説明

車両の駆動装置

【課題】エンジンの吸気の吸気温度と、ノッキングの発生の有無との検出信号によりエンジンの運転を制御することにより、エンジン出力をできるだけ良好に維持できるようにすると共に、車両を急加速させようとするとき、所望の急加速が得られるようにする。
【解決手段】 各センサーの検出信号を入力する制御装置の制御により、吸気温度センサーにより検出された吸気温度Tが、ある設定値T2を越えたとき(T>T2)、エンジンの点火時期θを第1設定値θ1だけ遅角させるようにすると共に、ノッキングセンサーによりノッキングの発生が検出されたとき、点火時期θを第2設定値θ2だけ遅角させるようにする。第1設定値θ1と第2設定値θ2との合計値(θ1+θ2)が、ある遅角設定値θTを越えたとき、コンプレッサへのエンジン出力を低減させるための第1閾値A1を、より低い値の他の第2閾値A2に下げるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行駆動用と空調用とに振り分けられて供給されるエンジン出力のうち、空調用コンプレッサへのエンジン出力をエンジンの運転状態に応じて低減させることにより、車両走行につき所望のエンジン出力が確保されるようにするための車両の駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記車両の駆動装置には、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、車両の駆動装置は、走行駆動用エンジンと、このエンジンのエンジン出力に係るアクセル操作量を検出するアクセル操作量センサーと、上記エンジン出力により駆動する空調用コンプレッサと、上記アクセル操作量センサーの検出信号を入力し、このアクセル操作量センサーにより検出されたアクセル操作量が、ある閾値を越えたとき、上記コンプレッサへのエンジン出力を低減させるよう制御する制御装置とを備えている。
【0003】
そして、車両の通常走行時には、上記エンジン出力が走行駆動に用いられ、必要に応じて、上記エンジン出力の一部出力が上記コンプレッサの駆動に用いられることにより、車両に所望の走行が得られると共に、車室に所望の空調が得られることとされている。
【0004】
一方、車両を急加速させようとする場合には、通常、アクセルペダルを大きく踏み込むよう操作し、これに連動するスロットル弁のスロットル開度を急速に大きくさせ、つまり、アクセル操作量を急速に大きくさせることによりエンジン出力を増大させることが行われる。しかし、この場合、上記したようにエンジン出力の一部出力がコンプレッサの駆動に用いられているとすると、走行駆動に用いられるエンジン出力の迅速な増大が阻害されて、所望の急加速が得られず、所謂、加速のもたつき、が生じるおそれがある。
【0005】
そこで、前記したように、急加速させようとするときのアクセル操作量が、ある閾値を越えたときには、上記コンプレッサへのエンジン出力を低減させるようにしている。これにより、コンプレッサの駆動による空調は中断させられるが、走行駆動用のエンジン出力の増大が可能となって、所望の急加速が得られることとなり、もって、加速フィーリングのよい走行が得られることとされている。なお、この場合、上記したアクセル操作量の閾値は、上記急加速と空調維持との妥協点として、ある程度高い値に設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−158939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、車両を急加速させようとする際、そのときのエンジンの運転状態として、吸気の吸気温度が高温であったり、エンジンにノッキングが発生していたりして非通常の運転状態である場合には、エンジン出力は低下しがちとなる。
【0008】
このため、上記したエンジンの非通常の運転状態では、車両を急加速させようとしてアクセル操作量を急速に大きくさせる一方、コンプレッサへのエンジン出力を低減させて空調を中断させるとしても、走行駆動用のエンジン出力を十分には増大させることはできず、つまり、所望の急加速が得られないおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、エンジンの吸気の吸気温度と、ノッキングの発生の有無との検出信号によりエンジンの運転を制御することにより、エンジン出力をできるだけ良好に維持できるようにすると共に、車両を急加速させようとするとき、所望の急加速が得られるようにし、かつ、これが簡単な構成で得られるようにすることである。
【0010】
請求項1の発明は、走行駆動用エンジン2と、このエンジン3のエンジン出力Pに係るアクセル操作量Aを検出するアクセル操作量センサー27と、エンジン3への吸気12の温度を検出する吸気温度センサー28と、エンジン3でのノッキングの発生を検出するノッキングセンサー29と、上記エンジン出力Pにより駆動する空調用コンプレッサ41と、上記各センサー27〜29の検出信号を入力し、上記アクセル操作量センサー27により検出されたアクセル操作量Aが第1閾値A1を越えたとき(A>A1)、上記コンプレッサ41へのエンジン出力Pを低減させるよう制御する制御装置32とを備えた車両の駆動装置において、
上記制御装置32の制御により、上記吸気温度センサー28により検出された吸気温度Tが、ある設定値T2を越えたとき(T>T2)、エンジン3の点火時期θを第1設定値θ1だけ遅角させるようにすると共に、上記ノッキングセンサー29によりノッキングの発生が検出されたとき、上記点火時期θを第2設定値θ2だけ遅角させるようにし、
上記第1設定値θ1と第2設定値θ2との合計値(θ1+θ2)が、ある遅角設定値θTを越えたとき、上記第1閾値A1を、この第1閾値A1より低い値の他の第2閾値A2に下げるようにしたことを特徴とする車両の駆動装置。
である。
【0011】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0012】
本発明による効果は、次の如くである。
【0013】
請求項1の発明は、走行駆動用エンジンと、このエンジンのエンジン出力に係るアクセル操作量を検出するアクセル操作量センサーと、エンジンへの吸気の温度を検出する吸気温度センサーと、エンジンでのノッキングの発生を検出するノッキングセンサーと、上記エンジン出力により駆動する空調用コンプレッサと、上記各センサーの検出信号を入力し、上記アクセル操作量センサーにより検出されたアクセル操作量が第1閾値を越えたとき、上記コンプレッサへのエンジン出力を低減させるよう制御する制御装置とを備えた車両の駆動装置において、
上記制御装置の制御により、上記吸気温度センサーにより検出された吸気温度が、ある設定値を越えたとき、エンジンの点火時期を第1設定値だけ遅角させるようにすると共に、上記ノッキングセンサーによりノッキングの発生が検出されたとき、上記点火時期を第2設定値だけ遅角させるようにしている。
【0014】
ここで、エンジンの通常の運転状態では、エンジン出力の向上のため、点火時期はできるだけ進角させられる。このため、上記したように、吸気温度が高温側である設定値を越えたと判断され、かつ、ノッキングが発生していて、エンジンが非通常の運転状態であると判断された場合には、エンジン出力は低下しがちとなる。そこで、上記したように、その時点での点火時期を、上記合計値だけ遅角させている。
【0015】
よって、上記したエンジンの非通常の運転状態の場合には、その点火時期の遅角により、エンジン出力の低下が抑制されることから、このエンジン出力は良好に維持され、このエンジン出力による走行駆動やコンプレッサの駆動が良好に維持される。
【0016】
また、上記発明によれば、第1設定値と第2設定値との合計値が、ある遅角設定値を越えたとき、上記コンプレッサへのエンジン出力を低減させるためのアクセル操作量の第1閾値を、この第1閾値より低い値の他の第2閾値に下げるようにしている。
【0017】
このため、車両を急加速させようとして、アクセル操作量を急速に大きくさせた場合、このアクセル操作量が上記第1閾値に達する以前に、この第1閾値よりも小さい値の第2閾値に達して上記コンプレッサへのエンジン出力が低減させられる。よって、その分、より早い段階で、走行駆動用のエンジン出力が急速に増大して、所望の急加速が得られる。
【0018】
また、上記諸効果は、車両の駆動装置において、一般に設けられる吸気温度センサーやノッキングセンサーからの検出信号を適用することにより達成されることから、上記諸効果は簡単な構成で、安価に達成される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】車両の運転状態を示す図である。
【図2】車両の全体線図である。
【図3】制御装置のフローチャートを示す図である。
【図4】車両の他の運転状態を示す図である。
【図5】点火時期を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の車両の駆動装置に関し、エンジンの吸気の吸気温度と、ノッキングの発生の有無との検出信号によりエンジンの運転を制御することにより、エンジン出力をできるだけ良好に維持できるようにすると共に、車両を急加速させようとするとき、所望の急加速が得られるようにする、という主目的を実現するため、本発明を実施するための形態は、次の如くである。
【0021】
即ち、車両の駆動装置は、走行駆動用エンジンと、このエンジンのエンジン出力に係るアクセル操作量を検出するアクセル操作量センサーと、エンジンへの吸気の温度を検出する吸気温度センサーと、エンジンでのノッキングの発生を検出するノッキングセンサーと、上記エンジン出力により駆動する空調用コンプレッサと、上記各センサーの検出信号を入力し、上記アクセル操作量センサーにより検出されたアクセル操作量が第1閾値を越えたとき、上記コンプレッサへのエンジン出力を低減させるよう制御する制御装置とを備える。
【0022】
上記制御装置の制御により、上記吸気温度センサーにより検出された吸気温度が、ある設定値を越えたとき、エンジンの点火時期を第1設定値だけ遅角させるようにすると共に、上記ノッキングセンサーによりノッキングの発生が検出されたとき、上記点火時期を第2設定値だけ遅角させるようにする。また、上記第1設定値と第2設定値との合計値が、ある遅角設定値を越えたとき、上記第1閾値を、この第1閾値より低い値の他の第2閾値に下げるようにする。
【実施例】
【0023】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0024】
図2において、符号1は、自動車で例示される車両である。
【0025】
上記車両1は、その駆動装置2の主体として4サイクルエンジン3を備えている。このエンジン3のエンジン本体4は、車体に支持されるクランクケース5と、このクランクケース5に支持されるクランク軸6と、上記クランクケース5に突設されるシリンダ7と、このシリンダ7に嵌入されるピストン8と、上記クランク軸6とピストン8とを連動連結させる連接棒9とを備え、上記シリンダ7の上部とピストン8とで囲まれた空間が燃焼室10とされている。
【0026】
また、上記エンジン本体4は、このエンジン本体4の外部から上記燃焼室10に吸気12を流入させるよう連通し、吸気弁13で開閉される吸気通路14と、この吸気通路14の開度(スロットル開度)を運転者の操作により調整可能とするスロットル弁15と、上記燃焼室10から上記エンジン本体4の外部に排気16を流出させるよう連通し、排気弁17で開閉される排気通路18と、放電部が上記燃焼室10に臨む点火プラグ21と、この点火プラグ21に電気的に接続される点火コイル22とを備えている。
【0027】
上記クランク軸6のクランク角を検出するクランク角センサー25と、上記クランク軸6の回転数を検出する回転数センサー26と、上記吸気通路14のスロットル弁15によるスロットル開度に相当するアクセル操作量Aを検出するアクセル操作量センサー27と、上記吸気通路14を流動する吸気12の吸気温度Tを検出する吸気温度センサー28と、上記エンジン3のシリンダ7に取り付けられ、このエンジン3に発生するノッキングの頻度や強度を検出するノッキングセンサー29と、上記点火プラグ21、および上記各センサー25〜29と電気的に接続されて、これら各センサー25〜29の検出信号を入力し、これに基づき、上記エンジン3を電子的に制御する制御装置32とが設けられている。
【0028】
上記制御装置32は、中央制御装置33と、この中央制御装置33に順次接続され、エンジン3の点火時期を決定する点火時期演算部34、および上記決定された点火時期に上記点火プラグ21に放電をさせる点火回路35と、上記中央制御装置33に接続されるドライバ回路36とを備えている。
【0029】
上記エンジン3の運転時には、エンジン本体4の吸入行程として大気側の空気が燃料と混合され、この混合気が前記吸気12とされて燃焼室10に吸入される。次に、上記混合気は圧縮行程を経て、上記点火プラグ21による放電で点火させられ、爆発行程として燃焼させられる。この燃焼により燃焼室10で生じた燃焼ガスは、排気行程として前記排気16として上記排気通路18を通り、エンジン本体4の外部に排出される。そして、上記燃焼により生じたエンジン出力Pが上記クランク軸6から出力され、主に車両1の走行駆動に用いられる。なお、上記吸気12は空気のみであってもよく、この場合、燃料がシリンダ7内に噴射により供給される。
【0030】
ここで、上記スロットル弁15のスロットル開度の調整は運転者の操作によってなされ、この操作に上記スロットル開度が比例する。そして、通常、このスロットル開度に、燃焼室10に吸入される吸気12の単位時間当りの吸入量が相応してエンジン3のエンジン出力Pが増大し、車両1が加速される。そこで、上記スロットル開度と比例する運転者の操作量を、以下、アクセル操作量Aとする。
【0031】
車両1は、上記エンジン出力Pにより駆動されて車室の空調を実行する空調装置39を備えている。この空調装置39は、上記エンジン出力Pの出力軸であるクランク軸6側に電磁式クラッチ40を介し接続、切断可能に接続される冷媒圧縮用の容積式コンプレッサ41と、このコンプレッサ41で加圧された冷媒をクーリングファン42により空冷して液化させるコンデンサ43と、このコンデンサ43からの冷媒のうち、液体冷媒を抽出するレシーバタンク44とを備えている。上記クラッチ40は上記制御装置32のドライバ回路36に電気的に接続され、上記クラッチ40も上記制御装置32によって電子的に制御される。
【0032】
また、上記空調装置39は、上記レシーバタンク44からの液体冷媒をエキスパンションバルブ45を介し流入させてブロワ46により車室の空気と熱交換させるエバポレータ47を備えている。そして、このエバポレータ47で熱交換された空気は車室を空調する。一方、このエバポレータ47で熱交換された後の冷媒は、上記コンプレッサ41に戻され、以下、上記作用が繰り返される。
【0033】
図3は、上記制御装置32によるエンジン3と空調装置39との制御についてのフローチャートを示し、図3中、Sはプログラムの各ステップを示している。
【0034】
まず、図3中、S2において、エンジン3の運転時に、前記吸気温度センサー28により検出された吸気12の吸気温度Tが相当高温であって、高温側の設定値T1、例えば、80℃を越えたとする(図4中t1、T>T1)。ここで、エンジン3の通常の運転状態では、エンジン出力Pの向上のため、エンジン3の点火時期θは、ノッキングが生じ易くなるなどの支障が生じない範囲で、できるだけ進角させられて、上死点の手前の20°程度の基準時期θ0とされる(図5)。このため、上記したように、S2で、吸気温度Tが相当高温である高温側の設定値T1を越えて、エンジン3が非通常の運転状態であると判断された場合には、エンジン出力Pは低下しがちとなる。そこで、点火時期θは、その時点での点火時期(基準時期θ0)から、マップ制御により第1設定値θ1だけ遅角制御される(図4中t1)。これにより、上記したエンジン出力Pの低下が抑制される。
【0035】
ここで、車両1を急加速させようとして、アクセル操作量Aを小さい値から急速に大きくさせたとする(図4中t2)。この場合、仮に、前記従来技術のように、空調装置39のコンプレッサ41の駆動による空調維持のため、上記第1閾値A1がある程度高い値に設定されているとする。そして、上記アクセル操作量Aが上記第1閾値A1に達し(図4中t4、二点鎖線)、上記クラッチ40が切断制御されて、上記コンプレッサ41へのエンジン出力Pが低減され、コンプレッサ41がOFFされたとする(図4中t4、二点鎖線)。すると、このようにコンプレッサ41がOFFされた分、エンジン3からコンプレッサ41へのエンジン出力Pが低減される一方、走行駆動用のエンジン出力Pが増大させられる(図4中t3〜t6、二点鎖線)。
【0036】
しかし、前記したように、吸気温度Tが、より高温側の上記設定値T1を越えるエンジン3の非通常の運転状態では、既にエンジン出力Pは低下しがちな状態にある。このため、上記したようにアクセル操作量Aが第1閾値A1に達する(図4中t4、二点鎖線)まで、コンプレッサ41がOFFされないまま駆動されているとすると、このコンプレッサ41のOFFに依る走行駆動用のエンジン出力Pの増大が遅れがちとなり、車両1の車速Vにつき、加速のもたつき、が生じがちとなる(図4中t3〜t6、二点鎖線)。
【0037】
そこで、前記S2において、吸気温度Tが設定値T1を越えた(T>T1)と判断された場合には、S3において、上記コンプレッサ41をOFFにするためのアクセル操作量Aの第1閾値A1が、この第1閾値A1より低い値の第2閾値A2にまで低下するようフィードバック制御される(図4中t1)。
【0038】
そして、車両1を急加速させようとして、アクセル操作量Aを上記第2閾値A2未満の状態から急速に大きくさせたとする(図4中t2)。この場合には、前記従来の技術のように、上記アクセル操作量Aが上記第1閾値A1に達しようとしても(図4中t4)、それ以前に上記第2閾値A2に達することとなる(図4中t3)。これにより、上記クラッチ40が切断制御されて、上記コンプレッサ41へのエンジン出力Pが低減され、コンプレッサ41がOFFされる(図4中t3)。
【0039】
このため、エンジン出力Pは、上記アクセル操作量Aが大きくされ始めた時点(図4中t2)から、一旦増大(P1)するが、アクセル操作量Aが、上記第1閾値A1よりも小さい値の第2閾値A2に達して上記コンプレッサ41がOFFされた時点(図4中t3)からは、上記エンジン出力Pはコンプレッサ41の駆動に用いられなくなり、その分、走行駆動用のエンジン出力Pが急速に増大する(図4中t3〜t6、P2)。よって、吸気温度Tが設定値T1を越えた高温であって、エンジン3が非通常の運転状態であるとしても、所望の急加速が得られることとなる。
【0040】
その後、上記吸気温度Tが設定値T1以下になれば(図4中t7、T≦T1)、上記アクセル操作量Aの大きさにかかわらず、上記第2閾値A2は第1閾値A1に戻される。そして、上記アクセル操作量Aが上記第1閾値A1未満であれば(A<A1)、上記エンジン出力Pにより上記コンプレッサ41が再駆動される(図4中t7)。
【0041】
図1,3を参照して、前記S2において、エンジン3の運転時に、上記吸気温度Tが設定値T1以下であると判断された場合には、S4が実行される。このS4において、上記吸気温度Tが、高温側である設定値T1以下の値であるが、高温側のうちの、より低い側の設定値T2、例えば、65℃を越えていて、エンジン3が非通常の運転状態であると判断された場合(図1中t1、T1≧T>T2)には、エンジン3の点火時期θは、前記したのと同様の理由により、そのときの点火時期(基準時期θ0)から、マップ制御により第1設定値θ1だけ遅角される(図1中t1、図5)。これにより、エンジン出力Pの低下が抑制される。
【0042】
次に、S5が実行される。このS5において、前記ノッキングセンサー29によりノッキングが発生していて、エンジン3が非通常の運転状態であると判断された場合(図1中t3)には、エンジン3の点火時期θは、前記第1設定値θだけ遅角させるのと同様の理由により、その時点での点火時期から、マップ制御により第2設定値θ2だけ遅角させられる(図1中t3、図5)。これにより、エンジン出力Pの低下が抑制される。つまり、点火時期θは、上記した第1設定値θ1と第2設定値θ2との合計値(θ1+θ2)だけ遅角させられる(図1中t3、図5)。なお、上記第2設定値θ2は、この第2設定値θ2の遅角が実行開始(図1中t3)された後、漸減するよう制御される。
【0043】
ここで、車両1を急加速させようとして、アクセル操作量Aを小さい値から急速に大きくさせたとする(図1中t2)。この場合、仮に、前記従来技術のように、空調装置39のコンプレッサ41の駆動による空調維持のため、上記第1閾値A1がある程度高い値に設定されているとする。そして、上記アクセル操作量Aが上記第1閾値A1に達し(図1中t5、二点鎖線)、上記クラッチ40が切断制御されて、上記コンプレッサ41へのエンジン出力Pが低減され、コンプレッサ41がOFFされたとする(図1中t5、二点鎖線)。すると、このようにコンプレッサ41がOFFされた分、エンジン3からコンプレッサ41へのエンジン出力Pが低減される一方、走行駆動用のエンジン出力Pが増大させられる(図1中t4〜t7、二点鎖線)。
【0044】
しかし、前記したように、吸気温度Tが、より高温側の設定値T1よりも低い設定値T2を越える時点であるとしても、これに加えてノッキングが発生しているエンジン3の非通常の運転状態では、エンジン出力Pは低下しがちな状態にある。このため、上記したようにアクセル操作量Aが第1閾値A1に達する(図1中t5、二点鎖線)まで、コンプレッサ41がOFFされないまま駆動されているとすると、このコンプレッサ41のOFFに依る走行駆動用のエンジン出力Pの増大が遅れがちとなり、車両1の車速Vにつき、加速のもたつき、が生じがちとなる(図1中t4〜t7、二点鎖線)。
【0045】
そこで、前記S6において、第1設定値θ1と第2設定値θ2との合計値(θ1+θ2)が、ある遅角設定値θTを越えた(θ1+θ2>θT)と判断された場合には、S3において、上記コンプレッサ41をOFFにするためのアクセル操作量Aの第1閾値A1が、この第1閾値A1より低い値の第2閾値A2にまで低下するようフィードバック制御される(図1中t3)。
【0046】
そして、車両1を急加速させようとして、アクセル操作量Aを上記第2閾値A2未満の状態から急速に大きくさせたとする(図1中t2)。この場合には、前記従来の技術のように、上記アクセル操作量Aが上記第1閾値A1に達しようとしても(図1中t5)、それ以前に上記第2閾値A2に達することとなる(図1中t4)。これにより、上記クラッチ40が切断制御されて、上記コンプレッサ41へのエンジン出力Pが低減され、コンプレッサ41がOFFされる(図1中t4)。
【0047】
このため、エンジン出力Pは、上記アクセル操作量Aが大きくされ始めた時点(図1中t2)から、一旦増大(P1)するが、アクセル操作量Aが、上記第1閾値A1よりも小さい値の第2閾値A2に達して上記コンプレッサ41がOFFされた時点(図1中t4)からは、上記エンジン出力Pはコンプレッサ41の駆動に用いられなくなり、その分、走行駆動用のエンジン出力Pが急速に増大する(図1中t4〜t7、P2)。よって、吸気温度Tが設定値T2を越えた高温であり、かつ、ノッキングが生じていてエンジン3が非通常の運転状態であるとしても、所望の急加速が得られることとなる。
【0048】
その後、上記吸気温度Tが設定値T2以下になったり(図1中t8、T≦T2)、ノッキングが消滅したりすれば、上記アクセル操作量Aの大きさにかかわらず、上記第2閾値A2は第1閾値A1に戻される。そして、上記アクセル操作量Aが上記第1閾値A1未満であれば(A<A1)、上記エンジン出力Pにより上記コンプレッサ41が再駆動される(図1中t8)。
【0049】
上記構成によれば、上記制御装置32の制御により、上記吸気温度センサー28により検出された吸気温度Tが、ある設定値T2を越えたとき(T>T2)、エンジン3の点火時期θを第1設定値θ1だけ遅角させるようにすると共に、上記ノッキングセンサー29によりノッキングの発生が検出されたとき、上記点火時期θを第2設定値θ2だけ遅角させるようにしている。
【0050】
ここで、エンジン3の通常の運転状態では、エンジン出力Pの向上のため、点火時期θはできるだけ進角させられる(図5、θ0)。このため、上記したように、S4で、吸気温度Tが高温側である設定値T2を越えたと判断され(T>T2)、かつ、S5でノッキングが発生していて、エンジン3が非通常の運転状態であると判断された場合には、エンジン出力Pは低下しがちとなる。そこで、上記したように、その時点での点火時期を、上記合計値(θ1+θ2)だけ遅角させている。
【0051】
よって、上記したエンジン3の非通常の運転状態では、その点火時期θの遅角により、エンジン出力Pの低下が抑制されることから、このエンジン出力Pは良好に維持され、このエンジン出力Pによる走行駆動やコンプレッサ41の駆動が良好に維持される。
【0052】
また、前記したように、第1設定値θ1と第2設定値θ2との合計値(θ1+θ2)が、ある遅角設定値θTを越えたとき(θ1+θ2>θT)、上記コンプレッサ41へのエンジン出力Pを低減させるためのアクセル操作量Aの第1閾値A1を、この第1閾値A1より低い値の他の第2閾値A2に下げるようにしている。
【0053】
このため、車両1を急加速させようとして、アクセル操作量Aを急速に大きくさせた場合、このアクセル操作量Aが上記第1閾値A1に達する以前に、この第1閾値A1よりも小さい値の第2閾値A2に達して上記コンプレッサ41はOFFされる。よって、上記エンジン出力Pは、より早い段階でコンプレッサ41の駆動に用いられなくなり、その分、より早い段階で、走行駆動用のエンジン出力Pが急速に増大して、所望の急加速が得られる。
【0054】
また、上記諸効果は、車両1の駆動装置2において、一般に設けられる吸気温度センサー28やノッキングセンサー29からの検出信号を適用することにより達成されることから、上記諸効果は簡単な構成で、安価に達成される。
【0055】
なお、上記コンプレッサ41は容量可変式としてもよく、この場合、上記クラッチ40は設けなくてもよい。そして、上記アクセル操作量Aが第1閾値A1や第2閾値A2を越えたとき、コンプレッサ41の容量を小さくさせて、このコンプレッサ41を駆動させる上で必要なエンジン出力Pの値が小さくなるよう低減させてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 車両
2 駆動装置
3 エンジン
4 エンジン本体
12 吸気
14 吸気通路
15 スロットル弁
27 アクセル操作量センサー
28 吸気温度センサー
29 ノッキングセンサー
32 制御装置
39 空調装置
40 クラッチ
41 コンプレッサ
θ 点火時期
θ0 基準時期
θ1 第1設定値
θ2 第2設定値
θT 遅角設定値
A アクセル操作量
A1 第1閾値
A2 第2閾値
T 吸気温度
T1 設定値
T2 設定値
P エンジン出力
V 車速

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行駆動用エンジンと、このエンジンのエンジン出力に係るアクセル操作量を検出するアクセル操作量センサーと、エンジンへの吸気の温度を検出する吸気温度センサーと、エンジンでのノッキングの発生を検出するノッキングセンサーと、上記エンジン出力により駆動する空調用コンプレッサと、上記各センサーの検出信号を入力し、上記アクセル操作量センサーにより検出されたアクセル操作量が第1閾値を越えたとき、上記コンプレッサへのエンジン出力を低減させるよう制御する制御装置とを備えた車両の駆動装置において、
上記制御装置の制御により、上記吸気温度センサーにより検出された吸気温度が、ある設定値を越えたとき、エンジンの点火時期を第1設定値だけ遅角させるようにすると共に、上記ノッキングセンサーによりノッキングの発生が検出されたとき、上記点火時期を第2設定値だけ遅角させるようにし、
上記第1設定値と第2設定値との合計値が、ある遅角設定値を越えたとき、上記第1閾値を、この第1閾値より低い値の他の第2閾値に下げるようにしたことを特徴とする車両の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−92776(P2012−92776A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242300(P2010−242300)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】