説明

識別記号付パワーモジュール用基板およびその製造方法

【課題】識別記号の形成用スペースを必要とせず、金属板の接合後であっても確認可能な識別記号を有するパワーモジュール用基板を提供する。
【解決手段】互いに接合されたセラミックス基板20と金属板30,31とを備え、セラミックス基板20と金属板30,31との間に、セラミックス基板20と金属板30,31とが互いに接合されている接合部11,12と、セラミックス基板20と金属板30,31とが互いに接合されていない部分により形成された識別記号13とが設けられている識別記号付パワーモジュール用基板10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、識別記号付パワーモジュール用基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体素子の中でも電力供給のためのパワーモジュールは発熱量が比較的高い。このため、パワーモジュール用基板としては、AlN、Al、Si、SiC等からなるセラミックス基板上に、アルミニウム板等の金属板をAl−Si系等のろう材により接合させたものが用いられている。この金属板は、後工程のエッチング処理によって所望パターンの回路が形成されて回路層となる。そして、エッチング後は、この回路層の表面にはんだ材により電子部品(半導体チップ等のパワー素子)が搭載され、パワーモジュールとなる。
【0003】
このようなパワーモジュールにおいて、シリアルナンバーや基板の表面状態等を示す識別記号を付与し、製造履歴の確認や追跡調査等を行うことが求められている。識別記号は、たとえば特許文献1に示されるように、製品の表面に印字や刻印を施したり、マイクロチップを貼り付けたりすることにより付与できる。また、特許文献2に示されるように、アルミナ基板にガラスを積層し、レーザを照射することによりガラスを変色させ、基板上にバーコードを形成することも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−131646号公報
【特許文献2】特開平7−249090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、パワーモジュール用基板はサイズが小さく、識別記号を付与するスペースを確保することができない。また、セラミックス基板を探傷検査したときの表面状態を示す識別記号を形成する場合、検査後のセラミックス基板に金属板が接合されてしまうと、識別記号が金属板によって覆われてしまい、接合後に表面状態を特定できなくなるという問題がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、識別記号の形成用スペースを必要とせず、金属板の接合後であっても確認可能な識別記号を有するパワーモジュール用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、互いに接合されたセラミックス基板と金属板とを備え、前記セラミックス基板と前記金属板との間に、前記セラミックス基板と前記金属板とが互いに接合されている接合部と、前記セラミックス基板と前記金属板とが互いに接合されていない部分により形成された識別記号とが設けられている識別記号付パワーモジュール用基板である。
【0008】
この識別記号付パワーモジュール用基板によれば、セラミックス基板と金属板とが接合されていない部分によって識別記号が形成されているので、形成用スペースがなくても識別記号を備えるパワーモジュール用基板を実現できる。なお、このような識別記号は、たとえば金属板とは反射特性が異なる空隙であって超音波検査により識別可能である。
【0009】
この識別記号付パワーモジュールにおいて、前記識別記号は、前記金属板の表面に形成された凹部であることが好ましい。この場合、凹部がセラミックス基板に接合されず、金属板とセラミックス基板との間の空隙として識別記号が形成されているので、超音波検査等により認識可能である。
【0010】
また、本発明の識別記号付パワーモジュール用基板の製造方法は、ろう付用のろう箔、セラミックス基板および金属板の少なくともいずれかの表面に接合妨害部を設けておき、前記セラミックス基板と前記金属板との間に前記ろう箔を配置するように、前記セラミックス基板、前記金属板および前記ろう箔を積層し、この積層方向に加圧しながら加熱して、前記セラミックス基板と前記金属板とをろう付し、前記セラミックス基板と前記金属板との間に、前記セラミックス基板と前記金属板とが互いに接合されている接合部と、前記接合妨害部によって前記セラミックス基板と前記金属板とが互いに接合されていない部分とを設け、この接合されていない部分による識別記号を形成する。
【0011】
この製造方法によれば、ろう箔、セラミックス基板または金属板の表面に接合妨害部を形成した上でセラミックス基板と金属板とをろう箔によりろう付するだけで、超音波検査等により識別可能な識別記号を形成することができる。すなわち、識別記号に対応する文字や記号等の接合妨害部を形成することにより、この接合妨害部の形状に沿って未接合部分を形成できるので、超音波検査等により識別可能な識別記号を形成できる。
【0012】
この製造方法において、前記接合妨害部は、前記ろう箔、前記セラミックス基板または前記金属板の前記表面に塗料により形成された塗膜であることが好ましい。この場合、ろう付時に塗膜が接合を妨害するので、ろう箔、セラミック基板または金属板の表面に印字等を施しておくだけで、識別記号を形成することができる。
【0013】
あるいは、前記接合妨害部は、前記金属板の前記表面に形成された凹部であってもよい。この場合、凹部がセラミックス基板に接合されず空隙を形成することにより、識別記号を形成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る識別記号付パワーモジュール用基板およびその製造方法によれば、識別記号の形成用スペースを必要とせず、金属板の接合後であっても確認可能な識別記号を有するパワーモジュール用基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の識別記号付パワーモジュール用基板を示す斜視図である。
【図2】パワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールを示す断面図である。
【図3】図2に示すパワーモジュールの部分上面図である。
【図4】本発明に係る識別記号付パワーモジュール用基板の製造方法の実施形態を示す斜視図である。
【図5】本発明に係る識別記号付パワーモジュール用基板の製造方法の他の実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る識別記号付パワーモジュール用基板およびその製造方法の実施形態について説明する。本発明に係る識別記号付パワーモジュール用基板(以下、「パワーモジュール用基板」)10は、図1に示すように、互いに接合されたセラミックス基板20と金属板30,31とを備え、セラミックス基板20と金属板30,31との間に、セラミックス基板20と金属板30,31とが互いに接合されている接合部11,12と、互いに接合されていない部分により形成された識別記号13とが設けられている。このパワーモジュール用基板10において、セラミックス基板20の表面に接合された金属板30は回路層用、セラミックス基板20の裏面に接合された金属板31は放熱層用である。
【0017】
セラミックス用基板20は、例えばAlN(窒化アルミニウム)、Si(窒化珪素)等の窒化物系セラミックス、若しくはAl(アルミナ)等の酸化物系セラミックスを母材として矩形状に形成されている。回路層用の金属板30は、純アルミニウム若しくはアルミニウム合金により形成される。放熱層用の金属板31は、純アルミニウムにより形成される。これらセラミックス基板20、両金属板30,31の相互間は、Al−Si系、Al−Ge系、Al−Cu系、Al−Mg系またはAl−Mn系等のろう材により、ろう付されている。
【0018】
このパワーモジュール用基板10を用いたパワーモジュール100は、図2,図3に示すように、回路層用の金属板30をエッチング加工して形成された回路パターン32に半導体チップ等の電子部品101が搭載されるとともに、放熱層用の金属板31に当接するヒートシンク102が取り付けられて構成される。
【0019】
電子部品101は、回路層用の金属板30の上に、Sn−Ag−Cu系、Zn−Al系若しくはPb−Sn系等のはんだ材103によって接合される。電子部品101と金属板30の端子部との間は、アルミニウムからなるボンディングワイヤ104により接続される。
【0020】
ヒートシンク102は、アルミニウム合金の押し出し成形によって形成され、その長さ方向に沿って冷却水を流通させるための多数の流路102aが形成されている。ヒートシンク102は、ろう付、はんだ付、ボルト等によって接合される。
【0021】
このパワーモジュール100において、図3に示すように、電子部品101やボンディングワイヤ104等は、パワーモジュール用基板10の識別記号13に重ならない位置に接合されている。識別記号13は、セラミックス基板20と金属板30とが互いに接合されない空隙部分により形成されているが、回路パターン32等に重ならないように設けられることに加え、金属板30の周囲から1mm以上離れたところに識別記号13があることで、パワーモジュール100における金属板30の接合信頼性を妨げることはない。
【0022】
パワーモジュール用基板10は、製造番号やロット番号等が識別記号13として設けられていることにより、製造情報等の確認が可能である。この識別記号13はセラミックス基板20と金属板30との間に形成されているから、表面に余白のない小型の基板であっても識別記号13を備えることができる。この識別記号13はパワーモジュール用基板10の表面には表れないが、たとえば超音波検査等により識別可能である。
【0023】
以上説明したように、本実施形態のパワーモジュール用基板10によれば、形成用スペースを必要としないので、小さいサイズの基板であっても識別記号13を備えることができる。また、空隙により形成された識別記号13は金属板30の接合後であっても確認可能であるので、工程管理を容易かつ確実に行うことができる。
【0024】
次に、本発明に係る識別記号付パワーモジュール用基板10の製造方法の実施形態について説明する。パワーモジュール用基板10は、図4に示すように、セラミックス基板20,および金属板30,31を積層して接合した積層体を所望の大きさに分割することにより製造される。セラミックス基板20と各金属板30,31との間は、ろう箔40,41を用いたろう付により接合される。
【0025】
回路層用の金属板30を接合するろう箔40の表面には、接合妨害部40aが設けられている。接合妨害部40aは、ろう箔40のセラミックス基板20に接する面に塗料により形成された塗膜であり、たとえばバーコードや文字等を示す形状に形成されている。接合妨害部40aを形成する塗料としては、たとえば、マークテック株式会社製、エコインクIS−02B(商品名)等を用いることができる。
【0026】
このろう箔40を接合妨害部40aがセラミックス基板20に接するようにセラミックス基板20と回路層用の金属板30との間に配置するとともに、他方のろう箔41をセラミックス基板20と放熱層用の金属板31との間に配置するように、これらセラミックス基板20、金属板30,31およびろう箔40,41を積層する。そして、この積層方向に加圧しながら加熱することにより、セラミックス基板20と金属板30,31とをろう付する。
【0027】
すると、セラミックス基板20と金属板31との間は、ろう箔41により全面が接合される。これに対して、セラミックス基板20と金属板30との間では、セラミックス基板20と金属板30とが互いに接合されている接合部11と、接合妨害部40aによってセラミックス基板20と金属板30とが互いに接合されていない部分とが設けられる。この接合されていない部部により、識別記号13が形成される。すなわち、接合妨害部40aの塗膜の部分が空隙となって識別記号13を形成する。空隙により形成された識別記号13は、表面には露出しないが、超音波検査等により識別可能である。
【0028】
以上説明したように、本実施形態の製造方法によれば、所望の形状に塗料を塗布したろう箔40を用いてセラミックス基板20と金属板30とをろう付するだけで、表面に露出しない識別記号13を有するパワーモジュール用基板10を製造することができる。
【0029】
なお、本発明は前記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
接合妨害部は、前記実施形態ではろう箔のセラミックス基板に接する面に設けたが、ろう箔の金属板に接する面、あるいはセラミックス基板または金属板の表面に設けてもよい。また、前記実施形態では回路層用の金属板とセラミックス基板との間に接合妨害部を設けたが、放熱層用金属板とセラミックス基板との間に接合妨害部(すなわち識別信号)を設けてもよい。
【0030】
また、前記実施形態では塗料により接合妨害部を形成したが、図5に示すように、金属板の表面に形成された刻印等の凹部からなる接合妨害部40bであってもよい。いずれの場合も、セラミックス基板と金属板との接合面に接合妨害部を設けることにより、表面に露出しない識別記号を備えるパワーモジュール用基板を実現できる。
【符号の説明】
【0031】
10 識別記号付パワーモジュール用基板
11,12 接合部
13 識別記号
20 セラミックス基板
30,31 金属板
32 回路パターン
40,41 ろう箔
40a,40b 接合妨害部
100 パワーモジュール
101 電子部品
102 ヒートシンク
102a 流路
103 はんだ材
104 ボンディングワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに接合されたセラミックス基板と金属板とを備え、
前記セラミックス基板と前記金属板との間に、前記セラミックス基板と前記金属板とが互いに接合されている接合部と、前記セラミックス基板と前記金属板とが互いに接合されていない部分により形成された識別記号とが設けられていることを特徴とする識別記号付パワーモジュール用基板。
【請求項2】
前記識別記号は、前記金属板の表面に形成された凹部であることを特徴とする請求項1に記載の識別記号付パワーモジュール用基板。
【請求項3】
ろう付用のろう箔、セラミックス基板および金属板の少なくともいずれかの表面に接合妨害部を設けておき、
前記セラミックス基板と前記金属板との間に前記ろう箔を配置するように、前記セラミックス基板、前記金属板および前記ろう箔を積層し、
この積層方向に加圧しながら加熱して、前記セラミックス基板と前記金属板とをろう付し、
前記セラミックス基板と前記金属板との間に、前記セラミックス基板と前記金属板とが互いに接合されている接合部と、前記接合妨害部によって前記セラミックス基板と前記金属板とが互いに接合されていない部分とを設け、この接合されていない部分による識別記号を形成することを特徴とする識別記号付パワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項4】
前記接合妨害部は、前記ろう箔、前記セラミックス基板または前記金属板の前記表面に塗料により形成された塗膜であることを特徴とする請求項3に記載の識別記号付パワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項5】
前記接合妨害部は、前記金属板の前記表面に形成された凹部であることを特徴とする請求項3に記載の識別記号付パワーモジュール用基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−165726(P2011−165726A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23726(P2010−23726)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)