説明

車両の伝動装置

【課題】運搬車等の車両において、原動機を挟んで前後に配置した車軸駆動装置間を駆動連結する伝動装置には、伝動始端部からの動力取出しに大きな空間が必要であったり、走行中に動力取出し部から機体フレームに伝播する振動や騒音が大きい、という問題があり、特に、動力取出し方向を種々の方向に設定する場合には、少なくとも機体フレームへの取付構造の変更が不可欠なため、動力取出しケースの標準化が難しい、という問題があった。
【解決手段】伝動装置2の伝動始端部23を収納する動力取出しケース82は、ハウジング19にあってPTO軸50を回動支持するPTO支持部21aに、該PTO支持部21aに対する前記動力取出しケース82の姿勢を調節可能な中間ケース81を介して固設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運搬車等の車両において、原動機を挟んで前後に配置する車軸駆動装置間に介設する伝動装置に関し、特に、該伝動装置の伝動始端部からの動力取出し構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、第一車軸を駆動する第一車軸駆動装置と、第二車軸を駆動する第二車軸駆動装置とを、内燃機関等の原動機を挟んで車両の機体前後に配設し、前記第一車軸駆動装置の左右一側に、CVT等の主変速装置を介して前記原動機に駆動連結するための第一入力部を備えると共に、第一車軸駆動装置を収納するハウジングを挟んで、前記第一入力部と反対側からPTO軸を突出し、該PTO軸と、前記第二車軸駆動装置への第二入力部との間を駆動連結する車両の伝動装置に関する技術が公知となっており(例えば、特許文献1参照)、該技術によると、二輪駆動用・四輪駆動用の別なく第一車軸駆動装置を標準化したり、伝動装置と原動機との干渉を無理なく回避することができる。
【特許文献1】特開2005−297673号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、前記技術においては、伝動装置の伝動始端部は、原動機よりも機体左右一側にオフセットされ、しかも第一車軸駆動装置から大きく離間して機体フレーム等に取り付けられている。このため、前記伝動始端部を収納する動力取出しケースは、第一車軸駆動装置とは別体として構成されており、第一車軸駆動装置のハウジングに付設する場合に比べて動力取出しケースの占める空間が大きく、しかも、動力取出しケースを機体フレーム等に取り付ける作業や、そのための取り付け具の設置にも大きな空間が必要となり、車両全体の更なるコンパクト化が困難である、という問題があった。
更に、前記動力取出しケースは、機体フレームに取り付けられるため、第一車軸駆動装置からPTO軸を介して動力取出しケースに伝播する振動が大きい場合には、たとえ動力取出しケースと機体フレーム間に防振部材を介設しても、走行中に作業者が機体から受ける振動や騒音が激しくて作業環境の点からは好ましくない、という問題があった。
特に、前記伝動装置の伝動終端部を伝動始端部よりも低くして、第二車軸駆動装置近傍までの伝動経路の上方に大きな空間を設け、該空間に運転部等を配置する構造の車両を製造する場合には、前記動力取出しケースからの動力取出し方向を種々の方向、例えば斜め下方に向かって設定する必要があり、これには、動力取出しケース全体、あるいは、少なくとも機体フレームへの取付構造の変更が不可欠であり、前記技術によって第一車軸駆動装置の標準化は可能なものの、動力取出しケースの標準化は難しいため、部品コストの更なるコストダウンが困難である、という問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
すなわち、請求項1においては、第一車軸を駆動する第一車軸駆動装置と、第二車軸を駆動する第二車軸駆動装置とを、原動機を挟んで車両の機体前後に配設し、前記第一車軸駆動装置は、変速装置を介して前記原動機に駆動連結するための第一入力部を備えると共に、第一車軸駆動装置を収納するハウジングを挟んで、前記第一入力部と反対側からPTO軸を突出し、該PTO軸と、前記第二車軸駆動装置への第二入力部との間を伝動装置によって駆動連結する車両において、該伝動装置の伝動始端部を収納する動力取出しケースは、前記ハウジングにあって前記PTO軸を回動支持するPTO支持部に、該PTO支持部に対する前記動力取出しケースの姿勢を調節可能な中間ケースを介して固設するものである。
請求項2においては、前記中間ケースには、中間ケースをPTO支持部側に固定する第一取付部と、中間ケースを動力取出しケース側に固定する第二取付部とを形成し、該第二取付部と前記第一取付部との相対位置関係を変更することにより、PTO支持部に対する動力取出しケースの姿勢を調節するものである。
請求項3においては、前記動力取出しケースからの出力軸は、伝動装置の伝動終端部に向かって、水平よりも斜め下方に傾斜するように延伸するものである。
請求項4においては、前記第一取付部には、中間ケースを貫通してPTO支持部まで達するネジ孔を設け、該ネジ孔に中間ケースの内側からネジ部材を螺挿することにより、中間ケースをPTO支持部側に締結固定するものである。
請求項5においては、前記伝動始端部には、前記ハウジングに回動支持されるPTO軸に固設された駆動ギアと、該駆動ギアに噛合する従動ギアとから成るギア対を設けると共に、前記駆動ギアと従動ギアは、それぞれ中間ケースと動力取出しケースによって回動支持するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、以上のように構成したので、以下に示す効果を奏する。
すなわち、請求項1においては、第一車軸を駆動する第一車軸駆動装置と、第二車軸を駆動する第二車軸駆動装置とを、原動機を挟んで車両の機体前後に配設し、前記第一車軸駆動装置は、変速装置を介して前記原動機に駆動連結するための第一入力部を備えると共に、第一車軸駆動装置を収納するハウジングを挟んで、前記第一入力部と反対側からPTO軸を突出し、該PTO軸と、前記第二車軸駆動装置への第二入力部との間を伝動装置によって駆動連結する車両において、該伝動装置の伝動始端部を収納する動力取出しケースは、前記ハウジングにあって前記PTO軸を回動支持するPTO支持部に、該PTO支持部に対する前記動力取出しケースの姿勢を調節可能な中間ケースを介して固設するので、前記動力取出しケースを第一車軸駆動装置のハウジングに付設させることができ、動力取出しケースの設置にハウジングの一部を利用して設置空間が縮小され、しかも、動力取出しケースの取り付け作業や取り付け具設置のための空間が不要となり、車両全体の更なるコンパクト化を可能とすることができる。更に、第一車軸駆動装置からPTO軸を介して動力取出しケースに伝播される振動を、機体フレームには直接伝播させないようにすることができ、走行中に作業者が機体から受ける振動や騒音を減少させ作業環境を向上することができる。しかも、前記中間ケースを変更するだけで、前記動力取出しケースからの動力取出し方向を種々の方向に容易に設定することができ、第一車軸駆動装置はもとより動力取出しケースの標準化も可能となり、部品コストの更なるコストダウンを可能とすることができる。
請求項2においては、前記中間ケースには、中間ケースをPTO支持部側に固定する第一取付部と、中間ケースを動力取出しケース側に固定する第二取付部とを形成し、該第二取付部と前記第一取付部との相対位置関係を変更することにより、PTO支持部に対する動力取出しケースの姿勢を調節するので、各取付部の形成位置を変更するだけで中間ケースに姿勢調節機能を付与することができ、中間ケースの加工に共通部材を使用して部品の標準化を図り、部品コストを更に低減することができる。
請求項3においては、前記動力取出しケースからの出力軸は、伝動装置の伝動終端部に向かって、水平よりも斜め下方に傾斜するように延伸するので、前記伝動装置の伝動終端部を伝動始端部よりも低くし、第二車軸駆動装置近傍までの伝動経路の上方に大きな空間を設け、該空間に運転席を配置することができ、広い空間で運転席の床面を低くかつ平坦に構成して、作業者の運転操作性や居住性を向上させることができる。
請求項4においては、前記第一取付部には、中間ケースを貫通してPTO支持部まで達するネジ孔を設け、該ネジ孔に中間ケースの内側からネジ部材を螺挿することにより、中間ケースをPTO支持部側に締結固定するので、ネジ部材を中間ケース内に納めることができ、動力取出し部を収納する中間ケースや動力取出しケース等の収納部を小さくし、伝動装置全体のコンパクト化を図ることができる。
請求項5においては、前記伝動始端部には、前記ハウジングに回動支持されるPTO軸に固設された駆動ギアと、該駆動ギアに噛合する従動ギアとから成るギア対を設けると共に、前記駆動ギアと従動ギアは、それぞれ中間ケースと動力取出しケースによって回動支持するので、中間ケースや動力取出しケースの相対位置を変更するだけで、PTO軸とギア間、両ギア間を適正位置に設定してバックラッシュ等を微調整することができ、動力伝達効率を高めたり振動の発生を抑制して、燃費や作業環境の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明に関わる伝動装置を搭載した車両の全体構成を示す全体側面図、図2は車両の動力伝達構成を示すスケルトン平面図、図3は後車軸駆動装置の側面図、図4は図3のA−A矢視図、図5は図3のB−B矢視図、図6は中間ケース・動力取出しケース・蓋部材等を取り外した状態の後車軸駆動装置の側面図、図7はPTO支持部を覆う部材の外側面図であって、図7(a)は中間ケースの外側面図、図7(b)は動力取出しケースの外側面図、図8は中間ケースの内側面図、図9は図8のC−C矢視図、図10は動力取出しケースの内側面図、図11は図10のD−D矢視図、図12はデフロック機構の別形態の部分正面断面図、図13は図12のE−E矢視図、図14はアンロック時のクラッチ部材周辺構造を示す部分正面断面図、図15はデフロック時に部分係合した状態でのクラッチ部材周辺構造を示す部分正面断面図、図16はデフロック時に最後まで係合した状態でのクラッチ部材周辺構造を示す部分正面断面図である。
【0007】
まず、本発明に係わる伝動装置2を搭載した運搬車等の車両1の全体構成について、図1、図2、図5により説明する。
車両1の本体は、前部フレーム3と後部フレーム4とを前後に連設して構成され、該後部フレーム4は、平面視略直方形の水平状床板と、該水平状床板の前後左右端に立設した鉛直状側板とより成ると共に、該後部フレーム4の上方には、荷台5が上下回動可能に配設されている。
【0008】
更に、後部フレーム4内には、原動機たるエンジン6が左右方向にクランク軸を配する状態で配設され、該エンジン6の左側にはエンジン出力軸8が突設されると共に、前記エンジン6の後方には、後車軸駆動装置9が配設されている。そして、該後車軸駆動装置9の左側には、入力軸11が前記エンジン出力軸8と平行に突設され、これら入力軸11とエンジン出力軸8とは、変速装置であるベルト式無段変速装置40を介して駆動連結されている。
【0009】
前記後車軸駆動装置9は、左右の後輪16・16を連結した後車軸7・7と、該後車軸7・7を差動的に結合するための後差動装置22と、該後差動装置22に対して前記ベルト式無段変速装置40からの変速動力を回転方向を切り替えて入力する前後進切替装置14とから構成され、いずれも、左右のハウジング半部20・21を接合して成るハウジング19の内部区画に配設されている。
【0010】
前記後車軸7・7は、それぞれ、スリーブ状のカップリング35によって伝動軸36に連結され、更に、該伝動軸36・36は、それぞれ、後部フレーム4の後半部の左右各外側に配された前記各後輪16の中心軸たる各後輪軸25に対し、ユニバーサルジョイント37、ハーフシャフト38、ユニバーサルジョイント39を介して駆動連結されている。
【0011】
一方、前部フレーム3の前半部は、その後半部より一段高く形成され、該後半部の下方の略左右中央位置には、本発明に係わる伝動装置2を介して、前記後車軸駆動装置9からの動力を入力可能な前車軸駆動装置10が配設されている。該前車軸駆動装置10のハウジング41の後側では、入力軸42が後方に突設され、後述する伝動装置2の動力伝達部84からの第三伝動軸76の前端に、カップリング80を介して駆動連結されており、伝動装置2の伝動終端部を構成している。そして、該入力軸42の前端には、ベベルギア43が形成され、該ベベルギア43には、前差動装置44のリングギア45が噛合されている。
【0012】
該前差動装置44においては、前記リングギア45がデフケース46に一体的に締結固定され、該デフケース46には、両端にピニオン47を回転自在に配置したピニオン軸48が一体回転可能に設けられ、前記ピニオン47・47には、デフサイドギア49・49が噛合されている。そして、該デフサイドギア49・49を内端側に固定する前車軸17・17は、それぞれ、左右各外側に操舵可能に配された各前輪15・15の中心軸である前輪軸24・24に対し、ユニバーサルジョイント26、ハーフシャフト27、ユニバーサルジョイント28を介して駆動連結されており、これにより、前輪15・15を差動駆動できるようにしている。
【0013】
更に、前部フレーム3の前半部上には、フロントカバー3aが立設され、該フロントカバー3aの後端上部に、操作・計器盤等が形成され、その上方には、丸形ハンドル34が配設されている。前部フレーム3の前部左右側端からは、それぞれ、コイルバネやショックアブソーバ等で構成される図示せぬサスペンション機構が延設され、該サスペンション機構によって前輪15が懸架されており、車両1の乗り心地や操縦安定性を向上させるようにしている。
【0014】
そして、前記フロントカバー3a後端より後方には、前部フレーム3上に踏板が敷設されて水平面状のプラットフォーム3bが形成され、該プラットフォーム3bは、左右両外側に延出されている。更に、前部フレーム3後端上方で後部フレーム4の直前には、運転席18が立設され、該運転席18の左右及び前方に、前記プラットフォーム3bが延設されている。
【0015】
次に、前記後車軸駆動装置9について、図2、図4乃至図6により説明する。
前記後車軸駆動装置9においては、前記ハウジング19内の上部に前記入力軸11、下部に前記後車軸7・7、該後車軸7・7と前記入力軸11との間の高さに中間伝動軸50、該中間伝動軸50と前記入力軸11との間に反転軸51が、それぞれ左右延伸状に軸支されている。なお、前記後車軸7・7の両端部は、ハウジング半部20・21のそれぞれの開口部20b・21bを覆う蓋部材119・120に設けたベアリング121・121によって、回動可能に支持されており、蓋部材119・120を着脱することにより、後車軸7・7の組み込み・取り外しを容易なものとしている。
【0016】
前記入力軸11の左右略中央部には前進駆動ギア52が固設され、該前進駆動ギア52よりも右方で右端近傍には後進駆動ギア53が形成されている。前記反転軸51には、中間ギア55が相対回転可能に環設され、該中間ギア55は、大小のギアを一体的に構成した二連ギアであって、大径ギア55aと小径ギア55bにより構成されている。そして、前記中間伝動軸50には、左右に前進従動ギア56と後進従動ギア57が相対回転可能に嵌設されている。
【0017】
このうちの前進従動ギア56は前記前進駆動ギア52と噛合して第一ギア列を形成し、また、後進従動ギア57は前記反転軸51上の小径ギア55bと噛合した上で、該小径ギア55bと同軸上の大径ギア55aが前記後進駆動ギア53と噛合して第二ギア列を形成しており、これらのギア列を選択することで、前後進を切り替えるようにしている。
【0018】
更に、中間伝動軸50上において、後進従動ギア57と前記前進従動ギア56との間には、同期機構を介してスプラインハブ58が相対回転不能に係合され、該スプラインハブ58にはシフタ58aが軸芯方向摺動自在かつ相対回転不能に係合されている。そして、前進従動ギア56でスプラインハブ58側に向かう部分にはクラッチ歯部56aが形成され、後進従動ギア57でスプラインハブ58側に向かう部分にはクラッチ歯部57aが形成されている。
【0019】
このような構成において、前記フロントカバー3a後端や運転席18側方等に設けた前後進切替操作手段により、連結アーム等のリンク機構を介してフォーク59を操作し、該フォーク59に係合した前記シフタ58aを左右摺動させると、前進時には、シフタ58aがクラッチ歯部56aに係合され、前進従動ギア56が中間伝動軸50に相対回転不能に係合されて、入力軸11からの変速動力を、第一ギア列を介して中間伝動軸50に伝達することができる。また、後進時には、シフタ58aがクラッチ歯部57aに係合され、後進従動ギア57が中間伝動軸50に相対回転不能に係合されて、第一ギア列とは逆の回転方向の変速動力を、第二ギア列を介して中間伝動軸50に伝達することができるのである。
【0020】
こうして、ギア52・56から成る第一ギア列と、ギア53・55a・55b・57から成る第二ギア列を、それぞれ前進用駆動列、後進用駆動列として提供可能な前後進切替装置14を、入力軸11と中間伝動軸50との間に構成している。そして、シフタ58aが、クラッチ歯部56a・57aのいずれとも離間した中立状態にすることもでき、前記前後進切替操作手段によって、前進・後進・中立を選択することができる。なお、必要に応じて、第一ギア列を後進用駆動列、第二ギア列を前進用駆動列としてもかまわない。
【0021】
また、前記前進従動ギア56の左方の中間伝動軸50上には、出力ギア60が形成され、該出力ギア60には、中間伝動軸50下方の左右後車軸7・7間に配設された前記後差動装置22のリングギア61が噛合されている。
【0022】
後差動装置22においても、前記前差動装置44と同様に、前記リングギア61がデフケース62に一体的に締結固定され、該デフケース62には、両端にピニオン63を回転自在に配置したピニオン軸64が一体回転可能に設けられ、前記ピニオン63・63には、デフサイドギア66・66が噛合されている。そして、該デフサイドギア66・66を内端側に固定する後車軸7・7は、前述のようにして、各後輪軸25に駆動連結されており、これにより、後輪16・16を差動駆動できるようにしている。
【0023】
ただし、後差動装置22には、前記前差動装置44とは異なり、デフロック機構67を備えている。該デフロック機構67は、通例の如く、前記デフケース62のボス部62aにデフロックスライダ69が軸方向摺動自在に外嵌され、該デフロックスライダ69にはロックピン70の一端が係合されている。
【0024】
そして、該ロックピン70の他端は、デフサイドギア66の外側部に開口された係合孔66aに向かって突出しており、デフロック時には、図示せぬデフロック操作手段により、リンク機構を介してフォーク68を操作し、該フォーク68に係合した前記デフロックスライダ69をデフサイドギア66側に摺動させると、ロックピン70の先部がデフサイドギア66の係合孔66aに係合され、後差動装置22がデフロックするようにしている。
【0025】
また、前記中間伝動軸50の右部は、前記ハウジング半部21内の側壁の肉厚部に形成されたPTO支持部21aにおいて、ベアリング83等によって水平方向に回動支持されると共に、該中間伝動軸50の一端は、ハウジング半部21の一側面から後車軸駆動装置9の外方に向けて突出され、該突出端は、後述する伝動装置2の伝動始端部である動力取出し部23を収納する動力取出しケース82内に貫入され、更に、その先部には駆動ベベルギア71が固設されており、前述した前後進切替装置14によって得た前進動力または後進動力を、中間伝動軸50から動力取出し部23にも入力できるようにしている。
【0026】
次に、本発明に係わる伝動装置2について、図1乃至図11により説明する。
図1、図2、図4に示すように、伝動装置2は、前述した動力取出し部23と動力伝達部84とから成り、該動力伝達部84は、後から順に、前記動力取出し部23からの出力軸73、該出力軸73とカップリング77によって連結される第一伝動軸74、ユニバーサルジョイント78、第二伝動軸75、ユニバーサルジョイント79、第三伝動軸76が連結して形成され、該第三伝動軸76の前端が、前述の如く、前記前車軸駆動装置10への入力軸42にカップリング80を介して駆動連結されている。なお、前記動力取出し部23を収納する動力取出しケース82の後部開口82cには、蓋体122が嵌設され、動力取出しケース82内への粉塵等の侵入を防止している。
【0027】
前記出力軸73は、平面視では、機体前後方向に、すなわち前記中間伝動軸50と直角方向に延伸しているものの、側面視では、前斜め下方に傾斜するように延伸され、該出力軸73の前端から同一軸芯上には、前記第一伝動軸74も、同様に、平面視で機体前後方向かつ側面視で前斜め下方に延伸されている。前記第二伝動軸75は、第一伝動軸74後端が位置する機体一側から、前記前車軸駆動装置10の伝動終端部のある機体左右略中央に向かって延伸されるが、その高さについては、両端の両ユニバーサルジョイント78・79を略同一高さに配置することにより、前記プラットフォーム3b直下を略水平に延伸されている。このようにして、伝動終端部を伝動始端部である動力取出し部23よりも低く設定し、プラットフォーム3bの上方に、運転席18を配置可能な大きな空間を設けることができる。
【0028】
すなわち、前記動力取出しケース82からの出力軸73は、伝動装置2の伝動終端部に向かって、水平よりも斜め下方に傾斜するように延伸するので、前記伝動装置2の伝動終端部を伝動始端部である動力取出し部23よりも低くし、第二車軸駆動装置である前車軸駆動装置10近傍までの伝動経路の上方に大きな空間を設け、該空間に運転席18を配置することができ、広い空間で運転席18の床面を低くかつ平坦に構成して、作業者の運転操作性や居住性を向上させることができる。
【0029】
図2乃至図7に示すように、前記動力取出し部23を収納する動力取出しケース82と前記PTO支持部21aとの間に、本発明に係わる中間ケース81が介設され、該中間ケース81の後半部には軸孔81aが穿孔されており、該軸孔81aに嵌入されたベアリング85によって、前記駆動ベベルギア71の基部71aが回動自在に支持されている。
【0030】
一方、前記動力取出しケース82内の出力軸73は、前記駆動ベベルギア71と噛合する従動ベベルギア72を後端に固設するギア軸86と、該ギア軸86に対して同一軸芯上に相対回転自在に嵌入された切替軸87とから構成されており、このうちのギア軸86は、従動ベベルギア72の基部72aを支持するベアリング89と、ギア軸86前端を支持するベアリング90によって両持ち支持されると共に、これらのベアリング89・90は、動力取出しケース82内の前後略中央の後ボス部82a内に嵌入固定されている。そして、前記切替軸87は、動力取出しケース82内の前ボス部82b内に嵌入したベアリング91によって回動自在に支持されている。
【0031】
更に、前記ギア軸86と切替軸87と嵌合部外周には、それぞれスプライン歯86a・87aが形成され、該スプライン歯86a・87aにまたがって摺動可能なクラッチスライダ88が設けられている。該クラッチスライダ88の内周面にはスプライン歯88aが形成され、クラッチスライダ88の外周面には切替ピン93が係合されており、これらにより駆動切替クラッチ92が構成されている。
【0032】
このような構成において、前記フロントカバー3a後端や運転席18側方等に設けた駆動切替操作手段により、連結アーム等のリンク機構を介して切替ピン93を操作し、該切替ピン93に係合した前記クラッチスライダ88を後方に摺動させると、該クラッチスライダ88aが両スプライン歯86a・87aと同時に噛合し、ギア軸86と切替軸87が結合されて一体化し、これにより、中間伝動軸50からの動力が、駆動ベベルギア71、従動ベベルギア72、一体化した出力軸73等を介して、前記前車軸駆動装置10に伝達されることとなり、前輪15を後輪16に対し同期駆動させる四輪駆動モードとなる。逆に、前記クラッチスライダ88をスプライン歯86aとは噛合しない位置まで前方に摺動させると、ギア軸86と切替軸87との接続が切れ、これにより、中間伝動軸50からの動力が後輪16のみを駆動し前輪15は遊転させる二輪駆動モードとなる。
【0033】
なお、駆動切替クラッチ92は、本実施例のように、前車軸駆動装置10よりも伝動上手側の伝達装置2のいずれかの部位に設けても良いが、駆動切替操作手段と駆動切替クラッチとの間のリンク機構を簡単な構成にしたい場合等には、運転席18に近い前車軸駆動装置10近傍に設けた方が好ましい。
【0034】
図3、図4、図6乃至図11に示すように、前記中間ケース81の内外面には、それぞれ矩形状の内側辺縁部94と外側辺縁部95とが形成され、該外側辺縁部95は、前記内側辺縁部94よりも大きく形成され、しかも、長手方向が所定の角度をもって前斜め下方に傾いた状態で形成されている。そして、このうちの内側辺縁部94には、前記PTO支持部21aの外側面の辺縁部96に穿設されたボルト孔96a乃至96eのそれぞれと重なる位置に、ボルト孔94a乃至94eが設けられている。一方、外側辺縁部95には、前記動力取出しケース82の辺縁部97に穿設されたボルト孔97a乃至97hのそれぞれと重なる位置に、ボルト孔95a乃至95hが設けられている。
【0035】
このような構成において、動力取出し部23を組み立てる際には、まず、中間伝動軸50を軸孔81aに通すようにして、中間ケース81の内側辺縁部94をPTO支持部21aの辺縁部96に当接させた状態で、ボルト98・98・・・を、ボルト孔94a乃至94eからそれぞれボルト孔96a乃至96eにかけて螺挿して、中間ケース81をPTO支持部21aに締結固定させる。なお、ボルト98・98・・・は、ボルト孔94aからボルト孔96aにかけて螺挿したボルト98を除き、残りは全て、中間ケース81の内側に位置しているため、後から取り付ける動力取出しケース82で中間ケース81が覆われると、これらのボルト98・98・・・は外部には全く露出しない状態となる。
【0036】
そして、中間ケース81にベアリング85を装着した後に、駆動ベベルギア71をスプライン嵌合させ、更に、前記従動ベベルギア72、駆動切替クラッチ92、及び出力軸73を取り付けた動力取出しケース82を、該動力取出しケース82の辺縁部97が中間ケース81の外側辺縁部95に当接した状態で、ボルト99・99・・・を、ボルト孔97a乃至97hからそれぞれボルト孔95a乃至95hにかけて螺挿し、動力取出しケース82を中間ケース81に締結固定させることができる。これにより、動力取出しケース82を、中間ケース81を介してPTO支持部21aに締結固定し、この際、中間ケース81の内側辺縁部94に対して斜め前下方に傾斜した外側辺縁部95に、動力取出しケース82を取り付けることで、前記出力軸73の突出方向、つまり動力取出し方向を前斜め下方に設定することができるのである。
【0037】
なお、本実施例では、中間ケース81の内側辺縁部94と外側辺縁部95とは互いに平行であって、外側辺縁部95が前斜め下方となるように形成しているが、内側辺縁部94に対して外側辺縁部95を左右に傾けるように形成したり、内側辺縁部94に対して外側辺縁部95を水平や前斜め上方となるように形成してもよく、これにより、動力取出しケース82からの動力取出し方向を自在に変更することが可能である。
【0038】
すなわち、第一車軸である後車軸7を駆動する第一車軸駆動装置である後車軸駆動装置9と、第二車軸である前車軸17を駆動する第二車軸駆動装置である前車軸駆動装置10とを、原動機であるエンジン6を挟んで車両1の機体前後に配設し、前記後車軸駆動装置9は、変速装置であるベルト式無段変速装置40を介して前記エンジン6に駆動連結するための第一入力部である入力軸11を備えると共に、後車軸駆動装置9を収納するハウジング19を挟んで、前記入力軸11と反対側からPTO軸である中間伝動軸50を突出し、該中間伝動軸50と、前記前車軸駆動装置10への第二入力部である入力軸42との間を伝動装置2によって駆動連結する車両1において、該伝動装置2の伝動始端部である動力取出し部23を収納する動力取出しケース82は、前記ハウジング19にあって前記中間伝動軸50を回動支持するPTO支持部21aに、該PTO支持部21aに対する前記動力取出しケース82の姿勢を調節可能な中間ケース81を介して固設するので、前記動力取出しケース82を後車軸駆動装置9のハウジング19に付設させることができ、動力取出しケース82の設置にハウジング19の一部を利用して設置空間が縮小され、しかも、動力取出しケース82の取り付け作業や取り付け具設置のための空間が不要となり、車両1全体の更なるコンパクト化を可能とすることができる。更に、後車軸駆動装置9から中間伝動軸50を介して動力取出しケース82に伝播される振動を、機体フレームである後部フレーム4には直接伝播させないようにすることができ、走行中に作業者が機体から受ける振動や騒音を減少させ作業環境を向上することができる。しかも、前記中間ケース81を変更するだけで、前記動力取出しケース82からの動力取出し方向を種々の方向に容易に設定することができ、後車軸駆動装置9はもとより動力取出しケース82の標準化も可能となり、部品コストの更なるコストダウンを可能とすることができる。
【0039】
更に、前記中間ケース81には、中間ケース81をPTO支持部21a側に固定する第一取付部である内側辺縁部94と、中間ケース81を動力取出しケース82側に固定する第二取付部である外側辺縁部95とを形成し、該外側辺縁部95と前記内側辺縁部94との相対位置関係を変更することにより、PTO支持部21aに対する動力取出しケース82の姿勢を調節するので、各取付部の形成位置を変更するだけで中間ケース81に姿勢調節機能を付与することができ、中間ケース81の加工に共通部材を使用して部品の標準化を図り、部品コストを更に低減することができる。
【0040】
加えて、前記第一取付部である内側辺縁部94には、中間ケース81を貫通してPTO支持部21aまで達するネジ孔であるボルト孔94b乃至94eを設け、該ボルト孔94b乃至94eに中間ケース81の内側からネジ部材であるボルト98・98・・・を螺挿することにより、中間ケース81をPTO支持部21a側に締結固定するので、ボルト98・98・・・を中間ケース81内に納めて、中間ケース81や動力取出しケース82等の収納部を小さくし、伝動装置2全体のコンパクト化を図ることができる。
【0041】
更に、前記伝動始端部である動力取出し部23には、前記ハウジング19に回動支持されるPTO軸である中間伝動軸50に固設された駆動ギアである駆動ベベルギア71と、該駆動ベベルギア71に噛合する従動ギアである従動ベベルギア72とから成るギア対を設けると共に、前記駆動ベベルギア71と従動ベベルギア72は、それぞれ中間ケース81と動力取出しケース82によって回動支持するので、中間ケース81や動力取出しケース82の相対位置を変更するだけで、中間伝動軸50と駆動ベベルギア71間、両ベベルギア71・72間を適正位置に設定してバックラッシュ等を微調整することができ、動力伝達効率を高めたり振動の発生を抑制して、燃費や作業環境の向上を図ることができる。
【0042】
次に、通例の前記デフロック機構67の別形態であって、デフロック操作に必要な操作力の低減等が可能な、デフロック機構13について、図12乃至図16により説明する。
はじめに、該デフロック機構13を備える後差動装置12について説明する。該後差動装置12においても、前記後差動装置22と同様に、図12に示す如く、前記中間伝動軸50の回転が、中間伝動軸50に固設された前記出力ギア60に相当する出力ベベルギアを介して入力されるように構成されている。すなわち、該後差動装置12は、後車軸7・7と同一回転軸心を有するように後車軸駆動装置内に支持された中空のデフケース29と、該デフケース29外周面にボルト100によって締結固設され前記中間伝動軸50の図示せぬ出力ベベルギアと噛合されるリングギア30と、前記デフケース29内において車軸7・7と直交配置されデフケース29と一体的に回転するピニオン軸31と、該ピニオン軸31の両端に回転自在に配置されるベベルギアであるピニオン32・32と、前記車軸7・7の内端側に固定され前記ピニオン32・32に噛合されるベベルギアであるデフサイドギア33・33とにより構成されている。これにより、前記中間伝動軸50から出力ベベルギアを介してリングギア30に入力された回転を、差動回転として車軸7・7に伝達するようにしている。
【0043】
図12乃至図14に示すように、該デフロック機構13においては、後車軸7内端にデフサイドギア33がスプライン嵌合された上で筒状の固定部材117によって固定され、該固定部材117上にクラッチ部材103が軸方向・周方向ともに摺動自在に外嵌され、該クラッチ部材103の外側面からは、ロックピン102が軸方向に突設されている。該ロックピン102は、前記リングギア30のボス部30aの基部と接するようにして本体部30bに穿孔された長孔状の操作孔30c・30c・30cに挿通されると共に、このロックピン102の先半部は、前記ボス部30aに軸方向摺動自在に外嵌されたデフロックスライダ101のピン孔101aに、摺動可能に嵌合されている。
【0044】
更に、このロックピン102の先部には、リング状のストッパ102aが形成されており、デフロックスライダ101が外方に摺動しても、ロックピン102に係止されて抜け落ちないようにしている。一方、デフロックスライダ101とクラッチ部材103との間のロックピン102にはバネ104が外嵌されており、デフロックスライダ101が矢印113の方向に摺動すると、このバネ104が押し縮められ、発生した付勢力によって、クラッチ部材103がデフサイドギア33側に押動されるようにしている。
【0045】
また、前記デフサイドギア33でクラッチ部材103側には複数のクラッチ爪33aが形成され、該クラッチ爪33aに嵌合するようにして、複数のクラッチ爪103aがクラッチ部材103でデフサイドギア33側に形成されている。そして、クラッチ部材103のバネ受け103bとデフケース29のバネ受け29aとの間には、バネ105が圧縮状態で介設され、デフサイドギア33とクラッチ部材103間が離間するように付勢されており、通常は前記クラッチ爪33aとクラッチ爪103aとは嵌合できないようにしている。
【0046】
更に、前記クラッチ部材103とリングギア30との間には、次のような構成のカム機構が設けられている。すなわち、クラッチ部材103でリングギア30側には、中央の最深部とこれに連続して円周方向に沿って徐々に浅くなっていきその両端部に最浅部を形成して成る椀状凹部103cが形成され、該椀状凹部103cと対向するようにして、リングギア30のクラッチ部材103側にも、前記椀状凹部103cと同様、中央の最深部とこれに連続して円周方向に沿って徐々に浅くなっていきその両端部に最浅部を形成して成る椀状凹部30dが形成されており、これら椀状凹部103cと椀状凹部30dにまたがるようにしてボール部材106が嵌入保持されている。本実施例のようにボール部材106を使用すれば摩擦抵抗を低減させることができるが、簡易的には突起等で代用してもよく、このカム機構の構成は特に限定されるものではない。
【0047】
また、前記デフロックスライダ101には、フォーク状の操作金具108の先部が係合され、該操作金具108の基部のボス部108aは、フォーク軸109に外嵌されて吊持されている。そして、該フォーク軸109は、後車軸駆動装置のハウジング118に対して摺動自在に支持されると共に、ハウジング118の一側面には、プッシュ・プル式の電動アクチュエータであるアクチュエータ107が配置され、該アクチュエータ107は、前記フォーク軸109の一側端で略同一軸心上に配置されている。
【0048】
該アクチュエータ107においては、そのケース107aの外端にはモータ107bが備えられ、該モータ107bの出力軸は、遊星歯車式の増速装置107cを介してネジ軸107dに連結され、該ネジ軸107dに螺着したナット107eは、ピストン107fに対して相対回転不能でかつ軸方向摺動不能に係止されている。そして、図外のコントローラにより、前記モータ107bを作動させると、その回転出力が増速装置107cを経てネジ軸107dを高速回転させ、該ネジ軸107dとナット107eがその回転運動を直線運動に変換し、前記フォーク軸109の一端に当接しているピストン107fを軸方向に往復摺動できるようにしている。
【0049】
更に、前記フォーク軸109上には、右から順に止め輪110a・110bと摺動輪110cとが嵌着され、このうちの固定された止め輪110aと止め輪110bとの間にはバネ111と操作金具108のボス部108aが右から順に配置され、固定された止め輪110bと摺動可能な摺動輪110cとの間にはバネ112が配設され、いずれのバネ111・112も圧縮状態で介設されている。
【0050】
このような構成において、図12、図14に示すように、デフロック時に、図示せぬスイッチを操作してコントローラから前記アクチュエータ107にデフロック信号を送信すると、モータ107が作動して矢印113の方向にピストン107fが摺動し、該ピストン107fによってフォーク軸109が押動され、該フォーク軸109に嵌着された止め輪110aにより、操作金具108が、バネ111を介して付勢状態で矢印113の方向に押動される。
【0051】
すると、図15に示すように、デフロックスライダ101がロックピン102上を摺動してバネ104を圧縮し、この圧縮によって発生したバネ104の付勢力が、デフケース29とクラッチ部材103との間の前記バネ105による付勢力に抗して、クラッチ部材103をデフサイドギア33側に押動(以下、「初期押動操作」とする)し、更に、前記バネ104の付勢力によって、クラッチ部材103をデフサイドギア33側に付勢した状態で、クラッチ部材103をデフサイドギア33に部分的に係合(以下、「部分係合」とする)するまで保持することができる。
【0052】
すなわち、前記デフロック機構13は、前記クラッチ部材103に設ける押出し部材であるロックピン102と、該ロックピン102をデフサイドギア33側に押し引き操作してデフロックとアンロックを切り換えるデフロックスライダ101と、該デフロックスライダ101を摺動操作する操作金具108とを有し、前記ロックピン102とデフロックスライダ101との間には、デフロック時に前記操作金具108からの操作力を蓄力可能な構成であるバネ104を設けるので、デフロック時、前記初期押動操作後にクラッチ部材103がデフサイドギア33となかなか部分係合しない場合であっても、クラッチ部材103をデフサイドギア33側に付勢した状態で保持しておくことができ、操作金具108によるデフロック操作を何度も繰り返す必要がなく、係合する確率も高くなり短時間で部分係合してデフロックが可能となる。更には、操作金具108に大きな負荷が直接作用することがなく、その変形や破損を防止することができ、デフロック機構13のメンテナンスに必要な時間の短縮やコストの低減を図ることができるのである。なお、これらの効果は、前記フォーク軸109上に設けたバネ111によって更に高めるようにしている。
【0053】
そして、前述のような初期押動操作によって、クラッチ部材103のクラッチ爪103aがデフサイドギア33のクラッチ爪33aに少しでも部分係合すると、該クラッチ爪33aによってクラッチ部材103は矢印115の方向に回転され、クラッチ部材103とリングギア30との間に逆方向に相対回転が生じ、対向していた椀状凹部103c・30dも回転方向に大きくずれる。これに伴い、前記ボール部材106は、椀状凹部103c・30d間に挟まれた空間を転動し、これら椀状凹部103c・30dの周縁近傍の浅い部分に乗り上げた状態となるため、このボール部材106から受ける抗力116の水平分力116aによって、クラッチ部材103はデフサイドギア33側に強く押動される。そして、この押動は、前記水平分力116aによって、図16に示すような係合状態になるまで自動的に持続されるのである。
【0054】
すなわち、前記デフロック機構13は、前記クラッチ部材103と入力部材であるリングギア30との向かい合う面に、椀状凹部103c・30dと、該椀状凹部103c・30d間にまたがって嵌入保持されるボール部材106とから成るカム機構を有し、該カム機構を介して前記クラッチ部材と入力部材を接続する構成とするので、前記初期押動操作を行い、クラッチ部材103をデフサイドギア33に部分係合させると、該デフサイドギア33によりクラッチ部材103はリングギア30に対して相対回転され、対向する面の位置が互いに回転方向に大きくずれるため、カム機構のカム部であるボール部材106が椀状凹部103c・30dの周縁近傍の浅い部分に乗り上げる。その結果、このカム部であるボール部材106から受ける抗力116の水平分力116aによって、クラッチ部材103をデフサイドギア33側に押動して最後まで確実に係合することができるのである。しかも、このような効果を、簡単な構成によって達成することができ、デフロック機構13に必要な部品や構造を簡素化し、製造コストの低減やメンテナンス性の向上を図ることができる。
【0055】
続いてアンロック時には、スイッチを操作して図示せぬコントローラから前記アクチュエータ107にアンロック信号を送信すると、モータ107が作動して矢印114の方向にピストン107fが摺動する。すると、フォーク軸109が、バネ112の付勢力を受けて、止め輪110aがハウジング118の内壁に当接するまで矢印114の方向に摺動すると同時に、操作金具108のボス部108aが、止め輪110bによって矢印114の方向に直接押動される。
【0056】
すると、デフロックスライダ101がロックピン102上を摺動してストッパ102aに当接し、ロックピン102を矢印114の方向に強く引き出して、デフサイドギア33とクラッチ部材103との係合を迅速に解除することができる。
【0057】
すなわち、前記押出し部材であるロックピン102とデフロックスライダ101との間には、アンロック時に前記操作金具108からの操作力をロックピン102に直接伝達可能な構成であるストッパ102aを設けるので、アンロック時に、クラッチ部材103がデフサイドギア33と強く係合している状態にあっても、操作金具108によるアンロック操作によって、デフロックスライダ101を介してロックピン102を確実に引き出してクラッチ部材103とデフサイドギア33との係合を迅速に解除することができ、アンロックを迅速かつ確実に行うことができるのである。なお、これらの効果は、前記フォーク軸109上に設けた止め輪110bによって更に高めるようにしている。
【0058】
以上のように、後車軸7を駆動するための動力を入力する入力部材であるリングギア30と、該リングギア30と共に入力部材を構成するデフケース29に枢支するピニオン32と、該ピニオン32に噛合すると共に前記後車軸7上に固定されるデフサイドギア33とで構成された後差動装置12において、前記リングギア30に接続されると共に前記デフサイドギア33と係合可能なクラッチ部材103を設け、該クラッチ部材103と前記リングギア30間の相対回転によってクラッチ部材103を前記デフサイドギア33側に押動して係合させ、リングギア30のトルクをクラッチ部材103からデフサイドギア33を介して後車軸7に伝達するデフロック機構13を備えたので、デフロック時にはクラッチ部材103を所定のストロークだけ押動し、クラッチ部材103をデフサイドギア33に部分的に係合させるだけで、その後は、クラッチ部材103とリングギア30間で相対回転することによって、自動的にクラッチ部材103をデフサイドギア33に最後まで係合させることができ、通例の如く、ロックピンを、デフロックスライダの摺動操作によって、車軸に固設されたデフサイドギアに穿孔した係合孔に係合させる場合に比べ、デフロック操作に必要な操作力や操作ストロークが小さくて済み、作業者の操作負担が軽減される。更に、デフロック操作のための操作金具108に大きな負荷が作用することがなく、その変形や破損を防止することができ、メンテナンスに必要な時間の短縮やコストの低減を図ることができるのである。
【0059】
なお、前記デフロック機構13には、前記操作金具108を操作するアクチュエータ107を設けるので、簡単なスイッチング操作によってデフロックとアンロックの切換操作を行うことができ、作業者の操作負担が軽減され、更に、切換操作が早くなって車両の状況に応じた迅速な対応が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、第一車軸を駆動する第一車軸駆動装置と、第二車軸を駆動する第二車軸駆動装置とを、原動機を挟んで車両の機体前後に配設し、前記第一車軸駆動装置は、変速装置を介して前記原動機に駆動連結するための第一入力部を備えると共に、第一車軸駆動装置を収納するハウジングを挟んで、前記第一入力部と反対側からPTO軸を突出し、該PTO軸と、前記第二車軸駆動装置への第二入力部との間を駆動連結する、全ての車両の伝動装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に関わる伝動装置を搭載した車両の全体構成を示す全体側面図である。
【図2】車両の動力伝達構成を示すスケルトン平面図である。
【図3】後車軸駆動装置の側面図である。
【図4】図3のA−A矢視図である。
【図5】図3のB−B矢視図である。
【図6】中間ケース・動力取出しケース・蓋部材等を取り外した状態の後車軸駆動装置の側面図である。
【図7】PTO支持部を覆う部材の外側面図であって、図7(a)は中間ケースの外側面図、図7(b)は動力取出しケースの外側面図である。
【図8】中間ケースの内側面図である。
【図9】図8のC−C矢視図である。
【図10】動力取出しケースの内側面図である。
【図11】図10のD−D矢視図である。
【図12】デフロック機構の別形態の部分正面断面図である。
【図13】図12のE−E矢視図である。
【図14】アンロック時のクラッチ部材周辺構造を示す部分正面断面図である。
【図15】デフロック時に部分係合した状態でのクラッチ部材周辺構造を示す部分正面断面図である。
【図16】デフロック時に最後まで係合した状態でのクラッチ部材周辺構造を示す部分正面断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 車両
2 伝動装置
6 原動機
7 第一車軸
9 第一車軸駆動装置
10 第二車軸駆動装置
11 第一入力部
17 第二車軸
19 ハウジング
21a PTO支持部
23 伝動始端部
40 変速装置
42 第二入力部
50 PTO軸
71 駆動ギア
72 従動ギア
73 出力軸
81 中間ケース
82 動力取出しケース
94 第一取付部
94a・94b・94c・94d・94e ネジ孔
95 第二取付部
98 ネジ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一車軸を駆動する第一車軸駆動装置と、第二車軸を駆動する第二車軸駆動装置とを、原動機を挟んで車両の機体前後に配設し、前記第一車軸駆動装置は、変速装置を介して前記原動機に駆動連結するための第一入力部を備えると共に、第一車軸駆動装置を収納するハウジングを挟んで、前記第一入力部と反対側からPTO軸を突出し、該PTO軸と、前記第二車軸駆動装置への第二入力部との間を伝動装置によって駆動連結する車両において、該伝動装置の伝動始端部を収納する動力取出しケースは、前記ハウジングにあって前記PTO軸を回動支持するPTO支持部に、該PTO支持部に対する前記動力取出しケースの姿勢を調節可能な中間ケースを介して固設することを特徴とする車両の伝動装置。
【請求項2】
前記中間ケースには、中間ケースをPTO支持部側に固定する第一取付部と、中間ケースを動力取出しケース側に固定する第二取付部とを形成し、該第二取付部と前記第一取付部との相対位置関係を変更することにより、PTO支持部に対する動力取出しケースの姿勢を調節することを特徴とする請求項1記載の車両の伝動装置。
【請求項3】
前記動力取出しケースからの出力軸は、伝動装置の伝動終端部に向かって、水平よりも斜め下方に傾斜するように延伸することを特徴とする請求項2記載の車両の伝動装置。
【請求項4】
前記第一取付部には、中間ケースを貫通してPTO支持部まで達するネジ孔を設け、該ネジ孔に中間ケースの内側からネジ部材を螺挿することにより、中間ケースをPTO支持部側に締結固定することを特徴とする請求項2または請求項3記載の車両の伝動装置。
【請求項5】
前記伝動始端部には、前記ハウジングに回動支持されるPTO軸に固設された駆動ギアと、該駆動ギアに噛合する従動ギアとから成るギア対を設けると共に、前記駆動ギアと従動ギアは、それぞれ中間ケースと動力取出しケースによって回動支持することを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか一項に記載の車両の伝動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−73371(P2009−73371A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245017(P2007−245017)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000125853)株式会社 神崎高級工機製作所 (210)
【Fターム(参考)】