説明

補填材加工用工具

【課題】 被加工物である生体組織補填材を汚染することなく、簡易かつ低コストに加工する。
【解決手段】 生体組織補填材を加工する補填材加工用工具1であって、少なくとも生体組織補填材に接触する加工面4が、生体組織補填材と同種の材質で、かつ、生体組織補填材よりも硬度の高い材質からなる補填材加工用工具1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織補填材を加工するために用いられる補填材加工用工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生体材料を研磨する工具として、例えば、特許文献1に示される構造のものがある。
この工具は、生体適合性を有するバイオセラミックス粒子の表面に、このバイオセラミックス粒子より粒子径が小さくかつ生体適合性を有する複合砥粒を固定して複合化したものである。
【特許文献1】特開平10−113874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1の工具は、複合砥粒を基材に固定するために、バインダが必要であり、バインダについては砥粒とは別の材料で構成せざるを得ないため、加工時に砥粒が剥がれると、バインダも剥がれて被加工物である生体材料に付着し、汚染してしまう不都合が考えられる。この不都合を回避するためには、バインダも生体適合性を有する材料で構成する必要がある。
【0004】
また、特許文献1の工具は、粒子径の小さな砥粒を粒子径の大きなバイオセラミックス粒子の表面に固定した複合砥粒を、さらに基材の表面に固定する構造のものであり、工程が複雑になって、製造コストが高く付くという問題もある。また、基材とは別個の砥粒をバインダと接着する構造のものであるため、バインダの接着能力によっては、砥粒が基材表面から脱落しやすく、脱落してしまうと、工具として再使用することができないという不都合がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、被加工物である生体組織補填材を汚染することなく、簡易かつ低コストに加工することができる補填材加工用工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、生体組織補填材を加工する補填材加工用工具であって、少なくとも生体組織補填材に接触する加工面が、生体組織補填材と同種の材質で、かつ、生体組織補填材よりも硬度の高い材質からなる補填材加工用工具を提供する。
【0007】
本発明によれば、加工面に生体組織補填材を接触させて相対的に移動させることにより、生体組織補填材の表面が加工面によって加工される。加工面が生体組織補填材よりも硬度の高い材質によって構成されているので、加工面に接触する生体組織補填材が加工面によって削り取られ、所望の形態に加工されることになる。
【0008】
この場合において、補填材加工用工具の少なくとも加工面が、加工される生体組織補填材と同種の材質により構成されているので、加工中に加工面が削れて生体組織補填材に付着しても、生体組織補填材が汚染されることがない。すなわち、基材と砥粒とをバインダにより結合した従来の工具と異なり、加工の進行によって砥粒が基材から剥がれ、バインダが生体組織補填材に付着してしまう不都合を防止することができる。
【0009】
上記発明においては、生体組織補填材が多孔性の材質からなり、少なくとも生体組織補填材に接触する加工面が、生体組織補填材と同種の材質で、かつ、生体組織補填材よりも気孔率の低い材質からなることとしてもよい。
本発明によれば、加工面に生体組織補填材を接触させて相対的に移動させることにより、生体組織補填材の表面が加工面によって加工される。加工面が生体組織補填材よりも気孔率の低い材質によって構成されているので、加工面が生体組織補填材よりも緻密構造によって高い硬度となっている。したがって、加工面に接触する生体組織補填材が加工面によって削り取られ、所望の形態に加工されることになる。
【0010】
この場合においても、加工中に加工面が削れて、その削り屑が生体組織補填材に付着しても、その削り屑も生体組織補填材と同種の材質によって構成されているので、生体組織補填材を汚染することがない。
【0011】
また、上記発明においては、前記加工面がヤスリ面からなることとしてもよい。
このように構成することで、加工面に対して生体組織補填材を摺動させ、あるいは生体組織補填材に加工面を摺動させて、生体組織補填材を表面から削って所望の形態に加工することができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記加工面が、鋸歯からなることとしてもよい。
このように構成することで、加工面である鋸歯を生体組織補填材に立てて摺動させることにより、鋸歯によって生体組織補填材を切断加工することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、被加工物である生体組織補填材と同種の材質からなる加工面を備えているので、該加工面によって生体組織補填材を加工しても、生体組織補填材にバインダ等の異物が混入する虞がない。したがって、生体組織補填材を汚染することなく、所望の形態に加工することができる。また、基材に砥粒をバインダを用いて固着する従来の方法と比較して、生体組織補填材と同等の方法で簡易に構成することができるので、コストを低減することができる。さらに、加工面が削れて、加工能力が低下した場合には、目立てにより容易に加工能力を回復して、上記と同様に、生体組織補填材を汚染することなく容易に加工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係る補填材加工用工具について、図1を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る補填材加工用工具1は、図1に示されるように、平板状に形成された工具本体2の一面に、複数の突起3を一体的に形成して構成されたヤスリ面4を備えている。
【0015】
本実施形態に係る補填材加工用工具1は、例えば、削られる被加工物であるブロック状の生体組織補填材が、βリン酸三カルシウム(β−TCP)からなる場合には、同様にβ−TCPによって構成されている。補填材加工用工具1は、削られる生体組織補填材よりも高い硬度を有している。
【0016】
本実施形態に係る補填材加工用工具1は、炭酸カルシウム粉末とリン酸水素カルシウム2水和物と純水とを攪拌して得られたスラリーを乾燥した後に仮焼し、得られた仮焼粉末にアクリル酸アンモニウム系の解こう剤、純水およびポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル系の界面活性剤を添加して構成したスラリーを型に入れて乾燥させた後に本焼成することにより製造されている。焼成温度を生体組織補填材の焼成温度よりも50℃程度高い温度に設定する。例えば、生体組織補填材の焼成温度が1050℃の場合には、1100℃、1100℃の場合には1150℃の焼成温度とする。このようにすることによって、補填材加工用工具1は、生体組織補填材の気孔率より約10%以上低い気孔率を有する緻密構造に構成される。
【0017】
このように構成された本実施形態に係る補填材加工用工具1によれば、ヤスリ面4が生体組織補填材よりも硬度の高い材質により構成されているので、ヤスリ面4に生体組織補填材を摺り付けることによって、ヤスリ面4上の突起3によって生体組織補填材の表面を削り取り、簡易に、所望の形態に形成することができる。
この場合において、ヤスリ面4は、生体組織補填材を加工する間に、生体組織補填材によって逆に若干削られることになる。しかしながら、ヤスリ面4は生体組織補填材と同一の材質によって構成されているので、削られた削り屑が生体組織補填材に付着することになっても汚染等の問題を生ずることがない。
【0018】
また、本実施形態に係る補填材加工用工具1によれば、砥粒をバインダによって基材に付着させる従来の工具とは異なり、生体組織補填材と同一材料を成形して構成されているので、加工によってヤスリ面4の突起3が磨り減った場合には、目立てを行うことにより、突起3を再生することができる。したがって、砥粒が剥がれることにより使用できなくなる従来の工具と異なり、目立てを繰り返して保守することにより、比較的長期にわたって耐久的に使用することができるという利点がある。
【0019】
なお、本実施形態に係る補填材加工用工具1においては、焼成温度を上げることにより、生体組織補填材よりも硬度を高くすることとしたが、これに代えて、スラリーに含める発泡剤の量を低減することにより、生体組織補填材よりも気孔率を小さくして緻密に構成することにしてもよい。また、湿式発泡法により製造する場合について説明したが、これに代えて、生体組織補填材の材料粉末をプレスによって押し固めた成形体を焼成するホットプレス法を採用することにより、生体組織補填材と同種の材料からなる緻密構造体を製造することにしてもよい。
【0020】
また、突起3の数や大きさとしては任意のものを選択することができ、大きな突起3を比較的少ない数だけ設けることにより、目の粗いヤスリ面4を構成し、小さな突起3を比較的多く設けることにより目の細かいヤスリ面4を構成することができる。また、突起3の形状は、図1に示されるように、一方向(矢印の方向)に摺動させられる生体組織補填材を削り、他の方向に摺動させられる生体組織補填材は削れないように、方向性を持たせてもよいし、いずれの方向に摺動させられる生体組織補填材をも切削することができるようにしてもよい。
【0021】
また、ヤスリ面4の形状として、平板状の工具本体2を有するものについて説明したが、これに代えて、図2に示されるように、断面略半円形の工具本体2′、または、図3に示されるような棒状の工具本体2″を構成することにしてもよい。
生体組織補填材の形態に合わせて適当な補填材加工用工具1を選択して用いることにすればよい。
【0022】
また、上記実施形態においては、生体組織補填材と同一の材料によって工具全体を製造することとしたが、これに代えて、図4に示されるように、少なくともヤスリ面4のみを生体組織補填材と同一の材料によって構成することにしてもよい。このようにすることで、生体組織補填材と同一の材料により構成されたヤスリ面4を周囲の枠体5によって保持させることにより、枠体5によって強度を確保し、ヤスリ面4に割れが生ずることを防止できる。
【0023】
また、ヤスリ面4を支持する枠体5に、把持用の取っ手6を設けることにしてもよい。このようにすることで、加工時に取っ手6を把持してヤスリ面4を安定させ、さらに容易に生体組織補填材を加工することができる。
また、本実施形態に係る補填材加工用工具1、1′は、ヤスリ面4を有するヤスリを例に挙げて説明したが、これに代えて、図5に示されるように、鋸歯7を有するノコギリ8を採用することにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る補填材加工用工具を示す斜視図である。
【図2】図1の補填材加工用工具の第1の変形例を示す斜視図である。
【図3】図1の補填材加工用工具の第2の変形例を示す斜視図である。
【図4】図1の補填材加工用工具の第3の変形例を示す斜視図である。
【図5】図1の補填材加工用工具の第4の変形例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0025】
1 補填材加工用工具
4 ヤスリ面(加工面)
7 鋸歯(加工面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織補填材を加工する補填材加工用工具であって、
少なくとも生体組織補填材に接触する加工面が、生体組織補填材と同種の材質で、かつ、生体組織補填材よりも硬度の高い材質からなる補填材加工用工具。
【請求項2】
生体組織補填材が多孔性の材質からなり、
少なくとも生体組織補填材に接触する加工面が、生体組織補填材と同種の材質で、かつ、生体組織補填材よりも気孔率の低い材質からなる請求項1に記載の補填材加工用工具。
【請求項3】
前記加工面がヤスリ面からなる請求項1または請求項2に記載の補填材加工用工具。
【請求項4】
前記加工面が、鋸歯からなる請求項1または請求項2に記載の補填材加工用工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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