説明

角結膜障害の治療又は予防剤

【課題】下記一般式(1)で表される化合物又はその塩の新たな医薬用途を探索する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物又はその塩は、角膜障害モデルにおいて優れた予防又は改善効果を発揮し、ドライアイ、点状表層角膜症、角膜上皮欠損、角膜びらん、角膜潰瘍、結膜上皮欠損、乾性角結膜炎、上輪部角結膜炎、糸状角結膜炎、角膜炎、結膜炎などの角結膜障害の予防又は治療剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライアイ、点状表層角膜症、角膜上皮欠損、角膜びらん、角膜潰瘍、結膜上皮欠損、乾性角結膜炎、上輪部角結膜炎、糸状角結膜炎、角膜炎、結膜炎などの角結膜障害の治療又は予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
角膜は、直径約1cm、厚さ約1mmの透明な無血管の組織であり、また、結膜は、角膜縁より後方の眼球表面と眼瞼の裏面を覆っている粘膜であるが、角膜や結膜は、視機能に重要な影響を及ぼすことが知られている。角膜潰瘍、角膜炎、結膜炎、ドライアイなどの種々の疾患により引き起こされる角結膜障害は、何らかの理由で修復が遅延したり、あるいは修復が行われずに遷延化すれば、角膜と結膜は連なった組織であるため、角膜上皮の正常な再構築に悪影響を与え、結果として、角膜実質及び角膜内皮の構造や機能まで害されることがある。近年、細胞生物学の発展に伴い、細胞の分裂・移動・接着・伸展・分化などに関与する因子が解明されており、これらの因子が角結膜障害の修復に重要な役割を担っていることが報告されている。
【0003】
一方、米国特許出願公開2006/0100169号明細書(特許文献1)、国際公開2006/015357号(特許文献2)、国際公開2006/101920号(特許文献3)、国際公開2008/130520号(特許文献4)、及びNeuroscience, 141, 2029−2039(2006)(非特許文献1)には、下記一般式(1)で表される化合物である4−{3−[6−アミノ−9−((2R,3R,4S,5S)−5−シクロプロピルカルバモイル−3,4−ジヒドロキシテトラヒドロフラン−2−イル)−9H−プリン−2−イル]−2−プロピニル}−ピペリジン−1−カルボン酸メチルエステルが開示され、該化合物が抗炎症剤、冠動脈血管拡張剤、神経保護剤、緑内障治療剤などとして有用であることが示唆されている。
【0004】
【化1】

【0005】
また国際公開03/029264号(特許文献5)及び上記非特許文献1には、上記一般式(1)で表される化合物である4−{3−[6−アミノ−9−((2R,3R,4S,5S)−5−エチルカルバモイル−3,4−ジヒドロキシテトラヒドロフラン−2−イル)−9H−プリン−2−イル]−2−プロピニル}−ピペリジン−1−カルボン酸メチルエステル、4−{3−[6−アミノ−9−((2R,3R,4S,5S)−5−エチルカルバモイル−3,4−ジヒドロキシテトラヒドロフラン−2−イル)−9H−プリン−2−イル]−2−プロピニル}−ピペリジン−1−カルボン酸イソブチルエステルが開示され、特表2002−536300号公報(特許文献6)には、上記一般式(1)で表される化合物である4−{3−[6−アミノ−9−((2R,3R,4S,5S)−5−エチルカルバモイル−3,4−ジヒドロキシテトラヒドロフラン−2−イル)−9H−プリン−2−イル]−2−プロピニル}−シクロヘキサン−1−カルボン酸メチルエステル(メチル−4−(3−{9−[(4S,5S,2R,3R)−5−(N−エチルカルバモイル)−3,4−ジヒドロキシオキソラン−2−イル]−6−アミノプリン−2−イル)}プロプ−2−イニル)シクロヘキサン−カルボキシレート)が開示されている。また、これらの文献には、これらの化合物が抗炎症剤として有用であることが示唆されている。
【0006】
しかしながら、これまで上記一般式(1)で表される化合物について角結膜障害に対する薬理作用を検討する報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開2006/0100169号明細書
【特許文献2】国際公開2006/015357号
【特許文献3】国際公開2006/101920号
【特許文献4】国際公開2008/130520号
【特許文献5】国際公開03/029264号
【特許文献6】特表2002−536300号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Neuroscience, 141, 2029−2039(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、上記一般式(1)で表される化合物又はその塩に関して、新たな医薬用途を探索することは興味深い課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記一般式(1)で表される化合物又はその塩(以下、これらを総称して「本化合物」ともいう)の新たな医薬用途を探索すべく鋭意研究を行ったところ、本化合物が、角膜障害モデルを用いた治癒効力試験において角膜障害に対して優れた改善効果を発揮することを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩を有効成分として含有する角結膜障害の治療又は予防剤である。
【0012】
【化2】

【0013】
[式中、XはCH又はNを示し、;Rは水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、低級アルキル基、低級アルコキシ基で置換された低級アルキル基、低級シクロアルキル基、アリール基、低級アルコキシ基、低級アルコキシ基で置換された低級アルコキシ基、低級シクロアルコキシ基又はアリールオキシ基を示し、;Rがアリールオキシ基を示す場合、該アリールオキシ基はハロゲン原子、ヒドロキシル基、低級アルキル基、低級シクロアルキル基、低級アルコキシ基及び低級シクロアルコキシ基からなる群より選択される1又は2個の置換基を有してもよく、;Rは水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基で置換された低級アルキル基、低級シクロアルキル基又はアリール基を示す。]
また、本発明の他の態様は、上記一般式(1)で表される化合物又はその塩を有効成分として含有する角結膜障害の治療又は予防剤であって、角結膜障害が、ドライアイ、点状表層角膜症、角膜上皮欠損、角膜びらん、角膜潰瘍、結膜上皮欠損、乾性角結膜炎、上輪部角結膜炎、糸状角結膜炎、角膜炎または結膜炎である角結膜障害の治療又は予防剤である。
【0014】
また、本発明の他の態様は、上記一般式(1)で表される化合物又はその塩を有効成分として含有する角結膜障害の治療又は予防剤であって、剤型が、点眼剤又は眼軟膏である角結膜障害の治療又は予防剤である。
【発明の効果】
【0015】
後述の薬理試験の項で詳述するように、角膜障害の治癒効力試験を実施したところ、本化合物は優れた改善効果を発揮することが示された。したがって、本化合物は、ドライアイ、点状表層角膜症、角膜上皮欠損、角膜びらん、角膜潰瘍、結膜上皮欠損、乾性角結膜炎、上輪部角結膜炎、糸状角結膜炎、角膜炎、結膜炎などの角結膜障害の治療又は予防剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
特許請求の範囲及び明細書中で使用される文言(原子、基など)の定義について以下に詳しく説明する。
【0017】
「ハロゲン原子」とはフッ素、塩素、臭素又はヨウ素を示す。
「低級アルキル基」とは炭素原子数1〜6個の直鎖又は分枝のアルキル基を示し、炭素原子数が1〜4個の直鎖又は分枝のアルキル基が好ましい。具体例としてメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基などが挙げられる。
【0018】
「低級シクロアルキル基」とは炭素原子数3〜8個のシクロアルキル基を示し、炭素原子数3〜6個のシクロアルキル基が好ましい。具体例としてシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基が挙げられる。
【0019】
「アリール基」とは炭素原子数6〜14個の単環式芳香族炭化水素基又は2環式若しくは3環式の縮合多環式芳香族炭化水素から水素原子を一つ除いた残基を示す。具体例としてフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基などが挙げられる。
【0020】
「低級アルコキシ基」とはヒドロキシル基の水素原子が低級アルキル基で置換された基を示す。具体例としてメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基、n−ペントキシ基、n−ヘキシルオキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、イソペンチルオキシ基などが挙げられる。
【0021】
「低級シクロアルコキシ基」とはヒドロキシル基の水素原子が低級シクロアルキル基で置換された基を示す。具体例としてシクロプロポキシ基、シクロブトキシ基、シクロペントキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘプチルオキシ基、シクロオクチルオキシ基が挙げられる。
【0022】
「アリールオキシ基」とはヒドロキシル基の水素原子がアリール基で置換された基を示す。具体例としてフェノキシ基、ナフトキシ基、アントリルオキシ基、フェナントリルオキシ基などが挙げられる。
【0023】
「低級アルコキシ基で置換された低級アルキル基」とは1〜3個の低級アルコキシ基で置換された低級アルキル基を示す。
【0024】
「低級アルコキシ基で置換された低級アルコキシ基」とは1〜3個の低級アルコキシ基で置換された低級アルコキシ基を示す。
【0025】
本化合物における塩とは、医薬として許容される塩であれば特に制限はなく、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸との塩、酢酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、グルコヘプト酸、グルクロン酸、テレフタル酸、メタンスルホン酸、乳酸、馬尿酸、1,2−エタンジスルホン酸、イセチオン酸、ラクトビオン酸、オレイン酸、パモ酸、ポリガラクツロン酸、ステアリン酸、タンニン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、硫酸ラウリルエステル、硫酸メチル、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸などの有機酸との塩、臭化メチル、ヨウ化メチルなどの四級アンモニウム塩、臭素イオン、塩素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲンイオンとの塩、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属との塩、鉄、亜鉛などとの金属塩、アンモニアとの塩、トリエチレンジアミン、2−アミノエタノール、2,2−イミノビス(エタノール)、1−デオキシ−1−(メチルアミノ)−2−D−ソルビトール、2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、プロカイン、N,N−ビス(フェニルメチル)−1,2−エタンジアミンなどの有機アミンとの塩などが挙げられる。
【0026】
また、本発明における本化合物は、エステル、アミドなどの誘導体も包含する。エステルの具体例としては、本化合物中のヒドロキシル基と酢酸、プロピオン酸、イソプロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ピバル酸などのカルボン酸が縮合したエステルが例示される。アミドの具体例としては、本化合物中のアミノ基と酢酸、プロピオン酸、イソプロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ピバル酸などのカルボン酸が縮合したアミドが例示される。
【0027】
また、本化合物は水和物又は溶媒和物の形態をとっていてもよい。
本化合物に幾何異性体、互変異性又は光学異性体が存在する場合は、それらの異性体も本発明の範囲に含まれる。
【0028】
さらに本化合物に結晶多形が存在する場合は、結晶多形体も本発明の範囲に含まれる。
(a)本化合物における好ましい例として、上記一般式(1)で示される化合物において、各基が下記に示す基である化合物又はその塩が挙げられる。
【0029】
(a1)XはCH又はNを示し、;及び/又は
(a2)Rは水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、低級アルキル基、低級シクロアルキル基、アリール基、低級アルコキシ基、低級シクロアルコキシ基又はアリールオキシ基を示し、;
がアリールオキシ基を示す場合、該アリールオキシ基はハロゲン原子及び低級アルコキシ基からなる群より選択される1又は2個の置換基を有してもよく、;及び/又は
(a3)Rは水素原子、低級アルキル基、低級シクロアルキル基又はアリール基を示す。
【0030】
すなわち、上記一般式(1)で示される化合物において、上記(a1)、(a2)及び(a3)から選択される1又は2以上の各組合せからなる化合物又はその塩が好ましい例として挙げられる。
【0031】
(b)本化合物におけるより好ましい例として、一般式(1)で示される化合物において、各基が下記に示す基である化合物又はその塩が挙げられる。
【0032】
(b1)XはCH又はNを示し、;及び/又は
(b2)Rは低級アルキル基、低級シクロアルキル基、低級アルコキシ基又は低級シクロアルコキシ基を示し、;及び/又は
(b3)Rは低級アルキル基又は低級シクロアルキル基を示す。
【0033】
すなわち、上記一般式(1)で示される化合物において、上記(b1)、(b2)及び(b3)から選択される1又は2以上の各組み合わせからなる化合物又はその塩が好ましい例として挙げられる。また、その選択された条件は、(a)の条件と組み合わせることもできる。
【0034】
(c)本化合物におけるより好ましい例として、一般式(1)で示される化合物において、各基が下記に示す基である化合物又はその塩が挙げられる。
【0035】
(c1)XはNを示し、;及び/又は
(c2)Rは低級アルコキシ基を示し、;及び/又は
(c3)Rは低級シクロアルキル基を示す。
【0036】
すなわち、上記一般式(1)で示される化合物において、上記(c1)、(c2)及び(c3)から選択される1又は2以上の各組み合わせからなる化合物又はその塩が好ましい例として挙げられる。また、その選択された条件は、(a)及び/又は(b)の条件と組み合わせることもできる。
【0037】
(d)本化合物における最も好ましい例としては、下記式(2)で示される4−{3−[6−アミノ−9−((2R,3R,4S,5S)−5−シクロプロピルカルバモイル−3,4−ジヒドロキシテトラヒドロフラン−2−イル)−9H−プリン−2−イル]−2−プロピニル}−ピペリジン−1−カルボン酸メチルエステルが挙げられる。
【0038】
【化3】

【0039】
本発明における本化合物は、有機合成化学の分野における通常の方法に従って合成でき、国際公開03/029264号(特許文献5)、国際公開2006/015357号(特許文献2)、国際公開2007/136817号、国際公開2008/130520号(特許文献4)、特表2002−536300号公報(特許文献6)などに記載された方法によっても合成することができる。
【0040】
本発明における角結膜障害とは、涙液異常、代謝異常、外的傷害などといった種々の要因により角膜や結膜が障害を受けた状態にあるものをいい、例えばドライアイ、点状表層角膜症、角膜上皮欠損、角膜びらん、角膜潰瘍、結膜上皮欠損、乾性角結膜炎、上輪部角結膜炎、糸状角結膜炎、角膜炎、結膜炎などが挙げられる。また、本発明において、ドライアイとは、涙液減少症、眼乾燥症、乏涙症、シェーグレン症候群、乾性角結膜炎、スティーブンス・ジョンソン症候群、涙腺機能不全、マイボーム腺機能不全、眼瞼炎、VDT(Visual Display Terminal)作業、手術、薬剤、外傷、コンタクトレンズ装用などに伴う角結膜障害、又は当該角結膜障害を伴う症状をいう。
【0041】
本発明の角結膜障害の治療又は予防剤は、経口でも、非経口でも投与することができる。
【0042】
投与剤型としては、点眼剤、眼軟膏、注射剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤などが挙げられ、特に点眼剤又は眼軟膏が好ましい。これらは汎用されている技術を用いて製剤化することができる。
【0043】
点眼剤であれば、精製水、緩衝液などに本化合物を添加・攪拌した後、pH調整剤によりpHを調整することで所望の点眼剤を調製できる。また、必要に応じて点眼剤に汎用されている添加剤を用いることができる。例えば、塩化ナトリウム、濃グリセリンなどの等張化剤、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂、クエン酸などの緩衝化剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ステアリン酸ポリオキシル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などの界面活性剤、クエン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウムなどの安定化剤、塩化ベンザルコニウム、パラベンなどの防腐剤などを用い製剤化することができる。点眼剤のpHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよいが、3〜8の範囲が好ましい。
【0044】
眼軟膏であれば、白色ワセリン、流動パラフィンなどの汎用される基剤を用いて調製することができる。また、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤などの経口剤であれば、乳糖、結晶セルロース、デンプン、植物油などの増量剤、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンなどの結合剤、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの崩壊剤、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、マクロゴール、シリコン樹脂などのコーティング剤、ゼラチン皮膜などの皮膜剤などを必要に応じて加えて、調製することができる。
【0045】
本化合物の投与量は、剤型、投与すべき患者の症状の軽重、年令、体重、医師の判断などに応じて適宜変えることができるが、点眼剤の場合には、通常、成人に対し0.000001〜10%(w/v)、好ましくは0.00001〜1%(w/v)の範囲内、より好ましくは0.0001〜0.3%(w/v)の範囲内、さらに好ましくは0.001〜0.1%(w/v)の範囲内、さらにより好ましくは0.003〜0.1%(w/v)の範囲内、最も好ましくは0.01〜0.1%(w/v)の範囲内の濃度の点眼剤を1日1回又は数回点眼することができる。なお、点眼剤の濃度は、有効成分のフリー体及びその塩のいずれの重さを基準として計算されたものであってもよい。また、眼軟膏の場合には、通常、成人に対し1日あたり0.00001〜1000mg、好ましくは0.0001〜100mg、より好ましくは0.001〜10mgを1回又は数回に分けて投与することができる。さらに、経口投与の場合には、通常、成人に対し1日あたり0.01〜5000mg、好ましくは0.1〜2500mg、より好ましくは1〜1000mgを1回又は数回に分けて投与することができる。
【0046】
以下に、薬理試験の結果及び製剤例を示すが、これらは本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0047】
[薬理試験]
<角膜障害の治癒効力試験>
雄性SDラットを用い、Fujiharaらの方法(Invest. Ophthalmol. Vis. Sci 42(1):96−100(2001))に準じ、角膜障害モデルを作製した。角膜障害モデル作製後、村上らの方法(あたらしい眼科 21(1):87‐90(2004))に準じて角膜障害をスコア判定し、4−{3−[6−アミノ−9−((2R,3R,4S,5S)−5−シクロプロピルカルバモイル−3,4−ジヒドロキシテトラヒドロフラン−2−イル)−9H−プリン−2−イル]−2−プロピニル}−ピペリジン−1−カルボン酸メチルエステル(以下、「化合物A」ともいう)点眼後の角膜障害の改善率を求めた。
【0048】
(被験化合物点眼液の調製)
化合物Aに下記成分を含む基剤を加えて、0.003%(w/v)、0.01%(w/v)、0.03%(w/v)の点眼液を調製した。
【0049】
(基剤) 100ml中
グリセリン 0.47g
塩化ベンザルコニウム 0.005g
リン酸二水素ナトリウム 0.15g
水酸化ナトリウム 適量
希塩酸 適量
精製水 適量
pH 6.0
(実験方法)
実験動物として雄性SDラットを用い、ソムノペンチルを投与して全身麻酔を施した後、眼窩外涙腺を摘出し、2ヶ月かけて角膜障害を誘発させた。
【0050】
次に、化合物A点眼液又は基剤を以下のように投与した。
化合物A点眼群:化合物A点眼液を両眼に1日6回、10日間(週5日間)点眼(点眼量:5μL/回)した(一群4匹8眼)。
【0051】
コントロール群:基剤を両眼に1日6回、10日間(週5日間)点眼(点眼量:5μL/回)した(一群4匹8眼)。
【0052】
点眼開始14日後、角膜の障害部分をフルオレセインにて染色した。角膜の上部、中間部及び下部のそれぞれについて、フルオレセインによる染色の程度を下記の基準に従ってスコア判定し、上記各部におけるスコアの合計の平均値から角膜障害の改善率を算出した。正常眼についても上記各部におけるスコアの合計の平均値を求めた。
【0053】
(判定基準)
0:染色されていない、
1:染色が疎であり、各点状の染色部分は離れている、
2:染色が中程度であり、点状の染色部分の一部が隣接している、
3:染色が密であり、各点状の染色部分は隣接している。
【0054】
なお、各スコア間の中間値として0.5、1.5及び2.5を設けた。
(結果)
コントロール群(基剤)のスコア合計の平均値を基準(改善率:0%)にして下記計算式により化合物A点眼群の角膜障害の改善率を算出した。これを表1に示す。なお、スコアの平均値は各8例の平均である。
【0055】
改善率(%)={(コントロール群のスコアの平均値)−(化合物A点眼群のスコアの平均値)}/障害度×100
障害度=(コントロール群のスコアの平均値)−(正常眼群のスコアの平均値)
【0056】
【表1】

【0057】
(考察)
上記のラットを用いた薬理試験の結果(表1)から明らかなように、化合物Aは角膜障害を顕著に改善した。したがって、本化合物は、ドライアイ、点状表層角膜症、角膜上皮欠損、角膜びらん、角膜潰瘍、結膜上皮欠損、乾性角結膜炎、上輪部角結膜炎、糸状角結膜炎、角膜炎、結膜炎などの角結膜障害の治療又は予防剤として有用である。
【0058】
[製剤例]
以下に本化合物を用いた代表的な製剤例を示す。
【0059】
(処方例1)
点眼剤 100ml中
化合物A 0.1g
グリセリン 0.47g
塩化ベンザルコニウム 0.005g
リン酸二水素ナトリウム 0.15g
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
処方例1の化合物Aの添加量を変えることにより、濃度が0.001%(w/v)、0.01%(w/v)、0.03%(w/v)、0.05%(w/v)、0.3%(w/v)の点眼剤を調製できる。
【0060】
(処方例2)
眼軟膏 100g中
化合物A 0.3g
流動パラフィン 10.0g
白色ワセリン 適量
処方例2の化合物Aの添加量を変えることにより、濃度が1%(w/w)、3%(w/w)の眼軟膏を調製できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物又はその塩を有効成分として含有する角結膜障害の治療又は予防剤。
【化1】

[式中、
XはCH又はNを示し、;
は水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、低級アルキル基、低級アルコキシ基で置換された低級アルキル基、低級シクロアルキル基、アリール基、低級アルコキシ基、低級アルコキシ基で置換された低級アルコキシ基、低級シクロアルコキシ基又はアリールオキシ基を示し、;
がアリールオキシ基を示す場合、該アリールオキシ基はハロゲン原子、ヒドロキシル基、低級アルキル基、低級シクロアルキル基、低級アルコキシ基及び低級シクロアルコキシ基からなる群より選択される1又は2個の置換基を有してもよく、;
は水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基で置換された低級アルキル基、低級シクロアルキル基又はアリール基を示す。]
【請求項2】
上記一般式(1)において、
XがCH又はNを示し、;
が水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、低級アルキル基、低級シクロアルキル基、アリール基、低級アルコキシ基、低級シクロアルコキシ基又はアリールオキシ基を示し、;
がアリールオキシ基を示す場合、該アリールオキシ基はハロゲン原子及び低級アルコキシ基からなる群より選択される1又は2個の置換基を有してもよく、;
が水素原子、低級アルキル基、低級シクロアルキル基又はアリール基を示す、請求項1に記載の治療又は予防剤。
【請求項3】
上記一般式(1)において、
XがCH又はNを示し、;
が低級アルキル基、低級シクロアルキル基、低級アルコキシ基又は低級シクロアルコキシ基を示し、;
が低級アルキル基又は低級シクロアルキル基を示す、請求項1に記載の治療又は予防剤。
【請求項4】
上記一般式(1)において、
XがNを示し、;
が低級アルコキシ基を示し、;
が低級シクロアルキル基を示す、請求項1に記載の治療又は予防剤。
【請求項5】
上記一般式(1)で表される化合物が、4−{3−[6−アミノ−9−((2R,3R,4S,5S)−5−シクロプロピルカルバモイル−3,4−ジヒドロキシテトラヒドロフラン−2−イル)−9H−プリン−2−イル]−2−プロピニル}−ピペリジン−1−カルボン酸メチルエステルである、請求項1に記載の治療又は予防剤。
【請求項6】
角結膜障害が、ドライアイ、点状表層角膜症、角膜上皮欠損、角膜びらん、角膜潰瘍、結膜上皮欠損、乾性角結膜炎、上輪部角結膜炎、糸状角結膜炎、角膜炎または結膜炎である、請求項1〜5のいずれかに記載の治療又は予防剤。
【請求項7】
剤型が、点眼剤又は眼軟膏である、請求項1〜6のいずれかに記載の治療又は予防剤。

【公開番号】特開2013−10695(P2013−10695A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142526(P2011−142526)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000177634)参天製薬株式会社 (177)
【Fターム(参考)】