説明

蠕虫性寄生生物由来の免疫賦活剤

【課題】in vivoで強いTh2免疫賦活化を引き起こすTh2免疫賦活剤や該免疫賦活剤の製造方法を提供すること。
【解決手段】消化管蠕虫性寄生虫の一種であるニッポストロンジラス・ブラジリエンシス(Nippostrongylus brasiliensis)を超音波破砕処理した処理物と、界面活性剤の1つであるTritonX-114含有水溶液とを混合した後、水層と界面活性剤層との層分離処理を行う。かかる界面活性剤層を界面活性剤画分として抽出した界面活性剤画分からエタノール沈殿法によりTritonX-114を除去した脱界面活性剤抽出画分は、単回の経口投与によりTh2免疫賦活化の指標であるIgE量の増加、好酸球数の増加、又はIL−4発現量の増加作用を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寄生虫から界面活性剤を用いて抽出した界面活性剤画分から界面活性剤を除去した脱界面活性剤抽出画分を有効成分とするTh2免疫賦活剤や該免疫賦活剤の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫反応において、機能するヘルパーT細胞(Th)は、主にタイプI(Th1)細胞とタイプII(Th2)細胞とに分類され(例えば、非特許文献1、非特許文献16、非特許文献17参照)、そのうちTh1細胞は細胞性炎症反応に関与することが知られており、かかる細胞性炎症反応としては、例えばTh1細胞が分泌するサイトカイン(Th1サイトカイン)であるIL−2やIFN−γにより誘導される細胞障害性反応、遅延型過敏反応等が知られている。他方、Th2細胞は体液性免疫反応に関与することが知られており、かかる体液性免疫反応としては、例えばTh2細胞が分泌するサイトカイン(Th2サイトカイン)であるIL−4やIL−5により誘導されるIgE量増加に伴ったアレルギー反応や、寄生虫からの防御反応等が知られている(例えば非特許文献17参照)。また、Th1サイトカイン及びTh2サイトカインがそれぞれ他方のサイトカインの働きを抑制することにより、免疫反応のタイプがTh1型又はTh2型のどちらか一方に迅速に変化することが知られている(例えば非特許文献1、非特許文献16参照)。こうした免疫反応のシステムにより、生体内では外来抗原の種類に応じて適切な免疫反応が誘導される(例えば非特許文献1、非特許文献16参照)が、免疫反応のバランス制御が乱れ、Th1型に過度に傾くとクローン病などの組織障害性疾患や、慢性関節リウマチ、自己免疫性肝炎などの臓器特異的自己免疫疾患を引き起こすことが知られている(例えば非特許文献1、非特許文献7、非特許文献16参照)。また、逆にTh2型に過度に傾くとアレルギー、アトピー、全身性自己免疫疾患などの免疫疾患を引き起こすことが知られている(例えば非特許文献1、非特許文献16参照)。これらの疾患を治療するために、乱れた免疫反応のバランスを正常な状態に戻すことを目的とした研究が行われている。
【0003】
LPS(Lipo poly saccharide)やCpG(cytosine-phosphate-guanine)は、単回投与でもTh1免疫反応の活性化を誘導できることから(例えば非特許文献14参照)、過度にTh2型に傾いたバランスをTh1型側へ戻すツールとして注目されている。免疫反応の活性化(免疫賦活化)におけるプロセスの一つとして、抗原が抗原提示細胞に取り込まれた後、抗原処理されたペプチド断片がプロセシングによりMHC(主要組織適合性抗原複合体)分子と結合し、その後抗原提示細胞の細胞表面に発現した抗原をTh細胞が認識して感作が起こることが知られているが(例えば非特許文献1、非特許文献6)、LPSやCpGによるTh1免疫反応の活性化(Th1免疫賦活化)は、上記プロセスとは異なり、LPSやCpGがTLR(Tall-like receptor)のリガンドとして直接抗原提示細胞を刺激して宿主に免疫反応を起こすことから、LPSやCpGはTh1免疫賦活活性を有する物質(Th1 activator)としての有用性が高いことが知られている。また、上記Th1免疫賦活活性を有する物質は、それ単独でTh1免疫賦活化ができるので、Th1免疫反応のメカニズムを解明する基礎研究、例えば抗原提示細胞における細胞内刺激伝達経路を解明する研究などにも応用されていることが知られている(例えば非特許文献14参照)。
【0004】
他方、Th2免疫賦活活性を有する物質の探索も行われており、それらの中でも、例えばマイコプラズマの菌体表面に存在する不溶性物質(リポペプチド)であるPam−3−cys(例えば非特許文献3参照)やFSL−1(例えば非特許文献4参照)などが、TLR2(Tall-like receptor 2)を介して直接抗原提示細胞に作用することにより、Th2免疫賦活化することが報告されているが、一方で、これらの物質は、Th2サイトカインに加えてTh1サイトカイン(IL−6など)の産生も増加する効果があること(例えば非特許文献14参照)、Th2免疫賦活化にはin vitroの実験系においても高用量必要(例えば非特許文献4参照)であること、Th2免疫賦活化による効果が十分でない(例えば非特許文献14参照)ことも知られている。さらに、強いTh2免疫賦活化を引き起こす消化管寄生虫からTh2免疫賦活活性を有する物質を探索する研究も行われており、その結果、いくつかTh2免疫賦活化する物質が同定されているが、それらの物質は単なる抗原としてアジュバントが必要であったり、頻回投与による感作・チャレンジが必要であったり(例えば非特許文献6参照)、又はin vitroでしかその効果が認められない(例えば非特許文献8参照)ことが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Mosmann TR, Sad S. 1996. The expanding universe of T-cell subsets: Th1, Th2 and more. Immunol Today. 17(3): 138-46.
【非特許文献2】Bordier C. 1981. Phase separation of integral membrane proteins in TritonX-114 solution. J Biol Chem. 256(4): 1604-7.
【非特許文献3】Hasebe A, Mu HH, Washburn LR, Chan FV, Pennock ND, Taylor ML, Cole BC. 2007. Inflammatory lipoproteins purified from a toxigenic and arthritogenic strain of Mycoplasma arthritidis are dependent on Toll-like receptor 2 and CD14. Infect Immun. 75(4): 1820-6.
【非特許文献4】Kiura K, Kataoka H, Yasuda M, Inoue N, Shibata K. 2006. The diacylated lipopeptide FSL-1 induces TLR2-mediated Th2 responses. FEMS Immunol Med Microbiol. 48(1): 44-55.
【非特許文献5】N. Ishikawa, Y. Horii, Y. Nawa. 1994. Inhibitory effects of concurrently present ’normal’ Nippostrongylus brasiliensis worms on expulsion of ’damaged’ worms and associated goblet cell changes in rats. Parasite Immunology. 16: 329-332.
【非特許文献6】Wilson MS, Elnekave E, Mentink-Kane MM, Hodges MG, Pesce JT, Ramalingam TR, Thompson RW, Kamanaka M, Flavell RA, Keane-Myers A, Cheever AW, Wynn TA. 2007. IL-13Ralpha2 and IL-10 coordinately suppress airway inflammation, airway-hyperreactivity, and fibrosis in mice. J Clin Invest. 117(10): 2941-51.
【非特許文献7】R W Summers, D E Elliott, J F Urban Jr, R Thompson, J V Weinstock. 2005. Trichuris suis therapy in Crohn’s disease. Gut. 54: 87-90.
【非特許文献8】Li Q, Kumar A, Gui JF, Yu FS. 2008. Staphylococcus aureuslipoproteins trigger human corneal epithelial innate response through toll-like receptor-2. Microb Pathog. 44(5): 426-34.
【非特許文献9】Metcalfe DD.1984. Mast cell mediators with emphasis on intestinal mast cells. Ann Allergy. 53: 563-75.
【非特許文献10】McKenzie GJ, Bancroft A, Grencis RK, McKenzie AN. 1998. A distinct role for interleukin-13 in Th2-cell-mediated immune responses. Curr Biol. 8(6): 339-42.
【非特許文献11】Perdue MH, Ramage JK, Burget D, Marshall J, Masson S. 1989. Intestinal mucosal injury is associated with mast cell activation and leukotriene generation during Nippostrongylus-induced inflammation in the rat. Dig Dis Sci. 34(5): 724-31.
【非特許文献12】Holland MJ, Harcus YM, Riches PL, Maizels RM. 2000. Proteins secreted by the parasitic nematode Nippostrongylus brasiliensis act as adjuvants for Th2 responses. Eur J Immunol. 30(7): 1977-87.
【非特許文献13】Dullemen HMV. 1994. Treatment of Crohn’s disease with anti-tumor necrosis factor chimeric antibody (cA2). Gastroentrerol. 109: 129-135.
【非特許文献14】Dillon S, Agrawal A, Van Dyke T, Landreth G, McCauley L, Koh A, Maliszewski C, Akira S, Pulendran B. 2004. A Toll-like receptor 2 ligand stimulates Th2 responses in vivo, via induction of extracellular signal-regulated kinase mitogen-activated protein kinase and c-Fos in dendritic cells. J Immunol. 172(8): 4733-43.
【非特許文献15】Kamiya M, Oku Y, Itayama H, Ohbayashi M. 1985. Prolonged expulsion of adult Trichinella spiralis and eosinophil infiltration in mast cell-deficient W/Wv mice. J Helminthol. 59(3): 233-9.
【非特許文献16】Carter LL, Dutton RW. 1996. Type 1 and type 2: a fundamental dichotomy for all T-cell subsets. Curr Opin Immunol. 8(3): 336-42.
【非特許文献17】Urban JF Jr, Madden KB, Svetic A, Cheever A, Trotta PP, Gause WC, Katona IM, Finkelman FD. 1992. The importance of Th2 cytokines in protective immunity to nematodes. Immunol Rev. 127: 205-20.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
in vivoで使用する上でTh2免疫賦活活性の十分な効果を有する物質は、未だ見つかっていないのが現状である。そのため、Th2免疫賦活活性を有する物質の探索は、Th1側に傾いた免疫反応のバランスをTh2側に戻す治療薬としてだけでなく、Th2免疫賦活化の初期におけるメカニズムを解明し、アレルギーの予防、又は治療薬開発のための知見を得るためにも重要であると考えられている。本発明の課題は、in vivoで強いTh2免疫賦活化を引き起こすTh2免疫賦活剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この分野の研究者は、消化管蠕虫性寄生虫のTh2免疫賦活作用に着目し、専ら消化管蠕虫性寄生虫の水溶性抽出画分についてのTh2免疫賦活作用について検討をしてきた(例えば非特許文献8)。しかし、本発明者は、消化管蠕虫性寄生虫の水溶性抽出画分のTh2免疫賦活作用では実用化の限界があると考えていた。最近、消化管蠕虫性寄生虫の一種であるニッポストロンジラス・ブラジリエンシス(Nippostrongylus brasiliensis)(以下「Nb」ということがある)を感染させたラットからNbを採取し、別のラットにNbを感染させる実験において、排除時期に物理的な傷害を受けたNbの方が感染初期に採取したNbと比べて早期にTh2賦活化反応を起こし、Nbが排除されることが報告された(例えば非特許文献5)。これらの結果から、本発明者は、Nbから漏出した成分には高いTh2免疫賦活作用があるのではないかと考え、その成分を探索するために、精製やその後の製剤化が不利と考えられるNbの水難溶性画分について検討することとした。そして、界面活性剤の1つであるTritonX-114を用いて抽出したNb由来の界面活性剤画分(水難溶性画分)には、従来技術では得られていない高いTh2免疫賦活作用があることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、(1)寄生虫から界面活性剤を用いて抽出した界面活性剤画分から界面活性剤を除去した脱界面活性剤抽出画分を有効成分とすることを特徴とするTh2免疫賦活剤や、(2)脱界面活性剤抽出画分の有効成分が、ペプチドを含むことを特徴とする上記(1)記載のTh2免疫賦活剤や、(3)寄生虫が蠕虫性寄生虫であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のTh2免疫賦活剤や、(4)蠕虫性寄生虫がニッポストロンジラス・ブラジリエンシス(Nippostrongylus brasiliensis)であることを特徴とする上記(3)記載のTh2免疫賦活剤や、(5)界面活性剤がTritonX-114(登録商標)であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか記載のTh2免疫賦活剤や、(6)Th2免疫賦活活性の有無をIgE量の増加、好酸球数の増加、又はIL−4発現量の増加に基づいて判定することを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか記載のTh2免疫賦活剤や、(7)経口投与の形態で用いられることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか記載のTh2免疫賦活剤に関する。
【0009】
また本発明は、(8)上記(1)〜(7)のいずれか記載のTh2免疫賦活剤を含有することを特徴とする免疫賦活活性を有する組成物に関する。
【0010】
さらに本発明は、(9)(a)寄生虫又はその処理物と界面活性剤含有水溶液とを混合する工程;(b)水層と界面活性剤層との層分離処理を行う工程;(c)界面活性剤画分を採取する工程;(d)界面活性剤画分から界面活性剤の除去処理を行い、脱界面活性剤抽出画分を得る工程;を備えたことを特徴とするTh2免疫賦活剤の製造方法や、(10)寄生虫の処理物が、寄生虫の物理的破壊処理物であることを特徴とする上記(9)記載の製造方法や、(11)寄生虫が蠕虫性寄生虫であることを特徴とする上記(9)又は(10)記載の製造方法や、(12)蠕虫性寄生虫がニッポストロンジラス・ブラジリエンシス(Nippostrongylus brasiliensis)であることを特徴とする上記(11)記載の製造方法や、(13)界面活性剤がTritonX-114(登録商標)であることを特徴とする上記(9)〜(12)のいずれか記載の製造方法や、(14)工程(d)における界面活性剤の除去処理が、タンパク質の沈殿処理を含むことを特徴とする上記(9)〜(13)のいずれか記載の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
従来技術(例えば非特許文献6、非特許文献8参照)によると、Th2免疫賦活化を引き起こす物質は、単なる抗原としてアジュバントが必要なものや、頻回投与による感作・チャレンジが必要なものや、in vitroでしかその活性効果が認められないのに対し、本発明のTh2免疫賦活剤によると、単回の経口投与によるTh2免疫賦活剤、特にアジュバントを併用しなくてもよい副作用の少ない免疫賦活剤の開発や、ワクチン開発に繋がることが期待でき、さらに、Th2免疫賦活化の初期におけるメカニズムを解明する基礎研究にとっても有用なツールとなることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のTh2免疫賦活剤(TX)、寄生虫全成分(AW)又はPBSの投与後7日及び14日における各群の体重を示す図である。
【図2】TX、AW又はPBSの投与後7日及び14日における各群の小腸重量(g/BWg×100)を示す図である。
【図3】TX、AW又はPBSの投与後7日及び14日における各群の脾臓重量(g/BWg×100)を示す図である。
【図4】TX、AW又はPBSの投与後7日及び14日における各群の腸間膜リンパ節重量(g/BWg×100)をグラフで示す図である。
【図5】TX、AW又はPBSの投与後7日及び14日における各群の末梢血中の好酸球数を示す図である。
【図6】TX又はPBSの投与後7日及び14日における各群の血清中のIgE濃度を示す図である。
【図7】TX又はPBSの投与後7日における各群の脾臓及び腸間膜リンパ節でのIL−4mRNA発現量(PBS投与群を1.00とする。)を示す図である。縦軸は、2の指数値を表す。
【図8】PBS投与群における投与後7日の小腸(H−E染色切片)の光学顕微鏡(160倍)観察の結果を示す図である。
【図9】PBS投与群における投与後7日の小腸(アルシアンブルー染色切片)の光学顕微鏡(160倍)観察の結果を示す図である。
【図10】AW群における投与後7日の小腸(H−E染色切片)の光学顕微鏡(160倍)観察の結果を示す図である。
【図11】AW群における投与後7日の小腸(アルシアンブルー染色切片)の光学顕微鏡(160倍)観察の結果を示す図である。
【図12】TX群における投与後7日の小腸(H−E染色切片)の光学顕微鏡(160倍)観察の結果を示す図である。
【図13】TX群における投与後7日の小腸(アルシアンブルー染色切片)の光学顕微鏡(160倍)観察の結果を示す図である。
【図14】TX群、SDS処理TX群又はProK処理TX群における投与後3日及び5日目の各群の末梢血中の好酸球数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のTh2免疫賦活剤としては、寄生虫から界面活性剤を用いて抽出した界面活性剤画分から界面活性剤を除去した脱界面活性剤抽出画分を有効成分として含有するものであれば特に制限されず、また、本発明のTh2免疫賦活剤の製造方法としては、寄生虫又はその処理物と界面活性剤含有水溶液とを混合する工程(a);水層と界面活性剤層との層分離処理を行う工程(b);界面活性剤画分を採取する工程(c);界面活性剤画分から界面活性剤の除去処理を行い、脱界面活性剤抽出画分を得る工程(d);を備えた方法であれば特に制限されず、ここで「Th2免疫賦活剤」とは、Th2免疫反応を活性化する作用を有するものをいう。
【0014】
上記寄生虫としては、胞子虫類、根足虫類、鞭毛虫類等の単細胞からなる原虫性寄生虫や、線虫、吸虫類、条虫類等の多細胞からなる蠕虫性寄生虫を挙げることができるが、蠕虫性寄生虫に感染するとTh2免疫賦活化が起こることから、蠕虫性寄生虫が好ましい。蠕虫性寄生虫のうち、マウスに感染する蠕虫性寄生虫としては、例えばTrichuris muris、Trichinella spiralis、ニッポストロンジラス・ブラジリエンシス(Nippostrongylus brasiliensis)、Heligmonsomoides polygyrus、Hymenolepsis nana等を挙げることができ、ラットに感染する蠕虫性寄生虫としては、例えばAngiostrongylus等を挙げることができ、豚に感染する蠕虫性寄生虫としては、例えばTrichuris suis、Ascaris suum等を挙げることができ、イヌ又はネコに感染する蠕虫性寄生虫としては、例えばTrichuris vulpis、Toxocara、Gnathostoma、Ancylostoma等を挙げることができ、海洋哺乳動物に感染する蠕虫性寄生虫としては、例えばAnisakis、Pseudoterranova等を挙げることができ、鳥類に感染する蠕虫性寄生虫としては、例えばS. douthitti、Trichobilharzia ocellata、T. stagnicolae、T. physellae、Gigantobilharzia huronensis等を挙げることができ、これらの中でもニッポストロンジラス・ブラジリエンシスを好適に例示することができる。
【0015】
上記界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤及びイオン性界面活性剤を挙げることができ、これらのうち、非イオン性界面活性剤として、例えばTritonX-100、TritonX-114、NP-40、Tween-20、Tween-80等を挙げることができ、両イオン性界面活性剤として、例えば7BzO、SB3−10、SB3−14、CHAPS、アミドスルホベタイン−14(ASB14)等を挙げることができ、イオン性界面活性剤として、例えば臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等を挙げることができ、これらの中でも曇点が約20℃であり、生理的な条件下で水溶液画分と界面活性剤画分に分離することができるため、TritonX-114が好ましい。
【0016】
上記脱界面活性剤抽出画分には、例えば寄生虫の構成成分であるポリヌクレオチド、ペプチド、脂質、糖質等が含まれている可能性があり、これらの中でもプロテアーゼ処理によりTh2免疫賦活活性が失われるため、ペプチドが含まれている可能性が大きい。かかる脱界面活性剤抽出画分は以下のようにして調製することができる。
【0017】
まず、寄生虫又はその処理物と界面活性剤含有水溶液とを混合する。上記寄生虫の処理物を得るための方法としては、寄生虫と界面活性剤含有水溶液とを混合する前に、界面活性剤含有水溶液が浸透しやすいように寄生虫を破壊した処理方法が好ましく、例えば生化学的破壊処理、物理的破壊処理等を挙げることができるが、寄生虫を効果的且つ効率的に破壊処理することができる物理的破壊処理が好ましい。物理的破壊処理における処理方法としては、例えば凍結融解法、超音波破砕処理法、ホモジナイザーによる破砕法、ガラスビーズによる破砕法等を挙げることができ、これらの中でも超音波破砕処理法を好適に例示することができる。
【0018】
上記界面活性剤含有水溶液としては、上記界面活性剤を含有している水溶液であればよく、界面活性剤の濃度は、使用する界面活性剤の種類に応じて公知の使用マニュアル(例えばMolecular Cloningなど)により適宜選択することができ、例えばTritonX-114を用いる場合、0.2%〜10%が好ましく、1%〜3%がより好ましい。また、必要に応じて、緩衝剤、タンパク質分解酵素阻害剤、防腐剤等を添加してもよい。
【0019】
次に、水層と界面活性剤層との層分離処理を行う。かかる層分離処理としては、界面活性剤含有水溶液をその曇点より低い温度から高い温度へ上昇させるとミセル形成ができなくなり、水層と界面活性剤層とに分離する現象を利用した処理が好ましく、界面活性剤としてTritonX-114を用いる場合、その曇点が約20℃であるため、曇点より低い温度としては、0℃〜20℃、好ましくは2℃〜10℃を、曇点より高い温度としては、20℃〜42℃、好ましくは30℃〜40℃をそれぞれ例示することができる。
【0020】
続いて、界面活性剤画分を採取する。かかる採取方法としては、水層と界面活性剤層とに層分離した界面活性剤含有水溶液から、界面活性剤層を界面活性剤画分として採取できる方法であればよく、界面活性剤は水と比べ比重が重いため、水層よりも界面活性剤層の方が下に分離することから、水層部分をデカンテーションやピペットなどにより回収することで除く方法等を挙げることができる。
【0021】
次いで、界面活性剤画分から界面活性剤の除去処理を行い、脱界面活性剤抽出画分を得る。界面活性剤画分から界面活性剤の除去方法としては、例えばカラム、限外ろ過膜などを用いた非変性条件下で行う方法や、メタノール沈殿、エタノール沈殿、アセトン沈殿、TCA(トリクロロ酢酸)沈殿などを用いた変性条件下で行う方法等を挙げることができるが、変性条件下でもTh2免疫賦活活性は消失しないため、操作の簡易性及び費用対効果の面から考慮すると、変性条件下で行う方法が好ましい。このように、界面活性剤画分から界面活性剤を除去すると、本発明のTh2免疫賦活剤の有効成分である脱界面活性剤抽出画分を得ることができる。
【0022】
上記脱界面活性剤抽出画分がTh2免疫賦活活性を有することを確認する方法としては、例えばTh2免疫賦活により誘導される(増加する)物質、Th2免疫賦活により抑制される(減少する)物質等を指標とする方法を挙げることができ、これらの中でもTh2免疫賦活により増加する物質を指標にして行うことが好ましい。かかるTh2免疫賦活により増加する物質として、例えばIgE、好酸球、Th2サイトカイン(IL−4、IL−5、IL−9、IL−10、IL−13など)等を挙げることができ、これらの中でもIgE、好酸球、IL−4を好適に例示することができる。
【0023】
本発明のTh2免疫賦活活性を有する組成物としては、本発明のTh2免疫賦活剤を含有するものであれば特に制限されず、本発明のTh2免疫賦活剤を医薬用の治療剤として用いる場合などの、Th2免疫賦活剤に薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤等の各種調剤用配合成分が添加された組成物や、本発明のTh2免疫賦活剤をサプリメントとして用いる場合などの、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等の配合成分が添加された組成物を例示することができる。
【0024】
本発明のTh2免疫賦活剤やTh2免疫賦活活性を有する組成物の投与形態としては、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、懸濁液等の剤型で投与する経口投与や、溶液、乳剤、懸濁液等の剤型を注射、又はスプレー剤の型で鼻孔内投与する非経口投与を挙げることができるが、単回の経口投与でも十分Th2免疫賦活効果があるため、経口投与が好ましい。また、本発明のTh2免疫賦活剤やTh2免疫賦活活性を有する組成物は、クローン病などの組織障害性疾患や、慢性関節リウマチ、自己免疫性肝炎などの臓器特異的自己免疫疾患に有用な医薬品、サプリメント、機能性食品として用いることができる。かかる機能性食品としては、ヨーグルト、ドリンクヨーグルト、ジュース、牛乳、豆乳、酒類、コーヒー、紅茶、煎茶、ウーロン茶、スポーツ飲料等の各種飲料や、プリン、クッキー、パン、ケーキ、ゼリー、煎餅などの焼き菓子、羊羹などの和菓子、冷菓、チューインガム等のパン・菓子類や、うどん、そば等の麺類や、かまぼこ、ハム、魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品や、みそ、しょう油、ドレッシング、マヨネーズ、甘味料等の調味類や、チーズ、バター等の乳製品や、豆腐、こんにゃく、その他佃煮、餃子、コロッケ、サラダ等の各種総菜を挙げることができる。
【0025】
以下実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はかかる実施例により制限されるものではない。実施例において、全てのデータは、平均±標準誤差(SE)で示し、統計学的解析を用いた有意差の検定はMann-Whitney U-testにより行った。平均値間の相違は、P−valueが0.05未満であるときに有意とした。なお、本実施例におけるラットとしては、SDラット(Slc社)又はWistarラット(Slc社)を用い、マウスとしては、ICRマウス(Slc社)(雌・8週齢・SPF)を用いた。また、本実施例におけるラットの飼育方法としては、解剖時までウッドチップ(滅菌済み)を敷いたプラスチックケージで、120℃、20分間加熱滅菌した試料(日本クレア、CE−2、大阪、日本)と水道水を自由摂取させる方法を用い、マウスの飼育方法としては、ウッドチップを敷いたメタルケージ(共に加熱滅菌済み)で、120℃、20分間加熱滅菌した飼料(日本クレア、CE−2、大阪、日本)と水道水を自由摂取させる方法を用いた。なお、上記ラット及びマウスの飼育方法は、山口大学農学部動物実験指針に従って行った。
【実施例1】
【0026】
[Nbの継代方法及び回収方法]
ニッポストロンジラス・ブラジリエンシス(Nb)(東京慈恵会医科大学より分与)は、ラットを用いて継代及び増殖させた後、回収した。Baermann法により第3期幼虫(L3)におけるNb3500〜4000隻/匹を回収した(工程1)後、Nbをラットの鼠径部皮下に接種し、8日後に成虫となったNbから排出された卵を含むラットの結腸便及び盲腸便を採取した(工程2)。その後、Nbから排出された卵をチャコール培養法を行いてL3まで成長させた(工程3)。再び工程1〜工程3を繰り返すことにより、Nbの継代及び増殖を行った。また、Nbの回収はBaermann法により以下に述べる手順で行った。すなわち、Nbの接種から8日後のラットの小腸を採取し、縦に切り開いた後、200mlのメートルグラスの口を覆うようにクリップで留めたガーゼの上に載せ0.9%生理食塩水(PBS)に浸し、Nbが濾過されるように37℃の条件下で1時間放置した。その後、底に沈んだNbを少量の生理食塩水とともに採取し、濾紙を乗せた漏斗に移して約80mlの生理食塩水を数回通し、濾過洗浄した後、Nbを回収した。
【実施例2】
【0027】
[TritonX-114による脱界面活性剤画分の取得方法]
上記実施例1により回収した成虫Nb約2000匹にTE(Tris-EDTA Buffer)1mlを加えた後、超音波破砕処理をBRANSON SONIFIER 450を用いて行った。上記処理により得られた超音波破砕処理物に対して、10%TritonX-114(Sigma-Aldrich社製)溶液を0.25ml加え、4℃で2.5時間静置した後、遠心処理(13000rpm、3分間、4℃)により上清を回収し、その後静置処理(37℃、10分間)及び遠心処理(13000rpm、5分間、24℃)により層分離を行った後(例えば非特許文献2、非特許文献8参照)、上層(水層)を除去した下層(界面活性剤層)へ1mlTE及び、2.5倍量のエタノールに加え、その後−4℃で一晩静置した後、遠心処理(3000rpm、20分、4℃)により得られた沈殿(脱界面活性剤画分)を、0.2mlPBSに懸濁した。
【実施例3】
【0028】
[脱界面活性剤画分のマウスへの経口投与]
上記実施例2により得られた脱界面活性剤画分のタンパク質量をBradford法を用いて測定した後、タンパク質濃度が150μg/500μlとなるようにオリーブ油で希釈した脱界面活性剤画分を、マウスに経口投与する群を脱界面活性剤画分投与(TX)群とした。また、コントロールとして、上記脱界面活性剤画分の代わりにPBSを、マウスに経口投与する群をPBS投与(PBS)群とした。さらに、成虫Nb約2000匹に対してTE1mlを加えて超音波破壊処理を行って得られた超音波破砕処理物を、150μg/500μlとなるようにオリーブ油で希釈した後、その超音波破砕処理物をマウスに経口投与する群をNb投与(AW)群とした。すなわち、TX群、PBS群、及びAW群の計3群に分けて、ゾンデを用いた経口(胃内)投与を行った。
【0029】
マウスに経口投与した後、7日及び14日に各群の体重(g)を測定した結果、PBS群、AW群やTX群の各群において、体重に有意な差は認められなかった(図1)。
【0030】
消化管寄生蠕虫感染時に認められる生体反応として、腸管でのマスト細胞及び杯細胞の増加、杯細胞からの粘液分泌の亢進、腸間膜リンパ節やパイエル板の腫大等が知られている(例えば非特許文献17参照)。またNb感染個体の小腸では、活性化した粘膜型マスト細胞が産生するロイコトリエンやヘパリン(例えば非特許文献9参照)、ヒスタミン放出による腸管上皮の透過性亢進等によって浮腫が生じる(例えば非特許文献11参照)ことが報告されており、マスト細胞数の増加もTh2サイトカインの産生増加によって生ずると考えられている(例えば非特許文献11参照)。そこで、もし寄生虫由来の脱界面活性剤画分の経口投与によりTh2免疫反応が活性化がされるとすれば、TX群のマウス小腸に浮腫が生じ、小腸の重量が増加していることが予想される。そこで、小腸の重量を測定した(図2)。また、比較対照として脾臓及び腸間膜リンパ節の重量についても測定した(図3及び図4)。経口投与した後、7日及び14日のいずれの場合においても、PBS群やAW群と比べ、TX群の方が小腸の重量(g/BWg×100)は有意に少なかった(図2)。また、脾臓重量(g/BWg×100)及び腸間膜リンパ節重量(g/BWg×100)については、PBS群、AW群やTX群の各群において有意差は認められなかった(図3及び図4)。
【0031】
さらに、小腸において、Th2免疫賦活化が原因で生じる炎症等による組織変化が見られるかどうかを調べるために、病理組織学的観察を行った。病理組織標本は、以下の手順により作製した。すなわち、PBS群、AW群、及びTX群の各群において、経口投与後7日や14日のマウスを、それぞれエーテル麻酔した後、ヘパリン化シリンジを用いて心臓からの全採血により安楽殺させ、その後脾臓、腸間膜リンパ節、肝臓、及び十二指腸基部から空腸を採材した後、カルノア液で固定し、その後4μmのパラフィン切片(病理組織標本)を作製した。上記病理組織標本を、定法のヘマトキシリン・エオジン(H−E)染色、及びアルシアンブルー染色を施した後、光学顕微鏡により観察した結果、寄生虫感染による粘膜固有層の水腫は認められなかった(図8〜図13)。また、Th2免疫賦活化によりTh2サイトカインが、肥満(マスト)細胞数や杯細胞数を増加することが報告されているため、上記病理組織標本におけるマスト細胞数及び杯細胞数を、マウス1頭につき絨毛−陰窩を1単位として10単位以上計数して平均値を求め、小腸粘膜1絨毛あたりの細胞数(細胞数/絨毛陰窩単位)として算出した結果、マスト細胞数はPBS群の0.12に対してTX群では0.16とほとんど差はなく、また同様に、杯細胞は対照群の4.2に対してTX群では4.1とほとんど差が認められなかった。
【0032】
病理組織学的観察からは、Th2免疫賦活化が起こっているかどうかはわからなかったので、次にTh2免疫賦活化の有無を検証する別の指標として、IgE量の増加、好酸球数の増加、及びIL−4mRNA量の増加を用いて解析を行った。IgE量を測定するために、各群から採取した末梢血から遠心分離(12000rpm、30分)により調製した血清を、−80℃で凍結保存した後、マウスIgE測定キット(森永生科学研究所)を用いてEIAサンドイッチ法により解析を行った(図6)。その結果、経口投与後7日での末梢血中のIgE濃度(ng/ml)は、PBS群とTX群の各群において有意差は認められなかったのに対し、経口投与後14日でのIgE濃度は、PBS群と比べTX群の方が4.3倍高く、有意に上昇していた(図6)。
【0033】
また、好酸球数を計測するために、心採血により採取した血液の一部をHinkelmann液(0.5% yellow eosin、0.5% phenol、0.5% formalin)で10倍希釈し、穏やかに攪拌した後、好酸球計算盤(TATAI)を用いて好酸球数の計数を行った(図5)。その結果、経口投与後7日での末梢血中の好酸球数(好酸球数/0.1mm)は、PBS群と比べてAW群の方が2.4倍、PBS群に比べてTX群の方が6.8倍増加しており、さらにAW群に比べてTX群の方が2.9倍増加しており、それぞれ有意差が認められた。他方、経口投与後14日では、TX群における好酸球数(好酸球数/0.1mm)は、7日と比べ減少しており、PBS群と有意差は認められなかった(図5)。
【0034】
さらに、IL−4mRNA量の検出するために、以下の手順に従ってRNAの抽出、cDNAの合成、及び定量PCRによるmRNAの検出を行った。すなわち、経口投与後7日のTX群及びPBS群におけるマウスの脾臓の一部、並びに腸間膜リンパ節から、RNeasyTMKit(QIAGEN社製)を用いてマニュアルに従い、RNAを抽出した。続いて、抽出したRNA10μlにランダムプライマー(Invitrogen社製)を1μg加え、70℃で10分間、直ちに氷上で静置した後、5×RT buffer、dNTP、0.1M DTT、RNAsin(Promega社製)を加えて19μlとし、42℃で2分間、SuperScriptII(Invitrogen社製)1μlを加えて計20μlとし42℃で50分間、70℃で15分間反応させることでcDNAを合成した。さらに、合成したcDNA、IL−4遺伝子産物(IL−4mRNA)を増幅するプライマーセット(Applied Biosystems社製)、及びTaqManTMGene Expression Assaysキット(Applied Biosystems社製)を用いたStep OneTMReal−Time PCR System(Applied Biosystems社製)によりリアルタイムPCR法を行い、IL−4のmRNA量を定量した。PCRの条件としては、50℃で2分間、95℃で10分間を1サイクル、95℃で15秒間、60℃で1分間を50サイクルとして行った。なお、コントロールとしてハウスキーピング遺伝子である18s rRNAmRNAを増幅するプライマーセット(Applied Biosystems社製)を用いたリアルタイムPCR法を行い、算出された18s rRNAmRNA量の値によりIL−4mRNA量の値を標準化した。さらに、PBS群におけるIL−4mRNA量の値を1とした場合のTX群におけるIL−4mRNA量の値を算出した(図7)。その結果、脾臓では、PBS群と比べTX群におけるIL−4mRNA量に有意差は認められなかった。他方、腸間膜リンパ節では、PBS群と比べTX群におけるIL−4mRNA発現は128倍上昇しており、有意差が認められた(図7)。
【0035】
脱界面活性剤画分の有効成分がペプチド(タンパク質を含む)であるかどうかを調べるために、タンパク質の変性剤であるSDS及びタンパク質分解酵素であるProK(Sigma社製)を用いて検討した。すなわち、脱界面活性剤画分を、0.5% SDS/TE溶液中、又は0.001% ProK/(0.5% SDS/TE)溶液中で、37℃、12時間処理を行った後、2.5倍量のエタノールに加え、その後−4℃で一晩静置した後、遠心処理(3000rpm、20分、4℃)により得られた沈殿物を、0.2ml PBSに懸濁した。かかる沈殿物のうち、SDS処理したものをマウスへ経口投与する群をSDS処理TX群、ProK処理したものをマウスへ経口投与する群をProK処理TX群とし、投与後3日及び5日における好酸球数を算出した(図14)。その結果、投与後3日及び5日のいずれの場合においても好酸球数はTX群と比べProK処理TX群では著しく減少し、有意差が認められた。また、SDS処理TX群においても、わずかであるが有意な減少が認められた。
【0036】
〔考察〕
本発明における実施例3では、Nb由来の脱界面活性剤画分の経口投与によってTh2免疫賦活化が起こるかどうかを検証するために、Th2免疫賦活化の指標とされる種々の反応を用いた。その結果、投与後7日で末梢血中の好酸球数及び腸間膜リンパ節でのIL−4mRNA量の著明な増加が認められた(図5及び図7)。さらに、Nbの全成分を投与したAW群における末梢血中の好酸球数は、PBSを投与したPBS群と比べ有意に増加していたが、その割合は脱界面活性剤画分を投与したTX群と比べると有意に低かった。このことは、Th2免疫賦活化する有効成分がNbに含まれていることを示すだけでなく、上記有効成分は本実施例により分離した脱界面活性剤画分に主に含まれていることを示している。
【0037】
腸間膜リンパ節でのIL−4mRNA量の増加や好酸球数の増加は、投与後7日で認められたが、末梢血中のIgE濃度の増加は投与後7日では認められず、14日で認められた。他方、好酸球数は、投与後14日ではPBS群と同程度まで減少していた。これらの結果は、Nb由来の脱界面活性剤画分の投与によって少なくとも7日目にはTh2免疫賦活化が起こること、及び、14日目にはTh2免疫賦活化レベルは通常状態に戻るが、Th2免疫反応の活性化によりIL−4産生が増加され、その結果IgE濃度が上昇することを示している。以前本発明者は、Nbは投与後7日までにほとんどが排除され、その排除にはTh2免疫賦活化が必須であること、及びIgE濃度の増加は投与後14日に初めて認められることを示しており、本実施例はこれらの結果を支持している。
【0038】
Nb感染時に認められる生体反応として、腸管でのマスト細胞及び杯細胞の増加、杯細胞からの粘液分泌の亢進、腸間膜リンパ節やパイエル板の腫大などが知られている(例えば非特許文献17参照)。またNbが感染した小腸では、活性化した粘膜型マスト細胞が産生するロイコトリエンやヘパリン(例えば非特許文献9参照)、ヒスタミン放出による腸管上皮の透過性亢進等によって浮腫が生じる(例えば非特許文献9、非特許文献11参照)ことが報告されており、マスト細胞数の増加もTh2サイトカインの産生増加によって生ずると考えられている(例えば非特許文献11、非特許文献17参照)。本実施例におけるNb由来の脱界面活性剤画分による投与においても、Th2免疫賦活化による浮腫が生じ、その結果TX群の小腸重量は増加することが予想されたが、逆にPBS群よりも少ない結果となった(図2)。さらに、病理組織学的観察から、TX群の小腸において炎症などの反応性変化は認められず、またマスト細胞や杯細胞の数もPBS群と比べて著明な増加は認められなかった(図8〜図13)。マスト細胞数の増加には、Th2サイトカインに加え、SCF(Stem Cell Factor)等の増殖因子も関与していることが報告されている(例えば非特許文献17参照)。また、SCFレセプター機能不全の突然変異(W/W)マウスでは、消化管寄生虫感染時にTh2サイトカインの産生増加が生じても、マスト細胞数が増加しないことが示されている(例えば非特許文献15参照)。これらの従来技術の知見から、本実施例3において、リンパ節でのIL−4産生増加や、好酸球数の増加が認められたにもかかわらず、マスト細胞数や杯細胞数が増加しなかった原因として、Nb由来の脱界面活性剤画分の投与は寄生虫感染とは異なり、SCFの産生等には作用を及ぼさなかった可能性が考えられる。また、杯細胞の増殖には、Th2サイトカインの一つであるIL−13が必須であるとの報告があることから(例えば非特許文献10参照)、杯細胞数が増えていない原因をより詳細に検証するために、IL−13の産生量を検出する必要がある。さらに、消化管寄生虫の排虫によるTh2免疫賦活化は、寄生虫の種類によって賦活化のレベルが違うこと(例えば非特許文献17参照)、及び好酸球の分化増殖や、IgEの産生、杯細胞数、マスト細胞数等の増加には、関与するTh2サイトカインに違いがあること(例えば非特許文献17参照)も報告されており、本実施例におけるTh2免疫反応の活性化のメカニズムをより詳細に解析するためには、それぞれのサイトカインの産生量の変化を基に検証することが必要だと考えられる。
【0039】
Th2免疫反応の活性化のメカニズムとしては、抗原が抗原提示細胞に取り込まれた後、抗原処理されたペプチド断片がプロセシングによりMHC分子と結合し、その後抗原提示細胞の細胞表面に発現した抗原をT細胞が認識して感作が起こり、その後抗原がT細胞に侵入することによってTh2免疫賦活化が起こるメカニズムと、抗原提示細胞の細胞表面上に存在するTLR2(例えば非特許文献3、非特許文献14参照)等のレセプターに直接作用し、Th2免疫賦活化が起こるメカニズムとを、挙げることができるが、アジュバントと混合した頻回投与によりTh2免疫賦活化が起こることが知られている従来技術は(例えば非特許文献6、非特許文献12参照)、前者のメカニズムによるものと考えられ、他方、本実施例では、経口投与で、且つ単回の投与でも有意にTh2免疫反応を活性化させることができたことから、より直接的な後者のメカニズムによるものと考えることができる。細菌由来のLPSやCpGなど、直接抗原提示細胞に働きかけてTh1免疫賦活化を誘導する物質の発見により、Th1免疫賦活化機構の初期反応の研究が進んだこと(例えば非特許文献4、非特許文献14参照)からも、本発明で用いたNb由来の脱界面活性剤画分が直接抗原提示細胞に作用することがわかれば、未だに不明な点が多いTh2免疫賦活化機構の初期反応のメカニズムの解明にも繋がると考えられる。
【0040】
Th1/Th2免疫反応のバランスが崩れると、様々な免疫疾患が生じると考えられている。Th1/Th2免疫反応バランスが過剰にTh1へ傾く病気、すなわちTh1病としては、クローン病、慢性関節リウマチ、自己免疫性肝炎等を挙げることができる。これらの中でもクローン病は、潰瘍性大腸炎とともに炎症性腸疾患と称され、消化管全般で発病しうる慢性疾患であることが知られている。その原因は未だ不明であるが、遺伝的な素因を持ち、主にIFN−γの粘膜障害性による炎症等の症状を引き起こし、Th1免疫反応を過剰に活性化して発症すると考えられている(例えば非特許文献7、非特許文献13参照)。根本的な治療法はなく、アミノサリチル酸製剤やステロイド剤などの消炎鎮痛剤で寛解を図るとともに、重症例のクローン病治療には免疫抑制剤が用いられてきた。しかし、ステロイドや免疫抑制剤では重度の副作用が懸念されており、近年では、抗TNF−α抗体製剤であるインフリキシマブが一般的に使用されているが、単回投与では長期寛解維持が困難な場合が多く、継続的に投与する必要がある(例えば非特許文献13参照)。従って、本発明の脱界面活性剤画分のうち、強いTh2免疫賦活活性の有効成分はペプチド(タンパク質を含む)である可能性は高いが(図14)、かかる有効成分の同定や分子構造の解明などさらなる研究が進めば、Th1型に過度に傾いたクローン病等の新しい治療法の開発に繋がることが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明におけるTh2免疫賦活活性を有する組成物は、単回の経口投与により非常に強いTh2免疫賦活化を誘導することができることから、その有効成分の同定や分子構造の解明など研究を進めることにより、Th2免疫賦活剤としての薬品や、ワクチン開発に繋がることが期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
寄生虫から界面活性剤を用いて抽出した界面活性剤画分から界面活性剤を除去した脱界面活性剤抽出画分を有効成分とすることを特徴とするTh2免疫賦活剤。
【請求項2】
脱界面活性剤抽出画分の有効成分が、ペプチドを含むことを特徴とする請求項1記載のTh2免疫賦活剤。
【請求項3】
寄生虫が蠕虫性寄生虫であることを特徴とする請求項1又は2記載のTh2免疫賦活剤。
【請求項4】
蠕虫性寄生虫がニッポストロンジラス・ブラジリエンシス(Nippostrongylus brasiliensis)であることを特徴とする請求項3記載のTh2免疫賦活剤。
【請求項5】
界面活性剤がTritonX-114(登録商標)であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のTh2免疫賦活剤。
【請求項6】
Th2免疫賦活活性の有無をIgE量の増加、好酸球数の増加、又はIL−4発現量の増加に基づいて判定することを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載のTh2免疫賦活剤。
【請求項7】
経口投与の形態で用いられることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載のTh2免疫賦活剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか記載のTh2免疫賦活剤を含有することを特徴とする免疫賦活活性を有する組成物。
【請求項9】
以下の工程(a)〜(d)の工程を備えたことを特徴とするTh2免疫賦活剤の製造方法。
(a)寄生虫又はその処理物と界面活性剤含有水溶液とを混合する工程;
(b)水層と界面活性剤層との層分離処理を行う工程;
(c)界面活性剤画分を採取する工程;
(d)界面活性剤画分から界面活性剤の除去処理を行い、脱界面活性剤抽出画分を得る工程;
【請求項10】
寄生虫の処理物が、寄生虫の物理的破壊処理物であることを特徴とする請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
寄生虫が蠕虫性寄生虫であることを特徴とする請求項9又は10記載の製造方法。
【請求項12】
蠕虫性寄生虫がニッポストロンジラス・ブラジリエンシス(Nippostrongylus brasiliensis)であることを特徴とする請求項11記載の製造方法。
【請求項13】
界面活性剤がTritonX-114(登録商標)であることを特徴とする請求項9〜12のいずれか記載の製造方法。
【請求項14】
工程(d)における界面活性剤の除去処理が、タンパク質の沈殿処理を含むことを特徴とする請求項9〜13のいずれか記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−92045(P2012−92045A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240882(P2010−240882)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】