説明

被覆光ファイバの製造方法

【課題】 被覆光ファイバに捻れを加えて偏波分散を低減した被覆光ファイバにおける弾性捻れの残留量を低減し、後工程における作業性がよく、しかもこの被覆光ファイバで光ファイバテープ心線を製造したとしても、その光ファイバテープ心線があまり捻れることもない、被覆光ファイバの製造方法を提供することにある。
【解決手段】 被覆光ファイバの製造方法は、光ファイバ母材1の先端部からガラスファイバ3を引き出す工程と、ガラスファイバ3上に被覆を施す工程と、被覆を施した被覆光ファイバ10に捻れを付加する工程と、捻れを付加した被覆光ファイバ10に残留している弾性捻れを緩和する工程と、を有する被覆光ファイバの製造方法であって、弾性捻れを緩和する工程は、被覆光ファイバ10に残留している弾性捻れの方向と逆の方向に被覆光ファイバ10を捻回せしめる工程であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏波分散を低減させた被覆光ファイバの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、光ファイバ母材の先端部を線引炉により加熱溶融して、ガラスファイバを引き出し、これに、例えば紫外線硬化性樹脂を一層、または多層被覆せしめて被覆光ファイバを形成している。
ところでこのように製造した被覆光ファイバにおいては、そのコアやクラッドを、光ファイバの長手方向にわたって完全に真円にしたり、同心円にしたりすることは極めて困難で、現実的には楕円になったり、あるいは歪んだ円になっていたり、またコアとクラッドの同心性もわずかではあるが偏心しているのが一般的である。
【0003】
その結果、ガラスファイバの断面における2偏波間に群速度の差が発生し、偏波分散が大きくなってしまう、という問題がある。
そこで従来からこの問題を解決すべく、例えば特許文献1に開示されているように、線引きしたガラスファイバ上に被覆を施した後、この被覆光ファイバに周期的に捻れを与える方法が知られている。より具体的には周期的に回転軸の角度が揺動する揺動ガイドロールで被覆光ファイバを案内して被覆光ファイバに捻れを与える方法である。
【0004】
この方法を図5及び図6を用いて説明する。この方法は、既によく知られているように、光ファイバ母材1の先端部を線引炉2により加熱溶融してガラスファイバ3を引き出し、これに例えば紫外線硬化性樹脂4を被覆装置5により塗付して1次被覆層を、紫外線硬化性樹脂6を被覆装置7により塗付して2次被覆層を形成し、各々を紫外線照射装置8、紫外線照射装置9で紫外線を照射せしめ、硬化させて被覆光ファイバ10と成し、これをガイドロール11等で案内しながら、その回転軸が図6が示すように標準状態(水平状態)から所定角度±αずつ周期的に揺動する揺動ガイドロール12に案内して、被覆光ファイバ10に捻りを加え、これをガイドロール13、14及び15等を介して図示されていない巻取機により巻き取るものである。
ここで符号16、17及び18はガラスファイバ3の外径、1次被覆層の外径及び2次被覆層の外径を各々測定するための外径測定器を示している。
【0005】
【特許文献1】特開平6−171970号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで前述した図5及び図6が示す方法の場合、揺動ガイドロール12は標準状態から±αの角度揺動するため、理論的には被覆光ファイバ10に加えられる捻れは時計方向及び反時計方向に同じ量付加され、互いに相殺されて最終的には被覆光ファイバ10に捻れは残留するはずはない、と考えられるが、実際には捻れが残留していて、巻取りボビンから被覆光ファイバ10を引き出してみると、左右いずれかの一定の方向に捻れた状態になっていることが多い。しかもこの捻れは常にこの捻れを戻そうとする方向に内部応力が働く弾性捻れである。
【0007】
このように弾性捻れが残留したままの被覆光ファイバ10であっても、この弾性捻れの周期が1m以上の比較的長いもの、言い換えると捻れの回数が1回/m以下であれば経験的にいって、それほど問題にはならないが、捻れ回数が1回/mよりも多くなると、例えば以下のような問題が起こってくる。
具体的には、後工程で、1回/mよりも多く弾性捻れが残留している被覆光ファイバ10を複数本を並行に並べ、これに一括被覆を施して、いわゆる光ファイバテープ心線を製造しようとすると、残留している弾性捻れのためカール状によじれている個々の被覆光ファイバ10が、製造ライン中のガイドロール上で踊って、ガイドロールから外れ易く線掛け作業がやり難い、という問題がある。
加えて、このような被覆光ファイバ10に一括被覆を施して製造した光ファイバテープ心線も同様に長手方向に捻れ癖がついてしまい、このように長手方向に捻れた光ファイバテープ心線で、例えばスロット型光ファイバケーブルを製造しようとすると、光ファイバテープ心線が収納溝から飛び出し易くなって、スロット型光ファイバケーブルの製造が極めて困難になる、という問題もある。
【0008】
上記問題に鑑みて本発明の目的は、被覆光ファイバに捻れを加えて偏波分散を低減した被覆光ファイバにおける弾性捻れの残留量を低減し、後工程における作業性がよく、しかもこの被覆光ファイバで光ファイバテープ心線を製造したとしても、その光ファイバテープ心線に発生する弾性捻れを大幅に低減できる被覆光ファイバの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく本発明の請求項1記載の被覆光ファイバの製造方法は、光ファイバ母材の溶融した先端部からガラスファイバを引き出す工程と、前記ガラスファイバ上に被覆を施す工程と、前記被覆を施した被覆光ファイバに捻れを付加する工程と、捻れを付加した被覆光ファイバに残留している弾性捻れを緩和する工程と、を有する被覆光ファイバの製造方法であって、前記弾性捻れを緩和する工程は、前記被覆光ファイバに残留している弾性捻れの方向と逆の方向に被覆光ファイバを捻回せしめる工程であることを特徴とするものである。
【0010】
このようにしてなる請求項1記載の被覆光ファイバの製造方法によれば、被覆光ファイバの偏波分散を低減するために被覆光ファイバに捻れを加えた後、このように捻れを加えたことにより発生する残留弾性捻れを緩和する方向、すなわち弾性捻れの捻れ方向と逆の方向に被覆光ファイバを捻る工程を設けたことにより、効果的に残留する弾性捻れの量を低減できる。
その結果、後工程におけるこの被覆光ファイバの線掛作業等の作業性が向上する。同時に、弾性捻れの量が減少したことにより、例えばこの被覆光ファイバを用いて製造する光ファイバテープ心線の弾性捻れも低減できるので、この光ファイバテープ心線を用いたスロット型光ファイバケーブルの製造も極めて容易になる。
【0011】
また本発明の請求項2記載の被覆光ファイバの製造方法は、請求項1記載の被覆光ファイバの製造方法において、前記弾性捻れを緩和する工程は、前記被覆光ファイバを、回転軸が前記被覆光ファイバの進行方向に対して直交する位置から傾き角度θを有する捻回ロールの表面上を通過せしめる工程であることを特徴とするものである。
このようにしてなる請求項2記載の被覆光ファイバの製造方法によれば、一般に使用されているガイドロールを、単に所定角度θ傾けて、前述した捻れを付加する工程の後に設けるだけの簡単な方法で、被覆光ファイバに最終的に残留する弾性捻れの量を大幅に低減することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように本発明によれば、被覆光ファイバに捻れを加えて偏波分散を低減した被覆光ファイバにおける弾性捻れの残留量を低減し、後工程における作業性がよく、しかもこの被覆光ファイバで光ファイバテープ心線を製造したとしても、その光ファイバテープ心線に発生する弾性捻れを大幅に低減できる被覆光ファイバの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の被覆光ファイバの製造方法を図を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の被覆光ファイバの製造方法の一実施例を示す概略図で、図2は、図1における捻れ付加装置の一例を示す正面図、図3は、本発明の特徴である弾性捻れ緩和装置の一実施例を示す正面図である。
尚、図1においては、従来の被覆光ファイバの製造方法を示す図5と同じ部分には原則的に同じ符号を付してある。
【0014】
図1が示すように本発明の被覆光ファイバの製造方法は、従来方法と同様に、光ファイバ母材1の先端部を線引炉2により加熱溶融してガラスファイバ3を引き出し、その外径を外径測定器16で監視しつつ、例えば紫外線硬化性樹脂4を被覆装置5で塗付して紫外線照射装置8で紫外線を照射して硬化させ1次被覆層を形成し、その外径を外径測定器17で監視しつつ、さらにこの1次被覆層上に紫外線硬化性樹脂6を被覆装置7で塗付し、これに紫外線照射装置9により紫外線を照射して硬化させ、外径測定器18でその外径を監視しながら2次被覆層を形成して被覆光ファイバ10と成している。
因みに、被覆層の層数は被覆光ファイバ10の使用目的等により変わることがあり、その場合には被覆装置や紫外線照射装置及び外径測定器の数を調整すればよい。
【0015】
続いてこのようにして得た被覆光ファイバ10をガイドロール11等で案内しながら、図2が示すように、互いの対向する面に被覆光ファイバ10が走行しながら接触するように、所定の間隔で互い違いに配置され、さらに被覆光ファイバ10と直交する方向に互いに逆向きに往復運動するように設けられた一対の捻り付加ロール20a、20bからなる捻れ付加装置20により、被覆光ファイバ10のガラスファイバ3の部分に偏波分散低減のための捻れを付加する。
【0016】
このようにガラスファイバ3に捻れが付加された被覆光ファイバ10は、本発明の特徴である弾性捻れを緩和する工程に導かれる。この工程で使用される弾性捻れ緩和装置は、図3が示すように、一個の捻回ロール30からなっている。
この捻回ロール30を図3(b)、図3(c)が示すように、所定の傾き角度θ傾けて設置し、この捻回ロール30の表面を被覆光ファイバ10が接触しながら通過するように位置決めする。
このようにして捻回ロール30からなる弾性捻れ緩和装置を通過して、残留していた弾性捻れを緩和された被覆光ファイバ10は、通常のガイドロール15等を介して巻取機25により適切な大きさのボビンに巻き取られる。
【0017】
ところで傾き角度θの傾きを、図3(b)のように図に向かって時計方向に傾けるか、図3(c)のように反時計方向に傾けるか、またその傾き角度θを何度にするかは、線引き作業開始時点で被覆光ファイバ10を試験的に製造して(頭出し、という)、得られた被覆光ファイバ10に残留している弾性捻れを測定して決定する。すなわち、最初、捻回ロール30を被覆光ファイバ10に接触させない状態、あるいは図3(a)のように捻回ロール30を標準状態である水平位置(被覆光ファイバ10と回転軸が直交する位置)にした状態で線引き作業を行い、得られた被覆光ファイバ10が有する残留弾性捻れの方向及び量を測定して決める。
【0018】
ここで弾性捻れの量は、長さ1mの被覆光ファイバ10に捻れが何個入っているかで評価することにする。すなわち捻れの周期が1mであれば、弾性捻れの量は1回/mと表現する。そしてその捻れ方向が時計方向であれば+1回/mとし、反時計方向なら−1回/mと表示することにする。
【0019】
ところで被覆光ファイバ10に残留する弾性捻れの量は、製造設備のわずかな相違によっても異なっている場合が多い。そこで被覆光ファイバ10の製造設備が複数存在する場合には、予め製造設備毎に捻回ロール30の傾き角度θの大きさ及び傾ける方向と、その結果得られる被覆光ファイバ10に残留している弾性捻れの方向及び量の関係を調べる測定を行い、図4が示すような、捻回ロール30の傾き角度θとこの捻回ロール30を通過させた後得られる被覆光ファイバ10の弾性捻れの量の関係を調べておく。
【0020】
図4は、ある被覆光ファイバ10の製造設備における捻回ロール30の傾き角度θと得られる被覆光ファイバ10の弾性捻れの量の関係を示すグラフである。
図4が示す製造設備においては、捻回ロール30を何も傾けない場合に、あるいは未使用の場合に、反時計方向に0.7回/m(−0.7回/m)の弾性捻れが残留していたことを示している。そしてこの状態から捻回ロール30を前記弾性捻れの方向とは逆向きの時計方向に1度(+1°)傾けて使用すると、その弾性捻れの量は−0.3回/mに減少する。そして最適には傾き角度θを+1.7度程度にすれば、弾性捻れの量を解消できることがわかる。
【0021】
いま仮に傾き角度θが0度のとき、残留している弾性捻れの量が+1.0回/mであったとすれば、捻回ロール30を反時計方向に傾ければよい。
このように予め、図4が示すような捻回ロール30の傾き角度θと弾性捻れの量の関係を各被覆光ファイバ10の製造設備毎に把握しておき、そのグラフに基づいて、捻回ロール30を時計方向または反時計方向に何度傾けるかを決定する。そして一度決定したら少なくとも被覆光ファイバ10を巻き取っているボビンが満巻きされて巻取機から取り出されるまでは傾き角度θは変更しない。
もし必要なら、巻取機からボビンが取り出される度にボビン端末の被覆光ファイバ10をサンプルとして所定長さ取り出し、残留している弾性捻れの量や方向を測定し、当初の値と異なっていたらその都度ロール30の傾き角度θや傾ける方向を微調整すればよい。
【0022】
もちろん、残留している弾性捻れの量を被覆光ファイバ10の製造中に測定できるのであれば、その結果を捻回ロール30にフィードバックして、その傾き角度θや傾ける方向を微調整することもできる。
実際に、図4の結果に基づいて、捻回ロール30の傾き角度θが0度(標準状態)のとき反時計方向に0.7回/m(−0.7回/m)の弾性捻れが残留する被覆光ファイバ10の製造設備において、捻回ロール30を前記弾性捻れの方向とは逆向きの時計方向に+1.7度傾けて被覆光ファイバ10を製造したところ、巻取機25で巻き取ったボビンから引き出した被覆光ファイバ10の弾性捻れはほとんどなくなっていた。
【0023】
このように本発明の被覆光ファイバの製造方法によれば、従来から行われている被覆光ファイバに捻れを付加する工程の後工程として、一般的に使用されているようなロールを、一定角度傾けただけの弾性捻れ緩和装置を、捻れを付加する工程の後工程に加えるだけの簡単な方法で、被覆光ファイバ10に残留している弾性捻れを大幅に緩和することができる。
【0024】
尚、図1に示す実施例では、被覆光ファイバ10に捻れを付加する装置として、図2に示すような装置を用いているが、適時間隔で傾き角度が反転する、いわゆる図5、図6に示した揺動ガイドロール12のような公知の各種装置で行ってもよい。
同様に本発明に用いる捻回ロール30にあっても、その形状は図3に記載されたものに限定されるものではなく、所定角度傾けることが可能で、被覆光ファイバ10の製造中、原則としてその角度θを一定に保持できるロールであれば他の形状、構成のものであってもよい。
【0025】
以上述べたように、本発明によれば、被覆光ファイバに捻れを加えて偏波分散を低減した被覆光ファイバにおける弾性捻れの残留量を大幅に低減でき、後工程における作業性を向上させることができ、しかもこの被覆光ファイバで光ファイバテープ心線を製造したとしても、その光ファイバテープ心線があまり捻れることもない、被覆光ファイバの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の被覆光ファイバの製造方法の一実施例を示す概略図である。
【図2】図1における捻れ付加装置の正面図である。
【図3】(a)は本発明に用いる弾性捻れ緩和装置における捻回ロールの標準状態を示す図、(b)はその捻回ロールを時計方向にθ傾けた状態を示す図、(c)は反時計方向にθ傾けた状態を示す図である。
【図4】捻回ロールの傾き角度θと弾性捻れ量の関係の一例を示すグラフである。
【図5】従来の低偏波分散被覆光ファイバの製造方法を示す概略図である。
【図6】図5に示す捻れ付加装置の概略図である。
【符号の説明】
【0027】
3 ガラスファイバ
10 被覆光ファイバ
12 揺動ガイドロール
20 捻れ付加装置
30 捻回ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ母材の溶融した先端部からガラスファイバを引き出す工程と、前記ガラスファイバ上に被覆を施す工程と、前記被覆を施した被覆光ファイバに捻れを付加する工程と、捻れを付加した被覆光ファイバに残留している弾性捻れを緩和する工程と、を有する被覆光ファイバの製造方法であって、前記弾性捻れを緩和する工程は、前記被覆光ファイバに残留している弾性捻れの方向と逆の方向に被覆光ファイバを捻回せしめる工程であることを特徴とする被覆光ファイバの製造方法。
【請求項2】
前記弾性捻れを緩和する工程は、前記被覆光ファイバを、回転軸が前記被覆光ファイバの進行方向に対して直交する位置から傾き角度θを有する捻回ロールの表面上を通過せしめる工程であることを特徴とする請求項1記載の被覆光ファイバの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−315913(P2006−315913A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−140466(P2005−140466)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】