等のヒドロキシ低級アルキルアミン塩;ジシクロヘキシルアミン塩等のシクロアルキルアミン塩;N,N−ジベンジルエチレンジアミン塩等のベンジルアミン塩;ジベンジルアミン塩等);塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩;又は、フマル酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩等の有機酸塩等が挙げられる。
【0071】
なお、塩や遊離形態の化合物の他、これらの任意の水和物あるいは溶媒和物を本発明の医薬の有効成分として用いても良い。上記化合物の溶媒和物を形成しうる溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、酢酸エチル、塩化メチレン等が挙げられる。
【0072】
本発明の有効成分としては、5−メチル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸 一水和物が最も好ましいものとして挙げられる。
【0073】
上記一般式(I)で示されるアミノベンゼンスルホン酸誘導体は公知の化合物であり、例えば日本特許出願特開平3−7263号及び特開平9−221479号各号公報、欧州特許出願公開公報390654号及び779283号、並びに、米国特許公報5053409号及び5990113号等に記載の方法により、容易に合成することができ、当業者が容易に入手することができる化合物である。
【0074】
本発明の薬剤は、常法によりヒトに経口又は非経口で適用される。経口投与のための剤形としては、顆粒剤、細粒剤、散剤、錠剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤又は液剤等が挙げられる。また、非経口投与のための剤形としては、注射剤、坐剤、経皮剤等が挙げられる。
【0075】
本発明の有効成分は、上記剤形中において、固体、もしくは液体の医薬用担体又は賦形剤、安定剤、潤滑剤、甘味剤、保存剤、懸濁化剤等の通常用いられる医薬用添加剤とともに含まれており、予防上及び/又は治療上の有効成分の担体成分に対する含有割合は1重量%−90重量%の範囲が好ましい。
【0076】
用いられる固体成分の例としては、乳糖、白陶土、ショ糖、結晶セルロース、コーンスターチ、タルク、寒天、ペクチン、アカシア、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、レシチン、塩化ナトリウム等が挙げられる。液状担体の例としては、シロップ、グリセリン、落花生油、ポリビニルピロリドン、オリーブ油、エタノール、ベンジルアルコール、プロピレングリコール、水等が挙げられる。
【0077】
有効成分として用いる物質の投与量は、予防や治療の目的、予防や治療すべき疾患の種類、患者の症状、体重、年齢や性別等を考慮して適宜各有効成分毎に決定すればよいが、通常の場合、成人一日あたり非経口投与により0.001mg〜100mg程度、経口投与により0.01mg〜1000mg程度を投与することができる。このような投与量を1日あたり1〜数回に分けて投与するのが望ましい。
【0078】
5−メチル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸を用いる場合の好ましい投与方法及び投与期間としては、48時間(2日間)の静脈内持続投与とすることが望ましい。
【0079】
本発明においてTIMIグレードとはThrombolysis in Myocardial Infraction試験分類(N Engl J Med 33:523, 1984)によるグレードであり、0は責任病変を越えて造影剤が流れない状態、1は責任病変を越えて少量の造影剤が流れるが、造影剤は末梢まで到達しない状態をいう。
【0080】
本発明において「予防」とは疾患を発症していない健常人に対して薬剤を投与することであり、例えば、疾患の発症を防止する目的で投与することをいう。「治療」とは医師により疾患を発症している診断された患者に対して薬剤を投与することであり、例えば、疾患や症状の軽減、又は健康を回復することを目的として投与することをいう。また、投与の目的が疾患や症状の悪化防止、又は発作の防止であっても、投与されるのが一旦何らかの疾患を発症していると診断された患者であれば治療である。ここで、ある疾患を発症していると診断された患者に対し、その疾患や症状の軽減を目的として薬剤を投与する行為は治療であるが、まだ発症していない別の疾患の発症を防止する目的で薬剤を投与する行為は予防である。
【実施例】
【0081】
以下、実施例により本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0082】
なお、以下の実施例で示した本発明化合物は、5−メチル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸 一水和物(以下、「カルダレット」と称することもある。)であり、特開平9−221479号公報の例1に記載の方法に従って製造したものを使用した。
【0083】
(実施例1)
ΣST上昇値が10mm以上であり、PCIの適用である387人の患者をカルダレット非投与群、カルダレット61.5mg(5−メチル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸に換算すると57.5mg)投与群(低投与群)、カルダレット184.6mg(5−メチル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸に換算すると172.5mg)投与群(高投与群)の3群に分けた。これらの患者に対して、PCI施行約30分前から、プラセボ(カルダレット非投与群)又はカルダレット(低投与群及び高投与群)の投与が開始された。プラセボ及びカルダレットの静脈内投与は48時間持続して行われた。投与7日目(投与開始日=投与0日目、以下同じ。)のSPECTによる梗塞サイズ、左心室の収縮末容積(ESV)、左心室の拡張末容積(EDV)及び左心室の駆出率(LVEF)並びに心臓の血清マーカーの値を測定した。なお、血清マーカーは投与0〜5日目のTnT、投与0〜3日目のCKのAUCを測定した。
【0084】
以下に前壁ST上昇型心筋梗塞と診断されたTIMI値が0か1の247名(低投与群88人、高投与群70人、カルダレット非投与群89人)の患者についての測定結果を示す。
【0085】
【表10】

【0086】
また、TIMI値に関係なく前壁ST上昇型心筋梗塞と診断された359名の測定結果も上記と同様に非投与群に比べカルダレット投与群(低投与群及び高投与群)の方が全ての測定項目おいて改善傾向を示した。
【0087】
上記の結果より、カルダレットは経皮的冠動脈インターベンションを受けた前壁ST上昇型心筋梗塞患者の心筋障害を軽減し心筋機能を保護しうることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明のアミノベンゼンスルホン酸誘導体もしくはその塩、又はそれらの水和物もしくは溶媒和物は、経皮的冠動脈インターベンションを受けた前壁ST上昇型心筋梗塞患者の心筋障害を軽減し心筋機能を保護しうることが明らかとなった。従って、上述したアミノベンゼンスルホン酸誘導体もしくはその塩、又はそれらの水和物もしくは溶媒和物は経皮的冠動脈インターベンションを受ける患者に投与することを特徴とする虚血性循環器疾患の予防及び/又は治療のための薬剤として有用である。
【0089】
なお、本出願は2004年3月5日付で出願された日本特許出願、特願2004−63167号に基づいており、その全体が引用により援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
虚血性循環器疾患の予防及び/又は治療のための薬剤であって、経皮的冠動脈インターベンションを受ける患者に投与することを特徴とする、下記一般式(I)
【化1】


(式中、R1 は水素原子、C1−C6 のアルキル基、C3−C7 のシクロアルキル基、C1−C4 のハロゲン化アルキル基、ハロゲン原子、又はC6−C12のアリール基を表し;R2 は水素原子、C1−C6 のアルキル基、又はシアノ基、ニトロ基、C1−C6 のアルコキシ基、ハロゲン原子、C1−C6 のアルキル基、及びアミノ基からなる群から選ばれる1又は2以上の置換基を有していても良いC7−C12のアラルキル基を表し;nは1から4の整数を表す)
で表されるアミノベンゼンスルホン酸誘導体もしくはその塩、又はそれらの水和物もしくは溶媒和物で示される化合物を有効成分として含有する薬剤。
【請求項2】
虚血性循環器疾患が心筋梗塞又は狭心症である請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
心筋梗塞がST上昇型心筋梗塞である請求項2に記載の薬剤。
【請求項4】
ST上昇型心筋梗塞が前壁ST上昇型心筋梗塞である請求項3に記載の薬剤。
【請求項5】
の置換位置が5位である請求項1から4のいずれかに記載の薬剤。
【請求項6】
nが2である請求項1から5のいずれかに記載の薬剤。
【請求項7】
が水素原子、C−Cのアルキル基、又は、C−Cのアルキル基、C−Cのアルコキシ基及びハロゲン原子から選ばれる1又は2以上の置換基を有していても良いC−C12のアラルキル基である請求項1から6のいずれかに記載の薬剤。
【請求項8】
が水素原子及びC−Cのアルコキシ基から選ばれる1又は2以上の置換基を有していても良いC−C12のアラルキル基である請求項1から7のいずれかに記載の薬剤。
【請求項9】
が水素原子である請求項1から8のいずれかに記載の薬剤。
【請求項10】
が水素原子、C1−C6 のアルキル基、C−Cのシクロアルキル基、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子、又はフェニル基である請求項1から9のいずれかに記載の薬剤。
【請求項11】
がC1−Cのアルキル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基、塩素原子、臭素原子又はフェニル基である請求項1から10のいずれかに記載の薬剤。
【請求項12】
がメチル基又はプロピル基である請求項1から11のいずれかに記載の薬剤。
【請求項13】
有効成分が、下記化合物から選ばれる請求項1から4のいずれかに記載の薬剤。
5−メチル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−トリフルオロメチル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−n−プロピル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−フェニル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−クロロ−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−ブロモ−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−iso−プロピル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−シクロヘキシル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−n−プロピル−2−(1−ホモピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−n−プロピル−2−[4−(2,3,4−トリメトキシベンジル)−1−ピペラジニル]ベンゼンスルホン酸;
5−n−プロピル−2−[4−(3,4−ジメトキシベンジル)−1−ピペラジニル]ベンゼンスルホン酸
【請求項14】
有効成分が、下記化合物から選ばれる請求項13記載の薬剤。
5−メチル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−n−プロピル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸
【請求項15】
有効成分が、5−メチル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸 一水和物である請求項1から14のいずれかに記載の薬剤。
【請求項16】
経皮的冠動脈インターベンションを受ける患者に投与することを特徴とする、5−メチル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸 一水和物を有効成分として含有する前壁ST上昇型心筋梗塞の予防及び/又は治療のための薬剤。
【請求項17】
経皮的冠動脈インターベンションを受ける患者がTIMIグレード0又は1であることを特徴とする請求項1から16のいずれかに記載の薬剤。
【請求項18】
有効成分を経皮的冠動脈インターベンションを受ける前に投与を開始することを特徴とする、請求項1から17のいずれかに記載の薬剤。
【請求項19】
有効成分を静脈内に48時間持続投与することを特徴とする請求項1から18のいずれかに記載の薬剤。
【請求項20】
経皮的冠動脈インターベンションを受ける患者に下記一般式(I)
【化2】


(式中、R1 は水素原子、C1−C6 のアルキル基、C3−C7 のシクロアルキル基、C1−C4 のハロゲン化アルキル基、ハロゲン原子、又はC6−C12のアリール基を表し;R2 は水素原子、C1−C6 のアルキル基、又はシアノ基、ニトロ基、C1−C6 のアルコキシ基、ハロゲン原子、C1−C6 のアルキル基、及びアミノ基からなる群から選ばれる1又は2以上の置換基を有していても良いC7−C12のアラルキル基を表し;nは1から4の整数を表す)
で表されるアミノベンゼンスルホン酸誘導体もしくはその塩、又はそれらの水和物もしくは溶媒和物で示される化合物を有効成分として含有する薬剤を投与することを特徴とする、虚血性循環器疾患の予防及び/又は治療方法。
【請求項21】
虚血性循環器疾患が心筋梗塞又は狭心症である請求項20に記載の方法。
【請求項22】
心筋梗塞がST上昇型心筋梗塞である請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ST上昇型心筋梗塞が前壁ST上昇型心筋梗塞である請求項22に記載の方法。
【請求項24】
の置換位置が5位である請求項20から23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
nが2である請求項20から24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
が水素原子、C−Cのアルキル基、又は、C−Cのアルキル基、C−Cのアルコキシ基及びハロゲン原子から選ばれる1又は2以上の置換基を有していても良いC−C12のアラルキル基である請求項20から25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
が水素原子及びC−Cのアルコキシ基から選ばれる1又は2以上の置換基を有していても良いC−C12のアラルキル基である請求項20から26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
が水素原子である請求項20から27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
が水素原子、C1−C6 のアルキル基、C−Cのシクロアルキル基、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子、又はフェニル基である請求項20から28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
がC1−Cのアルキル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基、塩素原子、臭素原子又はフェニル基である請求項20から29のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
がメチル基又はプロピル基である請求項20から30のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
有効成分が、下記化合物から選ばれる請求項20から23のいずれかに記載の方法。
5−メチル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−トリフルオロメチル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−n−プロピル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−フェニル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−クロロ−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−ブロモ−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−iso−プロピル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−シクロヘキシル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−n−プロピル−2−(1−ホモピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−n−プロピル−2−[4−(2,3,4−トリメトキシベンジル)−1−ピペラジニル]ベンゼンスルホン酸;
5−n−プロピル−2−[4−(3,4−ジメトキシベンジル)−1−ピペラジニル]ベンゼンスルホン酸
【請求項33】
有効成分が、下記化合物から選ばれる請求項32記載の方法。
5−メチル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸;
5−n−プロピル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸
【請求項34】
有効成分が、5−メチル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸 一水和物である請求項20から33のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
経皮的冠動脈インターベンションを受ける患者に5−メチル−2−(1−ピペラジニル)ベンゼンスルホン酸 一水和物を有効成分として含有する薬剤を投与することを特徴とする、前壁ST上昇型心筋梗塞の予防及び/又は治療方法。
【請求項36】
経皮的冠動脈インターベンションを受ける患者がTIMIグレード0又は1であることを特徴とする請求項20から35のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
有効成分を経皮的冠動脈インターベンションを受ける前に投与を開始することを特徴とする、請求項20から36のいずれかに記載の方法。
【請求項38】
有効成分を静脈内に48時間持続投与することを特徴とする請求項20から37のいずれかに記載の薬剤。


【国際公開番号】WO2005/084668
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【発行日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510730(P2006−510730)
【国際出願番号】PCT/JP2005/003722
【国際出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(000006725)三菱ウェルファーマ株式会社 (92)
【Fターム(参考)】