説明

超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物

【課題】 金属超微粒子が均一分散したビニル系熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)アミノ基含有化合物、カルボキシル基含有化合物、ヒドロキシル基含有化合物、アミド基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、スルフィン酸基含有化合物、ホスホン酸基含有化合物、およびホスフィン酸基含有化合物からなる群より選ばれる2種以上の有機低分子化合物によって表面修飾された金属超微粒子と、(B)メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂とを必須成分とした超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属超微粒子を含有する熱可塑性樹脂組成物に関する。より詳しくは、(A)アミノ基含有化合物、カルボキシル基含有化合物、ヒドロキシル基含有化合物、アミド基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、スルフィン基含有化合物、ホスホン酸基含有化合物、およびホスフィン酸基含有化合物からなる群より選ばれる2種以上の有機低分子化合物によって表面修飾された金属超微粒子と、(B)メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂とを含有することを特徴とする超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子径が100nm未満の金属超微粒子は、100nm以上の粒子径をもつ粒子にない特性を有し、様々な用途が考えられる。例えば、金超微粒子は512nmの波長の光を吸収する特性を有する(表面プラズモン現象)。そのため金超微粒子分散液は512nmの補色である赤色を呈し、金超微粒子を含有した樹脂やペーストは光学材料や塗料としての用途が考えられる。また、数十nmの金属超微粒子は融点が低く200℃未満で融解することから、電子材料のプリント基板用の低温焼成導電ペーストとして応用されている。
【0003】
一般的な金属超微粒子の製造方法としては、気相法と液相法、錯体の熱分解による合成法が知られている。気相法は、原料となる金属を高真空中で加熱し気化させ、金属超微粒子を捕集する方法である(特許文献1)。しかしながら、金属を気化させる為にプラズマやレーザー、電子ビーム等の高価な装置を用いる必要がある。また少量の超微粒子しか得られない等の問題がある。
【0004】
液相法は、溶媒に溶解した金属元素の錯体を還元剤で還元し超微粒子を得る方法であり、気相法よりも大量生産に向き、安価に超微粒子を製造できる。しかしながら、得られた超微粒子は超微粒子同士の凝集が強く、樹脂への相溶性も低いため、樹脂中に均一に分散性させることは難しい。
【0005】
錯体の熱分解による方法は、分解温度の低い金属の錯体を熱分解し超微粒子を簡便に合成する方法である(特許文献2)。しかしながら、そのように合成した超微粒子と樹脂とを複合化しようとしても、修飾剤と樹脂との極性や粘度の違いにより、均一に金属超微粒子が分散した樹脂組成物は得ることができなかった。
【0006】
また、上記の方法により合成した超微粒子を、有機化処理剤を用いて処理し樹脂への相溶性を高め樹脂に溶融混練する方法が考えられるが、超微粒子同士の強い凝集力のため、超微粒子同士が一粒ずつ分離し均一に分散した樹脂組成物は得ることができない。
【0007】
金属超微粒子の分散した熱可塑性樹脂組成物を製造する方法としては、金属超微粒子表面に開始剤を結合させモノマーを重合する方法(非特許文献1)、樹脂中に分散させた金属錯体を熱分解させ金属超微粒子を生成させる方法等(非特許文献2)がある。しかしながらこれらの方法は、製法が煩雑なため大量生産に不適である等の問題がある。特許文献3では、アミン化合物もしくはカルボン酸化合物で修飾された金属超微粒子を末端にメルカプト基を有するポリマーでさらに修飾しているが、超微粒子分散液が不安定であったりメルカプト基を有するポリマーでの修飾が不完全なために均一に超微粒子が分散した組成物が得られにくかった。
【特許文献1】特開昭60‐78635
【特許文献2】特開平10‐183207
【特許文献3】WO 2005/010100
【非特許文献1】T.K.Mandal et al.,Nano Lett.,2,3(2002)
【非特許文献2】S.Ogawa et al.,Jpn.J.Appl.Phys.,33,L331(1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
金属超微粒子が凝集なく熱可塑性樹脂中に均一に分散した組成物は有用であるが、現状では工業的にはこのような熱可塑性樹脂組成物は得られていない。本発明の課題は、簡便にかつ大量に製造可能な超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するための手段として、以下に示す組成物を発明した。
【0010】
すなわち、(A)アミノ基含有化合物、カルボキシル基含有化合物、ヒドロキシル基含有化合物、アミド基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、スルフィン酸基含有化合物、ホスホン酸基含有化合物、およびホスフィン酸基含有化合物からなる群より選ばれる2種以上の有機低分子化合物によって表面修飾された金属超微粒子と、(B)メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂とを必須成分として含有する超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物(請求項1)。
【0011】
成分(A)がアミノ基含有化合物、ヒドロキシル基含有化合物、およびアミド基含有化合物からなる群より選ばれる1種類以上の有機低分子化合物と、カルボキシル基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、スルフィン酸基含有化合物、ホスホン酸基含有化合物、およびホスフィン酸基含有化合物からなる群より選ばれる1種以上の有機低分子化合物によって表面修飾された金属超微粒子であることを特徴とする、請求項1に記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物(請求項2)。
【0012】
成分(A)がアミノ基含有化合物とカルボキシル基含有化合物であることを特徴とする、請求項1または2に記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物(請求項3)。
【0013】
金属超微粒子の分散状態の数平均粒子径が0.1nm以上100nm未満の範囲であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物(請求項4)。
【0014】
金属超微粒子が、鉄と白金の合金であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の超微粒子含有樹脂組成物(請求項5)。
【0015】
成分(B)メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂が、可逆的付加脱離連鎖移動重合により得られる重合体を処理剤で処理して得られるものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物(請求項6)。
【0016】
処理剤が、塩基性化合物、還元剤、および水素‐窒素結合含有化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物であることを特徴とする、請求項6に記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物(請求項7)。
【0017】
成分(A)の金属超微粒子と成分(B)のメルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂とを溶媒存在下で混合して得られることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物(請求項8)。
【0018】
成分(C)メルカプト基を含有しない熱可塑性樹脂をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物(請求項9)。である。
【発明の効果】
【0019】
本発明においては、配位性の官能基を有する有機低分子化合物を2種以上用い表面修飾した金属超微粒子と、メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂とを、有機溶媒存在下混合する。そのプロセスによって、メルカプト基よりも配位能の低い有機低分子化合物を、メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂に置き換え、メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂と有機低分子化合物によって修飾された超微粒子を生成させるため、樹脂との相溶性が向上し超微粒子が熱可塑性樹脂組成物に均一分散するようになる。
【0020】
本発明に使用する半導体超微粒子とメルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂は、別々に調製することができる為、公知の半導体超微粒子と公知のメルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂との、あらゆる組み合わせに容易に適用することができ応用範囲が広い。また本樹脂組成物の製造法は簡便な為、大量製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明で用いられる金属超微粒子は半導体を除く金属超微粒子である。金属超微粒子としては、金、白金、銀、パラジウム、ロジウム、亜鉛、銅、ニッケル、鉄等の金属単体、鉄と白金の合金などこれら金属の合金等が挙げられる。さらには、その他さまざまな超微粒子の表面を、金属でコートしたような複合超微粒子であっても良い。これらのうち、金、白金、パラジウム、ロジウム、これら4元素のいずれかを10wt%以上含有する合金、粒子表面にこれら4元素のいずれかをコートした超微粒子のいずれかであることが、超微粒子表面が酸化されにくいため好ましい。
【0022】
中でも特に好ましくは、金、白金、これら2元素のどちらかを10wt%以上含有する合金、粒子表面にこれら2元素のどちらかをコートした超微粒子のいずれかであり、最も好ましくは金、白金、鉄と白金の合金の超微粒子である。鉄と白金の合金は強磁性体であり、ナノサイズの磁性材料として有用な為にさらに好ましい。鉄と白金の合金の超微粒子を用いる場合には、鉄/白金の重量比率は20/80〜80/20であることが、粒子表面の酸化防止力が高くかつ磁気特性に優れた超微粒子が得られるため好ましい。特に好ましい鉄/白金の重量比率は30/70〜70/30である。
【0023】
これら超微粒子の中でも、周期表第8〜12族のいずれかに該当する金属元素を含有する超微粒子が、片末端にメルカプト基を有する重合体のメルカプト基と遷移金属元素との配位結合形成力が高く、超微粒子の表面修飾反応が速やかに進行するため好ましい。
【0024】
本発明で用いられる金属超微粒子は、気相法、液相法、など一般的に用いられる超微粒子の製造方法を用いて、金属の前駆体から合成して製造されるのが一般的であるが、超微粒子の製造方法はこれらの方法に限定されるものではなく、公知の任意の方法を用いる事ができる。金属超微粒子の製造方法としては、遷移金属イオン化合物またはその塩類、あるいはこれらの有機錯体を、水あるいは極性溶媒中で均一状態にて、還元剤または熱を用いて還元する液相法により製造する事が可能である。
【0025】
超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物中に分散している金属超微粒子の数平均粒径は、特に限定されないが、金属超微粒子の量子的特性が顕著となる点で0.1nm以上100nm未満の範囲が好ましい。数平均粒径が0.1nmに満たないと、金属超微粒子としての性質が十分に発揮できない場合がある。0.5nm以上50nm未満がより好ましく、1nm以上20nm未満がさらに好ましい。
【0026】
なお本発明における数平均粒径とは、透過型電子顕微鏡にて撮影された写真を用いて、少なくとも100個以上の粒子の粒子径を定規により測定して算出した数平均粒子径をいう。但し、電子顕微鏡で撮影された粒子の写真が円形でない場合には、粒子の占める面積を算出した後、同面積を有する円形に置き換えた際の円直径を用いて計算する。
【0027】
本発明の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物中の金属超微粒子の部数としては、メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上200重量部未満の範囲が好ましい。超微粒子が0.01重量部未満しか含まれない場合は、金属超微粒子の特性が発現されない為好ましくない。また、200重量部以上含まれると熱可塑性樹脂組成物の靱性等の機械物性が低下する為好ましくない。0.1重量部以上50重量部未満がより好ましく、0.5重量部以上20重量部未満がさらに好ましい。
【0028】
本発明で用いるアミノ基含有化合物、カルボキシル基含有化合物、ヒドロキシル基含有化合物、アミド基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、スルフィン酸基含有化合物、ホスホン酸基含有化合物、およびホスフィン酸基含有化合物からなる群より選ばれる2種以上の有機低分子化合物は、金属超微粒子の表面を修飾し、有機低分子化合物の立体障害によって超微粒子同士が凝集するのを防ぐ役割がある。
【0029】
さらにアミノ基含有化合物、ヒドロキシル基含有化合物、およびアミド基含有化合物は、表面修飾した微粒子を末端にメルカプト基を有するビニル系熱可塑性樹脂と混合した際に、配位能力がメルカプト基より弱い為に超微粒子表面から脱離し、末端にメルカプト基を有するビニル系熱可塑性樹脂と修飾剤交換をすることができる。
【0030】
そのことによって、メルカプト基を有するビニル系熱可塑性樹脂によって表面が修飾された超微粒子が生成し、超微粒子は樹脂中に分散し易くなる。カルボキシル基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、スルフィン酸基含有化合物、ホスホン酸基含有化合物、およびホスフィン酸基含有化合物は、超微粒子の表面修飾剤として超微粒子同士の凝集を防ぐことはできるが、配位能力が強い為、メルカプト基を有するビニル系熱可塑性樹脂との修飾剤交換を行うことができない。しかしながら、超微粒子同士の凝集を防ぐ効果は強い。
【0031】
好ましい有機低分子化合物の組み合わせとしては、修飾剤交換をすることができるアミノ基含有化合物、ヒドロキシル基含有化合物、およびアミド基含有化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物と、超微粒子同士の凝集を防ぐ効果が強いカルボキシル基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、スルフィン酸基含有化合物、ホスホン酸基含有化合物、およびホスフィン酸基含有化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物を、併用し超微粒子を表面修飾することが好ましい。
【0032】
アミノ基含有化合物、ヒドロキシル基含有化合物、およびアミド基含有化合物からなる群より選ばれる化合物だけで超微粒子を表面修飾すると、凝集を防ぐ効果が低い為に、製造過程もしくは製造後長期間経過する間に、超微粒子同士が凝集し凝集塊を形成する可能性がある。また、カルボキシル基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、スルフィン酸基含有化合物、ホスホン酸基含有化合物、およびホスフィン酸基含有化合物からなる群より選ばれる化合物だけで超微粒子を表面修飾すると、メルカプト基を有するビニル系熱可塑性樹脂と修飾剤交換ができない為に、樹脂との相溶性が低く、超微粒子は樹脂中に分散しない可能性がある。
【0033】
カルボキシル基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、スルフィン酸基含有化合物、ホスホン酸基含有化合物、およびホスフィン酸基含有化合物との反応性の低さ、化合物の入手容易性、毒性の観点から、アミノ基含有化合物、ヒドロキシル基含有化合物、およびアミド基含有化合物の中で、アミノ基含有化合物がより好ましい。また、スルホン酸基含有化合物、およびスルフィン酸基含有化合物は、酸性が高く金属超微粒子の種類によっては溶解する可能性がある等から、カルボキシル基含有化合物が好ましい。
【0034】
有機低分子化合物は、炭化水素構造と上記の官能基のみの化合物であることが好ましい。炭化水素構造としては、アルキル基や、アルキレン基、芳香族基があり、超微粒子同士の凝集を防ぐ為に短鎖のものよりも、中鎖、長鎖の炭化水素構造が好ましい。そのような炭化水素構造として、オレイル基、ドデシル基、ステアリル基、オクチル基、ヘキシル基が好ましい。有機低分子化合物の分子量は、50以上1,000未満が好ましい。50未満であると超微粒子同士の凝集を防ぐことが難しくなることと共に、化合物が気化し易く取り扱いの点で好ましくない。また分子量が1,000以上であると、分子中の官能基の比率が減り、超微粒子の表面を修飾する為に多くの部数が必要になり、経済的ではない為好ましくない。
【0035】
アミノ基含有化合物の例としては、1‐アミノ‐n‐ブタン、1‐アミノ‐n‐ヘキサン、1‐アミノ‐n‐オクタン、1‐アミノ‐n‐デカン、1‐アミノ‐n‐ドデカン、1‐アミノ‐n‐ヘキサデカン、オレイルアミン、ジブチルアミン、トリプロピルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ピペリジン等のアルキルアミン類、ピリジン、アニリン、ベンジルアミン等の芳香族基を有するアミン類等を挙げることができる。カルボキシル基含有化合物の例としては、オレイン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、オクタン酸、シクロヘキサンカルボン酸、6‐フェニルヘキサイック酸、4‐オクチル安息香酸等のカルボン酸化合物を挙げることができる。
【0036】
ヒドロキシル基含有化合物の例としては、1‐ヘキサノール、1‐オクタノール、1‐ドデカノール、オレイルアルコール、フェノール、ベンジルアルコール等のヒドロキシル基含有化合物を挙げることができる。アミド基含有化合物の例としては、ヘキサンアミド、デカンアミド、オクタデカンアミド、ベンズアミド、ホルムアニリド、N,N‐ジメチルベンズアミド等のアミド基含有化合物を挙げることができる。スルホン酸基含有化合物の例としては、1‐ヘキサンスルホン酸、1‐ドデカンスルホン酸、1‐ナフタレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等のスルホン酸基含有化合物を挙げることができる。
【0037】
スルフィン酸基含有化合物の例としては、1‐ヘキサンスルフィン酸、1‐ドデカンスルフィン酸、1‐ナフタレンスルフィン酸、ドデシルベンゼンスルフィン酸等のスルフィノ基含有化合物を挙げることができる。ホスホン酸基含有化合物の例としては、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、t‐ブチルホスホン酸、フェニルホスホン酸等のホスホン酸基含有化合物を挙げることができる。ホスフィン酸基含有化合物の例としては、ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸等のホスフィン酸基含有化合物を挙げることができる。
【0038】
上記の有機低分子化合物の使用量は特に限定されない。しかしながら、使用する2種以上の有機低分子化合物のモル数の合計が、金属超微粒子のモル数に対して0.001モル当量以上10モル当量未満が好ましい。0.001モル当量未満であると、超微粒子の表面修飾が不十分で超微粒子が凝集する可能性が有る。また10モル当量以上であると、経済的でないと共に、有機低分子化合物によって本発明の熱可塑性樹脂組成物の機械物性等の特性が低下する可能性が有り好ましくない。0.05モル当量以上1モル当量未満がより好ましい。さらには0.1モル当量以上1モル当量未満がより好ましい。
【0039】
これらの有機低分子化合物による金属超微粒子の表面修飾法は、特に限定されないが、超微粒子を合成する際に系に添加しておく方法や、超微粒子を合成した後に有機低分子化合物で修飾する方法が有り、超微粒子合成法に応じて適宜選択するのが好ましい。
【0040】
本発明で使用するメルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂としては特に限定されず、末端にメルカプト基を有しモノマーユニットが10個以上つながった構造の化合物が使用可能である。樹脂構造としては直鎖状、枝状、デンドリマー、ハイパーブランチなど限定されないが、ナノ粒子を修飾する効率が高い点で直鎖状ポリマーが好ましい。またポリマーの1次構造も特に限定されず、単独重合体、ブロック重合体、ランダム重合体、傾斜重合体などいずれも使用可能であり、シンジオタクチックポリマー、イソタクチックポリマー、ヘテロタクチックポリマーなど立体規則性ポリマーも使用可能である。このようなポリマーの具体例としては、チオ酢酸の存在下に酢酸ビニルを重合し、次いで末端基を加水分解させて得られるポリマーや、J.Am.Chem.Soc.,123,10411(2001)に記載されているようなメルカプト基を有するポリスチレンなどを挙げることができる。
【0041】
本発明で使用する末端にメルカプト基を有するビニル系熱可塑性樹脂は、メルカプト基を容易にかつ確実に導入でき、分子量や分子量分布の制御が可能である点で、可逆的付加脱離連鎖移動(RAFT)重合の後、処理剤により末端メルカプト化された熱可塑性樹脂が最も好ましい。すなわちチオカルボニルチオ化合物の存在下にビニル系モノマーをラジカル重合することにより、チオカルボニルチオ基を有する熱可塑性樹脂を合成し、続いて処理剤を用いてチオカルボニルチオ基の結合を切断しメルカプト基を生成させることにより、末端にメルカプト基を有するビニル系熱可塑性樹脂を得ることができる。以下にRAFT重合により得られる末端にメルカプト基を有する熱可塑性樹脂について説明する。
【0042】
本発明のRAFT重合で用いる連鎖移動剤は、チオカルボニルチオ基を有している化合物であれば特に限定はないが、入手性、反応性の点で、好ましくは、一般式(1)
【0043】
【化1】

【0044】
(式中、Rは炭素数1以上の1価の有機基であり;Zは硫黄原子(p=2の場合)、酸素原子(p=2の場合)、窒素原子(p=3の場合)、または炭素数1以上のp価の有機基であり;pは1以上の整数であり;pが2以上の場合、Rは互いに同じでもよく異なっていてもよい)で示される化合物である。
【0045】
前記チオカルボニルチオ基を有する化合物において、炭素数1以上の1価の有機基Rとしては特に限定されず、炭素原子以外に水素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ハロゲン原子、ケイ素原子、リン原子、および金属原子のうちの少なくとも一つを含んでいてもよく、高分子量体であってもよい。Rの例としては、アルキル基、アラルキル基、およびこれらの置換体等を挙げることができる。
【0046】
上記RAFT重合に供するモノマーとしては特に限定されないが、例えば以下の化合物を挙げることができる:アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n‐プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n‐ブチル、アクリル酸t‐ブチル、アクリル酸n‐ヘキシル、アクリル酸2‐エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2‐メトキシエチル、アクリル酸3‐メトキシブチル、アクリル酸2‐ヒドロキシエチル、アクリル酸2‐ヒドロキシプロピル、アクリル酸グリシジル、2‐アクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、2‐アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、アクリル酸2,2,2‐トリフルオロエチル、アクリル酸アリルなどのアクリル酸エステル系モノマー;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n‐プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n‐ブチル、メタクリル酸t‐ブチル、メタクリル酸n‐ヘキシル、メタクリル酸2‐エチルヘキシル、メタクリル酸n‐オクチル、メタクリル酸n‐デシル、メタクリル酸n‐ドデシル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2‐メトキシエチル、メタクリル酸3‐メトキシブチル、メタクリル酸2‐ヒドロキシエチル、メタクリル酸2‐ヒドロキシプロピル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2,2,2‐トリフルオロエチル、メタクリル酸アリルなどのメタクリル酸エステル系モノマー;アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カリウムなど;スチレン、α‐メチルスチレン、p‐メチルスチレン、p‐メトキシスチレンなどのスチレン系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル系モノマー;ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどの共役ジエン系モノマー;塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン含有ビニル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、けい皮酸ビニルなどのビニルエステル系モノマー;無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、フマル酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステルなどの不飽和ジカルボン酸化合物およびその誘導体;マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド化合物など。
【0047】
これらモノマーは単独で使用してもよく、複数を組み合わせて使用してもよい。使用するモノマーは、最終的に得られる超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物の要求特性に応じて選択すればよい。
【0048】
本発明において適用する上記RAFT重合方法は、その形式に関しては特に限定されず、例えば塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、微細懸濁重合などを適用することができる。塊状重合以外の場合に使用する媒体(溶媒)としては特に限定されず、ラジカル重合において一般的に使用されているものを使用することができる。入手性および重合の容易さの点で、水、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、エーテル、アセトンが好ましい。
【0049】
RAFT重合の実施に関しては一般的に知られている方法を採用すればよいが、典型的には以下のように行う。反応器に上記チオカルボニルチオ化合物、重合開始剤、単量体、必要に応じて媒体(溶媒)を入れ、系内の酸素を常法により除去した後、不活性ガス雰囲気で加熱撹拌する。RAFT重合の特徴として、単量体/チオカルボニルチオ化合物の仕込み比と単量体の反応率に応じて、得られる熱可塑性樹脂の分子量が決まるため、所望の分子量の熱可塑性樹脂を得ることができる。
【0050】
本発明の実施においては、上記RAFT重合で得られるチオカルボニルチオ基を有するビニル系熱可塑性樹脂を処理剤により処理し、片末端にメルカプト基を有するビニル系熱可塑性樹脂を得ることができる。このような処理剤としては限定されないが、反応効率が高い点で、塩基性化合物、還元剤、または水素‐窒素結合含有化合物が好ましい。
【0051】
上記処理剤のうち、塩基性化合物としては特に限定されないが、金属水酸化物、金属アルコキサイド、金属水素化物、強塩基と弱酸の無機塩、有機金属試薬、3級アミン化合物、アルカリ金属、アルカリ土類金属を挙げることができる。上記処理剤のうち還元剤としては特に限定されないが、水素化ナトリウム、水素化リチウム、水素化カルシウム、LiAlH4、NaBH4、LiBEt3H、水素などを挙げることができる。上記処理剤のうち水素‐窒素結合含有化合物としては特に限定されないが、例えばアンモニア、ヒドラジン、1級アミノ基含有化合物、2級アミノ基含有化合物、アミド基含有化合物、アミン塩酸塩含有化合物、水素‐窒素結合含有高分子、およびヒンダードアミン系光安定剤(HALS)などを挙げることができる。
【0052】
これらの化合物のうち、反応の効率が高い点で、アレニウス塩基、還元剤、および1級アミノ基含有化合物、および2級アミノ基含有化合物が好ましい。アレニウス塩基とは、水に溶解した際に水酸化物イオンを生じる塩基性化合物を指す。取り扱いが容易である点、入手性および回収除去の容易さの点で、1級アミノ基含有化合物および2級アミノ基含有化合物がさらに好ましい。
【0053】
具体的には、モノメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、n−ブチルアミン、ジブチルアミン、シクロヘキシルアミンがよりさらに好ましい。HALSとしては、アデカスタブLA−77(旭電化工業(株)製)、Chimassorb 944LD(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、Tinuvin 144(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、アデカスタブLA−57(旭電化工業(株)製)、アデカスタブLA−67(旭電化工業(株)製)、アデカスタブLA−68(旭電化工業(株)製)、アデカスタブLA−87(旭電化工業(株)製)、およびGoodrite UV−3034(Goodrich社製)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0054】
末端にメルカプト基を有するビニル系熱可塑性樹脂の分子量は、使用する超微粒子の種類、粒子径、使用する熱可塑性樹脂の種類、粒子の添加量などにより好ましい範囲が異なるため限定されないが、重合反応の進行の容易さ、メルカプト基の導入率の点で数平均分子量として1000〜10万の範囲が好ましく、2000〜5万の範囲がより好ましい。
【0055】
上記RAFT重合により製造される末端にメルカプト基を有するビニル系熱可塑性樹脂は、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が通常1.5以下、一般的には1.3以下となる。分子量分布が狭くなると、金属超微粒子の分散性が向上し、熱可塑性樹脂組成物の透明性、成形性、機械物性が優れるなどの利点がある。
【0056】
表面修飾金属超微粒子と、メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂とを混合する方法としては、溶媒存在下で混合する方法と、溶媒を用いずに混合する方法がある。溶媒を用いずに混合する方法には、液体のメルカプト末端を有する樹脂と超微粒子を混合する方法、固体状態のメルカプト末端を有する樹脂を加熱し溶融状態にして超微粒子と混合する方法がある。
【0057】
溶媒を用いずに混合する方法は大量生産に適しているが、超微粒子を樹脂に均一に分散させる為には、樹脂に剪断力をかけることができる混練機等の装置や混合条件を選択しなければならない。一方、溶媒存在下で混合する方法は、超微粒子が分散し樹脂が溶解する溶媒を選択すれば、一般的な撹拌機や混合条件を用いるだけで、均一に超微粒子が分散した樹脂組成物を容易に得られることができる為好ましい。
【0058】
混合する際に用いる溶媒としては、表面修飾した金属超微粒子が溶媒中に分散し、且つメルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂が溶解する溶媒であれば特に限定されず、一般的に使用されている溶媒を用いることができる。また、金属微粒子が分散する溶媒と、その溶媒とは別のメルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂が溶解する溶媒の、2種の溶媒を混合して用いることもできる。溶媒としては、金属超微粒子、メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂と、反応をしないものが好ましい。
【0059】
そのような溶媒としては、水や、エーテル系溶媒のジエチルエーテル、テトラハイドロフラン、1,4‐ジオキサン、ジフェニルエーテル等、エステル系溶媒の酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル等、アルカン系溶媒のヘキサン、ヘプタン、石油エーテル等、芳香族系溶媒のトルエン、ベンゼン、キシレン等、ケトン系溶媒のアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等、アルコール系溶媒のメタノール、エタノール、2‐プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等、アミン・アミド系溶媒のピリジン、ジエチルアミン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等、ハロゲン溶媒のジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等、スルホキシド系溶媒のジメチルスルホキシド、有機酸の酢酸等がある。また、超臨界状態の二酸化炭素も取り扱い難いが用いることができる。
【0060】
溶媒の部数については特に限定されず、金属超微粒子が溶媒中に分散し、且つメルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂が溶解すれば、どのような量でも構わない。溶媒の分量は、作成する超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して、0.01〜100,000重量部が好ましく、より好ましくは、100〜10,000重量部である。溶媒の分量が0.01重量部より少ない場合は、熱可塑性樹脂が溶解しない、または溶解できた場合も系の粘度が高く均一に攪拌できないために好ましくない。また、溶媒の分量が、100,000重量部を越えた場合は経済的ではなく好ましくない。
【0061】
溶媒存在下混合する方法としては、金属超微粒子とメルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂が、溶媒に分散または溶解している状態で系が均一に撹拌されていれば、撹拌速度等は特に限定されない。均一に攪拌されずに局所的に攪拌されない部分があった場合には、超微粒子が不均一に分散した熱可塑性樹脂組成物が作成されるため好ましくない。
【0062】
撹拌時間は特に限定されないが、1分間以上12時間未満が好ましい。1分間より短い時間であると、超微粒子表面を修飾しているアミノ基含有化合物、またはヒドロキシル基含有化合物、アミド基含有化合物は、メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂と修飾剤交換する反応が終わらない為好ましくない。また、修飾剤交換反応は12時間未満の時間で終了すると考えられる為、12時間以上の撹拌は不必要であり好ましくない。
【0063】
より好ましい撹拌時間は、30分以上3時間未満である。撹拌時に溶媒を加熱しても良く特に限定されない。加熱温度としては、溶媒の沸点以下で、且つ有機低分子化合物、熱可塑性樹脂の分解温度以下であることが好ましい。撹拌時の雰囲気は特に限定されない。混合装置としては、上記の混合条件を満たすものであれば特に限定されない。
【0064】
混合後の溶媒の除去の方法は特に限定されない。溶媒の除去の方法としては、加熱乾燥による方法、減圧下での加熱蒸留による方法、樹脂の貧溶媒を用いた再沈澱による方法、または溶融混練機を用いて樹脂組成物を混練しながら同時に溶媒を留去する方法等を挙げることができる。
【0065】
本発明の超微粒子含有樹脂組成物は、成分(C)メルカプト基を含有しない熱可塑性樹脂をさらに含んでいてもよい。超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物の機械的特性を改善する目的で、そのような熱可塑性樹脂を含有させることもできる。このような熱可塑性樹脂は、超微粒子やメルカプト基を有するビニル系熱可塑性樹脂と反応しないものが好ましい。熱可塑性樹脂は、表面修飾した超微粒子を合成する際にあらかじめ混合しておいてもよく、超微粒子を合成した後の段階で添加してもよい。表面修飾微粒子を合成した後に添加して混合する場合には、適当な溶媒を使用してもよく、あるいは溶融混練してもよい。
【0066】
本発明で使用するこのような熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、末端にメルカプト基を有する熱可塑性樹脂との相溶性を調節することにより、超微粒子の分散性やモルフォロジーを制御することが可能となる。例えば共連続構造や海島構造の一方の相にのみ超微粒子を局在化させたり、熱可塑性樹脂組成物の表面に超微粒子を局在化させたりすることが可能となる。
【0067】
本発明で使用する上記熱可塑性樹脂の具体例としては特に限定されないが、ポリスチレンなどの芳香族ビニル系樹脂、ポリアクリロニトリルなどのシアン化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニルなどの塩素系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のポリメタアクリル酸エステル系樹脂やポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンや環状ポリオレフィン樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニルなどのポリビニルエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂及びこれらの誘導体樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂やポリアクリル酸系樹脂及びこれらの金属塩系樹脂、ポリ共役ジエン系樹脂、マレイン酸やフマル酸及びこれらの誘導体を重合して得られる樹脂、マレイミド系化合物を重合して得られる樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアルキレンオキシド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂、フッ素系樹脂、液晶ポリマー、及びこれら例示された樹脂のランダム・ブロック・グラフト共重合体などが挙げられる。熱可塑性樹脂の部数については特に制限はない。
【0068】
更に本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の特性を損なわない範囲で強化充填剤を添加してもよい。これにより耐熱性や機械的強度等の向上を図ることができる。このような強化充填剤としては特に限定されず、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維等の繊維状充填剤;ガラスビーズ、ガラスフレーク;タルク、マイカ、カオリン、ワラストナイト、スメクタイト、珪藻土等のケイ酸塩化合物;炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等が挙げられる。なかでも、ケイ酸塩化合物及び繊維状充填剤が好ましい。
【0069】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物をより高性能なものにするため、フェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等の酸化防止剤、リン系安定剤等の熱安定剤を1種のみで又は2種類以上併せて使用してもよい。更に必要に応じて、通常良く知られた、滑剤、離型剤、可塑剤、難燃剤、難燃助剤、ドリッピング防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、染料、帯電防止剤、導電性付与剤、分散剤、相溶化剤、抗菌剤等の添加剤を使用することもできる。
【0070】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形加工法としては特に限定されず、一般に用いられている成形法、例えば、フィルム成形、射出成形、ブロー成形、押出成形、真空成形、プレス成形、カレンダー成形、発泡成形等を利用することができる。また本発明の熱可塑性樹脂組成物は、種々の用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例を示し、本発明の特徴とするところをより一層明確にする。
樹脂組成物中の金属超微粒子の数平均粒径測定:得られた樹脂組成物から、ウルトラミクロトーム(ライカ製ウルトラカットUCT)を用いて超薄切片を作成した後、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子JEM‐1200EX)を用いて、倍率1万倍〜40万倍で金属超微粒子の分散状態を複数箇所で写真撮影した。得られたTEM写真において少なくとも100個以上の粒子で粒径を測定することにより、粒子の数平均粒径を算出した。
【0072】
本発明においてポリマーの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析により求めた。Waters社製システムを使用し、カラムはShodex K−806とK−805(昭和電工(株)製)を連結して用い、クロロホルムを溶出液とし、ポリスチレン標準で解析した。
【0073】
(製造例1)片末端にメルカプト基を有するポリメチルメタクリレートの製造
還流冷却管、窒素ガス導入管、温度計、磁気撹拌子を備えた反応器に、チオカルボニルチオ基を有する化合物としてクミルジチオベンゾエート(8.01g)、単量体としてメチルメタクリレート(500g)、溶媒としてトルエン(260g)、重合開始剤として2,2’‐アゾビスイソブチロニトリル(1.11g)を入れ、窒素ガスをバブリングしながら系内を減圧する方法により脱酸素・窒素置換を行った。85℃で4時間撹拌し重合を行った。室温まで温度を下げ、n‐ブチルアミン(16.8ml)を滴下し70℃で2時間攪拌した。冷却後、メタノールに注いで重合体を析出させた。さらにメタノールで洗浄後乾燥し、末端にメルカプト基を有するポリメチルメタクリレートを得た。えられた重合体のGPC測定を行い、分子量および分子量分布を決定した(Mn=12,000、Mw=14,000、Mw/Mn=1.17)。
【0074】
(製造例2)片末端にメルカプト基を有するポリスチレンの製造
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流冷却管を備えた100mL反応器に、スチレン(27.0g)、アゾビスイソブチロニトリル(9mg)、およびベンジルジチオベンゾエート(68mg)を入れ、系内を窒素置換した。反応液を撹拌しながら60℃で20時間加熱した。反応液を室温まで冷却した後、メタノール(200mL)中に注ぎ込み、Mw=16,200、Mn=14,000、Mw/Mn=1.16の重合体(4.3g)を得た。1H NMR測定の結果、チオカルボニルチオ構造はポリスチレンの片末端に導入されており、導入率は片末端基準で90%であることを確認した。得られたポリスチレン(2g)をトルエン(40mL)に溶解し、室温でGoodriteUV‐3034(Goodrich製,0.5g)と、ジエチルアミン1gとを添加し、50℃で4時間撹拌した後減圧脱揮した。得られた重合体の1H NMR測定から、片末端にメルカプト基を有するポリスチレンであることを確認した。
【0075】
(実施例1)
オレイルアミンおよびオレイン酸で修飾された鉄と白金の合金の超微粒子のトルエン分散液を、S.Sunらの方法(S.Sunら;J.Phys.Chem.B,107巻,5419頁(2003))に従って調製した。
つまり、Pt(acetylacetonate)2(197mg,0.5mmol),FeCl2・4H2O(139mg,0.70mmol),1,2−ヘキサデカンジオール(520mg,2mmol),フェニルエーテル(25ml)を窒素下で100℃10分間加熱し、オレイン酸(0.16ml,0.5mmol),オレイルアミン(0.17ml,0.5mmol)を加え200℃で20分間加熱した。LiBEt3Hの1Mテトラヒドロフラン溶液(2.5ml)を2分間かけて滴下し、200℃でさらに5分間加熱した。5分加熱後、263℃で20分間加熱を行い、放冷した。放冷した反応溶液に99%エタノール(40ml)を加え鉄と白金の合金の超微粒子を沈殿させ、遠心分離(6000rpm,10min)にかけ上澄みを除いた。
【0076】
鉄と白金の合金の超微粒子の沈殿にヘキサン(20ml)を加え分散させ、遠心分離(6000rpm,10min)にかけ沈殿を除き、鉄と白金の合金の超微粒子分散液を調製した。鉄と白金の合金の超微粒子分散液(5.0ml)は、シャーレ上で乾燥させることにより41.9mgの修飾合金超微粒子を含んでいることが分かった。上記の合金超微粒子のヘキサン分散液(0.3ml)を、製造例1において合成した片末端にメルカプト基を有するポリメチルメタクリレート(Mn=12,000;0.25g)のトルエン(和光純薬株式会社製,2.5ml)溶液に加え1時間室温で撹拌した。
【0077】
1時間の撹拌後、市販のポリメチルメタクリレートであるスミペックスMH(住友化学株式会社製,0.25g)を溶液に加えさらに1時間撹拌した。撹拌後、溶液をシャーレ(直径5cm)に移し室温で乾燥することによって鉄と白金の合金の超微粒子含有ポリメチルメタクリレートを得た。透過型電子顕微鏡による観察によって、合金超微粒子は樹脂中に均一に分散しており、超微粒子の平均粒子径は5nmであることが分かった。
【0078】
(比較例1)
オレイルアミン(0.17ml)を用いずにオレイン酸(0.32ml)だけを用いたこと以外はS.Sunらの方法に従い鉄と白金の合金の超微粒子のトルエン分散液を調製した。合金の超微粒子分散液(5.0ml)は、シャーレ上で乾燥させることにより36.9mgの修飾合金超微粒子を含んでいることが分かった。上記の合金超微粒子のトルエン分散液(0.34ml)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、鉄と白金の合金の超微粒子含有ポリメチルメタクリレートを得た。透過型電子顕微鏡で観察することによって、合金超微粒子は樹脂中に均一には分散しておらず、大きな超微粒子の凝集塊は数百nmの粒子径を有することが分かった。
【0079】
(比較例2)
片末端にメルカプト基を有するポリメチルメタクリレートを用いずに、市販のポリメチルメタクリレート(スミペックスMH,0.5g)だけを用いたこと以外は、実施例1と同様にして鉄と白金の合金の超微粒子を含有したポリメチルメタクリレートを得た。樹脂組成物を光学顕微鏡(デジタルマイクロスコープVHX‐100,株式会社キーエンス製,175倍)で観察したところ、数μmの凝集塊があることが分かった。
【0080】
(実施例2)
片末端にメルカプト基を有するポリメチルメタクリレートの代わりに、製造例2で合成した片末端にメルカプト基を有するポリスチレン(0.25g)、市販のポリメチルメタクリレートの代わりに市販のポリスチレンであるA&MポリスチレンG9305(エー・アンド・エムスチレン株式会社製,0.25g)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして鉄と白金の合金の超微粒子を含有したポリスチレンを得た。透過型電子顕微鏡による観察によって、合金超微粒子は樹脂中に均一に分散しており、超微粒子の平均粒子径は5nmであることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アミノ基含有化合物、カルボキシル基含有化合物、ヒドロキシル基含有化合物、アミド基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、スルフィン酸基含有化合物、ホスホン酸基含有化合物、およびホスフィン酸基含有化合物からなる群より選ばれる2種以上の有機低分子化合物によって表面修飾された金属超微粒子と、(B)メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂とを必須成分として含有する超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
成分(A)がアミノ基含有化合物、ヒドロキシル基含有化合物、およびアミド基含有化合物からなる群より選ばれる1種類以上の有機低分子化合物と、カルボキシル基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、スルフィン酸基含有化合物、ホスホン酸基含有化合物、およびホスフィン酸基含有化合物からなる群より選ばれる1種以上の有機低分子化合物によって表面修飾された金属超微粒子であることを特徴とする、請求項1に記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
成分(A)がアミノ基含有化合物とカルボキシル基含有化合物であることを特徴とする、請求項1または2に記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
金属超微粒子の分散状態の数平均粒子径が0.1nm以上100nm未満の範囲であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
金属超微粒子が、鉄と白金の合金であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の超微粒子含有樹脂組成物。
【請求項6】
成分(B)メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂が、可逆的付加脱離連鎖移動重合により得られる重合体を処理剤で処理して得られるものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
処理剤が、塩基性化合物、還元剤、および水素‐窒素結合含有化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物であることを特徴とする、請求項6に記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
成分(A)の金属超微粒子と成分(B)のメルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂とを溶媒存在下で混合して得られることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
成分(C)メルカプト基を含有しない熱可塑性樹脂をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2008−63428(P2008−63428A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−242361(P2006−242361)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】