説明

誘電体セラミック、及び積層セラミックコンデンサ

【課題】1μm未満に薄層化した場合であっても、高温負荷特性と静電容量の温度特性とが両立可能な誘電体セラミック及び積層セラミックコンデンサの実現。
【解決手段】結晶構造が異なる第1の結晶粒子1と第2の結晶粒子2とが混在した混晶系構造を有している。主相粒子はチタン酸バリウム系化合物を主成分とし、La、Ce等の特定の希土類元素を含有している。第1の結晶粒子1は、特定の希土類元素Rが主相粒子に固溶していない主相粒子単独領域3と、特定の希土類元素Rが主相粒子に固溶した表層部の希土類元素固溶領域4とからなる。第2の結晶粒子2は、コア・シェル構造を有し、シェル部6は特定の希土類元素Rが主相粒子に固溶している。そして、第1及び第2の結晶粒子1、2の全結晶粒子に対する個数割合は、第1の結晶粒子1が12〜84%であり、第2の結晶粒子2は16〜88%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は誘電体セラミック、及び積層セラミックコンデンサに関し、より詳しくは小型・大容量の積層セラミックコンデンサに適した誘電体セラミック、及該誘電体セラミックを使用して製造された積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサに使用されるセラミック材料としては、従来より、高比誘電率を有するチタン酸バリウム系化合物が広く使用されている。
【0003】
そして、近年におけるエレクトロニクス技術の発展に伴い、積層セラミックコンデンサの小型化、大容量化が急速に進行している。
【0004】
上記積層セラミックコンデンサは、誘電体セラミック層と内部電極とを交互に積層し、焼成処理して得られたセラミック焼結体の両端部に外部電極が形成されている。上記誘電体セラミック層を薄層化して多数積層することにより積層セラミックコンデンサの小型化・大容量化を図ることができる。
【0005】
また、この種の積層セラミックコンデンサでは、高温雰囲気に長時間晒されても異常が生じないように高温負荷特性を良好なものとし、信頼性を向上させることが求められている。
【0006】
このため、従来より、誘電体セラミックに希土類元素を添加し、希土類元素を主相粒子に固溶させることで、信頼性を向上させることが行われている。
【0007】
しかしながら、希土類元素が主相粒子に固溶しすぎると、静電容量の温度特性の劣化が顕著になる等の新たな問題が生じることから、希土類元素は主相粒子に部分的に固溶させるのが望ましい。
【0008】
そこで、主相粒子の表面近傍のみに希土類元素を固溶させたコア・シェル構造や、主相粒子に希土類元素が固溶していない結晶粒子と希土類元素が主相粒子の内部まで固溶した結晶粒子とを混在させた混晶系構造の誘電体セラミックが開発されている。
【0009】
例えば、特許文献1では、コア・シェル構造のセラミック粒子を含み、コア部はほぼ純粋なチタン酸バリウムのドメインからなり、該シェル部はチタン酸バリウムを主成分とするとする固溶体からなり、該焼結体の断面において、該焼結体を形成している全セラミックの粒子数の割合が15%以上とした誘電体磁器組成物が提案されている。
【0010】
特許文献1では、全セラミック粒子に対するセラミック粒子の粒子数の割合を15%以上とすることにより、焼成前の厚みが約5μm、積層数が10の積層セラミックコンデンサに対し、寿命特性が良好で信頼性を確保することができ、かつ良好な静電容量の温度特性を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−80276号公報(請求項1、段落番号〔0013〕)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、近年、積層セラミックコンデンサでは、より一層の小型化が要請されており、誘電体セラミック層の厚みも1μm未満に薄層化することが求められている。
【0013】
しかしながら、特許文献1では、焼成前の厚みが5μm程度の積層セラミックコンデンサでは、高温負荷特性と静電容量の温度特性の両立は可能であるが、誘電体セラミック層を1μm未満に薄層化した場合は、高温負荷特性と静電容量温度特性との両立が困難になるという問題点があった。
【0014】
しかも、特許文献1のようなコア・シェル構造では、希土類元素を主相粒子に固溶させるとしても、高精度な固溶制御を行うのは困難である。
【0015】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、1μm未満に薄層化した場合であっても、高温負荷特性と静電容量の温度特性とが両立可能な誘電体セラミック及びこの誘電体セラミックを使用して製造された積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、チタン酸バリウム系化合物に希土類元素を添加して鋭意研究を行ったところ、誘電体セラミックの結晶構造を希土類元素が殆ど固溶していない結晶粒子とコア・シェル構造の結晶粒子との混晶系構造とし、かつこれら両結晶粒子の個数割合を所定範囲とすることにより、誘電体セラミックの厚みを1μm未満に薄層化した場合であっても高温負荷特性と静電容量の温度特性とを両立させることが可能であるという知見を得た。
【0017】
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係る誘電体セラミックは、主相粒子がチタン酸バリウム系化合物を主成分とする共に、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Tb、Lu、及びYから選択された少なくとも1種の希土類元素Rを含有し、前記主相粒子単独又は微量の前記希土類元素Rが前記主相粒子に固溶されてなる第1の結晶粒子と、前記主相粒子からなるコア部と前記主相粒子に前記希土類元素Rが固溶されて前記コア部の周囲に形成されたシェル部とを有する第2の結晶粒子とが混在した混晶系構造を有し、前記第1及び第2の結晶粒子の全結晶粒子に対する個数割合は、前記第1の結晶粒子が12〜84%であり、前記第2の結晶粒子が16〜88%であることを特徴としている。
【0018】
また、本発明の誘電体セラミックは、前記第1の結晶粒子は、前記希土類元素Rの前記主相粒子への固溶距離が、前記主相粒子の表面から内部に向かって5nm以下(0を含む。)であることを特徴としている。
【0019】
さらに、本発明の誘電体セラミックは、前記シェル部の厚みが前記主相粒子の直径の1/8以上3/8以下であることを特徴としている。
【0020】
また、本発明の誘電体セラミックは、組成式が、一般式{100(Ba1-xCaTiO+aRO3/2+bMgO+cMO+dSiO+eLiO1/2}(ただし、Mは、Mn及びVのうちの少なくともいずれか1種を示し、yはMの価数によって一義的に決まる正数を示す。)で表され、前記m、x、a、b、c、d、及びeは、それぞれ0.960≦m≦1.030、0≦x≦0.20、0.2≦a≦5.0、0≦b≦2.0、0.2≦c≦1.0、0.5≦d≦4.0、0.5≦e≦6.0であることを特徴としている。
【0021】
また、本発明に係る積層セラミックコンデンサは、誘電体セラミック層と内部電極とが交互に積層されて焼成されたセラミック焼結体を備え、該セラミック焼結体の両端部に外部電極が形成された積層セラミックコンデンサにおいて、前記誘電体セラミック層が、上記いずれかに記載の誘電体セラミックで形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
上記誘電体セラミックによれば、主相粒子がチタン酸バリウム系化合物を主成分とする共に、La、Ce等の特定の希土類元素Rとを含有し、前記主相粒子単独又は微量の前記希土類元素Rが前記主相粒子に固溶されてなる第1の結晶粒子と、コア・シェル構造を有する第2の結晶粒子とが混在した混晶系構造を有し、前記第1及び第2の結晶粒子の全結晶粒子に対する個数割合は、前記第1の結晶粒子が12〜84%であり、前記第2の結晶粒子が16〜88%であるので、1μm未満に薄層化した場合であっても、良好な高温負荷特性と良好な静電容量の温度特性を有する誘電体セラミックを得ることができる。
【0023】
具体的には、1μm未満に薄層化した場合であっても、150℃の高温で12.5Vの直流電圧の印加に対し150時間以上の長寿命を有し、EIA規格のX5R特性を満足する高温負荷特性と静電容量の温度特性の両立が可能な誘電体セラミックを得ることができる。
【0024】
また、第1の結晶粒子は、希土類元素Rの主相粒子への固溶距離が、主相粒子の表面から内部に向かって5nm以下(0を含む。)であり、更にはシェル部の厚みが前記主相粒子の直径の1/8以上3/8以下であるので、上記作用効果を容易に奏することができる。
【0025】
また、組成式が、一般式{100(Ba1-xCaTiO+aRO3/2+bMgO+cMO+dSiO+eLiO1/2}(ただし、Mは、Mn及びVのうちの少なくともいずれか1種を示し、yはMの価数によって一義的に決まる正数を示す。)で表され、前記m、x、a、b、c、d、及びeは、それぞれ0.960≦m≦1.030、0≦x≦0.20、0.2≦a≦5.0、0≦b≦2.0、0.2≦c≦1.0、0.5≦d≦4.0、0.5≦e≦6.0としたので、チタン酸バリウム系化合物及び希土類元素R以外に、MgO、MnO、V、SiO、LiO等の添加物を含有しても、高温負荷特性や静電容量の温度特性に影響を及ぼすことのない所望の誘電体セラミックを得ることができる。
【0026】
また、本発明に係る積層セラミックコンデンサによれば、誘電体セラミック層と内部電極とが交互に積層されて焼成された積層焼結体を備え、該積層焼結体の両端部に外部電極が形成された積層セラミックコンデンサにおいて、前記誘電体セラミック層が、上述した誘電体セラミックで形成されているので、高信頼性を有しかつ静電容量の温度特性が良好な積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る誘電体セラミックの一実施の形態を模式的に示した断面図である。
【図2】第1の結晶粒子の拡大断面図である。
【図3】第2の結晶粒子の拡大断面図である。
【図4】上記誘電体セラミックを使用して製造された積層セラミックコンデンサの一実施の形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に本発明の実施の形態を詳説する。
【0029】
図1は、本発明に係る誘電体セラミックの一実施の形態を模式的に示した断面図である。
【0030】
この誘電体セラミックは、粒子構造が異なる第1の結晶粒子1と第2の結晶粒子2とが混在した混晶系構造を有している。そして、主相粒子は、第1の結晶粒子1と第2の結晶粒子2の双方に主成分として含まれている。
【0031】
図2は、第1の結晶粒子1の拡大断面図である。
【0032】
第1の結晶粒子1は、特定の希土類元素Rを固溶させた希土類元素固溶領域4が主相粒子3の表層部に部分的に形成されている。すなわち、微量の特定の希土類元素Rが主相粒子3の表層部に固溶され、これにより主相粒子3の表層部には部分的に希土類元素固溶領域4が形成されている。本実施の形態では、希土類元素固溶領域4は、特定の希土類元素Rの主相粒子3への固溶距離Hが、主相粒子3の表面から内部に向かって5nm以下の微小距離とされている。
【0033】
図3は、第2の結晶粒子2の拡大断面図である。
【0034】
第2の結晶粒子2は、コア・シェル構造からなり、主相粒子からなるコア部5と主相粒子に特定の希土類元素Rが固溶されて前記コア部5の周囲に形成されたシェル部6とを有している。そして、本実施の形態では、シェル部6の厚みTが、主相粒子の直径Dの1/8以上3/8以下とされている。
【0035】
ここで、主相粒子は、チタン酸バリウム系化合物を主成分としている。チタン酸バリウム系化合物は、一般式ABOで表されるペロブスカイト型構造を有しており、本実施の形態では、AサイトがBa、BサイトがTiで形成されたBaTiO、Baの一部がCaで置換された(Ba,Ca)TiOを使用することができる。AサイトとBサイトの配合モル比A/Bは、化学量論的には1.000であるが、各種特性や焼結性などに影響を与えない程度に必要に応じてAサイト過剰又はBサイト過剰となるように配合される。
【0036】
また、特定の希土類元素Rとしては、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Tb、Lu 及びYから選択された少なくとも1種を使用することができる。
【0037】
そして、本実施の形態では、第1及び第2の結晶粒子1、2の全結晶粒子に対する個数割合は、第1の結晶粒子1が12〜84%であり、第2の結晶粒子2が16〜88%とされている。
【0038】
以下、その理由を述べる。
【0039】
(1)第1の結晶粒子1の個数割合
誘電体セラミックを第1の結晶粒子1と第2の結晶粒子2との混晶系構造とすることにより、厚みを1μm未満に薄層化した場合であっても、高温負荷特性と静電容量の温度特性の両立を図ることが可能となる。
【0040】
しかしながら、第1の結晶粒子1の全結晶粒子に対する個数割合が84%を超えると、高温負荷時の寿命が低下して高温負荷特性が劣化し、信頼性低下を招くおそれがある。一方、第1の結晶粒子1の全結晶粒子に対する個数割合が12%未満になると、静電容量の温度変化率が大きくなって温度特性の劣化を招くおそれがある。
【0041】
そこで、第1の結晶粒子1の全結晶粒子に対する個数割合を12〜84%にして高温負荷特性と静電容量の温度特性の両立を図っている。
【0042】
(2)第2の結晶構造2の個数割合
誘電体セラミックを第1の結晶粒子1と第2の結晶粒子2との混晶系構造とすることにより、上述したように厚みを1μm未満に薄層化した場合であっても、高温負荷特性と静電容量の温度特性の両立を図ることが可能となる。
【0043】
しかしながら、第2の結晶粒子2の全結晶粒子に対する個数割合が88%を超えると、静電容量の温度変化率が大きくなって温度特性の劣化を招くおそれがある。一方、第2の結晶粒子2の全結晶粒子に対する個数割合が16%未満になると、高温負荷時の寿命が低下して高温負荷特性が劣化し、信頼性低下を招くおそれがある。
【0044】
そこで、第2の結晶粒子2の全結晶粒子に対する個数割合を16〜88%にして高温負荷特性と静電容量の温度特性の両立を図っている。
【0045】
このように本実施の形態では、第1の結晶粒子1及び第2の結晶粒子2の双方を上述の範囲で含有した混晶系構造とすることにより、高温負荷特性と静電容量の温度特性の両立を図っている。
【0046】
尚、第1の結晶粒子1と第2の結晶粒子2の個数割合の制御は、後述するように主成分粉末の結晶性及び焼成温度を調整することにより行うことができる。
【0047】
また、上記誘電体セラミックでは、少なくとも第1の結晶粒子1及び第2の結晶粒子2が、全結晶粒子に対し上述した範囲の個数割合で混在していればよく、第1の結晶粒子1及び第2の結晶粒子2のみで形成されていなくてもよい。すなわち、第1の結晶粒子1及び第2の結晶粒子2が、全結晶粒子に対し上述した範囲の個数割合で混在していれば、第1の結晶粒子1及び第2の結晶粒子2以外の結晶構造を有する第3の結晶粒子が誘電体セラミック中に存在していてもよい。
【0048】
また、上記実施の形態では、第1の結晶粒子1は、微量の前記希土類元素Rが前記主相粒子に固溶されているが、主相粒子単独で存在していてもよく、この場合は、図2の固容距離Hは0となる。
【0049】
また、本発明の誘電体セラミックは、少なくともチタン酸バリウム系化合物を主成分とする主相粒子と、特定の希土類元素Rとを含有していればよく、必要に応じ、Mg酸化物、Mn酸化物、V酸化物、焼結助剤としてのSi酸化物、或いはLi酸化物を添加するのも好ましい。
【0050】
この場合、誘電体セラミックの組成式は、下記一般式(A)で表すことができる。
【0051】
100(Ba1−xCaTiO+aRO3/2+bMgO+cMO+dSiO+eLiO1/2 …(A)
ここで、Mは、Mn及びVのうちの少なくともいずれか1種を示し、yはMの価数によって一義的に決まる正数を示している。
【0052】
また、mはAサイトとBサイトの配合モル比、xはBaに対するCaの置換モル比、a、b、c、d、及びeは主成分である(Ba1−xCaTiO:100モル部に対するRO3/2、MgO、MO、SiO、LiO1/2の各モル部である。そして、これらm、x、a、b、c、d、及びeは、数式(1)〜(7)の範囲が好ましい。
【0053】
0.960≦m≦1.030…(1)
0≦x≦0.20 …(2)
0.2≦a≦5.0 …(3)
0≦b≦2.0 …(4)
0.2≦c≦1.0 …(5)
0.5≦d≦4.0 …(6)
0.5≦e≦6.0 …(7)
すなわち、上記一般式(A)が数式(1)〜(7)を満たすことにより、厚みを1μm未満に薄層化した場合であっても、高温負荷特性と静電容量の温度特性とが両立した、信頼性を有する誘電体セラミックを得ることが可能となる。
【0054】
尚、一般式(A)中の希土類元素酸化物RO3/2以外の添加物、すなわちMgO、MO、SiO、及びLiO1/2の存在形態については特に限定されるものではなく、主成分に固溶していてもよく、結晶粒界や結晶三重点に存在していてもよい。
【0055】
次に、上記誘電体セラミックを使用して製造した積層セラミックコンデンサについて詳述する。
【0056】
図4は、上記積層セラミックコンデンサの一実施の形態を模式的に示した断面図である。
【0057】
該積層セラミックコンデンサは、セラミック焼結体7に内部電極8a〜8fが埋設されると共に、該セラミック焼結体7の両端部には外部電極9a、9bが形成され、さらに該外部電極9a、9bの表面には第1のめっき皮膜10a、10b及び第2のめっき皮膜11a、11bが形成されている。
【0058】
すなわち、セラミック焼結体7は、本発明の誘電体セラミックで形成された誘電体セラミック層12a〜12gと、内部電極8a〜8fとが交互に積層されて焼成されてなり、内部電極8a、8c、8eは外部電極9aと電気的に接続され、内部電極8b、8d、8fは、外部電極9bと電気的に接続されている。そして、内部電極8a、8c、8eと内部電極8b、8d、8fとの対向面間で静電容量を形成している。
【0059】
次に、上記積層セラミックコンデンサの製造方法を詳述する。
【0060】
まず、セラミック素原料としてBa化合物、Ti化合物を用意し、必要に応じてCa化合物を用意する。そしてこれらセラミック素原料を所定量秤量し、これら秤量物をPSZ(Partially Stabilized Zirconia:部分安定化ジルコニア)ボールなどの粉砕媒体及び純水と共にボールミルに投入し、十分に湿式で混合粉砕し、乾燥させた後950〜1150℃の温度で所定時間仮焼し、チタン酸バリウム系化合物からなる主成分粉末を作製する。
【0061】
次に、主成分粉末の結晶性を分析し、主成分粉末を、結晶性の高い主成分粉末と、結晶性の低い主成分粉末とに区分し、その後、両者を混合して所定量秤量する。
【0062】
R化合物、必要に応じてMg化合物、Mn化合物、V化合物、Li化合物、Si化合物等を用意し、所定量秤量する。これら秤量物をPSZボール及び純水と共にボールミルに投入し、十分に湿式で混合粉砕し、乾燥させてセラミック原料粉末を作製する。
【0063】
次いで、上記セラミック原料粉末を有機バインダや有機溶剤、粉砕媒体と共にボールミルに投入して湿式混合し、セラミックスラリーを作製し、リップ法等を使用してセラミックスラリーを成形加工し、焼成後の厚みが1μm未満となるようにセラミックグリーンシートを作製する。
【0064】
次いで、内部電極用導電性ペーストを使用してセラミックグリーンシート上にスクリーン印刷を施し、前記セラミックグリーンシートの表面に所定パターンの導電膜を形成する。
【0065】
尚、内部電極用導電性ペーストに含有される導電性材料としては、特に限定されるものではないが、低コスト化の観点からは、Ni,Cu或いはこれら合金を主成分とした卑金属材料を使用するのが好ましい。
【0066】
次いで、導電膜が形成されたセラミックグリーンシートを所定方向に複数枚数積層し、導電膜の形成されていないセラミックグリーンシートで挟持し、圧着し、所定寸法に切断してセラミック積層体を作製する。そしてこの後、窒素雰囲気下、300〜500℃の温度で脱バインダ処理を行い、さらに、酸素分圧が10−9〜10-12MPaに制御されたH―N―HOガスからなる還元性雰囲気下、所定温度で2時間焼成処理を行う。これにより導電膜とセラミックグリーンシートとが共焼結され、内部電極8a〜8fが埋設されたセラミック焼結体7が得られる。
【0067】
尚、例えば、この焼成処理で、主成分粉末のうち、結晶性が高い主成分粉末は、特定の希土類元素R等の添加物成分が固溶され難いことから、第1の結晶粒子1となる。また、結晶性が低い主成分粉末は、特定の希土類元素R等の添加物成分が容易に固溶し、コア・シェル構造の第2の結晶粒子2となる。
【0068】
また、全結晶粒子に対する第1の結晶粒子1及び第2の結晶粒子2の個数割合は、焼成温度を調整することにより制御することができ、例えば、最高温度990℃〜1025℃の範囲で焼成することにより前記個数割合を上述した本発明範囲内とすることができる。
【0069】
そしてこれにより、誘電体セラミック層12a〜12gは、粒子構造の異なる第1の結晶粒子1と第2の結晶粒子2との混晶系構造を形成する。
【0070】
次に、セラミック焼結体7の両端面に外部電極用導電性ペーストを塗布し、600℃〜800℃の温度で焼付処理を行い、外部電極9a、9bを形成する。
【0071】
尚、外部電極用導電性ペーストに含有される導電性材料についても、特に限定されるものではないが、低コスト化の観点から、AgやCu、あるいはこれらの合金を主成分とした材料を使用するのが望ましい。
【0072】
また、外部電極9a、9bの形成方法としては、セラミック積層体の両端面に外部電極用導電性ペーストを塗布した後、セラミック積層体と同時に焼成処理を施すようにしてもよい。
【0073】
そして、最後に電解めっきを施して外部電極9a、9bの表面にNi,Cu,Ni−Cu合金などからなる第1のめっき皮膜10a、10bを形成し、さらに該第1のめっき皮膜10a、10bにはんだやスズ等からなる第2のめっき皮膜11a、11bを形成し、これにより積層セラミックコンデンサが製造される。
【0074】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、上記実施の形態では、特定の希土類元素R、Mg、Mn、V、Si及びLi以外の添加物成分については言及していないが、電気特性などの各種特性や信頼性向上の観点から、Al、CuO等を添加物として必要に応じて含有させるのも好ましい。
【0075】
また、バリウム化合物、チタン化合物などのセラミック素原料についても、炭酸塩や酸化物、硝酸塩、水酸化物、有機酸塩、アルコキシド、キレート化合物等、合成反応の形態に応じて適宜選択することができる。
【0076】
また、上述した積層セラミックコンデンサの製造過程で、Al、Fe、Co等が不純物として混入し、結晶粒子内や結晶粒界に存在するおそれがあるが、コンデンサの電気特性に影響を及ぼすものではない。
【0077】
また、積層セラミックコンデンサの焼成処理で内部電極成分が結晶粒子や結晶粒子界に拡散するおそれがあるが、この場合もコンデンサの電気特性に影響を及ぼすことはない。
【0078】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例1】
【0079】
〔試料の作製〕
セラミック素原料としてBaCO、TiOを所定量秤量し、これら秤量物をPSZボール及び純水と共にボールミルに投入して、十分に湿式で混合粉砕し、乾燥させた後、1050℃の温度で約2時間、仮焼し、これによりBa1.007TiOからなる主成分粉末を得た。
【0080】
次に、主成分粉末の結晶性をX線回折装置(XRD)で分析した。そして、主成分粉末を、結晶性の高い主成分粉末と、結晶性の低い主成分粉末とに区分し、両者を混合して所定量秤量した。
【0081】
特定の希土類元素RとしてDyO3/2、及びその他の添加成分としてMgO、MnO、V、SiOを用意した。そして、主成分100モル部に対し、DyO3/2:1モル部、MgO:0.7モル部、MnO:0.3モル部、VO5/2:2モル部、SiO:1.5モル部となるように、添加物粉末をそれぞれ秤量した。 PSZボール及び純水と共にボールミルに投入し、十分に湿式で混合粉砕し、乾燥させてセラミック原料粉末を得た。
【0082】
次いで、上記セラミック原料粉末を、エタノール、ポリビニルブチラール系バインダ、及びPSZボールと共にボールミルに投入して湿式混合し、これによりセラミックスラリーを作製した。次いで、セラミックスラリーをフィルタリングして極微粒及び粗大粒を除去し、その後、リップ法を使用してシート状に成形加工し、焼成後の誘電体セラミック層の厚みが0.9μmとなるようにセラミックグリーンシートを作製した。
【0083】
次いで、Ni粉末を含有した内部電極用導電性ペーストを用意した。そして、この内部電極用導電性ペーストを使用してセラミックグリーンシート上にスクリーン印刷を施し、前記セラミックグリーンシートの表面に所定パターンの導電膜を形成した。
【0084】
次いで、導電膜が形成されたセラミックグリーンシートを所定枚数積層し、導電膜の形成されていないセラミックグリーンシートで挟持し、圧着し、所定寸法に切断してセラミック積層体を作製した。そして、窒素雰囲気下、300℃の温度で脱バインダ処理を行い、さらに、酸素分圧が10-10MPaに制御されたH−N−HOガスからなる還元性雰囲気下、最高温度980℃〜1040℃で2時間焼成処理を行った。そしてこれにより導電膜とセラミックグリーンシートとが共焼結され、内部電極が埋設されたセラミック焼結体を作製した。尚、この焼成処理で、主成分粉末のうち、結晶性の高い主成分粉末が第1の結晶粒子、結晶性の低い主成分粉末が第2の結晶粒子となる。
【0085】
次に、Cu粉末にB−LiO−SiO−BaO系ガラスフリットが添加された外部電極用導電性ペーストを用意した。そして、外部電極用導電性ペーストをセラミック焼結体の両端面に塗布し、窒素雰囲気下、800℃で焼付処理を行い、外部電極を形成し、試料番号1〜6の試料を作製した。
【0086】
このようにして得られた試料の外形寸法は、長さ:2.0mm、幅:1.2mm、厚さ:1.0mmであり、誘電体セラミック層の厚みは0.9μmであった。また、誘電体セラミック層の有効層数は100であり、一層当たりの対向電極面積は1.4mmであった。
【0087】
〔試料の評価〕
試料番号1〜6の各試料について、第1の結晶粒子と第2の結晶粒子の全結晶粒子に対する個数割合をそれぞれ求めた。
【0088】
すなわち、結晶粒子の分析個数を100個とし、2nmのプローブを用い、TEM−EDX(エネルギー分散型X線分光法)により組成分析を行った。具体的には、各結晶粒子について、結晶粒界から2nm間隔で5点を分析し、さらにその分析点から15nm間隔で5点を分析した。各分析点でDyO3/2が検出されたか否かを確認し、さらに、各結晶粒子について、第1の結晶粒子及び第2の結晶粒子の有無を判定した。
【0089】
ここで、DyO3/2の主相粒子への固溶距離が、主相粒子の表面から内部に向かって5nm以下の結晶粒子を第1の結晶粒子と判定し、粒子構造がコア・シェル構造を有しシェル部の厚みTが、主相粒子の直径Dの1/8以上3/8以下の結晶粒子を第2の結晶粒子と判定した。
【0090】
次に、試料番号1〜6の各試料について、比誘電率、静電容量の温度変化率、及び平均寿命を測定した。
【0091】
ここで、比誘電率は、自動ブリッジ式測定器を使用し、静電容量を温度25℃、周波数1kHz、実効電圧0.5Vrmsの条件下で測定し、試料寸法から比誘電率を求めた。
【0092】
また、静電容量の温度変化率は、25℃での静電容量を基準とし、−55℃〜+85℃の静電容量の変化率を測定した。そしてその最大値により静電容量の温度特性を評価した。尚、25℃での静電容量を基準とし、−55℃〜+85℃の範囲での静電容量の変化率が±15%以内であれば、EIA規格のX5R特性を満足することとなる。
【0093】
また、試料番号1〜6の各試料について、加速信頼性実験を行い、高温負荷特性を評価した。すなわち、150℃の高温で12.5Vの直流電圧を印加して絶縁抵抗の経時変化を測定し、絶縁抵抗が10Ω以下になった時を故障と判断し、平均寿命を算出して高温負荷特性を評価した。
【0094】
表1は、試料番号1〜6の焼成温度、全結晶粒子に対する第1の結晶粒子及び第2の結晶粒子の各個数割合、比誘電率、静電容量の温度変化率及び平均寿命の測定結果を示している。尚、静電容量の温度変化率は最大値を示している。
【表1】

【0095】
試料番号1〜6から明らかなように、焼成温度により全結晶粒子に対する第1の結晶粒子及び第2の結晶粒子の各個数割合を制御できることが分かる。
【0096】
すなわち、試料番号5は、焼成温度が1040℃と高いため、主相粒子に対するDyO3/2の固溶が過度に促進され、このため、第1の結晶粒子が存在せず、第2の結晶粒子の全結晶粒子に対する個数割合が92%と多かった。その結果、この試料番号5では、静電容量の温度変化率が−17%となって±15%の範囲内に収まらず、EIA規格のX5R特性を満足しないことが分かった。
また、試料番号6は、焼成温度が980℃と低いため、主相粒子に対するDyO3/2の固溶が促進され難く、このため全結晶粒子に対する第1の結晶粒子の個数割合が88%と多く、全結晶粒子に対する第2の結晶粒子の個数割合が12%と少なかった。その結果、この試料番号6では、平均寿命が120時間と短く、高温負荷特性に劣り十分な信頼性を確保できないことが分かった。
【0097】
これに対し試料番号1〜4は、990〜1025℃と適度な温度で焼成しているので、全結晶粒子に対する第1の結晶粒子の個数割合が12〜84%、全結晶粒子に対する第2の結晶粒子の個数割合が16〜88%と本発明範囲内となった。そしてその結果、試料番号1〜4では、静電容量の温度変化率が−10%〜−14%となり、±15%の範囲内となってEIA規格のX5R特性を満足することが分かった。また、平均寿命も150〜220時間と長寿命であり、高温負荷特性が良好で高信頼性を得ることのできることが分かった。
【実施例2】
【0098】
セラミック素原料としてBaCO、TiO及びCaCOを用意し、実施例1と同様の方法・手順で(Ba1-xCaTiO(mは0.960〜1.030、xは0〜0.20)からなる主成分粉末を得た。
【0099】
次に、添加物成分として、希土類元素酸化物RO3/2(RはLa、Ce、Pr、NdSm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y)、及びMgO、MnO、VO5/2、SiO、LiO1/2を用意した。
【0100】
そして、表2に示すようなモル比となるように、主成分粉末及び添加物成分を秤量し、実施例1と同様の方法でセラミック原料粉末を得た。
【0101】
これらのセラミック原料粉末を用いて、実施例1と同様の方法・手順により、焼成後の誘電体セラミック層の厚みが0.8μmとなるようにセラミックグリーンシートを作製し、さらに焼成温度1025℃で焼成処理を行い、試料番号11〜27の試料を作製した。
【0102】
次に、試料番号11〜27の各試料について、実施例1と同様の方法・手順で全結晶粒子に対する第1の結晶粒子及び第2の結晶粒子の個数割合を求めたところ、本発明範囲内にあることが確認された。
【0103】
次に、試料番号11〜27の各試料について、実施例1と同様の方法・手順で比誘電率、静電容量の温度変化率、及び平均寿命を測定した。
【0104】
表2は、試料番号11〜27の各試料の組成成分、及び測定結果を示している。
【表2】

【0105】
この表2から明らかなように、一般式{100(Ba1−xCaTiO+aRO3/2+bMgO+cMO+dSiO+eLiO1/2}において、0.960≦m≦1.030、0≦x≦0.20、0.2≦a≦5.0、0≦b≦2.0 、0.2≦c≦1.0、0.5≦d≦4.0、及び0.5≦e≦6.0を満足する範囲内で、誘電体セラミック層を0.8μmに薄層化しても、静電容量の温度変化率は−11〜−14%となって±15%以内であり、かつ平均寿命も150時間以上と良好な結果を得た。すなわち、MgO、MO、SiO、LiO1/2等の添加物を所定量含有させても、静電容量の温度特性と高温負荷特性との両立に影響を与えないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0106】
誘電体セラミックの厚みを1μm未満に薄層化しても高温負荷特性と静電容量の温度特性を両立させることができる積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【符号の説明】
【0107】
1 第1の結晶粒子
2 第2の結晶粒子
5 コア部
6 シェル部
7 セラミック焼結体
8a〜8f 内部電極
9a、9b 外部電極
12a〜12g 誘電体セラミック層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主相粒子がチタン酸バリウム系化合物を主成分とする共に、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Tb、Lu、及びYから選択された少なくとも1種の希土類元素Rを含有し、
前記主相粒子単独又は微量の前記希土類元素Rが前記主相粒子に固溶されてなる第1の結晶粒子と、前記主相粒子からなるコア部と前記主相粒子に前記希土類元素Rが固溶されて前記コア部の周囲に形成されたシェル部とを有する第2の結晶粒子とが混在した混晶系構造を有し、
前記第1及び第2の結晶粒子の全結晶粒子に対する個数割合は、前記第1の結晶粒子が12〜84%であり、前記第2の結晶粒子が16〜88%であることを特徴とする誘電体セラミック。
【請求項2】
前記第1の結晶粒子は、前記希土類元素Rの前記主相粒子への固溶距離が、前記主相粒子の表面から内部に向かって5nm以下(0を含む。)であることを特徴とする請求項1記載の誘電体セラミック。
【請求項3】
前記シェル部の厚みが、前記主相粒子の直径の1/8以上3/8以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の誘電体セラミック。
【請求項4】
組成式が、一般式{100(Ba1-xCaTiO+aRO3/2+bMgO+cMO+dSiO+eLiO1/2}(ただし、Mは、Mn及びVのうちの少なくともいずれか1種を示し、yはMの価数によって一義的に決まる正数を示す。)で表され、
前記m、x、a、b、c、d、及びeは、それぞれ
0.960≦m≦1.030、
0≦x≦0.20、
0.2≦a≦5.0、
0≦b≦2.0、
0.2≦c≦1.0、
0.5≦d≦4.0、
0.5≦e≦6.0
であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の誘電体セラミック。
【請求項5】
誘電体セラミック層と内部電極とが交互に積層されて焼成されたセラミック焼結体を備え、該セラミック焼結体の両端部に外部電極が形成された積層セラミックコンデンサにおいて、
前記誘電体セラミック層が、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の誘電体セラミックで形成されていることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−184279(P2011−184279A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54586(P2010−54586)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】