説明

車両用ヘッドアップディスプレイ装置

【課題】表示光が投射されるウインドシールドガラスを介して入射する外光によってウインドシールドガラスに表示部材の映り込みが生じることを簡易な構成で防止する。
【解決手段】車室4を画成する筐体5内に設置され、発光表示デバイス12から照射された表示光6をプリズムレンズ15を介してフロントガラス2に投射して虚像を表示する車両用のヘッドアップディスプレイ装置10であって、プリズムレンズ15が、車室4側に設けられて発光表示デバイス12から照射された表示光6をフロントガラス2に投射する表示面15bを備え、表示面15bが、フロントガラス2を介して車室4内に入射する外光7を筐体5内に反射させる角度90+β/2≦αとなるように設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光表示デバイスから照射された表示光を表示部材を介してウインドシールドガラスに投射して虚像を表示する車両用ヘッドアップディスプレイ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の各種情報をドライバに提供する手段として、ヘッドアップディスプレイ装置が搭載されることがある。車両用ヘッドアップディスプレイ装置としては、フロントガラスに半透明のハーフミラー板を貼付し、このハーフミラー板に表示光を投射するようにしたものが知られている(特許文献1参照)。この車両用ヘッドアップディスプレイ装置は、車室に開口する筐体内に設置されて装置自体がドライバの視界に入らないようにされており、発光表示デバイスから照射された表示光が、特許文献1のように表示部材を透過してフロントガラスに投射されることで、或いは特許文献2のように表示部材に反射してフロントガラスに投射されることで虚像が現れるようになっている。また、近年では、ハーフミラー板を貼付する代わりに、フロントガラスに透明な反射膜をコーティングする技術も実用化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−169346号公報
【特許文献2】特開2007−86226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、図15に示すように、従来のヘッドアップディスプレイ装置80では、投射した表示光がフロントガラス2のドライバの視界に入り易い位置に表示されるように、発光表示デバイス82や表示部材85の位置が設定され、これに合わせて筐体5の位置や形状が設定されている。そのため、フロントガラス2を通って入射する太陽光などの外光7が表示部材85に当たると、表示部材85に反射した反射光7bがフロントガラス2に投射されてフロントガラス2に映り込むことがあった。このような外光7による映り込みは、運転中に視界に入ったドライバに煩わしさを感じさせたり、情報表示があったものとの誤認させたりする虞があるため、好ましいものではない。
【0005】
ここで、表示部材85の映り込みを防止するために、図15に示すように、筐体5の深さを深くしてその底部に発光表示デバイス82や表示部材85を設置するとともに、筐体5の開口部5oに保護シート88を設けることが考えられるが、表示光を透過させるためには保護シート88を透光性にする必要があるため、フロントガラス2への映り込みを完全に防止することはできない。
【0006】
本発明は、このような問題点を解消するべく案出されたものであり、その主な目的は、
表示光が投射されるウインドシールドガラスを介して入射する外光によってウインドシールドガラスに表示部材の映り込みが生じることを簡易な構成で防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するために、本発明は、車室(4)に開口するように凹設された筐体(5)内に設置され、発光表示デバイス(12)から照射された表示光(6)を表示部材(15,25,36,45,55,65,75)を介してウインドシールドガラス(2)に投射して虚像を表示する車両用ヘッドアップディスプレイ装置(10,20,30,40,50,60,70)であって、表示部材が、車室側に設けられて発光表示デバイスから照射された表示光をウインドシールドガラスに投射する表示面(15b,25b,36b,45b,55b,65b,75b)を備え、当該表示面が、ウインドシールドガラスを介して車室内に入射する外光(7)を筐体内に反射させる角度(90+β/2≦α)に設定されたことを特徴とするものとした。ここで、表示部材とは、発光表示デバイスから照射された表示光の経路において、表示光の少なくとも一部を透過または反射させる平面を備えた部材のうち最も車室側に配置された部材を云うものであり、表示面とは、表示部材の平面のうち表示光の経路における最も車室側に設けられた面を云うものである。
【0008】
本発明によれば、ウインドシールドガラスを介して車室内に入射する外光が表示部材に当たっても、表示部材に反射した光は筐体内に投射されるため、ウインドシールドガラスに映り込みが生じることを防止できる。
【0009】
また、本発明の他の側面によれば、上記車両用ヘッドアップディスプレイ装置において、虚像をウインドシールドガラスの所望の位置に明瞭に表示すべく、発光表示デバイスから照射された表示光を屈折させる光屈折手段(15,25,35,75c)を備える構成とすることができる。
【0010】
この構成によれば、表示部材の表示面で外光を筐体内に反射させつつ、表示光を光屈折手段によって所望の方向に、すなわちウインドシールドガラスの所望の位置に投射することができる。
【0011】
また、本発明の他の側面によれば、上記車両用ヘッドアップディスプレイ装置において、表示部材の表示面における少なくとも外光が入射する部分を低反射処理した構成や、筐体の内側表面における表示部材に反射した外光を受ける部分を低反射処理した構成とすることができる。
【0012】
このような構成によれば、ウインドシールドガラスを介して車室内に入射する外光の表示部材による反射、若しくは表示部材に反射した外光の筐体内表面による反射を抑制することができるため、ウインドシールドガラスへ映り込みを確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
このように、本発明によれば、表示光を投射するウインドシールドガラスを介して入射する外光によってウインドシールドガラスに映り込みが生じることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置を側面から見た概略構成図である。
【図2】第1実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置による投射原理の説明図である。
【図3】第1実施形態におけるフロントガラスと表示部材との位置関係の説明図である。
【図4】第1実施形態における表示部材の設置角度の説明図である。
【図5】第1実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置と従来技術との比較説明図である。
【図6】第1実施形態の第1変形例に係るヘッドアップディスプレイ装置による投射原理の説明図である。
【図7】第1実施形態の第2変形例に係るヘッドアップディスプレイ装置による投射原理の説明図である。
【図8】第2実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置を側面から見た概略構成図である。
【図9】第2実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置による投射原理の説明図である。
【図10】第3実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置を側面から見た概略構成図である。
【図11】第3実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置による投射原理の説明図である。
【図12】第3実施形態におけるフロントガラスと表示部材との位置関係の説明図である。
【図13】第3実施形態の第1変形例に係るヘッドアップディスプレイ装置による投射原理の説明図である。
【図14】第3実施形態の第2変形例に係るヘッドアップディスプレイ装置による投射原理の説明図である。
【図15】従来技術によるヘッドアップディスプレイ装置を側面から見た概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付の図面を参照して本発明に係るヘッドアップディスプレイ装置の実施形態について詳細に説明する。
【0016】
≪第1実施形態≫
まず、図1〜図5を参照しながら第1実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置10について説明する。図1に示すように、自動車1のウインドシールドガラスとしてのフロントガラス2の下方には、ダッシュボードパネル3が配置され、フロントガラス2の内面とダッシュボードパネル3の上面とによって車室4が画成されている。ダッシュボードパネル3における運転席の略正面の上面には筐体取付孔3aが形成されており、この筐体取付孔3aに筐体5が嵌合され、ダッシュボードパネル3に窪み3bを形成している。換言すれば、車室4に開口するようにダッシュボードパネル3に筐体5が凹設されている。筐体5は、その軸線5aXが前下がりに傾斜した有底筒状の筒状部5aと、筒状部5aの上端縁とダッシュボードパネル3とを接続すべく、筒状部5aの上端開口の一部を覆うように形成された後壁部5bとを有し、筒状部5aの内部にヘッドアップディスプレイ装置10が収容されている。
【0017】
ヘッドアップディスプレイ装置10は、追突警報としてフラッシュ状の表示光6をフロントガラス2に投射してドライバに虚像を視認させるものであり、図2に併せて示すように、筐体5の筒状部5aの底壁上にその軸線5aXと直交する向きに設けられ、光源としてのLED11(Light Emitting Diode:発光ダイオード)を備えた板状の発光表示デバイス12と、筐体5の筒状部5aの上端近傍にその軸線5aXと直交する向きに、すなわち発光表示デバイス12と略平行に設けられ、LED11から照射された表示光6を透過させてフロントガラス2に投射することで虚像を表示する表示装置13とを備えている。
【0018】
表示装置13は、発光表示デバイス12側に配置され、LED11から放射状に照射された表示光6を内向き(光軸寄り)に屈折させて発光表示デバイス12に対して垂直となる略平行な光束を作り出す凸レンズ14と、車室4側に配置され、凸レンズ14を透過して発光表示デバイス12に対して垂直に投射される平行光束を上方、すなわちフロントガラス2側へ屈折させる表示部材且つ屈折手段としてのプリズムレンズ15とから構成される。なお、凸レンズ14は、発光表示デバイス側の面14aが発光表示デバイス12と平行な平面とされ、車室側の面14bが凸面とされた平凸レンズであり、且つ凸面が同心状の円で所定幅に分割された領域を略平面上に並べて構成されることで、厚みが低減されたフレネルレンズである。また、プリズムレンズ15は、車室側に配置されて表示光6をフロントガラス2に投射する表示面15bが発光表示デバイス12と平行な平面とされ、発光表示デバイス側の面15aが凸レンズ14を通過した平行光束に対して傾斜した三角プリズムであり、且つ発光表示デバイス12の面15aが傾斜方向と直交する直線で所定幅に分割された領域を略平面上に並べて構成されることで、厚みが低減された平板状プリズムである。さらに、プリズムレンズ15の車室側の表示面15bには、艶消し塗装などによる低反射処理が施されている。或いは、筐体5の後壁部5bの表面に艶消し塗装などによる低反射処理を施してもよい。
【0019】
このように構成されたことにより、ヘッドアップディスプレイ装置10は、LED11から照射された表示光6を、表示装置13に対して直交方向よりも上向きの平行光束としてフロントガラス2に投射し、フロントガラス2に反射した表示光6を虚像としてドライバに表示する。
【0020】
そして、ヘッドアップディスプレイ装置10は、プリズムレンズ15の車室側の表示面15bがフロントガラス2を介して車室4内に入射する太陽光などの外光7を筐体5内に反射させる角度に設定されている。
【0021】
ここで、この筐体5内に反射させるプリズムレンズ15の角度について、図3,図4を参照しながら詳細に説明する。まず、図3に示すように、外光7が、最も筐体5の外(上方)に反射し易い条件である、フロントガラス2の最上部の点P1を通って表示部材(プリズムレンズ15)における入射し得る最上部の点P2に向けて入射する場合において、入射光7aとプリズムレンズ15の車室側の表示面15bとのなす角度をαとし、点P2と筐体5の最上部の点P3とを結んだ線と入射光7aとのなす角度をβとする。
【0022】
この場合に角度αを90度未満に設定すると、図4の(A)に示すように、点P2に入射した入射光7aは、プリズムレンズ15に対する角度を大きくして反射する。つまり、点P2で反射した反射光7bとプリズムレンズ15の車室側の表示面15bとのなす角度をγとすると、α<γの関係となる。したがって、反射光7bがフロントガラス2に投射され得ることとなる。
【0023】
次に、角度αを90度以上且つ90+β/2度未満に設定すると、(B)に示すように、反射光7bは、入射光7aよりもプリズムレンズ15に対して小さな角度をもって投射されるが(α>γ)、依然として筐体5の最上部の点P3の上方を通過するため、フロントガラス2に投射されることはないが、ドライバに投射され得ることとなる。
【0024】
そして最後に、角度αを90+β/2度以上に設定すると、(C)に示すように、反射光7bは、筐体5の内部(後壁部5b)に投射されることとなり、フロントガラス2およびドライバに投射されることはない。
【0025】
つまり、フロントガラス2と筐体5との相対位置関係に基づき、プリズムレンズ15の設置角度を90+β/2度以上とすることにより、外光7がフロントガラス2の最上部の点P1から表示部材における入射し得る最上部の点P2に向けて入射しても、プリズムレンズ15に反射した外光7は、筐体5の後壁部5bに投射されることとなり、筐体5の後壁部5bの上方を通過して直接ドライバに投射されることはなく、フロントガラス2に投射されてヘッドアップディスプレイ装置10がフロントガラス2に映り込むこともない。そのため、プリズムレンズ15に反射した外光7によってドライバが眩しさを覚えたり、或いは、フロントガラス2への映り込みによってドライバが煩わしく感じたり情報表示と誤認したりすることもない。
【0026】
そして、本実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置10は、自動車1に搭載された追突警報装置システムの警報装置として利用され、脇見運転などで注意が前方からそれたドライバに対し、フロントガラス2にフラッシュ状の表示光6を投射して警報表示を行うことで、注意力をインストルメントパネルなどを経由させることなく直接的に車両前方へ向けさせ、前方車両への追突を効果的に防止することができる。
【0027】
また、本実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置10によれば、以下のような効果が奏される。すなわち、図15に示す従来のヘッドアップディスプレイ装置80と重ねて示す図5に示されるように、従来のヘッドアップディスプレイ装置80では、表示部材85の映り込みを防止するために、一般的に筐体5の開口部5oに保護シート88を設け、筐体5の深さを深くしてその底部に発光表示デバイス82や表示部材85を設置しているが、本実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置10によれば、プリズムレンズ15による外光7の反射によって映り込みが生じることがないため、保護シート88を設ける必要がない。したがって、保護シート88の設置を廃止し、筐体5の深さを浅くすることで筐体5を小型化することができる。さらに、筐体5の小型化に起因して、ヘッドアップディスプレイ装置10の耐熱対策も容易になる。
【0028】
また、プリズムレンズ15の車室側の表示面15bに低反射処理が施されたことにより、プリズムレンズ15の反射率が低減し、筐体5内に投射される反射光7bの光量を低減することができる。そのため、筐体5の後壁部5bに投射され、後壁部5b表面において反射する外光量が低減され、フロントガラス2への映り込みを一層確実に防止することができる。或いは、車室側の表示面15bに低反射処理を施す代わりに、筐体5の後壁部5bの表面に低反射処理を施すことにより、後壁部5b表面において反射する外光量を低減し、フロントガラス2への映り込みを一層確実に防止することも可能である。
【0029】
次に、図6,7を参照して、第1実施形態の変形例に係るヘッドアップディスプレイ装置20,30について説明する。なお、上記第1実施形態と同一の部材には同一の符号を付して説明するとともに、上記第1実施形態と重複する説明は省略する。
【0030】
<第1変形例>
まず、図6に示すように、第1変形例に係るヘッドアップディスプレイ装置20では、表示装置23が1枚の複合レンズ25によって構成される。表示部材且つ屈折手段であるこの複合レンズ25は、発光表示デバイス12側の面が、LED11から放射状に照射された表示光6を内向き(光軸寄り)に屈折させて発光表示デバイス12に対して垂直となる略平行な光束を作り出す凸面とされ、車室側の表示面25bが、凸面を通過した平行光束からなる表示光6を表示装置23に対して直交方向よりも上向きに屈折させるべく、表示光6の光束に対して傾斜した平面を有する三角プリズム面とされている。また、複合レンズ25は、両面ともに上記第1実施形態と同様に複数に分割された領域が略平面上に並べられたフレネルレンズ或いは平板状プリズムとして構成されている。つまり、本変形例では、表示光6をフロントガラス2に投射する表示面25bの他、透過する表示光6に平行な(表示光6の経路にならず本発明の表示面を構成しない)面25cもが車室側に配置され、表示面25bは、この面25cによって相互に平行な複数の平面に分割されている。
【0031】
この複合レンズ25によれば、上記第1実施形態と同様にLED11から照射された表示光6を、複合レンズ25に対して直交方向よりも上向きの平行光束としてフロントガラス2に照射し、フロントガラス2に反射した表示光6を虚像としてドライバに表示することができる。また、複合レンズ25が1枚のレンズ部材で構成されるため、部品数の削減および組立工数の削減を図ることができるとともに、装置のより一層の小型化を図ることができる。さらに、車室側に配置されて表示光6をフロントガラス2に投射する表示面25bが平板状の複合レンズ25に対してフロントガラス2と反対側(下側)に向くように傾斜しているため、フロントガラス2から入射した外光7が複合レンズ25の車室側の表示面25bに当たっても、確実に反射光7bが筐体5内に投射される。したがって、フロントガラス2の最上部の点P1から表示部材(複合レンズ25)における入射し得る最上部の点P2に入射した外光7と複合レンズ25の車室側の表示面25bとのなす角度α(図3参照)を、90+β/2度以上に設定し得る範囲において、複合レンズ25や筐体5の筒状部5aを上記第1実施形態よりも上向きに設置することが可能である。
【0032】
<第2変形例>
一方、図7に示すように、第2変形例に係るヘッドアップディスプレイ装置30では、表示装置33が、上記第1変形例と同様に構成された屈折手段としての複合レンズ35と、複合レンズ35の車室4側に配置され、平板状に形成された表示部材としての保護フィルム36とによって構成される。このような構成とされることにより、ヘッドアップディスプレイ装置10の内部へ埃や塵が進入することを防止できる。
【0033】
さらに、保護フィルム36の少なくとも車室4側の表示面36bに低反射処理を施すことにより、表示光6の経路において最も車室4側に配置される保護フィルム36の表示面36bによる反射を抑制できる。また、複合レンズ35の面35cに反射した外光7が筐体5の外部に極僅かに漏れるとしても、保護フィルム36を半透明にすればこの漏れをも防止することができる。
【0034】
または、保護フィルム36の車室側の表示面36bを平滑な反射面とし、筐体5の後壁部5bの表面に低反射処理を施すことにより、保護フィルム36の表示面36bによる反射光7bを筐体5の後壁部5bに誘導し、後壁部5bによる反射を抑制することで、ヘッドアップディスプレイ装置30のフロントガラス2への映り込みを防止することもできる。
【0035】
≪第2実施形態≫
次に、図8,図9を参照しながら第2実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置40について説明する。なお、上記変形例と同様に、上記第1実施形態と同一の部材などには同一の符号を付し、重複する説明は省略する。以下の実施形態およびその変形例についても同様とする。図8に示すように、車室4に開口する筐体5は、図15に示した従来例と同様の傾きをもつ有底の筒状形状を呈してダッシュボードパネル3に凹設されている。一方、本実施形態の筐体5は、従来例のものよりも深く形成されており、その内部にヘッドアップディスプレイ装置40が収容されている。
【0036】
ヘッドアップディスプレイ装置40は、筐体5の底に配置され、LED11を備えた発光表示デバイス12と、発光表示デバイス12と筐体5の開口部5oとの間に配置され、LED11から照射された表示光6をフロントガラス2に投射することで虚像を表示する表示装置43とを備えている。
【0037】
図9に併せて示すように、表示装置43は、発光表示デバイス12側に配置された第1実施形態と同様の凸レンズ14と、車室4側に配置された表示部材としてのマジックミラー45(ミラーガラス)とから構成される。また、埃などの進入を防止するために、筐体5の開口部5oには透光性の保護シート46が設けられている。マジックミラー45は、入射する光の一部を反射させ、一部を透過させるように、透明板45cの一方の面(ここでは車室側の面)にアルミニウムや銀、錫などからなる反射薄膜45dを蒸着などにより積層させたものであり、ここでは入射光を1対1の割合で透過と反射に分けるハーフミラーとされている。そして、マジックミラー45は、車室4側の表示面45bが筐体5の後壁に向くように、発光表示デバイス12や凸レンズ14よりも後下がりに傾斜して配置されている。そのため、凸レンズ14を透過して発光表示デバイス12に対して垂直に投射される平行光束からなる表示光6は、一部(約半分)がマジックミラー45に反射して筐体5の前壁へ投射され、一部(約半分)がマジックミラー45を透過してフロントガラス2へ投射されることとなる。
【0038】
そして、マジックミラー45は、車室側の表示面45bがフロントガラス2を介して車室4内に入射する太陽光などの外光7を筐体5内に反射させる角度に設定されている。なお、この角度は上記第1実施形態と同様であるためここでは詳細な説明を省略する。そのため、フロントガラス2を介して車室4内に入射する外光7は、その一部(約半分)がマジックミラー45に反射して筐体5の後壁へ投射され、その一部(約半分)がマジックミラー45を透過して凸レンズ14へ投射される。なお、凸レンズ14へ投射された外光7の大部分は、凸レンズ14を透過して発光表示デバイス12へ投射され、発光表示デバイス12に吸収される。一方、凸レンズ14へ投射された外光7のごく一部は凸レンズ14の凸面に反射するが、この反射光7bは、その約半分が再度マジックミラー45に反射して筐体5の前壁へ投射され、マジックミラー45を透過する反射光7bの一部も、凸レンズ14の凸面によって拡散状態で投射されるため光束密度が低下する。そのため、ヘッドアップディスプレイ装置10がフロントガラス2に映り込むことは殆どない。
【0039】
なお、本実施形態では、表示部材としてマジックミラー45を用いているが、マジックミラー45の代わりに入射光の一部を透過させるとともに一部を吸収する平板状のスモークフィルム(図示省略)を用いても同様の効果を得ることができる。表示部材としてスモークフィルムを用いた場合、凸レンズ14を透過して発光表示デバイス12に対して垂直に投射される平行光束からなる表示光6は、一部がスモークフィルムに吸収され、一部がスモークフィルムを透過してフロントガラス2へ投射されることとなる。一方、フロントガラス2を介して車室4内に入射する外光7は、一部がスモークフィルムの車室側の表示面に反射して筐体5の後壁へ投射され、一部がスモークフィルムに吸収され、一部がスモークフィルムを透過して凸レンズ14へ投射される。したがって、凸レンズ14へ投射される外光7が凸レンズ14の凸面に拡散状態で反射した後にスモークフィルムを再度透過する光量は微量であり、ヘッドアップディスプレイ装置40がフロントガラス2に映り込むことは殆どない。
【0040】
≪第3実施形態≫
次に、図10〜図12を参照しながら第3実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置50について説明する。図10に示すように、ダッシュボードパネル3の筐体取付孔3aに嵌合された筐体5は、その軸線5aXが略水平に配置され、後端に底壁を有するとともに筐体取付孔3aと重なる円筒面部分に開口部5oを有する筒状部5aと、筒状部5aの前端縁とダッシュボードパネル3とを接続すべく、筒状部5aの前端開口を覆うように形成された前壁部5cとを有し、筒状部5aの内部にヘッドアップディスプレイ装置50が収容されている。
【0041】
ヘッドアップディスプレイ装置50は、筐体5の筒状部5aの底部にその軸線5aXと直交する向きに設けられ、LED11を備えた発光表示デバイス12と、筐体5の筒状部5a内において発光表示デバイス12の前方に設けられ、LED11から照射された表示光6をフロントガラス2に投射することで虚像を表示する表示装置53とを備えている。
【0042】
図11に併せて示すように、表示装置53は、筒状部5a内の発光表示デバイス12側に配置された第1実施形態と同様の凸レンズ14と、筐体5の開口部5o近傍、すなわち表示光6の経路における最も車室4側に配置され、凸レンズ14を透過して発光表示デバイス12に対して垂直に投射される平行光束を上方(フロントガラス2側)へ鏡面反射させる表示部材としての鏡55とから構成される。なお、鏡55は、アルミニウムなどの反射率の高い金属製の平板の一面を鏡面加工して表面鏡としたものであり、車室4側の面すなわち凸レンズ14側の面が、表示光6を反射させてフロントガラス2に投射する表示面55bを構成する。そして、鏡55は、表示面55bが上向きとなるように傾斜配置されている。
【0043】
このように構成されたことにより、ヘッドアップディスプレイ装置50は、LED11から照射された表示光6を、凸レンズ14によって筒状部5aの軸線5aXと平行な光束とした後、鏡55によって上向きに反射させて筐体5の開口部5oを介してフロントガラス2側へ投射し、フロントガラス2に反射した表示光6を虚像としてドライバに表示する。
【0044】
そして、ヘッドアップディスプレイ装置50は、鏡55の車室側の表示面55bがフロントガラス2を介して車室4内に入射する太陽光などの外光7を筐体5内に反射させる角度に設定されている。なお、この角度は第1実施形態と同様である。すなわち、図12に示すように、外光7がフロントガラス2の最上部の点P1を通って表示部材(鏡55)における入射し得る最上部の点P2に向けて入射する場合において、入射光7aと鏡55の車室側の表示面55bとのなす角度をαとし、点P2と筐体5の最上部の点P3とを結んだ線と入射光7aとのなす角度をβとしたときに、角度αが90+β/2度以上となるように表示面55bの角度が設定される(図4(C)参照)。これにより、反射光7bが筐体5の内部に投射されることとなり、反射光7bがドライバの視界に入ったりフロントガラス2に映り込んだりすることが防止される。
【0045】
次に、図13,図14を参照して、第3実施形態の変形例に係るヘッドアップディスプレイ装置60,70について説明する。
【0046】
<第1変形例>
まず、図13に示すように、第1変形例に係るヘッドアップディスプレイ装置60では、表示装置63を構成する表示部材としての鏡65は、凸レンズ14を通過した平行光束に対して略垂直すなわち略鉛直に立設されており、車室4側の表示面65bが、凸レンズ14からの平行光束を上方に反射させるべく、水平線によって鉛直方向に複数に分割されてそれぞれ互いに平行且つ上向きに傾斜した複数の傾斜面によって構成されている。そして、鏡65の表示面65bは、すべての傾斜面がα≧90+β/2を満たす同一角度に設定されている。このような構成とされたことにより、本変形例に係るヘッドアップディスプレイ装置60は、表示光6をフロントガラス2に向けて反射させるとともに、外光7を筐体5内に反射させることができる。また、鏡65を上記第3実施形態に比べてより鉛直に立設可能となることにより、ヘッドアップディスプレイ装置60の小型化が可能になっている。
【0047】
<第2変形例>
一方、図14に示すように、第2変形例に係るヘッドアップディスプレイ装置70では、表示装置73を構成する表示部材としての鏡75が、ガラスやポリエステルフィルムなどからなる透明板75cと、透明板75cにおける車室4と反対側の平面にアルミニウムや銀などの反射率の高い金属を蒸着などによって積層させた反射層75dとにより構成される裏面鏡とされている。そのため、凸レンズ14を通過した平行光束は、透明板75cを透過して反射層75dの透明板75c側の面75aに反射した後、透明板75cを再度透過してフロントガラス2へ投射される。つまり、本変形例では、鏡75を構成する透明板75cの車室4側の面が、表示光6の経路における最も車室4側に設けられ、表示光6を透過させてフロントガラス2に投射する表示面75bを構成する。
【0048】
さらに、鏡75は、表示面75bが凸レンズ14からの平行光束を上方に反射させるべく、水平線によって鉛直方向に複数に分割されてそれぞれ互いに平行且つ下向きに傾斜した複数の傾斜面によって構成されている。そのため、凸レンズ14を通過した平行光束は、表示面75bで上方向へ屈折した後に反射層75dの面75aに鏡面反射し、表示面75bで再度上方向へ屈性してフロントガラス2へ投射される。つまり、鏡75の透明板75cが屈折手段を構成している。そして、鏡75の表示面75bは、すべての傾斜面がα≧90+β/2を満たす同一角度に設定されている。これにより、ヘッドアップディスプレイ装置70は、鏡75で表示光6をフロントガラス2へ向けて投射しつつ、フロントガラス2から入射した外光7の筐体5外への反射を防止することができる。また、鏡75が凸レンズ14からの平行光束に対して略垂直に立設されたことにより、ヘッドアップディスプレイ装置70の小型化が可能になっている。
【0049】
なお、第3実施形態においても、鏡55,65,75の表示面55b,65b,75bに低反射処理を施すことにより、鏡55,65,75の反射率を低下させて筐体5内に投射される反射光7bの光量を低減できることは、上記第1実施形態と同様である。また、図示は省略するが、第3実施形態においては、第1実施形態の第2変形例のように保護フィルム36を設ける場合、表示装置53,63,73の最も車室4側に保護フィルム36を設けて表示部材を構成させるのではなく、凸レンズ14と鏡55,65,75の間、すなわち表示装置53,63,73の中間位置に保護フィルム36を設けることにより、表示部材を構成する鏡55,65,75の反射および保護フィルム36の反射によってフロントガラス2への映り込みが生じるのを防止しつつ、発光表示デバイス12および凸レンズ14に埃や塵が付着することを防止できる。或いは、筐体5の開口部5oに保護シート88を設けて埃などの進入を防止してもよく、このような形態としても装置の大型化を招くことはない。
【0050】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記各実施形態では、発光表示デバイス12は、光源としてLED11を備え、LED11による表示光6を照射しているが、発光源を備えたものであれば、VFD(Vacuum Fluorescent Display:蛍光表示管)や、液晶ディスプレイ、その他の光源を備えた発光デバイスであってもよい。また、上記各実施形態では、追突警報装置としてヘッドアップディスプレイ装置が利用されているが、ヘッドアップディスプレイ装置は、追突警報装置に限ることなく、必要な情報をドライバや乗員に提供する各種情報表示装置として利用可能である。この他、各部材や部品の具体的構成や配置など、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0051】
2 フロントガラス(ウインドシールドガラス)
4 車室
5 筐体
6 表示光
7 外光
7a 入射光
7b 反射光
10,20,30,40,50,60,70 ヘッドアップディスプレイ装置
12 発光表示デバイス
13,23,33,43,53,63,73 表示装置
15 プリズムレンズ(表示部材,屈折手段)
15b 表示面
25 複合レンズ(表示部材,屈折手段)
25b 表示面
35 複合レンズ(屈折手段)
36 保護レンズ(表示部材)
36b 表示面
45 マジックミラー(表示部材)
45b 表示面
55,65,75 鏡(表示部材)
55b,65b,75b表示面
75c 透明板(屈折手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室に開口するように凹設された筐体内に設置され、発光表示デバイスから照射された表示光を表示部材を介してウインドシールドガラスに投射して虚像を表示する車両用ヘッドアップディスプレイ装置であって、
前記表示部材が、前記車室側に設けられて前記発光表示デバイスから照射された表示光を前記ウインドシールドガラスに投射する表示面を備え、
前記表示面が、前記ウインドシールドガラスを介して車室内に入射する外光を前記筐体内に反射させる角度に設定されたことを特徴とする車両用ヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項2】
前記虚像を前記ウインドシールドガラスの所望の位置に表示すべく、前記発光表示デバイスから照射された表示光を屈折させる光屈折手段を備えたことを特徴とする、請求項1に記載の車両用ヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項3】
前記表示部材の前記表示面における少なくとも前記外光が入射する部分が低反射処理されたことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車両用ヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項4】
前記筐体の内側表面における前記表示面に反射した外光を受ける部分が低反射処理されたことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車両用ヘッドアップディスプレイ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2011−248317(P2011−248317A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137357(P2010−137357)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】