調整ユニット
【課題】簡易な構成でワイヤの剛性を調整できるとともに、ワイヤに対して簡単に取り付けることができる調整ユニットを提供できるようにすることを目的とする。
【解決手段】調整ユニット10では、第2の支持部材12の挿通孔31と、圧縮コイルばね13の空芯領域G2とを通過させたワイヤWの湾曲部W1を、第1の支持部材11の係止部23に係止させるようにしたことで、分品点数が少なく簡易な構成でワイヤの剛性を調整できるとともに、ワイヤWを張架させた状態のまま、当該ワイヤWに対して簡単に取り付けることができる。
【解決手段】調整ユニット10では、第2の支持部材12の挿通孔31と、圧縮コイルばね13の空芯領域G2とを通過させたワイヤWの湾曲部W1を、第1の支持部材11の係止部23に係止させるようにしたことで、分品点数が少なく簡易な構成でワイヤの剛性を調整できるとともに、ワイヤWを張架させた状態のまま、当該ワイヤWに対して簡単に取り付けることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調整ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人型ロボットやペットロボット等の各種ロボットにおいて、駆動モータを装置本体に配置して、回動自在に連結された関節ユニットに当該駆動モータと連動するワイヤを引き回し、駆動モータによりワイヤを引っ張ることにより関節ユニットを駆動させる腱駆動機構部を備えたロボットが考えられている(例えば、特許文献1参照)。このような腱駆動機構部は、関節ユニットから駆動モータを切り離して、駆動モータを所望の位置に設置させることができるため、関節ユニット自体の小型化や、軽量化を図ることができるという利点を有している。
【0003】
また、このような腱駆動機構部では、ワイヤの剛性調整を行うことにより、関節ユニットの滑らかな駆動が可能となるため、ソフトウェアにより駆動モータを制御して剛性調整を行ったり、或いはワイヤに設けた剛性調整ユニットによって剛性調整を行うことが考えられている(例えば、非特許文献1及び非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開7−96485号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hogan . N. Impedance control: An approach to manipulator, part1-3. Trans. ASME, Journal of Dynamic of Dynamic Systems, Measurement and Control, Vol. 107, pp. 1-24, 1985.
【非特許文献2】兵頭和人, 小林博明. 非線形バネ要素を持つ腱制御手首機構の研究. 日本ロボット学会誌, Vol. 11, No. 8, pp. 1244-1251, 1993.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、張力センサに基づき駆動モータをソフトウェア制御して剛性調整を行う腱駆動機構部では、センサや制御部を設けた分だけ構成が複雑になるという問題や、センサフィードバックによる応答性に限界があるという問題、さらにセンサの故障により全く機能しなくなる等の問題があった。
【0007】
一方、非特許文献2における従来の剛性調整ユニットでは、弾性部材を用いてワイヤの剛性を機械的に調整可能であり、センサフィードバックによる剛性調整時よりも高速な応答を実現可能となる。しかしながら、このような剛性調整ユニットをワイヤに取り付ける際には、ワイヤを全て解いた後、当該ワイヤの先端を剛性調整ユニットに通す必要があることから、ワイヤやその他周辺部位等を分解する作業が必要となり、取付作業が煩雑であるという問題があった。
【0008】
特に、既存の腱駆動機構部に対し後から剛性調整ユニットを組み込む場合には、腱駆動機構部がワイヤやその他周辺部位を分解することを想定していないため、分解作業にも時間がかかるという問題があった。また、このような分解作業は腱駆動機構部の故障の原因にもなるため、取付作業の際には、ワイヤやその他周辺部位の分解作業を行わずに、剛性調整ユニットをワイヤに対して簡単に取り付けできることが望ましい。
【0009】
そこで、本発明は以上の点を考慮してなされたもので、簡易な構成でワイヤの剛性を調整できるとともに、ワイヤに対して簡単に取り付けることができる調整ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するため本発明の請求項1は、張架されたワイヤの張力を調整する調整ユニットにおいて、切り欠き部を有する軸部が設けられた第1の支持部材と、前記第1の支持部材と対向配置され、前記軸部が挿入可能な挿通孔を有する第2の支持部材と、らせん状でなる巻回部の空芯領域に前記軸部が配置され、前記第1の支持部材及び前記第2の支持部材を遠ざける方向に付勢する弾性部材とを備え、前記ワイヤは、曲げられて湾曲部が形成された状態で、前記第2の支持部材の挿通孔と、前記弾性部材の空芯領域とを通り、前記第1の支持部材の切り欠き部に前記湾曲部が係止され、前記第1の支持部材は、前記ワイヤが所定の力で引っ張られると、前記弾性部材の付勢力に抗して前記第2の支持部材に近づく方向へ移動することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の請求項2は、前記軸部の他端には、前記切り欠き部から挿入された前記ワイヤの湾曲部が係止部に係止され、前記係止部に係止された前記ワイヤを位置決めする凹部が設けられていることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の請求項3は、前記第1の支持部材には、前記軸部の一端につば状に突出形成され、前記切り欠き部の開口が形成された頭部を有し、前記弾性部材の一端は、前記頭部の側壁部と前記軸部との間に位置決めされ、前記弾性部材の他端は、前記第2の支持部材における前記挿通孔の周囲に形成された段差部に位置決めされることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の請求項4は、前記第2の支持部材には、張架された前記ワイヤを前記挿入孔に案内する案内溝が形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の請求項5は、前記ワイヤは、所定位置に設けられた駆動モータと、所定の可動部との間に張架されており、前記駆動モータの駆動に応じて前記可動部を駆動させる前記ワイヤの剛性の調整に用いることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1によれば、分品点数が少なく簡易な構成でワイヤの剛性を調整できるとともに、ワイヤを張架させた状態のまま、当該ワイヤに対して簡単に取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の剛性調整ユニットを腕部ユニットに取り付けたときの構成を示す概略図である。
【図2】調整ユニットの全体構成と、調整ユニットを分解したときの構成とを示す概略図である。
【図3】第2の支持部材の縦断面構成を示し断面図である。
【図4】ワイヤに調整ユニットを取り付ける手順を示す概略図である。
【図5】ワイヤに調整ユニットを取り付けた際のワイヤの引き回し経路を示す概略図である。
【図6】調整ユニットを取り付けたワイヤに張力を加えていった際の調整ユニット内部の変化の様子を示す概略図である。
【図7】ワイヤが引き回される可変経路の詳細構成を示す概略図である。
【図8】張力とワイヤの移動量との関係を示すグラフである。
【図9】張力と剛性との関係を示すグラフである。
【図10】他の実施の形態による第1の支持部材の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下図面に基づいて本発明の実施形態の一例を詳述する。
【0018】
図1において、1はロボットの腕部ユニットを示し、腕部ユニット1は、上腕部ブロック2、前腕部ブロック3及び手先部ブロック4の3つのブロックから構成され、上腕部ブロック2の上端部が肩関節機構部(図示せず)を介して胴体部ユニット(図示せず)に連結されている。
【0019】
また、腕部ユニット1は、上腕部ブロック2の下端部と前腕部ブロック3の上端部とを回動自在に連結した関節ユニット5を有し、後述する腱駆動機構部によって、上腕部ブロック2に対し当該関節ユニット5を回動軸に前腕部ブロック3が回動自在に可動され得るようになされている。
【0020】
ここで、腱駆動機構部は、胴体部ユニットに設置された駆動モータ(図示せず)と、当該駆動モータに連動して前腕部ブロック3を引っ張るワイヤWとを有している。なお、図1では、説明の便宜上、前腕部ブロック3を駆動させる腱駆動機構部にのみ着目し、当該腱駆動機構部のワイヤWのみを示している。
【0021】
実際上、このワイヤWは、例えば胴体部ユニットに設置された駆動モータから上腕部ブロック2内を通り、当該上腕部ブロック2の所定箇所から外部に露出して関節ユニット5を跨ぎ、前腕部ブロック3の所定箇所に固定されている。ワイヤWは、駆動モータに連動して引っ張られ、この引張力によって関節ユニット5を回動軸として前腕部ブロック3を回動させ得るようになされている。
【0022】
この実施の形態の場合、前腕部ブロック3を回動させるワイヤWには、本発明による調整ユニット10が設けられており、当該調整ユニット10によってワイヤWの剛性調整がなされている。加えて、肘部に取り付けるワイヤ(図示せず)に調整ユニット10を追加して剛性調整をし,ワイヤWと拮抗させることで関節ユニットの剛性調整を行う。なお、上述した実施の形態においては、前腕部ブロック3を駆動モータで回動させるワイヤWにのみ調整ユニット10を設けるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、上腕部ブロック2を駆動モータで回動させるワイヤ等その他種々のワイヤに調整ユニット10を設けるようにしてもよい。
【0023】
実際上、この調整ユニット10は、図2(A)及び(B)に示すように、第1の支持部材11と、第1の支持部材11と対向配置される第2の支持部材12と、第1の支持部材11及び第2の支持部材12間に配置される圧縮コイルばね13とから構成されている。
【0024】
第1の支持部材11は、例えば金属材料からなり、図2(B)に示すように、所定の厚みを有した有底円筒状の頭部15と、この頭部15の半径よりも小さい半径でなる円柱状の軸部16とを有し、頭部15の中心部と軸部16の中心軸とが一致するように頭部15に軸部16が立設されている。実際上、頭部15には、底面部17と、この底面部17の周辺に立設された側壁部18とを有し、直線状に切り欠かれた開口19が頭部15の中心部を通るように底面部17から側壁部18に亘って形成されている。
【0025】
また、頭部15には、側壁部18が軸部16と所定の距離を設けて配設され、当該軸部16と側壁部18との間に円環状の空間G1を形成し、当該空間G1に圧縮コイルばね13の一端が嵌め込まれて位置決めされ得るようになされている。
【0026】
軸部16は、一端が頭部15の底面部17に一体成形されており、軸方向に沿って外周部22aに切り欠き部21が形成された構成を有する。実際上、切り欠き部21は、頭部15の開口19と連通し、かつ軸方向に沿って軸部16を貫通ように外周部22aに形成されており、ワイヤWが挿通可能な幅寸法に選定されている。軸部16の他端には、円形状の端面部22bが形成されており、当該端面部22bにワイヤWが係止される係止部23が形成されている。
【0027】
これに加えて、この実施の形態の場合、軸部16の端面部22bには、外周部22aとの間に傾斜面22cが形成されており、切り欠き部21に沿って傾斜面22cが切り欠かれ、当該傾斜面22cに凹んだ凹部25が形成されている。これにより係止部23は、ワイヤWが係止された際に、当該ワイヤWを凹部25内に位置決めし、当該ワイヤWを外周部22aから露出させることなく、端面部22b側から引き出されるようになされている。
【0028】
一方、圧縮コイルバネ13は、例えば金属材料からなり、帯状部材がらせん状に巻かれた巻回部27を有し、当該巻回部27の空芯領域G2内に第1の支持部材12の軸部16が挿入され、当該軸部16の外周部22aに沿って巻回部27が配置され得る。
【0029】
この実施の形態の場合、圧縮コイルばね13は、断面四辺状で帯状の金属部材で巻回部27が形成されていることから、断面円形状の金属部材で巻回部27を形成する場合に比べて、第1の支持部材11及び第2の支持部材12との接触面を大きくできる。特に、この実施の形態の場合、圧縮コイルばね13は、軸方向が短く、径方向が長く形成された断面四辺状の金属部材で巻回部27が形成されていることから、軸方向を比較的短くできコンパクト化を図ることができる。
【0030】
第2の支持部材12は、例えば金属部材料からなり、ほぼ円筒形状で角部に丸みを帯びるように傾斜面30aが形成された本体部30を有し、本体部30に中心軸を中心に円柱状の挿通孔31が形成されている。この実施の形態の場合、挿通孔31は、その半径が第1の支持部材11の軸部16の半径よりも大きく選定されており、当該軸部16が挿通孔31に挿通された際に、軸部16が挿通孔31の内周面に非接触となるように形成されている。
【0031】
また、本体部30には、ワイヤWが位置決めされる案内溝33a,33bが側壁部32に対向するように形成されており、当該案内溝33a,33bによって側壁部32側から挿通孔31と外部とを連通させ得るようになされている。実際上、案内溝33a,33bには、側壁部32が切り欠かれて形成されており、図3に示すように、案内溝33a,33bの終端部分が湾曲状に膨らんだ摺接面34a,34bが設けられている。
【0032】
これにより、案内溝33a,33bは、ワイヤWが挿入された際に、当該ワイヤWが摺接面34a,34b上を滑らかに摺動させ得るようになされている。これに加えて、本体部の内周面には、挿通孔31の周辺に段差部36が形成されており、当該段差部36の平坦部に圧縮コイルばね13の他端が当接して位置決めされ得るようになされている。
【0033】
そして、このような構成を有する調整ユニット10は、図4(A)に示すような張架されたワイヤWに対して、次の手順によって取り付けられる。先ず初めに、図4(B)に示すように、第2の支持部材12の案内溝33a,33bにワイヤWを収納させ、図4(C)に示すように、ワイヤWを弛ませて曲げることで、Ω状の湾曲部W1を形成して、第2の支持部材12の挿通孔31に当該湾曲部W1を挿通させ、本体部30の他端からワイヤWの湾曲部W1を露出させる。
【0034】
次いで、図4(D)に示すように、ワイヤWの湾曲部W1を圧縮コイルばね13の空芯領域G2を挿通させる。図4(E)、(F)、(G)及び(H)に示すように、圧縮コイルばね13の一端から露出したワイヤWの湾曲部W1を、第1の支持部材11における頭部15の開口19から切り欠き部21に挿入し、ワイヤWが引っ張られることにより、切り欠き部21終端部分の係止部23にワイヤWの湾曲部W1を係止する。
【0035】
このように、調整ユニット10は、図5に示すように、ワイヤWを弛ませることにより形成された湾曲部W1が、第2の支持部材12における挿通孔31の一端から挿入された後、圧縮コイルばね13の空芯領域G2を通り、第1の支持部材11における頭部15の開口19から切り欠き部21に挿入された後、図6(A)に示すように、ワイヤWが再び張架されることにより湾曲部W1が係止部23に係止されるようになされている。
【0036】
かくして、調整ユニット10は、張架されたワイヤWに取り付けると、第1の支持部材11の係止部23に係止されたワイヤWを、圧縮コイルばね13の付勢力により、第2の支持部材12から遠ざかる方向Z1に引っ張るようになされている。
【0037】
これにより調整ユニット10は、図7に示すように、第2の支持部材12における一方の案内溝33aの摺接面頂点S1から、第1の支持部材11の係止部23を介して、第2の支持部材12における他方の案内溝33bの摺接面頂点S2までの経路(以下、これを可変経路と呼ぶ)を、ワイヤWが経由して引き回され、直線的に張架されるワイヤWに比べ、可変経路により湾曲された分だけワイヤWの引き回し経路を長くでき、かつワイヤWを張架した状態を維持できる。
【0038】
また、調整ユニット10は、この状態から張架されたワイヤWが引っ張られると、図6(B)に示すように、ワイヤWにより第1の支持部材11が、圧縮コイルばね13の付勢力に抗して第2の支持部材12に近づく方向Z2へ移動してゆき、ワイヤWを張架させた状態のまま、ワイヤWが経由する可変経路を直線状に変化し得るようになされている。このように調整ユニット10は、ワイヤWに張力が加わった際に、圧縮コイルばね13の付勢力によってワイヤWの剛性を調整し得るようになされている。
【0039】
次に、この調整ユニット10から引き出されてワイヤWが移動する移動量と、ワイヤWに加わる張力の曲線特性を知るため、以下のような計算を行った。ここでは、調整ユニット10における圧縮コイルばね13の縮みをtとし、圧縮コイルばね13のバネ係数をkとし、ワイヤへの張力をTとし、各案内溝33a,33bを介して圧縮コイルばね13にそれぞれ加わる力をFとすると、力の釣り合いより、以下のような関係が成り立つ。
【0040】
【数1】
【0041】
【数2】
【0042】
調整ユニット10の中心軸から案内溝33bの摺接面頂点S2までの距離をaとし、圧縮コイルばね13が自然長の状態のときにおける、係止部23の摺接面の曲率中心から案内溝33bの摺接面頂点S2までの距離をbとし、調整ユニット10内に収納されたワイヤWのうち、可変経路の長さをhとし、案内溝33a,33bの摺接面34a,34bや係止部23の摺接面の曲率半径をrとし、水平方向と、係止部23及び案内溝33a,33b間を通るワイヤWとがなす傾斜角度をθとし、調整ユニット10から引き出されてワイヤが移動する移動量(伸び)をxとすると、以下のような関係を示すことができる。
【0043】
【数3】
【0044】
【数4】
【0045】
【数5】
【0046】
そして、これら数(1)〜(5)により、張力Tと、調整ユニット10から引き出されてワイヤWが移動する移動量xについて、以下の数(6)及び(7)を得た。
【0047】
【数6】
【0048】
【数7】
【0049】
これら数(6)及び(7)から、バネ係数kを所定の値に決めたときのワイヤWの張力Tと、移動量xの理論曲線を求めることができ、また、剛性E=dT/dxについても求めることができる。
【0050】
ここで、図8は、ワイヤWの張力Tと、調整ユニット10から引き出されてワイヤWが移動する移動量xとの関係を示したグラフであり、ワイヤWが引っ張られることにより、最大約20mm程度、ワイヤWが調整ユニット10から引き出されることを示している。また、図9は、ワイヤWの張力Tと、剛性Eとの関係を示している。これら図8及び図9は、理論値であり、バネ係数kが1.0 kgf/mmと0.1 kgf/mmとのときの2種類のグラフを示している。このとき剛性Eは、ワイヤWと同値まで増加し、限界に到達する。図9ではその変化を示しており、一定の張力Tで剛性Eが極大となることが分かる。但し、図9に示すグラフは、理論値であることから、極大に発散しているが、実際はワイヤW自体の有する剛性まで到達して限界となる。
【0051】
図8に示すように、バネ係数kが大きいほうが、調整ユニット10においてワイヤWの移動量xが最大になるまでに必要となる張力Tが大きく、そのため、図9では、ワイヤWの張力Tと剛性Eとの曲線が緩やかになり、バネ係数kが低い場合に比べて、より細かな剛性調整が可能であることが分かる。
【0052】
以上の構成において、調整ユニット10では、ワイヤWを弛ませることにより形成された湾曲部W1を、第2の支持部材12における挿通孔31と、圧縮コイルばね13の空芯領域G2とを経由させて、第1の支持部材11における頭部15の開口19から切り欠き部21に挿入し、第1の支持部材11の係止部23に係止する。
【0053】
これにより調整ユニット10では、圧縮コイルバネによる付勢力によって、第1の支持部材11が第2の支持部材12から遠ざかる方向Z1に位置し、係止部23によりワイヤWを引っ張ることにより、当該ワイヤWを張架させた状態を維持できる。
【0054】
また、このとき調整ユニット10では、可変経路を経由させてΩ状に湾曲した状態でワイヤWが引き回されていることから、直線的に張架されるワイヤWに比べ、可変経路の分だけワイヤWの引き回し経路を長くできる。
【0055】
そして、この調整ユニット10では、張架されたワイヤWが引っ張られると、当該ワイヤWにより第1の支持部材11が、圧縮コイルばね13の付勢力に抗して第2の支持部材12に近づく方向Z2へ移動し、ワイヤWを張架させた状態のまま、ワイヤWが経由する可変経路が短くなってゆき、ワイヤWを外部へ引き出すことができる。
【0056】
このようにして調整ユニット10では、ワイヤWに張力が加わると、当該ワイヤWへの張力に応じて圧縮コイルばね13の付勢力が生じることにより、ワイヤWの剛性調整を行えることができる。
【0057】
また、この調整ユニット10では、第2の支持部材12の挿通孔31と、圧縮コイルばね13の空芯領域G2とを通過させたワイヤWの湾曲部W1を、第1の支持部材11の係止部23に係止させるだけでよいことから、当該ワイヤWを緩ませるだけで取り付けることができ、かくして従来のようなワイヤWの分解作業が不要となり、ワイヤWを張架させた状態のまま簡単に取り付けることができる。
【0058】
さらに、この調整ユニット10では、張架されたワイヤWが引っ張られると、圧縮コイルばね13が圧縮され、この圧縮によって生じる付勢力によりワイヤの剛性を調整することから、引張ばねに比べて比較的強い付勢力を発生させることができるので、ワイヤWで生じる大きな張力にも対応でき、滑らかな剛性調整を行えることができる。
【0059】
さらに加えて、この調整ユニット10では、第1の支持部材11の軸部16が、第2の支持部材12の挿通孔31と非接触の状態で挿通され、第1の支持部材11及び第2の支持部材12が圧縮コイルばね13だけで連結されていることから、これら第1の支持部材11及び第2の支持部材12同士が接触していない分だけ摩擦を低減でき、滑らかな剛性調整を行うことができる。
【0060】
また、この調整ユニット10では、ワイヤWに対して長手方向を垂直に配置させることができるとともに、角部の少なく比較的丸みを帯びた形状とすることで、限られたスペースにあるワイヤに対しても取り付けることができる。
【0061】
以上の構成によれば、調整ユニット10では、第2の支持部材12の挿通孔31と、圧縮コイルばね13の空芯領域G2とを通過させたワイヤWの湾曲部W1を、第1の支持部材11の係止部23に係止させるようにしたことで、分品点数が少なく簡易な構成でワイヤの剛性を調整できるとともに、ワイヤWを張架させた状態のまま、当該ワイヤWに対して簡単に取り付けることができる
なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、図2(B)に示す第1の支持部材11との対応部分に同一符号を付して示す図10のように、他の実施の形態による第1の支持部材41は、軸部の他端に形成された凹部42が、傾斜面22cだけでなく端面部22bにまで切り欠かれるように形成されている点が、図2(B)に示す第1の支持部材11と相違している。この場合、凹部の深さを深くできることから、ワイヤWが太くても当該ワイヤWが軸部16の外周部22aから突出することを抑制して、当該端面部22b側からワイヤWを露出させることができる。
【0062】
また、上述した実施の形態においては、可動部たる前腕部ブロック3と、所定位置に設けた駆動モータとの間にワイヤWが張架され、当該駆動モータの駆動に応じてワイヤWが引っ張られ、ワイヤWによる引張力により前腕部ブロック3を駆動させるロボットに対して、本発明の調整ユニット10を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば種々の状況で所定の部位間に張架されているワイヤに対して、この調整ユニット10を適用し、当該ワイヤの剛性調整を行うようにしてもよい。
【0063】
また、上述した実施の形態においては、弾性部材として、圧縮コイルばね13を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、ゴム等の弾性材料で形成され、筒状で空芯領域がある弾性部材等その他種々の弾性部材を適用してもよい。
【符号の説明】
【0064】
3 前腕部ブロック(可動部)
10 調整ユニット
11 第1の支持部材
12 第2の支持部材
13 弾性部材(圧縮コイルばね)
16 軸部
21 切り欠き部
27 巻回部
【技術分野】
【0001】
本発明は、調整ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人型ロボットやペットロボット等の各種ロボットにおいて、駆動モータを装置本体に配置して、回動自在に連結された関節ユニットに当該駆動モータと連動するワイヤを引き回し、駆動モータによりワイヤを引っ張ることにより関節ユニットを駆動させる腱駆動機構部を備えたロボットが考えられている(例えば、特許文献1参照)。このような腱駆動機構部は、関節ユニットから駆動モータを切り離して、駆動モータを所望の位置に設置させることができるため、関節ユニット自体の小型化や、軽量化を図ることができるという利点を有している。
【0003】
また、このような腱駆動機構部では、ワイヤの剛性調整を行うことにより、関節ユニットの滑らかな駆動が可能となるため、ソフトウェアにより駆動モータを制御して剛性調整を行ったり、或いはワイヤに設けた剛性調整ユニットによって剛性調整を行うことが考えられている(例えば、非特許文献1及び非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開7−96485号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hogan . N. Impedance control: An approach to manipulator, part1-3. Trans. ASME, Journal of Dynamic of Dynamic Systems, Measurement and Control, Vol. 107, pp. 1-24, 1985.
【非特許文献2】兵頭和人, 小林博明. 非線形バネ要素を持つ腱制御手首機構の研究. 日本ロボット学会誌, Vol. 11, No. 8, pp. 1244-1251, 1993.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、張力センサに基づき駆動モータをソフトウェア制御して剛性調整を行う腱駆動機構部では、センサや制御部を設けた分だけ構成が複雑になるという問題や、センサフィードバックによる応答性に限界があるという問題、さらにセンサの故障により全く機能しなくなる等の問題があった。
【0007】
一方、非特許文献2における従来の剛性調整ユニットでは、弾性部材を用いてワイヤの剛性を機械的に調整可能であり、センサフィードバックによる剛性調整時よりも高速な応答を実現可能となる。しかしながら、このような剛性調整ユニットをワイヤに取り付ける際には、ワイヤを全て解いた後、当該ワイヤの先端を剛性調整ユニットに通す必要があることから、ワイヤやその他周辺部位等を分解する作業が必要となり、取付作業が煩雑であるという問題があった。
【0008】
特に、既存の腱駆動機構部に対し後から剛性調整ユニットを組み込む場合には、腱駆動機構部がワイヤやその他周辺部位を分解することを想定していないため、分解作業にも時間がかかるという問題があった。また、このような分解作業は腱駆動機構部の故障の原因にもなるため、取付作業の際には、ワイヤやその他周辺部位の分解作業を行わずに、剛性調整ユニットをワイヤに対して簡単に取り付けできることが望ましい。
【0009】
そこで、本発明は以上の点を考慮してなされたもので、簡易な構成でワイヤの剛性を調整できるとともに、ワイヤに対して簡単に取り付けることができる調整ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するため本発明の請求項1は、張架されたワイヤの張力を調整する調整ユニットにおいて、切り欠き部を有する軸部が設けられた第1の支持部材と、前記第1の支持部材と対向配置され、前記軸部が挿入可能な挿通孔を有する第2の支持部材と、らせん状でなる巻回部の空芯領域に前記軸部が配置され、前記第1の支持部材及び前記第2の支持部材を遠ざける方向に付勢する弾性部材とを備え、前記ワイヤは、曲げられて湾曲部が形成された状態で、前記第2の支持部材の挿通孔と、前記弾性部材の空芯領域とを通り、前記第1の支持部材の切り欠き部に前記湾曲部が係止され、前記第1の支持部材は、前記ワイヤが所定の力で引っ張られると、前記弾性部材の付勢力に抗して前記第2の支持部材に近づく方向へ移動することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の請求項2は、前記軸部の他端には、前記切り欠き部から挿入された前記ワイヤの湾曲部が係止部に係止され、前記係止部に係止された前記ワイヤを位置決めする凹部が設けられていることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の請求項3は、前記第1の支持部材には、前記軸部の一端につば状に突出形成され、前記切り欠き部の開口が形成された頭部を有し、前記弾性部材の一端は、前記頭部の側壁部と前記軸部との間に位置決めされ、前記弾性部材の他端は、前記第2の支持部材における前記挿通孔の周囲に形成された段差部に位置決めされることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の請求項4は、前記第2の支持部材には、張架された前記ワイヤを前記挿入孔に案内する案内溝が形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の請求項5は、前記ワイヤは、所定位置に設けられた駆動モータと、所定の可動部との間に張架されており、前記駆動モータの駆動に応じて前記可動部を駆動させる前記ワイヤの剛性の調整に用いることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1によれば、分品点数が少なく簡易な構成でワイヤの剛性を調整できるとともに、ワイヤを張架させた状態のまま、当該ワイヤに対して簡単に取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の剛性調整ユニットを腕部ユニットに取り付けたときの構成を示す概略図である。
【図2】調整ユニットの全体構成と、調整ユニットを分解したときの構成とを示す概略図である。
【図3】第2の支持部材の縦断面構成を示し断面図である。
【図4】ワイヤに調整ユニットを取り付ける手順を示す概略図である。
【図5】ワイヤに調整ユニットを取り付けた際のワイヤの引き回し経路を示す概略図である。
【図6】調整ユニットを取り付けたワイヤに張力を加えていった際の調整ユニット内部の変化の様子を示す概略図である。
【図7】ワイヤが引き回される可変経路の詳細構成を示す概略図である。
【図8】張力とワイヤの移動量との関係を示すグラフである。
【図9】張力と剛性との関係を示すグラフである。
【図10】他の実施の形態による第1の支持部材の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下図面に基づいて本発明の実施形態の一例を詳述する。
【0018】
図1において、1はロボットの腕部ユニットを示し、腕部ユニット1は、上腕部ブロック2、前腕部ブロック3及び手先部ブロック4の3つのブロックから構成され、上腕部ブロック2の上端部が肩関節機構部(図示せず)を介して胴体部ユニット(図示せず)に連結されている。
【0019】
また、腕部ユニット1は、上腕部ブロック2の下端部と前腕部ブロック3の上端部とを回動自在に連結した関節ユニット5を有し、後述する腱駆動機構部によって、上腕部ブロック2に対し当該関節ユニット5を回動軸に前腕部ブロック3が回動自在に可動され得るようになされている。
【0020】
ここで、腱駆動機構部は、胴体部ユニットに設置された駆動モータ(図示せず)と、当該駆動モータに連動して前腕部ブロック3を引っ張るワイヤWとを有している。なお、図1では、説明の便宜上、前腕部ブロック3を駆動させる腱駆動機構部にのみ着目し、当該腱駆動機構部のワイヤWのみを示している。
【0021】
実際上、このワイヤWは、例えば胴体部ユニットに設置された駆動モータから上腕部ブロック2内を通り、当該上腕部ブロック2の所定箇所から外部に露出して関節ユニット5を跨ぎ、前腕部ブロック3の所定箇所に固定されている。ワイヤWは、駆動モータに連動して引っ張られ、この引張力によって関節ユニット5を回動軸として前腕部ブロック3を回動させ得るようになされている。
【0022】
この実施の形態の場合、前腕部ブロック3を回動させるワイヤWには、本発明による調整ユニット10が設けられており、当該調整ユニット10によってワイヤWの剛性調整がなされている。加えて、肘部に取り付けるワイヤ(図示せず)に調整ユニット10を追加して剛性調整をし,ワイヤWと拮抗させることで関節ユニットの剛性調整を行う。なお、上述した実施の形態においては、前腕部ブロック3を駆動モータで回動させるワイヤWにのみ調整ユニット10を設けるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、上腕部ブロック2を駆動モータで回動させるワイヤ等その他種々のワイヤに調整ユニット10を設けるようにしてもよい。
【0023】
実際上、この調整ユニット10は、図2(A)及び(B)に示すように、第1の支持部材11と、第1の支持部材11と対向配置される第2の支持部材12と、第1の支持部材11及び第2の支持部材12間に配置される圧縮コイルばね13とから構成されている。
【0024】
第1の支持部材11は、例えば金属材料からなり、図2(B)に示すように、所定の厚みを有した有底円筒状の頭部15と、この頭部15の半径よりも小さい半径でなる円柱状の軸部16とを有し、頭部15の中心部と軸部16の中心軸とが一致するように頭部15に軸部16が立設されている。実際上、頭部15には、底面部17と、この底面部17の周辺に立設された側壁部18とを有し、直線状に切り欠かれた開口19が頭部15の中心部を通るように底面部17から側壁部18に亘って形成されている。
【0025】
また、頭部15には、側壁部18が軸部16と所定の距離を設けて配設され、当該軸部16と側壁部18との間に円環状の空間G1を形成し、当該空間G1に圧縮コイルばね13の一端が嵌め込まれて位置決めされ得るようになされている。
【0026】
軸部16は、一端が頭部15の底面部17に一体成形されており、軸方向に沿って外周部22aに切り欠き部21が形成された構成を有する。実際上、切り欠き部21は、頭部15の開口19と連通し、かつ軸方向に沿って軸部16を貫通ように外周部22aに形成されており、ワイヤWが挿通可能な幅寸法に選定されている。軸部16の他端には、円形状の端面部22bが形成されており、当該端面部22bにワイヤWが係止される係止部23が形成されている。
【0027】
これに加えて、この実施の形態の場合、軸部16の端面部22bには、外周部22aとの間に傾斜面22cが形成されており、切り欠き部21に沿って傾斜面22cが切り欠かれ、当該傾斜面22cに凹んだ凹部25が形成されている。これにより係止部23は、ワイヤWが係止された際に、当該ワイヤWを凹部25内に位置決めし、当該ワイヤWを外周部22aから露出させることなく、端面部22b側から引き出されるようになされている。
【0028】
一方、圧縮コイルバネ13は、例えば金属材料からなり、帯状部材がらせん状に巻かれた巻回部27を有し、当該巻回部27の空芯領域G2内に第1の支持部材12の軸部16が挿入され、当該軸部16の外周部22aに沿って巻回部27が配置され得る。
【0029】
この実施の形態の場合、圧縮コイルばね13は、断面四辺状で帯状の金属部材で巻回部27が形成されていることから、断面円形状の金属部材で巻回部27を形成する場合に比べて、第1の支持部材11及び第2の支持部材12との接触面を大きくできる。特に、この実施の形態の場合、圧縮コイルばね13は、軸方向が短く、径方向が長く形成された断面四辺状の金属部材で巻回部27が形成されていることから、軸方向を比較的短くできコンパクト化を図ることができる。
【0030】
第2の支持部材12は、例えば金属部材料からなり、ほぼ円筒形状で角部に丸みを帯びるように傾斜面30aが形成された本体部30を有し、本体部30に中心軸を中心に円柱状の挿通孔31が形成されている。この実施の形態の場合、挿通孔31は、その半径が第1の支持部材11の軸部16の半径よりも大きく選定されており、当該軸部16が挿通孔31に挿通された際に、軸部16が挿通孔31の内周面に非接触となるように形成されている。
【0031】
また、本体部30には、ワイヤWが位置決めされる案内溝33a,33bが側壁部32に対向するように形成されており、当該案内溝33a,33bによって側壁部32側から挿通孔31と外部とを連通させ得るようになされている。実際上、案内溝33a,33bには、側壁部32が切り欠かれて形成されており、図3に示すように、案内溝33a,33bの終端部分が湾曲状に膨らんだ摺接面34a,34bが設けられている。
【0032】
これにより、案内溝33a,33bは、ワイヤWが挿入された際に、当該ワイヤWが摺接面34a,34b上を滑らかに摺動させ得るようになされている。これに加えて、本体部の内周面には、挿通孔31の周辺に段差部36が形成されており、当該段差部36の平坦部に圧縮コイルばね13の他端が当接して位置決めされ得るようになされている。
【0033】
そして、このような構成を有する調整ユニット10は、図4(A)に示すような張架されたワイヤWに対して、次の手順によって取り付けられる。先ず初めに、図4(B)に示すように、第2の支持部材12の案内溝33a,33bにワイヤWを収納させ、図4(C)に示すように、ワイヤWを弛ませて曲げることで、Ω状の湾曲部W1を形成して、第2の支持部材12の挿通孔31に当該湾曲部W1を挿通させ、本体部30の他端からワイヤWの湾曲部W1を露出させる。
【0034】
次いで、図4(D)に示すように、ワイヤWの湾曲部W1を圧縮コイルばね13の空芯領域G2を挿通させる。図4(E)、(F)、(G)及び(H)に示すように、圧縮コイルばね13の一端から露出したワイヤWの湾曲部W1を、第1の支持部材11における頭部15の開口19から切り欠き部21に挿入し、ワイヤWが引っ張られることにより、切り欠き部21終端部分の係止部23にワイヤWの湾曲部W1を係止する。
【0035】
このように、調整ユニット10は、図5に示すように、ワイヤWを弛ませることにより形成された湾曲部W1が、第2の支持部材12における挿通孔31の一端から挿入された後、圧縮コイルばね13の空芯領域G2を通り、第1の支持部材11における頭部15の開口19から切り欠き部21に挿入された後、図6(A)に示すように、ワイヤWが再び張架されることにより湾曲部W1が係止部23に係止されるようになされている。
【0036】
かくして、調整ユニット10は、張架されたワイヤWに取り付けると、第1の支持部材11の係止部23に係止されたワイヤWを、圧縮コイルばね13の付勢力により、第2の支持部材12から遠ざかる方向Z1に引っ張るようになされている。
【0037】
これにより調整ユニット10は、図7に示すように、第2の支持部材12における一方の案内溝33aの摺接面頂点S1から、第1の支持部材11の係止部23を介して、第2の支持部材12における他方の案内溝33bの摺接面頂点S2までの経路(以下、これを可変経路と呼ぶ)を、ワイヤWが経由して引き回され、直線的に張架されるワイヤWに比べ、可変経路により湾曲された分だけワイヤWの引き回し経路を長くでき、かつワイヤWを張架した状態を維持できる。
【0038】
また、調整ユニット10は、この状態から張架されたワイヤWが引っ張られると、図6(B)に示すように、ワイヤWにより第1の支持部材11が、圧縮コイルばね13の付勢力に抗して第2の支持部材12に近づく方向Z2へ移動してゆき、ワイヤWを張架させた状態のまま、ワイヤWが経由する可変経路を直線状に変化し得るようになされている。このように調整ユニット10は、ワイヤWに張力が加わった際に、圧縮コイルばね13の付勢力によってワイヤWの剛性を調整し得るようになされている。
【0039】
次に、この調整ユニット10から引き出されてワイヤWが移動する移動量と、ワイヤWに加わる張力の曲線特性を知るため、以下のような計算を行った。ここでは、調整ユニット10における圧縮コイルばね13の縮みをtとし、圧縮コイルばね13のバネ係数をkとし、ワイヤへの張力をTとし、各案内溝33a,33bを介して圧縮コイルばね13にそれぞれ加わる力をFとすると、力の釣り合いより、以下のような関係が成り立つ。
【0040】
【数1】
【0041】
【数2】
【0042】
調整ユニット10の中心軸から案内溝33bの摺接面頂点S2までの距離をaとし、圧縮コイルばね13が自然長の状態のときにおける、係止部23の摺接面の曲率中心から案内溝33bの摺接面頂点S2までの距離をbとし、調整ユニット10内に収納されたワイヤWのうち、可変経路の長さをhとし、案内溝33a,33bの摺接面34a,34bや係止部23の摺接面の曲率半径をrとし、水平方向と、係止部23及び案内溝33a,33b間を通るワイヤWとがなす傾斜角度をθとし、調整ユニット10から引き出されてワイヤが移動する移動量(伸び)をxとすると、以下のような関係を示すことができる。
【0043】
【数3】
【0044】
【数4】
【0045】
【数5】
【0046】
そして、これら数(1)〜(5)により、張力Tと、調整ユニット10から引き出されてワイヤWが移動する移動量xについて、以下の数(6)及び(7)を得た。
【0047】
【数6】
【0048】
【数7】
【0049】
これら数(6)及び(7)から、バネ係数kを所定の値に決めたときのワイヤWの張力Tと、移動量xの理論曲線を求めることができ、また、剛性E=dT/dxについても求めることができる。
【0050】
ここで、図8は、ワイヤWの張力Tと、調整ユニット10から引き出されてワイヤWが移動する移動量xとの関係を示したグラフであり、ワイヤWが引っ張られることにより、最大約20mm程度、ワイヤWが調整ユニット10から引き出されることを示している。また、図9は、ワイヤWの張力Tと、剛性Eとの関係を示している。これら図8及び図9は、理論値であり、バネ係数kが1.0 kgf/mmと0.1 kgf/mmとのときの2種類のグラフを示している。このとき剛性Eは、ワイヤWと同値まで増加し、限界に到達する。図9ではその変化を示しており、一定の張力Tで剛性Eが極大となることが分かる。但し、図9に示すグラフは、理論値であることから、極大に発散しているが、実際はワイヤW自体の有する剛性まで到達して限界となる。
【0051】
図8に示すように、バネ係数kが大きいほうが、調整ユニット10においてワイヤWの移動量xが最大になるまでに必要となる張力Tが大きく、そのため、図9では、ワイヤWの張力Tと剛性Eとの曲線が緩やかになり、バネ係数kが低い場合に比べて、より細かな剛性調整が可能であることが分かる。
【0052】
以上の構成において、調整ユニット10では、ワイヤWを弛ませることにより形成された湾曲部W1を、第2の支持部材12における挿通孔31と、圧縮コイルばね13の空芯領域G2とを経由させて、第1の支持部材11における頭部15の開口19から切り欠き部21に挿入し、第1の支持部材11の係止部23に係止する。
【0053】
これにより調整ユニット10では、圧縮コイルバネによる付勢力によって、第1の支持部材11が第2の支持部材12から遠ざかる方向Z1に位置し、係止部23によりワイヤWを引っ張ることにより、当該ワイヤWを張架させた状態を維持できる。
【0054】
また、このとき調整ユニット10では、可変経路を経由させてΩ状に湾曲した状態でワイヤWが引き回されていることから、直線的に張架されるワイヤWに比べ、可変経路の分だけワイヤWの引き回し経路を長くできる。
【0055】
そして、この調整ユニット10では、張架されたワイヤWが引っ張られると、当該ワイヤWにより第1の支持部材11が、圧縮コイルばね13の付勢力に抗して第2の支持部材12に近づく方向Z2へ移動し、ワイヤWを張架させた状態のまま、ワイヤWが経由する可変経路が短くなってゆき、ワイヤWを外部へ引き出すことができる。
【0056】
このようにして調整ユニット10では、ワイヤWに張力が加わると、当該ワイヤWへの張力に応じて圧縮コイルばね13の付勢力が生じることにより、ワイヤWの剛性調整を行えることができる。
【0057】
また、この調整ユニット10では、第2の支持部材12の挿通孔31と、圧縮コイルばね13の空芯領域G2とを通過させたワイヤWの湾曲部W1を、第1の支持部材11の係止部23に係止させるだけでよいことから、当該ワイヤWを緩ませるだけで取り付けることができ、かくして従来のようなワイヤWの分解作業が不要となり、ワイヤWを張架させた状態のまま簡単に取り付けることができる。
【0058】
さらに、この調整ユニット10では、張架されたワイヤWが引っ張られると、圧縮コイルばね13が圧縮され、この圧縮によって生じる付勢力によりワイヤの剛性を調整することから、引張ばねに比べて比較的強い付勢力を発生させることができるので、ワイヤWで生じる大きな張力にも対応でき、滑らかな剛性調整を行えることができる。
【0059】
さらに加えて、この調整ユニット10では、第1の支持部材11の軸部16が、第2の支持部材12の挿通孔31と非接触の状態で挿通され、第1の支持部材11及び第2の支持部材12が圧縮コイルばね13だけで連結されていることから、これら第1の支持部材11及び第2の支持部材12同士が接触していない分だけ摩擦を低減でき、滑らかな剛性調整を行うことができる。
【0060】
また、この調整ユニット10では、ワイヤWに対して長手方向を垂直に配置させることができるとともに、角部の少なく比較的丸みを帯びた形状とすることで、限られたスペースにあるワイヤに対しても取り付けることができる。
【0061】
以上の構成によれば、調整ユニット10では、第2の支持部材12の挿通孔31と、圧縮コイルばね13の空芯領域G2とを通過させたワイヤWの湾曲部W1を、第1の支持部材11の係止部23に係止させるようにしたことで、分品点数が少なく簡易な構成でワイヤの剛性を調整できるとともに、ワイヤWを張架させた状態のまま、当該ワイヤWに対して簡単に取り付けることができる
なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、図2(B)に示す第1の支持部材11との対応部分に同一符号を付して示す図10のように、他の実施の形態による第1の支持部材41は、軸部の他端に形成された凹部42が、傾斜面22cだけでなく端面部22bにまで切り欠かれるように形成されている点が、図2(B)に示す第1の支持部材11と相違している。この場合、凹部の深さを深くできることから、ワイヤWが太くても当該ワイヤWが軸部16の外周部22aから突出することを抑制して、当該端面部22b側からワイヤWを露出させることができる。
【0062】
また、上述した実施の形態においては、可動部たる前腕部ブロック3と、所定位置に設けた駆動モータとの間にワイヤWが張架され、当該駆動モータの駆動に応じてワイヤWが引っ張られ、ワイヤWによる引張力により前腕部ブロック3を駆動させるロボットに対して、本発明の調整ユニット10を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば種々の状況で所定の部位間に張架されているワイヤに対して、この調整ユニット10を適用し、当該ワイヤの剛性調整を行うようにしてもよい。
【0063】
また、上述した実施の形態においては、弾性部材として、圧縮コイルばね13を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、ゴム等の弾性材料で形成され、筒状で空芯領域がある弾性部材等その他種々の弾性部材を適用してもよい。
【符号の説明】
【0064】
3 前腕部ブロック(可動部)
10 調整ユニット
11 第1の支持部材
12 第2の支持部材
13 弾性部材(圧縮コイルばね)
16 軸部
21 切り欠き部
27 巻回部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
張架されたワイヤの張力を調整する調整ユニットにおいて、
切り欠き部を有する軸部が設けられた第1の支持部材と、
前記第1の支持部材と対向配置され、前記軸部が挿入可能な挿通孔を有する第2の支持部材と、
らせん状でなる巻回部の空芯領域に前記軸部が配置され、前記第1の支持部材及び前記第2の支持部材を遠ざける方向に付勢する弾性部材とを備え、
前記ワイヤは、曲げられて湾曲部が形成された状態で、前記第2の支持部材の挿通孔と、前記弾性部材の空芯領域とを通り、前記第1の支持部材の切り欠き部に前記湾曲部が係止され、
前記第1の支持部材は、前記ワイヤが所定の力で引っ張られると、前記弾性部材の付勢力に抗して前記第2の支持部材に近づく方向へ移動する
ことを特徴とする調整ユニット。
【請求項2】
前記軸部の他端には、前記切り欠き部から挿入された前記ワイヤの湾曲部が係止部に係止され、前記係止部に係止された前記ワイヤを位置決めする凹部が設けられている
ことを特徴とする請求項1記載の調整ユニット。
【請求項3】
前記第1の支持部材には、前記軸部の一端につば状に突出形成され、前記切り欠き部の開口が形成された頭部を有し、
前記弾性部材の一端は、前記頭部の側壁部と前記軸部との間に位置決めされ、
前記弾性部材の他端は、前記第2の支持部材における前記挿通孔の周囲に形成された段差部に位置決めされる
ことを特徴とする請求項1又は2記載の調整ユニット。
【請求項4】
前記第2の支持部材には、
張架された前記ワイヤを前記挿入孔に案内する案内溝が形成されている
ことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項記載の調整ユニット。
【請求項5】
前記ワイヤは、所定位置に設けられた駆動モータと、所定の可動部との間に張架されており、
前記駆動モータの駆動に応じて前記可動部を駆動させる前記ワイヤの剛性の調整に用いる
ことを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか1項記載の調整ユニット。
【請求項1】
張架されたワイヤの張力を調整する調整ユニットにおいて、
切り欠き部を有する軸部が設けられた第1の支持部材と、
前記第1の支持部材と対向配置され、前記軸部が挿入可能な挿通孔を有する第2の支持部材と、
らせん状でなる巻回部の空芯領域に前記軸部が配置され、前記第1の支持部材及び前記第2の支持部材を遠ざける方向に付勢する弾性部材とを備え、
前記ワイヤは、曲げられて湾曲部が形成された状態で、前記第2の支持部材の挿通孔と、前記弾性部材の空芯領域とを通り、前記第1の支持部材の切り欠き部に前記湾曲部が係止され、
前記第1の支持部材は、前記ワイヤが所定の力で引っ張られると、前記弾性部材の付勢力に抗して前記第2の支持部材に近づく方向へ移動する
ことを特徴とする調整ユニット。
【請求項2】
前記軸部の他端には、前記切り欠き部から挿入された前記ワイヤの湾曲部が係止部に係止され、前記係止部に係止された前記ワイヤを位置決めする凹部が設けられている
ことを特徴とする請求項1記載の調整ユニット。
【請求項3】
前記第1の支持部材には、前記軸部の一端につば状に突出形成され、前記切り欠き部の開口が形成された頭部を有し、
前記弾性部材の一端は、前記頭部の側壁部と前記軸部との間に位置決めされ、
前記弾性部材の他端は、前記第2の支持部材における前記挿通孔の周囲に形成された段差部に位置決めされる
ことを特徴とする請求項1又は2記載の調整ユニット。
【請求項4】
前記第2の支持部材には、
張架された前記ワイヤを前記挿入孔に案内する案内溝が形成されている
ことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項記載の調整ユニット。
【請求項5】
前記ワイヤは、所定位置に設けられた駆動モータと、所定の可動部との間に張架されており、
前記駆動モータの駆動に応じて前記可動部を駆動させる前記ワイヤの剛性の調整に用いる
ことを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか1項記載の調整ユニット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−256911(P2011−256911A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130399(P2010−130399)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
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