説明

調圧装置

【課題】動力駆動油圧ポンプの連続駆動に依存しない、僅かな制御操作力で所望の任意の出力油圧値を出力可能な調圧装置を提供する。
【解決手段】供給油圧を任意の出力油圧に変換する静圧変換調圧機構と、出力油の出入り挙動に伴って静圧変換調圧機構の変換比制御部材に発生する移動力と対抗する方向の油圧推力を発生する油圧推力発生機構要素と、出力油の出入り挙動と連動して供給油圧を多段階の制御油圧に静圧変換する多段油圧比変換機構と、多段油圧比変換機構の多段階の制御油圧を油圧推力発生機構要素に導いておくことで、変換比制御部材に発生する移動力変動を相殺するための油圧回路とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、供給油圧を任意の出力油圧に変換するための調圧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な機械装置に用いられるアクチュエータとして、比較的小さなサイズで大きな推力が得られる油圧アクチュエータが多用されているが、その油圧アクチュエータの油圧推力を制御するには、油圧アクチュエータへの供給油圧を可変制御する必要がある。
【0003】
このような油圧アクチュエータへの供給油圧の制御方法として最も一般的なのは、動力駆動油圧ポンプからの吐出油をオイルタンクに戻す循環回路中に、位置制御部材と負荷部材との相対変位量に応じて作動油の流路面積が変化する所謂スプール弁を挿入し、吐出側と戻り側との流路面積比の変化によって生ずるオリフィス差圧効果を出力油圧値として用いる方法が最も一般的である(例えば特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−18846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
油圧アクチュエータへの供給油圧(以下出力油圧という)の制御方法として、上記の動力駆動油圧ポンプ及びスプール弁を用いた制御方法は、制御に要する操作力が極めて小さく、僅かな相対変位によって敏感に出力油圧を変化させることができるので重用されている。しかし、この方法の原理上、一定の出力油圧を維持するには、その出力油圧値に動力駆動油圧ポンプの単位吐出量を乗じた値に相当する油圧ポンプ駆動負荷を負って動力駆動油圧ポンプを駆動し続けねばならない。そのため、例えば、油圧アクチュエータの負荷荷重に対して負荷部材を一定位置に保持しているような状況下でも、大きなエネルギー消費を伴い続けるという宿命的問題がある。
【0006】
このような、負荷部材を一定位置に保持しているような状況というのは、油圧アクチュエータの出力として一定の油圧推力を発揮し続けてはいるものの、その負荷部材の移動変位がない状況である。力と変位量を乗じた値で定義される出力エネルギーはゼロの状態であるにも拘らず、油圧ポンプ駆動の大きなエネルギー消費を必要とするのは、エネルギー効率の観点で、極めて不合理であると言わざるを得ない。
【0007】
この問題に関し、油圧供給源として、動力駆動油圧ポンプに依存するのではなく、例えば、封入ガス圧縮型のアキュームレータ等の出力油圧を用いてやれば、エネルギー消費を伴わずに油圧供給状態を維持できるので、画期的に装置のエネルギー効率を上げることが可能になると考えられる。しかし、その場合の出力油圧は、動力駆動油圧ポンプ及びスプール弁を用いた方法のような、流体の動的差圧発生原理によるものではなく、圧力の静的伝播原理によるものなので、その出力油圧の制御方法として、スプール弁のような動的差圧発生機構に依存することができない。
【0008】
このような圧力の静的伝播構造において、出力油圧を可変制御する方法としては、油圧供給源からの供給油圧を所望の出力油圧に変換する静的油圧比変換機構が必要になる。
【0009】
このような静的油圧比変換機構として、図12に示すように、油圧供給源81からの供給油圧Pを受けて推力を発生する油圧ピストン機構82の推力、及び、出力負荷油圧を受けて推力を発生する別の油圧ピストン機構(図示せず)の推力を各々、揺動支点83周りに揺動可能に支持された共通の揺動部材84に作用させ、それにより揺動部材84に生じる両油圧ピストン機構の油圧推力モーメントの釣り合い関係で両油圧ピストン機構の油圧推力比が決まることを利用して、可動部材(スライダ)85によって揺動部材84に対して油圧推力を作用させる揺動支点83からの位置を可変構造として、両油圧ピストン機構のモーメント半径比を制御することで、連続的に任意の変換比の出力油圧を得る力比変換機構(静的油圧比変換機構)80が知られている。
【0010】
ちなみに、可変容量プランジャポンプとして多用されている斜板式や斜軸式の油圧ポンプ等における容量比可変機構も回転機械としての応用形態であって、要素原理は力比変換機構と同じ範疇である。
【0011】
この静的油圧比変換機構80の原理によれば、連続的に任意の変換比の出力油圧を得ることが可能になるのであるが、この機構原理上、負荷部材86の移動変位によって力比変換レバーとしての揺動部材84が揺動支点83周りに角変位し(回動し)、その揺動部材84の傾き角θによって、負荷荷重や油圧推力F0の角分力Fcが発生し、その角分力Fcが制御対象である有効レバー半径を変えるための可動部材85に作用する。そのため、この制御意思とは無関係の移動変位に依存した角分力Fcが、狙いの制御に対する外乱となって、安定した制御が困難になる問題がある(図12(b)参照)。
【0012】
このため、この制御に当っては、その外乱分力を上回る制御力が必要になるのであるが、この外乱分力は揺動部材84の角変位による角分力であるので、この角分力を小さく抑えるには、揺動部材84の角変位量を小さな範囲に抑える必要がある。
【0013】
この揺動部材84の角変位量θは、負荷部材86の基準位置からの移動量をδとし、揺動部材84の揺動支点83から負荷部材86までの距離(レバー半径)をRとすると、θ=sin-1(δ/R)であり、制御外乱となる角分力Fcの大きさは、可動部材85に作用させる荷重をF0とすると、Fc=F0×sinθである。そのため、油圧アクチュエータの動作能力として、必要な負荷荷重容量を確保して負荷部材86の移動限界量を大きく採ろうとすると、レバー半径Rの値を極めて大きく設定しない限り、かなり大きな角分力の発生が避けられない。
【0014】
ちなみに、揺動部材84の角変位量θが30°でも、制御外乱となる角分力Fcの大きさは、可動部材85に作用させる荷重F0の1/2にも達する。
【0015】
このため、必要な負荷荷重容量と動作ストローク量を確保して実用レベルのサイズに装置を設計した場合、実際上は角分力が極めて大きくなり、その角分力を上回る制御力が必要になる。そのため、結局、この制御力を確保するための動力駆動油圧ポンプが必要になって、制御動作におけるエネルギー消費問題が、この方式でも付き纏う。
【0016】
なお、このような揺動レバー型以外の静的油圧比変換機構として、本発明者が開発中の特性可変油圧バネシステムを応用しても、同様の静的油圧比変換機構を形成できる。
【0017】
本発明者が開発中の特性可変油圧バネシステムは、可動部材に一方の揺動支点を持ち、可動部材の移動軸線に角度を持って交差する軸線上にもう一方の揺動支点を持つ揺動ピストン機構に供給油圧を作用させることで、可動部材の移動によって揺動ピストン機構が発揮する油圧推力の可動部材の移動軸線方向の角分力の大きさを比例的に変化させる原理で、可動部材の移動量に比例した移動軸線方向の角分力変化特性を得てバネ特性を発揮させるもので、供給油圧作用時の揺動ピストン機構の油圧推力特性として、支点間収縮力となるピストン構造を与えた場合には正のバネ定数特性が得られ、支点間伸張力となるピストン構造を与えた場合には負のバネ定数特性が得られるものである。
【0018】
この原理を応用し、図1を参照して、出力油圧ピストン機構9に接続された可動部材(出力変換部材11)の移動軸線上を移動可能な別の可動部材(変換比制御部材5)を設け、出力変換部材11と固定部材10との間に、出力変換部材11の移動軸線Cに角度を持って交差する揺動ピストン機構35を設置することで、出力変換部材11の変位量によって移動軸線方向の作用力が比例的に変化する第一油圧バネ12を設けると共に、出力変換部材11と変換比制御部材5との間に同様の揺動ピストン機構39を設置することで、出力変換部材11と変換比制御部材5との相対変位量によって移動軸線方向の作用力が比例的に変化する第二油圧バネ13を設けると共に、変換比制御部材5と固定部材10との間に、変換比制御部材5の移動軸線Cに角度を持って交差する揺動ピストン機構45を設置することで、変換比制御部材5の変位量によって移動軸線方向の作用力が比例的に変化する第三油圧バネ14を設け、第一油圧バネ12及び第三油圧バネ14のバネ定数特性を、第二油圧バネ13のバネ定数特性に対して、絶対値が等しく、正負が逆の関係に設定してやる。
【0019】
このような構成において、出力変換部材11が移動しない状態で、変換比制御部材5を移動させると、出力変換部材11と変換比制御部材5との相対変位量は変換比制御部材5の移動量そのものになる。出力変換部材11と変換比制御部材5との間に設置された第二油圧バネ13のバネ反力の変化量と、変換比制御部材5と固定部材10との間に設置された第三油圧バネ14のバネ反力の変化量との関係は、絶対値が等しく、正負が逆の関係になるので、変換比制御部材5に作用する二つの油圧バネ(第二油圧バネ13、第三油圧バネ14)のバネ反力の変化量が互いに相殺して作用力に変化が生じないのに対し、出力変換部材11には、第二油圧バネ13のバネ反力の変化量のみがそのまま作用することになる。そのため、その第二油圧バネ13のバネ反力変化量を出力油圧ピストン機構9の受圧面積で除した油圧変化が出力油圧に生じるから、一定の供給油圧に対して、変換比制御部材5を移動させる操作によって、出力油圧が連続的に変化することになる。
【0020】
逆に、変換比制御部材5が移動しない状態で、出力変換部材11が移動した場合には、出力変換部材11と変換比制御部材5との間の相対変位量は出力変換部材11の移動量そのものになる。出力変換部材11と固定部材10との間に設置された第一油圧バネ12のバネ反力の変化量と、出力変換部材11と変換比制御部材5との間に設置された第二油圧バネ13のバネ反力の変化量との関係も、絶対値が等しく、正負が逆の関係になるので、出力変換部材11に作用する二つの油圧バネ(第一油圧バネ12、第二油圧バネ13)のバネ反力の変化量が互いに相殺して作用力に変化が生じない。そのため、出力油圧は出力変換部材11の移動量の影響を受けない関係になるから、変換比制御部材5の移動操作によって、一定の供給油圧に対する出力油圧を連続的に変化させる油圧比変換機能を得ることができる。
【0021】
しかし、この方式の静的油圧比変換機構4の場合においても、出力変換部材11の移動量に拘らず、変換比制御部材5の移動操作量に応じた油圧比変換機能が得られる反面、出力変換部材11の移動量に応じた推力変動が変換比制御部材5に作用するので、揺動レバー型の静的油圧比変換機構80と同様に、出力側変位(出力変換部材11の変位)が変換比制御部材5に推力変動を与えて制御外乱となる問題が付き纏い、安定した油圧比制御を実行するには、その外乱推力変動を上回る制御力が必要になって、その制御力を確保するための動力駆動油圧ポンプが必要になるという問題は変わらない。
【0022】
以上のように、一定の供給油圧を所望の出力油圧に連続的に変化させる方法の場合、その機構の形態の如何を問わず、出力側変位が変換比制御部材に対して大きな推力変動外乱を与える宿命を負っていることから、このような静的油圧比変換機構では、動力駆動油圧ポンプの連続駆動に依存せずに調圧制御することは極めて困難であった。
【0023】
このような調圧制御に関わる問題に対する打開策として、本発明者は多段油圧比変換機構を別途開発中である。
【0024】
本発明者が開発中の多段油圧比変換機構6は、図1を参照して、エネルギーを圧力の形で貯留し、一定の油圧を出力する定圧アキュームレータの出力油圧を油圧供給源3とし、定圧アキュムレータの一定の供給油圧に対して、油圧プランジャ素子58、59相互間の受圧面積比に依存した静圧推力バランスに基いて油圧比を多段階に変化させる原理の、動力駆動油圧ポンプの連続駆動に依存しない調圧手段を実現した優れた発明である。しかし、この多段油圧比変換機構6による調圧機能は、あくまでも供給油圧に対する出力油圧を段階的に変化させる多段調圧機能であるので、その調圧制御段数を増すことによって、ほぼ所望の値に近い出力油圧が得られるようになるものの、その油圧比の多段変化の段間において発生する若干の出力偏差により、連続的な負荷変動に対して全域に渡って完全な釣り合い状態となる出力油圧を保証することはできないという難点がある。
【0025】
そこで、本発明の目的は、連続的に変動する負荷荷重値を油圧推力で釣り合い支持するような機構や装置等において求められる、油圧推力の連続的な調整ニーズに対し、従来の、動力駆動油圧ポンプの連続駆動による吐出油圧に依存した調圧装置に付き纏う制御エネルギー消費の問題を解決し、動力駆動油圧ポンプの連続駆動を必要としない極めて僅かな制御力で制御可能な調圧装置を実現することで、各種油圧作動装置のエネルギー効率を飛躍的に向上させることである。
【0026】
即ち、本発明の目的は、動力駆動油圧ポンプの連続駆動に依存しない、僅かな制御操作力で所望の任意の出力油圧を出力可能な調圧装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記目的を達成するために、本発明は、供給油圧を任意の出力油圧に変換する静圧変換調圧機構と、出力油の出入り挙動に伴って上記静圧変換調圧機構の変換比制御部材に発生する移動力と対抗する方向の油圧推力を発生する油圧推力発生機構要素と、出力油の出入り挙動と連動して供給油圧を多段階の制御油圧に静圧変換する多段油圧比変換機構と、該多段油圧比変換機構の多段階の制御油圧を上記油圧推力発生機構要素に導いておくことで、上記変換比制御部材に発生する移動力変動を相殺するための油圧回路とを備えたものである。
【0028】
即ち、本発明の原理のポイントは、油圧推力制御方法として、一定の供給油圧値を所望の任意の出力油圧値に連続的に変換可能な連続的な静的油圧比変換機構で調圧する方法を基本とする中で、連続的な静的油圧比変換機構の原理的宿命である、出力変換部材の変位に伴う制御推力変動問題に対し、出力変換部材のストローク変位に基いて多段油圧比変換機構を作動させることで、出力変換部材のストローク変位に伴う制御推力変動を相殺する方向の油圧推力の多段変化を変換比制御部材に与え、大きなストローク領域全域における制御推力変動を極めて小さな値以内に抑制する原理にあり、本発明は、アナログ的(連続的)な静的油圧比変換機構とディジタル的(段階的)な多段油圧比変換機構とのハイブリッド調圧構造によって、動力駆動油圧ポンプの連続駆動に依存しない、僅かな制御操作力で所望の任意の油圧値を出力可能な調圧装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、動力駆動油圧ポンプの連続駆動に依存しない、僅かな制御操作力で所望の任意の出力油圧を出力可能な調圧装置を提供することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る調圧装置の概略図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係る調圧装置の概略図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に係る調圧装置の概略図である。
【図4】図4は、第一バネ要素のバネ定数特性を示す図である。
【図5】図5は、第二バネ要素のバネ定数特性を示す図である。
【図6】図6は、第三バネ要素のバネ定数特性を示す図である。
【図7】図7は、多段油圧比変換機構の制御油圧推力特性を示す図である。
【図8】図8は、変換比制御部材に作用する推力を説明するための図である。
【図9】図9は、別の実施形態に係る調圧装置の概略図である。
【図10】図10は、別の実施形態に係る調圧装置の概略図である。
【図11】図11は、別の実施形態に係る調圧装置の概略図である。
【図12】図12(a)及び(b)は、揺動レバー型の静圧変換調圧機構の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0032】
図1に示すように、本実施形態に係る調圧装置1は、油圧供給源3と、供給油圧を任意の出力油圧に変換する静圧変換調圧機構4と、出力油の出入り挙動に伴って静圧変換調圧機構4の変換比制御部材5に発生する変換比制御方向移動力と対抗する方向の油圧推力を発生する油圧推力発生機構要素8と、出力油の出入り挙動と連動して供給油圧を多段階の制御油圧に静圧変換する多段油圧比変換機構6と、多段油圧比変換機構6の多段階の制御油圧を上記油圧推力発生機構要素8に導いておくことで、変換比制御部材5に発生する変換比制御方向移動力変動を相殺するための油圧回路7とを備える。
【0033】
本実施形態では、上記の油圧供給源3として、エネルギー貯蔵効率の良い封入ガス圧縮型の定圧アキュムレータをエネルギー貯蔵源とする定圧アキュムレータシステムを用いている。この定圧アキュムレータシステムは、出力油圧として一定の供給油圧P0を出力するものである。
【0034】
本実施形態の静圧変換調圧機構4は、供給油圧P0を受けて一定の基準油圧推力を発生する基準推力油圧ピストン機構(本実施形態では油圧推力発生機構要素として用いている)8と、基準推力油圧ピストン機構8に対して対向設置され、基準推力油圧ピストン機構8の基準油圧推力を出力油圧に変換する出力油圧ピストン機構9と、基準推力油圧ピストン機構8と出力油圧ピストン機構9との間に設置され且つ固定部材10に対してストローク運動可能に設けられる出力変換部材11と、入力要素である基準推力油圧ピストン機構8の基準油圧推力に増減変化を加えるために、出力変換部材11の移動方向に沿ってストローク運動可能に設けられる変換比制御部材5と、出力変換部材11と固定部材10との間に介設される第一バネ要素12と、出力変換部材11と変換比制御部材5との間に介設され、第一バネ要素12のバネ定数とは正負が逆の関係のバネ定数をもつ第二バネ要素13と、変換比制御部材5と固定部材10との間に介設され、第二バネ要素13のバネ定数とは正負が逆の関係のバネ定数をもつ第三バネ要素14とを有する。
【0035】
本実施形態の基準推力油圧ピストン機構8は、固定部材10に接続されたシリンダ15と、シリンダ15内に摺動可能に収容されたピストン16とを有する。本実施形態では、ピストン16はロッド17を介して変換比制御部材5に接続されている。また、ピストン16はシリンダ15内を変換比制御部材5側の変換比制御部材側油室18と反対側の対向油室19とに区画している。変換比制御部材側油室18は後述する多段油圧比変換機構6の出力側油室20に導通され、対向油室19は油圧供給源3に連なる油圧供給回路21に導通される。基準推力油圧ピストン機構8は、対向油室19に供給される油圧供給源3からの供給油圧P0を受けて一定の基準油圧推力を発生すると共に、変換比制御部材側油室18に供給される多段油圧比変換機構6からの多段変化の制御油圧を受けて制御推力を発生するものであり、それら基準推力と制御推力との差圧推力が変換比制御部材5に作用することとなる。
【0036】
本実施形態の出力油圧ピストン機構9は、固定部材10に接続されたシリンダ22と、シリンダ22内に摺動可能に収容されたピストン23とを有する。本実施形態では、ピストン23はロッド24を介して出力変換部材11に接続されている。また、ピストン23はシリンダ22内を出力変換部材11側の出力変換部材側油室25と反対側の対向油室26とに区画している。出力変換部材側油室25は後述する変位増幅油圧ピストン機構27の第一油室28に導通され、対向油室26は出力機器29に導通される。
【0037】
ここで、本実施形態では、変位増幅油圧ピストン機構27を設置している。この変位増幅油圧ピストン機構27は、固定系に接続されたシリンダ30と、シリンダ30内に往復運動可能に収容されたピストン31と、ピストン31に接続されたロッド32とから構成されている。ピストン31は、第一油室28と反対側の第二油室33とに区画している。第一油室28は出力油圧ピストン機構9の出力変換部材側油室25に導通され、第二油室33は油圧供給回路21に導通される。本実施形態では、ロッド32に出力変位感応弁セット34が接続されている。このような構成により、変位増幅油圧ピストン機構27のピストン31の変位によって出力変換部材11の変位を検出でき、変位増幅油圧ピストン機構27で検出した出力変換部材11の変位に応じて、ロッド32を介して出力変位感応弁セット34を駆動するようにしている。
【0038】
本実施形態の第一油圧バネ12は、図1に示す基準位相において、所定の傾斜角度θ1で対向設置される一対の第一揺動ピストン機構35を有する第一揺動ピストン機構セットから構成されている。各第一揺動ピストン機構35は、固定部材10に設けられた支点に回動可能に接続された有底筒状のシリンダ36と、出力変換部材11に設けられた支点に回動可能に接続されたピストン37とから構成されている。本実施形態では、ピストン37はシリンダ36に摺動可能に装着されている。また、ピストン37の頂部とシリンダ36の底部との間に油室38が区画形成されており、油室38は油圧供給回路21に接続されている。
【0039】
第一揺動ピストン機構セット(第一バネ要素12)は、各第一揺動ピストン機構35の油室38に一定の供給油圧を常時作用させることで生じる油圧推力Fa1、Fa2の角分力Fax1、Fax2が出力変換部材11に作用する油圧推力となる原理である。各第一揺動ピストン機構35が、図1に示す基準位相において、各々傾斜角度θ1の対向状態で設置されるので、図1に示す基準位相においては、各第一揺動ピストン機構35の角分力Fax1、Fax2同士が相殺し合い、出力変換部材11に作用する油圧推力Fax(=Fax1+Fax2)はゼロである。図1に示す基準位相から、出力変換部材11の移動変位量が変化することによって、各第一揺動ピストン機構35の傾斜角度θ1の対称性が崩れて角分力Fax1、Fax2に偏差が生じることで(図3参照)、第一揺動ピストン機構セット(第一バネ要素12)は、出力変換部材11の移動変位量に応じて推力値が変化する特性を発揮する。各第一揺動ピストン機構35による油圧推力Fa1、Fa2は支点間伸長方向の推力となるので、第一揺動ピストン機構セット(第一バネ要素12)は、出力変換部材11の移動変位量の増大(図1中右方向への移動)に伴って反力が減少する負のバネ定数をもつことになる(図4参照)。
【0040】
また、本実施形態では、第一揺動ピストン機構セットを複数備え、それら第一揺動ピストン機構セットを、出力変換部材11の移動方向と直交する方向の角分力Fay1、Fay2が互いに相殺されるように配置している。図1では、第一揺動ピストン機構セットを、出力変換部材11の移動軸線Cを挟んで対称となるように一対配置している。
【0041】
本実施形態の第二油圧バネ13は、第一バネ要素12のバネ定数とは正負が逆の関係の正のバネ定数をもち、且つ、そのバネ定数の絶対値が第一バネ要素12のバネ定数の絶対値と略等しくなるように設定されたものである。
【0042】
本実施形態の第二油圧バネ13は、図1に示す基準位相において、所定の傾斜角度θ2で対向設置される一対の第二揺動ピストン機構39を有する第二揺動ピストン機構セットから構成されている。各第二揺動ピストン機構39は、変換比制御部材5に設けられた支点に回動可能に接続されたシリンダ40と、シリンダ40内に往復運動可能に収容されたピストン41と、一端がピストン41に接続され他端が出力変換部材11に設けられた支点に回動可能に接続されたロッド42とから構成されている。ピストン41は、シリンダ40内をロッド42側のロッド側油室43と反対側の気室44とに区画している。ロッド側油室43は油圧供給回路21に接続され、気室44はシリンダ40に設けた開口を通じて大気開放されている。
【0043】
第二揺動ピストン機構セット(第二バネ要素13)は、各第二揺動ピストン機構39のロッド側油室43に一定の供給油圧P0を常時作用させることで生じる油圧推力Fb1、Fb2の角分力Fbx1、Fbx2が出力変換部材11及び変換比制御部材5に作用する油圧推力となる原理である。各第二揺動ピストン機構39が、図1に示す基準位相において、各々傾斜角度θ2の対向状態で設置されるので、図1に示す基準位相においては、各第二揺動ピストン機構39の角分力Fbx1、Fbx2同士が相殺し合い、出力変換部材11及び変換比制御部材5に作用する油圧推力Fbx(=Fbx1+Fbx2)はゼロである。図1に示す基準位相から、出力変換部材11と変換比制御部材5との相対移動変位量が変化することによって、各第二揺動ピストン機構39の傾斜角度θ2の対称性が崩れて角分力Fbx1、Fbx2に偏差が生じることで(図2参照)、第二揺動ピストン機構セット(第二バネ要素13)は、出力変換部材11と変換比制御部材5との相対移動変位量に応じて推力値が変化する特性を発揮する。各第二揺動ピストン機構39による油圧推力Fb1、Fb2は支点間収縮方向の推力となるので、第二揺動ピストン機構セット(第二バネ要素13)は、出力変換部材11と変換比制御部材5との相対移動変位量の増大(図1中右方向への移動)に伴って反力が増加する正のバネ定数をもつことになる(図5参照)。
【0044】
また、本実施形態では、第二揺動ピストン機構セットを複数備え、それら第二揺動ピストン機構セットを、出力変換部材11の移動方向と直交する方向の角分力Fby1、Fby2が互いに相殺されるように配置している。図1では、第二揺動ピストン機構セットを、出力変換部材11の移動軸線Cを挟んで対称となるように一対配置している。
【0045】
本実施形態の第三油圧バネ14は、第二バネ要素13のバネ定数とは正負が逆の関係の負のバネ定数をもち、且つ、そのバネ定数の絶対値が第二バネ要素13のバネ定数の絶対値と略等しくなるように設定されたものである。
【0046】
本実施形態の第三油圧バネ14は、図1に示す基準位相において、所定の傾斜角度θ3で対向設置される一対の第三揺動ピストン機構45を有する第三揺動ピストン機構セットから構成されている。各第三揺動ピストン機構45は、固定部材10に設けられた支点に回動可能に接続された有底筒状のシリンダ46と、変換比制御部材5に設けられた支点に回動可能に接続されたピストン47とから構成されている。本実施形態では、ピストン47はシリンダ46に摺動可能に装着されている。また、ピストン47の頂部とシリンダ46の底部との間に油室48が区画形成されており、油室48は油圧供給回路21に接続されている。
【0047】
第三揺動ピストン機構セット(第三バネ要素14)は、各第三揺動ピストン機構45の油室48に一定の供給油圧P0を常時作用させることで生じる油圧推力Fc1、Fc2の角分力Fcx1、Fcx2が出力変換部材11に作用する油圧推力となる原理である。各第三揺動ピストン機構45が、図1に示す基準位相において、各々傾斜角度θ3の対向状態で設置されるので、図1に示す基準位相においては、各第三揺動ピストン機構45の角分力Fcx1、Fcx2同士が相殺し合い、変換比制御部材5に作用する油圧推力Fcx(=Fcx1+Fcx2)はゼロである。図1に示す基準位相から、変換比制御部材5の移動変位量が変化することによって、各第三揺動ピストン機構45の傾斜角度θ3の対称性が崩れて角分力Fcx1、Fcx2に偏差が生じることで(図2参照)、第三揺動ピストン機構セット(第三バネ要素14)は、変換比制御部材5の移動変位量に応じて推力値が変化する特性を発揮する。各第三揺動ピストン機構45による油圧推力Fc1、Fc2は支点間伸長方向の推力となるので、第三揺動ピストン機構セット(第三バネ要素14)は、変換比制御部材5の移動変位量の増大(図1中右方向への移動)に伴って反力が減少する負のバネ定数をもつことになる(図6参照)。
【0048】
また、本実施形態では、第三揺動ピストン機構セットを複数備え、それら第三揺動ピストン機構セットを、変換比制御部材5の移動方向と直交する方向の角分力Fcy1、Fcy2が互いに相殺されるように配置している。図1では、第三揺動ピストン機構セットを、変換比制御部材5の移動軸線Cを挟んで対称となるように一対配置している。
上記のような静圧変換調圧機構4の構成により、出力油圧ピストン機構9における出力油の出入り挙動がない状態で、変換比制御部材5に移動操作変位を与えた場合に、変換比制御部材5の操作変位量に第二バネ要素13のバネ定数値を乗じた推力変化が出力変換部材11及び変換比制御部材5の双方に作用する。そのとき、変換比制御部材5には第三バネ要素14による逆向きの推力変化が同時に作用するので、変換比制御部材5の移動操作力負荷には変化が生じないのに対し、出力変換部材11には第二バネ要素13による推力変化のみが作用するので、その第二バネ要素13による推力変化により出力油圧ピストン機構9が出力する出力油圧が変化する(図2参照)。
【0049】
そして、基準推力油圧ピストン機構8における作動油の出入り挙動がない状態で、出力油圧ピストン機構9における出力油の出入り挙動に伴って出力変換部材11が移動変位すると、その出力変換部材11の移動変位が出力変換部材11と変換比制御部材5との相対変位となって、その出力変換部材11と変換比制御部材5との相対変位量に第二バネ要素13のバネ定数値を乗じた推力変化が出力変換部材11及び変換比制御部材5の双方に作用すると共に、出力変換部材11には第一バネ要素12による逆向きの推力変化が作用するので、出力油圧ピストン機構9が出力する出力油圧は変化しないのに対し、変換比制御部材5には第二バネ要素13による推力変化がそのまま作用するので、それが制御操作力に影響を与えることになる(図3参照)。
【0050】
そこで、この静圧変換調圧機構4の推力変化特性に対し、出力変換部材11の移動変位に伴う変換比制御部材5の移動推力変動を相殺する目的で、出力変換部材11の移動変位によって制御される多段油圧比変換機構6が設置される。本実施形態では、その多段油圧比変換機構6による多段階の油圧比変化を、基準推力油圧ピストン機構8の変換比制御部材側油室18に導いておくことによって、その油圧比変化による基準推力油圧ピストン機構8の推力変化を、出力変換部材11の移動変位に伴う変換比制御部材5の移動操作力変化に対向させて相殺する仕組みになっている。
【0051】
図1に示すように、本実施形態の多段油圧比変換機構6は、一つのフローティング部材49に接続された出力用プランジャ対50及び制御対象プランジャ対群51を有するマルチ推力合成プランジャ機構52を有する。
【0052】
出力用プランジャ対50は、油圧供給源3からの一定の供給油圧P0を常時受けて油圧推力を発生する基準推力プランジャ53と、基準推力プランジャ53に対向させてフローティング部材49に接続され、基準推力プランジャ53の油圧推力を受けて出力油圧を発生する出力プランジャ54とを有する。基準推力プランジャ53は入力側ケース55に摺動可能に装着され、出力プランジャ54は出力側ケース56に摺動可能に装着されている。基準推力プランジャ53と入力側ケース55との間には基準推力側油室57が区画形成されており、基準推力側油室57は油圧供給回路21に接続されている。また、出力プランジャ54と出力側ケース56との間には出力側油室20が区画形成されており、出力側油室20は基準推力油圧ピストン機構8の変換比制御部材側油室18に油圧回路7を介して接続されている。
【0053】
制御対象プランジャ対群51は、各々同じ受圧面積で対向する油圧プランジャ対を複数組有している。各油圧プランジャ対は、油圧供給源3からの一定の供給油圧P0を受けて基準推力プランジャ53の油圧推力と同方向の油圧推力を発生する正推力プランジャ58と、受圧面積が正推力プランジャ58の受圧面積と等しく且つ油圧供給源3からの一定の供給油圧P0を受けて基準推力プランジャ53の油圧推力と反対方向の油圧推力を発生する負推力プランジャ59とを有する。等しい受圧面積で対向する正推力プランジャ58と負推力プランジャ59とが上記の油圧プランジャ対を構成する。
【0054】
正推力プランジャ58は入力側ケース55に摺動可能に装着され、負推力プランジャ59は出力側ケース56に摺動可能に装着されている。正推力プランジャ58と入力側ケース55との間には正推力側油室60が区画形成されており、正推力側油室60は出力変位感応弁セット34に接続されている。また、負推力プランジャ59と出力側ケース56との間には負推力側油室61が区画形成されており、負推力側油室61は出力変位感応弁セット34に接続されている。
【0055】
本実施形態では、制御対象プランジャ対群51は、受圧面積が互いに異なる油圧プランジャ対を4組有している。
【0056】
本実施形態では、受圧面積の大きさが2番目の系統2の油圧プランジャ対の正推力プランジャ58及び負推力プランジャ59の受圧面積が、受圧面積が最も小さい系統1の油圧プランジャ対の正推力プランジャ58及び負推力プランジャ59の受圧面積の2倍となるように設定される。
【0057】
つまり、本実施形態の制御対象プランジャ対群51は、受圧面積が互いに異なる油圧プランジャ対を複数組有しており、受圧面積の大きさがN番目の系統Nの油圧プランジャ対の正推力プランジャ58及び負推力プランジャ59の受圧面積が、受圧面積が最も小さい系統1の油圧プランジャ対の正推力プランジャ58及び負推力プランジャ59の受圧面積の2(N-1)倍となるように設定されている。
【0058】
なお、図示例では、系統2の正推力プランジャ58及び負推力プランジャ59はそれぞれ、系統1の正推力プランジャ58及び負推力プランジャ59と同じサイズのプランジャ2個からなり、これら2個のプランジャの受圧面積の和が系統1の正推力プランジャ58及び負推力プランジャ59の受圧面積の2倍となるようになっている。この系統2の正推力プランジャ58及び負推力プランジャ59がそれぞれ、系統1の正推力プランジャ58及び負推力プランジャ59の受圧面積の2倍となる1個のプランジャからなっても良い。
【0059】
つまり、図示例では、系統Nの正推力プランジャ58及び負推力プランジャ59はそれぞれ、系統(N−1)の正推力プランジャ58及び負推力プランジャ59と同じサイズのプランジャ2個からなり、これら2個のプランジャの受圧面積の和が系統(N−1)の正推力プランジャ58及び負推力プランジャ59の受圧面積の2倍となるようになっている。この系統Nの正推力プランジャ58及び負推力プランジャ59がそれぞれ、系統(N−1)の正推力プランジャ58及び負推力プランジャ59の受圧面積の2倍となる1個のプランジャからなっても良い。
【0060】
本実施形態の多段油圧比変換機構6は、出力プランジャ54が発生する制御油圧の大きさを多段階に変化させるべく、油圧プランジャ対の正推力プランジャ58及び負推力プランジャ59への油圧供給源3からの供給油圧P0の油圧供給状態を切り換えるための切換手段を備えている。この切換手段は、各正推力プランジャ58の正推力側油室60及び各負推力プランジャ59の負推力側油室61に導通する油圧回路に設けたポペット弁群を含む出力変位感応弁セット34を有する。
【0061】
本実施形態では、各系統毎の油圧プランジャ対の正推力側油室60及び負推力側油室61への油圧供給状態を、それら正推力側油室60及び負推力側油室61が導通する油圧回路に設けたポペット弁群の開閉操作によって、各系統の油圧プランジャ間の適切な相互関係に基いたタイミングで変化させることで、これらの油圧プランジャ対の設置系統数Nに対して、制御対象プランジャ対群51の統合油圧推力値を均等に(2(N+1)−1)段階に変化させ、その多段階に変化する統合油圧推力値を受けるフローティング部材49に設けた出力用プランジャ対50の基準推力側油室57と出力側油室20との間の油圧差圧変化として多段油圧比変化を得る仕組みになっている(図7参照)。
【0062】
なお、図1〜図3では、制御対象プランジャ対群51の設置系統数Nを4系統(31段階切換え)で構成した例を示してあるが、この設置系統数Nは、システム全体の要求性能レベルに応じた任意の値でよい。
【0063】
ここで、受圧面積が最も小さい系統1の油圧プランジャ対(正推力プランジャ58、負推力プランジャ59)の受圧面積をSc1とすると、系統Nの油圧プランジャ対の受圧面積Scnは、Scn=Sc1×2(N-1)であって、N系統全ての油圧プランジャ対の受圧面積の総和Sctは、Sct=Sc1×(2N−1)となる。そのため、これらの制御対象プランジャ対群51の統合油圧推力が最小となるのは、全ての油圧プランジャ対の正推力側油室60が油圧開放状態で、且つ、全ての油圧プランジャ対の負推力側油室61が油圧供給状態となった場合で、供給油圧をP0とすると、そのときの制御対象プランジャ対群51の統合油圧推力Fceminは、Fcemin=−P0×Sctとなる。一方、制御対象プランジャ対群51の統合油圧推力が最大となるのは、全ての油圧プランジャ対の正推力側油室60が油圧供給状態で、全ての油圧プランジャ対の負推力側油室61が油圧開放状態となった場合で、そのときの制御対象プランジャ対群51の統合油圧推力Fcemaxは、Fcemax=P0×Sctとなる。
【0064】
この制御対象プランジャ対群51の統合油圧推力の変化を、受圧面積Sceの出力用プランジャ対50(基準推力プランジャ53、出力プランジャ54)で受けると、出力用プランジャ対50の基準推力側油室57と出力側油室20との間には、制御対象プランジャ対群51の統合油圧推力Fceに対してdPc=Fce/Sceの油圧差圧が生じる。
【0065】
そして、変換比制御部材5に連結設置された基準推力油圧ピストン機構8の変換比制御部材側油室18の受圧面積をSciとし、この変換比制御部材側油室18に多段油圧比変換機構6による油圧差圧dPcを導いておき、多段油圧比変換機構6を出力変換部材11の移動変位に応じて制御する構造にしておく。そうすると、その油圧差圧dPcによる油圧推力の値は、出力変換部材11の移動変位位相がストローク容量の下限側から上限側までストロークする間に、最小値Fcimin=dPcmin×Sci=(−P0×Sct×Sci)/Sceから、最大値Fcimax=dPcmax×Sci=(P0×Sct×Sci)/Sceまで(2(N+1)−1)段階に均等変化することになる。
【0066】
そして、第二バネ要素13のバネ定数をK1とし、出力変換部材11のストローク容量を±Leとし、基準位相において第二バネ要素13が変換比制御部材5に及ぼす推力Fs1がゼロとなる設定にしておく。そうすると、出力変換部材11の移動変位位相が下限側から上限側までストロークする間の第二バネ要素13の推力変化が変換比制御部材5に及ぼす推力Fs1は、出力変換部材11の移動変位によって、最小値Fs1min=−K1×Leから、最大値Fs1max=K1×Leまで変化することになる。
【0067】
そこで、これらの出力変換部材11のストローク容量±Le及び第二バネ要素13のバネ定数K1と、多段油圧比変換機構6の受圧面積Sce、Sct及びその多段油圧比変換機構6の出力差圧dPcが導かれている基準推力油圧ピストン機構8の変換比制御部材側油室18の受圧面積Sciとの相互関係を、K1×Le=(P0×Sct×Sci)/Sceとなる関係に設定して、第二油圧バネ13による推力と基準推力油圧ピストン機構8による推力とが対向するように構成すれば、出力変換部材11の移動変位に伴う第二バネ要素13の推力変化が、変換比制御部材5に及ぼす推力変化を、多段油圧比変換機構6の出力差圧が導かれている基準推力油圧ピストン機構8の油圧推力の多段変化によって相殺する関係になり、この相殺の結果、変換比制御部材5に作用する正味の推力変化を極めて僅かな値に抑制できる。
【0068】
ちなみに、本実施形態の多段油圧比変換機構6の原理上、その油圧比の段階変化をもたらす制御対象プランジャ対群51の正推力側油室60及び負推力側油室61への油圧供給状態を切り換える出力変位感応弁セット34のポペット弁群の開閉制御則として、同一油圧回路系に設置された、油圧供給回路21との導通を制御するポペット弁(油圧供給ポペット弁)と、油圧開放オイルタンク62に連なる油圧開放回路63との導通を制御する別のポペット弁(油圧開放ポペット弁)とが、同時開弁してしまうと、油圧供給回路21の作動油が油圧開放回路63側に一気に流出してしまう問題が生じる。そのため、ポペット弁の開閉制御機構の構成部品の製造寸法公差を加味しても同時開弁の事態に陥らないように、両ポペット弁の開閉タイミングの相互関係として、必ず両ポペット弁共に閉弁状態である領域を挟んで、何れか一方のポペット弁を開弁させるように制御する。この両ポペット弁共に閉弁状態である領域における油圧プランジャ対の正推力側油室60内及び負推力側油室61内の作動油の出入りを規制するチェック弁セット64の作用により、この両ポペット弁共に閉弁状態である領域の油圧特性は、多段油圧比変換機構6の出力用プランジャ対50の基準推力側油室57内及び出力側油室20内の作動油の出入り方向挙動に依存したヒステリシス特性となる(図7参照)。
【0069】
例えば、制御対象プランジャ対群51の全ての油室(正推力側油室60、負推力側油室61)に導通する油圧回路に設置された油圧供給ポペット弁が閉弁状態で、油圧開放ポペット弁が開弁状態である場合、制御対象プランジャ対群51の全ての油室(正推力側油室60、負推力側油室61)が油圧開放状態にあるので、これらの制御対象プランジャ対群51の統合油圧推力はゼロの状態にある。
【0070】
この状態から、系統1〜系統(N−1)の油圧プランジャ対の負推力側油室61に導通する油圧回路に設置された油圧開放ポペット弁と、系統Nの油圧プランジャ対の正推力側油室60に導通する油圧回路に設置された油圧開放ポペット弁とを一斉に閉弁した後、系統1〜系統(N−1)の油圧プランジャ対の正推力側油室60に導通する油圧回路に設置された油圧供給ポペット弁と、系統Nの油圧プランジャ対の負推力側油室61に導通する油圧回路に設置された油圧供給ポペット弁とを一斉に開弁すると、系統Nの油圧プランジャ対の油圧推力値は、受圧面積がSc1×2(N-1)であるから、P0×Sc1×2(N-1)となり、残りの系統の油圧プランジャ対の油圧推力値の総和は、受圧面積がSc1×(2N−1−2(N-1))であるから、−P0×Sc1×(2N−1−2(N-1))となり、制御対象プランジャ対群51全体の統合油圧推力値は、ゼロの状態からP0×Sc1に1段分変化する。
【0071】
しかし、この1段分の変化の切り換え過程において、系統1〜系統(N−1)の油圧プランジャ対の負推力側油室61に導通する油圧回路に設置された油圧開放ポペット弁と、系統Nの油圧プランジャ対の正推力側油室60に導通する油圧回路に設置された油圧開放ポペット弁とを一斉に閉弁した段階では、これらの油室に導通する油圧供給ポペット弁及び油圧開放ポペット弁が共に閉弁状態である状況で、各油室60、61内の作動油の出入り自由度としては、系統1〜系統(N−1)の油圧プランジャ対の負推力側油室61と系統Nの油圧プランジャ対の正推力側油室60との間の相互移動、各油室60、61からチェック弁セット64を経由して油圧供給回路21側へ流出する移動、チェック弁セット64を経由して油圧開放回路63側から各油室60、61内に流入する移動のみが許容されている状況になる。
【0072】
この状況下で、制御対象プランジャ対群51を支持しているフローティング部材49が、制御対象プランジャ対群51の正推力方向(図1中の右方向)に移動しようとすると、系統1〜系統(N−1)の油圧プランジャ対の負推力側油室61内の作動油が押し出され、系統Nの油圧プランジャ対の正推力側油室60に流入する。系統1〜系統(N−1)の油圧プランジャ対の総受圧面積より系統Nの油圧プランジャ対の受圧面積がSc1だけ大きいので、系統1〜系統(N−1)の油圧プランジャ対の容積変化よりも系統Nの油圧プランジャ対の方が大きく、この差分容積変化を補填するために、それまで閉弁していたチェック弁セット64を経由して作動油が油圧開放回路63側から流入することになるから、この系統1〜系統(N−1)の油圧プランジャ対の負推力側油室61と、系統Nの油圧プランジャ対の正推力側油室60内の油圧は、開放状態となり、統合油圧推力値がゼロの変化前の状態と等価になる。
【0073】
逆に、制御対象プランジャ対群51を支持しているフローティング部材49が、制御対象プランジャ対群51の負推力方向(図1中の左方向)に移動しようとすると、系統Nの油圧プランジャ対の正推力側油室60内の作動油が押し出され、系統1〜系統(N−1)の油圧プランジャ対の負推力側油室61に流入する。系統1〜系統(N−1)の油圧プランジャ対の総受圧面積より系統Nの油圧プランジャ対の受圧面積がSc1だけ大きいので、系統1〜系統(N−1)の油圧プランジャ対の容積変化よりも系統Nの油圧プランジャ対の方が大きく、この差分剰余容積分の作動油が、それまで閉弁していたチェック弁セット64を経由して油圧供給回路21側に流出することになるから、この系統1〜系統(N−1)の油圧プランジャ対の負推力側油室61内の油圧、及び、系統Nの油圧プランジャ対の正推力側油室60内の油圧は、油圧供給状態と等価になり、統合油圧推力値がP0×Sc1の変化後の状態と等価になる。
【0074】
つまり、多段油圧比変換機構6による多段変化の段間切り換えプロセスにおける、出力変位感応弁セット34の両ポペット弁共に閉弁状態となる領域の出力差圧特性は、その領域を挟む前後の領域状態の中間的な特性状態であって、その出力差圧を受けて動作する出力先の基準推力油圧ピストン機構8のピストン16が、上段側に変化したときの推力方向に移動しようとすると、下段側の差圧状態となり、逆の場合は上段側の差圧状態となる、出力先の応動方向依存のヒステリシス特性領域となる。
【0075】
これを踏まえて、図1の実施形態において変換比制御部材5に作用する推力変化特性を詳細に考察してみる。
【0076】
図1に示すような、第一バネ要素12、第二バネ要素13、第三バネ要素14の全てが移動軸線方向推力がゼロである状態を中間の基準位相とし、この基準位相からの出力変換部材11のストローク容量を±Leとし、基準位相からの変換比制御部材5のストローク容量を±Liとし、第二バネ要素13のバネ定数をK1とし、第一バネ要素12及び第三バネ要素14のバネ定数を−K1とし、多段油圧比変換機構6の制御対象プランジャ対群51の系統数をN、その制御対象プランジャ対群51による油圧変化の総段数をNc(=2(N+1)−1)段とし、系統1の油圧プランジャ対の受圧面積をSc1とし、出力用プランジャ対50の受圧面積をSceとし、変換比制御部材5に連結された基準推力油圧ピストン機構8の変換比制御部材側油室18の受圧面積をSciとする。
【0077】
ちなみに、この諸元での多段油圧比変換機構6の制御対象プランジャ対群51の各系統の受圧面積の総和の値は、Sct=Sc1×(2N−1)になる。
【0078】
この設定において、基準位相状態では、各バネ要素(第一バネ要素12、第二バネ要素13、第三バネ要素14)共に移動軸線方向推力がゼロであるから、バネ要素によって出力変換部材11に作用する推力はゼロである。また、その出力変換部材11の位置位相がストローク容量の中間の基準位相であるので、多段油圧比変換機構6の制御位相状態は、Nc段変化の中央、つまり、制御対象プランジャ対群51の全ての油室が油圧開放状態で、制御対象プランジャ対群51の統合油圧推力値もゼロの状態にある。そのため、出力用プランジャ対50の基準推力側油室57と出力側油室20との間の差圧もゼロで、基準推力油圧ピストン機構8の差圧推力もゼロになるから、変換比制御部材5への正味作用力はゼロの状態で釣り合っている。
【0079】
この基準位相状態から変換比制御部材5のみを±Liの範囲で移動させると(図2参照)、第二バネ要素13及び第三バネ要素14が共に±Liの変位をするが、両バネ要素(第二バネ要素13、第三バネ要素14)のバネ反力は相殺するので変換比制御部材5の正味作用力は常にゼロのままである。そのため、変換比制御部材5の移動操作は全域無負荷で実行されるのに対し、出力変換部材11には第二バネ要素13のバネ反力のみが作用するので、±Li×K1の範囲の連続的な推力変化が生じる。
【0080】
これに対し、基準位相状態から出力変換部材11のみが±Leの範囲で移動した場合(図3参照)、第一バネ要素12及び第二バネ要素13が共に±Leの変位を受けるので、両バネ要素(第一バネ要素12、第二バネ要素13)のバネ反力が相殺する出力変換部材11の正味作用力もゼロのままで出力油圧状態は全域不変である。一方、変換比制御部材5に作用するバネ要素による推力変化は、第二バネ要素13のバネ反力のみであるから、±Le×K1の範囲の連続的な推力変化となるのであるが、これと同期して、出力変換部材11の移動変位によって多段油圧比変換機構6(変位増幅油圧ピストン機構27、出力変位感応弁セット34)の制御位相が連動変化するので、その出力差圧の段階的変化により基準推力油圧ピストン機構8の差圧推力の値も段階的に変化して、変換比制御部材5に作用する。
【0081】
そして、諸元関係としてK1×Le=(P0×Sct×Sci)/Sceとなる設定で、出力変換部材11の移動変位の下限位相である−Leの変位位相において、多段油圧比変換機構6の全ての制御対象プランジャ対群51の負推力側油室61が油圧供給状態となり、出力変換部材11の移動変位の上限位相である+Leの変位位相においては、多段油圧比変換機構6の全ての制御対象プランジャ対群51の正推力側油室60が油圧供給状態となる制御位相関係に設定して、その出力変換部材11の下限位相から上限位相に至る間でNc(=2(N+1)−1)段の均等多段変化制御としておけば、各制御段の中間位相毎に、変換比制御部材5に作用する第二バネ要素13のバネ反力の値と、多段油圧比変換機構6の出力差圧が導かれている基準推力油圧ピストン機構8の差圧推力の値が完全に相殺して、変換比制御部材5に作用する正味推力がゼロになる。
【0082】
この均等多段変化制御において各々、変換比制御部材5に作用する正味推力がゼロになるストローク位相間のストローク幅Lpは、Lp=Le/(2N−1)となり、この各段間領域中に、その多段変化の切り換りプロセス領域として、出力変位感応弁セット34の両ポペット弁(油圧供給ポペット弁、油圧開放ポペット弁)共に閉弁状態となるヒステリシス領域が設定されるのであるが、その領域設定幅のストローク幅Lpに対する比率をChとすると、変換比制御部材5に作用する正味推力がゼロになる各制御段の中間位相から((1−Ch)×Le)/((2N−1)×2)だけ変位した時点でヒステリシス領域となり、そこから更に(Ch×Le)/((2N−1)×2)だけ変位するとヒステリシス領域の中間位相で、そこから更に(Ch×Le)/((2N−1)×2)だけ変位した時点で完全な隣接段に移行するプロセスを辿る。
【0083】
参考に、系統数N=2の構成による7段制御の場合の、この関係の概念図を図8に示す。
【0084】
図8から分かるように、各段毎の変換比制御部材5に作用する正味推力の釣り合い点の状態を基準にすると、その状態から出力変換部材11が((1−Ch)×Le)/((2N−1)×2)だけ変位した時点での第二バネ要素13のバネ反力は(K1×(1−Ch)×Le)/((2N−1)×2)だけ変化するのに対し、基準推力油圧ピストン機構8の差圧推力の値は変化していないので、その正味推力として(K1×(1−Ch)×Le)/((2N−1)×2)だけの推力が変換比制御部材5に作用することになる。この時点で変換比制御部材5を所望の制御位相に保持するには、この(K1×(1−Ch)×Le)/((2N−1)×2)だけの制御操作力が必要になる。
【0085】
その状態から更に僅かに出力変換部材11が変位してヒステリシス領域に突入した場合、第二バネ要素13のバネ反力が更に僅かに増して、それまでの制御保持力バランスが崩れ、変換比制御部材5が第二バネ要素13のバネ反力増加方向に移動しようとするが、その方向の変位挙動は、多段油圧比変換機構6の出力差圧に抗して押し戻す方向になるので、ヒステリシス領域の特性上、自動的に多段油圧比変換機構6の出力差圧が1段増した状態に増強されて、その変換比制御部材5の変位挙動を抑え込む挙動となる。
【0086】
この基準推力油圧ピストン機構8のヒステリシス領域における差圧推力の自動増強量は、差圧推力の段階変化の1段分で、(K1×Le)/(2N−1)になるから、最初の釣り合い中間位相から((1+Ch)×Le)/((2N−1)×2)だけ変位したヒステリシス領域の終端位相においても、その変位挙動抑制能力には(K1×(1−Ch)×Le)/((2N−1)×2)だけの余力が残り、このヒステリシス領域全域が、それまでの制御保持力(K1×(1−Ch)×Le)/((2N−1)×2)を増すことなく制御位相を保持できる領域になる。
【0087】
そして、更に出力変換部材11が変位してヒステリシス領域を超えると、基準推力油圧ピストン機構8の差圧推力は、初期の釣り合い位相に対して(K1×Le)/(2N−1)だけ増した状態に変化する。そのヒステリシス領域を超える時点での第二バネ要素13のバネ反力は、初期の釣り合い位相に対して(K1×(1+Ch)×Le)/((2N−1)×2)だけ増した状態にある。そのため、この境界点では、第二バネ要素13のバネ反力より基準推力油圧ピストン機構8の差圧推力の方が(K1×(1−Ch)×Le)/((2N−1)×2)だけ上回ることになり、変換比制御部材5は第二バネ要素13のバネ反力増加方向の逆方向に移動しようとするので、この変位位相で変換比制御部材5を所望の制御位相に保持するには、ヒステリシス領域の入り口位相における制御操作力と逆向きで同じ値の−(K1×(1−Ch)×Le)/((2N−1)×2)だけの制御操作力が必要になり。その状態から更に出力変換部材11の変位が増すに従い、第二バネ要素13のバネ反力が増してくるので、制御位相保持に要する制御操作力は減ってゆき、初期の釣り合い位相からLe/(2N−1)だけ変位した位相で、再度、初期の釣り合い位相と同様の釣り合い状態となる。
【0088】
つまり、変換比制御部材5を所望の制御位相に保持しようとしている状況で、出力変換部材11がストローク移動すると、そのストローク移動量でLe/(2N−1)毎の周期で、変換比制御部材5の制御位相保持に要する制御操作力は±(K1×(1−Ch)×Le)/((2N−1)×2)だけの変動を繰り返す制御操作負荷特性となる。
【0089】
次に、出力変換部材11のストローク位相が様々な位相で留まっている状況下で、変換比制御部材5を所望の制御位相に移動させようとする際の必要制御操作力について考察する。
【0090】
出力変換部材11が、第二バネ要素13のバネ反力と基準推力油圧ピストン機構8の差圧推力とが釣り合い状態にあるストローク位相に留まっている状況下では、変換比制御部材5に作用している正味推力はゼロである。この状態から変換比制御部材5をどのように移動させても、その移動変位による第二バネ要素13のバネ反力の変動値と第三バネ要素14のバネ反力の変動値とが常に相殺するので、この状況下では、制御操作の全域で変換比制御部材5の必要制御操作力はゼロの無負荷制御特性になる。
【0091】
そして、出力変換部材11のストローク位相がヒステリシス領域の入り口位相に留まっている状況下では、変換比制御部材5を第二バネ要素13のバネ反力増加方向に移動させようとすると、基準推力油圧ピストン機構8の差圧推力が第二バネ要素13のバネ反力より(K1×(1−Ch)×Le)/((2N−1)×2)だけ下回った値に変化する。そのため、(K1×(1−Ch)×Le)/((2N−1)×2)だけの移動負荷を伴った制御特性となり、逆に変換比制御部材5を第二バネ要素13のバネ反力減少方向に移動させようとすると、基準推力油圧ピストン機構8の差圧推力が第二バネ要素13のバネ反力より(K1×(1+Ch)×Le)/((2N−1)×2)だけ上回った値に変化するので、(K1×(1+Ch)×Le)/((2N−1)×2)だけの移動負荷を伴った制御特性となる。
【0092】
同様に、出力変換部材11のストローク位相がヒステリシス領域の出口位相に留まっている状況下では、変換比制御部材5を第二バネ要素13のバネ反力増加方向に移動させようとすると、基準推力油圧ピストン機構8の差圧推力が第二バネ要素13のバネ反力より(K1×(1+Ch)×Le)/((2N−1)×2)だけ下回った値に変化するので、(K1×(1+Ch)×Le)/((2N−1)×2)だけの移動負荷を伴った制御特性となり、逆に変換比制御部材5を第二バネ要素13のバネ反力減少方向に移動させようとすると、基準推力油圧ピストン機構8の差圧推力が第二バネ要素13のバネ反力より(K1×(1−Ch)×Le)/((2N−1)×2)だけ上回った値に変化するので、(K1×(1−Ch)×Le)/((2N−1)×2)だけの移動負荷を伴った制御特性となる位置位相になる。
【0093】
ちなみに、出力変換部材11のストローク位相がヒステリシス領域の中間位相に留まっている状況下では、この状態から変換比制御部材5を第二バネ要素13のバネ反力増加方向に移動させようとする際には、基準推力油圧ピストン機構8の差圧推力が第二バネ要素13のバネ反力より(K1×Le)/((2N−1)×2)だけ下回った値に変化するので、(K1×Le)/((2N−1)×2)だけの移動負荷を伴った制御特性となり、逆に変換比制御部材5を第二バネ要素13のバネ反力減少方向に移動させようとすると、基準推力油圧ピストン機構8の差圧推力が第二バネ要素13のバネ反力より(K1×Le)/((2N−1)×2)だけ上回った値に変化するので、(K1×Le)/((2N−1)×2)だけの移動負荷を伴った制御特性となる位置位相になる。
【0094】
つまり、本実施形態において、あらゆるストローク位相状況下で、変換比制御部材5を確実に所望の制御位相位置に移動させるのに必要な制御操作力は、多段変化の段間幅Le/(2N−1)内に設定するヒステリシス領域幅の比率をChとすると、±(K1×(1+Ch)×Le)/((2N−1)×2)の範囲内で変動することになる。
【0095】
従って、例えば、本実施形態に係る調圧装置1を用いた油圧アクチュエータシステムの、出力アクチュエータの最大推力容量を±Faとし、ストローク容量を±Laとした場合、出力変換部材11に求められる最大推力Femaxは、Femax=(Fa×La)/Leであり、この最大推力Femaxを制御ストローク容量±Liで発揮させるための第二バネ要素13のバネ定数はK1=(Fa×La)/(Le×Li)となるから、出力アクチュエータを最大推力でフルストロークさせる場合に要する最大制御操作力は、(Fa×La×(1+Ch))/(Li×(2N−1)×2)となる。
【0096】
ちなみにこれを、本発明の原理に依らず、単に静圧変換調圧機構4のみで構成した場合と比較してみると、変換比制御部材5が上限の+Liの位相にあって、出力変換部材11のストローク位相が下限の−Leの位置にあるとき、変換比制御部材5には(Le+Li)×K1=((Le+Li)×Fa×La)/(Le×Li)の移動推力が作用し、これが最大制御操作力となる。一方、これに対する本発明の原理を適用したときの制御操作力の比は(1+Ch)/(2×(1+Li/Le)×(2N−1))となり、例えばCh=1/2、Li=Leに設定した場合には、3/(8×(2N−1))になる。そのため、多段油圧比変換機構6の制御対象プランジャ対群51の設置系統数Nの構成を6系統として127段階の調圧機能を与えた場合には最大制御操作力を1/168にも大幅に抑制できることが判る。
【0097】
従って、油圧アクチュエータシステムの出力アクチュエータの最大推力容量とストローク容量が比較的小さく、制御ストローク容量を十分確保できる場合には、動力アシストに依存しない手動操作レベルでの静圧変換アナログ調圧制御(連続的な出力油圧の変換制御)を実現することが可能になる。
【0098】
例えば、出力アクチュエータの最大推力容量を±100kg、ストローク容量を±150mm、制御ストローク容量を±150mmと想定し、Ch=1/2に設定して、多段油圧比変換機構6の制御対象プランジャ対群51を6系統で構成した場合、最大制御操作力は、1.2kg弱で済むので、手動操作レベルで十分制御可能な静圧変換油圧アクチュエータシステムが実現する。
【0099】
ところで、このような飛躍的な最大制御操作力の抑制効果をもってしても、油圧推力のレベルは強大であるので、出力アクチュエータの最大推力容量とストローク容量を大きく設定し、制御ストローク容量を小さく抑えようとすると、その最大制御操作力の値は、直接的な手動操作では無理なレベルに達することもある。
【0100】
このような大出力容量諸元においても、手動操作レベルの制御力で、出力アクチュエータ推力を任意の値に調整可能にするには、この制御挙動において変換比制御部材5に作用する、第二バネ要素13のバネ反力と基準推力油圧ピストン機構8の差圧推力との不釣合い力が、変換比制御部材5の所望の方向への移動抵抗力として作用する状況を補完する仕組みを追加することが考えられる。
【0101】
つまり、制御挙動において変換比制御部材5に作用する、第二バネ要素13のバネ反力と基準推力油圧ピストン機構8の差圧推力との不釣合い力は、出力アクチュエータのストローク移動に対して、周期的にその作用方向が反転する変動特性で、その不釣合い力の絶対値の最大値が(Fa×La×(1+Ch))/(Li×(2N−1)×2)なのであるから、これと同等以上の油圧推力を変換比制御部材5を移動させたい所望の方向に応じて作用させてやれば、操作力をほとんど要さずに、確実に変換比制御部材5を所望の方向へ移動させることが可能になる。
【0102】
この具体的な対処構造としては、例えば、図9〜図11に示すように、多段油圧比変換機構6のマルチ推力合成プランジャ機構52に、もう1系統の推力制御用の油圧プランジャ対(制御力補完プランジャ対65)を追加し、その制御力補完プランジャ対65の正推力側油室66及び負推力側油室67への油圧供給状況を、変換比制御部材5を移動させたい所望の方向に応じて変化させる油圧回路切換弁機構68を設けてやればよい。
【0103】
即ち、図9に示す実施形態に係る多段油圧比変換機構6は、変換比制御部材5の直接的な制御操作力として、供給油圧による油圧推力を用い、その油圧推力の作用方向を、油圧回路切換弁機構68の操作によって切換えるものである。
【0104】
図9に示す実施形態に係る油圧回路切換弁機構68は、4個のポペット弁69〜72と、それらポペット弁69〜72の開閉制御機構とを有し、4個のポペット弁69〜72は、制御力補完プランジャ対65の正推力側油室66及び負推力側油室67の各々に対して、油圧開放回路63との導通遮断を担う油圧開放弁と、油圧供給回路21との導通遮断を担う油圧供給弁として割り当てられる。
【0105】
即ち、図9に示す実施形態に係る油圧回路切換弁機構68は、制御力補完プランジャ対65の正推力側油室66と油圧開放回路63とを接続する正側開放回路75と、正側開放回路75を開閉する正側油圧開放弁71と、制御力補完プランジャ対65の正推力側油室66と油圧供給回路21とを接続する正側供給回路76と、正側供給回路76を開閉する正側油圧供給弁72と、制御力補完プランジャ対65の負推力側油室67と油圧開放回路63とを接続する負側開放回路73と、負側開放回路73を開閉する負側油圧開放弁69と、制御力補完プランジャ対65の負推力側油室67と油圧供給回路21とを接続する負側供給回路74と、負側供給回路74を開閉する負側油圧供給弁70とを有する。
【0106】
図9に示した実施形態では、手動操作による直接的な制御操作対象は油圧回路切換弁機構68のポペット弁開閉制御カム部材(図示せず)となり、このポペット弁開閉制御カム部材を移動変位させることで油圧回路切換弁機構68のポペット弁の開閉状況を変化させ、制御力補完プランジャ対65の正推力側油室66及び負推力側油室67の内のどちらに油圧を供給するのかを切り換える制御構造となる。
【0107】
油圧回路切換弁機構68のポペット弁開閉制御カム部材の制御位相が中立位相にあるとき、上記の4個のポペット弁69〜72は全て閉弁状態にあり、ポペット弁開閉制御カム部材を増圧制御方向に移動させると、制御力補完プランジャ対65の正推力側油室66に連なる正側油圧供給弁72、及び、負推力側油室67に連なる負側油圧開放弁69の二つが開弁し、減圧制御方向に移動させると、制御力補完プランジャ対65の正推力側油室66に連なる正側油圧開放弁71、及び、負推力側油室67に連なる負側油圧供給弁70の二つが開弁するように構成されている。
【0108】
この構成により、ポペット弁開閉制御カム部材の制御位相が中立位相にあるとき、制御力補完プランジャ対65の正推力側油室66及び負推力側油室67の双方共に作動油の出入り自由度が閉塞状態にあるので、多段油圧比変換機構6のマルチ推力合成プランジャ機構52のストローク変位が拘束状態にあり、その出力用プランジャ対50の出力側油室20に連なる基準推力油圧ピストン機構8のストローク変位もまた拘束状態となっている。そのため、この状況下では変換比制御部材5のストローク位相は固定状態となり、出力アクチュエータの推力状態は、そのストローク位相に拘らず変化しない。
【0109】
ここで、ポペット弁開閉制御カム部材の制御位相を増圧制御方向に移動させると、制御力補完プランジャ対65の正推力側油室66に連なる正側油圧供給弁72と、制御力補完プランジャ対65の負推力側油室67に連なる負側油圧開放弁69の二つが開弁するので、制御力補完プランジャ対65には正方向の油圧推力が発生し、その大きさFpは、その受圧面積をSpとすると、Fp=P0×Spとなり、マルチ推力合成プランジャ機構52の出力用プランジャ対50の基準推力側油室57と出力側油室20との間の差圧値がFp/Sceだけ変化するので、基準推力油圧ピストン機構8の差圧推力が(P0×Sp×Sci)/Sceだけ増圧移動方向に加算されることになる。一方、ポペット弁開閉制御カム部材の制御位相を減圧制御方向に移動させた場合には、基準推力油圧ピストン機構8の差圧推力が(P0×Sp×Sci)/Sceだけ減圧移動方向に加算されることになる。
【0110】
図1に示す実施形態の場合に変換比制御部材5に作用する最大不釣合い力は(K1×(1+Ch)×Le)/((2N−1)×2)であったが、関係式Le×K1=(P0×Sct×Sci)/SceとSct=Sc1×(2N−1)を代入すれば(P0×Sc1×Sci×(1+Ch))/(Sce×2)となる。
【0111】
従って、図9に示す実施形態において、制御力補完プランジャ対65の受圧面積をSp>(Sc1×(1+Ch))/2となるように設定しておけば、変換比制御部材5に作用する正味推力は、油圧回路切換弁機構68のポペット弁開閉制御カム部材の制御位相を増圧制御方向に移動させたとき、出力アクチュエータのストローク位相に拘らず、図9で左方向に作用し、油圧回路切換弁機構68のポペット弁開閉制御カム部材の制御位相を減圧制御方向に移動させたときには図9で右方向に作用する。そのため、その正味推力の作用で変換比制御部材5が自律的に所望の油圧比変化方向に移動運動し、所望の制御油圧に到達した時点でポペット弁開閉制御カム部材を中立位相に戻せば、その時点のストローク位相位置で変換比制御部材5が固定されるから、油圧比を所望の値に自在に制御できる。
【0112】
そして、この制御方式の場合に要する直接的な制御操作力は、出力アクチュエータの出力容量に拘らず、油圧回路切換弁機構68のポペット弁開閉制御カム部材を移動させるだけの極めて僅かな力で、且つ、その操作ストローク量も極めて僅かな量で済むので、手動操作で自在に制御可能な調圧装置2が実現する。
【0113】
ちなみに、この制御力補完型の制御方式の場合、その制御動作において、その制御力補完エネルギー相当の供給油圧が消費されることになるが、その消費量は、補完制御推力の大きさに比例するので、本発明に依らず、単に静圧変換調圧機構4のみで構成した場合と比較すると、その(1+Ch)/(2×(1+Li/Le)×(2N−1))の制御エネルギー消費量となり、極めて僅かなエネルギー消費で無負荷操作制御できることが判る。
【0114】
以上要するに、上記の実施形態によれば、供給油圧を任意の出力油圧に連続的に変換する静圧変換調圧機構4において原理的に避け得ない、出力油の出入り挙動に伴う大きな静圧変換比制御反力変動を大幅に低減できるので、その調圧制御操作を動力アシストに依存しない手動で操作可能な調圧装置1、2が実現できる。
【0115】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態には限定されず他の様々な実施形態を採ることが可能である。
【0116】
例えば、上記の実施形態では、油圧バネ要素(第一バネ要素12、第二バネ要素13、第三バネ要素14)の組み合わせで構成した静圧変換調圧機構4に多段油圧比変換機構6を組み合わせた構成例に基づいて、本発明による作用を説明したが、本発明の原理による効果は、その静圧変換調圧機構4の構造形式の如何に拘らずもたらされるものである。例えば、図12に示すような揺動レバー型の静圧変換調圧機構80に本発明を適用することもできる。図12に示すような揺動レバー型の静圧変換調圧機構80に本発明を適用する場合には、揺動レバー型の静圧変換調圧機構80において油圧比変化をもたらす変換比制御部材は、入出力油圧推力を揺動レバー(遥動部材)84に作用させる半径位置を決める可動部材(スライダ)85であり、出力変換部材のストローク位相に相当するのが、揺動部材84の揺動角位相である。そのため、この揺動部材84の揺動角位相によって変化する可動部材85の移動推力変動に対抗する油圧推力発生ピストン機構(油圧推力発生機構要素)を設置しておいて、その油圧推力発生ピストン機構の油室に、多段油圧比変換機構を揺動部材84の揺動角位相に応じて制御して得られる油圧差圧の多段変化を導いておく構成にすれば、上記の実施形態と全く同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0117】
1 調圧装置
2 調圧装置
4 静圧変換調圧機構
5 変換比制御部材
6 多段油圧比変換機構
7 油圧回路
8 基準推力油圧ピストン機構(油圧推力発生機構要素)
9 出力油圧ピストン機構
10 固定部材
11 出力変換部材
12 第一バネ要素
13 第二バネ要素
14 第三バネ要素
65 制御力補完プランジャ対
68 油圧回路切換弁機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給油圧を任意の出力油圧に変換する静圧変換調圧機構と、出力油の出入り挙動に伴って上記静圧変換調圧機構の変換比制御部材に発生する移動力と対抗する方向の油圧推力を発生する油圧推力発生機構要素と、出力油の出入り挙動と連動して供給油圧を多段階の制御油圧に静圧変換する多段油圧比変換機構と、該多段油圧比変換機構の多段階の制御油圧を上記油圧推力発生機構要素に導いておくことで、上記変換比制御部材に発生する移動力変動を相殺するための油圧回路とを備えたことを特徴とする調圧装置。
【請求項2】
上記多段油圧比変換機構は、上記変換比制御部材の直接的な制御操作力として、供給油圧による油圧推力を用い、その油圧推力の作用方向を、油圧回路切換弁機構の操作によって切換える請求項1に記載の調圧装置。
【請求項3】
上記油圧推力発生機構要素は、上記多段油圧比変換機構を構成するマルチ推力合成プランジャ機構の中に組み込んだ推力制御用のプランジャ対を有する請求項2に記載の調圧装置。
【請求項4】
上記静圧変換調圧機構は、供給油圧を受けて一定の基準油圧推力を発生する基準推力油圧ピストン機構と、該基準推力油圧ピストン機構に対して対向設置され、上記基準推力油圧ピストン機構の基準油圧推力を出力油圧に変換する出力油圧ピストン機構と、上記基準推力油圧ピストン機構と上記出力油圧ピストン機構との間に設置される出力変換部材と、入力要素である上記基準推力油圧ピストン機構の基準油圧推力に増減変化を加えるために、上記出力変換部材の移動方向に沿って固定部材に対してストローク運動可能に設けられる上記変換比制御部材と、上記出力変換部材と上記固定部材との間に介設される第一バネ要素と、上記出力変換部材と上記変換比制御部材との間に介設され、上記第一バネ要素のバネ定数とは正負が逆の関係のバネ定数をもつ第二バネ要素と、上記変換比制御部材と上記固定部材との間に介設され、上記第二バネ要素のバネ定数とは正負が逆の関係のバネ定数をもつ第三バネ要素とを有する請求項1から3のいずれかに記載の調圧装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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