車両用制御装置
【課題】適合作業の簡素化を図ることによって車両の開発コストを引き下げる。
【解決手段】エンジントルク算出部80は発生中のエンジントルクTeを算出し、トルク増減量算出部81は増減可能なエンジンのトルク増減量Tmaxを算出する。モード係数設定部82は走行モードに応じたモード係数kを設定し、許容イナーシャ算出部83はトルク増減量Tmaxにモード係数kを乗じて許容イナーシャトルクTimaxを算出する。さらに、変速速度算出部84は許容イナーシャトルクTimaxが発生する無段変速機の変速速度V1を算出し、上限変速速度設定部86は変速速度V1に基づき上限変速速度V2を設定する。そして、変速制御部94は、上限変速速度V2を超えない変速速度で無段変速機を変速制御する。これにより、変速ショックを抑制しつつ各走行モードの動力特性に適合する変速速度を簡単に設定でき、開発段階における適合作業が簡素化される。
【解決手段】エンジントルク算出部80は発生中のエンジントルクTeを算出し、トルク増減量算出部81は増減可能なエンジンのトルク増減量Tmaxを算出する。モード係数設定部82は走行モードに応じたモード係数kを設定し、許容イナーシャ算出部83はトルク増減量Tmaxにモード係数kを乗じて許容イナーシャトルクTimaxを算出する。さらに、変速速度算出部84は許容イナーシャトルクTimaxが発生する無段変速機の変速速度V1を算出し、上限変速速度設定部86は変速速度V1に基づき上限変速速度V2を設定する。そして、変速制御部94は、上限変速速度V2を超えない変速速度で無段変速機を変速制御する。これにより、変速ショックを抑制しつつ各走行モードの動力特性に適合する変速速度を簡単に設定でき、開発段階における適合作業が簡素化される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンおよびこれに連結される無段変速機を備えるパワーユニットと、走行モード毎にパワーユニットの動力特性を切り換えるパワーユニット制御手段とを有する車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の動力伝達系に設けられる無段変速機は、入力軸に設けられるプライマリプーリ、出力軸に設けられるセカンダリプーリ、これらのプーリに掛け渡される駆動チェーン等を有している。この無段変速機においては、プーリ溝幅を調整することで如何なる変速比にも設定することができるため、手動変速機や自動変速機のように変速比を段階的に切り換えて変速することが可能となる。これにより、無段変速機を搭載した車両においても、多段変速のシフトフィーリングを得ることが可能となり、車両の商品性を向上させることが可能となっている。
【0003】
このような多段変速モードでの変速時には、変速比が段階的に切り換えられることから、変速比を連続的に変化させる無段変速モードよりも変速速度が高められている。したがって、多段変速モードのアップシフトにおいては、入力側の回転数が急に減速されることになり、プライマリプーリ等に対して慣性によるイナーシャトルクが発生することになる。このイナーシャトルクは、プライマリプーリ等を加速させる方向に作用することから、無段変速機からの出力トルクを一時的に増大させて変速ショックを招く要因となっていた。
【0004】
このイナーシャトルクに起因する変速ショックを回避するため、アップシフト時にエンジントルクを引き下げることにより、アップシフト時のイナーシャトルクを吸収させるようにした技術が開発されている。しかしながら、エンジントルクが微小となる惰性走行等においては、イナーシャトルクに相当する大きさでエンジントルクを引き下げることが不可能であった。そこで、エンジントルクを十分に引き下げることができない場合には、変速速度を低下させてイナーシャトルクを減少させることにより、変速ショックを回避するようにした技術が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−20513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、低燃費モードや高出力モード等の走行モード毎に、エンジンのスロットル特性や無段変速機の変速特性等を切り換え、パワーユニットの動力特性を切り換えるようにした車両が開発されている。このように、走行モード毎に動力特性を切り換える車両においては、前述したイナーシャトルクを減少させるために引き下げられる変速速度の引き下げ幅についても、運転手に違和感を与えることのないように走行モード毎に設定する必要がある。すなわち、変速速度の引き下げ幅が走行モード毎の動力特性と適合するように、予め実験やシミュレーション等によって変速速度の引き下げ幅を設定する必要があった。しかしながら、走行モード毎に変速速度の引き下げ幅を設定することは、煩雑な適合作業を伴うことから車両の開発コストを増大させる要因となっていた。
【0007】
本発明の目的は、適合作業の簡素化を図ることによって車両の開発コストを引き下げることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の車両用制御装置は、エンジンおよびこれに連結される無段変速機を備えるパワーユニットと、走行モード毎に前記パワーユニットの動力特性を切り換えるパワーユニット制御手段とを有する車両用制御装置であって、前記無段変速機を変速する際に、前記無段変速機の入力側に発生するイナーシャトルクを打ち消す方向にエンジントルクを増減させ、前記エンジンにイナーシャトルクを吸収させるエンジン制御手段と、前記エンジンの運転状態と前記走行モードの設定状態とに基づいて、前記エンジンに吸収されるイナーシャトルクの上限値を算出するイナーシャトルク算出手段と、前記上限値のイナーシャトルクが発生する変速速度を算出し、算出された変速速度に基づいて上限変速速度を設定する上限変速速度設定手段と、前記上限変速速度を超えない変速速度で前記無段変速機を変速させる変速制御手段とを有することを特徴とする。
【0009】
本発明の車両用制御装置は、前記イナーシャトルク算出手段は、前記エンジンの運転状態に基づいて前記エンジンが増減可能なエンジントルクの増減量を算出した後に、前記走行モードの設定状態に基づいて前記増減量を補正し、補正後の前記増減量を前記上限値として設定することを特徴とする。
【0010】
本発明の車両用制御装置は、前記無段変速機は、段階的に設定される複数の変速比を切り換えて変速する多段変速モードを備え、前記エンジン制御手段は、多段変速モードで変速する際にエンジントルクを増減させることを特徴とする。
【0011】
本発明の車両用制御装置は、前記エンジン制御手段は、前記無段変速機を増速側に変速する際にはエンジントルクを減少させ、前記無段変速機を減速側に変速する際にはエンジントルクを増加させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、走行モードの設定状態に基づいてエンジンに吸収されるイナーシャトルクの上限値を算出し、この上限値に基づいて変速時の上限変速速度を設定したので、変速ショックを抑制しつつ各走行モードの動力特性に適合する変速速度を簡単に設定することが可能となる。これにより、開発段階における適合作業の簡素化を図ることができ、車両の開発コストを引き下げることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】車両に搭載されるパワーユニットを示すスケルトン図である。
【図2】パワーユニットの制御系を示す概略図である。
【図3】無段変速モードにおいて使用される変速特性マップの一例を示す説明図である。
【図4】多段変速モードにおいて使用されるシフトパターンの一例を示す説明図である。
【図5】多段変速モードにおいて使用される変速比の一例を示す説明図である。
【図6】多段変速モードでのアップシフトに伴ってエンジントルクを減少させる際の状況を示す説明図である。
【図7】多段変速モードでのダウンシフトに伴ってエンジントルクを増大させる際の過程を示す説明図である。
【図8】制御ユニットのエンジン制御系と変速制御系とを示すブロック図である。
【図9】各走行モードの許容イナーシャトルクを示す線図である。
【図10】トルクダウン目標値の算出過程を示す説明図である。
【図11】トルクアップ目標値の算出過程を示す説明図である。
【図12】高出力モードでのアップシフトに伴うトルクダウン制御を示す説明図である。
【図13】標準モードでのアップシフトに伴うトルクダウン制御を示す説明図である。
【図14】低燃費モードでのアップシフトに伴うトルクダウン制御を示す説明図である。
【図15】高出力モードでのダウンシフトに伴うトルクアップ制御を示す説明図である。
【図16】標準モードでのダウンシフトに伴うトルクアップ制御を示す説明図である。
【図17】低燃費モードでのダウンシフトに伴うトルクアップ制御を示す説明図である。
【図18】(a)および(b)は各走行モードで設定される許容イナーシャトルクの他の例を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は車両に搭載されるパワーユニット10を示すスケルトン図である。このパワーユニット10は、本発明の一実施の形態である車両用制御装置によって制御される。図1に示すように、パワーユニット10は、動力源であるエンジン11と、これに連結される無段変速機12とを備えている。無段変速機12は、エンジン11に駆動されるプライマリ軸13と、これに平行となるセカンダリ軸14とを有している。プライマリ軸13とセカンダリ軸14との間には変速機構15が設けられており、セカンダリ軸14と駆動輪16との間には減速機構17やデファレンシャル機構18が設けられている。
【0015】
プライマリ軸13にはプライマリプーリ20が設けられており、このプライマリプーリ20は固定シーブ20aと可動シーブ20bとを備えている。可動シーブ20bの背面側には作動油室21が区画されており、作動油室21内の圧力を調整してプーリ溝幅を変化させることが可能となる。また、セカンダリ軸14にはセカンダリプーリ22が設けられており、このセカンダリプーリ22は固定シーブ22aと可動シーブ22bとを備えている。可動シーブ22bの背面側には作動油室23が区画されており、作動油室23内の圧力を調整してプーリ溝幅を変化させることが可能となる。さらに、プライマリプーリ20およびセカンダリプーリ22には駆動チェーン24が巻き掛けられている。そして、プーリ20,22の溝幅を変化させて駆動チェーン24の巻き付け径を変化させることにより、プライマリ軸13からセカンダリ軸14に対する無段変速が可能となる。
【0016】
このような変速機構15にエンジン動力を伝達するため、クランク軸25とプライマリ軸13との間にはトルクコンバータ26および前後進切換機構27が設けられている。トルクコンバータ26は、クランク軸25にフロントカバー28を介して連結されるポンプインペラ29と、このポンプインペラ29に対向するとともにタービン軸30に連結されるタービンランナ31とを備えている。このトルクコンバータ26には、クランク軸25とタービン軸30とを直結するロックアップクラッチ32が設けられている。また、前後進切換機構27は、ダブルピニオン式の遊星歯車列33、前進クラッチ34および後退ブレーキ35を備えている。これら前進クラッチ34や後退ブレーキ35を制御することにより、エンジン動力の伝達径路を切り換えることが可能となる。
【0017】
図2はパワーユニット10の制御系を示す概略図である。図2に示すように、プライマリプーリ20やセカンダリプーリ22等に作動油を供給するため、パワーユニット10にはエンジン11等に駆動されるオイルポンプ40が設けられている。オイルポンプ40に接続されるセカンダリ圧路41は、セカンダリプーリ22の作動油室23に接続されるとともにセカンダリ圧制御弁42の調圧ポート42aに接続されている。このセカンダリ圧制御弁42を介して調圧されるライン圧としてのセカンダリ圧は、駆動チェーン24に滑りを生じさせることのないように、エンジントルクや目標変速比等に基づき調圧される。また、セカンダリ圧路41はプライマリ圧制御弁43の入力ポート43aに接続されており、プライマリ圧制御弁43の出力ポート43bから延びるプライマリ圧路44はプライマリプーリ20の作動油室21に接続されている。このプライマリ圧制御弁43を介して調圧されるプライマリ圧は、目標変速比に向けてプライマリプーリ20の溝幅を制御するように、目標変速比、目標変速速度およびセカンダリ圧等に基づき調圧される。
【0018】
また、図2に示すように、エンジン11には吸気ポート50が設けられており、この吸気ポート50には吸気管51が接続されている。吸気管51には、吸入空気量を調整するスロットルバルブ52や、燃料を噴射するインジェクタ53が設けられている。さらに、シリンダヘッド54には混合気に点火する点火プラグ55が取り付けられ、点火プラグ55には高電圧電流を生成する点火コイル56が接続されている。スロットルバルブ52、インジェクタ53および点火コイル56等は、目標エンジントルクや目標エンジン回転数に基づき制御される。
【0019】
エンジン11や無段変速機12に対して制御信号を出力する制御ユニット60は、図示しないマイクロプロセッサ(CPU)を備えており、このCPUにはバスラインを介してROM、RAMおよびI/Oポートが接続される。ROMには制御プログラムや各種マップデータなどが格納され、RAMにはCPUで演算処理したデータが格納される。また、I/Oポートを介してCPUには各種センサから検出信号が入力される。制御ユニット60に接続されるセンサとしては、車速を検出する車速センサ61、アクセルペダルの操作状況(アクセル開度)を検出するアクセルペダルセンサ62、ブレーキペダルの操作状況を検出するブレーキペダルセンサ63、プライマリプーリ20の回転数(プライマリ回転数)を検出するプライマリ回転数センサ64、セカンダリプーリ22の回転数(セカンダリ回転数)を検出するセカンダリ回転数センサ65、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ66、スロットルバルブ52のスロットル開度を検出するスロットル開度センサ67、吸入空気の温度を検出する吸気温度センサ68、後述するセレクトレバー72の操作位置を検出するインヒビタスイッチ69等が設けられている。また、制御ユニット60には、走行レンジや変速モードを選択する際に手動操作されるセレクトレバーユニット70が接続されている。さらに、走行モード毎にパワーユニット10の動力特性を切り換えるパワーユニット制御手段として機能する制御ユニット60には、走行モードを選択する際に手動操作されるモードセレクター71が接続されている。なお、走行レンジとは、前進走行レンジ(Dレンジ)、後退走行レンジ(Rレンジ)、駐車レンジ(Pレンジ)、ニュートラルレンジ(Nレンジ)等である。また、変速モードとは、変速比を連続的に変化させる無段変速モードや、変速比を段階的に変化させる多段変速モード等である。さらに、走行モードとは、パワーユニット10の出力を抑えて燃費性能を向上させる低燃費モード、パワーユニット10の出力を高めて動力性能を向上させる高出力モード、燃費性能と動力性能とを兼ね備えた標準モード等である。
【0020】
続いて、無段変速機12の変速制御について説明する。前述したように、制御ユニット60は無段変速モードと多段変速モードとを備えており、これらの変速モードは運転者のセレクトレバー操作に応じて切り換えられる。図2に示すように、セレクトレバーユニット70には、運転手に操作されるセレクトレバー72が設けられている。セレクトレバー72を案内するゲート73は、無段変速ゲート74と多段変速ゲート75とによって構成されている。セレクトレバー72を無段変速ゲート74に移動させることで無段変速モードが設定される一方、セレクトレバー72を多段変速ゲート75に移動させることで多段変速モードが設定される。なお、セレクトレバー操作によって変速モードを切り換えることなく、予め設定された走行領域毎に自動的に変速モードを切り換えても良い。
【0021】
ここで、図3は無段変速モードにおいて使用される変速特性マップの一例を示す説明図である。また、図4は多段変速モードにおいて使用されるシフトパターンの一例を示す説明図である。さらに、図5は多段変速モードにおいて使用される変速比の一例を示す説明図である。セレクトレバー操作によって無段変速モードに設定されると、制御ユニット60は、車速Vとアクセル開度Accとに基づき図3の変速特性マップを参照し、この変速特性マップから目標プライマリ回転数Npを算出する。そして、制御ユニット60は、目標プライマリ回転数Npに基づき目標変速比を算出し、この目標変速比に基づいてプライマリ圧Ppとセカンダリ圧Psとを制御する。図3に示すように、無段変速モードにおいて参照される変速特性マップには、最大変速比を示す特性線Lowと最小変速比を示す特性線Highとが設定されており、特性線Low,Highの間にはアクセル開度Accに対応した複数の特性線A1〜A8が設定されている。例えば、図3に符号αで示す走行状態から、特性線A6に相当するアクセル開度までアクセルペダルが踏み込まれた場合には、目標プライマリ回転数としてNp1が設定され、目標変速比としてTr1が設定される。また、図3に符号αで示す走行状態から、特性線A2に相当するアクセル開度までアクセルペダルの踏み込みが緩められた場合には、目標プライマリ回転数としてNp2が設定され、目標変速比としてTr2が設定される。このように、無段変速モードにおいては、刻々と変化する車速Vおよびアクセル開度Accに基づいて、目標変速比が連続的に設定されることになる。
【0022】
一方、セレクトレバー操作によって多段変速モードが設定されると、制御ユニット60は、車速Vとアクセル開度Accとに基づき図4のシフトパターンを参照し、このシフトパターンから変速制御に用いられる変速比R1〜R5を選択する。図5に示すように、特性線Lowと特性線Highとの間に区画される変速領域内には、多段変速モードで使用される変速比R1〜R5が予め設定されている。また、図4に示すように、シフトパターンには、変速比R1〜R5間でのアップシフトを規定する複数のアップシフト線(実線)が設定されており、変速比R1〜R5間でのダウンシフトを規定する複数のダウンシフト線(破線)が設定されている。そして、各シフト線を跨ぐように車速Vやアクセル開度Accが変化したときに、各変速比R1〜R5間でのアップシフトやダウンシフトが実行されることになる。このように、変速比R1〜R5により設定された各変速段を切り換えて変速制御を実行することで、無段変速機12でありながら前進5段の手動変速機等と同様のシフトフィーリングを得ることが可能となる。
【0023】
なお、図2に示すように、多段変速ゲート75内においてはセレクトレバー72を前後方向に動かすことが可能となっている。そして、セレクトレバー72を前方(+方向)に操作することで増速側への変速であるアップシフトが可能となり、セレクトレバー72を後方(−方向)に操作することで減速側への変速であるダウンシフトが可能となる。このように、図4のシフトパターンに従って変速段を切り換えるだけでなく、運転者のセレクトレバー操作に連動して変速段を切り換えることが可能となっている。また、図示する場合には、無段変速機12の変速段(変速比R1〜R5)を5段階に分けて設定しているが、これに限られることはなく、変速段の設定数を増減させても良い。
【0024】
このような多段変速モードにおいては、変速比R1〜R5を段階的に切り換えることから、変速比を連続的に変化させる無段変速モードに比べて変速速度(単位時間当たりの変速比変化量)が高められている。特に、多段変速モードにおける変速品質を向上させるためには、変速速度を高めて俊敏に変速させることが重要となっている。しかしながら、無段変速機12の変速速度を高めることは、プライマリプーリ20等の急減速や急加速を招くことから、無段変速機12の入力側に作用するイナーシャトルクを増大させて変速ショックを招く要因となっていた。そこで、本発明の車両用制御装置を構成する制御ユニット60は、イナーシャトルクを打ち消す方向にエンジントルクを増減させることにより、エンジン11にイナーシャトルクを吸収させるようにしている。
【0025】
ここで、図6は多段変速モードでのアップシフトに伴ってエンジントルクを減少させる際の状況を示す説明図である。図6に示すように、多段変速モードで変速比をR2からR3にアップシフトさせると、プライマリ回転数が急に減速されることから、無段変速機12の入力側には慣性によるイナーシャトルクTiが発生することになる。このイナーシャトルクTiは、プライマリプーリ20等を加速する方向(+方向)に作用することから、図6に破線で示すように、無段変速機12から駆動輪16に向けて出力される駆動輪トルクToutを一時的に増大させることになる。このような駆動輪トルクToutの一時的な増大は、変速ショックとして乗員に違和感を与えることから、制御ユニット60は、スロットルバルブ52やインジェクタ53等に制御信号を出力し、イナーシャトルクTiの発生に合わせてエンジントルクTeを一時的に引き下げている(トルクダウン制御)。このように、イナーシャトルクTiに応じたトルクダウン量およびタイミングで、エンジントルクTeを一時的に引き下げることにより、イナーシャトルクTiをエンジン11に吸収させることが可能となる。これにより、駆動輪トルクToutの増大を抑制することができ、変速ショックを抑制することが可能となる。なお、無段変速機12の入力側に発生するイナーシャトルクTiとは、プライマリプーリ20と一体に回転する部品に発生するイナーシャトルクを意味している。すなわち、無段変速機12の入力側に発生するイナーシャトルクTiとは、クランク軸25、トルクコンバータ26、タービン軸30、前後進切換機構27、プライマリ軸13、プライマリプーリ20等に発生するイナーシャトルクを意味している。
【0026】
また、図7は多段変速モードでのダウンシフトに伴ってエンジントルクを増大させる際の過程を示す説明図である。図7に示すように、多段変速モードで変速比をR3からR2にダウンシフトさせると、プライマリ回転数が急に上昇することから、無段変速機12の入力側には慣性によるイナーシャトルクTiが発生することになる。このイナーシャトルクTiは、プライマリプーリ20等を減速する方向(−方向)に作用することから、図7に破線で示すように、無段変速機12から駆動輪16に向けて出力される駆動輪トルクToutを一時的に減少させることになる。このような駆動輪トルクToutの一時的な減少は、変速ショックとして乗員に違和感を与えることから、制御ユニット60は、スロットルバルブ52やインジェクタ53等に制御信号を出力し、イナーシャトルクTiの発生に合わせてエンジントルクTeを一時的に引き上げている(トルクアップ制御)。このように、イナーシャトルクTiに応じたトルクアップ量およびタイミングで、エンジントルクTeを一時的に引き上げることにより、イナーシャトルクTiをエンジン11に吸収させることが可能となる。これにより、駆動輪トルクの減少を抑制することができ、変速ショックを抑制することが可能となる。
【0027】
上述したように、アップシフト時にはエンジントルクを引き下げることで変速ショックを抑制しているが、コースティング中や低負荷運転等のエンジントルクが微小となる運転状態においては、アップシフト時に生じるイナーシャトルクを打ち消すだけのトルクダウン量が得られない場合も想定される。また、ダウンシフト時にはエンジントルクを引き上げることで変速ショックを抑制しているが、高負荷運転等のエンジントルクが最大値付近となる運転状態においては、ダウンシフト時に生じるイナーシャトルクを打ち消すだけのトルクアップ量が得られない場合も想定される。このように、イナーシャトルクを打ち消すだけのトルク増減量(トルクダウン量およびトルクアップ量)が得られない場合には、変速速度を低下させてイナーシャトルクを低減することが必要となっている。
【0028】
さらに、運転手に違和感を与えることのないように、前述した走行モードの動力特性に応じて変速速度を設定することも必要となっている。すなわち、走行モードとして低燃費モードが選択されているにも拘わらず、高い変速速度で俊敏に変速させることは、低燃費モードにおける緩やかな動力特性との不一致を招き、運転手に違和感を与えることになる。同様に、走行モードとして高出力モードが選択されているにも拘わらず、低い変速速度で緩やかに変速させることは、高出力モードにおける俊敏な動力特性との不一致を招き、運転手に違和感を与えることになる。そこで、制御ユニット60は、エンジン11のトルク増減量と走行モードの動力特性との双方を満足するように上限変速速度を設定し、この上限変速速度を超えない変速速度で無段変速機12の変速制御を実行している。
【0029】
図8は制御ユニット60のエンジン制御系と変速制御系とを示すブロック図である。図8に示すように、制御ユニット60は、エンジントルク算出部80、トルク増減量算出部81、モード係数設定部82、許容イナーシャ算出部83、変速速度算出部84および変速比変化量算出部85を備えている。エンジントルク算出部80は、スロットル開度Thとエンジン回転数Neとに基づき所定マップを参照し、現在発生しているエンジントルクTeを算出する。続いて、トルク増減量算出部(イナーシャトルク算出手段)81は、エンジントルクTeに基づいてトルク増減量(増減量)Tmaxを算出する。このトルク増減量Tmaxは、アップシフトにおいては発生中のエンジントルクTeと引き上げ可能な最大トルクTHとの差であり、ダウンシフトにおいては発生中のエンジントルクTeと引き下げ可能な最小トルクTLとの差である。すなわち、トルク増減量Tmaxとは、現時点から増減可能なエンジントルク量である。なお、図6および図7に示す場合には、最小トルクTLを0に設定しているが、これに限られることはなく、最小トルクTLを0以下に設定しても良い。
【0030】
また、モード係数設定部(イナーシャトルク算出手段)82は、運転手によるモードセレクター71の操作状況に基づいて、走行モードに応じたモード係数kを設定する。例えば、高出力モードの選択時にはモード係数kとして1.1が設定され、標準モードの選択時にはモード係数kとして0.8が設定され、低燃費モードの選択時にはモード係数kとして0.6が設定される。続いて、許容イナーシャ算出部(イナーシャトルク算出手段)83は、トルク増減量Tmaxにモード係数kを乗算し、許容イナーシャトルク(上限値)Timaxを算出する。ここで、図9は各走行モードの許容イナーシャトルクTimaxを示す線図である。図9に示すように、高出力モードにおいてはトルク増減量Tmaxを上回る許容イナーシャトルクTimaxが算出され、標準モードにおいてはトルク増減量Tmaxを下回る許容イナーシャトルクTimaxが算出され、低燃費モードにおいては標準モードを下回る許容イナーシャトルクTimaxが算出される。なお、モード係数としては前述した値に限られることはない。例えば、高出力モードでのモード係数を1.0以下に設定することにより、高出力モードにおいてトルク増減量Tmax以下となる許容イナーシャトルクTimaxを算出しても良い。
【0031】
そして、変速速度算出部(上限変速速度設定手段)84は、以下の式(1)に基づいて、変速時に許容イナーシャトルクTimaxが発生するプライマリプーリ20の角加速度αを算出する。なお、式(1)の符号Iは、前述したイナーシャトルクの作用する無段変速機12の入力側における各部品の慣性モーメントである。続いて、変速速度算出部84は、リダクションギヤ比、および各部の慣性モーメントに基づき、変速時に発生イナーシャトルクと許容イナーシャトルクTimaxとが等しくなる無段変速機12の変速速度V1を算出する。なお、変速比変化量diとは、変速比変化量算出部85によって算出される変速前後の変速比変化量である。例えば、図6に示す場合には、変速前の変速比がR2であり、変速後の変速比がR3であることから、変速比変化量diは(R2−R3)となる。
α=Timax/I ・・・(1)
【0032】
また、図8に示すように、制御ユニット60は、上限変速速度設定部86、第1仮想変速特性設定部87、第1イナーシャ算出部88、第2仮想変速特性設定部89、第2イナーシャ算出部90、トルク目標値算出部91、トルク制御判定部92、エンジン制御部93および変速制御部94を有している。上限変速速度設定部(上限変速速度設定手段)86は、変速速度V1に対して所定上限値Vmaxと所定下限値Vminとを適用し、変速制御で用いられる上限変速速度V2を設定する。すなわち、変速速度V1が、所定下限値Vmin以上、所定上限値Vmax以下である場合には、上限変速速度V2として変速速度V1が設定される。また、変速速度V1が所定下限値Vminを下回る場合には、上限変速速度V2として所定下限値Vminが設定される。さらに、変速速度V1が所定上限値Vmaxを上回る場合には、上限変速速度V2として所定上限値Vmaxが設定される。このように、上限変速速度V2は、所定下限値Vminと所定上限値Vmaxとの間に収められ、後述する第2仮想変速特性設定部89に入力される。そして、第2仮想変速特性設定部89は、上限変速速度V2を超えない変速特性を設定し、この変速特性が入力される変速制御部(変速制御手段)94は、上限変速速度V2を超えない変速速度で無段変速機12を変速制御する。
【0033】
続いて、変速時にエンジントルクを増減させるため、エンジン11に出力されるトルクダウン目標値およびトルクアップ目標値の算出手順について説明する。ここで、図10はトルクダウン目標値の算出過程を示す説明図であり、図11はトルクアップ目標値の算出過程を示す説明図である。まず、図8に示すように、第1仮想変速特性設定部87は、変速比変化量diに基づいて第1仮想変速特性i1を設定する。図10および図11に示すように、第1仮想変速特性i1は、変速比をR2(またはR3)からR3(またはR2)に素早く変化させるような変速速度特性である。
【0034】
また、第1イナーシャ算出部88は、第1仮想変速特性i1で無段変速機12を変速させたときに、無段変速機12の入力側に発生する第1仮想イナーシャトルクT1aを算出する。この第1仮想イナーシャトルクT1aは、第1仮想変速特性i1の変速速度、セカンダリ回転数Nsおよび無段変速機12の入力側の慣性モーメントIに基づき算出される。次いで、第1イナーシャ算出部88は、エンジン11の応答遅れを考慮し、第1仮想イナーシャトルクT1aに対して所定係数を乗じた後に所定フィルタ処理を施し、第1補正イナーシャトルクT1bを算出する。なお、図10および図11に示すように、エンジン11の応答遅れを考慮し、第1仮想イナーシャトルクT1aの立ち上がりから一定時間は、一時遅れ処理等のフィルタ処理を施さないようにしている。
【0035】
続いて、第2仮想変速特性設定部89は、第1仮想変速特性i1に所定のフィルタ処理を施すことにより、第1仮想変速特性i1よりも変速速度を抑えた第2仮想変速特性i2を設定する。また、第2仮想変速特性設定部89には上限変速速度設定部86から上限変速速度V2が入力されており、第2仮想変速特性設定部89は、上限変速速度V2を超えない変速速度で第2仮想変速特性i2を設定する。図10および図11に示すように、第2仮想変速特性i2は、変速制御系の応答性等の観点から現実的に指示可能な変速速度特性となっている。この第2仮想変速特性i2は変速制御部94に入力され、第2仮想変速特性i2に従って変速制御を実行するように、変速制御部94はプライマリ圧制御弁43やセカンダリ圧制御弁42に制御信号を出力する。なお、図10および図11に実線で示す変速比iは、第2仮想変速特性i2に従って変速制御を実行したときに、無段変速機12が実際に制御される実変速比である。
【0036】
また、第2イナーシャ算出部90は、第2仮想変速特性i2で無段変速機12を変速させたときに、無段変速機12の入力側に発生する第2仮想イナーシャトルクT2aを算出する。この第2仮想イナーシャトルクT2aは、第2仮想変速特性i2の変速速度、セカンダリ回転数Nsおよび無段変速機12の入力側の慣性モーメントIに基づき算出される。次いで、第2イナーシャ算出部90は、イナーシャトルクの吸収分等を考慮し、第2仮想イナーシャトルクT2aに対して所定係数を乗じた後に所定フィルタ処理を施し、第2補正イナーシャトルクT2bを算出する。なお、第2仮想イナーシャトルクT2aを算出する際の所定係数やフィルタ処理は、車両の走行状況等を考慮して適宜設定される。
【0037】
そして、トルク目標値算出部91は、第1補正イナーシャトルクT1bと第2補正イナーシャトルクT2bとに基づいて、アップシフト時にはトルクダウン目標値Tdを算出し、ダウンシフト時にはトルクアップ目標値Tuを算出する。図10および図11に示すように、トルクダウン目標値Tdやトルクアップ目標値Tuは、第1補正イナーシャトルクT1bと第2補正イナーシャトルクT2bとを加算した後に、その加算値の変動を滑らかにする所定フィルタ処理を施すことで算出される。このトルクダウン目標値Tdやトルクアップ目標値Tuは、トルク目標値算出部91からエンジン制御部93に出力される。そして、エンジン制御部(エンジン制御手段)93は、トルクダウン目標値Tdやトルクアップ目標値Tuに基づいて、スロットルバルブ52やインジェクタ53等を駆動制御し、変速時に発生するイナーシャトルクを打ち消す方向にエンジントルクを増減させる。これにより、変速時のイナーシャトルクをエンジン11に吸収させることができ、駆動輪トルクの過度な変動を抑制して変速ショックを回避することが可能となる。
【0038】
また、低負荷運転等のエンジントルクが微小となる運転状態においては、アップシフトに合わせてエンジントルクを引き下げようとすると、車両挙動が乱れるおそれがある。そこで、制御ユニット60のトルク制御判定部92は、変速速度V1が所定下限値Vmin以上である場合には、エンジン制御部93にトルクダウンの許可信号を出力する。これにより、エンジン制御部93によるエンジントルクの引き下げが許可される。一方、変速速度V1が所定下限値Vminを下回る場合には、エンジン制御部93にトルクダウンの中止信号を出力する。これにより、エンジン制御部93によるエンジントルクの引き下げが中止される。すなわち、微小なエンジントルクTeによって許容イナーシャトルクTimaxが小さく算出され、変速速度V1が所定下限値Vminを下回る場合には、車両挙動の乱れを抑制するためにエンジントルクの引き下げが中止される。
【0039】
これまで説明したように、エンジン11の運転状態と走行モードの設定状態とに基づき許容イナーシャトルクTimaxを算出し、この許容イナーシャトルクTimaxに基づき上限変速速度V2を設定したので、変速ショックを抑制しつつ各走行モードの動力特性に適合する変速速度を簡単に設定することが可能となる。すなわち、変速ショックを抑制するためには、エンジントルクを増減させるとともに変速速度を調整することが必要となる。さらに、運転手に違和感を与えることのないように、各走行モードの動力特性に応じて変速速度を設定することも必要となる。このように、変速ショックを抑制しつつ各走行モードの動力特性に適合する変速速度を得るためには、様々なパラメータ毎に変速速度を予めマップデータ化しておく必要があった。これに対し、本発明の車両用制御装置においては、エンジン11の運転状態と走行モードの設定状態とに基づき許容イナーシャトルクTimaxを算出し、この許容イナーシャトルクTimaxに基づき上限変速速度V2を設定し、この上限変速速度V2を超えない変速速度で無段変速機12を変速させている。これにより、開発段階における変速速度のマップデータ化が不要となり、開発コストを削減することが可能となる。
【0040】
続いて、変速時のトルクダウン制御やトルクアップ制御の状況を図面に基づいて説明する。図12は高出力モードでのアップシフトに伴うトルクダウン制御を示す説明図であり、図13は標準モードでのアップシフトに伴うトルクダウン制御を示す説明図であり、図14は低燃費モードでのアップシフトに伴うトルクダウン制御を示す説明図である。また、図15は高出力モードでのダウンシフトに伴うトルクアップ制御を示す説明図であり、図16は標準モードでのダウンシフトに伴うトルクアップ制御を示す説明図であり、図17は低燃費モードでのダウンシフトに伴うトルクアップ制御を示す説明図である。
【0041】
まず、アップシフトに伴うトルクダウン制御について説明する。図12〜図14に示すように、エンジン11の運転状態(出力中のエンジントルクTe)は同一となっており、エンジン11のトルク増減量Tmaxも同一となっている。このように、トルク増減量Tmaxが同一であっても走行モードが相違する場合には、許容イナーシャトルクTimaxが、高出力モード、標準モード、低燃費モードの順に小さく算出される。さらに、許容イナーシャトルクTimaxから算出される上限変速速度V2についても、高出力モード、標準モード、低燃費モードの順に小さく算出される。これにより、アップシフト時の変速速度は、高出力モード、標準モード、低燃費モードの順に遅くなるように制御される。そして、エンジントルクTeは、許容イナーシャトルクTimaxに相当する大きさで、一時的に引き下げられる。このように、走行モードに応じて許容イナーシャトルクTimaxを変化させることにより、変速ショックを抑制しつつ走行モード毎の動力特性に適合する変速速度で無段変速機12のアップシフトが可能となる。
【0042】
続いて、ダウンシフトに伴うトルクアップ制御について説明する。図15〜図17に示すように、エンジン11の運転状態(出力中のエンジントルクTe)は同一となっており、エンジン11のトルク増減量Tmaxも同一となっている。このように、トルク増減量Tmaxが同一であっても走行モードが相違する場合には、許容イナーシャトルクTimaxが、高出力モード、標準モード、低燃費モードの順に小さく算出される。さらに、許容イナーシャトルクTimaxから算出される上限変速速度V2についても、高出力モード、標準モード、低燃費モードの順に小さく算出される。これにより、ダウンシフト時の変速速度は、高出力モード、標準モード、低燃費モードの順に遅くなるように制御される。そして、エンジントルクTeは、許容イナーシャトルクTimaxに相当する大きさで、一時的に引き上げられる。このように、走行モードに応じて許容イナーシャトルクTimaxを変化させることにより、変速ショックを抑制しつつ走行モード毎の動力特性に適合する変速速度で無段変速機12のダウンシフトが可能となる。
【0043】
また、上限変速速度V2に相当する変速速度で変速させつつ、許容イナーシャトルクTimaxに相当する大きさでエンジントルクTeを増減させた場合には、図13、図14、図16および図17に示すように、駆動輪トルクToutを滑らかに変化させて変速ショックを回避することが可能である。これに対し、図12および図15に示すように、高出力モードでは、トルク増減量Tmaxを超える許容イナーシャトルクTimaxを設定している。すなわち、エンジン11の許容範囲を超えた許容イナーシャトルクTimaxが設定されることから、エンジン11で全てのイナーシャトルクを吸収することができずに、イナーシャトルクの一部が駆動輪トルクToutの変動として現れることになる(符号X)。このように、俊敏な変速が好まれる高出力モードにおいて、商品性を高めるために適度な変速ショックを敢えて残す場合であっても、前述したモード係数kを調整するだけの簡単な作業でチューニングを施すことが可能となる。
【0044】
また、前述の説明では、走行モードに応じて許容イナーシャトルクTimaxを変化させるため、走行モード毎に設定されるモード係数kをトルク増減量Tmaxに乗算しているが、これに限られることはない。ここで、図18(a)および(b)は各走行モードで設定される許容イナーシャトルクTimaxの他の例を示す線図である。図18(a)に示すように、走行モード毎に定数α1〜α3を設定することにより、トルク増減量Tmaxから定数α1〜α3を減算して許容イナーシャトルクTimaxを算出しても良い。また、図18(b)に示すように、走行モード毎に上限値β1〜β3を設定することにより、トルク増減量Tmaxと上限値β1〜β3との小さい方の値を許容イナーシャトルクTimaxとして設定しても良い。
【0045】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、動力特性を切り換える走行モードとして、高出力モード、標準モード、低燃費モードの3種類を設定しているが、2種類の走行モードを設定しても良く、4種類以上の走行モードを設定しても良い。また、前述の説明では、多段変速モードでの変速時にエンジントルクを増減させているが、これに限られることはなく、無段変速モードでの変速時にエンジントルクを増減させても良い。また、無段変速機としてチェーンドライブ式の無段変速機12を挙げているが、これに限られることはなく、ベルトドライブ式やトロイダル式の無段変速機であっても良い。さらに、図示するパワーユニットは、動力源としてエンジン11のみを備えたパワーユニット10であるが、これに限られることはなく、動力源としてエンジン11および電動モータを備えたパワーユニットであっても良い。
【符号の説明】
【0046】
10 パワーユニット
11 エンジン
12 無段変速機
60 制御ユニット(パワーユニット制御手段,エンジン制御手段,イナーシャトルク算出手段,上限変速速度設定手段,変速制御手段)
81 トルク増減量算出部(イナーシャトルク算出手段)
82 モード係数設定部(イナーシャトルク算出手段)
83 許容イナーシャ算出部(イナーシャトルク算出手段)
84 変速速度算出部(上限変速速度設定手段)
86 上限変速速度設定部(上限変速速度設定手段)
93 エンジン制御部(エンジン制御手段)
94 変速制御部(変速制御手段)
Tmax トルク増減量(増減量)
Timax 許容イナーシャトルク(上限値)
V1 変速速度
V2 上限変速速度
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンおよびこれに連結される無段変速機を備えるパワーユニットと、走行モード毎にパワーユニットの動力特性を切り換えるパワーユニット制御手段とを有する車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の動力伝達系に設けられる無段変速機は、入力軸に設けられるプライマリプーリ、出力軸に設けられるセカンダリプーリ、これらのプーリに掛け渡される駆動チェーン等を有している。この無段変速機においては、プーリ溝幅を調整することで如何なる変速比にも設定することができるため、手動変速機や自動変速機のように変速比を段階的に切り換えて変速することが可能となる。これにより、無段変速機を搭載した車両においても、多段変速のシフトフィーリングを得ることが可能となり、車両の商品性を向上させることが可能となっている。
【0003】
このような多段変速モードでの変速時には、変速比が段階的に切り換えられることから、変速比を連続的に変化させる無段変速モードよりも変速速度が高められている。したがって、多段変速モードのアップシフトにおいては、入力側の回転数が急に減速されることになり、プライマリプーリ等に対して慣性によるイナーシャトルクが発生することになる。このイナーシャトルクは、プライマリプーリ等を加速させる方向に作用することから、無段変速機からの出力トルクを一時的に増大させて変速ショックを招く要因となっていた。
【0004】
このイナーシャトルクに起因する変速ショックを回避するため、アップシフト時にエンジントルクを引き下げることにより、アップシフト時のイナーシャトルクを吸収させるようにした技術が開発されている。しかしながら、エンジントルクが微小となる惰性走行等においては、イナーシャトルクに相当する大きさでエンジントルクを引き下げることが不可能であった。そこで、エンジントルクを十分に引き下げることができない場合には、変速速度を低下させてイナーシャトルクを減少させることにより、変速ショックを回避するようにした技術が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−20513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、低燃費モードや高出力モード等の走行モード毎に、エンジンのスロットル特性や無段変速機の変速特性等を切り換え、パワーユニットの動力特性を切り換えるようにした車両が開発されている。このように、走行モード毎に動力特性を切り換える車両においては、前述したイナーシャトルクを減少させるために引き下げられる変速速度の引き下げ幅についても、運転手に違和感を与えることのないように走行モード毎に設定する必要がある。すなわち、変速速度の引き下げ幅が走行モード毎の動力特性と適合するように、予め実験やシミュレーション等によって変速速度の引き下げ幅を設定する必要があった。しかしながら、走行モード毎に変速速度の引き下げ幅を設定することは、煩雑な適合作業を伴うことから車両の開発コストを増大させる要因となっていた。
【0007】
本発明の目的は、適合作業の簡素化を図ることによって車両の開発コストを引き下げることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の車両用制御装置は、エンジンおよびこれに連結される無段変速機を備えるパワーユニットと、走行モード毎に前記パワーユニットの動力特性を切り換えるパワーユニット制御手段とを有する車両用制御装置であって、前記無段変速機を変速する際に、前記無段変速機の入力側に発生するイナーシャトルクを打ち消す方向にエンジントルクを増減させ、前記エンジンにイナーシャトルクを吸収させるエンジン制御手段と、前記エンジンの運転状態と前記走行モードの設定状態とに基づいて、前記エンジンに吸収されるイナーシャトルクの上限値を算出するイナーシャトルク算出手段と、前記上限値のイナーシャトルクが発生する変速速度を算出し、算出された変速速度に基づいて上限変速速度を設定する上限変速速度設定手段と、前記上限変速速度を超えない変速速度で前記無段変速機を変速させる変速制御手段とを有することを特徴とする。
【0009】
本発明の車両用制御装置は、前記イナーシャトルク算出手段は、前記エンジンの運転状態に基づいて前記エンジンが増減可能なエンジントルクの増減量を算出した後に、前記走行モードの設定状態に基づいて前記増減量を補正し、補正後の前記増減量を前記上限値として設定することを特徴とする。
【0010】
本発明の車両用制御装置は、前記無段変速機は、段階的に設定される複数の変速比を切り換えて変速する多段変速モードを備え、前記エンジン制御手段は、多段変速モードで変速する際にエンジントルクを増減させることを特徴とする。
【0011】
本発明の車両用制御装置は、前記エンジン制御手段は、前記無段変速機を増速側に変速する際にはエンジントルクを減少させ、前記無段変速機を減速側に変速する際にはエンジントルクを増加させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、走行モードの設定状態に基づいてエンジンに吸収されるイナーシャトルクの上限値を算出し、この上限値に基づいて変速時の上限変速速度を設定したので、変速ショックを抑制しつつ各走行モードの動力特性に適合する変速速度を簡単に設定することが可能となる。これにより、開発段階における適合作業の簡素化を図ることができ、車両の開発コストを引き下げることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】車両に搭載されるパワーユニットを示すスケルトン図である。
【図2】パワーユニットの制御系を示す概略図である。
【図3】無段変速モードにおいて使用される変速特性マップの一例を示す説明図である。
【図4】多段変速モードにおいて使用されるシフトパターンの一例を示す説明図である。
【図5】多段変速モードにおいて使用される変速比の一例を示す説明図である。
【図6】多段変速モードでのアップシフトに伴ってエンジントルクを減少させる際の状況を示す説明図である。
【図7】多段変速モードでのダウンシフトに伴ってエンジントルクを増大させる際の過程を示す説明図である。
【図8】制御ユニットのエンジン制御系と変速制御系とを示すブロック図である。
【図9】各走行モードの許容イナーシャトルクを示す線図である。
【図10】トルクダウン目標値の算出過程を示す説明図である。
【図11】トルクアップ目標値の算出過程を示す説明図である。
【図12】高出力モードでのアップシフトに伴うトルクダウン制御を示す説明図である。
【図13】標準モードでのアップシフトに伴うトルクダウン制御を示す説明図である。
【図14】低燃費モードでのアップシフトに伴うトルクダウン制御を示す説明図である。
【図15】高出力モードでのダウンシフトに伴うトルクアップ制御を示す説明図である。
【図16】標準モードでのダウンシフトに伴うトルクアップ制御を示す説明図である。
【図17】低燃費モードでのダウンシフトに伴うトルクアップ制御を示す説明図である。
【図18】(a)および(b)は各走行モードで設定される許容イナーシャトルクの他の例を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は車両に搭載されるパワーユニット10を示すスケルトン図である。このパワーユニット10は、本発明の一実施の形態である車両用制御装置によって制御される。図1に示すように、パワーユニット10は、動力源であるエンジン11と、これに連結される無段変速機12とを備えている。無段変速機12は、エンジン11に駆動されるプライマリ軸13と、これに平行となるセカンダリ軸14とを有している。プライマリ軸13とセカンダリ軸14との間には変速機構15が設けられており、セカンダリ軸14と駆動輪16との間には減速機構17やデファレンシャル機構18が設けられている。
【0015】
プライマリ軸13にはプライマリプーリ20が設けられており、このプライマリプーリ20は固定シーブ20aと可動シーブ20bとを備えている。可動シーブ20bの背面側には作動油室21が区画されており、作動油室21内の圧力を調整してプーリ溝幅を変化させることが可能となる。また、セカンダリ軸14にはセカンダリプーリ22が設けられており、このセカンダリプーリ22は固定シーブ22aと可動シーブ22bとを備えている。可動シーブ22bの背面側には作動油室23が区画されており、作動油室23内の圧力を調整してプーリ溝幅を変化させることが可能となる。さらに、プライマリプーリ20およびセカンダリプーリ22には駆動チェーン24が巻き掛けられている。そして、プーリ20,22の溝幅を変化させて駆動チェーン24の巻き付け径を変化させることにより、プライマリ軸13からセカンダリ軸14に対する無段変速が可能となる。
【0016】
このような変速機構15にエンジン動力を伝達するため、クランク軸25とプライマリ軸13との間にはトルクコンバータ26および前後進切換機構27が設けられている。トルクコンバータ26は、クランク軸25にフロントカバー28を介して連結されるポンプインペラ29と、このポンプインペラ29に対向するとともにタービン軸30に連結されるタービンランナ31とを備えている。このトルクコンバータ26には、クランク軸25とタービン軸30とを直結するロックアップクラッチ32が設けられている。また、前後進切換機構27は、ダブルピニオン式の遊星歯車列33、前進クラッチ34および後退ブレーキ35を備えている。これら前進クラッチ34や後退ブレーキ35を制御することにより、エンジン動力の伝達径路を切り換えることが可能となる。
【0017】
図2はパワーユニット10の制御系を示す概略図である。図2に示すように、プライマリプーリ20やセカンダリプーリ22等に作動油を供給するため、パワーユニット10にはエンジン11等に駆動されるオイルポンプ40が設けられている。オイルポンプ40に接続されるセカンダリ圧路41は、セカンダリプーリ22の作動油室23に接続されるとともにセカンダリ圧制御弁42の調圧ポート42aに接続されている。このセカンダリ圧制御弁42を介して調圧されるライン圧としてのセカンダリ圧は、駆動チェーン24に滑りを生じさせることのないように、エンジントルクや目標変速比等に基づき調圧される。また、セカンダリ圧路41はプライマリ圧制御弁43の入力ポート43aに接続されており、プライマリ圧制御弁43の出力ポート43bから延びるプライマリ圧路44はプライマリプーリ20の作動油室21に接続されている。このプライマリ圧制御弁43を介して調圧されるプライマリ圧は、目標変速比に向けてプライマリプーリ20の溝幅を制御するように、目標変速比、目標変速速度およびセカンダリ圧等に基づき調圧される。
【0018】
また、図2に示すように、エンジン11には吸気ポート50が設けられており、この吸気ポート50には吸気管51が接続されている。吸気管51には、吸入空気量を調整するスロットルバルブ52や、燃料を噴射するインジェクタ53が設けられている。さらに、シリンダヘッド54には混合気に点火する点火プラグ55が取り付けられ、点火プラグ55には高電圧電流を生成する点火コイル56が接続されている。スロットルバルブ52、インジェクタ53および点火コイル56等は、目標エンジントルクや目標エンジン回転数に基づき制御される。
【0019】
エンジン11や無段変速機12に対して制御信号を出力する制御ユニット60は、図示しないマイクロプロセッサ(CPU)を備えており、このCPUにはバスラインを介してROM、RAMおよびI/Oポートが接続される。ROMには制御プログラムや各種マップデータなどが格納され、RAMにはCPUで演算処理したデータが格納される。また、I/Oポートを介してCPUには各種センサから検出信号が入力される。制御ユニット60に接続されるセンサとしては、車速を検出する車速センサ61、アクセルペダルの操作状況(アクセル開度)を検出するアクセルペダルセンサ62、ブレーキペダルの操作状況を検出するブレーキペダルセンサ63、プライマリプーリ20の回転数(プライマリ回転数)を検出するプライマリ回転数センサ64、セカンダリプーリ22の回転数(セカンダリ回転数)を検出するセカンダリ回転数センサ65、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ66、スロットルバルブ52のスロットル開度を検出するスロットル開度センサ67、吸入空気の温度を検出する吸気温度センサ68、後述するセレクトレバー72の操作位置を検出するインヒビタスイッチ69等が設けられている。また、制御ユニット60には、走行レンジや変速モードを選択する際に手動操作されるセレクトレバーユニット70が接続されている。さらに、走行モード毎にパワーユニット10の動力特性を切り換えるパワーユニット制御手段として機能する制御ユニット60には、走行モードを選択する際に手動操作されるモードセレクター71が接続されている。なお、走行レンジとは、前進走行レンジ(Dレンジ)、後退走行レンジ(Rレンジ)、駐車レンジ(Pレンジ)、ニュートラルレンジ(Nレンジ)等である。また、変速モードとは、変速比を連続的に変化させる無段変速モードや、変速比を段階的に変化させる多段変速モード等である。さらに、走行モードとは、パワーユニット10の出力を抑えて燃費性能を向上させる低燃費モード、パワーユニット10の出力を高めて動力性能を向上させる高出力モード、燃費性能と動力性能とを兼ね備えた標準モード等である。
【0020】
続いて、無段変速機12の変速制御について説明する。前述したように、制御ユニット60は無段変速モードと多段変速モードとを備えており、これらの変速モードは運転者のセレクトレバー操作に応じて切り換えられる。図2に示すように、セレクトレバーユニット70には、運転手に操作されるセレクトレバー72が設けられている。セレクトレバー72を案内するゲート73は、無段変速ゲート74と多段変速ゲート75とによって構成されている。セレクトレバー72を無段変速ゲート74に移動させることで無段変速モードが設定される一方、セレクトレバー72を多段変速ゲート75に移動させることで多段変速モードが設定される。なお、セレクトレバー操作によって変速モードを切り換えることなく、予め設定された走行領域毎に自動的に変速モードを切り換えても良い。
【0021】
ここで、図3は無段変速モードにおいて使用される変速特性マップの一例を示す説明図である。また、図4は多段変速モードにおいて使用されるシフトパターンの一例を示す説明図である。さらに、図5は多段変速モードにおいて使用される変速比の一例を示す説明図である。セレクトレバー操作によって無段変速モードに設定されると、制御ユニット60は、車速Vとアクセル開度Accとに基づき図3の変速特性マップを参照し、この変速特性マップから目標プライマリ回転数Npを算出する。そして、制御ユニット60は、目標プライマリ回転数Npに基づき目標変速比を算出し、この目標変速比に基づいてプライマリ圧Ppとセカンダリ圧Psとを制御する。図3に示すように、無段変速モードにおいて参照される変速特性マップには、最大変速比を示す特性線Lowと最小変速比を示す特性線Highとが設定されており、特性線Low,Highの間にはアクセル開度Accに対応した複数の特性線A1〜A8が設定されている。例えば、図3に符号αで示す走行状態から、特性線A6に相当するアクセル開度までアクセルペダルが踏み込まれた場合には、目標プライマリ回転数としてNp1が設定され、目標変速比としてTr1が設定される。また、図3に符号αで示す走行状態から、特性線A2に相当するアクセル開度までアクセルペダルの踏み込みが緩められた場合には、目標プライマリ回転数としてNp2が設定され、目標変速比としてTr2が設定される。このように、無段変速モードにおいては、刻々と変化する車速Vおよびアクセル開度Accに基づいて、目標変速比が連続的に設定されることになる。
【0022】
一方、セレクトレバー操作によって多段変速モードが設定されると、制御ユニット60は、車速Vとアクセル開度Accとに基づき図4のシフトパターンを参照し、このシフトパターンから変速制御に用いられる変速比R1〜R5を選択する。図5に示すように、特性線Lowと特性線Highとの間に区画される変速領域内には、多段変速モードで使用される変速比R1〜R5が予め設定されている。また、図4に示すように、シフトパターンには、変速比R1〜R5間でのアップシフトを規定する複数のアップシフト線(実線)が設定されており、変速比R1〜R5間でのダウンシフトを規定する複数のダウンシフト線(破線)が設定されている。そして、各シフト線を跨ぐように車速Vやアクセル開度Accが変化したときに、各変速比R1〜R5間でのアップシフトやダウンシフトが実行されることになる。このように、変速比R1〜R5により設定された各変速段を切り換えて変速制御を実行することで、無段変速機12でありながら前進5段の手動変速機等と同様のシフトフィーリングを得ることが可能となる。
【0023】
なお、図2に示すように、多段変速ゲート75内においてはセレクトレバー72を前後方向に動かすことが可能となっている。そして、セレクトレバー72を前方(+方向)に操作することで増速側への変速であるアップシフトが可能となり、セレクトレバー72を後方(−方向)に操作することで減速側への変速であるダウンシフトが可能となる。このように、図4のシフトパターンに従って変速段を切り換えるだけでなく、運転者のセレクトレバー操作に連動して変速段を切り換えることが可能となっている。また、図示する場合には、無段変速機12の変速段(変速比R1〜R5)を5段階に分けて設定しているが、これに限られることはなく、変速段の設定数を増減させても良い。
【0024】
このような多段変速モードにおいては、変速比R1〜R5を段階的に切り換えることから、変速比を連続的に変化させる無段変速モードに比べて変速速度(単位時間当たりの変速比変化量)が高められている。特に、多段変速モードにおける変速品質を向上させるためには、変速速度を高めて俊敏に変速させることが重要となっている。しかしながら、無段変速機12の変速速度を高めることは、プライマリプーリ20等の急減速や急加速を招くことから、無段変速機12の入力側に作用するイナーシャトルクを増大させて変速ショックを招く要因となっていた。そこで、本発明の車両用制御装置を構成する制御ユニット60は、イナーシャトルクを打ち消す方向にエンジントルクを増減させることにより、エンジン11にイナーシャトルクを吸収させるようにしている。
【0025】
ここで、図6は多段変速モードでのアップシフトに伴ってエンジントルクを減少させる際の状況を示す説明図である。図6に示すように、多段変速モードで変速比をR2からR3にアップシフトさせると、プライマリ回転数が急に減速されることから、無段変速機12の入力側には慣性によるイナーシャトルクTiが発生することになる。このイナーシャトルクTiは、プライマリプーリ20等を加速する方向(+方向)に作用することから、図6に破線で示すように、無段変速機12から駆動輪16に向けて出力される駆動輪トルクToutを一時的に増大させることになる。このような駆動輪トルクToutの一時的な増大は、変速ショックとして乗員に違和感を与えることから、制御ユニット60は、スロットルバルブ52やインジェクタ53等に制御信号を出力し、イナーシャトルクTiの発生に合わせてエンジントルクTeを一時的に引き下げている(トルクダウン制御)。このように、イナーシャトルクTiに応じたトルクダウン量およびタイミングで、エンジントルクTeを一時的に引き下げることにより、イナーシャトルクTiをエンジン11に吸収させることが可能となる。これにより、駆動輪トルクToutの増大を抑制することができ、変速ショックを抑制することが可能となる。なお、無段変速機12の入力側に発生するイナーシャトルクTiとは、プライマリプーリ20と一体に回転する部品に発生するイナーシャトルクを意味している。すなわち、無段変速機12の入力側に発生するイナーシャトルクTiとは、クランク軸25、トルクコンバータ26、タービン軸30、前後進切換機構27、プライマリ軸13、プライマリプーリ20等に発生するイナーシャトルクを意味している。
【0026】
また、図7は多段変速モードでのダウンシフトに伴ってエンジントルクを増大させる際の過程を示す説明図である。図7に示すように、多段変速モードで変速比をR3からR2にダウンシフトさせると、プライマリ回転数が急に上昇することから、無段変速機12の入力側には慣性によるイナーシャトルクTiが発生することになる。このイナーシャトルクTiは、プライマリプーリ20等を減速する方向(−方向)に作用することから、図7に破線で示すように、無段変速機12から駆動輪16に向けて出力される駆動輪トルクToutを一時的に減少させることになる。このような駆動輪トルクToutの一時的な減少は、変速ショックとして乗員に違和感を与えることから、制御ユニット60は、スロットルバルブ52やインジェクタ53等に制御信号を出力し、イナーシャトルクTiの発生に合わせてエンジントルクTeを一時的に引き上げている(トルクアップ制御)。このように、イナーシャトルクTiに応じたトルクアップ量およびタイミングで、エンジントルクTeを一時的に引き上げることにより、イナーシャトルクTiをエンジン11に吸収させることが可能となる。これにより、駆動輪トルクの減少を抑制することができ、変速ショックを抑制することが可能となる。
【0027】
上述したように、アップシフト時にはエンジントルクを引き下げることで変速ショックを抑制しているが、コースティング中や低負荷運転等のエンジントルクが微小となる運転状態においては、アップシフト時に生じるイナーシャトルクを打ち消すだけのトルクダウン量が得られない場合も想定される。また、ダウンシフト時にはエンジントルクを引き上げることで変速ショックを抑制しているが、高負荷運転等のエンジントルクが最大値付近となる運転状態においては、ダウンシフト時に生じるイナーシャトルクを打ち消すだけのトルクアップ量が得られない場合も想定される。このように、イナーシャトルクを打ち消すだけのトルク増減量(トルクダウン量およびトルクアップ量)が得られない場合には、変速速度を低下させてイナーシャトルクを低減することが必要となっている。
【0028】
さらに、運転手に違和感を与えることのないように、前述した走行モードの動力特性に応じて変速速度を設定することも必要となっている。すなわち、走行モードとして低燃費モードが選択されているにも拘わらず、高い変速速度で俊敏に変速させることは、低燃費モードにおける緩やかな動力特性との不一致を招き、運転手に違和感を与えることになる。同様に、走行モードとして高出力モードが選択されているにも拘わらず、低い変速速度で緩やかに変速させることは、高出力モードにおける俊敏な動力特性との不一致を招き、運転手に違和感を与えることになる。そこで、制御ユニット60は、エンジン11のトルク増減量と走行モードの動力特性との双方を満足するように上限変速速度を設定し、この上限変速速度を超えない変速速度で無段変速機12の変速制御を実行している。
【0029】
図8は制御ユニット60のエンジン制御系と変速制御系とを示すブロック図である。図8に示すように、制御ユニット60は、エンジントルク算出部80、トルク増減量算出部81、モード係数設定部82、許容イナーシャ算出部83、変速速度算出部84および変速比変化量算出部85を備えている。エンジントルク算出部80は、スロットル開度Thとエンジン回転数Neとに基づき所定マップを参照し、現在発生しているエンジントルクTeを算出する。続いて、トルク増減量算出部(イナーシャトルク算出手段)81は、エンジントルクTeに基づいてトルク増減量(増減量)Tmaxを算出する。このトルク増減量Tmaxは、アップシフトにおいては発生中のエンジントルクTeと引き上げ可能な最大トルクTHとの差であり、ダウンシフトにおいては発生中のエンジントルクTeと引き下げ可能な最小トルクTLとの差である。すなわち、トルク増減量Tmaxとは、現時点から増減可能なエンジントルク量である。なお、図6および図7に示す場合には、最小トルクTLを0に設定しているが、これに限られることはなく、最小トルクTLを0以下に設定しても良い。
【0030】
また、モード係数設定部(イナーシャトルク算出手段)82は、運転手によるモードセレクター71の操作状況に基づいて、走行モードに応じたモード係数kを設定する。例えば、高出力モードの選択時にはモード係数kとして1.1が設定され、標準モードの選択時にはモード係数kとして0.8が設定され、低燃費モードの選択時にはモード係数kとして0.6が設定される。続いて、許容イナーシャ算出部(イナーシャトルク算出手段)83は、トルク増減量Tmaxにモード係数kを乗算し、許容イナーシャトルク(上限値)Timaxを算出する。ここで、図9は各走行モードの許容イナーシャトルクTimaxを示す線図である。図9に示すように、高出力モードにおいてはトルク増減量Tmaxを上回る許容イナーシャトルクTimaxが算出され、標準モードにおいてはトルク増減量Tmaxを下回る許容イナーシャトルクTimaxが算出され、低燃費モードにおいては標準モードを下回る許容イナーシャトルクTimaxが算出される。なお、モード係数としては前述した値に限られることはない。例えば、高出力モードでのモード係数を1.0以下に設定することにより、高出力モードにおいてトルク増減量Tmax以下となる許容イナーシャトルクTimaxを算出しても良い。
【0031】
そして、変速速度算出部(上限変速速度設定手段)84は、以下の式(1)に基づいて、変速時に許容イナーシャトルクTimaxが発生するプライマリプーリ20の角加速度αを算出する。なお、式(1)の符号Iは、前述したイナーシャトルクの作用する無段変速機12の入力側における各部品の慣性モーメントである。続いて、変速速度算出部84は、リダクションギヤ比、および各部の慣性モーメントに基づき、変速時に発生イナーシャトルクと許容イナーシャトルクTimaxとが等しくなる無段変速機12の変速速度V1を算出する。なお、変速比変化量diとは、変速比変化量算出部85によって算出される変速前後の変速比変化量である。例えば、図6に示す場合には、変速前の変速比がR2であり、変速後の変速比がR3であることから、変速比変化量diは(R2−R3)となる。
α=Timax/I ・・・(1)
【0032】
また、図8に示すように、制御ユニット60は、上限変速速度設定部86、第1仮想変速特性設定部87、第1イナーシャ算出部88、第2仮想変速特性設定部89、第2イナーシャ算出部90、トルク目標値算出部91、トルク制御判定部92、エンジン制御部93および変速制御部94を有している。上限変速速度設定部(上限変速速度設定手段)86は、変速速度V1に対して所定上限値Vmaxと所定下限値Vminとを適用し、変速制御で用いられる上限変速速度V2を設定する。すなわち、変速速度V1が、所定下限値Vmin以上、所定上限値Vmax以下である場合には、上限変速速度V2として変速速度V1が設定される。また、変速速度V1が所定下限値Vminを下回る場合には、上限変速速度V2として所定下限値Vminが設定される。さらに、変速速度V1が所定上限値Vmaxを上回る場合には、上限変速速度V2として所定上限値Vmaxが設定される。このように、上限変速速度V2は、所定下限値Vminと所定上限値Vmaxとの間に収められ、後述する第2仮想変速特性設定部89に入力される。そして、第2仮想変速特性設定部89は、上限変速速度V2を超えない変速特性を設定し、この変速特性が入力される変速制御部(変速制御手段)94は、上限変速速度V2を超えない変速速度で無段変速機12を変速制御する。
【0033】
続いて、変速時にエンジントルクを増減させるため、エンジン11に出力されるトルクダウン目標値およびトルクアップ目標値の算出手順について説明する。ここで、図10はトルクダウン目標値の算出過程を示す説明図であり、図11はトルクアップ目標値の算出過程を示す説明図である。まず、図8に示すように、第1仮想変速特性設定部87は、変速比変化量diに基づいて第1仮想変速特性i1を設定する。図10および図11に示すように、第1仮想変速特性i1は、変速比をR2(またはR3)からR3(またはR2)に素早く変化させるような変速速度特性である。
【0034】
また、第1イナーシャ算出部88は、第1仮想変速特性i1で無段変速機12を変速させたときに、無段変速機12の入力側に発生する第1仮想イナーシャトルクT1aを算出する。この第1仮想イナーシャトルクT1aは、第1仮想変速特性i1の変速速度、セカンダリ回転数Nsおよび無段変速機12の入力側の慣性モーメントIに基づき算出される。次いで、第1イナーシャ算出部88は、エンジン11の応答遅れを考慮し、第1仮想イナーシャトルクT1aに対して所定係数を乗じた後に所定フィルタ処理を施し、第1補正イナーシャトルクT1bを算出する。なお、図10および図11に示すように、エンジン11の応答遅れを考慮し、第1仮想イナーシャトルクT1aの立ち上がりから一定時間は、一時遅れ処理等のフィルタ処理を施さないようにしている。
【0035】
続いて、第2仮想変速特性設定部89は、第1仮想変速特性i1に所定のフィルタ処理を施すことにより、第1仮想変速特性i1よりも変速速度を抑えた第2仮想変速特性i2を設定する。また、第2仮想変速特性設定部89には上限変速速度設定部86から上限変速速度V2が入力されており、第2仮想変速特性設定部89は、上限変速速度V2を超えない変速速度で第2仮想変速特性i2を設定する。図10および図11に示すように、第2仮想変速特性i2は、変速制御系の応答性等の観点から現実的に指示可能な変速速度特性となっている。この第2仮想変速特性i2は変速制御部94に入力され、第2仮想変速特性i2に従って変速制御を実行するように、変速制御部94はプライマリ圧制御弁43やセカンダリ圧制御弁42に制御信号を出力する。なお、図10および図11に実線で示す変速比iは、第2仮想変速特性i2に従って変速制御を実行したときに、無段変速機12が実際に制御される実変速比である。
【0036】
また、第2イナーシャ算出部90は、第2仮想変速特性i2で無段変速機12を変速させたときに、無段変速機12の入力側に発生する第2仮想イナーシャトルクT2aを算出する。この第2仮想イナーシャトルクT2aは、第2仮想変速特性i2の変速速度、セカンダリ回転数Nsおよび無段変速機12の入力側の慣性モーメントIに基づき算出される。次いで、第2イナーシャ算出部90は、イナーシャトルクの吸収分等を考慮し、第2仮想イナーシャトルクT2aに対して所定係数を乗じた後に所定フィルタ処理を施し、第2補正イナーシャトルクT2bを算出する。なお、第2仮想イナーシャトルクT2aを算出する際の所定係数やフィルタ処理は、車両の走行状況等を考慮して適宜設定される。
【0037】
そして、トルク目標値算出部91は、第1補正イナーシャトルクT1bと第2補正イナーシャトルクT2bとに基づいて、アップシフト時にはトルクダウン目標値Tdを算出し、ダウンシフト時にはトルクアップ目標値Tuを算出する。図10および図11に示すように、トルクダウン目標値Tdやトルクアップ目標値Tuは、第1補正イナーシャトルクT1bと第2補正イナーシャトルクT2bとを加算した後に、その加算値の変動を滑らかにする所定フィルタ処理を施すことで算出される。このトルクダウン目標値Tdやトルクアップ目標値Tuは、トルク目標値算出部91からエンジン制御部93に出力される。そして、エンジン制御部(エンジン制御手段)93は、トルクダウン目標値Tdやトルクアップ目標値Tuに基づいて、スロットルバルブ52やインジェクタ53等を駆動制御し、変速時に発生するイナーシャトルクを打ち消す方向にエンジントルクを増減させる。これにより、変速時のイナーシャトルクをエンジン11に吸収させることができ、駆動輪トルクの過度な変動を抑制して変速ショックを回避することが可能となる。
【0038】
また、低負荷運転等のエンジントルクが微小となる運転状態においては、アップシフトに合わせてエンジントルクを引き下げようとすると、車両挙動が乱れるおそれがある。そこで、制御ユニット60のトルク制御判定部92は、変速速度V1が所定下限値Vmin以上である場合には、エンジン制御部93にトルクダウンの許可信号を出力する。これにより、エンジン制御部93によるエンジントルクの引き下げが許可される。一方、変速速度V1が所定下限値Vminを下回る場合には、エンジン制御部93にトルクダウンの中止信号を出力する。これにより、エンジン制御部93によるエンジントルクの引き下げが中止される。すなわち、微小なエンジントルクTeによって許容イナーシャトルクTimaxが小さく算出され、変速速度V1が所定下限値Vminを下回る場合には、車両挙動の乱れを抑制するためにエンジントルクの引き下げが中止される。
【0039】
これまで説明したように、エンジン11の運転状態と走行モードの設定状態とに基づき許容イナーシャトルクTimaxを算出し、この許容イナーシャトルクTimaxに基づき上限変速速度V2を設定したので、変速ショックを抑制しつつ各走行モードの動力特性に適合する変速速度を簡単に設定することが可能となる。すなわち、変速ショックを抑制するためには、エンジントルクを増減させるとともに変速速度を調整することが必要となる。さらに、運転手に違和感を与えることのないように、各走行モードの動力特性に応じて変速速度を設定することも必要となる。このように、変速ショックを抑制しつつ各走行モードの動力特性に適合する変速速度を得るためには、様々なパラメータ毎に変速速度を予めマップデータ化しておく必要があった。これに対し、本発明の車両用制御装置においては、エンジン11の運転状態と走行モードの設定状態とに基づき許容イナーシャトルクTimaxを算出し、この許容イナーシャトルクTimaxに基づき上限変速速度V2を設定し、この上限変速速度V2を超えない変速速度で無段変速機12を変速させている。これにより、開発段階における変速速度のマップデータ化が不要となり、開発コストを削減することが可能となる。
【0040】
続いて、変速時のトルクダウン制御やトルクアップ制御の状況を図面に基づいて説明する。図12は高出力モードでのアップシフトに伴うトルクダウン制御を示す説明図であり、図13は標準モードでのアップシフトに伴うトルクダウン制御を示す説明図であり、図14は低燃費モードでのアップシフトに伴うトルクダウン制御を示す説明図である。また、図15は高出力モードでのダウンシフトに伴うトルクアップ制御を示す説明図であり、図16は標準モードでのダウンシフトに伴うトルクアップ制御を示す説明図であり、図17は低燃費モードでのダウンシフトに伴うトルクアップ制御を示す説明図である。
【0041】
まず、アップシフトに伴うトルクダウン制御について説明する。図12〜図14に示すように、エンジン11の運転状態(出力中のエンジントルクTe)は同一となっており、エンジン11のトルク増減量Tmaxも同一となっている。このように、トルク増減量Tmaxが同一であっても走行モードが相違する場合には、許容イナーシャトルクTimaxが、高出力モード、標準モード、低燃費モードの順に小さく算出される。さらに、許容イナーシャトルクTimaxから算出される上限変速速度V2についても、高出力モード、標準モード、低燃費モードの順に小さく算出される。これにより、アップシフト時の変速速度は、高出力モード、標準モード、低燃費モードの順に遅くなるように制御される。そして、エンジントルクTeは、許容イナーシャトルクTimaxに相当する大きさで、一時的に引き下げられる。このように、走行モードに応じて許容イナーシャトルクTimaxを変化させることにより、変速ショックを抑制しつつ走行モード毎の動力特性に適合する変速速度で無段変速機12のアップシフトが可能となる。
【0042】
続いて、ダウンシフトに伴うトルクアップ制御について説明する。図15〜図17に示すように、エンジン11の運転状態(出力中のエンジントルクTe)は同一となっており、エンジン11のトルク増減量Tmaxも同一となっている。このように、トルク増減量Tmaxが同一であっても走行モードが相違する場合には、許容イナーシャトルクTimaxが、高出力モード、標準モード、低燃費モードの順に小さく算出される。さらに、許容イナーシャトルクTimaxから算出される上限変速速度V2についても、高出力モード、標準モード、低燃費モードの順に小さく算出される。これにより、ダウンシフト時の変速速度は、高出力モード、標準モード、低燃費モードの順に遅くなるように制御される。そして、エンジントルクTeは、許容イナーシャトルクTimaxに相当する大きさで、一時的に引き上げられる。このように、走行モードに応じて許容イナーシャトルクTimaxを変化させることにより、変速ショックを抑制しつつ走行モード毎の動力特性に適合する変速速度で無段変速機12のダウンシフトが可能となる。
【0043】
また、上限変速速度V2に相当する変速速度で変速させつつ、許容イナーシャトルクTimaxに相当する大きさでエンジントルクTeを増減させた場合には、図13、図14、図16および図17に示すように、駆動輪トルクToutを滑らかに変化させて変速ショックを回避することが可能である。これに対し、図12および図15に示すように、高出力モードでは、トルク増減量Tmaxを超える許容イナーシャトルクTimaxを設定している。すなわち、エンジン11の許容範囲を超えた許容イナーシャトルクTimaxが設定されることから、エンジン11で全てのイナーシャトルクを吸収することができずに、イナーシャトルクの一部が駆動輪トルクToutの変動として現れることになる(符号X)。このように、俊敏な変速が好まれる高出力モードにおいて、商品性を高めるために適度な変速ショックを敢えて残す場合であっても、前述したモード係数kを調整するだけの簡単な作業でチューニングを施すことが可能となる。
【0044】
また、前述の説明では、走行モードに応じて許容イナーシャトルクTimaxを変化させるため、走行モード毎に設定されるモード係数kをトルク増減量Tmaxに乗算しているが、これに限られることはない。ここで、図18(a)および(b)は各走行モードで設定される許容イナーシャトルクTimaxの他の例を示す線図である。図18(a)に示すように、走行モード毎に定数α1〜α3を設定することにより、トルク増減量Tmaxから定数α1〜α3を減算して許容イナーシャトルクTimaxを算出しても良い。また、図18(b)に示すように、走行モード毎に上限値β1〜β3を設定することにより、トルク増減量Tmaxと上限値β1〜β3との小さい方の値を許容イナーシャトルクTimaxとして設定しても良い。
【0045】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、動力特性を切り換える走行モードとして、高出力モード、標準モード、低燃費モードの3種類を設定しているが、2種類の走行モードを設定しても良く、4種類以上の走行モードを設定しても良い。また、前述の説明では、多段変速モードでの変速時にエンジントルクを増減させているが、これに限られることはなく、無段変速モードでの変速時にエンジントルクを増減させても良い。また、無段変速機としてチェーンドライブ式の無段変速機12を挙げているが、これに限られることはなく、ベルトドライブ式やトロイダル式の無段変速機であっても良い。さらに、図示するパワーユニットは、動力源としてエンジン11のみを備えたパワーユニット10であるが、これに限られることはなく、動力源としてエンジン11および電動モータを備えたパワーユニットであっても良い。
【符号の説明】
【0046】
10 パワーユニット
11 エンジン
12 無段変速機
60 制御ユニット(パワーユニット制御手段,エンジン制御手段,イナーシャトルク算出手段,上限変速速度設定手段,変速制御手段)
81 トルク増減量算出部(イナーシャトルク算出手段)
82 モード係数設定部(イナーシャトルク算出手段)
83 許容イナーシャ算出部(イナーシャトルク算出手段)
84 変速速度算出部(上限変速速度設定手段)
86 上限変速速度設定部(上限変速速度設定手段)
93 エンジン制御部(エンジン制御手段)
94 変速制御部(変速制御手段)
Tmax トルク増減量(増減量)
Timax 許容イナーシャトルク(上限値)
V1 変速速度
V2 上限変速速度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンおよびこれに連結される無段変速機を備えるパワーユニットと、走行モード毎に前記パワーユニットの動力特性を切り換えるパワーユニット制御手段とを有する車両用制御装置であって、
前記無段変速機を変速する際に、前記無段変速機の入力側に発生するイナーシャトルクを打ち消す方向にエンジントルクを増減させ、前記エンジンにイナーシャトルクを吸収させるエンジン制御手段と、
前記エンジンの運転状態と前記走行モードの設定状態とに基づいて、前記エンジンに吸収されるイナーシャトルクの上限値を算出するイナーシャトルク算出手段と、
前記上限値のイナーシャトルクが発生する変速速度を算出し、算出された変速速度に基づいて上限変速速度を設定する上限変速速度設定手段と、
前記上限変速速度を超えない変速速度で前記無段変速機を変速させる変速制御手段とを有することを特徴とする車両用制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用制御装置において、
前記イナーシャトルク算出手段は、前記エンジンの運転状態に基づいて前記エンジンが増減可能なエンジントルクの増減量を算出した後に、前記走行モードの設定状態に基づいて前記増減量を補正し、補正後の前記増減量を前記上限値として設定することを特徴とする車両用制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の車両用制御装置において、
前記無段変速機は、段階的に設定される複数の変速比を切り換えて変速する多段変速モードを備え、
前記エンジン制御手段は、多段変速モードで変速する際にエンジントルクを増減させることを特徴とする車両用制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用制御装置において、
前記エンジン制御手段は、前記無段変速機を増速側に変速する際にはエンジントルクを減少させ、前記無段変速機を減速側に変速する際にはエンジントルクを増加させることを特徴とする車両用制御装置。
【請求項1】
エンジンおよびこれに連結される無段変速機を備えるパワーユニットと、走行モード毎に前記パワーユニットの動力特性を切り換えるパワーユニット制御手段とを有する車両用制御装置であって、
前記無段変速機を変速する際に、前記無段変速機の入力側に発生するイナーシャトルクを打ち消す方向にエンジントルクを増減させ、前記エンジンにイナーシャトルクを吸収させるエンジン制御手段と、
前記エンジンの運転状態と前記走行モードの設定状態とに基づいて、前記エンジンに吸収されるイナーシャトルクの上限値を算出するイナーシャトルク算出手段と、
前記上限値のイナーシャトルクが発生する変速速度を算出し、算出された変速速度に基づいて上限変速速度を設定する上限変速速度設定手段と、
前記上限変速速度を超えない変速速度で前記無段変速機を変速させる変速制御手段とを有することを特徴とする車両用制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用制御装置において、
前記イナーシャトルク算出手段は、前記エンジンの運転状態に基づいて前記エンジンが増減可能なエンジントルクの増減量を算出した後に、前記走行モードの設定状態に基づいて前記増減量を補正し、補正後の前記増減量を前記上限値として設定することを特徴とする車両用制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の車両用制御装置において、
前記無段変速機は、段階的に設定される複数の変速比を切り換えて変速する多段変速モードを備え、
前記エンジン制御手段は、多段変速モードで変速する際にエンジントルクを増減させることを特徴とする車両用制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用制御装置において、
前記エンジン制御手段は、前記無段変速機を増速側に変速する際にはエンジントルクを減少させ、前記無段変速機を減速側に変速する際にはエンジントルクを増加させることを特徴とする車両用制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2013−72456(P2013−72456A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210416(P2011−210416)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
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