説明

衣類乾燥機

【課題】衣類の乾燥用にヒートポンプを備えたものにおいて、乾燥速度を低下させることなく、消費電力量を低減することを可能とする。
【解決手段】乾燥運転の初期から中期においては、冷媒循環量を大きく設定、すなわち圧縮機の運転周波数を高く、蒸発器出入口温度差SHの目標値を「1」に設定することで、本来の熱交換、すなわち蒸発器における熱交換が蒸発器の全体で行われ、除湿能力を最大限に発揮するように制御を行う。そして、衣類からの水分蒸発量がピークを過ぎた中期から後半においては、衣類からの水分蒸発量が減ることから、蒸発器出入口温度差SHの目標値を「5」に切り替える(切替点T1参照)とともに、圧縮機の運転周波数を下げ、圧縮機からの吐出温度は初期から中期と同等に保ちつつ、蒸発器による除湿能力をやや低下させるとともに、蒸発器の温度を高めに制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣類の乾燥用にヒートポンプを備えた衣類乾燥機に関する。
【背景技術】
【0002】
衣類乾燥機において、衣類の乾燥用にヒートポンプを備えたものは、ヒータ式の熱を生成するものに比べて、乾燥性能が良好であり、エネルギーの省減に効果があるものとして注目されている。この種の衣類乾燥機は、次のような構成となっている。
【0003】
乾燥対象の衣類を収容する乾燥室内に連通する循環風路を設け、この循環風路内に、乾燥室内の空気を循環風路を通して循環させるための送風機と、ヒートポンプの蒸発器及び凝縮器を配設している。ヒートポンプは、冷媒を圧縮して吐出する圧縮機と、圧縮機から吐出された高温高圧のガス冷媒を放熱させて液化させるための凝縮器と、凝縮器を通った冷媒の流量を制御する流量制御手段と、液化した冷媒を気化させる蒸発器とを管で順に接続して冷凍サイクルを構成していて、圧縮機を駆動させることにより、冷媒を循環させるようになっている。そして、凝縮器で放出された熱により加熱された循環風路内の空気を乾燥室内に送り込み、そして衣類から水分を奪った空気を循環風路内の蒸発器において冷却することにより除湿し、除湿した空気を再び凝縮器で加熱して乾燥室に供給するということを繰り返すことにより、衣類を乾燥させるようにしている。
【0004】
ここで、ヒートポンプにおける上記流量制御手段としては、細管のキャピラリチューブを用いたものや、冷媒流量を制御可能な流量制御弁を用いたものがある。キャピラリチューブは、冷媒の流量を絞って、前後の圧力差を出すためのもので、冷媒流量の調整をすることはできない。このようなキャピラリチューブを用いたものにおいて、乾燥時の衣類のしわを少なくするために、圧縮機を、乾燥行程の開始時には最大能力(運転周波数を最大)で作動させるが、乾燥室(回転槽)内に送風される空気温度が上がるにしたがって能力を低下(運転周波数を低下)させて、乾燥室内に送風される空気温度が70℃以上にならないように制御することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このものでは、乾燥室内に送風される空気温度が70℃以上にならないようにすることを目的としており、蒸発器の除湿能力を積極的に制御することは行われていない。
【特許文献1】特開2004−358028号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、流量制御手段として流量制御弁を用いたものの制御の一例を図8を用いて説明する。図8において、(a)は圧縮機の運転周波数の変化と、流量制御弁の開度の変化を示している。(b)は圧縮機からの冷媒の吐出温度と、凝縮器の温度と、蒸発器の入口温度と、蒸発器の出口温度の変化を示している。(c)は衣類の乾燥率と、入力電力の変化を示している。
【0006】
乾燥運転の開始と同時に、循環風路内の循環用の送風機を駆動するとともに、ヒートポンプの圧縮機を駆動し、その圧縮機の運転周波数を上昇させる。このとき、流量制御弁の開度を90%とし、数分の後、蒸発器の出口の温度と蒸発器の入口の温度との差となる蒸発器出入口温度差(SH)の目標値が、例えば「1」(k)となるように(蒸発器出口温度−蒸発器入口温度が1(k))、流量制御弁の開度を徐々に絞っていく。これに伴い、圧縮機からの吐出温度及び凝縮器の温度が上昇し、循環用送風機の送風作用により、凝縮器で温められた空気が乾燥室内に入り、乾燥室内の衣類を加熱する。このとき、凝縮器の温度は予め高圧側の圧力に相関しており、規定の圧力まで、もしくは圧縮機の吐出温度が所定の上限値(例えば105℃)となるまでは、衣類の加熱を最大限に行うとともに、蒸発器による除湿能力を最大とすべく、圧縮機の運転周波数を最大(例えば、90Hz)として運転する。これ以降、圧縮機の吐出温度が上限値以上になることを抑えるべく、圧縮機の運転周波数を低減させる周波数低減制御を適宜行い、加熱と除湿能力が最大となるような蒸発器出入口温度差(SH)を一定の目標値「1」となるように、流量制御弁及び圧縮機の制御を行う。
【0007】
上記した従来の制御方法では次のような欠点がある。乾燥運転の後半においては衣類の乾燥率が高くなり、衣類からの水分蒸発量が少なくなるにもかかわらず、不必要に除湿能力を高めていたため、エネルギーを無駄に使っているという欠点があった。また、蒸発器の温度が低いため、循環風路を通る空気も蒸発器において温度低下が大きい。このため、凝縮器での加熱の熱が有効に使われず、この点でも無駄に熱エネルギーが使われることになり、場合によっては乾燥室へ送り込まれる空気温度の低下が生じてしまうこともあり、衣類の温度が十分に高くなく、乾燥時間も長くなってしまう場合があった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、衣類の乾燥用にヒートポンプを備えたものにおいて、乾燥速度を低下させることなく、消費電力量を低減することが可能な衣類乾燥機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明の衣類乾燥機は、乾燥対象の衣類を収容する乾燥室と、この乾燥室内に連通する循環風路と、前記乾燥室内の空気を前記循環風路を通して循環させる送風手段と、圧縮機、凝縮器、冷媒の流量を制御可能な流量制御手段、蒸発器を順に接続することにより冷凍サイクルを構成し、これらのうち前記凝縮器及び前記蒸発器を前記循環風路中に配設して構成されたヒートポンプと、前記圧縮機の吐出温度を検知する圧縮機吐出温度検知手段または前記凝縮器の温度を検知する凝縮器温度検知手段と、前記蒸発器の入口温度を検知する蒸発器入口温度検知手段と、前記蒸発器の出口温度を検知する蒸発器出口温度検知手段と、乾燥運転において前記圧縮機吐出温度検知手段の検知温度または前記凝縮器温度検知手段の検知温度が上限値以上になることに基づき前記圧縮機の運転周波数を下げるように制御し、かつ前記蒸発器出口温度検知手段の検知温度と前記蒸発器入口温度検知手段の検知温度との差となる蒸発器出入口温度差が目標値となるように前記流量制御手段を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記蒸発器出入口温度差の目標値を、乾燥運転の中で切り替えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
例えば、乾燥運転の初期から中期においては、冷媒循環量を大きく設定、すなわち圧縮機の運転周波数を高く、蒸発器出入口温度差の目標値を極力小さく設定することで、本来の熱交換、すなわち蒸発器における熱交換が蒸発器の全体で行われ、除湿能力を最大限に発揮するように制御を行う。そして、衣類からの水分蒸発量がピークを過ぎた中期から後半においては、衣類からの水分蒸発量が減ることから、上記蒸発器出入口温度差の目標値を大きくするように切り替えるとともに、圧縮機の運転周波数を下げ、圧縮機からの吐出温度は初期から中期と同等に保ちつつ、蒸発器による除湿能力をやや低下させるとともに、蒸発器の温度を高めに制御する。これにより、衣類からの水分の蒸発にエネルギーを使用し、除湿でのエネルギー使用量を減らすことで、全体としての使用エネルギーを低下させ、乾燥速度を低下させることなく、消費電力量を低減することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(第1の実施形態)
以下、本発明をドラム式の洗濯乾燥機に適用した第1の実施形態について図1〜図5を参照して説明する。図2は、ドラム式洗濯乾燥機の全体構成について縦断側面を示すものである。この図2において、外箱1の内部には水槽2を配設し、その水槽2の内部には回転槽(ドラム)3を配設している。後述するように、この回転槽3の内部が乾燥室として機能する。
【0012】
上記水槽2及び回転槽3は、共に一端部が閉塞された円筒状を成しており、前側(図中、左側)の端面部にそれぞれの開口部4,5を有している。このうち、回転槽3の開口部5は洗濯物(衣類)出し入れ用であり、その開口部5を水槽2の開口部4が囲繞している。水槽2の開口部4は、外箱1の前面部に形成した洗濯物出し入れ用の開口部6にベローズ7で連ねており、外箱1の開口部6には扉8を開閉可能に設けている。
【0013】
回転槽3には、開口部5の周囲に例えば液体封入形の回転バランサ9を設け、周側部(胴部)の略全域に孔10を形成している(一部のみ図示)。この孔10は、洗濯時及び脱水時に通水孔として機能し、乾燥時には通風孔として機能するものである。回転槽3の周側部の内面には複数のバッフル11を突設しており、回転槽3の後側の端面部には、その中心と同心となる環状配置により複数の温風導入口12を形成している。
【0014】
上記水槽2には、前側の端面部の上部(前記開口部4より上方の部分)に温風出口13を形成し、後側の端面部の上部に、上記温風導入口12の回転軌跡に対向させて温風入口14を形成している。水槽2の底部の最後部には排水口15を形成しており、この排水口15に水槽2外で排水弁16を接続し、更に、排水弁16に排水ホース17を接続して、これらにより水槽2内の水を機外に排出できるようにしている。
【0015】
水槽2の背面部にはモータ18を取り付けており、これの回転軸19を水槽2内に突入させて、その先端部に、前記回転槽3の後側の端面部の中心部を取り付けている。それにより、回転槽3を水槽2に同軸状で回転可能に支持している。すなわち、回転槽3をモータ18により直接回転駆動する構成で、モータ18によるダイレクトドライブ方式を採用している。
【0016】
尚、水槽2は、複数のサスペンション20(1つのみ図示)により前記外箱1に弾性支持しており、その支持形態は、水槽2の軸方向が前後となる横軸状で、しかも前上がりの傾斜状であり、従って、この水槽2に上述のように支持された回転槽3も、同形態となっている。モータ18は、この場合アウターロータ形のブラシレスDCモータで構成されており、回転槽3を回転させる駆動手段として機能するようになっている。
【0017】
水槽2の下方(外箱1の底面上)には、台板21を配置し、この台板21上に通風ダクト22を配置している。この通風ダクト22は、前端部の上部に吸風口23を有しており、この吸風口23に、前記水槽2の温風出口13を還風ダクト24及び接続ホース25を介して接続している。尚、還風ダクト24は前記水槽2の開口部4の左側を迂回するように配管している。
【0018】
通風ダクト22の後端部には循環用送風機26のケーシング27を連設しており、このケーシング27の出口部28を、接続ホース29及び給風ダクト30を介して、前記水槽2の温風入口14に接続している。尚、給風ダクト30は前記モータ18の左側を迂回するように配管している。ここで、還風ダクト24、接続ホース25、通風ダクト22、循環用送風機26のケーシング27、接続ホース29、給風ダクト30により、前記水槽2の温風出口13と温風入口14とを接続して循環風路31が設けられている。この循環風路31は、水槽2内と連通しているとともに、乾燥室を構成する回転槽3内とも連通している。尚、前記循環用送風機26は、この場合、遠心ファンであり、ケーシング27の内部に遠心羽根車32を有しており、その遠心羽根車32を回転させるモータ33をケーシング27の外部に有している。循環用送風機26は、乾燥室を構成する回転槽3内の空気を循環風路31を通して循環させる送風手段を構成している。
【0019】
そして、循環風路31中、通風ダクト22の内部には、前部に蒸発器34を配置しており、後部に凝縮器35を配置している。これらの蒸発器34及び凝縮器35は、いずれも詳しくは図示しないが、冷媒流通パイプに伝熱フィンを細かいピッチで多数配設して成るフィン付きチューブ形のもので、熱交換性に優れており、それらの伝熱フィンの各間を、前記通風ダクト22を後述のように流れる風が通るようになっている。前記蒸発器34及び凝縮器35は、図3に示す圧縮機36、及び流量制御手段を構成する流量制御弁(特には電子式の制御弁)37と共にヒートポンプ38を構成するもので、このヒートポンプ38においては、接続パイプ39によって、圧縮機36、凝縮器35、流量制御弁37、蒸発器34の順にこれらをサイクル接続しており(冷凍サイクル)、圧縮機36が作動することによって冷媒を循環させるようになっている。
尚、外箱1の内上部には、洗濯乾燥機の制御に必要な電源系の制御部41及び表示系の制御部42と、水槽2内に給水するための給水弁43、給水ケース44、及び給水ホース45を配設している。
【0020】
そして、給風ダクト30内には第1の温度センサ46を配設し、通風ダクト22内において、蒸発器34の前方に位置させて第2の温度センサ47を配設している。このうち第1の温度センサ46は、乾燥運転において循環風路31から回転槽(乾燥室)3内へ供給される空気の温度、すなわち乾燥室の入口温度を検出する乾燥室入口温度検知手段を構成する。第2の温度センサ47は、乾燥運転において回転槽(乾燥室)3から循環風路31側へ出る空気の温度、すなわち乾燥室の出口温度を検出する乾燥室出口温度検知手段を構成する。
【0021】
図3において、圧縮機36の冷媒吐出口付近には、圧縮機36から吐出される冷媒の温度を検知する圧縮機吐出温度検知手段を構成する第3の温度センサ48を設けている。凝縮器35には、凝縮器を通る冷媒の温度を検知する凝縮器温度検知手段を構成する第4の温度センサ49を設けている。蒸発器34の冷媒入口付近には、蒸発器34へ入る冷媒の温度を検知する蒸発器入口温度検知手段を構成する第5の温度センサ50を設けている。蒸発器34の冷媒出口付近には、蒸発器34から出る冷媒の温度を検知する蒸発器出口温度検知手段を構成する第6の温度センサ51を設けている。
【0022】
図4は、制御装置53を中心に示す制御系の機能ブロック図である。この制御装置53は、前記制御部41,42を含むもので、例えばマイクロコンピュータで構成されており、洗濯乾燥機の運転全般を制御する制御手段として機能する。この制御装置53には、洗濯乾燥機の運転に係る操作を使用者がするための操作パネルなど操作部54から各種操作信号が入力されると共に、前記水槽2内の水位を検知するように設けた水位センサ55から水位検知信号が入力される。更に、制御装置53には、第1〜第6の温度センサ46〜51から各々の温度検知信号が入力されると共に、モータ18,圧縮機36の回転を夫々検知するように設けた回転センサ56,57から回転検知信号が入力される。
【0023】
制御装置53は、乾燥させるべき衣類の重量も検出するようになっており、その衣類重量の検出は、例えば衣類を収容した回転槽3を回転させたときの回転速度が所定の回転速度に達するまでの所要時間を測定し、その所要時間が長いほど、回転槽3の回転負荷が大きく収容された衣類の量が多いと判断するように行なう。そして、回転槽3の回転速度は、回転センサ56により検知されるモータ18の回転数、即ち回転槽3の回転数を制御装置53が所要時間で除する演算をすることにより算出される。
【0024】
しかして、制御装置53は、それらの入力並びにあらかじめ記憶された制御プログラムに基づいて、水槽2内(回転槽3内)に給水するように設けた給水弁43と、前記回転槽3駆動用のモータ18、水槽2内(回転槽3内)から排水するように設けた排水弁16、圧縮機36、循環用送風機26、及び流量制御弁37を、駆動回路58を介して駆動制御する。
【0025】
次に、上記構成の洗濯乾燥機の作用を述べる。
上記構成のものでは、操作部54により標準的な運転コースが選択されると、制御装置53は最初に洗濯(洗い及びすすぎ)運転を開始させる。この洗濯運転では、給水弁43により水槽2内に給水する動作が行われ、続いて、モータ18が作動されることにより、回転槽3が低速で正逆両方向に交互に回転される。
洗濯運転が終了すると、次に、脱水運転が開始される。この脱水運転では、水槽2内の水を排出した後、回転槽3を高速で一方向に回転させる動作が行われる。これにより、回転槽3内の衣類(洗濯物)は遠心脱水される。
【0026】
脱水運転が終了すると、次に、乾燥運転に移行する。この乾燥運転の開始に先立って、まず衣類の重量検出を行い、後述する蒸発器出入口温度差SHの目標値の切り替えタイミングを決定する。図5には、衣類重量と、蒸発器出入口温度差SHの目標値の切り替えタイミングとの関係を示している。この場合、衣類重量が多量の場合には、蒸発器出入口温度差SHの目標値の切り替えタイミングは乾燥運転開始後80分後、衣類重量が中量(ふつう)の場合には、SHの目標値の切り替えタイミングは乾燥運転開始後60分後、衣類重量が少量の場合には、SHの目標値の切り替えタイミングは乾燥運転開始後40分後とする。この場合、衣類重量の検出時間は、乾燥運転の運転時間には入っていない。本実施形態では、衣類重量が中量(ふつう)で、SHの目標値の切り替えタイミングは乾燥運転開始後60分後とする。尚、衣類の重量検出は、洗濯運転の開始前に行い、その情報を用いてもよい。
【0027】
衣類重量の検出後、乾燥運転を開始する。乾燥運転はモータ18により回転槽3を低速で正逆両方向に回転させつつ、循環用送風機26のモータ33を作動させる。すると、遠心羽根車32の送風作用により、図2に矢印Aで示すように、水槽2内の空気が、温風出口13から循環風路31の環風ダクト24及び接続ホース25を経て通風ダクト22内に流入する。
【0028】
またこのときに、ヒートポンプ38の圧縮機36の作動が開始される。この圧縮機36の作動により、冷媒が圧縮されて高温高圧の冷媒(気体)となり、その高温高圧の冷媒が凝縮器35に流れて、通風ダクト22内の空気と熱交換する。その結果、通風ダクト22内の空気が加熱され、反対に、冷媒の温度は低下して液化される。この液化された冷媒が、次に、流量制御弁37を通過して減圧された後、蒸発器34に流入し、気化する。それにより、蒸発器34は通風ダクト22内の空気を冷却する。そして、蒸発器34を通過した冷媒は圧縮機36に戻る。
【0029】
これらにより、前記水槽2内から通風ダクト22内に流入した空気は、蒸発器34で冷却されて除湿され、その後に凝縮器35で加熱されて温風化される。そして、その温風が循環用送風機26のケーシング27、接続ホース29、給風ダクト30を経て、温風入口14から水槽2内に供給され、さらに、温風導入口12から回転槽3内に供給される。回転槽3内に供給された温風は衣類の水分を奪った後、前記温風出口13から環風ダクト24及び接続ホース25を経て通風ダクト22内に流入する。このようにして、蒸発器34と凝縮器35を配置した通風ダクト22と回転槽3との間を空気が循環することにより、回転槽3内の衣類が漸次乾燥される。従って、この場合、回転槽3内が乾燥室として機能する。
【0030】
ここで、本実施形態の乾燥運転におけるヒートポンプ38の制御例について、図1の特性図を参照して説明する。図1において、(a)は圧縮機36の運転周波数の変化と、流量制御弁37の開度の変化を示している。(b)は圧縮機36からの冷媒の吐出温度(第3の温度センサ48の検知温度)と、凝縮器35の温度(第4の温度センサ49の検知温度)と、蒸発器34の入口温度(第5の温度センサ50の検知温度)と、蒸発器34の出口温度(第6の温度センサ51の検知温度)の変化を示している。(c)は衣類の乾燥率と、入力電力の変化を示している。そして、(d)は衣類の水分蒸発量の変化を示している。
【0031】
乾燥運転の開始時には、従来の図8と同様に、圧縮機36の運転周波数を例えば90Hzまで上昇させる。このとき、流量制御弁の開度を90%とし、数分の後、蒸発器34の出口温度と蒸発器34の入口温度との差となる蒸発器出入口温度差SHの目標値が、例えば「1」(k)となるように、流量制御弁37の開度を徐々に絞っていく。これに伴い、圧縮機36からの吐出温度及び凝縮器35の温度が上昇し、循環用送風機26の送風作用により、凝縮器35で温められた空気が回転槽3内に入り、回転槽3内の衣類を加熱する。このとき、圧縮機36の吐出温度が所定の上限値(例えば105℃)となるまでは、衣類の加熱を最大限に行うとともに、蒸発器34による除湿能力を最大とすべく、圧縮機36の運転周波数を最大(例えば、90Hz)として運転する。そして、圧縮機36の吐出温度が上限値以上になることを抑えるべく、圧縮機36の運転周波数を低減させる周波数低減制御を適宜行う。
【0032】
そして、制御装置53は、乾燥運転開始後60分後に、上記蒸発器出入口温度差SHの目標値を「1」から「5」に切り替える(図1の切替点T1参照)。これに応じて、流量制御弁37は、開度を小さくして絞りを進行させる。これに伴い、圧縮機36からの吐出温度と凝縮器35の温度が上昇し、蒸発器34の入口温度が低下する。圧縮機36からの吐出温度が上限値(例えば105℃)を超えた場合には、圧縮機36の運転周波数を低下させる制御を行う。これに応じて、圧縮機36からの吐出温度及び凝縮器35の温度は共に低下し、蒸発器34の入口温度及び出口温度が共に上昇する。その結果、蒸発器出入口温度差SHも低下し、流量制御弁37によりさらに絞る制御を加えることで、蒸発器出入口温度差SHは目標値である「5」に近づくようになる。このような動作を数回繰り返すことにより、圧縮機36からの吐出温度は上限値よりやや低い温度に、また、蒸発器出入口温度差SHは目標値である「5」に至るようになる。
【0033】
このような制御を行うことにより、圧縮機36の運転周波数は90Hzから約50Hzに低減し、これに応じて消費電力(入力電力)も下がることから、省エネ性の高い運転を実現できる。乾燥運転後半での蒸発器出入口温度差SHの目標値は、乾燥運転初期の「1」より高くするように設定する。蒸発器34の出口温度が入口温度に比べて高くなる(蒸発器出入口温度差SHが大となる)ことにより、蒸発器34での冷媒の蒸発が確実に行われている状態での動作が確保される。蒸発器出入口温度差SHが低い場合には、冷媒が液体で圧縮機36に戻り易くなり、多量に冷媒が液体で圧縮機36に戻った場合には、圧縮工程で過剰な圧力が加わり、最悪の場合破損にいたる可能性がある。逆に蒸発器出入口温度差SHを大きくすることは、流量制御弁37の絞りを強くして前後の圧力差を大きくし、流れている冷媒の量も減ることから気化し易く、一層液体で圧縮機36に戻る可能性が減り、安全面では問題がない。反面、蒸発器34において、より早期に気化することになるので、蒸発器34の多くの部分を気化状態の冷媒が通ることになり、熱交換性能は低下する。
【0034】
蒸発器34は、除湿量が最大の場合に性能が達成できるように設計するのが通常であるから、除湿量が最大の乾燥初期から中期における行程では、最大の性能となるべく蒸発器出入口温度差SHは大きくしすぎないことが望ましい。一方、乾燥の中期から後期に至る行程では、衣類からの水分蒸発量は減少し、除湿性能は低くなっても問題はない。ただし、乾燥速度を落とさないためには、回転槽3(乾燥室)に吹き込む空気の温度を高く保ち、衣類の温度を所定温度以上として、衣類からの水蒸気の発生を低下させないことが肝要であり、空気温度に影響する凝縮器35全体の平均温度を上げることと、蒸発器34の温度を高めに保ち、空気温度の低下を少なくすることが望ましい。凝縮器35全体の温度は、凝縮器35内の凝縮ポイントを検出する凝縮器温度〜圧縮機36の吐出温度によって加熱の状態が決まるので、圧縮機36の吐出温度を高く保つことは、回転槽3内への吹き込み温度を高く保つことにつながる。また、蒸発器34の温度は圧縮機36の運転周波数の低下に伴って上昇するので、周囲の空気温度を低下させる作用は少ない。
【0035】
以上説明したように、上記した実施形態においては、乾燥運転の初期から中期(衣類からの水分蒸発量がピークを過ぎたあたりまで)においては、冷媒循環量を大きく設定、すなわち圧縮機36の運転周波数を高く、蒸発器出入口温度差SHの目標値を極力小さく設定することで、本来の熱交換、すなわち蒸発器34における熱交換が蒸発器34の全体で行われ、除湿能力を最大限に発揮するように制御を行う。そして、衣類からの水分蒸発量がピークを過ぎた中期から後半においては、衣類からの水分蒸発量が減ることから、上記蒸発器出入口温度差SHの目標値を大きくするように切り替えるとともに、圧縮機36の運転周波数を下げ、圧縮機36からの吐出温度は初期から中期と同等に保ちつつ、蒸発器34による除湿能力をやや低下させるとともに、蒸発器34の温度を高めに制御する。これにより、衣類からの水分の蒸発にエネルギーを使用し、除湿でのエネルギー使用量を減らすことで、全体としての使用エネルギーを低下させ、乾燥速度を低下させることなく、消費電力量を低減することが可能になる。
【0036】
上記した第1の実施形態においては、圧縮機36の吐出温度(第3の温度センサ48の検知温度)が上限値以上となることに基づき圧縮機36の運転周波数を低下させる制御を行う構成としたが、凝縮器35の温度(第4の温度センサ49の検知温度)が予め設定された上限値以上となることに基づき圧縮機36の運転周波数を低下させる制御を行う構成としても良い。
【0037】
(第2の実施形態)
図6は本発明の第2の実施形態を示したものであり、この第2の実施形態は、上記した第1の実施形態とは次の点が異なっている。衣類からの水分の蒸発は、衣類の温度に起因するため、衣類周囲の温度上昇に伴い進行する。そこで、この第2の実施形態では、蒸発器出入口温度差SHの目標値を「1」から「5」に切り替える切替時期を、圧縮機36からの吐出温度(第3の温度センサ48による検知温度)に基づき決定するようにしたものである。具体的には、制御装置53は、蒸発器出入口温度差SHの目標値を「1」から「5」への切り替えを、圧縮機36からの吐出温度(第3の温度センサ48による検知温度)が所定温度である例えば上限値(例えば105℃)に到達後(図6のT2参照)、予め設定された所定時間T3経過後に行うようにした(切替点T1参照)。
【0038】
このような第2の実施形態においても第1の実施形態と同様な作用効果を得ることができる。この第2の実施形態において、圧縮機36からの吐出温度(第3の温度センサ48による検知温度)に代えて、凝縮器35の温度(第4の温度センサ49による検知温度)が予め設定された所定温度に到達後、予め設定された所定時間経過後に、蒸発器出入口温度差SHの目標値を「1」から「5」に切り替えるようにしてもよい。
【0039】
(第3の実施形態)
図7は本発明の第3の実施形態を示したものであり、この第3の実施形態は、上記した第1及び第2の実施形態とは次の点が異なっている。この第3の実施形態は、蒸発器出入口温度差SHの目標値を「1」から「5」に切り替える切替時期を、衣類の乾燥具合に基づいて決定するものである。回転槽3(乾燥室)の入口温度(第1の温度センサ46による検知温度)と、回転槽3(乾燥室)の出口温度(第2の温度センサ47による検知温度)を検知し、その温度差である乾燥室出入口温度差(乾燥室入口温度−乾燥室出口温度)を検出することで、衣類の乾燥具合を推測できる。乾燥運転の初期には、回転槽3内に供給される空気の熱量が衣類を加熱するとともに、水分の気化に使われる量が多く、回転槽3の出口温度の上昇が少ない。そして、衣類の乾燥が進み、水分の気化が少なくなることに伴い、回転槽3の出口温度の上昇が大きくなる傾向がある。そこで、本実施形態においては、乾燥室出入口温度差を検出し、その温度差が上昇から下降に転じる点、すなわちピーク値(図7の点P参照)を検出し、そのピーク値を検出した時点T4から所定時間T5後に、蒸発器出入口温度差SHの目標値を「1」から「5」に切り替えるようにした(切替点T1参照)。
【0040】
なお、ピーク値の検出は次のようにして行う。例えば所定時間毎(30秒間隔)に乾燥室出入口温度差を検出し、2回続けて前回よりも低い値となった時点を下降に転じた点とし、そこから1回分遡った時点をピーク値とする。
【0041】
このような第3の実施形態においても、第1の実施形態と同様な作用効果を得ることができる。この第3の実施形態においては、乾燥室出入口温度差のピーク値を検出した時点から所定時間後に、蒸発器出入口温度差SHの目標値を切り替えるようにしたが、これに代えて、乾燥室出入口温度差のピーク値を検出してから、そのピーク値から所定温度低下後に、蒸発器出入口温度差SHの目標値を切り替えるようにすることもできる。
【0042】
(その他の実施形態)
本発明は、上記した実施形態にのみ限定されるものではなく、次のように変形または拡張できる。
本発明は、洗濯と乾燥の両機能を有する洗濯乾燥機に限られず、乾燥機能のみを有する衣類乾燥機にも適用できる。また、回転槽3(ドラム)を横軸状に配設した横軸式に限られず、有底円筒状の回転槽を縦軸状に有する縦軸式のものにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す特性図で、(a)は圧縮機の運転周波数と流量制御弁の開度の変化を示す図、(b)は圧縮機からの冷媒の吐出温度と、凝縮器の温度と、蒸発器の入口温度と、蒸発器の出口温度の変化を示す図、(c)は衣類の乾燥率と入力電力の変化を示す図、(d)は衣類の水分蒸発量の変化を示す図
【図2】洗濯乾燥機の縦断側面図
【図3】ヒートポンプのサイクル構成図
【図4】制御系の機能ブロック図
【図5】衣類重量と、蒸発器出入口温度差SHの目標値の切り替えタイミングとの関係を示す図
【図6】本発明の第2の実施形態を示す図1相当図
【図7】本発明の第3の実施形態を示す特性図で、(a)〜(d)は図1の(a)〜(d)相当図、(e)は乾燥室入口温度と、乾燥室出口温度と、乾燥室出入口温度差の変化を示す図
【図8】従来例を示す特性図で、(a)〜(c)は図1の(a)〜(c)相当図
【符号の説明】
【0044】
図面中、2は水槽、3は回転槽(乾燥室)、18はモータ、26は循環用送風機(送風手段)、31は循環風路、34は蒸発器、35は凝縮器、36は圧縮機、37は流量制御弁(流量制御手段)、38はヒートポンプ、46は第1の温度センサ(乾燥室入口温度検知手段)、47は第2の温度センサ(乾燥室出口温度検知手段)、48は第3の温度センサ(圧縮機吐出温度検知手段)、49は第4の温度センサ(凝縮器温度検知手段)、50は第5の温度センサ(蒸発器入口温度検知手段)、51は第6の温度センサ(蒸発器出口温度検知手段)、53は制御装置(制御手段)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥対象の衣類を収容する乾燥室と、
この乾燥室内に連通する循環風路と、
前記乾燥室内の空気を前記循環風路を通して循環させる送風手段と、
圧縮機、凝縮器、冷媒の流量を制御可能な流量制御手段、蒸発器を順に接続することにより冷凍サイクルを構成し、これらのうち前記凝縮器及び前記蒸発器を前記循環風路中に配設して構成されたヒートポンプと、
前記圧縮機の吐出温度を検知する圧縮機吐出温度検知手段または前記凝縮器の温度を検知する凝縮器温度検知手段と、
前記蒸発器の入口温度を検知する蒸発器入口温度検知手段と、
前記蒸発器の出口温度を検知する蒸発器出口温度検知手段と、
乾燥運転において前記圧縮機吐出温度検知手段の検知温度または前記凝縮器温度検知手段の検知温度が上限値以上になることに基づき前記圧縮機の運転周波数を下げるように制御し、かつ前記蒸発器出口温度検知手段の検知温度と前記蒸発器入口温度検知手段の検知温度との差となる蒸発器出入口温度差が目標値となるように前記流量制御手段を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記蒸発器出入口温度差の目標値を、乾燥運転の中で切り替えることを特徴とする衣類乾燥機。
【請求項2】
前記制御手段は、乾燥運転において前記圧縮機吐出温度検知手段の検知温度または前記凝縮器温度検知手段の検知温度が所定温度に到達後、所定時間経過後に、前記蒸発器出入口温度差の目標値の切り替えを行うことを特徴とする請求項1記載の衣類乾燥機。
【請求項3】
前記乾燥室の出口温度を検知する乾燥室出口温度検知手段と前記乾燥室の入口温度を検知する乾燥室入口温度検知手段とを備え、
前記制御手段は、乾燥運転において前記乾燥室出口温度検知手段の検知温度と前記乾燥室入口温度検知手段の検知温度との差のピーク値を検知した時点から所定時間経過後、または前記ピーク値から所定温度低下後に、前記蒸発器出入口温度差の目標値の切り替えを行うことを特徴とする請求項1記載の衣類乾燥機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−61163(P2009−61163A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232726(P2007−232726)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(502285664)東芝コンシューマエレクトロニクス・ホールディングス株式会社 (2,480)
【出願人】(503376518)東芝ホームアプライアンス株式会社 (2,436)
【Fターム(参考)】