説明

走行車両の座席装置

【課題】座席シートを簡潔で廉価な構成によって姿勢変更することができ、中腰姿勢の操縦及び乗降等を行い易くすると共に、座部へ体重を掛けるだけで座席シートを簡単に着座姿勢にすることができる走行車両の座席装置を提供する。
【解決手段】走行機体1に設置される操縦コラム9の後方に操縦スペース21を介して、シート支持フレーム16に座部25と背もたれ部26とからなる座席シート15を設ける作業車両の座席装置であって、前記座席シート15を前部側を前後方向に移動自在に支持すると共に、後部側を上下方向に移動自在に支持し、且つスプリング35によって後方に向けて引っ張り付勢し、座部25に体重を掛けない非着座状態で座席シート15を後退させると共に上昇させて前傾姿勢に保持する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバイン等走行車両の座席装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンバインの操縦部に設置される座席シートは、操縦コラムの後方で狭い操縦スペースを介して設けられるため、操縦部への乗降を行い難くいこと、及び倒伏刈取作業等で前方を確認するために中腰姿勢により操縦をする際に、足が操縦コラムとシート前端で挟まれ窮屈な状態になることがあり、この改善のために座席シートの座部を動かせるようにした座席装置が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2。)。
上記特許文献1の座席装置の座席シートは、背もたれ部と分割した座部の後部を回動自在に枢支し付勢バネにより上方へ付勢し、オペレータが着座しないときは座部を操縦スペースから後退させた収納姿勢(非着座姿勢)にすることができる。
また特許文献2の座席装置は、座席シートの座部の前部に下方に屈折できる延出座体を設け、該延出座体をオペレータの体重と連動させて着座姿勢と非着座姿勢とに自動的に切り換える構成としている。
【特許文献1】実開平5−95252公報
【特許文献2】実開昭57−81931公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1及び特許文献2で示される座席装置は、オペレータが中腰姿勢や立ち姿勢になるとき、座部又は延出座体を操縦スペースから自動的に退避作動又は収納作動させることができる利点がある。
然し、上記いずれの座席装置も可動する座部や延出座体を備えて、これを着座姿勢から操縦スペースを広くする後退姿勢(非着座姿勢)に切り換えるため、座部と背もたれ部が一体化されたシンプル構造で廉価なバケット型シートが使用できず、構造が複雑化した特殊仕様の座席シートになってコスト高になる等の問題がある。
また上記座席シートはオペレータが中腰姿勢や立ち姿勢で作業する場合に、腰や尻を仮支持する半座着姿勢で座ることができないので、足腰の弱いオペレータに負担を掛けることになる等の問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するための本発明の走行車両の座席装置は、第1に、走行機体1に設置される操縦コラム9の後方に操縦スペース21を介して、シート支持フレーム16に座部25と背もたれ部26とからなる座席シート15を設ける作業車両の座席装置において、前記座席シート15を前部側を前後方向に移動自在に支持すると共に、後部側を上下方向に移動自在に支持し、且つスプリング35によって後方に向けて引っ張り付勢し、座部25に体重を掛けない非着座状態で座席シート15を後退させると共に上昇させて前傾姿勢に保持することを特徴としている。
【0005】
第2に、座席シート15を前傾姿勢に保持した状態で、該座席シート15の下降を規制する下降規制手段37を設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
上記のように構成される走行車両の座席装置は次のような効果を奏する。座席シートをその前部側を前後方向に移動自在に支持すると共に、後部側を上下方向に移動自在に支持し、且つスプリングによって後方に向けて引っ張り付勢することにより、座部に体重を掛けないとき座席シートを後退させながら上昇させて前傾姿勢に保持することができる。従って、座部と背もたれ部とを一体化した座席シートを、簡潔で廉価な構成によって姿勢変更することができると共に、非着座状態において操縦スペースを広くし中腰姿勢の操縦及び乗降等を行い易くすることができる。また座部へ体重を掛けるだけで座席シートを簡単に着座姿勢にすることができる。
【0007】
座席シートを前傾姿勢に保持した状態で、該座席シートの下降を規制する下降規制手段を設けることにより、座席シートを前傾姿勢で固定保持することができ、中腰姿勢や立ち姿勢で操縦を行なう際に、広くした操縦スペースで腰や尻を仮支持する半座着姿勢を固定保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図面において符号1は走行車両の一例として示すコンバインの走行機体であり、この走行機体1は前部に前処理部2を昇降自在に設け、後方の左右に藁処理装置付の脱穀装置3及び操縦部4を配設し、該操縦部4の後部にグレンタンク5を載置している。また走行機体1の左右下部にクローラ方式の走行装置6を備えている。
【0009】
図1〜図を参照し操縦部4について説明する。この操縦部4は従来のコンバインと同様の配置構造からなり、走行機体1の右側前部に構成される立方体状のステップ部7の前側と左側に、操向レバー8等を備える操縦コラム(前操縦パネル)9と、主変速レバー10並びに作業機レバー11等を備える側操縦パネル12とを平面視逆L字状に立設している。またステップ部7の後方にはエンジン13を走行機体1に搭載して配置し、該エンジン13を立方体状のエンジンカバー体(シート支持フレーム)16によって上方から覆い、該エンジンカバー体16に本発明に係る座席シート15を設置している。
【0010】
即ち、図示例のエンジンカバー体16はその天井カバー部17に、座席シート15を姿勢切換自在に取付支持する座席装置によって備えており、天井カバー部17の前端からステップ部7に向けて垂設する前カバー部19と、天井カバー部17と前カバー部19の側方に接続されて上方に立設する吸気カバー部20等からなる。
前カバー部19は前記操縦コラム9との間にオペレータが乗降する乗降通路を兼ねる操縦スペース21を形成する。吸気カバー部20はエンジン13への冷却風を取り入れる構造体とし、前カバー部19の側方に開閉回動自在に接続され、その上面部を座席シート15に着座するオペレータの肘掛となるように構成にしている。
【0011】
次に、図5,図6を参照し座席装置について説明する。この実施形態で使用する座席シート15は、座部25と背もたれ部26を一体化させたシンプル構造で汎用されているバケット型シートとなし、座部25の裏側で前後左右に横向きの支持ピン27を有する、前支持片28と後支持片29を突設している。
そして天井カバー部17には、前側ガイド部材30と後ガイド部材31とを、座席シート15の裏側に突設した前支持片28と後支持片29の外側に対応させて突設し、これにより座席シート15を着座姿勢と非着座姿勢とに切り換え支持可能な支持構造を構成している。
【0012】
即ち、前側ガイド部材30は座席シート15の前部を前後方向に移動させる横溝32を、前下りの緩傾斜面をなす横長孔で穿設しており、該横溝32に前支持片28の支持ピン27を挿入して前後方向にスライド案内する。
また後ガイド部材31は座席シート15の後部を上下方向に移動させる縦溝33を、前下りの急傾斜面をなす縦長孔状に穿設しており、該縦溝33に後支持片29の支持ピン27を挿入し上下方向にスライド案内させることができる。また座席シート15は左右の前支持片28との中間位置を、天井カバー部17に設けた引っ張り用のスプリング35で連結することにより、座席シート15を後方に引っ張り付勢している。
【0013】
以上のように支持される座席シート15は、図2で示すようにオペレータが座部25に体重を掛けて着座すると、スプリング35は体重によって伸長した状態で前側の支持ピン27が横溝32の前端に至り、且つ後側の支持ピン27が縦溝33の下端に至って着座姿勢に安定支持される。
このとき座席シート15の前端は、横溝32及び縦溝33の形状によって前カバー部19から前方に突出するので、着座姿勢において従来のものと同様にオペレータは、踵部を前記突出した座部25の下方に置くことができ、座席シート15に楽な姿勢で座ることができ機体の操縦操作を快適に行うことができる。
【0014】
またオペレータが立ち上がると座部25に対する体重負荷が解除されるので、これによりスプリング35が付勢力によって、座席シート15を横溝32に沿って後方に案内移動させながら、後側の支持ピン27を縦溝33に沿わせて上方に案内移動し、座席シート15を図3,図5で示すように前方に傾斜させた前傾姿勢(非着座姿勢)にすることができる。
これにより前傾姿勢となった座席シート15は、該座席シート15の前端を操縦スペース21から後退させるので、操縦スペース21を広く開放しオペレータの乗降を行い易くすることができる。
【0015】
また中腰姿勢や立ち姿勢で倒伏刈取作業を行う際に、足が操縦コラム9とシート前端に挟まれて窮屈になることなくステップ部に立つことができる。
このとき、座席シート15は背もたれ部26を高くした位置で前側に変位させた前傾姿勢になるので、背もたれ部26を着座姿勢位置から後方に大きく移動させる余分なスペースを要しないで姿勢保持をすることができる。
【0016】
さらに、上記中腰姿勢での作業中に、オペレータは尻又は腰部によって、背もたれ部26を後方に押圧するようにもたれかけ状態で負荷をかけて縦溝33及び横溝32の方向に対する分力が大きく作用させないようにすると、座席シート15の前傾姿勢を保持しながら、中腰姿勢のオペレータの身体を後方から支持することができる。
【0017】
そして、オペレータが中腰姿勢での作業から尻を座部25に当て体重を下向きに掛けると、座席シート15はスプリング35の付勢力に抗して下降し、各支持ピン27が縦溝33と横溝32に沿って移動するので、再び着座姿勢での操縦作業を速やかに行うことができる。尚、上記構成からなる座席装置において、縦溝33の形状は図示例のものに限ることなく、例えば縦溝33の上部に前記背もたれ部26が後方に押圧される際の支持ピン27を一時的に係止することができる段部或いはカム状の溝を付設することもできる。
【0018】
また上記座席装置によれば、半座状態での座席シート15の固定をより確実にする際には、図4,図5に2点鎖線で示すような下降規制手段(姿勢ロック機構)37を設けることによって行うことができる。
即ち、図示例の下降規制手段37は、後支持片29の縦溝33に沿って固定する蝶番38に、ロック片39を回動自在に設けている。このロック片29はその上端位置を図5で示す前傾姿勢にある座席シート15の支持ピン27を受け止め支持する位置となし、且つ下端位置を図4で示すように支持ピン27の上方に位置させる長さにしている。
【0019】
従って、下降規制手段37は図5で示すように、座席シート15が前傾姿勢にあるとき、ロック片29を点線から2点鎖線で示すように切り換えると、該ロック片29が支持ピン27の下降を阻止するので、中腰姿勢のオペレータが前傾姿勢の座席シート15に半座状態で座り安定姿勢で楽に作業をすることができる。
また座席シート15が着座姿勢にあるとき、図4で示すようにロック片29を2点鎖線状態にすると、支持ピン27の上方移動が阻止されるので、オペレータが立ち上がったとしても座席シート15を着座姿勢に保持することができる。
【0020】
以上のように構成される座席シート15を備えたコンバインは、座席シート15の前部側を前後方向に移動自在に支持し後部側を上下方向に移動自在に支持し、且つスプリング35によって後方に向けて引っ張り付勢することにより、座部25に体重を掛けないとき座席シート15を後退させると共に上昇させて前傾姿勢に保持することができる。従って、座部25と背もたれ部26とを一体化し耐久性に勝れ汎用されている座席シート15をそのまま使用でき、座席装置を簡潔で廉価な構成にすることができる。そして、非着座状態での操縦スペース21を広くすることができ、中腰姿勢での操縦及び機体の乗降等を行い易くすると共に、前傾姿勢の座席シート15を座部25へ体重を掛けるだけで簡単に着座姿勢にすることができる。
【0021】
また座席シート15を前傾姿勢に保持した状態で、該座席シート15の下降を規制する下降規制手段37を設けることにより、座席シート15を後退上昇させた前傾姿勢に固定保持することができるので、広く開放した操縦スペース21で中腰姿勢や立ち姿勢で操縦を行なう際に、腰や尻を仮支持する半座着姿勢の安定性を高めることができと共に、半座着姿勢から楽に立ち上がることができる。従って、足腰の弱いオペレータに負担を掛けることなく操縦作業を楽に行うことができる等の特徴がある。
【0022】
尚、実施形態の座席装置は廉価型のバケット型シートを使用したが別型式のものであってもよく、また座席シート15の前後及び上下の移動手段は、横溝32及び縦溝33と同様な移動軌跡をとることができるリンク機構にすることもできる。この場合も座席シート15の前部を後退させる際に、後部(背もたれ部26)の大きな後方移動用のスペースを占めることなく、座席装置をシート支持フレーム16上にコンパクトに纏めて姿勢変更可能に設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】コンバインの全体構成を示す右斜視図である。
【図2】図1のコンバインの操縦部の構成及び座席シートの着座姿勢を示す側面図である。
【図3】図1のコンバインの操縦部の構成及び座席シートの非着座姿勢を示す側面図である。
【図4】図2の座席シートの着座姿勢を示す側面図である。
【図5】図3の座席シートの非着座姿勢を示す側面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 走行機体
4 操縦部
7 ステップ部
9 操縦コラム
15 座席シート
16 シート支持フレーム(エンジンカバー体)
21 操縦スペース
25 座部
26 背もたれ部
27 支持ピン
32 横溝
33 縦溝
35 スプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体(1)に設置される操縦コラム(9)の後方に操縦スペース(21)を介して、シート支持フレーム(16)に座部(25)と背もたれ部(26)とからなる座席シート(15)を設ける作業車両の座席装置において、前記座席シート(15)を前部側を前後方向に移動自在に支持すると共に、後部側を上下方向に移動自在に支持し、且つスプリング(35)によって後方に向けて引っ張り付勢し、座部(25)に体重を掛けない非着座状態で座席シート(15)を後退させると共に上昇させて前傾姿勢に保持することを特徴とする走行車両の座席装置。
【請求項2】
座席シート(15)を前傾姿勢に保持した状態で、該座席シート(15)の下降を規制する下降規制手段(37)を設けた請求項1記載の走行車両の座席装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−232722(P2009−232722A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81364(P2008−81364)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】