説明

複合工具

【課題】
工具回転軸に対して、同軸に取り付けることが可能なフライス切削刃と超砥粒砥石から構成される複合工具において、内周側のフライス切削刃から生じる切り屑が、スムーズに外部へ排出される高能率加工が可能な複合工具を提供することである。
【解決手段】
超砥粒砥石の超砥粒層にスリットを設け、スリットの開口部は少なくとも、軸心と、フライス切削刃の外周部とを結ぶ線上から40度以内の角度に形成し、フライス切削刃先端部からのチップポケット最深部までの距離dは、フライス切削刃先端部からスリット最深部までの距離Dよりも小さくし、フライス切削刃のラジアルレーキ角は、マイナス1度〜マイナス15度に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具回転軸に対して、同軸に取り付けることが可能なフライス切削刃と超砥粒砥石から構成される、複合工具に関するものである。特に、内周側のフライス切削刃から生じる切り屑が、外周側の超砥粒砥石に設けられたスリットを通じて、スムーズに排出される構造を有する高能率加工が可能な複合工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
同軸に取り付けられたフライス切削刃と超砥粒砥石から構成される、複合工具としては以下のものが知られている。
アルミ合金鋳物のバリを研削加工で除去すると同時に、バリの除去された鋳物表面をフライス切削刃により仕上げることが可能な正面フライス切削刃と、カップ型超砥粒砥石からなる複合工具が知られている。この複合工具は、カップ型超砥粒砥石を正面フライス切削刃の刃部を取り囲むように同軸に固定する。ホイールの環状の超砥粒層を正面フライス切削刃の刃部より所定量後退させ、カップ型超砥粒砥石によりアルミ合金鋳物表面のバリを取り除き、同時にバリが除去された表面を正面フライス切削刃により平面に加工することができるものである。鋳造後のシリンダブロック等のアルミ合金鋳物表面には、チル化した硬いバリが生成しており、このバリの生成したアルミ合金鋳物表面をフライス切削刃で加工すると、バリは硬く、且つ断続的に生成しているためにフライス切削刃がチッピングしたり、欠損してしまう問題があった。ところが、カップ型ホイール本体の先端部分に一層のダイヤモンド砥粒層を電着で形成したカップ型超砥粒砥石は、鋳造後の鋳物部品のバリを研削しても寿命が長い。このように、複合工具とすることで両工具の特長をそれぞれ生かすことができるものである。
(例えば、特許文献1参照)
【0003】
また別の、フライス切削刃と超砥粒砥石から構成される複合工具としては以下のものが知られている。
この複合工具は、カップ型超砥粒砥石を取り囲むように、正面フライス切削刃の刃部を同軸に固定する。正面フライス切削刃の刃部を、ホイールの環状の超砥粒層をより所定量後退させ、正面フライス切削刃により切削加工を行うと同時に、カップ型超砥粒砥石により研削加工を行うことにより、切削加工で発生するバリやコバ欠けを除去できるだけでなく、仕上げ面の向上および工程の低減を図ることができるものである。
(例えば、特許文献2参照)
【0004】
更に別のフライス切削刃と超砥粒砥石から構成される複合工具としては以下のものが知られている。
この複合工具は、カップ型超砥粒砥石を取り囲むように、二つの正面フライス切削刃の刃部を同軸に固定する。二つの正面フライス切削刃の刃部を、ホイールの環状の超砥粒層より2段階に所定量後退させ、正面フライス切削刃により粗仕上げ加工と中仕上げ加工を行うと同時に、カップ型超砥粒砥石により仕上げ加工を行うことにより、いっそうの仕上げ面の向上と、いっそうの工程の低減を図ることができるものである。
(例えば、特許文献3参照)
【0005】
【特許文献1】特開2002−239827号公報
【特許文献2】特開平1―205908号公報
【特許文献3】フランス特許2332105号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特に、特開2002−239827号に記載の発明では、フライス切削刃と超砥粒砥石の超砥粒層によって囲まれた空間に、フライス切削刃により生じた切り屑がたまって排出されないために、切り屑が超砥粒砥石にかみ込み被削材料の表面に引っ掻き傷を発生させたり、加工を中断して切り屑を除去しなければならない問題があった。
本発明の解決しようとする課題は、工具回転軸に対して、同軸に取り付けることが可能なフライス切削刃と超砥粒砥石から構成される複合工具において、内周側のフライス切削刃から生じる切り屑が、スムーズに排出される高能率加工が可能な複合工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の複合工具Tは、回転駆動する軸に、同軸に取り付けることが可能な、フライス切削刃Cと超砥粒砥石Wから構成される複合工具であって、超砥粒砥石は、フライス切削刃を取り囲み、かつ、フライス切削刃よりも後退した位置に同軸に取り付けられ、超砥粒砥石は超砥粒層にスリットSを有し、スリットの開口部は少なくとも、軸心と、フライス切削刃のチップ外周部とを結ぶ線上から回転方向に40度以内の角度に形成され、フライス切削刃のチップ先端部からのチップポケット最深部までの距離dは、フライス切削刃のチップ先端部からスリット最深部までの距離Dよりも小さく設定されていることを特徴とするものである。
【0008】
ここで、超砥粒砥石のスリットの開口部は少なくとも、軸心と、フライス切削刃のチップ外周部とを結ぶ線上から40度の間に形成されている。すなわち、フライス切削刃のチップ外周部とを結ぶ線上から、工具の回転方向に40度以内の角度にスリットの開口部が形成されていることが必要である。スリットの開口部の角度を可能な限り大きくすることで、切り屑の排出はよりスムーズになるが、超砥粒層の作用面積が少なくなって寿命に影響を及ぼすので、40度よりも小さく形成することが適当である。スリットの開口部の角度は10度〜40度に設定することが好ましく、10度〜30度に設定することが最も好ましい。
【0009】
フライス切削刃のチップ先端部からチップポケットCの最深部までの距離dは、フライス切削刃のチップ先端部からスリット最深部までの距離Dよりも小さく設定されている。すなわち、超砥粒砥石のスリット深さを、フライス切削刃のチップポケットより深くすることにより、フライス切削刃から発生する切り屑が、スムーズに超砥粒砥石のスリットから排出される。ここでスリット深さは、可能な限り深く形成すると切り屑の排出がよりスムーズになり好ましい。
【0010】
なお、フライス切削刃にもちいるチップ3の材質は、超硬合金、サーメット、焼結ダイヤモンド、焼結CBN、単結晶ダイヤモンドなど各種材質のチップを用いることができ、材質には特に限定されない。さらに、超砥粒砥石は、レジンボンド、メタルボンド、電着、電鋳、ビトリファイドボンドなど各種の結合材によってダイヤモンド、CBNを結合した超砥粒砥石を用いることができ、特に超砥粒砥石の種類には限定されない。
【0011】
詳しくは、フライス切削刃のラジアルレーキ角Rは、マイナス1度〜マイナス15度であることを特徴とする。
【0012】
切り屑をスムーズに超砥粒砥石のスリットから外部へ排出するためには、フライス切削刃のラジアルレーキ角は、マイナス1度〜マイナス15度であることが好ましい。工作物の種類、加工条件によってこの角度は若干の影響を受けるが、一般的にマイナス3度〜マイナス15度であることがより好ましく、マイナス3度〜マイナス10度であることが最も好ましい。
【0013】
詳しくは、フライス切削刃には、切削油剤またはエアーを供給する軸心供給穴6が設けられていることを特徴とする。
【0014】
フライス切削刃から発生する切り屑が、スムーズに超砥粒砥石のスリットから排出されるためには、切削油剤またはエアーを供給する軸心供給穴が設けられていることが好ましい。エアーを供給する場合には、エアーの圧力を2Kgf/cmとすることにより、細かい切り屑をスムーズに排出するのに最も効果的である。
【0015】
詳しくは、超砥粒砥石は、回転軸の軸方向に相対的な可動機構を有することを特徴とする。
【0016】
ひとつの複合工具により、被削材料の適用範囲を広め、さらに広範囲の加工条件に適合できるようにするため、超砥粒砥石は、回転軸の軸方向に相対的な可動機構を有することが好ましい。更に、可動機構を有することにより、最高の加工結果を引き出すことも可能である。
【0017】
詳しくは、フライス切削刃のチップ数は2枚〜10枚であることを特徴とする。
【0018】
すでに説明したように、超砥粒砥石のスリット開口部を広くし過ぎると、超砥粒砥石の寿命に影響を及ぼすおそれがある。また、スムーズに切り屑を排出するには超砥粒砥石のスリット開口部の幅を適切に広くしなければならない。以上の理由により、フライス切削刃のチップ数は、2枚〜10枚であることことが好ましい。チップ数1枚では加工効率が大きく阻害され、チップ数10枚を超えると超砥粒砥石の作用面積の減少により超砥粒砥石の摩耗が大きくなり、寿命も短くなるおそれがあるからである。一般的に、フライス切削刃のチップ数は、2枚〜8枚であることことがより好ましく、2枚〜6枚であることことが最も好ましい。
【0019】
詳しくは、表層部が、硬質粒子または硬質繊維を含む強化樹脂、セラミックス、非金属材料のいずれかひとつで、その内部に金属材料を含有する複合材料の平面加工に用いることを特徴とする。
【0020】
本発明の複合工具は、研削加工に適する材料と、切削加工に適する材料が複合化した複合材料、および両材料が組み合わさった材料において超砥粒砥石が先に加工し、フライス切削刃が後加工するような場合に用いるとその性能を最高に発揮する。例えば、表層部が、硬質粒子または硬質繊維を含む強化樹脂、セラミックス、非金属材料のいずれかひとつで、その内部に金属材料を含有する複合材料に用いるのが最適である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の複合工具は、内周側のフライス切削刃が発生する切り屑がスムーズに排出されるので、加工を中断する必要がないため高能率で、しかも高精度な加工結果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
発明を実施するための最良の形態については、図を参照しながら説明する。
図1は、本発明の複合工具Tを軸方向から見た図面である。
超砥粒砥石Wには、超砥粒層1にはスリット2が設けられており、スリット2の開口部の角度Sは、少なくとも、軸心と、フライス切削刃Cのチップ外周部とを結ぶ線上から40度以内の角度に形成される。
フライス切削刃Cには、チップ3が固着され、それぞれのチップにはチップポケット4が形成されている。チップ3のラジアルレーキ角Rは、マイナス1度〜マイナス15度に設定する。
【0023】
図2は、本発明の複合工具の軸方向断面図を示す。
超砥粒砥石Wには、軸方向の可動機構を有する構造になっており、固定用ボルト5によって超砥粒砥石をフライス切削刃Cより後退させた位置に固定する。工作物の種類、加工条件、要求される表面粗さなどにより、最適な位置に調節を行う。
【0024】
図3は、図2のA方向から見た拡大図を示す。
フライス切削刃先端部からのチップポケット最深部までの距離dは、フライス切削刃先端部からスリット最深部までの距離Dよりも小さく設定する。すなわち、超砥粒砥石のスリット深さを、フライス切削刃のチップポケットより深くすることにより、フライス切削刃から発生する切り屑が、スムーズに超砥粒砥石のスリットから外部へ排出される。
【0025】
図4は、フライス切削刃に切削油剤またはエアーを供給する軸心供給穴6を設けた図を示す。
軸心供給穴は、フライス切削刃により発生した切り屑が、スムーズに超砥粒砥石のスリットから外部へ排出されるように、工作物の種類および加工条件によって、最適な位置に設定する。
【実施例1】
【0026】
マシニングセンタの回転駆動軸に、同軸に取り付けることが可能な、焼結ダイヤモンドをチップに用いたフライス切削刃と、電着ダイヤモンド砥石から構成される本発明の複合工具を製作した。そして、FRPと銅合金からなる複合材料を平面加工して、本発明の効果を確認した。
フライス切削刃は、外径80mm、焼結ダイヤモンドのチップを4枚取り付けたもので、チップのラジアルレーキ角はマイナス10度、フライス切削刃先端部からのチップポケット最深部までの距離dは、8mmとした。
電着ダイヤモンド砥石は、外径100mm、平均粒径0.3mmのダイヤモンドをニッケルめっきによって台金に固着したものである。スリットは4等分とし、スリットの開口部は軸心と、フライス切削刃のチップ外周部とを結ぶ線上から30度とし、フライス切削刃のチップ先端部からスリット最深部までの距離Dは15mmとした。
上記のフライス切削刃と電着ダイヤモンド砥石をマシニングセンタの回転駆動軸に、同軸に取り付け、表面層がFRPで、その内部に銅合金が埋め込まれている複合材料を平面加工した。フライス切削刃より電着ダイヤモンド砥石を後退した位置に固定して、チップを砥石作用面よりも0.2mm突出させることにより、電着ダイヤモンド砥石でFRPを研削加工して除去した後、フライス切削刃のチップで銅合金が切削加工されるようにして平面加工を行った。その結果、切り屑の排出はスムーズで高能率加工が可能であった。さらに、電着ダイヤモンド砥石が切り屑をかみ込むことはほとんど無く、良好な表面粗さが得られた。
【実施例2】
【0027】
マシニングセンタの回転駆動軸に、同軸に取り付けることが可能な、軸心にエア供給穴を設けた、焼結ダイヤモンドをチップに用いたフライス切削刃と、ロウ付けタイプのダイヤモンド砥石から構成される本発明の複合工具を製作した。そして、セラミックス仮焼結体を平面加工して、本発明の効果を確認した。
フライス切削刃は、外径80mm、焼結ダイヤモンドのチップを6枚取り付けたもので、チップのラジアルレーキ角はマイナス5度、フライス切削刃先端部からのチップポケット最深部までの距離dは、8mmとした。
ロウ付けタイプのダイヤモンド砥石は、外径100mm、平均粒径0.5mmのダイヤモンドを銀ロウによって台金に固着したものである。スリットは6等分とし、スリットの開口部は軸心と、フライス切削刃のチップ外周部とを結ぶ線上から20度とし、フライス切削刃のチップ先端部からスリット最深部までの距離Dは15mmとした。
上記の複合工具をマシニングセンタの回転駆動軸に、同軸に取り付け、フライス切削刃より電着ダイヤモンド砥石を後退した位置に固定して、チップを砥石作用面よりも0.3mm突出させることにより、ロウ付けタイプのダイヤモンド砥石で研削加工した後、フライス切削刃のチップで切削加工されるようにし、エアの供給圧力は3Kgf/cmとして平面加工を行った。その結果、切り屑の排出はスムーズで高能率加工が可能であり、良好な表面粗さが得られた。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例の複合工具を軸方向から見た図面を示す。
【図2】本発明の実施例の複合工具の軸方向の断面図を示す。
【図3】図2のA方向から見た拡大図を示す。
【図4】フライス切削刃に軸心供給穴を設けた図を示す。
【符号の説明】
【0029】
1:超砥粒層
2:スリット
3:チップ
4:チップポケット
5:固定用ボルト
6:軸心供給穴
T:複合工具
W:超砥粒砥石
S:スリットの開口部の角度
R:ラジアルレーキ角
C:フライス切削刃
D:フライス切削刃先端部からスリット最深部までの距離
d:フライス切削刃先端部からのチップポケット最深部までの距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動する軸に、同軸に取り付けることが可能な、フライス切削刃と超砥粒砥石から構成される複合工具であって、
前記超砥粒砥石は、前記フライス切削刃を取り囲み、かつ、前記フライス切削刃よりも後退した位置に同軸に取り付けられ、
前記超砥粒砥石は超砥粒層にスリットを有し、前記スリットの開口部は少なくとも、軸心と、前記フライス切削刃のチップ外周部とを結ぶ線上から回転方向に40度以内の角度に形成され、
前記フライス切削刃のチップ先端部からのチップポケット最深部までの距離dは、前記フライス切削刃のチップ先端部から前記スリット最深部までの距離Dよりも小さく設定されていることを特徴とする、複合工具。
【請求項2】
前記フライス切削刃のラジアルレーキ角は、マイナス1度〜マイナス15度であることを特徴とする、請求項1に記載の複合工具。
【請求項3】
前記フライス切削刃には、切削油剤またはエアーを供給する軸心供給穴が設けられていることを特徴とする、請求項1または2に記載の複合工具。
【請求項4】
前記超砥粒砥石は、回転軸の軸方向に相対的な可動機構を有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の複合工具。
【請求項5】
前記フライス切削刃のチップ数は2枚〜10枚であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の複合工具。
【請求項6】
表層部が、硬質粒子または硬質繊維を含む強化樹脂、セラミックス、非金属材料のいずれかひとつで、その内部に金属材料を含有する複合材料の平面加工に用いることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の複合工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−216318(P2007−216318A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37488(P2006−37488)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(000220103)株式会社アライドマテリアル (192)
【Fターム(参考)】