説明

複数の電流検出器を備えたスポット溶接ロボット制御装置

【課題】スポット溶接電極の的確な保守を可能にする、ロボット溶接システムのための制御装置を提供する。
【解決手段】ロボット制御装置7は、サーボモータ2により溶接電極を駆動するスポット溶接ガン1を含むロボット溶接システムを制御する。装置は、サーボモータに流れる電流を検出する電流検出器3と、サーボモータの作動を制御するとともに、電流検出器の検出値に応じて、サーボモータへ流す電流を調整し、溶接電極を被溶接物へ押し付ける加圧力を制御するロボット制御CPU9とを有する。装置にはさらに、溶接電極の保守作業時などにサーボモータへ流す電流を検出するための電流検出器4と、ロボット制御CPUの指令に応じてこれら電流検出器3,4を切り替えるマルチプレクサ5−1,5−2とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーボモータ駆動のスポット溶接ガンを多関節ロボットと組み合わせたスポット溶接システムの制御装置に係り、特に、溶接電極の保守用などのために複数の電流検出器を備えたロボット制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スポット溶接は、溶接電極を被溶接物にあてて加圧しつつ電流を流して被溶接物の溶接を行う。溶接電極をサーボ駆動するシステムでは、その際の加圧力を、駆動アクチュエータに流す電流値によって制御することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−58157号公報
【0003】
図2は、そのようなシステムにおける駆動電流の制御関係を示している。システムは、ロボット(図示なし)の本体先端または本体周辺に取り付けたスポット溶接ガン1と、システム制御用のロボット制御装置17とを有する。スポット溶接ガン1は、溶接電極を被溶接物に対して押し付けて加圧するためのサーボモータ2を搭載している。
ロボット制御装置17は、スポット溶接ガンのサーボモータ2に接続されている。サーボモータ2の動作は、ロボット制御装置17内のロボット制御CPU9が指令して、パワー素子6でサーボモータ2を駆動して行う。その際のフィードバック制御として、サーボモータ2に流れる電流が電流検出器10によりアナログ検出される。検出値は、A/D変換器8によりディジタル変換され、変換データがロボット制御CPU9に入力される。CPU9は、このデータに基づいて指令値の計算をし、サーボモータ2へ流す電流を制御する。
【0004】
このようなスポット溶接システムにあっては、近年、溶接電極の加圧力が増大傾向にあり、加圧力を保持させるためにサーボモータに流す電流も大きくなってきている。それに伴って、上述した電流フィードバック制御用の電流検出器も、大きな電流を検出できるものが用いられる。
【0005】
一方、スポット溶接システムには、溶接ガンの電極先端の摩耗量検出や、電極を成形するドレス作業などの保守のために、電極の加圧動作を要するものある(例えば、特許文献2参照)。その際の加圧力は、ほとんどの場合、実際にスポット溶接を行うほどの大きさを必要としない。
【特許文献2】特開平06−102190号公報
【0006】
上述した電極保守のための加圧動作では、サーボモータの電流は比較的小さく、電流検出器の出力が小さい。
これに対して、従来のロボット制御装置は、大電流を検出可能な電流検出器を用いる傾向にあり、これに対応したA/D変換器は、大電流分を処理する様にビット分解能が割り当てられていて、小さな電流に割り当てられるビットが少なくなり、小さい電流の変換については精度が悪くなる。その為、電極保守のための加圧動作では、フィードバック制御の精度が低下して、加圧力がばらつくことがある。この場合、適切な加圧力が得られず、電極摩耗量の検出誤差が発生したり、ドレス作業による切削品質が悪くなる。その結果、スポット溶接自体の品質も悪くなる。
【0007】
また、溶接内容に応じてロボット本体が複数のスポット溶接ガンを適宜交換するようにされたスポット溶接システムにおいては、スポット溶接ガン毎にサーボモータの出力容量が異なる場合がある。このような場合、いずれのスポット溶接ガンにおいてもフィードバック制御の精度を維持しこれにより加圧力の精度を維持するためには、スポット溶接ガンのサーボモータの出力容量に対応させてサーボアンプを複数台用意し、これらを適宜切り替えるようにしなければならない。しかし、複数台のサーボアンプを用意しなければならないこの構成は、制御装置の大型化や高額化を招くことになり問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ロボット溶接システムにおいて溶接電極の正確な保守を可能にするロボット制御装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による、多関節ロボットと、サーボモータにより溶接電極を駆動する少なくとも1台のスポット溶接ガンとを含む溶接システムを制御するためのロボット制御装置は、サーボモータに流れる電流を検出する第1の電流検出器と、サーボモータの作動を制御するとともに、電流検出器の検出値に応じて、サーボモータへ流す電流を調整し、溶接電極を被溶接物へ押し付ける加圧力を制御するロボット制御CPUとを有する。この装置は、サーボモータに流れる、第1の電流検出器とは異なる大きさの電流を検出する第2の電流検出器をさらに設け、ロボット制御CPUの指令に応じて第1と第2の電流検出器を切り替えることを特徴とする。
【0010】
上記構成では、溶接電極の保守作業時などに、第2の電流検出器へ切り替えることにより、サーボモータを通る比較的小さな電流を精度良く検出し、ロボット制御CPUで検出値に基づくフィードバック制御を行って、的確な加圧力が得られる。そのため、溶接電極の摩耗検出や、これに基づくドレス作業などの保守作業を正確に行うことができる。
【0011】
上述の溶接システムは、サーボモータ出力容量が異なる複数台のスポット溶接ガンを含んでいても良い。この場合、ロボット制御装置は、複数の電流検出器と、これら電流検出器を切り替えるマルチプレクサとを備えて、ロボット制御CPUの指令に基づいて、サーボモータ出力容量に応じた電流検出器に切り替える。
この構成では、異なった出力容量のサーボモータを有するスポット溶接ガンを用いる場合であっても、スポット溶接ガンのサーボモータ出力容量に応じて電流検出器を自動的に切り替えることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、上述の通り、実際にスポット溶接を行う際の加圧力制御を損なうことなく、溶接電極の保守のための比較的に小さい加圧力をも正確に制御し得るので、溶接電極の適切なドレス作業が可能である。その結果、この溶接電極を用いたスポット溶接の品質を良好にすることができる。
また、サーボモータ出力容量が異なる場合であっても、サーボモータ出力容量に応じて電流検出器を切り替えることにより、各々適した容量のサーボアンプを用意することなく、溶接電極の正確な保守とスポット溶接の良好な品質を両立するシステムを実現可能である。その為、ロボット溶接システムに複数のスポット溶接ガンを設けて、その用途を広げることができる。
【実施例】
【0013】
次に、図1に示す実施例のロボット制御装置7に基づいて、本発明を説明する。図1中、図2を参照して上述した従来例と同様な構成部分には同じ参照符号を付している。
制御装置7は、多関節ロボット(図示なし)およびスポット溶接ガン1とともに、ロボット溶接システムを形成している。スポット溶接ガン1は、ロボットの本体先端または本体周辺に取り付けられていて、溶接電極を被溶接物に対して押し付けて加圧するためのサーボモータ2を搭載している。
なお、制御装置7は、ロボット溶接システム全体を制御する構成を備えているが、本発明に関連する箇所を除いて、従来と同様で良い構成部分については図示と説明を省略する。
【0014】
ロボット制御装置7は、スポット溶接ガンのサーボモータ2に電気接続したパワー素子6と、ロボット制御CPU9とを有する。ロボット制御CPU9は、多関節ロボットおよびスポット溶接ガン1の作動プログラムを内蔵し、パワー素子6に接続している。
装置7はさらに、サーボモータ2に流れる電流を検出するための第1および第2の電流検出器3,4と、これら電流検出器を切り替えるためのマルチプレクサ5−1,5−2と、電流検出器の出力をデジタル変換してCPU9へ入力するA/D変換器8とを有する。
【0015】
第1の電流検出器3は、スポット溶接作業時にサーボモータ2を通る電流を正確に検出し得る容量である。一方、第2の電流検出器4は、例えば溶接電極の保守作業時にサーボモータ2へ流す比較的に少ない電流を正確に検出し得るように、第1の電流検出器3よりも小さい容量である。電流検出器3,4は並列に接続され、サーボモータ2の電流をそれぞれ別個に検出する。
マルチプレクサ5−1はサーボ素子6に対して、また、マルチプレクサ5−2はA/D変換器8対して電流検出器3,4をそれぞれ切り替えるように接続している。マルチプレクサ5−1,5−2は、ロボット制御CPU9の指令によって切り替わるようになっている。
【0016】
上述した回路構成において、スポット溶接ガン1の動作は、ロボット制御CPU9が指令して、パワー素子6でサーボモータ2を駆動して行う。その際に、フィードバック制御として、サーボモータ2に流れる電流が電流検出器3または4により検出される。検出値は、A/D変換器8によりディジタル変換され、変換データがロボット制御CPU9に入力される。CPU9は、このデータに基づいて指令値の計算をし、サーボモータ2へ流す電流を制御する。
【0017】
この時、ロボット制御CPU9は、実施する作業に応じてマルチプレクサ5−2を制御して、電流検出器3,4を切り替え、サーボモータ2に流れる電流経路を変更する。これに同期して、マルチプレクサ5−1も該当する電流検出器へ切り替えられる。
サーボモータ2に流れる電流は、大電流検出用の第1の電流検出器3または小電流検出用の第2の電流検出器4により電圧に変換される。電流検出器の出力電圧であるアナログ信号はA/D変換器8に入力され、ディジタル変換をしたデータがA/D変換器8からロボット制御CPU9にフィードバックされる。CPU9は、フィードバックされた電流値をもとに、サーボモータ2に流れる電流を制御する。
【0018】
このロボット溶接システムは、スポット溶接ガン1が被溶接物への加圧力を大きくしてスポット溶接するとき、すなわちサーボモータ2に大電流が流れるときに、ロボット制御CPU9がマルチプレクサ5−1および5−2を大電流検出用の電流検出器3に切り替える。こうして、サーボモータ2の大電流値を的確に検出して、フィードバックすることができる。
また、溶接電極の摩耗検出や、ドレス作業時には、ロボット制御CPU9がマルチプレクサ5−1および5−2を小電流検出用の電流検出器4に切り替える。そのため、サーボモータ2を通る比較的少ない電流をも正確に検出して、フィードバックすることができる。
このように、本実施例のロボット制御装置は、溶接電極の動作制御における精度向上が可能である。
【0019】
上述した実施例は、溶接作業用の電流検出器3に加えて、溶接電極保守のために小電流用の検出器4を設けるものとしているが、本発明はこのような適用に限るものではない。
一つの変更例として、溶接内容に応じてロボット本体が複数のスポット溶接ガンを適宜交換するようにされたスポット溶接システムのための制御装置がある。この場合、ロボット制御装置は、サーボモータの出力容量に応じた複数の電流検出器を備え、ロボット制御CPUとマルチプレクサが、作業に用いるスポット溶接ガンに対応した電流検出器を選んで切り替えることにより、各種溶接作業に適した加圧力の制御を正確に行うことができる。
【0020】
このように、本発明は説明した実施例にのみ限定されるものでなく、添付の特許請求の範囲に記載する範囲内で、説明した実施例に変更を加えることができ、あるいは本発明が、上述した変更例のように、他の形態を採り得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例によるロボット制御装置の構成を示す概略図である。
【図2】従来のロボット制御装置の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0022】
1 スポット溶接ガン
2 サーボモータ
3 第1の電流検出器
4 第2の電流検出器
5−1,5−2 マルチプレクサ
7 ロボット制御装置
9 ロボット制御CPU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多関節ロボットと、サーボモータにより溶接電極を駆動する少なくとも1台のスポット溶接ガンとを含む溶接システムを制御するためのロボット制御装置であって、サーボモータに流れる電流を検出する第1の電流検出器と、サーボモータの作動を制御するとともに、電流検出器の検出値に応じて、サーボモータへ流す電流を調整し、溶接電極を被溶接物へ押し付ける加圧力を制御するロボット制御CPUとを有するロボット制御装置において、
サーボモータに流れる、第1の電流検出器とは異なる大きさの電流を検出する第2の電流検出器をさらに設け、ロボット制御CPUの指令に応じて第1と第2の電流検出器を切り替えることを特徴とするロボット制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置において、溶接システムはサーボモータ出力容量の異なる複数台のスポット溶接ガンを含み、装置は、これらサーボモータ出力容量に応じた複数の電流検出器と、ロボット制御CPUの指令に基づいて電流検出器を切り替えるマルチプレクサとを有する、ロボット制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−167775(P2006−167775A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−365778(P2004−365778)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(000005197)株式会社不二越 (625)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】