説明

蛍光X線分析装置のセル及び蛍光X線分析装置

【課題】 弾性膜の試料室を形成する部位に、しわや弛み(撓み)を確実に無くすことができる蛍光X線分析装置のセルを提供する。
【解決手段】 弾性膜11がセル本体12と膜固定体13との間に固定される際に、弾性膜11の外周部がセル本体12に係止されるように構成される蛍光X線分析装置のセル1において、セル本体12は、外周部が係止された弾性膜11を平面状にして支持すべく、凹部121aの周りに環状の支持部121bを備え、膜固定体13は、平面状にして支持された弾性膜11における支持部121bよりも内方且つ開口部132よりも外方の部位を押圧すべく、環状の押圧部131cを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の所定元素(例えば、軽油中の硫黄)を測定すべく、試料を収容する試料室の一部がX線透過性を有する弾性膜で形成される蛍光X線分析装置のセル、及びそのセルを備える蛍光X線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蛍光X線分析装置のセルとして、X線透過性を有する弾性膜と、弾性膜に覆われることにより試料を収容するための試料室を形成するセル本体と、弾性膜の外周部をセル本体と挾んで固定する膜固定体とを備えるセルが知られている。そして、例えば、弾性膜がセル本体と膜固定体とに挟まれて固定される際に、弾性膜の外周部がセル本体に係止されるように構成されるセルが提案されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平10−197460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載されるセルは、例えば、弾性膜の外周部がセル本体に十分に係止されていない場合には、弾性膜の外周部がセル本体に対して位置ずれを起こすため、弾性膜にしわや弛み(撓み)を発生させることがある。さらに、しわや弛み(撓み)のある弾性膜で形成された試料室に収容された試料に対して、弾性膜を介してX線を照射して、試料から発生する蛍光X線を検出しても、測定データにばらつきが生じるため、正確な測定データを取得することができない。
【0004】
よって、本発明は、かかる事情に鑑み、弾性膜の試料室を形成する部位に、しわや弛み(撓み)を確実に無くすことができる蛍光X線分析装置のセルを提供することを課題とする。また、本発明は、正確な測定データを取得することができる蛍光X線分析装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る蛍光X線分析装置のセルは、X線透過性を有する弾性膜と、弾性膜に覆われることにより試料を収容するための試料室となる凹部を有するセル本体と、弾性膜をセル本体との間に介在させて固定すると共に、弾性膜を介して試料室内の試料にX線を照射させるための開口部を有する膜固定体とを備え、弾性膜がセル本体と膜固定体との間に固定される際に、弾性膜の外周部がセル本体に係止されるように構成される蛍光X線分析装置のセルにおいて、セル本体は、外周部が係止された弾性膜を平面状にして支持すべく、凹部の周りに環状の支持部を備え、膜固定体は、平面状にして支持された弾性膜における支持部よりも内方且つ開口部よりも外方の部位を押圧すべく、環状の押圧部を備えることを特徴とする。
【0006】
本発明によれば、セル本体が凹部の周りに環状の支持部を備えるため、支持部が弾性膜を平面状にして支持する。そして、膜固定体が環状の押圧部を備えるため、押圧部が、平面状にして支持された弾性膜における支持部よりも内方且つ開口部よりも外方の部位を押圧する。したがって、弾性膜における試料室を形成する部位に張力を加えることができる。
【0007】
また、本発明に係る蛍光X線分析装置のセルにおいては、支持部は、押圧部を内嵌するように構成され、弾性膜は、支持部の内周部と押圧部の外周部とに挟まれて固定されてもよい。
【0008】
かかる構成によれば、支持部が押圧部を内嵌するように構成されるため、支持部と押圧部との位置関係、即ち、位置決めを正確に行うことができる。また、弾性膜が支持部の内周部と押圧部の外周部とに挟まれて固定されるため、弾性膜をより確実に固定することができる。
【0009】
また、本発明に係る蛍光X線分析装置は、上記のセルと、試料室内の試料にX線を照射するX線源と、試料から発生する蛍光X線を検出する検出部とを備えることを特徴とする。
【0010】
かかる構成によれば、平面状に維持された弾性膜を介して、X線源が試料室内の試料にX線を照射する。そして、検出部が試料から発生する蛍光X線を検出する。
【0011】
また、本発明に係る蛍光X線分析装置は、内部に収容する試料を先端部から注出する注出手段をさらに備え、セルは、試料を試料室へ導入するための導入部と、試料室を介して導入部と連通し、試料を試料室から導出するための導出部とを備え、導入部は、注出手段の先端部と嵌合する入口部を備えてもよい。
【0012】
かかる構成によれば、注出手段が内部に収容する試料を先端部から外部へ注出することにより、導入部により、試料を試料室内に導入すると共に、導入部と試料室を介して連通している導出部により、試料室に収容されていた(測定済みの)試料や洗浄液を試料室外へ導出することができる。そして、導入部の入口部が注出手段の先端部と嵌合しているため、入口部から外気を侵入させることなく試料を試料室内に導入することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上の如く、本発明に係る蛍光X線分析装置のセルによれば、弾性膜における試料室を形成する部位に張力を加えることができるため、弾性膜における試料室を形成する部位に、しわや弛み(撓み)を確実に無くすことができるという優れた効果を奏する。
【0014】
また、本発明に係る蛍光X線分析装置によれば、平面状に維持された弾性膜を介して、X線源が試料室内の試料にX線を照射し、そして、検出部が試料から発生する蛍光X線を検出するため、正確な測定データを取得することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る蛍光X線分析装置のセル及び蛍光X線分析装置における一実施形態について、図1〜図7を参酌して説明する。
【0016】
本実施形態に係る蛍光X線分析装置は、図1〜図3に示すように、X線透過性の部位を有する試料室1aに液体(液状)の試料(例えば軽油)を収容するセル1と、試料室1a内の試料にX線を照射するX線源2と、試料から発生する蛍光X線を検出する検出部3と、セル1及びX線源2並びに検出部3を保持する保持部4とを備える。
【0017】
また、蛍光X線分析装置は、セル1に試料や洗浄液を供給すべく、内部に収容する試料を先端部から注出する注出手段5と、セル1から排出される試料や洗浄液を受けるための排液受手段6とを備える。なお、本実施形態においては、注出手段5を、注射器とし、また、排液受手段6を、ホース61及びボトル62としている。
【0018】
そして、蛍光X線分析装置は、検出部3で検出した蛍光X線から所定元素(例えば軽油中の硫黄)を分析(演算、測定)するように構成され、その分析結果を出力する出力手段7を備える。なお、本実施形態においては、出力手段7を、分析結果が印刷され、紙片排出口71から排出される紙片(図示していない)としている。
【0019】
さらに、蛍光X線分析装置は、分析者が各種コマンドや各種データを入力するために操作し、また、その操作内容等が表示される操作パネル8を備える。加えて、蛍光X線分析装置は、セル1、X線源2、検出部3、保持部4、注出手段5、排液受手段6、出力手段7、及び操作パネル8を収容する筐体9を備える。
【0020】
なお、図示していないが、蛍光X線分析装置は、試料を加温するための加熱手段(ヒータ)と、分析データを補正するための各種センサ(温度センサや気圧センサ)と、X線が外部に漏出するのを防止するためのX線遮蔽カバーと、X線遮蔽カバーが装着された状態にてX線を照射させるためのインターロック機構とを備える。
【0021】
セル1は、図4〜図7に示すように、X線透過性を有する弾性膜11と、弾性膜11に覆われることにより試料を収容するための試料室1aとなる凹部121aを有するセル本体12と、弾性膜11をセル本体12との間に介在させて固定する膜固定体13とを備える。また、セル1は、試料室1aから試料が漏出するのを防止する弾性のシール部材14と、セル本体12と膜固定体13とを固定するための固定手段15とを備える。
【0022】
弾性膜11は、X線を透過する樹脂で、薄膜状に形成される。具体的には、弾性膜11は、ポリイミドで形成され、円形状のシート状に形成されている。また、弾性膜11は、外周部をセル本体12と膜固定体13とに挾まれて固定される。そして、弾性膜11は、セル本体12の凹部121aとにより、試料室1aを形成する。なお、試料室1aにおいて、弾性膜11で形成される部位を、一般的に、窓部という(以下、弾性膜における試料室を形成する部位を「弾性膜の窓部」という)。
【0023】
セル本体12は、X線が装置外部に漏出するのを防止すべく、X線を透過しない材質(例えばステンレス)で形成される(なお、一部においては、弾性のシール部材12a,12bで形成される)。そして、セル本体12は、弾性膜11を介して、膜固定体13に外嵌される(内嵌する)被嵌合部121を備える。また、セル本体12は、試料を試料室1aに導入するための導入部122と、試料を試料室1aから導出するための導出部123とを備える。
【0024】
被嵌合部121は、セル本体12の端部に、円柱状に突出して形成される。そして、被嵌合部121は、弾性膜11がセル本体12と膜固定体13との間に固定される際に、膜固定体13との間に弾性膜11の外周部が挟まることにより、弾性膜11の外周部が係止されるように構成される。また、被嵌合部121は、外周部が係止された弾性膜11の窓部よりも大きい部位を平面状にして支持する支持部121bを備える。
【0025】
凹部121aは、円柱状に形成される被嵌合部121の端面部121cに設けられる。そして、凹部121aは、試料室1aが円錐台形状の内空間を形成するように構成される。具体的には、凹部121aは、平面状に形成される円形面と、該円形面の外縁に傾斜して連設される環状の側面とを備え、検出部3(図2参照)に向けて開口が拡がるように構成される。
【0026】
支持部121bは、凹部121aの周りに環状に形成されると共に、凸状に形成される。具体的には、支持部121bは、被嵌合部121の端面部121cに、被嵌合部121の凹部121aより大きい、即ち、凹部121aを囲うような環状に形成されると共に、端面部121cに対向する膜固定体13の部位(後述する嵌合部131の内面部131a)に向けて突出する凸状に形成される。
【0027】
より具体的には、支持部121bは、被嵌合部121の端面部121cの外縁に、環状且つ凸状に形成される。そして、支持部121bは、セル本体12(被嵌合部121)が弾性膜11の外周部を係止する際に、弾性膜11の窓部より大きい部位を平面状にして支持する。
【0028】
導入部122は、セル1の外部から試料を入れるべく、注出手段5(図1参照)の先端部と嵌合する入口部122aを備え、入口部122aから試料室1aに向けて斜め下方に試料を導入するように構成される。そして、導入部122は、傾斜して配置される試料室1aの下端部に接続され、下端部から試料室1a内に試料を導入するように構成される。
【0029】
導出部123は、試料室1aを介して、導入部122と連通して構成される。また、導出部123は、セル1の外部に試料を出すべく、排液受手段6のホース61(図1参照)の端部に接続される出口部123aを備え、試料室1aから出口部123aに向けて斜め上方に試料を導出するように構成される。そして、導出部123は、傾斜して配置される試料1aの上端部に接続され、上端部から試料室1a外へ試料を導出するように構成される。
【0030】
膜固定体13は、X線が装置外部に漏出するのを防止すべく、X線を透過しない材質(例えばステンレス)で形成される。そして、膜固定体13は、弾性膜11を介して、セル本体12の被嵌合部121を外嵌する嵌合部131を備える。また、膜固定体13は、弾性膜11を介して試料室1a内の試料にX線を照射させるための開口部132を備える。
【0031】
嵌合部131は、円筒状に形成され、セル本体12と膜固定体13とが弾性膜11を挟んで固定した際に、内面部131aが被嵌合部121の端面部121cと所定の隙間を有して対向し、内周部131bが被嵌合部121の外周部121dと所定の隙間を有して対向して配置される。また、膜固定体13は、セル本体12との間に弾性膜11を固定した際に、弾性膜11の窓部より大きい部位を平面状に押圧する押圧部131cを備える。
【0032】
押圧部131cは、嵌合部131の内面部131aに、環状に形成されると共に、凸状に形成される。そして、押圧部131cは、セル本体12の支持部121bよりも小さく且つセル本体12の凹部121aよりも大きく形成され、平面状にして支持された弾性膜11における支持部121bよりも内方且つ開口部132よりも外方の部位を、セル本体12(具体的には被嵌合部121の端面部121c)側に向けて押圧する。
【0033】
また、押圧部131cは、支持部121bに内嵌されると共に、押圧部131cの外周部は、支持部121bの内周部とにより、弾性膜11を挟んで固定する。具体的には、押圧部131cは、弾性膜11における試料室を形成する部位、即ち、中央の平面状の部位よりも外方の部位を凹凸状に変形させると共に、当該変形させた部位を支持部121bとにより挟んで固定する。
【0034】
開口部132は、弾性膜11の窓部より大きく形成される。また、開口部132は、弾性膜11の窓部を露出させるべく、円形状に形成されると共に、弾性膜11側から検出部3側に向けて拡がるようにして形成される。そして、開口部132は、セル本体1の凹部121aとにより、弾性膜11を介して、円錐台形状の内空間を形成する。具体的には、開口部132の内周面は、被嵌合部121の凹部121aの側面と略面一となるように構成される。
【0035】
シール部材14は、弾性膜11と、セル本体12の被嵌合部121の端面部121cとの間に配置され、被嵌合部121の端面部121cと嵌合部131の内面部131bとに押圧される。なお、本実施形態においては、シール部材14を、Oリングとし、被嵌合部121の端面部121cに設けられる環状溝に収容されて位置決めされる。
【0036】
そして、図1〜図3に戻り、X線源2は、平面状に形成される弾性膜11(試料室1aの窓部)に対して、照射するX線の光軸が傾斜するように配置される。そして、X線源2は、膜固定体13の開口部132内を通過し、弾性膜11の窓部を介して、試料室1a内の試料にX線を照射する。なお、本実施形態においては、X線源2を、X線管としている。
【0037】
検出部3は、試料室1a内の試料中に含まれる所定元素により、励起される蛍光X線を検出するように構成される。そして、検出部3は、さまざまな方向に放たれる蛍光X線を漏れなく、しかも、エネルギーが大きい状態で検出すべく、弾性膜11の近傍に配置される。なお、本実施形態においては、検出部3を、比例係数管としているが、半導体検出器としてもよい。
【0038】
保持部4は、セル1及びX線源2並びに検出部3を一体的にさせて保持する。具体的には、保持部4は、セル1及びX線源2並びに検出部3の配置が相違することにより、分析誤差が生じるのを防止すべく、セル1及びX線源2並びに検出部3を設定された所定位置に配置させる。なお、保持部4は、アルミニウムで形成される。
【0039】
筐体9は、操作パネル7及び出力手段8を有する装置本体91と、装置本体91に開閉自在に取り付けられる蓋体92とを備える。また、筐体9は、分析者が持ち運びするのを容易とすべく、把持部93を備える。
【0040】
装置本体91は、保持部4にて一体化された、セル1及びX線源2並びに検出部3を着脱可能に構成される。また、装置本体91は、セル1から取り外された注出手段5及び排液受手段6を空きスペースに収容可能に構成される。
【0041】
本実施形態に係る蛍光X線分析装置及びセル1の構成は以上の通りであり、次に、本実施形態に係るセル1の組み立て方法と、蛍光X線分析装置の分析方法(作動)とについて説明する。
【0042】
はじめに、セル1の組み立て方法について、図4〜図7を参酌して説明する。図4〜図6に示すように、セル本体12の被嵌合部121の端面部121cを弾性膜11で覆った状態にて、セル本体12の被嵌合部121に、膜固定体13の嵌合部131を嵌め込ませる(図4、図5、図6の順)。なお、弾性膜11で覆うことにより、シール部材14を、被嵌合部121の端面部121cの環状溝に収容させている。
【0043】
このとき、被嵌合部121の外周部121dと嵌合部131の内周部131bとの間に弾性膜11の外周部が挟まれるため、嵌合部131の内周部131bが弾性膜11の外周部を被嵌合部121の外周部に向けて押圧する。これにより、弾性膜11の外周部がセル本体12の嵌合部121(具体的には、外周部121d)に係止される一方、環状で且つ凸状に形成される支持部121bにより、弾性膜11の窓部より大きい部位が平面状に支持されることになる。
【0044】
そして、セル本体12の被嵌合部121に膜固定体13の嵌合部131をさらに嵌め込むと、図7に示すように、環状で且つ凸状に形成される押圧部131cにより、弾性膜11における支持部121bで支持される部位よりも内方で且つ開口部132(又は窓部)よりも外方の部位が押圧される。
【0045】
これにより、弾性膜11においては、外周部が係止された状態にて、押圧される部位が凹凸状に変形するため、窓部が伸びてさらに平面状になる。即ち、弾性膜11の窓部に、張力がさらに加えられることになる。
【0046】
その一方、環状で且つ凸状の支持部121bが環状で且つ凸状の押圧部131cに内嵌するため、支持部121bの内周部と押圧部131cの外周部とが弾性膜11を挟さんで固定し、さらには、シール部材14がセル本体12と膜固定体13とにより押圧されて圧縮するため、弾性膜11とセル本体12との間をシールする。
【0047】
そして、固定手段15にて、セル本体12と膜固定体13とを固定することにより、弾性膜11が被嵌合部121と嵌合部131とにより圧接される。このようにして、セル本体12と膜固定体13との間に弾性膜11を固定したセル1が組み立てられる。
【0048】
次に、蛍光X線分析装置の分析方法について、図1及び図2を参酌して説明する。図1及び図2に示すように、注出手段5の先端部を入口部122aに嵌合させ、注出手段5の内部に収容される試料を注出手段5の先端部から注出させる。
【0049】
すると、注出された試料が、導入部122により斜め下方(図2におけるA矢印方向)に流れ、試料室1aの下端から試料室1a内に導入される。このとき、注出手段5の先端部と導入部122の入口部122aとが密着しているため、入口部122aから外気が侵入するのを防止している。
【0050】
さらに、注出手段5から試料を注出し続けると、注出された試料が、導入部122により試料室1a内に導入されるのに伴い、試料室1a内の試料が、試料室1a内を斜め上方に流れ、導出部123により試料室1aの上端から試料室1a外へ導出される。そして、試料室1aから導出された試料が、導出部123により斜め上方(図2におけるB矢印方向)に流れ、出口部123aに接続されるホース61を介してボトル62内に受け入れられる。
【0051】
これにより、試料室1a内、具体的には、導入部122及び試料室1a並びに導出部123内に、試料が満たされた状態となる。なお、試料室1a内の試料に気泡(外気)が混入した場合においても、試料室1aが傾斜して配置されると共に、試料室1aの上端に導出部123が接続されているため、気泡が試料室1a内に留まることなく、導出部123を介してセル1の外部に排出される。
【0052】
その後、操作パネル8を操作することにより、分析が開始され、X線源2が、平面状に形成される弾性膜11に対して、光軸を傾斜させてX線を照射する(図2におけるC矢印は、X線の光軸を示す)。すると、照射されたX線が、膜固定体13の開口部132を通過し、弾性膜11に透過されることにより、試料室1a内の試料に照射される。なお、X線は、放射状に拡がって照射される。
【0053】
そして、試料中の所定元素により、試料から蛍光X線が発生する(放出される)と共に、発生した蛍光X線が、弾性膜11に透過され、さらに、膜固定体13の開口部132を通過した後に、検出部3にて検出される(図2におけるD矢印は、検出される蛍光X線の一例を示す)。
【0054】
このとき、セル本体12の凹部121a及び膜固定体13の開口部132が、検出部3に向けて拡がるように形成されているため、発生した蛍光X線が、セル本体12や膜固定体13と干渉して(例えばステンレスで形成される部位の中に存在する所定元素を検出して)、検出部3にて検出されるのを抑制している。
【0055】
さらに、検出部3で検出した蛍光X線から所定元素を分析し、その分析結果を紙片に印刷する。そして、紙片が紙片排出口71から排出されることにより、所定の試料についての分析が終了する。
【0056】
また、別の試料を続けて分析する場合には、注出手段5により、試料室1a内に洗浄液を流し、試料室1a内を洗浄する。具体的には、導入部122及び試料室1a並びに導出部123の内空間の容積を超える洗浄液を、導入部122及び試料室1a並びに導出部123内に流す。
【0057】
そして、注出手段5により、次に分析する試料を試料室1a内に導入させて、分析する。このとき、試料室1aにおいては、試料や洗浄液が下端部から導入され且つ上端部から導出されるため、残存する試料や洗浄液を重力により押し出しことができ、その結果、容易に置換することができる。これにより、コンタミネーションを防止することができる。
【0058】
以上より、本実施形態に係る蛍光X線分析装置のセル1は、セル本体12が凹部121aの周りに環状の支持部121bを備えるため、支持部121bが弾性膜11を平面状にして支持する。そして、膜固定体13が環状の押圧部131cを備えるため、押圧部131cが、平面状にして支持された弾性膜11における支持部121bよりも内方且つ開口部132よりも外方の部位を押圧する。
【0059】
これにより、弾性膜11の窓部(試料室を形成する部位)に張力を加えることができるため、弾性膜11の窓部(試料室を形成する部位)に、しわや弛み(撓み)を確実に無くすことができる。したがって、しわや弛み(撓み)を無くすために、例えば、厚い丈夫な弾性膜を採用することなく、X線透過性に優れる薄い弾性膜11を採用することもできるため、分析精度を向上させることができる。
【0060】
さらに、セル1を組み立てるのに習熟性が要求されないため、セル1の組み立て状況の再現性を向上させることができる。したがって、セル1の組み立て状況に起因する測定誤差が発生するのを防止できる。
【0061】
また、本実施形態に係る蛍光X線分析装置のセル1は、セル本体12の支持部121bが膜固定体13の押圧部131cを内嵌するように構成されるため、支持部121bと押圧部131cとの位置関係(位置決め)を正確に行うことができる。また、弾性膜11が支持部121bの内周部と押圧部131cの外周部とに挟まれて固定されるため、弾性膜11が平面状の部位(押圧される部位よりも内方の部位)に対して、凹凸状に変形された部位で支持部121b及び押圧部131cに固定される。
【0062】
これにより、弾性膜11がセル本体12(支持部121b)及び膜固定体13(押圧部131c)に固定された後に、弾性膜11が試料室1aの内圧により伸びるように変形した場合、弾性膜11が内方に向けて引っ張られることになるが、例えば、平面状の部位を挟んで固定するのに対して、凹凸状に変形された部位を挟んで掛止するようにして固定する方が、弾性膜11の位置ずれを防止することができる。
【0063】
また、本実施形態に係る蛍光X線分析装置のセル1は、試料室1a内の容積を小さくすることにより(例えば、1cc以下)、試料が接する表面積を小さくし、その結果、洗浄性を向上させることができ、さらには、分析する試料や洗浄液を少なくすることもできる。
【0064】
また、本実施形態に係る蛍光X線分析装置は、平面状に維持された弾性膜11を介して、X線源2が試料室1a内の試料にX線を照射する。そして、検出部3が試料から発生する蛍光X線を検出するため、正確な測定データを取得することができる。
【0065】
また、本実施形態に係る蛍光X線分析装置は、注出手段5が内部に収容する試料を先端部から注出することにより、導入部122により、試料を試料室1a内に導入すると共に、導入部122と試料室1aを介して連通している導出部123により、試料室1aに収容されていた測定済みの試料や洗浄液を試料室1a外へ導出することができる。
【0066】
したがって、例えば、各試料を分析するたびに個別のセルを準備する必要がないため、分析ごとにセルを廃棄することがなく、また、各試料を同一のセル1にて分析することができるため、個別のセルにより発生する測定誤差(弾性膜の平面状態等により発生する測定誤差)が生じるのを防止できる。
【0067】
また、本実施形態に係る蛍光X線分析装置は、導入部122の入口部122aが注出手段5の先端部と嵌合しているため、入口部122aから外気を侵入させることなく試料を試料室1a内に導入することができる。したがって、試料中に気泡が発生するのを防止できるため、分析精度を向上させることができる。
【0068】
また、本実施形態に係る蛍光X線分析装置は、注出手段5により、試料室1a内の試料の流れを停止させた状態で分析することができる。したがって、試料室1aの内圧、即ち、試料が弾性膜11に与える圧力を一定の状態にて何度も分析することができるため、弾性膜11の変形(伸び)状態が同じ状態にて分析でき、その結果、分析精度を向上させることができる。
【0069】
なお、本発明に係る蛍光X線分析装置のセル及び蛍光X線分析装置は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0070】
例えば、本発明に係る蛍光X線分析装置のセルは、図8に示すように、セル1’の内部を流れる試料の流速を一定とするように構成される場合でもよい。かかる構成を採用すべく、具体的には、セル1’は、導入部122’及び試料室1a’並びに導出部123’の内空間の断面積が一定となるように構成される。
【0071】
より具体的には、セル1’は、試料室1a’を形成するセル本体12’の凹部121a’を備え、凹部121a’は、湾曲状に形成される湾曲面と、該湾曲面の外縁に連設される環状の側面とを備える。かかる構成によれば、例えば、導入部122’及び試料室1a’並びに導出部123’内に、試料を円滑に流すことができる(液溜まりする箇所が発生するのを防止できる)。
【0072】
また、本発明に係る蛍光X線分析装置のセルは、試料室1a内の試料の流れを停止させるべく、弁を備える場合や、導入部122や導出部123に弁(逆止弁)の機能が設けられる場合でもよい。
【0073】
また、本発明に係るX線分析装置は、導出部123(例えば出口部123a)に、試料を検出する検出手段(センサ)を備える場合でもよい。かかる構成によれば、試料が試料室1a内に満たされていることを確認することができる。
【0074】
また、上記実施形態に係る蛍光X線分析装置のセル1においては、膜固定体13(嵌合部131の内周部131b)が弾性膜11の外周部をセル本体12(被嵌合部121の外周部121d)に向けて押圧することにより、弾性膜11の外周部がセル本体12に係止される場合を説明したが、かかる場合に限られず、例えば、セル本体に弾性膜の外周部を固定(係止)させべく、セル本体との間に弾性膜の外周部を挟むように構成される環状の固定部材をさらに備える場合でもよい。さらには、接着剤により、弾性膜11の外周部をセル本体12に係止(止着)させる場合でもよい。
【0075】
また、上記実施形態に係る蛍光X線分析装置のセル1においては、セル本体12の支持部121bが連続した凸状で且つ円環状に形成される場合を説明したが、かかる場合に限られず、例えば、支持部は、断続的な凸状に形成される場合でもよく、また、角環状に形成される場合でもよい。要するに、支持部は、弾性膜における支持する部位より内方の部位が平面状となるように支持可能に形成されていればよい。
【0076】
また、上記実施形態に係る蛍光X線分析装置のセル1においては、膜固定体13の押圧部131cが連続した凸状で且つ円環状に形成される場合を説明したが、かかる場合に限られず、例えば、押圧部は、断続的な凸状に形成される場合でもよく、また、角環状に形成される場合でもよい。要するに、押圧部は、平面状に支持された弾性膜における支持部よりも内方且つ開口部よりも外方の部位を押圧し、弾性膜における窓部(試料室を形成する部位)が平面状となるように形成されていればよい。
【0077】
また、上記実施形態に係る蛍光X線分析装置のセル1においては、導入部122及び導出部123を備える、即ち、フローセルの場合を説明したが、かかる場合に限られず、例えば、試料を内部に密閉する容器形状のセルの場合でもよい。
【0078】
また、上記実施形態に係るセル1においては、シール部材14がOリングである場合を説明したが、かかる場合に限られない。例えば、上記実施形態のセル1においては、シール部材14と試料室1aとの間には、セル本体12の部位が存在しているのに対して、当該部位を省略すべく、シール部材は、シート状で且つ環状のパッキン(環状平パッキン)とし、シール部材の内周部により、試料室の一部を形成させる場合でもよい。
【0079】
また、上記実施形態に係る蛍光X線分析装置は、セル1が装置本体91に対して着脱可能な構成である場合を説明したが、かかる場合に限られない。例えば、セルのうち、膜固定体が装置本体と一体的に形成される場合でもよい。
【0080】
また、上記実施形態に係る蛍光X線分析装置は、試料室1aに試料を導入するために注出手段5として注射器を採用した場合を説明したが、かかる場合に限られない。例えば、導入部122の入口部122aに吐出ポンプを取り付ける場合でもよく、また、導出部123の出口部123aに吸引ポンプを取り付ける場合でもよい。さらには、試料を収容する容器をセル1より高い位置に配置し、当該容器と導入部122の入口部122aとをホースで接続することにより、試料の重力を用いて試料を試料室1a内に導入する場合でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の一実施形態に係る蛍光X線分析装置の全体斜視図を示す。
【図2】同実施形態に係る蛍光X線分析装置の要部概略断面図を示す。
【図3】同実施形態に係る蛍光X線分析装置の要部概略斜視図を示す。
【図4】同実施形態に係る蛍光X線分析装置のセルの分解斜視図を示す。
【図5】同実施形態に係る蛍光X線分析装置のセルの組み立て方法を説明する断面図であって、(a)は全体概略図、(b)はE領域の拡大図を示す。
【図6】同実施形態に係る蛍光X線分析装置のセルの組み立て方法を説明する断面図であって、(a)は全体概略図、(b)はF領域の拡大図を示す。
【図7】同実施形態に係る蛍光X線分析装置のセルの組み立て方法を説明する断面図であって、(a)は全体概略図、(b)はG領域の拡大図を示す。
【図8】本発明の他の実施形態に係る蛍光X線分析装置のセルの断面図であって、(a)は全体概略図、(b)はH領域の拡大図を示す。
【符号の説明】
【0082】
1…セル、1a…試料室、2…X線源、3…検出部、11…弾性膜、12…セル本体、13…膜固定体、121…被嵌合部、121a…凹部、121b…支持部、122…導入部、122a…入口部、123…導出部、131…嵌合部、131c…押圧部、132…開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線透過性を有する弾性膜と、弾性膜に覆われることにより試料を収容するための試料室となる凹部を有するセル本体と、弾性膜をセル本体との間に介在させて固定すると共に、弾性膜を介して試料室内の試料にX線を照射させるための開口部を有する膜固定体とを備え、弾性膜がセル本体と膜固定体との間に固定される際に、弾性膜の外周部がセル本体に係止されるように構成される蛍光X線分析装置のセルにおいて、
セル本体は、外周部が係止された弾性膜を平面状にして支持すべく、凹部の周りに環状の支持部を備え、膜固定体は、平面状にして支持された弾性膜における支持部よりも内方且つ開口部よりも外方の部位を押圧すべく、環状の押圧部を備えることを特徴とする蛍光X線分析装置のセル。
【請求項2】
支持部は、押圧部を内嵌するように構成され、弾性膜は、支持部の内周部と押圧部の外周部とに挟まれて固定される請求項1に記載の蛍光X線分析装置のセル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセルと、試料室内の試料にX線を照射するX線源と、試料から発生する蛍光X線を検出する検出部とを備えることを特徴とする蛍光X線分析装置。
【請求項4】
内部に収容する試料を先端部から注出する注出手段をさらに備え、セルは、試料を試料室へ導入するための導入部と、試料室を介して導入部と連通し、試料を試料室から導出するための導出部とを備え、導入部は、注出手段の先端部と嵌合する入口部を備える請求項3に記載の蛍光X線分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−66085(P2010−66085A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231754(P2008−231754)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000111247)ニューリー株式会社 (29)
【Fターム(参考)】