説明

複合材料

【課題】実用上十分な機械的強度を持ち、環境に対する負荷の少ない複合材料を提供すること。
【解決手段】本発明の複合材料は、カルボキシル基含有量0.1〜3mmol/gの微細セルロース繊維と、バイオマス由来の高分子及び石油由来の高分子からなる群から選択される、成形可能な高分子材料とが混合されたものである。前記バイオマス由来の高分子としては、ポリ乳酸又はパルプが好ましい。前記セルロース繊維の含有量は、好ましくは0.01〜60質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノサイズの繊維径をもった微細セルロース繊維を含有し、高い機械的物性を有する複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有限な資源である石油由来のプラスチック材料が多用されていたが、近年、環境に対する負荷の少ない技術が脚光を浴びるようになり、斯かる技術背景の下、天然に多量に存在するバイオマスであるセルロース繊維を使った材料が注目され、これに関して種々の改良技術が提案されている。例えば特許文献1及び2には、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(以下、TEMPOとも表記する)等のN−オキシル化合物の存在下、酸化剤で酸化処理した酸化パルプを用いた紙材料が記載されている。
【0003】
また従来、ミクロフィブリルと呼ばれる、ナノサイズの繊維径をもった繊維(ナノファイバー)と他の材料とを混合させた複合材料が知られている。例えば特許文献3には、熱可塑性ポリマーマトリックスと、直径約2〜30nmのミクロフィブリルセルロースで構成されたセルロース充填材とを含む組成物が記載されている。
【0004】
また特許文献4には、生分解性プラスチックとホヤセルロース繊維を含む崩壊性又は生分解性ポリマー組成物が記載されている。ホヤセルロース繊維は、ホヤの外被をカッター等で切断し5〜20mm程度の大きさにした後、ミキサー等の装置を用いて粉砕し、ビータ等を用いてミクロフィブリル化することにより得られるもので、直径0.1μm以下の微細繊維である。
【0005】
また特許文献5には、固形分の65〜100重量%のセルロースミクロフィブリル及び0〜35重量%の添加剤(熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、デンプン等)からなり、且つ所定の測定法による曲げ強度が特定範囲にある高強度材料が記載されている。
【0006】
また本出願人は、先に、基材に、平均繊維径200nm以下且つカルボキシル基含有量0.1〜2mmol/gのセルロース繊維を含むガスバリア用材料からなる層を設けてなるガスバリア性複合成形体を提案した(特許文献6)。このセルロース繊維は、木材パルプ等の天然セルロース繊維をTEMPO触媒の下で酸化処理し、得られた酸化物の分散液をミキサー等で解繊処理することにより得られるもので、従来のナノファイバーと呼ばれる繊維よりも更に微小な繊維径をもつ微細セルロース繊維である。特許文献6に記載のガスバリア性複合成形体は、この微細セルロース繊維の特異性により、酸素、水蒸気、二酸化炭素、窒素等の各種ガスに対する高いガスバリア性を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2002−537503号公報
【特許文献2】特開2001−336084号公報
【特許文献3】特表平9−509694号公報
【特許文献4】特許第3423094号公報
【特許文献5】特許第3641690号公報
【特許文献6】国際公開第2009/020239号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、バイオマス資源の有効利用の観点から、セルロースナノファイバーを用いた複合材料に関する技術が種々提案されているが、従来のセルロースナノファイバーを用いた複合材料は、機械的強度が十分とは言えず、そのため、例えば容器、電化製品等の各種成形品用途、特に機械的強度が重視される用途には適用し難かった。また、用途によっては、複合材料に高い透明性が求められる場合があるところ、従来のセルロースナノファイバーを複合材料に用いた場合、該複合材料に所定の機械的強度を付与するために必要な量のセルロースナノファイバーを含有させると、得られる複合材料の透明性が低く、高い透明性の要望に応じられなかった。高い機械的強度と透明性とを併せもった環境負荷低減型の複合材料は未だ提供されていない。
【0009】
従って本発明の課題は、実用上十分な機械的強度を持ち、環境に対する負荷の少ない複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、特許文献6に記載の微細セルロース繊維(平均繊維径200nm以下且つカルボキシル基含有量0.1〜3mmol/gのセルロース繊維)を用いた新規な複合材料について種々検討した結果、該微細セルロース繊維とポリ乳酸に代表されるバイオマス由来の高分子とを均一混合してなる複合材料が、高い弾性率、引張強度及び透明性を有するものであることを知見した。
【0011】
本発明は、前記知見に基づきなされたもので、カルボキシル基含有量0.1〜3mmol/gの微細セルロース繊維と、バイオマス由来の高分子及び石油由来の高分子からなる群から選択される、成形可能な高分子材料とが混合された複合材料を提供することにより、前記課題を解決したものである。
【0012】
本発明は、前記複合材料の製造方法であって、粉末状の前記微細セルロース繊維と前記高分子材料とを混合して均一混合物を得た後、該均一混合物を任意の形状に成形する工程を有する、複合材料の製造方法を提供することにより、前記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の複合材料は、実用上十分な機械的強度を持ち、環境に対する負荷が少ない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の複合材料は、(1)カルボキシル基含有量0.1〜3mmol/gの微細セルロース繊維と、(2)成形可能な高分子材料との2成分を必須成分と含有している。以下に各成分について詳細に説明する。
【0015】
本発明で用いる微細セルロース繊維は、平均繊維径が200nm以下が好ましく、より好ましくは100nm以下、更に好ましくは1〜50nmである。平均繊維径が200nmを超えるセルロース繊維を複合材料に用いると、機械的強度の向上効果が十分に得られないおそれがある。平均繊維径は下記測定方法により測定される。
【0016】
<平均繊維径の測定方法>
固形分濃度で0.0001質量%のセルロース繊維に水を加えて分散液を調製し、該分散液を、マイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(AFM、Nanoscope III Tapping mode AFM、Digital instrument社製、プローブはナノセンサーズ社製Point Probe (NCH)を使用)を用いて、該観察試料中のセルロース繊維の繊維高さを測定する。そして、セルロース繊維が確認できる顕微鏡画像において、セルロース繊維を5本以上抽出し、それらの繊維高さから平均繊維径を算出する。一般に高等植物から調製されるセルロースナノファイバーの最小単位は6本×6本の分子鎖がほぼ正方形の形でパッキングされていることから、AFMによる画像で分析できる高さを繊維の幅と見なすことができる。
【0017】
また、本発明で用いる微細セルロース繊維は、平均繊維径が200nm以下であることに加えて更に、カルボキシル基含有量(該微細セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量)が0.1〜3mmol/g、特に0.1〜2mmol/g、とりわけ0.4〜2mmol/g、中でも0.6〜1.8mmol/gであることが好ましい。尚、本発明の複合材料には、カルボキシル基含有量が斯かる範囲外であるセルロース繊維が、意図せずに不純物として含まれることもあり得る。
【0018】
前記カルボキシル基含有量は、平均繊維径200nm以下という微小な繊維径のセルロース繊維を安定的に得る上で重要な要素である。即ち、天然セルロースの生合成の過程においては、通常、ミクロフィブリルと呼ばれるナノファイバーがまず形成され、これらが多束化して高次な固体構造を構築しているところ、本発明で用いる微細セルロース繊維は、後述するように、これを原理的に利用して得られるものであり、天然由来のセルロース固体原料においてミクロフィブリル間の強い凝集力の原動となっている表面間の水素結合を弱めるために、その一部を酸化し、カルボキシル基に変換することによって得られる。従って、セルロースに存在するカルボキシル基の量の総和(カルボキシル基含有量)が多いほうが、より微小な繊維径として安定に存在することができ、また水中においては、電気的な反発力が生じることにより、ミクロフィブリルが凝集を維持せずにばらばらになろうとする傾向が高まり、ナノファイバーの分散安定性がより増大する。前記カルボキシル基含有量が0.1mmol/g未満では、繊維径200nm以下という微小な繊維径をもつ微細セルロース繊維として得られ難くなり、また、水等の極性溶媒中における分散安定性が低下するおそれがある。前記カルボキシル基含有量は下記測定方法により測定される。
【0019】
<カルボキシル基含有量の測定方法>
乾燥質量0.5gのセルロース繊維を100mlビーカーにとり、イオン交換水を加えて全体で55mlとし、そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mlを加えて分散液を調製し、セルロース繊維が十分に分散するまで該分散液を攪拌する。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5〜3に調整し、自動滴定装置(AUT−50、東亜ディーケーケー(株)製)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定し、pH11程度になるまで測定を続け、電導度曲線を得る。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、セルロース繊維のカルボキシル基含有量を算出する。
カルボキシル基含有量(mmol/g)=水酸化ナトリウム滴定量×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)/セルロース繊維の質量(0.5g)
【0020】
本発明で用いる微細セルロース繊維は、平均アスペクト比(繊維長/繊維径)が、好ましくは10〜1000、更に好ましくは10〜500、特に好ましくは100〜350である。平均アスペクト比が斯かる範囲にある繊維は、複合材料中での分散性に優れ、機械強度が高く、特に脆性破壊し難いという特長を有する。平均アスペクト比は下記測定方法により測定される。
【0021】
<平均アスペクト比の測定方法>
平均アスペクト比は、セルロース繊維に水を加えて調製した分散液(セルロース繊維の質量濃度0.005〜0.04質量%)の粘度から算出する。分散液の粘度は、レオメーター(MCR、DG42(二重円筒)、PHYSICA社製)を用いて20℃で測定する。分散液のセルロース繊維の質量濃度と分散液の水に対する比粘度との関係から、下記式(1)によりセルロース繊維のアスペクト比を逆算し、これを平均アスペクト比とする。下記式(1)は、The Theory of Polymer Dynamics,M.DOI and D.F.EDWARDS,CLARENDON PRESS・OXFORD,1986,P312に記載の剛直棒状分子の粘度式(8.138)と、Lb2×ρ=M/NAの関係〔式中、Lは繊維長、bは繊維幅(セルロース繊維断面は正方形とする)、ρはセルロース繊維の濃度(kg/m3)、Mは分子量、NAはアボガドロ数を表す〕から導出される。尚、粘度式(8.138)において、剛直棒状分子=セルロース繊維とした。また、下記式(1)中、ηSPは比粘度、πは円周率、lnは自然対数、Pはアスペクト比(L/b)、γ=0.8、ρSは分散媒の密度(kg/m3)、ρ0はセルロース結晶の密度(kg/m3)、Cはセルロースの質量濃度(C=ρ/ρS)を表す。
【0022】
【数1】

【0023】
本発明で用いる微細セルロース繊維は、ナトリウム塩型のカルボキシル基(COONa)を有するものであっても良く、酸型のカルボキシル基(COOH)を有するものであっても良い。
【0024】
本発明の複合材料における前記微細セルロース繊維の含有量は、機械的強度と透明性とのバランスの観点から適宜設定することができる。一般に、機械的強度の向上の観点からは、微細セルロース繊維の含有量が多いことが好ましいが、微細セルロース繊維の含有量が多すぎると、耐屈曲性や伸び性、透明性(複合材料において微細セルロース繊維と共に含有される高分子材料が本来持っている、透明性)が低下するおそれがある。このような観点から、複合材料における微細セルロース繊維の含有量は、複合材料の全質量に対して、好ましくは0.01〜60質量%、更に好ましくは0.05〜10質量%、特に好ましくは0.1〜5質量%である。
【0025】
微細セルロース繊維の適切な含有量は、併用される高分子材料の種類によって変動する。特に、高分子材料がポリ乳酸(PLA)である場合には、比較的少量(含有量5質量%以下)の微細セルロース繊維で、高い機械的強度と透明性とを併せもった環境負荷低減型の複合材料が得られる。また、高分子材料がパルプである場合には、微細セルロース繊維の含有量が多いほど、具体的には、微細セルロース繊維の含有量が0.1質量%以上であると、高い機械的強度と透明性とを併せもった環境負荷低減型の複合材料が得られるが、耐屈曲性の観点から、微細セルロース繊維の含有量は0.01〜60質量%が好ましい。
【0026】
本発明で用いる微細セルロース繊維は、例えば次の方法により製造することができる。即ち、本発明で用いる微細セルロース繊維は、天然セルロース繊維を酸化して反応物繊維を得る酸化反応工程、及び該反応物繊維を微細化処理する微細化工程を含む製造方法により得ることができる。以下に各工程について詳細に説明する。
【0027】
前記酸化反応工程では、先ず、水中に天然セルロース繊維を分散させたスラリーを調製する。スラリーは、原料となる天然セルロース繊維(絶対乾燥基準)に対して約10〜1000倍量(質量基準)の水を加え、ミキサー等で処理することにより得られる。天然セルロース繊維としては、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等の木材パルプ;コットンリンター、コットンリントのような綿系パルプ;麦わらパルプ、バガスパルプ等の非木材系パルプ;バクテリアセルロース等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。天然セルロース繊維は、叩解等の表面積を高める処理が施されていても良い。
【0028】
次に、水中においてN−オキシル化合物を酸化触媒として天然セルロース繊維を酸化処理して反応物繊維を得る。セルロースの酸化触媒として使用可能なN−オキシル化合物としては、例えば、TEMPO、4−アセトアミド−TEMPO、4−カルボキシ−TEMPO、4−フォスフォノオキシ−TEMPO等を用いることができる。これらN−オキシル化合物の添加は触媒量で十分であり、通常、原料として用いた天然セルロース繊維(絶対乾燥基準)に対して0.1〜10質量%となる範囲である。
【0029】
前記天然セルロース繊維の酸化処理においては、酸化剤(例えば、次亜ハロゲン酸又はその塩、亜ハロゲン酸又はその塩、過ハロゲン酸又はその塩、過酸化水素、過有機酸等)と、共酸化剤(例えば、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属)とを併用する。酸化剤としては、特に、次亜塩素酸ナトリウムや次亜臭素酸ナトリウム等のアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩が好ましい。酸化剤の使用量は、通常、原料として用いた天然セルロース繊維(絶対乾燥基準)に対して約1〜100質量%となる範囲である。また、共酸化剤の使用量は、通常、原料として用いた天然セルロース繊維(絶対乾燥基準)に対して約1〜30質量%となる範囲である。
【0030】
また、前記天然セルロース繊維の酸化処理においては、酸化反応を効率良く進行させる観点から、反応液(前記スラリー)のpHは9〜12の範囲で維持されることが望ましい。また、酸化処理の温度(前記スラリーの温度)は、1〜50℃において任意であるが、室温で反応可能であり、特に温度制御は必要としない。また、反応時間は1〜240分間が望ましい。
【0031】
前記酸化反応工程後、前記微細化工程前に精製工程を実施し、未反応の酸化剤や各種副生成物等の、前記スラリー中に含まれる反応物繊維及び水以外の不純物を除去する。反応物繊維は通常、この段階ではナノファイバー単位までばらばらに分散していないため、精製工程では、例えば水洗とろ過を繰り返す精製法を行うことができ、その際に用いる精製装置は特に制限されない。こうして得られる精製処理された反応物繊維は、通常、適量の水を含浸させた状態で次工程(微細化工程)に送られるが、必要に応じ、乾燥処理した繊維状や粉末状としても良い。
【0032】
前記微細化工程では、前記精製工程を経た反応物繊維を水等の溶媒中に分散させ微細化処理を施す。この微細化工程を経ることにより、平均繊維径及び平均アスペクト比がそれぞれ前記範囲にある微細セルロース繊維が得られる。
【0033】
前記微細化処理において、分散媒としての溶媒は通常は水が好ましいが、水以外にも目的に応じて水に可溶な有機溶媒(アルコール類、エーテル類、ケトン類等)を使用しても良く、これらの混合物も好適に使用できる。また、微細化処理で使用する分散機としては、例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。また、微細化処理における反応物繊維の固形分濃度は50質量%以下が好ましい。該固形分濃度が50質量%を超えると、分散に極めて高いエネルギーを必要とするため好ましくない。
【0034】
前記微細化工程後に得られる微細セルロース繊維の形態としては、必要に応じ、固形分濃度を調整した懸濁液状(目視的に無色透明又は不透明な液)、あるいは乾燥処理した粉末状(但し、セルロース繊維が凝集した粉末状であり、セルロース粒子を意味するものではない)とすることもできる。尚、懸濁液状にする場合、分散媒として水のみを使用しても良く、水と他の有機溶媒(例えば、エタノール等のアルコール類)や界面活性剤、酸、塩基等との混合溶媒を使用しても良い。
【0035】
このような天然セルロース繊維の酸化処理及び微細化処理により、セルロース構成単位のC6位の水酸基がアルデヒド基を経由してカルボキシル基へと選択的に酸化され、前記カルボキシル基含有量が0.1〜3mmol/gのセルロースからなる、平均繊維径200nm以下の微細化された高結晶性セルロース繊維を得ることができる。この高結晶性セルロース繊維は、セルロースI型結晶構造を有している。これは、本発明で用いる微細セルロース繊維が、I型結晶構造を有する天然由来のセルロース固体原料が表面酸化され微細化された繊維であることを意味する。即ち、天然セルロース繊維は、その生合成の過程において生産されるミクロフィブリルと呼ばれる微細な繊維が多束化して高次な固体構造を構築しており、そのミクロフィブリル間の強い凝集力(表面間の水素結合)を、前記酸化処理によるアルデヒド基あるいはカルボキシル基の導入によって弱め、更に前記微細化処理を経ることで、微細セルロース繊維が得られる。そして、前記酸化処理の条件を調整することにより、前記カルボキシル基含有量を所定範囲内にて増減させ、極性を変化させたり、該カルボキシル基の静電反発や前記微細化処理により、セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長、平均アスペクト比等を制御することができる。
【0036】
また、本発明の複合材料は、前記微細セルロース繊維に加えて、成形可能な高分子材料を含んでいる。ここで、成形可能な高分子材料は、高分子材料単独あるいは高分子材料と他の材料との混合物に必要な加工を施して得られた、所定形状の物体が、その所定形状を一定時間以上保持し得る場合の、その高分子材料を意味する。例えば、通常のプラスチック成形に使用可能な化石資源由来の樹脂は、「成形可能な高分子材料」に含まれる。成形可能な高分子材料は、必要な加工(高分子材料をその本来の形態とは異なる形態にするための処理)を経て所定形状の物体とすることができるものであり、具体的には、熱可塑性を有するもの、熱硬化性を有するもの、有機溶媒に溶解するもの、有機溶媒に分散するもの、水に溶解するもの、水に分散するもの等が挙げられる。成形可能な高分子材料を用いることで、本発明の複合材料は、フィルムやシート等の薄状物あるいは箱やボトル等の立体容器、情報家電の筐体、自動車等のボディ等に成形することができる。
【0037】
本発明で用いる成形可能な高分子材料(以下、単に、高分子材料ともいう)としては、a)バイオマス由来の高分子及びb)石油由来の高分子が挙げられる。バイオマス由来の高分子は、生物から得られる有機性高分子で化石資源を除いたものであり、前記微細セルロース繊維と同様に生分解性を有するものも含まれる。バイオマス由来の高分子として好ましいものとして、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸、ポリ(3−ヒドロキシブタン酸)、バイオポリエチレン、バイオポリプロピレン、バイオポリエチレンテレフタレート、バイオポリカーボネート等の熱可塑性のものが挙げられる。
【0038】
前記バイオマス由来の高分子としては、前記のPLA等以外に、多糖類を用いることもできる。多糖類としては、パルプが挙げられ、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等の木材パルプ;麻、竹、藁、ケナフ等の非木材パルプ;コットンリンター、コットンリント等の綿系パルプ等が挙げられる。また、本発明で使用可能なパルプ以外の多糖類としては、例えば、レーヨン等の再生セルロース、デンプン、キチン、キトサン、三酢酸セルロース(TAC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の多糖類、多糖類誘導体等が挙げられる。これらの多糖類は、何れも非熱可塑性である。
【0039】
また、本発明で用いる石油由来の高分子(成形可能な高分子材料)は、化石資源から得られる有機性高分子であり、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ナイロン樹脂、メタクリル樹脂、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、アイオノマー等の熱可塑性樹脂;エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、必要に応じて、変性エチレンビニルアセテート、変性エチレンアクリレート、アクリル酸変性エチレンビニルアセテート、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂、エポキシ変性ポリオレフィン樹脂、無水マレイン酸変性エチレンアクリレート、無水マレイン酸変性ビニルアセテート等の変性樹脂の1種以上を、そのまま単独で(他の樹脂と併用せずに)本発明に係る石油由来の高分子として用いることもできるし、あるいは他の石油由来の高分子と併用した場合の接着樹脂として用いることもできる。
【0040】
本発明の複合材料における成形可能な高分子材料の含有量は、複合材料に高い機械的強度及び透明性を付与する観点から、複合材料の全質量に対して、好ましくは40〜99.99質量%、更に好ましくは90〜99.95質量%、特に好ましくは95〜99.9質量%である。
【0041】
本発明の複合材料は、前述した微細セルロース繊維と成形可能な高分子材料とが混合されたものである。即ち、本発明の複合材料は、微細セルロース繊維と高分子材料とが該複合材料全体に略均一に分散したものであり、両成分は何れも実質的に偏在しておらず、微細セルロース繊維を主体とする層やポリマーを主体とする層を有していない。
【0042】
本発明の複合材料は、必要に応じ、これら2成分以外の他の成分、例えば、ガラスやコンクリートに代表される、粘土鉱物、無機物、金属物等の無機材料を含んでいても良い。また、本発明の複合材料は、軟質化剤や結晶核剤等の添加剤を含んでいても良い。
【0043】
本発明の複合材料は任意の形状に成形可能であり、例えばフィルムやシート等の薄状物、直方体や立方体等のブロック状その他の立体形状として提供される。例えば薄状物の複合材料とする場合、その厚みは特に制限されないが、通常0.05〜50mmである。
【0044】
本発明の複合材料は、例えば、前記微細セルロース繊維と前記高分子材料とを混合して均一混合物を得た後、該均一混合物を任意の形状に成形することによって製造することができる。
【0045】
本発明の複合材料の原料として用いる前記微細セルロース繊維の形態としては、微細セルロース繊維と共に併用される前記高分子材料や混錬に用いる装置等を考慮し、粉末状(但し、セルロース繊維が凝集した粉末状であり、セルロース粒子を意味するものではない)、懸濁液状(目視的に無色透明又は不透明な液)などから任意に選択できる。特に、粉末状の前記微細セルロース繊維を複合材料に用いると、該複合材料(前記高分子材料)中で該微細セルロース繊維が均一分散するため、比較的少量(含有量5質量%以下)の微細セルロース繊維の使用で、実用上十分な機械的強度が得られる。
【0046】
粉末状の前記微細セルロース繊維としては、例えば、微細セルロース繊維の水分散液をそのまま乾燥させた乾燥物;該乾燥物を機械処理で粉末化したもの;微細セルロース繊維の水分散液をアルコール等の非水系溶媒と混合させて該繊維を凝集させ、その凝集物を乾燥させたもの;該凝集物の未乾燥物;微細セルロース繊維の水分散液を公知のスプレードライ法により粉末化したもの;微細セルロース繊維の水分散液を公知のフリーズドライ法により粉末化したもの等が挙げられる。前記スプレードライ法は、前記微細セルロース繊維の水分散液を気中で噴霧し乾燥させる方法である。
【0047】
また、懸濁液状の前記微細セルロース繊維としては、前記微細セルロース繊維の水分散液をそのまま使用することもできるし、あるいは粉末状の前記微細セルロース繊維を任意の媒体に分散させたものを使用することもできる。前記媒体は、混合される高分子材料や後述する混合、成形の方法によって適宜選択することができる。例えば、高分子材料としてポリ乳酸を用い且つ後述する溶融混錬法によって複合材料を製造する場合、前記媒体として水やアルコールを用いると、ポリ乳酸の加水分解が進行する恐れがあって好ましくないため、前記媒体としては有機溶媒が好ましく、例えばコハク酸メチルトリグリコールジエステル等が挙げられる。また例えば、高分子材料としてパルプを用い且つ後述するキャスト法によって複合材料を製造する場合、前記媒体としては、分散性の観点から、水やアルコールが好ましい。
【0048】
前記微細セルロース繊維と共に本発明で併用される前記高分子材料が、バイオマス由来の高分子のうち熱可塑性のもの(例えばポリ乳酸)、あるいは石油由来の高分子である場合には、例えば、加熱されて溶融状態の高分子材料に微細セルロース繊維を添加し、該高分子材料が溶融状態を維持しているうちにこれらを混錬し、こうして得られた均一混合物を成形する方法(以下、溶融混錬法ともいう)により、本発明の複合材料を製造することができる。その場合、混練装置としては、例えば単軸軸混練押出機、二軸混練押出機、加圧ニーダー等の公知の装置が使用できる。例えば、前記高分子材料としてポリ乳酸の如き熱可塑性樹脂を用いる場合、粉末状の前記微細セルロース繊維(以下、セルロースナノファイバー粉末ともいう)を、溶融状態の該熱可塑性樹脂中に添加した後、二軸混錬機を用いて該セルロースナノファイバー粉末を該熱可塑性樹脂中に均一分散させて樹脂ペレットを得、該樹脂ペレットを加熱圧縮することにより、シート状の複合材料が得られる。あるいは、公知のプラスチック成形法、具体的には射出成形、注形成形、押出成形、ブロー成形、延伸成形、発泡成形等を利用して、ブロック状その他の立体形状を有する複合材料を得ることができる。
【0049】
また、溶融混錬法以外の複合材料の製造方法として、キャスト法が挙げられる。キャスト法は、溶媒中に前記微細セルロース繊維及び前記高分子材料を分散又は溶解させた混合流動物を、基材上に流延塗布し、溶媒を除去して膜を得、該膜に熱プレスをかけて、薄膜状の複合材料を得る方法である。例えば、有機溶媒中に溶解させた高分子材料に、前記セルロースナノファイバー粉末を添加し混合流動物を得、該混合流動物からキャスト法によって複合材料の膜状あるいはシート状物を得ることができる。キャスト法は、前記高分子材料の種類を問わず、前述したバイオマス由来の高分子及び合成高分子の全てに幅広く適用することができる。
【0050】
キャスト法において、基材上に流延塗布された混合流動物から溶媒を除去する方法としては、例えば、基材として液透過性基材(例えば、厚み方向に貫通する液透過孔を多数有する多孔性基材)を用いる方法が挙げられる。この方法では、混合流動物を液透過性基材上に塗布することにより、該混合流動物中の溶媒は多孔性基材を透過して除去され、固形分(微細セルロース繊維及び高分子材料)は多孔性基材上にこし取られる。また、別の溶媒除去法として、混合流動物を基材上に流延塗布した後、該混合流動物を自然乾燥又は熱風乾燥等の乾燥法により乾燥する方法が挙げられる。また、キャスト法において、溶媒除去後に得られた膜に対して実施する熱プレスは、例えば、金属板を用いた押圧式、ロータリー式等公知の装置を用いて行うことができる。
【0051】
また、前記微細セルロース繊維と共に本発明で併用される前記高分子材料が、バイオマス由来の高分子の一種である多糖類(例えばパルプ等の非熱可塑性のもの)である場合には、微細セルロース繊維と高分子材料との均一混合物を得る方法としては、次の方法が有効である。即ち、水等の溶媒中に微細セルロース繊維を分散させてスラリーを得、該スラリーに高分子材料(多糖類)を添加し、更に必要に応じ、微細セルロース繊維及び高分子材料以外の他の成分(例えば前記無機材料)を添加し、分散させて均一混合物を得る。この均一混合物(スラリー)における溶媒としては、通常は水が好ましいが、水以外にも目的に応じて水に可溶な有機溶媒(アルコール類、エーテル類、ケトン類等)を使用しても良く、これらの溶媒の混合物も好適に使用できる。また、均一混合物の固形分濃度は、分散を容易にする観点から、30質量%以下が好ましい。また、分散体の調製に使用する分散機としては、例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。
【0052】
また、本発明の複合材料は、湿式抄紙法により製造することもできる。湿式抄紙法は、前記微細セルロース繊維と共に本発明で併用される前記高分子材料が、バイオマス由来の高分子の一種である多糖類(例えばパルプ等の非熱可塑性のもの)である場合に特に有効である。湿式抄紙法では、先ず、微細セルロース繊維と高分子材料(多糖類)とを均一混合させたスラリーを得、常法に従って該スラリーを湿式抄紙機の網の上に流して薄く平にすることで、湿潤状態のシート状複合材料(湿潤ウエブ)を形成する。この湿潤ウエブに、必要に応じ脱水処理を施した後、乾燥処理を施すことにより、シート状の複合材料が得られる。
【0053】
湿式抄紙法において、前記湿潤ウエブの脱水・乾燥処理は、例えば、通常の湿式抄紙法における抄紙工程のプレスパート及びドライヤーパートを利用して行うことができる。具体的には、先ず、プレスパートにおいて、湿潤ウエブに必要に応じフェルト(毛布)を当てて上下から圧縮することで、該ウエブ中の水分を搾り取り、次いで、ドライヤーパートにおいて、乾燥手段を用いて、脱水処理がなされた湿潤繊維ウエブを乾燥する。こうして、シート状の複合材料が得られる。乾燥手段に特に制限は無く、ヤンキードライヤーやエアースルードライヤー等を用いることができる。また、湿式抄紙機は、例えば、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、オントップ抄紙機、ハイブリッド抄紙機、丸網抄紙機等を用いることができる。尚、湿式抄紙法は、シート状の複合材料の製造のみならず、所望の立体形状の複合材料の製造にも利用可能である。
【0054】
また、本発明の複合材料は、含浸法により製造することもできる。即ち、本発明の複合材料は、前記微細セルロース繊維を主体とする繊維集合体に前記高分子材料を含む液を含浸して得られたものであっても良い。この繊維集合体は、前記高分子材料を実質的に含有していない、シート状又は所望の立体形状の繊維集合体であり、例えば公知の湿式抄紙法あるいはパルプモールド成形法により製造することができる。含浸法を利用した複合材料の製造方法においては、前記繊維集合体を前記高分子材料を含む液に浸し、該繊維集合体の内部にまで該液を浸透させる。高分子材料を含む液は、高分子材料を水等の適当な溶媒に分散又は溶解させて得られる。前記繊維集合体を高分子材料を含む液に浸した後、該繊維集合体を自然乾燥又は熱風乾燥等の乾燥法により乾燥することにより、所望の形状の複合材料が得られる。
【0055】
本発明の複合材料は、実用上十分な機械的強度を有していることが好ましい。より具体的には、本発明の複合材料は、引張弾性率及び引張降伏強度が、何れもベースポリマーに対して、1.1倍以上、好ましくは1.3倍以上、更に好ましくは1.5倍以上である。ここで、ベースポリマーとは、前記微細セルロース繊維と共に本発明で併用される前記高分子材料(バイオマス由来の高分子、石油由来の高分子)である。前述した方法で得られた複合材料は、引張弾性率及び引張降伏強度がそれぞれベースポリマーに対して前記範囲にあり、実用上十分な機械的強度を有している。引張弾性率及び引張降伏強度は、それぞれ下記方法により測定される。
【0056】
<引張弾性率及び引張降伏強度の測定方法>
下記A法又はB法によって測定する。尚、後述する実施例及び比較例のサンプル(複合材料)の引張弾性率及び引張降伏強度の測定において、実施例1〜5及び比較例1〜6については下記A法を利用し、実施例6及び比較例7については下記B法を利用した。
A法:引張圧縮試験機((株)オリエンテック社製 RTA−500)を用いて、JIS
K7113に準拠して、複合材料の引張弾性率及び引張降伏強度をそれぞれ引張試験によって測定した。3号ダンベルで打ち抜いたサンプルを支点間距離80mmでセットし、クロスヘッド速度10mm/minで測定した。
B法:引張圧縮試験機((株)オリエンテック社製 RTA−500)を用いて、複合材料の引張弾性率及び引張降伏強度をそれぞれ引張試験によって測定した。カッターで長さ4cm、幅1cmの短冊状に切り出したサンプルを支点間距離20mmでセットし、クロスヘッド速度10mm/minで測定した。
【0057】
また、本発明によれば、透明性の高い複合材料を提供することが可能である。特に、前記高分子材料としてポリ乳酸を用いた場合には、比較的少量(含有量5質量%以下)の前記微細セルロース繊維で高い機械的強度を発現させることができるため、ポリ乳酸が本来有する高い透明性を殆ど損なわずに、実用上十分な機械的強度を有する複合材料が得られる。また、前記高分子材料としてパルプを用いた場合には、前記微細セルロース繊維の含有量が多いほど、高い機械的強度及び透明性を有する複合材料が得られる。ここでいう高い透明性とは、具体的には、全光線透過率が50%以上(好ましくは70%以上)である場合をいう。全光線透過率は下記方法により測定される。
【0058】
<全光線透過率の測定方法>
ヘイズメーターNDH5000(日本電色工業株式会社 製)を用いて、JIS K7361−1に準拠して、複合材料の全光線透過率を測定した。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。
【0060】
前記微細セルロース繊維として、下記要領で微細セルロース繊維1の懸濁液を製造した。〔微細セルロース繊維1の製造方法〕
原料となる天然セルロース繊維として針葉樹晒しクラフトパルプ(フレッチャー チャレンジ カナダ製、CSF650ml)を用い、酸化触媒としてTEMPO(ALDRICH製、Free radical、98%製)を用い、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウム(和光純薬工業(株)、Cl:5%製)を用い、共酸化剤として臭化ナトリウム(和光純薬工業(株)製)を用いた。天然セルロース繊維100gにイオン交換水9900gを加えて十分に攪拌してスラリーを得、該スラリーに、TEMPOを対パルプ1.25質量%、臭化ナトリウムを対パルプ12.5質量%、次亜塩素酸ナトリウムを対パルプ28.4質量%、それぞれこの順で添加し、更にpHスタッドを用い、0.5Mの水酸化ナトリウムの滴下にてスラリーのpHを10.5に保持し、温度20〜0℃で酸化反応を行った。120分間の酸化時間で水酸化ナトリウムの滴下を停止し、反応物繊維(酸化パルプ)を得た。該反応物繊維をイオン交換水にて十分に洗浄し、脱水処理を行った。次いで、該反応物繊維10g(固形分換算)とイオン交換水990gとをミキサー(大阪ケミケル(株)製、Vita-mix-Blender ABSOLUTE)にて120分間攪拌する(即ち微細化処理時間120分間)。こうして、平均繊維径3.1nm、カルボキシル基含有量1.3mmol/gのセルロース繊維1の懸濁液(固形分濃度1.0質量%)を得た。
【0061】
前記微細セルロース繊維1の懸濁液をエタノール溶液中に添加し凝集させた後、その凝集物をアセトンで洗浄して、粉末状(微粒子状)の微細セルロース繊維(セルロースナノファイバー粉末1)を得た。また、前記微細セルロース繊維1の懸濁液をスプレードライ法により微粒子状にすることにより、セルロースナノファイバー粉末2を得た。即ち、スプレードライ(B−290、NIhon BUCHI(株))を用いて、ノズルキャップ径1.5mm、インレット温度200℃、アウトレット温度96℃、噴霧フロー40mmの条件で、前記懸濁液からセルロースナノファイバー粉末2を得た。更に、前記微細セルロース繊維1の懸濁液に、該懸濁液中の微細セルロース繊維のカルボキシル基に対して2化学等量(eq)となる量の1Mの塩酸水溶液を添加し、60分間攪拌を行い凝集させた後、その凝集物をアセトンで洗浄して、粉末状(微粒子状)のセルロースナノファイバー粉末3を得た。塩酸を用いた斯かる操作により、微細セルロース繊維1を構成するセルロースのカルボキシル基はナトリウム塩型から酸型に変換され、斯かる操作で得られたセルロースナノファイバー粉末3は、酸型のカルボキシル基(COOH)を有する。
【0062】
〔実施例1〕
前記セルロースナノファイバー粉末1を用いて、前述した溶融混練法によりシート状の複合材料を製造し、これを実施例1のサンプルとした。具体的には、成形可能な高分子材料(バイオマス由来の高分子)としてPLA(NW4032D、Nature works製)を用い、混練機(ラボプラストミル、東洋精機(株)製)を用いて、PLA50g、軟質化剤として、コハク酸メチルトリグリコールジエステル((MeEO3)2SA、花王(株)製)を5g、0.1gのセルロースナノファイバー粉末1を順次添加し、回転数50rpm、180℃で10分混練して均一混合物を得た。該均一混合物を、プレス機(ラボプレス、東洋精機(株)製)を用いて、180℃、低圧(5Kg/cm2)3分、その後、高圧(200Kg/cm2)で1分、熱プレス後、さらに20℃、低圧(5Kg/cm2)3分、高圧(200Kg/cm2)で1分冷却プレスし、厚さ約0.5mmのシート状の複合材料を得た。
【0063】
〔実施例2〕
実施例1において、前記セルロースナノファイバー粉末1に代えて、前記セルロースナノファイバー粉末2を用いた以外は、実施例1と同様にしてシート状の複合材料を製造し、これを実施例2のサンプルとした。
【0064】
〔実施例3〕
実施例2において、前記セルロースナノファイバー粉末2の使用量を1.0gに変更して、複合材料における微細セルロース繊維の含有量を下記表のように変更した以外は、実施例2と同様にしてシート状の複合材料を製造し、これを実施例3のサンプルとした。
【0065】
〔実施例4〕
実施例3において、前記高分子材料として、石油由来の高分子であるポリエチレン37.5gを用い、且つ前記セルロースナノファイバー粉末2の使用量を0.8gに変更して、複合材料における微細セルロース繊維の含有量を下記表のように変更した以外は、実施例3と同様にしてシート状の複合材料を製造し、これを実施例4のサンプルとした。実施例4で用いた前記ポリエチレンは、第1のポリエチレン30gと第2のポリエチレン7.5との混合物であり、第1のポリエチレンは、日本ポリエチレン(株)製の製品名「ノバテックHD HB333RE」であり、第2のポリエチレンは、三井化学(株)製の製品名「ADMER SF730」である。
【0066】
〔実施例5〕
実施例4において、前記セルロースナノファイバー粉末2の使用量を2.0gに変更して、複合材料における微細セルロース繊維の含有量を下記表のように変更した以外は、実施例4と同様にしてシート状の複合材料を製造し、これを実施例5のサンプルとした。
【0067】
〔実施例6〕
1.5gの前記微細セルロース繊維1を水に分散させたスラリー300g中に、前記高分子材料(バイオマス由来の高分子)として、多糖類の一種である針葉樹晒しクラフトパルプ(フレッチャー チャレンジ カナダ製、CSF650ml)を3g添加し、ミキサー(大阪ケミケル(株) 製、Vita-mix-Blender ABSOLUTE)にて10分間攪拌して均一混合物を得、該均一混合物をトレー上に注いで、自然乾燥すること(キャスト法)によりシート状(膜状)の複合材料を製造し、これを実施例6のサンプルとした。
【0068】
〔実施例7〕
石油由来の高分子(変性樹脂)である変性ポリエチレン(製品名「DH0200」、日本ポリエチレン(株)製)と前記セルロースナノファイバー粉末2とを、前者/後者=90/10の割合で溶融混練しペレットを作製した。そして、このペレット3gと、別の石油由来の高分子であるポリエチレン(製品名「ノバテックHD HB333RE」、日本ポリエチレン(株)製)27gとを、実施例1と同様に混練機を用いて混練し更にプレスしてシート状の複合材料を製造し、これを実施例7のサンプルとした。
【0069】
〔実施例8〕
軟質化剤としてのコハク酸メチルトリグリコールジエステル((MeEO3)A1010、特開2007−16092号公報を参考に合成)10gに前記セルロースナノファイバー粉末3を0.1g添加し、攪拌混合して半透明分散液を調製した。そして、混練機(ラボプラストミル、東洋精機(株)製)を用いて、バイオマス由来の高分子としてPLA(NW4032D、Nature works製)50g、結晶核剤〔スリパックスH(エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド)、日本化成(株)製〕0.15g、前記半透明分散液5gを順次添加し、回転数50rpm、180℃で10分混練して均一混合物を得た。該均一混合物を、プレス機(ラボプレス、東洋精機(株)製)を用いて、180℃、低圧(5Kg/cm2)3分、その後、高圧(200Kg/cm2)で1分、熱プレス後、さらに20℃、低圧(5Kg/cm2)3分、高圧(200Kg/cm2)で1分冷却プレスし、厚さ約0.4mmのシート状の複合材料を得た。
【0070】
〔実施例9〕
実施例8において、前記セルロースナノファイバー粉末3の使用量を0.5gに変更して、複合材料における微細セルロース繊維の含有量を下記表のように変更した以外は、実施例8と同様にしてシート状の複合材料を製造し、これを実施例9のサンプルとした。
【0071】
〔実施例10〕
実施例8において、前記セルロースナノファイバー粉末3の使用量を1.0gに変更して、複合材料における微細セルロース繊維の含有量を下記表のように変更した以外は、実施例8と同様にしてシート状の複合材料を製造し、これを実施例10のサンプルとした。
【0072】
〔比較例1〕
実施例1において、前記セルロースナノファイバー粉末1を未添加とした以外は、実施例1と同様にしてシート状の複合材料を製造し、これを比較例1のサンプルとした。比較例1のサンプルは、前記微細セルロース繊維を含んでおらず、実施例1〜3の複合材料におけるベースポリマー(PLA)を主体とする成形体である。
【0073】
〔比較例2〕
実施例2において、前記セルロースナノファイバー粉末2に代えてミクロフィブリルセルロース(セリッシュFD−200L、ダイセル化学(株)製、カルボキシル基含有量0.05mmol/g)を用いた以外は、実施例2と同様にしてシート状の複合材料を製造し、これを比較例2のサンプルとした。
【0074】
〔比較例3〕
比較例2において、前記ミクロフィブリルセルロースの使用量を変更して、複合材料におけるミクロフィブリルセルロースの含有量を下記表のように変更した以外は、比較例2と同様にしてシート状の複合材料を製造し、これを比較例3のサンプルとした。
【0075】
〔比較例4〕
実施例2において、前記セルロースナノファイバー粉末2に代えて微結晶セルロース(KCフロックW−200G、日本製紙ケミカル(株)製、カルボキシル基含有量0.05mmol/g)を用いた以外は、実施例2と同様にしてシート状の複合材料を製造し、これを比較例4のサンプルとした。
【0076】
〔比較例5〕
比較例4において、前記微結晶セルロースの使用量を変更して、複合材料における微結晶セルロースの含有量を下記表のように変更した以外は、比較例4と同様にしてシート状の複合材料を製造し、これを比較例5のサンプルとした。
【0077】
〔比較例6〕
実施例4において、前記セルロースナノファイバー粉末2を未添加とした以外は、実施例4と同様にしてシート状の複合材料を製造し、これを比較例6のサンプルとした。比較例6のサンプルは、前記微細セルロース繊維を含んでおらず、実施例4及び5の複合材料におけるベースポリマー(PE)を主体とする成形体である。
【0078】
〔比較例7〕
実施例6において、前記微細セルロース繊維1に代えてミクロフィブリルセルロース(セリッシュFD−200L、ダイセル化学(株)製、カルボキシル基含有量0.05mmol/g)を用いた以外は、実施例6と同様にしてシート状の複合材料を製造し、これを比較例7のサンプルとした。
【0079】
〔比較例8〕
実施例7において、前記セルロースナノファイバー粉末2を未添加とした以外は、実施例7と同様にしてシート状の複合材料を製造し、これを比較例8のサンプルとした。比較例8のサンプルは、前記微細セルロース繊維を含んでおらず、実施例7の複合材料におけるベースポリマー(PE及び変性PE)を主体とする成形体である。
【0080】
〔比較例9〕
実施例8において、前記セルロースナノファイバー粉末3を未添加とした以外は、実施例8と同様にしてシート状の複合材料を製造し、これを比較例9のサンプルとした。比較例9のサンプルは、前記微細セルロース繊維を含んでおらず、実施例8〜10の複合材料におけるベースポリマー(PLA)を主体とする成形体である。
【0081】
〔評価〕
実施例及び比較例のサンプル(複合材料)について、引張弾性率、引張降伏強度、全光線透過率をそれぞれ前記測定方法により測定すると共に、無荷重下における厚みを測定した。これらの結果を下記表1及び2に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
表1に示す結果から明らかなように、バイオマス由来の高分子であるPLAをベースポリマーとする実施例1〜3の複合材料は、何れも、引張弾性率及び引張降伏強度がベースポリマー(比較例1)に対して1.2倍以上あって実用上十分な機械的強度を持ち、且つ全光線透過率が70%以上あって透明性が高いものであった。また、実施例8〜10の複合材料は、酸型のカルボキシル基を有する前記微細セルロースを用いたものであるところ、これらも1質量%以下の極めて少ない微細セルロース繊維含有量で、ベースポリマー(比較例9)に対して1.2倍以上の引張弾性率及び引張降伏強度を示した。
【0085】
また、表1に示す結果から明らかなように、多糖類であるパルプをベースポリマーとし且つキャスト法によって製造した実施例6の複合材料は、実施例6において前記微細セルロース繊維に代えて従来公知のミクロフィブリルセルロースを用いた比較例7の複合材料に比して、高い引張弾性率及び引張降伏強度を有し、且つ全光透過率70%以上の高い透明性を有していた。
【0086】
また、表2に示す結果から明らかなように、石油由来の高分子であるPEをベースポリマーとする実施例4及び5の複合材料でも、引張弾性率及び引張降伏強度がベースポリマー(比較例6)に対して1.1倍以上向上した。特に、実施例7の複合材料は、予め、石油由来の変性樹脂と前記微細セルロース繊維とを溶融混練したペレットを作製し、該ペレットをベースポリマー(PE)に添加し溶融混練を行いシート化して得られたものであるところ、前記微細セルロース繊維の含有量が僅か1質量%であるにもかかわらず、引張弾性率がベースポリマー(比較例8)に対して1.1倍以上向上した。
【0087】
一方、比較例1、6、8及び9の複合材料は、何れも、主として前記微細セルロース繊維を使用しなかったため、機械的強度の点で実施例に劣る結果となった。また、比較例2〜5の複合材料は、前記微細セルロース繊維に代えて、従来公知のミクロフィブリルセルロースや微結晶セルロースを用いているが、複合材料中に目視でこれらの凝集体が観察され、機械的強度の向上効果は実施例に比して劣るものであった。
【0088】
成形可能な高分子材料(バイオマス由来の高分子)としてPLAを用いた実施例1〜3及び8〜10の結果から、比較的少量(含有量5質量%以下)の前記微細セルロース繊維(平均繊維径が好ましくは200nm以下で且つカルボキシル基含有量0.1〜3mmol/gのセルロース繊維)の使用で、引張弾性率及び引張降伏強度がベースポリマーに対して大幅に向上することが認められた。これは前記微細セルロース繊維の分散効果に由来するものであり、また、PLAの官能基であるカルボキシル基、水酸基と前記微細セルロース繊維表面のカルボキシル基、水酸基間の高い相互作用によって、高い界面強度がもたらした結果であると考えられる。また、前記微細セルロース繊維の使用量がこのように少量であるため、本来透明性(光線透過率)の高いPLA樹脂の光線透過率は低下が少なく、これらの実施例の複合材料は、該樹脂本来の高い透明性を維持していた。これは前記微細セルロース繊維が樹脂中でナノ分散していることを示唆している(但し、現在のナノ分析技術では、斯かるナノ分散は観察不可能)。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の複合材料は、各種日用品包装用フィルム(パウチ、ピロー)、シート(ブリスターパック)、成形部材(ボトル、キャップ、スプーン、ハブラシのハンドル等)への用途展開に利用でき、特に機械的強度が重視される用途(例えば、自動車、情報家電等)に好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有量0.1〜3mmol/gの微細セルロース繊維と、バイオマス由来の高分子及び石油由来の高分子からなる群から選択される、成形可能な高分子材料とが混合された複合材料。
【請求項2】
前記バイオマス由来の高分子が、ポリ乳酸又はパルプである請求項1記載の複合材料。
【請求項3】
前記微細セルロース繊維の含有量が0.01〜60質量%である請求項1又は2記載の複合材料。
【請求項4】
請求項1記載の複合材料の製造方法であって、粉末状の前記微細セルロース繊維と前記高分子材料とを混合して均一混合物を得た後、該均一混合物を任意の形状に成形する工程を有する、複合材料の製造方法。
【請求項5】
粉末状の前記微細セルロース繊維は、前記微細セルロース繊維の水分散液を気中で噴霧し乾燥させて得られたものである、請求項4記載の複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記均一混合物は、溶融状態の前記高分子材料に粉末状の前記微細セルロース繊維を添加し、該高分子材料が溶融状態を維持しているうちにこれらを混錬して得られたものである、請求項4又は5記載の複合材料の製造方法。

【公開番号】特開2011−140632(P2011−140632A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262071(P2010−262071)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテク・先端部材実用化研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】