説明

車両用パワーシート

【課題】 ナット部材の寸法精度を確保し、作動時の音、振動等の発生を防止すること。
【解決手段】 ロアレール2と、アッパレール3と、アッパレール2に回転自在に取り付けられるとともに、モータ6により回転駆動するスクリューシャフト11と、ロアレール2に固定されるとともに、スクリューシャフト11が貫通する貫通穴を有するホルダ13と、ホルダ13内に収容されるとともに、内周面にスクリューシャフト11と螺合する雌ネジを有する樹脂製のナット部材12と、を備える。ナット部材12は、雌ネジの中心軸を通るように底面の垂直方向に分割された第1のナット部材片12aと第2のナット部材片12bの組立体より構成され、第1のナット部材片12aと第2のナット部材片12bとは、ホルダ13により一体に保持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリューシャフト及びナット部材を備え、駆動源の回転運動を被駆動部材の直線運動として伝達する動力伝達装置を有する車両用パワーシートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用パワーシートでは、シートをスライドさせるスライド機構において、スクリューシャフト及びナット部材から構成され、駆動源の回転運動を被駆動部材の直線運動として伝達する動力伝達装置を有する。動力伝達装置では、モータの回転運動をスライドの直線運動に変換する。このような動力伝達装置の従来例として、以下に示されるものが知られている。
【0003】
特許文献1に記載の装置では、回転自在なスクリューと、該スクリューに螺合し且つそのテーパ形状の外周面にテーパ雄ネジとその軸線方向に延在し、その径を縮小可能とするスリットを有するテーパナットと、前記テーパナットのテーパ雄ネジと螺合する可動ブラケットと、前記テーパナットを前記可動ブラケットに非回転関係に固定する装置を有する。
【0004】
特許文献2に記載の装置では、駆動源及び被駆動部材のいずれか一方に連係されたスクリューシャフトと、前記駆動源及び前記被駆動部材のいずれか他方に連係され前記スクリューシャフトに螺合されたナット部材と、該ナット部材を収容するホルダーと、前記スクリューシャフトに設けられ前記ホルダーと当接して前記ナット部材と前記スクリューシャフトとの相対移動を規制するストッパと、前記ナット部材に一体成形され前記ナット部材と密着して前記ナット部材の全表面を被覆する弾性体とを有する。
【0005】
【特許文献1】特公平6−86900号公報
【特許文献2】特開平9−164864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の動力伝達装置において用いられるナット部材は樹脂により成形されているが、該ナット部材の内周面に雌ネジを形成する必要があるため、雌ネジ形成用の中子(タップ)を回転させながら抜かなければならない。この場合、ナット部材の雌ネジ形成部分については成形時のひけを見込むことができないため、寸法精度を確保することが困難であり、作動時に音、振動が発生する等の悪影響を与えるおそれがある。
【0007】
本発明の主な課題は、ナット部材の寸法精度を確保し、作動時の音、振動等の発生を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の視点においては、駆動源の回転運動を被駆動部材の直線運動として伝達する動力伝達装置を有する車両用パワーシートにおいて、車両の床に固定されたロアレールと、シートに取り付けられるとともに前記ロアレールに対して摺動するアッパレールと、前記ロアレールおよび前記アッパレールのいずれか一方のレールに回転自在に取り付けられるとともに、モータにより回転駆動するスクリューシャフトと、前記ロアレールおよび前記アッパレールの他方のレールに固定されるとともに、前記スクリューシャフトが貫通する貫通穴を有するホルダと、前記ホルダ内に収容されるとともに、内周面に前記スクリューシャフトと螺合する雌ネジを有する樹脂製のナット部材と、を備え、前記ナット部材は、前記雌ネジの中心軸を通るように底面の垂直方向に分割された第1のナット部材片と第2のナット部材片の組立体より構成され、前記第1のナット部材片と前記第2のナット部材片とは、前記ホルダにより一体に保持されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の前記車両用パワーシートにおいて、前記ホルダは、前記ナット部材を挿入する開口部が形成された断面U字形状に形成され、該断面U字の側壁は、前記第1のナット部材片と前記第2のナット部材片とを一体に保持し、該断面U字の底壁は、前記他方のレールに固定されていることが好ましい。
【0010】
本発明の前記車両用パワーシートにおいて、前記ホルダは、前記貫通穴が形成された前壁および後壁を有することが好ましい。
【0011】
本発明の前記車両用パワーシートにおいて、前記ナット部材を前記ホルダに出し入れする際に、前記ナット部材に前記スクリューシャフトが螺合した状態のまま前記ナット部材を前記ホルダに出し入れできるようにするための切欠部が、前記前壁および前記後壁に形成されていることが好ましい。
【0012】
本発明の前記動力伝達装置において、前記ホルダの周壁は、前記第1のナット部材片と前記第2のナット部材片の組合せ面が離れないように前記ナット部材を支持することが好ましい。
【0013】
本発明の前記動力伝達装置において、前記第1のナット部材片および前記第2のナット部材片は、雌ネジパターンを含め、型により成形されることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明(請求項1−6)によれば、ナット部材を縦に2分割することにより、ナット部材の雌ネジ部分の精度を向上させることができる。これにより、スライド作動時のフィーリング、作動音を改善することができる。また、ナット部材の保持に袋形状のホルダの使用し、ナット部材の外形を保持することにより、軸線方向の荷重に対して、強度を確保することができる。
【0015】
本発明(請求項3)によれば、車両が衝突してシートが前方または後方に荷重を受けた場合に、ナット部材片と前壁または後壁との当接により、前記荷重を受けることができるので、両ナット部材片を一体に保持させるホルダに、衝突時の荷重を受ける機能を兼ねさせることができる。
【0016】
本発明(請求項4)によれば、ナット部材にスクリューシャフトが螺合した状態のままナット部材をホルダに出し入れできるようにするための切欠部を有するので、組立および分解を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(実施形態1)
本発明の実施形態1に係る車両用パワーシートについて図面を用いて説明する。図1は、本発明の実施形態1に係る車両用パワーシートのスライド装置の構成を模式的に示した斜視図である。図2は、本発明の実施形態1に係る車両用パワーシートのスライド装置の構成を模式的に示した第1の断面図(図1のスクリューシャフトの軸方向の断面図)である。図3は、本発明の実施形態1に係る車両用パワーシートのスライド装置の構成を模式的に示した第2の断面図(図2のX−X´間の断面図)である。図4は、本発明の実施形態1に係る車両用パワーシートのスライド装置における動力伝達装置の構成を模式的に示した分解斜視図である。図5は、本発明の実施形態1に係る車両用パワーシートのスライド装置における動力伝達装置の構成を模式的に示した断面図(図1のスクリューシャフトの軸方向の断面図)である。
【0018】
実施形態1に係る車両用パワーシートは、スライド装置1を有する(図1参照)。スライド装置1は、ロアレール2と、アッパレール3と、駆動機構4と、を有する。ロアレール2は、車両の床(図示せず)に固定され、アッパレール3を摺動自在に支持している。
アッパレール3は、シートに取り付けられるとともにロアレール2に対して摺動自在である。ロアレール2とアッパレール3との間には、アッパレール3をロアレール2に対して摺動させる駆動機構4が配設されている。
【0019】
駆動機構4は、減速機5と、モータ6と、動力伝達装置10と、を有する。減速機5は、アッパレール3に支持されている(図1参照)。モータ6は、減速機5を介してアッパレール3に支持され、モータ6の出力軸が減速機5の入力軸に連結されている。動力伝達装置10は、減速機5を介してモータ6に連結されている。
【0020】
動力伝達装置10は、スクリューシャフト11と、ナット部材12と、ホルダ13と、ストッパ14と、ボルト15と、を有する(図1〜5参照)。
【0021】
スクリューシャフト11は、ロアレール2とアッパレール3とより区画される閉空間内にレール長手方向に延在して配設されている(図1〜3、5参照)。スクリューシャフト11は、減速機5の出力軸に連結されるとともに、減速機5によりアッパレール3に回転自在であり、軸方向に移動不能に支持されている。スクリューシャフト11の端部にはストッパ14が固定されている。スクリューシャフト11は、ホルダ13の貫通穴13dを挿通し、ナット部材12と螺合する。なお、スクリューシャフト11は、ロアレール2側に回転自在に取り付けられる構成であってもよい。
【0022】
ナット部材12は、内周面に雌ネジを有する部材であり、雌ネジの中心軸を通るように縦方向(底面の垂直方向)に分割された第1のナット部材片12aと第2のナット部材片12bの組立体よりなる(図4参照)。第1のナット部材片12a及び第2のナット部材片12bは、樹脂材料よりなり(樹脂製)、金型により成形される。第1のナット部材片12aと第2のナット部材片12bとは、雌ネジパターンを除き、面対称の関係にあることが好ましい。雌ネジ部分は、雌ネジ形成用の中子(タップ)によって形成されるものではなく、型(例えば、金型)により成形される。これにより、雌ネジ部分について、成形時のひけを見込むことができるため、寸法精度を確保することができる。ナット部材12は、雌ネジ部分にてスクリューシャフト11と回転自在に螺合しており、ホルダ13及びボルト15を介してロアレール2に回転不能に支持されている(図1〜3、5参照)。ナット部材12は、ホルダ13の収容空間13c内に挿入され、第1のナット部材片12aと第2のナット部材片12bの組合せ面が離れないようにホルダ13によって支持され、ホルダ13に対して回り止めされる(図4参照)。
【0023】
ホルダ13は、金属材料から成形され、底壁13a及び周壁13bよりなり、収容空間13cを備える箱形状を呈するものである(図1〜5参照)。ホルダ13は、ナット部材12を挿入する開口部が形成された断面U字形状に形成され、該断面U字の周壁13bは、第1のナット部材片12aと第2のナット部材片12bとを一体に保持し、該断面U字の底壁13aは、ロアレール2に固定されている。周壁13bの前壁および後壁は、ナット部材12の雌ネジ部分と対応する位置にスクリューシャフト11を挿通するための貫通穴13dが形成されている。周壁13bは、第1のナット部材片12aと第2のナット部材片12bの組合せ面が離れないようにナット部材12を支持(一体保持)する。底壁13aには、雌ネジ穴13eが形成されている。雌ネジ穴13eは、ボルト15によってホルダ13をロアレール2に固定するためのものである。なお、ロアレール2側にスクリューシャフト11が回転自在に取り付けられる場合、ホルダ13は、アッパレール3に固定されることになる。
【0024】
次に、本発明の実施形態1に係る車両用パワーシートのスライド装置における動力伝達装置の作動について説明する。
【0025】
モータ6が駆動すると、その回転トルクにより減速機5を介してスクリューシャフト11が回転する。このスクリューシャフト11の回転によりナット部材12が軸方向に移動しようとする。この際、ナット部材12がホルダ13及びボルト15によってロアレール2に固定されていることから、相対的にスクリューシャフト11がアッパレール3と共に軸方向に移動することとなる。その結果、アッパレール3がロアレール2に対してレール長手方向に摺動し、シートの前後位置が調整される。シートを最前位置に移動させると、ホルダ13の周壁13bの対向し合う一方部分の周壁13bとストッパ14とが当接する。これにより、スクリューシャフト11とナット部材12との相対移動が規制される。シートを最後位置に移動させた場合にも同様である。
【0026】
実施形態1によれば、ナット部材12を縦に2分割することにより、ナット部材12の雌ネジ部分の精度を向上させることができる。これにより、スライド作動時のフィーリング、作動音を改善することができる。また、ナット部材12の保持に袋形状のホルダ13を使用し、ナット部材12の外形を保持することにより、スクリューシャフト11の軸方向の荷重に対して、強度を確保することができる。
【0027】
(実施形態2)
本発明の実施形態2に係る車両用パワーシートについて図面を用いて説明する。図6は、本発明の実施形態2に係る車両用パワーシートのスライド装置における動力伝達装置構成を模式的に示した分解斜視図である。実施形態2に係る車両用パワーシートのスライド装置における動力伝達装置は、ホルダ23の構成のみ、実施形態1に係る車両用パワーシートのスライド装置における動力伝達装置と異なる。ホルダ23の周壁23bの前壁および後壁は、第1のナット部材片12a及び第2のナット部材片12bよりなるナット部材12をホルダ23に出し入れする際に、ナット部材12にスクリューシャフト(図2の11)が螺合した状態のままナット部材12をホルダ23に出し入れできるようにするための切欠部23dが形成されている。つまり、切欠部23dは、スクリューシャフト(図2の11)の通路となる。実施形態2によれば、ナット部材12にスクリューシャフト(図2の11)が螺合した状態のままナット部材12をホルダ23に出し入れできるようにするための切欠部23dを有するので、組立および分解を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態1に係る車両用パワーシートのスライド装置の構成を模式的に示した斜視図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る車両用パワーシートのスライド装置の構成を模式的に示した第1の断面図(図1のスクリューシャフトの軸方向の断面図)である。
【図3】本発明の実施形態1に係る車両用パワーシートのスライド装置の構成を模式的に示した第2の断面図(図2のX−X´間の断面図)である。
【図4】本発明の実施形態1に係る車両用パワーシートのスライド装置における動力伝達装置の構成を模式的に示した分解斜視図である。
【図5】本発明の実施形態1に係る車両用パワーシートのスライド装置における動力伝達装置の構成を模式的に示した断面図(図1のスクリューシャフトの軸方向の断面図)である。
【図6】本発明の実施形態2に係る車両用パワーシートのスライド装置における動力伝達装置の構成を模式的に示した分解斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
1 スライド装置
2 ロアレール
3 アッパレール
4 駆動機構
5 減速機
6 モータ
10 動力伝達装置
11 スクリューシャフト
12 ナット部材
12a 第1のナット部材片
12b 第2のナット部材片
13 ホルダ
13a 底壁
13b 周壁
13c 収容空間
13d 貫通穴
13e 雌ネジ穴
14 ストッパ
15 ボルト
23 ホルダ
23b 周壁
23c 収容空間
23d 切欠部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の床に固定されたロアレールと、
シートに取り付けられるとともに前記ロアレールに対して摺動するアッパレールと、
前記ロアレールおよび前記アッパレールのいずれか一方のレールに回転自在に取り付けられるとともに、モータにより回転駆動するスクリューシャフトと、
前記ロアレールおよび前記アッパレールの他方のレールに固定されるとともに、前記スクリューシャフトが貫通する貫通穴を有するホルダと、
前記ホルダ内に収容されるとともに、内周面に前記スクリューシャフトと螺合する雌ネジを有する樹脂製のナット部材と、
を備え、
前記ナット部材は、前記雌ネジの中心軸を通るように底面の垂直方向に分割された第1のナット部材片と第2のナット部材片の組立体より構成され、
前記第1のナット部材片と前記第2のナット部材片とは、前記ホルダにより一体に保持されていることを特徴とする車両用パワーシート。
【請求項2】
前記ホルダは、前記ナット部材を挿入する開口部が形成された断面U字形状に形成され、
該断面U字の周壁は、前記第1のナット部材片と前記第2のナット部材片とを一体に保持し、
該断面U字の底壁は、前記他方のレールに固定されていることを特徴とする請求項1記載の車両用パワーシート。
【請求項3】
前記ホルダは、前記貫通穴が形成された前壁および後壁を有することを特徴とする請求項1又は2記載の車両用パワーシート。
【請求項4】
前記ナット部材を前記ホルダに出し入れする際に、前記ナット部材に前記スクリューシャフトが螺合した状態のまま前記ナット部材を前記ホルダに出し入れできるようにするための切欠部が、前記前壁および前記後壁に形成されていることを特徴とする請求項3記載の車両用パワーシート。
【請求項5】
前記ホルダの周壁は、前記第1のナット部材片と前記第2のナット部材片の組合せ面が離れないように前記ナット部材を支持することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一に記載の車両用パワーシート。
【請求項6】
前記第1のナット部材片および前記第2のナット部材片は、雌ネジパターンを含め、型により成形されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一に記載の車両用パワーシート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−38891(P2007−38891A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−226123(P2005−226123)
【出願日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】