説明

蛍光分析装置

【課題】高精度の測定が可能で、オンサイト分析に適した小型、堅牢な蛍光分析装置を実現する。
【解決手段】蛍光分析装置1は、測定対象に励起光を照射するための励起光源12、測定対象が発する蛍光を検出する検出器13、測定対象の励起波長を選択的に透過させる励起光フィルタ14、励起光成分を除去し、検出器13への励起光の侵入を避けるために励起光をカットする励起光カットフィルタ15、測定対象が発する蛍光波長を選択的に透過させる蛍光フィルタ16を備えており、励起光源12は励起光の光軸がカートリッジ30の表面30cに対して傾斜するように配置され、検出器13は受光面13aがカートリッジ30の励起光照射領域に対向して配置され、受光面13aが励起光照射領域よりも大きくなるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象を吸着する吸着剤が充填部に充填されたカートリッジに励起光を照射し、測定対象が発する蛍光の蛍光強度に基づいて定量分析を行う蛍光分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、残留農薬や食品添加物の分析にはガスクロマトグラフ法や液体クロマトグラフ法が用いられてきた。しかし、これらの方法は測定装置が高額であるとともに、測定に時間がかかるため、フィールドなどで使用するオンサイト分析、スクリーニングには適していない。
そこで、これら方法よりも短時間で測定可能な蛍光発光測定法の適用が考えられる。
オンサイト分析を行うために測定時間を短縮するには、蛍光発光分析法を適用することが有効と考えられる。従来の蛍光分析装置(例えば、特許文献1)では、対象物質の励起光及び蛍光波長が解らないケースや測定精度を向上させるため、励起光及び蛍光を分光する分光器を用いている。また、測定対象の蛍光発光領域を小さくし、レンズなどの光学系により集光効率を高めることにより感度向上を図っているため、分析装置の小型化やフィールド等へ持ち運び使用することが困難である。
一方、分析装置を小型化する試みとして、光学系にプリズムを用いた蛍光検出装置(例えば、特許文献2)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4450750号
【特許文献2】特開2003−263667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献2に記載のような技術では、プリズムを用いており角度を持った面へ光学フィルタなどを成膜する構成により、励起光と蛍光を合成分波するため、光学フィルタの角度依存性が測定精度に影響する。また、励起光、蛍光がP波、S波に分離されてしまい、偏光成分を考慮しなければならない。以上のように、十分な測定精度や測定再現性を得ることができないとともに、光学系に高い精度が要求されるため、オンサイトにおける使用に適した堅牢さを保つことが困難である。
【0005】
そこで、本発明は、高精度の測定が可能で、オンサイト分析に適した小型、堅牢な蛍光分析装置を実現することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、上記目的を実現するために、請求項1に記載の発明では、測定対象を吸着する吸着剤が充填部に充填されたカートリッジに励起光を照射し、測定対象が発する蛍光の蛍光強度に基づいて定量分析を行う蛍光分析装置であって、測定対象に励起光を照射する励起光源と、測定対象が発する蛍光を検出する検出器と、励起光源の前方に配置され、測定対象の励起波長を選択的に透過させる励起光フィルタと、検出器の手前に配置され、励起光成分を除去する励起光カットフィルタと、検出器の手前に配置され、測定対象が発する蛍光波長を選択的に透過させる蛍光フィルタと、前記検出器により検出された蛍光の発光強度に基づき対象物質の定量分析を行う定量分析部と、前記励起光源による励起光の照射を制御する励起光制御部と、を備え、前記励起光源による励起光の光軸が、前記カートリッジの表面において励起光が全反射しない角度で前記カートリッジの表面に対して傾斜するように励起光源を配置し、前記検出器に蛍光が入射する受光面は、カートリッジの励起光照射領域に対向して配置され、当該受光面がカートリッジの励起光照射領域よりも大きくなるように構成されている、という技術的手段を用いる。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、励起光フィルタにより測定対象の励起に有効な励起波長を選択的に照射することができるので、測定精度を向上させることができる。励起光カットフィルタ及び蛍光フィルタを用いることにより、励起光をカットし、測定対象が発した蛍光だけを選択的に検出器に入射させることができる。これにより、分光器を使用しない構成により高精度の測定が可能となり、オンサイト分析に適した小型、堅牢な蛍光分析装置を実現することができる。
また、カートリッジの表面に対して傾斜して励起光を照射するため、吸着剤に対して励起光の照射する面積を拡大することができる。これにより、測定対象の吸着剤による吸着状態に吸着量の多少の分布がある場合でも、局所の測定でなく広い範囲を測定することができるので、測定精度を向上させることができる。
そして、検出器は、受光面がカートリッジの励起光照射領域に対向して配置され、当該受光面がカートリッジの励起光照射領域よりも大きくなるように構成されているため、蛍光を効率よく検出器に入射させることができ、測定精度を向上させることができる。
以上のように、高精度の測定が可能で、オンサイト分析に適した小型、堅牢な蛍光分析装置を実現することができる。
【0008】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の蛍光分析装置において、前記励起光源による励起光の光軸が、前記カートリッジの励起光照射領域が前記カートリッジの充填部より広くなる角度で傾斜するように励起光源を配置する、という技術的手段を用いる。
【0009】
請求項2に記載の発明のように、カートリッジの励起光照射領域がカートリッジの充填部より広くなる角度で傾斜するように励起光源を配置することにより、励起光が照射される吸着剤の量を増大させることができるので、測定精度を更に向上させることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載の蛍光分析装置において、前記励起光源として、発光ダイオードまたは半導体レーザを用いる、という技術的手段を用いる。
【0011】
請求項3に記載の発明のように、励起光として良好な波長特性を有し、小型化が可能な発光ダイオード、半導体レーザを用いることができる。特に、発光ダイオードは広い面積に励起光を照射可能であり、好適に用いることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明では、請求項3に記載の蛍光分析装置において、前記励起光制御部は、前記励起光源による励起光をパルス発光させる、という技術的手段を用いる。
【0013】
請求項4に記載の発明のように、励起光源に発光ダイオード、半導体レーザを用いる場合には、励起光はパルス発光させることが好ましい。これにより、励起光源の出力を上げ、輝度を向上させることができる。また、連続発光を行うと、励起光源の温度が上昇し、温度特性により励起光のピーク波長が変化し、発光強度が変化することで蛍光の強度に影響を及ぼすことがある。パルス発光では励起光源の温度が上昇しにくいため、このような問題を避けることができる。
【0014】
請求項5に記載の発明では、請求項4に記載の蛍光分析装置において、前記パルス発光される励起光は矩形波で制御され、前記定量分析部は、励起光発光後に蛍光強度が一定となったときの蛍光強度に基づいて定量分析を行う、という技術的手段を用いる。
【0015】
パルス光を矩形波で制御すると、蛍光強度は一定値を示すため演算処理が容易であるが、蛍光は励起光照射開始後に数10msec程度遅れて発光するため、請求項5に記載の発明のように、励起光発光後に蛍光強度が一定となったときの蛍光強度に基づいて定量分析を行うことにより測定精度を向上させることができる。
【0016】
請求項6に記載の発明では、請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載の蛍光分析装置において、励起光及び蛍光に対する透光性を有し、励起光に対して発蛍光性を持たない材料により作製された平坦面を有する基体の内部に、吸着剤を充填保持する充填部と、当該充填部に測定対象を含む溶液の通液及び排出が可能な流路と、が形成されているカートリッジを用い、前記平坦面側から前記充填部に励起光を照射し、蛍光を検出する、という技術的手段を用いる。
【0017】
請求項6に記載の発明のように構成されたカートリッジでは、平坦面側から充填部に励起光を照射し、蛍光を検出する、つまり、励起光を照射する励起光照射領域及び蛍光を検出するための蛍光検出領域が平坦面となるため、励起光の受光効率を高くすることができるとともに、蛍光が広がりにくく検出器による検出効率を高くすることができるので、測定精度を向上させるために好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】蛍光分析装置の概略構成を示す説明図である。
【図2】蛍光分析装置の装置本体の構造を示す説明図である。図2(A)は透視説明図、図2(B)は図2(A)のA−A矢視断面図である。
【図3】蛍光分析装置に取り付けて使用するカートリッジの構造を示す説明図である。図3(A)は励起光を照射する面を見た平面図、図3(B)は図3(A)のB−B矢視断面図である。
【図4】充填部、照射窓及び受光面の位置関係、面積の関係の一例を示す説明図である。
【図5】蛍光強度の測定方法を示す説明図である。
【図6】カートリッジの変更例を示す説明図である。図6(A)は長手方向の断面図、図6(B)は図6(A)を図中左方向から見た平面図である。
【図7】実施例の測定で検出された蛍光プロファイルを示す説明図である。
【図8】実施例の測定結果と高速液体クロマトグラフィー−質量分析法による定量結果とを比較する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る蛍光分析装置について、図を参照して説明する。
【0020】
本発明の蛍光分析装置1は、図1に示すように、装置本体10と制御装置20とからなる。制御装置20は、パーソナルコンピュータなどにより構成され、検出器13により検出された蛍光の発光強度に基づき対象物質の定量分析、例えば濃度の算出を行う定量分析部21と、励起光源12による励起光の照射を制御する励起光制御部22と、を備えている。
【0021】
装置本体10は、図2に示すように、筐体11の内部に、測定対象に励起光を照射するための励起光源12、測定対象が発する蛍光を検出する検出器13、励起光フィルタ14、励起光カットフィルタ15、蛍光フィルタ16を備えている。なお、図2では、説明のため、透視図を用い内部構造を示しているが、測定時には筐体11の内部は視認することができない。
【0022】
筐体11には、励起光及び蛍光を透光可能な材料からなり、測定対象を吸着固定する吸着剤が充填されたカートリッジ30が取り付けられる。カートリッジ30を構成する材料としては、ガラス、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、透明塩化ビニル(PVC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリプロピレン(PP)、フッ素樹脂などを使用することができ、検出する光の波長や使用溶媒への耐性などを考慮して適宜選択することができる。ここで、検出器13において検出される蛍光のうち、バックグランドを増大させる蛍光を低減させるためには、励起光に対して発蛍光性を持たないことが好ましい。上記材料のうち、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)は、低蛍光性、光透過性が高く好ましい。
【0023】
本実施形態では、カートリッジ30は平板状のPMMAにより形成され、図3に示すように、本体内部に、吸着剤31を充填保持する充填部30aと、充填部30aに試料溶液の導入及び洗浄液の排出が可能とするための流路30bと、が形成されている。ここで、充填部30aが励起光を照射する励起光照射領域及び蛍光を検出するための蛍光検出領域となる。
充填部30aは吸着剤31全体に励起光が照射され受光効率が高くなるように、例えば、厚さが10mm以下に、薄く形成されている。一方、吸着剤31の量は、測定対象の吸着量に関係し、少ないと十分な量の測定対象を吸着できず分析感度の低下を招く。そこで、測定対象を十分に吸着するために、必要量の吸着剤を充填できるように、面積が十分に広く形成されている。励起光照射領域及び蛍光検出領域は、十分な面積を有する平坦面となるため、励起光の受光効率を高くすることができるとともに、蛍光が広がりにくく検出器13による検出効率を高くすることができる。
本実施形態では、充填部30aは1辺5mmの6角形状で、面積75mm、深さ1.6mm、容積120mmとなるように形成した。
【0024】
図2に示すように、筐体11には、カートリッジ30を固定するホルダ11a、励起光源12を固定する励起光源固定部11b、検出器13を固定する検出器固定部11c、励起光源12から照射される励起光及び測定対象が発光する蛍光の光路である照射室11d及びカートリッジ30に励起光を照射するための照射窓11eが設けられている。
本実施形態では、筐体11は、アルミニウム合金を加工したブロックにより作製され、照射室11dなどの内面には励起光により蛍光発光しない材料により黒塗装が施されている。これにより、励起光の迷光及び外光の散乱によるバックグラウンド光増に起因する測定精度の低下を防ぐことができる。
【0025】
励起光源12は、励起光の光軸がカートリッジ30の表面30cに対して傾斜し、筐体11に固定されたカートリッジ30の充填部30aに、充填部30aへの垂線から傾斜した方向から励起光を照射できるように励起光源固定部11bに配置されている。本実施形態では、励起光源12は、励起光源12の光軸が充填部30aの中心部を向くように配置されている。
【0026】
励起光源12としては、小型で、励起光の波長幅を狭くすることができ、広い面積に励起光を照射可能な発光ダイオード(LED)を好適に用いることができる。ここで、励起光源12としてLEDを用いる場合、励起光制御部22により励起光をパルス光として照射することができる。本実施形態では、励起光源12として紫外線LEDを用いる。
【0027】
励起光源12の光軸のカートリッジ30に対する傾斜角度θは、励起光を照射する面積を十分に大きくすることができ、かつ、カートリッジ30の表面30cで励起光が全反射しない範囲とする。特に、励起光が充填部30a全域に照射される角度とすることが好ましい。
傾斜角度θが小さすぎると励起光を十分拡大し十分な面積に照射することができないため、蛍光発光の再現性や測定精度を向上させることができない。また、カートリッジ30の表面30cにおいて励起光が正反射して検出器13に励起光が入射してしまいバックグラウンドが増大し、測定精度が低下してしまう。
【0028】
一方、θが大きすぎるとカートリッジ30の表面30cにおいて励起光が全反射してしまい、充填部30aに充填された吸着剤31に励起光が照射されなくなるため、測定自体ができなくなる。このため、傾斜角度θは、例えば、カートリッジ30の材質としてPMMAを採用する場合に、15°≦θ≦75°とすることができ、本実施形態では、θ=45°とした。
【0029】
検出器13は、蛍光を電流に変換して検出可能な受光素子を備え、受光した特定の波長の蛍光を電気信号に変換するように構成されている。受光素子としては、フォトダイオード、アバランシェフォトダイオード、光電子増倍管、CCD、CMOSなど各種検出素子を用いることができる。本実施形態では、温度特性に優れたフォトダイオードを採用した。
【0030】
検出器13は、蛍光を受光する受光面13aがカートリッジ30の充填部30aに対向するように垂直上方に配置され、受光面13aがカートリッジ30の充填部30aを表面30cから見た面積よりも大きくなるように構成されている。充填部30a、照射窓11e及び受光面13aの位置関係、面積の関係の一例を図4に示す。検出器13は、カートリッジ30に対して励起光を遮蔽しない程度の距離まで近接させて、蛍光を効率よく受光面13aへ入射させることが好ましい。
【0031】
励起光源12の前方には、測定対象の励起波長を選択的に透過させ、特に可視光成分を除去する励起光フィルタ14が配置される。これにより、測定対象の励起に有効な励起波長を選択的に照射することができるので、測定精度を向上させることができる。
【0032】
検出器13の手前には、検出器13への励起光の侵入を避けるために励起光をカットする励起光カットフィルタ15と、測定対象が発する蛍光波長を選択的に透過させる蛍光フィルタ16と、が配置されている。
励起光カットフィルタ15、蛍光フィルタ16は、光吸収性の色ガラスや金属酸化物、金属窒化物、金属フッ化物などの誘電体薄膜または金属薄膜からなる多層膜を基板上に形成したフィルタである。誘電体薄膜としては、親水性あるいは非親水性の無機化合物であって、例えばTiO(二酸化チタン)、Ta(五酸化タンタル)、ZrO(酸化ジルコン)、A1(酸化アルミニウム)、Nb(五酸化ニオブ)、SiO(酸化ケイ素)、Si(窒化ケイ素)、MgF(フッ化マグネシウム)などが挙げられる。誘電体多層薄膜層の各膜厚は、数十nm〜数百nmに設定される。ここで、「金属薄膜層」は、例えば金、銀、プラチナのような酸化されにくく、金属光沢を有する金属のごく薄い膜構造体をいう。これらの誘誘電体薄膜および金属薄膜の成膜方法は特に限定されるものではないが、蒸着法やスパッタリング法で成膜されることが好ましい。このような干渉フィルタは、透明なガラスやプラスチックなどから成る基板の表面に成膜されるが、本件では励起光により基板自身からの蛍光発光が無いものを選択する必要があるため、ガラスで特に石英ガラスまたは白板ガラスへの成膜が望ましい。ここで、励起光カットフィルタ15と蛍光フィルタ16とは同一基板を用いて一体的に構成することもできる。
【0033】
励起光カットフィルタ15により、励起光が検出器13へ入射してバックグラウンドが増大することを避けることができる。また、蛍光フィルタ16により、カートリッジ30が蛍光発光した場合なども、測定対象が発した蛍光だけを検出器13に入射させることができる。このように、分光器を用いることなく、励起光をカットし、測定対象が発した蛍光だけを選択的に検出器13に入射させることができる。
【0034】
例えば、カビ毒であるオクラトキシン及びアフラトキシンを分析する場合を例にとると、アフラトキシンBについては励起波長:365nm、蛍光波長:450nm、オクラトキシンAについては励起波長:330nmまたは370nm、蛍光波長:460nmまたは420nmである。従って、370nmに極大発光を持つ紫外発光LEDを励起光源として使用することができる。この紫外発光LEDに300〜400nmの光を透過する励起光フィルタ14を組み合わせて用いることによりアフラトキシン及びオクラトキシンの励起に有効な励起波長を得ることができる。一方、受光側には400nm以下の光を除去する励起光カットフィルタ15と、長波長光をカットする蛍光フィルタ16とを用いると、励起光の影響を受けずにアフラトキシン及びオクラトキシンに基づく蛍光を確実に受光することが可能となる。
【0035】
次に、本発明の蛍光分析装置1を用いた測定方法について説明する。まず、食品などの測定検体に、粉砕、溶解、ろ過または遠心分離などの所定の調整を行って試験溶液を作製し、試験溶液をカートリッジ30に流路30bから通液して測定対象を吸着剤31に吸着させる。このカートリッジ30を筐体11のホルダ11aに照射窓11eに充填部30aが面するように取り付ける。
【0036】
続いて、制御装置20の励起光制御部22により励起光源12を制御し、励起光をカートリッジ30に照射する。このとき、励起光フィルタ14により、励起光のうち測定対象の励起波長を選択的に透過させる。
【0037】
カートリッジ30の充填部30aに充填された吸着剤31に励起光が照射されると、吸着剤31に吸着された測定対象が蛍光を発光する。検出器13には、この蛍光とともに励起光の迷光やカートリッジ30が発する蛍光が入射しようとするが、励起光カットフィルタ15及び蛍光フィルタ16により測定対象が発光した蛍光のみが選択的に透過され、検出器13に入射される。
【0038】
検出器13により検出した蛍光強度に基づいて制御装置20の定量分析部21において演算処理することにより、対象物質の定量分析、例えば濃度測定、を行う。
【0039】
ここで、定量分析部21には、あらかじめ取得しておいた測定対象を吸着前のカートリッジ30での蛍光強度がバックグラウンドとして記憶されており、上記の蛍光強度に差分処理を行うことにより、測定精度を向上させている。
【0040】
励起光源12として、LEDを用いた場合には、励起光はパルス発光させて照射することが好ましい。パルス発光を行うことにより、LEDへの印加電圧を上げることができ、輝度を向上させることができる。また、出力調整を行いやすくすることができる。また、LEDを連続的に発光させると、温度が上昇し、温度特性により励起光のピーク波長が変化(例えば数nm移動)したり、発光強度が変化したりして、蛍光の強度に影響を及ぼすことがある。パルス発光ではLEDの温度が上昇しにくいため、このような問題を避けることができる。また、パルス光を矩形波とすることにより、検出器13で受光した蛍光の演算処理が容易となる。
【0041】
蛍光は、励起光照射開始後に数10msec程度遅れて発光し、励起光照射停止後も発光を数10msec程度継続する。精度の高い測定を行うためには、蛍光強度が一定値を維持する定常状態における蛍光強度を測定することが重要である。例えば、図5(A)に示すように、励起光の発光時間が短い場合には、発光強度が一定となる前に、蛍光強度が低下してしまう。そこで、図5(B)に示すように、蛍光強度が一定値を維持する定常状態を示す照射条件とし、一定値に達してから蛍光強度を用いることが好ましい。例えば、励起光の点灯時間は120msecとし、励起光照射後に、蛍光強度が一定となったときから20msec後、または、一定時間の積算値を求め、濃度換算に用いる。
【0042】
(変更例)
本実施形態では、励起光源12として紫外線発光ダイオードを用いたが、これに限定されるものではない。例えば、可視光発光ダイオードや励起光として良好な波長特性を有する半導体レーザ、励起光を連続して発光するハロゲンランプや超高圧水銀灯などを用いることができる。ここで、励起光源12として可視光LED、半導体レーザを用いる場合には、励起光制御部22により励起光をパルス光として照射するように構成することができる。また、励起光源12は複数個用意することができ、パルス光を用いる場合には、発光タイミングを任意に設定することができる。
【0043】
本実施形態では、励起光源12の光軸が充填部30aの中心部を向いた構成を示したが、これに限定されるものではない。例えば、測定対象が吸着剤31の特定箇所に偏在するような場合、励起光をその特定箇所を中心に照射されるように、カートリッジ30の位置を調整することもできる。
【0044】
カートリッジ30と検出器13との間にレンズを挿入し、蛍光を集光させる構成を用いることができる。これによれば、より効率よく蛍光を検出器13に入射させることができる。
【0045】
制御装置20は装置本体10の温度を測定する測温手段を備え、定量分析部21において励起光源12の温度特性を補正する演算処理を行うことができる。これにより、蛍光分析装置1をフィールド分析で使用する場合に、測定環境が及ぼす影響を低減することができる。
【0046】
本実施形態では、カートリッジとして外形が平板形状のものを用いたが、これに限定されるものではなく、各種形状のものを用いることができる。従来の蛍光分析装置で広く使用されている円筒形状のカートリッジを用いることもできるが、励起光照射領域及び蛍光検出領域が曲面である場合、励起光の均一照射が困難となり励起光の照射効率が下がり、蛍光発光量の低下とともに感度低下を招くおそれがあるため、励起光照射領域及び蛍光検出領域が平坦面であることが好ましい。
例えば、図6に示すような円筒を半割した半円筒状のカートリッジや角柱型、三角柱型など多角柱状に形成されたカートリッジを用いることができる。
カートリッジ40は、一端部が細く絞られて試料溶液の導入及び洗浄液の排出が可能とするための流路41bが形成された半円筒状の本体部41の内部空間を多孔質材料からなるフリット41d、41eにより吸着剤31を充填する充填部41aを区画してなる。カートリッジ40は、平坦面41cが励起光照射領域及び蛍光検出領域となるように筐体11に取り付けて用いる。
ここで、フリット41eの右側の空間は流路41bに相当し、本実施形態では、試料溶液は図中右側から充填部41aに導入される。
【0047】
[実施形態の効果]
本発明の蛍光分析装置1によれば、励起光フィルタ14により測定対象の励起に有効な励起波長を選択的に照射することができるので、測定精度を向上させることができる。励起光カットフィルタ15及び蛍光フィルタ16を用いることにより、励起光をカットし、測定対象が発した蛍光だけを選択的に検出器13に入射させることができる。これにより、分光器を使用しない構成により高精度の測定が可能となり、オンサイト分析に適した小型、堅牢な蛍光分析装置1を実現することができる。
また、カートリッジ30の表面30cに対して傾斜して励起光を照射するため、吸着剤31に対して励起光の照射する面積を拡大することができる。これにより、測定対象の吸着剤31による吸着状態に吸着量の多少の分布がある場合でも、局所の測定でなく広い範囲を測定することができるので、測定精度を向上させることができる。
そして、検出器13は、受光面13aがカートリッジ30の励起光照射領域(充填部30a)に対向して配置され、受光面13aがカートリッジ30の充填部30aよりも大きくなるように構成されているため、蛍光を効率よく検出器13に入射させることができ、測定精度を向上させることができる。
励起光源12に発光ダイオードを用い、パルス発光させる構成では、励起光源12の出力を上げ、輝度を向上させることができる。パルス発光では励起光源12の温度が上昇しにくいため、励起光のピーク波長のドリフト、発光強度の変化などが生じにくい。そして、パルス光を矩形波で制御し、励起光発光後に蛍光強度が一定となったときの蛍光強度に基づいて定量分析を行うことにより測定精度を向上させることができる。
以上のように、高精度の測定が可能で、オンサイト分析に適した小型、堅牢な蛍光分析装置1を実現することができる。
【実施例】
【0048】
本発明の蛍光分析装置を用いて、オクラトキシンAの定量分析を行った。まず、吸着剤として両性イオン性官能基導入吸着剤を用いてオクラトキシンAを吸着剤に吸着させたカートリッジを用意した。カートリッジとしては、充填部が面積75mm、深さ1.6mmに形成されているものを用いた。オクラトキシンAの吸着量は、0(ブランク)、1、3μgの3水準で測定を実施した。
【0049】
装置本体は、励起光源としての紫外発光LED(日亜化学工業株式会社:NSHU591B)、励起光フィルタとして紫外線透過フィルタ(HOYA株式会社:U360)、検出器の受光素子として受光面サイズ10mm×10mmで有効受光面積が100mmのシリコンフォトダイオード(浜松ホトニクス株式会社:S1337−1010BR)、励起光カットフィルタして石英ガラスまたは白板ガラスに、真空蒸着法によりTiO(二酸化チタン)とSiO(酸化ケイ素)を交互に積層し計42層で形成した赤外・紫外線カットフィルタと、蛍光フィルタとして計28層で形成したロングパスフィルタを用いて構成した。
励起光源はカートリッジに対して45°傾斜させて配置し、カートリッジの表面と検出器の受光面との距離は18.2mmと近接して配置した。
【0050】
上述のように構成された蛍光分析装置を用いて、励起光を照射して蛍光検出を行った。検出された蛍光プロファイルを図7に示す。
【0051】
制御装置の励起光制御部は、LED点灯後100msecから検出器により取得された蛍光強度のサンプリングを行う。サンプリングは0.01msec間隔で166回行い、サンプリング終了後にLEDを消灯するという制御により励起光の照射を行い、蛍光検出を行った。
【0052】
蛍光強度は、試料濃度に伴い滑らかに増加した。この結果を基に、ブランクのノイズから計算したオクラトキシンAの検出下限(S/N=3)は絶対負荷量で0.1μgであった。
【0053】
次に、測定後のカートリッジに0.1%トリフルオロ酢酸/MeOH(20/80)溶離液を通液し、オクラトキシンAを回収し、溶出液をODSカラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)−蛍光分析法により定量した。移動相にはMeCN/水/酢酸(49.5/49.5/1)を用い、励起波長333nm、蛍光波長光460nmで測定した。
図8に示すように、本発明の蛍光分析装置による測定結果(縦軸:蛍光強度の出力値)は、高精度測定が可能な高速液体クロマトグラフィー(HPLC)−蛍光分析法による定量値(横軸)と指数関数的な相関を示した。これは固相表面上でのオクラトキシンAの密度が高いために濃度消光を起こしているものと考えられたが、絶対負荷量1μgまでは、精度が高い測定が可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0054】
1…蛍光分析装置
10…装置本体
11…筐体
11a…ホルダ
11b…励起光源固定部
11c…検出器固定部
11d…照射室
11e…照射窓
12…励起光源
13…検出器
13a…受光面
14…励起光フィルタ
15…励起光カットフィルタ
16…蛍光フィルタ
20…制御装置
21…定量分析部
22…励起光制御部
30…カートリッジ
30a…充填部
30b…流路
30c…表面
31…吸着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象を吸着する吸着剤が充填部に充填されたカートリッジに励起光を照射し、測定対象が発する蛍光の蛍光強度に基づいて定量分析を行う蛍光分析装置であって、
測定対象に励起光を照射する励起光源と、
測定対象が発する蛍光を検出する検出器と、
励起光源の前方に配置され、測定対象の励起波長を選択的に透過させる励起光フィルタと、
検出器の手前に配置され、励起光成分を除去する励起光カットフィルタと、
検出器の手前に配置され、測定対象が発する蛍光波長を選択的に透過させる蛍光フィルタと、
前記検出器により検出された蛍光の発光強度に基づき対象物質の定量分析を行う定量分析部と、
前記励起光源による励起光の照射を制御する励起光制御部と、を備え、
前記励起光源による励起光の光軸が、前記カートリッジの表面において励起光が全反射しない角度で前記カートリッジの表面に対して傾斜するように励起光源を配置し、
前記検出器に蛍光が入射する受光面は、カートリッジの励起光照射領域に対向して配置され、当該受光面がカートリッジの励起光照射領域よりも大きくなるように構成されていることを特徴とする蛍光分析装置。
【請求項2】
前記励起光源による励起光の光軸が、前記カートリッジの励起光照射領域が前記カートリッジの充填部より広くなる角度で傾斜するように励起光源を配置することを特徴とする請求項1に記載の蛍光分析装置。
【請求項3】
前記励起光源として、発光ダイオードまたは半導体レーザを用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の蛍光分析装置。
【請求項4】
前記励起光制御部は、前記励起光源による励起光をパルス発光させることを特徴とする請求項3に記載の蛍光分析装置。
【請求項5】
前記パルス発光される励起光は矩形波で制御され、前記定量分析部は、励起光発光後に蛍光強度が一定となったときの蛍光強度に基づいて定量分析を行うことを特徴とする請求項4に記載の蛍光分析装置。
【請求項6】
励起光及び蛍光に対する透光性を有し、励起光に対して発蛍光性を持たない材料により作製された平坦面を有する基体の内部に、吸着剤を充填保持する充填部と、当該充填部に測定対象を含む溶液の通液及び排出が可能な流路と、が形成されているカートリッジを用い、前記平坦面側から前記充填部に励起光を照射し、蛍光を検出することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載の蛍光分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−19819(P2013−19819A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154398(P2011−154398)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000219738)東海光学株式会社 (112)
【出願人】(000229818)日本フイルコン株式会社 (58)
【出願人】(500433225)学校法人中部大学 (105)
【Fターム(参考)】