説明

表面測定プローブ

表面測定プローブのドリフトを判定する装置および方法。この表面測定プローブは、ハウジングと、表面接触スタイラスと、スタイラスを振動させる振動発生器と、スタイラスの振動の変化に関係したパラメータを決定する感知デバイスと、パラメータとしきい値との関係を判定する比較器とを有する。スタイラスが表面と接触していないときにパラメータの読みが読み取られ、表面に触れたときの遷移時間よりも有意に長い時間tにわたってこのパラメータの読みが平均される。このパラメータの読みの平均が基準パラメータと比較される。この比較が、パラメータの有意のドリフトがあったかどうかを判定するために使用される。このようにして、温度変化に起因したドリフトが補正される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面測定プローブ(surface measurement probe)に関する。具体的には本発明は、電気信号を振動に変換し、それによってプローブ(probe)のスタイラス(stylus)を振動させることができる変換器を有するプローブに関する。スタイラスが表面と接触しているかどうかの判定に、スタイラスの特性振動モードの変化が使用される。表面測定プローブは座標位置決め機械上に取り付けることができる。具体的には、それは、手動座標位置決め機械(CMM)、手動関節式測定アームなどの手動座標位置決め装置上に取り付けるのに適している。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、工作物接触スタイラスを備えた表面測定プローブを開示している。このプローブは、圧電性結晶をともに含む駆動変換器と発電変換器(generating transducer)とを備える。スタイラスに順に伝達される振動を発生させるため、駆動変換器に交流電流が供給される。スタイラスの振動は発電変換器を励振させる。スタイラスが表面と接触した場合、振動は低減する。この振動の低減が、発電変換器のパラメータの変化によって感知される。このようにして、スタイラスが表面と接触したときを決定することができる。
【0003】
特許文献2は、電極に挟まれた圧電素子を有する超音波ホーン(horn)を備えた接触プローブを開示している。この圧電素子はRF電気信号を超音波振動に変換する。このプローブは、測定対象の物体に接触させるフィーラ(feeler)を備える。ホーンは、圧電素子の超音波振動に従って超音波振動する。電極間の電流が監視され、その電流値の変化が、測定対象の物体とフィーラとの間の接触を指示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】英国特許出願第2006435号明細書
【特許文献2】米国特許第5247751号明細書
【特許文献3】英国特許出願第0608998号明細書
【特許文献4】英国特許出願第0609022号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様は、表面測定プローブのドリフトを判定する方法において、表面測定プローブが、ハウジングと、表面接触スタイラスと、スタイラスを振動させる振動発生器と、スタイラスの振動の変化に関係したパラメータを決定する感知デバイスと、パラメータとしきい値との関係を判定する比較器とを有する方法であって、以下のステップを適当な順序で含む方法を提供する:
スタイラスが表面と接触していないときにパラメータの読みを読み取るステップと、
表面に触れたときの遷移時間よりも有意に長い時間tにわたってパラメータの読みを平均するステップと、
パラメータの読みの平均を基準パラメータと比較するステップと、
この比較を使用して、パラメータの有意なドリフトがあったかどうかを判定するステップ。
【0006】
遷移時間は、スタイラスが自由空間および表面と接触したことによる遷移をプローブが検出するのにかかる時間である。
【0007】
この方法は、ドリフトによるパラメータの変化を、スタイラスと表面との接触によるパラメータの変化から区別することができるという利点を有する。
【0008】
前記パラメータは、振動発生器の駆動電圧と発生器を流れる電流との間の位相変化を含むことができる。あるいは、前記パラメータは以下のものを含むことができる:一定の電圧振幅で動作するシステム内の圧電素子を流れる電流の振幅、一定の電流振幅で動作するシステム内の圧電素子の両端間に現れる電圧の振幅、圧電素子によって放散される電力、または圧電素子に給電するシステムの力率(power factor)。
【0009】
振動発生器は1つまたは複数の圧電素子を含むことができる。
【0010】
好ましくはこの方法が、前記パラメータのドリフトを補償するステップを含む。このステップは、駆動周波数を調整することを含むことができる。あるいは、このステップは、しきい値を調整することを含むことができる。
【0011】
本発明の第2の態様は、
ハウジングと、
表面接触スタイラスと、
スタイラスを振動させる振動発生器と、
スタイラスの振動の変化に関係したパラメータを決定する感知デバイスと、
パラメータとしきい値との関係を判定する比較器と、
以下のステップを適当な順序で実行するプロセッサと
を含む表面測定プローブを提供する:
スタイラスが表面と接触していないときにパラメータの読みを読み取るステップと、
表面に触れたときの遷移時間よりも有意に長い時間tにわたってパラメータの読みを平均するステップと、
パラメータの読みの平均を基準パラメータと比較するステップと、
この比較を使用して、パラメータの有意のドリフトがあったかどうかを判定するステップ。
【0012】
前記プロセッサは、パラメータに対するドリフトの影響を補償するために、ドリフトの基準を使用して、振動発生器の振舞いを調整する追加のステップを実行することができる。
【0013】
本発明の第3の態様は、
ハウジングと、
表面接触スタイラスと、
スタイラスを振動させる振動発生器と、スタイラスの振動の変化に関係したパラメータを決定する手段と、
パラメータとしきい値との関係を判定する手段と
を含み、
熱の影響によるパラメータのドリフトを防ぐために電圧発生機が一定温度に保たれる
表面測定プローブを提供する。
【0014】
好ましい一実施形態では、振動発生器が1つまたは複数の圧電素子を含む。
【0015】
オーブンの中または温度制御された環境内に振動発生器を置くことによって、振動発生器を一定温度に保つことができる。これにより、鍵となる振動構成部品の温度を一定値(周囲温度または周囲温度よりも高い固定された温度)に維持することによって、振動特性のドリフトの影響を除去することができる。
【0016】
本発明の第3の態様は、表面測定プローブが信頼できる結果を提供しているかどうかを判定する方法において、表面測定プローブが、ハウジングと、表面接触スタイラスと、スタイラスを振動させる振動発生器と、スタイラスの振動の変化に関係したパラメータを決定する感知デバイスと、パラメータとしきい値との関係を判定する比較器とを有する方法であって、
プローブの加速度に敏感なプローブ変量を感知するステップと、
プローブ変量をしきい値と比較するステップと、
プローブ変量が前記しきい値を上回っている場合に出力を生成するステップと
を含む方法を提供する。
【0017】
それによってこの方法は、例えば落とされまたは打撃されたことによってしきい値よりも大きな加速度を受け取ったために、プローブが、信頼できる実行を停止したかどうかを判定する。
【0018】
前記変量は、スタイラスの振動の変化に関係したパラメータ、例えば振動発生器の駆動電圧と発生器を流れる電流との間の位相変化を含むことができる。前記変量は、振動発生器の電圧、またはプローブが経験した力を含むことができる。
【0019】
前記出力は視覚または音声信号とすることができる。前記出力を、通信リンクによってコントローラまたはPCに送ることができる。
【0020】
この方法は、出力があった場合に、例えば振動発生器の周波数掃引を実行することによってプローブをリセットするステップを含むことができる。この周波数掃引は、出力を受け取ると自動的に遂行されるようにすることができる。
【0021】
本発明の第4の態様は、
ハウジングと、
表面接触スタイラスと、
スタイラスを振動させる振動発生器と、
スタイラスの振動の変化に関係したパラメータを決定する感知デバイスと、
パラメータとしきい値との関係を判定する比較器と、
以下のステップを適当な順序で実行するプロセッサと
を含む表面測定プローブを提供する:
プローブの加速度に敏感なプローブ変量を感知するステップと、
プローブ変量をしきい値と比較するステップと、
プローブ変量がしきい値を上回っている場合に出力を生成するステップ。
【0022】
本発明の第5の態様は、
ハウジングと、
表面接触スタイラスと、
スタイラスを振動させる振動発生器と、
スタイラスの振動の変化に関係したパラメータを決定する感知デバイスと、
パラメータとしきい値との関係を判定する比較器と、
振動発生器に熱を供給する熱源と、
振動発生器が一定温度に保たれるように熱源を制御する温度制御器と
を含む表面測定プローブを提供する。
【0023】
前記熱源は冷却ならびに加熱を提供することができる。振動発生器の温度を測定するために温度変換器を提供することができる。前記温度変換器から前記温度制御器へ温度フィードバックを供給することができる。あるいは、温度制御器は前記パラメータ、例えば位相に関する入力を受け取ることができる。
【0024】
次に、添付図面を参照して本発明を例示的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のプローブの断面図である。
【図2】図1のプローブの内部機能を示す回路図である。
【図3】このプローブの駆動周波数に対する測定位相差を示すグラフである。
【図4】このプローブがさまざまな物質と接触しているときの駆動周波数に対する測定位相差を示すグラフである。
【図5】温度変化を示す、駆動周波数に対する測定位相差を示すグラフである。
【図6】温度補償ループを示す流れ図である。
【図7】圧電素子を1つだけ有する、図2に示された回路図の代替回路図である。
【図8】Ref In信号およびPiezo In信号からの位相カウントの決定を示す図である。
【図9】衝突が起こったかどうかの判定を説明する流れ図である。
【図10】第1の制御レジームの第1の実施形態の回路図である。
【図11】第1の制御レジームの第2の実施形態の回路図である。
【図12】第2の制御レジームの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は本発明のプローブを示す。プローブ10は、ハウジング12と、表面接触先端16を有するスタイラス14とを含む。このプローブは、カウンタマス(counter mass)やスタイラスアセンブリとともに発生器20の部分を構成する圧電スタック18と、駆動回路22とを備える。
【0027】
図2は、図1のプローブの内部機能を示す回路図である。圧電スタック18は2つの圧電素子PZ1およびPZ2を含む。この圧電スタックには、駆動回路によって供給されたac駆動電圧「Ref.sine」が接続され、これが圧電素子を振動させる。この場合、このac駆動電圧は、周波数合成器21の増幅された出力である。駆動電圧「Ref.sine」、ならびに圧電素子PZ1およびPZ2を流れる電流によって生成される電圧「Piezo sine」がそれぞれ、26および28においてサンプリングされる。これらの電圧はゼロ交差検出器19に供給され、ゼロ交差検出器19は、これらの正弦波信号を、方形波信号「Ref In」および「Piezo In」に変換し、これらの信号はFPGA17の入力に供給される。FPGAは、埋込みマイクロプロセッサコアを含み、その内部論理が、「Ref sine」と「Piezo sine」の位相差に直接に関係したクロックサイクルのカウント(count)を生成する。(図1は2つの圧電素子を示しているが、1つまたは複数の圧電素子を使用することができる。しかしながら、2つの圧電素子は、1つの圧電素子よりも感度が高いという利点を有する。)
【0028】
圧電スタックは、プローブのスタイラスに機械的に取り付けられ、それを振動させる。駆動電圧の周波数を変化させることによって、スタイラスが振動する周波数を変化させることができる。
【0029】
図7は、図2の圧電スタックPZ1、PZ2が単一の圧電素子PZに置き換えられた、前述の回路図の代替構成を示す。この構成では、反転された反転駆動信号と反転されていない非反転駆動信号の両方を生成するために、周波数合成器21の正弦波出力が差動増幅器60に供給される。反転信号S1は圧電素子PZの一端を駆動し、非反転信号S2は他端を駆動する。各信号は、最大正電圧と最大負電圧との間の範囲を有する。圧電スタックPZは分極され、これらの電圧は互いに極性が逆であるため、分極された圧電素子の両端が、加えられた正弦波運動の周波数で膨張および収縮する。したがって、運動の量は、それぞれの素子の一端が単極駆動信号によって駆動され、他端が接地された図2を参照して説明したスタックPZ1、PZ2と同様である。
【0030】
スタックPZ1、PZ2の場合と同様に、ゼロ交差検出器19に基準信号「Ref.sine」が入力される。単一の圧電素子PZの両端間に現れた差動信号が計測増幅器61に入力される。図2の場合と同様に、その出力「Piezo sine」がゼロ交差検出器19のもう一方の入力に入力される。これ以降の「Ref.sine」および「Piezo sine」の処理は図2の処理と同じである。
【0031】
単一の素子を使用する利点は、プローブをより安価に製造できること、およびその長さを短くすることができることである。欠点は、より多くの電子構成部品が必要なこと、および素子をプローブ本体から絶縁することが必要になると思われることである。
【0032】
図3は、駆動周波数に対する位相差のグラフを示す。電力が加えられたとき、またはプローブがリセットされたときに、駆動回路によって供給される駆動電圧の周波数を変化させることによって、圧電スタックの幅広い周波数掃引が実行される。これは、図3に示された曲線を生み出し、発生器の固有周波数を検出することを可能にする。図3に示されているように、最も大きな測定位相差はプローブの共振周波数で生じる。駆動電圧30の周波数は変曲点にセットされる。これは曲線の傾きの絶対値が最大になる位置32である。正の傾きと負の傾きの両方を変曲点として使用することができ、その結果、必然的にドリフト補償機構が変更される。共振ピークはほぼ対称なので、実現を簡単にするために正の傾きが選択される。
【0033】
振動しているスタイラスが表面と接触すると、スタック振動の特性振動モードが変化し、その結果、測定可能な位相差が生じる。図4は、スタイラスが空気34(すなわち自由空間)、プラスチシン(plasticine)36、プラスチック38および金属40と接触しているときに測定された位相変化を示す。この測定位相差がしきい値42と比較される。(駆動周波数fに対応する)測定位相差がしきい値42よりも小さいことは、プローブが表面と接触していることを示す。この場合、プローブが取り付けられた測定アームに、データ点を読み取るよう命令するプローブ出力が送られる。図4では、スタイラスがプラスチシン、金属およびプラスチックと接触しているときに、駆動周波数fに対応する測定位相差がしきい値42よりも小さい。
【0034】
測定位相差がしきい値よりも大きい場合、スタイラス先端は表面と接触していない。図4では、スタイラスが空気と接触しているときに、駆動周波数fに対応する測定位相差がしきい値よりも大きい。この場合、プローブ出力は使用禁止になる。
【0035】
次に、「Ref In」信号と「Piezo In」信号の間の位相差の計算をより詳細に説明する。FPGA(図2および7の参照符号17)は主刻時機構を含み、「Ref In」信号および「Piezo In」信号はこれと同期している。この主刻時機構は、これらの入力信号よりもはるかに高い周波数レート(frequency rate)で動く。
【0036】
図8は、「Ref In」および「Piezo In」信号、ならびにこれらから生成された位相カウントを示す。
【0037】
FPGAのカウンタは、「Ref In」信号の立上がりエッジにおいて0にセットされ、「Piezo In」信号の立下りエッジまで、主刻時機構のチック(tick)ごとに増分される。「Piezo In」信号の立下りエッジでカウントがラッチされる。このカウントは、クロックサイクルの位相差を表し、「位相カウント」と呼ばれる。この方法は、位相進みと位相遅れの両方を正確に測定することを可能にする。
【0038】
図8から分かるように、位相カウントは、基準信号と圧電入力信号との間の時間遅れ、すなわち位相差の測定値を与える。具体的には、図8は、共振周波数から離れた周波数で圧電スタックが駆動されたときの「Ref In」信号と「Piezo In」信号との間の位相関係を示す。「Ref In」および「Piezo In」信号はそれぞれ電圧(V)および電流(I)を示すため、本明細書では、測定された位相差もV/I位相差と呼ぶ。
【0039】
プローブの他の態様が、特許文献3および4により詳細に記載されている。これらの特許文献の内容は参照によって本明細書に組み込まれる。
【0040】
プローブの温度変化が、図3のグラフに示された曲線を変化させることがある。温度変化は例えば、環境、操作者によるプローブの取扱い、ならびに振動している圧電スタックおよびプローブの内部電子回路の発熱の影響によって引き起こされる。温度変化によって、プローブの機械的および/または電気的特性が変化する。温度変化が、圧電スタックの共振周波数に影響を及ぼすことがあり、それによって測定される位相変化に直接に影響を及ぼす可能性がある。固定されたしきいレベルに対して位相差が変化した場合、プローブが表面と常に接触しているように見えたり、またはプローブの感度が低下したりする可能性がある。図5は、(位相のずれを示す)駆動周波数に対するパルスカウント(pulse count)のグラフを示す。このグラフは、異なる温度に関して、共振の形状は維持されるが、周波数はオフセットされることを示している。
【0041】
温度変化によって引き起こされる測定位相差の変化はゆっくりとした変化であり、スタイラスと表面との接触による測定位相差の変化は急激な変化である。以下に説明するように、この変化速度の違いを使用して、測定位相差の変化が、温度ドリフトによるものであるのか、または表面との接触によるものであるのかを判定することができる。
【0042】
第1のステップでは、位相差が定期的に測定される。スタイラスが表面と接触していないときに決定された測定位相差が平均される。予想される位相差(すなわち最初に同調させたときの位相差)と上で決定された位相差(すなわち、表面と接触していないときに、表面検出測定サイクルに比べて長い期間にわたって平均された位相差)との間の差が決定される。これらの2つの値間の誤差が増大していることは長期ドリフトを示す。
【0043】
この方法によって、温度の影響を追跡し、励振周波数を増大または低減させることにより温度の影響を補償することができる。例えば、温度の上昇によって曲線は左へ移動し、その結果、測定位相差は増大する。駆動周波数を曲線の最も傾きが急な点に維持するため、駆動周波数が少しだけ低減される。温度の低下についてはこれとは逆になる。
【0044】
図6は、温度補償ループの流れ図を示す。これらのステップは、埋込みマイクロプロセッサコア内で実行される。第1のステップでは、時間tにわたって位相差の平均値が決定される50。この平均値は、スタイラスが表面と接触していないときの位相差の値に対して決定される。第2のステップでは、位相差が基準位相よりも大きいかどうかが判定される52。位相差が基準位相よりも大きい場合には、駆動周波数が低減される54。位相差が基準位相以下である場合には、位相差が基準位相よりも小さいかどうかが判定される56。位相差が基準位相よりも小さい場合、駆動周波数が増大される58。このループは、規則的な時間間隔、例えば60ms間隔で繰り返される。
【0045】
プローブの1回の測定サイクルは一般に約40μsである。温度補償ループには65,000回の測定が必要であるとする。したがって、これらの65,000回の測定の間(すなわち2.6秒間)、プローブが表面から離れたままの場合、温度補償が実行される。温度補償ループは1回の測定サイクルよりもはるかに長いため、表面との接触による位相差の変化は少しの影響しか持たない(プローブが表面と接触すると温度補償ループが停止するときには特にそうある)。プローブが表面との接触を緩めるとすぐに、温度補償ループは再開し、表面との接触による位相差の増大は低減する。この例は例示が目的であり、他の値を使用してもよい。
【0046】
1回の測定サイクルは一般に40μsなので、プローブが表面から離れていることを検出するのにかかる時間は、1回の測定サイクル、すなわち40μsに等しい。しかし、プローブが表面と接触していることを検出するのにかかる時間はこれよりも長く、連続した16回の測定サイクル、すなわち16×40μs=640μsである。連続した16回の測定サイクルを使用することによって、誤ったトリガの回数は低減する。(もちろん、測定サイクルの他の回数を使用してもよい。)
【0047】
駆動周波数を調整する代わりに、温度補償のために別のパラメータを調整してもよい。例えば、同調させた共振振動数にセットされた位相関係を維持するために、しきい値を変更することができる。例えば、しきい値を、位相差の長期値から4°のところに維持することができる。
【0048】
代替実施形態では、補償のために、ディジタルシステムの代わりにアナログシステムを配置することができる。温度変化によって引き起こされた電気特性の変化を補償するために、アナログ素子を、交換網を介して圧電スタックに並列または直列に接続することができる。これらの素子は、回路の成分値を変化させるために使用される可変の静電容量、インダクタンスおよび/または抵抗を有することができる。
【0049】
他の温度補償法は、ディジタル位相進み/遅れを使用して、位相変化を補償する。これは、長期ドリフトを数学的に補償することを含む。例えば、2°の位相変化に対しては、ドリフトを補償するために、タイマが、基準波に対して2°早くまたは遅く始動される。タイマは、基準波と測定された波との間の時間を測定する。
【0050】
オーブン(oven)などの温度制御された環境内に振動発生器を置くことにより振動発生器を一定温度(標的温度)に保つことによって、振動発生器を温度補償する必要性を排除することができる。これにより、鍵となる振動構成部品の温度を一定値(周囲温度または周囲温度よりも高い固定された温度)に維持することによって、振動特性のドリフトの影響を除去することができる。発生器に密接させた加熱または冷却素子、例えば電力抵抗器(電力を熱として安全に放散させることができる抵抗素子)またはペルチエ(Peltier)デバイスと、少なくとも2つの代替制御レジーム(regime)のうちの一方とを追加することによって、これを達成する簡単な手段を実現することができる。
【0051】
図10および11は、第1の制御レジームの2つの実施形態を示す。発生器80内に、温度変換器(temperature transducer)82および加熱素子が配置される。加熱素子は、図13の電力抵抗器84などのように加熱だけを提供してもよく、または図14のペルチエデバイス85などのように加熱と冷却の両方を提供してもよい。伝送線86は、温度変換器82から温度制御器88への温度フィードバックを供給する。温度制御器88は標的温度入力90を受け取り、標的温度90と温度フィードバック86の両方を使用して、要求92を生成する。この要求信号は、増幅器94を通して加熱素子(例えば電力抵抗器84またはペルチエデバイス85)に送られる。
【0052】
図12は第2の制御レジームを示す。温度制御器88に位相カウンタ誤差96が入力され、温度制御器88は要求92を出力する。要求信号92は、増幅器94を通して発生器86内のペルチエデバイス85に送られる。このレジームでは、温度変換器および温度フィードバックが不要である。
【0053】
第1の制御レジームは、鍵となる振動構成部品にサーミスタ、熱電対または他の温度変換器を取り付けることによって、温度が測定されることを要求する。次いで、測定される温度を標的温度付近に維持するために、加熱または冷却素子を流れる電流を制御するサーボ系を実現することができる。加熱素子が取り付けられている場合には、冷却能力を使用できないため、標的温度を、通常の周囲温度よりも高くしなければならないであろう。周囲温度よりも高い温度を選択することは、振動機構からの入熱、および周囲、例えばプローブを取り扱っている操作者からデバイスに入る熱量の変化、または作業環境の変化による入熱の変化を補償するために、加熱電流を増大または低減させることができることを意味する。ペルチエデバイスが使用される場合には、加熱または冷却が可能である。したがって、プローブが初期化されたときの温度を標的温度として選択することができ、このことは、プローブを予熱時間が不要であることを意味する。
【0054】
図10および11は第1の制御レジームの回路図を示す。V振動。
【0055】
第2の制御レジームは、サーミスタ等を使用して温度を測定する代わりに、位相カウントの測定を使用して、発生器の振動特性がドリフトしているかどうかを判定する。ドリフトは、(発生器の熱時定数と同じ程度の時定数を有する)低帯域幅電流制御ループ(low bandwidth current contol loop)を有することによって補償され、このループは、測定された位相カウントと標的位相カウントとの差を誤差信号、すなわち位相カウント誤差として使用して、位相カウントがあまりに大きすぎたり、または小さすぎたりしたときに発生器が冷えることを許し、位相カウントが小さすぎたり、または大きすぎたりしたときに発生器を暖める(この変化の意味は、共振のどちらの側にある動作点が選択されるのかによって決まる)。低帯域幅コントローラは、急激な変化を完全には補償することができず、緩やかな変化だけを完全に補償することができるため、このタイプのコントローラが使用されることが重要である。この場合、温度ドリフトの影響は緩やかであり、スタイラスと表面との接触の影響は急激である。そのため、低帯域幅コントローラは、温度によって誘導された変化を完全に補償することができるが、スタイラスの接触によって引き起こされた変化は、非常にゆっくりとした変化だけしか補償することができない。特定のしきい値よりも大きな位相カウントの変化は、スタイラスが表面に触れていることを示し、その場合、電流フィードバックは、この大きな位相カウント変化の前の値に維持される。このことは、プローブが一定の条件で使用されているときに、電流サーボ系が、熱ドリフトでないもの(実際にはスタイラスと表面の接触によるもの)を熱的に補正しようとすることに起因する熱暴走が起こらないことを保証する。安定動作を維持するこの方法は、直接に制御されている量が、関心の量(表面と接していないときの位相カウント)であり、発生器の温度制御は副次的な効果であり、安定な位相カウントを試み、維持するために温度が制御されているのではないという利点を有する。最も簡単には、加熱および冷却を、ペルチエデバイスを使用して第1の制御法と同じ方法で達成することができる。抵抗性加熱素子が使用される場合、温度の直接の基準はなく、そのため、プローブを同調させ、使用するためには、電力抵抗器にある時間の間ベース電流を流す予熱時間が必要となる。このように既知の熱慣性体(thermal inertia)に既知の電流を既知の時間の間流すことによって、プローブの動作温度範囲に含まれる(熱損失の変動に応じた)合理的に明確に定義された範囲だけ温度が上昇する。
【0056】
駆動周波数値を調整しないこれらの方法は、十分に長期のドリフトでは、駆動周波数がもはや曲線の最も急な部分に一致しないという欠点を有する。この場合、測定は信頼できなくなり、プローブを再び同調させなければならない。プローブは、プローブの再同調が必要であることを指示する信号を出力することができる。
【0057】
本発明は、プローブに対してある衝突(crash)保護を提供する。プローブが激しい打撃(hard knock)を受けた場合に、発生器が異なるモードで振動し始めることがある。この状態では、プローブから信頼できる測定値を得ることはできない。
【0058】
経験的な観察によれば、スタイラスが激しい打撃を受けたときには、非常に短い時間(例えばマイクロ秒)の間に、大きな位相変化が測定される。この変化は、物質に対する表面の通常の接触によって生み出される変化よりもはるかに大きく、温度ドリフトによって生み出される変化よりもはるかに速い。したがって、通常の測定プロセスによって、このような事象を検出することができる。
【0059】
さらに、実験によれば、打撃の後に周波数掃引を実行することによって、圧電素子を、それらの通常の振動モードに戻すことができる。この周波数掃引は、短い範囲にわたって、例えば予想される最も大きな傾きを含む周波数範囲にわたって掃引を実行することによって、非常に迅速に実行することができる。この短い掃引は1秒もかからないという利点を有し、それに対して、完全な掃引は一般に数秒かかるであろう。したがって、この短い掃引は、操作者がプローブを持ち上げるのに要する時間内に実行することができる。
【0060】
激しい打撃は、発生器の出力を監視することによって検出することができる。圧電素子に力が加えられると、短時間の間、大きな電圧が発生する。この電圧を監視することによって、打撃を感知し、報告することができる。
【0061】
あるいは、力の変化を測定する加速度計または他のデバイスを使用して、激しい打撃を検出し、報告することもできる。
【0062】
激しい打撃は、位相差を監視することによって検出することもできる。図9は、プローブが激しい打撃を受けたかどうかを判定するステップを示す流れ図を示す。この方法は、図2および7に示されたFPGA17の埋込みマイクロプロセッサ内で実行される。第1のステップでは、埋込みマイクロプロセッサが、以前の位相測定値と現在の位相測定値との間の位相差の変化を計算する。位相差の変化がしきい値と比較される74。位相差の変化がしきい値よりも小さい場合、衝突は起こっておらず、プローブは動作し続けることができる。位相差の変化がしきい値(すなわち通常動作における予想される最大位相差)よりも大きい場合には、衝突が起こっており、アクションがとられなければならない。このアクションは、衝突が起こったことを示す視覚出力、音声出力などの信号(例えば点灯)を含むことができる。あるいは、プローブは、通信リンクを介して外部コンピュータまたはコントローラに、測定値がもはや信頼できないことを示す出力を送信することができる。このようにして、使用者に対して衝突の警報が発せられ、使用者は、例えば電力を循環させまたは再同調を実行することによって、プローブを手動でリセットすることができる。
【0063】
あるいは、プローブが衝突を検出した場合に、プローブは、自体を自動的に再同調させることができる。完全な周波数掃引または短い掃引を実行するようにそれは設定されることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面測定プローブのドリフトを判定する方法において、前記表面測定プローブが、ハウジングと、表面接触スタイラスと、前記スタイラスを振動させる振動発生器と、前記スタイラスの振動の変化に関係したパラメータを決定する感知デバイスと、前記パラメータとしきい値との関係を判定する比較器とを有する方法であって、以下のステップを適当な順序で含むことを特徴とする方法:
前記スタイラスが表面と接触していないときに前記パラメータの読みを読み取るステップと、
表面に触れたときの遷移時間よりも有意に長い時間tにわたって前記パラメータの前記読みを平均するステップと、
前記パラメータの前記読みの前記平均を基準パラメータと比較するステップと、
前記比較を使用して、前記パラメータの有意なドリフトがあったかどうかを判定するステップ。
【請求項2】
前記パラメータは、前記振動発生器の駆動電圧と前記発生器を流れる電流との間の位相変化を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記パラメータのドリフトを補償するステップを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
このステップは駆動周波数を調整することを含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップは前記しきい値を調整することを含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記振動発生器は1つまたは複数の圧電素子を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記パラメータに対するドリフトの影響を補償するために、ドリフトの基準を使用して、前記振動発生器の振舞いを調整する追加のステップを含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
ハウジングと、
表面接触スタイラスと、
前記スタイラスを振動させる振動発生器と、
前記スタイラスの振動の変化に関係したパラメータを決定する感知デバイスと、
前記パラメータとしきい値との関係を判定する比較器と、
以下のステップを適当な順序で実行するプロセッサと
を含むことを特徴とする表面測定プローブ:
前記スタイラスが表面と接触していないときに前記パラメータの読みを読み取るステップと、
表面に触れたときの遷移時間よりも有意に長い時間tにわたって前記パラメータの前記読みを平均するステップと、
前記パラメータの前記読みの前記平均を基準パラメータと比較するステップと、
前記比較を使用して、前記パラメータの有意のドリフトがあったかどうかを判定するステップ。
【請求項9】
前記プロセッサは、前記パラメータに対するドリフトの影響を補償するために、ドリフトの基準を使用して、前記振動発生器の振舞いを調整する追加のステップを実行することを特徴とする請求項7に記載の表面測定プローブ。
【請求項10】
表面測定プローブが信頼できる結果を提供しているかどうかを判定する方法において、前記表面測定プローブが、ハウジングと、表面接触スタイラスと、前記スタイラスを振動させる振動発生器と、前記スタイラスの振動の変化に関係したパラメータを決定する感知デバイスと、前記パラメータとしきい値との関係を判定する比較器とを有する方法であって、
前記プローブの加速度に敏感なプローブ変量を感知することと、
前記プローブ変量をしきい値と比較することと、
前記プローブ変量が前記しきい値を上回っている場合に出力を生成することと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
前記変量は、前記スタイラスの振動の変化に関係した前記パラメータを含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記パラメータは、前記振動発生器の駆動電圧と前記発生器を流れる電流との間の位相変化を含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記プローブ変量は前記振動発生器の電圧を含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記プローブ変量は、前記プローブが経験した力を含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記出力は視覚または音声信号であることを特徴とする請求項10〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記出力は、通信リンクによってコントローラまたはPCに送られることを特徴とする請求項10〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
出力があった場合に前記プローブをリセットするステップを含むことを特徴とする請求項10〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記プローブは、前記振動発生器の周波数掃引を実行することによってリセットされることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記周波数掃引は、出力を受け取ると自動的に遂行されることを特徴とする請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
ハウジングと、
表面接触スタイラスと、
前記スタイラスを振動させる振動発生器と、
前記スタイラスの振動の変化に関係したパラメータを決定する感知デバイスと、
前記パラメータとしきい値との関係を判定する比較器と、
以下のステップを適当な順序で実行するプロセッサと
を含むことを特徴とする表面測定プローブ:
前記プローブの加速度に敏感なプローブ変量を感知するステップと、
前記プローブ変量をしきい値と比較するステップと、
前記プローブ変量が前記しきい値を上回っている場合に出力を生成するステップ。
【請求項21】
ハウジングと、
表面接触スタイラスと、
前記スタイラスを振動させる振動発生器と、
前記スタイラスの振動の変化に関係したパラメータを決定する感知デバイスと、
前記パラメータとしきい値との関係を判定する比較器と、
前記振動発生器に熱を供給する熱源と、
前記振動発生器が一定温度に保たれるように前記熱源を制御する温度制御器と
を含むことを特徴とする表面測定プローブ。
【請求項22】
前記熱源は冷却ならびに加熱を提供することを特徴とする請求項21に記載の表面測定プローブ。
【請求項23】
前記振動発生器の温度を測定するために温度変換器が提供されていることを特徴とする請求項21または22に記載の表面測定プローブ。
【請求項24】
前記温度変換器から前記温度制御器へ温度フィードバックが供給されることを特徴とする請求項23に記載の表面測定プローブ。
【請求項25】
前記温度制御器は前記パラメータに関する入力を受け取ることを特徴とする請求項21または22に記載の表面測定プローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2009−536335(P2009−536335A)
【公表日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−508473(P2009−508473)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【国際出願番号】PCT/GB2007/001667
【国際公開番号】WO2007/129075
【国際公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(391002306)レニショウ パブリック リミテッド カンパニー (166)
【氏名又は名称原語表記】RENISHAW PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】