説明

被覆超硬合金製ブローチ

【課題】ブローチに適用する超硬合金を最適化することによって、ブローチの精度を長期間維持できる被覆超硬ブローチを提供することを課題とする。
【解決手段】シェル型の被覆超硬合金製ブローチにおいて、該シェルに用いる超硬合金は、WCの平均粒径が1.2μm以下、保磁力が20kA/m以上40kA/m未満、飽和磁化値をRとし、202×Co重量%/100の値をSとした時、飽和磁化比R/Sが、0.65≦R/S≦0.95、更に、該被覆は、金属成分として少なくともCrを含有する窒化物、酸化物、硼化物、硫化物、炭化物のいずれか1種以上の固溶体又は混合物から構成されていることを特徴とする被覆超硬合金製ブローチである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、被加工物を所要の断面形状に切削加工するための被覆超硬合金製ブローチに関する。
【背景技術】
【0002】
ブローチは、多数の被加工物を所要の断面形状に仕上げるための切削工具であり、工具寿命、加工精度に対する要望が高く、切れ刃部に超硬合金を用いたものや硬質皮膜を被覆したものがある。特許文献1、2、3記載の被覆超硬ブローチは、高硬度材加工用として、母材に超硬合金を用い、硬質皮膜を被覆している。
【0003】
【特許文献1】特開平7−195228号公報
【特許文献2】特開2005−40871号公報
【特許文献3】特開2002−361519号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1〜3は、超硬合金が脆性材料であることから、ブローチとしては未だ不十分であり、チッピングや欠損を生じ易く、加工面を荒らし、寿命や加工精度に影響を及ぼしていた。
本願発明は、かかる従来の事情に鑑み、ブローチに適用する超硬合金を最適化することによって、ブローチの精度を長期間維持できる被覆超硬ブローチを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本願発明は、シェル型の被覆超硬合金製ブローチにおいて、該シェルに用いる超硬合金は、WCの平均粒径が1.2μm以下、保磁力が20kA/m以上40kA/m未満、飽和磁化値をRとし、202×Co重量%/100の値をSとした時、飽和磁化比R/Sが、0.65≦R/S≦0.95、更に、該被覆は、金属成分として少なくともCrを含有する窒化物、酸化物、硼化物、硫化物、炭化物のいずれか1種以上の固溶体又は混合物から構成されていることを特徴とする被覆超硬合金製ブローチである。尚、シェル型は、組立型のブローチの、荒〜仕上げ刃部又は仕上げ刃部を中空円筒状の超硬合金等で製作し、鋼製又は高速度鋼製のブローチの本体に着脱自在に取り付けたのパイプ状の部分を称する。
【発明の効果】
【0006】
本願発明を適用することにより、超硬合金製ブローチの耐チッピング性、耐欠損性を高めることにより、超硬合金の特長を生かした高精度が長期間維持でき、且つ、高潤滑性の皮膜を用いることにより耐溶着性に優れた超硬合金製ブローチを提供することが出来た。特に、5〜15m/minの切削速度でも超硬合金製ブローチを用いることが出来た。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
超硬合金製ブローチは、他の工具、例えば、旋削のように被削材が、フライスのように切削工具が、回転する切削工具に比較して、ブローチ工具は、直線運動を主とした切削工具であるため、切削速度を上げることが出来ず、通常5〜15m/min、上記背景技術に記載した例でも20〜80m/minであり、旋削・フライスのような速度とは大きく異なっており、本願発明の超硬合金製ブローチに用いる超硬合金は、低速時の耐衝撃性に優れ、且つ、衝撃時の耐チッピング性、耐欠損性を備えるため、以下の構成を備えています。
本願発明の少なくとも切れ刃部の材質である超硬合金のWCの平均粒径は、1.2μm以下であり、切れ刃の稜線品位を良好にするためであり、WCの平均粒径が1.2μmを超えると、研削加工による切れ刃成形時において、WCの脱落により、稜線品位が保てなくなり、加工面が荒くなり、チッピングを誘発するからである。好ましくは、WCの平均粒径は0.8μm以下である。
【0008】
超硬合金の保磁力は、Co相の厚さに相当し、Co量が少ないほど、WC粒径が小さいほど高くなるが、これらのバランスを考え、保磁力を20kA/m以上40kA/m未満とした。保磁力が12kA/m未満ではCo量が多く、WCの粒径も大きくなるため、耐摩耗性が低下する。保磁力が20kA/m以上だと、Co量が少なくなるためチッピングし易くなり、耐欠損性が低下する。結合相量としては、重量%で、5〜12%である。更に好ましくは、5〜10%である。
【0009】
超硬合金の飽和磁化値をRとし、202×Co重量%/100の値をSとした時、飽和磁化比R/Sを0.65≦R/S≦0.95としたのは、R/Sが上記範囲にあるとき、耐摩耗性にすぐれ、チッピングしにくいブローチを得ることができる。202はCoの飽和磁化値である。R/Sが0.65未満では有害なη相が析出し、強度が大幅に低下するからであり、R/Sが0.95を超えると、結合相中のW固溶量が低下し、合金の強度が低下し、刃先強度が低下するからである。好ましくは、R/Sが0.70〜0.95で、より好ましくは、R/Sが0.80〜0.90である。
【0010】
被覆を施すことにより、チッピングを抑制すると共に、潤滑効果及び耐溶着効果を発揮する。被加工物の主成分であるFeとの親和性が低く、更に、上記切れ刃の逃げ面において、Crと被加工物が潤滑層を形成し易く、その潤滑層が極めて緻密で剥離し難いため、結果として、切削の断続性に耐え、且つ、耐溶着効果により工具寿命がさらに改善される。また、Siも潤滑層を形成し易く、硬さが得られることから、皮膜の好ましい成分系は、CrSiN、CrSiCN、CrSiNO、CrSiBN、CrSiBNOがあり、最適なSi含有量としては、金属元素のみの原子%で、0.1原子%以上、30原子%未満である。Cr、Si以外の金属成分としては、Al、Ti、Nb、Mo、Wが上げられ、金属元素のみの原子%で、10原子%以下添加した皮膜が耐摩耗性及び耐溶着性の観点から好ましい。
また、被覆後に、皮膜層表面を機械的処理により切れ刃のすくい面と逃げ面の最大高さ面粗さRzを1.0μm以下と平滑にすることにより、異常摩耗を抑制することができる。
【0011】
次に、組立型のシェルには、荒〜仕上げ刃部まで一貫したパイプ状の超硬合金を用いるものと、仕上げ刃の1刃のみで形成し、複数の仕上げ刃を1刃毎に形成するリング状の超硬合金を用いるものとがある。
パイプ状の超硬合金を用いたシェルは、ブローチの本体に取り付ける際、荒刃〜仕上げ刃まで一体であり、高精度等を維持できる特徴がある。
リング状の超硬合金を用いたシェルは、仕上げ刃のみが独立したシェルであり、仕上げに適した超硬合金又はTiCN基サーメット等を用いることが可能となる。以下、本願発明を実施例に基づき、詳細に説明する。
【実施例】
【0012】
(実施例1)
市販の平均粒径0.4μm〜1.5μmのWC粉末、1.2μmのCo粉末、1.2μmのCr粉末、1.5μmのVC粉末、1.2μmのTaC粉末を用いて、表1に示す各組成に配合し、成形バインダーを含んだアルコール中アトライターで12時間混合し、スプレードライヤーで造粒乾燥した後、得られた造粒粉末を押出し成形して圧粉体とした。これらの圧粉体を10Paの真空雰囲気中において1400〜1450℃で焼結し、その後HIP処理し、本発明例1〜12、比較例13〜17の超硬合金にてパイプ状のシェルを製作し、合金鋼で製作したブローチ本体に組立てて、インボリュートスプラインブローチを製作した。
上記ブローチは、切れ刃のすくい角が6°、ブローチ軸方向に切れ刃を10刃並べて設け、1刃の切り込みは、ブローチの第1刃から数えて、第5刃目までが0.04mm、第6刃が0.02mm、第7刃が0.01mmで、第7刃〜第10刃を仕上げ刃とした。各ブローチを脱脂洗浄を十分に実施し、AIP装置の容器内の冶具に配置し、切れ刃部に(Cr98Si)皮膜を1.0μmの厚さで形成した。
製作した各被覆超硬ブローチを用いて、被加工物を定数個加工時の最大逃げ面摩耗幅を調査した。被加工物には、1個当たりの切削長が26mmで、荒加工後、HRC50に浸炭焼入れしたSCM435材を用い、切削条件は、切削速度5m/min、不水溶性切削液を用いた湿式切削で行った。表1にテスト結果を示す。
【0013】
【表1】

【0014】
表1より、本発明例1〜4は、加工数1000個まで加工できたが、本発明例4は、WC粒子が最も微粒な例で、高品位な面が得られ、本発明例2〜4は、通常摩耗であり、いずれも、最大逃げ面摩耗幅が0.15mm以下であった。本発明例5〜9は、保磁力が20kA/m以上40kA/m未満の範囲、飽和磁化比が0.65以上0.95以下の範囲であり、加工数1500個まで加工でき、摩耗状態も良好な通常摩耗であり、特に、WCの平均粒径が1.0μm以下の本発明例1〜7は摩耗幅も小さかった。
比較例12は、加工数500個の時点で、切れ刃にチッピングを生じており、飽和磁化比が低い為であり、比較例13は、飽和磁化比が高い為であり、摩耗が大きく、500個の加工で中止した。比較例14は、Co量が少なすぎ、使用初期に、第1刃が欠けを起こし、寿命となった。比較例15は、Co量が多く、摩耗が大きく、500個の加工で中止した。比較例16は、WC粒径を1.5μmを用いたため、切れ刃稜線の品位が影響し、いびつな摩耗状態であった。
これらの結果より、本発明範囲の特性を持つ超硬合金、保磁力が20kA/m以上40kA/m未満、飽和磁化比が0.65以上0.95以下の範囲の特性を持つ超硬合金を素材とした被覆超硬ブローチは耐チッピング性、耐摩耗性ともに非常に優れていることが明らかである。
【0015】
(実施例2)
本発明例3のブローチと同様の仕様で、各種皮膜を切れ刃部に被覆したブローチを製作し、実施例1と同様の条件で、切削加工テストを行った。表2に、各々の被覆の構成とテスト結果を示す。
【0016】
【表2】

【0017】
その結果、本発明例17は、(Cr96Si)N皮膜を1μm被覆した場合を示すが、CrSiNにBを少量添加することにより、さらに耐摩耗性を改善することができ、より好ましい被覆形態であった。本発明例18、19は内層にTiAlN皮膜を被覆したものであり、何れもCrSiN皮膜単層である本発明例3に比べ、耐摩耗性に優れる結果となり、内層を用いた方がより耐摩耗性を向上させることができた。本発明例20〜23はCrSiBN皮膜を更に厚くし、且つ、内層を応力緩和性に富むTiN皮膜等で被覆したものであり、皮膜の密着性が高まり、さらに耐摩耗性を改善することができ、より好ましい被覆形態であった。
【0018】
(実施例3)
本発明例24として、実施例1と同仕様のインボリュートスプラインブローチを用いて、その第1刃〜第7刃迄をパイプ状の本発明例1の超硬合金で製作し、第8刃〜第10刃をTiCN基サーメットで製作した。
先ず、本体をHRC60程度に調質した溶製高速度工具鋼であるSKH51材製で製作し、次いで、パイプ状のシェルを本発明例1記載の超硬合金で製作し、リング状のシェルをTiCN基サーメットで製作し、以下、実施例1同様に、ブローチ軸方向に切れ刃を10刃並べて設け、1刃の切り込みは、ブローチの第1刃から数えて、第5刃目までが0.04mm、第6刃が0.02mm、第7刃が0.01mmまでを高速度工具鋼、第7刃〜第10刃を仕上げ刃とし超硬合金て製作し、実施例1記載の切削諸元で行った。
その結果、本発明例17は、チッピングもなく、最大逃げ面摩耗幅も0.07mmと一体型とほぼ同じであったが、被切削面は、サーメットにより高品位な面が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シェルを用いた組立型の被覆超硬合金製ブローチにおいて、該シェルに用いる超硬合金は、WCの平均粒径が1.2μm以下、保磁力が20kA/m以上40kA/m未満、飽和磁化値をRとし、202×Co重量%/100の値をSとした時、飽和磁化比R/Sが、0.65≦R/S≦0.95、更に、該被覆は、金属成分として少なくともCrを含有する窒化物、酸化物、硼化物、硫化物、炭化物のいずれか1種以上の固溶体又は混合物から構成されていることを特徴とする被覆超硬合金製ブローチ。
【請求項2】
請求項1記載の被覆超硬合金製ブローチにおいて、該超硬合金製ブローチの結合相量が、重量%で、5〜12%であることを特徴とする被覆超硬合金製ブローチ。
【請求項3】
請求項1又は2記載の被覆超硬合金製ブローチにおいて、該WCの平均粒径を0.6μm以下としたことを特徴とする被覆超硬合金製ブローチ。
【請求項4】
請求項1乃至3何れかに記載の被覆超硬合金製ブローチにおいて、該シェルの荒刃〜仕上げ刃の一部を超硬合金で、該シェルの仕上げ刃の一部又は全部をTiCN基サーメットとしたことを特徴とする被覆超硬合金製ブローチ。
【請求項5】
請求項1乃至4何れかに記載の被覆超硬合金製ブローチにおいて、該切れ刃のすくい面、逃げ面の最大高さ面粗さRzが1.0μm以下であることを特徴とする被覆超硬合金製ブローチ。

【公開番号】特開2006−321035(P2006−321035A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−148288(P2005−148288)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000233066)日立ツール株式会社 (299)
【Fターム(参考)】