説明

貝類の種苗採取方法

【課題】貝類の種苗を効率良く採取する方法を提供する。
【解決手段】貝類の種苗を垂下式にて採取する方法において、採苗器を、セメントを主成分とする水硬性組成物のスラリーで被覆して用いることを特徴とする貝類の種苗採取方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貝類の種苗を効率良く採取する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
貝類の種苗を採取する方法としては、採苗器を海中に垂下して種苗を付着させる方法が一般的であり、採取した種苗は、適当な大きさの稚貝に成長するまでそのままの状態で養殖される。採苗器としては、ネット袋や、貝殻を針金やロープ等の基材に取り付けた垂下連、貝殻の代わりにプラスチック製の採苗器を取り付けた垂下連などが用いられている。
【0003】
種苗が稚貝に成長するまでの間、採苗器には、目的とする以外の貝類や藻などの海洋植物が多く付着するため、使用後にはそれらを取り除くための清掃作業が必要となる。しかし、ネット袋の採苗器では清掃作業が非常に困難な場合があり、ネット袋自体を破損することもある。また、貝類を養殖する際には、貝を十分な大きさまで成長させるため、稚貝同士の間隔を調整するよう、稚貝を採苗器から分離する(剥がす)工程が必要となる。しかし、貝殻を採苗器とした場合、稚貝自身の付着力が強く、採苗器から剥がす際に稚貝を破損してしまうことがあり、効率的な養殖の弊害となっている。プラスチック製の採苗器は、稚貝を比較的容易に剥がすことができるが、貝殻の採苗器に比べて稚貝の付着が悪いという問題がある。
【0004】
これらを改善するため、ポリカーボネートプラスチック板を用いた貝類の採苗器(特許文献1)や、硬直ワイヤーからなるコレクタ素子を以て複数のループ形状にした貝養殖用コレクタ(特許文献2)等が検討されている。
しかしながら、これらの採苗器を用いても、種苗を効率良く採取することは困難であった。
【特許文献1】実開平5−9268号公報
【特許文献2】特開昭57−177633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、貝類の種苗を効率良く採取する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、斯かる実情に鑑み、種々検討した結果、採苗器を、セメントを主成分とする水硬性組成物のスラリーで被覆して用いれば、貝類の種苗を効率良く採取できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、貝類の種苗を垂下式にて採取する方法において、採苗器を、セメントを主成分とする水硬性組成物のスラリーで被覆して用いることを特徴とする貝類の種苗採取方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、稚貝の剥離が容易であるため破損することがなく、貝類の種苗を効率良く採取することができるとともに、稚貝の成長を促進し、効率良く育成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において用いる基となる採苗器としては、通常用いられるものであれば特に制限されないが、例えば、牡蠣、帆立貝等の貝殻、プラスチック製の採苗器等が挙げられる。
【0010】
採苗器を被覆するための水硬性組成物は、セメントを主成分とするものである。水硬性組成物に用いるセメントとしては、JISに規定されているセメントであればいずれのものでも良く、ポルトランドセメント類のほか、高炉セメント、フライアッシュセメント、スラグセメント、エコセメント、アルミナセメントなどを、1種又は2種以上を適当な割合で混合したものを用いることが可能である。特に、普通ポルトランドセメント又は早強ポルトランドセメントを用いるのが好ましい。これらセメントは、単独で用いることも可能であるが、石膏類、石灰石微粉末、シリカフューム、ドロマイトなどの混和材を1種以上混合し、作業状況に応じて流動性や硬化物性を調整した水硬性組成物として用いるのが好ましい。
【0011】
水硬性組成物は、さらに、硬化性状を調整するための材料として、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の炭酸塩、硫酸塩、亜硝酸塩、硝酸塩、塩化物、水酸化物などを、スラリーの性状に影響を及ぼさない範囲で添加することもできる。これらの材料は、予めセメントもしくはセメントと混和材を混合した粉体に混合しても良いし、練り混ぜ時に水に溶解して添加しても良い。
【0012】
このような水硬性組成物は、スラリーにして用いられる。具体的には、前記のような水硬性組成物と水を、水硬性組成物100質量部に対して水60〜120質量部の割合で練り混ぜて用いることができる。
【0013】
採苗器は、水硬性組成物のスラリーに直接浸漬することにより、被覆させることができる。具体的には、練り混ぜたスラリーを適当な大きさのバケツや水槽などに貯めておき、そこへ採苗器を直接投入して十分に浸漬したのち、引き上げて被覆が完了する。
被覆の厚さは、採苗器から稚貝を剥がす際に、容易に削り取れる又は剥がすことができる程度であれば良く、0.3〜3mm、特に0.5〜2mm程度が好ましい。
【0014】
このようにして、水硬性組成物で被覆した採苗器は、被覆材を十分硬化させた後、通常の方法により、垂下連にして用いることができる。垂下連は、1本当たりの長さが50cm〜5m、特に50cm〜3mであるのが好ましい。1本の垂下連には、採苗器を20〜100枚、特に50〜80枚取り付けるのが好ましい。
また、通常の方法により垂下連を製造した後、これを水硬性組成物のスラリーで被覆して用いることもできる。
【0015】
垂下連は、通常の方法により、海中に設置され、貝類の種苗を採取することができる。
本発明により種苗を採取する貝類としては、牡蠣、帆立貝が好ましい。
【0016】
実施例1
(1)採苗器の材料:
採苗器を作成する際の材料の組み合わせを表1に示す。基となる採苗器に被覆を施す組み合わせA及びB、並びに、比較として被覆しない組み合わせC及びDによりそれぞれ採苗器を作成した。
【0017】
【表1】

【0018】
(2)採苗用垂下連の作成:
基となる採苗器に穴を開けて紐を通し、適当な間隔を確保できるように紐に固定もしくはスペーサーを使用し、表2に示す条件となるような垂下連を作成する。次に、普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)に、促進剤として塩化カルシウムを混合した水硬性組成物を、水道水で練り混ぜて被覆用スラリーを作成し、垂下連全体をスラリー中に浸漬させる。全体を浸漬させたら垂下連を引き上げ、適度に振動させて膜厚を適当な状態に調整した後、吊り下げた状態で1日間静置する。被覆材を十分硬化させ、採苗用垂下連とした。
【0019】
【表2】

【0020】
(3)採苗状況:
1日間静置した後の採苗用垂下連を筏に6ヶ月間垂下し、採苗器1枚当りに着床した牡蠣の種苗の数(平均値)と、中間養殖のため採苗器に着床した種苗を牡蠣ナイフにより採苗器から剥がし取る際に破損した種苗の数(平均値)を表3に示す。
【0021】
【表3】

【0022】
表3の結果より、水硬性組成物で被覆した採苗器を用いた場合には、採苗器1枚当りに付着した種苗数が多く、かつ、剥離時の種苗の破損も少なかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貝類の種苗を垂下式にて採取する方法において、採苗器を、セメントを主成分とする水硬性組成物のスラリーで被覆して用いることを特徴とする貝類の種苗採取方法。
【請求項2】
貝類が、牡蠣又は帆立貝である請求項1記載の貝類の種苗採取方法。
【請求項3】
採苗器が、牡蠣又は帆立貝の貝殻である請求項1又は2記載の貝類の種苗採取方法。
【請求項4】
採苗器を、水硬性組成物のスラリーに直接浸漬して被覆する請求項1〜3のいずれか1項記載の貝類の種苗採取方法。
【請求項5】
垂下連1本当たりの長さが50cm〜5mである請求項1〜4のいずれか1項記載の貝類の種苗採取方法。
【請求項6】
垂下連1本当たりの採苗器の数が20〜100枚である請求項1〜5のいずれか1項記載の貝類の種苗採取方法。

【公開番号】特開2008−206497(P2008−206497A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−49048(P2007−49048)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(507066655)有限会社水山養殖場 (3)
【Fターム(参考)】