説明

超電導導体

【目的】安定性に優れた超電導導体を提供する。
【構成】超電導線3に添設された安定化材15は、銅の被覆層12を備えたアルミニウム材13を含んで構成されている。銅の被覆層12は厚みが35μm以下に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、大型の超電導マグネットなどの線材として使われる安定化材を備えた超電導導体に関する。
【0002】
【従来の技術】周知のように、核融合炉、エネルギ貯蔵施設、ハイブリッド・マグネット、加速器などでは大型の超電導マグネットを必要とする。このような大型の超電導マグネットを形成する場合、コイルを構成する超電導導体としては、常電導状態に転移したときの安全性の確保、運転の継続確保、常電導状態から超電導状態への自然回復の確保などの点から通常、超電導線に銅、アルミニウム、銅とアルミニウムの複合体などの安定化材を添設したものが用いられる。
【0003】ところで、銅は磁気抵抗効果が大きいため、高磁界において比抵抗が大きい。このため、安定化材として銅だけを用いた超電導導体では十分な安定性が得られない。一方、アルミニウムは磁気抵抗効果が小さく、高磁界での比抵抗が小さい。しかし反面、ハンダとの接着性が悪く、しかも機械的強度性に劣る。このため、安定化材としてアルミニウムだけを使用しようとすると、超電導導体の製作が困難なものとなる。
【0004】このようなことから、図8に示すように、銅とアルミニウムの複合体を安定化材として使用している超電導導体1が多い。すなわち、この超電導導体1は、銅安定化材2中に銅マトリックスのNb3 SnあるいはNbTiからなる超電導線3を埋込むとともに、銅安定化材2の外面に超電導線3に沿って延びる溝4を設け、この溝4内に厚さがたとえば200μmの銅の被覆層5を備えたアルミニウム材6、つまり銅クラッド・アルミ材7をハンダを介して装着し、銅安定化材2と銅クラッド・アルミ材7とで安定化材8を構成したものとなっている。銅の被覆層5はメッキなどによって形成され、ハンダとの接着性に寄与している。
【0005】しかしながら、上記のように銅とアルミニウムの複合体を安定化材8として用いた超電導導体1にあっても、高磁界中において安定化材8の合成比抵抗を実際に測定してみると、設計計算値に比べて異常に高く、アルミニウム材6を加えた効果がほとんどないことが判明した。また、安定性の実証実験においても満足できる結果は得られなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】上述の如く、従来、安定性に優れていると言われている、銅とアルミニウムの複合体を安定化材として用いた超電導導体にあっても、実際には十分な安定性が得られないことが判った。そこで本発明は、銅とアルミニウムの複合体を安定化材として用い、しかも安定性に優れた超電導導体を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明に係る超電導導体では、安定化材が銅の被覆層を備えたアルミニウム材を含んでおり、かつ上記銅の被覆層の厚みが35μm以下に設定されている。
【0008】
【作用】上記構成であると、5テスラ以上の高磁界中において、複合安定化材の実測比抵抗と計算比抵抗との比を従来のものに較べて30%以上低下させることができる。つまり、アルミニウム材を加えたことによる効果を有効に引き出すことができ、超電導導体の安定性を向上させることができる。
【0009】この理由は定かではないが次のように推測される。金属には電流の流れる方向と垂直な方向に磁界が印加されると、電流・磁界に対して垂直な方向に電場が生じ、起電力が現れる。この現象はホール効果と呼ばれている。このホール効果で生じる電圧は、電流と磁界の積にある係数をもって比例する。この係数はホール係数と呼ばれているが、銅とアルミニウムとではその係数の正負が逆転している。このため、銅とアルミニウムから構成される複合安定化材の軸方向に対して垂直な方向に電流のループができ、これが軸方向の電流の流れに対して抵抗になると予測される。この予測に立脚すると、銅の被覆層の厚みが増加すれば銅に流れる電流値も増加し、起電力差も大きくなり、ループ電流も増加する。事実、銅の被覆層の厚みと磁界の増加に対して、複合安定化材の実測比抵抗と計算比抵抗の比が増加すると言う実験結果を定性的に説明できる。したがって、銅の被覆層の一部または全部の厚みが薄くなるか、零になれば、ループ電流の流れる厚さが制限されるため、ホール起電力の差が小さくなり、ループ電流が減少し、実測比抵抗と計算比抵抗との比が低下するものと予測される。
【0010】
【実施例】以下、図面を参照しながら実施例を説明する。図1には本発明の一実施例に係る超電導導体の横断面図が示されている。なお、この図では図8と同一部分が同一符号で示されている。
【0011】この実施例に係る超電導導体11は、銅安定化材2の中に銅マトリックスのNb3 SnあるいはNbTiなどからなる超電導線3を埋込むとともに、銅安定化材2の外面に超電導線3に沿って延びる溝4を設け、この溝4内に銅の被覆層12を備えたアルミニウム材13、つまり銅クラッド・アルミ材14をハンダを介して装着し、銅安定化材2と銅クラッド・アルミ材14とで安定化材15を構成している。
【0012】銅の被覆層12はメッキなどによって形成されており、その厚みは35μm以下、この例では30μmに設定されている。この被覆層12のうち、溝4内に位置している部分はハンダとの接着性に寄与している。このような構成であると、超電導導体11の安定性を大幅に向上させることができる。
【0013】すなわち、図1に示される超電導導体11と図8に示される従来の超電導導体1との安定性を比較してみた。なお、両者とも安定化材として使用している銅とアルミニウムとの比が3:1となるように構成した。これらの導体を用いてコイルを作製し、安定化の目安となる常電導状態に転移した後に超電導状態に戻る電流(回復電流)を比較した。その結果、銅の被覆層12の厚みが30μmである本発明の導体は1000A以上であった。これに対して、銅の被覆層の厚みが200μmである従来の導体のそれは700A以下であった。本発明の適用によって40%以上の安定性の向上が確認された。
【0014】また、発明者らは銅の被覆層12の厚みの限界を確認するために次のような実験を行った。すなわち、アルミニウム線に厚さ10、20、30、40、45μmの銅の被覆層を施した直径1mmの銅クラッド・アルミ線を作製し、これらに4.2K中で0〜7テスラの磁界を印加し、そのときの電気抵抗を測定してみた。その結果、図2に示すデータを得た。なお、横軸は銅の被覆層の厚みを示し、縦軸は実測比抵抗と計算による比抵抗との比を示している。この図から判るように、磁界および銅の被覆層の厚みの増加にともなって実測比抵抗と計算による比抵抗との比が急激に増加している。たとえば、最も応用範囲が広い6テスラ近くの場合を例にとると、銅の被覆層の厚みが35μm以下では実測比抵抗/計算比抵抗の比が2倍程度以下であるのに対して、銅の被覆層の厚みが40μmを越えると2.6倍以上、つまり30%以上増加している。したがって、銅の被覆層12の厚みは35μm以下でハンダ接合に支障を与えない範囲に設定する必要があると言える。
【0015】なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではない。すなわち、上述した実施例では、銅クラッド・アルミ材14の一部を露出させているが、図3に示すように銅クラッド・アルミ材14を銅安定化材2中に完全に埋め込むようにし、被覆層12の一部を電気的な接触のない空胴や真空層16で覆うようにしてもよい。また、空胴や真空層16に代えて図4に示すように絶縁材17で覆うようにしてもよい。また、上述した各例ではアルミニウム材13の外周面全体に厚さが35μm以下の銅の被覆層12を設けているが、ハンダ接合に供されない部分については被覆層12を除いてもよく、たとえば図5に示すように、アルミニウム材13の3辺だけに35μm以下の銅の被覆層12を設け、この被覆層12を使って銅安定化材2にハンダ接合し、アルミニウム材13の残りの1辺を電気的な接触のない空胴や真空層16で覆うようにしてもよい。空胴や真空層16に代えて図6に示すように絶縁材17で覆うようにしてもよい。また、上述した各例では、銅安定化材2を設けているが、図7に示すように銅クラッド・アルミ材14だけで安定化材15aを構成してもよい。この場合も銅の被覆層12の厚みは35μm以下に設定する必要がある。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施することができる。
【0016】
【発明の効果】以上のように、本発明によれば、製作性を低下させることなく、安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例に係る超電導導体の横断面図
【図2】磁界中におかれたときの銅の被覆層の影響を調べた実験結果を示す図
【図3】本発明の第2の実施例に係る超電導導体の横断面図
【図4】本発明の第3の実施例に係る超電導導体の横断面図
【図5】本発明の第4の実施例に係る超電導導体の横断面図
【図6】本発明の第5の実施例に係る超電導導体の横断面図
【図7】本発明の第6の実施例に係る超電導導体の横断面図
【図8】従来の超電導導体の横断面図
【符号の説明】
2…銅安定化材 3…超電導線
4…溝 11,11a,11b,11c,11d,11e…超電導導体
12…銅の被覆層 13…アルミニウム材
14…銅クラッド・アルミ材 15,15a…安定化材
16…空胴または真空層 17…絶縁材

【特許請求の範囲】
【請求項1】超電導線に安定化材を添設してなる超電導導体において、前記安定化材は銅の被覆層を備えたアルミニウム材を含み、上記銅の被覆層は厚みが35μm以下であることを特徴とする超電導導体。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【公開番号】特開平5−325661
【公開日】平成5年(1993)12月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−123693
【出願日】平成4年(1992)5月15日
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000002255)昭和電線電纜株式会社 (71)