説明

複数出力切替機構

【課題】複数の出力歯車のうち中間歯車が噛合した出力歯車にのみ駆動源からの回転駆動力を伝達する複数出力切替機構において、中間歯車及び出力歯車の歯先同士の干渉による噛合不良を防止して確実に出力切替を行うことが可能な複数出力切替機構を提供する。
【解決手段】出力歯車8は、出力軸9に径方向中立位置及び周方向中立位置から径方向及び周方向に変位可能に遊嵌されている。出力歯車の内周面8cに周方向に等間隔で配置された3個の第1トルク伝達壁8dと、出力軸の外周面9dに周方向に等間隔で配置された3個の第2トルク伝達壁9aとが周方向にトルク伝達可能となっている。出力軸は出力歯車と相対回転すると第1トルク伝達壁の先端部8eと当接して自動調心する調心用カム部9bを有しており、各出力歯車と各出力軸との間には、無負荷状態で出力歯車を出力軸に対する径方向中立位置及び周方向中立位置に保持するスポンジ部材10を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の出力歯車のうち中間歯車が噛合した出力歯車にのみ駆動源からの回転駆動力を伝達する複数出力切替機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数の出力により多様な動作が可能な機器として、例えば、自動車等のパワーシートがある。通常、パワーシートには、シートスライド装置、シートチルト装置及びリクライニグ装置等のように、複数の着座姿勢制御装置が併設されるため、1つのシートに、これらの装置の数だけのモータが必要となる。そのため、モータの複数化に伴う部品点数の増加によって、部品コスト及び組立コストの増大を招く虞がある。また、モータの取付けスペースを確保しなければならないため、シートの全体的な大型化、及び各装置の大型化に伴うシートのクッション性の低下を招く虞がある。
【0003】
このような問題を解決するために、特許文献1には、1台で複数の着座姿勢制御装置を作動可能な複数出力切替機構(ギヤードモータ)が開示されている。この複数出力切替機構は、切替用モータとウォームギヤにより中間歯車を移動させ、複数の出力歯車のうち中間歯車が噛合した出力歯車にのみ駆動源からの回転駆動力を伝達する構成となっている。この複数出力切替機構では、中間歯車と出力歯車との離接が繰り返される際に、中間歯車及び出力歯車の歯先同士が干渉して噛合不良となる場合がある。
【0004】
一方、特許文献2及び3には、離接が繰り返される入力歯車(駆動歯車)及び出力歯車(従動歯車、被駆動歯車)の歯先同士の干渉による噛合不良を防止し得る歯車伝達機構が開示されている。特許文献2に開示されている歯車伝達機構は、入力歯車及び出力歯車の歯たけを並歯よりも高くして歯先を面取りして尖らせることにより、入力歯車及び出力歯車のスムーズな噛合が行われる構成を有している。また、この歯車伝達機構は、コイルスプリングによって出力軸に対する周方向の所定位置に回動付勢された出力歯車を備えており、入力歯車及び出力歯車の歯先同士が干渉した際には、コイルスプリングの付勢力に抗して出力歯車が出力軸に対して微小角度回転することによって、入力歯車及び出力歯車のスムーズな噛合が行われる構成を有している。
【0005】
また、特許文献3に開示されている歯車伝達機構は、環状の入力歯車と、入力軸と一体に回転するように入力軸に軸装され入力歯車の両側面を軸方向から回転自在に挟持する一対の支持部材と、入力歯車の内周面及び各支持部材の各凹部に圧入された断面C状(軸方向のスリットが設けられたロール状)の弾性部材と、入力歯車が離接する出力歯車とを備えている。この歯車伝達機構では、入力軸の回転駆動力が支持部材と入力歯車との間の摩擦抵抗及び弾性部材と入力歯車との間の摩擦抵抗によって入力歯車に伝達される。そして、入力歯車及び出力歯車の歯先同士が干渉した際には、弾性部材の弾性変形によって、入力歯車が出力歯車から離間する方向に移動しながら回転動作して歯先同士の干渉状態が外れ、弾性部材の弾性力によって入力歯車と出力歯車とが噛合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平6−45136号公報
【特許文献2】特開平8−28658号公報
【特許文献3】特許第3477743号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されている複数出力切替機構においては、出力軸に対して出力歯車が径方向及び周方向に固定されているため、出力歯車に中間歯車が噛合するときに、出力歯車及び中間歯車の歯先同士が干渉した際には、出力歯車と中間歯車とが噛合できず出力軸の切り替えができないという課題がある。
【0008】
また、特許文献2に開示されている歯車伝達機構においては、入力歯車及び出力歯車の歯先同士が互いに最先端付近で干渉した場合には、入力歯車から出力歯車に出力歯車を周方向に微小角度回転させる回転駆動力が伝達されない。このとき、出力歯車は周方向に逃げることができず、また、径方向に固定されているため噛合不良となる虞がある。
【0009】
また、特許文献3に開示されている歯車伝達機構においては、入力軸に対して入力歯車が径方向及び周方向に移動可能とされているため、入力歯車及び出力歯車の歯先同士の干渉による噛合不良を防止する効果が高い。しかし、上述したように入力軸の回転駆動力は摩擦抵抗によって入力歯車に伝達され、また、この摩擦抵抗を大きくすることは入力軸に対して入力歯車を径方向及び周方向にスムーズに移動することの阻害要因となるため、特許文献3に開示されている歯車伝達機構においては、入力軸から入力歯車へ大きな回転駆動力を伝達することができない。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、複数の出力歯車のうち中間歯車が噛合した出力歯車にのみ駆動源からの回転駆動力を伝達する複数出力切替機構において、中間歯車及び出力歯車の歯先同士の干渉による噛合不良を防止して確実に出力切替を行うことが可能であると共に、駆動源からの大きな回転駆動力を確実に出力軸に伝達することが可能な複数出力切替機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る複数出力切替機構の構成上の特徴は、ハウジングに移動可能に装架され、駆動装置によって複数の切換位置間で移動される切換部材と、駆動源によって回転駆動される入力歯車と、前記切換部材に回転可能に支承され前記入力歯車と常に噛合する中間歯車と、前記ハウジングに各前記切換位置でそれぞれ回転可能に支承された複数の出力軸と、各前記出力軸に径方向中立位置及び周方向中立位置から径方向及び周方向に変位可能に遊嵌され、前記切換部材が各前記切換位置に移動されると前記中間歯車と噛合する複数の出力歯車と、を備え、複数の前記出力歯車のうち前記中間歯車が噛合した出力歯車にのみ前記駆動源からの回転駆動力が伝達される複数出力切替機構であって、
前記出力歯車は、前記中間歯車と噛合する歯が外周に形成された環状の歯車部と、前記歯車部の内周面に周方向に等間隔で配置され第1径位置まで径方向内側に向かって半径方向に突設された少なくとも3個の第1トルク伝達壁とを有し、前記出力軸は、隣接する前記第1トルク伝達壁間に1個ずつ周方向に等間隔で配置され前記第1径位置よりも径方向外側の第2径位置まで径方向外側に向かって半径方向に突設され前記第1トルク伝達壁と周方向でトルク伝達可能な第2トルク伝達壁と、前記出力歯車と前記出力軸とが相対回転すると前記第1トルク伝達壁の先端部と当接して前記出力歯車を前記出力軸に対して自動調心する少なくとも3個の調心用カム部とを有し、各前記出力歯車と各前記出力軸との間に介在され、無負荷状態で前記出力歯車を前記出力軸に対する前記径方向中立位置及び前記周方向中立位置に保持する弾性部材を備えたことである。
【0012】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1に記載の複数出力切替機構において、前記弾性部材は、スポンジ、ゴムあるいは金属バネであることである。
【0013】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1又は2に記載の複数出力切替機構において、前記中間歯車及び前記出力歯車の少なくとも一方の歯先が尖状に面取りされていることである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る複数出力切替機構によれば、複数の出力歯車のうち中間歯車が噛合した出力歯車にのみ駆動源からの回転駆動力が伝達される。この出力歯車は、出力軸に径方向中立位置及び周方向中立位置から径方向及び周方向に変位可能に遊嵌されており、環状の歯車部の内周面に周方向に等間隔で配置され第1径位置まで径方向内側に向かって突設された少なくとも3個の第1トルク伝達壁を有している。また、出力軸は、隣接する第1トルク伝達壁間に1個ずつ周方向に等間隔で配置され第1径位置よりも径方向外側の第2径位置まで径方向外側に向かって突設され第1トルク伝達壁と周方向でトルク伝達可能な第2トルク伝達壁を有している。
【0015】
よって、出力歯車が出力軸に対して径方向中立位置及び周方向中立位置に保持されているときには、出力歯車の全第1トルク伝達壁と出力軸の全第2トルク伝達壁とが径方向にラップしている。また、出力歯車が出力軸に対する径方向中立位置及び周方向中立位置から径方向及び周方向に変位したときには、少なくとも1つの第1トルク伝達壁と1つの第2トルク伝達壁とが径方向にラップしている。これにより、出力歯車の出力軸に対する変位によらず駆動源からの大きな回転駆動力を確実に出力軸に伝達することが可能である。
【0016】
また、請求項1に係る複数出力切替機構によれば、出力軸は、出力歯車と出力軸とが相対回転すると第1トルク伝達壁の先端部と当接して出力歯車を出力軸に対して自動調心する少なくとも3個の調心用カム部を有している。また、各出力歯車と各出力軸との間に介在され、無負荷状態で出力歯車を出力軸に対する径方向中立位置及び周方向中立位置に保持する弾性部材を備えている。
【0017】
よって、出力歯車に回転駆動力が伝達されていない無負荷状態においては、弾性部材により出力歯車が出力軸に対する径方向中立位置及び周方向中立位置に保持される。また、中間歯車及び出力歯車の歯先同士の干渉により出力歯車が出力軸に対して径方向及び周方向に変位したとしても、出力歯車に回転駆動力が伝達されると出力歯車と出力軸とが相対回転し、これにより出力歯車の第1トルク伝達壁の先端部と出力軸の調心用カム部とが当接して出力歯車が出力軸に対する径方向中立位置に自動調心される。すなわち、出力歯車の出力軸に対する変位、及び出力歯車への回転駆動力の伝達状態によらず、常に出力歯車は、中間歯車と適切な噛合が行える位置に自動調心される。よって、中間歯車及び出力歯車の歯先同士の干渉による噛合不良を防止して確実に出力切替を行うことが可能である。
【0018】
請求項2に係る複数出力切替機構によれば、各出力歯車と各出力軸との間に介在される弾性部材は、スポンジ、ゴムあるいは金属バネである。ここで、「ゴム」には、天然ゴムと、天然ゴム同様のゴム弾性を有する合成高分子物質である合成ゴムとが含まれている。スポンジ又はゴムによる弾性部材は、安価である。また、スポンジ又はゴムによる弾性部材は成形加工性に優れているため、出力歯車と出力軸との間の空間形状に合わせて弾性部材を成形することにより、出力軸に対して出力歯車をガタツキなく保持することが可能である。
【0019】
請求項3に係る複数出力切替機構によれば、中間歯車及び出力歯車の少なくとも一方の歯先が尖状に面取りされている。したがって、中間歯車及び出力歯車の歯先同士の干渉が発生しにくく、中間歯車及び出力歯車のスムーズな噛合が可能である。
【0020】
以上のように、本発明によれば、複数の出力歯車のうち中間歯車が噛合した出力歯車にのみ駆動源からの回転駆動力を伝達する複数出力切替機構において、中間歯車及び出力歯車の歯先同士の干渉による噛合不良を防止して確実に出力切替を行うことが可能であると共に、駆動源からの大きな回転駆動力を確実に出力軸に伝達することが可能な複数出力切替機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施形態の複数出力切替機構の斜視図である。
【図2】図1におけるA−A線で切断した断面図である。
【図3】図2に示した複数出力切替機構に備わる出力歯車、出力軸及び弾性部材(スポンジ部材)を拡大して説明する断面図である。
【図4】第1実施形態の複数出力切替機構に備わる出力歯車、出力軸及び弾性部材(スポンジ部材)の分解斜視図である。
【図5】第1実施形態の複数出力切替機構に備わる中間歯車及び出力歯車の歯先同士が干渉した状態を説明する断面図である。
【図6】図5に示した状態から中間歯車が僅かに回転した状態を説明する断面図である。
【図7】図6に示した状態から中間歯車がさらに回転して中間歯車及び出力歯車が適切に噛合した状態を説明する断面図である。
【図8】第2実施形態の複数出力切替機構に備わる出力歯車、出力軸及び弾性部材(ゴム部材)を拡大して説明する断面図である。
【図9】第3実施形態の複数出力切替機構に備わる出力歯車、出力軸及び弾性部材(スポンジ部材)を拡大して説明する断面図である。
【図10】第3実施形態の複数出力切替機構に備わる出力歯車、出力軸及び弾性部材(スポンジ部材)の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の複数出力切替機構の実施形態について図面を参照しつつ詳しく説明する。
【0023】
<第1実施形態>
図1及び2に示すように、本実施形態の複数出力切替機構1は、アッパボデー2a(ハウジング)と、ロアボデー2b(ハウジング)と、切替用モータ3a(駆動装置)と、ウォーム3b(駆動装置)と、ウォームホイール4(切替部材)と、駆動用モータ5(駆動源)と、入力歯車6と、中間歯車7と、3個の出力歯車8と、3個の出力軸9と、各出力歯車8と各出力軸9との間に介在されるスポンジ部材10(弾性部材)とを備えている。そして、3個の出力歯車8のうち中間歯車7が噛合した出力歯車8にのみ駆動用モータ5からの回転駆動力が伝達される。
【0024】
アッパボデー2a及びロアボデー2bは、互いに対向して配置された板部材である。アッパボデー2a及びロアボデー2bの面方向は、それぞれ平行に配置された入力歯車6の軸6a、中間歯車7の軸7a及び出力軸9の軸方向(以下、入出力軸方向と呼ぶ)に直交している。
【0025】
切替用モータ3aは、直流電動モータであり、回転軸を入出力軸方向と直交する方向に向けて、ロアボデー2bの上部に固定されている。切替用モータ3aの回転軸には、ウォーム3bの軸3cが直結されており、ウォーム3bは、切替用モータ3aによって回転駆動される。ウォーム3bの軸3cの両端は、ロアボデー2bに固定された軸受け部材2b1及び2b2により回転可能に支承されている。
【0026】
ウォームホイール4は、入力歯車6の軸6aと同軸にロアボデー2bの上部に回転可能に装架されている。ウォーム3bとウォームホイール4とによりウォームギヤが形成されており、ウォームホイール4は、切替用モータ3aの回転駆動によって、入力歯車6の軸6aを回転中心として回転駆動する。
【0027】
駆動用モータ5は、直流電動モータであり、回転軸(図示せず)を入出力軸方向の下方に向けて、アッパボデー2aの上部に固定されている。駆動用モータ5の回転軸は、アッパボデー2aに形成された貫通孔(図示せず)を上方から下方に貫通しており、駆動用モータ5の回転軸には、入力歯車6の軸6aが直結されている。
【0028】
入力歯車6は、軸6aを入出力軸方向に向けて、ウォームホイール4の中心の上方に配置されている。入力歯車6の軸6aは、ウォームホイール4に形成された中心孔(図示せず)を上方から下方に貫通している。入力歯車6の軸6aは、上端が駆動用モータ5の回転軸に直結されており、下端がロアボデー2bに設けられた軸受け孔(図示せず)により回転可能に支承されている。
【0029】
中間歯車7は、軸7aを入出力軸方向に向けて、ウォームホイール4の中心から外れたウォームホイール4の上方に配置されている。中間歯車7の軸7aは、下端がウォームホイール4の上部に固定された片持ち構造となっており、中間歯車7は、軸7aにより回転可能に保持されている。中間歯車7は、常に入力歯車6と噛合しており、ウォームホイール4の回転駆動によって、入力歯車6の周りを回転移動する。そして、図2に示す3箇所の切替位置X、Y及びZにおいて、中間歯車7と出力歯車8とが噛合する。
【0030】
図2に示すように、入力歯車6の軸6aから等しい距離にある3箇所の切替位置X、Y及びZには、3個の出力軸9が配置されている。各出力軸9は、上端がアッパボデー2aに設けられた軸受け孔(図示せず)により回転可能に支承されており、下端がロアボデー2bに設けられた軸受け孔(図示せず)により回転可能に支承されている。図1に示すように各出力軸9の上端は、アッパボデー2aの上方に突出しており、この突出した各出力軸9の上端に複数出力切替機構1によって作動する機器(装置)が接続される。
【0031】
出力歯車8は、出力軸9に径方向中立位置及び周方向中立位置から径方向及び周方向に変位可能に遊嵌されている。なお、径方向中立位置及び周方向中立位置とは、中間歯車7と出力歯車8とが噛合していない出力歯車8の無負荷状態において、出力軸9の位置を基準とした出力歯車8の相対位置である。そして、出力歯車8に中間歯車7からの当接力や回転駆動力が伝達されることによって、出力歯車8が出力軸9に対する径方向中立位置及び周方向中立位置から径方向及び周方向に変位する。
【0032】
以下、出力歯車8、出力軸9、及び出力歯車8と出力軸9との間に介在されるスポンジ部材10の構造について、図3及び4を参照しつつ詳しく説明する。図3は、図2に示した複数出力切替機構1の切替位置Xにある無負荷状態の出力歯車8、出力軸9及びスポンジ部材10を拡大して説明する断面図を示している。図4は、出力歯車8、出力軸9及びスポンジ部材10の分解斜視図を示している。
【0033】
図3に示すように、出力歯車8は、中間歯車7と噛合する歯8bが外周に形成された環状の歯車部8aと、歯車部8aの内周面8cに周方向に等間隔で配置され先端部8eが第1径位置R1まで径方向内側に向かって半径方向に突設された3個の第1トルク伝達壁8dとを有している。第1トルク伝達壁8dは、面方向が入出力軸方向に向き壁厚が一律厚さの板部材である。3個の第1トルク伝達壁8dは、出力歯車8の中心軸を中心として120°毎に配置されている。また、図4に示すように、出力歯車8の上端には、内周面8cから第1径位置R1まで径方向内側に向かって張り出した内向きフランジ部8fが形成されている。
【0034】
図3に示すように、出力軸9は、隣接する第1トルク伝達壁8d間に1個ずつ外周面9dに周方向に等間隔で配置され先端部が第1径位置R1よりも径方向外側の第2径位置R2まで径方向外側に向かって半径方向に突設された3個の第2トルク伝達壁9aを有している。第2トルク伝達壁9aは、第1径位置R1付近から径方向内側の基端部に至る部位が面方向が入出力軸方向に向きかつ基端部に向かうにつれて壁厚が徐々に厚くなる調心用カム部9bとなっており、第1径位置R1付近から径方向外側の先端部に至る部位が面方向が入出力軸方向に向き壁厚が一律厚さの伝達壁部9cとなっている。
【0035】
3個の第2トルク伝達壁9aは、出力軸9の中心軸を中心として120°毎に配置されており、各第2トルク伝達壁9aの基端部側の厚さ方向の両側に1個ずつ調心用カム部9bが形成されている。したがって、出力軸9は、6個の調心用カム部9bを有しており、各調心用カム部9bの面の形状は、円筒面の一部を切り取ったカム面となっている。また、図4に示すように、出力軸9の第2トルク伝達壁9aの下端には、出力軸9の外周面9dから歯車部8aの内周面8c付近まで径方向外側に向かって張り出したフランジ部9eが形成されている。
【0036】
出力歯車8に中間歯車7からの当接力や回転駆動力が伝達されていない無負荷状態において、図3に示すように、出力歯車8の中心軸と出力軸9の中心軸とは同軸となっており、また、出力歯車8及び出力軸9の中心軸を中心として60°毎に、第1トルク伝達壁8d及び第2トルク伝達壁9aが交互に配置されている。この状態が、出力歯車8が出力軸9に対する径方向中立位置及び周方向中立位置に保持されている状態である。
【0037】
図3及び4に示すように、出力歯車8と出力軸9との間に介在されるスポンジ部材10は、外径が歯車部8aの内径にほぼ等しく内径が第1径位置R1の径にほぼ等しいリング状部材を中心軸に沿って6等分した形状に類似した形状を呈している。6個のスポンジ部材10は、出力歯車8が出力軸9に対する径方向中立位置及び周方向中立位置に保持されている状態において、歯車部8aの内周面8cと、第1トルク伝達壁8dと、第2トルク伝達壁9aとにより区画された6つの空間を埋めるように配置されている。図4に示すように、スポンジ部材10は、出力歯車8の内向きフランジ部8fと出力軸9のフランジ部9eとにより上下方向から挟まれているため、出力歯車8及び出力軸9から脱落することはない。
【0038】
スポンジ部材10はウレタンスポンジ製であり、図3に示す形状から変形すると元の形状に戻ろうとする復元力を発現する。したがって、出力歯車8に中間歯車7からの当接力や回転駆動力が伝達されて出力歯車8が径方向及び周方向に変位すると、スポンジ部材10は容易に変形して、出力歯車8の変位が阻害されることはない。また、出力歯車8が径方向及び周方向に変位した後に、中間歯車7と出力歯車8との噛合が外れて出力歯車8が無負荷状態になると、スポンジ部材10の復元力によって、出力歯車8が出力軸9に対する周方向中立位置及び径方向中立位置に戻される。
【0039】
以下、中間歯車7及び出力歯車8の歯先同士が干渉した際の出力歯車8、出力軸9及びスポンジ部材10の動作について、図2及び図5〜7を参照しつつ詳しく説明する。出力切替を行う前には、複数出力切替機構1の中間歯車7は、図2に示す切替位置Yにあり、駆動用モータ5の回転駆動によって、入力歯車6は図2中左回りに回転し、中間歯車7は図2中右回りに回転し、出力歯車8は図2中左回りに回転して駆動用モータ5の回転駆動力が出力軸9に伝達されている。
【0040】
そして、中間歯車7が駆動用モータ5によって回転駆動されている状態において、ウォームホイール4を図2中左回りに回転することによって中間歯車7の位置を切替位置Yから切替位置Xへ切り替える。図5は、中間歯車7を切替位置Xへ切り替えた直後に中間歯車7及び出力歯車8の歯先同士が干渉した状態を示している。図5中に矢印で示しているように中間歯車7は図5中右回りに回転し、出力歯車8は回転していない。図5に示すように、中間歯車7の図5中黒丸印を付けた歯7bと、出力歯車8の図5中黒丸印を付けた歯8bとが歯先同士で干渉することにより、出力歯車8が一点鎖線で示す正規の噛合位置Nから図5中左方に変位する。このとき、出力歯車8は、出力軸9に対する径方向中立位置及び周方向中立位置から径方向にのみ変位している。
【0041】
これにより、出力歯車8の3個の第1トルク伝達壁8dのうち図5中黒丸印を付けた歯8bに最も近い1個の第1トルク伝達壁8dの先端部8eが出力軸9の外周面9dに近接する。そして、6個のスポンジ部材10のうち2個は、出力歯車8の歯車部8aの内周面8cと、第1トルク伝達壁8dと、第2トルク伝達壁9aとにより区画された空間が狭くなったことにより圧縮変形する。また、6個のスポンジ部材10のうち残りの4個は、上記空間が広がっているため変形しない。
【0042】
図6は、図5に示した状態から中間歯車7が図6中右回りに僅かに回転した状態を示している。中間歯車7の回転によって、中間歯車7の図6中黒丸印を付けた歯7bと、出力歯車8の図6中黒丸印を付けた歯8bとの干渉が外れる。そして、中間歯車7の図6中黒丸印を付けた歯7bの回転方向後方の図6中白丸印を付けた歯7bが出力歯車8の図6中黒丸印を付けた歯8bと緩く噛合する。これにより、出力歯車8は、図6中左回りに僅かに回転して、出力歯車8が一点鎖線で示す正規の噛合位置Nから図6中左方及び上方に変位する。このとき、出力歯車8は、出力軸9に対する径方向中立位置及び周方向中立位置から径方向及び周方向に変位している。
【0043】
出力歯車8の第1トルク伝達壁8dの先端部8eが出力軸9の外周面9dに近接した図5に示した状態から、出力歯車8が僅かに回転して図6に示す状態になるとき、第1トルク伝達壁8dの先端部8eは、出力軸9の第2トルク伝達壁9aの調心用カム部9bの面(カム面)に摺接しながら径外方向に誘導される。すなわち、出力歯車8が出力軸9に対して相対回転すると、第1トルク伝達壁8dの先端部8eと第2トルク伝達壁9aの調心用カム部9bとが当接して出力歯車8が出力軸9に対する径方向中立位置に向かって自動調心される。
【0044】
図7は、図6に示した状態から中間歯車7がさらに回転して中間歯車7及び出力歯車8が適切に噛合した状態を示している。図6に示した状態から中間歯車7がさらに図7中右回りに回転すると、出力歯車8もさらに図7中左回りに回転する。そして、出力歯車8の回転が進むにつれて出力歯車8の出力軸9に対する相対回転が大きくなり、出力歯車8の位置が徐々に出力軸9に対する径方向中立位置に自動調心される。出力歯車8の位置が出力軸9に対する径方向中立位置となったときに中間歯車7及び出力歯車8が適切に噛合する。そして、図7に示すように、6個のスポンジ部材10のうち3個が、第1トルク伝達壁8dと、第2トルク伝達壁9aとにより挟まれて大きく圧縮変形し、中間歯車7から出力歯車8に伝達された回転駆動力が圧縮変形した3個のスポンジ部材10を介して出力軸9に伝達される。
【0045】
以上のとおりに説明した、出力歯車8、出力軸9及びスポンジ部材10の動作は、入力歯車6、中間歯車7及び出力歯車8が図2に示した回転方向と逆方向に回転した際にも同様に動作する。ここで、図7に示すように、出力歯車8が図7中左回りに回転するときには、出力軸9の3個の第2トルク伝達壁9aに形成されている6個の調心用カム部9bのうち、各第2トルク伝達壁9aの図7中右回り側に形成されている3個の調心用カム部9bのみが出力歯車8の自動調心に寄与する。また、出力歯車8が図7中右回りに回転するときには、6個の調心用カム部9bのうち、各第2トルク伝達壁9aの図7中左回り側に形成されている3個の調心用カム部9bのみが出力歯車8の自動調心に寄与する。
【0046】
このような本実施形態の複数出力切替機構1によれば、3個の出力歯車8のうち中間歯車7が噛合した出力歯車8にのみ駆動用モータ5からの回転駆動力が伝達される。この出力歯車8は、出力軸9に径方向中立位置及び周方向中立位置から径方向及び周方向に変位可能に遊嵌されており、環状の歯車部8aの内周面8cに周方向に等間隔で配置され第1径位置R1まで径方向内側に向かって突設された3個の第1トルク伝達壁8dを有している。また、出力軸9は、隣接する第1トルク伝達壁8d間に1個ずつ周方向に等間隔で配置され第1径位置R1よりも径方向外側の第2径位置R2まで径方向外側に向かって突設され第1トルク伝達壁8dと周方向でトルク伝達可能な第2トルク伝達壁9aを有している。
【0047】
よって、出力歯車8が出力軸9に対して径方向中立位置及び周方向中立位置に保持されているときには、出力歯車8の全第1トルク伝達壁8dと出力軸9の全第2トルク伝達壁9aとが径方向にラップしている。また、出力歯車8が出力軸9に対する径方向中立位置及び周方向中立位置から径方向及び周方向に変位したときには、少なくとも1つの第1トルク伝達壁8dと1つの第2トルク伝達壁9aとが径方向にラップしている。これにより、出力歯車8の出力軸9に対する変位によらず駆動用モータ5からの大きな回転駆動力を確実に出力軸9に伝達することが可能である。
【0048】
また、本実施形態の複数出力切替機構1によれば、出力軸9は、出力歯車8と出力軸9とが相対回転すると第1トルク伝達壁8dの先端部8eと当接して出力歯車8を出力軸9に対して自動調心する6個の調心用カム部9bを有している。これら6個の調心用カム部9bのうち3個は、出力歯車8と出力軸9との一方への相対回転に対応しており、6個の調心用カム部9bのうち残りの3個は、出力歯車8と出力軸9との他方への相対回転に対応している。また、各出力歯車8と各出力軸9との間に介在され、無負荷状態で出力歯車8を出力軸9に対する径方向中立位置及び周方向中立位置に保持するスポンジ部材10を備えている。
【0049】
よって、出力歯車8に回転駆動力が伝達されていない無負荷状態においては、スポンジ部材10により出力歯車8が出力軸9に対する径方向中立位置及び周方向中立位置に保持される。また、中間歯車7及び出力歯車8の歯先同士の干渉により出力歯車8が出力軸9に対して径方向及び周方向に変位したとしても、出力歯車8に回転駆動力が伝達されると出力歯車8と出力軸9とが相対回転し、これにより出力歯車8の第1トルク伝達壁8dの先端部8eと出力軸9の調心用カム部9bとが当接して出力歯車8が出力軸9に対する径方向中立位置に自動調心される。すなわち、出力歯車8の出力軸9に対する変位、及び出力歯車8への回転駆動力の伝達状態によらず、常に出力歯車8は、中間歯車7と適切な噛合が行える位置に自動調心される。よって、中間歯車7及び出力歯車8の歯先同士の干渉による噛合不良を防止して確実に出力切替を行うことが可能である。
【0050】
また、本実施形態の複数出力切替機構1によれば、各出力歯車8と各出力軸9との間に介在される弾性部材としてウレタンスポンジ製のスポンジ部材10を用いている。スポンジによる弾性部材は、安価である。また、スポンジによる弾性部材は成形加工性に優れているため、出力歯車8と出力軸9との間の空間形状に合わせてスポンジ部材10を成形することにより、出力軸9に対して出力歯車8をガタツキなく保持することが可能である。
【0051】
<第2実施形態>
図8に示すように、本実施形態の複数出力切替機構は、第1実施形態における複数出力切替機構1の出力歯車8、出力軸9及びスポンジ部材10を、出力歯車80、出力軸90及びゴム部材100(弾性部材)に変更した実施形態である。これ以外の構成部材等については、第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0052】
本実施形態における出力歯車80は、第1実施形態における出力歯車8の歯8bを歯80bに変更したこと以外は第1実施形態における出力歯車8と同一の構造よりなる。出力歯車80は、中間歯車7と噛合する歯80bが外周に形成された環状の歯車部80aと、歯車部80aの内周面80cに周方向に等間隔で配置され先端部80eが第1径位置R1まで径方向内側に向かって半径方向に突設された3個の第1トルク伝達壁80dとを有している。歯80bの形状は、第1実施形態における出力歯車8の歯8bの形状と異なっており、歯80bの歯先が面取りされていることによって、歯8bの歯先よりも尖状とされている。第1トルク伝達壁80dは、第1実施形態における出力歯車8の第1トルク伝達壁8dと同一の構造よりなるため説明を省略する。
【0053】
本実施形態における出力軸90は、第1実施形態における出力軸9の第2トルク伝達壁9aを第2トルク伝達壁90aに変更したこと以外は第1実施形態における出力軸9と同一の構造よりなる。出力軸90は、隣接する第1トルク伝達壁80d間に1個ずつ外周面90dに周方向に等間隔で配置され先端部が第1径位置R1よりも径方向外側の第2径位置R2まで径方向外側に向かって半径方向に突設された3個の第2トルク伝達壁90aを有している。
【0054】
第2トルク伝達壁90aは、第1径位置R1付近から径方向内側の基端部に至る部位が面方向が入出力軸方向に向きかつ基端部に向かうにつれて壁厚が徐々に厚くなる調心用カム部90bとなっており、第1径位置R1付近から径方向外側の先端部に至る部位が面方向が入出力軸方向に向き壁厚が徐々に薄くなる伝達壁部90cとなっている。図8に示すように、第2トルク伝達壁90aの面形状は、基端部から第1径位置R1付近までが凸曲面、第1径位置R1付近から先端部付近までが凹曲面、先端部が凸曲面となっており、基端部から先端部まで滑らかに連続した曲面形状よりなる。
【0055】
第2トルク伝達壁90aは、第1実施形態における第2トルク伝達壁9aと同様に、出力軸90の中心軸を中心として120°毎に配置されており、各第2トルク伝達壁90aの基端部側の厚さ方向の両側に1個ずつ調心用カム部90bが形成されている。したがって、出力軸90は、6個の調心用カム部90bを有しており、各調心用カム部90bの面の形状は、円筒面の一部を切り取ったカム面となっている。
【0056】
出力歯車80に中間歯車7からの当接力や回転駆動力が伝達されていない無負荷状態において、図8に示すように、出力歯車80の中心軸と出力軸90の中心軸とは同軸となっており、また、出力歯車80及び出力軸90の中心軸を中心として60°毎に、第1トルク伝達壁80d及び第2トルク伝達壁90aが交互に配置されている。この状態が、出力歯車80が出力軸90に対する径方向中立位置及び周方向中立位置に保持されている状態である。
【0057】
図8に示すように、出力歯車80と出力軸90との間に介在される6個のゴム部材100は、歯車部80aの内周面80cと、第1トルク伝達壁80dと、第2トルク伝達壁90aとにより区画された6つの空間を埋めるように配置されている。ゴム部材100は合成ゴム製であり、例えば、ニトリルゴム(NBR)、アクリルゴム(ACR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)及びポリブタジエンゴム(BR)などを原料としている。
【0058】
ゴム部材100は、内部に剛性(弾性)を低減するための空洞を有する中空筒状を呈しており、図8に示す形状から変形すると元の形状に戻ろうとする復元力を発現する。したがって、出力歯車80に中間歯車7からの当接力や回転駆動力が伝達されて出力歯車80が径方向及び周方向に変位すると、ゴム部材100は容易に変形して、出力歯車80の変位が阻害されることはない。また、出力歯車80が径方向及び周方向に変位した後に、中間歯車7と出力歯車80との噛合が外れて出力歯車80が無負荷状態になると、ゴム部材100の復元力によって、出力歯車80が出力軸90に対する周方向中立位置及び径方向中立位置に戻される。
【0059】
中間歯車7及び出力歯車80の歯先同士が干渉した際の出力歯車80、出力軸90及びゴム部材100の動作については、第1実施形態において説明した出力歯車8、出力軸9及びスポンジ部材10の動作と同様であるため説明を省略する。
【0060】
このような本実施形態の複数出力切替機構によれば、出力歯車80の歯80bの歯先が尖状に面取りされている。したがって、中間歯車7及び出力歯車80の歯先同士の干渉が発生しにくく、中間歯車7及び出力歯車80のスムーズな噛合が可能である。
【0061】
また、本実施形態の複数出力切替機構によれば、出力軸90の第2トルク伝達壁90aの面形状は、基端部から先端部まで滑らかに連続した曲面形状よりなる。このように第2トルク伝達壁90aの面形状を滑らかに連続した曲面形状とすることによって、面に角ばった折れ曲がり部がある場合よりも、第2トルク伝達壁90aの成形加工性が優れたものとなる。
【0062】
また、本実施形態の複数出力切替機構によれば、各出力歯車80と各出力軸90との間に介在される弾性部材として合成ゴム製のゴム部材100を用いている。ゴムによる弾性部材は、安価である。また、ゴムによる弾性部材は成形加工性に優れているため、出力歯車80と出力軸90との間の空間形状に合わせてゴム部材100を成形することにより、出力軸90に対して出力歯車80をガタツキなく保持することが可能である。また、ゴムによる弾性部材は、スポンジによる弾性部材に比べて耐久性に優れている。本実施形態における他の効果については、第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0063】
<第3実施形態>
図9及び10に示すように、本実施形態の複数出力切替機構は、第1実施形態における複数出力切替機構1の出力軸9及びスポンジ部材10を、出力軸91及びスポンジ部材110(弾性部材)に変更した実施形態である。これ以外の構成部材等については、第1実施形態と同様であるため説明を省略する。なお、図9は、本実施形態の複数出力切替機構に備わる出力歯車8、出力軸91及びスポンジ部材110を拡大して説明する断面図であって、6個のスポンジ部材110のうち2個を取り除いた状態を示している。また、図10は、本実施形態の複数出力切替機構に備わる出力歯車8、出力軸91及びスポンジ部材110の分解斜視図を示している。
【0064】
本実施形態における出力軸91は、第1実施形態における出力軸9の第2トルク伝達壁9aを第2トルク伝達壁91aに変更したこと以外は第1実施形態における出力軸9と同一の構造よりなる。本実施形態における第2トルク伝達壁91aの調心用カム部91b及び伝達壁部91cは、第1実施形態における第2トルク伝達壁9aの調心用カム部9b及び伝達壁部9cと同一の構造よりなる。本実施形態における第2トルク伝達壁91aは、伝達壁部91cの図10中下方に伝達壁部91cの入出力軸方向の長さの1/3程度の長さの当接段部91fを有していることのみが第1実施形態における第2トルク伝達壁9aと構造が異なっている。
【0065】
当接段部91fは、各第2トルク伝達壁91aの伝達壁部91cの厚さ方向の両側に1個ずつ形成されている。したがって、出力軸91は、6個の当接段部91fを有している。各当接段部91fは、第1径位置R1付近の調心用カム部91bの面から第2径位置R2までの範囲に形成されており、各当接段部91fの入出力軸方向から見た平面形状は、外径が第2径位置R2の径に等しく内径が第1径位置R1の径にほぼ等しいリング状部材を中心軸に沿って20等分程度した形状に類似した形状を呈している。
【0066】
出力歯車8に中間歯車7からの当接力や回転駆動力が伝達されていない無負荷状態において、図9に示すように、出力歯車8の中心軸と出力軸91の中心軸とは同軸となっており、また、出力歯車8及び出力軸91の中心軸を中心として60°毎に、第1トルク伝達壁8d及び第2トルク伝達壁91aが交互に配置されている。この状態が、出力歯車8が出力軸91に対する径方向中立位置及び周方向中立位置に保持されている状態である。
【0067】
出力歯車8と出力軸91との間に介在されるスポンジ部材110は、ウレタンスポンジ製であり、第1実施形態におけるスポンジ部材10と同様の機能を有する。図9及び10に示すように、スポンジ部材110の入出力軸方向から見た平面形状は、第1実施形態におけるスポンジ部材10と同一である。スポンジ部材110の入出力軸方向の長さは、第1実施形態におけるスポンジ部材10の入出力軸方向の長さの2/3程度の長さとなっている。したがって、スポンジ部材110は、当接段部91fよりも図10中上方のみに配置されており、第1トルク伝達壁8dと当接段部91fとの間には配置されていない。
【0068】
中間歯車7及び出力歯車8の歯先同士が干渉した際の出力歯車8、出力軸91及びスポンジ部材110の動作については、第1実施形態において説明した出力歯車8、出力軸9及びスポンジ部材10の動作とほぼ同様である。しかし、本実施形態においては、中間歯車7及び出力歯車8が適切に噛合した第1実施形態における図7で示した状態となったときに、出力歯車8の第1トルク伝達壁8dと出力軸91の当接段部91fとがスポンジ部材110を介することなく当接する。
【0069】
このような本実施形態の複数出力切替機構によれば、弾性部材であるスポンジ部材110は、出力歯車8の第1トルク伝達壁8dと出力軸91の当接段部91fとの間には配置されていない。したがって、中間歯車7及び出力歯車8が適切に噛合して出力歯車8に回転駆動力が伝達されたときに、第1トルク伝達壁8dと当接段部91fとがスポンジ部材110を介することなく当接することが可能である。これにより、駆動用モータ5からの大きな回転駆動力を確実に出力軸91に伝達することが可能であると共に、スポンジ部材110を過剰に圧縮変形させることがないため、スポンジ部材110の変形性能の低下を防止することができる。本実施形態における他の効果については、第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0070】
<その他の実施形態>
本発明の複数出力切替機構は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができることは言うまでもない。
【0071】
例えば、第1実施形態においては、出力歯車8及び出力軸9を入力歯車6の軸6aから等しい距離にある3箇所の切替位置X、Y及びZに配置しているが、出力歯車8及び出力軸9を入力歯車6の軸6aから等しい距離にある4箇所以上の切替位置に配置することもできる。
【0072】
また、第1実施形態においては、出力歯車8及び出力軸9を3箇所の切替位置X、Y及びZに円弧状に配置したが、複数個の出力歯車8及び出力軸9を直線的に配置することもできる。複数個の出力歯車8及び出力軸9を直線的に配置する場合には、駆動用モータ5、入力歯車6及び中間歯車7を一括してアクチュエータ等により直線的に移動して、中間歯車7が各出力歯車8と離接する構成とすればよい。
【0073】
また、第1実施形態においては、ウォーム3bとウォームホイール4とによりウォームギヤを形成し、ウォームホイール4の回転駆動によって中間歯車7の位置を切り替えているが、中間歯車7の位置を切り替える方法はこれに限定されない。例えば、ラック&ピニオン、ベルト伝達又はリンク機構等によって、中間歯車7の位置を切り替えることもできる。
【0074】
また、第1実施形態においては、出力軸9が出力歯車8を出力軸9に対して自動調心する6個の調心用カム部9bを有している。これら6個の調心用カム部9bのうち3個は、出力歯車8と出力軸9との一方への相対回転に対応しており、6個の調心用カム部9bのうち残りの3個は、出力歯車8と出力軸9との他方への相対回転に対応している。したがって、出力歯車8と出力軸9との相対回転が一方のみに限定されている場合には、3個の調心用カム部9bを出力軸9の各第2トルク伝達壁9aに1個ずつ形成すればよい。
【0075】
また、第1実施形態においては、中間歯車7が駆動用モータ5によって回転駆動されている状態において、中間歯車7の位置を切り替えて、中間歯車7と出力歯車8とを噛合させているが、中間歯車7が回転駆動されていない状態において、中間歯車7と出力歯車8とを噛合させることもできる。
【0076】
また、第2実施形態においては、出力歯車80の歯80bの歯先を尖状に面取りすることにより、中間歯車7及び出力歯車80のスムーズな噛合を可能としているが、中間歯車の歯先のみを尖状に面取りしたり、中間歯車の歯先及び出力歯車80の歯先の両方を尖状に面取りしたりすることによっても同様の効果が得られる。
【0077】
また、第1〜第3実施形態においては、出力歯車に3個の第1トルク伝達壁と、出力軸に3個の第2トルク伝達壁とを備えているが、第1トルク伝達壁及び第2トルク伝達壁の組み合わせ個数は3個に限定されず、4個以上とすることもできる。
【0078】
また、第1〜第3実施形態においては、弾性部材としてスポンジ部材10、ゴム部材100、スポンジ部材110を用いているが、弾性部材の原料は、スポンジ又はゴムに限定されない。例えば、弾性部材として金属製の渦巻バネまたは金属製のコイルバネ等の金属バネを用いることもできる。金属製の渦巻バネの場合、渦巻バネの外周面が、歯車部の内周面、第1トルク伝達壁及び第2トルク伝達壁に当接するように配置すればよい。金属製のコイルバネの場合、複数個のコイルバネを歯車部の内周面と、第1トルク伝達壁と、第2トルク伝達壁とにより区画された6つの空間にそれぞれ配置して、コイルバネの一端を出力歯車に他端を出力軸に繋げばよい。このような金属バネは、弾性部材に耐熱性・耐摩耗性・耐久性等が求められる場合に適している。
【0079】
なお、本発明と構成が異なるが、第1〜第3実施形態における出力歯車、出力軸及び弾性部材の構成を中間歯車に適用することもできる。この場合、中間歯車が中間歯車の軸に対する径方向中立位置及び周方向中立位置から径方向及び周方向に変位可能となるため、中間歯車及び出力歯車の歯先同士の干渉による噛合不良を防止する効果が得られる。なお、中間歯車は、常に入力歯車と噛合しているため、第1〜第3実施形態における出力歯車のように径方向及び周方向に自由に変位できるわけではなく、中間歯車が径方向に変位したときにのみ周方向に変位可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 … 複数出力切替機構 2a … アッパボデー(ハウジング)
2b … ロアボデー(ハウジング) 3a … 切替用モータ(駆動装置)
3b … ウォーム(駆動装置) 4 … ウォームホイール(切替部材)
5 … 駆動用モータ(駆動源) 6 … 入力歯車
7 … 中間歯車 8 … 出力歯車
8a … 歯車部 8b … 歯
8c … 内周面 8d … 第1トルク伝達壁
8e … 先端部 9 … 出力軸
9a … 第2トルク伝達壁 9b … 調心用カム部
10 … スポンジ部材(弾性部材) 80 … 出力歯車
80a… 歯車部 80b… 歯
80c… 内周面 80d… 第1トルク伝達壁
80e… 先端部 90 … 出力軸
90a… 第2トルク伝達壁 90b… 調心用カム部
100… ゴム部材(弾性部材) 91 … 出力軸
91a… 第2トルク伝達壁 91b… 調心用カム部
110… スポンジ部材(弾性部材)
R1 … 第1径位置 R2 … 第2径位置
X、Y、Z… 切替位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに移動可能に装架され、駆動装置によって複数の切換位置間で移動される切換部材と、
駆動源によって回転駆動される入力歯車と、
前記切換部材に回転可能に支承され前記入力歯車と常に噛合する中間歯車と、
前記ハウジングに各前記切換位置でそれぞれ回転可能に支承された複数の出力軸と、
各前記出力軸に径方向中立位置及び周方向中立位置から径方向及び周方向に変位可能に遊嵌され、前記切換部材が各前記切換位置に移動されると前記中間歯車と噛合する複数の出力歯車と、を備え、
複数の前記出力歯車のうち前記中間歯車が噛合した出力歯車にのみ前記駆動源からの回転駆動力が伝達される複数出力切替機構であって、
前記出力歯車は、前記中間歯車と噛合する歯が外周に形成された環状の歯車部と、前記歯車部の内周面に周方向に等間隔で配置され第1径位置まで径方向内側に向かって半径方向に突設された少なくとも3個の第1トルク伝達壁とを有し、
前記出力軸は、隣接する前記第1トルク伝達壁間に1個ずつ周方向に等間隔で配置され前記第1径位置よりも径方向外側の第2径位置まで径方向外側に向かって半径方向に突設され前記第1トルク伝達壁と周方向でトルク伝達可能な第2トルク伝達壁と、前記出力歯車と前記出力軸とが相対回転すると前記第1トルク伝達壁の先端部と当接して前記出力歯車を前記出力軸に対して自動調心する少なくとも3個の調心用カム部とを有し、
各前記出力歯車と各前記出力軸との間に介在され、無負荷状態で前記出力歯車を前記出力軸に対する前記径方向中立位置及び前記周方向中立位置に保持する弾性部材を備えた複数出力切替機構。
【請求項2】
前記弾性部材は、スポンジ、ゴムまたは金属バネである請求項1に記載の複数出力切替機構。
【請求項3】
前記中間歯車及び前記出力歯車の少なくとも一方の歯先が尖状に面取りされている請求項1又は2に記載の複数出力切替機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−68259(P2013−68259A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206546(P2011−206546)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】