説明

赤外線検知装置およびその設置方法

【課題】 検知エリアが適切な位置からズレているのか否かや、そのズレの方向およびズレ量の程度を正確に把握することができ、周囲温度などの環境条件によらず検知エリアが適切な位置となるように設置することが可能な赤外線検知装置およびその設置方法を提供する。
【解決手段】 赤外線を検知してそれに応じた信号を出力する受光手段を複数(4a、4b)備え、それらによって空間内で隣接する複数の検知エリアを形成する赤外線検知装置であって、方向および量を表示可能な表示手段(7、9)と、人体を検知したときに前記複数の受光手段(4a、4b)からそれぞれ出力される信号の差に基づいて前記複数の検知エリアの適切な位置からのズレ方向およびズレ量を判定するとともに、それらのズレ方向およびズレ量に応じた表示を前記表示手段(7、9)に行わせる制御手段5とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、警戒区域に侵入した者から発する赤外線を受光することにより侵入者を検知する受動型の赤外線検知装置およびその設置方法に関し、特に、建物の壁際や窓際への侵入者を検知する赤外線検知装置およびその設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の赤外線検知装置では、人体から発する遠赤外線を光学要素で集光して焦電素子などで受光するが、上方から平面的に見たときに赤外線検知装置が赤外線を集光できる角度範囲、つまり検知エリアは、一般に、プラスとマイナスの対からなる複数対に分割設定される。また、このような赤外線検知装置には、部屋の内部などのような広い空間への侵入者を検知する目的に使用されるワイドセンサと、建物の壁際や窓際への侵入者および細長い通路に面する窓やドアからの侵入者などを検知する目的に使用されるナローセンサとがある。ワイドセンサの場合、その使用目的から、上述した検知エリアの個々の角度範囲は多数(例えば5〜9対)設定される。これに対してナローセンサの場合は、検知エリアの個々の角度範囲は1〜2対と少数に設定される。
【0003】
また、ナローセンサの検知距離は、その使用目的から一般にワイドセンサの検知距離よりも長く(1.5〜2倍以上)設定される。このため、赤外線検知装置が検知対象物(侵入者)を検知できる最長距離(以下、定格距離と呼ぶ)において、検知対象物の幅と検知エリアの幅が同じとなるように、ワイドセンサの場合に比べてナローセンサのレンズ体(光学要素の一種)の焦点距離を長くして対応している。あるいは、レンズ体の焦点距離はそのままで、検知エリア1つあたりのレンズ体の面積を大きくし、それによって受光量を増大させることにより定格距離を長くして対応する場合もある。
【0004】
このような受動型の赤外線検知装置を屋外などに設置した場合には、検知エリアよりも遠方に存在する熱源や直射日光あるいは検知エリアに入り込んだ小動物などによる誤動作が生じることがあるが、このような誤動作を確実に防止して人体のみを高精度に検出することができる受動型赤外線式人体検知装置も提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
この受動型赤外線式人体検知装置は、入射赤外線エネルギーをその変動量に応じた電気信号に変換する受光素子と、赤外線を集光して前記受光素子に入射させる光学系とを有し、前記光学系の受光方向により所定の検知エリアを設定して、前記受光素子により、前記検知エリア内から放射される赤外線エネルギーをその変動量に応じた電気信号に変化するセンサユニットを二つ備え、第1のセンサユニットが、検知対象の人体の上半身に受光方向を向け、地面に達しない検知エリアを設定するように配置され、第2のセンサユニットが、前記検知エリアの下方であって、自身の設置位置から所定の検知距離だけ離れた地面に向かう検知エリアを設定するよう配置され、さらに、前記両センサユニットの受光素子からの出力電気信号が所定レベルを超えたときに検出信号を出力するレベル検出回路と、前記両レベル検出回路から検出信号が出力されたときに人体検知信号を出力する人体検知回路とを備えたことを特徴とするものである。なお、この受動型赤外線式人体検知装置では、第2のセンサユニットの上下方向の向きを調整することにより、検知距離を警戒対象区域の大きさに合わせることが可能であることも開示されている。
【0006】
一方、赤外線検知装置の設置時や設置後の定期点検時などの必要のために、人体の検知信号の状態を内蔵しているLEDの点灯や点滅、あるいは電子ブザーの連続音や断続音などで表示する機能を備えたものがある(例えば、特許文献2参照。)。このような表示機能は、通常動作時は無効とされており、設置時などにおいてのみ有効とされる。また、赤外線検知装置の設置時に外部テスターなどとの接続によってこの赤外線検知装置から出力される検知信号を外部テスターなどのオーディオアンプ回路に入力し、検知信号に応じて発生させる音の大きさを変えることで人体の検知信号の状態の確認ができるようにしたものもある。そして、検知エリア内を実際に設置作業者自身が歩行し、そのときの表示を見ながら(あるいは表示音を聞きながら)そこが検知エリア内であるか否かを確認するという手順を経て、検知エリアが適切な位置となるように赤外線検知装置の設置状態などを調整することになる。
【特許文献1】特開平9−101376号公報
【特許文献2】特開2004−185554号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の赤外線検知装置には、例えば、30mを超える長距離検知用のものもあり、特に、ナローセンサでは検知距離100mといったものもある。これら長距離検知用赤外線検知器では、設置角度がわずかに1°変化しただけでも、検知エリアの位置が数十cm単位でずれてしまうことがあり、そのような場合には侵入者の確実な検知ができなく可能性がある。このため、設置時の検知エリアの調整作業は慎重に行う必要がある。
【0008】
ところが、上述のように、赤外線検知装置の設置時の検知エリアの確認方法は、検知エリア内を実際に設置作業者自身が歩行し、その設置作業者が検知されるか否かを表示などによって確認するだけである。検知エリアが適切な位置からズレているのか否かや、そのズレの方向およびズレ量の程度を正確に把握することはできないため、必ずしも検知エリアを適切な位置に設置できるとは限らなかった。
【0009】
また、受動型の赤外線検知装置はその原理上、人体と周囲との温度差を検出するものである。冬のように周囲の温度が十分低ければ、人体と周囲との温度差が大きくなるため、検知エリアが多少ずれていても人体の検知にはあまり影響が出ないと考えられる。ところが、夏のように周囲温度が高くなって、人体と周囲との温度差が小さくなると、検知エリアのずれの大きさによっては、人体の検知ができなくなるおそれがある。
【0010】
したがって、例えば冬場に上述のような方法で赤外線検知装置の設置を行った場合、検知エリアの適切な位置からのずれ量によっては、夏場には侵入者の検知が確実に行えない可能性がある。
【0011】
従来技術のこのような課題に鑑み、本発明の目的は、検知エリアが適切な位置からズレているのか否かや、そのズレの方向およびズレ量の程度を正確に把握することができ、周囲温度などの環境条件によらず検知エリアが適切な位置となるように設置することが可能な赤外線検知装置およびその設置方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の赤外線検知装置は、赤外線を検知してそれに応じた信号を出力する受光手段を複数備え、それらの受光手段によって空間内で隣接する複数の検知エリアを形成する赤外線検知装置であって、方向を表示可能な表示手段と、人体を検知したときに前記複数の受光手段からそれぞれ出力される信号の差に基づいて前記複数の検知エリアの適切な位置からのズレ方向を判定するとともに、そのズレ方向に応じた表示を前記表示手段に行わせる制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0013】
ここで、前記表示手段としては、例えば、視覚によって認識可能な視覚表示を行うもの、聴覚によって認識可能な聴覚表示を行うもの、あるいは視覚表示と聴覚表示とをともに行うものなどが挙げられる。具体的には、視覚表示としては、発光素子を含むものや、前記複数の検知エリアが隣接する方向に配列された複数の発光素子を含むものなどが挙げられる。この発光素子としては、例えば、発光ダイオードを使用してもよい。聴覚表示としては、音を発生するものであってその音程や音量を変えられるものが好ましい。
【0014】
本発明のこのような赤外線検知装置によれば、検知エリアが適切な位置からズレている場合に、前記表示手段の表示によってそのズレ方向を設置作業者が正確に把握することができる。これにより、検知エリアが適切な位置となるように設置することが容易にできるようになり、作業性が向上して作業時間の短縮なども可能となる。また、このようにして設置された赤外線検知装置は、検知エリアが適切な位置にあるので、環境条件などに関わらず、侵入者の検知を確実に行うことができる。
【0015】
また、本発明の赤外線検知装置は、赤外線を検知してそれに応じた信号を出力する受光手段を複数備え、それらの受光手段によって空間内で隣接する複数の検知エリアを形成する赤外線検知装置であって、方向および量を表示可能な表示手段と、人体を検知したときに前記複数の受光手段からそれぞれ出力される信号の差に基づいて前記複数の検知エリアの適切な位置からのズレ方向およびズレ量を判定するとともに、それらのズレ方向およびズレ量に応じた表示を前記表示手段に行わせる制御手段とを備えたことを特徴としてもよい。
【0016】
本発明のこのような赤外線検知装置によれば、検知エリアが適切な位置からズレている場合に、前記表示手段の表示によってそのズレ方向およびズレ量を設置作業者が正確に把握することができる。これにより、検知エリアが適切な位置となるように設置することがさらに容易にできるようになり、作業性が一層向上して作業時間の更なる短縮なども可能となる。また、このようにして設置された赤外線検知装置は、検知エリアが適切な位置にあるので、環境条件などに関わらず、侵入者の検知を確実に行うことができる。
【0017】
あるいは、上記目的を達成するため、本発明の赤外線検知装置の設置方法は、赤外線を検知してそれに応じた信号を出力する受光手段を複数備え、それらの受光手段によって空間内で隣接する複数の検知エリアを形成する赤外線検知装置の設置方法であって、人体を検知したときに前記複数の受光手段からそれぞれ出力される信号の差に基づいて前記複数の検知エリアの適切な位置からのズレ方向を判定する判定工程と、この判定工程において判定された前記ズレ方向に応じた方向表示を行う表示工程と、この表示工程によって表示された方向表示に基づいて前記赤外線検知装置の設置状態を変更する設置状態変更工程とを備えることを特徴とする。
【0018】
本発明のこのような赤外線検知装置の設置方法によれば、検知エリアが適切な位置からズレている場合に、前記表示手段の表示によってそのズレ方向を設置作業者が正確に把握することができる。これにより、検知エリアが適切な位置となるように設置することが容易にできるようになり、作業性が向上して作業時間の短縮なども可能となる。
【0019】
また、本発明の赤外線検知装置の設置方法は、赤外線を検知してそれに応じた信号を出力する受光手段を複数備え、それらの受光手段によって空間内で隣接する複数の検知エリアを形成する赤外線検知装置の設置方法であって、人体を検知したときに前記複数の受光手段からそれぞれ出力される信号の差に基づいて前記複数の検知エリアの適切な位置からのズレ方向およびズレ量を判定する判定工程と、この判定工程において判定された前記ズレ方向およびズレ量に応じた方向および量の表示を行う表示工程と、この表示工程によって表示された方向および量の表示に基づいて前記赤外線検知装置の設置状態を変更する設置状態変更工程とを備えることを特徴としてもよい。
【0020】
本発明のこのような赤外線検知装置の設置方法によれば、検知エリアが適切な位置からズレている場合に、前記表示手段の表示によってそのズレ方向およびズレ量を設置作業者が正確に把握することができる。これにより、検知エリアが適切な位置となるように設置することがさらに容易にできるようになり、作業性が一層向上して作業時間の更なる短縮なども可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の赤外線検知装置およびその設置方法によれば、検知エリアが適切な位置からズレている場合に、前記表示手段の表示によってそのズレ方向やズレ量を設置作業者が正確に把握することができる。これにより、検知エリアが適切な位置となるように設置することが容易にできるようになり、作業性が向上して作業時間の短縮なども可能となる。また、このようにして設置された赤外線検知装置は、検知エリアが適切な位置にあるので、環境条件などに関わらず、侵入者の検知を確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0023】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る遠赤外線防犯用センサー1の外観図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は左側面図である。図2は、この遠赤外線防犯用センサー1のうちの本発明に関するもののみを示したブロック図である。
【0024】
図1(a)〜(c)に示すように、この遠赤外線防犯用センサー1は壁面などに取り付け可能なケース2を有している。このケース2正面の上部および下部に遠赤外線を透過させるレンズ3aおよびレンズ3bがそれぞれ配置されるとともに、これらの各レンズの奥には後述する2系統の受光器が配置され、この遠赤外線防犯用センサー1の正面方向に上下2段の検知エリアがそれぞれ形成される。
【0025】
なお、下側の受光器が、ケース2の内部で不図示の機構により上下方向に所定範囲内で移動可能に保持されるようにしてもよい。このようにすることで、レンズ3bとの相対的な位置関係を変えることができるので、下段の検知エリアの形成方向を一定の範囲で変えることができるようになる。この場合の遠赤外線防犯用センサー1内部の具体的な構造としては、例えば、上述の特許文献1に開示されているような構造が挙げられる。
【0026】
また、図2に示すように、この遠赤外線防犯用センサー1はその内部に、遠赤外線を検知する焦電素子などを有するとともに検知した遠赤外線に応じた出力を発生する2系統の受光器4a(上段)および受光器4b(下段)と、上から下に順に縦に並ぶ3つのLED7a、LED7bおよびLED7cを有する表示器7と、この表示器7の各LEDを点灯させる駆動回路6と、音を出力するスピーカ9と、このスピーカ9から出力される音の音量および音程(例えば、「ド・レ・ミ・ファ・ソ」のいずれかを選択)を設定する音発生回路8と、受光器4aおよび受光器4bの出力に基づいて駆動回路6および音発生回路8を制御する制御回路5とを備えている。
【0027】
ここで、制御回路5としては、例えば、ワンチップマイコン、FPGA、ASICなどが挙げられるが、これらに限るものではない。また、遠赤外線防犯用センサー1全体の制御が、例えばワンチップマイコンなどによって行われているのであれば、それと兼用してもよいし、独立の回路としてもよい。なお、制御回路5の詳細な動作については、図7を参照して後述する。
【0028】
また、表示器7が有するLEDの数は3つに限るものではなく、それ以上の個数を使用してもよいし、あるいは2つのLEDの表示状態を組み合わせるようにしてもよい。あるいは、7セグメントのLEDなどを利用して、数字などで表示を行うようにしてもよいし、液晶パネルなどを用いたドットマトリクス表示によって、文字や数字を表示するようにしてもよい。
【0029】
図3は、本発明の第1実施形態に係る遠赤外線防犯用センサー1がその検知エリアが適切な位置となるように設置された場合に、その検知エリアと人体との位置関係を示す説明図である。図4は、図3の状況において、その検知エリアを人体が横切ったときの各受光器の出力信号の一例であり、(a)が上段の出力信号を示し、(b)が下段の出力信号を示す。図5は、本発明の第1実施形態に係る遠赤外線防犯用センサー1がその検知エリアが適切な位置から外れて設置された場合に、その検知エリアと人体との位置関係を示す説明図である。図6は、図5の状況において、その検知エリアを人体が横切ったときの各受光器の出力信号の一例であり、(a)が上段の出力信号を示し、(b)が下段の出力信号を示す。
【0030】
遠赤外線防犯用センサー1がその検知エリアが適切な位置となるように設置された場合には、図3に示すように、プラスとマイナスの対からなる上段の検知エリアA4a+、A4a−は、人体10の上半身に相当する位置に左右に隣接して形成される。また、下段の検知エリアA4b+、A4b−は、人体10の下半身に相当する位置であって上段の検知エリアA4a+、A4a−と地面11との間に左右に隣接して形成される。
【0031】
このような状況において、人体10がこれらの各検知エリアを横切ると、上段の受光器4aおよび下段の受光器4bからは、図4(a)および(b)に示すようなほぼ同じ振幅のサイン波状の出力信号が現れる。
【0032】
一方、遠赤外線防犯用センサー1がその検知エリアが適切な位置から外れて設置された場合(例えば、遠赤外線防犯用センサー1全体がわずかに下向きに傾いて壁面に取り付けられた場合など)には、例えば、図5に示すように、上段の検知エリアA4a+、A4a−および下段の検知エリアA4b+、A4b−が、図3の状況におけるそれぞれの形成位置と比較して、所定量ずつ下方向にずれた位置に形成される。この場合、上段の検知エリアA4a+、A4a−はそのほぼ全体が依然として人体10に対応しているが、下段の検知エリアA4b+、A4b−は、その一部だけが人体10に対応するものの、その他の部分は人体10には全く対応しないこととなってしまう。
【0033】
このような状況において、人体10がこれらの各検知エリアを横切ると、上段の受光器4aからは、図6(a)に示すように、図4(a)とほぼ同様の振幅のサイン波状の出力信号が現れる。しかし、下段の受光器4bは上述のように人体10の下半身の一部にしか対応していないため、図6(b)に示すように、図6(a)より振幅の小さいサイン波状の出力信号が現れることになる。
【0034】
このように、検知エリアが適切な位置から外れて設置されていると、遠赤外線防犯用センサー1が周囲温度などによっては人体10を検出できなくなるおそれがある。そこで、この遠赤外線防犯用センサー1では、次に説明するように、検知エリアが適切な位置からズレているのか否かや、そのズレの方向およびズレ量の程度を設置作業者が正確に把握することができるような表示を光と音によって行う。
【0035】
図7は、本発明の第1実施形態に係る遠赤外線防犯用センサー1の設置時などにおける概略動作を示すフローチャートである。
【0036】
図7に示すように、遠赤外線防犯用センサー1では、設置時などのための動作状態に切り換えられると、受光器4aおよび受光器4bの各出力信号の監視が行なわれる。そして、人体10などが検知エリアを横切ることによってこれらの出力信号が変化すると、そのときの出力信号の振幅が変数W1および変数W2にそれぞれ記憶される(ステップS701)。
【0037】
しかし、出力信号が変化してもその振幅が小さい場合は、人体10などが検知エリアを横切ったのではなく、その他の要因やノイズなどの影響によって出力信号が変化した可能性がある。このような場合には、誤動作防止のために無視することが望ましい。そのため、まず、変数W1の値を所定の基準値W0と比較し(ステップS702)、「W1≧W0」だった場合はステップS703に進み、そうでなければステップS701に戻る。ステップS703では、変数W2の値を所定の基準値W0と比較し(ステップS703)、「W2≧W0」だった場合はステップS704に進み、そうでなければステップS701に戻る。すなわち、変数W1および変数W2の値がともにW0以上であればステップS704に進み、いずれかが基準値W0未満であればステップS701に戻ることになる。
【0038】
次に、変数W1の値から変数W2の値を引いた値を変数ΔWに代入する(ステップS704)。そして、この変数ΔWの値に基づいて、受光器4aおよび受光器4bの各出力信号の振幅の大きさがほぼ同等(振幅の差が所定値未満)なのか、あるいはいずれかの方が大きいのかを判別する。そして、その判別結果に応じて、表示器7の各LEDの表示状態と、スピーカ9から出力される音の音量および音程とを設定する。
【0039】
具体的には、まず、変数ΔWの値を所定値α(ただし、α>0)と比較し(ステップS705)、「ΔW≧α」であればステップS707に進み、そうでなければステップS706に進む。ステップS706では、変数ΔWの値を−αと比較し、「ΔW≦−α」であればステップS710に進み、そうでなければステップS713に進む。
【0040】
ステップS707に進んできた場合は、上段の受光器4aの出力信号の振幅の方が下段の受光器4bの出力信号の振幅よりも所定値α以上大きい。このときは、例えば、図5に示したように、遠赤外線防犯用センサー1がやや下向きに傾いているため、各検知エリアが適切な位置から下方向にズレており、下段の検知エリアはその一部でしか人体10からの遠赤外線を検知できなくなっていると考えられる。そこでそのことを設置作業者に知らせるため、表示器7の下側のLED7cを点灯させる(ステップS707)。さらに、ズレ量が大きいほど音量が大きくなるように、変数ΔWの絶対値に応じて音量を設定するとともに(ステップS708)、音程としては低い側の「ド」を選択してスピーカ9から音を発生させる(ステップS709)。
【0041】
ステップS710に進んできた場合は、上段の受光器4aの出力信号の振幅の方が下段の受光器4bの出力信号の振幅よりも所定値α以上小さい。換言すると、下段の受光器4bの出力信号の振幅の方が上段の受光器4aの出力信号の振幅よりも所定値α以上大きい。このときは、遠赤外線防犯用センサー1がやや上向きに傾いているため、各検知エリアが適切な位置から上方向にズレており、上段の検知エリアはその一部でしか人体10からの遠赤外線を検知できなくなっているといると考えられる。そこでそのことを設置作業者に知らせるため、表示器7の上側のLED7aを点灯させる(ステップS710)。さらに、ズレ量が大きいほど音量が大きくなるように、変数ΔWの絶対値に応じて音量を設定するとともに(ステップS711)、音程としては高い側の「ソ」を選択してスピーカ9から音を発生させる(ステップS712)。
【0042】
ステップS713に進んできた場合は、上段の受光器4aの出力信号の振幅と下段の受光器4bの出力信号の振幅との差は所定値α未満であり、ほぼ等しいと言える。このときは、遠赤外線防犯用センサー1の傾きはほとんどなく、各検知エリアがほぼ適切な位置にあって、各検知エリアがそれぞれそのほぼ全体で人体10からの遠赤外線を検知することができると考えられる。そこでそのことを設置作業者に知らせるため、表示器7の中央のLED7bを点灯させる(ステップS713)。さらに、音量を所定値に設定し(ステップS714)、音程としては中央の「ミ」を選択してスピーカ9から音を発生させる(ステップS715)。
【0043】
以上のようにして、検知エリアが適切な位置からズレているのか否かや、そのズレの方向およびズレ量の程度を光と音による表示で確認しながら、遠赤外線防犯用センサー1の設置状態の調整を必要に応じて繰り返す。そして、ステップS713〜S715による表示が行われるようになれば、検知エリアが適切な位置になったと判断して設置作業を終了すればよい。
【0044】
なお、表示器7が有するLEDの数が3つよりも多ければ、ステップS705〜S706での判別を多段階とするように変更して、よりきめ細かな光と音による表示を行うようにしてもよい。また、表示器7が有するLEDの数が2つの場合は、ステップS707では下側のLEDを点灯させ、ステップS710では上側のLEDを点灯させ、ステップS713では両方のLEDを同時に点灯させるようにしてもよい。
【0045】
また、検知エリアが適切な位置にあったとしても、人体10の上半身と下半身との差などによって上段の受光器4aの出力信号の振幅と下段の受光器4bの出力信号の振幅は厳密には一致しないことも考えられる。そこでこのことを考慮し、ステップS705での判別をα、ステップS706での判別を−αで行う代わりに、ステップS706での判別には異なる所定値として例えば−β(ただし、β>0)を使用するようにしてもよい。
【0046】
以上で説明した第1実施形態の構成によれば、遠赤外線防犯用センサー1の検知エリアが適切な位置からズレているのか否かや、そのズレの方向およびズレ量の程度を、光と音による表示によって設置作業者が正確に把握することができる。これにより、周囲温度などの環境条件によらず検知エリアが適切な位置となるように設置することが容易にできるようになり、作業性が向上して作業時間の短縮なども可能となる。このようにして設置された遠赤外線防犯用センサー1は、検知エリアが適切な位置にあるので、環境条件などに関わらず、侵入者の検知を確実に行うことができる。
【0047】
<第2実施形態>
上述の第1実施形態では、遠赤外線防犯用センサー1はその内部に、駆動回路6、表示器7、音発生回路8、およびスピーカ9を備えている。しかし、遠赤外線防犯用センサー1の本来の仕様や機能によっては、これらは通常動作時には全く使用されず、設置作業時などにおいてのみ使用されることもあり得る。
【0048】
そこで、駆動回路6、表示器7、音発生回路8、およびスピーカ9を本体内部には備えずに、代わりに、外部テスター12側に備えるようにした遠赤外線防犯用センサー1Aを第2実施形態として以下で説明する。なお、第1実施形態と同じ構成部材には同じ参照符号を付すこととし、主に相違点について説明する。
【0049】
図8は、本発明の第2実施形態に係る遠赤外線防犯用センサー1のうちの本発明に関するもののみと、外部テスター12とを示したブロック図である。
【0050】
図8に示すように、この遠赤外線防犯用センサー1Aはその内部に、遠赤外線を検知する焦電素子などを有するとともに検知した遠赤外線に応じた出力を発生する2系統の受光器4a(上段)および受光器4b(下段)と、受光器4aおよび受光器4bの出力に基づいて制御を行う制御回路5Aとを備えている。
【0051】
一方、外部テスター12は、上から下に順に縦に並ぶ3つのLED7a、LED7bおよびLED7cを有する表示器7と、この表示器7の各LEDを点灯させる駆動回路6と、音を出力するスピーカ9と、このスピーカ9から出力される音の音量および音程(例えば、「ド・レ・ミ・ファ・ソ」のいずれかを選択)を設定する音発生回路8とを備えている。
【0052】
遠赤外線防犯用センサー1Aと外部テスター12とを接続することにより、遠赤外線防犯用センサー1Aの制御回路5Aは、外部テスター12の駆動回路6および音発生回路8の制御を行うことができるようになる。なお、制御回路5Aの具体的な動作は、図7と同様に行えばよい。
【0053】
以上で説明した第2実施形態の構成によれば、遠赤外線防犯用センサー1Aの検知エリアが適切な位置からズレているのか否かや、そのズレの方向およびズレ量の程度を、光と音による表示によって設置作業者が正確に把握することができる。これにより、周囲温度などの環境条件によらず検知エリアが適切な位置となるように設置することが容易にできるようになり、作業性が向上して作業時間の短縮なども可能となる。このようにして設置された遠赤外線防犯用センサー1は、検知エリアが適切な位置にあるので、環境条件などに関わらず、侵入者の検知を確実に行うことができる。また、遠赤外線防犯用センサー1Aの内部には、駆動回路6、表示器7、音発生回路8、およびスピーカ9を備えないので、遠赤外線防犯用センサー1Aの小型化やコストダウンを図ることが可能となる。
【0054】
なお、本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の第1実施形態に係る遠赤外線防犯用センサーの外観図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は左側面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る遠赤外線防犯用センサーのうちの本発明に関するもののみを示したブロック図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る遠赤外線防犯用センサーがその検知エリアが適切な位置となるように設置された場合に、その検知エリアと人体との位置関係を示す説明図である。
【図4】図3の状況において、その検知エリアを人体が横切ったときの各受光器の出力信号の一例であり、(a)が上段の出力信号を示し、(b)が下段の出力信号を示す。
【図5】本発明の第1実施形態に係る遠赤外線防犯用センサーがその検知エリアが適切な位置から外れて設置された場合に、その検知エリアと人体との位置関係を示す説明図である。
【図6】図5の状況において、その検知エリアを人体が横切ったときの各受光器の出力信号の一例であり、(a)が上段の出力信号を示し、(b)が下段の出力信号を示す。
【図7】本発明の第1実施形態に係る遠赤外線防犯用センサーの設置時などにおける概略動作を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第2実施形態に係る遠赤外線防犯用センサーのうちの本発明に関するもののみと、外部テスターとを示したブロック図である。
【符号の説明】
【0056】
1、1A 遠赤外線防犯用センサー
2 ケース
3a レンズ(上側)
3b レンズ(下側)
4a 受光器(上段)
4b 受光器(下段)
5、5A 制御回路
6 駆動回路
7 表示器
7a LED(上側)
7b LED(中央)
7c LED(下側)
8 音発生回路
9 スピーカ
10 人体
11 地面
12 外部テスター



【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線を検知してそれに応じた信号を出力する受光手段を複数備え、それらの受光手段によって空間内で隣接する複数の検知エリアを形成する赤外線検知装置であって、
方向を表示可能な表示手段と、
人体を検知したときに前記複数の受光手段からそれぞれ出力される信号の差に基づいて前記複数の検知エリアの適切な位置からのズレ方向を判定するとともに、そのズレ方向に応じた表示を前記表示手段に行わせる制御手段とを備えたことを特徴とする赤外線検知装置。
【請求項2】
赤外線を検知してそれに応じた信号を出力する受光手段を複数備え、それらの受光手段によって空間内で隣接する複数の検知エリアを形成する赤外線検知装置であって、
方向および量を表示可能な表示手段と、
人体を検知したときに前記複数の受光手段からそれぞれ出力される信号の差に基づいて前記複数の検知エリアの適切な位置からのズレ方向およびズレ量を判定するとともに、それらのズレ方向およびズレ量に応じた表示を前記表示手段に行わせる制御手段とを備えたことを特徴とする赤外線検知装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の赤外線検知装置において、
前記表示手段は、視覚によって認識可能な視覚表示を行うことを特徴とする赤外線検知装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の赤外線検知装置において、
前記表示手段は、聴覚によって認識可能な聴覚表示を行うことを特徴とする赤外線検知装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の赤外線検知装置において、
前記表示手段は、視覚によって認識可能な視覚表示と、聴覚によって認識可能な聴覚表示とを行うことを特徴とする赤外線検知装置。
【請求項6】
請求項3または5に記載の赤外線検知装置において、
前記表示手段は、発光素子を含むことを特徴とする赤外線検知装置。
【請求項7】
請求項3または5に記載の赤外線検知装置において、
前記表示手段は、前記複数の検知エリアが隣接する方向に配列された複数の発光素子を含むことを特徴とする赤外線検知装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載の赤外線検知装置において、
前記発光素子は発光ダイオードであることを特徴とする赤外線検知装置。
【請求項9】
請求項4または5に記載の赤外線検知装置において、
前記表示手段は、音を発生可能であることを特徴とする赤外線検知装置。
【請求項10】
請求項9に記載の赤外線検知装置において、
前記表示手段は、発生する音の音程を変えられることを特徴とする赤外線検知装置。
【請求項11】
請求項9に記載の赤外線検知装置において、
前記表示手段は、発生する音の音量を変えられることを特徴とする赤外線検知装置。
【請求項12】
請求項9に記載の赤外線検知装置において、
前記表示手段は、発生する音の音程および音量を変えられることを特徴とする赤外線検知装置。
【請求項13】
赤外線を検知してそれに応じた信号を出力する受光手段を複数備え、それらの受光手段によって空間内で隣接する複数の検知エリアを形成する赤外線検知装置の設置方法であって、
人体を検知したときに前記複数の受光手段からそれぞれ出力される信号の差に基づいて前記複数の検知エリアの適切な位置からのズレ方向を判定する判定工程と、
この判定工程において判定された前記ズレ方向に応じた方向表示を行う表示工程と、
この表示工程によって表示された方向表示に基づいて前記赤外線検知装置の設置状態を変更する設置状態変更工程とを備えることを特徴とする赤外線検知装置の設置方法。
【請求項14】
赤外線を検知してそれに応じた信号を出力する受光手段を複数備え、それらの受光手段によって空間内で隣接する複数の検知エリアを形成する赤外線検知装置の設置方法であって、
人体を検知したときに前記複数の受光手段からそれぞれ出力される信号の差に基づいて前記複数の検知エリアの適切な位置からのズレ方向およびズレ量を判定する判定工程と、
この判定工程において判定された前記ズレ方向およびズレ量に応じた方向および量の表示を行う表示工程と、
この表示工程によって表示された方向および量の表示に基づいて前記赤外線検知装置の設置状態を変更する設置状態変更工程とを備えることを特徴とする赤外線検知装置の設置方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−112910(P2006−112910A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−300228(P2004−300228)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(000103736)オプテックス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】