説明

赤外線ズームレンズ

【課題】良好に諸収差を補正し、レンズ口径の小型化が可能な、赤外線ズームレンズの提供。
【解決手段】物体側より順に、正の屈折力を有し、合焦機能と変倍に伴う補償機能を持つ第1レンズ群G1と、負の屈折力を有し、変倍機能を持つ第2レンズ群G2と、正の屈折率を有し、中間像を形成する機能を持つ第3レンズ群G3と、正の屈折率を有し、前記中間像をリレー結像する機能を持つ第4レンズ群G4と、開口絞りASとを有し、第1レンズ群G1は正レンズL1を含み、第3レンズ群G3は物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズL33を含み、第4レンズ群G4は最も像側のレンズL43が物体側に凸面を向けたメニスカス形状に形成されており、第1レンズ群G1の正レンズL1のアッベ数をνL1とし、第3レンズ群G3の正メニスカスレンズL33のアッベ数をνL3としたとき、次式νL1>2νL3の条件を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線撮像装置等に好適な赤外線ズームレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
赤外光学系は、暗闇などにおいて肉眼では見えない被写体を、赤外線を利用して可視像に変換する赤外線撮像装置等に利用されている。赤外線撮像装置は、赤外光学系と、赤外線検出器(ディテクタ)とから主に構成されている。赤外光学系は、被検物体等から放射される熱、すなわち赤外線を集光し、赤外線検出器の検出面上に結像させている。赤外線検出器(ディテクタ)は、赤外光学系により被検物体等からの赤外線が集光される位置に配置され、検出器面上に複数の受光素子(CCD(電荷結合素子))を有している。
【0003】
そして、上記のような赤外線撮像装置では、赤外線検出器にて被検物以外から放射される不要な赤外線(例えば、鏡筒の自己放射)の影響を取り除くため、赤外光学系と赤外線検出器との間に、赤外光学系によって集光された赤外線を通過させる開口部を備えたコールドシールドを配置して、検出面の周囲(側方や斜方)からの不要光を遮断するとともに、このコールドシールドと赤外線検出器を低温(ほぼ液体窒素温度)に冷却して、これら自体から放射する赤外線を極力除去する構成となっている。
【0004】
また、コールドシールドが備えている開口部は、赤外光学系の射出瞳の位置と大きさ(射出瞳の径)が一致するように設計されており、このような状態は一般に「開口整合の取れた状態」と呼ばれている。このように、コールドシールドが赤外光学系の射出瞳と開口整合を取ることにより、赤外線検出器において、赤外光学系の被検物体以外の不要な赤外光を効率良く抑えることができ、被検物体の赤外光のみを取り入れることができるようになっている。
【0005】
しかしながら、上記のような開口整合を取るために、赤外光学系の射出瞳の位置とコールドシールドの開口部とを一致させようとすると、射出瞳が赤外光学系と赤外線検出器との間に置かれることになり、光学系の収差補正が困難になってしまったり、レンズ口径が大きくなってしまったりといった問題があった。このような問題を解決するため、近年、種々の赤外光学系が開示されている(例えば、特許文献1及び2を参照)。
【0006】
具体的には、特許文献1に記載の赤外光学系は、物体側より順に、第1〜第5レンズ群からなる5つのレンズ群と、開口絞りとが主に配置され、第4レンズ群及び第5レンズ群は各々少なくとも1つの非球面形状を備えた構成となっている。また、特許文献2に記載の赤外光学系は、物体側より順に、第1および第2レンズ群からなる2つのレンズ群と、開口絞りとが配置され、中間像が第1と第2レンズ群との間に形成される構成となっている。
【特許文献1】特開2002−14283号公報
【特許文献2】特開2007−264191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、赤外線を透過させる光学材料としては、従来より、ゲルマニウム(Ge),シリコン(Si),硫化亜鉛(ZnS)などの結晶材料が使われているが、これらの材料は非常に高価であるため、レンズの構成枚数が多いとコストが高くなってしまうといった問題がある。また、レンズの構成枚数が多いと、光学系における透過率の低下が問題となり、赤外線検出器の低感度化や熱雑音の増加を招いてしてしまう。よって、赤外光学系では、最小限のレンズ枚数で構成することが望まれている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示の赤外光学系では、レンズの構成枚数が多い上に、非球面形状を有するレンズが複数含まれている。上記のように赤外光学系用の光学材料は高価であり、さらに非球面レンズも高価であるため、コスト上不利となってしまう。また、コスト以外の観点からも、レンズの構成枚数が多いと、透過率の減少、フレアの増加、ゴーストの発生、ナルシサスの発生等が考えられ、性能上不利であり、好ましくない。
【0009】
また、特許文献2に開示の赤外光学系では、フォーカシングはレンズ移動により行われているが、焦点距離は変倍レンズの挿脱による切り換え式となっているため、特定の2つの焦点距離しか用いることができない。また、変倍レンズを退避させるスペースが必要であるため、光学系の小型化に不利であり、好ましくない。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、少ないレンズ枚数で構成しつつも、良好に諸収差を補正し、レンズ口径の小型化を図り、開口整合を取ることができ、さらには焦点距離を連続的に変化させることができる、赤外線ズームレンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的を達成するため、本発明の赤外線ズームレンズは、全体として正の屈折力を有し、合焦機能と変倍に伴う補償機能を持つ第1レンズ群と、全体として負の屈折力を有し、変倍機能を持つ第2レンズ群と、全体として正の屈折率を有し、中間像を形成する機能を持つ第3レンズ群と、全体として正の屈折率を有し、前記中間像をリレー結像する機能を持つ第4レンズ群と、開口絞りとを有し、前記第1レンズ群は正レンズを含み、前記第3レンズ群は物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズを含み、前記第4レンズ群は最も像側のレンズが物体側に凸面を向けたメニスカス形状に形成されており、前記第1レンズ群の前記正レンズのアッベ数をνL1とし、前記第3レンズ群の前記正メニスカスレンズのアッベ数をνL3としたとき、次式νL1>2νL3の条件を満足することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、少ないレンズ枚数で構成しつつも、良好に諸収差を補正し、レンズ口径の小型化を図り、開口整合を取ることができ、焦点距離を連続的に変化させることができる、赤外線ズームレンズを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。本発明に係る赤外線ズームレンズは、赤外線撮像装置等に搭載される、物体の像を撮像手段の検出面上に形成する光学系であり、物体側より順に並んだ、全体として正の屈折力を有し、合焦機能と(後述の第2レンズ群による)変倍に伴う補償機能を持つ第1レンズ群と、全体として負の屈折力を有し、変倍機能を持つ第2レンズ群と、全体として正の屈折率を有し、中間像を形成する機能を持つ第3レンズ群と、全体として正の屈折率を有し、前記中間像をリレー結像する機能を持つ第4レンズ群と、開口絞りとを有して構成されている。なお、開口絞りの直前には、撮像素子用窓材として、2枚のゲルマニウム平行平面板が配置されている。
【0014】
上記構成の赤外線ズームレンズは、広角端から望遠端へのズーミング時において、第3レンズ群、第4レンズ群及び開口絞りは固定しつつ、第1レンズ群および第2レンズ群は光軸方向に移動可能に構成されており、第2レンズ群を光軸方向に移動させることにより変倍を行うとともに、第1レンズ群を光軸方向に移動させることにより結像位置の補正を行うようになっている。なお、各ズームポジションにおいて、ズーミング時の第1レンズ群と第2レンズ群の位置関係は、第1レンズ群で生じた球面収差を、第2レンズ群で補正するように考慮された上で、決定されている。
【0015】
なお、第4レンズ群は、最も像側のレンズ(具体的には、後述の第1および第2実施例の第4レンズ群G4の負メニスカスレンズL43が相当)が、物体側に凸面を向けた比較的曲率半径の小さいメニスカス形状に形成されている。これにより、ペッツバール和の補正を良好に行うことができる。
【0016】
また、第1レンズ群は正レンズを含み、第3レンズ群は物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズを含み、これらのレンズの間には、第1レンズ群の正レンズのアッベ数をνL1とし、第3レンズ群の正メニスカスレンズのアッベ数をνL3としたとき、次式(1)を満足する関係がある。但し、アッベ数νは、硝材の設計基準波長の屈折率をnmとし、硝材の設計最短波長の屈折率をnhとし、硝材の設計最長波長の屈折率をnlとしたとき、ν=(nm−1)/(nh−nl)で定義される。
【0017】
νL1>2νL3 …(1)
【0018】
通常の色収差補正では、正レンズには低分散(アッベ数は小)の硝材、負レンズには高分散(アッベ数は大)の硝材を使用する。しかしながら、本実施形態においては、第3レンズ群の正メニスカスレンズに、上記条件式(1)を満足するような高分散の硝材(後述の第1実施例ではゲルマニウム、第2実施例では硫化亜鉛)を使用している。以下に、第3レンズ群の正メニスカスレンズ、すなわち正レンズに高分散の硝材を使用した理由について説明する。
【0019】
本実施形態の第3レンズ群では、正メニスカスレンズより物体側に位置する負レンズが球面収差とコマ収差の補正に最適な形状となっているために、軸上色収差は補正過剰の状態となり、倍率色収差は補正不足の状態となる。そこで、第3レンズ群の正メニスカスレンズに高分散の硝材を使用し、さらにその形状をアプラナチックレンズに近づけて構成することで、第3レンズ群において(前記負レンズにより行われている)球面収差の補正に与える影響を抑えながらも、軸上色収差と倍率色収差も同時に補正することを可能にしている。その結果、本実施形態に係る赤外線ズームレンズは、良好な結像性能を持ちつつも、レンズの構成枚数を抑えることができるようになっている。
【0020】
本実施形態では、開口絞りを本光学系の最も像側に配置することにより、本光学系の射出瞳の位置と開口絞りの位置とを一致させて、開口整合を取ることを可能にしている。さらに、第3レンズ群により中間像を形成することにより、入射瞳の位置を開口絞りより物体側に配置し、本光学系の物体側のレンズ口径を小さくすることを可能にしている。
【実施例】
【0021】
以下、各実施例を図面に基づいて説明する。まず、表1に、各実施例において本ズームレンズを構成する硝材として用いた、ゲルマニウム、シリコン及び硫化亜鉛の屈折率を示す。表1では、第1実施例に対応する波長3〜5μm及び第2実施例に対応する波長8〜12μmの赤外光に対する屈折率を示している。
【0022】
(表1)材料別屈折率
3μm 4μm 5μm 8μm 10μm 12μm
シリコン 3.43234 3.42541 3.42227
ゲルマニウム 4.04481 4.02448 4.01535 4.00523 4.00316 4.00231
硫化亜鉛 2.22281 2.20016 2.17007
【0023】
(第1実施例)
第1実施例について、図1〜図8及び表2を用いて説明する。なお、図1には第1実施例に係るレンズ構成図を、図2には本実施例における望遠端状態(T)から中間焦点距離状態(M)を経て広角端状態(W)までの焦点距離状態の変化、すなわちズーミングの際の各レンズ群の移動の様子を示す。また、表2には第1実施例におけるレンズ諸元を示す。
【0024】
本実施例に係る赤外線ズームレンズは、3〜5μmの波長域(基準波長4μm)に対応したものであり、図1に示すように、物体側より順に並んだ、全体として正の屈折力を有する第1レンズ群G1と、全体として負の屈折力を有する第2レンズ群G2と、全体として正の屈折率を有する第3レンズ群G3と、全体として正の屈折率を有する第4レンズ群G4と、開口絞りASとから構成されている。開口絞りASの直前には、撮像素子用窓材として2枚のゲルマニウム平行平面板P1,P2が配置されている。図中のIは像面を示しており、不図示の複数の受光素子(CCD(電荷結合素子)等)を備えて構成されている。なお、本光学系の射出瞳の位置と開口絞りASの位置とは一致しており、いわゆる開口整合が取れた状態となっている。
【0025】
第1レンズ群G1は物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズL1からなる。第2レンズ群G2は両凹レンズL2からなる。第3レンズ群G3は、物体側より順に並んだ、両凸レンズL31と、物体側に凹面を向けた負メニスカスレンズL32と、物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズL33とからなる。第4レンズ群G4は、物体側より順に並んだ、物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズL41と、物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズL42と、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズL43とからなる。
【0026】
なお、本実施例では色収差を良好に補正するため、上記ズームレンズを構成する硝材として赤外線を通す分散の異なる2種類の材料を用いて設計している。具体的には、第1レンズ群G1の正メニスカスレンズL1はシリコン、第2レンズ群G2の両凹レンズL2はシリコン、第3レンズ群G3の両凸レンズL31はシリコン、負メニスカスレンズL32はゲルマニウム、正メニスカスレンズL33はゲルマニウム、第4レンズ群G4の正メニスカスレンズL41はシリコン、正メニスカスレンズL42はシリコン、負メニスカスレンズL43はゲルマニウムを用いて設計している(表2参照)。
【0027】
そして、赤外線ズームレンズは、図2に示すように、望遠端状態(T)から広角端状態(W)へのズーミング(変倍)の際には、第3レンズ群G3、第4レンズ群G4及び開口絞りASは固定しつつ、第1レンズ群G1を(物体側に凸の軌跡にて)光軸に沿って移動させ、第2レンズ群G2を(直線の軌跡にて)光軸に沿って移動させる。
【0028】
このような構成の赤外線ズームレンズでは、被検物体(不図示)から放射される熱すなわち赤外線は、第1レンズ群G1を通って合焦され、第2レンズ群G2を通って変倍され、第3レンズ群G3を通って中間像が形成され、この中間像が第4レンズ群によりリレー結像された後に、開口絞りASを介して像面I(検出器面)上に集光され、この検出器面I上に設けられた受光素子(不図示)より受光されるようになっている。
【0029】
表2に、第1実施例における赤外線ズームレンズの各レンズの諸元値を示す。表2において、第1欄mは物体側からの各光学面の番号(以下、面番号と称する)、第2欄rは各光学面の曲率半径、第3欄dは各光学面から次の光学面(又は像面I)までの光軸上の距離(以下、面間隔と称する)、第4欄は硝材名、第5欄は所属するレンズ群を表す。なお、表2の面番号1〜20は、図1の面番号1〜20に対応している。
【0030】
また、表中において、第1レンズ群G1と第2レンズ群G2との軸上空気間隔をd1とし、第2レンズ群G2と第3レンズ群G3との軸上空気間隔をd2とし、これらの軸上空気間隔はズーミング(変倍)に際して変化する。また、表2では、fは焦点距離、ωは画角(deg.)を示すとともに、上記条件式(1)に対応する値、すなわち条件式対応値も示している。
【0031】
表2において、焦点距離f、曲率半径r、面間隔dなど、その他の長さの単位は、一般に「mm」が使われている。但し、光学系は、比例拡大又は比例縮小しても同等の光学性能が得られるので、単位は「mm」に限定されることなく、他の適当な単位を用いることが可能である。また、表2において、曲率半径の「0.00000」は平面または開口を示している。以上、諸元値に関する表の説明は、他の実施例においても同様である。
【0032】
(表2)
波長3〜5μm(基準波長4μm)
[レンズ諸元]
m r d 硝材名 (レンズ名)レンズ群
1 188.22268 6.00000 シリコン (L1 )G1
2 248.24435 (d1)
3 -348.36381 3.50000 シリコン (L2 )G2
4 488.37708 (d2)
5 153.20090 6.00000 シリコン (L31)G3
6 -140.87647 1.94960
7 -103.28020 3.00000 ゲルマニウム (L32)
8 -486.90118 43.61728
9 38.14881 4.00000 ゲルマニウム (L33)
10 41.71549 71.30273
11 -1273.41645 2.50000 シリコン (L41)G4
12 -73.37961 0.10000
13 18.71103 3.00000 シリコン (L42)
14 34.89691 1.43373
15 38.62777 7.30000 ゲルマニウム (L43)
16 14.70468 1.88754
17 0.00000 2.00000 ゲルマニウム P1
18 0.00000 1.00000
19 0.00000 1.00000 ゲルマニウム P2
20 開口絞りAS 30.00000
[ズーミング(変倍)時における可変間隔]
f ω d1 d2
望遠端無限遠 250 4.58 146.33960 5.00000
望遠端近距離10m 212 4.41 155.40909 5.00000
中間無限遠 140 8.17 97.05323 54.08661
中間近距離10m 137 7.79 106.32248 54.08661
広角端無限遠 80 14.25 10.00000 80.62113
広角端近距離10m 81 13.75 19.48489 80.62113
[条件式]
νL1=241
νL3=103
(1)νL1(=241)>2νL3(=2×103=206)
【0033】
表2に示す諸元の表から分かるように、第1実施例に係る赤外線ズームレンズでは、上記条件式(1)を全て満たすことが分かる。
【0034】
図3〜図8は、第1実施例に係る赤外線ズームレンズの横収差図である。図3は望遠端状態における無限遠物点での合焦状態の横収差図、図4は望遠端状態における近距離物点10mでの合焦状態の横収差図、図5は中間焦点距離状態における無限遠物点での合焦状態の横収差図、図6は中間焦点距離状態における近距離物点10mでの合焦状態での横収差図、図7は広角端状態における無限遠物点での合焦状態の横収差図、図8は広角端状態における近距離物点10mでの合焦状態の横収差図をそれぞれ示す。なお、各収差図において、各像高(半画角ω)毎にタンジェンシャル像面及びサジタル像面における収差曲線を示している。また、各収差図において、実線は波長5μm、点線は4μm、一点鎖線は3μmの収差曲線をそれぞれ示している。
【0035】
図3〜図8に示す各収差図から明らかであるように、第1実施例の赤外線ズームレンズでは、望遠端状態における無限遠物点から近距離物点10mまでの各焦点距離状態、中間焦点距離状態における無限遠物点から近距離物点10mまでの各焦点距離状態、及び、広角端状態における無限遠物点から近距離物点10mまでの各焦点距離状態において、いずれの場合にも良好に収差補正され、優れた結像性能が確保されていることが分かる。
【0036】
(第2実施例)
第2実施例について、図9〜図16及び表3を用いて説明する。なお、図9には第2実施例に係るレンズ構成図を、図10には本実施例における望遠端状態(T)から中間焦点距離状態(M)を経て広角端状態(W)までの焦点距離状態の変化、すなわちズーミングの際の各レンズ群の移動の様子を示す。
【0037】
本実施例に係る赤外線ズームレンズは、8〜12μmの波長域(基準波長10μm)に対応したものであり、図9に示すように、物体側より順に並んだ、全体として正の屈折力を有する第1レンズ群G1と、全体として負の屈折力を有する第2レンズ群G2と、全体として正の屈折率を有する第3レンズ群G3と、全体として正の屈折率を有する第4レンズ群G4と、開口絞りASとから構成されている。開口絞りASの直前には、撮像素子用窓材として2枚のゲルマニウム平行平面板P1,P2が配置されている。図中のIは像面を示しており、不図示の複数の受光素子(CCD(電荷結合素子)等)を備えて構成されている。なお、本光学系の射出瞳の位置と開口絞りASの位置とは一致しており、いわゆる開口整合が取れた状態となっている。
【0038】
第1レンズ群G1は物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズL1からなる。第2レンズ群G2は両凹レンズL2からなる。第3レンズ群G3は、物体側より順に並んだ、両凸レンズL31と、物体側に凹面を向けた負メニスカスレンズL32と、物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズL33とからなる。第4レンズ群G4は、物体側より順に並んだ、物体側に凹面を向けた両凸レンズL41と、物体側に凹面を向けた負メニスカスレンズL42と、物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズL43とからなる。
【0039】
なお、本実施例では色収差を良好に補正するため、上記ズームレンズを構成する硝材として赤外線を通す分散の異なる2種類の材料を用いて設計している。具体的には、第1レンズ群G1の正メニスカスレンズL1はゲルマニウム、第2レンズ群G2の両凹レンズL2はゲルマニウム、第3レンズ群G3の両凸レンズL31はゲルマニウム、負メニスカスレンズL32は硫化亜鉛、正メニスカスレンズL33は硫化亜鉛、第4レンズ群G4の両凸レンズL41はゲルマニウム、負メニスカスレンズL42はゲルマニウム、正メニスカスレンズL43はゲルマニウムを用いて設計している(表3参照)。
【0040】
そして、赤外線ズームレンズは、図10に示すように、望遠端状態(T)から広角端状態(W)へのズーミング(変倍)の際には、第3レンズ群G3、第4レンズ群G4及び開口絞りASは固定しつつ、第1レンズ群G1を(物体側に凸の軌跡にて)光軸に沿って移動させ、第2レンズ群G2を(直線の軌跡にて)光軸に沿って移動させる。
【0041】
このような構成の赤外線ズームレンズでは、被検物体(不図示)から放射される熱、すなわち赤外線は、第1レンズ群G1を通って合焦され、第2レンズ群G2を通って変倍され、第3レンズ群G3を通って中間像が形成され、この中間像が第4レンズ群によりリレー結像された後に、開口絞りASを介して像面I(検出器面)上に集光され、この検出器面I上に設けられた受光素子(不図示)より受光されるようになっている。
【0042】
表3に、第2実施例における赤外線ズームレンズの各レンズの諸元値を示す。表3の面番号1〜20は、図9の面番号1〜20に対応している。また、表中において、第1レンズ群G1と第2レンズ群G2との軸上空気間隔をd1とし、第2レンズ群G2と第3レンズ群G3との軸上空気間隔をd2とし、これらの軸上空気間隔はズーミングに際して変化する。
【0043】
(表3)
波長8〜12μm(基準波長10μm)
[レンズ諸元]
m r d 硝材名 (レンズ名)レンズ群
1 281.04271 12.00000 ゲルマニウム (L1 )G1
2 368.40753 (d1)
3 -964.23530 5.00000 ゲルマニウム (L2 )G2
4 323.04414 (d4)
5 883.81258 7.00000 ゲルマニウム (L31)G3
6 -241.32699 2.96529
7 -116.48199 4.00000 硫化亜鉛 (L32)G3
8 -369.38897 12.30479
9 68.65620 7.00000 硫化亜鉛 (L33)G3
10 107.13713 150.29094
11 2553.75491 7.00000 ゲルマニウム (L41)G4
12 -124.61165 5.35609
13 -82.57337 4.50000 ゲルマニウム (L42)G4
14 -129.72691 0.10000
15 42.57893 20.00000 ゲルマニウム (L43)G4
16 33.26128 15.72304
17 0.00000 2.00000 ゲルマニウム P1
18 0.00000 1.00000
19 0.00000 1.00000 ゲルマニウム P2
20 (開口絞りAS) 30.00000
[ズーミング(変倍)時における可変間隔]
f ω d1 d2
望遠端無限遠 250 4.58 227.74035 5.00000
望遠端近距離10m 216 4.29 240.59736 5.00000
中間無限遠 140 8.17 198.58650 81.20892
中間近距離10m 137 7.31 211.55090 81.20892
広角端無限遠 80 14.25 147.06467 121.92404
広角端近距離10m 85 13.08 160.43801 121.92404
[条件式]
νL1=1028
νL3=23
(1)νL1(=1028)>2νL3(=2×23=46)
【0044】
表3に示す諸元の表から分かるように、第2実施例に係る赤外線ズームレンズでは、上記条件式(1)を全て満たすことが分かる。
【0045】
図11〜図16は、第2実施例に係る赤外線ズームレンズの横収差図である。図11は望遠端状態における無限遠物点での合焦状態の横収差図、図12は望遠端状態における近距離物点10mでの合焦状態の横収差図、図13は中間焦点距離状態における無限遠物点での合焦状態の横収差図、図14は中間焦点距離状態における近距離物点10mでの合焦状態での横収差図、図15は広角端状態における無限遠物点での合焦状態の横収差図、図16は広角端状態における近距離物点10mでの合焦状態の横収差図をそれぞれ示す。なお、各収差図において、各像高(半画角ω)毎にタンジェンシャル像面及びサジタル像面における収差曲線を示している。また、各収差図において、実線は波長12μm、点線は10μm、一点鎖線は8μmの収差曲線をそれぞれ示している。
【0046】
図11〜図16に示す各収差図から明らかであるように、本実施例の赤外線ズームレンズでは、望遠端状態における無限遠物点から近距離物点10mまでの各焦点距離状態、中間焦点距離状態における無限遠物点から近距離物点10mまでの各焦点距離状態、及び、広角端状態における無限遠物点から近距離物点10mまでの各焦点距離状態において、いずれの場合にも良好に収差補正され、優れた結像性能が確保されていることが分かる。
【0047】
なお、本発明を分かりやすくするために、実施形態の構成要件を付して説明したが、本発明がこれに限定されるものではないことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】第1実施例に係る赤外線ズームレンズのレンズ構成図である。
【図2】第1実施例に係る赤外線ズームレンズにおける、望遠端状態(T)から中間焦点距離状態(M)を経て広角端状態(W)までの焦点距離状態の変化、すなわちズーミングの際の各レンズ群の移動の様子を示す図である。
【図3】第1実施例に係る赤外線ズームレンズの横収差図である。
【図4】第1実施例に係る赤外線ズームレンズの望遠端状態における無限遠物点での合焦状態の横収差図である。
【図5】第1実施例に係る赤外線ズームレンズの望遠端状態における近距離物点10mでの合焦状態の横収差図である。
【図6】第1実施例に係る赤外線ズームレンズの中間焦点距離状態における無限遠物点での合焦状態の横収差図である。
【図7】第1実施例に係る赤外線ズームレンズの中間焦点距離状態における近距離物点10mでの合焦状態での横収差図である。
【図8】第1実施例に係る赤外線ズームレンズの広角端状態における無限遠物点での合焦状態の横収差図である。
【図9】第2実施例に係る赤外線ズームレンズのレンズ構成図である。
【図10】第2実施例に係る赤外線ズームレンズにおける、望遠端状態(T)から中間焦点距離状態(M)を経て広角端状態(W)までの焦点距離状態の変化、すなわちズーミングの際の各レンズ群の移動の様子を示す図である。
【図11】第2実施例に係る赤外線ズームレンズの望遠端状態における無限遠物点での合焦状態の横収差図である。
【図12】第2実施例に係る赤外線ズームレンズの望遠端状態における近距離物点10mでの合焦状態の横収差図である。
【図13】第2実施例に係る赤外線ズームレンズの中間焦点距離状態における無限遠物点での合焦状態の横収差図である。
【図14】第2実施例に係る赤外線ズームレンズの中間焦点距離状態における近距離物点10mでの合焦状態での横収差図である。
【図15】第2実施例に係る赤外線ズームレンズの広角端状態における無限遠物点での合焦状態の横収差図である。
【図16】第2実施例に係る赤外線ズームレンズの広角端状態における近距離物点10mでの合焦状態の横収差図である。
【符号の説明】
【0049】
G1 第1レンズ群
G2 第2レンズ群
G3 第3レンズ群
G4 第4レンズ群
AS 開口絞り
I 像面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側より順に並んだ、
全体として正の屈折力を有し、合焦機能と変倍に伴う補償機能を持つ第1レンズ群と、
全体として負の屈折力を有し、変倍機能を持つ第2レンズ群と、
全体として正の屈折率を有し、中間像を形成する機能を持つ第3レンズ群と、
全体として正の屈折率を有し、前記中間像をリレー結像する機能を持つ第4レンズ群と、
開口絞りとを有し、
前記第1レンズ群は正レンズを含み、前記第3レンズ群は物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズを含み、前記第4レンズ群は最も像側のレンズが物体側に凸面を向けたメニスカス形状に形成されており、
前記第1レンズ群の前記正レンズのアッベ数をνL1とし、前記第3レンズ群の前記正メニスカスレンズのアッベ数をνL3としたとき、次式
νL1>2νL3
の条件を満足することを特徴とする赤外線ズームレンズ。
【請求項2】
開口整合を取ることを特徴とする請求項1に記載の赤外線ズームレンズ。
【請求項3】
前記第1〜第4レンズ群はそれぞれ赤外線を通す硝材で構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の赤外線ズームレンズ。
【請求項4】
前記硝材はシリコン、ゲルマニウムおよび硫化亜鉛の少なくとも1つの材料から構成されることを特徴とする請求項3に記載の赤外線ズームレンズ。
【請求項5】
広角端から望遠端へのズーミングに際し、前記第1レンズ群および前記第2レンズ群は光軸方向に移動させ、前記第3レンズ群、前記第4レンズ群及び前記開口絞りは固定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の赤外線ズームレンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−192886(P2009−192886A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−34221(P2008−34221)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】