説明

衝撃吸収構造体、衝撃吸収モジュールとそれを備えた保護帽子

【課題】軟結合構造を介して結合された各弾性球状体の位置や姿勢を安定させ、全面に渡って品質を均一化することができる衝撃吸収構造体を提供する。
【解決手段】外部から加わる外力の大きさと方向に応じて弾性変形すると共に、中心を通って貫通する貫通孔孔23a、23bを有する球状の複数の弾性球状体21を線状に配置し、一方の端部から他方の端部までを連結し、各弾性球状体21の貫通孔の貫通方向を平行に維持する紐状部材22からなる軟結合構造を介して線状に集合させた衝撃吸収構造体20において、紐状部材22は、弾性球状体21の貫通孔23a,23bに挿通され、隣接する弾性球状体21間において、挿通方向が逆方向にされる第1紐状部材24と、挿通方向が第1紐状部材24と逆方向に設定され、且つ、線状に並んだ複数の弾性球状体21の両端部のそれぞれで第1紐状部材24と結合される第2紐状部材25と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟結合構造を介して複数の弾性球状体を結合したそれを備えた衝撃吸収構造体、衝撃吸収モジュールとそれを備えた保護帽子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、発泡樹脂体からなるベース部材上に、複数の弾力性を有する球体状のセル構造体を任意の形に並べ、ベース材ごとカバー材によりセル構造体を覆うことで形成された衝撃吸収構造体が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-296640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の衝撃吸収構造体にあっては、複数のセル構造体がベース部材上に載置されているのみであるため、カバー材の内側で自由に移動したり回転したりする。そのため、複数のセル構造体が密になった部分では通気性が低下するし、複数のセル構造体の間隔が開きすぎた部分では衝撃吸収性能の低下が懸念される。つまり、セル構造体の状態によって衝撃吸収性能や通気性にむらが生じてしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、軟結合構造を介して結合された各弾性球状体の位置や姿勢を安定させ、全面に渡って品質を均一化することができる衝撃吸収構造体、衝撃吸収モジュールとそれを備えた保護帽子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、外形形状が球状であり、外部から加わる外力の大きさと方向に応じて弾性変形する複数の弾性球状体を、前記外力に従って変形可能なように剛性を低く抑えた軟結合構造を介して線状に集合させた衝撃吸収構造体において、前記弾性球状体は、中心を通って貫通する貫通孔を有し、前記軟結合構造は、線状に並んだ複数の前記弾性球状体の一方の端部から他方の端部までを連結すると共に、各弾性球状体の前記貫通孔の貫通方向を平行に維持する紐状部材有している。
そして、前記紐状部材は、第1紐状部材と、第2紐状部材と、を備えている。
前記第1紐状部材は、前記弾性球状体の前記貫通孔に挿通されると共に、隣接する弾性球状体間において、挿通方向が逆方向にされる。
また、前記第2紐状部材は、前記弾性球状体の前記貫通孔に挿通されると共に、挿通方向が前記第1紐状部材の挿通方向と逆方向に設定され、且つ、線状に並んだ複数の前記弾性球状体の両端部のそれぞれで前記第1紐状部材と締結される。
【発明の効果】
【0007】
よって、本発明の衝撃吸収構造体にあっては、第1紐状部材が弾性球状体の貫通孔に挿通されると共に、隣接する弾性球状体間において挿通方向が逆方向にされる。また、第2紐状部材が弾性球状体の貫通孔に挿通されると共に、挿通方向が第1紐状部材の挿通方向と逆方向に設定される。そして、線状に並んだ複数の弾性球状体の両端部のそれぞれで第1紐状部材と第2紐状部材とが締結される。
このため、弾性球状体の貫通孔内において、第1紐状部材と第2紐状部材が交差する。これにより、紐状部材を介して線状に連結された弾性球状体が回転することが規制され、各弾性球状体の位置や姿勢を安定させることができる。これにより、衝撃吸収構造体の全面に渡って品質を均一化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の衝撃吸収構造体を備えた保護帽子を示し、(a)は外観斜視図であり、(b)は衝撃吸収構造体を示す説明斜視図である。
【図2】実施例1の衝撃吸収モジュールを示す斜視図である。
【図3】実施例1の衝撃吸収列部材を示す斜視図であり、(a)は弾性球状体間隔があいている状態を示し、(b)は弾性球状体間隔が詰まっている状態を示す。
【図4】実施例1の衝撃吸収列部材を示す平面図である。
【図5】弾性球状体を示す図であり、(a)は外観を示す斜視図であり、(b)は縦断面図である。
【図6A】実施例1の保護帽子の製造方法を示す図であり、(a)は衝撃吸収列部材固定工程を示し、(b)は上布被覆工程を示す。
【図6B】実施例1の保護帽子の製造方法を示す図であり、(c)は衝撃吸収モジュール連結工程を示し、(d)は縫い代始末工程を示す。
【図7】衝撃吸収モジュールの他の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の衝撃吸収構造体とそれを備えた保護帽子を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、実施例1の衝撃吸収構造体及び保護帽子における構成を、「衝撃吸収構造体を備えた保護帽子の構成」、「衝撃吸収モジュールの構成」、「弾性球状体の構成」、「保護帽子の製造方法」に分けて説明する。
【0011】
[衝撃吸収構造体を備えた保護帽子の構成]
図1は、実施例1の衝撃吸収構造体を備えた保護帽子を示し、(a)は外観斜視図であり、(b)は衝撃吸収構造体を示す説明斜視図である。
【0012】
図1に示す保護帽子1は、頭部に被ることで外部から加わる外力から頭部を保護するものである。この保護帽子1は、頭頂部を覆う頂天部3と、頂天部3の周囲を取り囲んで頭側部を覆う側面部4と、側面部4の前額部4aから前方に突出した鍔部5と、有している。
【0013】
前記頂天部3は、通気性のよい布材によって形成されている。なお、この布材としては綿や化繊等任意に選択できる。また、表布に対して裏布を設けた二重構造の布材であったり、表布と裏布の間に綿等を挟みこんだいわゆるキルティング状の布材であってもよい。
【0014】
前記側面部4は、複数の衝撃吸収列部材(衝撃吸収構造体)20を内蔵した衝撃吸収モジュール10を、周方向に複数連結することで形成されている。ここでは、側面部4の週方向と、衝撃吸収列部材20の長さ方向とが一致しており、衝撃吸収列部材20は、側面部4の周方向に沿って延びている。
【0015】
前記鍔部5は、プラスチック製の芯材(図示せず)を布材で覆うことで形成されている。
【0016】
[衝撃吸収モジュールの構成]
図2は、実施例1の衝撃吸収モジュールを示す斜視図である。図3は、実施例1の衝撃吸収列部材を示す斜視図であり、(a)は弾性球状体間隔があいている状態を示し、(b)は弾性球状体間隔が詰まっている状態を示す。図4は、実施例1の衝撃吸収列部材を示す平面図である。
【0017】
前記衝撃吸収モジュール10は、側面部4を周方向に複数に分割した大きさの矩形シート形状となっており、複数の衝撃吸収列部材(衝撃吸収構造体)20と、この衝撃吸収列部材20を平面状に集合させる布部材11と、を備えている。
【0018】
前記衝撃吸収列部材20は、図3及び図4に示すように、複数(ここでは5個)の弾性球状体21を、軟結合構造である紐状部材22を介して線状に集合させたものである。このとき、紐状部材22の両端部22a,22bは、衝撃吸収列部材20の両端から長さ方向に延在されている。つまり、複数の弾性球状体21の間隔が任意の範囲で自在に変動可能となるように、紐状部材22の長さは複数の弾性球状体21を接触した状態に並べた際の全長Lよりも適度に長くなっている。なお、紐状部材22の長さが弾性球状体21を並べたときの全長Lよりも大幅に長くすると、複数の弾性球状体21の間隔が空きすぎる懸念がある。そのため、紐状部材22の長さは、複数の弾性球状体21の間隔が必要以上の寸法とならないように設定する必要がある。
【0019】
前記布部材11は、通気性のよい布材によって形成されている。なお、この布材としては綿や化繊等任意に選択できる。前記布部材11は、下布部材12と、上布部材13と、備えている。
【0020】
前記下布部材12は、複数の衝撃吸収列部材20を平行に載置すると共に、複数の弾性球状体21を連結した紐状部材22の両端部22a,22bがそれぞれ縫い付け固定される。すなわち、複数の衝撃吸収列部材20は、長さ方向の向きを揃えた状態で下布部材12上に並べられ、両端から延びた紐状部材22の両端部22a,22bが下布部材12に縫合されて固定される。
このとき、各弾性球状体21は、後述する下側通気孔23aの開口縁部が下布部材12に接する状態に載置される。
【0021】
前記上布部材13は、下布部材12に載置された複数の衝撃吸収列部材20を覆うと共に、この衝撃吸収列部材20の周囲位置で下布部材12に固定される。すなわち、上布部材13は、隣接する衝撃吸収列部材20の間において、下布部材12に縫い付けられると共に、複数の衝撃吸収列部材20の周囲に沿って下布部材12に縫い付けられて固定される。これにより、複数の衝撃吸収列部材20は、布部材11によって包囲される。
【0022】
なお、衝撃吸収列部材20の長さや平行に並べるときの数を任意に設定することにより、衝撃吸収モジュール10を任意の大きさ又は形状に設定することができる。
【0023】
[弾性球状体の構成]
図5は、弾性球状体を示す図であり、(a)は外観を示す斜視図であり、(b)は縦断面図である。
【0024】
前記弾性球状体21は、外径形状がほぼ球状の中空球体に形成され、外部から加わる外力の大きさと方向に応じて弾性変形するものである。この弾性球状体21は、ここではポリプロピレン製の弾性素材により形成されている。また、この弾性球状体21は、下端21aに弾性球状体21の内部と外側を連通させる下側通気孔23aが形成され、上端21bに弾性球状体21の内部と外側を連通させる上側通気孔23bが形成されている。
この下側通気孔23aと上側通気孔23bとは互いに対向する位置に形成され、弾性球状体21の下端21aと上端21bとの間を貫通した状態となっている。つまりこの下側通気孔23a及び上側通気孔23bにより、弾性球状体21の中心を通って貫通する貫通孔が形成されている。
なお、この弾性球状体21は、この実施例1では、外殻の肉厚が約0.3mm、直径が約11mm、通気孔23a,23bの開口径がそれぞれ約6mmとなっている。
【0025】
[軟結合構造である紐状部材の構成]
前記紐状部材22は、長さ方向に伸縮しにくいナイロン等の合成繊維からなる紐材であり、第1紐状部材24と、第2紐状部材25と、を備えている。
【0026】
前記第1紐状部材24は、線状に並んだ複数の弾性球状体21の下側通気孔23a及び上側通気孔23bに挿通されて、弾性球状体21を貫通すると共に、隣接する弾性球状体21間において、各通気孔23a,23bへの挿通方向が逆にされる。
【0027】
つまり、この第1紐状部材24は、図3において最右側に位置する弾性球状体21(図3において21A)では、上側通気孔23bから下側通気孔23aへと挿通される。続いて隣接する弾性球状体21(図3において21B)では、下側通気孔23aから上側通気孔23bへと挿通される。このように、第1紐状部材24は、順に最右側から最左側までの各弾性球状体21に、挿通方向を交互に変えながら挿通される。
【0028】
前記第2紐状部材25は、線状に並んだ複数の弾性球状体21の下側通気孔23a及び上側通気孔23bに挿通されて、弾性球状体21を貫通すると共に、このときの挿通方向が第1紐状部材24の挿通方向と逆方向に設定される。
【0029】
つまり、この第2紐状部材25は、図3(b)において最右側に位置する弾性球状体21(図3において21A)では、下側通気孔23aから上側通気孔23bへと挿通される。続いて隣接する弾性球状体21(図3において21B)では、上側通気孔23bから下側通気孔23aへと挿通される。このように、第2紐状部材25は、順に最右側から最左側までの各弾性球状体21に、挿通方向を第1紐状部材24とは逆方向にしながら挿通される。
【0030】
そして、第1紐状部材24と第2紐状部材25は、各弾性球状体21の内部において、交差する。
【0031】
さらに、この第2紐状部材25の両端部は、線状に並んだ複数の弾性球状体21の両端部、つまり衝撃吸収列部材20の両端において、第1紐状部材24とそれぞれ締結される。このとき、第1,第2紐状部材24,25の両端部における締結部26,26の間隔L1は、複数の弾性球状体21を接触させた状態に並べた際の全長Lよりも適度に長くなっており、複数の弾性球状体21の間隔が任意の範囲で自在に変動可能とされている。なお、上記締結部26,26の間隔L1が弾性球状体21を並べたときの全長Lよりも大幅に長くすると、複数の弾性球状体21の間隔が空きすぎる懸念がある。そのため、間隔L1の長さは、複数の弾性球状体21の間隔が必要以上の寸法とならないように設定する必要がある。
【0032】
[衝撃吸収構造体の製造方法]
次に、実施例1の保護帽子1の製造方法について説明する。
図6A及び図6Bは、実施例1の保護帽子の製造方法を示す図であり、(a)は衝撃吸収列部材固定工程を示し、(b)は上布被覆工程を示し、(c)は衝撃吸収モジュール連結工程を示し、(d)は縫い代始末工程を示している。
【0033】
図6A(a)に示す衝撃吸収列部材固定工程では、第1紐状部材24及び第2紐状部材25によって複数の弾性球状体21が連結されることであらかじめ形成された衝撃吸収列部材20を布部材11の下布部材12に載置する。このとき、各弾性球状体21の下側通気孔23aが下布部材12に対向するように、衝撃吸収列部材20の向きを合わせる。
そして、衝撃吸収列部材20を載置したら、この衝撃吸収列部材20の両端から延在された紐状部材22の両端部22a,22bを下布部材12に縫い付け固定する。このとき、縫い付け位置は、最端部に位置する弾性球状体21から所定の間隔(ここでは約1cm)をあける。
【0034】
図6A(b)に示す上布被覆工程では、下布部材12に両端が固定された衝撃吸収列部材20に布部材11の上布部材13を被せる。そして、衝撃吸収列部材20の両側を長さ方向に沿って縫い付け、下布部材12に対して上布部材13を固定する。これにより、下布部材12と上布部材13の間に衝撃吸収列部材20が内蔵される。
【0035】
そして、この衝撃吸収列部材固定工程及び上布被覆工程を、一つの衝撃吸収列部材20ごとに繰り返し、任意の数の衝撃吸収列部材20を列方向に並べて布部材11に取り付けることで、衝撃吸収モジュール10を形成する。つまり、衝撃吸収モジュール10は、各衝撃吸収列部材20の長さと、列方向に並んだ衝撃吸収列部材20の数により大きさが決まる。
【0036】
図6B(c)に示す衝撃吸収モジュール連結工程では、任意の大きさに形成した衝撃吸収モジュール10の各衝撃吸収列部材20の長さ方向の端部をつなぎ合わせ、衝撃吸収列部材20の長さ方向に任意の大きさとする。このとき、衝撃吸収列部材20の長さ方向の両端部から延在した布部材11を図6B(c)に示す二点鎖線の位置で縫い合わせ、縫い代Nを表側(保護帽子1の表面側)に出した上、縫い目を中心に割る。
【0037】
図6B(d)に示す縫い代始末工程では、衝撃吸収モジュール連結工程において表側に出した縫い代Nに当て布Mを被せ、この縫い代Nを隠した状態で当て布Mを縫い付け固定する。
【0038】
そして、この衝撃吸収モジュール連結工程及び縫い代始末工程を保護帽子1のデザインに合わせて繰り返し、複数の衝撃吸収モジュール10を保護帽子1の側面部4の形に仕上げていく。そして、側面部4が形成したら、別工程にて形成した頂天部3や鍔部5を縫い合わせ、保護帽子1を形成する。
【0039】
次に、実施例1の衝撃吸収構造体及び保護帽子における作用を、「弾性球状体の姿勢安定化作用」、「衝撃吸収性能確保作用」、「通気性能確保作用」に分けて説明する。
【0040】
[弾性球状体の姿勢安定化作用]
実施例1の衝撃吸収列部材(衝撃吸収構造体)20では、弾性球状体21は、中心を通って貫通する貫通孔となる下側通気孔23aと上側通気孔23bを有している。一方、複数の弾性球状体21を集合させる紐状部材(軟結合構造)22は、第1紐状部材24と、第2紐状部材25を備えている。
【0041】
そして、第1紐状部材24は、線状に並んだ複数の弾性球状体21の下側通気孔23a及び上側通気孔23bに挿通されて弾性球状体21を貫通すると共に、隣接する弾性球状体21間において、各通気孔23a,23bへの挿通方向が逆にされる。
一方、第2紐状部材25は、線状に並んだ複数の弾性球状体21の下側通気孔23a及び上側通気孔23bに挿通されて、弾性球状体21を貫通すると共に、このときの挿通方向が第1紐状部材24の挿通方向と逆方向に設定される。
【0042】
このため、各弾性球状体21の内部において、第1紐状部材24と第2紐状部材25が交差する。これにより、第1紐状部材24に対して各弾性球状体21の回転可能な方向と、第2紐状部材25に対して各弾性球状体21の回転可能な方向とが逆になる。そのため、どちらか一方の紐状部材に対して回転可能な方向に弾性球状体21が回転しようとしても、他方の紐状部材により回転が規制される。この結果、各弾性球状体21が回転することはない。
【0043】
また第1,第2紐状部材24,25の両端部における締結部26,26の間隔L1は、複数の弾性球状体21を並べた際の全長Lよりも適度に長くなっており、複数の弾性球状体21の間隔が任意の範囲で自在に変動可能となる。すなわち、複数の弾性球状体21の間隔は、締結部26,26の間隔L1によって規制され、必要以上に間隔が広がることはない。そのため、各弾性球状体21の移動が規制され、適度な間隔を保持することができる。
【0044】
このように、各弾性球状体21の回転や移動が規制されることで、弾性球状体21の姿勢の安定化を図ることができる。
【0045】
なお、実施例1の衝撃吸収列部材20は、布部材11に内蔵されることで衝撃吸収モジュール10となっている。そのため、この布部材11によって移動やたわみが抑制され、さらに姿勢の安定化を図ることができる。
【0046】
特に、実施例1の衝撃吸収モジュール10では、衝撃吸収列部材20の一列ごとに上布部材13が下布部材12に縫い付け固定されている。つまり、衝撃吸収列部材20の間が縫い付け固定されている。これにより、衝撃吸収列部材20の回転や移動がさらに抑制されて、姿勢安定化を図ることができる。
【0047】
そして、このような衝撃吸収モジュール10によって側面部4を形成した保護帽子1では、着用による頭部との接触が生じても、布部材11に内蔵された弾性球状体21の回転や移動は抑制される。そのため、側面部4の全面にわたって衝撃吸収性や通気性等の品質の均一化を図ることができる。
【0048】
[衝撃吸収性能確保作用]
実施例1の保護帽子1に外部から外力が入力すると、この外力の大きさと方向に応じて各弾性球状体21が弾性変形し、外力による衝撃を吸収する。このとき、各弾性球状体21は、外径形状がほぼ球状であるため、全方位からの衝撃吸収性能を発揮する。
【0049】
さらに、各弾性球状体21は、第1紐状部材24及び第2紐状部材25によって連結され、さらに下布部材12と上布部材13の間に内蔵され、移動したり、回転することはない。これにより、各弾性球状体21は、入力した外力を受け止めて確実に変形することができ、衝撃吸収性能を確保することができる。すなわち、入力した外力によって弾性球状体21が回転したり移動したりすると、弾性球状体21が部分的に弾性変形しない場合があり、十分に衝撃を吸収することができない。
【0050】
これに対し、実施例1の保護帽子1では、外力の大きさや方向に拘らず弾性球状体21の回転や移動が規制され、確実に弾性変形して衝撃を吸収することができるため、保護帽子1の全面に渡って衝撃吸収性能を均一化することができる。
【0051】
さらに、第1,第2紐状部材24,25の両端部における締結部26,26の間隔L1を、複数の弾性球状体21を接触した状態で並べた際の全長Lよりも適度に長くすることで、弾性球状体21の間隔を必要な程度あけることができる。これにより、衝撃吸収列部材20に柔軟性を持たせることができ、頭の形状にフィットして隙間なく衝撃吸収を行うことができる。
【0052】
[通気性能確保作用]
実施例1の保護帽子1では、各弾性球状体21の回転や移動が規制されていることで、この弾性球状体21の中心を通って貫通する貫通孔となる下側通気孔23aと上側通気孔23bが布部材11に対して直交する方向に向いた状態で保持される。
【0053】
そのため、例えば下布部材12側から流れる空気は、下布部材12を通過した後、隣接する弾性球状体21の間を通過するか、あるいは、下側通気孔23aから弾性球状体21の内部に入り込んで上側通気孔23bから排出される。そして、上布部材13を通過して流れる。
【0054】
このとき、弾性球状体21が第1紐状部材24及び第2紐状部材25によって連結されることで、移動したり、回転することはない。このため、隣接する弾性球状体21の間に所定の間隔が確保されると共に、下側通気孔23a及び上側通気孔23bの方向は規定される。そのため、弾性球状体21が一定方向を向くため、下布部材12から上布部材13へと流れる空気の流れを阻害することはなく、保護帽子1の側面部4の全面に渡って一定の通気性能を確保することができる。
【0055】
なお、上布部材13側から下布部材12側へも円滑に空気は流れるので、通気性能は確保される。
【0056】
次に、効果を説明する。
実施例1の衝撃吸収部材(衝撃吸収構造体)10にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0057】
(1) 外形形状が球状であり、外部から加わる外力の大きさと方向に応じて弾性変形する複数の弾性球状体21を、前記外力に従って変形可能なように剛性を低く抑えた軟結合構造(紐状部材)22を介して線状に集合させた衝撃吸収構造体(衝撃吸収列部材)20において、
前記弾性球状体21は、中心を通って貫通する貫通孔(下側通気孔23a,上側通気孔23b)を有し、
前記軟結合構造22は、線状に並んだ複数の前記弾性球状体21の一方の端部から他方の端部までを連結すると共に、各弾性球状体21の前記貫通孔23a,23bの貫通方向を平行に維持する紐状部材22を有し、
前記紐状部材22は、
前記弾性球状体21の前記貫通孔23a,23bに挿通されると共に、隣接する弾性球状体21間において、挿通方向が逆方向にされる第1紐状部材24と、
前記弾性球状体21の前記貫通孔23a,23bに挿通されると共に、挿通方向が前記第1紐状部材24の挿通方向と逆方向に設定され、且つ、線状に並んだ複数の前記弾性球状体21の両端部のそれぞれで前記第1紐状部材24と結合される第2紐状部材25と、
【0058】
を備えた構成とした。
このため、軟結合構造22を介して結合された各弾性球状体21の位置や姿勢を安定させ、全面に渡って品質を均一化することができる。
【0059】
(2) 外形形状が球状であり、外部から加わる外力の大きさと方向に応じて弾性変形する複数の弾性球状体21を、前記外力に従って変形可能なように剛性を低く抑えた軟結合構造(紐状部材)22を介して線状に集合させた衝撃吸収構造体(衝撃吸収列部材)20と、前記衝撃吸収構造体20を平面状に集合させた布部材11と、を備えた衝撃吸収モジュール10において、
【0060】
前記弾性球状体21は、中心を通って貫通する貫通孔(下側通気孔23a,上側通気孔23b)を有し、
前記軟結合構造22は、線状に並んだ複数の前記弾性球状体21の一方の端部から他方の端部までを連結すると共に、各弾性球状体21の前記貫通孔23a,23bの貫通方向を平行に維持する紐状部材22を有し、
前記紐状部材22は、
前記弾性球状体21の前記貫通孔23a,23bに挿通されると共に、隣接する弾性球状体21間において、挿通方向が逆方向にされる第1紐状部材24と、
前記弾性球状体21の前記貫通孔23a,23bに挿通されると共に、挿通方向が前記第1紐状部材24の挿通方向と逆方向に設定され、且つ、線状に並んだ複数の前記弾性球状体21の両端部のそれぞれで前記第1紐状部材24と結合される第2紐状部材25と、を備え、
前記布部材11は、
前記紐状部材22を介して線状に集合した複数の前記弾性球状体(衝撃吸収列部材)20を、前記貫通孔23a,23bの開口縁部が接する状態に載置すると共に、前記紐状部材22の両端が固定された下布部材12と、
前記下布部材12に載置された前記弾性球状体21を覆うと共に、前記弾性球状体21の周囲位置で前記下布部材12に固定される上布部材13と、
を備えた構成とした。
このため、軟結合構造22を介して結合された各弾性球状体21の位置や姿勢を安定させ、全面に渡って品質を均一化することができる。
【0061】
(3) 外形形状が球状であり、外部から加わる外力の大きさと方向に応じて弾性変形する複数の弾性球状体21を、前記外力に従って変形可能なように剛性を低く抑えた軟結合構造(紐状部材)22を介して線状に集合させた衝撃吸収構造体(衝撃吸収列部材)20を備えた保護帽子1において、
前記弾性球状体21は、中心を通って貫通する貫通孔(下側通気孔23a,上側通気孔23b)を有し、
前記軟結合構造22は、線状に並んだ複数の前記弾性球状体21の一方の端部から他方の端部までを連結すると共に、各弾性球状体21の前記貫通孔23a,23bの貫通方向を平行に維持する紐状部材22を有し、
前記紐状部材22は、
前記弾性球状体21の前記貫通孔23a,23bに挿通されると共に、隣接する弾性球状体21間において、挿通方向が逆方向にされる第1紐状部材24と、
前記弾性球状体21の前記貫通孔23a,23bに挿通されると共に、挿通方向が前記第1紐状部材24の挿通方向と逆方向に設定され、且つ、線状に並んだ複数の前記弾性球状体21の両端部のそれぞれで前記第1紐状部材24と結合される第2紐状部材25と、
を備えた構成とした。
このため、軟結合構造22を介して結合された各弾性球状体21の位置や姿勢を安定させ、全面に渡って品質を均一化することができる。
【0062】
(4) 前記紐状部材22を介して線状に集合した複数の前記弾性球状体21を、前記貫通孔23a,23bの開口縁部が接する状態に載置すると共に、前記紐状部材22の両端が固定された下布部材12と、
【0063】
前記下布部材12に載置された前記弾性球状体21を覆うと共に、前記弾性球状体21の周囲位置で前記下布部材12に固定される上布部材13と、を備えた衝撃吸収モジュール10を備え、
前記衝撃吸収モジュール10により、頭頂部を覆う頂天部3、又は、前記頂天部3の周囲を取り囲んで頭側部を覆う側面部4の少なくとも一方を形成する構成とした。
このため、衝撃吸収モジュール10を保護帽子1の材質として利用することで、無駄な材料費を削減すると共に製造工程の削減を図ることができ、製造コストの増大を抑えて製造性を向上することができる。
【0064】
以上、本発明の衝撃吸収構造体20、衝撃吸収モジュール10、保護帽子1を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0065】
実施例1では、弾性球状体21を連結する紐状部材22が、長さ方向に伸縮しにくい合成繊維から構成されているが、これに限らない。例えば、長さ方向に伸縮可能ないわゆるゴム紐のようなものであってもよい。この場合であっても、第1紐状部材と第2紐状部材を用いることで、各弾性球状体21の回転や移動を抑制することができる。
また、実施例1の衝撃吸収構造体20は、下布部材12と上布部材13の間に挟みこんで衝撃吸収モジュール10とし、この衝撃吸収モジュール10を用いて保護帽子1を形成しているが、これに限らない。実施例1の衝撃吸収構造体20を有する衝撃吸収モジュール10により、例えば手足に装着することで肘や膝等を外力から保護するサポータを形成してもよい。
【0066】
また、実施例1の布部材11は、通気性を有する綿等であるが、フェルト地のような不織布を用いてもよい。この布部材11に様々な素材を用いることで、デザイン性に優れると同時に、頭部に非常にフィットし、かぶり心地のよい保護帽子1とすることができる。
そして、実施例1の衝撃吸収モジュール10では、衝撃吸収構造体20を布部材に挟み込んで平面状に集合させているが、これに限らない。例えば、図7に示すように、弾性球状体21を貫通する糸30によって複数の線状の衝撃吸収構造体20を連結し、平面形状にしてもよい。
【0067】
さらに、衝撃吸収モジュール10の向きも、実施例1では、衝撃吸収列部材20の長さ方向が側面部4の周方向に沿うようになっているが、これに限らない。側面部4に対して衝撃吸収列部材20の長さ方向が縦方向になってもよいし、斜めに傾斜してしてもよい。衝撃吸収モジュール10の適用方向や大きさ等と適宜変更することで、様々な形の保護帽子1とすることができる。また、頂天部3を衝撃吸収モジュール10によって形成してもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 保護帽子
3 頂天部
4 側面部
10 衝撃吸収モジュール
11 布部材
12 下布部材
13 上布部材
20 衝撃吸収列部材(衝撃吸収構造体)
21 弾性球状体
22 紐状部材
23a 下側通気孔(貫通孔)
23b 上側通気孔(貫通孔)
24 第1紐状部材
25 第2紐状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外形形状が球状であり、外部から加わる外力の大きさと方向に応じて弾性変形する複数の弾性球状体を、前記外力に従って変形可能なように剛性を低く抑えた軟結合構造を介して線状に集合させた衝撃吸収構造体において、
前記弾性球状体は、中心を通って貫通する貫通孔を有し、
前記軟結合構造は、線状に並んだ複数の前記弾性球状体の一方の端部から他方の端部までを連結すると共に、各弾性球状体の前記貫通孔の貫通方向を平行に維持する紐状部材を有し、
前記紐状部材は、
前記弾性球状体の前記貫通孔に挿通されると共に、隣接する弾性球状体間において、挿通方向が逆方向にされる第1紐状部材と、
前記弾性球状体の前記貫通孔に挿通されると共に、挿通方向が前記第1紐状部材の挿通方向と逆方向に設定され、且つ、線状に並んだ複数の前記弾性球状体の両端部のそれぞれで前記第1紐状部材と結合される第2紐状部材と、
を備えたことを特徴とする衝撃吸収構造体。
【請求項2】
請求項1に記載された衝撃吸収構造体において、
前記紐状部材は、長さ方向に伸縮可能な弾力性を有することを特徴とする衝撃吸収構造体。
【請求項3】
外形形状が球状であり、外部から加わる外力の大きさと方向に応じて弾性変形する複数の弾性球状体を、前記外力に従って変形可能なように剛性を低く抑えた軟結合構造を介して線状に集合させた衝撃吸収構造体と、前記衝撃吸収構造体を平面状に集合させた布部材と、を備えた衝撃吸収モジュールにおいて、
前記弾性球状体は、中心を通って貫通する貫通孔を有し、
前記軟結合構造は、線状に並んだ複数の前記弾性球状体の一方の端部から他方の端部までを連結すると共に、各弾性球状体の前記貫通孔の貫通方向を平行に維持する紐状部材を有し、
前記紐状部材は、
前記弾性球状体の前記貫通孔に挿通されると共に、隣接する弾性球状体間において、挿通方向が逆方向にされる第1紐状部材と、
前記弾性球状体の前記貫通孔に挿通されると共に、挿通方向が前記第1紐状部材の挿通方向と逆方向に設定され、且つ、線状に並んだ複数の前記弾性球状体の両端部のそれぞれで前記第1紐状部材と締結される第2紐状部材と、を備え、
前記布部材は、
前記紐状部材を介して線状に集合した複数の前記弾性球状体を、前記貫通孔の開口縁部が接する状態に載置すると共に、前記紐状部材の両端が固定された下布部材と、
前記下布部材に載置された前記弾性球状体を覆うと共に、前記弾性球状体の周囲位置で前記下布部材に固定される上布部材と、
を備えたことを特徴とする衝撃吸収モジュール。
【請求項4】
外形形状が球状であり、外部から加わる外力の大きさと方向に応じて弾性変形する複数の弾性球状体を、前記外力に従って変形可能なように剛性を低く抑えた軟結合構造を介して線状に集合させた衝撃吸収構造体を備えた保護帽子において、
前記弾性球状体は、中心を通って貫通する貫通孔を有し、
前記軟結合構造は、線状に並んだ複数の前記弾性球状体の一方の端部から他方の端部までを連結すると共に、各弾性球状体の前記貫通孔の貫通方向を平行に維持する紐状部材を有し、
前記紐状部材は、
前記弾性球状体の前記貫通孔に挿通されると共に、隣接する弾性球状体間において、挿通方向が逆方向にされる第1紐状部材と、
前記弾性球状体の前記貫通孔に挿通されると共に、挿通方向が前記第1紐状部材の挿通方向と逆方向に設定され、且つ、線状に並んだ複数の前記弾性球状体の両端部のそれぞれで前記第1紐状部材と結合される第2紐状部材と、
を備えたことを特徴とする保護帽子。
【請求項5】
請求項4に記載された保護帽子において、
前記紐状部材を介して線状に集合した複数の前記弾性球状体を、前記貫通孔の開口縁部が接する状態に載置すると共に、前記紐状部材の両端が固定された下布部材と、
前記下布部材に載置された前記弾性球状体を覆うと共に、前記弾性球状体の周囲位置で前記下布部材に固定される上布部材と、を備えた衝撃吸収モジュールを備え、
前記衝撃吸収モジュールにより、頭頂部を覆う頂天部、又は、前記頂天部の周囲を取り囲んで頭側部を覆う側面部の少なくとも一方を形成することを特徴とする保護帽子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−57137(P2013−57137A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195647(P2011−195647)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(500125593)株式会社特殊衣料 (5)
【出願人】(591056927)一般財団法人日本自動車研究所 (26)
【Fターム(参考)】