複数の太陽電池モジュールを配設した温室及び太陽電池モジュールの配設方法
【課題】栽培植物への悪影響を低減しつつ、温室に太陽電池を有効に配設すること。
【解決手段】透明材料で外壁または屋根材が形成され、該外壁または屋根材の表面に複数の太陽電池モジュールを配設した温室であって、太陽電池モジュールを設置している前記表面と太陽電池モジュールを設置していない前記表面とが、前記温室の長手方向、及び長手方向と垂直な方向それぞれに、同じ間隔で交互にそれぞれ少なくとも1回現れるように前記太陽電池モジュールを配設する、または透明材料で外壁または屋根材が形成され、該外壁または屋根材表面に複数の太陽電池モジュールを配設した温室であって、前記温室の真上からみて、前記太陽電池モジュールを東西方向には不連続に配設するが、南北方向には連続して配設する。
【解決手段】透明材料で外壁または屋根材が形成され、該外壁または屋根材の表面に複数の太陽電池モジュールを配設した温室であって、太陽電池モジュールを設置している前記表面と太陽電池モジュールを設置していない前記表面とが、前記温室の長手方向、及び長手方向と垂直な方向それぞれに、同じ間隔で交互にそれぞれ少なくとも1回現れるように前記太陽電池モジュールを配設する、または透明材料で外壁または屋根材が形成され、該外壁または屋根材表面に複数の太陽電池モジュールを配設した温室であって、前記温室の真上からみて、前記太陽電池モジュールを東西方向には不連続に配設するが、南北方向には連続して配設する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温室等の採光用建物において、該建物内で栽培している植物等への悪影響をできるだけ抑制しつつ、太陽電池の性能をできるだけ有効に発揮できるように複数の太陽電池モジュールを配設した温室、及び太陽電池の有効な配設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュールを温室に設置することはすでにいくつも試みられている。
【0003】
たとえば、特許文献1には専用のフレームや架台を用いることなく、簡単且つ低コストに設置することができる太陽電池モジュール及びその太陽電池モジュールを屋根材として使用した建造物につき開示されている。これはガラス材に樹脂フィルムと複数の太陽光発電ユニットを貼着して構成された太陽電池モジュールを、通常のガラス板と同じように扱って屋根材として設置できるようにすることで、専用のフレームや架台を不要としたものである。また、特許文献1の図5には、太陽光の透過量を調整する目的で、太陽光発電ユニットの配列の異なる種々の太陽電池モジュールを示している。
【0004】
また、特許文献2には外部からのユーティリティー導入を最小限に抑えて、独立して砂漠や孤島等での植物栽培、居住空間の環境調整ができる植物栽培温室等の恒温室に太陽光発電装置及び送水設備を備えた環境整備設備が開示されている。これは冷却用水(たとえば塩水)を導入してその蒸発の際の気化熱を利用することにより太陽電池を冷却するとともに、該蒸発により得られた水を恒温室内の植物栽培に利用するといったシステムを提案している。
【0005】
また、特許文献3では、温室やアトリウム等の余剰太陽光を用いて発電するために、構造の軽量化を図ることで設置コストを低減した遮光・調光機能付き太陽光発電システムを開示している。これは、従来の太陽電池モジュールでは屋外に設置されていたものを、室内の採光部分の直下に設置して、建物内への採光は太陽電池セルの間/又は太陽電池アレイの太陽電池モジュールと太陽電池モジュールの間から行うようにした太陽光発電システムであり、設置を簡便に行えるよう、たとえば太陽電池モジュールと太陽光透過部分とが屈曲自在に接続配列された展開・収縮自在の蛇腹式等の構造を有したものが例示されている。
【0006】
上記の先行技術では、太陽光の建物内への採光を考慮したものもみられるものの、より具体的に、温室で生育している植物への影響を低減しつつ、太陽電池による余剰太陽光の有効利用を行うことまで意図するものはみられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−76421号公報
【特許文献2】特開平9−220031号公報
【特許文献3】特開2002−26357号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Larcher (1995) Physiological Plant Ecology 3rd ed. Springer-Verlag, Berlin
【非特許文献2】古在・後藤・富士原(2006)最新施設園芸学.朝倉書店.東京
【非特許文献3】Taiz and Zeiger (1998) Plant Physiology 2nd ed. Sinauer Associates, Massachusetts
【非特許文献4】Hanan J J (1998) Greenhouses : advanced technology for protected horticulture. CRC Press, page 17
【非特許文献5】四訂施設園芸ハンドブック 編集(社) 日本施設園芸協会 発行 園芸情報センター
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、採光ができるだけ均一になるようにすることで、栽培植物への悪影響を低減しつつ、温室に太陽電池を有効に配設することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一の態様は、透明材料で外壁または屋根材が形成され、該外壁または屋根材の表面に複数の太陽電池モジュールを配設した温室であって、
前記太陽電池モジュールを設置している前記表面と前記太陽電池モジュールを設置していない前記表面とが、前記温室の長手方向、及び長手方向と垂直な方向それぞれに、同じ間隔で交互にそれぞれ少なくとも1回現れるように前記太陽電池モジュールを配設していることを特徴とする温室である。
【0011】
本発明の第二の態様は、透明材料で外壁または屋根材が形成され、該外壁または屋根材表面に複数の太陽電池モジュールを配設した温室であって、前記温室の真上からみて、前記太陽電池モジュールを東西方向には不連続に配設するが、南北方向には連続して配設していることを特徴とする温室である。
【0012】
本発明の第三の態様は、透明材料で外壁または屋根材が形成された温室の、該外壁または屋根材の表面に複数の太陽電池モジュールを配設する方法であって、前記太陽電池モジュールを設置している前記表面と前記太陽電池モジュールを設置していない前記表面とが、前記温室の長手方向、及び長手方向と垂直な方向それぞれに、前記表面上、同じ間隔で交互にそれぞれ少なくとも1回現れるように前記太陽電池モジュールを配設することを特徴とする配設方法である。
【0013】
本発明の第四の態様は、透明材料で外壁または屋根材が形成された温室の、該外壁または屋根材表面に複数の太陽電池モジュールを配設する方法であって、前記温室の真上からみて、前記太陽電池モジュールを東西方向には不連続に、南北方向には連続して配設することを特徴とする配設方法である。
【発明の効果】
【0014】
温室に太陽電池モジュールを設置すると該太陽電池モジュールの太陽光の遮蔽による影が形成されるところ、本発明を用いると、温室内の栽培植物に対して、固定的に影が形成されることなく、温室内の各栽培植物に対して、できるだけ均一に採光するようにでき、もって該栽培植物への悪影響を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】長手方向を東西方向とした場合の太陽電池モジュールの配設例を示す図である。(a)比較例(b)本発明の第二及び第四の態様(c)本発明の第一及び第三の態様
【図2】長手方向を南北方向とした場合の太陽電池モジュールの配設例を示す図である。(a)比較例(b)比較例(c)本発明の第一及び第三の態様
【図3】光強度に伴う純光合成速度の変化を示すグラフである。
【図4】太陽電池モジュールの配設例を示す図である。(a)比較例(b)本発明の第二及び第四の態様(c)本発明の第二及び第四の態様(d)本発明の第二及び第四の態様
【図5】実施例で用いた温室と太陽電池モジュールの配設例を示す図である。
【図6】2008年10月18日におけるモザイク状に太陽電池を配設した東西棟温室内のセンサー1〜5の5地点の全天日射を示す図である。
【図7】2008年10月18日におけるモザイク状に太陽電池を配設した東西棟温室に隣接して設置した対照東西棟温室内のセンサー1〜5の5地点の全天日射示す図である。
【図8】各処理区のネギの草丈を示す図である。
【図9】各処理区のネギの地上部生重を示す図である。
【図10】各処理区のネギの地上部乾物重を示す図である。
【図11】各処理区のネギの地上部生重相対値と太陽電池モジュールの配置との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.本発明の第一の態様について
(1)本発明の第一の態様は、透明材料で外壁または屋根材が形成され、該外壁または屋根材の表面に複数の太陽電池モジュールを配設した温室であって、前記太陽電池モジュールを設置している前記表面と前記太陽電池モジュールを設置していない前記表面とが、前記温室の長手方向、及び長手方向と垂直な方向それぞれに、同じ間隔で交互にそれぞれ少なくとも1回現れるように前記太陽電池モジュールを配設していることを特徴とする温室である。
【0017】
(2)温室とは、暖地植物の栽培、あるいは普通の時季以外に植物を栽培する目的で、内部の温度を高めるように設備された建物をいい、ガラス室やプラスチックハウス(いわゆるビニールハウスも含まれる)を包含する。また、前記プラスチックハウスには、植物の栽培のために木材または鋼材等でできた躯体を樹脂フィルム等の透明材料で外壁を被覆した小屋であるビニールハウスも含まれる。
【0018】
前記温室は、ガラス、樹脂フィルム等の透明材料で外壁または屋根材が形成され、栽培植物に必要な採光が可能となるように形成されている。必ずしも外壁または屋根材の全面が透明材料で被覆されている必要はなく、たとえば温室の上面のみを透明材料で形成されていてもよい。
【0019】
また、透明材料による外壁または屋根材の形成としては、たとえば透明ガラスの屋根材を設置したり、透明樹脂フィルムを用いて、建物の骨格を形成する躯体上を被覆する等が挙げられる。
【0020】
外壁または屋根材により形成される太陽電池モジュールを配設するための表面は、たとえばアーチ型(Arch、丸屋根型)、スタンダード・ピーク型(stabdard peak、両屋根型)、片屋根型、スリークォータ型、クオンセット型(Quonset)、コールド・フレーム型(cold frame)、バイネリー型(vinery型)、マンサード型(Mansard、二重勾配屋根)、両屋根型連棟、フェンロー型(venlo)、ソートゥース型(Sawtooth、片屋根型連棟)、丸屋根型連棟、リッジ・アンド・ファロー型(Ridge and Furrow)、イーブン・スパン型(Even span)、アニーブン・スパン型(Uneven span)等の形状を採ることができる(非特許文献4、非特許文献5参照)。前記表面の設置場所を選択することにより、容易に太陽電池モジュールにつき各種の設置角度を設定できるという点では、表面の傾斜角として複数採用できるアーチ型(Arch)、マンサード型(Mansard)、クオンセット型(Quonset)等が好ましい。
【0021】
(3)太陽電池モジュールは、パネル状の太陽電池製品単体を意味し、該モジュールとしては、シリコン系、化合物系、有機系等、いずれの種類のものでもよい。パネルサイズとしては、適用する温室またはビニールハウスの大きさ、形状、設置方法等にも依存するため、一概には定まらないが、50cm〜2m程度であるように定めるのが好ましい。
【0022】
通常は、同じサイズの太陽電池モジュールを配設するが、光の透過量や明暗周期を調整する目的で、用いる太陽電池モジュールのサイズを複数用いてもよい。太陽電池モジュースのサイズ及び該モジュール同士の間隔は、栽培植物の最適な明暗周期を考慮しつつ、その中でもできるだけ小さいサイズ及び間隔を採用するのが好ましい。
【0023】
形状としては、各種の形状のものを用いてよいが、モザイク模様の形成には、正方形型、長方形型、三角形型等、特に正方形ないし長方形型(三角形型等、他の形状のものを複数組み合わせて正方形ないし長方形型とする場合も含む)を好ましく用いることができる。
【0024】
該太陽電池モジュールを温室の外壁または屋根材の表面への設置には、好ましくは前記表面内側に設置する。太陽電池モジュールに対する風雨による影響を避けることができるからである。また、その設置には、少なくとも前記表面の3点で太陽電池モジュールを直接、接着等により固定するのが簡便で好ましい。この場合、前記太陽電池モジュールが平板状であれば、前記太陽電池モジュールが形成する平面と水平面との交線が、温室の長手方向に合致するか、あるいは前記太陽電池モジュールの形成する平面は水平面と平行となると考えられる。
【0025】
設置の方法としては、支柱とのネジ固定、ワイヤー固定等を挙げることができ、その中でもワイヤー固定が簡易性の点で好ましい。さらに、フレキシブルなフィルムタイプの太陽電池モジュールを用いると、前記表面の形状に沿って貼付することができ、より容易となる点で好ましい。
【0026】
(4)本態様においては、前記太陽電池モジュールを設置している前記表面と前記太陽電池モジュールを設置していない前記表面とが、温室の長手方向、及び長手方向と垂直な方向それぞれに、同じ間隔で交互にそれぞれ少なくとも1回現れるように、いわばモザイク模様を形成するように前記太陽電池モジュールを、温室の外壁または屋根材を形成する透明材料に配設する。
【0027】
このように配設することにより、温室の長手方向がどの方向を向いているのかに係わりなく、温室内の栽培植物に対して、固定的に影が形成されることがなく、温室内の各栽培植物のためにできるだけ均一に採光でき、もって該栽培植物への悪影響を低減できる。ここで、温室の長手方向とは、水平面上、温室の採光可能表面の長軸方向をいう。
【0028】
まず、温室の長手方向が東西方向を向いている場合について説明する。すなわち、図1において(a)に示すように太陽電池モジュールを東西方向に連続して配設した場合、太陽は東から昇って西に沈むことから連続して配設した太陽電池モジュールの影は逆に西から東に移動するが、太陽電池モジュール自体が東西方向に連続して配設されているため、それにより形成される影は東西方向に長く延びており太陽が出ている大部分の時間においてずっと影になる部分が生じてしまう。これに対して、図1の(b)や(c)では、東西方向に、太陽電池モジュールと太陽電池モジュールの存在しない領域とが交互に現れるように配設されているため、太陽の移動に伴い、太陽電池モジュールの影が西から東へと移動するにつれて、温室内のある場所においては影になる時間と太陽光が当たる時間とが交互に現れることになり、常に影になることが回避される。
【0029】
次に、温室の長手方向が南北方向を向いている場合について説明する。図2において(a)や(c)に示すように太陽電池モジュールが東西方向には連続して配設されていない場合、太陽電池モジュールにより形成される影は、温室内の影が形成される可能性のあるどの位置についても太陽電池モジュール1個分であり、栽培植物が温室内の影が形成される可能性のあるどの位置にあっても、より均一に採光することができる。すなわち、太陽の移動に伴い、太陽電池モジュールの影が西から東へと移動するにつれて、温室内のどの場所においても、太陽電池モジュール一個分の影が西から東へと移動していく。これに対して図3の(b)においては、温室のある場所では太陽電池モジュールが2個分の影が移動し、ある場所では影ができないことになり、温室内での採光が場所により不均一となる。
【0030】
以上、説明したように、本願発明の第一の態様のように複数の太陽電池モジュールを配設した温室では、該温室の長手方向がどの方向に向いているのかに係わりなく、温室内のいずれの場所に栽培植物があっても、太陽光をできるだけ均一に採光できる点で有利であることがわかる。
【0031】
もちろん、太陽電池の配設の仕方により、温室内において、影が常にできない場所と影が形成される可能性のある場所が生じうるが、少なくとも本発明により、温室内の影が形成される可能性のある場所における採光の均一性を可能にすることができる。影が常にできない場所と影が形成される可能性のある場所とがある場合においては、両者の間に採光量の差異が生じるが、これについては、太陽電池モジュールの全設置面積を調整することにより、植物の生育に影響を及ぼさない程度に抑えることができる。
【0032】
(5)本態様においては、各太陽電池パネルの水平面に対する設置角度α(ただし、0°
≦α≦90°)の面積平均
【0033】
【数1】
【0034】
が、温室の長手方向が真南方向となす角度をβ(ただし、0°≦β≦90°)としたときに、下式(I):
【0035】
【数2】
【0036】
で表されることが好ましい。
【0037】
上記式(I)は、太陽の軌道と太陽電池の方位・傾斜角をシミュレーションして、角度βとの関係を求めた結果、経験的に見出された関係に基づくものである。
【0038】
ここで、前記設置角度αは、いわゆる傾斜角(°)であり、前記太陽電池モジュールの形成する平面と水平面との交線に直交する平面内で前記太陽電池モジュールの形成する平面と水平面とがなす角度をいい(ただし、前記太陽電池モジュールの形成する平面と水平面とが平行な場合には、α=0°とする)、αが0°でないとき前記交線は温室の長手方向にあり、前記式(I)中の
【0039】
【数3】
【0040】
は、各太陽電池モジュールの設置角度を各太陽電池モジュールの受光面積で平均した値であり、Aは温室設置地域の最適受光角度を表す。この平均は配設される各太陽電池について求めるのではなく、配設された全太陽電池モジュールの面積平均として算出されるものである。また、前記角度βは、いわゆる方位角(°)であり、温室の長手方向が、真南から東または西に何度ずれているかを示す角度である。
【0041】
前記太陽電池モジュールが平板ではなく、フレキシブルなフィルム形状のものであり、該フィルムを前記外壁または屋根材の表面の形状に沿ってフィルム全面を貼り付けた場合においても、該フィルム平面を、前記温室の長手方向に平行な微小平面の集合体と考えて上記面積平均
【0042】
【数4】
【0043】
を計算する。
【0044】
ここで、最適受光角度とは、全国801地点の最適傾斜角データベース[MONSOLA05(801)、(財)日本気象協会平成11年度 新エネルギー・産業技術綜合開発機構委託業務成果報告書(2000)]に収録されている温室設置地域の年平均最適傾斜角度をいい、例えば、ウェブサイトにおいて自由にアクセスすることができる(http://www.photovoltaic-power.org/angle.html)。
【0045】
このような条件を満たす設置角度を得るのには、アーチ型(Arch)、マンサード型(Mansard)、クオンセット型(Quonset)等の形状の外壁ないし屋根材を採用するのが好ましい。連続的ないし不連続に外壁ないし屋根材表面の角度が変化するため、設置するための表面の角度を選択することで、最適の設置角度を容易に得ることができるためである。
【0046】
たとえば、図1(c)のように温室の長手方向が東西方向にある場合(すなわち、β=90°の場合)において、南北方向に2列で、かつ東西方向に1列間隔で、モザイク様に交互に同じサイズの太陽電池モジュールを配設した場合、南北方向に1列目と2列目の境界の部分の接面が、温室設置地域の最適受光角度Aを有するような高さに配設すればよい。
【0047】
また、たとえば図2(c)のように温室の長手方向が南北方向にある場合(すなわち、β=0°の場合)において、南北方向に2列に渡って東西方向に1列間隔で交互に同じサイズの太陽電池モジュールを配設した場合、南北方向に1列目と2列目の境界の部分が、温室の丁度、天頂になるように配設すればよい。
【0048】
(6)本態様においては、温室の長手方向が東西方向を向いている、すなわちβ=90°であることが太陽電池の出力が最大になる点で好ましい。
【0049】
(7)本態様では,太陽の南中高度につき,前記温室内の光合成有効光量子束密度(PPFD)が,前記温室内の栽培植物の光飽和点以下となるような高度になった場合に,前記太陽電池モジュールの影が前記栽培植物にかからないような高さになるように,前記太陽電池モジュールが配設されていることが好ましい。
【0050】
ここで太陽の南中高度は,温室の設置場所における南中高度をいい、国立天文台編 理科年表,国立天文台ホームページ(http://www.nao.ac.jp/koyomi/koyomix/koyomix.html)等のデータベースを利用することで容易に調査できる.特に冬季のような太陽高度の低い季節においては,採光できる温室内の光合成有効光量子束密度(PPFD)が,前記温室内の栽培植物の光飽和点以下となる場合が多く,そのような栽培植物の光飽和点以下となる南中高度のうち,最大の南中高度となる日の南中高度を基準にして太陽電池モジュールの配設する高さを決めればよい.そこで,配設する太陽電池モジュールの高さを十分高くすることで、太陽が南中高度に達した場合においても、栽培植物に対して前記太陽電池モジュールの影がかからないように配設する。
【0051】
ここで,光合成有効光量子束密度(PPFD)とは、光合成に有効な波長域である400から700 nmの光量子の単位時間当たり、単位面積当たりに入射するモル数(μmol・m-2・s-1)のことをいい、該当する地点における全天日射(kW/m2)に1800を乗じて(例えば、全天日射が1kW/m2ならば1800μmol・m-2・s-1)近似的に算出するか(非特許文献1)、または市販の光量子センサーの出力電流によって算出することができ、栽培植物の光飽和点とは、植物に照射する光合成有効光量子束密度(PPFD)と純光合成速度(真の光合成速度から呼吸速度を差し引いた値)の関係を示す曲線において、光合成有効光量子束密度(PPFD)をそれ以上大きくしても純光合成速度が増加しなくなるような光合成有効光量子束密度(PPFD)のことをいい、植物種や生育環境などによってその値は異なるが、最適生育環境下における一般的な栽培植物の光飽和点は500〜1500μmol・m-2・s-1であることが知られている(非特許文献2、1及び3)。
【0052】
一例として、水耕栽培しているネギに照射した光の光合成有効光量子束密度(PPFD)と純光合成速度の関係を図3に示す.図3からこのネギの光飽和点は1500μmol・m-2・s-1付近に存在すると読み取れる。
【0053】
(8)本態様の温室において、栽培できる好適な植物としては、特に限定はないが、遮光の影響を受けにくいという点で光飽和点の低い作物、たとえばネギ、レタス、イチゴ、ホウレンソウが好ましい。
【0054】
2.本発明の第二の態様について
(1)透明材料で外壁または屋根材が形成され、該外壁または屋根材表面に複数の太陽電池モジュールを配設した温室であって、前記温室の真上からみて、前記太陽電池モジュールを東西方向には不連続に配設するが、南北方向には連続して配設していることを特徴とする温室である。
【0055】
(2)温室、太陽電池モジュールに関してはそれぞれ前記1.(2)及び(3)と同様である。
もっとも、特に温室の長手方向が真南方向となす角度βが0°より大きく90°未満の場合、たとえば45°近傍の場合、三角形形状の太陽電池モジュールやフレキシブルなフィルムタイプの太陽電池モジュールを用いると、前記表面に貼付することがより容易となる点で好ましい。
【0056】
(3)本態様においては、前記温室の真上からみて、前記太陽電池モジュールを東西方向には不連続に配設するが、南北方向には連続して配設している。
【0057】
本発明の第一の態様と異なり、本態様においては温室の長手方向がどの方角を向いているのかに係わりなく,前記太陽電池モジュールを東西方向には不連続に配設するが,南北方向には連続して配設する.ここで、不連続に配設するとは、東西方向に一定間隔を置いて複数の太陽電池モジュールを配設することをいい、連続して配設するとは、南北方向に互いに接するように複数の太陽電池モジュールを配設することをいう。
【0058】
なお、太陽電池モジュールを配設していない前記東西方向の一定間隔は、必ずしも太陽電池モジュールの幅と同じ幅に採る必要はなく、また前記一定間隔のすべてを必ずしも同じ間隔にする必要もなく、栽培植物に必要な採光量、最適な明暗周期の長さに応じて調整すればよい。しかし、温室内の栽培植物への影響を均一にするという観点からは、太陽電池モジュール間の幅を常に一定にすることが好ましく、さらには太陽電池モジュー自体の幅も一定にすることがより好ましい。同様な観点から、太陽電池モジュール間の幅の大きさや太陽電池モジュール自体の幅の大きさは、栽培植物の最適な明暗周期の長さを考慮しつつ、その中でできるだけ小さい大きさのものにすることが好ましい。
【0059】
(4)本態様のように配設することにより、温室の長手方向がどの方角を向いているのかに係わりなく、温室内の栽培植物に対して、固定的に影が形成されることがなく、温室内の各栽培植物のためにできるだけ均一に採光でき、もって、該栽培植物への悪影響を低減できる。ここで、温室の長手方向とは、水平面上、温室の採光可能表面の長軸方向をいう。
【0060】
すなわち、まず図4(a)に示すように、温室の長手方向が東西方向を向いている場合において、太陽電池モジュールを東西方向に連続して配列した場合、太陽は東から昇って西に沈むことから連続して配設した太陽電池モジュールの影は逆に西から東に移動するが、太陽電池モジュール自体が東西方向に連続して配設されているため、それにより形成される影は東西方向に長く延びており太陽が出ている大部分の時間においてずっと影になる部分が生じてしまう。これに対して図4(b)では東西方向に、太陽モジュールの存在する領域と存在しない領域とが交互に現れるように配設されているため、太陽の移動に伴い、それぞれの太陽電池モジュール1個分の影が西から東へと移動するにつれて、温室内のある場所においては影になる時間と太陽光があたる時間とが交互に現れることになり、常に影になることが回避される。なお、図4(b)では南北方向に2個の太陽電池モジュールが連続して配設されている。
【0061】
また図4(d)のように、温室の長手方向が南北方向を向いている場合にも、東西方向に太陽電池モジュールの存在する領域と存在しない領域とが交互に現れるように配設することで、温室内の各栽培植物に対して、できるだけ均一に採光できる。すなわち、温室内のどの栽培植物についても、太陽電池モジュール1個分の影が西から東へと移動していくので、各栽培植物の間での採光の不均一性をできるだけ回避することができる。なお、図4(d)でも、南北方向に太陽電池モジュールを連続して配設している。
【0062】
また図4(c)では、より一般的に温室の長手方向が真南方向と0°より大きく90°未満の一定の角度をなしている場合における本態様の一例を示している。同様に図4(c)でも温室内の各栽培植物の間での採光の不均一性をできるだけ回避することができる。
(5)本態様においては、各太陽電池パネルの水平面に対する設置角度α(ただし、0°
≦α≦90°)の面積平均
【0063】
【数5】
【0064】
については、前記1.(5)と同様である。
【0065】
もっとも、前記1.(5)中、図1及び図2を説明した部分については以下の図4を用いた説明に置き換える。すなわち、図4(b)のように温室の長手方向が東西方向にある場合(すなわち、β=90°の場合)において、東西方向に不連続に一定間隔で、南北方向には2個連続して同じサイズの太陽電池モジュールを配設した場合、南北方向に1列目と2列目の境界の部分の接面が、温室またはビニールハウス設置地域の最適受光角度Aを有するような高さに配設すればよい。
【0066】
また、図4(d)のように温室またはビニールハウスの長手方向が南北方向にある場合(すなわち、β=0°の場合)において、東西方向に不連続に一定間隔で、南北方向には連続して同じサイズの太陽電池モジュールを配設した場合、真中の太陽電池モジュールの列が丁度、天頂にくるようにし、左右の太陽電池モジュールの列を左右対称になるように配設すればよい。
【0067】
(6)本態様においては、温室の長手方向が東西方向または南北方向を向いている、すなわちβ=90°またはβ=0°であることが、太陽電池モジュールの設置のし易さの点、またβ=90°では太陽電池の出力が最大になる点で好ましい。
【0068】
(7)前記1.(7)〜(8)については、本態様においても同様である。
【0069】
3.本発明の第三の態様について
透明材料で外壁または屋根材が形成された温室の、該外壁または屋根材の表面に複数の太陽電池モジュールを配設する方法であって、前記太陽電池モジュールと前記太陽電池モジュールの存在しない前記表面とが、前記温室またはビニールハウスの長手方向、及び長手方向と垂直な方向それぞれに、前記表面上、同じ間隔で交互にそれぞれ少なくとも1回現れるように前記太陽電池モジュールを配設することを特徴とする配設方法である。
【0070】
本態様の配設方法は、前記本発明の第一の態様を配設方法として規定したものであり、その説明は、前記1.(2)〜(8)と同様である。
【0071】
4.本発明の第四の態様
透明材料で外壁または屋根材が形成された温室の、該外壁または屋根材表面に複数の太陽電池モジュールを配設する方法であって、前記温室またはビニールハウスの真上からみて、前記太陽電池モジュールを東西方向には不連続に、南北方向には連続して配設することを特徴とする配設方法である。
【0072】
本態様の配設方法は、前記本発明の第二の態様を配設方法として規定したものであり、その説明は、前記2.(2)〜(7)と同様である。
【実施例】
【0073】
東西棟ハウス(β=90°)の南屋根面に30枚の太陽電池をモザイク状に設置[15個の太陽電池モジュールを2列、太陽電池モジュール:富士電機システムズ フィルム型アモルファス太陽電池 最大出力24W(幅0.5m、長さ1m)、面積平均設置角度23°(上段太陽電池20°、下段太陽電池26°)]した実施例を図5に示した。ハウス中央位置に日射センサー1から5およびネギ水耕栽培槽を設置した。なお、設置地域である島根県松江市における最適受光角度は24.2°である。
【0074】
また、このハウスの真西の位置に太陽電池を設置しない同様な東西棟ハウス(β=90°)を建設し、日射センサー、ネギ水耕栽培槽を同様な位置に設置した、このハウスを対照東西棟と称した。東西棟および対照東西棟において2008年10月18日に測定した日射を図6、図7に示す。すべての日射測定位置で日中を通じて固定的に影になる場所がないことが示されている。この日は日射センサー3、4、5の位置に、モザイク状に配設した太陽電池の影が交互に観測された。なお、図6、7においてすべての日射センサーで観測されたスパイク状の日射低下は供試ビニールハウスの支柱パイプの影である。
【0075】
(ネギの草丈への影響確認、図8)
太陽電池を設置した東西棟(遮光区)と対照東西棟(対照区)の両区おいて、2008年9月21日から11月10日までネギの水耕栽培を実施した。栽培終了時の草丈の比較を図9に示した。各処理区において対照区との有意差の評価を5%T検定で行った。その結果、S4とN3以外は有意な差を認めず、対照区と同等の草丈であった。この結果は、遮光区においても太陽光が均一に照射されたことに由来するものと考えられる。栽培期間中に太陽電池による遮光を受けたと考えられる処理区はN5よりも北側の地点であり、N3での草丈低下のみが遮光による影響と考えられる。N3では対照区が81.1cm、遮光区が74.1cmであり,約7cmの低下となった。一般的に葉ネギ栽培では草丈60cmを収穫の目安とするが、本実験は栽培期間が長く,収穫適期を過ぎた時点での調査であり、遮光による草丈への影響は、草丈が光合成量に比例し、該光合成量が照射光量の積算量に比例するため、生育時期が進むにつれて大きくなると考えられるところ、収穫適期ではN3での草丈の低下も小さく、対照区と大差なかったものと推察される。
【0076】
なお、調査した株数は各地点(N1〜N6、S6〜S1)につき4〜6株であった。各地点6株ずつ栽培したが、生育が極端に違うものはデータ解析の時点で除いたためである。また、1株には6〜7個体のネギが植えてあり、草丈は1株のうちの最も大きい個体の草丈を測り、各地点の上記4〜6株で平均した値である。
【0077】
(収量への影響、図9・図10)
地上部生重の結果を図9に示した。N1〜5の処理区が太陽電池による遮光を受けた地点であるが、5%T検定によるとN4のみが対照区と比較して有意であった。このことは、図10で示した地上部乾物重でも同様の傾向であった。しかしながら、N5、N4の周辺では栽培期間中に植物体の倒伏が観察されたこと、同じ遮光を受けた地点で地上部生重および地上部乾物重にN1〜3において差が見られなかったことから、N4の遮光区における収量の有意な低下は遮光よりも倒伏による影響が大きいものと考えられ、前記植物体の倒伏がなければ、同等の結果が得られたであろうと考えられる。
【0078】
(ビタミンC含量について)
栽培終了後、処理区S1〜S3において栽培したネギを10ブロックに分割し、各ブロックからランダムに10株を取り出し、各ブロック毎にビタミンC含量を分析した。同様に処理区N1〜N3において栽培したネギについても分析を行った。
【0079】
表1に各処理区のビタミンC含量の平均値を示した。S1〜S3処理区は遮光が生じていない処理区であり、ビタミンC含量は対照区とほぼ同じ値を示した。N1〜N3処理区は遮光を受けている部分であり、平均値に差が見られたが、5%T検定を行った結果、有意な差は見られなかった。従って、太陽電池設置によるビタミンC含量への影響は有意には認められなかった。
【0080】
【表1】
【0081】
(モザイク状配置の影響について)
昨年度のほぼ同時期に太陽電池を直線的に配置したハウス[同数の太陽電池を隙間無く東西方向に整列させ、その設置角度は温室設置地域の最適受光角度に近い25°とした。]内で栽培試験を行った結果と今年度モザイク状に配置した場合(図6参照)の結果を比較し,モザイク状配置の影響について評価した。
【0082】
栽培時期がほぼ同時期であるため太陽高度や日長などは等しいものの,気温や日射量等の気象に左右される条件が異なるため、評価は地上部生重の絶対値ではなく、対照区を100とした遮光区の相対値を用いて行った。図11には栽培期間中に遮光を受けたと考えられるN5〜N1までの地点における相対値とN5〜N1までの平均相対値(Ave)を示した。N5とN4を除き,モザイク状のほうが高い値を示し、相対値が100を超えるもの、すなわち対照区より生育の良い地点も観察された。平均値で見ても、直線配置が81.2であるのに対し、モザイク状配置は93.9と高い値を示した。これらの結果から、太陽電池をモザイク状に配置することでネギ生育に対する太陽電池による遮光の影響が軽減されることが確認された。また、平均するとモザイク状に配置した太陽電池下のネギ生育は太陽電池がない場合とほぼ同様であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、園芸用の温室またはビニールハウスに太陽電池モジュールを配設するのに好ましく用いることができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、温室等の採光用建物において、該建物内で栽培している植物等への悪影響をできるだけ抑制しつつ、太陽電池の性能をできるだけ有効に発揮できるように複数の太陽電池モジュールを配設した温室、及び太陽電池の有効な配設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュールを温室に設置することはすでにいくつも試みられている。
【0003】
たとえば、特許文献1には専用のフレームや架台を用いることなく、簡単且つ低コストに設置することができる太陽電池モジュール及びその太陽電池モジュールを屋根材として使用した建造物につき開示されている。これはガラス材に樹脂フィルムと複数の太陽光発電ユニットを貼着して構成された太陽電池モジュールを、通常のガラス板と同じように扱って屋根材として設置できるようにすることで、専用のフレームや架台を不要としたものである。また、特許文献1の図5には、太陽光の透過量を調整する目的で、太陽光発電ユニットの配列の異なる種々の太陽電池モジュールを示している。
【0004】
また、特許文献2には外部からのユーティリティー導入を最小限に抑えて、独立して砂漠や孤島等での植物栽培、居住空間の環境調整ができる植物栽培温室等の恒温室に太陽光発電装置及び送水設備を備えた環境整備設備が開示されている。これは冷却用水(たとえば塩水)を導入してその蒸発の際の気化熱を利用することにより太陽電池を冷却するとともに、該蒸発により得られた水を恒温室内の植物栽培に利用するといったシステムを提案している。
【0005】
また、特許文献3では、温室やアトリウム等の余剰太陽光を用いて発電するために、構造の軽量化を図ることで設置コストを低減した遮光・調光機能付き太陽光発電システムを開示している。これは、従来の太陽電池モジュールでは屋外に設置されていたものを、室内の採光部分の直下に設置して、建物内への採光は太陽電池セルの間/又は太陽電池アレイの太陽電池モジュールと太陽電池モジュールの間から行うようにした太陽光発電システムであり、設置を簡便に行えるよう、たとえば太陽電池モジュールと太陽光透過部分とが屈曲自在に接続配列された展開・収縮自在の蛇腹式等の構造を有したものが例示されている。
【0006】
上記の先行技術では、太陽光の建物内への採光を考慮したものもみられるものの、より具体的に、温室で生育している植物への影響を低減しつつ、太陽電池による余剰太陽光の有効利用を行うことまで意図するものはみられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−76421号公報
【特許文献2】特開平9−220031号公報
【特許文献3】特開2002−26357号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Larcher (1995) Physiological Plant Ecology 3rd ed. Springer-Verlag, Berlin
【非特許文献2】古在・後藤・富士原(2006)最新施設園芸学.朝倉書店.東京
【非特許文献3】Taiz and Zeiger (1998) Plant Physiology 2nd ed. Sinauer Associates, Massachusetts
【非特許文献4】Hanan J J (1998) Greenhouses : advanced technology for protected horticulture. CRC Press, page 17
【非特許文献5】四訂施設園芸ハンドブック 編集(社) 日本施設園芸協会 発行 園芸情報センター
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、採光ができるだけ均一になるようにすることで、栽培植物への悪影響を低減しつつ、温室に太陽電池を有効に配設することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一の態様は、透明材料で外壁または屋根材が形成され、該外壁または屋根材の表面に複数の太陽電池モジュールを配設した温室であって、
前記太陽電池モジュールを設置している前記表面と前記太陽電池モジュールを設置していない前記表面とが、前記温室の長手方向、及び長手方向と垂直な方向それぞれに、同じ間隔で交互にそれぞれ少なくとも1回現れるように前記太陽電池モジュールを配設していることを特徴とする温室である。
【0011】
本発明の第二の態様は、透明材料で外壁または屋根材が形成され、該外壁または屋根材表面に複数の太陽電池モジュールを配設した温室であって、前記温室の真上からみて、前記太陽電池モジュールを東西方向には不連続に配設するが、南北方向には連続して配設していることを特徴とする温室である。
【0012】
本発明の第三の態様は、透明材料で外壁または屋根材が形成された温室の、該外壁または屋根材の表面に複数の太陽電池モジュールを配設する方法であって、前記太陽電池モジュールを設置している前記表面と前記太陽電池モジュールを設置していない前記表面とが、前記温室の長手方向、及び長手方向と垂直な方向それぞれに、前記表面上、同じ間隔で交互にそれぞれ少なくとも1回現れるように前記太陽電池モジュールを配設することを特徴とする配設方法である。
【0013】
本発明の第四の態様は、透明材料で外壁または屋根材が形成された温室の、該外壁または屋根材表面に複数の太陽電池モジュールを配設する方法であって、前記温室の真上からみて、前記太陽電池モジュールを東西方向には不連続に、南北方向には連続して配設することを特徴とする配設方法である。
【発明の効果】
【0014】
温室に太陽電池モジュールを設置すると該太陽電池モジュールの太陽光の遮蔽による影が形成されるところ、本発明を用いると、温室内の栽培植物に対して、固定的に影が形成されることなく、温室内の各栽培植物に対して、できるだけ均一に採光するようにでき、もって該栽培植物への悪影響を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】長手方向を東西方向とした場合の太陽電池モジュールの配設例を示す図である。(a)比較例(b)本発明の第二及び第四の態様(c)本発明の第一及び第三の態様
【図2】長手方向を南北方向とした場合の太陽電池モジュールの配設例を示す図である。(a)比較例(b)比較例(c)本発明の第一及び第三の態様
【図3】光強度に伴う純光合成速度の変化を示すグラフである。
【図4】太陽電池モジュールの配設例を示す図である。(a)比較例(b)本発明の第二及び第四の態様(c)本発明の第二及び第四の態様(d)本発明の第二及び第四の態様
【図5】実施例で用いた温室と太陽電池モジュールの配設例を示す図である。
【図6】2008年10月18日におけるモザイク状に太陽電池を配設した東西棟温室内のセンサー1〜5の5地点の全天日射を示す図である。
【図7】2008年10月18日におけるモザイク状に太陽電池を配設した東西棟温室に隣接して設置した対照東西棟温室内のセンサー1〜5の5地点の全天日射示す図である。
【図8】各処理区のネギの草丈を示す図である。
【図9】各処理区のネギの地上部生重を示す図である。
【図10】各処理区のネギの地上部乾物重を示す図である。
【図11】各処理区のネギの地上部生重相対値と太陽電池モジュールの配置との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.本発明の第一の態様について
(1)本発明の第一の態様は、透明材料で外壁または屋根材が形成され、該外壁または屋根材の表面に複数の太陽電池モジュールを配設した温室であって、前記太陽電池モジュールを設置している前記表面と前記太陽電池モジュールを設置していない前記表面とが、前記温室の長手方向、及び長手方向と垂直な方向それぞれに、同じ間隔で交互にそれぞれ少なくとも1回現れるように前記太陽電池モジュールを配設していることを特徴とする温室である。
【0017】
(2)温室とは、暖地植物の栽培、あるいは普通の時季以外に植物を栽培する目的で、内部の温度を高めるように設備された建物をいい、ガラス室やプラスチックハウス(いわゆるビニールハウスも含まれる)を包含する。また、前記プラスチックハウスには、植物の栽培のために木材または鋼材等でできた躯体を樹脂フィルム等の透明材料で外壁を被覆した小屋であるビニールハウスも含まれる。
【0018】
前記温室は、ガラス、樹脂フィルム等の透明材料で外壁または屋根材が形成され、栽培植物に必要な採光が可能となるように形成されている。必ずしも外壁または屋根材の全面が透明材料で被覆されている必要はなく、たとえば温室の上面のみを透明材料で形成されていてもよい。
【0019】
また、透明材料による外壁または屋根材の形成としては、たとえば透明ガラスの屋根材を設置したり、透明樹脂フィルムを用いて、建物の骨格を形成する躯体上を被覆する等が挙げられる。
【0020】
外壁または屋根材により形成される太陽電池モジュールを配設するための表面は、たとえばアーチ型(Arch、丸屋根型)、スタンダード・ピーク型(stabdard peak、両屋根型)、片屋根型、スリークォータ型、クオンセット型(Quonset)、コールド・フレーム型(cold frame)、バイネリー型(vinery型)、マンサード型(Mansard、二重勾配屋根)、両屋根型連棟、フェンロー型(venlo)、ソートゥース型(Sawtooth、片屋根型連棟)、丸屋根型連棟、リッジ・アンド・ファロー型(Ridge and Furrow)、イーブン・スパン型(Even span)、アニーブン・スパン型(Uneven span)等の形状を採ることができる(非特許文献4、非特許文献5参照)。前記表面の設置場所を選択することにより、容易に太陽電池モジュールにつき各種の設置角度を設定できるという点では、表面の傾斜角として複数採用できるアーチ型(Arch)、マンサード型(Mansard)、クオンセット型(Quonset)等が好ましい。
【0021】
(3)太陽電池モジュールは、パネル状の太陽電池製品単体を意味し、該モジュールとしては、シリコン系、化合物系、有機系等、いずれの種類のものでもよい。パネルサイズとしては、適用する温室またはビニールハウスの大きさ、形状、設置方法等にも依存するため、一概には定まらないが、50cm〜2m程度であるように定めるのが好ましい。
【0022】
通常は、同じサイズの太陽電池モジュールを配設するが、光の透過量や明暗周期を調整する目的で、用いる太陽電池モジュールのサイズを複数用いてもよい。太陽電池モジュースのサイズ及び該モジュール同士の間隔は、栽培植物の最適な明暗周期を考慮しつつ、その中でもできるだけ小さいサイズ及び間隔を採用するのが好ましい。
【0023】
形状としては、各種の形状のものを用いてよいが、モザイク模様の形成には、正方形型、長方形型、三角形型等、特に正方形ないし長方形型(三角形型等、他の形状のものを複数組み合わせて正方形ないし長方形型とする場合も含む)を好ましく用いることができる。
【0024】
該太陽電池モジュールを温室の外壁または屋根材の表面への設置には、好ましくは前記表面内側に設置する。太陽電池モジュールに対する風雨による影響を避けることができるからである。また、その設置には、少なくとも前記表面の3点で太陽電池モジュールを直接、接着等により固定するのが簡便で好ましい。この場合、前記太陽電池モジュールが平板状であれば、前記太陽電池モジュールが形成する平面と水平面との交線が、温室の長手方向に合致するか、あるいは前記太陽電池モジュールの形成する平面は水平面と平行となると考えられる。
【0025】
設置の方法としては、支柱とのネジ固定、ワイヤー固定等を挙げることができ、その中でもワイヤー固定が簡易性の点で好ましい。さらに、フレキシブルなフィルムタイプの太陽電池モジュールを用いると、前記表面の形状に沿って貼付することができ、より容易となる点で好ましい。
【0026】
(4)本態様においては、前記太陽電池モジュールを設置している前記表面と前記太陽電池モジュールを設置していない前記表面とが、温室の長手方向、及び長手方向と垂直な方向それぞれに、同じ間隔で交互にそれぞれ少なくとも1回現れるように、いわばモザイク模様を形成するように前記太陽電池モジュールを、温室の外壁または屋根材を形成する透明材料に配設する。
【0027】
このように配設することにより、温室の長手方向がどの方向を向いているのかに係わりなく、温室内の栽培植物に対して、固定的に影が形成されることがなく、温室内の各栽培植物のためにできるだけ均一に採光でき、もって該栽培植物への悪影響を低減できる。ここで、温室の長手方向とは、水平面上、温室の採光可能表面の長軸方向をいう。
【0028】
まず、温室の長手方向が東西方向を向いている場合について説明する。すなわち、図1において(a)に示すように太陽電池モジュールを東西方向に連続して配設した場合、太陽は東から昇って西に沈むことから連続して配設した太陽電池モジュールの影は逆に西から東に移動するが、太陽電池モジュール自体が東西方向に連続して配設されているため、それにより形成される影は東西方向に長く延びており太陽が出ている大部分の時間においてずっと影になる部分が生じてしまう。これに対して、図1の(b)や(c)では、東西方向に、太陽電池モジュールと太陽電池モジュールの存在しない領域とが交互に現れるように配設されているため、太陽の移動に伴い、太陽電池モジュールの影が西から東へと移動するにつれて、温室内のある場所においては影になる時間と太陽光が当たる時間とが交互に現れることになり、常に影になることが回避される。
【0029】
次に、温室の長手方向が南北方向を向いている場合について説明する。図2において(a)や(c)に示すように太陽電池モジュールが東西方向には連続して配設されていない場合、太陽電池モジュールにより形成される影は、温室内の影が形成される可能性のあるどの位置についても太陽電池モジュール1個分であり、栽培植物が温室内の影が形成される可能性のあるどの位置にあっても、より均一に採光することができる。すなわち、太陽の移動に伴い、太陽電池モジュールの影が西から東へと移動するにつれて、温室内のどの場所においても、太陽電池モジュール一個分の影が西から東へと移動していく。これに対して図3の(b)においては、温室のある場所では太陽電池モジュールが2個分の影が移動し、ある場所では影ができないことになり、温室内での採光が場所により不均一となる。
【0030】
以上、説明したように、本願発明の第一の態様のように複数の太陽電池モジュールを配設した温室では、該温室の長手方向がどの方向に向いているのかに係わりなく、温室内のいずれの場所に栽培植物があっても、太陽光をできるだけ均一に採光できる点で有利であることがわかる。
【0031】
もちろん、太陽電池の配設の仕方により、温室内において、影が常にできない場所と影が形成される可能性のある場所が生じうるが、少なくとも本発明により、温室内の影が形成される可能性のある場所における採光の均一性を可能にすることができる。影が常にできない場所と影が形成される可能性のある場所とがある場合においては、両者の間に採光量の差異が生じるが、これについては、太陽電池モジュールの全設置面積を調整することにより、植物の生育に影響を及ぼさない程度に抑えることができる。
【0032】
(5)本態様においては、各太陽電池パネルの水平面に対する設置角度α(ただし、0°
≦α≦90°)の面積平均
【0033】
【数1】
【0034】
が、温室の長手方向が真南方向となす角度をβ(ただし、0°≦β≦90°)としたときに、下式(I):
【0035】
【数2】
【0036】
で表されることが好ましい。
【0037】
上記式(I)は、太陽の軌道と太陽電池の方位・傾斜角をシミュレーションして、角度βとの関係を求めた結果、経験的に見出された関係に基づくものである。
【0038】
ここで、前記設置角度αは、いわゆる傾斜角(°)であり、前記太陽電池モジュールの形成する平面と水平面との交線に直交する平面内で前記太陽電池モジュールの形成する平面と水平面とがなす角度をいい(ただし、前記太陽電池モジュールの形成する平面と水平面とが平行な場合には、α=0°とする)、αが0°でないとき前記交線は温室の長手方向にあり、前記式(I)中の
【0039】
【数3】
【0040】
は、各太陽電池モジュールの設置角度を各太陽電池モジュールの受光面積で平均した値であり、Aは温室設置地域の最適受光角度を表す。この平均は配設される各太陽電池について求めるのではなく、配設された全太陽電池モジュールの面積平均として算出されるものである。また、前記角度βは、いわゆる方位角(°)であり、温室の長手方向が、真南から東または西に何度ずれているかを示す角度である。
【0041】
前記太陽電池モジュールが平板ではなく、フレキシブルなフィルム形状のものであり、該フィルムを前記外壁または屋根材の表面の形状に沿ってフィルム全面を貼り付けた場合においても、該フィルム平面を、前記温室の長手方向に平行な微小平面の集合体と考えて上記面積平均
【0042】
【数4】
【0043】
を計算する。
【0044】
ここで、最適受光角度とは、全国801地点の最適傾斜角データベース[MONSOLA05(801)、(財)日本気象協会平成11年度 新エネルギー・産業技術綜合開発機構委託業務成果報告書(2000)]に収録されている温室設置地域の年平均最適傾斜角度をいい、例えば、ウェブサイトにおいて自由にアクセスすることができる(http://www.photovoltaic-power.org/angle.html)。
【0045】
このような条件を満たす設置角度を得るのには、アーチ型(Arch)、マンサード型(Mansard)、クオンセット型(Quonset)等の形状の外壁ないし屋根材を採用するのが好ましい。連続的ないし不連続に外壁ないし屋根材表面の角度が変化するため、設置するための表面の角度を選択することで、最適の設置角度を容易に得ることができるためである。
【0046】
たとえば、図1(c)のように温室の長手方向が東西方向にある場合(すなわち、β=90°の場合)において、南北方向に2列で、かつ東西方向に1列間隔で、モザイク様に交互に同じサイズの太陽電池モジュールを配設した場合、南北方向に1列目と2列目の境界の部分の接面が、温室設置地域の最適受光角度Aを有するような高さに配設すればよい。
【0047】
また、たとえば図2(c)のように温室の長手方向が南北方向にある場合(すなわち、β=0°の場合)において、南北方向に2列に渡って東西方向に1列間隔で交互に同じサイズの太陽電池モジュールを配設した場合、南北方向に1列目と2列目の境界の部分が、温室の丁度、天頂になるように配設すればよい。
【0048】
(6)本態様においては、温室の長手方向が東西方向を向いている、すなわちβ=90°であることが太陽電池の出力が最大になる点で好ましい。
【0049】
(7)本態様では,太陽の南中高度につき,前記温室内の光合成有効光量子束密度(PPFD)が,前記温室内の栽培植物の光飽和点以下となるような高度になった場合に,前記太陽電池モジュールの影が前記栽培植物にかからないような高さになるように,前記太陽電池モジュールが配設されていることが好ましい。
【0050】
ここで太陽の南中高度は,温室の設置場所における南中高度をいい、国立天文台編 理科年表,国立天文台ホームページ(http://www.nao.ac.jp/koyomi/koyomix/koyomix.html)等のデータベースを利用することで容易に調査できる.特に冬季のような太陽高度の低い季節においては,採光できる温室内の光合成有効光量子束密度(PPFD)が,前記温室内の栽培植物の光飽和点以下となる場合が多く,そのような栽培植物の光飽和点以下となる南中高度のうち,最大の南中高度となる日の南中高度を基準にして太陽電池モジュールの配設する高さを決めればよい.そこで,配設する太陽電池モジュールの高さを十分高くすることで、太陽が南中高度に達した場合においても、栽培植物に対して前記太陽電池モジュールの影がかからないように配設する。
【0051】
ここで,光合成有効光量子束密度(PPFD)とは、光合成に有効な波長域である400から700 nmの光量子の単位時間当たり、単位面積当たりに入射するモル数(μmol・m-2・s-1)のことをいい、該当する地点における全天日射(kW/m2)に1800を乗じて(例えば、全天日射が1kW/m2ならば1800μmol・m-2・s-1)近似的に算出するか(非特許文献1)、または市販の光量子センサーの出力電流によって算出することができ、栽培植物の光飽和点とは、植物に照射する光合成有効光量子束密度(PPFD)と純光合成速度(真の光合成速度から呼吸速度を差し引いた値)の関係を示す曲線において、光合成有効光量子束密度(PPFD)をそれ以上大きくしても純光合成速度が増加しなくなるような光合成有効光量子束密度(PPFD)のことをいい、植物種や生育環境などによってその値は異なるが、最適生育環境下における一般的な栽培植物の光飽和点は500〜1500μmol・m-2・s-1であることが知られている(非特許文献2、1及び3)。
【0052】
一例として、水耕栽培しているネギに照射した光の光合成有効光量子束密度(PPFD)と純光合成速度の関係を図3に示す.図3からこのネギの光飽和点は1500μmol・m-2・s-1付近に存在すると読み取れる。
【0053】
(8)本態様の温室において、栽培できる好適な植物としては、特に限定はないが、遮光の影響を受けにくいという点で光飽和点の低い作物、たとえばネギ、レタス、イチゴ、ホウレンソウが好ましい。
【0054】
2.本発明の第二の態様について
(1)透明材料で外壁または屋根材が形成され、該外壁または屋根材表面に複数の太陽電池モジュールを配設した温室であって、前記温室の真上からみて、前記太陽電池モジュールを東西方向には不連続に配設するが、南北方向には連続して配設していることを特徴とする温室である。
【0055】
(2)温室、太陽電池モジュールに関してはそれぞれ前記1.(2)及び(3)と同様である。
もっとも、特に温室の長手方向が真南方向となす角度βが0°より大きく90°未満の場合、たとえば45°近傍の場合、三角形形状の太陽電池モジュールやフレキシブルなフィルムタイプの太陽電池モジュールを用いると、前記表面に貼付することがより容易となる点で好ましい。
【0056】
(3)本態様においては、前記温室の真上からみて、前記太陽電池モジュールを東西方向には不連続に配設するが、南北方向には連続して配設している。
【0057】
本発明の第一の態様と異なり、本態様においては温室の長手方向がどの方角を向いているのかに係わりなく,前記太陽電池モジュールを東西方向には不連続に配設するが,南北方向には連続して配設する.ここで、不連続に配設するとは、東西方向に一定間隔を置いて複数の太陽電池モジュールを配設することをいい、連続して配設するとは、南北方向に互いに接するように複数の太陽電池モジュールを配設することをいう。
【0058】
なお、太陽電池モジュールを配設していない前記東西方向の一定間隔は、必ずしも太陽電池モジュールの幅と同じ幅に採る必要はなく、また前記一定間隔のすべてを必ずしも同じ間隔にする必要もなく、栽培植物に必要な採光量、最適な明暗周期の長さに応じて調整すればよい。しかし、温室内の栽培植物への影響を均一にするという観点からは、太陽電池モジュール間の幅を常に一定にすることが好ましく、さらには太陽電池モジュー自体の幅も一定にすることがより好ましい。同様な観点から、太陽電池モジュール間の幅の大きさや太陽電池モジュール自体の幅の大きさは、栽培植物の最適な明暗周期の長さを考慮しつつ、その中でできるだけ小さい大きさのものにすることが好ましい。
【0059】
(4)本態様のように配設することにより、温室の長手方向がどの方角を向いているのかに係わりなく、温室内の栽培植物に対して、固定的に影が形成されることがなく、温室内の各栽培植物のためにできるだけ均一に採光でき、もって、該栽培植物への悪影響を低減できる。ここで、温室の長手方向とは、水平面上、温室の採光可能表面の長軸方向をいう。
【0060】
すなわち、まず図4(a)に示すように、温室の長手方向が東西方向を向いている場合において、太陽電池モジュールを東西方向に連続して配列した場合、太陽は東から昇って西に沈むことから連続して配設した太陽電池モジュールの影は逆に西から東に移動するが、太陽電池モジュール自体が東西方向に連続して配設されているため、それにより形成される影は東西方向に長く延びており太陽が出ている大部分の時間においてずっと影になる部分が生じてしまう。これに対して図4(b)では東西方向に、太陽モジュールの存在する領域と存在しない領域とが交互に現れるように配設されているため、太陽の移動に伴い、それぞれの太陽電池モジュール1個分の影が西から東へと移動するにつれて、温室内のある場所においては影になる時間と太陽光があたる時間とが交互に現れることになり、常に影になることが回避される。なお、図4(b)では南北方向に2個の太陽電池モジュールが連続して配設されている。
【0061】
また図4(d)のように、温室の長手方向が南北方向を向いている場合にも、東西方向に太陽電池モジュールの存在する領域と存在しない領域とが交互に現れるように配設することで、温室内の各栽培植物に対して、できるだけ均一に採光できる。すなわち、温室内のどの栽培植物についても、太陽電池モジュール1個分の影が西から東へと移動していくので、各栽培植物の間での採光の不均一性をできるだけ回避することができる。なお、図4(d)でも、南北方向に太陽電池モジュールを連続して配設している。
【0062】
また図4(c)では、より一般的に温室の長手方向が真南方向と0°より大きく90°未満の一定の角度をなしている場合における本態様の一例を示している。同様に図4(c)でも温室内の各栽培植物の間での採光の不均一性をできるだけ回避することができる。
(5)本態様においては、各太陽電池パネルの水平面に対する設置角度α(ただし、0°
≦α≦90°)の面積平均
【0063】
【数5】
【0064】
については、前記1.(5)と同様である。
【0065】
もっとも、前記1.(5)中、図1及び図2を説明した部分については以下の図4を用いた説明に置き換える。すなわち、図4(b)のように温室の長手方向が東西方向にある場合(すなわち、β=90°の場合)において、東西方向に不連続に一定間隔で、南北方向には2個連続して同じサイズの太陽電池モジュールを配設した場合、南北方向に1列目と2列目の境界の部分の接面が、温室またはビニールハウス設置地域の最適受光角度Aを有するような高さに配設すればよい。
【0066】
また、図4(d)のように温室またはビニールハウスの長手方向が南北方向にある場合(すなわち、β=0°の場合)において、東西方向に不連続に一定間隔で、南北方向には連続して同じサイズの太陽電池モジュールを配設した場合、真中の太陽電池モジュールの列が丁度、天頂にくるようにし、左右の太陽電池モジュールの列を左右対称になるように配設すればよい。
【0067】
(6)本態様においては、温室の長手方向が東西方向または南北方向を向いている、すなわちβ=90°またはβ=0°であることが、太陽電池モジュールの設置のし易さの点、またβ=90°では太陽電池の出力が最大になる点で好ましい。
【0068】
(7)前記1.(7)〜(8)については、本態様においても同様である。
【0069】
3.本発明の第三の態様について
透明材料で外壁または屋根材が形成された温室の、該外壁または屋根材の表面に複数の太陽電池モジュールを配設する方法であって、前記太陽電池モジュールと前記太陽電池モジュールの存在しない前記表面とが、前記温室またはビニールハウスの長手方向、及び長手方向と垂直な方向それぞれに、前記表面上、同じ間隔で交互にそれぞれ少なくとも1回現れるように前記太陽電池モジュールを配設することを特徴とする配設方法である。
【0070】
本態様の配設方法は、前記本発明の第一の態様を配設方法として規定したものであり、その説明は、前記1.(2)〜(8)と同様である。
【0071】
4.本発明の第四の態様
透明材料で外壁または屋根材が形成された温室の、該外壁または屋根材表面に複数の太陽電池モジュールを配設する方法であって、前記温室またはビニールハウスの真上からみて、前記太陽電池モジュールを東西方向には不連続に、南北方向には連続して配設することを特徴とする配設方法である。
【0072】
本態様の配設方法は、前記本発明の第二の態様を配設方法として規定したものであり、その説明は、前記2.(2)〜(7)と同様である。
【実施例】
【0073】
東西棟ハウス(β=90°)の南屋根面に30枚の太陽電池をモザイク状に設置[15個の太陽電池モジュールを2列、太陽電池モジュール:富士電機システムズ フィルム型アモルファス太陽電池 最大出力24W(幅0.5m、長さ1m)、面積平均設置角度23°(上段太陽電池20°、下段太陽電池26°)]した実施例を図5に示した。ハウス中央位置に日射センサー1から5およびネギ水耕栽培槽を設置した。なお、設置地域である島根県松江市における最適受光角度は24.2°である。
【0074】
また、このハウスの真西の位置に太陽電池を設置しない同様な東西棟ハウス(β=90°)を建設し、日射センサー、ネギ水耕栽培槽を同様な位置に設置した、このハウスを対照東西棟と称した。東西棟および対照東西棟において2008年10月18日に測定した日射を図6、図7に示す。すべての日射測定位置で日中を通じて固定的に影になる場所がないことが示されている。この日は日射センサー3、4、5の位置に、モザイク状に配設した太陽電池の影が交互に観測された。なお、図6、7においてすべての日射センサーで観測されたスパイク状の日射低下は供試ビニールハウスの支柱パイプの影である。
【0075】
(ネギの草丈への影響確認、図8)
太陽電池を設置した東西棟(遮光区)と対照東西棟(対照区)の両区おいて、2008年9月21日から11月10日までネギの水耕栽培を実施した。栽培終了時の草丈の比較を図9に示した。各処理区において対照区との有意差の評価を5%T検定で行った。その結果、S4とN3以外は有意な差を認めず、対照区と同等の草丈であった。この結果は、遮光区においても太陽光が均一に照射されたことに由来するものと考えられる。栽培期間中に太陽電池による遮光を受けたと考えられる処理区はN5よりも北側の地点であり、N3での草丈低下のみが遮光による影響と考えられる。N3では対照区が81.1cm、遮光区が74.1cmであり,約7cmの低下となった。一般的に葉ネギ栽培では草丈60cmを収穫の目安とするが、本実験は栽培期間が長く,収穫適期を過ぎた時点での調査であり、遮光による草丈への影響は、草丈が光合成量に比例し、該光合成量が照射光量の積算量に比例するため、生育時期が進むにつれて大きくなると考えられるところ、収穫適期ではN3での草丈の低下も小さく、対照区と大差なかったものと推察される。
【0076】
なお、調査した株数は各地点(N1〜N6、S6〜S1)につき4〜6株であった。各地点6株ずつ栽培したが、生育が極端に違うものはデータ解析の時点で除いたためである。また、1株には6〜7個体のネギが植えてあり、草丈は1株のうちの最も大きい個体の草丈を測り、各地点の上記4〜6株で平均した値である。
【0077】
(収量への影響、図9・図10)
地上部生重の結果を図9に示した。N1〜5の処理区が太陽電池による遮光を受けた地点であるが、5%T検定によるとN4のみが対照区と比較して有意であった。このことは、図10で示した地上部乾物重でも同様の傾向であった。しかしながら、N5、N4の周辺では栽培期間中に植物体の倒伏が観察されたこと、同じ遮光を受けた地点で地上部生重および地上部乾物重にN1〜3において差が見られなかったことから、N4の遮光区における収量の有意な低下は遮光よりも倒伏による影響が大きいものと考えられ、前記植物体の倒伏がなければ、同等の結果が得られたであろうと考えられる。
【0078】
(ビタミンC含量について)
栽培終了後、処理区S1〜S3において栽培したネギを10ブロックに分割し、各ブロックからランダムに10株を取り出し、各ブロック毎にビタミンC含量を分析した。同様に処理区N1〜N3において栽培したネギについても分析を行った。
【0079】
表1に各処理区のビタミンC含量の平均値を示した。S1〜S3処理区は遮光が生じていない処理区であり、ビタミンC含量は対照区とほぼ同じ値を示した。N1〜N3処理区は遮光を受けている部分であり、平均値に差が見られたが、5%T検定を行った結果、有意な差は見られなかった。従って、太陽電池設置によるビタミンC含量への影響は有意には認められなかった。
【0080】
【表1】
【0081】
(モザイク状配置の影響について)
昨年度のほぼ同時期に太陽電池を直線的に配置したハウス[同数の太陽電池を隙間無く東西方向に整列させ、その設置角度は温室設置地域の最適受光角度に近い25°とした。]内で栽培試験を行った結果と今年度モザイク状に配置した場合(図6参照)の結果を比較し,モザイク状配置の影響について評価した。
【0082】
栽培時期がほぼ同時期であるため太陽高度や日長などは等しいものの,気温や日射量等の気象に左右される条件が異なるため、評価は地上部生重の絶対値ではなく、対照区を100とした遮光区の相対値を用いて行った。図11には栽培期間中に遮光を受けたと考えられるN5〜N1までの地点における相対値とN5〜N1までの平均相対値(Ave)を示した。N5とN4を除き,モザイク状のほうが高い値を示し、相対値が100を超えるもの、すなわち対照区より生育の良い地点も観察された。平均値で見ても、直線配置が81.2であるのに対し、モザイク状配置は93.9と高い値を示した。これらの結果から、太陽電池をモザイク状に配置することでネギ生育に対する太陽電池による遮光の影響が軽減されることが確認された。また、平均するとモザイク状に配置した太陽電池下のネギ生育は太陽電池がない場合とほぼ同様であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、園芸用の温室またはビニールハウスに太陽電池モジュールを配設するのに好ましく用いることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明材料で外壁または屋根材が形成され、該外壁または屋根材の表面に複数の太陽電池モジュールを配設した温室であって、
前記太陽電池モジュールを設置している前記表面と前記太陽電池モジュールを設置していない前記表面とが、前記温室の長手方向、及び長手方向と垂直な方向それぞれに、同じ間隔で交互にそれぞれ少なくとも1回現れるように前記太陽電池モジュールを配設していることを特徴とする温室。
【請求項2】
透明材料で外壁または屋根材が形成され、該外壁または屋根材表面に複数の太陽電池モジュールを配設した温室であって、
前記温室の真上からみて、前記太陽電池モジュールを東西方向には不連続に配設するが、南北方向には連続して配設していることを特徴とする温室。
【請求項3】
前記各太陽電池モジュールの水平面に対する設置角度α(ただし、0°≦α≦90°)の面積平均
【数1】
が、温室の長手方向が真南方向となす角度をβ(ただし、0°≦β≦90°)としたときに、下式(I):
【数2】
で表され、
前記設置角度αは、前記太陽電池モジュールの形成する平面と水平面との交線に直交する平面内で前記太陽電池モジュールの形成する平面と水平面とがなす角度をいい(ただし、前記太陽電池モジュールの形成する平面と水平面とが平行な場合には、α=0°とする)、αが0°でないとき前記交線は温室の長手方向にあり、
前記式(I)中の
【数3】
は、各太陽電池モジュールの設置角度を各太陽電池モジュールの受光面積で平均した値であり、Aは温室設置地域の最適受光角度を表すことを特徴とする請求項1または2に記載の温室またはビニールハウス。
【請求項4】
前記温室の長手方向が東西方向(β=90°)を向いていることを特徴とする請求項1または2に記載の温室。
【請求項5】
太陽の南中高度につき、前記温室内の光合成有効光量子束密度(PPFD)が、前記温室内の栽培植物の光飽和点以下となるような高度になった場合に、前記太陽電池モジュールの影が前記栽培直物にかからないような高さになるように、前記太陽電池モジュールが配設されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の温室。
【請求項6】
前記各太陽電池モジュールが、温室の前記内側表面に配設されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の温室。
【請求項7】
前記各太陽電池モジュールが、温室の前記内側表面上の少なくとも3点において固定されていることを特徴とする請求項6に記載の温室。
【請求項8】
透明材料で外壁または屋根材が形成された温室の、該外壁または屋根材の表面に複数の太陽電池モジュールを配設する方法であって、
前記太陽電池モジュールと前記太陽電池モジュールの存在しない前記表面とが、前記温室の長手方向、及び長手方向と垂直な方向それぞれに、前記表面上、同じ間隔で交互にそれぞれ少なくとも1回現れるように前記太陽電池モジュールを配設することを特徴とする配設方法。
【請求項9】
透明材料で外壁または屋根材が形成された温室の、該外壁または屋根材表面に複数の太陽電池モジュールを配設する方法であって、
前記温室の真上からみて、前記太陽電池モジュールを東西方向には不連続に、南北方向には連続して配設することを特徴とする配設方法。
【請求項10】
前記温室の長手方向が東西方向(β=90°)を向くように設置することを特徴とする請求項8または9に記載の配設方法。
【請求項11】
太陽の南中高度につき、前記温室内の光合成有効光量子束密度(PPFD)が、前記温室内の栽培植物の光飽和点以下となるような高度になった場合に、前記太陽電池モジュールの影が前記栽培植物にかからないような高さになるように、前記太陽電池モジュールを配設することを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の配設方法。
【請求項1】
透明材料で外壁または屋根材が形成され、該外壁または屋根材の表面に複数の太陽電池モジュールを配設した温室であって、
前記太陽電池モジュールを設置している前記表面と前記太陽電池モジュールを設置していない前記表面とが、前記温室の長手方向、及び長手方向と垂直な方向それぞれに、同じ間隔で交互にそれぞれ少なくとも1回現れるように前記太陽電池モジュールを配設していることを特徴とする温室。
【請求項2】
透明材料で外壁または屋根材が形成され、該外壁または屋根材表面に複数の太陽電池モジュールを配設した温室であって、
前記温室の真上からみて、前記太陽電池モジュールを東西方向には不連続に配設するが、南北方向には連続して配設していることを特徴とする温室。
【請求項3】
前記各太陽電池モジュールの水平面に対する設置角度α(ただし、0°≦α≦90°)の面積平均
【数1】
が、温室の長手方向が真南方向となす角度をβ(ただし、0°≦β≦90°)としたときに、下式(I):
【数2】
で表され、
前記設置角度αは、前記太陽電池モジュールの形成する平面と水平面との交線に直交する平面内で前記太陽電池モジュールの形成する平面と水平面とがなす角度をいい(ただし、前記太陽電池モジュールの形成する平面と水平面とが平行な場合には、α=0°とする)、αが0°でないとき前記交線は温室の長手方向にあり、
前記式(I)中の
【数3】
は、各太陽電池モジュールの設置角度を各太陽電池モジュールの受光面積で平均した値であり、Aは温室設置地域の最適受光角度を表すことを特徴とする請求項1または2に記載の温室またはビニールハウス。
【請求項4】
前記温室の長手方向が東西方向(β=90°)を向いていることを特徴とする請求項1または2に記載の温室。
【請求項5】
太陽の南中高度につき、前記温室内の光合成有効光量子束密度(PPFD)が、前記温室内の栽培植物の光飽和点以下となるような高度になった場合に、前記太陽電池モジュールの影が前記栽培直物にかからないような高さになるように、前記太陽電池モジュールが配設されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の温室。
【請求項6】
前記各太陽電池モジュールが、温室の前記内側表面に配設されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の温室。
【請求項7】
前記各太陽電池モジュールが、温室の前記内側表面上の少なくとも3点において固定されていることを特徴とする請求項6に記載の温室。
【請求項8】
透明材料で外壁または屋根材が形成された温室の、該外壁または屋根材の表面に複数の太陽電池モジュールを配設する方法であって、
前記太陽電池モジュールと前記太陽電池モジュールの存在しない前記表面とが、前記温室の長手方向、及び長手方向と垂直な方向それぞれに、前記表面上、同じ間隔で交互にそれぞれ少なくとも1回現れるように前記太陽電池モジュールを配設することを特徴とする配設方法。
【請求項9】
透明材料で外壁または屋根材が形成された温室の、該外壁または屋根材表面に複数の太陽電池モジュールを配設する方法であって、
前記温室の真上からみて、前記太陽電池モジュールを東西方向には不連続に、南北方向には連続して配設することを特徴とする配設方法。
【請求項10】
前記温室の長手方向が東西方向(β=90°)を向くように設置することを特徴とする請求項8または9に記載の配設方法。
【請求項11】
太陽の南中高度につき、前記温室内の光合成有効光量子束密度(PPFD)が、前記温室内の栽培植物の光飽和点以下となるような高度になった場合に、前記太陽電池モジュールの影が前記栽培植物にかからないような高さになるように、前記太陽電池モジュールを配設することを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の配設方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−193837(P2010−193837A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−44743(P2009−44743)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(591282205)島根県 (122)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(591282205)島根県 (122)
【Fターム(参考)】
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