説明

車両用ドア構造

【課題】ヒンジ部材の構造を複雑化すること無く、スイングドアパネルの開度を大きくすることができる車両用ドア構造を提供する。
【解決手段】車両用ドア構造1は、車体2の前後方向にスライド移動して、後部ドア開口部の前側領域を開閉するスライドドアパネル6と、後部ドア開口部の後側領域をスライドドアパネル6と共に開閉するスイングドアパネル7と、スイングドアパネル7を車体2の後端部に対して回動可能に支持する2つのヒンジ部材26とを備えている。スイングドアパネル7の後端部と車体2の後端部との見切り(スイングドアパネル7の見切り)Pは、車体2の前後方向に延びている。ヒンジピン26aは、スイングドアパネル7のドア見切りPに沿った線上において、スイングドアパネル7の後端面及び車体2の後端面から車体2の後方に僅かに突出した位置に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライド開閉式のスライドドアパネルとスイング開閉式のスイングドアパネルとを有する車両用ドア構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用ドア構造としては、例えば特許文献1に記載されているものが知られている。特許文献1に記載の車両用ドア構造は、協働して車体のサイドドア開口部を覆う第1ドアパネル(スライドドアパネル)及び第2ドアパネル(スイングドアパネル)を有している。第1ドアパネルは第2ドアパネルを覆うようにスライドすると共に、第1ドアパネル及び第2ドアパネルはヒンジ部材を支点として軸回転する。これにより、サイドドア開口部を完全に開いた状態とすることができる。
【0003】
また、ドアの開度を大きくするためのヒンジ部材として、例えば特許文献2に記載されているようなダブルヒンジがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−240611号公報
【特許文献2】実開平5−34014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載のようなスライドドアパネル及びスイングドアパネルを有する車両用ドア構造の商品性を向上させるためには、スライドドアパネルを開いたときのサイドドア開口部の開口を大きくとると共に、スイングドアパネルを開いたときのサイドドア開口部の開口を大きくとる必要がある。スイングドアパネルを開いたときのサイドドア開口部の開口を大きくとるには、スイングドアパネルの開度を大きくする必要がある。ここで、特許文献1に記載の車両用ドア構造におけるヒンジ部材として、例えば特許文献2に記載のダブルヒンジを使用した場合には、スイングドアパネルの開度を大きくすることが可能となる。しかし、この場合には、ヒンジ部材の構造が複雑になり、見た目も悪くなる。
【0006】
本発明の目的は、ヒンジ部材の構造を複雑化すること無く、スイングドアパネルの開度を大きくすることができる車両用ドア構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両用ドア構造は、車体の側部に設けられたドア開口部の前側領域を開閉するスライドドアパネルと、ドア開口部の後側領域をスライドドアパネルと共に開閉するスイングドアパネルと、スライドドアパネルを車体の前後方向にスライド可能に支持するスライド支持手段と、スライドドアパネルがスイングドアパネルの外側に位置するようにスイングドアパネルに重なった状態で、スイングドアパネルを車体の後端部に回動可能に支持するヒンジ部材とを備え、スイングドアパネルと車体の後端部との見切りは、車体の前後方向に延びるようにスイングドアパネルの外側面よりも車体内側に形成されており、ヒンジ部材のヒンジピンは、スイングドアパネルの後端側におけるスイングドアパネルと車体の後端部との見切りに沿った線上に配置されていることを特徴とするものである。
【0008】
このように本発明の車両用ドア構造においては、スライドドアパネルがスイングドアパネルの外側に位置するようにスイングドアパネルに重なった状態で、スイングドアパネルがヒンジ部材を介して車体の後端部に対して回動することで、スイングドアパネルが開くようになる。ここで、スイングドアパネルと車体の後端部との見切り(隙間)を、車体の前後方向に延びるようにスイングドアパネルの外側面よりも車体内側に形成し、ヒンジ部材のヒンジピンを、スイングドアパネルの後端側におけるスイングドアパネルと車体の後端部との見切りに沿った線上に配置することにより、スライドドアパネルと車体の後端部との干渉を防止し、スイングドアパネルを大きく開くことができる。これにより、ダブルヒンジ等といった複雑な構造のヒンジ部材を使用しなくても、スイングドアパネルの開度を大きくすることができる。
【0009】
好ましくは、ヒンジピンは、スイングドアパネルの後端及び車体の後端から突出した位置に配置されている。この場合には、スライドドアパネルと車体の後端部との干渉を一層防止し、スイングドアパネルを十分大きく開くことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ヒンジ部材の構造を複雑化すること無く、スイングドアパネルの開度を大きくすることができる。このようにスイングドアパネルの開度が大きくなると、ドア開口部の開口面積が大きくなり、例えば車体内に荷物を搬入しやすくなるため、車両用ドア構造の商品性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る車両用ドア構造の一実施形態を備えた車両を示す側面図である。
【図2】図1に示したスライドドアパネルが開いた状態を示す斜視図である。
【図3】図1に示したスイングドアパネルが開いた状態を示す斜視図である。
【図4】図1に示したスイングドアパネルと車体の後端部との連結部分を示す断面図である。
【図5】図2に示したスライドドアパネルが開いた状態を示す側面図である。
【図6】比較例として従来におけるスイングドアパネルと車体の後端部との連結部分を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係わる車両用ドア構造の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明に係る車両用ドア構造の一実施形態を備えた車両を示す側面図である。同図において、本実施形態の車両用ドア構造1は、車体2の側部に適用されている。車体2の側部には、前部座席の側方に位置する前部ドア開口部3と、前部座席の後方に設けられた荷室の側方に位置する後部ドア開口部4とが形成されている。前部ドア開口部3は、フロントドアパネル5により開閉される。
【0014】
後部ドア開口部4は、スライド開閉式のスライドドアパネル6とスイング開閉式のスイングドアパネル7とにより開閉される。スライドドアパネル6は、図2に示すように、車体2の前後方向にスライド移動して、後部ドア開口部4の前側領域を開閉するように構成されている。スライドドアパネル6の全開状態では、スライドドアパネル6は、スイングドアパネル7の外側に位置してスイングドアパネル7と重なる(図2(b)参照)。
【0015】
スライドドアパネル6が全開となってスイングドアパネル7に重なった状態では、スイングドアパネル7は、図3に示すように、車体2の後端部に対して回動して、後部ドア開口部4の後側領域をスライドドアパネル6と共に開閉するように構成されている。
【0016】
スライドドアパネル6の外面にはアウタードア開閉ハンドル8が設けられ、スライドドアパネル6の内面にはインナードア開閉ハンドル9が設けられている。スイングドアパネル7の前端部内面にはドア開閉ハンドル10が設けられている。
【0017】
車両用ドア構造1は、スライドドアパネル6を車体2の前後方向にスライド可能に支持するスライド支持機構11A〜11Cを備えている。
【0018】
スライド支持機構11Aは、車体2の上部に設けられた上部スライドレール13と、スライドドアパネル6に設けられた案内体16とを有している。上部スライドレール13は、車体2の前後方向に延びている。案内体16は、上部スライドレール13に案内されるローラであり、スライドドアパネル6の前端上部に固定されたブラケット21(図3参照)にフリー回転自在に支持されている。
【0019】
スライド支持機構11Bは、車体2の下部に設けられた下部スライドレール14と、スライドドアパネル6に設けられた案内体17とを有している。下部スライドレール14は、車体2の前後方向に延びている。案内体17は、下部スライドレール14に案内されるローラであり、スライドドアパネル6の前端下部に固定されたブラケット23(図3参照)にフリー回転自在に支持されている。
【0020】
スライド支持機構11Cは、スイングドアパネル7に設けられた中間スライドレール15と、スライドドアパネル6に設けられた案内体18とを有している。中間スライドレール15は、上部スライドレール13と下部スライドレール14との間に配置され、車体2の前後方向に延びている。案内体18は、中間スライドレール15に案内されるローラであり、スライドドアパネル6の後端部に固定されたブラケット(図示せず)にフリー回転自在に支持されている。
【0021】
また、車両用ドア構造1は、スイングドアパネル7を車体2の後端部分に設けられたリアピラー25に対して回動可能に支持する2つのヒンジ部材26を備えている。ヒンジ部材26は、図4に示すように、ヒンジピン(ヒンジセンター)26aと、このヒンジピン26aに回転可能に連結された取付板26b,26cとからなる平蝶番である。
【0022】
車体2の後端面は、図4に示すように、車体2の幅方向(車幅方向)内側に向かって斜め後方に延びている。そして、スイングドアパネル7の後端面と車体2の後端面とは略面一となっており、意匠性が良いものとなっている。スイングドアパネル7の後端部と車体2の後端部との隙間つまり見切り(以下、スイングドアパネル7の見切りという)Pは、車体2の前後方向に延びていると共に、スイングドアパネル7の外側面よりも車幅方向内側に形成されている。
【0023】
ヒンジピン26aは、スイングドアパネル7の見切りPに沿った線上において、スイングドアパネル7の後端面及び車体2の後端面から僅かに車体2の後方に突出した位置に配置されている。そして、取付板26bはリアピラー25にネジ止めされ、取付板26cはスイングドアパネル7の後端部にネジ止めされている。
【0024】
図1に戻り、車両用ドア構造1は、スライドドアパネル6が全開してスイングドアパネル7と重なった状態において、スライドドアパネル6とスイングドアパネル7とをロックするドアパネルロック機構27A,27Bを更に備えている。
【0025】
ドアパネルロック機構27Aは、スライドドアパネル6の前端上部に設けられたラッチ22と、スイングドアパネル7の前端上部に設けられたストライカー28とからなっている。ラッチ22には、ストライカー28と係合するガイド溝(図示せず)が形成されている。ドアパネルロック機構27Bは、スライドドアパネル6の前端下部に設けられたラッチ24と、スイングドアパネル7の前端下部に設けられたストライカー29とからなっている。ラッチ24には、ストライカー29と係合するガイド溝(図示せず)が形成されている。
【0026】
ラッチ22のガイド溝にストライカー28が入り込むと共にラッチ24のガイド溝にストライカー29が入り込むことで、スライドドアパネル6とスイングドアパネル7とがロック状態となる。なお、スライドドアパネル6とスイングドアパネル7とのロック解除は、スイングドアパネル7の全閉状態におけるアウタードア開閉ハンドル8またはインナードア開閉ハンドル9の操作によって行うことができる。
【0027】
このような車両用ドア構造1において、スライドドアパネル6及びスイングドアパネル7がいずれも閉じた状態から、図2に示すように、アウタードア開閉ハンドル8またはインナードア開閉ハンドル9を操作してスライドドアパネル6を車体2の後側にスライドさせる(開く)と、後部ドア開口部4の前側領域が開くようになる。そして、図2(b)に示すように、スライドドアパネル6が全開状態になると、スライドドアパネル6とスイングドアパネル7とが重なり、両者がスライドドアロック機構27A,27Bにより上下でロックされた状態となる。その状態から、図3に示すように、ドア開閉ハンドル10を操作してスイングドアパネル7をリアピラー25に対して回動させる(開く)と、後部ドア開口部4の後側領域が開くようになる。
【0028】
ところで、車両用ドア構造の商品性向上の一つとして、荷物を後部ドア開口部4から荷室にストレス無く搬入できるということが挙げられる。このためには、図5に示すように、スライドドアパネル6を全開状態としたときの後部ドア開口部4の開口長aを大きくとる必要がある。言い換えると、スライドドアパネル6の最後端と車体2の最後端との間の長さ寸法bを小さくする必要がある。また、スイングドアパネル7を全開状態としたときの後部ドア開口部4の開口を大きくとるために、スイングドアパネル7の開度つまり開き角度c(図4及び図6参照)を大きくする必要がある。スイングドアパネル7の開度cとしては、100度〜120度であることが望ましい。
【0029】
しかし、図6に示すように、スイングドアパネル7の見切りが車幅方向に延在しており、ヒンジ部材50のヒンジピン51がスイングドアパネル7の外側面から車体2の側方に突出する位置に配置されているような構造では、以下の不具合が発生する。
【0030】
即ち、スイングドアパネル7が開く際には、スイングドアパネル7の外側にスライドドアパネル6が重なって配置されている。このため、スイングドアパネル7をスライドドアパネル6と共に開けると、スライドドアパネル6が車体2の後端部に干渉し(図6中の斜線部X参照)、スイングドアパネル7の開度cを100度以上とすることが困難となり、大きな荷物を荷室に搬入することができない場合がある。
【0031】
これに対し本実施形態では、図4に示すように、スイングドアパネル7の見切りPは車体2の前後方向に延在しており、ヒンジ部材26のヒンジピン26aは、スイングドアパネル7の見切りPに沿った線上において、スイングドアパネル7の後端面及び車体2の後端面から僅かに突出した位置に配置されている。このため、スイングドアパネル7の外側にスライドドアパネル6が重なって配置されていても、スライドドアパネル6が車体2の後端部に干渉することが無く、スイングドアパネル7を大きく開くことが可能となる。従って、スイングドアパネル7を全開状態(図4中の2点鎖線参照)としたときのスイングドアパネル7の開度cを100度〜120度とすることができる。
【0032】
ここで、スライドドアパネル6がスイングドアパネル7に重なって全開となっている状態では、スライドドアパネル6の最後端と車体2の最後端とが一致している、つまりスライドドアパネル6の最後端と車体2の最後端との間の長さ寸法bが0であるのが好ましい。これにより、スライドドアパネル6を全開状態としたときの後部ドア開口部4の開口長a(図5参照)が最大となる。
【0033】
また、スイングドアパネル7の全開状態では、スライドドアパネル6と車体2の後端部との最短距離dが50〜75mm程度となるように、ヒンジピン26aがスイングドアパネル7の後端面及び車体2の後端面から突出していることが好ましい。これにより、スイングドアパネル7の全開時に、スライドドアパネル6と車体2の後端部との間に手を入れたときに手が挟まれることが防止されると共に、スライドドアパネル6の動作スペースが必要以上に大きく取られることも無い。
【0034】
図6に示すように、ヒンジ部材50のヒンジピン50aをスイングドアパネル7の外側に配置した場合には、その分だけスライドドアパネル6を外側に離して配置する必要があるため、結果的に車両の車幅寸法が大きくならざるを得ない。しかし、本実施形態では、ヒンジ部材26のヒンジピン26aをスイングドアパネル7の後端側に配置したので、車両の車幅寸法の増大を抑えることができる。
【0035】
さらに、スイングドアパネル7の見切りPが車体2の前後方向に延在しているにも拘わらず、ヒンジ部材のヒンジピンをスイングドアパネル7の見切りPに沿った線上よりも車幅方向外側にずれた部位(例えばスイングドアパネル7の後端面)に配置した場合には、構造の複雑なヒンジ部材を使用しなければならない。しかし、本実施形態では、ヒンジ部材26のヒンジピン26aをスイングドアパネル7の見切りPに沿った線上に配置したので、ヒンジ部材26として最も単純な平蝶番を使用すれば良く、コスト的に有利となる。
【0036】
以上のように本実施形態によれば、複雑な構造のヒンジ部材を使用せず、しかも車両の車幅寸法を増大させること無く、スイングドアパネル7の開度を大きくすることができる。これにより、スライドドアパネル6を全開状態としたときの後部ドア開口部4の開口寸法だけでなく、スイングドアパネル7を全開状態としたときの後部ドア開口部4の開口寸法も大きくすることができる。その結果、例えば大きな荷物をストレス無く荷室に搬入することが可能となる。
【0037】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、ヒンジ部材26のヒンジピン26aは、スイングドアパネル7の見切りPに沿った線上において、スイングドアパネル7の後端面及び車体2の後端面から突出した位置に配置されているが、ヒンジピン26aの配置位置としては特にそれに限られない。例えば、車体2の後端面がスイングドアパネル7の後端面に対して車体2の後方に位置するように段状に形成されている場合など、スイングドアパネル7及び車体2の後端部の形状やデザイン等によっては、単にスイングドアパネル7の後端側におけるスイングドアパネル7の見切りPに沿った線上にヒンジピン26aを配置しても良い。
【符号の説明】
【0038】
1…車両用ドア構造、2…車体、4…後部ドア開口部、6…スライドドアパネル、7…スイングドアパネル、11A〜11C…スライド支持機構(スライド支持手段)、26…ヒンジ部材、26a…ヒンジピン、P…スライドドアパネル7の見切り(スイングドアパネル7の後端部と車体2の後端部と見切り)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の側部に設けられたドア開口部の前側領域を開閉するスライドドアパネルと、
前記ドア開口部の後側領域を前記スライドドアパネルと共に開閉するスイングドアパネルと、
前記スライドドアパネルを前記車体の前後方向にスライド可能に支持するスライド支持手段と、
前記スライドドアパネルが前記スイングドアパネルの外側に位置するように前記スイングドアパネルに重なった状態で、前記スイングドアパネルを前記車体の後端部に回動可能に支持するヒンジ部材とを備え、
前記スイングドアパネルと前記車体の後端部との見切りは、前記車体の前後方向に延びるように前記スイングドアパネルの外側面よりも車体内側に形成されており、
前記ヒンジ部材のヒンジピンは、前記スイングドアパネルの後端側における前記スイングドアパネルと前記車体の後端部との見切りに沿った線上に配置されていることを特徴とする車両用ドア構造。
【請求項2】
前記ヒンジピンは、前記スイングドアパネルの後端及び前記車体の後端から突出した位置に配置されていることを特徴とする請求項1記載の車両用ドア構造。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−112199(P2013−112199A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260765(P2011−260765)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)