複合旋盤装置の制御方法及び複合旋盤装置
【課題】ワークの自重による撓み量の発生による影響及びベッドの剛性が低い鉛直方向の撓み方が変化することによって生ずるピッチングの影響を同時に抑制することができる自動工具交換手段を有する複合旋盤装置、及び制御方法を提供する。
【解決手段】工具主軸25に取付けされた旋削加工工具が、Z軸と直交する水平方向Ytに沿って移動するように、キャレッジ23をY軸方向成分を含む方向に移動制御して、ワーク主軸に取着された加工ワークWに対して旋削加工する。
【解決手段】工具主軸25に取付けされた旋削加工工具が、Z軸と直交する水平方向Ytに沿って移動するように、キャレッジ23をY軸方向成分を含む方向に移動制御して、ワーク主軸に取着された加工ワークWに対して旋削加工する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合旋盤装置の制御方法及び複合旋盤装置に関する。
【背景技術】
【0002】
汎用的な複合旋盤装置の設計の基本思想には、下記の1)〜3)があり、これらは設計するときにおいて配慮される最重要のポイントとなる。
1) オペレータと、加工ワーク及び工具主軸台との接近性がよく、使い勝手が良いこと。
【0003】
2) 工場での工作機械の設置面積が小さいこと。
3) 切り粉の排出性が良く、その処理が容易であること。
このため、従来から自動工具交換装置(自動工具交換手段)を有する複合旋盤装置では、図12(a)〜(c)に示すように、水平方向から所定角度θを持つ傾斜型等の機械が一般的になってきており、所定角度θは45°、60°、90°のものが多い。なお、図12(a)〜(c)において、工具主軸台400はベッド410に移動可能に配置された移動体420に対して、X軸方向に移動可能に設けられている。又、図12(a)の例では、移動体420が水平方向Ytに移動するのに対して、工具主軸台400が水平方向Ytに対して所定角度θをなすX軸方向に移動するようになっている。なお、ここで水平方向とは、水平面とX−Y平面との両方に含まれる直線が延びる方向のことである。
【0004】
図12(b)の例では、移動体420がY軸方向に移動するのに対して、工具主軸台400が水平方向Ytに対して所定角度θをなすX軸方向に移動するようになっている。図12(c)の例では、移動体420がY方向(=水平方向Yt)に移動するのに対して、工具主軸台400が水平方向Ytに対して所定角度θ(=90度)をなすX軸方向に移動するようになっている。
【0005】
このような装置では、所定角度θの方向から切り込んで加工ワークに対して旋削加工するように複合旋盤装置が構成される。
なお、特許文献1には、ワーク主軸の熱変位の影響を回避するために、ワーク主軸の延びやすい方向に対して、直角方向に配置された固定工具で加工して熱変位の影響を回避する複合加工旋盤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−254802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような、自動工具交換手段を備えた複合旋盤装置において、ワークの外径旋削加工をする場合、ワーク自重によるワーク撓みが加工精度(円筒度)に直接影響してしまう問題がある。すなわち、一般的に、支持されたワークの撓み量δ(mm)は、
δ=(5・P・L3)/(384・E・I) ……(1)
で算出することができる。
【0008】
Pはワークの自重(N)、Lはワークの長さ(mm)、Eは縦弾性係数(N/mm2)、Iは断面2次モーメント(mm4)である。上記式に示すように撓み量δは、ワークの長さLの3乗で効いてくるため、長さLが非常に支配的で、長さLが長いほど自重による撓み量δが大きくなる。
【0009】
従って、図12(a)乃至(c)に示すように、水平方向に対して所定角度θで、旋削加工(切込み)をすると、ワークの撓み量が影響して、加工精度(円筒度)が悪くなる(以下、この課題を第1課題という)。
【0010】
又、複合旋盤装置のベッドの構造は、使い勝手の面から鉛直方向には薄く、水平方向には厚い設計となるのが一般的である。工作機械は基礎と接するジャッキボルトの調整により所要の精度を実現しているが、地震や基礎(コンクリート)自体の状態変化などの理由で、基礎の位置が変化する。それに伴ってジャッキボルトにかかる荷重が相対的に変化するため、ベッドは、剛性が低い(厚みが薄い)鉛直方向の撓み方が変化しやすい。
【0011】
このベッドの剛性が低い(厚みが薄い)鉛直方向の撓み方が変化するということは、図14に示すようにピッチングが変化(工具主軸台がワーク主軸の軸心方向であるZ軸方向に移動する際の角度偏差の変化)することと同義である。前述した撓み量δは加工ワークWの撓みの問題であり、機械側の誤差を「0」としているが、ここでいうピッチングは機械側の誤差である。
【0012】
この誤差による刃先の鉛直方向の位置変化は、撓み量δと同様に加工ワークWの円筒度に影響する問題がある(以下、この課題を第2課題という)。すなわち、ジャッキボルトの再調整で高い精度の円筒度を実現しようとすると、調整に多くの時間と手間がかかる上、精度の狂いが基礎の状態変化であると判断できるかどうかについても熟練を要する問題がある。
【0013】
なお、特許文献1は、回転工具と旋削加工工具を交換可能な自動工具交換手段(自動工具交換装置)を有していない複合加工旋盤である。このため、自動工具交換手段を備える複合加工旋盤装置が有する本願発明の第1課題及び第2課題を同時に抑制できない。
【0014】
本発明の目的は、ワークの自重による撓み量の発生による影響及びベッドの剛性が低い鉛直方向の撓み方が変化することによって生ずるピッチングの影響を同時に抑制することができる自動工具交換手段を有する複合旋盤装置の制御方法を提供することにある。
【0015】
又、本発明の他の目的は、ワークの自重による撓み量の発生による影響及びベッドの剛性が低い鉛直方向の撓み方が変化することによって生ずるピッチングの影響を同時に抑制することができる自動工具交換手段を有する複合旋盤装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、自動工具交換手段と、前記自動工具交換手段により交換される旋削加工工具が着脱自在に取付けられる工具主軸を有し、かつワーク主軸の軸心を第1軸として、前記第1軸と直交するとともに水平面と所定角度θ(0<θ≦90°)をなす第2軸に沿って移動可能に移動体に対して支持された工具主軸台を備え、キャレッジベースがベッドに対して第1軸方向に移動可能に設けられるとともに、前記移動体が前記キャレッジベースに対して前記第1軸及び第2軸に直交する第3軸方向成分を含む方向に移動可能に設けられ、前記工具主軸が回転制御及び停止保持制御可能に設けられ、前記工具主軸に取付けされた旋削加工工具の切削点を前記第2軸に沿って移動させることによりワークに対して旋削加工する複合旋盤装置の制御方法において、前記工具主軸に取付けされた旋削加工工具の切削点が、前記第1軸と直交する水平方向に沿って移動するように、前記移動体を第3軸方向成分を含む方向に移動制御して、或いは、前記移動体を第3軸方向成分を含む方向に移動制御するとともに前記工具主軸台を第2軸方向に同時に移動制御をして、前記ワーク主軸に取着されたワークに対して旋削加工することを特徴とする複合旋盤装置の制御方法を要旨とするものである。
【0017】
請求項2の発明は、自動工具交換手段と、前記自動工具交換手段により交換される旋削加工工具が着脱自在に取付けられる工具主軸を有し、かつワーク主軸の軸心を第1軸として、前記第1軸と直交するとともに水平面と所定角度θ(0<θ≦90°)をなす第2軸に沿って移動可能に移動体に対して支持された工具主軸台を備え、キャレッジベースがベッドに対して第1軸方向に移動可能に設けられるとともに、前記移動体が前記キャレッジベースに対して前記第1軸及び第2軸に直交する第3軸方向成分を含む方向に移動可能に設けられ、前記工具主軸が回転制御及び停止保持制御可能に設けられ、前記工具主軸に取付けされた旋削加工工具の切削点を前記第2軸に沿って移動させることによりワークに対して旋削加工する複合旋盤装置において、前記工具主軸に取付けされた旋削加工工具の切削点が、前記第1軸と直交する水平方向に沿って移動するように、前記移動体を第3軸方向成分を含む方向に移動制御して、或いは、前記移動体を第3軸方向成分を含む方向に移動制御するとともに前記工具主軸台を第2軸方向に同時に移動制御をして、前記ワーク主軸に取着されたワークに対して旋削加工する制御手段を備えることを特徴とする複合旋盤装置を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、ワークの自重による撓み量の発生による影響及びベッドの剛性が低い鉛直方向の撓み方が変化することによって生ずる第1軸方向のピッチングの影響を同時に抑制することができる自動工具交換手段を有する複合旋盤装置の制御方法を提供することができる。
【0019】
請求項2の発明によれば、ワークの自重による撓み量の発生による影響及びベッドの剛性が低い鉛直方向の撓み方が変化することによって生ずるピッチングの影響を同時に抑制することができる自動工具交換手段を有する複合旋盤装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態の複合旋盤装置20の概略正面図。
【図2】実施形態の要部の斜視図。
【図3】同じく実施形態の複合旋盤装置20の概略側面図。
【図4】同じく制御装置100のブロック図。
【図5】同じくキャレッジ23、工具主軸、旋削バイトホルダ、加工ワークとの配置関係を示す説明図。
【図6】(a)、(b)は、従来例と実施形態の旋削バイトホルダ40と従来の旋削加工工具の配置を示す説明図。
【図7】実施形態の切削点の相違の説明図。
【図8】刃先位置検出装置50の概略斜視図。
【図9】刃先位置検出装置50の概略側面図。
【図10】針部材55の要部斜視図。
【図11】加工ワークにおいて撓み量δを有している部位と、撓み量がない部位を旋削する場合の説明図。
【図12】(a)〜(c)は、各種の複合旋盤装置の概略図。
【図13】ピッチング誤差の説明図。
【図14】ピッチングについての説明図。
【図15】工具主軸における軸心方向の熱変位量と工具主軸の軸心方向と直交する方向の熱変位量を示すグラフ。
【図16】(a)、(b)は工具主軸における軸心方向の熱変位量と工具主軸の軸心方向と直交する方向の熱変位量の説明図。
【図17】工具主軸台の概略断面図。
【図18】表示部170の表示画面に表示された工具登録画面の説明図。
【図19】(a)は表示部170の表示画面に表示されたX−Z旋削用工具の工具長入力欄の説明図、(b)は表示部170の表示画面に表示された水平旋削用工具の工具長入力欄の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した複合旋盤装置20の一実施形態を図1〜7を参照して説明する。
【0022】
(複合旋盤装置20)
CNC複合旋盤装置(以下、単に複合旋盤装置という)20は、図1に示すように、水平なZ軸方向に伸延した直方体状のフレーム11とベッド21を有しており、フレーム11の前面側(即ち、図1の紙面手前側)にはフロントドア12が開閉駆動自在に設けられている。ベッド21上には、図1に示すように、主軸台26が設置されており、主軸台26にはワーク主軸26aが、Z軸方向にその軸心O2を平行に配置した形で、かつ該軸心O2を中心に回転駆動自在に軸支されている。
【0023】
ワーク主軸26aにはチャック26bが設けられ、チャック26bにて加工しようとする加工ワークWが装着される。
又、ベッド21上には図2に示すようにZ軸方向において主軸台26と対向するようにテールストック27が配置されている。テールストック27はZ軸方向に摺動移動駆動自在に設けられている。
【0024】
テールストック27には、加工すべき加工ワークWの大きさや形状或いは加工の態様に応じて、前記チャック26bで把持した加工ワークWの端部とは180度反対側の端部を支持し得る心押軸27aが設けられている。
【0025】
更に、フレーム11内には、ワーク主軸26a等よりも図1紙面奥側等に公知のツールマガジン14が設置されている。ツールマガジン14には複数種類の旋削工具ユニットや回転工具としての回転工具ユニット等の工具ユニットが保持貯蔵されている。なお、旋削工具ユニットは後述する旋削バイト45と旋削バイトホルダ40とからなる。又、このツールマガジン14の近傍には公知のATC30(自動工具交換装置)が設置されている。ATC30により、ツールマガジン14に保持貯蔵されていた工具ユニットを取り出して後述する工具主軸25に装着させ得るとともに、工具主軸25に装着されていた工具ユニットを取り外してツールマガジン14に保持させることが可能である。なお、旋削バイト45を有する旋削バイトホルダ40を旋削加工工具という。
【0026】
図3に示すように、ベッド21の水平面21aにはキャレッジベース22が取り付けられている。キャレッジベース22は水平面21a上にZ軸方向(図3においては、紙面の垂直方向)の長手送りとY軸投影線方向の横送りを備え、移動体としてのキャレッジ23が載置されている。このY軸投影線方向の横送りとは、Y軸方向成分を含む方向にキャレッジ23が移動可能であることに相当する。
【0027】
キャレッジ23のX軸方向に延びる摺動面23aは、前記水平面21aに対して所定角度θとして一定角度をなすように傾斜している。所定角度θとしては、例えば45°や60°を挙げることができるが、この値に限定されるものではなく、θは0<θ≦90°の範囲であればよい。摺動面23a上には工具主軸台24がX軸方向に摺動可能に載置されている。前記Z軸は第1軸に相当し、X軸は第2軸に相当し、Y軸は第3軸に相当する。
【0028】
工具主軸台24の下端側には、図2に示すように、工具主軸取付部31が形成されている。なお、図3においては、説明の便宜上、工具主軸取付部31は省略されている。工具主軸取付部31には、X軸方向及びZ軸方向に対して直角なY軸方向と平行な軸心O4を中心に図のB軸方向に回動自在に工具主軸25が軸支されている。工具主軸25は工具主軸台24の本体の一部を構成する。
【0029】
なお、工具主軸台24内にはB軸駆動モータMb(図4参照)が内蔵されている。B軸駆動モータMbと工具主軸25の間には、歯車やシャフト等からなる適宜な動力伝達手段(図示せず)が設けられている。動力伝達手段はB軸駆動モータMbからの動力を伝達することにより、前記工具主軸25を軸心O4を中心に図のB軸方向に所定の割り出し角度で回動駆動自在である。
【0030】
さらに、工具主軸取付部31と工具主軸25の間には、該工具主軸取付部31側に対して工具主軸25側を固定・固定解除自在な、適宜な固定手段(図示せず)が設けられている。すなわち、工具主軸25は、動力伝達手段及び固定手段等により、図のB軸方向に所定の割り出し角度で回動駆動・位置決め自在になっている。
【0031】
工具主軸25の軸心O1は、摺動面23aと平行に配置され、すなわち、X軸と平行にされている。
(旋削バイトホルダ40)
次に、前記工具主軸25に着脱自在に取着される旋削バイトホルダ40を図5及び図6を参照して説明する。
【0032】
旋削バイトホルダ40は、ホルダ本体41の基端部に工具主軸25に対して着脱自在に取着される円錐台形状の装着部42が形成されている。ホルダ本体41と装着部42の軸心は同軸に配置されている。そして、ホルダ本体41は、装着部42を介して工具主軸25に対して、軸心O1と同軸となるように取着される。
【0033】
図6(a)に示すようにホルダ本体41の一側面には、取付溝43が凹設されている。取付溝43は、加工ワークW側が開口形成されている(図5参照)。取付溝43の内面のうち装着部42側の面は旋削バイト取付面44とされている。旋削バイト取付面44は図5に示すようにホルダ本体41の軸心に対して所定角度θをなすように設けられている。
【0034】
そして、旋削バイト45は、前記取付溝43に対して装着され、ホルダ本体41の下端面から螺合されるボルト48により、取り外し可能に固定されるとともに水平方向に先端が延出配置されている。旋削バイト45の先端には旋削チップ46が設けられている。なお、ここで水平方向とは、X−Y平面と水平面の両方に含まれる直線が延びる方向のことである。X−Y平面は第2軸・第3軸平面に相当する。
【0035】
(制御装置100)
次に制御装置100を説明する。図1に示すように複合旋盤装置20には、図4に示す制御装置100が装着されている。同図に示すように制御装置100は、CPUからなる主制御部110を有している。主制御部110にはバス線105を介して加工プログラムメモリ120、システムプログラムメモリ130、バッファメモリ140、加工制御部150、キーボード等を有する操作盤160、液晶表示装置等からなる表示部170等が接続されている。主制御部110は、制御手段に相当する。
【0036】
又、主制御部110には、バス線105を介して、X軸制御部200、Yt軸制御部210、Z軸制御部220及びB軸制御部230が接続されている。各軸制御部は、主制御部110の各軸の移動指令を受けて、各軸の移動指令を駆動回路202,212,222,232に出力する。各駆動回路202,212,222,232はこの移動指令を受けて、各軸のモータ(X,Yt,Z,B軸駆動モータ)を駆動する。
【0037】
X軸駆動モータMxが駆動されると、工具主軸25を摺動面23aに沿ってX軸と平行に移動させる。Yt軸駆動モータMytが駆動されると、キャレッジ23が水平方向に移動され、工具主軸25が同方向に移動される。又、Z軸駆動モータMzが駆動されると、キャレッジベース22はZ軸方向に移動され、工具主軸25が同方向に移動される。
【0038】
又、主制御部110には、ワーク主軸制御部240がバス線105を介して接続されている。ワーク主軸制御部240は、主制御部110の回転指令を受けて、その回転指令を駆動回路242に出力する。駆動回路242はこの回転指令を受けて、ワーク主軸駆動モータMWSを回転駆動する。
【0039】
又、主制御部110には、バス線105を介して、工具主軸制御部250が接続されている。工具主軸制御部250は、主制御部110から回転指令を受けて、駆動回路252にスピンドル速度信号を出力する。駆動回路252は、このスピンドル速度信号に基づいて、工具主軸25に連結されたビルトインタイプのモータMTSを回転制御指令に対応した回転速度で回転し、工具主軸25と一体に回転する回転工具ユニットを回転させる。又、主制御部110は、旋削加工工具を使用する際は、工具主軸制御部250に停止保持制御指令を出力する。工具主軸制御部250は主制御部110から停止保持制御指令を受けてモータMTSを停止保持する。
【0040】
(複合旋盤装置20の作用)
なお、説明の便宜上、工具主軸25には、すでに旋削バイト45を有する旋削バイトホルダ40(すなわち、旋削加工工具)が取付けされるとともに、工具主軸25の軸心O1が、X軸方向と平行になるようにB軸方向に回転駆動された後位置決めされているものとする。この状態では、工具主軸制御部250の制御によりモータMTSを停止保持した状態とされている。
【0041】
又、制御装置100は、加工プログラムメモリ120に記憶されている加工プログラムに従って、ワーク主軸制御部240を回転指令を出力して、ワーク主軸駆動モータMWSを回転駆動する。
【0042】
そして、制御装置100では、前記加工プログラムに従って主制御部110がX軸制御部200に対して移動指令を出力する。X軸制御部200は移動指令を駆動回路202に出力し、X軸駆動モータMxを駆動する。この結果、工具主軸台24は軸心O1に沿って移動し、図3に示すようにホルダ本体41に取付けされた旋削バイト45の旋削チップ46の刃先をワーク主軸26aの軸心O2を含む水平面とX−Y平面に含まれる直線が延びる方向、すなわち水平方向Yt上に合致させる。
【0043】
この状態で、主制御部110がYt軸制御部210に対して移動指令を出力する。そして、Yt軸制御部210は移動指令を駆動回路212に出力する。駆動回路212がYt軸駆動モータMytを駆動することにより、キャレッジ23は水平方向Ytに移動され、工具主軸25が同方向に移動される。又、主制御部110は、加工プログラムメモリ120に記憶されている加工プログラムに従ってZ軸制御部220に対して移動指令を出力する。そして、Z軸制御部220は移動指令を駆動回路222に出力する。駆動回路222がZ軸駆動モータMzを駆動することにより、キャレッジベース22はZ軸方向に移動され、工具主軸25が同方向に移動される。
【0044】
上述のように工具主軸25が水平方向Ytに移動されると、工具主軸25に取付けされた旋削加工工具は、その旋削バイト45の旋削チップ46が加工ワークWに対して水平方向に切り込まれる。そして、この状態で工具主軸25がZ軸方向に移動した際に、旋削バイト45の旋削チップ46も同方向に移動され、加工ワークWを旋削する。旋削チップ46が加工ワークWに対して切削加工する点を切削点という。従って、前記制御装置100によって旋削バイト45の旋削チップ46が加工ワークWに対して水平方向に切り込まれることは、切削点が軸心O1(Z軸)と直交する方向に移動するように制御されていることを意味する。
【0045】
この場合、本実施形態では、ATC30を備えた複合旋盤装置において、加工ワークWの外径旋削加工をする場合、ワーク自重によるワーク撓みが加工精度(円筒度)に直接影響することがなくなる。特に、従来は、加工ワークWが長くなると、撓み量は、加工ワークWの長さLの3乗で効いてくるため、長さLが非常に支配的で、長さLが長いほど自重による撓み量が大きくなり、従来の旋削では、この撓み量により影響を受けるが、本実施形態では、加工ワークWが長くなっても撓みの影響を回避することができる。
【0046】
又、複合旋盤装置20のベッド21は、使い勝手の面から鉛直方向には薄く、水平方向には厚い設計となるようにした一般的なものとしている。このため、このベッド21の剛性が低い(厚みが薄い)鉛直方向の撓み方が変化することが考えられる。このことは、図14に示すようにピッチングが変化(工具主軸台がワーク主軸の軸心方向であるZ軸方向に移動する際の角度偏差の変化)することを意味している。
【0047】
しかし、本実施形態では、ベッド21の剛性が低い鉛直方向の撓み方が変化することによって生ずるピッチングの影響を、加工ワークWに対して水平方向に切り込むことにより、抑制することができる。
【0048】
(加工ワークWの撓みによる悪化量)
ここで、現実的に想定される加工ワークWを例にとって、φ100mm×1270mmの鉄の場合、前記式(1)を使用して算出すると、撓み量δは20μmとなる。加工ワークWは撓み量δが大きな場所ほど、高さの位置が低いため、複合旋盤装置の高さ方向の位置が不変とした場合、加工ワークWの径は、撓みが最も大きい中央部で最も大きくなる。このとき、従来の方法で旋削加工した場合、加工ワークWの円筒度は40μmとなり、実際の加工精度上で大きな問題となる。
【0049】
下記には、撓みによる円筒度の悪化量を求める計算式を示す。又、図11は加工ワークにおいて撓み量δを有している部位と、撓み量がない部位を旋削する場合の説明図である。
【0050】
水平方向に切り込む場合の加工ワークの撓みによる円筒度の悪化量A1は下記式で表わされる。
【0051】
【数1】
ここで、加工ワークWの半径Rを50mmとし、δを20μmとした場合、上記式によりA1は7.9nmとなる。
【0052】
又、水平方向から所定角度θに相当する切込角度θkの位置から切り込む場合の加工ワ
ークの撓みによる円筒度の悪化量A2は下記式(3)で表わされる。
【0053】
【数2】
R:加工プログラムで指令した加工ワークの仕上がり半径
δ:最も撓み量が大となる部位における撓み量(例えば加工ワークの長手方向の中央部位)
U:最も撓み量が大となる部位における、加工ワークの中心から、刃先までの最小距離
ここで、加工ワークWの半径Rを50mmとし、δを20μmとし、切込角度θkを90度とした場合、上記式(3)によりA2は40μmとなる。
【0054】
又、加工ワークWの半径Rを50mmとし、δを20μmとし、切込角度θkを60度とした場合、上記式(3)によりA2は34μmとなる。
又、加工ワークWの半径Rを50mmとし、δを20μmとし、切込角度θkを45度とした場合、上記式(3)によりA2は28μmとなる。
【0055】
このように、水平方向から切込した場合の方がその悪化量は無視できるほど小さくできる。
(ピッチング誤差)
ここで、図13を参照してピッチング誤差について説明する。図13は加工ワークWに対して、従来の旋削方法の場合を示す説明図である。
【0056】
なお、ここでは、工具主軸台は鉛直方向に移動するものとする。旋削バイトは同方向に移動するものとする。例えば、ISO10791-1では、ピッチング精度の許容値は1000mmについて60μm以内と定義されているが、図13の従来例の場合、刃先の高さ方向の位置変化”Δ”は次式で表わされる。
【0057】
Δ=L×cosθn−(L−60μm)=L(cosθn−1)+60μm
L:ベッド21のキャレッジ摺動面から旋削チップ46の刃先までの距離(μm)
θn:ピッチング誤差(Z軸方向への移動に伴う角度偏差)
ここで、θn=tan(60/1000000)であるから、cosθn=0.999994となり、例えば現実的な機械サイズからL=1000mmとすると、Δ=54μmとなる。なお、L=2000mmでも、Δ=48μmである。
【0058】
このΔ=54μmの場合、加工した加工ワークWの円筒度は108μmとなり、大きな問題である。
ここで、本実施形態のように所定角度θを有する複合旋盤装置20で加工する場合について説明する。本実施形態では、加工ワークWに対して水平方向に切り込む。この場合、水平方向に切り込む場合のピッチング誤差による円筒度の悪化量A3は下記式で表わされる。
【0059】
【数3】
ここで、加工ワークWの半径Rを50mmとし、Δを54μmとした場合、上記式によりA3は0.1μmとなる。
【0060】
又、水平方向から切込角度θkの位置から切り込む場合のピッチング誤差による円筒度
の悪化量A4は下記式で表わされる。
【0061】
【数4】
この場合、加工ワークWの半径Rを50mmとし、Δを54μmとし、切込角度θkを60度とした場合、上記式によりA4は92μmとなる。
【0062】
このように、A3の方が、悪化量は無視できるほど小さいことが分かる。
(熱変位)
ここで、熱変位について説明する。
【0063】
工具主軸25及び回転工具はモータMTSとベアリングの発熱により、その軸方向に熱変位が必ず生ずる。この場合、ATC30により、回転工具ユニットが旋削加工工具に変えられた後も、その熱の影響を旋削加工工具は間接的に受ける。
【0064】
図17には工具主軸25の内部構造が示されており、外筒35の内面にはステータ37がロータ32の周囲を囲むように設けられている。ロータ32は、ベアリング33,34を介して、外筒35に対して回動自在に支持されるとともに、その先端に回転工具ユニット等の工具ユニットが取付けされる。又、外筒35には、冷却回路36が内蔵され、冷却回路36内には温度管理された液体が流れるようになっている。このため、一般的に、「工具主軸25の軸心方向と直交する方向の熱変位」は、「工具主軸25の軸心方向の熱変位」に比較して抑制することが可能となっている。なお、図17中、矢印は、熱変位が現れやすい方向を示している。
【0065】
ここで、工具主軸25における軸心方向と同軸心方向と直交する方向の熱変位の程度をみてみる。図15は、工具主軸における軸心方向の熱変位量と工具主軸25の軸心方向と直交する方向の熱変位量を示すグラフである。同図に示すように工具主軸台24の温度が上昇すると、工具主軸25において、軸心方向の熱変位は、工具主軸25の軸心方向と直交する方向の熱変位よりも大きいことが分かる。このため、工具主軸25の軸心方向の熱変位は、工具主軸25に取付けされた旋削加工工具においても影響を受ける。
【0066】
そこで、以下では具体的な数値を挙げて熱変位の影響を説明する。ここでは、図15で示されている、工具主軸温度が29℃のときの工具主軸25の軸方向の熱変位量35μm(=δ1)と、工具主軸25の軸心方向と直交する方向の熱変位量6μm(=δ2)を採用する。
【0067】
図16(a),(b)に示すように、加工ワークWの加工半径をR=50mmとするように外径旋削加工する場合、従来通りに所定角度θで切込みする場合と、水平旋削加工する場合を比較する。
【0068】
従来の場合の実際の加工半径R1は、下記の式で算出される。
【0069】
【数5】
ここで、従来の場合の実際の加工半径R1は、θに関係なく、R1=49.965(mm)である。
【0070】
従って、この場合、加工半径Rとの差を算出すると、R−R1=35(μm)となり、θの角度に関係なく、35μmの誤差が出る。
一方、水平旋削加工する場合は、θ=60°のとき、下記の式で算出される。
【0071】
【数6】
ここで、θ=60°のとき、R2=49.977(mm)である。
【0072】
従って、R−R2=23(μm)の誤差が出る。
又、θ=45°のとき、R2=49.971(mm)である。
従って、R−R2=29(μm)の誤差が出る。
【0073】
又、θ=90°のとき、R2=49.994(mm)である。
従って、R−R2=6(μm)の誤差が出る。
以上のようにいずれも、水平旋削加工する場合、熱変位による影響は、従来の場合よりも軽減することができる。
【0074】
又、本実施形態の制御方法では、工具主軸25に取付けされた旋削加工工具の切削点が、ワーク主軸の軸心O2と直交する水平方向Ytに沿って移動するように、キャレッジ23(移動体)をY軸(第3軸)方向成分を含む方向に移動制御して、ワーク主軸26aに取着された加工ワークWに対して旋削加工するようにした。
【0075】
この結果、加工ワークWの自重による撓み量の発生による影響、ベッドの剛性が低い鉛直方向の撓み方が変化することによって生ずるピッチングの影響、及び回転工具ユニットを回転するモータとベアリングにより生ずる熱変位の影響を同時に抑制することができる。
【0076】
又、本実施形態の旋削バイトホルダ40によれば、旋削バイト取付面44とホルダ本体41の軸心とのなす角度が、工具主軸25の軸心O1と水平面21aとのなす所定角度θと同じ角度にされている。この結果、ATC30を有する複合旋盤装置20の上記の制御方法や、上記のように構成されたATC30を有する複合旋盤装置20を実現するために直接使用できる旋削バイトホルダを提供できる効果がある。
【0077】
(第2実施形態)
次に第2実施形態の刃先位置登録装置60を説明するまえに、第1実施形態の複合旋盤装置20及び旋削バイトホルダ40があっても、実際に加工するには、下記の理由から複合旋盤装置20に刃先位置登録装置60を備えることが望ましい。
【0078】
従来の旋削加工では、図6(b)に示す従来の旋削加工の切込位置にてX−Z平面内で旋削加工を行う。このとき、Y軸方向の刃先位置は、加工ワークWの回転中心(軸心O2)を含んだX−Z平面上の位置にあり、工具主軸の軸心O1に旋削チップ刃先が合致するようになっている。このような状態に位置合わせをすることを芯高調整という。なお、芯高調整は加工精度や加工面品位に影響をするため、避けては通れないのが常識である。ここで、旋削バイトホルダには旋削バイトが、又、旋削バイトには旋削チップが取り付く。通常、旋削チップが取り付いた旋削バイトは、その厚みThが規格化されて市販されており、一方、旋削バイトホルダは、厚みThを考慮して機械の主軸軸心(軸心O2)に刃先が合致するように設計され、提供されている。そして、旋削バイトホルダは機械においては、旋削加工の際にはX−Z平面上に位置決めするように作られる。このため、機械のオペレータが旋削加工をしようとする時には、既に芯高調整されている状態にあり、オペレータが芯高調整を意識する必要もない。
【0079】
しかし、第1実施形態の複合旋盤装置20では、旋削加工を行う場合、芯高調整のために、図6(b)に示すように旋削チップ46の刃先が「加工ワークWの回転中心(軸心O2)に直交する水平方向の軸」に合致するように機械を位置決めしてやる必要があるが、この位置決め(芯高調整)はオペレータが意識して行わなければならない。具体的には、芯高調整のために、X,Y軸の位置決めのプログラムを追加することになるが、そのX,Y軸の位置で芯高調整が正しくできているかの確認をするためには、加工ワークWの端面をその加工工具で削り、削り残しが無くなるまで、X,Y軸の位置決めプログラムを微調整していくことになり、何度も削り直すことになる。これは、非常に手間で効率が悪く現実にそぐわない。
【0080】
このため、この問題を解決するためのものとして、刃先位置登録装置60の構成を図1〜図7、図18、及び図19を参照して説明する。なお、第2実施形態は、第1実施形態の構成にさらに、刃先位置登録装置60が設けられたものであるため、第1実施形態と同一構成については同一符号を付して説明を省略する。
【0081】
刃先位置登録装置60は、図4に示す操作盤160と、バッファメモリ140とから構成されている。操作盤160は刃先位置入力手段に相当し、バッファメモリ140は記憶手段に相当する。
【0082】
図18に示すように、オペレータが操作盤160を操作して表示部170に工具登録画面171(図18参照)を表示させ、工具名称の欄に加工プログラムで使用工具を指定するために用いる工具名称として例えば「TOOL−C」という文字列を操作盤160より入力する。又、工具種類の欄には、「X−Z平面旋削用」と「水平旋削用」、又は、その他の回転工具等の種類を選択入力する。又、主制御部110は、図19(b)に示すように表示部170の表示画面上に水平旋削用工具の工具長入力欄172を表示することができる。この状態でオペレータが操作盤160を操作して工具長入力欄172の「TOOL−C」の入力欄にそれぞれ第1工具長Ca、第2工具長Cb及び第3工具長Ccを入力すると、主制御部110は、これらの工具長をバッファメモリ140に記憶する。
【0083】
ここで、第1工具長Caは、工具主軸台24の工具主軸25の軸心O1上の基準点PSからワーク主軸26aのZ軸(第1軸)方向にオフセットした旋削チップ46の刃先のオフセット量である。なお、基準点PSとは、工具主軸台24の工具主軸25の軸心O1上の所定の位置であって、本実施形態では、工具主軸25の端面と軸心O1との交点を基準点PSとしているが、これに限定されるものではなく、工具主軸25の軸心O1上であって、特定しやすい位置であればよい。
【0084】
第1工具長Caは、従来の工具長B(図6(a)参照)に相当する。なお、工具長Bは第4工具長に相当し、工具主軸25の軸心O1上の基準点PSからワーク主軸26aのZ軸(第1軸)方向にオフセットした従来構成の旋削加工工具ホルダに取付けされた旋削バイトの刃先先端のオフセット量である。
【0085】
第2工具長Cbは、基準点PSからZ軸(第1軸)と直交する水平方向にオフセットした旋削チップ46の刃先のオフセット量であり、加工ワークWの加工径補正用に使用されるもので、使用する旋削バイトの長さや突き出し方によって変わる値である。
【0086】
第3工具長Ccは、基準点PSから鉛直方向にオフセットした旋削チップ46の刃先のオフセット量である。すなわち、第3工具長Ccは、工具主軸25の軸心O1と工具主軸25の端面とが交差する点(基準点PS)から、旋削チップ46の刃先までの鉛直方向の距離である。なお、これらの基準となる点(すなわち、機械上の原点(図7参照))の、加工ワークWの回転中心(軸心O2)に対する位置は前記原点が機械上の点であるため、既知である。なお、従来は、第1工具長Ca、第2工具長Cb、第3工具長Ccを登録して加工の際に使用するという考え方はない。
【0087】
ここで、バッファメモリ140(記憶手段)に記憶した刃先位置、すなわち、第2工具長Cb及び第3工具長Ccと、所定角度θを主制御部110が内部演算処理にて使用する一例を以下に説明する。
【0088】
この例は記憶した第2工具長Cb、第3工具長Cc、所定角度θを使用して、一般的な工具長補正機能で用いられるX軸、Y軸方向の工具長α、βに変換する例である。
図7より、下記の式が導き出せる。
【0089】
M×sinθ=Cc ……(6)
M×cosθ+G=Cb ……(7)
G×cosθ+M=α ……(8)
M:旋削チップ46の刃先を通過する水平面が軸心O1と交差する点T1と基準点PS間の距離
G:旋削チップ46の刃先とT1間を、Y‘−Z平面に射影したときの距離
ここで、式(6)より、
M=Cc/(sinθ) ……(9)
これを式(7)に代入して、
(cosθ/sinθ)×Cc+G=Cb ……(10)
よって、
G=Cb−(cosθ/sinθ)×Cc ……(11)
式(9)と式(11)を式(8)に代入すると、
α=(Cb−(cosθ/sinθ)×Cc)×cosθ+Cc/sinθ ……(12)
式(12)のように、機械座標系X軸、Y軸を有する複合旋盤装置20にて従来使用してきた工具長αは、第2工具長Cb、第3工具長Cc、所定角度θで表すことができる。なお、工具長αは第5工具長に相当し、基準点PSからX軸方向にオフセットしたX−Z平面旋削用工具の旋削チップ刃先のオフセット量である。
【0090】
又、図7より、
β=G×sinθ
=(Cb−(cosθ/sinθ)×Cc))×sinθ ……(13)
従来の場合、所望の加工径を実現するために必要なX軸方向の軸の移動距離は、プログラムで指令した加工ワークWの直径Dとすると、次式となる。
【0091】
X方向移動量(従来)=L−BA−α−(D/2) ……(14)
Y方向移動量(従来)=0 ……(15)
一方、本実施形態の加工では、芯高を出すために、図7のポジション1に工具を位置決めすることが必要で、Y’(=Yt)−Z平面で旋削加工するため、式(12),式(13)で求めたα、βを使って、下式(16)、式(17)より位置決めする。そして、式(12),式(13)、式(16)、式(17)の演算を制御装置100のNCの内部演算処理にて行う。
【0092】
X方向移動量(水平旋削)=L−BA−α−(D/2)+K
=L−BA−α−(D/2)+((D/2)−(D/2)×cosθ) ……(16)
Y方向移動量(水平旋削)=β+J
=β+(D/2)×sinθ ……(17)
ここで、L,BAは機械パラメータで、機械メーカが機械の組み立て時に設定する既知の値である。
【0093】
なお、
L:機械原点と加工ワークWの回転中心(軸心O2)までの距離
BA:工具主軸台が原点復帰したときの機械原点から、工具主軸25の端面(すなわち、基準点PS)までの距離
D:プログラムで指令する加工ワークの直径
である。
【0094】
又、説明は省略するが、第1工具長Caは従来の工具長補正と同様にZ軸移動の際に参照される。上記式からも分かるようにオペレータは従来通り、加工ワークWの直径を入力するだけでよく、すなわち、従来の2軸旋盤の加工プログラム(X軸,Z軸で刃先移動がプログラムされたもの)に第1工具長Ca、第2工具長Cb、第3工具長Cc、所定角度θを使用して、X軸、Y軸、Z軸の移動量に展開することができる。
【0095】
このようにして、第2実施形態の刃先位置登録装置60によれば、ATC30を有する第1実施形態の複合旋盤装置を実現するために直接使用することができる刃先位置登録装置を提供できる。
【0096】
なお、高い加工精度が求められない場合や、加工ワークWの長さが短い場合や、或いは、ワーク自重の悪影響が少ない場合は、従来の旋削加工でもよい場合があり得る。
この従来の旋削加工を行う場合には、前述した図18で示す工具登録画面171で工具名称「TOOL−A」や「TOOL−B」を登録する際、工具種類としてX−Z平面旋削用を選択入力する。なお、X−Z平面旋削用の「TOOL−A」や「TOOL−B」は第2軸−第1軸平面旋削用工具に相当する。
【0097】
また主制御部110は、図19(a)に示すように表示部170の表示画面上にX−Z平面旋削用工具の工具長入力欄173を表示することができる。この状態でオペレータが操作盤160を操作して工具長入力欄173の「TOOL−A」や、或いは「TOOL−B」の欄に対応する入力欄にそれぞれZ軸オフセットとX軸オフセットを入力すると、主制御部110は、これらの工具長をバッファメモリ140に記憶する。なお、前記Z軸オフセットは第4工具長である工具長Bに相当し、X軸オフセットは第5工具長である工具長αに相当する。又、操作盤160は第4工具長及び第5工具長を入力する入力手段に相当し、バッファメモリ140はそれらの工具長を記憶する手段に相当する。
【0098】
この結果、この刃先位置登録装置を備えた複合旋盤装置によれば、加工プログラム中で指定した使用工具の工具種類としてX−Z平面旋削用を選択し、更に、従来構成の旋削加工工具ホルダに取付けされた旋削バイトに関する工具長B(すなわち、第4工具長)及び工具長α(すなわち、第5工具長)を入力することにより、従来と同様の旋削加工を行うことも可能となる。
【0099】
このように、制御装置100は、加工プログラム中に使用する工具として指定された工具名称から、工具登録画面171で入力された工具種類に応じて、X軸、Z軸で刃先移動がプログラムされたものを、そのまま、X軸、Z軸で移動制御するか、第1工具長Ca、第2工具長Cb、第3工具長Cc、所定角度θを使用してX軸、Y軸、Z軸の移動制御するか、を自動判別することができる。
【0100】
(第3実施形態)
次に、上記の複合旋盤装置20に使用される刃先位置検出装置50を図1、及び図8〜10を参照して説明する。
【0101】
刃先位置検出装置50の検出部本体52は、ワーク主軸26aの近傍において、ベッド21に対して支持部53に回転自在に支持されたアーム51の先端に設けられている。
そして、同検出部本体52は、ワーク主軸26aのZ軸方向の軸心O2の回りの近傍に配置されている。なお、支持部53は、図8では省略されている。アーム51は加工ワークWの旋削加工時には、支持部53にて回転されて、先端の検出部本体52を被加工領域該に待避させる。
【0102】
検出部本体52では、アーム51に取付けされた本体ケース54内に針部材55が弾性部材(図示しない)の付勢力に抗して揺動自在に支持されるとともに、その軸心O3(図10参照)の回りでは回転不能に支持されている。そして、針部材55の先端は図8及び図9に示すように本体ケース54の上面から突出されている。又、本体ケース54の上壁54aの内面には、一対を一組とする三組の接続端子56が軸心O3を中心に等角度間隔で配置されている。針部材55の基端部には、図10に示すように前記三組の接続端子56間に常時接触して配置される3個の接触子57が突出して配置されている。
【0103】
そして、針部材55が揺動した際には、いずれかの組の接続端子56間の接触子57が離間して、電気的接続が断たれるようにされている。前記三組の接続端子56は、互いに直列接続されて検出回路を構成し、前述のように電気的にいずれかの組の接続端子56間が断たれる(オフ)されると、制御装置100に対してオフの検出信号を出力するように接続されている。
【0104】
針部材55の先端にはL字状の屈曲部55aを介して検出体58が支持されている。検出体58は図8に示すように多面形をなすブロック状に形成され、第1検出面58a,第2検出面58b、第3検出面58c、及び第4検出面58d等を備えている。
【0105】
図8,9に示すように第1検出面58aは、ワーク主軸26aの軸心O2と直交する平面であって、Z軸方向において検出体58を中心に互いに反対方向を向くように一対形成されている。そして、一対の第1検出面58aは、ワーク主軸26aの軸心O2と平行に旋削加工工具における旋削チップ46が+Z軸方向と−Z軸方向にそれぞれ移動する際に、同旋削チップ46の刃先の接触が可能である。第1検出面58aは、第1工具長Caを測定するためのものである。
【0106】
そして、旋削チップ46が+Z軸方向又は−Z軸方向にそれぞれ移動して、第1検出面58aとの接触により、検出部本体52から検出信号が制御装置100に出力され、その出力と同時にZ軸駆動モータMzの回転が停止される。このときZ方向の移動では、図示しない初期位置Z0からの移動量がモータの回転数に応じて制御装置100が備える図示しないカウンタによりカウントされ、停止した位置までのZ軸上での座標位置が算出される。この算出された座標位置に基づいて、制御装置100により第1工具長Caが算出される。
【0107】
又、第1検出面58aは、Z軸方向に従来構成のホルダに取付けされた旋削バイトの旋削チップが移動する際に、同旋削チップの刃先の接触が可能である。第1検出面58aは、従来構成の旋削加工工具ホルダに取付けされた旋削バイトの工具長Bを検出する際にも使用される。
【0108】
図8,9に示すように第2検出面58bは、ワーク主軸26aの軸心O2と直交する水平方向Ytと直交する平面であって、検出体58を中心に互いに反対方向に向くように一対設けられている。そして、一対の第2検出面58bは、ワーク主軸26aの軸心O2と直交する水平方向Ytに旋削加工工具における旋削チップ46が移動する際に、同旋削チップ46の刃先の接触が可能である。第2検出面58bは、第2工具長Cbを測定するためのものである。
【0109】
そして、旋削チップ46が水平方向Ytにそれぞれ移動して第2検出面58bと接触することにより、検出部本体52から検出信号が制御装置100に出力され、その出力と同時にYt軸駆動モータMytの回転が停止される。このときYt方向の移動では、図示しない初期位置Yt0からの移動量がモータの回転数に応じて制御装置100が備える図示しないカウンタによりカウントされ、停止した位置までのYt軸上での座標位置が算出される。この算出された座標位置に基づいて、制御装置100により第2工具長Cbが算出される。
【0110】
又、図8,9に示すように第3検出面58cは、検出体58を中心に互いに反対方向を向く面であって、鉛直方向と直交する平面に一対形成されている。そして、一対の第3検出面58cは、鉛直方向に旋削加工工具における旋削チップ46が移動する際に、同旋削チップ46の刃先の接触が可能である。第3検出面58cは、第3工具長Ccを測定するためのものである。
【0111】
そして、旋削チップ46が、X軸方向とYt軸方向のベクトル合成により鉛直方向に移動して第3検出面58cと接触することにより、検出信号が制御装置100に出力され、その出力と同時にX軸駆動モータMxとYt軸駆動モータMytの回転が停止される。このときX軸方向及びYt方向の移動では、初期位置X0及び初期位置Yt0からの移動量がモータの回転数に応じて制御装置100が備える図示しないカウンタによりカウントされ、停止した位置までの座標位置が算出される。この算出された座標位置に基づいて、制御装置100により第3工具長Ccが算出される。
【0112】
又、図8,9に示すように第4検出面58dは、検出体58を中心に互いに反対方向を向く面であって、X軸方向と直交する平面に一対設けられている。そして、第4検出面58dは、X軸方向に従来構成のホルダに取付けされた旋削バイトの旋削チップが移動する際に、同旋削チップの刃先の接触が可能である。第4検出面58dは、従来構成の旋削加工工具ホルダに取付けされた旋削バイトの工具長αを測定するためのものである。
【0113】
そして、旋削チップ46が、X軸方向に移動して第4検出面58dと接触することにより、検出信号が制御装置100に出力され、その出力と同時にX軸駆動モータMxの回転が停止される。このときX軸方向の移動では、初期位置X0からの移動量がモータの回転数に応じて制御装置100が備える図示しないカウンタによりカウントされ、停止した位置までの座標位置が算出される。この算出された座標位置に基づいて、制御装置100により工具長αが算出される。
【0114】
なお、第1検出面58a,第2検出面58b、第3検出面58c、及び第4検出面58dはそれぞれ一対に設けられているが、これは、ホルダに取付けされる工具の姿勢、形状に種々のものがあるため、それらの工具に応じて刃先位置を検出できるようにするためのものである。
【0115】
さて、本実施形態の刃先位置検出装置50では、第2工具長Cb、第3工具長Ccを測定するための第2検出面58b及び第3検出面58cを検出体58が備えるようにした。この結果、第2工具長Cb及び第3工具長Ccを測定することができる。
【0116】
又、本実施形態では、検出体58に第1検出面58aと第4検出面58dも備えるため、第1工具長Ca、すなわち従来構成の旋削加工工具ホルダに取付けされた旋削バイトの工具長B及び従来構成の工具長αも測定することが可能となる。
【0117】
なお、本発明の実施形態は前記実施形態に限定するものではない。例えば下記のようにしてもよい。
○ 第1実施形態では、図12(a)のタイプの複合旋盤装置20に具体化したが、図12(b)のタイプの複合旋盤装置に具体化してもよい。
【0118】
この場合は、工具主軸25に取付けされた旋削加工工具が、Z軸(第1軸)と直交する水平方向に沿って移動するように、キャレッジ23を第3軸(Y軸)方向成分を含む方向に移動制御するとともに工具主軸台24をX軸(第2軸)方向に同時に移動制御をする。そして、ワーク主軸26aに取着された加工ワークWに対して旋削加工する制御装置100を備えるようにする。
【0119】
この場合、X軸方向では、X=Ycosθ/sinθで移動し、Y軸方向では、Y=Ytsin
θで移動することにより、水平方向Ytにキャレッジ23が移動される。
○ 第1実施形態では、図12(a)のタイプの複合旋盤装置20に具体化したが、図12(c)のタイプの複合旋盤装置に具体化してもよい。
【符号の説明】
【0120】
23…キャレッジ(移動体)、24…工具主軸台、25…工具主軸、
30…ATC(自動工具交換装置)、
40…旋削バイトホルダ(旋削バイトとともに旋削加工工具を構成する。)、
45…旋削バイト(旋削バイトホルダとともに旋削加工工具を構成する。)、
50…刃先位置検出装置、
60…刃先位置登録装置、
110…主制御部(制御手段)、140…バッファメモリ(記憶手段)、
160…操作盤(刃先位置入力手段)、
W…加工ワーク。
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合旋盤装置の制御方法及び複合旋盤装置に関する。
【背景技術】
【0002】
汎用的な複合旋盤装置の設計の基本思想には、下記の1)〜3)があり、これらは設計するときにおいて配慮される最重要のポイントとなる。
1) オペレータと、加工ワーク及び工具主軸台との接近性がよく、使い勝手が良いこと。
【0003】
2) 工場での工作機械の設置面積が小さいこと。
3) 切り粉の排出性が良く、その処理が容易であること。
このため、従来から自動工具交換装置(自動工具交換手段)を有する複合旋盤装置では、図12(a)〜(c)に示すように、水平方向から所定角度θを持つ傾斜型等の機械が一般的になってきており、所定角度θは45°、60°、90°のものが多い。なお、図12(a)〜(c)において、工具主軸台400はベッド410に移動可能に配置された移動体420に対して、X軸方向に移動可能に設けられている。又、図12(a)の例では、移動体420が水平方向Ytに移動するのに対して、工具主軸台400が水平方向Ytに対して所定角度θをなすX軸方向に移動するようになっている。なお、ここで水平方向とは、水平面とX−Y平面との両方に含まれる直線が延びる方向のことである。
【0004】
図12(b)の例では、移動体420がY軸方向に移動するのに対して、工具主軸台400が水平方向Ytに対して所定角度θをなすX軸方向に移動するようになっている。図12(c)の例では、移動体420がY方向(=水平方向Yt)に移動するのに対して、工具主軸台400が水平方向Ytに対して所定角度θ(=90度)をなすX軸方向に移動するようになっている。
【0005】
このような装置では、所定角度θの方向から切り込んで加工ワークに対して旋削加工するように複合旋盤装置が構成される。
なお、特許文献1には、ワーク主軸の熱変位の影響を回避するために、ワーク主軸の延びやすい方向に対して、直角方向に配置された固定工具で加工して熱変位の影響を回避する複合加工旋盤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−254802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような、自動工具交換手段を備えた複合旋盤装置において、ワークの外径旋削加工をする場合、ワーク自重によるワーク撓みが加工精度(円筒度)に直接影響してしまう問題がある。すなわち、一般的に、支持されたワークの撓み量δ(mm)は、
δ=(5・P・L3)/(384・E・I) ……(1)
で算出することができる。
【0008】
Pはワークの自重(N)、Lはワークの長さ(mm)、Eは縦弾性係数(N/mm2)、Iは断面2次モーメント(mm4)である。上記式に示すように撓み量δは、ワークの長さLの3乗で効いてくるため、長さLが非常に支配的で、長さLが長いほど自重による撓み量δが大きくなる。
【0009】
従って、図12(a)乃至(c)に示すように、水平方向に対して所定角度θで、旋削加工(切込み)をすると、ワークの撓み量が影響して、加工精度(円筒度)が悪くなる(以下、この課題を第1課題という)。
【0010】
又、複合旋盤装置のベッドの構造は、使い勝手の面から鉛直方向には薄く、水平方向には厚い設計となるのが一般的である。工作機械は基礎と接するジャッキボルトの調整により所要の精度を実現しているが、地震や基礎(コンクリート)自体の状態変化などの理由で、基礎の位置が変化する。それに伴ってジャッキボルトにかかる荷重が相対的に変化するため、ベッドは、剛性が低い(厚みが薄い)鉛直方向の撓み方が変化しやすい。
【0011】
このベッドの剛性が低い(厚みが薄い)鉛直方向の撓み方が変化するということは、図14に示すようにピッチングが変化(工具主軸台がワーク主軸の軸心方向であるZ軸方向に移動する際の角度偏差の変化)することと同義である。前述した撓み量δは加工ワークWの撓みの問題であり、機械側の誤差を「0」としているが、ここでいうピッチングは機械側の誤差である。
【0012】
この誤差による刃先の鉛直方向の位置変化は、撓み量δと同様に加工ワークWの円筒度に影響する問題がある(以下、この課題を第2課題という)。すなわち、ジャッキボルトの再調整で高い精度の円筒度を実現しようとすると、調整に多くの時間と手間がかかる上、精度の狂いが基礎の状態変化であると判断できるかどうかについても熟練を要する問題がある。
【0013】
なお、特許文献1は、回転工具と旋削加工工具を交換可能な自動工具交換手段(自動工具交換装置)を有していない複合加工旋盤である。このため、自動工具交換手段を備える複合加工旋盤装置が有する本願発明の第1課題及び第2課題を同時に抑制できない。
【0014】
本発明の目的は、ワークの自重による撓み量の発生による影響及びベッドの剛性が低い鉛直方向の撓み方が変化することによって生ずるピッチングの影響を同時に抑制することができる自動工具交換手段を有する複合旋盤装置の制御方法を提供することにある。
【0015】
又、本発明の他の目的は、ワークの自重による撓み量の発生による影響及びベッドの剛性が低い鉛直方向の撓み方が変化することによって生ずるピッチングの影響を同時に抑制することができる自動工具交換手段を有する複合旋盤装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、自動工具交換手段と、前記自動工具交換手段により交換される旋削加工工具が着脱自在に取付けられる工具主軸を有し、かつワーク主軸の軸心を第1軸として、前記第1軸と直交するとともに水平面と所定角度θ(0<θ≦90°)をなす第2軸に沿って移動可能に移動体に対して支持された工具主軸台を備え、キャレッジベースがベッドに対して第1軸方向に移動可能に設けられるとともに、前記移動体が前記キャレッジベースに対して前記第1軸及び第2軸に直交する第3軸方向成分を含む方向に移動可能に設けられ、前記工具主軸が回転制御及び停止保持制御可能に設けられ、前記工具主軸に取付けされた旋削加工工具の切削点を前記第2軸に沿って移動させることによりワークに対して旋削加工する複合旋盤装置の制御方法において、前記工具主軸に取付けされた旋削加工工具の切削点が、前記第1軸と直交する水平方向に沿って移動するように、前記移動体を第3軸方向成分を含む方向に移動制御して、或いは、前記移動体を第3軸方向成分を含む方向に移動制御するとともに前記工具主軸台を第2軸方向に同時に移動制御をして、前記ワーク主軸に取着されたワークに対して旋削加工することを特徴とする複合旋盤装置の制御方法を要旨とするものである。
【0017】
請求項2の発明は、自動工具交換手段と、前記自動工具交換手段により交換される旋削加工工具が着脱自在に取付けられる工具主軸を有し、かつワーク主軸の軸心を第1軸として、前記第1軸と直交するとともに水平面と所定角度θ(0<θ≦90°)をなす第2軸に沿って移動可能に移動体に対して支持された工具主軸台を備え、キャレッジベースがベッドに対して第1軸方向に移動可能に設けられるとともに、前記移動体が前記キャレッジベースに対して前記第1軸及び第2軸に直交する第3軸方向成分を含む方向に移動可能に設けられ、前記工具主軸が回転制御及び停止保持制御可能に設けられ、前記工具主軸に取付けされた旋削加工工具の切削点を前記第2軸に沿って移動させることによりワークに対して旋削加工する複合旋盤装置において、前記工具主軸に取付けされた旋削加工工具の切削点が、前記第1軸と直交する水平方向に沿って移動するように、前記移動体を第3軸方向成分を含む方向に移動制御して、或いは、前記移動体を第3軸方向成分を含む方向に移動制御するとともに前記工具主軸台を第2軸方向に同時に移動制御をして、前記ワーク主軸に取着されたワークに対して旋削加工する制御手段を備えることを特徴とする複合旋盤装置を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、ワークの自重による撓み量の発生による影響及びベッドの剛性が低い鉛直方向の撓み方が変化することによって生ずる第1軸方向のピッチングの影響を同時に抑制することができる自動工具交換手段を有する複合旋盤装置の制御方法を提供することができる。
【0019】
請求項2の発明によれば、ワークの自重による撓み量の発生による影響及びベッドの剛性が低い鉛直方向の撓み方が変化することによって生ずるピッチングの影響を同時に抑制することができる自動工具交換手段を有する複合旋盤装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態の複合旋盤装置20の概略正面図。
【図2】実施形態の要部の斜視図。
【図3】同じく実施形態の複合旋盤装置20の概略側面図。
【図4】同じく制御装置100のブロック図。
【図5】同じくキャレッジ23、工具主軸、旋削バイトホルダ、加工ワークとの配置関係を示す説明図。
【図6】(a)、(b)は、従来例と実施形態の旋削バイトホルダ40と従来の旋削加工工具の配置を示す説明図。
【図7】実施形態の切削点の相違の説明図。
【図8】刃先位置検出装置50の概略斜視図。
【図9】刃先位置検出装置50の概略側面図。
【図10】針部材55の要部斜視図。
【図11】加工ワークにおいて撓み量δを有している部位と、撓み量がない部位を旋削する場合の説明図。
【図12】(a)〜(c)は、各種の複合旋盤装置の概略図。
【図13】ピッチング誤差の説明図。
【図14】ピッチングについての説明図。
【図15】工具主軸における軸心方向の熱変位量と工具主軸の軸心方向と直交する方向の熱変位量を示すグラフ。
【図16】(a)、(b)は工具主軸における軸心方向の熱変位量と工具主軸の軸心方向と直交する方向の熱変位量の説明図。
【図17】工具主軸台の概略断面図。
【図18】表示部170の表示画面に表示された工具登録画面の説明図。
【図19】(a)は表示部170の表示画面に表示されたX−Z旋削用工具の工具長入力欄の説明図、(b)は表示部170の表示画面に表示された水平旋削用工具の工具長入力欄の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した複合旋盤装置20の一実施形態を図1〜7を参照して説明する。
【0022】
(複合旋盤装置20)
CNC複合旋盤装置(以下、単に複合旋盤装置という)20は、図1に示すように、水平なZ軸方向に伸延した直方体状のフレーム11とベッド21を有しており、フレーム11の前面側(即ち、図1の紙面手前側)にはフロントドア12が開閉駆動自在に設けられている。ベッド21上には、図1に示すように、主軸台26が設置されており、主軸台26にはワーク主軸26aが、Z軸方向にその軸心O2を平行に配置した形で、かつ該軸心O2を中心に回転駆動自在に軸支されている。
【0023】
ワーク主軸26aにはチャック26bが設けられ、チャック26bにて加工しようとする加工ワークWが装着される。
又、ベッド21上には図2に示すようにZ軸方向において主軸台26と対向するようにテールストック27が配置されている。テールストック27はZ軸方向に摺動移動駆動自在に設けられている。
【0024】
テールストック27には、加工すべき加工ワークWの大きさや形状或いは加工の態様に応じて、前記チャック26bで把持した加工ワークWの端部とは180度反対側の端部を支持し得る心押軸27aが設けられている。
【0025】
更に、フレーム11内には、ワーク主軸26a等よりも図1紙面奥側等に公知のツールマガジン14が設置されている。ツールマガジン14には複数種類の旋削工具ユニットや回転工具としての回転工具ユニット等の工具ユニットが保持貯蔵されている。なお、旋削工具ユニットは後述する旋削バイト45と旋削バイトホルダ40とからなる。又、このツールマガジン14の近傍には公知のATC30(自動工具交換装置)が設置されている。ATC30により、ツールマガジン14に保持貯蔵されていた工具ユニットを取り出して後述する工具主軸25に装着させ得るとともに、工具主軸25に装着されていた工具ユニットを取り外してツールマガジン14に保持させることが可能である。なお、旋削バイト45を有する旋削バイトホルダ40を旋削加工工具という。
【0026】
図3に示すように、ベッド21の水平面21aにはキャレッジベース22が取り付けられている。キャレッジベース22は水平面21a上にZ軸方向(図3においては、紙面の垂直方向)の長手送りとY軸投影線方向の横送りを備え、移動体としてのキャレッジ23が載置されている。このY軸投影線方向の横送りとは、Y軸方向成分を含む方向にキャレッジ23が移動可能であることに相当する。
【0027】
キャレッジ23のX軸方向に延びる摺動面23aは、前記水平面21aに対して所定角度θとして一定角度をなすように傾斜している。所定角度θとしては、例えば45°や60°を挙げることができるが、この値に限定されるものではなく、θは0<θ≦90°の範囲であればよい。摺動面23a上には工具主軸台24がX軸方向に摺動可能に載置されている。前記Z軸は第1軸に相当し、X軸は第2軸に相当し、Y軸は第3軸に相当する。
【0028】
工具主軸台24の下端側には、図2に示すように、工具主軸取付部31が形成されている。なお、図3においては、説明の便宜上、工具主軸取付部31は省略されている。工具主軸取付部31には、X軸方向及びZ軸方向に対して直角なY軸方向と平行な軸心O4を中心に図のB軸方向に回動自在に工具主軸25が軸支されている。工具主軸25は工具主軸台24の本体の一部を構成する。
【0029】
なお、工具主軸台24内にはB軸駆動モータMb(図4参照)が内蔵されている。B軸駆動モータMbと工具主軸25の間には、歯車やシャフト等からなる適宜な動力伝達手段(図示せず)が設けられている。動力伝達手段はB軸駆動モータMbからの動力を伝達することにより、前記工具主軸25を軸心O4を中心に図のB軸方向に所定の割り出し角度で回動駆動自在である。
【0030】
さらに、工具主軸取付部31と工具主軸25の間には、該工具主軸取付部31側に対して工具主軸25側を固定・固定解除自在な、適宜な固定手段(図示せず)が設けられている。すなわち、工具主軸25は、動力伝達手段及び固定手段等により、図のB軸方向に所定の割り出し角度で回動駆動・位置決め自在になっている。
【0031】
工具主軸25の軸心O1は、摺動面23aと平行に配置され、すなわち、X軸と平行にされている。
(旋削バイトホルダ40)
次に、前記工具主軸25に着脱自在に取着される旋削バイトホルダ40を図5及び図6を参照して説明する。
【0032】
旋削バイトホルダ40は、ホルダ本体41の基端部に工具主軸25に対して着脱自在に取着される円錐台形状の装着部42が形成されている。ホルダ本体41と装着部42の軸心は同軸に配置されている。そして、ホルダ本体41は、装着部42を介して工具主軸25に対して、軸心O1と同軸となるように取着される。
【0033】
図6(a)に示すようにホルダ本体41の一側面には、取付溝43が凹設されている。取付溝43は、加工ワークW側が開口形成されている(図5参照)。取付溝43の内面のうち装着部42側の面は旋削バイト取付面44とされている。旋削バイト取付面44は図5に示すようにホルダ本体41の軸心に対して所定角度θをなすように設けられている。
【0034】
そして、旋削バイト45は、前記取付溝43に対して装着され、ホルダ本体41の下端面から螺合されるボルト48により、取り外し可能に固定されるとともに水平方向に先端が延出配置されている。旋削バイト45の先端には旋削チップ46が設けられている。なお、ここで水平方向とは、X−Y平面と水平面の両方に含まれる直線が延びる方向のことである。X−Y平面は第2軸・第3軸平面に相当する。
【0035】
(制御装置100)
次に制御装置100を説明する。図1に示すように複合旋盤装置20には、図4に示す制御装置100が装着されている。同図に示すように制御装置100は、CPUからなる主制御部110を有している。主制御部110にはバス線105を介して加工プログラムメモリ120、システムプログラムメモリ130、バッファメモリ140、加工制御部150、キーボード等を有する操作盤160、液晶表示装置等からなる表示部170等が接続されている。主制御部110は、制御手段に相当する。
【0036】
又、主制御部110には、バス線105を介して、X軸制御部200、Yt軸制御部210、Z軸制御部220及びB軸制御部230が接続されている。各軸制御部は、主制御部110の各軸の移動指令を受けて、各軸の移動指令を駆動回路202,212,222,232に出力する。各駆動回路202,212,222,232はこの移動指令を受けて、各軸のモータ(X,Yt,Z,B軸駆動モータ)を駆動する。
【0037】
X軸駆動モータMxが駆動されると、工具主軸25を摺動面23aに沿ってX軸と平行に移動させる。Yt軸駆動モータMytが駆動されると、キャレッジ23が水平方向に移動され、工具主軸25が同方向に移動される。又、Z軸駆動モータMzが駆動されると、キャレッジベース22はZ軸方向に移動され、工具主軸25が同方向に移動される。
【0038】
又、主制御部110には、ワーク主軸制御部240がバス線105を介して接続されている。ワーク主軸制御部240は、主制御部110の回転指令を受けて、その回転指令を駆動回路242に出力する。駆動回路242はこの回転指令を受けて、ワーク主軸駆動モータMWSを回転駆動する。
【0039】
又、主制御部110には、バス線105を介して、工具主軸制御部250が接続されている。工具主軸制御部250は、主制御部110から回転指令を受けて、駆動回路252にスピンドル速度信号を出力する。駆動回路252は、このスピンドル速度信号に基づいて、工具主軸25に連結されたビルトインタイプのモータMTSを回転制御指令に対応した回転速度で回転し、工具主軸25と一体に回転する回転工具ユニットを回転させる。又、主制御部110は、旋削加工工具を使用する際は、工具主軸制御部250に停止保持制御指令を出力する。工具主軸制御部250は主制御部110から停止保持制御指令を受けてモータMTSを停止保持する。
【0040】
(複合旋盤装置20の作用)
なお、説明の便宜上、工具主軸25には、すでに旋削バイト45を有する旋削バイトホルダ40(すなわち、旋削加工工具)が取付けされるとともに、工具主軸25の軸心O1が、X軸方向と平行になるようにB軸方向に回転駆動された後位置決めされているものとする。この状態では、工具主軸制御部250の制御によりモータMTSを停止保持した状態とされている。
【0041】
又、制御装置100は、加工プログラムメモリ120に記憶されている加工プログラムに従って、ワーク主軸制御部240を回転指令を出力して、ワーク主軸駆動モータMWSを回転駆動する。
【0042】
そして、制御装置100では、前記加工プログラムに従って主制御部110がX軸制御部200に対して移動指令を出力する。X軸制御部200は移動指令を駆動回路202に出力し、X軸駆動モータMxを駆動する。この結果、工具主軸台24は軸心O1に沿って移動し、図3に示すようにホルダ本体41に取付けされた旋削バイト45の旋削チップ46の刃先をワーク主軸26aの軸心O2を含む水平面とX−Y平面に含まれる直線が延びる方向、すなわち水平方向Yt上に合致させる。
【0043】
この状態で、主制御部110がYt軸制御部210に対して移動指令を出力する。そして、Yt軸制御部210は移動指令を駆動回路212に出力する。駆動回路212がYt軸駆動モータMytを駆動することにより、キャレッジ23は水平方向Ytに移動され、工具主軸25が同方向に移動される。又、主制御部110は、加工プログラムメモリ120に記憶されている加工プログラムに従ってZ軸制御部220に対して移動指令を出力する。そして、Z軸制御部220は移動指令を駆動回路222に出力する。駆動回路222がZ軸駆動モータMzを駆動することにより、キャレッジベース22はZ軸方向に移動され、工具主軸25が同方向に移動される。
【0044】
上述のように工具主軸25が水平方向Ytに移動されると、工具主軸25に取付けされた旋削加工工具は、その旋削バイト45の旋削チップ46が加工ワークWに対して水平方向に切り込まれる。そして、この状態で工具主軸25がZ軸方向に移動した際に、旋削バイト45の旋削チップ46も同方向に移動され、加工ワークWを旋削する。旋削チップ46が加工ワークWに対して切削加工する点を切削点という。従って、前記制御装置100によって旋削バイト45の旋削チップ46が加工ワークWに対して水平方向に切り込まれることは、切削点が軸心O1(Z軸)と直交する方向に移動するように制御されていることを意味する。
【0045】
この場合、本実施形態では、ATC30を備えた複合旋盤装置において、加工ワークWの外径旋削加工をする場合、ワーク自重によるワーク撓みが加工精度(円筒度)に直接影響することがなくなる。特に、従来は、加工ワークWが長くなると、撓み量は、加工ワークWの長さLの3乗で効いてくるため、長さLが非常に支配的で、長さLが長いほど自重による撓み量が大きくなり、従来の旋削では、この撓み量により影響を受けるが、本実施形態では、加工ワークWが長くなっても撓みの影響を回避することができる。
【0046】
又、複合旋盤装置20のベッド21は、使い勝手の面から鉛直方向には薄く、水平方向には厚い設計となるようにした一般的なものとしている。このため、このベッド21の剛性が低い(厚みが薄い)鉛直方向の撓み方が変化することが考えられる。このことは、図14に示すようにピッチングが変化(工具主軸台がワーク主軸の軸心方向であるZ軸方向に移動する際の角度偏差の変化)することを意味している。
【0047】
しかし、本実施形態では、ベッド21の剛性が低い鉛直方向の撓み方が変化することによって生ずるピッチングの影響を、加工ワークWに対して水平方向に切り込むことにより、抑制することができる。
【0048】
(加工ワークWの撓みによる悪化量)
ここで、現実的に想定される加工ワークWを例にとって、φ100mm×1270mmの鉄の場合、前記式(1)を使用して算出すると、撓み量δは20μmとなる。加工ワークWは撓み量δが大きな場所ほど、高さの位置が低いため、複合旋盤装置の高さ方向の位置が不変とした場合、加工ワークWの径は、撓みが最も大きい中央部で最も大きくなる。このとき、従来の方法で旋削加工した場合、加工ワークWの円筒度は40μmとなり、実際の加工精度上で大きな問題となる。
【0049】
下記には、撓みによる円筒度の悪化量を求める計算式を示す。又、図11は加工ワークにおいて撓み量δを有している部位と、撓み量がない部位を旋削する場合の説明図である。
【0050】
水平方向に切り込む場合の加工ワークの撓みによる円筒度の悪化量A1は下記式で表わされる。
【0051】
【数1】
ここで、加工ワークWの半径Rを50mmとし、δを20μmとした場合、上記式によりA1は7.9nmとなる。
【0052】
又、水平方向から所定角度θに相当する切込角度θkの位置から切り込む場合の加工ワ
ークの撓みによる円筒度の悪化量A2は下記式(3)で表わされる。
【0053】
【数2】
R:加工プログラムで指令した加工ワークの仕上がり半径
δ:最も撓み量が大となる部位における撓み量(例えば加工ワークの長手方向の中央部位)
U:最も撓み量が大となる部位における、加工ワークの中心から、刃先までの最小距離
ここで、加工ワークWの半径Rを50mmとし、δを20μmとし、切込角度θkを90度とした場合、上記式(3)によりA2は40μmとなる。
【0054】
又、加工ワークWの半径Rを50mmとし、δを20μmとし、切込角度θkを60度とした場合、上記式(3)によりA2は34μmとなる。
又、加工ワークWの半径Rを50mmとし、δを20μmとし、切込角度θkを45度とした場合、上記式(3)によりA2は28μmとなる。
【0055】
このように、水平方向から切込した場合の方がその悪化量は無視できるほど小さくできる。
(ピッチング誤差)
ここで、図13を参照してピッチング誤差について説明する。図13は加工ワークWに対して、従来の旋削方法の場合を示す説明図である。
【0056】
なお、ここでは、工具主軸台は鉛直方向に移動するものとする。旋削バイトは同方向に移動するものとする。例えば、ISO10791-1では、ピッチング精度の許容値は1000mmについて60μm以内と定義されているが、図13の従来例の場合、刃先の高さ方向の位置変化”Δ”は次式で表わされる。
【0057】
Δ=L×cosθn−(L−60μm)=L(cosθn−1)+60μm
L:ベッド21のキャレッジ摺動面から旋削チップ46の刃先までの距離(μm)
θn:ピッチング誤差(Z軸方向への移動に伴う角度偏差)
ここで、θn=tan(60/1000000)であるから、cosθn=0.999994となり、例えば現実的な機械サイズからL=1000mmとすると、Δ=54μmとなる。なお、L=2000mmでも、Δ=48μmである。
【0058】
このΔ=54μmの場合、加工した加工ワークWの円筒度は108μmとなり、大きな問題である。
ここで、本実施形態のように所定角度θを有する複合旋盤装置20で加工する場合について説明する。本実施形態では、加工ワークWに対して水平方向に切り込む。この場合、水平方向に切り込む場合のピッチング誤差による円筒度の悪化量A3は下記式で表わされる。
【0059】
【数3】
ここで、加工ワークWの半径Rを50mmとし、Δを54μmとした場合、上記式によりA3は0.1μmとなる。
【0060】
又、水平方向から切込角度θkの位置から切り込む場合のピッチング誤差による円筒度
の悪化量A4は下記式で表わされる。
【0061】
【数4】
この場合、加工ワークWの半径Rを50mmとし、Δを54μmとし、切込角度θkを60度とした場合、上記式によりA4は92μmとなる。
【0062】
このように、A3の方が、悪化量は無視できるほど小さいことが分かる。
(熱変位)
ここで、熱変位について説明する。
【0063】
工具主軸25及び回転工具はモータMTSとベアリングの発熱により、その軸方向に熱変位が必ず生ずる。この場合、ATC30により、回転工具ユニットが旋削加工工具に変えられた後も、その熱の影響を旋削加工工具は間接的に受ける。
【0064】
図17には工具主軸25の内部構造が示されており、外筒35の内面にはステータ37がロータ32の周囲を囲むように設けられている。ロータ32は、ベアリング33,34を介して、外筒35に対して回動自在に支持されるとともに、その先端に回転工具ユニット等の工具ユニットが取付けされる。又、外筒35には、冷却回路36が内蔵され、冷却回路36内には温度管理された液体が流れるようになっている。このため、一般的に、「工具主軸25の軸心方向と直交する方向の熱変位」は、「工具主軸25の軸心方向の熱変位」に比較して抑制することが可能となっている。なお、図17中、矢印は、熱変位が現れやすい方向を示している。
【0065】
ここで、工具主軸25における軸心方向と同軸心方向と直交する方向の熱変位の程度をみてみる。図15は、工具主軸における軸心方向の熱変位量と工具主軸25の軸心方向と直交する方向の熱変位量を示すグラフである。同図に示すように工具主軸台24の温度が上昇すると、工具主軸25において、軸心方向の熱変位は、工具主軸25の軸心方向と直交する方向の熱変位よりも大きいことが分かる。このため、工具主軸25の軸心方向の熱変位は、工具主軸25に取付けされた旋削加工工具においても影響を受ける。
【0066】
そこで、以下では具体的な数値を挙げて熱変位の影響を説明する。ここでは、図15で示されている、工具主軸温度が29℃のときの工具主軸25の軸方向の熱変位量35μm(=δ1)と、工具主軸25の軸心方向と直交する方向の熱変位量6μm(=δ2)を採用する。
【0067】
図16(a),(b)に示すように、加工ワークWの加工半径をR=50mmとするように外径旋削加工する場合、従来通りに所定角度θで切込みする場合と、水平旋削加工する場合を比較する。
【0068】
従来の場合の実際の加工半径R1は、下記の式で算出される。
【0069】
【数5】
ここで、従来の場合の実際の加工半径R1は、θに関係なく、R1=49.965(mm)である。
【0070】
従って、この場合、加工半径Rとの差を算出すると、R−R1=35(μm)となり、θの角度に関係なく、35μmの誤差が出る。
一方、水平旋削加工する場合は、θ=60°のとき、下記の式で算出される。
【0071】
【数6】
ここで、θ=60°のとき、R2=49.977(mm)である。
【0072】
従って、R−R2=23(μm)の誤差が出る。
又、θ=45°のとき、R2=49.971(mm)である。
従って、R−R2=29(μm)の誤差が出る。
【0073】
又、θ=90°のとき、R2=49.994(mm)である。
従って、R−R2=6(μm)の誤差が出る。
以上のようにいずれも、水平旋削加工する場合、熱変位による影響は、従来の場合よりも軽減することができる。
【0074】
又、本実施形態の制御方法では、工具主軸25に取付けされた旋削加工工具の切削点が、ワーク主軸の軸心O2と直交する水平方向Ytに沿って移動するように、キャレッジ23(移動体)をY軸(第3軸)方向成分を含む方向に移動制御して、ワーク主軸26aに取着された加工ワークWに対して旋削加工するようにした。
【0075】
この結果、加工ワークWの自重による撓み量の発生による影響、ベッドの剛性が低い鉛直方向の撓み方が変化することによって生ずるピッチングの影響、及び回転工具ユニットを回転するモータとベアリングにより生ずる熱変位の影響を同時に抑制することができる。
【0076】
又、本実施形態の旋削バイトホルダ40によれば、旋削バイト取付面44とホルダ本体41の軸心とのなす角度が、工具主軸25の軸心O1と水平面21aとのなす所定角度θと同じ角度にされている。この結果、ATC30を有する複合旋盤装置20の上記の制御方法や、上記のように構成されたATC30を有する複合旋盤装置20を実現するために直接使用できる旋削バイトホルダを提供できる効果がある。
【0077】
(第2実施形態)
次に第2実施形態の刃先位置登録装置60を説明するまえに、第1実施形態の複合旋盤装置20及び旋削バイトホルダ40があっても、実際に加工するには、下記の理由から複合旋盤装置20に刃先位置登録装置60を備えることが望ましい。
【0078】
従来の旋削加工では、図6(b)に示す従来の旋削加工の切込位置にてX−Z平面内で旋削加工を行う。このとき、Y軸方向の刃先位置は、加工ワークWの回転中心(軸心O2)を含んだX−Z平面上の位置にあり、工具主軸の軸心O1に旋削チップ刃先が合致するようになっている。このような状態に位置合わせをすることを芯高調整という。なお、芯高調整は加工精度や加工面品位に影響をするため、避けては通れないのが常識である。ここで、旋削バイトホルダには旋削バイトが、又、旋削バイトには旋削チップが取り付く。通常、旋削チップが取り付いた旋削バイトは、その厚みThが規格化されて市販されており、一方、旋削バイトホルダは、厚みThを考慮して機械の主軸軸心(軸心O2)に刃先が合致するように設計され、提供されている。そして、旋削バイトホルダは機械においては、旋削加工の際にはX−Z平面上に位置決めするように作られる。このため、機械のオペレータが旋削加工をしようとする時には、既に芯高調整されている状態にあり、オペレータが芯高調整を意識する必要もない。
【0079】
しかし、第1実施形態の複合旋盤装置20では、旋削加工を行う場合、芯高調整のために、図6(b)に示すように旋削チップ46の刃先が「加工ワークWの回転中心(軸心O2)に直交する水平方向の軸」に合致するように機械を位置決めしてやる必要があるが、この位置決め(芯高調整)はオペレータが意識して行わなければならない。具体的には、芯高調整のために、X,Y軸の位置決めのプログラムを追加することになるが、そのX,Y軸の位置で芯高調整が正しくできているかの確認をするためには、加工ワークWの端面をその加工工具で削り、削り残しが無くなるまで、X,Y軸の位置決めプログラムを微調整していくことになり、何度も削り直すことになる。これは、非常に手間で効率が悪く現実にそぐわない。
【0080】
このため、この問題を解決するためのものとして、刃先位置登録装置60の構成を図1〜図7、図18、及び図19を参照して説明する。なお、第2実施形態は、第1実施形態の構成にさらに、刃先位置登録装置60が設けられたものであるため、第1実施形態と同一構成については同一符号を付して説明を省略する。
【0081】
刃先位置登録装置60は、図4に示す操作盤160と、バッファメモリ140とから構成されている。操作盤160は刃先位置入力手段に相当し、バッファメモリ140は記憶手段に相当する。
【0082】
図18に示すように、オペレータが操作盤160を操作して表示部170に工具登録画面171(図18参照)を表示させ、工具名称の欄に加工プログラムで使用工具を指定するために用いる工具名称として例えば「TOOL−C」という文字列を操作盤160より入力する。又、工具種類の欄には、「X−Z平面旋削用」と「水平旋削用」、又は、その他の回転工具等の種類を選択入力する。又、主制御部110は、図19(b)に示すように表示部170の表示画面上に水平旋削用工具の工具長入力欄172を表示することができる。この状態でオペレータが操作盤160を操作して工具長入力欄172の「TOOL−C」の入力欄にそれぞれ第1工具長Ca、第2工具長Cb及び第3工具長Ccを入力すると、主制御部110は、これらの工具長をバッファメモリ140に記憶する。
【0083】
ここで、第1工具長Caは、工具主軸台24の工具主軸25の軸心O1上の基準点PSからワーク主軸26aのZ軸(第1軸)方向にオフセットした旋削チップ46の刃先のオフセット量である。なお、基準点PSとは、工具主軸台24の工具主軸25の軸心O1上の所定の位置であって、本実施形態では、工具主軸25の端面と軸心O1との交点を基準点PSとしているが、これに限定されるものではなく、工具主軸25の軸心O1上であって、特定しやすい位置であればよい。
【0084】
第1工具長Caは、従来の工具長B(図6(a)参照)に相当する。なお、工具長Bは第4工具長に相当し、工具主軸25の軸心O1上の基準点PSからワーク主軸26aのZ軸(第1軸)方向にオフセットした従来構成の旋削加工工具ホルダに取付けされた旋削バイトの刃先先端のオフセット量である。
【0085】
第2工具長Cbは、基準点PSからZ軸(第1軸)と直交する水平方向にオフセットした旋削チップ46の刃先のオフセット量であり、加工ワークWの加工径補正用に使用されるもので、使用する旋削バイトの長さや突き出し方によって変わる値である。
【0086】
第3工具長Ccは、基準点PSから鉛直方向にオフセットした旋削チップ46の刃先のオフセット量である。すなわち、第3工具長Ccは、工具主軸25の軸心O1と工具主軸25の端面とが交差する点(基準点PS)から、旋削チップ46の刃先までの鉛直方向の距離である。なお、これらの基準となる点(すなわち、機械上の原点(図7参照))の、加工ワークWの回転中心(軸心O2)に対する位置は前記原点が機械上の点であるため、既知である。なお、従来は、第1工具長Ca、第2工具長Cb、第3工具長Ccを登録して加工の際に使用するという考え方はない。
【0087】
ここで、バッファメモリ140(記憶手段)に記憶した刃先位置、すなわち、第2工具長Cb及び第3工具長Ccと、所定角度θを主制御部110が内部演算処理にて使用する一例を以下に説明する。
【0088】
この例は記憶した第2工具長Cb、第3工具長Cc、所定角度θを使用して、一般的な工具長補正機能で用いられるX軸、Y軸方向の工具長α、βに変換する例である。
図7より、下記の式が導き出せる。
【0089】
M×sinθ=Cc ……(6)
M×cosθ+G=Cb ……(7)
G×cosθ+M=α ……(8)
M:旋削チップ46の刃先を通過する水平面が軸心O1と交差する点T1と基準点PS間の距離
G:旋削チップ46の刃先とT1間を、Y‘−Z平面に射影したときの距離
ここで、式(6)より、
M=Cc/(sinθ) ……(9)
これを式(7)に代入して、
(cosθ/sinθ)×Cc+G=Cb ……(10)
よって、
G=Cb−(cosθ/sinθ)×Cc ……(11)
式(9)と式(11)を式(8)に代入すると、
α=(Cb−(cosθ/sinθ)×Cc)×cosθ+Cc/sinθ ……(12)
式(12)のように、機械座標系X軸、Y軸を有する複合旋盤装置20にて従来使用してきた工具長αは、第2工具長Cb、第3工具長Cc、所定角度θで表すことができる。なお、工具長αは第5工具長に相当し、基準点PSからX軸方向にオフセットしたX−Z平面旋削用工具の旋削チップ刃先のオフセット量である。
【0090】
又、図7より、
β=G×sinθ
=(Cb−(cosθ/sinθ)×Cc))×sinθ ……(13)
従来の場合、所望の加工径を実現するために必要なX軸方向の軸の移動距離は、プログラムで指令した加工ワークWの直径Dとすると、次式となる。
【0091】
X方向移動量(従来)=L−BA−α−(D/2) ……(14)
Y方向移動量(従来)=0 ……(15)
一方、本実施形態の加工では、芯高を出すために、図7のポジション1に工具を位置決めすることが必要で、Y’(=Yt)−Z平面で旋削加工するため、式(12),式(13)で求めたα、βを使って、下式(16)、式(17)より位置決めする。そして、式(12),式(13)、式(16)、式(17)の演算を制御装置100のNCの内部演算処理にて行う。
【0092】
X方向移動量(水平旋削)=L−BA−α−(D/2)+K
=L−BA−α−(D/2)+((D/2)−(D/2)×cosθ) ……(16)
Y方向移動量(水平旋削)=β+J
=β+(D/2)×sinθ ……(17)
ここで、L,BAは機械パラメータで、機械メーカが機械の組み立て時に設定する既知の値である。
【0093】
なお、
L:機械原点と加工ワークWの回転中心(軸心O2)までの距離
BA:工具主軸台が原点復帰したときの機械原点から、工具主軸25の端面(すなわち、基準点PS)までの距離
D:プログラムで指令する加工ワークの直径
である。
【0094】
又、説明は省略するが、第1工具長Caは従来の工具長補正と同様にZ軸移動の際に参照される。上記式からも分かるようにオペレータは従来通り、加工ワークWの直径を入力するだけでよく、すなわち、従来の2軸旋盤の加工プログラム(X軸,Z軸で刃先移動がプログラムされたもの)に第1工具長Ca、第2工具長Cb、第3工具長Cc、所定角度θを使用して、X軸、Y軸、Z軸の移動量に展開することができる。
【0095】
このようにして、第2実施形態の刃先位置登録装置60によれば、ATC30を有する第1実施形態の複合旋盤装置を実現するために直接使用することができる刃先位置登録装置を提供できる。
【0096】
なお、高い加工精度が求められない場合や、加工ワークWの長さが短い場合や、或いは、ワーク自重の悪影響が少ない場合は、従来の旋削加工でもよい場合があり得る。
この従来の旋削加工を行う場合には、前述した図18で示す工具登録画面171で工具名称「TOOL−A」や「TOOL−B」を登録する際、工具種類としてX−Z平面旋削用を選択入力する。なお、X−Z平面旋削用の「TOOL−A」や「TOOL−B」は第2軸−第1軸平面旋削用工具に相当する。
【0097】
また主制御部110は、図19(a)に示すように表示部170の表示画面上にX−Z平面旋削用工具の工具長入力欄173を表示することができる。この状態でオペレータが操作盤160を操作して工具長入力欄173の「TOOL−A」や、或いは「TOOL−B」の欄に対応する入力欄にそれぞれZ軸オフセットとX軸オフセットを入力すると、主制御部110は、これらの工具長をバッファメモリ140に記憶する。なお、前記Z軸オフセットは第4工具長である工具長Bに相当し、X軸オフセットは第5工具長である工具長αに相当する。又、操作盤160は第4工具長及び第5工具長を入力する入力手段に相当し、バッファメモリ140はそれらの工具長を記憶する手段に相当する。
【0098】
この結果、この刃先位置登録装置を備えた複合旋盤装置によれば、加工プログラム中で指定した使用工具の工具種類としてX−Z平面旋削用を選択し、更に、従来構成の旋削加工工具ホルダに取付けされた旋削バイトに関する工具長B(すなわち、第4工具長)及び工具長α(すなわち、第5工具長)を入力することにより、従来と同様の旋削加工を行うことも可能となる。
【0099】
このように、制御装置100は、加工プログラム中に使用する工具として指定された工具名称から、工具登録画面171で入力された工具種類に応じて、X軸、Z軸で刃先移動がプログラムされたものを、そのまま、X軸、Z軸で移動制御するか、第1工具長Ca、第2工具長Cb、第3工具長Cc、所定角度θを使用してX軸、Y軸、Z軸の移動制御するか、を自動判別することができる。
【0100】
(第3実施形態)
次に、上記の複合旋盤装置20に使用される刃先位置検出装置50を図1、及び図8〜10を参照して説明する。
【0101】
刃先位置検出装置50の検出部本体52は、ワーク主軸26aの近傍において、ベッド21に対して支持部53に回転自在に支持されたアーム51の先端に設けられている。
そして、同検出部本体52は、ワーク主軸26aのZ軸方向の軸心O2の回りの近傍に配置されている。なお、支持部53は、図8では省略されている。アーム51は加工ワークWの旋削加工時には、支持部53にて回転されて、先端の検出部本体52を被加工領域該に待避させる。
【0102】
検出部本体52では、アーム51に取付けされた本体ケース54内に針部材55が弾性部材(図示しない)の付勢力に抗して揺動自在に支持されるとともに、その軸心O3(図10参照)の回りでは回転不能に支持されている。そして、針部材55の先端は図8及び図9に示すように本体ケース54の上面から突出されている。又、本体ケース54の上壁54aの内面には、一対を一組とする三組の接続端子56が軸心O3を中心に等角度間隔で配置されている。針部材55の基端部には、図10に示すように前記三組の接続端子56間に常時接触して配置される3個の接触子57が突出して配置されている。
【0103】
そして、針部材55が揺動した際には、いずれかの組の接続端子56間の接触子57が離間して、電気的接続が断たれるようにされている。前記三組の接続端子56は、互いに直列接続されて検出回路を構成し、前述のように電気的にいずれかの組の接続端子56間が断たれる(オフ)されると、制御装置100に対してオフの検出信号を出力するように接続されている。
【0104】
針部材55の先端にはL字状の屈曲部55aを介して検出体58が支持されている。検出体58は図8に示すように多面形をなすブロック状に形成され、第1検出面58a,第2検出面58b、第3検出面58c、及び第4検出面58d等を備えている。
【0105】
図8,9に示すように第1検出面58aは、ワーク主軸26aの軸心O2と直交する平面であって、Z軸方向において検出体58を中心に互いに反対方向を向くように一対形成されている。そして、一対の第1検出面58aは、ワーク主軸26aの軸心O2と平行に旋削加工工具における旋削チップ46が+Z軸方向と−Z軸方向にそれぞれ移動する際に、同旋削チップ46の刃先の接触が可能である。第1検出面58aは、第1工具長Caを測定するためのものである。
【0106】
そして、旋削チップ46が+Z軸方向又は−Z軸方向にそれぞれ移動して、第1検出面58aとの接触により、検出部本体52から検出信号が制御装置100に出力され、その出力と同時にZ軸駆動モータMzの回転が停止される。このときZ方向の移動では、図示しない初期位置Z0からの移動量がモータの回転数に応じて制御装置100が備える図示しないカウンタによりカウントされ、停止した位置までのZ軸上での座標位置が算出される。この算出された座標位置に基づいて、制御装置100により第1工具長Caが算出される。
【0107】
又、第1検出面58aは、Z軸方向に従来構成のホルダに取付けされた旋削バイトの旋削チップが移動する際に、同旋削チップの刃先の接触が可能である。第1検出面58aは、従来構成の旋削加工工具ホルダに取付けされた旋削バイトの工具長Bを検出する際にも使用される。
【0108】
図8,9に示すように第2検出面58bは、ワーク主軸26aの軸心O2と直交する水平方向Ytと直交する平面であって、検出体58を中心に互いに反対方向に向くように一対設けられている。そして、一対の第2検出面58bは、ワーク主軸26aの軸心O2と直交する水平方向Ytに旋削加工工具における旋削チップ46が移動する際に、同旋削チップ46の刃先の接触が可能である。第2検出面58bは、第2工具長Cbを測定するためのものである。
【0109】
そして、旋削チップ46が水平方向Ytにそれぞれ移動して第2検出面58bと接触することにより、検出部本体52から検出信号が制御装置100に出力され、その出力と同時にYt軸駆動モータMytの回転が停止される。このときYt方向の移動では、図示しない初期位置Yt0からの移動量がモータの回転数に応じて制御装置100が備える図示しないカウンタによりカウントされ、停止した位置までのYt軸上での座標位置が算出される。この算出された座標位置に基づいて、制御装置100により第2工具長Cbが算出される。
【0110】
又、図8,9に示すように第3検出面58cは、検出体58を中心に互いに反対方向を向く面であって、鉛直方向と直交する平面に一対形成されている。そして、一対の第3検出面58cは、鉛直方向に旋削加工工具における旋削チップ46が移動する際に、同旋削チップ46の刃先の接触が可能である。第3検出面58cは、第3工具長Ccを測定するためのものである。
【0111】
そして、旋削チップ46が、X軸方向とYt軸方向のベクトル合成により鉛直方向に移動して第3検出面58cと接触することにより、検出信号が制御装置100に出力され、その出力と同時にX軸駆動モータMxとYt軸駆動モータMytの回転が停止される。このときX軸方向及びYt方向の移動では、初期位置X0及び初期位置Yt0からの移動量がモータの回転数に応じて制御装置100が備える図示しないカウンタによりカウントされ、停止した位置までの座標位置が算出される。この算出された座標位置に基づいて、制御装置100により第3工具長Ccが算出される。
【0112】
又、図8,9に示すように第4検出面58dは、検出体58を中心に互いに反対方向を向く面であって、X軸方向と直交する平面に一対設けられている。そして、第4検出面58dは、X軸方向に従来構成のホルダに取付けされた旋削バイトの旋削チップが移動する際に、同旋削チップの刃先の接触が可能である。第4検出面58dは、従来構成の旋削加工工具ホルダに取付けされた旋削バイトの工具長αを測定するためのものである。
【0113】
そして、旋削チップ46が、X軸方向に移動して第4検出面58dと接触することにより、検出信号が制御装置100に出力され、その出力と同時にX軸駆動モータMxの回転が停止される。このときX軸方向の移動では、初期位置X0からの移動量がモータの回転数に応じて制御装置100が備える図示しないカウンタによりカウントされ、停止した位置までの座標位置が算出される。この算出された座標位置に基づいて、制御装置100により工具長αが算出される。
【0114】
なお、第1検出面58a,第2検出面58b、第3検出面58c、及び第4検出面58dはそれぞれ一対に設けられているが、これは、ホルダに取付けされる工具の姿勢、形状に種々のものがあるため、それらの工具に応じて刃先位置を検出できるようにするためのものである。
【0115】
さて、本実施形態の刃先位置検出装置50では、第2工具長Cb、第3工具長Ccを測定するための第2検出面58b及び第3検出面58cを検出体58が備えるようにした。この結果、第2工具長Cb及び第3工具長Ccを測定することができる。
【0116】
又、本実施形態では、検出体58に第1検出面58aと第4検出面58dも備えるため、第1工具長Ca、すなわち従来構成の旋削加工工具ホルダに取付けされた旋削バイトの工具長B及び従来構成の工具長αも測定することが可能となる。
【0117】
なお、本発明の実施形態は前記実施形態に限定するものではない。例えば下記のようにしてもよい。
○ 第1実施形態では、図12(a)のタイプの複合旋盤装置20に具体化したが、図12(b)のタイプの複合旋盤装置に具体化してもよい。
【0118】
この場合は、工具主軸25に取付けされた旋削加工工具が、Z軸(第1軸)と直交する水平方向に沿って移動するように、キャレッジ23を第3軸(Y軸)方向成分を含む方向に移動制御するとともに工具主軸台24をX軸(第2軸)方向に同時に移動制御をする。そして、ワーク主軸26aに取着された加工ワークWに対して旋削加工する制御装置100を備えるようにする。
【0119】
この場合、X軸方向では、X=Ycosθ/sinθで移動し、Y軸方向では、Y=Ytsin
θで移動することにより、水平方向Ytにキャレッジ23が移動される。
○ 第1実施形態では、図12(a)のタイプの複合旋盤装置20に具体化したが、図12(c)のタイプの複合旋盤装置に具体化してもよい。
【符号の説明】
【0120】
23…キャレッジ(移動体)、24…工具主軸台、25…工具主軸、
30…ATC(自動工具交換装置)、
40…旋削バイトホルダ(旋削バイトとともに旋削加工工具を構成する。)、
45…旋削バイト(旋削バイトホルダとともに旋削加工工具を構成する。)、
50…刃先位置検出装置、
60…刃先位置登録装置、
110…主制御部(制御手段)、140…バッファメモリ(記憶手段)、
160…操作盤(刃先位置入力手段)、
W…加工ワーク。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動工具交換手段と、
前記自動工具交換手段により交換される旋削加工工具が着脱自在に取付けられる工具主軸を有し、かつワーク主軸の軸心を第1軸として、前記第1軸と直交するとともに水平面と所定角度θ(0<θ≦90°)をなす第2軸に沿って移動可能に移動体に対して支持された工具主軸台を備え、
キャレッジベースがベッドに対して第1軸方向に移動可能に設けられるとともに、前記移動体が前記キャレッジベースに対して前記第1軸及び第2軸に直交する第3軸方向成分を含む方向に移動可能に設けられ、
前記工具主軸が回転制御及び停止保持制御可能に設けられ、前記工具主軸に取付けされた旋削加工工具の切削点を前記第2軸に沿って移動させることによりワークに対して旋削加工する複合旋盤装置の制御方法において、
前記工具主軸に取付けされた旋削加工工具の切削点が、前記第1軸と直交する水平方向に沿って移動するように、前記移動体を第3軸方向成分を含む方向に移動制御して、或いは、前記移動体を第3軸方向成分を含む方向に移動制御するとともに前記工具主軸台を第2軸方向に同時に移動制御をして、前記ワーク主軸に取着されたワークに対して旋削加工することを特徴とする複合旋盤装置の制御方法。
【請求項2】
自動工具交換手段と、
前記自動工具交換手段により交換される旋削加工工具が着脱自在に取付けられる工具主軸を有し、かつワーク主軸の軸心を第1軸として、前記第1軸と直交するとともに水平面と所定角度θ(0<θ≦90°)をなす第2軸に沿って移動可能に移動体に対して支持された工具主軸台を備え、
キャレッジベースがベッドに対して第1軸方向に移動可能に設けられるとともに、前記移動体が前記キャレッジベースに対して前記第1軸及び第2軸に直交する第3軸方向成分を含む方向に移動可能に設けられ、
前記工具主軸が回転制御及び停止保持制御可能に設けられ、前記工具主軸に取付けされた旋削加工工具の切削点を前記第2軸に沿って移動させることによりワークに対して旋削加工する複合旋盤装置において、
前記工具主軸に取付けされた旋削加工工具の切削点が、前記第1軸と直交する水平方向に沿って移動するように、前記移動体を第3軸方向成分を含む方向に移動制御して、或いは、前記移動体を第3軸方向成分を含む方向に移動制御するとともに前記工具主軸台を第2軸方向に同時に移動制御をして、前記ワーク主軸に取着されたワークに対して旋削加工する制御手段を備えることを特徴とする複合旋盤装置。
【請求項1】
自動工具交換手段と、
前記自動工具交換手段により交換される旋削加工工具が着脱自在に取付けられる工具主軸を有し、かつワーク主軸の軸心を第1軸として、前記第1軸と直交するとともに水平面と所定角度θ(0<θ≦90°)をなす第2軸に沿って移動可能に移動体に対して支持された工具主軸台を備え、
キャレッジベースがベッドに対して第1軸方向に移動可能に設けられるとともに、前記移動体が前記キャレッジベースに対して前記第1軸及び第2軸に直交する第3軸方向成分を含む方向に移動可能に設けられ、
前記工具主軸が回転制御及び停止保持制御可能に設けられ、前記工具主軸に取付けされた旋削加工工具の切削点を前記第2軸に沿って移動させることによりワークに対して旋削加工する複合旋盤装置の制御方法において、
前記工具主軸に取付けされた旋削加工工具の切削点が、前記第1軸と直交する水平方向に沿って移動するように、前記移動体を第3軸方向成分を含む方向に移動制御して、或いは、前記移動体を第3軸方向成分を含む方向に移動制御するとともに前記工具主軸台を第2軸方向に同時に移動制御をして、前記ワーク主軸に取着されたワークに対して旋削加工することを特徴とする複合旋盤装置の制御方法。
【請求項2】
自動工具交換手段と、
前記自動工具交換手段により交換される旋削加工工具が着脱自在に取付けられる工具主軸を有し、かつワーク主軸の軸心を第1軸として、前記第1軸と直交するとともに水平面と所定角度θ(0<θ≦90°)をなす第2軸に沿って移動可能に移動体に対して支持された工具主軸台を備え、
キャレッジベースがベッドに対して第1軸方向に移動可能に設けられるとともに、前記移動体が前記キャレッジベースに対して前記第1軸及び第2軸に直交する第3軸方向成分を含む方向に移動可能に設けられ、
前記工具主軸が回転制御及び停止保持制御可能に設けられ、前記工具主軸に取付けされた旋削加工工具の切削点を前記第2軸に沿って移動させることによりワークに対して旋削加工する複合旋盤装置において、
前記工具主軸に取付けされた旋削加工工具の切削点が、前記第1軸と直交する水平方向に沿って移動するように、前記移動体を第3軸方向成分を含む方向に移動制御して、或いは、前記移動体を第3軸方向成分を含む方向に移動制御するとともに前記工具主軸台を第2軸方向に同時に移動制御をして、前記ワーク主軸に取着されたワークに対して旋削加工する制御手段を備えることを特徴とする複合旋盤装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−106339(P2012−106339A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−54290(P2012−54290)
【出願日】平成24年3月12日(2012.3.12)
【分割の表示】特願2007−130992(P2007−130992)の分割
【原出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(000114787)ヤマザキマザック株式会社 (80)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月12日(2012.3.12)
【分割の表示】特願2007−130992(P2007−130992)の分割
【原出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(000114787)ヤマザキマザック株式会社 (80)
【Fターム(参考)】
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