説明

車両用ドアクローザ装置

【課題】キャンセルピンへの負荷を従来より小さくすることが可能な車両用ドアクローザ装置を提供する。
【解決手段】本発明のクローザ装置10Bでは、ラッチ駆動レバー28からの反力を受ける加圧部62Aが、パッシブレバー62の径方向における中間部に配置されているので、パッシブレバー62の先端部に配置された受圧支柱62Jとキャンセルレバー55との間では、ラッチ駆動レバー28からの反力による負荷は軽減される。そして、その軽減された負荷がキャンセルレバー55からキャンセルピン63Pに付与されるので、従来よりキャンセルピン63Pへの負荷を小さくすることができる。これにより、非常時にキャンセルピン63Pをキャンセルピン係止部51Bから容易に離脱することができ、ラッチ20とストライカ40との係合を解除してスライドドア90を迅速に開放することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のドアが半ドア状態になった場合に、ラッチに動力を付与してドアを全閉状態に移行することが可能な車両用ドアクローザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図21及び図22に示した従来の車両用ドアクローザ装置は、扇形ギヤ回動板1とパッシブレバー2とを同一の回動支持ピン3にて回転可能に軸支して備えている。扇形ギヤ回動板1には、円弧溝1Aと、その円弧溝1Aから分岐した係止溝1Bとが形成されている。一方、パッシブレバー2には、径方向に延びたガイド溝2Aが形成されている。また、通常は、ガイド溝2Aの一端部を係止溝1Bに重ねた状態にしてそこにキャンセルピン4が挿通され、これにより扇形ギヤ回動板1とパッシブレバー2とが一体回転する。そして、扇形ギヤ回動板1にモータ9の動力が付与されると、パッシブレバー2に備えた加圧部2Xがラッチ(図示せず)に備えたラッチ駆動レバー8を押圧し、これによりラッチが回動してドアが全閉状態に移行する。また、キャンセルピン4をガイド溝2Aの他端部に移動すると、扇形ギヤ回動板1とパッシブレバー2とが別々に回動可能になる。これにより、例えば、ドアが全閉状態でモータ9が失陥しても、ラッチが回動可能になってドアを開くことができる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−182407号公報(段落[0010]〜[0012]、第1図、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、ドアが全閉状態に近づくと、ドアとドア枠との間で押し潰された防塵ゴムの弾発力により、上記キャンセルピン4がガイド溝2Aの内面に押し付けられて摩擦係合する。このため、モータ9が失陥した非常時にキャンセルピン4をガイド溝2Aの一端部から他端部に移動操作することが困難になり得る。そこで、上記した従来の車両用ドアクローザ装置より、キャンセルピン4に対する負荷(力)を小さくすることが可能な車両用ドアクローザ装置の開発が求められていた。また、キャンセルピン4を太くせずに強度を確保するという観点からも同様にキャンセルピン4に対する負荷を小さくすることが求められていた。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、キャンセルピンへの負荷を従来より小さくすることが可能な車両用ドアクローザ装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る車両用ドアクローザ装置は、車両のドアに取り付けられ、車両本体に備えたストライカと噛み合って回動するラッチと、ラッチと一体に回転するラッチ駆動レバーと、半ドア状態でラッチ駆動レバーに動力を付与してラッチを回転駆動し、ドアを完全に閉じた全閉状態に移行させるためのモータとを備えた車両用ドアクローザ装置において、扇形状をなしてその頂点部分を中心に回動可能に軸支されかつ、周縁部にモータがギヤ連結した扇形ギヤ回動板と、扇形ギヤ回動板と同じ回動軸を中心に回動可能に軸支され、扇形ギヤ回動板の周縁部より外側まで延びたパッシブレバーと、パッシブレバーの径方向における中間部に設けられ、ラッチ駆動レバーに当接して動力を付与可能な加圧部と、パッシブレバーの先端部に設けられ、扇形ギヤ回動板の外側で円弧軌跡を描いて移動可能な受圧部と、扇形ギヤ回動板の周縁部に回動可能に取り付けられ、受圧部の移動領域内に張り出した動力伝達位置と、受圧部の移動領域から退避した動力断絶位置との間を移動可能なキャンセルレバーと、キャンセルレバーを動力伝達位置に位置決めするためのキャンセルピンと、扇形ギヤ回動板のうちキャンセルレバーの回動領域と重なる位置に形成され、扇形ギヤ回動板の回動方向と交差する方向でキャンセルピンを着脱可能に受容し、扇形ギヤ回動板の回動方向でキャンセルピンを位置決めするキャンセルピン係止部と、操作によりキャンセルピンをキャンセルピン係止部から離脱させるためのキャンセルピン操作部とを備えたところに特徴を有する。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1に記載の車両用ドアクローザ装置において、キャンセルピンを移動可能に受容したキャンセルピン受容溝を形成し、キャンセルピン受容溝のうちキャンセルレバーの回動領域と重なった部分をキャンセルピン係止部とする一方、キャンセルピン受容溝のうちキャンセルレバーの回動領域と重なっていない部分をキャンセルピン係止解除部とし、キャンセルピン操作部の操作によって、キャンセルピンをキャンセルピン係止部及びキャンセルピン係止解除部の何れの位置にも移動可能としたところに特徴を有する。
【0007】
請求項3の発明は、請求項2に記載の車両用ドアクローザ装置において、キャンセルピンがキャンセルピン係止解除部に配置された状態で、キャンセルレバーを動力伝達位置に保持すると共に、弾性変形してキャンセルレバーの両方向への回動を許容するレバー保持弾性部材を設けたところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の車両用ドアクローザ装置では、扇形ギヤ回動板の周縁部にキャンセルレバーが回動可能に取り付けられ、扇形ギヤ回動板のキャンセルピン係止部に係止したキャンセルピンによって通常はキャンセルレバーの回動が規制されている。また、扇形ギヤ回動板と同じ回動軸を中心に回動するパッシブレバーは、扇形ギヤ回動板の周縁部より外側まで延び、その先端部に設けられた受圧部が、扇形ギヤ回動板の外側で円弧軌跡を描いて移動可能になっている。そして、半ドア状態になったときにモータが扇形ギヤ回動板を回転駆動すると、キャンセルレバーがパッシブレバーの受圧部を押圧してパッシブレバーが扇形ギヤ回動板と一体に回動し、パッシブレバーに備えた加圧部がラッチ駆動レバーを押す。これによりラッチが回転駆動され、ドアが全閉状態に移行する。ここで、ラッチ駆動レバーからの反力を受ける前記加圧部は、パッシブレバーの径方向における中間部に配置されているので、パッシブレバーの先端部に配置された受圧部とキャンセルレバーとの間では、ラッチ駆動レバーからの反力による負荷は軽減される。そして、その軽減された負荷がキャンセルレバーからキャンセルピンに付与されるので、従来の車両用ドアクローザ装置よりキャンセルピンへの負荷を小さくすることができる。これにより、非常時にキャンセルピンをキャンセルピン係止部から容易に離脱することができ、ラッチとストライカとの係合を解除してドアを迅速に開放することができると共に、キャンセルピンを太くせずに強度を確保することができる。
【0009】
ここで、キャンセルピン係止部をキャンセルピンが嵌合したピン孔とし、キャンセルピン操作部を操作することで、キャンセルピンをピン孔から引き抜く構成にしてもよいし、請求項2のように、キャンセルピン係止部とキャンセルピン係止解除部とを有したキャンセルピン受容溝を形成しておき、キャンセルピン操作部の操作によって、キャンセルピンをキャンセルピン係止部及びキャンセルピン係止解除部の何れの位置にも移動可能としてもよい。この請求項2の構成によれば、モータの失陥時、キャンセルピン操作部の操作によってキャンセルピン受容溝内でキャンセルピンを移動してキャンセルピン係止解除部に配置した後、そのキャンセルピン操作部の操作によってキャンセルピンをキャンセルピン受容溝内で逆側に移動して元のキャンセルピン係止部に戻すことができるので、モータの復旧後に車両用ドアクローザ装置を容易に元の状態に戻すことができる。
【0010】
また、請求項3の構成によれば、モータの失陥時にキャンセルピンをキャンセルピン係止解除部に移動すると、キャンセルレバーはレバー保持弾性部材によって動力伝達位置に保持される。これにより、パッシブレバーの受圧部がキャンセルレバーを動力伝達位置から動力断絶位置へと押し退けるようにして通過した後、キャンセルレバーは動力伝達位置に復帰する。これと同様に、モータの復旧後に受圧部をキャンセルレバーに対する元の配置に戻した際にも、キャンセルレバーは受圧部が通過後に動力伝達位置に復帰する。そして、その状態でキャンセルピンをキャンセルピン係止部に戻せば、車両用ドアクローザ装置がモータの失陥前の状態に戻る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図18に基づいて説明する。図1には、本発明に係る車両用ドアクローザ装置10B(以下、単に、「クローザ装置10B」という)を備えたスライドドア90を有する車両が示されている。このスライドドア90は、車両本体99の昇降口を閉じた状態から斜め後方に後退しかつ、途中から真っ直ぐ後退して全開状態になる。そして、このスライドドア90には、前記クローザ装置10B以外に、スライドドア90を閉鎖状態に保持するための閉鎖ドアロック装置10Aと、全開状態に保持するための本発明に係る全開ドアロック装置10Cと、ドア操作ハンドル91とが備えられている。
【0012】
図2に示すように、閉鎖ドアロック装置10A及び全開ドアロック装置10Cは、スライドドア90の前端縁におけて上下に並べて配置され、クローザ装置10Bは、スライドドア90の後端縁に配置されている。これらに対応して、ドア枠99W(図1参照)の内側面における三箇所にストライカ40(図1参照。同図にはドア枠99Wにおける2つのストライカ40のみが示されている)が設けられている。
【0013】
各ストライカ40は、例えば断面円形の線材を屈曲して形成され、図1に示すように1対の脚部40X,40Xの先端間に連絡棒40Yを差し渡した門形構造をなしている。そして、各ストライカ40のうち何れかの脚部40X又は連絡棒40Yに、閉鎖ドアロック装置10A、全開ドアロック装置10C及びクローザ装置10Bに備えたラッチが係合する。
【0014】
図3〜図6には、閉鎖ドアロック装置10Aの詳細構造が示されている。なお、これら図3〜図6には、ストライカ40のうち閉鎖ドアロック装置10Aと係合する部分のみの断面図が示されている。図3に示すように閉鎖ドアロック装置10Aは、ベース盤11にラッチ20及びポール30を回動可能に組み付けて備えている。ベース盤11は、ボルト固定孔13を複数箇所に備え、スライドドア90の前端壁に内側から宛がわれてボルト固定孔13に通した(又は、螺合した)ボルトにて固定されている。
【0015】
ベース盤11には、水平方向に延びたストライカ受容溝12が備えられている。このストライカ受容溝12の一端部は、車内側に向かって開放したストライカ受容口12Kになっており、他端部は閉じている。また、ベース盤11が取り付けられたスライドドア90の一端壁にもストライカ受容溝12に対応した切り欠き(図示せず)が備えられている。そして、スライドドア90を閉じるとストライカ受容口12Kからストライカ受容溝12内にストライカ40が進入する。
【0016】
ベース盤11のうちストライカ受容溝12より下方には、ポール30が回動可能に軸支されている。ポール30は、ラッチ回動規制片31とストッパ片32とを回動軸から相反する方向に突出して備えている。また、ポール30とベース盤11との間には図示しないトーションバネが備えられ、このトーションバネによってポール30が図3における反時計回り方向に付勢され、通常はストッパ片32がベース盤11に備えたポールストッパ16に当接して位置決めされている。
【0017】
また、ポール30にはベース盤11を隔ててポール30及びストッパ片32と反対側にポール駆動レバー30Rを備え、そのポール駆動レバー30Rとドア操作ハンドル91とがワイヤー93Wにて連結されている。そして、ドア操作ハンドル91を操作すると、ポール30が図3における時計回り方向に回動してラッチ回動規制片31が次述するラッチ20の回動領域から退避したリリース位置に移動する。
【0018】
ベース盤11のうちストライカ受容溝12より上方にはラッチ20が回動可能に軸支されている。ラッチ20には、互いに平行になった1対の係止爪21,22が備えられ、それら係止爪21,22の間がストライカ受容部23になっている。また、ラッチ20は、ベース盤11との間に設けた図示しないトーションバネによりロック解除方向(図3における時計回り方向)に付勢されている。そして、スライドドア90を開けた状態では、ラッチ20に備えたストッパ当接部24とベース盤11に備えたラッチストッパ14との当接によりラッチ20がアンラッチ位置(図3に示した位置)に位置決めされる。
【0019】
そのアンラッチ位置では、前側の係止爪21がストライカ受容溝12の上方に退避しかつ、後側の係止爪22がストライカ受容溝12を横切った状態になり、ストライカ受容部23の開口端がストライカ受容溝12のストライカ受容口12K側を向く。そして、ストライカ受容溝12に進入したストライカ40がストライカ受容部23内に受容されると共に、ストライカ40が後側の係止爪22を押してラッチ20がロック方向に(図3における反時計回り方向)に回動する。これにより、図4及び図5に示すように、ストライカ受容溝12のうちストライカ40よりストライカ受容口12K側が前側の係止爪21によって塞がれると共に、前側の係止爪21がストライカ40の脚部40X,40X(図1参照)の間に突入し、ラッチ20がストライカ40と噛み合った状態になる。
【0020】
スライドドア90に勢いを付与して閉じると、スライドドア90又はドア枠99Wに備えた防塵ゴム(図示せず)がそれらスライドドア90とドア枠99Wとの間で最大限に押し潰された位置まで閉じられ、このとき、図6に示すように、ラッチ20は、ポール30を通過しかつそのポール30から僅かに離間したオーバーストローク位置に至る。そして、ドア枠防塵ゴムの弾発力によりスライドドア90が戻され、これに伴ってラッチ20がオーバーストローク位置からアンラッチ位置側に若干戻されると、図5に示すようにラッチ20の前側の係止爪21とポール30のラッチ回動規制片31とが当接し、ラッチ20がフルラッチ位置に位置決めされる。これにより、ラッチ20のロック解除方向への回動が規制され、スライドドア90が全閉位置に保持される。
【0021】
また、スライドドア90に閉じる際の勢いが弱いために、ラッチ20がオーバーストローク位置又はフルラッチ位置に至らない状態で、防塵ゴムの弾発力によりスライドドア90が戻されると、図4に示すようにポール30がラッチ20の後側の係止爪22に当接し、ラッチ20がハーフラッチ位置に位置決めされて、スライドドア90が、所謂、半ドア状態に保持される。閉鎖ドアロック装置10Aの構成に関する説明は以上である。
【0022】
全開ドアロック装置10Cは、以下のようである。即ち、全開ドアロック装置10C(図1及び図2参照)は、図示しないが閉鎖ドアロック装置10Aと同様にラッチ、ポール、ストライカ受容溝等を有したラッチアンドポール機構を備えている。そして、スライドドア90が全開状態になると、全開ドアロック装置10Cのラッチがストライカ40(図1参照)に係合してスライドドア90が全開状態に保持される。また、全開ドアロック装置10Cのポールも閉鎖ドアロック装置10Aと同様にドア操作ハンドル91に対してワイヤー94W(図2参照)にて連結されている。そして、ドア操作ハンドル91を操作するとポールが回動し、ラッチとストライカ40との係合が解除され、スライドドア90を閉じることができる。
【0023】
さて、本発明に係るクローザ装置10Bは、以下のようである。クローザ装置10Bは、図7〜図18に示されている。図7に示すように、クローザ装置10Bは、閉鎖ドアロック装置10Aと同様にラッチ20、ポール30、ストライカ受容溝12等を有したラッチアンドポール機構20Kを備えている。以下、クローザ装置10Bと閉鎖ドアロック装置10Aとの間で同一の構成に関しては同一符号を付して重複説明を省略し、異なる構成に関してのみ説明する。
【0024】
クローザ装置10Bのラッチアンドポール機構20Kでは、ラッチ20の回動支持シャフト20Jがラッチ20と一体回転可能に固定されると共に、ベース盤11の裏面側に貫通している。また、ポール30の回動支持シャフト30Jも同様にポール30と一体回転可能に固定されかつベース盤11の裏面側に貫通している。そして、ベース盤11の裏面側において、ラッチ20の回動支持シャフト20Jにラッチ駆動レバー28が一体回転可能に取り付けられ、ポール30の回動支持シャフト30Jにポール作動レバー33が一体回転可能に取り付けられている。
【0025】
ラッチ駆動レバー28は、回動支持シャフト20Jの軸方向と直交する方向に延びかつ、その先端部から軸方向に受圧ピン29が起立した構造になっている。また、ポール作動レバー33も同様に、回動支持シャフト30Jの軸方向と直交する方向に延び、先端部から軸方向に受圧片33A(図9参照)を起立した構造になっている。
【0026】
また、クローザ装置10Bは、ベース盤11の裏面に対して直交した機構盤81を備え、その機構盤81に、扇形ギヤ回動板50とパッシブレバー62とが共通の回動支持軸50Jによって回動可能に取り付けられている。
【0027】
図9に示すように、扇形ギヤ回動板50は、全体が扇形状をなし、その周縁部の一端から他端寄り位置に亘ってギヤ部50Gが形成されている。また、機構盤81のうち扇形ギヤ回動板50が配置された側と反対側の面には、図7に示したモータ41が取り付けられている。そのモータ41の出力回転軸には、図示しないウォームギヤが固定され、機構盤81に回転可能に取り付けられた図示しないウォームホイールとウォームギヤとが噛合している。そして、ウォームホイールと一体回転するピニオン42(図11参照)が扇形ギヤ回動板50のギヤ部50Gに噛合している。これにより、モータ41にて扇形ギヤ回動板50を任意の方向に駆動することができる。
【0028】
一方、パッシブレバー62は、図11に示すように細長い形状をなして扇形ギヤ回動板50の周縁部の外側まで延び、その先端部からは回動軸と平行に本発明の「受圧部」としての受圧支柱62Pが起立している。そして、扇形ギヤ回動板50に対してパッシブレバー62が相対的に回動すると、受圧支柱62Pが扇形ギヤ回動板50の外側において円弧軌跡を描いて移動する。また、パッシブレバー62と扇形ギヤ回動板50との間には、図8に示したトーションバネ65が備えられ、そのトーションバネ65によってパッシブレバー62が、図11における扇形ギヤ回動板50のうち上側に配置された一側縁部寄り位置に保持されている。なお、後述するキャンセルレバー55に対するキャンセルピン63Pによる回動規制が解除されたときには、トーションバネ65の弾性変形を伴って、パッシブレバー62が扇形ギヤ回動板50の他端側へと相対的に回動することができる。
【0029】
パッシブレバー62における径方向(長手方向)の中間部には、加圧部62Aが形成されている。加圧部62Aは、パッシブレバー62を構成する板金を湾曲させてなる。そして、上記した半ドア状態で、パッシブレバー62を図11における反時計回り方向に回動させると、図13に示すように加圧部62Aが前記ラッチ駆動レバー28の受圧ピン29を加圧し、ラッチ20をフルラッチ位置へと回動させてスライドドア90を全閉状態に移行することができる。
【0030】
扇形ギヤ回動板50の周縁部のうちパッシブレバー62が配置された側の端部には、キャンセルレバー55が回動支持軸55Jにて回動可能に取り付けられている。キャンセルレバー55は、回動支持軸55Jから異なる方向に張り出した作用アーム55Aとストッパアーム55Bとを有したシーソー構造をなしている。そして、キャンセルレバー55は、図示しないトーションスプリング(本発明に係る「レバー保持弾性部材」に相当する)によって扇形ギヤ回動板50に対する動力伝達位置(図11参照)に保持されて、作用アーム55Aが扇形ギヤ回動板50の周縁部から外側に張り出しかつ、ストッパアーム55Bが次述するキャンセルピン係止部51Bの縁部に配置されている。
【0031】
扇形ギヤ回動板50には、キャンセルピン受容溝51が貫通形成されている。そのキャンセルピン受容溝51は、扇形ギヤ回動板50の回動中心寄り位置で周縁部と同心の円弧形状をなしたキャンセルピン係止解除部51Aと、そのキャンセルピン係止解除部51Aの一端部からキャンセルレバー55側に向けて屈曲したキャンセルピン係止部51Bとからなる。そして、通常は、キャンセルピン63Pがキャンセルピン係止部51B内に受容されてキャンセルレバー55のストッパアーム55Bと対向し、キャンセルレバー55が図11における時計回り方向に回動することを規制している。
【0032】
キャンセルピン63Pは、図11に示したキャンセルピン操作レバー60の操作により、キャンセルピン係止部51Bとキャンセルピン係止解除部51Aとの間で移動することができる。具体的には、キャンセルピン操作レバー60は、機構盤81と対向配置された図示しない補助機構盤に回動支持ピン60Jにて回動可能に取り付けられている。また、キャンセルピン操作レバー60は、回動支持ピン60Jから互いに異なる方向に延びた操作アーム60Bと作用アーム60Cとを備え、作用アーム60Cの先端には、円弧状に湾曲したガイドプレート60Aを備えている。そして、そのガイドプレート60Aに形成された円弧溝61にキャンセルピン63Pの一端部が抜け止め状態に係止している(図8参照)。また、円弧溝61は、通常は、回動支持軸50Jを中心とした円上に配置されると共に、キャンセルピン係止部51Bに重なった状態に配置されている。これにより、扇形ギヤ回動板50が回動した際に、キャンセルピン63Pは、円弧溝61に沿って移動すると共に、キャンセルピン係止部51Bに係止した状態に保持される。そして、モータ41の失陥等の非常時に、ガイドプレート60Aが扇形ギヤ回動板50の回動中心に接近するように回動される。これにより、キャンセルピン63Pがキャンセルピン係止部51Bから離脱してキャンセルピン係止解除部51A側に受容され、キャンセルピン63Pによるキャンセルレバー55の回動規制が解除される。そのキャンセルピン操作レバー60を操作するために、キャンセルピン操作レバー60の操作アーム60Bには、スライドドア90に備えた図示しない非常用操作部材がワイヤーにて連結されている。そして、非常用操作部材を操作することで、ガイドプレート60Aを扇形ギヤ回動板50の回動中心に接近させる側と遠ざける側の何れの方向にも回動することができるようになっている。なお、本実施形態では、非常用操作部材とキャンセルピン操作レバー60とそれらの間を連結するワイヤーとによって本発明に係る「キャンセルピン操作部」が構成されている。
【0033】
図9に示すように扇形ギヤ回動板50のうち周方向の中間部における周縁部寄り位置には、カムピン64Pが打ち付けられて、図8に示すように機構盤81側に突出している。そのカムピン64Pに対応させて、機構盤81にはポール駆動レバー43が回動支持リベット43Jにて回転可能に取り付けられている。ポール駆動レバー43には、回動支持リベット43Jから異なる方向に延びた受圧アーム43Aと作用アーム43Bとが備えられている。そして、扇形ギヤ回動板50がモータ41によって図9における時計回り方向に回動されると、カムピン64Pがポール駆動レバー43の受圧アーム43Aを押圧し、ポール駆動レバー43の作用アーム43Bがポール作動レバー33における受圧片33Aを加圧して、ポール30をラッチ20との係合位置から前記リリース位置に強制移動する。
【0034】
なお、ポール作動レバー33のうち受圧片33Aを備えた部分と反対側の端部には、ワイヤー92W(図2及び図9参照)を介してドア操作ハンドル91(図2参照)が連結されている。また、クローザ装置10Bのワイヤー92Wと閉鎖ドアロック装置10A及びクローザ装置10Bのワイヤー93W,94Wとは、共にドア操作ハンドル91に備えた図示しない連結機構によって連動可能に連結されている。さらに、モータ41は、車両本体99に備えたECUによって駆動制御されるようになっている。
【0035】
本実施形態の構成に関する説明は以上である。次に、上記構成による本実施形態の作用効果について説明する。スライドドア90を閉めると、閉鎖ドアロック装置10A及びクローザ装置10Bの各ラッチ20が対応したストライカ40とそれぞれ噛み合って回動する。このとき、スライドドア90を比較的強い力で閉めてスライドドア90が全閉状態になると、閉鎖ドアロック装置10A及びクローザ装置10Bの各ラッチ20が図5に示すようにフルラッチ位置まで回動してそれらラッチ20にポール30が係合し、各ラッチ20のロック解除方向への回動が規制(禁止)される。これにより、スライドドア90が全閉状態に保持される。
【0036】
また、スライドドア90を比較的弱い力で閉めたために半ドア状態になると、閉鎖ドアロック装置10A及びクローザ装置10Bの各ラッチ20が図4に示すようにハーフラッチ位置まで回動してそれらラッチ20にポール30が係合し、各ラッチ20のロック解除方向への回動が規制(禁止)され、半ドア状態に保持される。このとき、例えば、ラッチ20の位置に基づいて図示しないセンサにて半ドア状態が検出され、その検出結果がECUに取り込まれる。そして、ECUがクローザ装置10Bに備えたモータ41を一方に回転駆動し、扇形ギヤ回動板50を図11における反時計回り方向に回転駆動する。
【0037】
すると、図12及び図13に示すようにキャンセルレバー55がパッシブレバー62の受圧支柱62Pを押圧してパッシブレバー62が扇形ギヤ回動板50と一体に回動する。そして、図13〜図15に示したようにパッシブレバー62に備えた加圧部62Aがラッチ駆動レバー28を押す。これによりラッチ20が回転駆動され、スライドドア90が全閉状態に移行すると共に、閉鎖ドアロック装置10A及びクローザ装置10Bにおいてポール30がラッチ20に係合し、スライドドア90が全閉状態に保持される。
【0038】
スライドドア90を開放する際には、ドア操作ハンドル91、運転席に備えた操作パネル等を操作する。すると、モータ41が上記の場合とは逆向き、即ち、図9における時計回り方向に回動する。そして、図10に示すようにカムピン64Pがポール駆動レバー43の受圧アーム43Aを押圧し、ポール駆動レバー43の作用アーム43Bがポール作動レバー33における受圧片33Aを加圧する。これにより、モータ41の動力によりポール30とラッチ20との摩擦係合力に抗してポール30がラッチ20との係合位置からリリース位置に移動する。このとき、閉鎖ドアロック装置10Aのポール30も連結機構の動作によりドア操作ハンドル91を操作することなくワイヤー92W,93Wを介してモータ41の動力を受けて回動し、リリース位置に移動する。このように本実施形態によれば、モータ41の動力を利用してスライドドア90を容易に開放することができる。
【0039】
さて、断線、水没、バッテリーの残量不足等によってモータ41が動作不能な失陥状態になった場合に、そのことを知らずにドア操作ハンドル91を操作すると、モータ41の正常時より操作抵抗は増すものの、ポール30をラッチ20との係合位置からリリース位置に移動することができる。ところが、図15に示すようにパッシブレバー62の加圧部62Aがラッチ駆動レバー28に当接してラッチ20の回動を規制しているので、ラッチ20とストライカ40との係合が解除されず、スライドドア90を開放することができない。また、半ドア状態でモータ41が駆動し、ラッチ20がフルラッチ位置に至る手前でモータ41が失陥した場合も同様な状態になる。
【0040】
このような場合、図示しない非常用操作部材を介してキャンセルピン操作レバー60を操作し、キャンセルピン63Pをキャンセルピン受容溝51におけるキャンセルピン係止部51Bからキャンセルピン係止解除部51Aに移動すればよい。このとき、従来では、摩擦抵抗に抗してキャンセルピン63Pをキャンセルピン係止部51Bから離脱させることが困難であったが、本実施形態のクローザ装置10Bでは、ラッチ駆動レバー28からの反力を受ける加圧部62Aが、パッシブレバー62の径方向における中間部に配置されているので、パッシブレバー62の先端部に配置された受圧支柱62Pとキャンセルレバー55との間では、ラッチ駆動レバー28からの反力による負荷は軽減される。そして、その軽減された負荷がキャンセルレバー55からキャンセルピン63Pに付与されるので、従来よりキャンセルピン63Pへの負荷を小さくすることができる。これにより、非常時にキャンセルピン63Pを図16に示すようにキャンセルピン係止部51Bからキャンセルピン係止解除部51Aへと容易に移動することができる。
【0041】
さて、キャンセルピン63Pをキャンセルピン係止解除部51Aに移動すると、キャンセルレバー55は、図示しないトーションスプリングによって動力伝達位置に保持される。そして、パッシブレバー62の受圧支柱62Pがキャンセルレバー55を動力伝達位置から動力断絶位置へと押し退けるようにして通過してパッシブレバー62の加圧部62Aがラッチ駆動レバー28から離れる。つまり、パッシブレバー62の加圧部62Aによるラッチ20の回動規制が解除されることになる。これにより、ラッチ20とストライカ40との係合が解除可能になり、スライドドア90を開放することができる。
【0042】
また、キャンセルレバー55は、受圧支柱62Pが通過した後、上記したトーションスプリングによって動力伝達位置に復帰する。これと同様に、モータ41の復旧後に受圧支柱62Pをキャンセルレバー55に対する元の配置に戻した際にも、図17及び図18に示すように、受圧支柱62Pがキャンセルレバー55を動力伝達位置から動力断絶位置へと押し退けるようにして通過した後、キャンセルレバー55が動力伝達位置に復帰する。その状態でキャンセルピン操作レバー60を操作し、キャンセルピン63Pをキャンセルピン係止部51Bに戻せば、クローザ装置10Bがモータ41の失陥前の状態に戻る。
【0043】
上記したように本実施形態のクローザ装置10Bによれば、従来よりキャンセルピン63Pへの負荷を小さくすることができる。これにより、非常時にキャンセルピン63Pをキャンセルピン係止部51Bから容易に離脱することができ、ラッチ20とストライカ40との係合を解除してスライドドア90を迅速に開放することができると共に、キャンセルピン63Pを太くせずに強度を確保することができる。また、モータ41の失陥後、復旧してKらキャンセルピン操作レバー60の操作によってキャンセルピン63Pを元のキャンセルピン係止部51Bに戻すことができるので復旧作業も迅速に行うことができる。
【0044】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0045】
(1)前記実施形態では、キャンセルピン係止部51Bがキャンセルピン受容溝51の一部として設けられていたが、例えば、キャンセルピンが嵌合したピン孔を設けておき、キャンセルピンをピン孔から引き抜くことで、扇形ギヤ回動板とパッシブレバーとの間で動力を断絶する構成にしてもよい。
【0046】
(2)また、図19に示すように、閉鎖ドアロック装置10Aを兼用したクローザ装置10B1に本発明を適用してもよい。
【0047】
(3)さらには、図20に示すように、回動式のドア90Aに備えた閉鎖ドアロック装置兼クローザ装置10B2に本発明を適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の車両用ドアクローザ装置を備えた車両の概念図
【図2】車両用ドアクローザ装置をスライドドアの概念図
【図3】アンラッチ状態のラッチアンドポール機構の側面図
【図4】ハーフラッチ状態のラッチアンドポール機構の側面図
【図5】フルラッチ状態のラッチアンドポール機構の側面図
【図6】オーバーラッチ状態のラッチアンドポール機構の側面図
【図7】車両用ドアクローザ装置を簡略斜視図
【図8】車両用ドアクローザ装置を側断面図
【図9】車両用ドアクローザ装置の側面図
【図10】車両用ドアクローザ装置の側面図
【図11】車両用ドアクローザ装置の側面図
【図12】車両用ドアクローザ装置の側面図
【図13】車両用ドアクローザ装置の側面図
【図14】車両用ドアクローザ装置の側面図
【図15】車両用ドアクローザ装置の側面図
【図16】車両用ドアクローザ装置の側面図
【図17】車両用ドアクローザ装置の側面図
【図18】車両用ドアクローザ装置の側面図
【図19】変形例に係るスライドドアの概念図
【図20】変形例に係る回動式のドアの概念図
【図21】従来の車両用ドアクローザ装置の分解斜視図
【図22】従来の車両用ドアクローザ装置の側面図
【符号の説明】
【0049】
10B,10B1,10B2 クローザ装置
20 ラッチ
28 ラッチ駆動レバー
30 ポール
40 ストライカ
41 モータ
50 扇形ギヤ回動板
51 キャンセルピン受容溝
51A キャンセルピン係止解除部
51B キャンセルピン係止部
55 キャンセルレバー
60 キャンセルピン操作レバー
62 パッシブレバー
62A 加圧部
62P 受圧支柱(受圧部)
63P キャンセルピン
90 スライドドア
90A ドア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のドアに取り付けられ、車両本体に備えたストライカと噛み合って回動するラッチと、前記ラッチと一体に回転するラッチ駆動レバーと、半ドア状態で前記ラッチ駆動レバーに動力を付与して前記ラッチを回転駆動し、前記ドアを完全に閉じた全閉状態に移行させるためのモータとを備えた車両用ドアクローザ装置において、
扇形状をなしてその頂点部分を中心に回動可能に軸支されかつ、周縁部に前記モータがギヤ連結した扇形ギヤ回動板と、
前記扇形ギヤ回動板と同じ回動軸を中心に回動可能に軸支され、前記扇形ギヤ回動板の周縁部より外側まで延びたパッシブレバーと、
前記パッシブレバーの径方向における中間部に設けられ、前記ラッチ駆動レバーに当接して動力を付与可能な加圧部と、
前記パッシブレバーの先端部に設けられ、前記扇形ギヤ回動板の外側で円弧軌跡を描いて移動可能な受圧部と、
前記扇形ギヤ回動板の周縁部に回動可能に取り付けられ、前記受圧部の移動領域内に張り出した動力伝達位置と、前記受圧部の移動領域から退避した動力断絶位置との間を移動可能なキャンセルレバーと、
前記キャンセルレバーを前記動力伝達位置に位置決めするためのキャンセルピンと、
前記扇形ギヤ回動板のうち前記キャンセルレバーの回動領域と重なる位置に形成され、前記扇形ギヤ回動板の回動方向と交差する方向で前記キャンセルピンを着脱可能に受容し、前記扇形ギヤ回動板の回動方向で前記キャンセルピンを位置決めするキャンセルピン係止部と、
操作により前記キャンセルピンを前記キャンセルピン係止部から離脱させるためのキャンセルピン操作部とを備えたことを特徴とする車両用ドアクローザ装置。
【請求項2】
前記キャンセルピンを移動可能に受容したキャンセルピン受容溝を形成し、前記キャンセルピン受容溝のうち前記キャンセルレバーの回動領域と重なった部分を前記キャンセルピン係止部とする一方、前記キャンセルピン受容溝のうち前記キャンセルレバーの回動領域と重なっていない部分をキャンセルピン係止解除部とし、
前記キャンセルピン操作部の操作によって、前記キャンセルピンを前記キャンセルピン係止部及び前記キャンセルピン係止解除部の何れの位置にも移動可能としたことを特徴とする請求項1に記載の車両用ドアクローザ装置。
【請求項3】
前記キャンセルピンが前記キャンセルピン係止解除部に配置された状態で、前記キャンセルレバーを前記動力伝達位置に保持すると共に、弾性変形して前記キャンセルレバーの両方向への回動を許容するレバー保持弾性部材を設けたことを特徴とする請求項2に記載の車両用ドアクローザ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate