説明

血液凝固第VIII因子の機能代替抗体

【課題】酵素反応を増強する補因子である血液凝固第VIII因子の作用を代替する多重特異性抗体、および該抗体の作製方法の提供。
【解決手段】(1)第一の抗原に対する第一の抗体と第二の抗原に対する第二の抗体を用意する工程;(2)第一の抗体および第二の抗体の可変領域を有する第一の抗原および第二の抗原に対する二重特異性抗体を作製する工程;を含む作製方法による、F.IX/F.IXa及びF.Xの双方に特異的に結合し、F.VIIIaの補因子作用、すなわちF.IXaによるF.X活性化を促進する作用を代替する種々の二重特異性抗体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素反応を増強する補因子である血液凝固第VIII因子の作用を代替する多重特異性抗体、および該抗体の作製方法、並びに、該抗体を有効成分として含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は血中での安定性が高く、抗原性も低いことから医薬品として注目されている。その中には二種類の抗原を同時に認識できる二重特異性抗体がある。二重特異性抗体は提唱されて久しい。しかしながらこれまでに、NK細胞、マクロファージ、T細胞のretargetingを目的とするなど、二種類の抗原結合部位を単に繋ぐだけの抗体しか報告されていない(非特許文献3参照)。例えば、臨床試験が行なわれているMDX-210は、FcγRIを発現しているmonocyte等をHER-2/neuを発現している癌細胞にretargetingする二重特異性抗体であるに過ぎない。従って現在まで、二重特異性抗体を、酵素反応を増強する補因子の代替手段として利用した例はなかった。
【0003】
補因子は、酵素が機能を有するために必要とされる補助分子であり、非蛋白性あるいは蛋白性の成分で、酵素に結合し、その触媒反応のために必要とされる。補因子としては、例えば、血液凝固第VIII因子(F.VIII)、活性化血液凝固第VIII因子(F.VIIIa)、血液凝固第V因子(F.V)、活性化血液凝固第V因子(F.Va)、組織因子(TF)、トロンボモデュリン(TM)、プロテインS(PS)、プロテインZ(PZ)、ヘパリン、補体C4b、補体制御タンパクH因子(Complement Regulatory Factor H)、Membrane Cofactor Protein(MCP)、Complement Receptor 1(CR1)等が挙げられる。
【0004】
これらのうち、F.VIII/F.VIIIaは、十分な活性化血液凝固第IX因子(F.IXa)の活性発現に必要な補因子である。Scheiflinger Fらは、ある種の抗F.IX/F.IXa抗体に、chromogenic assayにおいてF.IXaによる血液凝固第X因子(F.X)活性化を促進する作用があることを見出している(特許文献1参照)。しかしながら、F.VIII欠乏血漿の凝固回復能測定においては、この抗体単独による凝固回復能は示されておらず、外来的にF.IXaを添加した状態でのみ凝固回復能を示している。
【0005】
F.VIIIaは、F.IXaと相互作用するだけでなくF.Xとも相互作用することが知られている(非特許文献1および2参照)。この点で、Scheiflinger Fらの抗体は、F.VIII/F.VIIIaの機能を十分に代替しているといえず、その活性も不十分であると推測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第01/19992号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Mertens K ら著、「Thromb. Haemost.」、1999年、Vol.82、p.209-217
【非特許文献2】Lapan KA ら著、「Thromb. Haemost.」、1998年、Vol.80、p.418-422
【非特許文献3】Segal DM ら著、「Journal of Immunological Methods」、2001年、Vol.248、p.1-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、酵素反応を増強する補因子である血液凝固第VIII因子の作用を代替する多重特異性抗体の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意研究を行った結果、F.IX/F.IXa及びF.Xの双方に特異的に結合し、F.VIIIaの補因子作用、すなわちF.IXaによるF.X活性化を促進する作用を代替する種々の二重特異性抗体を見出すことに成功した。
【0010】
さらに本発明者らは、これらの抗体の中から、F.VIII欠乏ヒト血漿を用いた凝固時間測定系において、抗体無添加時に比べて凝固時間を50秒以上短縮させた抗体(A44/B26)について、その抗体のL鎖をA44のL鎖で共通化したところ、共通化前の抗体(A44HL-B26HL)に比べて活性が減弱するものの、A44Lにて共通化が可能であることを明らかにした。
【0011】
また、A44由来のL鎖のフレームワーク(Fr)にA44のL鎖およびB26のL鎖由来のCDRを組み合わせたL鎖(ハイブリッドL鎖)を作製し、これらを用いたL鎖共通化によりF.VIII活性の回復を試みたところ、CDR1,2,3がBBA(G)(CDR1,2,3がそれぞれ、B26のL鎖由来のCDR、B26のL鎖由来のCDR、A44のL鎖由来のCDR)の組み合わせの場合、F.VIII活性はA44/B26の活性を大きく上回り、抗体無添加時に比べて凝固時間を70秒以上短縮させることができた。この抗体は、F.VIII(0.1、1U/mL)の作用を減弱させず相加的に作用していた。この他にもCDR1,2,3がABA(G)、BAA(G)の場合に、抗体無添加時に比べて凝固時間を60秒以上短縮させることができた。
【0012】
またA50、A69というA44に相同性の高い抗体のH鎖をB26H及び上記ハイブリッドL鎖との組み合わせで活性を評価したところ、A44Hを用いた場合よりもさらに高い活性を有する抗体を得ることができた。さらにA44L、B26L、A50L、A69LのCDRを組み合わせたハイブリッドL鎖を作製し、これらを用いて活性を確認したところ、上記のA44/B26由来ハイブリッドL鎖(BBA(G))を超えないものの高い活性を有する抗体を得ることができた。
【0013】
またA69HとB26Hに種々のハイブリッドL鎖(BBA、aAA、AAa、ABa、BBa、aBA、BAA、BAa、ABA)を組み合わせて活性を評価したところ、高い活性を有する抗体が取得でき、特にBBAまたはBBaの組み合わせの場合、抗体無添加時に比べて凝固時間を80秒以上短縮させることができた。
【0014】
さらに、これら抗体のヒト化について検討したところ、(1)ヒト化A69H、(2)ヒト化したB26H、(3)ヒト化したハイブリッドL鎖の組合せにより元の抗体と同等の活性を達成することができた。
【0015】
上述のように、本発明は、血液凝固第VIII因子の作用を代替する高活性の多重特異性抗体の作製に成功し、本発明を完成させた。
【0016】
また本発明は、該抗体のL鎖の共通化により低下した活性を回復もしくは向上させる方法を提供する。
【0017】
即ち本発明は、酵素反応を増強する補因子である血液凝固第VIII因子の機能を代替する多重特異性抗体、および該抗体の作製方法、並びに、該抗体のL鎖の共通化により低下した活性を回復もしくは向上させる方法に関し、より具体的には、
〔1〕 血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子を認識する第一のドメイン、および血液凝固第X因子を認識する第二のドメインを含む、血液凝固第VIII因子の機能を代替し得る多重特異性抗体であって、第一のドメインは血液凝固第IX因子または活性化血液凝固第IX因子に対する抗体のH鎖の全部または一部を含む第一のポリペプチドを含み、第二のドメインは血液凝固第X因子に対する抗体のH鎖の全部または一部を含む第二のポリペプチドを含み、第一のドメインおよび第二のドメインは更に抗体のL鎖の全部または一部であって共通の配列を有する第三のポリペプチドを含む多重特異性抗体、
〔2〕 第三のポリペプチドが血液凝固第IX因子、活性化血液凝固第IX因子または血液凝固第X因子に対する抗体のL鎖の全部または一部の配列を含む〔1〕に記載の多重特異性抗体、
〔3〕 第三のポリペプチドが2以上の抗体の各L鎖のCDR1, 2, 3からそれぞれ独立に選択されるCDR1, 2, 3からなる抗原結合部位またはこれと機能的に同等な抗原結合部位を含む〔1〕に記載の多重特異性抗体、
〔4〕 第一のポリペプチドが下記(a1)または(a2)または(a3)のCDRのアミノ酸配列からなる抗原結合部位またはこれと機能的に同等の抗原結合部位を含み、第二のポリペプチドが下記(b)のアミノ酸配列からなる抗原結合部位またはこれと機能的に同等の抗原結合部位を含む〔1〕に記載の多重特異性抗体:
(a1)H鎖CDR1、2、3が配列番号:3、5、7(A44のH鎖CDR)に記載のアミノ酸配列
(a2)H鎖CDR1、2、3が配列番号:21、5、22(A69のH鎖CDR)に記載のアミノ酸配列
(a3)H鎖CDR1、2、3が配列番号:16、17、18(A50のH鎖CDR)に記載のアミノ酸配列
(b)H鎖CDR1、2、3が配列番号:26、28、30(B26のH鎖CDR)に記載のアミノ酸配列、
〔5〕 血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子、並びに血液凝固第X因子を認識する血液凝固第VIII因子の機能を代替し得る多重特異性抗体であって、血液凝固第VIII因子の代替機能が、抗体溶液 50μL、F.VIII欠乏血漿(Biomerieux)50μL及びAPTT試薬(Dade Behring)50μLの混合液を37℃で3分間加温した後、20 mMのCaCl2 50μLを同混合液に加え、凝固するまでの時間を測定する活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)試験において、抗体無添加時に比べた凝固時間の短縮が50秒以上である多重特異性抗体、
〔6〕 抗血液凝固第IX/IXa因子抗体のH鎖の抗原結合部位またはこれと機能的に同等な抗原結合部位と、抗血液凝固第X因子抗体のH鎖の抗原結合部位またはこれと機能的に同等な抗原結合部位とを含む〔5〕に記載の多重特異性抗体、
〔7〕 抗血液凝固第IX/IXa因子抗体における下記(a1)または(a2)または(a3)のCDRのアミノ酸配列からなる抗原結合部位またはこれと機能的に同等の抗原結合部位と、抗血液凝固第X因子抗体における下記(b)に記載のCDRのアミノ酸配列からなる抗原結合部位またはこれと機能的に同等の抗原結合部位とを含む〔6〕に記載の多重特異性抗体:
(a1)H鎖CDR1、2、3が配列番号:3、5、7(A44のH鎖CDR)に記載のアミノ酸配列
(a2)H鎖CDR1、2、3が配列番号:21、5、22(A69のH鎖CDR)に記載のアミノ酸配列
(a3)H鎖CDR1、2、3が配列番号:16、17、18(A50のH鎖CDR)に記載のアミノ酸配列
(b)H鎖CDR1、2、3が配列番号:26、28、30(B26のH鎖CDR)に記載のアミノ酸配列、
〔8〕 〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の抗体および薬学的に許容される担体を含む組成物、
〔9〕 出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患の予防および/または治療に用いられる医薬組成物である、〔8〕に記載の組成物、
〔10〕 出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患が、血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患である、〔9〕に記載の組成物、
〔11〕 血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患が、血友病Aである、〔10〕に記載の組成物、
〔12〕 血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患が、血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子に対するインヒビターが出現している疾患である、〔10〕に記載の組成物、
〔13〕 血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患が、後天性血友病である、〔10〕に記載の組成物、
〔14〕 血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下によって発症および/または進展する疾患が、フォンビルブランド病である、〔10〕に記載の組成物、
〔15〕 〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の抗体、または〔8〕〜〔14〕のいずれかに記載の組成物を投与する工程を含む、出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患を予防および/または治療する方法、
〔16〕 〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の抗体の、〔8〕〜〔14〕のいずれかに記載した組成物の製造のための使用、
〔17〕 少なくとも〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の抗体、または〔8〕〜〔14〕のいずれかに記載の組成物を含む、〔15〕に記載の予防および/または治療する方法に用いるためのキット、
〔18〕 〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の抗体、または〔8〕〜〔14〕のいずれかに記載の組成物を投与する工程を含む、出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患を、血液凝固第VIII因子と併用して予防および/または治療する方法、
〔19〕 少なくとも〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の抗体、または〔8〕〜〔14〕のいずれかに記載の組成物を含み、かつ血液凝固第VIII因子を含む〔15〕に記載の予防および/または治療する方法に用いるためのキット、
〔20〕 第一のH鎖、第二のH鎖および共通のL鎖を有する二重特異性抗体の作製方法であって、以下の工程を含む方法:
(1)第一の抗原に対する第一の抗体と、第二の抗原に対する第二の抗体とを用意する工程;
(2)第一の抗体および第二の抗体の可変領域を有する第一の抗原および第二の抗原に対する二重特異性抗体を作製する工程;
(3)前記(2)で作製した二重特異性抗体の抗原への結合活性または抗体の生物活性を測定する工程;
(4)第一の抗体のH鎖および第二の抗体のH鎖を、第一の抗体または第二の抗体のL鎖で共通化して共通L鎖抗体を作製する工程;
(5)前記(4)で作製した共通L鎖抗体の抗原への結合活性または抗体の生物活性を測定する工程;
(6)前記(4)で作製した共通L鎖の1または2個または3個のCDRを、第一の抗体、第二の抗体または他の抗体であって第一の抗体または第二の抗体のCDRのアミノ酸配列に対して高い相同性を有する抗体のCDRにより置換して共通L鎖抗体を作製する工程;
(7)前記(6)で作製した共通L鎖抗体と、前記(2)で作製した元の二重特異性抗体または前記(4)で作製した共通L鎖抗体とを抗原への結合活性または抗体の生物活性について比較し、所望の活性を有する共通L鎖抗体を選択する工程;および
(8)前記(7)で選択した共通L鎖抗体について、必要に応じて前記(6)および(7)の工程を反復して前記(2)で作製した元の二重特異性抗体と同等以上の活性を有する共通L鎖抗体を得る工程、
〔21〕 前記(6)および(7)の工程が2回以上反復される〔20〕に記載の方法、
〔22〕 〔20〕または〔21〕の方法により得られる共通のL鎖を有する二重特異性抗体、
〔23〕 前記(6)の他の抗体が第一の抗原もしくは第二の抗原に対する抗体である〔20〕に記載の方法、
〔24〕 前記(6)および(7)の工程が2回以上反復される〔23〕に記載の方法、
〔25〕 〔23〕または〔24〕の方法により得られる共通のL鎖を有する二重特異性抗体、
〔26〕 前記(6)の抗体が第一の抗体または第二の抗体である〔20〕に記載の方法、
〔27〕 前記(6)および(7)の工程が2回以上反復される〔26〕に記載の方法、
〔28〕 〔26〕または〔27〕の方法により得られる共通のL鎖を有する二重特異性抗体、を提供するものである。
さらに本発明は、以下の〔29〕および〔30〕を提供するものである。
〔29〕 第一のポリペプチドがH鎖可変領域を含み、第二のポリペプチドがH鎖可変領域を含み、第三のポリペプチドがL鎖可変領域を含み、各ポリペプチドの可変領域の組合わせが以下の通りである請求項1に記載の多重特異性抗体:
(a1)第一のポリペプチドのH鎖可変領域が配列番号:130(hA69a)に記載のアミノ酸配列
(b1)第二のポリペプチドのH鎖可変領域が配列番号:132(hB26-F123e4)に記載のアミノ酸配列
(c1)第三のポリペプチドのL鎖可変領域が配列番号:134(hAL-F123j4)に記載のアミノ酸配列;
(a2)第一のポリペプチドのH鎖可変領域が配列番号:136(hA69-PFL)に記載のアミノ酸配列
(b2)第二のポリペプチドのH鎖可変領域が配列番号:138(hB26-PF)に記載のアミノ酸配列
(c2)第三のポリペプチドのL鎖可変領域が配列番号:140(hAL-s8)に記載のアミノ酸配列;
(a3)第一のポリペプチドのH鎖可変領域が配列番号:142(hA69-KQ)に記載のアミノ酸配列
(b3)第二のポリペプチドのH鎖可変領域が配列番号:138(hB26-PF)に記載のアミノ酸配列
(c3)第三のポリペプチドのL鎖可変領域が配列番号:144(hAL-AQ)に記載のアミノ酸配列。
〔30〕第一のポリペプチドおよび第二のポリペプチドがヒトIgG4定常領域を含み、第三のポリペプチドがヒトκ定常領域を含む〔29〕に記載の多重特異性抗体。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】pcDNA4-g4Hの挿入領域を表した図である。
【図2】pcDNA4-g4LおよびpIND-g4Lの挿入領域を表した図である。
【図3】pIND-g4Hの挿入領域を表した図である。
【図4】抗F.IXa抗体XB12と抗F.X抗体SB04、SB21、SB42、SB38、SB30、SB07、SB05、SB06、SB34により作製した抗F.IXa/抗F.X 二重特異性抗体の、F.VIIIa様活性を測定した結果を示す図である。抗体溶液の濃度は10μg/mL(最終濃度1μg/mL)である。結果、9種の二重特異性抗体でF.VIIIa様活性の上昇を示し、XB12/SB04、XB12/SB21、XB12/SB42、XB12/SB38、XB12/SB30、XB12/SB07、XB12/SB05、XB12/SB06、XB12/SB34の順に活性が強かった。
【図5】抗F.IXa抗体XT04と抗F.X抗体SB04、SB21、SB42、SB38、SB30、SB07、SB05、SB06、SB34により作製した抗F.IXa/抗F.X二重特異性抗体またはXT04抗体の、F.VIIIa様活性を測定した結果を示す図である。抗体溶液の濃度は10μg/mL (最終濃度 1μg/mL)である。結果、XT04/SB04、XT04/SB21、XT04/SB42、XT04/SB38、XT04/SB30、XT04/SB07、XT04/SB05、XT04/SB06、XT04/SB34はF.VIIIa様活性の上昇を示した。
【図6】図4の中で最も活性の高かったXB12/SB04について、様々な濃度でのF.VIIIa様活性を測定した結果を示す図である。結果、XB12/SB04は濃度依存的にF.VIIIa様活性の上昇を示した。
【図7】XB12/SB04、XB12/SB21、XB12/SB42、XB12/SB38、XB12/SB30、XB12/SB07、XB12/SB05、XB12/SB06、XB12/SB34存在下での、凝固時間を測定した結果を示す図である。抗体溶液とF.VIII欠乏血漿を混合後の濃度はXB12/SB06に関しては1.7μg/mL、それ以外は10μg/mLである。結果、XB12/SB04、XB12/SB21、XB12/SB42、XB12/SB38、XB12/SB30、XB12/SB07、XB12/SB05、XB12/SB06、XB12/SB34は、抗体非存在下と比較して、凝固時間の短縮効果を示した。
【図8】XT04/SB04、XT04/SB21、XT04/SB42、XT04/SB38、XT04/SB30、XT04/SB07、XT04/SB05、XT04/SB06、XT04/SB34存在下での、凝固時間を測定した結果を示す図である。抗体溶液とF.VIII欠乏血漿を混合後の濃度はXT04/SB06に関しては5μg/mL、それ以外は10μg/mLである。結果、XT04/SB04、XT04/SB21、XT04/SB42、XT04/SB38、XT04/SB30、XT04/SB07、XT04/SB05、XT04/SB06は、抗体非存在下と比較して、凝固時間の短縮効果を示した。XT04/SB34は凝固時間の短縮は認められなかった。
【図9】図7、図8の中で最も凝固時間の短縮効果の高かったXB12/SB04について、様々な濃度での凝固時間を測定した結果を示す図である。結果、XB12/SB04は濃度依存的に凝固時間の短縮効果を示した。図中の抗体濃度は抗体溶液とF.VIII欠乏血漿を混合後の数値を表す。
【図10】SB04またはSB06のGST-AP ウェスタンブロッティングの結果を示す写真である。転写されたGST-APに対し、1はSB04、2はSB06、3は抗体を含まないサンプルと反応させたものである。結果、SB04のみGST-APとの結合反応が検出された。
【図11】pELBGlacIベクターを表した図である。ColE1ori: ColE1系プラスミド複製開始領域、f1ori: f1ファージ複製開始領域、lacI: ラクトースリプレッサータンパク質コード領域、Plac: ラクトースプロモーター、pelBss: 大腸菌PelBタンパクシグナル配列、scFv: 一本鎖抗体分子コード領域、gene III: f1ファージGeneIIIタンパク質コード領域、Ampr: アンピシリン耐性遺伝子。Sfi I: 制限酵素Sfi I 切断部位。
【図12】抗F.IXa抗体(A19,A25,A31,A38,A39,A40,A41,A44,A50,A69,XB12)と抗F.X抗体(B2,B5,B9,B10,B11,B12,B13,B14,B15,B16,B18,B19,B20,B21,B23,B25,B26,B27,B31,B34-1,B34-2,B35,B36,B38,B42,SB04,SB15,SB27)とを組み合わせて発現させた二重特異性抗体の培養上清を用いてF.VIIIa様活性を測定した結果を示す図である。+はF.VIIIa様活性が0.1以上である場合を表す。
【図13】抗F.IXa抗体(A19,A25,A31,A38,A39,A40,A41,A44,A50,A69,XB12)と抗F.X抗体(B2,B5,B9,B10,B11,B12,B13,B14,B15 ,B16,B18,B19,B20 ,B21,B23,B25,B26 ,B27,B31,B34-1,B34-2,B35,B36,B38,B42,SB04,SB15,SB27)とを組み合わせて発現させた二重特異性抗体の精製物を用いて血漿凝固アッセイを行った結果を示す図である。抗体無添加時と比較し、抗体添加時の凝固時間の短縮が10秒〜20秒を+、20秒〜40秒を++、40秒〜50秒を+++、そして50秒以上を++++で表す。
【図14】図13の中で凝固時間の短縮効果の高かったA44/B26について、様々な濃度での凝固時間を測定した結果を示す図である。抗体無添加時の凝固時間は113秒である。結果、A44/B26は濃度依存的に凝固時間の短縮効果を示した。図中の抗体濃度は抗体溶液とF.VIII欠乏血漿を混合後の数値を表す。
【図15】図13の中で凝固時間の短縮効果の高かったA69/B26について、様々な濃度での凝固時間を測定した結果を示す図である。抗体無添加時の凝固時間は109.6秒である。結果、A69/B26は濃度依存的に凝固時間の短縮効果を示した。図中の抗体濃度は抗体溶液とF.VIII欠乏血漿を混合後の数値を表す。
【図16】A44/B26またはXB12/SB04とF.VIIIの共存下での、凝固時間を測定した結果を示す図である。結果、A44/B26またはXB12/SB04とF.VIIIの混合溶液は、F.VIII単独と比較して、凝固時間の短縮効果を示した。
【図17】A44/B26またはXB12/SB04存在下での、インヒビター血漿における凝固時間を測定した結果を示す図である。結果、A44/B26またはXB12/SB04は抗体非存在下と比較して、凝固時間の短縮効果を示した。
【図18】XB12/SB04とヒト化XB12/ヒト化SB04について、様々な濃度での凝固時間を測定した結果を示す図である。抗体無添加時の凝固時間は111.3秒である。測定の結果、ヒト化XB12/ヒト化SB04はXB12/SB04と同程度の凝固時間の短縮効果を示した。図中の抗体濃度は抗体溶液とF.VIII欠乏血漿を混合後の数値を表す。
【図19】L鎖発現用ベクターpCAGG-kappaの構造を示す図である。
【図20】A44/B26/AAAを組み合わせた二重特異性抗体の凝固時間を測定した結果を示す図である。抗体溶液とF.VIII欠乏血漿を混合後の濃度は30μg/mLである。
【図21】A44/B26にBAA(G), ABA(G), BBA(G)を組み合わせた二重特異性抗体の凝固時間を測定した結果を示す図である。抗体溶液とF.VIII欠乏血漿を混合後の濃度は30μg/mLである。
【図22】B26/AAAにA50,A69を組み合わせた二重特異性抗体の凝固時間を測定した結果を示す図である。抗体溶液とF.VIII欠乏血漿を混合後の濃度は30μg/mLである。
【図23】A69/B26/AAAを組み合わせた二重特異性抗体の凝固時間を測定した結果を示す図である。抗体溶液とF.VIII欠乏血漿を混合後の濃度は30μg/mLである。
【図24】A69/B26にBBA, aAA, AAa, ABa, BBa, aBA, BAA, BAa, ABAを組み合わせた二重特異性抗体の凝固時間を測定した結果を示す図である。抗体溶液とF.VIII欠乏血漿を混合後の濃度は30μg/mLである。
【図25】A69/B26にBBA(G), AAa(G), BAa(G), ABa(G), BBa(G)を組み合わせた二重特異性抗体の凝固時間を測定した結果を示す図である。抗体溶液とF.VIII欠乏血漿を混合後の濃度は30μg/mLである。
【図26】A69/B26にaAA(G), aBA(G)を組み合わせた二重特異性抗体の凝固時間を測定した結果を示す図である。抗体溶液とF.VIII欠乏血漿を混合後の濃度は30μg/mLである。
【図27】キメラ二重特異性抗体とヒト化二重特異性抗体の凝固時間を測定した結果を示している。各抗体の定常領域はKnobs-into-holes技術を使用している。抗体溶液とF.VIII欠乏血漿を混合後の濃度は30μg/mLである。
【図28】2種類のヒト化二重特異性抗体の凝固時間を測定した結果を示している。各抗体は野生型の定常領域を使用している。抗体溶液とF.VIII欠乏血漿を混合後の濃度は30μg/mLである。
【図29】A69/B26/BBAにXB12、SB04、XB12とSB04、XB12/SB04を混合したときの血漿凝固時間の結果を示している。混合後の各抗体濃度は20μg/mLである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書中に記載される多重特異性抗体とは、少なくとも2種類の異なる抗原に対して特異的に結合することができる抗体である。好ましい多重特異性抗体として2つの抗原に対して特異的に結合することができる二重特異性抗体(bispecific antibody;BsAb)(二種特異性抗体と呼ばれる場合もある)を挙げることができる。
【0020】
本発明において、「異なる抗原」とは必ずしも抗原自体が異なる必要はなく、抗原決定基が異なる場合等も本発明の「異なる抗原」に含まれる。従って、例えば、単一分子内の異なる抗原決定基も本発明の異なる抗原に含まれ、このような単一分子内の異なる抗原決定基を各々認識する2つの抗体は、本発明において異なる抗原を認識する抗体として扱われる。また、本発明において「共通軽鎖」とは、異なる2種以上の重鎖と会合し、それぞれの抗原に対して結合能を示し得る軽鎖である。ここで、「異なる重鎖」とは、好ましくは異なる抗原に対する抗体の重鎖を指すが、それに限定されず、アミノ酸配列が互いに異なっている重鎖を意味する。
【0021】
本発明における多重特異性抗体(好ましくは、二重特異性抗体)は、2種以上の異なる抗原に対して特異性を有する抗体もしくは抗体断片からなる分子である。本発明の抗体は特に制限されないが、モノクローナルであることが好ましい。
【0022】
また、本発明の多重特異性抗体は、共通軽鎖(L鎖)を有することを特徴とする。
【0023】
本発明における多重特異性抗体は、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型抗体であることが好ましい。(例えば、Borrebaeck CAK and Larrick JW, THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990 参照)。組換え型抗体は、それをコードするDNAをハイブリドーマ、または抗体を産生する感作リンパ球等の抗体産生細胞からクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得ることができる。
【0024】
さらに、本発明における抗体は、その抗体断片や抗体修飾物であってよい。抗体断片としては、ダイアボディ(diabody;Db)、線状抗体、一本鎖抗体(以下、scFvとも記載する)分子などが含まれる。ここで、「Fv」断片は最小の抗体断片であり、完全な抗原認識部位と結合部位を含む。「Fv」断片は1つの重(H)鎖可変領域(VH)および軽(L)鎖可変領域(VL)が非共有結合により強く連結されたダイマー(VH-VLダイマー)である。各可変領域の3つの相補鎖決定領域(complementarity determining region;CDR)が相互作用し、VH-VLダイマーの表面に抗原結合部位を形成する。6つのCDRが抗体に抗原結合部位を付与している。しかしながら、1つの可変領域(または、抗原に特異的な3つのCDRのみを含むFvの半分)であっても、全結合部位よりも親和性は低いが、抗原を認識し、結合する能力を有する。
【0025】
また、Fab断片(F(ab)とも呼ばれる)はさらに、L鎖の定常領域およびH鎖の定常領域(CH1)を含む。Fab'断片は、抗体のヒンジ領域からの1またはそれ以上のシステインを含むH鎖CH1領域のカルボキシ末端由来の数残基を付加的に有する点でFab断片と異なっている。Fab'-SHとは、定常領域の1またはそれ以上のシステイン残基が遊離のチオール基を有するFab'を示すものである。F(ab')断片は、F(ab') 2ペプシン消化物のヒンジ部のシステインにおけるジスルフィド結合の切断により製造される。化学的に結合されたその他の抗体断片も当業者には知られている。
【0026】
ダイアボディは、遺伝子融合により構築された二価(bivalent)の抗体断片を指す(Holliger P et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90: 6444-6448 (1993)、EP404,097号、WO93/11161号等)。ダイアボディは、2本のポリペプチド鎖から構成されるダイマーであり、ポリペプチド鎖は各々、同じ鎖中でL鎖可変領域(VL)及びH鎖可変領域(VH)が、互いに結合できない位に短い、例えば、5残基程度のリンカーにより結合されている。同一ポリペプチド鎖上にコードされるVLとVHとは、その間のリンカーが短いため単鎖可変領域フラグメントを形成することが出来ず二量体を形成するため、ダイアボディは2つの抗原結合部位を有することとなる。
【0027】
一本鎖抗体またはscFv抗体断片には、抗体のVHおよびVL領域が含まれ、これらの領域は単一のポリペプチド鎖中に存在する。一般に、FvポリペプチドはさらにVHおよびVL領域の間にポリペプチドリンカーを含んでおり、これによりscFvは、抗原結合のために必要な構造を形成することができる(scFvの総説については、Pluckthun『The Pharmacology of Monoclonal Antibodies』Vol.113(Rosenburg and Moore ed (Springer Verlag, New York) pp.269-315, 1994)を参照)。本発明におけるリンカーは、その両端に連結された抗体可変領域の発現を阻害するものでなければ特に限定されない。
【0028】
IgGタイプ二重特異性抗体はIgG抗体を産生するハイブリドーマ二種を融合することによって生じるhybrid hybridoma(quadroma)によって分泌させることが出来る(Milstein C et al. Nature 1983, 305: 537-540)。また目的の二種のIgGを構成するL鎖及びH鎖の遺伝子、合計4種の遺伝子を細胞に導入することによって共発現させることによって分泌させることが出来る。
【0029】
この際H鎖のCH3領域に適当なアミノ酸置換を施すことによってH鎖についてヘテロな組合せのIgGを優先的に分泌させることも出来る(Ridgway JB et al. Protein Engineering 1996, 9: 617-621、Merchant AM et al. Nature Biotechnology 1998, 16: 677-681)。
【0030】
また、L鎖に関しては、H鎖可変領域に比べてL鎖可変領域の多様性が低いことから、両H鎖に結合能を与え得る共通のL鎖が得られることが期待され、本発明の抗体は、共通のL鎖を有することを特徴とするものである。この共通L鎖と両H鎖遺伝子を細胞に導入することによってIgGを発現させることで効率の良い二重特異性IgGの発現が可能となる。
【0031】
また、Fab’を化学的に架橋することによっても二重特異性抗体を作製し得る。例えば一方の抗体から調製したFab’をo-PDM(ortho-phenylenedi-maleimide)にてマレイミド化し、これともう一方の抗体から調製したFab’を反応させることにより、異なる抗体由来Fab’同士を架橋させ二重特異性 F(ab’) 2を作製することが出来る(Keler T et al. Cancer Research 1997, 57: 4008-4014)。またFab’-チオニトロ安息香酸(TNB)誘導体とFab’-チオール(SH)等の抗体断片を化学的に結合する方法も知られている(Brennan M et al. Science 1985, 229: 81-83)。
【0032】
化学架橋の代わりにFos, Junなどに由来するロイシンジッパーを用いることも出来る。Fos, Junはホモダイマーも形成するが、ヘテロダイマーを優先的に形成することを利用する。Fosロイシンジッパーを付加したFab’とJunのそれを付加したもう一方のFab’を発現調製する。温和な条件で還元した単量体Fab’-Fos, Fab’-Junを混合し反応させることによって二重特異性 F(ab’) 2が形成できる(Kostelny SA et al. J of Immunology, 1992, 148: 1547-53)。この方法はFab’には限定されず、scFv, Fvなどにおいても応用可能である。
【0033】
ダイアボディにおいても二重特異性抗体を作製し得る。二重特異性ダイアボディは二つのcross-over scFv断片のヘテロダイマーである。つまり二種の抗体A,B由来のVHとVLを5残基前後の比較的短いリンカーで結ぶことによって作製されたVH (A)-VL (B), VH (B)-VL (A)を用いてヘテロダイマーを構成することによって出来る(Holliger P et al. Proc of the National Academy of Sciences of the USA 1993, 90: 6444-6448)。
【0034】
この際、二種のscFvを15残基程度の柔軟な比較的長いリンカーで結ぶ(一本鎖ダイアボディ:Kipriyanov SM et al. J of Molecular Biology. 1999, 293: 41-56)、適当なアミノ酸置換(knobs-into-holes: Zhu Z et al. Protein Science. 1997, 6: 781-788)を行うことによって目的の構成を促進させることも出来る。
【0035】
二種のscFvを15残基程度の柔軟な比較的長いリンカーで結ぶことによって作製できるsc(Fv) 2も二重特異性抗体となり得る(Mallender WD et al. J of Biological Chemistry, 1994, 269: 199-206)。
【0036】
抗体修飾物としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を挙げることができる。本発明の抗体修飾物においては、結合される物質は限定されない。このような抗体修飾物を得るには、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。これらの方法はこの分野において既に確立されている。
【0037】
本発明の抗体は、ヒト抗体、マウス抗体、ラット抗体など、その由来は限定されない。またキメラ抗体やヒト化抗体などの遺伝子改変抗体でもよい。
【0038】
ヒト抗体の取得方法は既に知られており、例えば、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を目的の抗原で免疫することで目的のヒト抗体を取得することができる(国際特許出願公開番号WO 93/12227, WO 92/03918,WO 94/02602, WO 94/25585,WO 96/34096, WO 96/33735参照)。
【0039】
遺伝子改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。具体的には、たとえばキメラ抗体は、免疫動物の抗体のH鎖、およびL鎖の可変領域と、ヒト抗体のH鎖およびL鎖の定常領域からなる抗体である。免疫動物由来の抗体の可変領域をコードするDNAを、ヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることによって、キメラ抗体を得ることができる。
【0040】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される改変抗体である。ヒト化抗体は、免疫動物由来の抗体のCDRを、ヒト抗体の相補性決定領域へ移植することによって構築される。その一般的な遺伝子組換え手法も知られている。
【0041】
具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAを、ヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 239400、国際特許出願公開番号WO 96/02576参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域におけるフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato K et al, Cancer Research 1993, 53: 851-856)。また、様々なヒト抗体由来のフレームワーク領域に置換してもよい(国際特許出願公開番号WO 99/51743参照)。
【0042】
本発明の多重特異性抗体は、血液凝固線溶関連因子の血液凝固第IX因子(F.IX)および/または活性化血液凝固第IX因子(F.IXa)、および、血液凝固第X因子(F.X)を認識し、補因子のF.VIII/F.VIIIaの機能を代替する活性を有する抗体であって、共通のL鎖を有することを特徴とする。また、本発明の抗体は、通常、抗F.IXa抗体における可変領域と、抗F.X抗体における可変領域とを含む構造を有する。
【0043】
本発明における多重特異性抗体は、血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子を認識する第一のドメイン、および血液凝固第X因子を認識する第二のドメインを含み、第一のドメインおよび第二のドメインは更に抗体の共通のL鎖の全部または一部の配列を有する第三のポリペプチドを含む抗体である。
【0044】
即ち、本発明の抗体の好ましい態様においては、血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子を認識する第一のドメイン、および血液凝固第X因子を認識する第二のドメインを含む、血液凝固第VIII因子の機能を代替し得る多重特異性抗体であって、第一のドメインは血液凝固第IX因子または活性化血液凝固第IX因子に対する抗体のH鎖の全部または一部を含む第一のポリペプチドを含み、第二のドメインは血液凝固第X因子に対する抗体のH鎖の全部または一部を含む第二のポリペプチドを含み、第一のドメインおよび第二のドメインは更に抗体のL鎖の全部または一部であって共通の配列を有する第三のポリペプチドを含む多重特異性抗体を提供する。
【0045】
活性化血液凝固第VIII因子(F.VIIIa)は、F.IXaとF.Xの両方に結合することによって、F.IXaによるF.Xの活性化を増強する。上記の酵素F.IXa、基質F.Xの両方を認識する二重特異性抗体の中には、F.Xの活性化を増強する作用を有するものがある。このような抗体の中には、補因子F.VIII/F.VIIIaの作用機能を代替する作用を有するものが存在すると考えられる。
【0046】
なお、本発明におけるF.VIII/F.VIIIaは、トロンビン等の蛋白分解酵素により限定分解を受けるが、F.VIII/F.VIIIaの補因子活性を有している限り、その形態は問わない。また、変異F.VIII/F.VIIIaや、遺伝子組換技術により人為的に改変したF.VIII/F.VIIIaに関しても、F.VIII/F.VIIIaの補因子活性を有している限り、本発明のF.VIII/F.VIIIaに含まれる。
【0047】
本発明における「第三のポリペプチド」は、好ましくは、血液凝固第IX因子(F.IX)、活性化血液凝固第IX因子(F.IXa)または血液凝固第X因子(F.X)に対する抗体のL鎖の全部または一部の配列を含むものである。
【0048】
さらに、本発明における「第三のポリペプチド」は、2以上の抗体の各L鎖のCDR1、2、3からそれぞれ独立に選択されるCDR1、2、3からなる抗原結合部位、またはこれと機能的に同等な抗原結合部位を含むものであることが好ましい。
【0049】
本発明の抗体の第一のポリペプチドのH鎖CDR1、2、3は、好ましい態様として具体的には、後述の実施例に記載のA44またはA69のH鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:3、5、7または21、5、22)のアミノ酸配列からなる抗原結合部位、またはこれらと機能的に同等の抗原結合部位を挙げることができる。
【0050】
また、第二のポリペプチドのH鎖CDR1、2、3は、好ましい態様として具体的には、後述の実施例に記載のB26のH鎖CDR1、2、3の各配列(配列番号:26、28、30)に記載のアミノ酸配列からなる抗原結合部位、またはこれらと機能的に同等の抗原結合部位を挙げることができる。
【0051】
本発明に記載のA44、A50、A69、B26のH鎖可変領域のアミノ酸配列はそれぞれ、以下の配列番号で示される。
A44:配列番号:1
A50:配列番号:15
A69:配列番号:20
B26:配列番号:24
【0052】
また、A44、A50、A69、B26のH鎖CDRの塩基配列(括弧内は該塩基配列によってコードされるアミノ酸配列)は、CDR1、2、3の順にそれぞれ、以下のような配列番号で示される。
A44:配列番号:2(3)、4(5)、6(7)
A50:配列番号:109(16)、110(17)、111(18)
A69:配列番号:112(21)、113(5)、114(22)
B26:配列番号:25(26)、27(28)、29(30)
【0053】
また、本発明記載のA44、A50、A69、B26のL鎖可変領域のアミノ酸配列はそれぞれ、以下の配列番号で示される。
A44:配列番号:8
A50:配列番号:115
A69:配列番号:116
B26:配列番号:31
【0054】
また、A44、A50、A69、B26のL鎖CDRの塩基配列(括弧内は該塩基配列によってコードされるアミノ酸配列)は、CDR1、2、3の順にそれぞれ、以下のような配列番号で示される。
A44:配列番号:9(10)、11(12)、13(14)
A50:配列番号:117(10)、118(12)、119(19)
A69:配列番号:120(23)、121(12)、122(14)
B26:配列番号:32(33)、34(35)、36(37)
【0055】
なお、CDR1を表すアミノ酸配列は以下のとおりである。
A44:配列番号:3、10
A50:配列番号:16、10
A69:配列番号:21、23
B26:配列番号:26、33
【0056】
CDR2を表すアミノ酸配列は以下のとおりである。
A44:配列番号:5、12
A50:配列番号:17、12
A69:配列番号:5、12
B26:配列番号:28、35
【0057】
CDR3を表すアミノ酸配列は以下のとおりである。
A44:配列番号:7、14
A50:配列番号:18、19
A69:配列番号:22、14
B26:配列番号:30、37
【0058】
本発明で開示されている可変領域を用いて全長抗体を作製する場合、定常領域は特に限定されず、当業者に公知の定常領域を用いることが可能であり、例えば、Sequences of proteins of immunological interest, (1991), U.S. Department of Health and Human Services. Public Health Service National Institutes of Healthや、An efficient route to human bispecific IgG, (1998). Nature Biotechnology vol. 16, 677-681、等に記載されている定常領域を用いることができる。
【0059】
本発明の好ましい態様における二重特異性抗体については、F.XIa(F.IX活性化酵素)、F.IX、F.X、F.Xaの合成基質(S-2222)、リン脂質から成る測定系で、F.VIII/F.VIIIa(F.IXaによるF.X活性化の補因子)を代替する活性を評価した。その結果を以って、F.VIII/F.VIIIa代替活性を有する二重特異性抗体として、原則本測定系で0.1以上のF.VIIIa様活性を示したものを選択した。なお、ここでいうF.VIIIa様活性とは、抗体溶液または抗体発現培養上清の30分間または60分間の吸光度変化値から、溶媒または抗体非発現培養上清の30分間または60分間の吸光度変化値を引いた値である。
【0060】
上記で選択された二重特異性抗体あるいはその類縁の二重特異性抗体に関しては、F.VIII欠乏ヒト血漿を用いた凝固時間測定系を用い、凝固回復能を測定した。その結果、抗体無添加時に比べて、凝固時間を短縮する二重特異性抗体を得た。ここでいう凝固時間は実施例7に示したように、F.VIII欠乏ヒト血漿を用いた活性化部分トロンボプラスチン時間を測定したものである。それら二重特異性抗体の中で、好ましい二重特異性抗体は10秒以上の、より好ましい二重特異性抗体は20秒以上の、さらに好ましい二重特異性抗体は40秒以上の、最も好ましい二重特異性抗体は50秒以上の凝固時間短縮能を有していた。
【0061】
即ち、本発明の好ましい態様としては、血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子、並びに血液凝固第X因子を認識する血液凝固第VIII因子の機能を代替し得る多重特異性抗体である。
【0062】
本発明の多重特異性抗体のF.VIII代替機能は、F.VIII欠乏ヒト血漿を用いた凝固時間測定系において、抗体無添加時に比べた凝固時間の短縮を測定することにより示すことができる。ここでいう凝固時間は、例えば、実施例21に示すF.VIII欠乏ヒト血漿を用いた凝固時間測定系における、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)を意味する。本発明の多重特異性抗体の一態様は、50秒以上の凝固時間短縮能を有する抗体であり、好ましくは60秒以上、より好ましくは70秒以上、更に好ましくは80秒以上の凝固時間短縮能を有している。
【0063】
本発明の上記多重特異性抗体は、好ましくは、抗血液凝固第IX/IXa因子抗体のH鎖CDRまたはこれと機能的に同等なCDRと、抗血液凝固第X因子抗体のH鎖CDRまたはこれと機能的に同等なCDRとを含む抗体である。
【0064】
また本発明の抗体は、抗血液凝固第IX/IXa因子抗体における、配列番号:3、5、7(A44のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列、または配列番号:21、5、22(A69のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列からなる抗原結合部位またはこれと機能的に同等の抗原結合部位と、抗血液凝固第X因子抗体における配列番号:26、28、30(B26のH鎖CDR)に記載のH鎖CDR1、2、3のアミノ酸配列からなる抗原結合部位またはこれと機能的に同等の抗原結合部位とを含む抗体であることが好ましい。
【0065】
なお、本発明において、抗原結合部位が機能的に同等であるとは、本明細書に記載された各種CDRを含む抗原結合部位と同様の結合特性を有することをいう。つまり、以下に示す安定化を目的としたアミノ酸残基の置換によっても同様の抗原決定基(エピトープ)を認識する場合は、機能的に同等とする。
【0066】
また、本願の抗体(クローン)については、脱アミド化、メチオニン酸化などの回避や抗体の構造安定化を目的に以下のようにアミノ酸残基を置換してもよい。
本発明の抗体は、必要に応じて、脱アミド化、メチオニン酸化などの回避や抗体の構造安定化を目的にアミノ酸残基を改変してもよい。
【0067】
脱アミド化、メチオニン酸化などの回避を目的として、NとMを改変してもよい。また、A44、A69のH鎖CDR3内のNG配列のG、B26のH鎖CDR2のNT配列のTを改変してもよい。また、Met酸化回避のためにMを改変してもよい。また、ターン構造改善による熱安定性向上のため、A44、A69のH鎖CDR2の最後のRD配列のD、A50のH鎖CDR2のKV配列のVを改変してもよい、改変する場合は特にG、S、Tへの改変が好ましい。同じくA44L鎖のL鎖CDR3、kabat95のYをPに改変してもよい。また、疎水コア改善による熱安定性向上のため、B26L鎖のL鎖CDR1、kabat33のVをLに改変してもよい。さらに、VH/VL界面の乱れを修正するために、A44、A50、A69のH鎖CDR3の最後のLDY 配列のL、FDY配列のFを改変してもよい。同じくA44、A50、A69のL鎖CDR3の最後のIT配列のI、LT配列のLを改変してもよい。また、B26L鎖のCDR2のRYS配列のYを改変してもよい。
【0068】
以下にA44、A50、A69、B26の各CDRの配列と置換の可能性の考えられるアミノ酸残基を下線にて示す。
A44 H鎖CDR1: SSWMH(配列番号:3)
A50 H鎖CDR1: TYWMH(配列番号:16)
A69 H鎖CDR1: DYYMH(配列番号:21)
B26 H鎖CDR1: DNNMD(配列番号:26)
【0069】
A44, A69 H鎖CDR2: YINPSSGYTKYNRKFRD(配列番号:5)
A50 H鎖CDR2: YINPSSGYTKYNQKFKV(配列番号:17)
B26 H鎖CDR2: DINTKSGGSIYNQKFKG(配列番号:28)
【0070】
A44 H鎖CDR3: GGNGYYFDY(配列番号:7)
A50 H鎖CDR3: GNLGYFFDY(配列番号:18)
A69 H鎖CDR3: GGNGYYLDY(配列番号:22)
B26 H鎖CDR3: RRSYGYYFDY(配列番号:30)
【0071】
A44, A50 L鎖CDR1: KASQDVGTAVA(配列番号:10)
A69 L鎖CDR1: KASQDVSTAVA(配列番号:23)
B26 L鎖CDR1: KASQNVGTAVA(配列番号:33)
【0072】
A44, A50, A69 L鎖CDR2: WASTRHT(配列番号:12)
B26 L鎖CDR2: SASYRYS(配列番号:35)
【0073】
A44, A69 L鎖CDR3: QQYSNYIT(配列番号:14)
A50 L鎖CDR3: QQYSSYLT(配列番号:19)
B26 L鎖CDR3: QQYNSYPLT(配列番号:37)
【0074】
さらに本発明は、L鎖が共通化される前の二重特異性抗体に対して、L鎖の共通化によって低下した活性を回復させる、あるいは、元の活性より向上させる方法に関する。本発明は、この方法を利用して本発明の二重特異性抗体を作製する方法を提供する。
【0075】
即ち本発明は、第一のH鎖、第二のH鎖および共通のL鎖を有する二重特異性抗体の作製方法であって、以下の工程を含む方法を提供する。
(1)第一の抗原に対する第一の抗体と、第二の抗原に対する第二の抗体とを用意する工程;
(2)第一の抗体および第二の抗体の可変領域を有する第一の抗原および第二の抗原に対する二重特異性抗体を作製する工程;
(3)前記(2)で作製した二重特異性抗体の抗原への結合活性または抗体の生物活性を測定する工程;
(4)第一の抗体のH鎖および第二の抗体のH鎖を、第一の抗体または第二の抗体のL鎖で共通化して共通L鎖抗体を作製する工程;
(5)前記(4)で作製した共通L鎖抗体の抗原への結合活性または抗体の生物活性を測定する工程;
(6)前記(4)で作製した共通L鎖抗体の1または2個または3個のCDRを、第一の抗体、第二の抗体または第一の抗体または第二の抗体のCDRのアミノ酸配列に対して高い相同性を有する抗体のCDRにより置換して共通L鎖抗体を作製する工程;
(7)前記(6)で作製した共通L鎖抗体と、前記(2)で作製した元の二重特異性抗体または前記(4)で作製した共通L鎖抗体とを抗原への結合活性または抗体の生物活性について比較し、所望の活性を有する共通L鎖抗体を選択する工程;および
(8)前記(7)で選択した共通L鎖抗体について、必要に応じて前記(6)および(7)の工程を反復して前記(2)で作製した元の二重特異性抗体と同等以上の活性を有する共通L鎖抗体を得る工程
【0076】
本発明の上記方法においては、まず、L鎖が共通化されていない二重特異性抗体の作製を行う。
【0077】
本発明の二重特異性抗体を得る方法は特に制限されず、どのような方法で取得されてもよい。一例を示せば、酵素A及び基質Bに対する補因子機能代替二重特異性抗体を得る場合、酵素A、基質Bそれぞれを免疫動物に免疫し、抗酵素A抗体及び抗基質B抗体を取得する。その後、抗酵素A抗体のH鎖とL鎖及び抗基質B抗体のH鎖とL鎖を含む二重特異性抗体を作製する。ここで、抗酵素A抗体と抗基質B抗体はそれぞれ複数種得られていることが望ましく、これらを用いてなるべく多くの組合せの二重特異性抗体を作製することが好ましい。二重特異性抗体を作製後、補因子機能代替活性を有する抗体を選択する。
【0078】
酵素あるいは基質に対する抗体は、当業者に公知の方法により得ることができる。例えば、免疫動物に対して抗原を免疫することにより調製することができる。動物を免疫する抗原としては、免疫原性を有する完全抗原と、免疫原性を有さない不完全抗原(ハプテンを含む)が挙げられる。本発明においては、本発明の補因子機能代替抗体が補因子として作用すると考えられる酵素あるいは基質を、上記抗原(免疫原)として使用する。免疫する動物として、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ニワトリまたはアカゲザル等を用いることができる。これら動物に対して、抗原を免疫することは、当業者においては、周知の方法によって行うことができる。本発明において好ましくは、免疫された動物または該動物の細胞から抗体のL鎖およびH鎖の可変領域の回収を行う。この操作は、当業者においては一般的に公知の技術を用いて行うことができる。抗原によって免疫された動物は、とりわけ脾臓細胞において該抗原に対する抗体を発現する。従って、例えば、免疫された動物の脾臓細胞からmRNAを調製し、該抗体の可変領域に対応するプライマーを用いて、RT-PCRによりL鎖およびH鎖の可変領域の回収を行うことができる。
【0079】
詳細には、動物に酵素、基質それぞれを免疫する。免疫原とする酵素、基質は、蛋白質全体、もしくは該蛋白質の部分ペプチドであってもよい。また、動物を免疫するのに用いる免疫原としては、場合により抗原となるものを他の分子に結合させ可溶性抗原とすることも可能であり、また、場合によりそれらの断片を用いてもよい。
【0080】
免疫されたマウスの脾臓から脾細胞を単離し、マウスミエローマ細胞と融合し、ハイブリドーマを作製する。抗原に結合するハイブリドーマをそれぞれ選択し、可変領域に対応するプライマーなどを用いてRT-PCRにてL鎖、H鎖の可変領域を回収することが出来る。CDRに対応するプライマー、CDRよりも多様性の低いフレームワークに対応するプライマー、あるいはシグナル配列とCH1もしくはL鎖定常領域(CL)に対応するプライマーを用いることもできる。
【0081】
あるいは、免疫された動物の脾細胞からmRNAを抽出し、可変領域付近に対応するプライマーを用いてRT-PCRにてL鎖、H鎖可変領域のcDNAを回収する。また、in vitroにおいてリンパ球を免疫することもできる。これを用いてscFvもしくはFabを提示するライブラリーを構築する。パンニングによって抗原結合抗体クローンを濃縮・クローン化し、可変領域を得ることが出来る。この際、ヒトや免疫していない動物の末梢血単核球、脾臓、扁桃腺などに由来するmRNAを材料とする同様のライブラリーを用いてスクリーニングを行うことも可能である。
【0082】
その可変領域を用いて抗体発現ベクターを作製する。抗酵素抗体発現ベクターと抗基質抗体発現ベクターを同一の細胞に導入し、抗体を発現させることにより二重特異性抗体を得ることができる。
【0083】
次いで、本発明の上記方法においては、作製された二重特異性抗体の抗原への結合活性または抗体の生物活性を測定する。例えば、補因子機能代替活性を有する抗体の選択としては、以下のような方法により行うことができる。
【0084】
(1)該酵素・該基質を含む反応系を用い、該抗体を加えることによる該酵素活性(基質分解能)の上昇を指標とし、選択する。
(2)該酵素・該基質・該補因子が関わる生体機能を測定するあるいは模倣する系を用い、該補因子非存在条件下にて該抗体を加えることによる機能回復活性を指標とし選択する。
【0085】
より具体的には、例えば血液凝固因子欠乏ヒト血漿を用いた凝固時間測定系によって、被検抗体の凝固能を測定することにより「活性」を測定することができる。
【0086】
得られた抗体は、均一にまで精製することができる。抗体の分離、精製は通常の蛋白質で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。例えばアフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択、組合せれば、抗体を分離、精製することができる(Antibodies : A Laboratory Manual. Ed Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988) が、これらに限定されるものではない。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムなどが挙げられる。
【0087】
本発明の二重特異性抗体の好ましい態様においては、代替する補因子がF.VIII/F.VIIIaであり、すなわち酵素および基質の組合せが、血液凝固線溶関連因子のF.IXa、及びF.Xであるため、好ましくは、抗F.IXa抗体における可変領域と、抗F.X抗体における可変領域とを含む構造を有する。
【0088】
より詳細には、例えば、F.VIII/F.VIIIa機能代替二重特異性抗体は、以下の方法で作製することができる。
【0089】
市販のF.IXa及びF.Xをそれぞれマウスの皮下に免疫する。抗体価の上昇した免疫マウスの脾臓から脾細胞を単離し、マウスミエローマ細胞と融合し、ハイブリドーマを作製する。抗原(F.IXa、F.X)に結合するハイブリドーマをそれぞれ選択し、可変領域に対応するプライマーを用いてRT-PCRにてL鎖、H鎖の可変領域を回収する。L鎖可変領域はCLを含むL鎖発現ベクターに、H鎖可変領域はH鎖定常領域を含むH鎖発現ベクターにそれぞれ組み込む。また、この免疫マウスの脾臓からmRNAを抽出し、可変領域に対応するプライマーを用いてRT-PCRにてL鎖、H鎖可変領域のcDNAを回収する。これら可変領域を用いてscFvを提示するファージライブラリーを構築する。次いで、パンニングによって抗原結合抗体クローンを濃縮・クローン化し、その可変領域を用いて抗体発現ベクターを作製し、抗F.IXa抗体(H鎖、L鎖)の発現ベクターと抗F.X抗体(H鎖、L鎖)の発現ベクターを同一の細胞に導入し、抗体を発現させることにより二重特異性抗体を得ることができる。
【0090】
本発明の上記方法においては、次いで、第一の抗体(例えば、抗F.IXa抗体)のH鎖および第二の抗体(例えば、抗F.X抗体)のH鎖を、第一の抗体または第二の抗体のL鎖で共通化して第一の共通L鎖抗体を作製し、該共通L鎖抗体の抗原への結合活性または抗体の生物活性を測定する。
【0091】
また、共通のL鎖は、特にこの方法に限定されるものではないが、例えば以下の(1)〜(7)の工程のようにして取得することも可能である。
(1)抗原Aに対する抗体A、及び抗原Bに対する抗体Bをそれぞれ選択し、
(2)該抗体のH鎖(好ましくはFd部分、即ちVH及びCH1を含む領域)をコードする遺伝子の発現ベクターを導入して各H鎖の分泌株Ha(抗体AのH鎖を分泌)及びHb(抗体BのH鎖を分泌))を用意し、
(3)別に、L鎖がファージの表面蛋白との融合蛋白質として発現されるライブラリーを構築し、
(4)該L鎖ライブラリーを前記大腸菌Haに導入して抗体AのH鎖と様々なL鎖から成る抗体(H鎖がFd部分の場合はFab)を表面に提示したファージライブラリーを分泌させ、
(5)該ライブラリーから、抗原Aによるパニングにてクローンを濃縮し、
(6)得られたクローンをさらに大腸菌Hbに感染させ、抗体BのH鎖と様々なL鎖から成る抗体(H鎖がFd部分の場合はFab)を表面に提示したファージライブラリーを得、
(7)該ライブラリーを抗原Bによるパニングによってクローンを濃縮する。
【0092】
上記(1)〜(7)の工程を繰り返すことによって、二重特異性抗体の作成に利用可能な異なるH鎖に対応し、抗原に対し高いアフィニティーを示す共通L鎖を得ることができる。
【0093】
より詳細には、以下の(a)〜(e)に示す工程のようにして共通L鎖を得ることができる。
(a)所望の抗原に対して結合する抗体のH鎖を分泌する宿主を製造する工程
(b)抗体L鎖ライブラリーを工程(a)の宿主に導入し、前記H鎖及び前記L鎖により構成される抗体を提示するファージライブラリーを分泌させる工程
(c)工程(a)記載の所望の抗原に対して特異的に結合する抗体を提示するファージライブラリーを選択する工程
(d)工程(c)において選択されたファージライブラリーを、工程(a)の抗原とは異なる所望の抗原に対して結合する抗体のH鎖を分泌する宿主に対して導入し、該H鎖及びL鎖により構成される抗体を提示するファージライブラリーを分泌させる工程
(e)工程(d)記載の所望の抗原に対して特異的に結合する抗体を提示するファージライブラリーを選択する工程
【0094】
さらに、以下の(a)〜(e)に示す工程のようにしても共通L鎖を得ることができる。
(a)所望の抗原に対して結合する抗体のH鎖を分泌する宿主を製造する工程
(b)抗体L鎖ライブラリーを工程(a)の宿主に導入し、前記H鎖及び前記L鎖により構成される抗体を提示するファージライブラリーを分泌させる工程
(c)工程(a)記載の所望の抗原に対して特異的に結合する抗体を提示するファージライブラリーを選択する工程
(d)工程(c)において選択されたファージライブラリーを、工程(a)のH鎖とは異なるアミノ酸配列を有するH鎖を分泌する宿主に対して導入し、該H鎖及びL鎖により構成される抗体を提示するファージライブラリーを分泌させる工程
(e)工程(d)記載のH鎖が認識する抗原に対して特異的に結合する抗体を提示するファージライブラリーを選択する工程
【0095】
続いて、上述のようにして作製した共通L鎖抗体の1または2個または3個のCDRを、第一の抗体、第二の抗体または第一の抗原もしくは第二の抗原に対する他の抗体であって第一の抗体または第二の抗体のCDRのアミノ酸配列に対して高い相同性を有する抗体のCDRにより置換して共通L鎖抗体を作製する。
【0096】
このCDRの「置換」は、当業者においては、公知の技術、例えば、CDRシャフリング法によって適宜、実施することができる。より具体的には、後述の実施例に記載の方法によって行うことが可能である。
【0097】
この共通L鎖抗体と、工程(2)のL鎖の共通化前の元の二重特異性抗体、または前記の工程(4)で作製した共通L鎖抗体とを抗原への結合活性または抗体の生物活性について比較し、所望の活性を有する共通L鎖抗体を選択する。
【0098】
本発明において「所望の活性」とは、例えば、L鎖を共通化する前の抗体と比較して同等もしくは増強されているような「活性」を指す。より具体的には、L鎖が共通化される前の抗体の有する補因子F.VIII/F.VIIIaとしての活性が、同等もしくは増強されているような活性を言う。従って上記工程においては、例えば、補因子F.VIII/F.VIIIaとしての活性が、同等もしくは増強されているような共通L鎖抗体を選択する。
【0099】
上記方法においては、必要に応じて、前記の工程(7)で選択した共通L鎖抗体について、前記の工程(6)および(7)の工程を反復し、前記の工程(2)で作製した元の二重特異性抗体と同等もしくはそれ以上の活性を有する共通L鎖抗体を取得する。なお、上記「反復」は、特に制限されないが、好ましくは、2回以上反復される。
【0100】
本発明の上記方法によって作製された共通のL鎖を有する二重特異性抗体もまた、本発明に含まれる。
【0101】
本発明における抗体の1つの態様としては、補因子F.VIIIの機能を代替する作用を有することから、本発明の抗体は、該補因子の活性(機能)低下に起因する疾病に対して、有効な薬剤となることが期待される。上記疾病として、例えば、出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患等を挙げることができる。特に、F.VIII/F.VIIIaの機能低下や欠損は、血友病と呼ばれる出血異常症を引き起こすことで知られる。
【0102】
血友病のうち、先天性のF.VIII/F.VIIIa機能低下または欠損による出血異常症は、血友病Aと呼ばれる。血友病A患者が出血した場合、F.VIII製剤の補充療法が行われる。また、激しい運動や遠足の当日、頻回に関節内出血を来たす場合、あるいは重症血友病に分類される場合には、F.VIII製剤の予防投与が行われることがある(Nilsson IM ら著、「J. Intern. Med.」、1992年、Vol.232、p.25-32およびLofqvist T(oはウムラウトが付く) ら著、「J. Intern. Med.」、1997年、Vol.241、p.395-400)。このF.VIII製剤の予防投与は、血友病A患者の出血エピソードを激減させるため、近年、大きく普及しつつある。出血エピソードを減らすことは、致死性及び非致死性の出血の危険及びそれに伴う苦痛を低下させるだけでなく、頻回の関節内出血に起因する血友病性関節障害を未然に防ぐ。その結果、血友病A患者のQOL向上に大きく寄与する。
【0103】
F.VIII製剤の血中半減期は短く、約12〜16時間程度である。それ故、継続的な予防のためには、F.VIII製剤を週に3回程度投与する必要がある。これは、F.VIII活性として、概ね1%以上を維持することに相当する(第24回日本血栓止血学会学術集会 学術専門部会 血友病標準化検討部会 ミニシンポジウム、2001年)。また、出血時の補充療法においても、出血が軽度な場合を除き、再出血を防ぎ、完全な止血を行うため、一定期間、F.VIII製剤を定期的に追加投与する必要がある。
【0104】
また、F.VIII製剤は、静脈内に投与される。静脈内投与実施には、技術的な困難さが存在する。特に年少の患者に対する投与においては、投与に用いられる静脈が細い故、困難さが一層増す。
【0105】
前述の、F.VIII製剤の予防投与や、出血の際の緊急投与においては、多くの場合、家庭療法・自己注射が用いられる。頻回投与の必要性と、投与の際の技術的困難さは、投与に際し患者に苦痛を与えるだけでなく、家庭療法・自己注射の普及を妨げる要因となっている。従って、現存の血液凝固第VIII因子製剤に比し、投与間隔が広い薬剤、あるいは投与が簡単な薬剤が、強く求められていた。
【0106】
さらに、血友病A患者、特に重症血友病A患者には、インヒビターと呼ばれるF.VIIIに対する抗体が発生する場合がある。インヒビターが発生すると、F.VIII製剤の効果がインヒビターにより妨げられる。その結果、患者に対する止血管理が非常に困難になる。
【0107】
このような血友病Aインヒビター患者が出血を来たした場合は、通常、大量のF.VIII製剤を用いる中和療法か、複合体製剤(complex concentrate)あるいはF.VIIa製剤を用いるバイパス療法が、実施される。しかしながら、中和療法では、大量のF.VIII製剤の投与が、逆に、インヒビター(抗F.VIII抗体)力価を上げてしまう場合がある。また、バイパス療法では、複合体製剤やF.VIIa製剤の短血中半減期(約2 〜 8時間)が問題となっている。その上、それらの作用機序が、F.VIII/F.VIIIaの機能、すなわちF.IXaによるF.X活性化を触媒する機能に非依存であるため、場合によっては、止血機構をうまく機能させられず、不応答になってしまうケースがある。そのため、血友病Aインヒビター患者では、非インヒビター血友病A患者に比し、十分な止血効果を得られない場合が多いのである。従って、インヒビターの存在に左右されず、且つF.VIII/F.VIIIaの機能を代替する薬剤が、強く求められていた。
【0108】
ところで、F.VIII/F.VIIIaに関係する出血異常症として、血友病、抗F.VIII自己抗体を有する後天性血友病のほかに、フォンビルブランド因子(vWF)の機能異常または欠損に起因するフォンビルブランド病が知られている。vWFは、血小板が、血管壁の損傷部位の内皮下組織に正常に粘着するのに必要であるだけでなく、F.VIIIと複合体を形成し、血漿中F.VIIIレベルを正常に保つのにも必要である。フォンビルブランド病患者では、これらの機能が低下し、止血機能異常を来たしている。
【0109】
さて、(i)投与間隔が広く、(ii)投与が簡単であり、(iii)インヒビターの存在に左右されず、(iv) F.VIII/F.VIIIa非依存的にその機能を代替する医薬品の創製には、抗体を利用する方法が考えられる。抗体の血中半減期は、一般に、比較的長く、数日から数週間である。また、抗体は、一般に、皮下投与後に血中に移行することが知られている。すなわち、一般に抗体医薬品は、上記の(i)、(ii)を満たしている。
【0110】
本発明では、本発明に記載の抗体および薬学的に許容される担体を含む(医薬)組成物を提供する。例えば、本発明の抗体がF.IXもしくはF.IXa、およびF.Xの両方を認識し、F.VIIIの機能を代替する抗体は、例えば、出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患の予防および/または治療のための医薬品(医薬組成物)もしくは薬剤となることが期待される。
【0111】
本発明において、出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患とは、好ましくは血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患である。このような疾患としては、例えば上記の血友病A、血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子に対するインヒビターが出現している疾患、後天性血友病、フォンビルブランド病を挙げることができるが、これら疾患に特に制限されない。
【0112】
治療または予防目的で使用される本発明の抗体を有効成分として含む医薬組成物は、必要に応じて、それらに対して不活性な適当な薬学的に許容される担体、媒体等と混和して製剤化することができる。例えば、滅菌水や生理食塩水、安定剤、賦形剤、酸化防止剤(アスコルビン酸等)、緩衝剤(リン酸、クエン酸、他の有機酸等)、防腐剤、界面活性剤(PEG、Tween等)、キレート剤(EDTA等)、結合剤等を挙げることができる。また、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチンや免疫グロブリン等の蛋白質、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン及びリシン等のアミノ酸、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物、マンニトールやソルビトール等の糖アルコールを含んでいてもよい。注射用の水溶液とする場合には、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO-50)等と併用してもよい。
【0113】
また、必要に応じ本発明の抗体をマイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる("Remington's Pharmaceutical Science 16th edition", Oslo Ed. (1980)等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、本発明の抗体に適用し得る(Langer et al., J.Biomed.Mater.Res. 15: 267-277 (1981); Langer, Chemtech. 12: 98-105 (1982);米国特許第3,773,919号;欧州特許出願公開(EP)第58,481号; Sidman et al., Biopolymers 22: 547-556 (1983);EP第133,988号)。
【0114】
本発明の抗体または医薬組成物は、血液凝固第VIII因子と併用することができる。本発明の抗体または医薬組成物は、血液凝固第VIII因子と同時に投与してもよく、または、時期をずらして投与してもよい。また、本発明の抗体または医薬組成物と血液凝固第VIII因子を組み合わせたキットとして実施してもよい。さらに、本発明の抗体または医薬組成物と血液凝固第VIII因子を併用する場合は、いずれかを単独で用いる場合に比べて、所望により各々の投与量を少なくすることも可能である。
【0115】
本発明の二重特異性抗体または医薬組成物は2種以上を併用することが可能であり、また、他のF.IX/F.IXaおよびF.Xに対する二重特異性抗体、抗F.IX/F.IXa抗体、抗F.X抗体またはこれらの組み合せと併用することができる。本発明の二重特異性抗体または医薬組成物の2種以上を併用する場合、または、他のF.IX/F.IXaおよびF.Xに対する二重特異性抗体、抗F.IX/F.IXa抗体、抗F.X抗体またはこれらの組み合せと併用する場合は、同時に投与してもよく、または、時期をずらして投与してもよい。また、本発明の二重特異性抗体または医薬組成物の2種以上、または、他のF.IX/F.IXaおよびF.Xに対する二重特異性抗体、抗F.IX/F.IXa抗体、抗F.X抗体またはこれらの組み合せと組み合わせたキットとして実施してもよい。さらに、本発明の二重特異的抗体または医薬組成物の2種以上を併用する場合、または、他のF.IX/F.IXaおよびF.Xに対する二重特異性抗体、抗F.IX/F.IXa抗体、抗F.X抗体またはこれらの組み合せと併用する場合は、いずれかを単独で用いる場合に比べて、所望により各々の投与量を少なくすることも可能である。
【0116】
本発明の医薬組成物の投与量は、剤型の種類、投与方法、患者の年齢や体重、患者の症状、疾患の種類や進行の程度等を考慮して、最終的には医師の判断により適宜決定されるものであるが、一般に大人では、1日当たり、0.1〜2000mgを1〜数回に分けて投与することができる。より好ましくは1〜1000mg/日、更により好ましくは50〜500mg/日、最も好ましくは100〜300mg/日である。これらの投与量は患者の体重や年齢、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。投与期間も、患者の治癒経過等に応じて適宜決定することが好ましい。
【0117】
また、本発明の抗体をコードする遺伝子を遺伝子治療用ベクターに組込み、遺伝子治療を行うことも考えられる。投与方法としては、nakedプラスミドによる直接投与の他、リポソーム等にパッケージングするか、レトロウィルスベクター、アデノウィルスベクター、ワクシニアウィルスベクター、ポックスウィルスベクター、アデノウィルス関連ベクター、HVJベクター等の各種ウィルスベクターとして形成するか(Adolph『ウィルスゲノム法』, CRC Press, Florid (1996)参照)、または、コロイド金粒子等のビーズ担体に被覆(WO93/17706等)して投与することができる。しかしながら、生体内において抗体が発現され、その作用を発揮できる限りいかなる方法により投与してもよい。好ましくは、適当な非経口経路(静脈内、腹腔内、皮下、皮内、脂肪組織内、乳腺組織内、吸入または筋肉内の経路を介して注射、注入、またはガス誘導性粒子衝撃法(電子銃等による)、点鼻薬等粘膜経路を介する方法等)により十分な量が投与される。ex vivoにおいてリポソームトランスフェクション、粒子衝撃法(米国特許第4,945,050号)、またはウィルス感染を利用して血液細胞及び骨髄由来細胞等に投与して、該細胞を動物に再導入することにより本発明の抗体をコードする遺伝子を投与してもよい。遺伝子治療では、本発明の抗体をコードする任意の遺伝子を使用することが可能であり、例えば、前述のA44、A69、B26のCDRをコードする塩基配列を含む遺伝子が挙げられる。
【0118】
また本発明は、本発明の抗体もしくは組成物を投与する工程を含む、出血、出血を伴う疾患、または出血に起因する疾患の予防および/または治療するための方法を提供する。抗体もしくは組成物の投与は、例えば、前記の方法により実施することができる。
【0119】
また本発明は、本発明の抗体の、本発明の(医薬)組成物の製造のための使用に関する。
【0120】
さらに本発明は、少なくとも本発明の抗体もしくは組成物を含む、上記方法に用いるためのキットを提供する。該キットには、その他、注射筒、注射針、薬学的に許容される媒体、アルコール綿布、絆創膏、または使用方法を記載した指示書等をパッケージしておくこともできる。
なお、本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0121】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0122】
〔実施例1〕 Factor IXa(F.IXa)に対する非中和抗体の作製
1-1.免疫およびハイブリドーマ作製
BALB/cマウス(雄、免疫開始時6週齢、日本チャールス・リバー)8匹およびMRL/lprマウス(雄、免疫開始時6週齢、日本チャールス・リバー)5匹に、human Factor IXaβ(Enzyme Research Laboratories, Inc.)を以下の通り免疫した。初回免疫としてFCA(フロイント完全アジュバントH37 Ra(Difco laboratories))でエマルジョン化したFactor IXaβを40μg/head皮下投与した。2週間後にFIA(フロイント不完全アジュバント(Difco laboratories))でエマルジョン化したFactor IXaβを40μg/head皮下投与した。以後1週間間隔で追加免疫を3〜7回行った。Factor IXaβに対する血清抗体価の上昇を1-2に示したELISA(Enzyme linked immunosorbent assay)で確認後、最終免疫としてPBS(-)(カルシウムイオン、マグネシウムイオンを含まないphosphate buffered saline)に希釈したFactor IXaβを40μg/head静脈内投与した。最終免疫の3日後、マウスの脾臓を摘出し、その一部は実施例10−2で使用し、残りの脾臓細胞とマウスミエローマ細胞P3X63Ag8U.1(P3U1と称す、ATCC CRL-1597)を、PEG1500(ロシュ・ダイアグノスティックス)を用いた常法に従い細胞融合した。10 % FBS(Invitrogen)を含むRPMI1640培地(Invitrogen)(以下、10 % FBS/RPMI1640と称す)に懸濁した融合細胞を96 well culture plateに播種し、融合1, 2, 3, 5日後にHAT選択培地(10 % FBS/RPMI1640 / 2 % HAT 50x concentrate(大日本製薬)/ 5 % BM-Condimed H1(ロシュ・ダイアグノスティックス))への置換を行うことにより、ハイブリドーマの選択培養を行った。融合後8日目または9日目に採取した培養上清を用いて、1-2に示したELISAによりFactor IXaに対する結合活性を測定することにより、Factor IXa結合活性を有するハイブリドーマを選択した。続いて1-3に示した方法でFactor IXaの酵素活性に対する中和活性を測定し、Factor IXaに対する中和活性を有さないハイブリドーマを選択した。ハイブリドーマは、96 well culture plateに1 wellあたり1個の細胞を播種することによる限界希釈を2回行ってクローン化した。顕微鏡観察により単一コロニーであることが確認された細胞について、1-2、1-3に示したELISAおよび中和活性測定を行い、クローンを選択した。1-4に示した方法により、クローン化した抗体の腹水を作製し、腹水から抗体を精製した。精製抗体が、APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)を延長させないことを、1-5に示した方法で確認した。
【0123】
1-2.Factor IXa ELISA
Coating buffer(100 mM sodium bicarbonate, pH 9.6, 0.02 % sodium azide)で1μg/mLに希釈したFactor IXaβを、Nunc-Immuno plate(Nunc-ImmunoTM 96 MicroWellTM plates MaxiSorpTM(Nalge Nunc International))に100μL/wellで分注後、4℃で一晩インキュベーションした。Tween (R) 20を含むPBS(-)で3回洗浄後、diluent buffer (50 mM Tris-HCl, pH 8.1, 1 % bovine serum albumin, 1 mM MgCl2, 0.15 M NaCl, 0.05 % Tween (R) 20, 0.02 % sodium azide)でplateを室温で2時間blockingした。Bufferを除去後、plateにdiluent bufferで希釈したマウスの抗血清またはハイブリドーマの培養上清を100μL/well添加し、室温で1時間インキュベーションした。Plateを3回洗浄後、diluent bufferで1/2000希釈したアルカリホスファターゼ標識ヤギ抗マウスIgG (H+L)(Zymed Laboratories)を100μL/well添加し、室温で1時間インキュベーションした。Plateを6回洗浄後、発色基質Blue-PhosTM Microwell Phosphatase Substrate(Kirkegaard & Perry Laboratories)を100μL/well添加し、室温で20分インキュベーションした。Blue-PhosTM Stop Solution(Kirkegaard & Perry Laboratories)を100μL/well添加した後、595nmにおける吸光度をMicroplate Reader Model 3550(Bio-Rad Laboratories)で測定した。
【0124】
1-3.Factor IXa中和活性測定
Phospholipid(Sigma-Aldrich)を注射用蒸留水で溶解し、超音波処理を施すことにより、400μg/mLのphospholipid溶液を調製した。0.1 %ウシ血清アルブミンを含むトリス緩衝生理食塩液(以下、TBSB)40μLと30 ng/mL Factor IXaβ(Enzyme Research Laboratories)10μLと400μg/mL phospholipid溶液5μLと100 mM CaCl2、20 mM MgCl2を含むTBSB 5μLとハイブリドーマ培養上清10μLを96穴プレート中で混和し、室温で1時間インキュベーションした。この混合溶液に、50μg/mL Factor X(Enzyme Research Laboratories)20μLおよび3 U/mL Factor VIII(Amrican diagnostica)10μLを加え、室温で30分間反応させた。これに10μLの0.5 M EDTAを添加することにより反応を停止させた。この反応溶液に、50μLのS-2222溶液(Chromogenix)を添加し、室温で30分間インキュベーションした後、測定波長405 nm、対照波長655 nmにおける吸光度をMicroplate Reader Model 3550(Bio-Rad Laboratories, Inc.)により測定した。
【0125】
1-4.腹水の作製および抗体の精製
樹立したハイブリドーマの腹水作製は常法に従って行った。すなわち、in vitroで培養したハイブリドーマ2 x 106個を、あらかじめプリスタン(2,6,10,14-tetramethylpentadecane; 和光純薬工業)を2回腹腔内に投与しておいたBALB/cマウス(雄、実験開始時5〜7週齢、日本チャールス・リバー)またはBALB/cヌードマウス(雌、実験開始時5〜6週齢、日本チャールス・リバーおよび日本クレア)の腹腔内に移植した。移植後1〜4週目で腹部が肥大したマウスから腹水を回収した。
腹水からの抗体精製はProtein G SepharoseTM 4 Fast Flow(Amersham Biosciences)カラムを用いて行った。Binding Buffer(20 mM sodium acetate, pH 5.0)にて2倍希釈した腹水をカラムにアプライし、10カラム容量のBinding Bufferで洗浄した。5カラム容量のElution Buffer(0.1 M glycine-HCl, pH 2.5)にて抗体を溶出し、Neutralizing Buffer(1 M Tris-HCl, pH 9.0)で中和した。これをCentriprepTM 10(Millipore)にて濃縮し、TBS(50 mM Tris-buffered Saline)に溶媒を置換した。抗体濃度は、280 nmの吸光度から、A(1 %,1 cm) = 13.5として算出した。吸光度の測定は、DU-650(Beckman Coulter)にて測定した。
【0126】
1-5.APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)の測定
APTTはCR-A(Amelung)を接続したKC10A(Amelung)により測定した。TBSBで希釈した抗体溶液 50μL、標準ヒト血漿(Dade Behring)50μL及びAPTT試薬(Dade Behring)50μLの混合液を37℃で3分間加温した。20 mMのCaCl2(Dade Behring)50μLを同混合液に加えることにより凝固反応を開始させ、凝固時間を測定した。
【0127】
〔実施例2〕 Factor X(F.X)に対する非中和抗体の作製
2-1.免疫およびハイブリドーマ作製
BALB/cマウス(雄、免疫開始時6週齢、日本チャールス・リバー)8匹およびMRL/lprマウス(雄、免疫開始時6週齢、日本チャールス・リバー)5匹に、human Factor X(Enzyme Research Laboratories)を以下の通り免疫した。初回免疫としてFCAでエマルジョン化したFactor Xを40μg/head皮下投与した。2週間後にFIAでエマルジョン化したFactor Xを20または40μg/head皮下投与した。以後1週間間隔で追加免疫を合計3〜6回行った。Factor Xに対する血清抗体価の上昇を2-2に示したELISAで確認後、最終免疫としてPBS (-)に希釈したFactor Xを20または40μg/head静脈内投与した。最終免疫の3日後、マウスの脾臓を摘出し、その一部を実施例10−2で使用し、残りの脾臓細胞とマウスミエローマ細胞P3U1を、PEG1500を用いた常法に従い細胞融合した。10 % FBS/RPMI1640培地に懸濁した融合細胞を96 well culture plateに播種し、融合1, 2, 3, 5日後にHAT選択培地への置換を行うことにより、ハイブリドーマの選択培養を行った。融合後8日目に採取した培養上清を用いて2-2に示したELISAによりFactor Xに対する結合活性を測定した。Factor X結合活性を有するハイブリドーマを選択し、2-3に示した方法でFactor Xaの酵素活性に対する中和活性を測定した。Factor Xaに対する中和活性を有さないハイブリドーマを、限界希釈を2回行うことによりクローン化した。1-4に示した方法により、クローン化した抗体の腹水を作製し、腹水から抗体を精製した。精製抗体が、APTTを延長させないことを、1−5に示した方法で確認した。
【0128】
2-2.Factor X ELISA
Coating bufferで1μg/mLに希釈したFactor Xを、Nunc-Immuno plateに100μL/wellで分注後、4℃で一晩インキュベーションした。Tween(R) 20を含むPBS(-)で3回洗浄後、diluent bufferでplateを室温で2時間blockingした。Bufferを除去後、plateにdiluent bufferで希釈したマウスの抗血清またはハイブリドーマの培養上清を添加し、室温で1時間インキュベーションした。Plateを3回洗浄後、diluent bufferで1/2000希釈したアルカリホスファターゼ標識ヤギ抗マウスIgG (H+L)を添加し、室温で1時間インキュベーションした。Plateを6回洗浄後、発色基質Blue-PhosTM Phosphate Substrate(Kirkegaard & Perry Laboratories)を100μL/well添加し、室温で20分インキュベーションした。Blue-PhosTM Stop Solution(Kirkegaard & Perry Laboratories)を100μL/well添加した後、595 nmにおける吸光度をMicroplate Reader Model 3550(Bio-Rad Laboratories)で測定した。
【0129】
2-3.Factor Xa中和活性測定
TBSBで1/5希釈したハイブリドーマ培養上清10μLと40μLの250 pg/mL Factor Xa(Enzyme Research Laboratories)を含むTBCP(2.78 mM CaCl2、22.2μMリン脂質(フォスファチジルコリン:フォスファチジルセリン=75:25、Sigma-Aldrich)を含むTBSB)を混和し、室温で1時間インキュベーションした。この混合溶液に、20μg/mLプロトロンビン(Enzyme Research Laboratories)および100 ng/mL活性化凝固第V因子(Factor Va(Haematologic Technologies))を含むTBCPを50μL添加して室温で10分間反応させた。0.5 M EDTAを10μL添加することにより反応を停止させた。この反応溶液に、1 mM S-2238溶液(Chromogenix)を50μL添加し、室温で30分間インキュベーションした後、405 nmにおける吸光度をMicroplate Reader Model 3550(Bio-Rad Laboratories)で測定した。
【0130】
〔実施例3〕 キメラ二重特異性抗体発現ベクターの構築
3-1.ハイブリドーマからの抗体可変領域をコードするDNA断片の調製
抗F.IXa抗体あるいは抗F.X抗体を産生するハイブリドーマから、QIAGEN(R) RNeasy(R) Mini Kit (QIAGEN)を用いて説明書記載の方法に従い全RNAを抽出した。全RNAを40μLの滅菌水に溶解した。精製されたRNA 1〜2μgを鋳型に、SuperScript cDNA合成システム(Invitrogen)を用いて説明書記載の方法に従いRT-PCR法により一本鎖cDNAを合成した。
【0131】
3-2.抗体H鎖可変領域のPCRによる増幅と配列解析
マウス抗体H鎖可変領域(VH)cDNAの増幅用プライマーとして、Krebberらの報告(J. Immunol. Methods 1997;201:35-55)に記載のHBプライマー混合物、およびHFプライマー混合物を用意した。各0.5μLの100μM HB プライマー混合物および 100μM HFプライマー混合物を用いて、反応液25μL(3-1で調製したcDNA溶液2.5μl、KOD plus buffer(東洋紡績)、0.2 mM dNTPs, 1.5 mM MgCl2, 0.75 units DNA polymerase KOD plus(東洋紡績))を調製した。PCRは、サーマルサイクラーGeneAmp PCR system 9700(Parkin Elmer)を用いて、cDNA断片の増幅の効率性に応じて、条件A(98℃で3分間加熱後、98℃ 20秒、58℃ 20秒、72℃ 30秒からなる反応を1サイクルとして32サイクル)ないし条件B(94℃で3分間加熱後、94℃ 20秒、46℃ 20秒、68℃ 30秒からなる反応を1サイクルとして5サイクル、さらに94℃ 20秒、58℃ 20秒、72℃ 30秒からなる反応を1サイクルとして30サイクル)のいずれかの条件で行った。PCR後、反応液を1 % アガローズゲル電気泳動に供した。目的のサイズ(約400 bp)の増幅断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用い、添付説明書記載の方法で精製し、滅菌水30μlで溶出した。各DNA断片の塩基配列は、BigDye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用い、DNAシークエンサーABI PRISM 3100 Genetic Analyzer(Applied Biosystems)にて、添付説明書記載の方法に従い決定した。本方法により決定した配列群を解析ソフトGENETYX-SV/RC Version 6.1(Genetyx)にて比較解析し、異なる配列を有するものを選択した。
【0132】
3-3.クローニング用抗体可変領域DNA断片の調製
クローニング用制限酵素Sfi I切断サイトを抗体可変領域増幅断片の両末端へ付加するために、以下の操作を行った。
Sfi I切断部位付加VH断片(Sfi I-VH)増幅のために、プライマーHBの (Gly4Ser)2- リンカー配列をSfi I切断部位を有するに示す配列(配列番号:42)へ変更したもの(プライマー VH-5’ end)を用意した。各0.5μlの10μM 配列特異的プライマーVH-5’ endおよび10μM プライマーscfor (J. Immunol. Methods 1997; 201: 35-55)を用いて、反応液20μL(3-2で調製した精製VH cDNA増幅断片溶液1μl, KOD plus buffer(東洋紡績)、0.2 mM dNTPs, 1.5 mM MgCl2, 0.5 units DNA polymerase KOD plus(東洋紡績))を調製した。PCRは、サーマルサイクラーGeneAmp PCR system 9700(Parkin Elmer)を用いて、断片の増幅の効率性に従い、条件A(98℃で3分間加熱後、98℃ 20秒、58℃ 20秒、72℃ 30秒からなる反応を1サイクルとして32サイクル)ないし条件B(94℃で3分間加熱後、94℃ 20秒、46℃ 20秒、68℃ 30秒からなる反応を1サイクルとして5サイクル、さらに94℃ 20秒、58℃ 20秒、72℃ 30秒からなる反応を1サイクルとして30サイクル)のいずれかの条件で行った。PCR後、反応液を1 % アガローズゲル電気泳動に供した。目的のサイズ(約400 bp)の増幅断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)にて添付説明書記載の方法で精製し、滅菌水30μLで溶出した。
【0133】
マウス抗体L鎖可変領域(VL) cDNA断片増幅のために、まずKrebberらの報告(J. Immunol. Methods 1997; 201: 35-55)記載の各0.5μLの100μM LBプライマー混合物および100μM LFプライマー混合物を用いて、反応液 25μL(3-1で調製したc-DNA溶液2.5μL, KOD plus buffer(東洋紡績)、0.2 mM dNTPs, 1.5 mM MgCl2, 0.75 units DNA polymerase KOD plus(東洋紡績))を調製した。PCRは、サーマルサイクラーGeneAmp PCR system 9700(Parkin Elmer)を用いて、断片の増幅の効率性に従い、94℃で3分間加熱後、94℃ 20秒、46℃ 20秒、68℃ 30秒からなる反応を1サイクルとして5サイクル、さらに94℃ 20秒、58℃ 20秒、72℃ 30秒からなる反応を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。PCR後、反応液を1 % アガローズゲル電気泳動に供した。目的のサイズ(約400 bp)の増幅断片をQIAqucick Gel Extractio Kit(QIAGEN)にて添付説明書記載の方法で精製し、滅菌水30μLで溶出した。該断片はそのC末端にプライマーLF由来の (Gly4Ser)3- リンカー配列が付加された状態にある。該断片C末端へSfi I切断部位を付加する目的で、プライマーLFの (Gly4Ser)3- リンカー配列をSfi I切断部位を有するに示す配列(配列番号:43)へ変更したもの(プライマー VL-3’end)を用意した。Sfi I 切断部位付加VL断片(Sfi I-VL)増幅のために、各0.5μLの10μM VL-3’endプライマー混合物および 10μM scbackプライマーを用いて、反応液 20μL(精製VL cDNA増幅断片溶液1μL, KOD plus buffer(東洋紡績)、0.2 mM dNTPs, 1.5 mM MgCl2, 0.5 units DNA polymerase KOD plus(東洋紡績))を調製した。PCRは、サーマルサイクラーGeneAmp PCR system 9700(Parkin Elmer)を用いて、94℃で3分間加熱後、94℃ 20秒、46℃ 20秒、68℃ 30秒からなる反応を1サイクルとして5サイクル、さらに94℃ 20秒、58℃ 20秒、72℃ 30秒からなる反応を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。PCR後、反応液を1 % アガローズゲル電気泳動に供した。目的のサイズ(約400 bp)の増幅断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用い、添付説明書記載の方法で精製し、滅菌水30μLで溶出した。
【0134】
精製Sfi I-VHおよびSfi I-VL断片はSfi I(宝酒造)にて添付説明書記載の方法に従い反応液を調製し、50℃で一晩消化を行った。その後、反応液をQIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)を用いて添付説明書記載の方法で精製し、該キット添付のBuffer EB 30μLで溶出した。
【0135】
3-4.二重特異性IgG抗体発現用プラスミド
目的の二重特異性IgG抗体を産生する際に、各H鎖のヘテロ分子を形成させるためにIgG1のknobs-into-holes技術(Ridgway et al., Protein Eng. 1996; 9: 617-621)を参考にIgG4のCH3部分へのアミノ酸置換体を作製した。タイプa(IgG4γa)はY349C、T366W置換体であり、タイプb(IgG4γb)はE356C、T366S、L368A、Y407Vの置換体である。さらに、両置換体のヒンジ領域にも置換(-ppcpScp- - & -ppcpPcp-)を導入した。本技術により、殆どヘテロ体となり得るが、L鎖についてはその限りでなく、不必要な抗体分子の生成がその後の活性測定へ影響を及ぼしかねない。そのため、本方策では各特異性を有する抗体分子片腕(HL分子と称する)を別々に発現させ細胞内で目的型二重特異性IgG抗体を効率的に作らせる為に各HL分子に対応する発現ベクターとして異なる薬剤で誘導がかかるものを用いた。
【0136】
抗体分子片腕(便宜上右腕HL分子と称する)の発現用として、テトラサイクリン誘導型ベクター pcDNA4(Invitrogen)へH鎖ないしL鎖それぞれの該領域(図1ないし図2)、すなわち動物細胞用シグナル配列(IL3ss)(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 1984; 81: 1075)の下流に適当なマウス抗体可変領域(VHないしVL)とヒトIgG4γa定常領域(配列番号:44)ないしκ定常領域(配列番号:45)を組み込んだもの(pcDNA4-g4HないしpcDNA4-g4L)を作製した。まず、pcDNA4をそのマルチクローニングサイトに存在する制限酵素切断サイトEco RVおよびNot I(宝酒造)で消化した。適当な抗体可変領域を有するキメラ二重特異性抗体右腕H鎖ないしL鎖発現ユニット(それぞれ約1.6 kbないし約1.0 kb)をXho I(宝酒造)で消化した後に、QIAquick PCR Purification Kit (QIAGEN)にて添付説明書記載の方法で精製し、DNA polymerase KOD(東洋紡績)を用いて添付説明書記載の反応液組成にて72℃10分間反応させ、末端を平滑化した。該平滑化末端断片をQIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)にて添付説明書記載の方法で精製し、Not I(宝酒造)で消化した。該Not I-blunt断片(それぞれ約1.6 kbないし1.0 kb)と該Eco RV-Not Iで消化したpcDNA4を、Ligation High(東洋紡績)を用いて添付説明書記載の方法に従い連結反応を行った。該反応液により大腸菌DH5α株(Competent high DH5α(東洋紡績))を形質転換した。得られたアンピシリン耐性クローンよりQIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN)を用いて各々プラスミドDNAを単離した。
【0137】
もう一方の片腕(便宜上左腕HL分子と称する)はエクダイソン類似体誘導型ベクター pIND(Invitrogen)へH鎖ないしL鎖それぞれを(図3ないし図2)、すなわち動物細胞用シグナル配列(IL3ss)(EMBO. J. 1987; 6: 2939)の下流に適当なマウス抗体可変領域(VHないしVL)とヒトIgG4γb定常領域(配列番号:46)ないしκ定常領域(配列番号:45)を組み込んだもの(pIND-g4Hないし pIND-g4L)を前述の方法に則り作製し、各々のプラスミドDNAを単離した。
【0138】
3-5.二重特異性抗体発現ベクター構築
3-4で調製されたテトラサイクリン誘導型発現プラスミド(pcDNA4-g4HないしpcDNA4-g4L)をSfi Iで消化し、反応液を1 % アガローズゲル電気泳動に供した。もともと有していた抗体可変領域部分(VHないしVL(図1ないし図2参照))が除かれた断片(約5kb)をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用い、添付説明書記載の方法で精製し、滅菌水30μLで溶出した。該断片と、それぞれに対応する3-3で調製されたSfi I 消化抗F.IXa抗体由来Sfi I-VHないしSfi I-VL断片をQuick Ligation Kit(New England Biolabs)を用いて添付説明書記載の方法に従い連結反応を行った。該反応液により大腸菌DH5α株(Competent high DH5α(東洋紡績))を形質転換した。また、Sfi I消化エクダイソン類似体誘導型発現プラスミド(実施例3-4、pIND-g4HないしpIND-g4L)から、上述と同様の手法で抗体可変領域部分(VHないしVL(図3ないし図2参照))を除いた断片と、それぞれに対応する3-3で調製されたSfi I消化抗F.X抗体由来Sfi I-VHないしSfi I-VL断片を、同様の手法にて組込んだ。
【0139】
得られた各々のアンピシリン耐性形質転換体は、挿入断片を挟み込むようなプライマーを用いて、コロニーPCR法にて目的断片の挿入を確認した。まず、抗F.IXa抗体キメラH鎖ないしL鎖発現ベクターのために、挿入部位上流に存在するCMV Forward priming siteへアニールする21-merのプライマーCMVF(配列番号:47)と挿入部位下流に存在するBGH Reverse priming siteへアニールする18-merのプライマーBGHR(配列番号:48)を合成した(Sigma Genosys)。抗F.X抗体キメラH鎖ないしL鎖発現ベクターのために、挿入部位上流へアニールする24-merのプライマーEcdF(配列番号:49)と挿入部位下流に存在するBGH Reverse priming siteへアニールする18-merのプライマーBGHR(配列番号:48)を合成した(Sigma Genosys)。コロニーPCRのために、反応液20μL(各10μMプライマー0.2μL、KOD dash buffer(東洋紡績)、0.2 mM dNTPs、0.75 units DNA polymerase KOD dash(東洋紡績))を調製した。該反応液へ、形質転換株細胞を適量投入しPCRを行った。PCRは、サーマルサイクラーGeneAmp PCR system 9700(Parkin Elmer)を用いて、96℃で1分間加熱後、96℃ 10秒、55℃ 10秒、72℃ 30秒からなる反応を1サイクルとして30サイクル反応させる条件より行った。PCR後、反応液を1 % アガローズゲル電気泳動に供し、目的サイズの増幅断片が得られたクローンを選択した。該PCR産物は、ExoSAP-IT(Amersham Biosciences)を用いて添付説明書に従い、過剰のプライマーとdNTPsの不活性化を行った。各DNA断片の塩基配列は、BigDye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用い、DNAシークエンサーABI PRISM 3100 Genetic Analyzer(Applied Biosystems)にて添付説明書記載の方法に従い決定した。本方法により決定した配列群を解析ソフトGENETYX-SV/RC Version 6.1(Genetyx)にて解析し、VHについて挿入欠失変異等の入っていない目的クローンを、また、VLについてハイブリドーマで使用されたP3U1由来偽VL遺伝子とは異なり挿入欠失変異等のはいっていない目的クローンを選択した。
【0140】
該目的クローンから、QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN)を用いて各々プラスミドDNAを単離し、100μLの滅菌水へ溶解した。抗F.IXa抗体キメラH鎖発現ベクター、抗F.IXa抗体キメラL鎖発現ベクター、抗F.X抗体キメラH鎖発現ベクター、そして抗F.X抗体キメラL鎖発現ベクターを、それぞれpcDNA4-g4IXaHn、pcDNA4-g4IXaLn、pIND-g4XHnそしてpIND-g4XLnと名付けた。各プラスミド溶液は、使用するまで4℃で保存した。
【0141】
〔実施例4〕 キメラ二重特異性抗体の動物細胞での発現
4-1.DNA溶液の調製
抗体右腕HL分子発現用ベクター(pcDNA4-g4IXaHnそしてpcDNA4-g4IXaLn)はテトラサイクリンにより発現誘導がかかる。テトラサイクリンが存在しない状況下で発現を完全に抑制する為にTetリプレッサーをコードするプラスミドpcDNA6/TR(Invitrogen)が要求される。また、抗体左腕HL分子発現用ベクター(pIND-g4XHn そしてpIND-g4XLn)は昆虫ホルモンであるエクダイソン類似体(ポナステロンA)により発現誘導がかかる。このとき、ポナステロンAと反応し誘導を行うエクダイソンレセプターとレチノイドXレセプターをコードするプラスミドpVgRXR(Invitrogen)が要求される。従って、動物細胞のトランスフェクションの為に計6種類のプラスミドDNA混液を調製した。細胞培養液1 mLの為に、pcDNA4-g4IXaHn、pcDNA4-g4IXaLn、pIND-g4XHnそしてpIND-g4XLnを各218.8 ng、pcDNA6/TRそしてpVgRXRを各1312.5 ng用いた。
【0142】
4-2.動物細胞のトランスフェクション
ヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen)を10 % FCS (MOREGATE)を含むDMEM培地(Invitrogen)へ懸濁し、5×105個/mLの細胞密度で接着細胞用12-wellプレート(CORNING)の各wellへ1 mLずつ蒔きこみCO2インキュベーター(37℃、5 % CO2)内で培養した。4-1で調製したプラスミドDNA混液をトランスフェクション試薬、Lipofectamine 2000(Invitrogen)7μLとOpti-MEM I培地(Invitrogen)250μLの混液へ加えて室温20分間静置したものを各wellの細胞へ投入し、4〜5時間、CO2インキュベーター(37℃にて5 % CO2)内でインキュベートした。
【0143】
4-3.二重特異性IgG抗体の発現誘導
前項のようにトランスフェクションした細胞培養液から培地を吸引除去し、1μg/mLのテトラサイクリン(和光純薬工業)を含む1 mL CHO-S-SFM-II(Invitrogen)培地を投入し、CO2インキュベーター(37℃、5 % CO2)内で1日培養して、抗体右腕HL分子の第一次発現誘導を行った。その後、培地を吸引除去し、一旦1 mL CHO-S-SFM-II培地にて洗浄した後、5μMのポナステロンA(Invitrogen)を含む1 mL CHO-S-SFM-II培地を投入し、CO2インキュベーター(37℃、5 % CO2)内で2日ないし3日培養して、抗体左腕HL分子の第二次発現誘導を行い培地中へ二重特異性IgG抗体を分泌させた。培養上清は回収された後、遠心分離(約2000 g、5分間、室温)して細胞を除去し、必要に応じてMicrocon(R) YM-50(Millipore)で濃縮を行った。該サンプルは使用するまで4℃で保存した。
【0144】
〔実施例5〕 ヒトIgG 濃度の定量
Goat affinity purified antibody to human IgG Fc(Cappel)をcoating bufferにて1μg/mLに調製し、Nunc-Immuno plateに固相化した。Diluent buffer(D.B.)にてブロッキング処理した後、D.B.を用いて適当に希釈した培養上清サンプルを添加した。また、抗体濃度算出のためのスタンダードとして、1000 ng/mLから2倍系列でD.B.にて11段階希釈したヒトIgG4(ヒト型化抗TF抗体、WO 99/51743参照)を同様に添加した。3回洗浄したのち、Goat anti-human IgG, alkaline phosphatase(Biosource International)を反応させた。5回洗浄したのち、Sigma 104(R) phosphatase substrate(Sigma-Aldrich)を基質として発色させ、吸光度リーダーModel 3550(Bio-Rad Laboratories)により、参照波長655 nmとして405 nmの吸光度を測定した。Microplate Manager III(Bio-Rad Laboretories)ソフトウェアを用いて、スタンダードの検量線から培養上清中のヒトIgG濃度を算出した。
【0145】
〔実施例6〕 F.VIIIa(活性化凝固第VIII因子)様活性アッセイ
二重特異性抗体のF.VIIIa様活性は、以下の酵素アッセイで評価した。また、以下の反応は全て室温で行った。3.75μg/mLのFactor IX(Enzyme Research Laboratories)40μLと抗体溶液10μLの混合液を96穴プレート中で1時間インキュベーションした。さらにその混合液に、10 ng/mLのFactor XIa(Enzyme Research Laboratories)10μL, 50μg/mLのFactor X(Enzyme Research Laboratories)20μL, 400μg/mLのphospholipid(実施例1-3参照)5μL, 5 mM CaCl2と1 mM MgCl2を含むTBSB(以下、TBSB-Sと称す)15μLを添加し、酵素反応を開始させた。30分間反応させたのち、0.5 M EDTA 10μLを加えることにより停止させた。
【0146】
発色基質溶液50μLをそれぞれのウェルに加えた後、0分、30分の405 nm(参照波長655 nm)における吸光度をModel 3550 Microplate Reader(Bio Rad Loboratories)により測定した。F.VIIIa様活性は、抗体添加の30分間の吸光度変化値から抗体無添加の30分間の吸光度変化値を引いた値で表した(図4および5参照)。
【0147】
Phospholipidの溶媒にはTBSB、Factor XIa、Factor IX及びFactor Xの溶媒にはTBSB-Sを用いた。発色基質溶液は、添付説明書に従い溶解したテストチーム発色基質S-2222(Chromogenix)とポリブレン液(0.6 mg/L hexadimethrine bromide(Sigma))の1:1混合液である。
さらに、最も活性の高かったXB12/SB04について、F.VIIIa様活性の濃度依存性を測定した(図6)。
【0148】
〔実施例7〕 血漿凝固アッセイ
血友病A血液の凝固能を二重特異性抗体が是正するか明らかにするために、F.VIII欠乏血漿を用いた活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)に対する同抗体の影響を検討した。様々な濃度の抗体溶液 50μL、F.VIII欠乏血漿(Biomerieux)50μL及びAPTT試薬(Dade Behring)50μLの混合液を37℃で3分間加温した。凝固反応は20 mMのCaCl2(Dade Behring)50μLを同混合液に加えることにより開始させた。CR-A(Amelung)が接続されたKC10A(Amelung)により凝固するまでの時間を測定した(図7および8)。
さらに、最も凝固時間の短縮効果の高かったXB12/SB04について濃度依存性を測定した(図9)。
【0149】
〔実施例8〕 抗体精製
実施例4に記載の方法で得られた10mLの培養上清をCentricon(R) YM-50(Millipore)により、1 mLまで濃縮した。これに10μLの10 % BSA、10μLの1 % Tween(R) 20及び100μLのrProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を添加し、4℃で一晩転倒混和した。その溶液を0.22μmのフィルターカップUltrafree(R)-MC(Millipore)に移し、0.01 % Tween(R)20を含むTBS 500μLにて3回洗浄後、rProtein A SepharoseTM樹脂を100μLの 0.01 % Tween(R) 20を含む10 mM HCl, pH 2.0に懸濁して3分間静置したのち、抗体を溶出させた。直ちに、5μLの1M Tris-HCl , pH 8.0を加えて中和した。Microplate Manager III(Bio-Rad Laboretories)ソフトウェアを用いて、スタンダードの検量線から培養上清中のヒトIgG濃度を算出した。抗体濃度は実施例5に従い定量した。
【0150】
〔実施例9〕抗F.X抗体のGST-AP ウェスタンブロッティング
F.Xの活性化ペプチド(AP)とグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク(GST-AP)を発現する組換え大腸菌を構築した。ヒトF.Xの全長翻訳領域をカバーするcDNAをヒト肝臓Marathon-Ready cDNA(Clontech)からPCR法により増幅後、これを鋳型にさらにAP領域(Leytus et al., Biochemistry 1986; 25: 5098)をコードする領域をPCR法により増幅しpGEM-Tベクター(Promega)へサブクローニングしGST-APをコードするpGEX-F10APを得た。該プラスミドを形質転換した大腸菌を培養し、OD 600=0.8にて1 mM IPTGを添加しGST-APの発現誘導を行った。培養液を遠心(3,000 x g, 30分間、4℃)後、菌体を回収し使用に供するまで-20℃にて保存した。
【0151】
その菌体ペレットを培養量の1/20量のPBSで再懸濁し、懸濁液0.1 mLに対し、2.4 mLの割合でSDS-PAGEサンプルバッファー(IWAKI)を加え、95℃、5分間ボイルした。SDS-PAGE mini (14 %)ゲル(旭テクノグラス)の各ウェルにその反応溶液10μLを加え、電気泳動を行った。電気泳動後のゲルをセミドライブロッター(BIO-RAD)を用いてImmobilon-PTM Transfer Membrane (MILLIPORE)へ転写し、BT-PBS (2 % BSAと0.05 % Tween(R) 20を含むPBS)でブロッキングした。ブロッキング終了後、実施例1−4で精製された抗F.Xマウス抗体SB04またはSB06をBT-PBSで2μg/mLに希釈したものと1時間反応させた。0.05 % Tween(R) 20を含むPBSで洗浄後、BT-PBSで2000倍希釈したアルカリホスファターゼ標識ヤギ抗マウスIgG (H+L)(Zymed Laboratories)と1時間反応させた。0.05 % Tween(R) 20を含むPBSで洗浄後、発色基質BCIP/NBT Phosphatase Substrate(Kirkegaard & Perry Laboratories)で発色させた(図10を参照)。
【0152】
〔実施例10〕 免疫マウス脾臓由来scFvライブラリーからの二重特異性抗体の取得
10−1.抗原および免疫
BALB/cマウス(雄、免疫開始時6週齢、日本チャールス・リバー)3匹、MRL/lprマウス(雄、免疫開始時6週齢、日本チャールス・リバー)3匹、およびC57BL/6Nマウス(雄、免疫開始時6週齢、日本チャールス・リバー)3匹に、抗原であるFactor IXaβ(Enzyme Research Laboratories, Inc.)もしくはFactor X (Enzyme Research Laboratories, Inc.)を以下の通り免疫した。初回免疫としてFCA(フロイント完全アジュバントH37 Ra(Difco laboratories))でエマルジョン化した抗原を40μg/head皮下投与した。2週間後にFIA(フロイント不完全アジュバント(Difco laboratories))でエマルジョン化した抗原を40μg/head皮下投与した。以後1週間間隔で追加免疫を3回行い、最終免疫の8日後にマウスより脾臓を摘出した。
【0153】
10−2.ファージライブラリーの構築
実施例1−1および2−1で作出した免疫マウス摘出脾臓の一部、ならびに実施例10−1にて作出した免疫マウスからの摘出脾臓をTrizol Reagent (Invitrogen) へ投入(50 mg spleen/ml of the reagent)し、ガラスホモジナイザーを用いて均質化した。その後、試薬添付マニュアル記載の方法に従い、Total RNAを抽出した。抽出溶液からPolyATract System 1000 キット(Promega)を用いて添付マニュアル記載の方法に従いpolyA(+)RNAを抽出した。RT-PCR(SuperScript III First-Strand Synthesis System for RT-PCR, Invitrogen) にてc-DNAを合成し、使用に際するまで-20℃で保存した。
【0154】
マウス抗体重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)cDNAの増幅用プライマーとして、実施例3−2および3−3で用いたHBプライマー混合物、HFプライマー混合物、LBプライマー混合物、そしてLFプライマー混合物を用意した。VH増幅用として各1μLの100μM HB プライマー混合物および 100μM HFプライマー混合物を用いて、反応液50μL(cDNA溶液2.5μl、KOD plus buffer(東洋紡績)、0.2 mM dNTPs, 1.5 mM MgCl2, 3.75 units DNA polymerase KOD plus(東洋紡績))を調製した。また、VL増幅用として各1μLの100μM LB プライマー混合物および 100μM LFプライマー混合物を用いて、上記と同様の組成反応液(50μL)を調製した。PCRは、サーマルサイクラーGeneAmp PCR system 9700(Parkin Elmer)を用いて、98℃で3分間加熱後、98℃ 20秒、58℃ 20秒、72℃ 30秒からなる反応を1サイクルとして32サイクルを行った。PCR後、反応液を2 % アガローズゲル電気泳動に供した。目的のサイズ(約400 bp)の増幅断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用い、添付説明書記載の方法で精製し、滅菌水50μlで溶出した。次にscFv断片を増幅するために、反応液100μL(VH断片溶液3μl、VL断片溶液3μl、KOD plus buffer(東洋紡績)、0.2 mM dNTPs, 1 mM MgCl2, 5 units DNA polymerase KOD plus(東洋紡績))を10本調製し、1stPCR(94℃で3分間加熱後、94℃ 1分、63℃ 4分、からなる反応を1サイクルとして7サイクル)を行った後、63℃に保温した状態で各チューブへ10μM scfor プライマー、および10μM scbackプライマーを各2.5μlずつ添加し、さらに2nd PCR(94℃で35秒加熱後、94℃ 2分、63℃ 2分、からなる反応を1サイクルとして30サイクル)を行った。PCR後、反応液をQIAquick PCR purification kit (QIAGEN)にて精製し、精製産物を制限酵素Sfi I(宝酒造)にて50℃で一晩消化を行った。消化物は2 % アガローズゲル電気泳動に供した後、目的のサイズ(約800 bp)の増幅断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用い、添付説明書記載の方法で精製し適量の滅菌水にて溶出した。ファージgene IIIタンパク上にscFvを提示させるため、ファージミドベクターとして、pELBGlacI(図11参照)を用いた。該ベクター10μgを制限酵素Sfi I(宝酒造)にて50℃で一晩消化を行った後、目的のサイズ(約5 kb)の切断断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用い、添付説明書記載の方法で精製し適量の滅菌水にて溶出した。精製PCR産物と精製ベクター断片を、Ligation High (東洋紡績)を用いて添付説明書記載の方法に従い、16℃一晩連結反応を行った。該反応液により大腸菌XL1blue electrocompetent cell (Stratagene)あるいはエレクトロマックスDH12s(Invitrogen)を添付説明書記載の方法に従いエレクトポレーション法による形質転換を行った。得られたアンピシリン耐性形質転換体を全て回収し、組換え大腸菌ライブラリーとして使用に供するまで-20℃にて保存した。
【0155】
該大腸菌ライブラリー(2 x 109cfu)を50 mL 2xYTAG(100μg/mLアンピシリン、2 % グルコースを含む2xTY)に植菌し、OD 600 0.4〜0.5まで37℃にて培養した。4 x 1011のヘルパーファージVCSM13(Stratagene)を加え37℃、15分間静置して感染させた。ここに450 mL 2xYTAK (100μg/mLアンピシリン、25μg/mLカナマイシンを含む2xTY)、25μL 1 mol/L IPTGを添加し、30℃ 10時間培養した。遠心分離にて培養上清を回収し、100 mL PEG-NaCl溶液(10 % ポリエチレングリコール8000, 2.5 mol/L NaCl)を混合後、4℃、60分間静置した。10,800 x g、30分間遠心にてファージを沈殿させ、沈殿物を40 mLの水に懸濁し、8 mL PEG-NaCl溶液を混合後、4℃、1時間静置した。10,800 x g、30分間遠心にてファージを沈殿させ5 mL PBSに懸濁しファージライブラリーを得た。該ファージは使用に際するまで、4℃にて保存した。
【0156】
10−3.パンニング法による結合ファージ濃縮
Factor IXaβもしくはFactor X をNo-Weigh Premeasured NHS-PEO4-Biotin Microtubes(Pierce)を用いてビオチン標識した。10−2で作成されたファージライブラリー溶液600μlに100 pmolのビオチン標識Factor IXaβもしくはFactor X を加え、60分間抗原と接触させた。5% M-PBS(5%w/vスキムミルクを含むPBS)で洗浄したDynabeads M-280 Streptavidin (DYNAL) 600μLを加え、15分間結合させた。ビーズ結合ファージを1 mLのPBST(0.1 % Tween-20を含むPBS)にて何回か洗浄した後、PBSにて洗浄した。0.8 mLの0.1 mol/L グリシン/HCl(pH 2.2)中にビーズを5分間懸濁し、ファージを溶出した。
【0157】
あるいは、イムノプレート(MaxiSorp, Nunc)へ固相化したFactor IXaβもしくはFactor X (10μg/well x 5)に、2.5 % w/vスキムミルクで15分間インキュベートしたファージライブラリー(80μl/well x 5)を加え、60分間抗原と接触させた。抗原結合ファージを1 mLのPBST(0.1 % Tween-20を含むPBS)にて何回か洗浄した後、PBSにて洗浄した。0.8 mLの0.1 mol/L グリシン/HCl(pH 2.2)にて5分間インキュベートし、ファージを溶出した。
【0158】
回収したファージ溶液に45μL 2 mol/L Trisを添加して中和し、対数増殖期(OD 600 = 0.4〜0.5)XL1-Blue 10 mLに添加、37℃、30分間静置することで感染させた。これを2xYTAGプレートに広げ、30℃で培養した。コロニーを回収し、2xYTAGに植菌、OD 600 = 0.4〜0.5まで37℃にて培養した。培養液10 mLに5μL 1mol/L IPTG、1011 pfuヘルパーファージ(VCSM13)を添加し37℃ 30分間静置した。遠心集菌後、2xYTAK 100 mLに再懸濁し、30℃、10時間培養した。遠心分離にて培養上清を回収し、20 mL 10 % PEG-5 mol/L NaCl溶液を混合後、4℃、20分間静置した。10,800 x g、30分間遠心にてファージを沈殿させ、2 mL PBSに懸濁したものを次のパンニングに供した。
【0159】
10−4.ファージELISA
上記のシングルコロニーを100μL 2xYTAGに植菌し、30℃で一晩培養した。この5μLを500μL 2xYTAGに植菌、37℃、5時間培養後、ヘルパーファージ2 x 108pfuを投入し37℃にて30分間静置、さらに37℃にて30分間攪拌培養後、0.5 mM IPTGを含む2xYTAKを120μL添加した。30℃にて一晩培養し、遠心上清をELISAに供した。ビオチン標識抗原のパンニングにて得られたクローンのELISAのために、1.0μg/mLのビオチン標識抗原でコートしたStreptaWell 96マイクロタイタープレート(Roche)を用いた。また、ネイティブ抗原のパンニングにて得られたクローンのELISAのために、1.0μg/mLのネイティブ抗原を固相化したイムノプレート(MaxiSorp, Nunc)を用いた。PBSTにて洗浄し抗原を除いた後、ブロッキングバッファーとして2 % M-PBS 200μLあるいは2 % BSA-PBS(2%w/v BSAを含むPBS)で室温1時間ブロッキングした。バッファーを除き、ここに培養上清を加え60分間静置しファージを結合させた。洗浄後、結合ファージはブロッキングバッファーにて希釈したHRP結合抗M13抗体(Amersham Pharmacia Biotech)とTMB基質(Zymed)で検出し、1 mol/L H2SO4添加により反応を停止した後、プレートリーダーにてA450の値を測定した。
【0160】
10−5.配列決定とクローン選択
ELISAにて陽性であったクローンの組換え大腸菌2xYTAG培養液からプライマーPBG3-F1(5'- CAGCTATGAAATACCTATTGCC -3'/配列番号:38)とPBG3-R1(5'- CTTTTCATAATCAAAATCACCGG -3'/配列番号:39)を用いてPCRにてscFv領域を増幅し、その塩基配列決定した。培養液1μL、10 x KOD Dash緩衝液1.5μL、10μmol/Lプライマーを0.2μLづつ、KOD Dashポリメラーゼ(東洋紡績、2.5 U/μL)0.3μLを含むPCR反応液15μLを、サーマルサイクラーGeneAmp PCR system 9700(Perkin Elmer)で96℃、10秒、55℃、10秒、72℃、30秒、30サイクルの増幅を行った。PCR後、5μLの反応液にExoSAP-IT(アマシャム)を3μL添加し、37℃、15分間、引き続き80℃、15分間保温した。このサンプルについてPBG3-F2(5'- ATTGCCTACGGCAGCCGCT -3'/配列番号:40)あるいはPBG3-R2(5'- AAATCACCGGAACCAGAGCC -3'/配列番号:41)をプライマーとしてBigDye Terminator Cycle Sequencing kit(Applied Biosystems)にて反応を行い、Applied Biosystems PRISM 3700 DNA Sequencerで泳動した。塩基配列から推定されるアミノ酸配列のCDR3の異なるクローンを抗Factor IXaについて52クローン、及び抗Factor Xについて33クローンを選択した。
【0161】
10−6.二重特異性IgG抗体発現ベクターの構築
scFv抗体をIgG型として発現させるために、実施例3−3、3−4、そして3−5に示す同様の方策にて抗体可変領域(VH,VL)を誘導型発現ベクターにクローニングを行った。抗F.IXa抗体可変領域(VH および VL)はテトラサイクリン誘導型ベクター(それぞれpcDNA4-g4HおよびpcDNA4-g4L)へ組み込まれた。抗F.X抗体可変領域(VH および VL)はエクダイソン類似体誘導型ベクター(それぞれpIND-g4HおよびpcDNA4-g4L)へ組み込まれた。目的クローンからQIAprep Spin Miniprep Kit (QIAGEN)を用いて各々プラスミドDNAを単離し、100μLの滅菌水へ溶解した。
【0162】
10−7.キメラ二重特異性抗体の動物細胞での発現
実施例4−1に示す同様の方策で調製されたDNA溶液を用いて、実施例4−2および4−3に示す同様の方策にて動物細胞で発現させ、培養上清を回収した。該サンプルは使用するまで4℃で保存した。
【0163】
〔実施例11〕 抗体精製
実施例10−7に記載の方法で得られた10 mLの培養上清に100μLのrProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を添加し、4℃で一晩転倒混和した。その溶液を0.22μmのフィルターカップUltrafree(R)-MC(Millipore)に移し、0.01 % Tween(R) 20を含むTBS 500μLにて3回洗浄後、rProtein A SepharoseTM樹脂を100μLの 0.01 % Tween(R) 20を含む10 mM HCl, pH 2.0に懸濁して3分間静置したのち、抗体を溶出させた。直ちに、5μLの1M Tris-HCl , pH 8.0を加えて中和した。Microplate Manager III(Bio-Rad Laboretories)ソフトウェアを用いて、ヒトIgG4(ヒト型化抗TF抗体、WO 99/51743参照)の検量線から培養上清中のヒトIgG濃度を算出した。抗体濃度は実施例5に従い定量した。
【0164】
〔実施例12〕 F.VIIIa(活性化凝固第VIII因子)様活性アッセイ
二重特異性抗体のF.VIIIa様活性は、以下の酵素アッセイで評価した。また、以下の反応は全て室温で行った。15μg/mLのFactor IX(Enzyme Research Laboratories)10μLと100 mM CaCl2と20 mM MgCl2を含むTBSB 5μLと実施例10−7記載の方法で得られた培養上清50μLの混合液を96穴プレート中で1時間インキュベーションした。さらにその混合液に、10 ng/mLのFactor XIa(Enzyme Research Laboratories)10μL, 50μg/mLのFactor X(Enzyme Research Laboratories)20μL, 400μg/mLのphospholipid 5μLを添加し、酵素反応を開始させた。30分間反応させたのち、0.5 M EDTA 10μLを加えることにより停止させた。
【0165】
発色基質溶液50μLをそれぞれのウェルに加えた後、0分、60分の405 nm(参照波長655 nm)における吸光度をModel 3550 Microplate Reader(Bio Rad Loboratories)により測定した。F.VIIIa様活性は、抗体発現培養上清の60分間の吸光度変化値から抗体非発現培養上清の60分間の吸光度変化値を引いた値で表した(図12を参照)。
Phospholipid、Factor XIa、Factor IX及びFactor Xの溶媒にはTBSBを用いた。発色基質溶液は、添付説明書に従い溶解したテストチーム発色基質S-2222(Chromogenix)とポリブレン液(0.6 mg/L hexadimethrine bromide(Sigma))の1:1混合液である。
【0166】
〔実施例13〕 血漿凝固アッセイ
実施例11の方法に従い調製した二重特異性抗体が血友病A血液の凝固能を回復するか明らかにするために、F.VIII欠乏血漿を用いた活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)に対する同抗体の影響を、実施例7で示す同様の方法で評価した(図13を参照)。さらに、凝固時間の短縮効果の高かったA44/B26、A69/B26について濃度依存性を測定した(図14、図15を参照)。
【0167】
〔実施例14〕 二重特異性IgG抗体とF.VIIIとの併用検討
二重特異性抗体とF.VIIIとの併用検討は、以下の血漿凝固アッセイ条件で評価した。25μg/mL 抗体溶液 40μL、F.VIII欠乏血漿(Biomerieux)50μLの混合液を室温で、30分間インキュベーションした。さらにその混合液に、1 U/mLの遺伝子組換え型血液凝固第VIII因子製剤コージネイト(R)FS(BAYER)10μL 及びAPTT試薬(Dade Behring)50μLを加え、37℃で3分間加温した。凝固反応は20 mMのCaCl2(Dade Behring)50μLを同混合液に加えることにより開始させた。CR-A(Amelung)が接続されたKC10A(Amelung)により凝固するまでの時間を測定した(図16を参照)。
【0168】
〔実施例15〕 インヒビター血漿における二重特異性IgG抗体の効果
インヒビター血漿における二重特異性IgG抗体の効果は、以下の血漿凝固アッセイ条件で評価した。F.VIII欠乏血漿(Biomerieux)50μLに100μg/mL 抗ヒトF.VIII中和抗体(Catalog Number:MAB3440、CHEMICON)10μLの混合液を室温で、30分間インキュベーションした。この血漿をインヒビター血漿として用いた。このインヒビター血漿に、25μg/mL抗体溶液 40μL及びAPTT試薬(Dade Behring)50μLを加え、37℃で3分間加温した。凝固反応は20 mMのCaCl2(Dade Behring)50μLを同混合液に加えることにより開始させた。CR-A(Amelung)が接続されたKC10A(Amelung)により凝固するまでの時間を測定した(図17を参照)。
【0169】
〔実施例16〕 二重特異性抗体のヒト化
実施例1〜7で取得した二重特異性抗体の中で、血液凝固時間の短縮効果が最も高かったXB12(マウス抗FactorIXa抗体)/SB04(マウス抗FactorX抗体)について、以下のようにヒト化を実施した。
【0170】
16−1.ヒト抗体の相同性検索
一般公開されているKabat Database (ftp://ftp.ebi.ac.uk/pub/databases/kabat/) およびIMGT Database (http://imgt.cines.fr/)よりヒト抗体アミノ酸配列データを入手し、構築したDatabaseを用いてマウスXB12-H鎖可変領域、マウスXB12-L鎖可変領域、マウスSB04-H鎖可変領域、マウスSB04-L鎖可変領域に分けてホモロジー検索を行った。その結果、以下に示すヒト抗体配列と高い相同性を持つことが確認されたことからヒト化抗体のフレームワーク領域(以下、FR)に使用することにした。
(1)XB12-H鎖可変領域:KABATID-020619 (Kabat Database)
(Marietteら、Arthritis Rheum. 1993;36:1315-1324)
(2)XB12-L鎖可変領域:EMBL Accession No. X61642(IMGT Database)
(Markら、J Mol Biol. 1991 ; 222 : 581-597.)
(3)SB04-H鎖可変領域:KABATID-025255 (Kabat Database)
(Demaisonら、Immunogetetics 1995;42:342-352)
(4)SB04-L鎖可変領域:EMBL Accession No. AB064111(IMGT Database) (Unpublished data)
(1)-(4)のヒト抗体のFRに各マウス抗体の相補性抗原決定領域(以下、CDR)を移植したヒト化抗体を作製した。
【0171】
また、NCBIより一般公開されている相同性検索Web site(http://www.ncbi. nlm.nih.gov/BLAST/)を使用して、(1)-(4)のヒト抗体に相同性の高いヒト抗体の分泌シグナル配列を検索した。検索により得られた以下に示す分泌シグナル配列を使用した。
(1)XB12-H鎖可変領域:GenBank Accession No. AF062120
(2)XB12-L鎖可変領域:GenBank Accession No. M74019
(3)SB04-H鎖可変領域:GenBank Accession No. BC019337
(4)SB04-L鎖可変領域:GenBank Accession No. AY204756
【0172】
16−2.ヒト化抗体遺伝子発現ベクターの構築
分泌シグナル配列から抗体可変領域にいたるアミノ酸配列をコードする塩基配列において、50base程度の合成オリゴDNAを3’末端側が約20base程度ハイブリダイズするように交互に12本作製した。さらに、抗体可変領域遺伝子の5’末端側にハイブリダイズし、XhoI切断配列を有するプライマーと抗体可変領域遺伝子の3’末端側にハイブリダイズし、SfiI切断配列を有するプライマーを作製した。
【0173】
2.5μMに調製した合成オリゴDNAを各1μLで混合し、1x TaKaRa Ex Taq Buffer, 0.4 mM dNTPs, 0.5 units TaKaRa Ex Taq(全て宝酒造)を加え、反応液48μLになるように調製した。94℃ 5分保温した後に、94℃ 2分、55℃ 2分、72℃ 2分からなる反応を2サイクル行い、各合成オリゴDNAのアッセンブルおよび伸長反応を実施した。次に、抗体遺伝子の5’末端側および3’末端側にハイブリダイズするプライマー(各10μM)を1μL添加し、94℃ 30秒、55℃ 30秒、72℃ 1分からなる反応を35サイクル行い、72℃ 5分反応させ、抗体可変領域遺伝子を増幅した。PCR後、反応液全量を1 % アガローズゲル電気泳動に供した。目的のサイズ(約400 bp)の増幅断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて、添付説明書記載の方法で精製し、滅菌水30μlで溶出した。該断片をpGEM-T Easy Vector Systems (Promega)を用いて、添付説明書記載の方法でクローニングを行った。各DNA断片の塩基配列は、BigDye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用い、DNAシークエンサーABI PRISM 3700 DNA Sequencer(Applied Biosystems)にて、添付説明書記載の方法に従い決定した。
【0174】
正しいヒト化抗体可変領域遺伝子配列であることが確認されたプラスミドをXhoIおよびSfiIで消化した後に、反応液を1 %アガローズゲル電気泳動に供した。目的のサイズ(約400 bp)のDNA断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて、添付説明書記載の方法で精製し、滅菌水30μlで溶出した。また、実施例3−4で作製したテトラサイクリン誘導型発現プラスミド(pcDNA4-g4H、pcDNA4-g4L)およびエグダイソン類似体誘導型発現プラスミド(pIND-g4H、pIND-g4L)をXhoIおよびSfiIで消化した後に、抗体定常領域を含む断片(約5 kb)をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて、添付説明書記載の方法で精製し、滅菌水30μlで溶出した。XhoIおよびSfiIで消化したヒト化XB12抗体遺伝子断片(H鎖可変領域(以下VH)またはL鎖可変領域(以下VL))とXhoIおよびSfiIで消化したテトラサイクリン誘導型発現プラスミド(pcDNA4-g4H、pcDNA4-g4L)をRapid DNA Ligation Kit (Roche Diagnostics)を用いて添付説明書記載の方法で連結反応を行った。また、XhoIおよびSfiIで消化したヒト化SB04抗体遺伝子断片(H鎖可変領域またはL鎖可変領域)とXhoIおよびSfiIで消化したエグダイソン類似体誘導型発現プラスミド(pIND-g4H、pIND-g4L)をRapid DNA Ligation Kit (Roche Diagnostics)を用いて添付説明書記載の方法で連結反応を行った。各反応液の一部を用いて大腸菌DH5α株 (東洋紡績)を形質転換した。
【0175】
16−3.ヒト化二重特異性抗体の調製
4種類のヒト化抗体発現ベクターとpcDNA6/TR、pVgRXRを用いて、実施例4−2、4−3に示す方法でHEK293Hへ遺伝子導入および発現誘導を行った。さらに、実施例8、5に示す方法で抗体精製および抗体濃度の定量を実施した。
【0176】
16−4.ヒト化二重特異性抗体の活性評価および抗体配列の改変
調製したヒト化ニ種特異性抗体およびキメラニ種特異性抗体(XB12/SB04)の血漿凝固能を評価するために、実施例7の方法に従って、F.VIII欠乏血漿を用いてAPTTに対する抗体の影響を検討した。血液凝固能が低下したヒト化ニ種特異性抗体について、活性上昇を目指して、ヒト抗体FRのアミノ酸の改変した。また、熱安定性低下などが危惧されるXB12抗体VHのCDR3のシステイン残基についてもアラニン残基に改変した。具体的には、QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit (Stratagene)を用いて、添付説明書記載の方法でヒト化抗体発現ベクターに変異を導入した。FR配列のアミノ酸改変および血液凝固能の評価を繰り返すことでXB12/SB04と同等の活性を有するヒト化ニ種特異性抗体(ヒト化XB12抗体(VH:hXB12f-A, VL:hXBVL)/ ヒト化SB04抗体(VH:hSB04e, VL:hSBVL-F3f)を取得した(図18)。
【0177】
〔実施例17〕 二重特異性IgG4抗体H鎖発現用プラスミドの構築
さらに、CDRシャフルされたL鎖を用いたA44とB26の二重特異性抗体の発現を実施した。
CAGGプロモーターの下流に、2つのSfiIサイトを挟んだ動物細胞シグナル配列とヒトIgG1CH1直前のイントロン、さらにその下流にヒトIgG4定常領域 cDNAを有するベクターpCAGGss-g4CHを構築した。これらSfiI間にシグナル配列プロセシング部位とスプライシング・ドナー配列に挟まれたVH遺伝子を挿入することによってIgG4H鎖として分泌させる動物細胞用発現ベクターを構築することが出来る。さらにH鎖がヘテロな組み合わせであるIgG4を優先的に発現させるために、IgG1のknobs-into-holes(Protein Engineering vol.9, 617-621, 1996)を参考にIgG4のCH3部分へのアミノ酸置換体を用いた。タイプaはY349C、T366W置換体、タイプbはE356C、T366S、L368A、Y407Vの置換体である。さらにH鎖のダイマー形成促進のためにヒンジにもアミノ酸置換(-ppcpScp- →-ppcpPcp-)を導入した。シグナル配列はタイプaにはマウスIL-3、タイプbにはヒトIL-6のものをそれぞれ用いて構築した(pCAGG-IL3ss-g4CHPa, pCAGG-IL6ss-g4CHPb)。pCAGG-IL3ss-g4CHPaのSfiIサイトに上記実施例で得られた抗体A44のVH断片を挿入してpCAGG-chiA44-g4aを、抗体A69のVH断片を挿入してpCAGG-chiA69-g4aを得た。一方、pCAGG-IL6ss-g4CHPbのSfiIサイトに同じく抗体B26のVH断片を挿入し、pCAGG-chiB26-g4bを得た。
【0178】
〔実施例18〕 CDR交換L鎖発現ベクターの構築
CAGGプロモーターの下流に、2つのSfiIサイトを挟んだマウスIL-3シグナル配列とヒトkappa定常領域直前のイントロン、さらにその下流にヒトkappa鎖定常領域(CL) エクソンを有するベクターpCAGG-kappa (pCAGG-IL3ss-hIgG light)を構築した(図19)。これらSfiI間にシグナル配列プロセシング部位とスプライシング・ドナー配列に挟まれたVL遺伝子を挿入することによってkappa鎖として分泌させる動物細胞用発現ベクターを構築することが出来る。
【0179】
A44抗体L鎖のフレームワーク、CDR及びA50, A69, B26抗体L鎖のCDRを組み合わせたL鎖可変領域をコードするDNAを合成するために、60塩基程度の合成オリゴDNAを末端が約20 base程度ハイブリダイズするように交互に作製した。さらに、VL遺伝子の5’末端側にハイブリダイズし、シグナル配列プロセシング部位とSfiIサイトを有するプライマーscbackと、VL遺伝子の3’末端側にハイブリダイズし、スプライシング・ドナー配列とSfiIサイトを有するプライマーscforを作製した。
【0180】
A44LF1(配列番号:50)
GCCATGGCGGACTACAAAGATATTGTGATGACCCAGTCTCACAAATTCATGTCCACATCAGTAGGAGAC
A44LR1(配列番号:51)
GGCTACAGCAGTCCCCACATCCTGACTGGCCTTGCAGGTGATGCTGACCCTGTCTCCTACTGATGTGGA
A44LF2(配列番号:52)
GTGGGGACTGCTGTAGCCTGGTATCAACAGAAACCAGGGCAATCTCCTAAACTACTGATTTAC
A44LR2(配列番号:53)
GAAGCGATCAGGGACTCCAGTGTGCCGGGTGGATGCCCAGTAAATCAGTAGTTTAGG
A44LF3(配列番号:54)
GGAGTCCCTGATCGCTTCACAGGCAGTAGATATGGGACAGATTTCACTCTCACCATT
A44LR3(配列番号:55)
ACAGAGATAATCTGCCAGGTCTTCAGACTGCACATTGCTAATGGTGAGAGTGAAATC
A44LF4(配列番号:56)
CTGGCAGATTATCTCTGTCAGCAATATAGCAACTATATCACGTTCGGTGGTGGGACC
A44LR4(配列番号:57)
GGAATTCGGCCCCCGAGGCCGACTTACCACGTTTCAGCTCCAGCTTGGTCCCACCACCGAACGT
A44LR4Gly(配列番号:58)
GGAATTCGGCCCCCGAGGCCGACTTACCTCGTTTCAGCTCCAGCTTGGTCCCACCACCGAACGT
B26LR1_A44fr(配列番号:59)
GGCTACAGCAGTCCCCACATtCTGACTGGCCTTGCAGGTGATGCTGACCCTGTCTCCTACTGATGTGGA
B26LR2_A44fr(配列番号:60)
GAAGCGATCAGGGACTCCACTGTACCGGTAGGATGCCGAGTAAATCAGTAGTTTAGG
B26LF4_A44fr(配列番号:61)
CTGGCAGATTATCTCTGTCAGCAATATAACAGCTATCCACTCACGTTCGGTGGTGGGACC
A69LR1_A44fr(配列番号:62)
GGCTACAGCAGTACTCACATCCTGACTGGCCTTGCAGGTGATGCTGACCCTGTCTCCTACTGATGTGGA
A50LF4_A44fr(配列番号:63)
CTGGCAGATTATCTCTGTCAGCAATATAGCAGCTATTTAACGTTCGGTGGTGGGACC
scback(配列番号:64)
TTACTCGCGGCCCAGCCGGCCATGGCGGACTACAAAG
scfor(配列番号:65)
GGAATTCGGCCCCCGAG
【0181】
10μMに調製した合成オリゴDNAを下記表1の組み合わせで各1μL混合し、1x 酵素添付Buffer, 0.33 mM dNTPs, 2.5単位 Proof Start Polymerase(Qiagen社製)もしくはLATaq(宝酒造)から成る反応液45μLを調製した。94℃ 5分保温した後に、94℃ 1分、63℃ 4分からなる反応を7サイクル行い、続けて、5μM scback, 5μM scfor溶液を5μL添加し、94℃ 30秒、55℃ 30秒、72℃ 30秒からなる反応を30サイクル行い、VL遺伝子を増幅した。
【0182】
【表1】

【0183】
PCR後、反応液全量をQIAquick PCR Purification Kit(Qiagen)を用いて、添付説明書記載の方法で精製し、滅菌水で溶出した。該断片を制限酵素SfiI (東洋紡績)にて処理した後、2 % アガローズゲル電気泳動に供した。約0.4 kbの増幅断片をQIAquick Gel Extraction Kit(Qiagen)を用いて、添付説明書記載の方法で精製し、滅菌水で溶出した。Ligation High(東洋紡績)を用いて、SfiI処理した上記L鎖発現ベクターpCAGG-kappaとLigationした。各反応液の一部を用いて大腸菌DH5α株 (東洋紡績)を形質転換した。塩基配列は、BigDye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用い、DNAシークエンサーABI PRISM 3700 DNA Sequencer(Applied Biosystems)にて、添付説明書記載の方法に従い決定し、確認した。BBA断片を挿入してpCAGG-A44BBAを、他のVL断片も同様にして発現ベクターを得た。各抗体可変領域配列を以下の配列番号に示した。
【0184】
【表2】

【0185】
〔実施例19〕 抗体の調製
ヒト胎児腎癌細胞由来HEK293を10 % FCS (Moregate)を含むDMEM培地(Invitrogen)へ懸濁し、接着細胞用10 cm径ディッシュ(Corning)に6×106個の細胞を播種しCO2インキュベーター(37℃, 5 % CO2)内で一晩培養した。実施例18の任意のL鎖発現ベクターと実施例17のpCAGG-chiB26-g4bと pCAGG-chiA44-g4aもしくはpCAGG-chiA69-g4aの2種のH鎖発現ベクター(30μg)と1.5 mLのOPTI-MEMI培地の混合液をトランスフェクション試薬Lipofectamine 2000(Invitrogen)60μLとOpti-MEM I培地(Invitrogen)1.5 mLの混合液へ加えて室温20分間静置したものをディッシュへ加え、CO2インキュベーター(37℃, 5 % CO2)内で3日間培養した。得られた培養上清に100μLのrProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を添加し、4℃で一晩転倒混和した。遠心操作により樹脂を沈殿させ、0.01 % Tween(R) 20を含むTBSにて3回洗浄後、樹脂を100μLの 0.01 % Tween(R) 20を含む10 mM HCl, 150 mM NaCl pH 2.0に懸濁して3分間静置したのち、抗体を溶出させた。直ちに、5μLの1 M Tris-HCl , 150 mM NaCl pH 8.0を加えて中和した。
【0186】
〔実施例20〕 IgG 濃度の定量
Goat affinity purified antibody to human IgG Fc(Cappel)をPBSにて1μg/mLに調製し、Nunc-Immuno plateに固相化した。2 % BSAを含むPBSにてブロッキング処理した後、このBufferを用いて適当に希釈した培養上清サンプルを添加した。また、抗体濃度算出のためのスタンダードとして、1 μg/mLから2倍系列でD.B.にて11段階希釈したヒトIgG4(ヒト型化抗TF抗体、WO 99/51743参照)を同様に添加した。3回洗浄したのち、Goat anti-human IgG, alkaline phosphatase(Biosource International)を反応させた。5回洗浄したのち、Sigma 104(R) phosphatase substrate(Sigma-Aldrich)を基質として発色させ、吸光度リーダーSUNRISE RAINBOW(TECAN)により、参照波長655 nmとして405 nmの吸光度を測定した。LS-PLATEmanager2001(TECAN)ソフトウェアを用いて、スタンダードの検量線から培養上清中のヒトIgG濃度を算出した。
【0187】
〔実施例21〕 血漿凝固アッセイ
血友病A血液の凝固能を二重特異性抗体が是正するか明らかにするために、F.VIII欠乏血漿を用いた活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)に対する同抗体の影響を検討した。様々な濃度の抗体溶液 50μL、F.VIII欠乏血漿(Biomerieux)50μL及びAPTT試薬(Dade Behring)50μLの混合液を37℃で3分間加温した。凝固反応は20 mMのCaCl2(Dade Behring)50μLを同混合液に加えることにより開始させた。CR-A(Amelung)が接続されたKC10A(Amelung)により凝固するまでの時間を測定した(図20〜26)。その結果、抗体無添加時に比べて、二重特異性抗体は凝固時間を短縮した。
【0188】
〔実施例22〕ハイブリッドL鎖を持つ二重特異性抗体のヒト化
血液凝固時間の短縮効果が最も高かった抗FactorIXa抗体 A69-VH、抗FactorX抗体 B26-VH、ハイブリッドL鎖(BBA)の組み合わせから成る二重特異性抗体について、以下のようにヒト化を実施した。
【0189】
22−1.ヒト抗体の相同性検索
一般公開されているKabat Database (ftp://ftp.ebi.ac.uk/pub/databases/kabat/) およびIMGT Database (http://imgt.cines.fr/)よりヒト抗体アミノ酸配列データを入手し、構築したDatabaseを用いてマウスA69-H鎖可変領域(アミノ酸配列:配列番号:20)、マウスB26-H鎖可変領域(アミノ酸配列:配列番号:24)、マウスBBA-L鎖可変領域(アミノ酸配列:配列番号:69)に分けてホモロジー検索を行った。その結果、以下に示すヒト抗体配列と高い相同性を持つことが確認されたことからヒト化抗体のフレームワーク領域(以下、FR)に使用することにした。
(1)A69-H鎖可変領域:KABATID-000064 (Kabat Database)
(Kippsら、J Clin Invest. 1991;87:2087-2096)
(2)B26-H鎖可変領域:EMBL Accession No. AB063872(IMGT Database)
(Unpublished data)
(3)BBA-L鎖可変領域:KABATID-024300 (Kabat Database)
(Welschofら、J Immunol Method. 1995;179:203-214)
(1)-(3)のヒト抗体のFRに各マウス抗体の相補性抗原決定領域(以下、CDR)を移植したヒト化抗体を作製した。
【0190】
また、NCBIより一般公開されている相同性検索Web site(http://www.ncbi. nlm.nih.gov/BLAST/)を使用して、(1)-(3)のヒト抗体に相同性の高いヒト抗体の分泌シグナル配列を検索した。検索により得られた以下に示す分泌シグナル配列を使用した。
(1)A69-H鎖可変領域:GenBank Accession No. AF062257
配列番号:123(塩基配列)、配列番号:124(アミノ酸配列)
(2)B26-H鎖可変領域:GenBank Accession No. AAC18248
配列番号:125(塩基配列)、配列番号:126(アミノ酸配列)
(3)BBA-L鎖可変領域:GenBank Accession No. AAA59100
配列番号:127(塩基配列)、配列番号:128(アミノ酸配列)
【0191】
22−2.ヒト化抗体遺伝子発現ベクターの構築
分泌シグナル配列から抗体可変領域にいたるアミノ酸配列をコードする塩基配列において、50 base程度の合成オリゴDNAを3’末端が約20 base程度ハイブリダイズするように交互に12本作製した。合成オリゴDNAは、5’末端から3’末端までがヒト抗体配列になるように、もしくは5’末端がヒト抗体配列であり3’末端がマウス抗体配列になるように設計した。さらに、抗体可変領域遺伝子の5’末端にアニ−ルし、XhoI切断配列を有するプライマーと抗体可変領域遺伝子の3’末端側にアニ−ルし、SfiI切断配列を有し且つイントロン配列の5’末端配列をコードするプライマーを作製した。
【0192】
2.5μMに調製した合成オリゴDNAを各1μLで混合し、1x TaKaRa Ex Taq Buffer, 0.4 mM dNTPs, 0.5 units TaKaRa Ex Taq(全て宝酒造)を加え、反応液48μLになるように調製した。94℃ 5分保温した後に、94℃ 2分、55℃ 2分、72℃ 2分からなる反応を2サイクル行い、各合成オリゴDNAのアッセンブルおよび伸長反応を実施した。次に、抗体遺伝子の5’末端および3’末端にアニ−ルするプライマー(各10μM)を1μL添加し、94℃ 30秒、55℃ 30秒、72℃ 1分からなる反応を35サイクル行い、72℃ 5分反応させ、抗体可変領域遺伝子を増幅した。PCR後、反応液全量を1 %アガローズゲル電気泳動に供した。目的のサイズ(約400 bp)の増幅断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて、添付説明書記載の方法で精製し、滅菌水30μlで溶出した。該断片をpGEM-T Easy Vector Systems (Promega)を用いて、添付説明書記載の方法でクローニングを行った。各DNA断片の塩基配列は、BigDye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用い、DNAシークエンサーABI PRISM 3700 DNA SequencerまたはABI PRISM 3730xL DNA Sequencer(Applied Biosystems)にて、添付説明書記載の方法に従い決定した。
【0193】
正しいヒト化抗体可変領域遺伝子配列であることが確認されたH鎖可変領域断片挿入プラスミドをXhoIおよびSfiIで、L鎖可変領域断片挿入プラスミドをEcoRIで消化した後に、反応液を1 %アガローズゲル電気泳動に供した。目的のサイズ(約400 bp)のDNA断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて、添付説明書記載の方法で精製し、滅菌水30μlで溶出した。その後、調製した可変領域遺伝子を、以下に示す方法にて実施例17で作製した2本のH鎖がヘテロダイマーを形成するIgG4を優先的に発現させるため動物細胞用発現ベクター(pCAGG-IL3ss-g4CHPa, pCAGG-IL6ss-g4CHPb)に挿入した。pCAGG-IL3ss-g4CHPaをXhoIおよびSfiI(ともに宝酒造)で消化した後に、1 %アガローズゲル電気泳動に供してベクター領域断片を回収することでマウスIL-3シグナル配列を含む断片を除き、上記で得られたヒト化A69-H鎖可変領域遺伝子断片を挿入してヒト化A69-H鎖発現ベクター(定常領域はY349C、T366W置換体)を作製した。同様に、pCAGG-IL6ss-g4CHPbをXhoIおよびSfiI(宝酒造)で消化した後に、1 %アガローズゲル電気泳動に供してベクター領域断片を回収することでマウスIL-6シグナル配列を含む断片を除き、上記で得られたヒト化B26-H鎖可変領域遺伝子断片を挿入してヒト化B26-H鎖発現ベクター(定常領域はE356C、T366S、L368A、Y407Vの置換体)を作製した。同様に、調製したH鎖可変領域遺伝子を実施例17で作製した野生型の定常領域遺伝子をもつ動物細胞用発現ベクター(pCAGGss-g4CH)に挿入した。pCAGGss-g4CHをXhoIおよびSfiIで消化した後に、1 %アガローズゲル電気泳動に供してベクター領域断片を回収することでシグナル配列を含む断片を除き、上記で得られたヒト化H鎖可変領域遺伝子断片を挿入してヒト化H鎖発現ベクター(定常領域は野生型)を作製した。また、実施例18で作製したL鎖発現ベクター(pCAGG-IL3ss-hIgG light)をEcoRIで消化した後に、1 %アガローズゲル電気泳動に供してベクター領域断片を回収することでマウスIL-3シグナル配列を含む断片を除き、上記で得られたヒト化BBA-L鎖可変領域遺伝子断片を挿入してヒト化BBA-L鎖発現ベクター発現プラスミドを作製した。連結反応はRapid DNA Ligation Kit (Roche Diagnostics)を用い、大腸菌DH5α株 (東洋紡績)を形質転換した。
【0194】
22−3.ヒト化二重特異性抗体の調製
ヒト化二重特異性抗体の発現は、実施例4−2に記載した方法か以下の方法を用いて行った。ヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen)を10 % Fetal Bovine Serum (Invitrogen)を含むDMEM培地(Invitrogen)へ懸濁し、5〜6 × 105個/mLの細胞密度で接着細胞用ディッシュ(直径10 cm, CORNING)の各ディッシュへ10 mLずつ蒔きこみCO2インキュベーター(37℃、5 % CO2)内で一昼夜培養した後に、培地を吸引除去し、1 %のFetal Bovine Serumを含むCHO-S-SFM-II培地6.9 mLを添加した。22−2で調製したプラスミドDNA混合液(合計13.8μg)を1μg/mL Polyethylenimine (Polysciences Inc.) 20.7μLとCHO-S-SFMII培地 690μLと混合して室温10分間静置したものを各ディッシュの細胞へ投入し、4〜5時間、CO2インキュベーター(37℃にて5 % CO2)内でインキュベートした。その後、1 %のFetal Bovine Serumを含むCHO-S-SFM-II(Invitrogen)培地6.9 mLを添加して、3日間 CO2インキュベーター内で培養した。培養上清を回収した後、遠心分離(約2000 g、5分間、室温)して細胞を除去し、さらに0.22μmフィルターMILLEX(R)-GV(Millipore)を通して滅菌した。該サンプルは使用するまで4℃で保存した。
【0195】
つづいて、実施例11に示す方法で抗体精製および実施例5に示す方法または以下に示す方法で抗体濃度の定量を実施した。Biacore1000(BIACORE)を使用し、Sensor Chip CM5(BIACORE)にProteinAを固定化した。具体的にはメーカーのプロトコールに従い、活性化したセンサーチップに10 mM 酢酸ナトリウム水溶液(pH 4.0, BIACORE)で50μg/mLに希釈したProteinA(SIGMA)溶液を5μL/分で30分間反応させ、その後ブロッキング操作を実施してProteinA固定化センサーチップを作製した。このセンサーチップを用いて、Biacore 1000(BIACORE)を使用して培養上清および精製品の濃度を測定した。センサーチップの固定および濃度測定にはHBS-EP Buffer(BIACORE)を使用した。また、濃度測定時の標準品として4000 ng/mLから2倍系列でHBS-EP Bufferにて6段階希釈したヒトIgG4(ヒト型化抗TF抗体、WO 99/51743参照)を使用した。
【0196】
22−4.ヒト化二重特異性抗体の活性評価および抗体配列の改変
調製したヒト化二重特異性抗体およびキメラ二重特異性抗体(A69/B26/BBA)の血漿凝固能を評価するために、実施例21の方法に従って、F.VIII欠乏血漿を用いてAPTTに対する抗体の影響を検討した。血液凝固能が低下したヒト化二重特異性抗体について、活性上昇を目指してヒト抗体FRのアミノ酸を改変した。また、発現分泌時にはヒト化A69/ヒト化BBA抗体, ヒト化B26/ヒト化BBA抗体、ヒト化A69/ヒト化B26/ヒト化BBA二重特異性抗体の3種類の抗体が発現するが、この3種類の抗体を分離し、二重特異性抗体のみ精製することを目的として、ヒト化A69 H鎖可変領域の等電点を下降させ、ヒト化B26 H鎖可変領域の等電点を上昇させるアミノ酸改変を行った。また、同時にH鎖アミノ末端のピログルタミル化を防ぐためのアミノ酸改変、CDR配列の脱アミド化を抑制するためのアミノ酸改変、熱安定性を上昇させるためのアミノ酸改変を実施した。具体的には、QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit (Stratagene)を用いて、添付説明書記載の方法でヒト化抗体可変領域に変異を導入した。目的のヒト化抗体可変領域遺伝子配列であることが確認されたH鎖可変領域断片挿入プラスミドをXhoIおよびSfiIで、L鎖可変領域断片挿入プラスミドをEcoRIで消化した後に、反応液を1 %アガローズゲル電気泳動に供した。目的のサイズ(約400 bp)のDNA断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて、添付説明書記載の方法で精製し、滅菌水30μlで溶出した。その後、実施例22−2に示す方法で抗体定常領域遺伝子と連結し、抗体発現プラスミドを作製した。実施例22−3に示す方法でヒト化二重特異性抗体の調製し、実施例21に示す方法で血液凝固活性を評価した。
【0197】
FR配列のアミノ酸改変および血液凝固活性の評価を繰り返すことでキメラ二重特異性抗体(A69/B26/BBA)と同等の活性を有するヒト化二重特異性抗体(ヒト化A69(hA69a)/ ヒト化B26 (hB26-F123e4)/ヒト化BBA(hAL-F123j4)およびヒト化A69(hA69-PFL)/ ヒト化B26 (hB26-PF)/ヒト化BBA(hAL-s8))を取得した。図27に定常領域配列にknobs-into-holes技術(Protein Engineering vol.9, 617-621, 1996)を用いてヘテロダイマーを形成させたヒト化二重特異性抗体の血液凝固活性を示した。各ヒト化抗体の可変領域配列を以下の配列番号に示した。
(1) ヒト化A69抗体VH(hA69a) 配列番号:129(塩基配列)、配列番号:130(アミノ酸配列)
(2) ヒト化B26抗体VH(hB26-F123e4) 配列番号:131(塩基配列)、配列番号:132(アミノ酸配列)
(3) ヒト化BBA抗体VL(hAL-F123j4) 配列番号:133(塩基配列)、配列番号:134(アミノ酸配列)
(4) ヒト化A69抗体VH(hA69-PFL) 配列番号:135(塩基配列)、配列番号:136(アミノ酸配列)
(5) ヒト化B26抗体VH(hB26-PF) 配列番号:137(塩基配列)、配列番号:138(アミノ酸配列)
(6) ヒト化BBA抗体VL(hAL-s8) 配列番号:139(塩基配列)、配列番号:140(アミノ酸配列)
【0198】
22−5.野生型定常領域をもつヒト化二重特異性抗体の活性評価および抗体配列の改変
L鎖を共通化した二重特異性抗体は、動物細胞における発現分泌時に3種類の抗体が発現することが考えられる。本実施例の抗体においてもヒト化A69/ヒト化BBA抗体, ヒト化B26/ヒト化BBA抗体、ヒト化A69/ヒト化B26/ヒト化BBA二重特異性抗体の3種類の抗体が発現することが予想された。この3種類の抗体を分離し、二重特異性抗体のみ精製することを目的として、ヒト化A69 H鎖可変領域の等電点を下降させ、ヒト化B26 H鎖可変領域の等電点を上昇させるアミノ酸改変を行った。その結果、所望の二重特異性抗体の分離が可能になったことから、野生型定常領域を持つヒト化二重特異性抗体を調製し、凝固活性評価を実施した。熱安定性向上のために、実施例22−4に示したヒト化二重特異性抗体(ヒト化A69(hA69-PFL)/ ヒト化B26 (hB26-PF)/ヒト化BBA(hAL-s8))のヒト化A69およびヒト化BBAの可変領域アミノ酸配列を改変した。各ヒト化抗体の可変領域配列を以下の配列番号に示した。
(7) ヒト化A69抗体VH(hA69-KQ) 配列番号:141(塩基配列)、配列番号:142(アミノ酸配列)
(8) ヒト化BBA抗体VL(hAL-AQ) 配列番号:143(塩基配列)、配列番号:144(アミノ酸配列)
【0199】
実施例22−2に示す方法で野生型定常領域遺伝子(ヒトIgG4定常領域ないしκ定常領域)と連結し、抗体発現プラスミドを作製した。
実施例22−3に示す方法でヒト化二重特異性抗体の調製し、陽イオン交換クロマトグラフィー分析を用いて二重特異性抗体を精製した。陽イオン交換クロマトグラフィー分析条件は以下のとおりであり、ヒト化A69のホモ会合体、ヒト化A69とヒト化B26のヘテロ会合体である目的の二重特異性抗体、ヒト化B26のホモ会合体の3種類のピークが得られることから、二重特異性抗体のピークを分取することで、二重特異性抗体を精製した。二重特異性抗体が含まれる画分をAmicon Ultra, MWCO 10000 (Millipore)による濃縮後、20 mM sodium acetate, 150 mM NaCl, pH 6.0に対して一晩冷所で透析を行い、濃度定量を行った。
【0200】
カラム:ProPac WCX-10, 4×250 mm, (Dionex)
移動相:A: 10 mmol/L NaH2PO4/Na2HPO4, pH 6.25
B: 10 mmol/L NaH2PO4/Na2HPO4, 500 mmol/L NaCl, pH 6.25
流速:1.0 mL/min
グラジエント:10 %B(5 min)→(40 min)→60 %B→(5 min)→100 %B (5 min)
検出:220 nm
【0201】
精製した二重特異性抗体を用いて実施例21に示す方法で血液凝固活性を評価した。図28に示すとおり実施例22−4でキメラ抗体と同等の活性を示したヒト化抗体(ヒト化A69(hA69-PFL)/ ヒト化B26 (hB26-PF)/ヒト化BBA(hAL-s8))と新たに調製したヒト化抗体(ヒト化A69(hA69-KQ)/ ヒト化B26 (hB26-PF)/ヒト化BBA(hAL-AQ))は同等の血液凝固活性を有することが確認された。
【0202】
〔実施例23〕2種以上の抗体の併用
二重特異性抗体と1種以上の他の抗体の併用による効果を血漿凝固アッセイにより確認した。抗体溶液 50μL、F.VIII欠乏血漿(Biomerieux)100μL、0.3 % カオリン溶液(Biomerieux)50μLを混合し、37℃で3分間加温した。凝固反応は20 mMのCaCl2(Dade Behring)100μLを同混合液に加えることにより開始させた。CR-A(Amelung)が接続されたKC10A(Amelung)により凝固するまでの時間を測定した。二重特異性抗体(A69/B26/BBA)に抗F.IXa抗体(XB12)、抗F.X抗体(SB04)、XB12とSB04、二重特異性抗体(XB12/SB04)を混合したときの血漿凝固時間の結果を図29に示す。混合後の各抗体濃度は20μg/mLである。
【産業上の利用可能性】
【0203】
本発明により酵素および該酵素の基質の両方を認識する抗体であって、血液凝固第VIII因子の機能を代替する高活性の多重特異性抗体が提供された。
本発明の多重特異性抗体は、血中での安定性が高く、抗原性も低いと考えられることから、医薬品となるものと大いに期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一のH鎖、第二のH鎖および共通のL鎖を有する二重特異性抗体の作製方法であって、以下の工程を含む方法:
(1)第一の抗原に対する第一の抗体と、第二の抗原に対する第二の抗体とを用意する工程;
(2)第一の抗体および第二の抗体の可変領域を有する第一の抗原および第二の抗原に対する二重特異性抗体を作製する工程;
(3)前記(2)で作製した二重特異性抗体の抗原への結合活性または抗体の生物活性を測定する工程;
(4)第一の抗体のH鎖および第二の抗体のH鎖を、第一の抗体または第二の抗体のL鎖で共通化して共通L鎖抗体を作製する工程;
(5)前記(4)で作製した共通L鎖抗体の抗原への結合活性または抗体の生物活性を測定する工程;
(6)前記(4)で作製した共通L鎖の1または2個または3個のCDRを、第一の抗体、第二の抗体または他の抗体であって第一の抗体または第二の抗体のCDRのアミノ酸配列に対して高い相同性を有する抗体のCDRにより置換して共通L鎖抗体を作製する工程;
(7)前記(6)で作製した共通L鎖抗体と、前記(2)で作製した元の二重特異性抗体または前記(4)で作製した共通L鎖抗体とを抗原への結合活性または抗体の生物活性について比較し、所望の活性を有する共通L鎖抗体を選択する工程;および
(8)前記(7)で選択した共通L鎖抗体について、必要に応じて前記(6)および(7)の工程を反復して前記(2)で作製した元の二重特異性抗体と同等以上の活性を有する共通L鎖抗体を得る工程。
【請求項2】
前記(6)および(7)の工程が2回以上反復される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1または2の方法により得られる共通のL鎖を有する二重特異性抗体。
【請求項4】
前記(6)の他の抗体が第一の抗原もしくは第二の抗原に対する抗体である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記(6)および(7)の工程が2回以上反復される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項4または5の方法により得られる共通のL鎖を有する二重特異性抗体。
【請求項7】
前記(6)の抗体が第一の抗体または第二の抗体である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記(6)および(7)の工程が2回以上反復される請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項7または8の方法により得られる共通のL鎖を有する二重特異性抗体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−82201(P2012−82201A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247507(P2011−247507)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【分割の表示】特願2007−512906(P2007−512906)の分割
【原出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】