説明

装飾筐体及びその製造方法

【課題】立体的な形状に多層膜フィルムを貼り付けた場合、湾曲した部分で発色の変化を生じさせることができるものの、所望の位置に所望の形状で色の変化を生じさせることは困難であった。また、平坦な部分では平面部が観察者となす角度がほぼ一定となることから発色がほぼ均一になり、平坦な領域を多く含む製品に適用した場合には、色調が単調になるという問題が生じていた。
【解決手段】屈折率が異なる複数の薄膜を積層した多層膜フィルムが、基材の表面に接着された装飾筐体であって、前記多層膜フィルムの表面が、凹凸に形成されたことを有することを特徴とする。
本発明によれば、干渉色を発揮する多層膜フィルムを用いた構造体の所望の領域に色調の変化を生じさせることができ、電子機器等の装飾性を容易に向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器等の装飾筐体に関し、特に見る角度により色調が変化する干渉色を生ずる、多層膜フィルムを用いた装飾筐体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器等の売れ行きを左右する要因として、電子機器等が本来発揮する機能が重要視されるのは勿論であるが、製品の外観の装飾性も重要な要素となっている。特に、ある製品群において各製品の機能が一定水準に達し、製品間における機能面での差別化が困難な場合、実質的に同一機能を有する製品群の中では、高い装飾性を有するものが消費者に好まれ、製品の装飾性が売れ行きに大きな影響を与える傾向がある。
【0003】
また、近年電子デバイスの小型化により、携帯電話や携帯音楽プレーヤに代表されるように、携帯性に優れた製品が急速に普及している。携帯型の製品の場合、机上等に固定して使用する製品に比べて人の目に触れる機会が多くなり、アクセサリー感覚で身につける等、外観の形状のみならず色彩等の装飾性が特に重要視され、他社製品との差別化が行われている。また、常に携帯して使用する製品以外でも、パソコン用のマウスや、メモリカード等のように、表面が外部に表れている製品においては、外観の装飾性が他社製品との差別化における重要なポイントとなっている。そこで、製品の装飾性を高める技術が、活発に研究されている。
【0004】
製品の外観に装飾性を付与する技術の一つとして、見る角度により色が変化する装飾技術があり、色彩に変化を与え奥行き感を与えるものとして好まれている。このような装飾性を付与する方法として種々の方法が考えられる。
第1に、製品の筐体に樹脂を用いた場合に、樹脂自体に着色を行う方法が考えられる。しかし、高い質感を得ることが困難であること、及び表面形状の変化が色の変化として現れにくいため、着色工程を追加しなければ表現が単調になるという問題がある。
第2に、製品の筐体に塗装を施す方法が考えられる。しかし、見る角度により色合いが変化する塗料は高価であり、また、質感も低いという問題がある。
第3に、金属、誘電体膜を成膜する方法が考えられる。しかし、成膜工程の追加によりタクトタイムが長くなり製品化のスループットが低下するという問題がある。
第4に、シールを貼り付ける技術が考えられる。しかし、製品の表面形状がシール下部に隠され、製品に立体的な造形を施しても、これを生かせなくなり、表面形状が単調になるという問題がある。
【0005】
これらに対して、光の干渉色を利用した多層膜フィルムを用いる方法が提案されている。多層膜フィルムとは、屈折率が異なる2層以上の薄膜を積層したフィルムで、光路差による光の干渉作用を利用して発色させるものである。発色の原理に関して、図21を用いて説明する。基材100上に、薄膜A及び薄膜Bを交互に複数積層した多層膜フィルム101を設けたとき、多層膜フィルム101に入射した光102は、薄膜A、Bの界面で反射され、互いに干渉し合う。薄膜A、Bの膜厚をdA、dB、入射角をθA、θB、屈折率をnA、nB、波長をλとすると、
(nAAcosθA+nBBcosθB)=mλ (mは整数)
が成立するときに、波長λの光が干渉して強め合う。観察者が、多層膜フィルムを貼り付けた基材を見る角度を変えると、観察者に届く反射光の多層膜フィルムに対する入射角θA、θBが変化するため、干渉する波長λが変わり、その結果、干渉色の発色が変化することとなる。このことから、製品に干渉色を発揮する多層膜フィルムを付与すれば、見る角度により変化する発色を実現でき、製品に装飾性を付与することができる。
【0006】
この干渉色を発揮する多層膜フィルムを用いる装飾技術が、特開2005−219394(特許文献1)に開示されている。図22(a)、(b)に上記特許文献1に記載された装飾材の断面図を示す。合成樹脂薄膜を、接着層を介して積層して構成され、光干渉多層膜として機能する多層膜フィルム201に、形状安定用の合成樹脂フィルム202a、202bを積層した材料フィルム203を立体的に成形して装飾材205としている。多層膜フィルム201が立体的に成形される際に歪んで全体的に不均一になり、装飾材205の各部分で透過或いは反射させる波長域が変化し、虹状の干渉縞が発現されたり、ある波長域が強調されて反射されたり、或いはほとんど透明になったりする等、様々な光学的な変化が全体的に現れるというものである。
【0007】
【特許文献1】特開2005−219394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この従来技術によれば、立体的な形状を利用して、湾曲した部分で発色の変化を生じさせることができるものの、所望の位置に所望の形状で色調の変化を生じさせることは困難であった。また、平坦な部分では、平面部が観察者となす角度がほぼ一定となることから発色がほぼ均一になり、平坦な領域を多く含む製品に適用した場合には、色調が単調になるという問題が生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の装飾筐体は、屈折率が異なる複数の薄膜を積層した多層膜フィルムが、基材の表面に接着された装飾筐体であって、前記多層膜フィルムの表面が、凹凸に形成されたことを特徴とする。
【0010】
また、上記の装飾筐体において、前記多層膜フィルムの表面が、前記凹凸に形成された領域と、平滑に形成された領域を含んでいてもよい。
【0011】
本発明の装飾筐体は、前記多層膜フィルムと、前記装飾筐体表面との間に接着層を有していてもよい。この接着層はポリエステル樹脂を含むことが好ましい。また、前記多層膜フィルムと前記装飾筐体表面との間に、着色層を有していてもよい。
【0012】
また、前記多層膜フィルムの厚さが13〜19ミクロンであることが好ましい。
【0013】
前記装飾筐体は樹脂からなることが好ましく、前記樹脂は、熱可塑性樹脂であることがさらに好ましい。前記装飾筐体を用いて電子デバイスの一部を構成してもよく、携帯電話の一部を構成してもよい。
【0014】
本発明にかかる装飾筐体の製造方法は、表面に多層膜フィルムを有する装飾筐体の製造方法であって、前記装飾筐体の基材表面に、型押しにより凹凸を形成する工程と、形成された前記凹凸を含む前記基材表面に、多層膜フィルムを貼り付ける工程とを有することを特徴とする。
【0015】
また、表面に多層膜フィルムを有する装飾筐体の製造方法であって、前記装飾筐体の基材表面に、前記多層膜フィルムを接着する工程と、前記多層膜フィルム上から、型押しすることにより、前記基材表面に凹凸を形成する工程とを有していてもよい。前記型押しのための部材における凹凸はナノインプリントにより形成されていてもよい。
【0016】
また、表面に多層膜フィルムを有する装飾筐体の製造方法であって、前記装飾筐体の基材の表面に、レーザビームを照射して該基材の表面に凹凸を形成する工程と、形成された前記凹凸を含む前記基材表面に、多層膜フィルムを貼り付ける工程とを有していてもよい。
【0017】
また、上記の装飾筐体の製造方法であって、前記接着された多層膜フィルムの余剰部分をビク型により切断する工程を含んでいてもよい。
【0018】
また、表面に多層膜フィルムを有する装飾筐体の製造方法であって、凹部の内面に凹凸が形成された金型の該凹部内に、前記多層膜フィルムを配置する工程と、前記金型の前記凹部内に前記多層膜フィルムを介して、前記装飾筐体の基材となる熱可塑性樹脂を射出する工程と、冷却後に、前記多層膜フィルムが接着された前記基材を前記金型の凹部から取り出す工程とを有していてもよい。
【0019】
また、表面に多層膜フィルムを有する装飾筐体の製造方法であって、接着剤を有機溶剤に溶かした樹脂液を多層膜フィルム上に塗布する工程と、前記樹脂液が塗布された前記多層膜フィルムを加熱して前記有機溶剤を除去し、接着層を形成する工程と、凹凸が形成された前記装飾筐体の基材表面に、前記接着層を介して前記多層膜フィルムを貼り付ける工程とを有していてもよい。
【0020】
前記塗布工程において、前記塗布はバーコータまたはダイコータにより行われることが好ましい。前記塗布工程の前において、前記多層膜フィルムの表面に、コロナ処理又はフレーム処理が施されることが好ましい。また、前記有機溶剤は、ポリイソシアネート又はプラスチック用添加剤が添加される工程をさらに有していてもよい。
【0021】
また、表面に多層膜フィルムを有する装飾筐体の製造方法であって、前記多層膜フィルムの片側の面に着色層を形成する工程と、凹凸が形成された前記装飾筐体の基材表面に、前記着色層を介して、前記多層膜フィルムを貼り付ける工程を有していてもよい。また、前記多層膜フィルムの前記着色層が形成された側の表面に接着層を形成する工程を有していてもよい。
【0022】
また、表面に多層膜フィルムを有する装飾筐体の製造方法であって、凹凸が形成された前記装飾筐体の基材表面に、着色層を形成する工程と、前記多層膜フィルムの表面に、接着層を形成する工程と、前記着色層が形成された前記基材表面に、前記接着層を介して前記多層膜フィルムを貼り付ける工程を有していてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、干渉色を発揮する多層膜フィルムを用いた装飾筐体の所望の領域に色調の変化を生じさせることができ、装飾筐体の装飾性を容易かつ簡単に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の装飾筐体の実施形態について説明する。第1実施形態は、本発明の装飾筐体の基本的な実施形態であり、第2実施形態から第7実施形態は、本発明の装飾筐体の他の変形例である。また、第8実施形態から第18実施形態は、本発明の装飾筐体の製造方法に関する実施形態である。最後に、第19実施形態から第21実施形態では、本発明の装飾筐体を電子機器等に応用した例について説明する。
【0025】
(第1実施形態)
まず、本発明の基本的な実施形態である第1実施形態について、図1を用いて説明する。図1(a)は、本発明の装飾筐体の概略的な平面図を示し、図1(b)は、図1(a)のA−Aにおける概略的な断面図を示す。概略的に描いているのは、発明の内容を分かりやすくするためであり、同図の縮尺、縦横比等には限定されない。
図1(b)に示すように、例えば、熱可塑性樹脂からなる基材1上の全面に、多層膜フィルム2が形成されており、基材1には表面が平滑な第1領域3、及び表面に凹凸が形成された第2領域4が設けられている。ここで、「平滑」とは「平坦」を含む概念であり、表面形状が湾曲していない形状(平坦)だけでなく、湾曲していても凹凸、粗面等が形成されていない状態を示す。即ち、乱反射を起こさない表面形状を「平滑」としている。
図1(b)では、発明内容を理解しやすくするために、2層の場合を例示しているが、3層以上からなっていても良い。以下、他の図面における多層膜フィルムにおいても同様である。
【0026】
基材1の構造は、電子機器等を内蔵する空洞が設けられた筐体であってもよいし、内部にそのような空洞等を有さない、樹脂等が充填された構造であってもよい。基材1の材質は樹脂が好ましく、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(Acrylonitrile butadiene styrene、ABS)、ポリカーボネート(Polycarbonate、PC)、ポリメチルメタクリレート(Polymethylmethacrylate、PMMA)、ポリカABS等の熱可塑性樹脂が特に好ましい。また、凹凸等が形成可能であれば、金属等でもよく、金属の表面に樹脂を貼り付けた構造としてもよい。
【0027】
多層膜フィルム2は、ポリエチレンテレフタレート(Polyethyleneterephthalate、PET)からなり、膜厚は13〜19μmが好ましく、19μmが特に好ましい。19μmとすることで角度を変えたときに種々の色調の干渉色が得られ、装飾性が向上するという効果が得られる。
【0028】
ここで、第1領域3に当たった、例えば、自然光は多層膜フィルム2で反射されて、観察者に届き、多層膜フィルム2が干渉条件を満たす屈折率、膜厚を有している場合には、干渉色を示す。この干渉色を示す原理は上述したとおりであるが、図1(b)に示すように、第1領域3への入射光5、6は、多層膜フィルム2の表面及び底面で反射した2つの光の干渉作用により、観察者には色付いて見える。
【0029】
一方、第2領域4には凹凸が設けられ、この凹凸は複数の微小な突起からなる。第2領域4に入射された入射光7、8の反射光9、10は、角度によっては、干渉色を示さない場合もあり、或いは、干渉色を示す場合でも、第1領域3とは異なる干渉色を示す。これは、第1領域と第2領域とでは光の実効的な入射角、即ち、入射光が多層膜フィルムとなす角が異なるからである。そのため、第1領域3と第2領域4とでは、発色が異なる。
また、第2領域4の突起の傾斜面のなす角度がランダムであれば、特定の干渉色を示さず、多数の干渉色が混合されることとなる。その結果、第1領域3と第2領域4とでは、異なる色調を呈することになり、特に凹凸部が形成された第2領域4の干渉色はさまざまな色が混在し、さらに、微小な領域からの干渉色が角度によって変化するため、いわゆる「キラキラ感」を表現することができる。
図1(b)において、凹凸は多層膜フィルム2の表面、多層膜フィルム2の内部、及び多層膜フィルム2と基材1との界面の全てに形成されている例を示したが、多層膜フィルム2を構成する全ての薄膜に凹凸が形成されている必要はない。即ち、多層膜フィルム2を構成する複数の薄膜の一部に凹凸が形成された場合であっても、第2領域4における色調が、第1領域3の干渉色の色調と異なれば十分である。
また、図1(b)では凹凸部の形状として、表面に対して凹んだ構造を例示しているが、表面に対して凸構造となっていてもよい。
以下に述べる他の実施形態において、基本的な構造は第1実施形態と同様であるので、相違点に焦点を絞って説明する。
【0030】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態は、第2領域に形成する凹凸の一例として粗面を設ける点を特徴としている。図2(a)は、表面に多層膜フィルム2を設けた基材1の平面図であり、図2(b)は、図2(a)のB−Bにおける断面図である。基材1の表面には、表面が平滑な第1領域3及び、表面に粗面を形成した第2領域4が形成されている。
ここで「粗面」とは凹凸のピッチ、深さを非常に微細化したものである。粗面の微小な突起からの反射光は、干渉せずに乱反射され、かつ、第1領域からの反射光に比べて色調の角度依存性が小さくなるために、第1領域の色調とは異なった色調を表現することができる。
即ち、図2(b)に示すように、第1領域3に入射した光5、6は干渉色を示す一方、第2領域4への入射光11、12は多層膜フィルム2の表面及び基材1の表面で乱反射を起こし、干渉色を示さないため、第1領域3からの反射光と第2領域4からの反射光は、異なる色調を示す。このように第2領域4に粗面を形成することにより、比較的大きな凹凸を形成した場合とは異なる色調を表現することができる。
【0031】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。第1、第2実施形態では、第2領域を単純な形状とした例を示したが、第3実施形態では、これらとは異なり、図3のように、文字、記号等を形成する点を特徴としている。図3(a)は、基材1の表面に文字「ABC」の形状に沿って粗面を設けた基材1の平面図であり、図3(b)は、図3(a)のC−Cにおける断面図である。図3(a)、(b)に示すように、文字「ABC」を表現した部分には基材1の表面に微小な凹凸が形成されており、この第2領域4に入射した光は乱反射する一方、文字が形成されていない領域は平滑な第1領域3となって干渉色を示す。
したがって、第1領域3と第2領域4の色調に違いが生じ、色調の違いから文字「ABC」を認識することができる。これによって、多層膜フィルム形成工程に加えて、基材表面に製品名やメーカ名等の文字等を印刷等により付与する工程が不要になり、製造コストを低減することができる。
【0032】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について説明する。第4実施形態は、多層膜フィルム下部に着色層を設ける点を特徴としている。一般に多層膜フィルム自体は透明であり、干渉色を示さない条件で入射した光は、基材自体の色彩を反映した反射光が観察者に届く。この反射光を所望の色調とするために、図4に示すように、多層膜フィルム2と基材1の間に着色層13を設けるものである。
図4(a)は、表面が平滑な第1領域3と、表面に凹凸を有する第2領域4を設けた基材1の平面図であり、図4(b)は、図4(a)のD−Dにおける断面図を示す。図4(b)に示すように、基材1と多層膜フィルム2との間に着色層13を配置している。多層膜フィルム2は透明であるので、第1領域3からの反射光は、着色層の色と多層膜フィルム2の干渉色が重ね合わされた色調を呈する。一方、第2領域4では、凹凸により乱反射された光と着色層13からの反射光が重ね合わされて、第1領域3とは異なる色調を呈することとなる。
このような構成とすることで、干渉色と着色層の色とを組合せることができ、多彩な色調表現が可能となる。着色層は基材の全面に設けてもよいし、一部のみに設けてもよい、また着色層の色彩は単色でもよいし、複数の色を組み合わせてもよいし、領域ごとに変えてもよい。このように種々の組合せにより多彩な色調表現が可能となる。
【0033】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態について説明する。第5実施形態では、装飾筐体の一部を湾曲させて、湾曲部に乱反射を生じさせる凹凸を設ける点を特徴としている。
図5(a)は、表面が平滑な第1領域3と、表面に凹凸を有する第2領域4を設けた基材1の平面図を示し、図5(b)は、図5(a)のE−Eでの断面図を示す。図5(b)に示すように、基材1の一部に湾曲部14が設けられており、本実施形態においては、湾曲部14内に凹凸を設けて第2領域4を形成している。湾曲部14では、基材1に対する実効的な入射角が、湾曲した曲面に沿って変化するため、より複雑な色調を実現することができる。なお、湾曲部は第1領域3のみに設けてもよいし、第1領域3と第2領域4の両者に設けてもよい。
【0034】
(第6実施形態)
次に、第6実施形態について説明する。第6実施形態では、多層膜フィルムと基材との間に接着層を設ける点を特徴としている。
図6(a)は、表面が平滑な第1領域3と、表面に凹凸を形成した第2領域4とを設けた基材1の平面図であり、図6(b)は、図6(a)のF−Fにおける断面図である。図6(b)に示すように、基材1と多層膜フィルム2との間に接着層15を設けている。接着層として、厚さ数10μm程度のポリエステル樹脂を用いることができる。
接着層15を設けることにより、多層膜フィルム2と基材1との密着性を高めることができ、多層膜フィルム2が基材1から剥がれるのを防止することができる。また接着層15自体に着色を施してもよいし、接着層15の上部又は下部に着色層を配置してもよい。
【0035】
(第7実施形態)
次に、第7実施形態について説明する。第7実施形態では、基材自体には凹凸等を設けずに、多層膜フィルムの一部に凹凸等を設ける点を特徴としている。図7(a)は、表面が平滑な第1領域3と、表面に凹凸を形成した第2領域4とを設けた多層膜フィルムを貼り付けた基材1の平面図であり、図7(b)は、図7(a)のG−Gにおける断面図である。
図7(b)に示すように、本実施形態においては、乱反射を生じさせる第2領域4の基材1の表面を平滑とし、多層膜フィルム2に凹凸を設けている。第2領域4において、多層膜フィルム2の表面と底面に凹凸を設けているため、第1領域3とは実効的な入射角が異なり、第2領域4は第1領域3とは異なる色調を呈する。
本実施形態によれば、基材自体に凹凸等を設ける必要がないため、特に基材が非常に硬い材質でできている場合等、基材に凹凸等を形成することが困難な場合に有効である。ここで多層膜フィルムを構成する複数の薄膜のうち、凹凸等が設けられる層は、多層膜フィルムの表面側の薄膜でもよいし、底面、即ち基材との界面付近の薄膜でもよいし、図7(b)に示すように、その両方でもよい。即ち、多層膜フィルムに凹凸等が設けられることによって乱反射が生じれば、凹凸等がどの層に形成されていてもよい。第2領域4の面積が第1領域3の面積に対して小さく、膜剥がれの恐れがない場合には基材1と多層膜フィルム2の間に空気層を設けてもよく、接着強度を増すために接着剤を充填してもよい。
【0036】
(第8実施形態)
次に、本発明の製造方法に関する実施形態について、第8実施形態から第18実施形態において説明する。第8実施形態は、本発明の装飾筐体の凹凸を型押しによって製造する方法に関する。本実施形態は、上述した第1乃至第7実施形態の装飾筐体に適用できる。
図8に、本実施形態の製造方法の工程概略図を示す。まず、図8(a)に示すように、基材1の凹凸等を設ける表面側に型押し用の金型21を用意する。次に、図8(b)に示すように、基材1に金型21を密着させて、所定の時間、加熱しながら圧力を加える。冷却後、金型21を取り外すと、図8(c)に示すように所望の領域に凹凸が形成され、凹凸が形成されない第1領域3と、凹凸が形成された第2領域4が得られる。
次に図8(d)に示すように、多層膜フィルム2を上記の第1領域3及び第2領域4が形成された基材1の表面に密着させ、所定の時間、加熱しながら圧力を加える熱圧着により、基材1に多層膜フィルム2を貼り付ける。同図において、発明の内容を分かりやすくするために、多層膜フィルム2を1層として描いているが、実際には複数の層からなっている。このように、型押し用の金型を用いることにより、所望の凹凸パターンが容易に得られるため、本発明の装飾筐体を簡便に製造することができる。
【0037】
(第9実施形態)
次に、第9実施形態について説明する。第9実施形態は、第8実施形態と同様に型押しにより凹凸を形成する点で共通しているが、基材に直接型押しを行うのではなく、多層膜フィルムを基材に貼り付けた後に行う点を特徴としている。本実施形態は、上述した第1乃至第7実施形態の装飾筐体に適用できる。
図9は、第9実施形態の製造方法に関する、工程概略図である。まず、図9(a)に示すように、基材1に多層膜フィルム2を貼り付ける。次に図9(b)に示すように、所望の領域に凹凸を設けた型押し用の金型21を用意し、多層膜フィルム2の表面に向き合わせる。次に、図9(c)に示すように、多層膜フィルム表面に型押し用の金型21を密着させ、所定の時間、加熱しながら加圧する。次に図9(d)に示すように、冷却後に、型押し用の金型21を取り外す。
以上の手順により、多層膜フィルム2を基材1に貼り付けた後であっても、追加的に乱反射を生じさせる第2領域4を形成することが可能となる。また、予め基材1に凹凸を形成してから多層膜フィルム2を貼り付けた後に、さらに多層膜フィルム2に型押しを行って乱反射を生じさせる第2領域4を形成してもよい。このように組み合わせることで、第1実施形態で示したように、複数の製品に共通するパターンを多層膜フィルム貼り付け前の最初の型押しで形成した後、製品ごとに異なるパターンを本実施形態のように多層膜フィルム貼り付け後に個別に形成することができ、また、異なる色調を呈する凹凸を組み合わせることもできる。
【0038】
(第10実施形態)
次に、第10実施形態について説明する。第10実施形態では、凹凸を形成する手段としてレーザビーム等を用いる点を特徴としている。本実施形態は、上述した第1乃至第7実施形態の装飾筐体に適用できる。
本実施形態について、図10の工程概略図を用いて説明する。まず、図10(a)に示すように、レーザ光源22から出射されたレーザビーム23を基材1の表面の凹凸を形成する領域(第2領域)に走査しながら照射する。図10(b)に示すように、レーザビーム23を照射した部分には凹凸が形成される。
次に、図10(c)に示すように、基材1の表面に多層膜フィルム2を用意し、両者を熱圧着又は接着剤による接着により貼り付ける。そうすると、図10(d)に示すように、表面が平滑で干渉色を示す第1領域3と、表面に凹凸が形成され乱反射を起こす第2領域4が得られる。
この方法によれば、型押し用の金型をあらかじめ用意しなくて済み、個別に迅速に凹凸を形成することが可能となる。また、金型では実現不可能な微細なパターンを形成することも可能となる。レーザの種類としてはYAGレーザ、エキシマレーザ等、基材の材質に応じて種々のレーザが選択可能である。本実施形態ではレーザビームを走査することにより凹凸を形成しているが、メタルマスク等を利用して一括露光により凹凸を形成してもよい。この場合は、露光プロセスが短時間で完了するため、製品のスループットを高めることができる。
【0039】
(第11実施形態)
次に、第11実施形態について説明する。第11実施形態は、多層膜フィルムを基材に貼り付ける前に、所望の形状に加工する点を特徴としている。本実施形態は、上述した第1乃至第7実施形態の装飾筐体に適用できる。
図11は、加工用の冶具としてビク型を用いて、多層膜フィルムを加工する一連の工程の概略図を示す。ビク型とは、ベースの樹脂板等にレーザで形成した溝と同じ形状に曲げた鋼の刃物を埋め込んだ、打抜き加工用の型をいう。金型に比べて低コスト、短納期のため、シート打抜き加工の分野で、幅広く使用されている。
まず、図11(a)、(b)に示すように、多層膜フィルム2に接着層となるポリエステル樹脂層24を貼り付ける。次に図11(c)に示すように、多層膜フィルム2に所望のパターンを得るためのビク型25を押し付け、所望の形状にカットする。ビク型の歯26は所望の形状の周囲に沿って設けられており、閉じたループを描いている。
次に、図11(d)に示すように、一旦押し込んだビク型を引き上げ、余剰部分を取り除くと、図11(e)に示すように、所望の形状の多層膜フィルム2が得られる。この多層膜フィルム2を第1実施形態と同様の方法で、表面の一部に凹凸を設けた基材1に貼り付けることにより、本発明の装飾筐体が得られる。
ビク型の製作は比較的容易であるため、ビク型を用いることにより、打ち抜き用の金型を用いた場合に比べて、所望の形状を有する多層膜フィルムを容易に入手できるというメリットがある。
【0040】
(第12実施形態)
次に、第12実施形態について説明する。第12実施形態は、基材を射出成形により形成している点を特徴としている。本実施形態は、上述した第1乃至第6実施形態の装飾筐体に適用できる。
図12は、射出成形による製造方法の一連の工程概略図を示す。まず、図12(a)に示すように、外側の金型27を用意する。金型27の凹部の内面の、筐体の凹凸を形成する領域に、例えば、放電加工によって金型製作時に凹凸28を形成する。この凹凸は、一般に「梨地」とも呼ばれる。また、多層膜フィルム2をローラ29に巻いた状態で金型27を覆うように配置する。
次に図12(b)に示すように、内側の金型30を金型27の内部に組み込む。このとき、多層膜フィルム2はローラ29から引き出され、金型27の内壁に配置される。金型30にも、金型27に形成された凹凸28と対応する位置に凹凸が形成されている。また、内側の金型30と外側の金型27との間に、基材が射出成型される空間が形成される。金型30には、この空間に樹脂を射出するための孔が形成されており、この孔と連結した樹脂貯蔵部31が設けられている。
次に、図12(c)に示すように、樹脂貯蔵部31に貯蔵した加熱した熱可塑性樹脂を高圧で、金型27及び30の間に形成された空間に射出して、基材1を形成する。このとき、基材1は金型に沿った形に成型され、多層膜フィルム2及び基材1に凹凸が形成される。
次に、図12(d)に示すように、熱可塑性樹脂を冷却して固まった後、金型を取り外し、不要な部分を除去することにより、多層膜フィルム2を所定の位置に設けた基材1が得られる。
本実施形態では、梨地を形成する方法として、放電加工による例を示したが、シボ加工、ブラスト加工、レーザ加工を用いてもよい。また、多層膜フィルムをローラから引き出して金型の凹部内に配置する例を示したが、予め多層膜フィルムを所定の形状に成形した後、金型の凹部内に配置してもよい。
この製造方法により、表面の一部に凹凸を設けた基材の成形と多層膜フィルムの貼付とを1回の工程で行うことができ、工程を短縮できるというメリットがある。
【0041】
(第13実施形態)
次に、第13実施形態について説明する。第13実施形態は、微細なパターンを有する凹凸形状の形成方法として、ナノインプリント技術を利用している点を特徴としている。本実施形態は、上述した第1乃至第7実施形態の装飾筐体に適用できる。
まず、図13(a)に示すように、所望の位置に凹凸形状が形成された、ニッケルモールドからなるナノスタンパ32を用意し、熱可塑性樹脂であるポリカーボネートからなる基材1の凹凸を形成する側の面と向き合わせる。基材1は、樹脂の性状に合わせて、ガラス転移温度より高い温度で軟化させる。例えば、ポリカーボネートの場合は、ガラス転移温度より10〜20℃高い、120℃にまで加熱することで軟化させる。
次に、図13(b)に示すように、基材1とナノスタンパ32とを密着させ、加圧することにより、ポリカーボネートをナノスタンパの凹凸に入り込ませる。
次に、ガラス転移点以下になるまで冷却を行い、図13(c)に示すように、ナノスタンパ32と基材1とを離すことにより,ナノスタンパ32の凹凸の逆パターンが基材1に転写される。次に、図13(d)に示すように、基材1上に多層膜フィルム2を貼り付け、平滑で干渉色を示す第1領域3と、凹凸が形成され乱反射を生ずる第2領域4が形成される。ナノスタンパを用いることにより、高精度加工、高スループットが実現可能となる。なお、ナノスタンパの材質としてニッケルを用いる例を示したが、これには限定されない。
【0042】
(第14実施形態)
次に、第14実施形態について説明する。第14実施形態は、多層膜フィルムと基材とを接着する接着剤を有機溶剤に溶解してから塗布する点に特徴がある。本実施形態は、上述した第6実施形態の装飾筐体に適用できる。
図14は、多層膜フィルムと基材とを接着する役割を果たす、ポリエステル樹脂層を用いた多層膜フィルムの製造工程を示す概略図である。まず図14(a)に示すように、ポリエステル樹脂を有機溶剤に溶解させて樹脂液33とする。次に、図14(b)に示すように、ダイコータ34により、ロールを用いて図面右方向に送りながら、多層膜フィルム2の表面に樹脂液33を塗布する。ここで、樹脂液33を塗布する前に、多層膜フィルムと樹脂液33との濡れ性を改善するために、表面改質を行うこともできる。表面改質は、例えば光源36からエキシマUV光線35を照射することにより行うことができる。次に、図14(c)に示すように、ヒータ37を用いて多層膜フィルム2を加熱し、有機溶剤を蒸発させ、ポリエステル樹脂層38を形成する。その後、所定の形状に成形し、基材に貼り付ける。
本実施形態においてはダイコータを利用した例を示したが、バーコータを利用してもよく、各種印刷技術を用いることもできる。また、多層膜フィルムに有機溶剤を塗布する前の表面改質の方法として、コロナ処理、フレーム処理を行うこともできる。本発明により、均一な膜厚を有し、空隙等がない良好な膜質を有するポリエステル樹脂層を容易に得ることができる。また、表面改質を行うことにより、密着性に優れた装飾筐体を得ることができる。
【0043】
(第15実施形態)
次に、第15実施形態について説明する。第15実施形態においては、第14実施形態と同様の製造方法において有機溶剤にポリエステル樹脂と添加剤を添加する点を特徴としている。本実施形態は、上述した第6実施形態の装飾筐体に適用できる。
本実施例では、図14(a)において、有機溶剤にポリエステル樹脂を溶解する際に、添加剤を添加する。次に、図14(b)に示すように、ダイコータ34を用いて、多層膜フィルム2に樹脂液33を塗布し、図14(c)に示すように、ヒータ37を用いて加熱して、有機溶剤を蒸発させることによりポリエステル樹脂層を得ることができる。
ここで添加剤として、ポリイソシアネート、プラスチック用添加剤を利用することができる。添加剤を添加することにより、多層膜フィルムと基材との間の接着力を強化することができる。
【0044】
また、有機溶剤にポリエステル樹脂及び添加剤を添加した後に、液体の状態で攪拌してもよい。この攪拌工程を追加することにより、添加剤とポリエステル樹脂とが均一に分布することとなり、多層膜フィルムへの塗布、有機溶剤の蒸発を行った後、添加剤が均一に分布したポリエステル樹脂層を得ることができ、多層膜フィルムと基材との接着強度が均一な多層膜フィルムを得ることができる。
【0045】
(第16実施形態)
次に、第16実施形態について説明する。第16実施形態は、多層膜フィルムの片方の面に着色層を設けている点を特徴とする。本実施形態は、上述した第4実施形態の装飾筐体に適用できる。
図15は、本実施形態の製造方法の工程概略図である。まず、図15(a)に示すように、多層膜フィルム2を用意し、図15(b)に示すように、多層膜フィルムの片面(基材貼付後に外側にならない面)に顔料層を塗布して、着色層39を形成する。この顔料の代わりに染料を用いてもよい。
次に、図15(c)に示すように、表面の一部に凹凸を設けた基材1の表面に多層膜フィルム2を貼り付ける。ここで、着色層39が多層膜フィルム2と基材1との間に設けられるように貼り付ける。
このような構成とすることにより、基材の色とは異なる色を表現することができる。また、着色層の色と干渉色とを組み合わせた色や、着色層に凹凸を設けた領域での乱反射による色を表現することができ、装飾性をさらに高めることができる。なお、着色層は基材1の全面に設けるだけでなく、所望の領域に設けてもよい。
【0046】
(第17実施形態)
次に、第17実施形態について説明する。第17実施形態は、印刷により多層膜フィルムに品名等を設ける点を特徴としている。本実施形態は、上述した第1乃至第7実施形態の装飾筐体に適用できる。
図16は、本実施形態の製造方法の工程概略図を示す。まず、図16(a)に示すように多層膜フィルム2を用意し、次に、図16(b)に示すように、多層膜フィルム2の片面(基材貼付後に外側にならない面)に顔料層40を用いて、品名、社名、ロゴ等を印刷する。顔料の代わりに染料等を用いることもできる。
次に、図16(c)に示すように、接着剤として用いるポリエステル樹脂層41を貼り付ける。次に、図16(d)に示すように、表面の一部に凹凸部を設け、他の部分は平滑である熱可塑性樹脂からなる基材1に多層膜フィルム2を貼り付ける。
このような構成とすることにより、品名等に奥行き感がある表現となる装飾技術が実現できる。さらに、品名等を顔料等による着色と、多層膜フィルムによる干渉色との組合せで表現することや、顔料等の着色と、凹凸部による乱反射による色調との組み合わせで表現することができ、多彩な表現により装飾性を高めることができる。
【0047】
(第18実施形態)
次に、第18実施形態について説明する。第18実施形態は、第17実施形態と同様に品名等を設ける点では同一であるが、品名等を基材表面に設ける点を特徴としている。本実施形態は、上述した第1乃至第7実施形態の装飾筐体に適用できる。
図17は、本実施形態の製造方法の工程概略図を示す。まず、図17(a)に示すように表面の一部に凹凸部を設け、他の領域は平滑である熱可塑性樹脂筐体からなる基材1を用意する。次に、図17(b)に示すように、基材1の表面の一部に顔料層42を用いて、品名、社名、ロゴ等を印刷する。顔料の代わりに染料等を用いることもできる。ここで、印刷は平滑部と凹凸部の一方のみに設けてもよいし、両方に設けてもよい。
次に、図17(c)に示すように、接着剤として用いるポリエステル樹脂層43を貼り付けた多層膜フィルム2を用意する。次に、図17(d)に示すように、表面の一部に凹凸を設けた基材1に多層膜フィルム2を貼り付ける。
このような構成とすることにより、品名等に奥行き感がある表現となる装飾技術が実現できる。さらに、品名等を顔料等による着色と多層膜フィルムによる干渉色との組合せで表現することや、顔料等の着色と凹凸部による乱反射による色調との組み合わせで表現することができ、多彩な表現により装飾性を高めることができる。
【0048】
(第19実施形態)
次に、第19実施形態について説明する。本実施形態は、本発明の多層膜フィルムによる装飾をパソコン用のマウスに適用した実施例に関する。
図18は、熱可塑性樹脂からなる筐体に、多層膜フィルムを貼り付けたマウス44の斜視図を示す。マウス表面は一部を除き平滑な領域で覆われており、表面の一部には微細な凹凸が設けられている。この凹凸によって、乱反射領域が形成され、文字「ABC」45を表現している。文字45が形成されていない平滑な領域では、多層膜フィルムによる干渉色を示す一方、文字45が形成された領域では凹凸によって乱反射が生じ、平滑な領域の干渉色とは異なる色調を有する。
このように部分的に色調に変化を与えることにより、装飾性を高めることができる。さらに、文字によって品名等を表現することができ、新たに品名等を印字等により追加する必要がなくなり、製品の製造プロセスを簡略化できる。本実施形態においては、製品の一例としてマウスを用いた例を示したが、干渉色を生じるフィルムを貼り付けた筐体の一部に乱反射する領域を設けることは、パーソナルコンピュータ等の他の電子デバイスの場合でも同様に実施でき、装飾性を高めることができることは言うまでもない。
【0049】
(第20実施形態)
次に、第20実施形態について説明する。第20実施形態は本発明の多層膜フィルムをメモリカードに適用した実施例に関する。図19は、メモリカードの平面図を示す。図19に示すように、熱可塑性樹脂筐体からなるメモリカード本体46に着色層を設け、着色層上に干渉色を生ずる多層膜フィルムを形成するとともに、一部に凹凸を設け、乱反射を生じさせ色調が異なる領域を形成している。この乱反射を生じる領域によって文字47を表現している。
多層膜フィルム自体が無色である場合には、着色層に付した色と干渉色とが混ざり合う結果、多彩な色表現が可能となるとともに、乱反射を生じさせる領域を設けることによって、平滑な領域とは色調が異なる領域が形成され、装飾性を高めることができる。さらに、製造メーカ名や、製品番号等を乱反射する領域を用いて表現することもでき製品番号等を新たに付与する工程を省略することができる。なお、メモリカード以外にも、USBメモリにも適用できる。
【0050】
(第21実施形態)
次に、第21実施形態について説明する。第21実施形態は、本発明の多層膜フィルムを携帯電話に適用した例に関する。図20は折りたたみ式携帯電話48の斜視図を示す。一部に凹凸領域49を形成した熱可塑性樹脂からなる携帯電話の筐体の表面に、多層膜フィルムを貼り付け、凹凸を形成していない平滑な領域には多層膜フィルムによる干渉色を発色させ、凹凸を設けた領域では乱反射を生じさせている。図20に示すように、凹凸領域49は、携帯電話48の上側部分の上部平面だけでなく側面にも形成されている。
【0051】
この実施例では、携帯電話の上側部分の上部平面は平坦となっており、干渉色を生じる多層膜フィルムを貼り付けたとしても、平坦な領域内では観察者に対する反射角が一定であるので干渉色も一定となり、色調が単調となる。しかし、平坦な領域50の一部に凹凸領域49を形成することにより、色調が異なる領域を形成することができ、装飾性を高めることができる。
また、携帯電話の上側部分の上部と側面との間の周縁部は湾曲しており、この領域に多層膜フィルムを形成するとともに、湾曲した部分の一部に乱反射を生じさせる領域をも形成している。このような構成とすることにより、湾曲部の平滑な部分においては、平坦部とは反射角が変わることにより、見る角度により干渉色の変化が生じる一方、湾曲部の乱反射領域では、色調の角度依存性が平滑部よりも小さいことにより、色調の見る角度による変化は小さくなる。この結果、湾曲部では、平滑部と凹凸部とでは色調のコントラストが強調され、メリハリの利いた極めて優れた装飾性を発揮することができる。本実施例においては携帯電話を例にとって説明したが、携帯音楽プレーヤや、モバイル端末等の他の電子機器でも同様に実施可能である。
以上の実施形態においては、平滑な領域及び凹凸を有する領域を設ける対象として、筐体の場合を例にとって説明したが、筐体以外の基材、例えば置物のように、電子デバイス等を内蔵しないものであっても同様に、装飾性を向上させる効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】第1実施形態に係る装飾筐体の平面図及び断面図である。
【図2】第2実施形態に係る装飾筐体の平面図及び断面図である。
【図3】第3実施形態に係る装飾筐体の平面図及び断面図である。
【図4】第4実施形態に係る装飾筐体の平面図及び断面図である。
【図5】第5実施形態に係る装飾筐体の平面図及び断面図である。
【図6】第6実施形態に係る装飾筐体の平面図及び断面図である。
【図7】第7実施形態に係る装飾筐体の平面図及び断面図である。
【図8】第8実施形態に係る装飾筐体の製造方法の工程概略図である。
【図9】第9実施形態に係る装飾筐体の製造方法の工程概略図である。
【図10】第10実施形態に係る装飾筐体の製造方法の工程概略図である。
【図11】第11実施形態に係る装飾筐体の製造方法の工程概略図である。
【図12】第12実施形態に係る装飾筐体の製造方法の工程概略図である。
【図13】第13実施形態に係る装飾筐体の製造方法の工程概略図である。
【図14】第14実施形態に係る装飾筐体の製造方法の工程概略図である。
【図15】第16実施形態に係る装飾筐体の製造方法の工程概略図である。
【図16】第17実施形態に係る装飾筐体の製造方法の工程概略図である。
【図17】第18実施形態に係る装飾筐体の製造方法の工程概略図である。
【図18】本発明の一実施例であるマウスの斜視図である。
【図19】本発明の一実施例であるメモリカードの平面図である。
【図20】本発明の一実施例である携帯電話の斜視図である。
【図21】干渉色が生じる原理を説明する装飾筐体の断面図である。
【図22】従来技術に係る装飾材の断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 装飾筐体
2 多層膜フィルム
3 第1領域
4 第2領域
5、6、7、8、11、12 入射光
9、10 反射光
13 着色層
14 湾曲部
15 接着層
21 金型
22 レーザ光源
23 レーザビーム
24 ポリエステル樹脂層
25 ビク型
26 歯
27 金型
28 凹凸
29 ローラ
30 金型
31 樹脂貯蔵部
32 ナノスタンパ
33 樹脂液
34 ダイコータ
35 エキシマUV光線
36 光源
37 ヒータ
38、41、43 ポリエステル樹脂層
39、40 着色層
42 顔料層
44 マウス
45 文字
46 メモリカード
47 文字
48 携帯電話
49 凹凸領域
50 平坦な領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率が異なる複数の薄膜を積層した多層膜フィルムが、基材の表面に接着された装飾筐体であって、
前記多層膜フィルムの表面が、凹凸に形成されたことを特徴とする装飾筐体。
【請求項2】
前記多層膜フィルムの表面が、前記凹凸に形成された領域と、平滑に形成された領域を含むことを特徴とする請求項1記載の装飾筐体。
【請求項3】
前記多層膜フィルムと前記基材表面との間に、接着層を有することを特徴とする請求項1または2に記載の装飾筐体。
【請求項4】
前記接着層は、ポリエステル樹脂を含むことを特徴とする請求項3に記載の装飾筐体。
【請求項5】
前記多層膜フィルムと前記基材表面との間に、着色層を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の装飾筐体。
【請求項6】
前記多層膜フィルムの厚さが、13〜19ミクロンであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の装飾筐体。
【請求項7】
前記基材は、樹脂からなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の装飾筐体。
【請求項8】
前記樹脂は、熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項7に記載の装飾筐体。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の前記装飾筐体を有する電子デバイス。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の前記装飾筐体を有する携帯電話。
【請求項11】
表面に多層膜フィルムを有する装飾筐体の製造方法であって、
前記装飾筐体の基材表面に、型押しにより凹凸を形成する工程と、
形成された前記凹凸を含む前記基材表面に、多層膜フィルムを貼り付ける工程とを有することを特徴とする装飾筐体の製造方法。
【請求項12】
表面に多層膜フィルムを有する装飾筐体の製造方法であって、
前記装飾筐体の基材表面に、前記多層膜フィルムを貼り付ける工程と、
前記多層膜フィルム上から、型押しすることにより、前記基材表面に凹凸を形成する工程とを有することを特徴とする装飾筐体の製造方法。
【請求項13】
前記型押しのための部材における凹凸はナノインプリントにより形成されていることを特徴とする請求項11または12に記載の装飾筐体の製造方法。
【請求項14】
表面に多層膜フィルムを有する装飾筐体の製造方法であって、
前記装飾筐体の基材の表面に、レーザビームを照射して該基材の表面に凹凸を形成する工程と、
形成された前記凹凸を含む前記基材表面に、多層膜フィルムを貼り付ける工程とを有することを特徴とする装飾筐体の製造方法。
【請求項15】
前記接着された多層膜フィルムの余剰部分をビク型により切断する工程を含むことを特徴とする請求項11乃至14のいずれか一項に記載の装飾筐体の製造方法。
【請求項16】
表面に多層膜フィルムを有する装飾筐体の製造方法であって、
凹部の内面に凹凸が形成された金型の該凹部内に、前記多層膜フィルムを配置する工程と、
前記金型の前記凹部内に前記多層膜フィルムを介して、前記装飾筐体の基材となる熱可塑性樹脂を射出する工程と、
冷却後に、前記多層膜フィルムが接着された前記基材を前記金型の凹部から取り出す工程とを有することを特徴とする装飾筐体の製造方法。
【請求項17】
表面に多層膜フィルムを有する装飾筐体の製造方法であって、
接着剤を有機溶剤に溶かした樹脂液を多層膜フィルム上に塗布する工程と、
前記樹脂液が塗布された前記多層膜フィルムを加熱して前記有機溶剤を除去し、接着層を形成する工程と、
凹凸が形成された前記装飾筐体の基材表面に、前記接着層を介して前記多層膜フィルムを貼り付ける工程とを有することを特徴とする装飾筐体の製造方法。
【請求項18】
前記塗布工程において、前記塗布はバーコータまたはダイコータにより行われることを特徴とする請求項17に記載の装飾筐体の製造方法。
【請求項19】
前記塗布工程の前において、前記多層膜フィルムの表面に、コロナ処理又はフレーム処理が施されることを特徴とする請求項17または18に記載の装飾筐体の製造方法。
【請求項20】
前記有機溶剤は、ポリイソシアネート又はプラスチック用添加剤が添加されていることを特徴とする請求項17乃至19のいずれか一項に記載の装飾筐体の製造方法。
【請求項21】
表面に多層膜フィルムを有する装飾筐体の製造方法であって、
前記多層膜フィルムの片側の面に着色層を形成する工程と、
凹凸が形成された前記装飾筐体の基材表面に、前記多層膜フィルムを前記着色層を介して貼り付ける工程を有することを特徴とする装飾筐体の製造方法。
【請求項22】
前記多層膜フィルムの前記着色層が形成された側の表面に接着層を形成する工程を有することを特徴とする請求項21に記載の装飾筐体の製造方法。
【請求項23】
表面に多層膜フィルムを有する装飾筐体の製造方法であって、
凹凸が形成された前記装飾筐体の基材表面に、着色層を形成する工程と、
前記多層膜フィルムの表面に、接着層を形成する工程と、
前記着色層が形成された前記基材表面に、前記接着層を介して前記多層膜フィルムを貼り付ける工程を有することを特徴とする装飾筐体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2009−834(P2009−834A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−161608(P2007−161608)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(501398606)富士通コンポーネント株式会社 (848)
【Fターム(参考)】