説明

車両のシートバックロック構造

【課題】部品点数を増加させることなく、車両後突時等のシート全体の持ち上がりに起因したシートバックの倒れを防止する。
【解決手段】ロックアーム12を回転自在に支持するロック保持ブラケットには、シートバックが起立位置に設定された状態で、係止ピン部31の下方まで延びる延長部18が形成されている。延長部18は、ロックアーム12のロック溝21に係合した係止ピン部31に対してロック保持ブラケットが上方へ移動したときに、係止ピン部31に下方から係合して係止ピン部31のロック溝21からの離脱を阻止する係合凹部26を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のシートバックロック構造に関し、特に起立位置から傾倒可能なシートバックを起立位置で車体側にロックするシートバックロック構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車幅方向外側に開放するストライカと、車幅方向に延びる回動軸回りに回動してストライカに係止するロックプレートとを備えたロック装置が記載されている。この装置では、ロックプレートのフック部におけるストライカよりも下方に突出した先端部の車幅方向外側位置に、シートバックのフレーム材に形成されたベース部材に固着されたプロテクタの一部が対向配置されている。これにより、車両後突時にストライカが車幅方向外側に移動してフック部を車幅方向外側へ押圧するような状況でもプロテクタがフック部の先端部の移動を阻止し、ロック状態の解除が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−206486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の衝突の態様は多様であり、車両後突時の車体変形によってシート全体が上方へ持ち上がり、ストライカに対してロックプレートが上方へ移動する場合がある。
【0005】
しかし、特許文献1のプロテクタは、ストライカの車幅方向外側への移動を規制するものであるため、車両後突時の車体変形に起因してシート全体が上方へ持ち上がり、ストライカに対してロックプレートが上方へ移動した場合、ストライカに対するロックプレートの上方への移動がプロテクタによって阻止されず、ストライカがロック装置から外れ、シートバックが倒れてしまう可能性がある。
【0006】
また、プロテクタを別部品として設けているため、部品点数が増加し、工数の増加やコストの上昇を招く。
【0007】
そこで、本発明は、部品点数を増加させることなく、車両後突時等のシート全体の持ち上がりに起因したシートバックの倒れを防止することが可能な車両のシートバックロック構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、本発明は、起立位置から傾倒可能なシートバックを前記起立位置で車体側にロックする車両のシートバックロック構造であって、ストライカとロック保持ブラケットとロックアームとを備える。ストライカは、係止部を有し、車体側に固定される。ロック保持ブラケットは、シートバックに対して固定される。
【0009】
ロックアームは、ロック溝を有し、ロック位置とロック解除位置とを含む範囲で回転可能にロック保持ブラケットに支持される。シートバックが起立位置に設定された状態で、ロック位置のロック溝は、係止部に上方から係合してシートバックの傾倒を規制し、ロック解除位置のロック溝は、係止部の上方に外れて係止部との係合を解除する。
【0010】
ロック保持ブラケットには、シートバックが起立位置に設定された状態で、係止部の下方まで延びる延長部が形成されている。延長部は、ロック溝に係合した係止部に対してロック保持ブラケットが上方へ移動したときに、係止部に下方から係合して係止部のロック溝からの離脱を阻止する係合凹部を有する。
【0011】
上記構成では、車両後突時等の車体変形によってシート全体が上方へ持ち上がり、ロック溝に係合した係止部に対してロック保持ブラケットが上方へ移動すると、係合凹部が係止部に下方から係合して係止部のロック溝からの離脱を阻止する。すなわち、係止部のロック溝からの離脱は、ロック溝と係合凹部とによって阻止される。従って、シートバックを車体変形に追従させることができ、シートバックの倒れを防止することができる。
【0012】
また、延長部がロック保持ブラケットに形成されているので、部品点数が増加せず、工数の増加やコストの上昇を抑えることができる。
【0013】
また、ロック支持ブラケットは、相対向して離間する1対のロックアーム支持プレートを有してもよい。ロックアームは、1対のロックアーム支持プレートの間でロックアーム支持ブラケットに回転自在に支持される。延長部は、1対のロックアーム支持プレートにそれぞれ設けられている。
【0014】
上記構成では、車両後突時等の車体変形によってシート全体が上方へ持ち上がり、ロック溝に係合した係止部に対してロック保持ブラケットが上方へ移動すると、ロック溝を有するロックアームの両側でロックアーム支持プレートの係合凹部が係止部に下方からそれぞれ係合する。従って、係止部のロック溝からの離脱を、ロック溝と1対の係合凹部とによって確実に阻止することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のシートバックロック構造によれば、部品点数を増加させることなく、車両後突時等のシート全体の持ち上がりに起因したシートバックの起立位置からの傾倒を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るシートバックロック構造が適用される車両のリヤシートを示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るシートバックロック構造のロック状態を示す側面図である。
【図3】図2のシートバックロック構造をストライカを省略して示す斜視図である。
【図4】図2のストライカを示す斜視図である。
【図5】図2のシートバックロック構造のロック解除状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、図中FRは車両前方を、UPは車両上方を、INは車幅方向内側をそれぞれ示している。また、以下の説明で使用する左右は、車両前方を向いた状態での左右を意味する。
【0018】
図1に示すように、リヤシート1は、シートクッション2とシートバック3と座側フレーム4と背側フレーム5とを備え、着座した乗員が車両前方を向くように車室内の後部に配置されている。シートクッション2は座側フレーム4に支持され、シートバック3は背側フレーム5に支持される。座側フレーム4の後端部4aは、車室の床面7に固定されたシート支持ブラケット6に結合され、シート支持ブラケット6によって下方から支持される。背側フレーム5の基端部5aは、シート支持ブラケット6に回転自在に連結される。背側フレーム5(シートバック3)の回転範囲は、リヤシート1に乗員が着座する際に設定される起立位置と、起立位置から前下方(図1中の矢印方向)へ倒れた傾倒位置であり、起立位置よりも後方への回転は、ストッパ(図示省略)によって規制される。すなわち、シートバック3は、起立位置から前方へ傾倒可能である。
【0019】
背側フレーム5の上フレーム部5bの左右両側には、それぞれシートバックロック装置10が設けられ、車体側(例えば、車体パネル等)の左右の所定位置には、それぞれストライカ30(図4参照)が固定されている。左右のストライカ30は、起立位置の背側フレーム5の左右のシートバックロック装置10の後方にそれぞれ配置されている。各ストライカ30は、U状に折れ曲がった円柱状棒体であり、U状の底部に係止ピン部(係止部)31を有する。係止ピン部31は、車幅方向に沿って直線状に延びる。ストライカ30は、係止ピン部31の左右両端を開放せずに閉じた状態で車体側に固定されている。なお、左右のシートバックロック装置10及びストライカ30は同様の構成であるため、特に記載しない限り両者を区別せずに説明する。
【0020】
図2〜図5に示すように、シートバックロック装置10は、ロック保持ブラケット11とロックアーム12とコイルバネ13とを備える。
【0021】
ロック保持ブラケット11は、背側フレーム5の上フレーム部5bに結合されて固定される上端の取付部14と、取付部14から左右に離間した状態で相対向して下方へ延びる1対のロックアーム支持プレート15と、左右のロックアーム支持プレート15の前端縁同士を連結する連結プレート16とを一体的に有する。すなわち、ロック保持ブラケット11は、シートバック3に対して固定される。連結プレート16の下端部は、ロックアーム12の後述する突部23と当接してロックアーム12の回転範囲を規制するストッパ部17として機能する。
【0022】
左右のロックアーム支持プレート15は、その下端からそれぞれ延びる延長部18を一体的に有する。ロックアーム支持プレート15は、シートバック3が起立位置に設定された状態(シートバック起立状態)で、ストライカ30の係止ピン部31に車両前方から対峙する。
【0023】
ロックアーム12は、板体であり、左右のロックアーム支持プレート15の間に配置される。ロックアーム12の車両前側のアーム前部19には、回転軸挿通孔(図示省略)が形成され、車両後側のアーム後部20には、下方へ開口するロック溝21が形成されている。回転軸挿通孔には、左右のロックアーム支持プレート15を連結する回転軸22が挿通する。回転軸22は、係止ピン部31と略平行に車幅方向に沿って直線状に延び、ロックアーム12は、ロックアーム支持プレート15によって回転軸22を中心として回転自在に支持される。アーム前部19には車両前方へ突出する突部23が形成され、アーム後部20にはケーブル連結孔24が形成されている。
【0024】
ロックアーム12の回転範囲には、ロック位置(図2参照)とロック解除位置(図5参照)とが含まれる。シートバック起立状態において、ロック位置に設定されたロックアーム12のロック溝21は、ストライカ30の係止ピン部31に上方から係合してシートバック3の傾倒を規制する。また、ロック解除位置に設定されたロックアーム12のロック溝21は、係止ピン部31の上方に外れて係止ピン部31との係合を解除する。この状態をロックアーム12に対する係止ピン部31の移動として説明すると、ロック解除位置からロック位置へのアーム後部20の下降時には、係止ピン部31は、ロック溝21に下方から進入し、ロック溝21内を上方へ移動して、ロック溝21の上端底部に達する。反対に、ロック位置からロック解除位置へのアーム後部20の上昇時には、係止ピン部31は、ロック溝21の上端底部からロック溝21内を下方へ移動して、ロック溝21の下方に外れる。なお、ロックアーム12がロック位置に設定されてロック溝21が係止ピン部31に係合した状態をロック状態と称し、ロックアーム12がロック解除位置に設定されてロック溝21が係止ピン部31から外れた状態をロック解除状態と称する。
【0025】
コイルバネ13は、その内径部を回転軸22が挿通した状態で、回転軸22によって支持される。コイルバネ13は、その両端13a,13bがロック保持ブラケット11(連結プレート16)とロックアーム12とにそれぞれ結合され、ロックアーム12をロック解除位置からロック位置へ向かう方向(ロック方向)へ付勢する。このコイルバネ13の付勢力によって、ロック溝21と係止ピン部31との係合状態が保持され、シートバック3が起立位置にロックされる。なお、ロックアーム12を付勢する手段は、コイルバネ13に限定されず、板バネ等の他の手段であってもよい。
【0026】
ケーブル連結孔24には、ケーブル25の一端が連結され、ケーブル25の他端は解除操作部(図示省略)に連結される。ロック状態において、解除操作部が引っ張り操作されると、ロックアーム12がロック位置からロック解除位置へ移動し、ロック解除状態となり、起立位置からのシートバック3の前下方(図5中の矢印方向)への傾倒が可能となる。
【0027】
また、起立位置からシートバック3が傾倒した状態(ロック位置へロックアーム12が移動してもロック溝21が係止ピン部31に係合しない状態)で解除操作部の操作が解除されると、ロックアーム12は、コイルバネ13の付勢力によってロック方向へ回転する。ロックアーム12がロック位置を僅かに超えた回転限度位置に達すると、突部23がロック保持ブラケット11のストッパ部17に当接し、ロック方向へのロックアーム12の回転が阻止される。
【0028】
ロックアーム支持プレート15の延長部18は、シートバック起立状態で、ストライカ30の係止ピン部31の前下方から直下方まで延びる。ロック位置のロックアーム12のうちロック溝21が形成されたアーム後部20の下端部20aは、左右の延長部18の間に配置される。延長部18の上縁には、ロック溝21に係合した係止ピン部31に対してロック保持ブラケット11が上方へ移動したときに、係止ピン部31に下方から係合して係止ピン部31のロック溝21からの離脱を阻止する円弧状の係合凹部26が形成されている。
【0029】
本実施形態によれば、車両後突時等の車体変形によってリヤシート1の全体が上方へ持ち上がり、ロック溝21に係合した係止ピン部31に対してロック保持ブラケット11が上方へ移動すると、ストッパ部17がロックアーム12を回転限度位置に保持するので、ロック溝21が係止ピン部31に対して上方へ移動する。そして、係止ピン部31がロック溝21の下部に達したときに、図2中二点鎖線で示すように、左右のロックアーム支持プレート15の係合凹部26が、ロック溝21の左右両側で係止ピン部31に下方からそれぞれ係合して、ロック溝21からのストライカ30の離脱を阻止する。すなわち、ストライカ30の移動は、ロック溝21と係合凹部26とによって阻止される。従って、シートバック3を車体変形に追従させることができ、車両後突時のシートバック3の意図しない倒れを防止することができる。
【0030】
特に、本実施形態では、ロックアーム12を1対のロックアーム支持ブラケットの間に配置し、各ロックアーム支持プレート15にそれぞれ係合凹部26を設けているので、ロック溝21に係合した係止ピン部31に対してロック保持ブラケット11が上方へ移動した際に、ロック溝21の左右両側において、係合凹部26がストライカ30に下方からそれぞれ係合する。従って、係止ピン部31のロック溝21からの離脱を、ロック溝21と1対の係合凹部26とによって確実に阻止することができる。
【0031】
また、延長部18がロック保持ブラケット11に一体的に形成されているので、部品点数が増加せず、工数の増加やコストの上昇を抑えることができる。
【0032】
以上、本発明について、上記実施形態に基づいて説明を行ったが、本発明は上記実施形態の内容に限定をされるものではなく、当然に本発明を逸脱しない範囲では適宜の変更が可能である。
【0033】
例えば、上記実施形態では車両のリヤシート1について説明したが、フロントシートなど他のシートに対しても本発明は適用可能である。また、ストライカ30やロック保持ブラケット11やロックアーム12などの形状、係止ピン部31の形状及び配置、係合凹部26の形状、ロックアーム支持プレート15の形状や数等は、上記実施形態に限定されず、他の形状等であってもよい。
【符号の説明】
【0034】
1:リヤシート
2:シートクッション
3:シートバック
4:座側フレーム
5:背側フレーム
6:シート支持ブラケット
10:シートバックロック装置
11:ロック保持ブラケット
12:ロックアーム
13:コイルバネ
14:取付部
15:ロックアーム支持プレート
16:連結プレート
17:ストッパ部
18:延長部
19:アーム前部
20:アーム後部
21:ロック溝
22:回転軸
23:突部
24:ケーブル連結孔
25:ケーブル
26:係合凹部
30:ストライカ
31:係止ピン部(係止部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
起立位置から傾倒可能なシートバックを前記起立位置で車体側にロックする車両のシートバックロック構造であって、
係止部を有し、車体側に固定されるストライカと、
前記シートバックに対して固定されるロック保持ブラケットと、
ロック溝を有し、ロック位置とロック解除位置とを含む範囲で回転可能に前記ロック保持ブラケットに支持され、前記シートバックが前記起立位置に設定された状態で、前記ロック位置の前記ロック溝は、前記係止ピン部に上方から係合して前記シートバックの傾倒を規制し、前記ロック解除位置の前記ロック溝は、前記係止ピン部の上方に外れて該ストライカとの係合を解除するロックアームと、を備え、
前記ロック保持ブラケットには、前記シートバックが前記起立位置に設定された状態で、前記係止ピン部の下方まで延びる延長部が形成され、
前記延長部は、前記ロック溝に係合した係止ピン部に対して前記ロック保持ブラケットが上方へ移動したときに、前記係止ピン部に下方から係合して該係止ピン部の前記ロック溝からの離脱を阻止する係合凹部を有する
ことを特徴とするシートバックロック構造。
【請求項2】
請求項1に記載のシートバックロック構造であって、
前記ロック支持ブラケットは、相対向して離間する1対のロックアーム支持プレートを有し、
前記ロックアームは、前記1対のロックアーム支持プレートの間で前記ロックアーム支持ブラケットに回転自在に支持され、
前記延長部は、前記1対のロックアーム支持プレートにそれぞれ設けられている
ことを特徴とするシートバックロック構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−67347(P2013−67347A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209202(P2011−209202)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】