説明

超音波洗浄装置及び方法

【課題】 洗浄対象物を分解せずに超音波洗浄を行う際に、洗浄時間を最適化することができる超音波洗浄装置及び方法を提供する。
【解決手段】実施形態の超音波洗浄装置は、内部に液体を保持している構造体30に、所定の洗浄用周波数で洗浄用超音波を入射する洗浄用振動子11bと、洗浄用周波数と異なる周波数である測定用超音波Pを入射する測定用送信振動子21bと、反射波P1、P2を受信する測定用受信振動子21bと、内面付着物31の厚みを算出する制御部23と、を備える。また、その洗浄方法は、洗浄用周波数帯で洗浄用超音波が前記構造体30に入射される洗浄ステップ41と、洗浄ステップ41の最中に、測定用超音波が構造体30に入射される測定用超音波入射ステップ42と、測定用超音波の反射波が受信される反射波受信ステップ43と、内面付着物31の厚みが算出される算出ステップ44と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超音波洗浄装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラントや各種産業用プラントでは、長期間に渡る運用によって、配管内面や配管内設置構造物には流体に分散して運ばれてきた固形物が付着する。
【0003】
原子力プラントではこうした内面付着物に放射性生成物が含まれるため、付着量の増加に従って空間線量率が高まり、付近で作業を行う作業員の放射線被ばく線量が増加する。そのため、供用中には被ばく低減を目的として配管内面や配管内設置構造物などの洗浄が定期的に実施される。供用中の洗浄は、短時間かつ簡便な操作で洗浄可能であり、洗浄排水などの二次汚染物の発生量が少ない技術が望まれている。
【0004】
配管内面や配管内設置構造物を、短時間かつ簡便な操作で洗浄可能な洗浄方法として、既設配管を洗浄槽として非分解で配管内面を洗浄する超音波洗浄方法が提案されている。
【0005】
この洗浄方法は、洗浄対象の外面に振動子を設置し、配管内の液中に発生するキャビテーションや洗浄対象物の共振振動で内面付着物を剥離させる方法である。洗浄対象物である配管等を分解することなく洗浄することが可能である。また、分解した洗浄対象物を洗浄槽等に投入し洗浄液に浸す必要がないため、二次汚染物の発生を低減することができる。しかし、非分解であるため、洗浄の効果を目視等で直接観察することができず、内面付着物がどの程度の洗浄時間で除去できるかは不明である。超音波洗浄は基本的には時間に応じて洗浄効果が高くなるため、長い時間を掛けるほど良い。しかし、長時間の洗浄はプラント等の稼動効率低下に繋がるため、洗浄時間の最適化が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−78894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、洗浄対象付着物の厚み測定が可能な、超音波洗浄装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために実施形態の超音波洗浄装置は、構造体の外面に設置され、前記構造体の肉厚方向に所定周波数の洗浄用超音波を入射する洗浄用振動子と、前記構造体の外面に設置され、前記構造体の肉厚方向に、前記洗浄用超音波と異なる周波数で測定用超音波を入射する測定用送信振動子と、前記構造体の内面及び内面に付着した内面付着物の前記液体と接している面からの前記測定用超音波の反射波を受信する測定用受信振動子と、前記測定用受信振動子で得られる前記構造体の内面及び前記内面付着物からの前記測定用超音波の反射波の受信信号に基づいて、前記内面付着物の厚みを算出する、制御部と、を備える。
【0009】
また、上記課題を達成するために実施形態の超音波洗浄装置の洗浄方法は、構造体の内部に付着した内面付着物を超音波を用いて除去する超音波洗浄方法であって、前記構造体の外面に取り付けられた洗浄用振動子部から、所定周波数の洗浄用超音波が前記構造体に入射される洗浄ステップと、前記構造体外面に取り付けられた測定用送信振動子部から、前記洗浄用超音波と異なる周波数の測定用超音波が前記構造体に入射される測定用超音波入射ステップと、前期構造体各部からの前記測定用超音波の反射波が、前記構造体外面に取り付けられた測定用受信振動子部で受信される反射波受信ステップと、前記反射波受信ステップで得られた反射波の受信信号を基に、制御部で前記内面付着物の厚みが算出される算出ステップと、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態の超音波洗浄装置の構成を示すブロック図。
【図2】第1の実施形態の超音波洗浄の工程を示すフローチャート。
【図3】第1の実施形態における厚さ測定の方法を示す図。
【図4】第1の実施形態における反射波の振幅の推移を示す模式図。
【図5】第1の実施形態において実際に受信される反射波の模式図。
【図6】第2の実施形態の超音波洗浄装置の構成を示すブロック図。
【図7】第2の実施形態の超音波洗浄の工程を示すフローチャート。
【図8】第4の実施形態の超音波洗浄装置を示す模式図 。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明を実施するための実施形態について説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
第1の実施形態の超音波洗浄装置及び方法について、図1乃至図3を参照して説明する。本実施形態の超音波洗浄装置及び洗浄方法は、キャビテーションを用いる配管30の洗浄中に、残存する内面付着物31の厚さ測定を行い、厚さの測定結果に基づいて洗浄時間を調節する。
【0013】
図1は本実施形態の超音波洗浄装置の構成を示すブロック図であり、図2は本実施形態の超音波洗浄の工程を示すフローチャートであり、図3は本実施形態における厚さ測定の方法を示す図である。
【0014】
(構成)
以下、本実施形態の超音波洗浄装置の構成について記す。本実施形態において、洗浄対象物である構造体は円筒形の配管30であり、その内部に水を保持している。本実施形態の配管30は原子力プラント内の配管を想定している。図1において、配管30はその横断面を示している。配管30の内面には、長期間に渡る運用によって流体に分散して運ばれてきた固形物が付着してできた、内面付着物31が堆積している。内面付着物31の、配管の中心を向いている面(配管30の内面に接していない面)を接液面と呼称する。配管30の外面には、洗浄用振動子部10と測定用振動子部20が取り付けられている。
【0015】
洗浄用振動子部10は収束ホーン11aと洗浄用振動子11bで構成されている。収束ホーン11aは配管30の外面に直接取り付けられ、洗浄用振動子11bは収束ホーン11aに取り付けられている。洗浄用振動子11bは洗浄用信号増幅部12に接続されている。洗浄用信号増幅部12は洗浄用信号生成部13に接続されている。
【0016】
ここで、超音波洗浄で用いる超音波のことを洗浄用超音波、洗浄用超音波の周波数を洗浄用周波数、洗浄用超音波がとりうる超音波洗浄に適した洗浄用周波数の範囲のことを洗浄用周波数帯と、それぞれ呼称する。
【0017】
洗浄用信号生成部13は、洗浄用周波数の電気信号を生成する。洗浄用信号増幅部12は、洗浄用信号生成部13で生成された電気信号を増幅する。洗浄用振動子11bは洗浄用信号増幅部12で増幅された電気信号を基に超音波を発する。洗浄用振動子11bが発する洗浄用超音波は収束ホーン11aを介して、配管30の肉厚方向に伝播する。
【0018】
測定用振動子部20は接触シュー21aと測定用振動子21bで構成されている。接触シュー21aは配管30に直接取り付けられ、測定用振動子21bは接触シュー21aに取り付けられている。測定用振動子21bは測定用信号増幅部22に接続され、さらに、測定用信号増幅部22は制御部23に接続されている。制御部23は、洗浄用信号生成部13に接続されている。
【0019】
ここで、厚さ測定で用いる超音波のことを測定用超音波、測定用超音波の周波数を測定用周波数、測定用超音波がとりうる厚さ測定に適した測定用周波数の範囲のことを測定用周波数帯と、それぞれ呼称する。
【0020】
制御部23は、測定用周波数の電気信号を生成する。測定用信号増幅部22は、制御部23で生成された電気信号を増幅する。測定用振動子21bは測定用信号増幅部22で増幅された電気信号を基に超音波を発する。測定用振動子11bが発する測定用超音波は接触シュー21aを介して、配管30の肉厚方向に伝播する。
【0021】
また、測定用振動子21bは超音波の送受信が可能な振動子である。測定用振動子21bは、測定用超音波を発信する測定用送信振動子と、反射波を受信する測定用受信振動子とで構成されてもよい。
【0022】
また、制御部23は測定用超音波の反射波を基に内面付着物31の厚さを算出する。さらに、この厚さに応じて洗浄の継続または停止を判断し、その信号を洗浄用信号生成部13に伝達する。洗浄用信号生成部13は制御部23からの信号を基に、洗浄用超音波のための電気信号を生成または停止する。
【0023】
(方法)
以下、本実施形態の超音波洗浄に用いられている洗浄方法と厚さ測定方法について説明する。
【0024】
本実施形態に用いられる超音波洗浄は、キャビテーションを用いる洗浄である。キャビテーションについて説明する。液体に強力な超音波を照射すると、液体が激しく揺さぶられて、局所的に高圧部と低圧部が発生する。この低圧部分が液体の飽和蒸気圧よりも低圧になっている場合、この部分が局所的に沸騰し、気泡が生じる。そして、気泡が圧壊されるとき、液体中に衝撃波が発生する。本実施形態の洗浄では、この衝撃波を利用して、内面付着物31を配管30から乖離させる。
【0025】
キャビテーションで生じる気泡が圧壊する際の衝撃波が大きいほど、内面付着物31を配管30から剥がす力は大きくなる。内面付着物31を配管30から剥がす力の強さを洗浄強度と呼称する。洗浄強度は、キャビテーションを引き起こす周波数が低いほど増加する。内部が飽和水で満たされた構造体の場合、キャビテーション作用による洗浄は、洗浄用周波数が25kHz程度であればアルミ箔に孔が開くほどの強力洗浄が可能である。冒頭で記したように、本実施形態の配管30は原子力プラント内の配管である。こうした配管の内面付着物31は酸化皮膜などのハードクラッドである。ハードクラッドの剥離を目的とした洗浄を行う場合、必要な洗浄強度の観点から、洗浄用周波数帯は10kHz〜100kHz帯であることが望ましい。
【0026】
次に、本実施形態における厚さ測定方法について説明する。測定対象物に入射された超音波は、測定対象物の表面や、他物質との接触面といった各界面で反射される。超音波の入射時刻と各反射波の受信時刻の時間差や、各反射波の受信時刻の時差から対象物の厚さを算出することが可能である。
【0027】
測定用超音波は周波数が高いほど膜厚測定分解能が高くなる。厚さ測定など、超音波を用いる非破壊検査には、一般に5MHz〜10MHzの周波数帯の超音波が用いられる。仮に測定対象物を配管とし、測定用超音波を、縦波音速度Vを5800m/sec(ステンレス鋼)、超音波周波数Fを10MHzとすると、超音波波長λはλ=V/Fから0.58mmである。100Ms/Sのサンプリング速度で受信すれば、0.1mmオーダーで残存する膜厚値を得ることができる。原子力プラントの配管内の内面付着物31の厚さ測定には十分な分解能である。
【0028】
ここで、測定用周波数を洗浄用周波数と異なる周波数とすれば、超音波洗浄と厚さ測定を同時に行うことが可能である。洗浄用超音波と測定用超音波の各々の反射波が混在していても、周波数の違いにより測定用超音波の反射波のみを識別することが可能なためである。
【0029】
以下、図2を用いて本実施例の超音波洗浄方法について説明する。図2において、測定用超音波をPとする。
【0030】
まず、洗浄ステップ41について説明する。洗浄ステップ41は、配管30内の液体中にキャビテーションを発生させて、内面付着物31を内面から乖離させる。
【0031】
洗浄ステップ41では、洗浄用超音波の基となる電気信号が洗浄用信号生成部13から発せられ、洗浄用信号増幅部12で増幅される。その信号は洗浄用振動子11bで超音波に変換される。洗浄用振動子11bから発せられた洗浄用超音波は、収束ホーン11aを経由して配管30に垂直入射し、配管肉厚方向の縦波の超音波振動となって伝播する。洗浄用周波数帯は10kHz〜100kHzである。この超音波振動が配管30内にキャビテーションを生じさせ、洗浄効果をもたらす。
【0032】
次に、測定用超音波入射ステップ42について説明する。測定用超音波入射ステップ42は、洗浄ステップ41の最中に、測定用超音波Pを配管30に入射する。
【0033】
測定用超音波入射ステップ42では、測定用超音波の基となる電気信号が制御部23から発せられ、測定用信号増幅部22で増幅される。その信号は測定用振動子21bで超音波に変換される。測定用超音波Pはパルス状超音波であり、測定用超音波振動子21bから接触シュー21aを経由して配管30に垂直入射し、配管肉厚方向の縦波の超音波振動となって伝播する。測定用周波数帯は5MHz〜10MHzである。
【0034】
次に、反射波受信ステップ43について説明する。反射波受信ステップ43では、測定用超音波Pの反射波が測定用振動子21bで受信される。
【0035】
図3に示すように、測定用超音波Pは配管30→内面付着物31→水中32の方向に伝播する。水の音響インピーダンスは、配管30や内面付着物31といった固体と大きく異なるため、測定用超音波Pは水中に伝播しにくい。そのため、測定用超音波Pは主に、配管30と内面付着物31の境界面と、内面付着物31接液面で反射される。配管30と内面付着物31の境界面からの反射波をP1、内面付着物31接液面からの反射波をP2と呼称する。測定用超音波Pは様々な箇所で反射されるため、反射波は複数存在する。しかし、反射波P1と反射波P2は他の箇所での反射波に比べ振幅が大きいため、識別することが可能である。
【0036】
測定用振動子21bは、測定用超音波入射ステップ42で測定用超音波Pを入射した後、その反射波を受信する。そして、受信した反射波を電気信号として、制御部23に伝達する。
【0037】
次に、算出ステップ44について説明する。算出ステップ44では、測定用振動子21bが受信した各反射波の受信時刻から、制御部23が内面付着物31の厚みを算出する。
【0038】
反射波の受信時刻の差は、内面付着物31の厚みと比例する。制御部23は、内面付着物の厚さの算出に反射波P1、P2の受信時刻の差を用いる。反射波P1の受信時刻をT1、反射波P2の受信時刻をT2とする。図3に示すように、T1−T2の時間差を測定することで、残存する内面付着物31の厚さを算出することができる。
【0039】
ここで、反射波受信ステップ43において測定用振動子21bは、洗浄用超音波やその反射波も受信し、その信号を制御部23に伝達する。しかし、洗浄用周波数と測定用周波数は異なっているため、制御部23は、測定用超音波以外の信号を排除することができる。そのため、制御部23は、測定用超音波Pの反射波と洗浄用超音波を混同することなく、内面付着物31の厚みを算出することができる。
【0040】
次に、判断ステップ45について説明する。判断ステップ45では、制御部23が、内面付着物31の厚さに応じて、洗浄を続けるか終了するかの判断を行う。内面付着物31の厚さが所定値以上と算出された場合には、洗浄不十分であるとして洗浄ステップ41に戻り、判断ステップ45までを繰り返す。内面付着物31の厚さが所定値未満と算出された場合には、洗浄用信号生成部13を停止させ、超音波洗浄を終了する。
【0041】
(効果)
以上のように本実施形態の超音波洗浄装置及び方法によれば、洗浄用周波数と測定用周波数を異なる値とすることで、キャビテーションを用いる洗浄中に内面付着物31の厚みをリアルタイムに測定することができる。そのことにより、洗浄時間を最適化することができる。原子力プラントの配管洗浄においては、洗浄作業員の放射線被ばく線量を最小限に留めることが可能である。
【0042】
なお、本実施形態における洗浄対象物は、原子力プラントの配管に限られない。洗浄対象物が内部に液体を保持しており、測定用周波数と洗浄用周波数が異なる値であればよい。そのために、制御部23には、測定用周波数と洗浄用周波数が重複しないよう制御する機能を搭載させても良い。例えば、設定ミスにより両周波数が重複した場合には、自動で測定用周波数または洗浄用周波数のどちらかを変更するような機能を搭載させても良い。また、両周波数が重複した場合に、アラームを発する機能を搭載させても良い。この場合は、アラームを認識した作業員等が手動で、どちらか一方の周波数を変更させる作業を行う。
【0043】
また、反射波の受信時刻だけでなく振幅も測定することで、より薄く残存する内面付着物31の厚さの算出が可能である。図4は、第1の実施形態における反射波の最大振幅Hの推移を示した図である。
【0044】
図4に示すように洗浄時間が長くなり、残存する内面付着物31の厚さが薄くなると、反射波の受信時刻T1とT2は近接してくる。更に内面付着物31の厚さが薄くなると、反射波P1とP2が重ねあわされた状態で受信される。この場合、受信時刻の差T1−T2の検出は難しくなる。
【0045】
一方、反射波P1とP2が重複した状態での最大振幅Hは、T1とT2が近接するほど増加する。そして、内面付着物31の厚さが0になると、測定用超音波Pは、配管30の内面でほぼすべて反射されるため、最大振幅Hは最大値となり飽和する。よって、最大振幅Hの推移を基に、内面付着物31の厚さがゼロになるまで、その厚さを算出することができる。
【0046】
また、算出ステップ44において、反射波P1とP2の受信時刻の差を測定する際、多重反射波P1’,P2’の受信時刻の差も測定することが望ましい。図5は第1の実施形態において実際に受信される反射波の模式図である。受信される反射波の実際の波形は図5に示すように、なだらかではない。そのため、正確に受信時刻の差を測定することは難しい。一回反射波の受信時刻と共に多重反射波の受信時刻を測定し、受信時刻差の平均を取ることで、より正確な反射波の受信時刻の差を得ることができる。
【0047】
また、判断ステップ45において、洗浄不十分であるとして洗浄ステップ41に戻る際に、内面付着物31の厚さに応じて洗浄用周波数を調節することが可能である。それによって、洗浄強度を調節し洗浄時間をより短縮することが可能となる。
【0048】
(第2の実施形態)
第2の実施形態の超音波洗浄装置及び方法について図6、図7を用いて説明する。本実施形態の超音波洗浄は、配管肉厚を測定して配管30の周方向の共振周波数を算出し、共振振動を用いて洗浄する。その洗浄の最中に、配管30内に残存する内面付着物31の厚さ測定を行い、厚さの測定結果に基づいて洗浄時間を調節する。
【0049】
図7は本実施形態の超音波洗浄の工程を示す図である。なお、第1の実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0050】
(構成)
以下、本実施形態における超音波洗浄装置の構成について記す。本実施形態の制御部23は、配管の規格のデータベース24a、及び、配管規格ごとに配管周方向の共振周波数を予め算出してあるデータベース24bにアクセスする手段を有する。本実施形態における超音波洗浄装置のその他の構成は、第1の実施形態と同様である。
【0051】
(方法)
以下、本実施形態の超音波洗浄に用いられている洗浄方法について説明する。
【0052】
本実施形態に用いられる超音波洗浄は、配管の共振振動を用いる洗浄である。共振振動とは、物体に共振周波数の振動を外部から加えたとき、その物体が共振し非常に大きな振動をする現象である。配管30に、その周方向の共振周波数の縦波超音波を配管肉厚方向に入射すると、配管30は周方向に大きく振動する。この振動により、内面付着物31が剥がれ落ちる。
【0053】
対象物に共振振動を起こすには、その対象物に共振周波数の振動を外部から与える必要がある。共振周波数は対象物ごとに固有な値であり、対象物のサイズや構造、材質等が分かれば算出することが可能である。
【0054】
以下、本実施形態における配管の共振周波数の特定方法について説明する。原子力プラントに用いられている配管は配管肉厚や外形等が規格化されている。配管同士の規格が同じであれば共振周波数も同じである。よって、規格に応じた共振周波数のデータベース24を作成すれば、配管の規格を同定することで、共振周波数を得ることができる。また、配管の肉厚は配管の規格ごとに決まっている。そのため、配管の肉厚を測定することで、その規格を同定し、共振周波数を容易に特定可能である。
【0055】
配管の規格は、例えば炭素鋼配管でSch40であれば、50A配管(外形60.5mm)では肉厚3.9mm、65A配管(外形76.3mm)では肉厚5.2mm、80A配管(外形89.1mm)では肉厚5.5mmである。また、外形が同じで肉厚が異なるタイプもあるが、その肉厚値は50A配管ではSch40で3.9mm、Sch60で4.9mm、Sch80で5.5mmであり、肉厚はほとんど重複しない規格となっている。
【0056】
5MHz〜10MHzの周波数を用いれば0.1mmの精度で肉厚が得られることから、得られた肉厚から規格を把握することが可能である。
【0057】
配管肉厚は、測定用振動子21bから配管30に入射された測定用超音波Pの入射時刻Tと、反射波P1の受信時刻T1の時差から算出することが可能である。
【0058】
以下、図6を用いて本実施例の超音波洗浄について説明する。
【0059】
まず、肉厚測定用超音波入射ステップ51について説明する。肉厚測定用超音波入射ステップ51では、肉厚を求めるために、測定用振動子21bが測定用超音波Pを配管30に入射する。このステップは、洗浄の最中ではないので、測定用周波数は洗浄用周波数と重複してもよい。しかし、高精度で肉厚を求めるために、測定用周波数帯は5MHz〜10MHzであることが望ましい。
【0060】
次に、肉厚測定用反射波受信ステップ52について説明する。肉厚測定用反射波受信ステップ52では、測定用超音波Pの配管30内面からの反射波P1を測定用振動子21bで受信する。受信した反射波は電気信号として、測定用増幅器22を経由して制御部23に伝達される。
【0061】
次に、肉厚算出ステップ53について説明する。肉厚算出ステップ53では、測定用超音波Pの入射時刻Tと、反射波P1の受信時刻T1の時間差T1−Tを基に、制御部23で配管肉厚を算出する。
【0062】
次に、共振周波数特定ステップ54について説明する。共振周波数特定ステップ54では、制御部23において、配管31の共振周波数特定をする。制御部23は、配管の規格のデータベース24aにアクセスする。そして、肉厚算出ステップ53で算出された配管30の肉厚を基に、配管30の規格を同定する。さらに、制御部23は、配管規格ごとに配管周方向の共振周波数を予め算出してあるデータベース24bにアクセスする。同定された配管30の規格をもとに、配管30の共振周波数を特定する。
【0063】
次に、共振振動洗浄ステップ60について説明する。共振振動洗浄ステップ60では、配管30に共振周波数特定ステップ54で特定された共振周波数の超音波を入射して、配管30を共振振動させ、内面付着物31を内面から剥離させる。
【0064】
制御部23は、共振周波数特定ステップ54で特定された共振周波数を、洗浄用信号生成部13に送信する。洗浄用信号生成部13は配管30の共振周波数の信号を生成し、洗浄用信号増幅部12に伝達する。洗浄用信号増幅部12はその信号を増幅して、洗浄用振動子11bに伝達する。洗浄用振動子11bは洗浄用信号増幅部12からの信号を超音波振動に変換し、配管30の周方向の共振周波数の縦波の洗浄用超音波を、配管30の肉厚方向に入射する。そして配管全体を周方向に共振振動させ、内面付着物31を内面から剥がれ落とす。
【0065】
原子力プラントの配管の共振周波数は、第1の実施例に示した洗浄用周波数帯と同程度であり、測定用超音波周波数とは重複しない。
【0066】
測定用超音波入射ステップ42以降は第1の実施例と同様である。
(効果)
以上のように本実施形態の超音波洗浄装置及び方法によれば、洗浄用周波数帯と測定用周波数帯が異なっているため、共振振動を用いる洗浄中に内面付着物31の洗浄進度をリアルタイムに測定することができ、よって、洗浄時間を最適化することができる。そのことにより、原子力プラントの配管洗浄においては、洗浄作業員の放射線被ばく線量の低減を最小限に留めることが可能である。また、配管の共振振動による洗浄では、配管が径方向に振動するため、キャビテーション洗浄よりも広い範囲の洗浄が可能である。
【0067】
また、本実施形態の共振振動洗浄ステップ60において、洗浄用超音波は共振周波数を中心としてスイープさせてもよい。共振振動している配管は、その部分の横断面において、閉曲線上の定在波のように振動している。そのため、配管にはその横断面上で、全く振動せず振幅が0になる部分、および振幅が最大になり大きく振動する部分が生じる。振幅が0に近い部分では、洗浄効果が表れにくい。洗浄用超音波を共振振動周波数からずらすと、共振振動ではなくなり、定在波でなくなる。つまり、振幅が常に0になる部分消えるので、洗浄ムラを少なくすることができる。
【0068】
また、制御部23は、データベース24bを用いることに代えて、共振周波数の算出を可能にする演算器を搭載させた構成としても良い。また、配管規格の同定と共振周波数の特定は、算出された配管厚を基に、手動で配管厚みと配管規格の対応表及び配管規格と共振周波数の対応表をから特定させても良い。また、算出された肉厚と特定された規格を基に、直接共振周波数を算出しても良い。
【0069】
(第3の実施形態)
第3の実施形態の超音波洗浄装置及び方法について説明する。第3の実施形態の超音波洗浄は、配管の共振周波数の超音波振動によるキャビテーションを用いる洗浄中に、残存する内面付着物31の厚さ測定を行い、厚さ測定の結果にしたがって洗浄時間を調節する。
【0070】
なお、第1及び第2の実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0071】
(方法)
以下、本実施形態の超音波洗浄に用いられている洗浄方法と厚さ測定方法について説明する。
【0072】
本実施形態に用いられる超音波洗浄は、配管の共振周波数の超音波振動によるキャビテーションを用いる洗浄である。第2の実施形態の共振振動洗浄ステップ60において、配管30に入射する超音波を配管30の共振周波数として、その振幅をキャビテーションが発生する閾値以上とする。
【0073】
キャビテーションを発生させるには振動の振幅を閾値以上にしなければならない。この閾値は超音波の周波数と液体中の溶存気体に大きく依存するが、発生条件は公知文献(超精密洗浄技術−実態と課題−,p79、シーエムシー(1992))等で述べられている。洗浄対象物の内部が飽和水で満たされているとすると、超音波振動子11bで発生させる超音波周波数が10kHzであれば強度1W/cm以上、100kHzであれば強度3W/cm以上、1MHzであれば強度100W/cm以上とすればキャビテーションが発生する。
【0074】
周波数を共振周波数とし、その振幅をキャビテーションの発生に必要な閾値以上とすれば、配管を共振振動させることができ、かつ、配管の振動振幅がキャビテーションの閾値以上の部分では、キャビテーション洗浄を行うことが可能である。
【0075】
超音波洗浄の工程を構成するその他のステップについては、第2の実施形態と同様である。
【0076】
(効果)
以上のように、本実施形態の超音波洗浄装置及び方法によれば、キャビテーション洗浄と共振振動による洗浄を同時にすることにより、より強力で広範囲な洗浄が可能となる。しかし、複数の洗浄方法を同時に行うことにより、洗浄時間の予測が難しい洗浄となっている。
【0077】
本実施形態では、測定用超音波による内面付着物の厚さのリアルタイムな測定が可能である。よって、洗浄時間を最適化することができる。そのことにより、原子力プラントの配管洗浄においては、洗浄作業員の放射線被ばく線量の低減を最小限に留めることが可能である。
【0078】
(第4の実施形態)
第4の実施形態の超音波洗浄装置及び方法について図7を用いて説明する。本実施形態の超音波洗浄装置、及び洗浄方法は、収束ホーン11aと接触シュー21aが一つの固定具で一緒に配管30に固定されている。この構成により、洗浄用振動子部10及び測定用振動子部20の配管30への接触具合の把握が容易になる。第1及び第2の実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0079】
図7は本実施形態の超音波洗浄装置を示す模式図である。
【0080】
(構成)
本実施形態における洗浄装置の構成は、図8に示すように、収束ホーン11aと接触シュー21aが固定具としてのクランプ71に溶接されて固定されている。収束ホーン11aと接触シュー21aの配管30に接触する面をそれぞれ接触面72と接触面73と呼称する。触面72及び接触面73は、配管30の側面に沿うような曲面となっている。クランプ71が配管30に取り付けられたとき、接触面72及び接触面73が配管30に密着する角度で、収束ホーン11aと接触シュー21aはクランプ71に固定されている。クランプ71は配管30の洗浄を行う部分に取り付けられている。このクランプ上の、収束ホーン11aと接触シュー21aに、洗浄用振動子11bと測定用振動子21bがそれぞれはめ込まれることで、洗浄用振動子部10及び測定用振動子部20が配管30に取り付けられる。
【0081】
(方法)
以下、本実施形態による洗浄方法について説明する。
【0082】
第1の実施形態の洗浄ステップ41を始める前、もしくは第2の実施形態の共振周波数算出ステップ50の前に、密着性確認ステップを行う。
【0083】
密着性確認ステップでは、まず、測定用振動子21bからパルス状の測定用超音波Pを配管30に入射し、その反射波P1及びP2を受信する。反射波P1とP2の振幅の合計と、測定用超音波Pの振幅を比較する。測定用超音波Pの振幅に対する反射波P1とP2の振幅の合計の割合を反射率rとする。また、実験や経験的に密着性を保証できる最小の保証反射率Rを設定しておく。反射率rが保証反射率R以上ならば、接触シュー21aは配管30に十分密着しており、接触シュー21aと一緒にクランプ71で取り付けられている収束ホーン11aも配管30に十分密着されていると判断される。
【0084】
一方、反射率rが、保証反射率Rよりも小さければ、接触シュー21aは配管に十分密着されておらず、接触シュー21aと一緒にクランプ71で取り付けられている収束ホーン11aも配管30に十分密着されていないと判断される。
【0085】
(効果)
収束ホーン11aと接触シュー21aが一緒にクランプ71で配管30に固定されている。そのため、接触シュー21aと配管30の密着性を確認することで、収束ホーン11aと配管30の密着性も同様であると判断することができる。
【0086】
密着性を確認するために、例えば、実際に洗浄を行い付着物の洗浄具合から密着性を確認し、洗浄用振動子部10の取り付けをやり直す、という方法が考えられる。しかし、本実施例によれば上記のような煩雑なことをせずにすむ。よって、洗浄時間をより短くすることができる。そのことにより、原子力プラントの配管洗浄においては、洗浄作業員の放射線被ばく線量を最小限に留めることが可能である。
【0087】
また、密着性を確認したうえで、収束ホーン11aと接触シュー21aを予め配管30に直接溶接させても良い。密着性が保証された収束ホーン11aと接触シュー21aを配管30に複数取り付けておき、洗浄したい部分の収束ホーン11aと接触シュー21aに適宜振動子を取り付ける。予め密着性が保証されているので、密着性の確認等を行う時間を短縮することができる。
【0088】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0089】
例えば、いずれの実施形態においても洗浄用振動子10と測定用振動子部20は少なくとも1つ以上であればよく、複数あっても良い。
【0090】
また、いずれの実施形態も原子力プラントに限られたものではない。例えば、食品の加工工場といった各種工場の配管や、水道管などにも応用することが可能である。
【符号の説明】
【0091】
10 ・・・ 洗浄用振動子部
11a・・・ 収束ホーン
11b・・・ 洗浄用振動子
12 ・・・ 洗浄用信号増幅部
13 ・・・ 洗浄用信号生成部
20 ・・・ 測定用振動子部
21a・・・ 接触シュー
21b・・・ 測定用振動子
22 ・・・ 測定用増幅部
23 ・・・ 制御部
24 ・・・ 配管規格のデータベース
24b・・・ 共振周波数のデータベース
30 ・・・ 配管(クレーム:構造体)
31 ・・・ 内面付着物
32 ・・・ 配管内の水
P ・・・ 測定用超音波
P1・・・ 配管30と内面付着物31の境界面からの1回反射の反射波
P2・・・ 内面付着物31と水の境界面からの1回反射の反射波
P1´・・・ 配管30と内面付着物31の境界面からの2回反射の反射波
P2´・・・ 内面付着物31と水の境界面からの2回反射の反射波
H ・・・ 反射波の振幅
41 ・・・ 洗浄ステップ
42 ・・・測定用超音波入射ステップ
43 ・・・反射波受信ステップ
44 ・・・算出ステップ
45 ・・・判断ステップ
46 ・・・洗浄終了
50 ・・・共振周波数算出ステップ
51 ・・・肉厚測定用超音波入射ステップ
52 ・・・肉厚測定用反射波受信ステップ
53 ・・・肉厚算出ステップ
54 ・・・共振周波数特定ステップ
60 ・・・共振振動洗浄ステップ
71 ・・・クランプ
72 ・・・収束ホーン11aが配管30に接触する面
73 ・・・接触シュー21aが配管30に接触する面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体の内部に付着した内面付着物を、超音波を用いて除去する超音波洗浄方法であって、
前記構造体の外面に取り付けられた洗浄用振動子部から、所定周波数の洗浄用超音波が前記構造体に入射される洗浄ステップと、
前記構造体外面に取り付けられた測定用送信振動子部から、前記洗浄用超音波と異なる周波数の測定用超音波が前記構造体に入射される測定用超音波入射ステップと、
前期構造体各部からの前記測定用超音波の反射波が、前記構造体外面に取り付けられた測定用受信振動子部で受信される反射波受信ステップと、
前記反射波受信ステップで得られた反射波の受信信号を基に、制御部で前記内面付着物の厚みが算出される算出ステップと、
を備える超音波洗浄方法。
【請求項2】
前記測定用送信振動子部から前記構造体に入射された超音波の入射時刻と、前記測定用受信振動子部で受信される、前記超音波の前記内面での反射波の受信時刻の時間差を基に、前記構造体の共振周波数を特定する、共振周波数算出ステップと、
をさらに有する請求項1に記載の超音波洗浄方法。
【請求項3】
前記洗浄ステップにおいて、前記洗浄用超音波の周波数が前記共振周波数の近傍をスイープする請求項2に記載の超音波洗浄方法。
【請求項4】
前記測定用送信振動子部から前記構造体に入射された超音波の振幅に対する、前記構造体内面からの反射波の振幅の割合を基に、前記測定用送信振動子部及び前記測定用受信振動子部と一緒に同一の固定具で面に取り付けられている前記洗浄用振動子部の、前記構造体に対する密着性を判断する手段と、を更に備えた請求項1乃至請求項3に記載のいずれかの超音波洗浄方法。
【請求項5】
構造体の外面に設置され、前記構造体の肉厚方向に、所定周波数の洗浄用超音波を入射する洗浄用振動子と、
前記構造体の外面に設置され、前記構造体の肉厚方向に、前記洗浄用超音波と異なる周波数で測定用超音波を入射する測定用送信振動子と、
前記構造体の内面及び内面に付着した内面付着物の前記液体と接している面からの前記測定用超音波の反射波を受信する測定用受信振動子と、
前記測定用受信振動子で得られる前記構造体の内面及び前記内面付着物からの前記測定用超音波の反射波の受信信号に基づいて、前記内面付着物の厚みを算出する、制御部と、
を備える超音波洗浄装置。
【請求項6】
前記洗浄用振動子部が、前記測定用送信振動子部及び前記測定用受信振動子と一緒に同一の固定具で前記構造体の外面に取り付けられている請求項5に記載の超音波洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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