説明

表面電位分布の測定方法及び装置

【課題】感光体の静電潜像を測定する場合、暗減衰の影響があるので時間をかけて測定を行うと正しい結果が得られない。感光体が電荷を保持できる時間は、暗室であってもせいぜい数十秒である。電位分布のある表面に電子ビームを照射すると、2次電子の発生の仕方に差が生ずることを利用して微小エリアの電位分布を知ることができる。一様帯電の感光体表面の露光により電位分布を生じさせたとき、相反則不軌による画像濃度むらが生ずることがあるが、これまでは精度不足のためそれを事前に確認する方法が無かった。
【解決手段】ビームスポットを遅延時間をもたせて複数回照射するとき、遅延時間の違いによって、潜像深さが変化することを利用し、1μsと1msの遅延時間の違いによる潜像径変化を測定することによって、濃度むらの大きい感光体と濃度むらの小さい感光体が識別できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真プロセスにおける静電潜像の測定に利用可能な表面電荷分布の測定装置、表面電位分布の測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、従来技術ではきわめて困難であった、誘電体の表面に生じている電荷分布あるいは電位分布をミクロンオーダーで高分解能の計測する装置を提供することを目的とし、特には感光体上の静電潜像を測定する装置を提供することを目的とする。
なお、表面電荷は、厳密には、電荷は試料内に空間的に散らばっていることは周知の通りである。このため、ここで述べる表面電荷とは、電荷分布状態が、厚さ方向に比べて、面内方向に大きく分布している状態を指すことにする。また、電荷は、電子だけでなく、イオンも含める。
また表面に導電部があり、導電部分に電圧が印加されて、それにより、試料表面あるいはその近傍が電位分布を生じている状態であってもよい。
【0003】
電子ビームによる静電潜像の観察方法としての提案はあるが(例えば、特許文献1 参照)、試料として、LSIチップや静電潜像を記憶・保持できる試料に限定されている。すなわち、暗減衰を生じる通常の感光体は、測定することができない。通常の誘電体は電荷を半永久的に保持することができるので、電荷分布を形成後、時間をかけて測定を行っても、測定結果に影響を与えることはない。しかしながら、感光体の場合は、抵抗値が無限大ではないので、電荷を長時間保持できず、暗減衰が生じ時間とともに表面電位が低下してしまう。感光体が電荷を保持できる時間は、暗室であってもせいぜい数十秒である。したがって、帯電・露光後に電子顕微鏡(SEM)内で観察しようとしても、その準備段階で静電潜像は消失してしまう。
そこで、我々は、暗減衰を有する感光体試料であっても静電潜像を測定する方式を提案した(例えば、特許文献2 参照。)。
【0004】
図15は2次電子による電荷分布・電位分布検出の原理モデルを示す図である。
同図において符号eは2次電子、Gは2次電子の飛翔軌跡、Pは入射電子の入射点のサンプル、Qは一様帯電の電荷密度、Sは検出器をそれぞれ示す。
試料表面に電荷分布があると、空間に表面電荷分布に応じた電界分布が形成される。このため、図示しない入射電子によって、発生した2次電子eはこの電界によって押し戻され、検出器Sに到達する量が減少する。
図示の例でいえば、電荷密度Qに一様負帯電した光導電体の試料表面にスポット的に光照射をし、局部的に電荷密度を下げた状態を作る。例えば位置P1あるいはP2に達した入射電子によって発生した2次電子e1、e2は、対極を構成する検出器Sの方向に引かれて飛翔軌跡G1、G2を描いて検出器Sに達する。これに対し、例えばP3で示す位置に入射電子が達した場合、発生する2次電子e3は、一旦は試料表面から飛び出すものの、この位置は相対的に逆向きの電界分布になっているため、試料面に向かう力が働き、飛翔軌跡G3で示すように逆戻りして試料面に吸収され、検出器Sに到達しなくなる。
したがって、電界強度が強い部分は暗く、弱い部分は明るくコントラストがつき、表面電荷分布に応じたコントラスト像を検出することができる。したがって、露光した場合には、露光部が黒、非露光部が白となり、これより形成された静電潜像を測定することができる。
【0005】
図16は相反則不軌を説明するための図である。
感光体には、感光体に与えられる総露光エネルギ密度は同じでも、光量と露光時間の関係が異なると潜像形成状態が異なる相反則不軌の現象がある。一般的に露光エネルギ定の場合、光量が強いほど(露光時間が短いほど)、感度(潜像深さ)が低下し、その結果として画像濃度の違いとして現れる。光量が強いとキャリアの再結合量が増大し、表面に到達するキャリア量が減少することが、原因と考えられている。これがマルチビーム走査光学系の場合、顕著に画像濃度むらとなってあらわれてくる。
【0006】
図17は画像形成装置の走査光学系として4chLDアレイを用いた例を示す図である。
LD1とLD2の境界領域は、ほぼ同時に露光されているため、短い時間で多くの光量が当たっている。これに対し、LD4とLD1の境界領域は、はじめLD4が露光した後に、LD1が露光することになるので、時間差を生じ、結果的に長い時間に弱い光量が当たったことになる。この場合、遅延時間の長い露光の方が潜像電位分布が深く形成され、トナーが付着しやすくなる。この結果、LD4とLD1の境界領域は、画像濃度が濃くなり画像濃度むらを生じることになる。
図18は感光体表面構造を拡大して示す図である。
相反則不軌現象は、感光体の特性値中でも、CGL膜厚やキャリア移動度、量子効率、キャリア発生量に依存する。このため、相反則不軌の起きにくい感光体、走査光学系を含めた作像システムを提供することが望ましいが、従来の計測手法では、空間分解能が数ミリメートル程度しか得られず、メカニズムを解析するのに十分な精度が得られなかった。
【0007】
【特許文献1】特開平03−49143号公報
【特許文献2】特開2003−295696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
1ビームスポットを十分に解像するミクロンオーダーの潜像計測を可能とすることで、マルチビーム走査光学系に対して、適切な感光体を提供することで、相反則不軌のおきにくい作像システムを構築し、画像濃度むらの現れない高画質な画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明では、表面電荷分布あるいは表面電位分布を有する試料に対して、荷電粒子ビームを照射し、該照射によって得られる検出信号により、試料の電荷分布あるいは電位分布の状態を測定する方法において、複数回露光させることによる潜像状態を測定する静電潜像の測定方法を特徴とする。
請求項2に記載の発明では、試料に対して、荷電粒子ビームを照射する手段と、該照射によって得られる荷電粒子の信号を検出する検出手段と、試料の電荷分布の状態を測定する測定手段と、前記試料を 露光させるための光学系手段と、複数回露光する手段と、を有する静電潜像の測定装置を特徴とする。
請求項3に記載の発明では、請求項2に記載の静電潜像の測定装置において、同一領域に複数回露光を重ね打ちする手段を有することを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明では、請求項2または3に記載の静電潜像の測定装置において、前記複数回露光は遅延時間をもたせ、該遅延時間に対する潜像深さ変化量を測定することを特徴とする。
請求項5に記載の発明では、請求項4に記載の静電潜像の測定装置において、前記遅延時間が10ns以上であることを特徴とする。
請求項6に記載の発明では、請求項2ないし5に記載の静電潜像の測定装置において、前記複数回露光する手段は複数の光源を有することを特徴とする。
請求項7に記載の発明では、請求項2に記載の静電潜像の測定装置において、前記光学系手段は露光のための光束を走査する走査手段を有することを特徴とする。
【0011】
請求項8に記載の発明では、請求項2に記載の静電潜像の測定装置において、前記試料の面に垂直入射する前記荷電粒子の速度ベクトルが反転するような領域発生させる手段を有することを特徴とする。
請求項9に記載の発明では、表面を一様に帯電された後、露光により静電潜像を形成する潜像担持体であって、前記露光に用いる光ビームの波長が680nm以下で、前記表面におけるビーム径をAとし、Aを60μm以下に設定し、2回露光のときの遅延時間を1μsと1msにしたときの1ビームスポット潜像の潜像径変化量をΔD(μm)とするとき、
|ΔD/A|<0.2
となることを特徴とする。
【0012】
請求項10に記載の発明では、表面を帯電電位Vd[V]に一様に帯電された後、露光により静電潜像を形成する潜像担持体であって、前記露光に用いる光ビームの波長が680nm以下で、前記表面におけるビーム径を60μm以下でかつ露光エネルギ密度が4mJ/m以下に設定し、2回露光のときの遅延時間を1μsと1msにしたときの1ビームスポット潜像の潜像深さ変化量をΔVpv(V)とするとき、
|ΔVpv/Vd|<0.1
となることを特徴とする。
請求項11に記載の発明では、請求項9または10に記載の潜像担持体と、光走査装置と、現像装置と、を少なくとも有し、前記潜像担持体の感光面に対して前記光走査装置で光走査を行うことにより、潜像を形成し、該潜像を直接または一旦転写材に転写してから、前記現像装置で現像して可視化する画像形成装置を特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、表面電荷分布あるいは表面電位分布を有する試料に対して、荷電粒子ビームを照射し、該照射によって得られる検出信号により、試料の電荷分布あるいは電位分布の状態を測定する方法において、複数回露光させることによる潜像状態を測定することにより、相反則不軌のメカニズムを解析することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は本発明の表面電位分布測定装置の実施例を示す図である。
同図において符号1は荷電粒子照射部、2は電子銃、3は引き出し電極(エキストラクタ)、4は加速電極、5は静電レンズ(コンデンサレンズ)、6はビームブランキング電極(ビームブランカ)、7は仕切り板、8は可動絞り、9は非点補正(スティグメータ)、10は走査レンズ(偏向電極)11は静電レンズ(対物レンズ)、12はビーム射出開口部、13は露光光学系、14は検出器、15は試料としての感光体、16は導体からなる試料設置部、17は信号処理フローをそれぞれ示す。
表面電位分布測定装置は大きく分けて荷電粒子ビームを照射する荷電粒子照射部1と露光光学系13、試料設置部16、1次反転荷電粒子や2次電子などの検出部14からなる。
【0015】
ここでいう、荷電粒子とは、電子ビームあるいはイオンビームなど電界や磁界の影響を受ける粒子を指す。
以下電子ビームを照射する実施例で説明する。
電子ビーム照射部1は電子ビームを発生させるための電子銃2と、電子ビームを制御するための、引き出し電極3と、電子ビームのエネルギを制御するための加速電極4と、電子銃2から発生された電子ビームを集束させるためのコンデンサレンズ5と、電子ビームの照射電流を制御するためのアパーチャ(図示省略)と、電子ビームをON/OFFさせるためのビームブランカ6とビームブランカ6を通過した電子ビームを走査させるための走査レンズ10と走査ビームを再び集光させるための対物レンズ11からなる。それぞれのレンズ等には、図示しない駆動用電源が接続されている。
なお、イオンビームの場合には、電子銃の代わりに液体金属イオン銃などを用いる。
【0016】
図2は露光光学系部の詳細を示す図である。
同図において符号18は真空チャンバ、19は試料移動ステージ、20はLD制御手段としてのコンピュータ、21はLD、22はコリメータレンズ、23はアパーチャ、24はミラー、25は集光レンズ、26は除電用LEDをそれぞれ示す。
図3はLDによる発光パターンの実施例を示す図である。同図(a)は光量P0で時間Δtだけ露光する例、同図(b)は光量P0/2で時間2Δtだけ露光する例、同図(c)は光量P0/2で時間Δtの露光を間をおいて2回行う例、同図(d)は光量P0/3で時間Δtの露光を3回行う例をそれぞれ示している。
図2において、露光部13は、感光体15に関して、感度を持つ波長のLD(レーザダイオード)21などの光源、コリーメートレンズ22、アパーチャ23、集光レンズ24などからなり、感光体15上に所望のビーム径、ビームプロファイルを生成することが可能となっている。また、コンピュータなどのLD制御手段20により適切な露光時間、露光エネルギを照射できるようになっている。
【0017】
図3(a)と同図(b)は光量、照射時間が異なるものの、試料単位面積あたりの露光エネルギは一定で、1回だけ露光する発光パターンである。同図(c)と同図(d)は複数回露光させる発光パターンである。
同図(c)は、1度発光した後、遅延時間T(s)後に再び発光する2回露光であり、同図(d)は3回露光させる発光パターンである。
光学系は固定しており、LD発光パターン以外は変わらないので同一領域を複数回露光で重ね打ちを行っている。
同図(a)は遅延時間0、(b)は遅延時間Δtとみなす事ができる。
同図(a)〜(d)は試料単位面積あたりの露光エネルギは一定であるが、相反則不軌の影響で潜像状態は異なってくる。
【0018】
複数パルスの遅延時間に対する潜像深さの変化量を計測することで、相反則不軌の影響を計測することができる。
図18で説明したように、相反則不軌はCGL内での発生電荷の再結合と相関があり、キャリアのCGL移動時間に依存する。
CGLの移動時間はサンプルによって異なるが10−6〜−4sの範囲であり、通常の感光体であれば、10μs前後である。10ns以下はほぼ同時点灯と考えてよい。
また、1ms以上はほぼ完全にキャリアの移動が完了しているため、差が無いと考えられる。したがって、相反則不軌の影響を見るには10ns以上の遅延時間を与えることが望ましい。
また、複数の光源を用いて重ね合わせても良い。複数の光源を走査させて、潜像パターンを形成し、その潜像形成状態を評価しても良い。
【0019】
図4は露光光学系の一例を示す図である。
ラインのパターンを形成するために、複数の光源を用い、光学系にガルバノミラーやポリゴンミラーを用いたスキャニング機構を付けた実施例である。これにより、露光光学系のビームを走査することが可能となり、動的な潜像状態を計測することが可能となる。
【0020】
<動作>
まず、感光体試料15に電子ビームを照射させる。加速電圧|Vacc|は、2次電子放出比が1となる加速電圧より高い加速電圧に設定することにより、入射電子量が、放出電子量より上回るため電子が試料15に蓄積され、チャージアップを起こす。この結果、試料15はマイナスの一様帯電を生じることができる。加速電圧と照射時間を適切に行うことにより、所望の帯電電位を形成することができる。
次に露光光学系13により感光体試料15に、露光を行う。光学系は、所望のビーム径およビームプロファイルを形成するように調整されている。必要露光エネルギは、感光体特性によって決まるファクタであるが、通常、2〜6mJ/m程度である。感度が低い感光体では、十数mJ/m必要なこともある。帯電電位や必要露光エネルギは、感光体特性やプロセス条件に合わせて設定すると良い。
これにより、感光体試料15に静電潜像を形成することができる。
この後、入射電子量を下げて観察モードに変更する。
【0021】
図5はビームスポット径と潜像径の関係を示す図である。同図(a)はビーム断面のプロファイル、同図(b)は潜像形成領域、同図(c)は露光時間と潜像径の関係をそれぞれ示す図である。
感光体試料15を電子ビームで走査し、放出される2次電子を検出器14で検出し、電気信号に変換してコントラスト像を観察する。
このようにすると、帯電部が2次電子検出量が多く、露光部が2次電子検出量が少ない明暗のコントラスト像が生じる。暗の部分を露光による潜像部とみなすことができるので、光ビームを走査せずにスポット露光した場合の明暗の境界を1ビームスポット潜像の潜像径Dとすることができる。
【0022】
書込光源波長が680nm以下であり、かつ感光体面でのビームスポット径(1/e径)をAとしたとき、ビームスポット径Aが60μm以下であり、遅延時間1μsと1msのときの1ビームスポット潜像の潜像径変化量をΔD(μm)とするとき、潜像径の変化が少ないことが望ましい。
|ΔD/A|≧0.2
の条件下では、トナーの付着量が異なり、画像濃度むらとなってしまう恐れがある。通常の画像形成装置においてはビームスポット径が±10%まで許容される。すなわちレンジで20%許容できることから、
|ΔD/A|<0.2
であれば、相反則不軌の影響が少なく、高画質の得られる、良好な感光体であるとみなすことができる。
【0023】
図6は本発明の表面電位分布測定装置の他の実施例を示す図である。
同図において符号27は電圧印加部を示す。
荷電粒子ビームを照射する荷電粒子照射部1と露光光学系13、試料設置部16、1次反転荷電粒子や2次電子などの検出部14からなる。
ここでいう、荷電粒子とは、電子ビームあるいはイオンビームなど電界や磁界の影響を受ける粒子を指す。
以下電子ビームを照射する実施例で説明する。
電子ビーム照射部1は電子ビームを発生させるための電子銃2と、電子ビームを制御するための、引き出し電極3と、電子ビームのエネルギを制御するための加速電極4と、電子銃2から発生された電子ビームを集束させるためのコンデンサレンズ5と、電子ビームの照射電流を制御するためのアパーチャと、電子ビームをON/OFFさせるためのビームブランカ6とビームブランカ6を通過した電子ビームを走査させるための走査レンズ(偏向電極)10と走査ビームを再び収束させるための対物レンズ11からなる。それぞれのレンズ等には、図示しない駆動用電源が接続されている。
なお、イオンビームの場合には、電子銃2の代わりに液体金属イオン銃などを用いる。
1次反転電子を検出する手段として、シンチレータや光電子増倍管などを用いている。
なお、試料の表面電位分布には、試料が表面電位分布を有しているが表面電位分布が未知である場合における表面電位分布と、感光体を帯電・露光させて表面電位を作る場合における表面電位分布との両方を含む。
試料下部の資料設置部16には、電圧±Vsubを印加できる電圧印加部27が接続されている。
【0024】
図7は入射電子と試料の関係を示す図である。同図(a)は加速電圧が表面電位ポテンシャルより大きい場合、同図(b)は加速電圧が表面電位ポテンシャルより小さい場合をそれぞれ示す。
入射する荷電粒子の試料垂直方向の速度ベクトルが、試料到達前に反転するような状態が存在する領域が存在し、その1次入射荷電粒子を検出する構成となっている。
なお、加速電圧は、正で表現することが一般的であるが、加速電圧の印加電圧Vaccは負であり、電位ポテンシャルとして、物理的意味を持たせるためには、負で表現する方が説明しやすいため、ここでは加速電圧は負(Vacc<0)と表現する。
電子ビームの加速電位ポテンシャルをVacc(<0)、試料の電位ポテンシャルをVp(<0)とする。
【0025】
電位とは、単位電荷が持つ電気的な位置エネルギである。したがって、入射電子は、電位0(V)では加速電圧Vaccに相当する速度で移動する。すなわち、電子の電荷量をeとし電子の質量をmとすると、電子の初速度vは、
mv/2=e×|Vacc|で表される。真空中ではエネルギ保存の法則により、加速電圧の働かない領域では等速で運動し、試料面に接近するに従い、電位が高くなり、試料電荷のクーロン反発の影響を受けて速度が遅くなる。
したがって、一般的に以下のような現象が起こる。
同図(a)において、|Vacc| ≧ |Vp| なので、電子は、速度は減速されるものの、試料に到達する。
同図(b)において、|Vacc| < |Vp| 場合には、入射電子の速度は試料の電位ポテンシャルの影響を受けて、徐々に減速し、試料に到達する前に速度が0となって、反対方向に進む。
【0026】
空気抵抗の無い真空中では、エネルギ保存則がほぼ完全に成立する。
したがって、入射電子のエネルギ変えたときの、試料面上でのエネルギすなわちランディングエネルギがほぼ0となる条件を計測することで、表面の電位を計測することができる。ここでは1次反転荷電粒子、特に電子の場合を1次反転電子と呼ぶことにする。試料に到達したとき発生する2次電子と1次反転荷電粒子では、検出器に到達する量が大きく異なるので、明暗のコントラストの境界より、識別することができる。
なお、走査電子顕微鏡などには、反射電子検出器があるが、この場合の反射電子とは、一般的に試料の物質との相互作用により、入射電子が後方背面に反射(散乱)され、試料の表面から飛び出す電子のことを指す。反射電子のエネルギは入射電子のエネルギに匹敵する。反射電子の強度は試料の原子番号が大きいほど大きいといわれ、試料の組成の違い、凹凸がわかるための検出方法である。
これに対して、1次反転電子は、試料表面の電位分布の影響を受けて、試料表面に到達する前に反転する電子のことで有り、全く異なる現象である。
【0027】
図8は潜像深さ計測結果の一例を示す図である。
図9は潜像深さ計測のフローを示す図である。
各走査位置(x,y)で、加速電圧Vaccと、試料下部印加電圧Vsubとの差を
Vth(=Vacc−Vsub)とすれば、ランディングエネルギがほぼ0となるときのVth(x,y)を測定することで電位分布V(x,y)を測定することができる。Vth(x,y)は、電位分布V(x,y)とは一意的な対応関係があり、Vth(x,y)はなだらかな電荷分布などであれば、近似的に電位分布V(x,y)と等価となる。
【0028】
図8上段の曲線は試料表面の電荷分布によって生じた表面電位分布の一例を示している。2次元的に走査する電子銃の加速電圧は−1800Vとした。中心(横軸座標=0)の電位が約−600Vであり、中心から外側に向かうに従って、電位がマイナス方向に大きくなり、中心から半径が75μmを超える周辺領域の電位は約−850V程度になっている。同図中段の楕円形は試料の裏面をVsub=−1150Vに設定したときの検出器出力を画像化した図である。このとき、Vth=Vacc−Vsub=−650Vとなっている。同図下段の楕円形はVsub=−1100Vとしたほかは上記条件と同じ条件で得られた検出器出力を画像化した図である。このときのVthは−700Vになっている。
したがって、加速電圧Vaccまたは印加電圧Vsubを変えながら、試料表面を電子で走査させ、Vth分布を計測することにより、試料の表面電位情報を計測することが可能となる。
この方法を用いることにより、従来困難であった、潜像プロファイルをミクロンオーダーで可視化することが可能となる。
【0029】
図10は電荷分布修正による電位分布測定結果算出の解析手順を示す図である。
図11は本発明の他の実施例を示す部分図である。
同図において符号28はグリッドメッシュ、29は導電板、30は絶縁体、31は接地基盤をそれぞれ示す。
試料の上面にグリッドメッシュ28を配置することにより、電子ビームの入射電子の軌道を適切に配置することもできる。さらに、導電板29などを配置して、1次反転荷電粒子を一度導電板に当てて、その二次電子を検出する方法を用いても良い。
図12は上記実施例の制御部を示す図である。
試料の電荷または電位の分布をモデリングしておき、電子ビームの軌道を算出して、電子ビームの軌道に基づいて、表面電位分布を取得するための電荷または電位の分布モデルを修正する方法を用いることで電位分布をさらに高精度に計測することも可能となる。
【0030】
図13はビームスポット潜像の潜像深さ変化量を示す図である。同図(a)は必要エネルギをP0×Δt=一定とした場合の分割露光の例を示す図、同図(b)は潜像深さを説明するための図、同図(c)は遅延時間の違いによる潜像深さの違いを示す図である。
上記計測を行うことにより、1ビームスポットの潜像深さVpvを計測することができる。LDの複数回露光時の遅延時間を変えたときの潜像深さ変化量を計測することが可能となる。同図(b)において実線で示す曲線は同図(a)に示す遅延時間Tが大きい場合、点線で示す曲線は遅延時間が短い場合をそれぞれ示す。
書込光源波長が680nm以下であり、かつ感光体面でのビームスポット径が60μm以下であり、感光体面での露光エネルギ密度が4mJ/m以下であるとき、感光体の帯電電位Vd[V]、遅延時間1μsと1msでの1ビームスポット潜像の潜像深さ変化量ΔVpv[V]が、少ないことが望ましい。通常の画像形成装置においては、正負帯電どちらでも数百〜1kV程度の帯電電位であるが、
|ΔVpv/Vd|≧0.1
の条件下では、トナーの付着量が異なり、画像濃度むらとなってしまう恐れがある。
|ΔVpv/Vd|<0.1
であれば、相反則不軌の影響の少なく、高画質が得られる、良好な感光体であるとみなす事ができる。
【0031】
図14は本発明を適用できるレーザプリンタを示す図である。
同図において符号116は定着装置、符号118はカセット、符号119はレジストローラ対、符号120は給紙コロ、符号121は搬送路、符号122は排紙ローラ対、符号123はトレイをそれぞれ示す。
以下に、この発明の画像形成装置の実施の1形態を説明する。同図は上記1形態であるレーザプリンタを略示している。レーザプリンタ100は像担持体111として「円筒状に形成された光導電性の感光体」を有している。像担持体111の周囲には、帯電手段としての帯電ローラ112、現像装置113、転写ローラ114、クリーニング装置115が配備されている。この実施の形態では「帯電手段」として、オゾン発生の少ない接触式の帯電ローラ112を用いているが、コロナ放電を利用するコロナチャージャを帯電手段として用いることもできる。また、光走査装置117が設けられ、帯電ローラ112と現像装置113との間で「レーザビームLBの光走査による露光」を行うようになっている。画像形成を行うときは、光導電性の感光体である像担持体111が時計回りに等速回転され、その表面が帯電ローラ112により均一に帯電され、光走査装置117のレーザビームLBによる光書込による露光により静電潜像が形成される。
【0032】
形成された静電潜像は所謂「ネガ潜像」であって画像部が露光されている。この静電潜像は現像装置113により反転現像され、像担持体111上にトナー画像が形成される。転写紙を収納したカセット118は画像形成装置100本体に着脱可能で、図のごとく装着された状態において、収納された転写紙の最上位の1枚が給紙コロ120により給紙される。給紙された転写紙は、その先端部をレジストローラ対119に銜えられる。レジストローラ対119は、像担持体111上のトナー画像が転写位置へ移動するのにタイミングをあわせて転写紙を転写部へ送りこむ。送りこまれた転写紙は、転写部においてトナー画像と重ね合わせられ、転写ローラ114の作用によりトナー画像を静電転写される。トナー画像を転写された転写紙は定着装置116でトナー画像を定着されたのち、搬送路21を通り、排紙ローラ対122によりトレイ123上に排出される。トナー画像が転写されたのち、像担持体111の表面はクリーニング装置115によりクリーニングされ、残留トナーや紙粉等が除去される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の表面電位分布測定装置の実施例を示す図である。
【図2】露光光学系部の詳細を示す図である。
【図3】LDによる発光パターンの実施例を示す図である。
【図4】露光光学系の一例を示す図である。
【図5】ビームスポット径と潜像径の関係を示す図である。
【図6】本発明の表面電位分布測定装置の他の実施例を示す図である。
【図7】入射電子と試料の関係を示す図である。
【図8】本発明の潜像深さ計測結果の一例を示す図である。
【図9】潜像深さ計測のフローを示す図である。
【図10】電荷分布修正による電位分布測定結果算出の解析手段を示す図である。
【図11】本発明の他の実施例を示す部分図である。
【図12】上記実施例の制御部を示す図である。
【図13】ビームスポット潜像の潜像深さ変化量を示す図である。
【図14】本発明を適用できるレーザプリンタを示す図である。
【図15】2次電子による電荷分布・電位分布検出の原理モデルを示す図である。
【図16】相反則不軌を説明するための図である。
【図17】画像形成装置の走査光学系として4chLDアレイを用いた例を示す図である。
【図18】感光体表面構造を拡大して示す図である。
【符号の説明】
【0034】
2 電子銃
4 加速電極
11 対物レンズ
13 露光光学系
14 検出器
15 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面電荷分布あるいは表面電位分布を有する試料に対して、荷電粒子ビームを照射し、該照射によって得られる検出信号により、試料の電荷分布あるいは電位分布の状態を測定する方法において、複数回露光させることによる潜像状態を測定することを特徴とする静電潜像の測定方法。
【請求項2】
試料に対して、荷電粒子ビームを照射する手段と、該照射によって得られる荷電粒子の信号を検出する検出手段と、試料の電荷分布の状態を測定する測定手段と、前記試料を 露光させるための光学系手段と、複数回露光する手段と、を有することを特徴とする静電潜像の測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の静電潜像の測定装置において、同一領域に複数回露光を重ね打ちする手段を有することを特徴とする静電潜像の測定装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の静電潜像の測定装置において、前記複数回露光は遅延時間をもたせ、該遅延時間に対する潜像深さ変化量を測定することを特徴とする静電潜像の測定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の静電潜像の測定装置において、前記遅延時間が10ns以上であることを特徴とする静電潜像の測定装置。
【請求項6】
請求項2ないし5に記載の静電潜像の測定装置において、前記複数回露光する手段は複数の光源を有することを特徴とする静電潜像の測定装置。
【請求項7】
請求項2に記載の静電潜像の測定装置において、前記光学系手段は露光のための光束を走査する走査手段を有することを特徴とする静電潜像の測定装置。
【請求項8】
請求項2に記載の静電潜像の測定装置において、前記試料の面に垂直入射する前記荷電粒子の速度ベクトルが反転するような領域発生させる手段を有することを特徴とする静電潜像の測定装置。
【請求項9】
表面を一様に帯電された後、露光により静電潜像を形成する潜像担持体であって、前記露光に用いる光ビームの波長が680nm以下で、前記表面におけるビーム径をAとし、Aを60μm以下に設定し、2回露光のときの遅延時間を1μsと1msにしたときの1ビームスポット潜像の潜像径変化量をΔD(μm)とするとき、
|ΔD/A|<0.2
となることを特徴とする潜像担持体。
【請求項10】
表面を帯電電位Vd[V]に一様に帯電された後、露光により静電潜像を形成する潜像担持体であって、前記露光に用いる光ビームの波長が680nm以下で、前記表面におけるビーム径を60μm以下でかつ露光エネルギ密度が4mJ/m以下に設定し、2回露光のときの遅延時間を1μsと1msにしたときの1ビームスポット潜像の潜像深さ変化量をΔVpv(V)とするとき、
|ΔVpv/Vd|<0.1
となることを特徴とする潜像担持体。
【請求項11】
請求項9または10に記載の潜像担持体と、光走査装置と、現像装置と、を少なくとも有し、前記潜像担持体の感光面に対して前記光走査装置で光走査を行うことにより、潜像を形成し、該潜像を直接または一旦転写材に転写してから、前記現像装置で現像して可視化することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2008−96347(P2008−96347A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−280105(P2006−280105)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】