説明

車両用トルクリミッタ装置

【課題】接着剤やリベットを用いずにフェーシングを固定するとともに、相手部材に万一錆が発生しても摩擦特性には影響がないトルクリミッタ装置とする。
【解決手段】第1回転軸に連結された第1部材と、第1部材に保持された第2部材との両方にフェーシングを保持し、第2回転軸に連結された摩擦プレートにその一対のフェーシングがそれぞれ常時圧接された構造とし、第1部材及び第2部材とフェーシングの少なくとも一方に互いに同芯に位置決めする位置決め手段を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド駆動装置用ダンパなどに用いられるトルクリミッタ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド駆動装置は、エンジンと電動モータとをそれぞれ駆動源としている。このように複数の駆動源を有するハイブリッド駆動装置では、駆動源が1個しかない駆動装置に比較してトルク変動が発生し易い。このためハイブリッド駆動装置には、エンジンと電動モータとの間のトルク変動を抑えるダンパ機能をもつトルク変動吸収装置が用いられている。
【0003】
例えば特開平09−226392号公報には、スプリングやゴムなどの弾性部材からなるダンパによってエンジンと電動モータによるトルク変動を抑制する技術が開示されている。しかしトルク変動が過大である場合には、弾性部材の抑制容量を大きくする必要があり、弾性部材の抑制容量が徐々に低下するような場合には、2つの駆動源がそれぞれ直接トルク変動を受けることになるので、各部材の強度を大きく設定する必要がある。
【0004】
そこで特開2002−013547号公報には、2つの駆動源によるトルク変動が所定値に達すると動力の伝達を遮断するトルクリミッタ装置を備えたハイブリッド駆動装置用ダンパが開示されている。この公報に開示されたトルクリミッタ装置の概略構造を図11に示す。このトルクリミッタ装置は、エンジンと電動モータとの間に配設され、ダンパ100の外周側に配置されている。
【0005】
ダンパ100には第2回転軸200が連結され、第2回転軸200は、図示しない遊星歯車機構を介して電動モータの回転軸に連結されている。ダンパ100は、第2回転軸200とスプライン結合しており、軸方向に変位可能とされている。トルクリミッタ装置は、ダンパ100の外周面に固定された平板リング形状の芯プレート101を有し、芯プレート101の両面にはそれぞれフェーシング102が接着されている。芯プレート101は、第2回転軸200と同軸にあるエンジンの出力軸103に連結され出力軸103と共に回転駆動する第1回転部材104と、第1回転部材104に対して軸方向に相対移動可能に保持された第2回転部材105との間に配置されている。第2回転部材105の背面には皿バネ106が配置され、第1回転部材104に固定された固定プレート107が皿バネ106を押圧している。したがって芯プレート101の両面に接着されたフェーシング102は、一方が第1回転部材104に、他方が第2回転部材105に、それぞれ常時押圧されている。
【0006】
このように構成されたトルクリミッタ装置では、トルク変動が所定値より小さい範囲においては、エンジンの出力軸103の回転がトルクリミッタ装置を介してダンパ100にそのまま伝達される。そしてダンパ100に設けられた図示しない弾性部材がトルク変動に応じて弾性変形しながら、エンジンの出力軸103の回転が第2回転軸200に伝達される。そしてトルク変動が所定値を超えると、フェーシング102が第1回転部材104と第2回転部材105に対して滑り出し、所定値以上のトルク変動を伝達しなくなる。第2回転部材105は第1回転部材104に対して軸方向に相対移動可能であり、芯プレート101はダンパ100と共に軸方向へ変位可能であるので、皿バネ106の付勢力によってフェーシング102の摩耗に追従して第2回転部材105及び芯プレート101が軸方向へ変位する。
【0007】
上記したトルクリミッタ装置では、フェーシング102を接着剤で芯プレート101に接着している。しかし芯プレート101とフェーシング102とは共に平板リング形状であるために、接着の際におけるフェーシング102と芯プレート101との位置決め精度及び芯合わせ精度を高くすることが難しいという問題があった。またリベットを用いてフェーシング102を芯プレート101に固定することも一般に行われているが、部品点数が多く自動化が容易でないという不具合がある。
【0008】
そこで特開2010−223294号公報には、上述したトルクリミッタ装置用のフェーシング102として用いることができる乾式摩擦材が開示されている。同公報に開示された技術によれば、芯プレート101とフェーシング102の少なくとも一方に、互いに同芯に位置決めするための位置決め手段を形成したので、接着剤やリベットを用いずにフェーシング102を芯プレート101に固定することができる。この位置決め手段としては、凹凸係合などが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平09−226392号公報
【特許文献2】特開2002−013547号公報
【特許文献3】特開2010−223294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記したような車両用トルクリミッタ装置においては、摩擦摺動時に安定した摩擦係数が発現することが重要である。ところが、浸水地域走行時やぬかるみ走行時などにフェーシング102に水が含浸し、第1回転部材104又は第2回転部材105に錆が発生することでフェーシング102が固着することが想定され、錆の発生を抑制する化成処理などの方策が採られている。しかし化成処理などの工数が掛かるので、工数を低減して錆の問題を解決するには、第1回転部材104及び第2回転部材105をステンレス鋼などから形成するのが望ましい。
【0011】
ところがステンレス鋼などは機械加工が比較的困難な材料であるため、第1回転部材104及び第2回転部材105の形状によってはこれらの製造が困難となる場合がある。またフェーシング102となる乾式摩擦材に、位置決め手段として貫通孔などの凹部を形成する場合には、強度の低下を回避するためにガラス繊維などの補強材を増量する必要がある。しかしガラス繊維を増量すると水が含浸し易くなり、相手部材が錆易くなるという問題がある。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、接着剤やリベットを用いずにフェーシングを固定するとともに、上述の第1回転部材104及び第2回転部材105などの相手部材に万一錆が発生しても、摩擦特性には影響がないトルクリミッタ装置とすることを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明の車両用トルクリミッタ装置の特徴は、互いに同軸な第1回転軸と第2回転軸との間に設けられたトルクリミッタ装置であって、第1回転軸に連結され径方向外方に延設された第1部材と、第2回転軸に連結され径方向外方に延設されて第1部材と対向する平板リング形状の摩擦プレートと、第1部材に保持され第1部材と反対側で摩擦プレートと対向する第2部材と、第2部材を摩擦プレートに向かって押圧する付勢部材と、を備え、摩擦プレートと対向する第1部材及び第2部材の表面にはそれぞれ平板リング形状のフェーシングが保持されて付勢部材によって常時摩擦プレートの両表面にそれぞれ押圧され、第1部材及び/又はフェーシングと第2部材及び/又はフェーシングとには互いに同芯に位置決めするための位置決め手段がそれぞれ設けられたことにある。
【発明の効果】
【0014】
本発明の車両用トルクリミッタ装置によれば、フェーシングは第1部材と第2部材にそれぞれ保持され、常時フェーシングが摩擦プレートに押し付けられているので、摩擦プレートは第1部材及び第2部材と同期して回転する。そしてトルク変動が所定値を超えると、それぞれのフェーシングが摩擦プレートに対して滑り出し、所定値以上のトルク変動を伝達しなくなる。したがって第1部材と第2部材の少なくとも一方に錆が発生してフェーシングが万一固着したとしても、フェーシングと摩擦プレートとの間の摩擦特性には影響がない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例に係るトルクリミッタ装置を用いたトルク変動吸収装置の断面図である。
【図2】本発明の一実施例に係るトルクリミッタ装置の分解斜視図である。
【図3】本発明の一実施例に係るトルクリミッタ装置の要部分解断面図である。
【図4】本発明の第2の実施例に係るトルクリミッタ装置の要部分解断面図である。
【図5】本発明の第3の実施例に係るトルクリミッタ装置の要部を切り出した分解斜視図である。
【図6】本発明の第4の実施例に係るトルクリミッタ装置に用いたフェーシングの平面図である。
【図7】本発明の第5の実施例に係るトルクリミッタ装置の要部分解断面図である。
【図8】本発明の第6の実施例に係るトルクリミッタ装置の要部正面図である。
【図9】本発明の第7の実施例に係るトルクリミッタ装置の要部正面図である。
【図10】図9のA−A断面図である。
【図11】従来のトルクリミッタ装置を用いたトルク変動吸収装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の車両用トルクリミッタ装置は、互いに同軸な第1回転軸と第2回転軸との間に設けられている。ハイブリッド駆動装置を例に挙げて説明すると、第1回転軸とはエンジン及び電動モータのうちの一方の回転軸であり、第2回転軸とはエンジン及び電動モータのうちの他方の回転軸である。エンジンと電動モータの両方を搭載したハイブリッド駆動装置によれば、トルク変動が発生し易いため、本発明に係るトルクリミッタ装置はきわめて有効である。
【0017】
第1部材は、第1回転軸に連結され径方向外方に延設された部材であり、例えば第1回転軸がエンジンの回転軸の場合には、第1部材はフライホイールなどとすることができる。第2部材は第1部材に保持され、第1部材と共に回転する。そして第1部材と第2部材との間に摩擦プレートが配置されている。第2部材は、付勢部材によって摩擦プレートに向かう方向に押圧されている。
【0018】
摩擦プレートは平板リング形状をなし、常時は第1部材及び第2部材に保持されたフェーシングが押し付けられることによる摩擦抵抗によって、第1部材の回転を第2回転軸に伝達する。そしてトルク変動が所定値を超えると、それぞれのフェーシングが摩擦プレートに対して滑り出し、所定値以上のトルク変動を伝達しなくなる。したがって摩擦プレートは表面が防錆処理された金属製又はステンレス鋼などから形成し、錆を防止することで固着による摺動時の摩擦特性の変化を防止することが望ましい。摩擦プレートは平板リング状の単純な形状であるので、ステンレス鋼からでも容易に製造することができる。
【0019】
付勢部材は、第2部材を摩擦プレートに向かう方向へ押圧するものであり、例えば皿バネ、板バネ、コイルスプリングなどが例示される。なお第2部材は、第1部材に対して軸方向に相対移動可能に保持されていることが望ましい。このようにすることで、フェーシングの摩耗に追従して第2部材が摩擦プレートに近づく方向へ移動するので、付勢部材の付勢力が安定して伝達され常時の圧接状態を安定して維持することができる。
【0020】
また摩擦プレートは、第2回転軸に対して軸方向に変位可能に取付けられていることが望ましい。このようにすることで、フェーシングの摩耗に追従して摩擦プレートが第1部材に近づく方向へ移動するので、付勢部材の付勢力が安定して伝達され常時の圧接状態を安定して維持することができる。
【0021】
第1部材と第2部材の摩擦プレートに対向する表面には、それぞれフェーシングが保持され、第1部材とフェーシングの少なくとも一方と、第2部材とフェーシングの少なくとも一方には、互いに同芯に位置決めするための位置決め手段が設けられている。
【0022】
ここでフェーシングはいわゆる乾式摩擦材と称されるものであり、熱硬化性樹脂、ゴム、充填材などから加圧成形により製造された平板リング形状のものである。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などが例示され、特に、メラミン変性フェノール樹脂を始めとする変性フェノール樹脂が好ましい。またゴムとしては、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴムなどの合成ゴム、天然ゴムなどが例示される。充填材としては、レジンダスト、炭酸カルシウム、ガラス繊維などが例示される。
【0023】
このフェーシングを製造するには、先ずガラス繊維などの補強繊維に未硬化の熱硬化性樹脂液を含浸させて樹脂含浸紐を形成する。続いて未加硫ゴムに顔料、硫黄、加硫促進剤、レジンダスト、炭酸カルシウム、などを混合した配合ゴムを調製し、樹脂含浸紐に所定量の配合ゴムを付着させたものを所定の大きさのドーナツ状に巻き取る。これを金型に押し込み、加熱加圧成形することで、平板リング状のフェーシングが得られる。
【0024】
位置決め手段とは、第1部材又は第2部材とフェーシングとを互いに同芯に位置決めする手段であり、以下の4種から選択される手段を単独で、あるいは複数種を組み合わせて採用することができる。付勢部材の存在によって、フェーシングは第1部材と摩擦プレートとに、及び第2部材と摩擦プレートとに、常時押し付けられている。したがって位置決め手段によってフェーシングを第1部材及び第2部材と同芯に位置決めするだけで、接着剤やリベットなどを不要として第1部材及び第2部材に保持固定することができる。
(1)第1部材又は第2部材に形成された突起をフェーシングに形成された凹部又は貫通孔と係合させる手段
(2)フェーシングに形成された突起を第1部材又は第2部材に形成された凹部又は貫通孔と係合させる手段
(3)第1部材又は第2部材に形成された位置決めピンにフェーシングの外周縁を沿わせて配置させる手段
(4)第1部材又は第2部材に形成された位置決めピンにフェーシングの内周縁を沿わせて配置させる手段
フェーシング自体は金属に比べて強度が低いが、凹部又は貫通孔の数や形状、あるいは材料組成の変更などによって、上記(2)の手段も十分に可能である。しかし(1)のようにフェーシングに凹部又は貫通孔を形成し、第1部材又は第2部材に形成された突起を係合させるのが好ましい。この場合、位置決めをするには凹部又は貫通孔が1個では用をなさないので、凹部又は貫通孔は少なくとも2個形成し、第1部材又は第2部材の対応する位置に形成された少なくとも2個の突起と係合させる必要がある。またフェーシングに均一な拘束力を付与するためには、リング形状の全周に亘って同一の角度毎に、5個以上の突起と5個以上の凹部又は貫通孔を形成することが望ましい。なお突起の高さは、使用時の摩擦摺動によって摩耗した場合のフェーシングの厚さ未満としなければならないことは言うまでもない。
【0025】
凹部又は貫通孔と突起の形状は、断面で同一形状として位置決め精度を高くすることが好ましい。また、凹部又は貫通孔に突起が嵌合するように構成すれば、フェーシングをより強固に固定することができる。凹部又は貫通孔に突起が嵌合する構造としては、突起を先端に向かうほど径が小さくなるテーパ形状とし突起の根元で嵌合させる構造、凹部又は貫通孔の内径を入口から奥に向かって小さくなるテーパ形状として突起と嵌合させる構造、凹部又は貫通孔の内周表面あるいは突起の外周表面を断面波形形状とし波形形状の凸部で嵌合させる構造、などが例示される。また、複数の突起を結ぶ円の径と、複数の凹部又は貫通孔を結ぶ円の径とを僅かにずらすことで嵌合させる構造を採用することもできる。
【0026】
上記(3)、(4)の手段を採用する場合には、円周上に複数個の位置決めピンを配置し、その内周又は外周に沿ってフェーシングを配置することで同芯に位置決めすることができる。この場合、使用時にフェーシングが第1部材又は第2部材に対して円周方向に相対的に移動するのを防止することが望ましい。このようにするには、一部に(1)又は(2)の手段を併用した構造とすればよい。あるいはフェーシングの第1部材又は第2部材に当接する表面にゴム成分を多くするなど高摩擦加工して滑りにくくする方法もある。また位置決めピンをフェーシングの一部と係合するフック形状とすることもできる。
【0027】
以下、実施例により本発明の実施態様を具体的に説明する。
【実施例1】
【0028】
図1に本実施例に係るトルクリミッタ装置を用いたトルク変動吸収装置の断面図を示す。このトルク変動吸収装置は、エンジンと電動モータとを搭載するハイブリッド自動車に用いられている。
【0029】
このトルク1変動吸収装置は、互いに対向するように同軸的に配置された第1回転軸1と第2回転軸2との間に設けられており、第1回転軸1から第2回転軸2へトルクを伝達させると共に、トルク変動が発生したときトルク変動を抑制するものである。第1回転軸1には、径方向外方に延設された第1部材としてのフライホイール10が連結固定されている。このフライホイール10は円盤状をなしており、エンジンの出力軸に連結された第1回転軸1の端面に取付ボルト11によって同軸的に固定されている。
【0030】
図2に、第1回転軸1側に取付けられた部材の分解斜視図を示す。金属製のフライホイール10は、円板部10aと円板部10aの周縁部にリング状に形成された厚肉のウエイト部10bとからなる。ウエイト部10bには、6個のボルト穴10cが周方向で等間隔に形成されている。円板部10aの中心には第1回転軸1の先端が挿入される中心孔10dが貫通し、中心孔10dの周囲には、取付ボルト11が挿通される6個の貫通孔10eと、円柱状の6個の突起10fと、円板部10aを貫通する6個のスリット10gとが、内周から外周に向かってこの順で形成されている。貫通孔10eと、突起10fと、スリット10gとは、円板部10aの中心を中心とする同心円上にそれぞれ形成され、それぞれ周方向に等間隔に形成されている。
【0031】
フライホイール10には、ウエイト部10bの内側に平板リング形状のフェーシング3が配置されている。フェーシング3は、外径φ220mm×内径φ190mm×厚さ2.4mmの平板リング形状をなし、厚さ方向に表裏を貫通する6個の貫通孔30が周方向に等間隔に形成されている。そして6個の貫通孔30に6個の突起10fがそれぞれ係合することで、フェーシング3がフライホイール10に保持されている。
【0032】
フライホイール10には、第2部材としての金属製の押圧プレート4が組付けられている。押圧プレート4の外周には軸方向に延びる6枚の爪部40が延設されている。また押圧プレート4のフライホイール10に対向する側の表面には、突起10fと同様に周方向に等間隔に並ぶ6個の突起41が形成されている。そしてフェーシング3と同一のフェーシング3’の貫通孔30'に突起41が係合することでフェーシング3’が押圧プレート4に取付けられ、爪部40がスリット10gに挿通されることで、押圧プレート4がフライホイール10に組付けられている。また爪部40はスリット10g内を軸方向に相対移動可能となっている。
【0033】
なおフェーシング3,3’は、メラミン変性フェノール樹脂とガラス繊維などからなる樹脂含浸紐に、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、レジンダスト、炭酸カルシウム、硫黄などからなる配合ゴムを付着させ、所定の大きさのドーナツ状に巻き取って金型に押し込み、面圧15MPa、温度165℃で加熱加圧成形することで製造されている。貫通孔30,30'は、フェーシング3,3’の成形時に同時に形成された。
【0034】
第2回転軸2には、ダンパ7が組付けられている。ダンパ7は特許文献2に記載のものと同様のものであり、第1回転軸1のトルクを第2回転軸2へ自身の弾発力を介して伝達させるものであって、図示しない複数のコイルバネによって周方向に弾性収縮できるように構成されている。ダンパ7の外周表面にはステンレス鋼から形成された平板リング形状の摩擦プレート8が固定されている。摩擦プレート8はダンパ7の径方向外方に延設され、フライホイール10に保持されたフェーシング3及び押圧プレート4に保持されたフェーシング3’とそれぞれ対向するように配置されている。
【0035】
ダンパ7は、第2回転軸2とスプライン結合しており、フェーシング3,3’の摩耗に追従して軸方向に変位可能とされている。
【0036】
押圧プレート4の外側には、付勢部材としての皿バネ5と固定プレート6が組付けられている。固定プレート6は皿バネ5の外縁と当接するリング部60と、リング部60から皿バネ5の厚さ(高さ)分延びる筒部61と、筒部61の先端から径方向外方へ延びるフランジ部62とを有し、フランジ部62には6個の貫通孔63が周方向に等間隔に形成されている。そしてボルト64が貫通孔63に挿通されてフライホイール10のボルト穴10cに螺合することで、固定プレート6によって押圧された皿バネ5が押圧プレート4を軸方向に押圧し、フェーシング3,3’がそれぞれ摩擦プレート8に圧接されている。
【0037】
したがって第1回転軸1のトルク変動が所定の範囲内にある場合には、フェーシング3,3’が摩擦プレート8に圧接されているため、摩擦プレート8は第1回転軸1と同期して回転する。そして第1回転軸1のトルクはフライホイール10、押圧プレート4、フェーシング3とフェーシング3’、摩擦プレート8を介してダンパ7に伝わり、ダンパ7によってトルク変動が吸収され、変動が吸収された第1回転軸1のトルクが第2回転軸2に伝達される。
【0038】
一方、第1回転軸1のトルク変動が所定値を超え、ダンパ7による吸収量を超えた場合には、フェーシング3,3’と摩擦プレート8との間に滑りが生じ、第1回転軸1から第2回転軸2へのトルク伝達が遮断されるので、第2回転軸2へ過大なトルク変動が伝達されるのを阻止することができる。すなわちフライホイール10、押圧プレート4、フェーシング3,3’、摩擦プレート8、皿バネ5,固定プレート6によって本実施例のトルクリミッタ装置が構成されている。
【0039】
そして使用時にフェーシング3,3’に水が付着したとしても、摩擦プレート8はステンレス鋼製であるので、錆によってフェーシング3,3’が固着するのを未然に防止できる。またフライホイール10や押圧プレート4に錆が生じてフェーシング3,3’が固着したとしても、フェーシング3,3’はフライホイール10と押圧プレート4にそれぞれ保持固定されているので、固着による問題は全く無い。
【0040】
図3に拡大して示すように、貫通孔30,30'は真円形状をなし、突起10f,41は断面真円形状をなし、共に同一の直径(φ5mm)を有している。したがって貫通孔30,30'に突起10f,41をそれぞれ挿入することで、フェーシング3,3’をフライホイール10及び押圧プレート4へ位置決め精度高く取付けることができる。また突起10f,41の高さは1.2mmであり、貫通孔30,30'の長さ(フェーシング3,3’の厚さ)の50%とされ、フェーシング3,3’が摩耗したとしても、突起10f,41が摩擦プレート4と当接することが無いように設計されている。
【実施例2】
【0041】
本実施例は、フェーシング3,3’における貫通孔30,30'の形状が異なること以外は実施例1と同様であるので、異なる部分についてのみ説明する。
【0042】
図4に示すように、貫通孔30,30'は突起10f,41に対向する入口側から出口側に向かって径が小さくなるテーパ形状に形成されている。入口側の径は実施例1と同様のφ5mmであり、出口側の径はφ3mmとなっている。したがって貫通孔30,30'に直径φ5mmの突起10f,41をそれぞれ挿入する際には、挿入につれて突起10f,41が貫通孔30,30'を押し広げることになり、拘束力が増大するためフェーシング3,3’の取付け強度が向上する。
【実施例3】
【0043】
本実施例は、フェーシング3,3’における貫通孔30,30'と突起10f,41の形状が異なること以外は実施例1と同様であるので、異なる部分についてのみ説明する。
【0044】
図5に示すように、突起10f,41は外周が凹凸の連続する断面略星形に形成され、最大径はφ7mmであり、最小径はφ5mmである。また貫通孔30,30'の径はφ6mmである。したがって貫通孔30,30'に突起10f,41をそれぞれ挿入する際には、挿入につれて突起10f,41の外周の凸部が貫通孔30,30'を押し広げることになり、拘束力が増大するためフェーシング3,3’の取付け強度が向上する。
【実施例4】
【0045】
本実施例は、フェーシング3,3’における貫通孔30,30'と突起10f,41の形状が異なること以外は実施例1と同様であるので、異なる部分についてのみ説明する。
【0046】
図6に示すように、貫通孔30,30'は内周が凹凸の連続する断面略星形に形成され、最大内径はφ7mmであり、最小内径はφ5mmである。また突起10f,41の径はφ6mmである。したがって貫通孔30,30'に突起10f,41をそれぞれ挿入する際には、挿入につれて突起10f,41が貫通孔30,30'の最小内径部を押し広げることになり、拘束力が増大するためフェーシング3,3’の取付け強度が向上する。
【実施例5】
【0047】
本実施例は、フェーシング3,3’における貫通孔30,30'の形状が異なること、別部材としてオーリングを用いたこと以外は実施例1と同様であるので、異なる部分についてのみ説明する。
【0048】
図7に示すように、貫通孔30,30'はフライホイール10及び押圧プレート4に対向する入口側に内径の大きな大内径部31,31'を有し、この大内径部31,31'にオーリング32が配置されている。オーリング32の内径は突起10f,41の径より僅かに小さい。したがって貫通孔30,30'に突起10f,41をそれぞれ挿入すると、突起10f,41がオーリング32によって拘束されることになり、フェーシング3,3’の取付け強度が向上する。
【実施例6】
【0049】
本実施例は、突起10f,41の形状が異なること以外は実施例1と同様であるので、異なる部分についてのみ説明する。
【0050】
各6個の突起10f,41の軸中心はそれぞれ同一円の円周上に位置し、実施例1においては、その円はフェーシング3,3’における貫通孔30,30'の中心を連結する円と同一であった。しかし本実施例では、図8に示すように、各6個の突起10f,41の軸中心を連結する円は、貫通孔30,30'の中心を連結する円よりも僅かに径が大きくなるように設計されている。したがって貫通孔30,30'に突起10f,41をそれぞれ挿入すると、貫通孔30,30'が外径側へ伸長するようにして突起10f,41と嵌合することになり、フェーシング3,3’の全周に亘って均一に伸長力が加わるため取付け強度が向上する。
【実施例7】
【0051】
本実施例は、フェーシング3,3’の形状及び構造とその取付け構造が異なること以外は実施例1と同様であるので、異なる部分についてのみ説明する。
【0052】
図9,10に示すように、フライホイール10及び押圧プレート4には、突起10f,41に代えて、フェーシング3,3’の内周縁及び外周縁が接する位置にそれぞれ複数の内周位置決めピン12,42と外周位置決めピン13,43が立設されている。内周位置決めピン12,42と外周位置決めピン13,43の高さはフェーシング3,3’の厚さの約50%である。またフェーシング3,3’は貫通孔30,30'をもたず、一表面側に配合ゴムのみから形成されたゴム層33,33'を有し、ゴム層33,33'がフライホイール10及び押圧プレート4に当接するように内周位置決めピン12,42と外周位置決めピン13,43との間に保持されている。
【0053】
本実施例によれば、内周位置決めピン12,42と外周位置決めピン13,43によってフェーシング3,3’を位置決め精度高く取付けることができる。また摩擦係数の大きなゴム層33,33'がフライホイール10及び押圧プレート4に圧接されているので、フェーシング3,3’がフライホイール10及び押圧プレート4に対して周方向に相対移動するのが防止されている。
【0054】
なおゴム層33,33'は、本実施例以外の実施例におけるフェーシング3,3’にも形成することが望ましい。こうすることでフェーシング3,3’のフライホイール10及び押圧プレート4に対する相対移動を確実に規制できるので、貫通孔30,30'が変形したりするような不具合を防止することができる。またゴム層33,33'に代えて、接着剤コーティング層を形成してもよい。接着剤コーティング層は軟質でありゴム層33,33'と同様の摩擦係数が得られる。
【0055】
また本実施例では、内周位置決めピン12,42と外周位置決めピン13,43の両方でフェーシング3,3’を位置決め保持したが、内周位置決めピン12,42と外周位置決めピン13,43のいずれか一方のみでも同様の効果が発現される。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のトルクリミッタ装置は、ハイブリッド駆動装置のダンパなどに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0057】
1:第1回転軸 2:第2回転軸 3,3’:フェーシング
4:押圧プレート(第2部材) 5:皿バネ(付勢部材)
6:固定プレート 7:ダンパ 8:摩擦プレート
10:フライホイール(第1部材) 10f,41:突起(位置決め手段)
30,30':貫通孔(位置決め手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同軸な第1回転軸と第2回転軸との間に設けられたトルクリミッタ装置であって、
該第1回転軸に連結され径方向外方に延設された第1部材と、
該第2回転軸に連結され径方向外方に延設されて該第1部材と対向する平板リング形状の摩擦プレートと、
該第1部材に保持され該第1部材と反対側で該摩擦プレートと対向する第2部材と、
該第2部材を該摩擦プレートに向かって押圧する付勢部材と、を備え、
該摩擦プレートと対向する該第1部材及び該第2部材の表面にはそれぞれ平板リング形状のフェーシングが保持されて該付勢部材によって常時該摩擦プレートの両表面にそれぞれ押圧され、
該第1部材及び/又は該フェーシングと該第2部材及び/又は該フェーシングとには互いに同芯に位置決めするための位置決め手段がそれぞれ設けられたことを特徴とする車両用トルクリミッタ装置。
【請求項2】
前記摩擦プレートは表面が防錆処理された金属製又はステンレス鋼製である請求項1に記載の車両用トルクリミッタ装置。
【請求項3】
前記摩擦プレートは前記第2回転軸に対して軸方向に相対移動可能に取付けられ、前記第2部材は前記第1部材に対して軸方向に相対移動可能に保持されている請求項1又は請求項2に記載の車両用トルクリミッタ装置。
【請求項4】
前記位置決め手段は、前記フェーシングに設けられた二箇所以上の凹部又は貫通孔と、前記第1部材及び前記第2部材から突出し該凹部又は該貫通孔とそれぞれ係合する二箇所以上の凸部である請求項1〜3のいずれかに記載の車両用トルクリミッタ装置。
【請求項5】
前記位置決め手段は、前記第1部材及び前記第2部材から突出し前記フェーシングの外周縁及び内周縁の少なくとも一方に接する複数の位置決めピンである請求項1〜3のいずれかに記載の車両用トルクリミッタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−102755(P2012−102755A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248919(P2010−248919)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】