説明

車両用ブレーキ装置

【課題】 電気的作用により任意の制動トルクを発生させる制動装置において、車両を確実に停止させることができると共に、停止保持中に電力を殆ど消費することがない車両用ブレーキ装置を得る。
【解決手段】 電動モータ1による制動の他に摩擦ブレーキ2による制動を行うようにし、ブレーキペダル9が踏まれると、車輪回転速度が予め規定した速度以上では電動モータ1による制動を行い、車輪回転速度が予め規定した速度未満になると、電動モータ1による制動に代わって摩擦ブレーキ2による制動を行う。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は車両用ブレーキ装置に関し、とりわけ、電気自動車等の車両に用いて好適な車両用ブレーキ装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、上述した車両用ブレーキ装置として、例えば特開昭52−15012号公報に示されているものがある。これは、電動モータの界磁コイルを切り替える前後進コンタクタを有し、アクセルを戻した時、或いはアクセルに関係なく傾斜センサが働いた時に、前後進コネタクタを電動車の進行方向と逆方向に切り替えて逆制動をかけるようにしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上述した、電気的作用により任意の制動トルクを発生させる従来の車両用ブレーキ装置にあっては、車両速度(車速)に応じたフィードバック制御を行っている制御系の作用により、制動をかけて停止付近になると、制動トルクが発振状態となって変動してしまい、車両を確実に停止させることが困難であるという問題点があった。また、停止保持動作状態においても常に電力を供給する必要があるので、坂道での停車や長時間停車等では電力消費が大きくなるという問題点もあった。
【0004】本発明は上記事情に基づきなされたもので、車両を確実に停止させることができると共に、停止保持動作中でも電力を殆ど消費することがない車両用ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成のための本発明に係る車両用ブレーキ装置は、ブレーキ踏力に応じて摩擦材を、車輪とともに回転する回転体に押圧する摩擦ブレーキ装置と、前記車輪に連結された電動モータが、車両走行方向とは異なる方向の回転トルクを発生することにより制動力を得る電動ブレーキ装置とを備え、車速が予め規定した速度以上の時には前記電動ブレーキ装置を作動し、車速が予め規定した速度を下回る時には前記摩擦ブレーキ装置を作動させることを特徴とする。
【0006】上記構成によれば、車速が予め規定した速度以上では電動ブレーキ装置が作動し、予め規定した速度を下回った時には回転体に摩擦材を押圧させる通常の摩擦ブレーキ装置が作動する。したがって、電動ブレーキ装置の制御系が原因で起る停止付近での制動トルクの変動による問題は解消し、摩擦ブレーキ装置が制動をかけるので、車両を確実に停止させることができるようになる。また、車両の坂道停車や長時間停車等では、摩擦ブレーキ装置のみで制動トルクを発生させれば良く、摩擦ブレーキ装置は電力を殆ど消費しないので、省電力化が図れる。さらに、摩擦ブレーキ装置は、主に静的な制動トルクを発生させれば良いため、エネルギ容量の小さな小型のもので良く、バネ下重量の低減化が図れる。
【0007】
【発明の実施の形態】以下、本発明に係る車両用ブレーキ装置の好適な実施の形態を図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明に係る車両用ブレーキ装置の一実施形態の構成を示すブロック図である。この車両用ブレーキ装置は、電動モータ1、摩擦ブレーキ2、摩擦ブレーキ調節装置3、車輪回転速度センサ4、ブレーキ踏力センサ5、バッテリ6、制御回路7を備えて構成されている。ここで、摩擦ブレーキ2、摩擦ブレーキ調節装置3及び制御回路7は摩擦ブレーキ装置100を構成する。また、電動モータ1と制御回路7は電動ブレーキ装置110を構成する。なお、ブレーキ踏力センサ5に代えて、ペダル変位量を検出するストロークセンサを用いることもできる。
【0008】電動モータ1は回転軸1Aが、車輪8が取り付けられた車軸と連結されており、車輪8より電動モータ1側の車軸には回転軸1Aと一体回転する円板状の回転体(ロータ)9が取り付けられている。摩擦ブレーキ2は、摩擦ブレーキ調節装置2より制動油が供給されることで、不図示の駆動ピストンが作動して、摩擦材が回転体9を挟み込んで制動をかける通常のディスクブレーキである。
【0009】摩擦ブレーキ調節装置3は、制御回路7より出力される摩擦ブレーキ信号に応じ、図示せぬ圧力源の圧力を調整して摩擦ブレーキ2に供給し、制動力を調節するものである。なお、摩擦ブレーキ信号がアナログの信号の場合はその信号レベルに応じて制動油圧が変化し、ディジタル信号の場合はそのデータ値に応じて制動油圧が変化する。また、摩擦ブレーキ2は前述の油圧式に限定されず、圧電素子や超磁歪素子の偏倚力で摩擦材を押圧させる電気式、あるいは、電動モータとカムギヤを利用した機械式のものであっても良い。
【0010】車輪回転速度センサ4は、車輪8の回転速度(車速)を検出するものであり、車輪8の回転速度に応じた車輪回転速度信号Vw を出力する。この場合、車輪回転速度信号Vw の極性は、車輪8の回転方向が車両の進行方向の時に正極、進行方向と逆方向の時に負極になる。ブレーキ踏力センサ5はブレーキペダル5の踏み込みを検出するものであり、ブレーキ踏力に応じたブレーキ踏力信号Fを出力する。
【0011】バッテリ6は、電動ブレーキ装置を構成する各部位への電源の供給を行う。制御回路7は、車輪回転速度センサ4から供給される車輪回転速度信号Vw とブレーキ踏力センサ5から出力されるブレーキ踏力信号Fとを取り込み、これらの信号に基づいて電動モータ1に供給する電流(制動電流)と摩擦ブレーキ調節装置3に供給する摩擦ブレーキ信号とを制御する。すなわち、制御回路7は、ブレーキペダル9が踏まれて制動がかけられると、ブレーキ踏力に比例し、且つ車輪8の回転方向とは異なる逆方向のトルクが発生する制動電流を、電動モータ1に供給する。そして、電動モータ1に制動電流が供給されることにより、制動電流に比例した制動トルクが発生する。なお、制御回路7は車輪回転速度信号Vw の極性によって車輪8の回転方向を判断し、その回転方向と逆方向のトルクが発生するように制動電流の極性を変える。
【0012】そして、制御回路7は、車輪回転速度信号Vw を常時監視し、車速(車輪8の回転速度)が予め規定した速度(例えば5km/h)を下回ったと判断すると、もしくは、車両停止状態(車速が零)であると判断すると、電動モータ1への制動電流の供給を停止するとともに、摩擦ブレーキ調節装置3に対し摩擦ブレーキ信号を出力する。摩擦ブレーキ調節装置3は、摩擦ブレーキ信号に応じたブレーキ力を摩擦ブレーキ2に発生させる。そして、電動ブレーキ110によって停止付近まで減速された車両に対し、摩擦ブレーキ2が制動トルクを発生して車両を確実に停止させる。また、制御回路7は、車両停止後も摩擦ブレーキ2を作動させ、摩擦ブレーキ2が車両を停止状態に維持する。
【0013】図2は、制御回路7の動作を示すフローチャートである。先ず、制御回路7は、ステップ10で車輪回転速度信号VW とブレーキ踏力信号Fを読み込む。そして、ステップ12でブレーキ踏力信号Fが「0」以上であるか否か、即ちブレーキペダル9が踏み込まれたか否かを判定する。この判定において、ブレーキペダル9が踏み込まれたと判断するとステップ14に進み、車輪回転速度信号VW が予め規定した速度K(例えば5km/h)未満であるか否かを判定する。この判定において、車輪回転速度信号VW が予め規定した速度以上であると判断するとステップ16に進み、電動モータ1による制動を行い、車輪回転速度信号VW が予め規定した速度未満であると判断するとステップ18に進み、摩擦ブレーキ2による制動を行う。
【0014】このように、この実施の形態では、電動モータ1による制動の他に摩擦ブレーキ2による制動を行うようにし、ブレーキペダル9が踏まれると、車輪回転速度が予め規定した速度以上では電動モータ1による制動を行い、車輪回転速度が予め規定した速度未満になると、電動モータ1による制動に代わって摩擦ブレーキ2による制動を行うようにしたので、電動モータ1による制動のみの場合に起る停止付近での制動トルクの変動は起らず、摩擦ブレーキ2による制動がかかることから、確実に車両を停止させることができる。
【0015】また、車速が予め規定した速度未満であったり、車両の坂道停車や長時間停車等では、電動モータ1への制動電流の供給を行わないで、摩擦ブレーキ装置のみで制動トルクを発生させれば良く、そして、摩擦ブレーキ装置が電力を殆ど消費しないことから、電力消費を大幅に低減できる。さらに、摩擦ブレーキは、停止付近での車両に対して制動トルクを作用させればよいため、単独で設けられた場合に較べてエネルギ容量の小さな小型のもので良く、従って、装備することによるバネ下重量の低減を図ることができる。
【0016】なお、上記の実施形態では、電動モータ1が制動用に用いられる構成について説明したが、電気自動車の駆動用モータと併用される構成とすることもできる。さらに、本発明に係る車両用ブレーキ装置が一輪に対して適用されているように構成したが、本装置は、機械的に結合された複数の車輪に対して、制動トルクを発生させる構成であっても良い。また、摩擦ブレーキ装置は、主に小さな制動トルクを発生させれば良いため、ブレーキ容量の小さな小型のもので良く、バネ下重量の低減化が図れる。
【0017】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、電動ブレーキ装置と摩擦ブレーキ装置とを備え、車速が予め規定した速度以上では電動ブレーキ装置による制動を行い、車速が予め規定した速度未満になると摩擦ブレーキ装置による制動を行うようにしたので、電動ブレーキ装置のみ使用した場合に起る停止付近での制動トルクの変動は起らず、摩擦ブレーキ装置による制動がかかることから、確実に車両を停止させることができる。また、車速が予め規定した速度以下では電動ブレーキ装置が作動させないので、電力消費を大幅に低く抑えることができる。すなわち、省電力化とバッテリの長寿命化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る車両用ブレーキ装置の一実施形態を示すブロック図である。
【図2】図1における制御回路の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
1 電動モータ
1A 回転軸
2 摩擦ブレーキ
3 摩擦ブレーキ調節装置
4 車輪回転速度センサ
5 ブレーキ踏力センサ
6 バッテリ
7 制御回路
8 車輪回転速度センサ
9 ブレーキペダル
100 摩擦ブレーキ装置
110 電動ブレーキ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ブレーキ踏力に応じて摩擦材を、車輪とともに回転する回転体に押圧する摩擦ブレーキ装置と、前記車輪に連結された電動モータが、車両走行方向とは異なる方向の回転トルクを発生することにより制動力を得る電動ブレーキ装置とを備え、車速が予め規定した速度以上の時には前記電動ブレーキ装置を作動し、車速が予め規定した速度を下回る時には前記摩擦ブレーキ装置を作動させることを特徴とする車両用ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2000−134715(P2000−134715A)
【公開日】平成12年5月12日(2000.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−302697
【出願日】平成10年10月23日(1998.10.23)
【出願人】(000145541)株式会社曙ブレーキ中央技術研究所 (8)
【Fターム(参考)】