説明

超高圧水銀ランプ

【課題】従来のファン電圧より50%以上低い値でファンを駆動してランプを冷却しても、従来と同等の特性(寿命及び明るさ)を有する超高圧水銀ランプを提供する。
【解決手段】この発明に係る超高圧水銀ランプは、石英バルブ内に一対の電極システムを封止した発光管が反射鏡の内部に収納されるとともに、発光管の発光部の中心が反射鏡の焦点に略一致するように固定される超高圧水銀ランプにおいて、超高圧水銀ランプの出力は300W以上であり、石英バルブは、発光部付近の石英バルブ肉厚が3.5mm程度、且つ発光部中心付近の内径が5.2mm程度であり、電極システムを構成するコイルは、コイル径が1.75mm程度であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プロジェクタ装置の光源に使用される超高圧水銀ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
現状、超高圧水銀ランプ(以下、ランプとも呼ぶ)はプロジェクタ装置に使用される場合、ファンによりランプが冷却される。特に出力の高い高ワットタイプ(300W以上)では、ランプを冷却するために、例えば、1台又は複数台のファンを使用して、点灯中のランプを所定の温度で動作させている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−72170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ファン騒音やエコブームの関係上、ファンを駆動する電圧を極力低い値で使用したいという強い要望がある。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、従来のファン電圧より50%以上低い値でファンを駆動してランプを冷却しても、従来と同等の特性(寿命及び明るさ)を有する超高圧水銀ランプを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る超高圧水銀ランプは、石英バルブ内に一対の電極システムを封止した発光管が反射鏡の内部に収納されるとともに、発光管の発光部の中心が反射鏡の焦点に略一致するように固定される超高圧水銀ランプにおいて、
超高圧水銀ランプの出力は300W以上であり、
石英バルブは、
発光部付近の石英バルブ肉厚が3.5mm程度、且つ発光部中心付近の内径が5.2 mm程度であり、
電極システムを構成するコイルは、
コイル径が1.75mm程度であることを特徴とする。
【0007】
この発明に係る超高圧水銀ランプは、出力が330Wであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明に係る超高圧水銀ランプは、超高圧水銀ランプの出力は300W以上であり、石英バルブは、発光部付近の石英バルブ肉厚が3.5mm程度、且つ発光部中心付近の内径が5.2mm程度であり、電極システムを構成するコイルは、コイル径が1.75mm程度という構成にしたので、従来のファン電圧より50%以上低い値でファンを駆動してランプを冷却しても、従来と同等の特性(寿命及び明るさ)を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施の形態1を示す図で、超高圧水銀ランプ100の一部を破断した側面図。
【図2】実施の形態1を示す図で、発光管2の断面図。
【図3】図2のA部拡大図。
【図4】実施の形態1を示す図で、電極システム24aの構成図。
【図5】実施の形態1を示す図で、電極システム24bの構成図。
【図6】実施の形態1を示す図で、製造過程における初期の電極21aの構成を示す図。
【図7】実施の形態1を示す図で、電極21aの先端を溶解してメルト電極21a−3を形成した図。
【図8】実施の形態1を示す図で、ランプを点灯させて電極21aに電極先端部12dを形成した図。
【図9】実施の形態1を示す図で、実施例と比較例との石英バルブ肉厚及びコイル径の測定結果を示す図。
【図10】実施の形態1を示す図で、実施例と比較例とのファン電圧6Vでの石英バルブ上部温度の測定結果を示す図。
【図11】実施の形態1を示す図で、ファン電圧を変化したときの実施例と比較例との石英バルブ上部温度の測定結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
本実施の形態は、発光管2に特徴があるが、先ず超高圧水銀ランプ100(以下、ランプと呼ぶ場合もある)の全体構成について説明する。
【0011】
図1乃至図8は実施の形態1を示す図で、図1は超高圧水銀ランプ100の一部を破断した側面図、図2は発光管2の断面図、図3は図2のA部拡大図、図4は電極システム24aの構成図、図5は電極システム24bの構成図、図6は製造過程における初期の電極21aの構成を示す図、図7は電極21aの先端を溶解してメルト電極21a−3を形成した図、図8はランプを点灯させて電極21aに電極先端部12dを形成した図である。
【0012】
図1に示すように、超高圧水銀ランプ100(以下、単にランプと呼ぶ場合もある)は、反射鏡3(図1の例は、放物型)の内部に発光管2が収納される。発光管2は、反射鏡3のネック部3bにセメント18により固定される。発光管2の中心軸2aが、反射鏡3の開口部3aとネック部3bを結ぶ中心軸に一致し、発光部11の中心が反射鏡3の焦点となる状態で固定される。
【0013】
発光管2については後述するが、発光管2は、一対の電極システム24a,24bを備える。ここでは、電極システム24aが反射鏡3の開口部3a側に設けられ、電極システム24bが反射鏡3のネック部3b側に設けられる。
【0014】
電極システム24aの電極21aに接続するリード線23aが、発光管2の前面側端面(反射鏡3の開口部3a側)から引き出される。リード線23aは、反射鏡3の外周面に固定された第1の端子15aに接続される。
【0015】
また、発光管2の電極システム24bの電極21bに接続するリード線23bが、発光管2の背面側端面(反射鏡3のネック部3b側)から引き出される。リード線23bは、反射鏡3の外周面に固定された第2の端子15bに接続される。
【0016】
石英バルブ20のモリブデン箔22aの周囲を覆う部分に、トリガーコイル17が巻かれる。トリガーコイル17は、第2の端子15bに接続する。
【0017】
反射鏡3の前面の開口部3aに、透光性の前面ガラス19が取り付けられる。
【0018】
発光管2の発光部11の中心が、球面、楕円面、放物面等の碗状の反射鏡3の焦点に位置する。放射された光は、反射鏡3の内面に施された反射膜によって反射され、ランプ前方に放射される。放射された光はランプ前方に設けられ光学系に入射する。
【0019】
図2により、発光管2の構成を説明する。発光管2は、一対の電極システム24aと電極システム24bとが石英バルブ20内に配置される。
【0020】
電極システム24aは、電極21a、箔22a、リード線23aを備える(図4も参照)。同様に、電極システム24bは、電極21b、箔22b、リード線23bを備える(図5も参照)。発光管2内には、水銀40と希ガス(例えば、アルゴン)が封入される。そして、発光管2の両端部は、石英バルブ20を加熱・溶融することで封止られ、封止部25a、封止部25bが形成される。
【0021】
点灯中の発光管2は、発光部11の温度が他の部分よりも最も高温になる。例えば、発光部11の石英バルブ20の外表面の頂部20aにおける温度は、例えばファン冷却によって900〜950℃になる。この頂部20aから、石英バルブ20端部に向かって徐々に温度が低下する。
【0022】
プロジェクタ装置において、従来のファン電圧より50%以上低い値でファンを駆動してランプを冷却しても、従来と同等の特性(寿命及び明るさ)を有する超高圧水銀ランプを提供することが、本発明の目的である。そのためには、点灯中の発光管2において、他の部分よりも最も高温になる発光部11の温度を従来よりも下げることが要求される。
【0023】
ここでは、一例として、出力が330W(ワット)の超高圧水銀ランプ100について、石英バルブ肉厚T(図3参照)とコイル径D(図8参照)に着目し、これらと発光部11の温度(頂部20aにおける温度で代用する)との関係について調査した。
【0024】
図3に示すように、石英バルブ20(頂部20a付近、発光部11の中心付近)の石英バルブ肉厚をTとする。
【0025】
電極21a、電極21bの構成について説明する。電極21a、電極21bの基本的な構成は同じであるので、電極21aを例に説明する。
【0026】
図6に示すように、電極21aは、先ず芯線21a−1の一方の端部(電極21bと対向する側)にコイル21a−2を所定線径、所定巻数で巻く。コイル21a−2の所定線径、所定巻数は、ランプのワット数によって変わる。
【0027】
図6に示す電極21aは、例えば、330Wワットのランプに使用されるものである。ワット数が増えると、コイル21a−2の所定線径、所定巻数は増加する。
【0028】
芯線21a−1の材料は、タングステンである。また、芯線21a−1の直径(d1f)は、0.5mm程度である。
【0029】
コイル21a−2の材料も、タングステンである。また、コイル21a−2の線径(d2f)は、0.25〜0.3mm程度である。
【0030】
電極21a(電極21bも同じ)は、図6の形状のままでは、ランプでの放電が安定しないため、電極21bに対向する部分を滑らか曲面にする。電極21aの先端に、曲面形状のメルト電極21a−3を形成する(図7参照)。
【0031】
メルト電極21a−3は、電極21aにタングステンが溶解する程度の電流を流すことで形成される。タングステンの融点は、約3407℃である。
【0032】
このメルト電極21a−3の形成は、電極21aを発光管2に組み込む前に行う場合と、電極21aを発光管2に組み込んだ後に行う場合とがある。どちらでもよい。
【0033】
さらに、ランプ完成後に、エージング(ランプを点灯させる)を行うと、電極21a(電極21bも同じ)のメルト電極21a−3の先端に、メルト電極21a−3に比べると小さい電極先端部21a−4が形成される(図8参照)。
【0034】
電極先端部21a−4のサイズは、例えば、軸方向長さ、最大径ともに約0.1〜0.2mm程度である。
【0035】
図8に示すように、コイル21a−2のコイル径(外径)をDとする。
【0036】
試験に用いた330Wのランプの実施例と比較例の仕様(設計値)は、以下のとおりである。尚、実施例と比較例の石英バルブ20の内径(発光部11の略中心における内径)は、同一とした。一例では、石英バルブ20の内径(発光部11の略中心における内径)は、5.2mmである。
(1)実施例:コイル径D=1.75mm、石英バルブ肉厚T=3.5mm;
(2)比較例:コイル径D=1.9mm、石英バルブ肉厚T=3.0mm。
【0037】
上記の仕様の実施例と比較例の330Wのランプを試作して、夫々のコイル径Dと、石英バルブ肉厚Tとを実測したところ、図9に示すような結果が得られた。
【0038】
図9は実施の形態1を示す図で、実施例と比較例との石英バルブ肉厚及びコイル径の測定結果を示す図である。図9に示すように、実施例と比較例との石英バルブ肉厚及びコイル径は、バラツキがあり、夫々以下に示す範囲にあった。
(1)実施例:コイル径D=1.7〜1.82mm(設計値1.75mm)、石英バルブ肉厚T=3.4〜3.6mm(設計値3.5mm);
(2)比較例:コイル径D=1.8〜1.92mm(設計値1.9mm)、石英バルブ肉厚T=2.85〜3.14mm(設計値3.0mm)。
【0039】
実施例と比較例の330Wのランプを、プロジェクタ装置に組み込み、夫々の発光管2の石英バルブ上部(石英バルブ20の外表面の頂部20a付近)の温度(点灯中)を、非接触温度センサ(赤外線温度センサ)を用いて測定した。その結果を図10に示す。
【0040】
図10は実施の形態1を示す図で、実施例と比較例とのファン電圧6Vでの石英バルブ上部温度の測定結果を示す図である。実施例と比較例とも、プロジェクタ装置におけるランプ冷却用のファンのファン電圧は6V(ボルト)とした。
【0041】
図10に示すように、比較例の石英バルブ上部温度は940℃弱、実施例の石英バルブ上部温度は約850℃であり、約90℃、実施例は比較例よりも石英バルブ上部温度が低下した。
【0042】
このように、比較例に対して実施例の石英バルブ上部温度が低下した要因は、以下にように考えられる。
(1)実施例の石英バルブ肉厚T(3.5mm)が、比較例の石英バルブ肉厚T(3.0mm)より厚い。石英バルブ20の内径(発光部11の略中心における内径)は同じであるから、実施例は比較例よりも石英バルブ20の外径が大きく、実施例の外表面の面積は、比較例のそれよりも大きい。従って、実施例の方が比較例よりも、放熱面積が大きい。
(2)実施例のコイル径D(1.75mm)が、比較例のコイル径D(1.9mm)より小さい。石英バルブ20の内径(発光部11の略中心における内径)は同じであるから、実施例のコイル(コイル21a−2,21b−2(図示せず))と石英バルブ20との距離は、比較例のコイルと石英バルブとの距離との距離より長くなる。
【0043】
図11は実施の形態1を示す図で、ファン電圧を変化したときの実施例と比較例との石英バルブ上部温度の測定結果を示す図である。プロジェクタ装置におけるランプ冷却用のファンのファン電圧を変化させると、図11に示すように、実施例と比較例との石英バルブ上部温度は、ファン電圧の低下とともに略直線的に上昇する。実施例の石英バルブ上部温度は、ファン電圧が6Vの1/2の3Vになっても、約900℃であり、比較例のファン電圧6Vの石英バルブ上部温度(940℃弱)よりも未だ低い。このように、実施例のランプは、比較例のランプに対して、50%以上低いファン電圧で冷却しても、石英バルブ上部温度が比較例のそれよりも低いので、比較例と同等以上の特性(明るさ及び寿命)が得られる。
【0044】
石英バルブ20は、高温(例えば、950℃)になると、石英が再結晶して、「失透現象」が起こる。失透現象とは石英バルブ20が透明性を失い白濁化する事で、劣化し破損の原因となる。
【0045】
また、石英バルブ20は、低温(例えば、750℃)になると、ハロゲンサイクルが機能しなくなり、黒化等の異常が起こる。
【0046】
タングステン(電極)は、通電されると高温になり、タングステンが昇華する。昇華したタングステンは、比較的に低温部である石英バルブの内壁面領域に移動し、ハロゲンと化合し、ハロゲン化タングステンを形成する。ハロゲン化タングステンの蒸気圧は比較的高いことから、ガスの状態で再び電極部付近に戻る。電極近傍で高温に加熱されると、ハロゲン化タングステンはハロゲンとタングステンに分離し、タングステンは電極に戻り、自由になったハロゲンは再び同じ反応を繰り返す。これをハロゲンサイクルと呼ぶ。
【0047】
従って、石英バルブ20の温度は、「失透現象」が起こることなく、且つハロゲンサイクルが機能する温度帯で使用するのが好ましい。
【0048】
以上のように、本実施の形態の超高圧水銀ランプ100は、以下に示す構成により、プロジェクタ装置において、従来のファン電圧より50%以上低い値でファンを駆動してランプを冷却しても、従来と同等の特性(寿命及び明るさ)を有する超高圧水銀ランプ100を提供することができる。
(1)300W以上の超高圧水銀ランプ100であり、一例では、330Wである;
(2)発光管2を構成する石英バルブ20の石英バルブ肉厚Tを3.5mm程度とする(但し、石英バルブ20の内径(発光部11の略中心における内径)は、5.2mm);
(3)発光管2を構成する電極21a、21bのコイル径Dを1.75mm程度とする。
【符号の説明】
【0049】
2 発光管、2a 中心軸、3 反射鏡、3a 開口部、3b ネック部、11 発光部、15a 第1の端子、15b 第2の端子、17 トリガーコイル、18 セメント、19 前面ガラス、20 石英バルブ、21a 電極、21a−1 芯線、21a−2 コイル、21a−3 メルト電極、21a−4 電極先端部、21b 電極、21b−2 コイル、22a 箔、22b 箔、23a リード線、23b リード線、24a 電極システム、24b 電極システム、25a 封止部、25b 封止部、40 水銀、100 超高圧水銀ランプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英バルブ内に一対の電極システムを封止した発光管が反射鏡の内部に収納されるとともに、前記発光管の発光部の中心が前記反射鏡の焦点に略一致するように固定され、プロジェクタ装置に組み込まれてファンにて冷却される超高圧水銀ランプにおいて、
当該超高圧水銀ランプの出力は300W以上であり、
前記石英バルブは、
前記発光部付近の石英バルブ肉厚が3.5mm程度、且つ前記発光部中心付近の内径が5.2mm程度であり、
前記電極システムを構成するコイルは、
コイル径が1.75mm程度であることを特徴とする超高圧水銀ランプ。
【請求項2】
当該超高圧水銀ランプの出力は330Wであることを特徴とする請求項1記載の超高圧水銀ランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−228037(P2011−228037A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94827(P2010−94827)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(591015625)オスラム・メルコ株式会社 (123)
【Fターム(参考)】